剣道場の囁き

「あーきらっ」
「あれ、霞? どうしたの」

 放課後、突然にかけられた声に綾瀬 晶(あやせ あきら)は振り向いた。そこに天音 霞が立っていた。
 親友と言えど意味もなく声をかけてくる相手ではない。晶は気を引き締めて霞の方へと向いた。

「で、なに?」

 晶が前置きも何もなくそう言うと、霞はにっこりと微笑んだ。

「さすが、晶。話が早くて助かるわー」
「まあ、あんたが来る時は絶対に何かあるからね。で、なに?」

 その微笑みを大きなため息で返して、もう一度聞き返す。

「新しく喫茶店ができたのよ。そこのパフェが美味しいらしくてね」
「・・・あんた。あたしが辛党なの知ってていってるよね」
「ええ、もちろん。たしか、今日は剣道部は休みなのよね、剣道部期待の星さん」

 にっこり。
 虫も殺さないような微笑みに嫌みを込めて霞は笑っていた。
 その笑顔に観念したように晶は大きくため息をつく。 

「わかったよ。行きゃーいいんでしょ、行きゃー、優等生の生徒会長様」

 やれやれと教科書を詰めた鞄をひっさげて、晶は霞の後をついていった。

 その喫茶店は新しくできたわりにあまり込み入ってはいなかった。

「あれ、並ぶ必要があるのかと思ったけど、すんなり入れたね」
「きっとまだ話が伝わっていないのよ。チラシとか見たことないもの。でも、きっとすぐに行列のできる店になるわ。運が良かったわね」

 ウェイトレスに案内されて2人はテーブル席へと着いた。
 渡されたメニューを見て、少し財布と相談をした後に2人は注文をした。

「コーヒー、ブラックで」
「私はパフェで」

 注文の確認をして、ウェイトレスは下がっていった。
 それを見送った後、晶は無遠慮に辺りを見回した。
 そう言う雰囲気を作ろうとしているのか、所々古めかしくしてあり、木造っぽい様な暖かみのある所である。
 そして、あまりいない客の数。
 まだ知られていないからだろうけれども、閑散としているこの雰囲気は晶にとって好ましい物だった。

「気に入った?」

 その声に前を見ると霞はにっこりと微笑んでいた。

「ああ、今のところの雰囲気はね。ここはこれくらいの人数があってるよ」

 晶がそう言った時に2人が注文した物が届いた。
 霞は嬉しそうにパフェにぱくつき、そして、幸せそうに顔を綻ばせた。

「んー、おいしー」
「それがそんなに美味しいものかねぇ・・・」

 ずずとコーヒーを啜ってあきれたように晶は言う。
 それに顔を綻ばせたまま霞は答えた。

「美味しいよ。こんな美味しい物を楽しめないなんて、晶は潤いが足りないんじゃない?」
「はいはい。どうせあたしはしわがれた子ですよ。そんなものより煎餅のほうが大好きだもの」

 むぅと唸り声をあげて晶はふいとそっぽを向いてしまった。
 そんな親友を見て霞はフッと笑う。

「ところでさ、そんな晶に勧めたい物があるんだけど」
「ん、なに?」
「催眠術」
「え?」

 唐突に切り出された話にとまどいながら、晶は霞をみる。
 その晶の目を真っ正面に見返して霞は続けた。

「ほら、晶、剣道部じゃない。試合前とかにそうやって集中力を高めておけば、試合でも良い結果が得られるわよ」
「・・・・あんた。それ本気で言ってる?」

 晶は驚きを通り越して呆れ果てた様子で霞を見ていた。
 
「え? ええ。言っとくけど、催眠術は魔法とか妙な能力じゃないわよ。ちゃんとかが・・・」
「ちゃんと科学に基づいた、心理療法の技術。でしょ?」

 催眠術についてちゃんと教えようと言った霞の台詞を途中から奪い、晶は最後まで言った。
 そんな晶を見て、霞ははぁと大きくため息をつき、そしてじろっと晶を睨む。

「・・・なんだ、知ってたの」
「ええ、あんたも言った通り、催眠術はメンタルトレーニングに使えるからね。集中力を高めるのに使わせてもらってるよ。それより、あんた。そんな事できたんだ?」
「うん、最近習ったのよ。それでちょっと試してみたくなってね」

 霞はぺろりと舌をちょっとだして、照れたように顔を赤らめる。
 その仕草に晶は不安そうな顔をした。

「ちゃんとできるんでしょうね?」
「任せなさいよ。そこは信用してくれて良いわよ」

 2人はじっと見つめ合う。それから数秒の沈黙の後、晶ははぁとため息をつく。

「わかった。ま、あんたは確信がないとそう言う事はやらないからね。ちゃんとやってくれるってのは信頼してる。たまには自分でじゃなくて、誰かにかけてもらうってのもいいかもね」

 そう言って、晶は手に持ったカップをソーサーの上に戻した。

「どうせ、ここでやるんでしょ?」
「あはは、やっぱりバレバレか」

 にっこりと笑って、霞も座り直す。
 霞はじっと晶の目をみて、静かに声を出した。

「さ、まずはリラックスして・・・」

 ヒュッヒュッヒュッヒュッ

 風を切る音が剣道場に響き渡る。
 夕暮れの武道場に1人、晶は素振りをしていた。
 そして、今日の事を振り返る。

「あの、綾瀬先輩」

 練習をしていると突然声をかけられた。

「ん、なに?」
「今日はどうしたんですか?」
「え?」
「なんか、今日の綾瀬先輩はぼーっとしてるっていうか、動きが悪いって言うか・・・ときどき隙だらけになるんです」

 その言葉は晶にとって、ぐさっと来るものがあった。が、何か納得できなかった。
 確かに、今日は晶が気がつくと目の前に相手がいたという事が何度かあった。その度に慌てて対応するのだが、晶は自分ではそんな風にぼーっとしているようには思えない。
 次の瞬間に目の前にいて、連続した時間の中で相手が凄い速さで動いたような感じがするのだ。

「綾瀬先輩?」
「あ、ごめん。考え込んじゃった。って、こんなのがぼーっとしてるって言われるのか。ありがと、気をつけるよ」

 そう言って晶は話を切り上げた。

 バシィッ!!

「い、一本」

 主審をやってくれた子が戸惑いながら声を上げる。しかし、戸惑っているのは主審だけではなかった。回りで観戦していた部員達、竹刀を打った相手、そして、打たれた晶も戸惑っていた。
 開始の合図を入れてすぐの事だった。
 晶が見ていた次の瞬間には目の前に竹刀があった。振り上げる動作も、振り下ろす動作も晶には見えなかった。ただ、合図の次の瞬間には目の前に竹刀があった。
 避ける間もなく打たれていた。
 少なくとも晶にはそう感じられた。

「こら! 綾瀬っ!! やる気あるのっ」

 顧問の怒号が道場内に響く。だが、その声は晶には届いていなかった。
 何の返事もない晶に小さく舌打ちして顧問は練習を続けさせる。

「綾瀬! お前は練習後素振り三百本やってきなっ」

 ただ、顧問の大声が響くだけだった。

 ヒュッヒュッヒュッヒュッ

 何度も何度も素振りをする。
 なにか心にまとわりつくような嫌な気持ちを払拭するために。
 どうしてもふりほどけない不安を拭うために。

「綾瀬」

 その声に晶は振り向く。その先に立っていたのは同じ学年の男子だった。

「なんだお前。部外者は入ってくるな」
「なんだよ、つれないな綾瀬」

 パンッ

 男子が手を打ち鳴らす。その音とともに聞こえない声が頭の中へと響いていた。

『いい晶。晶はこの音を聞くと、3秒間意識がとんで、とんだ事には絶対に気がつかないの』

「っ」

 息をのんだ。
 一瞬後に男子生徒が近づいていた。

 パンッ

 男子生徒は晶の目の前にいた。晶の顎に手を当てて、晶の唇を自らのそれに向けていた。

「ほら、こんなにそそらせる顔をしているのにな」
「っ!!」

 バシッ

 それを認識した晶は男子生徒の手を弾き、2,3メートル下がる。顔を真っ赤にして目の前の男を睨み付けた。
 そしてその瞳には一気に敵意が漲ってきた。
 呼吸をし、すぐにでも斬りかかれるように全身に力を込める。

「怖いなぁ。だめだよ、そんな顔してちゃ」

 パンッ

 一瞬にして目の前に動いてくる。どうやっているのか分からないが、晶にはもう慣れた事だった。それに合わせて、渾身の力を込めて目の前の敵を突こうと動く。
 だが、それより一瞬早く晶の太股に男子生徒の指が突き立てられた。そして、再び聞こえない声が響き渡った

『太股を突かれると足に力が入らなくなって、立っていられないの』

 ストンッ

「え?」

 目の前の景色が急に変わる。目の前にあった男子生徒の顔は男子生徒のズボンへと替わっていた。
 晶が尻餅をついて、その分視点が下がったのである。
 その変化に晶は戸惑い、その瞳は困惑の色を以て、辺りを見回す。

 バキィッ!!

「っ!!」

 そして、その事実に気付いた時には手に持った竹刀を蹴り飛ばされていた。
 キッと敵意の籠もった目で男子生徒を睨んだ晶に下卑た笑みが返ってくる。
 その顔をぶん殴ろうと右手を大きく振りかぶる。その手が振り回される前に晶は押し倒された。

「やっ」

 その上に男子生徒はのしかかり、一気に両手を押さえ込んだ。

「放せっ、放せよっ! んむっ」

 両手は頭の上で押さえられ、身動きの取れないまま唇を奪われる。そして、そのまま胸を揉みしだかれた。

「んっ、んんっ!!」

 力を込めて振りほどこうとしても、足に力は入らず、両手だけではたかが知れている。容易に晶は押さえ込まれてしまった。
 男子生徒は胴着の上をぐいっと押し開く。胴着の下からブラジャーに包まれた胸が現れた。その胸を下から掬うように揉み上げる。
 唇を放し、口の端をニヤリと持ち上げる。

『キスをされると身体が疼いて仕方なくなってくるよ。晶がどんなにいやがっても身体はとても感じてしまうの」

 その聞こえない声が頭の中へと響き渡り、体中に染み込んでいく。

 ヒクンッ

「っぇ!」

 突然の感覚に晶は思わず腰を引く。その感覚に戸惑いを覚える。

「っ!!」

 声が漏れそうになるのを懸命に堪える。気持ちいいと思ってしまった。

「放せっ! はなっ」

 渾身の力を込めて、男子生徒を引き剥がそうとする。だが、胸を揉まれた快感が体中に突き抜けて、力は一気に霧散してしまった。
 威力のある面のように突き抜ける快感が何度も晶にショックを与える。その度に晶は声を堪えて、その快感を否定する。
 シュルと音がし、袴の紐が解かれる。男子生徒が何をしようとしているのかに気付き、何とか腕だけで逃げようとする。
 だが、そんな晶の必死の抵抗もむなしく、ずるりと袴は脱がされた。

「嫌ぁっ!!」

 橙色に染まっていく道場に晶の声が響き渡る。だが、その声を聞いているのは出させている張本人達だけだった。
 もはや、恥も外聞もなく晶は必死に逃げようとする。
 だが、足が動かないこの状況で、逃げる事など不可能だ。
 男子生徒はうつぶせになった晶の腰を掴んで引き上げる。そうして四つん這いにしてから晶に絡みつくように抱きしめた。
 左手で胸を、右手で股を、そして、下で首筋を責めていく。そして、その度に晶は身体をひくひくと蠢かせその快楽に戸惑いを、その行為に嫌悪を感じていた。

「どうして・・・」
「気持ちいいんだろ? それが綾瀬の本性だよ」

 耳元で囁かれる。晶は頭を振り、必死にその言葉を否定していた。
 晶の太股を撫で上げていた右手がするりとショーツの中へと滑り込む。クチュと水っぽい音がして、粘着質の液体が男子生徒の指へと絡みついた。

「ほら、わかってんだろ。濡れているのがさ」

 晶はその言葉に再び自分を奮い立たせ、何とか男子生徒を引き剥がそうとする。だが、一瞬早くそれに気付いた男子生徒はキュッと肉芽をつまみ上げた。

「あぅっ!」

 全身に針を刺されたような鋭い感覚が脊髄に響き渡り、全身の毛穴が締まっていく。
 晶の身体は一瞬引きつけを起こしたかのように固まり、その一瞬後に脱力する。

「イッたみたいだな。こんな風に無理矢理やられて、まだ入れてもいないってのにな」

 男子生徒の言葉に晶は身体を震わせる。その瞳には怒りや悲しみ、恐怖など様々な感情が交じり合っていた。

「大丈夫だよ。もっともっと気持ち良くさせてやるから」

 その言葉と共に男子生徒は晶のショーツを引きずり降ろした。

「やぁっ」

 晶は次に起こる事を想像し、先程よりもさらに強く、その場から逃げようとする。それを察知した男子生徒は胸を刺激している左手で乳首をつまみ上げる。

「ひんっ」

 その刺激に晶は思わず背を反らせてしまう。その隙に男子生徒は器用に片手でズボンを下ろし、その天を衝くように立ち上がっている肉棒をとりだした。
 晶の腰を押さえ、股の間へとそれを擦りつける。それが微妙な刺激となって晶を苛ます。

「ぅくっ、んんっ、ひぅ!」

 その刺激に翻弄され、晶は何度も頭を振り乱す。それを見ながら、男子生徒は肉棒の狙いを定めた。触れる感触、その位置に気付き、晶は焦った。

「そ、そこっ、ちがっ」

 晶の制止も聞かず、男子生徒は尻の穴へとそれを進めた。
 メリメリと音がして、そこが押し開かれていく。恐怖と緊張から晶の身体が固まっていく。だが、ただ一点だけ。何故か括約筋はゆるんでいった。

『お尻にちんちんを入れられると、晶は犬の言葉しか喋る事ができなくなるんだよ』

 またも、聞こえない声が頭に響き、晶の身体を縛っていく。

「うっ、わんっ、わんっ」

 晶は自分の口から出たその声、言葉に驚いた。
 信じられないと言った顔で周囲を見回す。そして、再び声を上げる。

「わんっ、わんっ!!」
「どうした? この格好でそんな声を出すと犬みたいだな!」
「わんっ!!」

 晶の中へと力強く突き進む。その衝撃と快感に耐えきれず、晶は声を上げてしまう。
 前へ、後へ、男子生徒は動いていく。それに伴い、回りの肉が巻き込まれるように動き、それが晶に快感を与えていく。

「わんっ、わんっ、わんっ!」

 大きく背を反らし、大声をあげる。だが、その声はどんなにがんばっても意味のある物へと発音できなかった。
 男子生徒はその様子を満足気に眺め、再び絡みつくように晶を抱きしめ、囁きかける。

「ほら、自分でもわかっているんだろ? さっきよりもここが濡れてきてるのが」

 チュプ

 男子生徒は腰を前後させながら晶の性器に手を当てる。水っぽい音が響き、そこから愛液が滴り落ちている事を示していた。

「うー、わん、わんっ!! わんわんっ!!」

 晶は激しく頭を振り、必死にその言葉を否定しようとするが、男子生徒はにやにやしながらさらに晶を責めていく。

「そうか、やっぱり、わかってるんだな。気持ちいいんだろ? ほらイッちまえよ」

 そう言って、男子生徒は腰の動きを速め、胸や首筋への刺激も強くしていく。
 それで、晶の反応は劇的に変化した。

「わんっ!?」

 大きく目を見開き、大きく口を開けて、大きく身体を反らせる。括約筋が締まり、男子生徒の肉棒を締め上げていく。大きな快楽を叩きつけられ、晶はそれに振り回される。
 自分の意志に反して、身体はその快楽を受け止めようと蠢きだす。

「わんっ、わんっ、わんっ!!」

 大きく、突き進む男子生徒の肉棒の動きに合わせて、晶は声を漏らしてしまう。その度に括約筋が締まっていき男子生徒の物を受け入れようと刺激する。

「いいぞ、締まってくるようになったじゃないか。無理矢理やられて、それでなお感じるなんて淫乱な上に変態だな。わんわんなんて言ってよ!!」

 言って、男子生徒は一層力強く腰を前に突き出した。同時に両手で弄っていた乳首と肉芽をキュッと摘み上げ、首筋に吸い付いた。
 きゅうっと全身の穴という穴が一斉に締まるような感覚。先程と同じような感覚が晶の全身を回る。

「わんっ!!!」

 背骨が折れてしまうんじゃないかと思うくらいに背を反らして、瞬間、晶は固まった。そして、一気に脱力すると、板張りの床、先程からずっと垂れ落ちていた自分の愛液でできた水たまりの上に崩れ落ちた。
 脱力した晶からまだ元気な肉棒を取り出すと、男子生徒は晶をごろんと仰向けにする。そして、うっすらと目を開ける晶にむかって話しかける。

「またイッたな。綾瀬は本当に淫乱だ」
「ふざけないで・・・。あんた、あたしになにしたのよ」
「なにって、お前を犯しているだけだろ? 俺はそれしかしてないし、それで感じるのはお前が淫乱だからだろ?」
「そんなわけないでしょ。じゃあなんで、あんな・・・あんな・・・」
「じゃあ、これはなんなんだよ?」

 そう言って、男子生徒は無防備に晒されている肉芽を摘み上げる。

「ひぐぅっ!」

 それだけで、晶の身体はビクンと跳ね、筋肉が硬直して、晶の呼吸が一瞬止まる。そして、すぐに脱力して晶はがくりと床に崩れる。

「ほら、これだけでこんなに感じて。本当は嫌じゃないんだろ? 淫乱の証拠さ」
「違う・・・違うの・・・」

 男子生徒の言葉を必死に否定し、力無く首を振る晶。そんな晶の肉壺へと狙いを定めて、男子生徒は肉棒をあてがう。

「淫乱な綾瀬にプレゼントをやる。喜べよ」
「いやぁっ」

 晶が男子生徒の言葉の意味を知った時にはすでに遅く、男子生徒の肉棒は晶の中へと突き進んでいった。

「ぎぁああっ!!」

 ブチブチという音が伝わり、晶と男子生徒に処女喪失を知らせる。男子生徒は痛みに耐える晶を尻目に腰を前後に動かし始める。

「どうだ、俺のは? とても気持ちいいだろ?」
「そんなわけ・・・ないでしょ・・・どきなさいよ」

 口ではそんな事を言うものの、肉壺は締まっていき、肉棒を締め付ける。晶の身体は心に反し、快楽を受け止めていた。

「身体は正直だぜ。ほら、どんどん締め付けてくる。自分でも分かってるんだろ?」

 その言葉を晶は必死に否定する。弱々しく頭を振り、男子生徒を押しのけようと、腕に力を込める。だが、その腕に力は入らず男子生徒の身体に押しつぶされていく。

「や・・・嫌なのに・・・・嫌なのに・・・・くんっ・・・こんな・・・んんっ・・・どうして・・・・」

 顔が赤く染まり、呼吸が再び荒れてくる。晶の心臓が早鐘のようにドクンドクンと打ち鳴らされる。キュウッと肉壺が締まっていき、玉のような汗がその肌に溢れていく。
 そんな晶の様子を見て、男子生徒は満足気な笑みを浮かべる。

「だから、いってるだろ。綾瀬が淫乱なんだって」
「ひぅっ!」

 男子生徒の言葉に反応し、晶の肉壺が締まり上がる。

「ほら、気持ち良くなってるだろ。俺も大分気持ち良くなってきてる。だから、このまま綾瀬の中に出してやるよ」

 ビクンッ

 男子生徒がその言葉を聞いた瞬間、晶の身体が恐怖に固まった。
 そして、すぐに暴れ出す。

「やっ、だめぇ。やめてっ、中はっ」

 下半身が動かない中、上半身だけで必死に男子生徒の肉棒を引き抜こうと懸命に晶はもがく。
 だが、腕の力だけ、それも女性の力では快楽に浸される中、男子生徒を引き剥がす事なんてできない。

「やめてよぉ、なかはっ、子供がッ!!」
「できるかもね。それもまた面白いかもよ」
「ひぐぅっ!!」

 ズンッと一層強い突き入れに晶の身体は痺れ、キュウッと肉壺は締まっていく。
 晶はどんどん高いところへと持ち上げられて、思考が単一化していく。

「ほら、あとすこしだ!!」
「やぁっ、やめてっ、外に、外にっ!!」

 切羽詰まり、必死に頭をぶんぶんと振る晶。その瞳は全てを拒むように強く閉じられている。

「イクぞっ!!」
「っ!! ああああああああっ!!!!」

 最後の一突きを深く、深く突き入れ、晶の最深部で男子生徒は密度の高い精液を吐き出した。
 その感触を受け、晶も今まで辿り着いた事のない所までとばされる。
 その絶叫は板張りの道場に深く響き渡り、床や壁の板を振動させた。
 絶叫の後に晶は脱力し、床に崩れる。乱れた呼吸を整えようともせず、ただ、その結果に涙を流していた。

「っく、赤ちゃんが・・・できちゃうよぉ・・・」
「気持ち良かったんだろ? それでいいじゃねえか」

 その言葉を耳にして、晶は男子生徒を睨んだ。ぎりぎりと歯に力を込めて、たった今レイプされたとは思えないような殺気の籠もった瞳だった。

「赦さない・・・あんた絶対に赦さない!!殺してやるっ!!」
「じゃあやってみれば?」

 ひょいと先程蹴り飛ばした竹刀を拾い上げ、晶の目の前へと投げつける。

「ほら、もう足も動くだろ。やってみろよ」

 目の前に転がっている愛用の竹刀をしっかりと握りしめ、それを杖代わりにガクガクと震える足で立ち上がる。
 すぅと息を取り入れると、足をガクガクさせながら立ち上がったのが嘘のようにぴたりと構えて静止する。
 ふぅと息を吐き、キッと敵を見据える。
 もう一度息を吸い込み、ダンと一気に踏み込んでいく。男子生徒の反応できない速度で得意の突きを繰り出された。

『そうそう、晶は彼を傷つける事はできないんだよ』

 だが、その切っ先は男子生徒に届かず、その喉元でぴたりと止まっていた。

「な・・・んで・・・」

 ブルブルと晶の腕が震える。どんなに晶が力を込めても、切っ先はそれ以上進まない。
 やがて、晶は竹刀を落とし、がっくりと膝を突く。
 ガシャンと言う音が響いた。

「わかったか。お前は俺を傷つける事はできないんだ」
「あたしに・・・あたしに何をしたのよ」

 震える声で晶は呟く。それは質問と言うには小さい声だった。

「俺は、なにもしてない。あ、いや、ちがうか。俺はお前を犯しただけだ」
「ふざけないで! そんなわけないでしょっ!! こんな・・・・こんな・・・」

 怖くなったのか晶はぎゅっと自分をかき抱き、肩を震わせていた。

「本当に俺は何もしてないぞ。俺はな」

 そう言って、男子生徒は入り口を見る。

「そうよ、晶。だって何かしたのは私だもの」

 聞き慣れた声が聞こえてくる。その声に晶はびくっと震えた。恐る恐る顔を上げる。そこには見知った、2人が良く見知った顔があった。

「あ・・・・あ・・・・・」

 晶は大きく眼を見開き、その顔をみる。そして、すぐにはっとして己の身体を隠すようにした。
 弱々しく頭を振り、その顔に弁解の言葉を紡ぐ。

「違う・・・これは違うのよ・・・霞」
「何が違うの? 晶」

 見知った顔―――霞はぼろぼろの晶を見てにっこりと微笑みを浮かべた。
 すたすたと無駄のない動きで霞は晶のそばへと歩いていく。

「隠さなくても大丈夫よ。だって、私ずっと見てたから。晶が乱れていく姿。犬みたいにわんわんって言ってる姿」

 クスリと笑い、晶の顔を覗き込む。

「そして、晶がイッちゃうところ」
「な・・・な・・・」

 晶の貌が一気に青ざめ、かちかちと歯を打ち鳴らす。がたがたと肩を震わせてその恐怖に怯えていた。
 そんな晶を霞はふわりと全てを包み込むように抱きしめる。そして、天使のような優しさを込めた口調で囁く。

「そんなに怯えなくても大丈夫。だって、晶をそんな風にしたのは私だもの」
「え、霞・・・?」

 その言葉に晶は戸惑いの眼で親友を見上げる。その貌は相変わらず微笑んだままで、屈託のない物だった。だが、それ故に不気味に映る。

「何を・・・言ってるの?」
「だから、私が晶をそんな風にしたって言ってるのよ。この間、催眠術をかけた時にね」
「なんで・・・」
「なんで? だって、この人の望んだ事ですもの」

 そう言って、霞は晶から離れて男子生徒にしなだれかかる。その瞳はとろけていて欲情しているのがはっきりとわかる。
 男子生徒はその期待に応えて、晶の目の前で霞にキスをした。チュプチュプと舌の絡み合う音がしばらく響き、やがて2人の唇は離れていった。

「な・・・・な・・・・」

 晶はその親友の痴態を信じられないような物を見る眼で見る。いままで、霞のそんな姿は見た事がなかった。

「か、霞・・・・」
「どうした? またやりたくなったか?」

 にやにやと下卑た笑みを浮かべて男子生徒は晶を見下ろす。それに習うように霞も顔を真っ赤に染めて、潤んだままの眼で晶を眺めていた。

「あ、あんたっ。霞に何をしたのよっ!!」
「俺の好きにしただけだ。俺の好きなようにな」
「な・・・・」

 男子生徒の言葉に一瞬、二の句が継げなくなる晶。だが、すぐに怒りを込めて男子生徒を睨んだ。

「赦さない・・・。あんた、絶対に赦さない」
「で、どうするんだ? さっき傷つける事ができないのは証明済みだろ?」

 愉快そうな笑みを顔に貼り付け、男子生徒は冷ややかに言った。

「警察と学校に言ってやる。そうすればお前ももう終わりよ!!」

 十分に休む事ができたのか、晶はすっくと立ち上がると霞の手を取って走り出す。
 だが、霞はその場に立ち止まり、晶を止めた。

「だめよ。そんな事しちゃ」
「霞っ・・・」
「さ、『眠りなさい、晶』・・・」

 振り返った晶を霞は抱きしめ、その耳に囁きかける。それだけで晶の身体から力が抜けて、その場に崩れ落ちた。

 気がつくと、晶は剣道場で横になっていた。その場にはすでに霞の姿も男子生徒の姿もなかったが、自らの愛液の溜まった水たまり、そして、乱れた胴着と脱がされたままの袴が先程の事を事実だと告げている。
 辺りは暗くなっていた。
 晶は服を整えると、さっきこの場であった事を伝えようと職員室へと急いだ。
 だが、職員室の戸に手をかけた所で身体が止まる。どうしても職員室へ入る事ができなかった。そのまま、何分か硬直した後、晶は剣道場へと戻っていった。
 そして、道場の後始末をした。濡れ雑巾で床を拭いている時、不意に何でこんな事してるんだろうと思い、惨めさと、そして怒りをかみしめる。
 制服に着替えると道場に鍵をかけ、それを届けるために職員室へと歩いていく。
 先程、どんなにがんばっても開ける事ができなかった職員室の戸はあっけない程軽く、ガラリと開いた。

「素振りは終わった? 結構かかってたじゃないか」

 顧問はじろりと晶を見上げ、はぁっとため息をつく。

「まあ、いいよ。綾瀬も色々あるだろうしね。でもね、いくら綾瀬がうまくてもちゃんと集中してないと怪我の元だから。それを注意して欲しいのよ」
「はい、すみませんでした」
「うん、じゃあ、かえってよし」

 剣道場の鍵を受け取り、顧問が言う。晶は有り難うございましたと礼をして、職員室を出て行った。
 昇降口で靴を履き替え、暗くなった校庭を歩いていく。
 肩を震わせ、眼から涙が止めどなく溢れていく。惨めな気持ちを抑えきれなかった。
 職員室に入ってから何度、先程の事を告げようとしたことか。だが、その度に声帯は振動を止め、声が出せなかった。

『晶は、今あった事を私達以外の誰にも伝える事ができないんだよ。言う事も、何かに書く事も、身振りで助けを求める事もできないの』

 晶には聞こえない声が頭に響き、晶の行動を制限していた。

 悔しさと怒り、憎しみと無力感に苛まされながら晶は家路へとついた。

< 了 >

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