セルラーフォン
「紀子、ちょっといい?」
涼子が声をかけた。昼休みの学食でのことであった。
「一也君と一緒に買いに行ったパソコンを家でつなごうと思ったんだけどどうしていいのかわからなくって紀子んちっていつでも使えるようになっているんだよね」
「うん、そうだけど私も一也君にやってもらったから詳しくはわからないわよ」
そう紀子は答えた。
「やっぱ、一也君に聞かなきゃだめかなぁ。今から電話しちゃおっかなぁ」
そう言って涼子は携帯を取り出した。
「ダメよ。涼子」
紀子は涼子の携帯を押さえて言った。
「何考えているの、涼子。一也君、高校生よ。それに学校に携帯持って行ってるとは思えないし、大学生じゃないんだからほいほい連絡するのは迷惑だわ。」
そう言ってぴしゃっと涼子をたしなめた。
「おーこわ。そんなにムキになって言わなくてもいいじゃない。まったく・・・」
「まったくじゃないでしょう。こっちがまったくだわよ。常識だわ。常識」
「そんなに言わなくってもいいじゃない。ちょっと忘れてただけじゃない。保護者じゃないんだから一也君に聞くぐらい・・・・」
そう言いかけて慌てて口をつぐんだ。
紀子はジロっと涼子をにらみこう言った。
「あのね、一也君は高校生、夕方まで授業があるの。それに大学生と違って履修科目の選択とか休講とかないのね。いくら気軽に電話してもいいと言っても常識で考えれば迷惑だってわかるでしょう」
紀子は一気にまくし立てるように話した。
「そんなに言わなくっても別にちょっと聞こうとしただけじゃない。紀子の生徒を別に食ってやろうとか言っているんじゃないんだから」
涼子は紀子をちらっと横目で見て話を続けた。
「紀子、ひょっとしてやきもち?」
「涼子、あんた本当に怒るわよ。やきもちって」
そう言うとプイと横を向きこう言った。
「せっかく明日は家庭教師の日だから一也君に聞いといてやろうと思ったけど、どうしようかなぁ・・・」
そう言い終えるとちらっと横目で涼子を見た。
「ごめん、ごめん、紀子先生。聞いといてくれれば助かるよ。ほんと恩にきます」
そう言って涼子は紀子に手を合わせてお辞儀をした。
「まったく、いつだってそうなんだから、涼子は」
そう言いながら紀子は急に黙った。
「ヤキモチ?私が、」
紀子はそう不意にそう考え自分の気持ちを反芻した。
「私の気持ち・・・」
ぼぉーっと一人で考えていると涼子が声をかけその思考をさえぎった。
「紀子、何ぼーっとしてるの?一也君のことでも考えてたの?」
不意にそう言われた紀子は顔を真っ赤にして言った。
「何言ってるの。そんなんじゃ・・・」
紀子はうつむいて涼子にこう言った。
「やっぱ、一也君に聞くのはやめようっと」
「ちょっと、紀子。冗談だわよ、冗談」
あわてた涼子を見て
「クス」
と笑いながら紀子は、
「ちゃんと聞いといたげるわ。」
と言った。
翌日の家庭教師の日、紀子はいつもの様に一也の家に向かった。
「ピンポン」
「はぁーい」
一也が返事をした。そう言って一也はドアを開いた。
「あれ?一也君?お家の人は?」
玄関で靴を脱ぎながら紀子はこう聞いた。
「うちのお袋は、まだ店の方で、さっき連絡があって今日は遅くなるって」
「ああ、そうなんだ。いそがしいね。お母さん」
「おじゃまします」
「ああ、一也君。こないだの日曜日ありがとうね。それでね、涼子がちょっとお願いがあるんだって」
「ええ、どういたしまして。それで涼子さんが何って?」
一也は、ドアを閉めて階段を上っていった。
「ええ、昨日涼子が、日曜日に買ったパソコンを家で繋ぎたいんだけど繋げ方がわからないから一也君に聞いてくれないって言ってたのよ」
「ああ、そんな事ならお安い御用ですよ」
「うん、多分、そう言うと思ったけど、携帯に電話して聞くって言い出したからそれで、ちょっとね」
「え、?それって何時ごろの話なんですか?」
一也はちょっと考えながら言った。
「お昼休みだから12時半ごろよ。でも、一也君携帯って学校には持っていってないよね」
一也はあわてて答えた。
「もちろんですよ。うちの学校そーゆうのにはうるさくて。携帯なんか見つかったら即没収ですよ」
「やっぱり」
紀子は、妙に納得して話を続けた。
「それでね。慌てて止めたんだけど、もし掛けたとしても『電波が届かないか電源が入っていないため掛かりません。』だったわね」
一也は内心焦りながら答えた。
「そうですね」
一也はそう返事しながら考えていた。実際携帯は常に持ち歩いていた。ただし電源は入っていない状態だったが、授業中になると流石にまずいと思っていたので普段から電源は切っていた。先ほど紀子に話した没収の話はうそであったが、注意は受ける。もちろん職員室に呼び出されて場合によっては親にばれる。
流石に高校生では持ち物検査まで無いのでこれまでは携帯は問題なかったがこれからは対策を考える必要があるな・・・・。
一也は紀子の話を聞きながら思案にくれていた。
「で、一也君。どうしようか?」
紀子は一也に聞いた。
「え、何だっけ?」
「やだぁ、一也君。涼子のパソコンの話でしょう」
そう言われた一也は慌ててかぶりを振って
「うーん、そうですね」
と考え込んだ。
紀子の部屋の配線を見てそれと同じようにすれば良いんだと言っても多分涼子にはわからないだろう。紀子にそれを教えてもうまく伝わらないな。
そうだ、よし。
「先生、先生の部屋で涼子さんにつなげ方を教えて、それでわからなかったら涼子さんの部屋にお邪魔しないとわからないかも・・・」
「うーん、そうね。私も一也君にやってもらって涼子に教えるのは出来ないし。もし自分らでやって繋がらなくなったら困るし、ここは、プロにお任せした方がいいわよね」
「プロだなんて。それじゃぁ、今度の土曜日にどうです?涼子さんに聞いてみてください。土曜日だともし仮にその日のうちにわからなかったら次の日の日曜日に涼子さんちに行って対応することもできるし・・・。どうです?」
「そうね。土曜日に説明を聞いてもわからなかったら日曜日があるし、問題ないと思うわ」
「あ、そうだ。これこそ涼子に電話で聞けば良いじゃない。そうしたら土曜日の都合を一也君に一々確認することもないし、手っ取り早いわね」
そういうと
「ちょっとごめんね」
と言い携帯に電話をした。
2、3回のコールで涼子は出た。
「もしもし、私。紀子。今ちょっといいかな?」
「うん、それじゃあ、昨日言ってた件。今一也君が横にいるんだけど、今度の土曜日に私んちに来てくれる?都合はどう?」
「うん、うん、OK。じゃぁ、わかった。えーっと、時間は・・・。ちょっと待ってね」
「一也君、時間は何時がいい?」
「そーですね。早い方がいいから10時ではどうです?」
「涼子、10時でいい?うん、うん。わかった。それじゃぁ、ばいばい」
「これでよしっと」
「土曜日に私のうちに10時で。よろしくね、一也君」
「さぁてと、ちょっと余計な事に時間を掛けちゃったけど、お勉強を始めるわよ」
「今日は、このプリントをやるわよ。さぁ、勉強、勉強」
そう言って紀子は僕の机の横に座り、プリントを僕の目の前に置いた。
「さぁ、開始。質問があったら、いつでも聞いてね」
そう言って英語の参考書をパラパラとめくり始めた。僕は、プリントに取り掛かりながらぼんやり先ほどの携帯電話の件を考えていた。
やがて良いアイデアが浮かび早速その実践に取り掛かることにした。
「先生、ちょっと」
「え、何?一也君、質問?」
「ええ、ちょっとわからないところが・・・。先生。『紀子は僕の催眠のとりこ』」
紀子は、一瞬
「えっ」
という表情をしたが、次の瞬間、眼を閉じそのままの姿勢で、
「わたしは、あなたの催眠のとりこです」
と言った。
「紀子、涼子にも言っておかなければいけないが、俺の携帯には気軽に電話をして欲しくないな。分かるな、紀子」
「はい、ご主人様。ご主人様に気軽に携帯電話で呼び出すなんて滅相もございません」
「そうだ紀子。良く分かっているじゃないか。俺がお前達を呼び出すのはいいが、逆はダメだな。涼子には教育が必要だが、紀子お前はどう思う?」
「はい、ご主人様。私のほうからもしつけをします」
「そうだな、しつけはお前に任そう。今週末にでも確認する事にするよ。いいね紀子」
「はい、ご主人様。わかりました。涼子の事はお任せ下さい。責任を持って教育しておきますから」
「そうだね。紀子はお姉さんなんだからね」
そう言うと一也は立ち上がりベットに腰掛けた。
「さぁ、おいで紀子。いつもの様にご奉仕しておくれ。」
「はい、ご主人様。喜んで」
そう言うとにっこり微笑みながら立ち上がった。
ほんのり熱っぽい上気した頬をしながら色っぽいしぐさで服を脱ぎだした。
裸になった紀子は、俺の息子を咥えるとおいしそうにご奉仕しはじめた。
俺のものはたちまち元気になりいつもの様に紀子の中ではじけた。それから30分ほど紀子をかわいがりシャワーを浴びに下に下りていった。紀子も一緒にシャワーを浴び、体を洗ってもらった。
紀子は心から喜んで俺の体を洗いそして体を拭いた。
体をきれいにし身支度をして俺と紀子は、俺の部屋に戻った。
そして再び机に座り、いつもの様に紀子を元の先生に戻した。
「紀子、3つ数を数えると君はいつもの紀子に戻ります。そしていつもの様に僕と勉強をしていた事を覚えています。さぁ、3つ数を数えます。1、2、3、はい」
紀子は目をぱちぱちと瞬き、
「さぁ、そろそろ時間ね。一也君、もう終わった?」
と僕に聞いてきた。
「ああ、先生、もうちょっとで終わります。ほら、」
俺はほとんど白紙に近いプリントを紀子に見せた。
「あとちょっとじゃない。さぁ、続けて」
僕は最後から2問を自分で解き紀子先生に答え合わせをやってもらった。
紀子は白紙のプリントに○×をつけていった。まるでそこに本当に俺が答えを書いているごとくごく自然に答え合わせをやっている。紀子が僕の実力を把握して紀子が多分こう答えるだろうと言う内容で答え合わせをやっているのだ。これは細かくこうしなさいと指示しているわけではなく紀子が自発的にごく自然に行っている。人間の心理が微妙に働き不条理なものが排除され不足している当たり前のものが補完されている。当の本人には書いているものがちゃんと見えている。
当人にとってはごくごく普通の出来事なのだが、さすがにこの俺も最近はようやく慣れてきた。
「先生、これってどこが間違っているんですか?」
僕は紀子先生に質問した。
「これはね、ここ、whereじゃなくってwhatね。よく間違えるのよ。この表現は」
「なるほど、そうなんですか」
僕は頷き紀子の採点を再び見守った。
「うーん、今回はまずまずの結果ね。ちょっとケアレスミスが多いかな」
「そーですね。ボンミスが多いですね」
「ま、いいでしょう。この間違っている部分はもう一度考えてみる事。分かった?」
「はい、先生。後で見なおしておきます」
紀子は時計をチラッと見て言った。
「そろそろ時間だわね。じゃぁここまでにしましょうか」
「はい、有難うございました」
僕はそう言うと机をちょっと片付け、立ちあがった。
「じゃあ、一也君、今日の所を次回までに見なおしといてね。後、土曜日よろしくね」
僕はにっこりと微笑みながら答えた。
「分かりました。先生。土曜日おじゃましますね」
そう言うと紀子はバッグを手にして部屋から出ていった。そして玄関先まで見送って僕は家に戻った。
また、土曜日に続きをするとするか。俺はまた、さっき思いついた事で今度の土曜日に思いをはせた。
< 続く >