晶月の姫巫女 前編

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 山と湖に囲まれしソーサリー王国・・・そこには、あまりの美しさに神の巫女として民に愛された姫がいた。姫も民を慈しみ、姫が女王として即位した暁には、この王国は千年の安泰を約束されるであろうと、城下では誰もが信じていた。水晶の如く艶やかな肌、黄金よりも美しい腰まである金色の髪、天空の月の如く、あまねく民を見守る神の巫女・・・いつしか、姫は晶月の姫巫女として、国の内外に広く知られるようになっていた。
 姫の名はシャルロット。美しさ、強さ、賢さ、優しさ、全てを備えた姫は、その日、18歳の誕生日を迎えた。城内も、そして城下の民も、心の底から祝福したその日に、ソーサリー王国は滅亡した。ただ一人の魔法使いの手によって・・・。

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「上空から飛竜がっ!我ら騎士団の弓も槍も届きませんっ!!」
「西門より、火竜が多数進入しました!民の混乱に巻き込まれ、応戦態勢もままならず、被害が増大しています!」
「東門で、氷竜の群れが入り込みましたっ!支えきれません!」

 次々と届く報告は、どれもが絶望的なものであった。この王国は、もともと守るに易く、攻めるに難い要所に建国されていた。が、これ程の圧倒的な物量で押し切られた時、逃げ場の無い狩場と化した。
 つい先刻までは、美しい飾りとどれほどの人数でも食べきれない豪華な食事に囲まれた大広間は、今では軍靴と負傷兵に溢れ返る、あたかも地獄の様相を帯びていた。

「えぇいっ!これ程のトカゲどもが、本能の赴くままに我が王国に攻め入る訳が無いっ!裏で操る何者かがいるはずだ!その者を・・・頭を潰すのだ!」
「しかし、王様!それが何者かも、どこにいるのかも判らないのでは・・・」
「ならば、滅びよというのかっ!我が国民がトカゲどもに食らわれるのを見ていろと・・・!」
「お待ち下さい、王よ」

 王と近衛騎士団団長の会話に、賢者が割り込んだ。賢者とは、他の国では博識で判断力に優れたものの役職であるが、ソーサリー王国においては別の重要な意味を合わせ持つ。すなわち、魔法師団の長である。

「先程よりの魔力検知によれば、たった一人の魔道使いが全ての元凶ということが判ったのです」
「一人だとっ」

 今の世で竜を1頭従えるのに、竜騎士であるか、召喚術士でなくてはいけない。それも長い修練の末、結局竜を得ずに果てる者も多い。王の前提としては、指揮官一人に竜騎士や召喚術士が複数という事態を想定していたのだった。それが、魔力検知では一人だと言う・・・。人の世の理を超越した、恐るべき魔道士と言える。

「はい。恐らくは強力な魔道具を用いての事でしょうが・・・我々魔法師団では、束になっても竜の支配を断ち切る事はできませんな」
「それでは・・・」
「しかし、強力な魔道具であれば、竜を操るという機能に特化するはず。魔法師団精鋭で同時に仕掛ければ、魔道使いを仕留める事も可能と思われます。そして、魔道具を奪取して王国から竜達を追い出せば、これ以上の被害は防げるかと・・・」
「賢者よ、知識の出し惜しみは悪い癖だと言っておろうが・・・。しかし、その策は実行に値する。魔法師団を今すぐ出撃させ、この事態を収束してみせよ!」
「はっ!」

 王は、背後で王妃に抱き締められ、恐怖に震える王女に目を向けた。厳しく引き締まった目尻が、王女に対して柔和に緩む。誰もが信頼するどっしりとした声量で、王は王女に話し掛けた。

「シャルロットや・・・これで、全てが上手く行く。恐れる事は無いのだ。後は、疲弊した民に、お前からねぎらいの言葉をかけてやるがよい。今は苦労もあろうが、いつかは復興する・・・必ずだ!」
「はい・・・お父様」
「くく、無理だな」

 その嘲りを含む声に、大広間にざわめきが広がった。耳にした誰もが、直感的に気が付いたのだ・・・この声の主が、ソーサリー王国に破滅をもたらさんとしているのだと。しかし、その声はどこから聞こえてくるのか判らず、この場に見知らぬ者の姿も無い。

「まさか・・・貴様」

 王が驚愕に目を見開き、何も無い中空に目を向けて唸った。王の顔には、信じられないものを見た者の驚きと、微量の恐れが浮かんでいた。

「気が付いた様だな。だが、もう遅い・・・今から、その首を戴きに参上する。逃げても構わんが、誰一人として逃がす気は無い。一人残らず・・・死ね!」

 その声に伴う様に、大広間の扉を破壊し、先程出撃した賢者が飛び込んで来た。いや、吹き飛ばされたというのが正しいだろう。辛うじて防御壁で身を守ったようだが、全身を細かい傷が覆っている。腹部からも血が流れ、立ちあがる事も出来ないようだった。

「賢者よ・・・魔法師団は・・・魔法師団はどうしたのだ・・・」
「王よ・・・お逃げ・・・下さい・・・。敵は・・・強大で、魔法師団も・・・一撃で・・・壊滅しました・・・ぐはっ」
「あの者は・・・あやつはそれ程までに・・・」
「そうだ・・・おれはそれ程までに憎んだのだよ・・・この国の全てを!」

 大広間の入り口に、その男は立っていた。黒いローブに身を包み、フードで顔を隠している。魔道士の杖の代わりに、漆黒の煌きを放つ大剣を手に携えたその姿は、まるで伝説の魔王を連想させた。たった一人立つその男に、誰もが圧倒されていた。
 がちゃり・・・静まり返った大広間に、鎧の立てる音が響いた。近衛騎士団ですら身動き出来ない中、王だけが動いたのである。その手には、魔道士の大剣と対をなすかの様に、光輝く大剣があった。王国の宝剣にして光すら絶つといわれた魔法の剣である。ゆっくりと上段に構え、王は魔道士に近づいていった。

「お前は、高望みしすぎたのだよ・・・ましてや、我が民を蹂躙する権利など、ありはしない!今、その悪に染まった心を、破邪の聖剣によって断罪してくれよう!」
「ふ・・・ん。・・・おれを悪と言い、断罪するというか・・・。ならば、試して見るがいい!」

 そう吐き捨てると、魔道士の左手の指一本一本に炎が生まれた。鉄をも溶かす、魔道の炎である。王と魔道士の距離は、王の歩幅にして十数歩・・・絶望的な距離だった。

「はっ!」

 魔道士が呼気も鋭く左手を振ると、指先の炎はそれぞれ意思を持つかの様に王に向かった。しかし・・・。

「おぉぉおおおぉぉぉっ!」

 王の叫びに呼応して、宝剣の柄の魔石が輝きを放った。飛来する炎は、その輝きの中で力を失い、王に届く前に消え去った。その魔石には、魔道に対する”絶対防御圏”を構築する力が付与されていた。

「これが正しき力という事だ。お前も、この聖剣の前に滅するがいい・・・」
「・・・。最後まで残しておこうかと思っていたが・・・やめだな」
「その様な戯言っ!」

 王は一気に走りより、聖剣を振りかぶった。その場に居合わせた誰の目にも、王の勝利は揺るぎ無いものと思われた。立ち尽くす魔道士の頭に、王の聖剣が迫るその瞬間・・・王の胴体が斜めにずれた。王の目の前にいた魔道士は、誰にも認識出来ない一瞬の間に、王の背後にまわっていた。血に濡れた大剣を携えて。
 次の瞬間、大広間には怒号と悲鳴が渦巻いた。今更ながらに走り来る近衛騎士団を見ながら、魔道士は左手を掌を上に向けて上げた。そこに生まれた黒い球体が、魔道士が左手を握り締めると同時に分裂し、音も無く大広間中に飛び散った。分裂した黒い小球は、全ての者に滅びを与えた。一人を除いて・・・。

「お父様・・・お母様・・・みんな・・・みんなっ・・・いやぁあああっ!」

 今、この場に生きているのは、魔道士と姫の2人だけだった。他の者は全て、体のどこか、致命的な個所に黒い穴を穿たれ、息絶えていた。凄惨な光景に、姫の感情が飽和状態になり、意識を保つ事を放棄した。魔道士は気絶した姫を抱き上げ、殺戮の場から引き上げた。
 飛竜の背に乗り、遥かな高みから王国を見下ろすと、あちらこちらで火の手が上がり、その中を竜達が闊歩するのが見て取れた。人の姿は、見る事が出来なかった。
 そして、この日・・・歴史からソーサリー王国は姿を消した。

- 2 -

 夢を見ていた。数年前の、とても幸せだった日々の夢。自分を導いてくれた人がいた。自分を見守ってくれた人がいた。その人は誉めてくれる時に、ちょっと照れながら髪を撫でてくれた。私が最初にそうせがんでから、2人の間ではそれがご褒美という約束だったのだ。その人の手の感触も、その時の表情も、全て憶えている。・・・ずっと、忘れない・・・例えあの人がいなくなっても・・・。

 目を覚ますと、頬が濡れているのが感じられた。姫は指先で軽く拭うと、まだはっきりしない頭で周りを見渡した。どうやらベッドに寝かされていたらしい。

「ここは・・・?」
「目が覚めたか・・・晶月の姫巫女よ」
「あなたはっ!」

 目の前の黒いローブの男は、ゆっくりと顔を隠すフードを外した。その顔には、醜い傷痕が多々残っていた。顔の右半分は火傷に覆われ、左半分も何かに切り裂かれたかの様な痕が何本も付いている。左目は普通の目だが、右目はまるで猫の目の様だった。ただ、もし傷一つ無い状態であるならば、以外と若いのかもしれない。
 姫は自分の大切な人達を惨殺した男の顔を見て、その傷に嫌悪し目を背けた。だから、気が付く事は無かった。哀切と、絶望と・・・憤りの表情には・・・。暫くして、姫は意を決して再び男に向き直り、宣言した。

「私は、決して貴方を許しません。必ず貴方を殺します。・・・それが嫌なら、今すぐ私を殺すのですね。・・・私を貴方の自由にはさせませんから」
「死んでもらうのは困るな。それに、おれもまだ死ぬ気は無い。だから、お前の心に制約を課す事にする」
「なんですって・・・?やめなさいっ。・・・あぁっ・・・」

 聡明な姫は、自分が殺されずに連れ去られた理由を、多少なりとも推測していたのだろう。だからこその強気な宣言ではあるが、魔法使いには通用しなかった。魔法使いの右目が妖しく光ると、姫の心から意思が抜け落ちていった。

「この右目は”夢魔の瞳”という。昔抉られた右目の代わりにと入れたのだが、なかなか使える代物でな・・・。この様に、人の心を操る事も出来る。
 さぁ、シャルロット姫、これからあなたは、3つの事が出来なくなる。それは、自分自身を傷付ける事、おれを傷付ける事、そして、おれから逃げ出すことだ。さぁ、口に出して誓うがいい」
「・・・私は・・・自分を傷付ける事・・・貴方を傷付ける事・・・貴方から逃げ出す事は出来ません。・・・誓います・・・」
「それでいい。今おまえが自分で誓った内容は、決して覆す事は出来ない」

 満足げにそう呟くと、魔法使いの右目から光が薄れていった。それに伴い、姫の心に自我が戻ってくる。姫の両目から、静かに涙が流れた。それは絶望の涙だった。今の3つの制約は、姫の心の奥底に、まるで呼吸のように、鼓動のように、当たり前の事として刻みこまれた。それを認識しての涙である。
 魔法使いは懐からナイフを取り出すと、シャルロット姫の膝元に放り投げた。

「試してみるがいい・・・。今なら殺されてやってもいいぞ。・・・王や王妃、王国の民の復讐をする、唯一の機会だ」

 姫は、まるでナイフがお守りであるかの様に捧げ持つと、いきなり自分ののどに刺そうとした。しかし、どうしても手が動かない事を確認すると、ナイフを放り投げ、力尽きた様に視線を落とした。

「私を・・・どうするつもりなのです?」
「そうだな・・・期待通りの事をしてやろう。・・・”夢魔の瞳”には、こういう能力もあるのでな」

 またも”夢魔の瞳”が光を放った。しかし、それは先程の光とは、色も質も違うものだった。姫は自我を無くす事無く、何が起きているのかも判らないままだったが、すぐに自らの体の変調に気が付いた。
 最初は、体の表面に熱を感じた。それは、温めのお風呂に浸かっているような気持ち良さだったが、その事を意識した瞬間、気持ち良さはそのままに、体が一気に熱くなるのが感じられた。特に、胸に集中しているようで、あまりの切なさに、ドレスの上から自分の胸を抱き締めた。

「はぁっ・・・」

 自分の腕の中で形を変えた乳房は、その程度の刺激では、切なさを増しただけだった。身体がもっと欲しがってる。既に冷静に物事を考える事の出来なくなった姫は思った。乳房は熱く張り詰め、乳首が刺激を求めて硬くなり、衣服を押し上げた。

「あぁ・・・あつぅい・・・んっ・・・」
「”夢魔の瞳”は、催淫の術も発動させる事ができる・・・。今のお前が感じている様に、身体を快感と欲望が満たす訳だ。この術は、相手の性的な経験によらず、意図しただけ快感を与える事が出来る。だから、姫が処女だったとしても、それに関係無く悦ばせられる・・・こんな風に!」
「ひっ!・・・だめっ・・・だめぇ・・・あああぁっ!!」

 その瞬間、それまで乳房に集中していた快感が、今まで以上の密度を持って姫の大事な所に集中した。自分でも触った事が無いのに、突然そこに与えられた快楽は、姫の意識を激しい絶頂の末に失わせた。
 全身に汗を滲ませ、ベッドの上で意識を無くして倒れ伏す姫の姿を見て、魔法使いの表情がふ、と和んだ。額に掛かる髪の毛を優しく指先で撫で付け、そのまま頭を撫でた。その手を自分の目の前に戻し、不思議なものを見るような目で見てから、寝室から外へ出て行った。

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 姫が意識を取り戻すと、ちょうど魔法使いが寝室に戻って来た所だった。その手には、女性物の下着や着替えが納まっている。ただ一つ付いている窓には、鮮やかな夕日の色が映っていた。残照の中、魔法使いがそっとそれらを差し出した。姫が受け取ると、また寝室を出ていってしまう。呆然と着替えを手にしていた姫は、自分自身が汗と愛液でかなり匂う事に気が付いて、一人赤くなると全て着替えた。
 着替え終わるのを見計らった様に、魔法使いが寝室に入って来た。着替えている間に冷静になった姫は、魔法使いを睨み付けた。それは、攻撃する術を持たない姫の、たった一つ残された自由だった。

「腹が減っただろう。食事の用意が出来ている。・・・こっちだ」

 魔法使いは気にせずに必要な事を話すと、背を向けて歩き出した。しかたなしに、姫も後を追う。薄暗い通路は、この建物がかなり大きい事を示していた。ソーサリー王国の城ほどではないにしても、魔法使いが一人で暮らすには、不自然な気がした。
 辿り着いた部屋には、広いテーブルがあり、豪勢な料理が並べられていた。作りたてらしく、湯気と共に食欲を促す香気が満ちていた。

「そこに座って・・・今日は、素晴らしいワインを開けようと思っているんだ・・・記念すべき、素晴らしいこの日を祝って」
「素晴らしいとは、どういう事ですか!王国を滅ぼした事がですか!お父様とお母様を殺した事ですか!それとも・・・私を慰みものにした事ですか!」
「全てだ。この数年、その事だけを考えて生きてきた」
「なぜ・・・なぜ、それ程までにソーサリー王国を憎むのですか・・・平和でしたのに!」
「平和の影には、いろいろあったという事だ・・・。さて、料理が冷めるのは本意ではない。食事にするとしよう。姫も自分を傷付ける事が出来ないという制約に当てはまる以上、食べずにはいられまい」
「・・・」

 姫は、諦めてスプーンを取り、スープを口にした。魔法使いもそれを見て、自分も食事を始めた。友好的でない雰囲気のまま、料理は食べられていった。

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 食事が終わると、魔法使いは姫に、建物を案内してまわった。そこは、広大な森に囲まれた場所に建てられた城の様だった。姫の為にあつらえたかのようなドレスを揃えた衣装部屋を見せた後、この城の中では、何でも自由にするがいいと、魔法使いは言った。

「これから私をどうするおつもりですか?」

 寝室に戻ると、姫は尋ねた。今の姫には現状を打開する考えが浮かばないのと、沈黙に耐えかねて・・・。

「これから?・・・そうだな、神に愛されたと云われる程の体を、堪能させて貰おう」
「ひっ!」
「抵抗するもよし、舌を噛むもよし・・・出来るのならば、やってみるがいい」
「卑怯ですっ!私に出来ないと知っていて、言葉で嬲るとは!」
「なら、姫は強引にされるのがお好みという事だな・・・いいだろう」

 魔法使いが指を鳴らすと、姫が身に着けていたドレスが、瞬間的に切れ切れになり、身体を魔道の光の下に晒した。雪のように白い裸身は、まるで芸術品のようだった。姫は悲鳴を上げると体を隠そうとして、体を抱き締めてその場にしゃがみこんだ。

「綺麗だ・・・姫」
「・・・お願いします・・・やめて下さい・・・お願い・・・」
「残念だが、それは無理というものだ・・・目の前に、これ程のものを晒されてはな」
「っ!・・・それは貴方がっ!」
「大丈夫だ・・・姫も楽しめる様にしてあげよう。この”瞳”で・・・な」
「嫌っ!それはやめてっ!」

 しかし、魔法使いは構わずに”夢魔の瞳”を発動させた。その光を浴びて、姫の身体が震え始める。もう、快楽のあまり言葉も発せなくなった姫を、魔法使いは抱き上げた。

「さぁ、姫・・・ベッドに行かないと、犬猫のように床の上でする事になるぞ」
「ふぁあ・・・だっ・・・だめっ!・・・今触れられると・・・ああんっ!」

 今の姫は、先刻と同じ様に快楽を送り込まれているだけでなく、体中が敏感になっている。抱き上げられた際に触れられる事も、ベッドに降ろされたシーツの感触も、全てが快感になっていた。既に身体を隠すことに意識を向ける事も出来ず、ベッドの上で快楽にのたうつ姿は、凄絶な色気を発していた。

 魔法使いもローブを脱ぎ捨てるとベッドに向かった。その身体は、まるで現存する拷問を全て体験しているのかと思わせる程で、傷のついていない部分を探すのに苦労する程だった。火傷の痕、切り裂かれた痕、釘か何かを打ち付けられた痕、巨大な獣に噛まれたような傷痕すらある。いっそ四肢や指が欠けていないのが不思議なぐらいだった。

 断続的な嬌声を上げ、快感に涙すら滲ませている姫に、魔法使いはそっとキスをした。そのまま胸に手をやり、ゆっくりと・・・だんだん激しく揉んだ。掌に余るほどの大きさで、柔らかく弾力もある。そのまま胸の谷間に顔を押し付け、舌で舐めた。向かって右の乳房を登り、頂点で震える乳首を咥える。

「きゃぅっ!」

 姫の身体が跳ね上がる。無意識の動きだろうか・・・姫の腕が持ち上がり、魔法使いの頭を抱え込んだ。魔法使いは乳首を吸ったり、甘噛みしたりしつつ、右手を下に降ろしていった。そこは、薄く慎ましやかな陰毛に守られて、快楽に泣き濡れていた。
 魔法使いは中指をゆっくりと差し込んでいった。噛み千切るほどに締め付けている中で、初めての証が感じられた。そこを指でつつくと、姫の腰が跳ね上がった。魔法使いが姫の顔を見上げると、そこには苦痛の色は浮かんでいなかった。”夢魔の瞳”の力が効いている事を確認すると、魔法使いは姫の下半身に移動した。
 快感に顔を出しているクリトリス、愛液を流し、魔法使いのものを欲する性器・・・魔法使いはそのまま口を近付けて、唇と舌で愛撫をくわえる。姫の腰が激しく動き、その都度汗を撒き散らせていた。

「ひゃうんっ・・・あっ!・・・んぁっ!だっ・・・だめぇえっ!!・・・お・・・お願い・・・わたし・・・も・・・う・・・」

 魔法使いは自分のものを握ると、姫の腰を引き付けた。そのままゆっくりと進入する。指一本でもきつかったその部分は、それでも裂ける事無く魔法使いのものを受け入れた。本来なら激痛が走るはずの初めての挿入も、”瞳”の力で快感に転化されている。

「あっ・・・入って・・・入ってくるぅっ!だっ・・・だめっ・・・あんっ!」
「判るか、姫よ・・・おれのものが・・・」
「あん・・・あつっ・・・あついのぉ・・・ふぁっ・・・」

 魔法使いはその答えに満足し、ゆっくりと抽送を繰り返した。姫の中が慣れて行くにつれて、段々と浅い所を行き来したり、一番深い所で抉るように動いたり、魔法使いの動きは変化した。その動きに翻弄され、姫は何度も絶頂に達した。

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 暫くして姫の息も整うと、寝室には啜り泣きが響いた。ベッドに顔を押し付けて、姫は涙を流していた。細かく震える肩に、魔法使いは手を伸ばしかけて、止めた。

「仇に犯されて、”夢魔の瞳”のせいとは云え、快楽に溺れた事が、そんなにも悲しいのか?」
「私のっ・・・私の身体は・・・あなたなんかの為にあるんじゃありません!・・・今すぐにでも自害出来れば、これ程苦しまないで済むのに・・・!」
「言っただろう・・・死なれては困ると」
「・・・て・・・す・・・。」
「なんだ?」
「・・・て・・・あげます・・・・・・殺して差し上げますっ!・・・いつか必ず!」
「そうするがいいさ」

 魔法使いはそう囁くと、右手を伸ばしてそっと姫の髪を撫でた。姫は一瞬体を硬くしていたが、次に驚愕して魔法使いに目を向けた。魔法使いはそのまま背を向けると、聞こえるかどうかといった声量で一言囁き、寝室を出て行った。
後に残されたシャルロット姫は、呆然として魔法使いが出て行ったドアを見詰めていた。魔法使いは、生きていてくれれば、それでもいい・・・と、そう言ったのだろうか・・・。

 晶月の姫巫女の18歳の誕生日は、そうして幕を閉じた。

< 続く >

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