始動編(2)
冴草啓人は雨桶市内のとある高級マンションの部屋にいた。部屋の住人である美女はベットの上で荒い息をしていた。己の欲望をあと一歩で満たせるという段階に至っても啓人は少しも悠然とした態度を崩さない。目の前にとびきりの美女がいて自分の思うが侭に出来るというのに、氷よりも冷たい視線を獲物に送っているだけである。
「何をしたの?」
辛うじて言う理乃。
「捻りが足りないな~もっと違った台詞を期待したのにな~」
そう言ってからかう啓人。目も楽しそうに笑っている。
「っ・・・・・・」
理乃は悔しそうに唇を噛むがどうする事も出来ない。そんな彼女を面白そうに見ていたが不意に真面目な顔つきになった。
「催淫剤って知ってるか?」
「確か・・・麻薬の一種だったかしら?」
「ちょっと違うけど・・・俺は触れた人間に快感を与えることが出来る。ま、アンタは俺に何をされようが快感を感じでしまうとでも思ってればいい」
「!!」
怯えた表情になったが理乃は疑問を口にした。
「何故私にそんな事を教えるのよ?」
当然のことだ。これから襲う女とは言え、自分の事をバラす奴なんていない。嬉しさの余りに余計な事を話してしまう馬鹿ならともかく、目の前の少年は年頃の男とは思えない程に冷静である。
「教えればアンタが怯えて抵抗するだろう?」
(本当に嬉しそうね・・・)
啓人は新しい玩具で遊ぶ子供のような目をしている。
「人が怯えるのを見て楽しむなんて最低ね」
吐き捨てるように言い放った。だが、内心男のプレッシャーの凄まじさに恐怖していた。
何しろ今では彼が只立っているだけ、笑っているだけで背中が寒くなるのだ。
「違う違う。抵抗があった方が楽しいって事さ♪」
嬉しそうに否定する。彼女がいちいちしゃべる事が啓人を楽しくさせているなんて本人は夢にも思わなかった。
(何なのこのコ・・・冷たかったりやけに明るかったり・・・)
それが正直な理乃の思いである。
「さてと・・・そろそろ始めますか」
予告するあたり、変な所で礼儀正しい。理乃はビクッと体を震わせ後ずさりをしたが、すぐに壁と背中が触れ合った。
「そうそうその調子・・・」
なんてほざきつつ、ワザと間合いをゆっくりと詰める啓人。
やがてベットの上に乗ると、理乃の下半身の方へ手を伸ばす。
咄嗟に理乃は足を閉じるが、啓人の手が触れたのは足の付け根だった。
女が疑問に思う間もなく、男の指は付け根をなぞるように撫で始める。
(!!)
理乃が戸惑うのも無理なかった。撫でられると同時に全身が疼き出したのである。
(な・・・何故?)
彼女の意思に反して秘所は勿論、全体が熱を帯びてきている。足も固く閉じられていたのは一秒程度で、今はもう男を誘うように開いている。
(・・・っ・・・)
頭にかかり始めたもやを何とか振り払おうともがくにも既に力が入らなくなっている。
やがて男の指は秘所をなぞりはじめた。
「・・・ぁっ・・・・・・」
ごく弱く触れられているだけなのに、理乃は湧き上がってくる声も快感も抑えきれなくなり始めている。
(ダメよ・・・このままでは・・・)
そんな理性の声も段々と遠くなっていく。そんな理乃を観ていた啓人は彼女の体を抱き寄せてみる。
「ハァハァハァ・・・」
全身が火照っている上に、息も荒い。おまけに自分を気にとめる素振りを見せない。
「ちょっと力加減を間違えたかな?もっと抵抗すると思ったのに・・・」
つまらなさそうに呟く啓人。結構手を抜いたつもりだったのに、女はほとんど抵抗せずに喘いでいる。実際はまだ心は葛藤状態なのだがそんな事を知る由もない。
「まぁいいか。計画に支障ないし」
結論が出ると少し強めの刺激を与える。
「あ・・・・・・」
今度は自然に声を出した。どうやら理性も落城寸前らしい。
「イかせて欲しいか?」
理乃は力なく首を横に振る。
「へぇ・・・」
感心したかのような声をもらす。
「大和撫子はともかく、部屋で浴衣ってのは好きじゃないんだが・・・」
【浴衣の女は真夏の夜、外で】が彼の持論であった。クリトリスを浴衣の上からグリグリとする。
「ああ・・・」
理乃はのけぞる。そんな半開きになった女の唇を塞いだ。
「ん・・・」
すぐに舌を入れ、相手の舌に絡める。僅かに逃れようとする動きがあったが、何の意味もなかった。
(ん・・・ん・・・)
理乃は全てが真っ白に包まれていく気分を味わった。啓人が唇を離しても女はぐったりとして見動きしなかった。
(どうでもいい・・・)
そんな思いが彼女を支配する。
(どうでもいいから気持ち良くなりたい・・・)
ちょっと触られただけでこれだけ気持ち良いのだ、抱かれれば一体どれだけ気持ちいいのか。
「お願い・・・」
彼女に残された道は只一つ。
「もっとして」
懇願する事だけ。
理乃の願いを聞いた啓人は人の悪い笑みを浮かべた。
「イカせて欲しいのか?」
恥ずかしそうに頷く理乃の帯をほどき、全裸に剥く。
「へぇ・・・」
今度は賞賛の響きがあった。全体的に引き締まった体をしていて、胸は意外に大きく形も良い。尻や脚の魅惑的なラインを形成している。やや顔とギャップがあるが、かえってそれがさらに魅力的な印象を与える。
「恋人は?」
今更な質問をする。
「いないわ」
「ちぇっ」
あからさまにがっかりする。楽しみがさらに減った。その様子をもどかしそうに理乃は見つめていた。啓人の催淫効果は簡単に消える事がなく、今もなお続いているのだ。
「此処で止める訳にもいかないしな。でも俺は自分の手下しかイカせてやらない。どうする?」
と言いつつ催淫効果を解いた。
(え?体が・・・)
疼きが収まっていった。
「もう何ともないだろう?」
そう言って微笑みかける。
「あ、貴方って!!」
理乃は屈辱と怒りで体を震わせた。
「一体何様のつもりなの!?」
「何様でもないさ」
そう言って肩をすくめる啓人。何処までも人を食った男である。
「ただ俺は自分のやりたいようにやり、誰にも邪魔はさせない・・・それだけさ」
言ってる事は無茶苦茶だがそれ以上に無茶苦茶なプレッシャーを発する。
「お前が叫ぼうが喚こうが誰かに助けられる事はない」
局部を手で隠す理乃の顔を撫でる。
顔を背ける理乃の首にキスをする。
ピクッと震わせても無言で耐えようとする理乃の手を払いのけ、胸を掴む。
「綺麗な乳首だな」
胸を揉みながら女の羞恥を煽る言葉を掛ける。
理乃は顔を紅くしたまま、目を合わせようとしない。
肩を震わせているが、それは既に感じてきているからだ。
「もう濡れてるんじゃないのか?」
二十秒も経たずにそう言われ、歯を食いしばって啓人を睨みつける。
だが、女の手を掠めて秘所を触れるとピチャッという音が聞こえる。
(っ・・・)
湧き上がる快感と戦わなければならない理乃は心の中でさえ抗議が出来ない。
全てが目の前の男の所為なのだが、他の事を少しでも考えただけで快感の波に飲み込まれそうになっている。
一度された為に免疫が少しは出来ているのだが、それ以上に敏感になっている。
少年は乳首に吸い付いてきた。
「あ・・・」
痺れるような感覚に思わず声をもらしてしまう。
少年は無反応のまま乳首を舐め、噛み、吸う。
片方の乳首を口で、もう片方を指で弄ばれ理乃我慢できずに声に出しはじめる。
「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」
もう何も考えられなくなっている。
今までに経験した事もない快感に身を委ねる。
ガードが甘くなった下半身へ責めの対象が移っても抵抗する気になれなかった。
むしろ、何故抵抗したのか?という気になっていた。
ピチャピチャと音を立て、性器を舐めてくる。
いやらしく性器を舐めながらもクリを指で刺激し、膣を指で掻き乱しながらクリを吸う。
そのテクニックもさることながら、送られてくる快感の凄まじさに溺れる。
とても少年どころか人間によるものとは思えない程の快感の中にいながらイけない。
普段なら、何度も達してる程の快感なのに彼女は昇天しなかった。
少年は一向にそれ以上の事をする気配がない。
ついに彼女は求めた。
「い・・・いれて・・・」
その言葉に責めは中断された。
「その事についてはさっき言っただろう?」
淡々としているが目が笑っている。そして焦らすような愛撫を始める。
「何でも言う事を聞くから・・・お願い・・・」
完全な哀願であった。
「それじゃ脚を開け」
言われた通りにした後、初めて理乃は啓人が何時の間にか裸である事に気付いた。
「あぁ・・・」
待ち望んだ物を待ちかねて洪水になった所にいれられ、喜悦の声をあげる。
「自分で動けよ」
そう冷たく言い放たれても気にせず、自分で腰をくねらせ始める。
「あんっあんっあんっ」
恥も何もなく只ひたすら腰を動かし、よがり続ける理乃。これは彼女に限らず、催淫師の毒牙にかかった者のなれの果てとも言うべき姿であった。
啓人は黙って見ていたが、やがて動き始める。
「ああっイクッ・・・」
余りの快感にたちまち理乃は達してしまった。
「ハァ・・・ハァ・・・」
余韻に浸りながらも理乃には声を出す事さえ出来なかった。
「快感に強くないな・・・ま、五十五点てとこか」
理乃に聞こえないように呟いた。
「さてと・・・」
啓人は呪文を唱えながら、妖気を理乃に向けて放つ。これで理乃の操作が解けても啓人の事を思い出せなくなる。記憶に干渉する術は最難を誇っているのだが、こうも間単に使う者がいてはその凄さは伝わらない。
「どうする?もっと欲しいか?」
相変わらずの冷ややかな視線とからかうような口調。
理乃は荒い息をしながら頷いた。彼女の体はさらに快感を求めているのである。
「まぁまだ時間はあるし・・・」
そう言いながら理乃を四つん這いにさせ、後ろの穴を貫いた。
「ああーっ」
彼女があげたのは紛れもなく喜びの声であった。
・・・結局彼女は後七回、絶頂へと運ばれたのであった。
「しまった!」
啓人が叫び声をあげたのは行為の後、風呂に入り身繕いをした時のであった。
「どうされたのですか?」
理乃が目を丸くしている。それもそうである。啓人は滅多な事で取り乱したり、叫び声をあげたりする人間ではない。
「書類を忘れた・・・」
理乃に書かせようとした転校に関する書類。何とそれを持って来るのを忘れたのだ。
「・・・(汗)」
主人の意外なマヌケぶりに理乃は絶句するしかない。
「まだ十時半だ。今から取りに行くから車をだせ」
啓人はそう言ってさっさと歩き出し、理乃は慌てて後を追う。
運転席に座ろうとした理乃は啓人に肩を掴まれた。
「俺が運転した方が早い」
鍵を奪い取るとさっさと乗り込む。理乃は仕方なく助手席に座る。啓人は慣れた手つきで、エンジンをかけ、シートベルトを着けた。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
何かを思い出したのか、理乃は慌てていた。
「啓人様は確か十八になられたばかりですよね?もう免許を取られたんですか?」
当然の疑問。だが、
「そんな物、持ってる訳ないだろ」
そう言うや否や、一気にアクセルを踏む。
「しっかり掴まって舌噛むなよ」
「え?ちょ・・・」
理乃はそれ以上言う事も悲鳴をあげる事もはなかった。
啓人は「常識?法律?何ソレ?」と言わんばかりに‘百三十キロ’で車を走らせる。
流石に反対車線を走る事まではしなかったが、慣性の法則をカンペキに無視して右に左に曲がる車に乗っているのに失神しないだけでも立派である。
「~~~~~~~っ!!」
他に車が走っていなかった所為か、奇跡的に事故は全く起こらなかった。
一人が平然と、もう一人が死にかけた顔をしながら館の前に降り立ったのはそれから十分程経ってからであった。
「生きてるか?」
自分が元凶のクセに、涼しい顔をして言い放つ。
「は、はい・・・何とか」
答えを言い終わらないうちに啓人はさっさと歩き出す。何とも言えない雰囲気を感じながらも、理乃は後に続く。
中に入ると整然とした様が目に飛び込んでくる。啓人に従い、玄関から二番目の部屋に入ると、そこにいたのは二人の女性だった。
(この二人は?いえ・・・一人は幽霊?)
馬鹿馬鹿しいと否定したが気になった。
一人はメイド服を来た非常に美しい女性。彼女は自分を捉えても何の感情の動きも見せなかったが、その美貌は思わず同姓である自分が見とれ、次いで嫉妬を感じた程で
あった。
もう一人はまるで時代劇の登場人物が着ているような格好をしている。こちらも美人だが、気が強そうな顔立ちをして何かおぼろげな感じであった。
「あーこの二人はお前と同じ立場の夕堂じゃない、・・・千鶴。こっちは魅矢」
啓人の言葉に従い、二人がそれぞれ頭を下げた。
「柳浜理乃です」
既に知られているかもしれないが、一応自己紹介した。
「俺はこれから出掛けるからな。仲良くしろよ」
「またですか?」
驚いたように聞き返したのは魅矢と云う名の女霊だった。
「だから千鶴、後は任せる」
「はい」
啓人が向かったのは市の中心地で、一番高い建物だった。当然、真っ当な方法で中に入るはずもなく、外壁を一気に駆け上った。
「よ~し、此処なら丁度いい」
三十階はあるビルを登っておきながら、啓人は息一つ乱していない。
啓人は自分の妖気を市の全域に行き渡らせる。
「さぁどれくらい集まってくるかな」
その声が引き金となったかのように、催淫蟲や淫獣が啓人の妖気にひきつけられ、集まってきた。【類は友を呼ぶ】というやつである。
「蟲は四百五十・・・淫獣は四十・・・思ったより少ないな」
これだけ人口が多いのに少ないという事はそれだけ此処に存在する退魔士が優秀であるという事になる。
「相手に不足がないといいんだけどなぁ~」
啓人に全く危機感というものがなかった。
「取り合えずは・・・」
啓人の妖力が集まった蟲や獣達に流れ込み始める。蟲達の体が光ると同時に、蟲達の体が分裂し数が二倍になる。数が二倍近くになった淫獣達を見下ろしながら、啓人は口を開く。
「今、お前達に人と同じ能力を与えた。よって俺が話している事も分かる筈だ。今からお前達には暴れてもらうわけだが・・・」
幾分説明口調ながらも、色々指示を出す。それを要約すると後は【自分のタイプの女に手を出すな】ということであった。
「お楽しみはこれからだ」
闇夜に一人の催淫師はそう宣言した。
< 続く >
や、やっと終わりました(汗)。本当はまだ続きがあるんですが、別の話にいれます。
今回はえっちシーンを中心にしようと気合を入れて書いたんですが、このザマです。
一度術を解かせようと思ったまでは良かったんですけど・・・
ちょっとやり過ぎたような・・・いや?むしろコレがメインで正解かも・・・
え~今回も啓人の所為ですね。説明し足りない部分はいつかするかもしれません。
次回、バトルを予告しちゃいましたが、どうなるか分かりません。
何しろ書きたい場面数が多すぎる為に頭がパニクらないようにするのに精一杯です。
こんな調子ですので寛大にお待ちください。