暗躍編(5)
ピシャッという音が、始まりの合図だった。
「あっ・・・うんっ・・・」
清華は男を玄関で受け入れ、仰け反った。
「んくっ・・・はっ・・・」
啓人は浅く、ゆっくりと動き出す。清華はその啓人に、しがみついた。
「あんっ・・・はあっ・・・」
清華は声を上げ、既に蕩けた顔をしていた。
「気持ち良いのか?」
そう尋ねる啓人の声は淡々としており、セックスの最中の人間のものとはとても思えない。
「あうんっ・・・気持ち・・・良い・・・!気持ち・・・良いの・・・」
始めたばかりだというのに、清華はうわ言のように、何度も同じ事を繰り返す。
「そう言えばお前・・・自分でした事はあるのか?」
不意に啓人が訊くが、その声は清華の耳には届かなかった。
「んあっ・・・んんっ・・・はあっ・・・」
それを察した啓人は、清華への責めを中断した。
「んん・・・あん・・・」
清華はそれでも悶えていた。刺激が送られなくなっても、自力で得ようと腰を動かす。しかし啓人は、清華がほとんど快感を得られないように、巧みに動いた。
「ああ・・・どうして・・・どうしてですか・・・?」
もどかしそうに啓人を見る。せつなげな表情をしたり、媚びるような目付きをしたりするが、啓人には全くの無意味であった。
「人の質問にはちゃんと答えないとな」
「答えます・・・答えますから・・・!」
必死な形相で、啓人に懇願する。土下座でも何でもしそうな勢いである。
「答えるから、何だ?」
啓人はそっぽを向いた。
「私を抱いて下さい・・・」
清華にしてみれば、精一杯の勇気を振り絞った発言であった。だが目の前の男は、どこまでも嫌な奴であった。
「何か嫌々言ってないか?」
さも疑っている、という目で清華を見た。慌てたのは清華である。
(このままじゃ抱いてもらえないかもしれない・・・)
本気でそう考えた。
「そんな事ありません!お願いします、淫乱な私を抱いて下さい。どんな事でもしますから・・・」
潤んだ目で啓人を見上げる。普通、清華にこんな目で見つめられれば、男は大抵の願いは叶えようとするだろう・・・普通は。
「別にお前を抱く必要はないんだが」
啓人はそう言って、意味ありげに佳純の方を見た。清華と繋がったままなので、説得力は皆無に等しい。傍目ではそうであっても、言われた本人は焦った。
(このままじゃだめ?それどころか、佳純に・・・!)
双子の妹に対して、生まれて初めて抱く嫉妬と対抗心。それこそが、今の彼女を支配しているものであった。
(佳純には負けない!・・・絶対に!)
その為にはどんな事でもする。そう決意した。
「私あんっ!」
いきなり一突きされた。
「何が言いたいんだ?」
また一突き。
「あうっ・・・」
軽く与えられる快感が、余計に清華を苦しめる。
「淫乱なんて、さっきも言ったよな?」
制服の上から、胸を突っついた。
「はん・・・」
それでも今の彼女は、反応してしまう。
「これで感じるなんて、淫乱より凄いな。肉奴隷か?」
(い、淫乱って言うだけじゃだめなの・・・?)
これ以上お預けをされない為には、もっと恥ずかしい事を言う必要がある。
(でも・・・今のままよりはいい・・・)
そう思った瞬間、彼女の中で何かが切れた。
「私は淫乱な雌ですっ!貴方専用の雌奴隷ですっ!貴方のいいように使って下さいっ!」
思いの限り、彼女は叫んでいた。今まで見ていた魅矢も、これには唖然とした。
(この女・・・大丈夫なのか?)
不安になって啓人の方を見るが、啓人は平然として口を動かし始めていた。
≪彼の者の紡ぎし詞、古の摂理に依りて黒き戒めとせん≫
その詠唱が終わると、清華に異変が起きた。
「ああ・・・」
そう声をもらすと、自ら啓人から離れた。蕩けきった顔をし、自分で股間と胸をまさぐり始めた。彼女は自分で口にした通り、‘淫乱な雌’へと化したのである。
「け、啓人様・・・」
そう呼びかけたのは、驚きを隠せない魅矢であった。
「何だ?」
啓人はいつもの調子で返事した。
「こ、これは一体?」
「こいつが言った事を、俺の術で実現させただけだ」
事もなげに言った。俗に言う‘言霊’を応用した術で、昔に流行した‘呪い’なども、これと同じ系列に入る。
「・・・言霊は使われなくなって久しいと思っておりましたが」
「ちょっと待て」
口調はいつも通りでも、表情は微かに動いた。
「お前、言霊に詳しいのか?」
新発見とでも言いかねない顔であった。
「いえ・・・小耳にはさんだ程度で・・・」
小さい声で答えた。
「何だ」
そう言って溜め息をついたさまは、残念そうであった。
「まだ言霊遣いには、会った事がない」
啓人はぼやいた。
「まだ滅んではいない筈なんだが・・・」
昨今では、退魔士が世間に取り上げられ、霊媒師も陰陽師も退魔士と呼ばれるようになった。十中八九、言霊遣いも組み込まれているだろう。
(まぁ一番腹が立つのはそんな事より・・・)
「啓人様?」
啓人の思考を中断させたのは、魅矢の声であった。
「何だ?」
声はいささか不機嫌になる。
「あの女はどうなさるのですか?」
啓人が振り向くと、そこには清華がいた。
「・・・・・・・・・」
返事が返って来なかった。どうやら忘れていたらしい。
「・・・取り敢えず、元に戻すか」
そう呟いた。清華も傀儡の術の影響下にある為、それくらいは造作もない。啓人がパチンと指を鳴らすと、清華からはそれまで漂っていた淫らな雰囲気がみるみるうちに消えていった。
(凄い・・・)
魅矢が驚いたのも無理はない。立ち上がった清華の顔は、通常のものに戻っていたのである。
「魅矢」
「はい」
「お前、ルビーとサファイアとエメラルド、どれが好きだ?」
「・・・?それは何でしょうか?」
魅矢には啓人の言っている事が理解出来なかった。
「・・・宝石は知らないんだな」
「宝石?ダイアモンドという物でしょうか?」
「まあな・・・」
啓人はこれ以上訊いても、無駄だと判断した。
「じゃあ赤と青と緑の中でどれが一番好きだ?」
「私は青が好きですが・・・」
一体何なのか、さっぱり理解出来ない。
「じゃあエメラルドにしよう」
「はあ・・・」
怪訝そうな魅矢を尻目に、啓人は清華と佳純に手招きをした。何の疑いもなく近づいて来た二人の腰に手を回し、抱き寄せると何かを耳打ちした。それを終えると、清華を貫いた。
「あうんっ・・・」
清華は声を上げ、啓人にしがみついた。
「一気にいこうか」
啓人はそう言った途端、清華はさっきまでの快感に襲われた。
「あはっ・・・はあっ・・・ああっ・・・」
意識を飛ばされそうな、強烈な快感に襲われた清華の指が、啓人の背中に食い込んでいった。
「もうイっても良いだろ」
啓人がそう言った瞬間、清華は一気に絶頂へと達した。清華は快感のあまり声を出す事さえ出来ず、肩で息をしていた。
「佳純」
啓人が呼ぶと、佳純の目に光が戻って来た。大して時間も掛からず、人形から人間になった。
「清華の服を脱がせてやれ」
人形から脱却した事を確認すると、啓人は清華から離れて指示を出した。
「はい」
感情が戻った佳純は、嬉しそうに頷くと、清華の方へ向き直った。
「清華も啓人様のモノになって良かったね」
にこにこして話し掛けると、いきなりスカートを下ろした。余韻に浸っている清華は、抵抗せずに喘いでいた。
「あー凄い事になってるー」
佳純が指した処には、しみが出来ていた。
「こんなにしちゃって・・・よっぽど気持ち良かったんだねー」
そう言って、清華の顔を覗き込んだ。清華は恥ずかしそうに顔を背けた。佳純はスカートをきちんとたたむと、今度は上を脱がせようとした。
「あ・・・だめ・・・」
清華は弱々しい抵抗を見せたが、佳純の前にあっさりと脱がされていった。白いブラが剥ぎ取られると、白い肢体と小ぶりな胸が露わになった。
「あれー清華?」
何かを見つけたらしい佳純は、楽しそうな顔になった。
「乳首が立ってるよ?」
清華は慌てて隠すが、ピンク色した乳首がツンと立っているのを目撃されてしまった。
「ちょっと二人でしてみろ」
割って入った声は、清華に困惑を、佳純に喜色を浮かべさせた。
「えへへー命令が出たね♪」
「いやその・・・」
「あれー命令に逆らうの?」
「いやその・・・」
(命令と言うより、提案なんじゃ?)
清華の意思を無視し、佳純は清華の手をどけさせると、胸へ口を持っていった。
「ひゃんっ!」
唇が軽く乳首に触れただけで、清華は声を出した。
「ビンカンになっちゃってるねー」
佳純は清華に跨ると、乳首をれろれろと舐め出した。
「あっ、あっ、ああっ、」
清華は快感に身を委ね始めていた。それを知ると佳純は、不意に責めるのを止めてしまった。
「一人で気持ち良くなるなんてズルイ!」
頬を膨らませると、反対を向いて自分の股間を清華の口へともっていった。シックスナインの体勢である。
「清華も舐めてね」
有無を言わせない口調で言った。清華は少し湿った、佳純は十分に濡れた秘所を舐め始めた。
「うんっ・・・ああっ・・・」
「ああっ・・あああっ・・・」
ピチャピチャという音と、二人の声が入り混じって官能的な響きを作り出している。
「んっ・・・清華はまだイッてないもんね・・・」
「ああんっあああっ」
佳純と違い清華は、喘ぐのに忙しくなっていた。
「じゃあ・・・イかせてあげるね・・・んっ」
そう言った佳純の前に、啓人が立った。
「啓人様・・・?」
怪訝そうな佳純を無視し、啓人は清華に挿入した。
「ああああ・・・」
清華は感極まった声を出した。佳純は立ち上がろうとしたが、啓人に抱き寄せられた。
「あんっ・・・」
敏感な部分を舐められ、佳純は声を出す。啓人は腰を動かしながら、佳純も責め始めたのである。
「あんっ、あんっ、あんっ」
「あんっ・・・あんっ、あんっ」
二人は同じように声を上げていた。
「喘ぎ声も、いやらしいのも、そっくりだな」
啓人はそう言って、二人の胸を同時に掴んだ。
「「あうう」」
二人は同時に声を上げ、同時に体を右によじった。
「ほら、そっくりだな」
啓人は笑いながら、二人への責めを再開する。
「あっ、あっ、あっ」
「あんっ、あんっ、あんっ」
啓人はあくまで淡々と、二人を責めている。
「ああっ、あああっ」
清華が達すると同時に、佳純への責めを中断し、三回目の射精をした。
「啓人様ぁ・・・」
二人を見ていた佳純は、甘えるような声を出して、啓人を見た。
「どうした?」
佳純が言いたい事は分かっているのに、啓人はワザととぼける。
「私にも・・・清華みたいに・・・」
太腿を擦りながら、ねだっている。
「お前にはもうしてやっただろう?」
啓人の答えはそっけない。
「だってぇ・・・」
佳純は目を潤ませ、体をくねらせる。
「じゃあ何でまたして欲しくなったか、言ってみろ」
「えと・・・それは・・・清華がしてもらってて、私も舐められて・・・」
段々と小声になっていき、最後の方はほとんど聞こえなかった。
「言えないならお預けだ」
啓人は普通に言っても、佳純には死刑宣告と等しく聞こえた。
「言いますぅ・・・清華がしてもらってるのを見てたら、私もして欲しくなったんです・・・だから、お願いします」
必死にねだる姿は、色っぽい上に、中々可憐であった。黙って聞いていた啓人は、佳純を横倒しにした。
「褒美をやろう」
そう言うと、清華も佳純と同じ方向を向かせ、自分も横になって佳純と見つめ合う形になった。啓人は佳純の割れ目をなぞる。
「はうん・・・」
佳純は、ピクッと体を震わせた。そこは十分に濡れていた。
「思った通りだ・・・本当に淫乱なんだな」
そう言うと、いきなり佳純の中に入っていく。
「んんっ・・・」
佳純は悦びの声を上げる。啓人は清華の腰まで手を伸ばし、三人の体を密着させてから動き始めた。
「あんっ・・・あんっ・・・」
「あ・・・ん・・・」
啓人の動きが伝わっているのか、佳純だけでなく、清華も喘ぎ始めた。
「ああっ・・・んんっ・・・ああっ」
「んう・・・はあ・・・」
確実にクライマックスへと近づいている佳純に対して、達した直後の所為か、清華の反応は今ひとつである。そこで啓人は、清華のクリトリスへ手を伸ばした。
「ああっ!」
触れた途端、清華の反応が変わる。
「あんっ、あんっ、あんっ」
「あんっ・・・んんあっ・・・はあんっ・・・あうんっ」
二人への責めも、段々と激しくなる。
「あんっああんっああっ」
「あんっ、ああんっ、ああんっ」
指による巧みな責めで、清華は一気に佳純に追いついて来た。
「ああっ、ああっ、イ、イッちゃう・・・!」
「あっ、ああっ・・・イ、イク・・・!」
二人が達したのは、同時であった。
啓人と魅矢が神社を去る時、既に日は暮れていた。
「思ったより時間が掛かったな」
「はあ・・・」
魅矢には相槌を打つことしか出来ない。
「そんな事より啓人様、大丈夫なのですか?」
若干、心配そうな口調であった。二人を傀儡にしたり、戻したりする間、啓人は常に妖力を放出していたのである。垂れ流すだけならまだしも、量などを調整しながら放出していたので、かなり精神力を消費している筈なのである。その上、二人の女と何度も行為に及んだので、普通なら立てなくても、全然おかしくはないのだが・・・。
「俺はそんなにヤワじゃないぞ」
啓人は余裕たっぷりに笑った。
「そ、そうですか・・・」
魅矢は何も言えなくなった。
「それより・・・見えてきたぞ」
啓人の視界には、広大な竹林が入って来た。
「此処には尼僧が二人いるらしい」
そう言いつつ、啓人は白くて小さな物を取り出した。
「これは・・・爪ですか?」
「そうだ、誰のか分かるよな?」
状況から考えて、尼僧の物に間違いない。しかし魅矢は納得がいかなかった。
「どうやってこれを・・・?」
「千鶴が手に入れてきた」
ある意味、予想出来た答えではあった。魅矢の脳裏には、千鶴の顔が浮かんだ。
(訊きたいなら、千鶴に訊けという事か・・・)
二人は気配を消して、竹林の中を進んでいった。辺りは真っ暗で、静まり返っている。
「此処でいいだろう」
啓人はいきなり立ち止まった。魅矢が理由を訊く間もなく、啓人は竹を手当たり次第に折っていった。折った竹を並べ、まずは四角形を作った。そして次に五芒星を作った後、四角形の角全てにポケットから取り出した呪符を貼った。
「啓人様、それは一体・・・?」
「結界だ」
侵入者を防ぐのではなく、妖気がもれるのを防ぐ結界。術の行使などを、誰にも悟られたくない場合、これがよく用いられる。
(こんな簡単に作られるのにか・・・?)
啓人の事を疑うわけではないが、目で見ない限り信じる事は出来ない魅矢であった。
「それじゃあ始めるか」
啓人は妖気を解放するが、目に見えない壁が途中でそれを遮った。結界自体の気配もなく、実際に目で見ないと、啓人の存在を確認するのは不可能となった。啓人は爪を手に持ったまま、ゆっくりと詠唱に入った。
≪光に寄りし彼の魂を今闇底に移さん・・・≫
詠唱を終えると、啓人は呪符を外し、結界を破壊した。
「行くぞ」
啓人は見守っていた魅矢に声を掛け、庵の方へ歩き出した。
「っ!!」
笠庚尼(りゅうこうに)は、いきなり自分の体に違和感を覚えた。
(今のは一体・・・?)
「庵主様?」
隣にいた峯筍尼(ほうしゅんに)が、心配そうに声を掛けた。
「どうされました?」
彼女の美しい顔が、曇っていた。
「何でもありませんよ」
心配させまいと、にっこりと笑う。
(気のせいでしょう・・・)
そう思う事にした。わけもなく峯筍尼を不安にさせたくないからである。
「すみませーん」
外から、誰かが声を掛けた。
(こんな時間に?)
怪訝に思いながらも、笠庚尼は障子を開けた。
「どなたでしょうか?」
笠庚尼が声を掛けた先には、一人の少年が立っていた。そしてその隣に、女霊がいた。
(幽霊?)
彼女に判断出来たのは、四つの目が自分を見ているという事だけであった。
「貴方は・・・?」
取り敢えず、目の前の少年が幽霊を見えているかは別にして、何者なのかを聞き出そうとした。
「催淫師」
「な・・・」
あっさりと言われ、笠庚尼は絶句してしまった。だがそれも一瞬の事で、次の瞬間には平静を取り戻した。
「何の御用でしょう?」
声や清楚な顔は穏やかそのものであっても、彼女の周りには既に霊気が立ち上り始めていた。
「怖いねえ・・・尼僧はまず、もてなすんじゃないのか?」
「え・・・そ、そうでしたね」
(どうして忘れていたのでしょうか)
自分でも不思議だった。とにかく、目の前の人物をもてなさないといけない。
「それで・・・体でもてなしてくれるんだろう?」
「あ、当たり前です」
知らなかった、なんて口が裂けても言えない。
「じゃあまず足を開いて」
啓人は澄ました顔で指示を出す。笠庚尼は言われた通り、両足を開き、白い太腿と黒い茂みが露わになった。そこに口をつけ、舐め始めた。
「あっ・・・うんっ・・・くっ・・・」
笠庚尼は湧き上がってくる快感と、それに伴って声が出そうになるのを何とか堪えようとする。
「もしかして、感じているのか?」
「くっ・・・感じてなんかっ・・・あんっ・・・」
懸命に否定している。
「素直になるのが、‘仏の教え’じゃないのか?」
「え・・・あっ・・・んうっ・・・ああんっ・・・ああんっ・・」
何かが彼女の頭で弾けた。
「感じているんだろう?」
「はっ・・・はい・・・あううっ」
笠庚尼は返事すると同時に、より強烈な快感を送られて仰け反った。
「もう止めて良いか?」
その言葉に、首を振った。
「止めては・・・止めてはいけません・・・」
声に力はなく、それでもはっきりと言った。
「どうして欲しいんだ?」
流石にその問いには、少したじろいだ。
「と、殿方のもので・・・突いて下さい」
言い終わると同時に、彼女は男を受け入れた。
「あうっ・・・んっ・・・」
艶かしく喘ぐ。
「ああっ・・・」
彼女は完全に、快楽に溺れていた。
「脱がなくても良いのか?」
「ああっ、あうんっ、ああんっ」
啓人の声も、最早届いていなかった。
(やれやれ・・・)
あっさりいき過ぎて、啓人は溜め息をついた。とその時、ガシャーンという音が聞こえ、啓人がそっちを向くと、峯筍尼が茫然と立っていた。
「あ、庵主様・・・!」
そう言う声は、悲鳴に近かった。
「一体何をなさっているのですっ!」
完全に我を忘れており、その為に啓人の存在に気が突かなかった。
「これが・・・御仏の・・・お教えです・・・」
喘ぎながらも、笠庚尼は答えた。
「そんな筈がないでしょうっ!」
そう言う彼女の顔は、今にも泣き出しそうになった。
(一体何があったのっ!?)
(彼女はどうしたのでしょう・・・)
全く違う事を考えている二人の間に、落ち着いた少年の声が割って入った。
≪光に寄りし彼の魂を今闇底に移さん・・・≫
その詠唱が終わると、峯筍尼の身に変化が訪れた。
(あら・・・?)
何とも言い難い、奇妙な感覚。笠庚尼と同じ術を掛けられると、それに捉われ、さっきまで考えていた事を忘れてしまった。遠距離なら対象の一部を必要とするが、目の前にしてなら、直接掛ける事が出来る術なのである。
「あんたもして欲しいのか?」
啓人の言葉が、妙にゆっくりと脳に届いた。
(して・・・欲しい・・・?私が・・・?私・・・・も・・・して・・・)
「ええ」
気付いた時、峯筍尼は頷いていた。
「じゃあ四つん這いにならないと。それが‘仏の教え’だよな」
「そうです」
峯筍尼は何の疑いもなく四つん這いになり、尻を差し出した。啓人が捲ると、白くて豊満な尻が現れた。
「中々良い体してるな」
ゆっくりと尻を撫でながら言われ、恥ずかしそうに俯いた。
「あうんっ・・・」
「ああっ・・・」
笠庚尼と峯筍尼は同時に責められ始めた。
(さ、先程のは・・・よ、妖術・・・)
それと気付いても、笠庚尼は快感の前に白旗を上げた。
「ああん・・・んんくっ・・・はあっ・・・」
「はあんっ・・・んああっ・・・ああんっ」
(きっとこれも・・・‘御仏の思し召し’でしょう・・・)
ならば、と彼女は思った。
(このまま・・・もっと・・・ああっ・・・)
押し寄せる快感に、思考力を奪われていく。啓人が二人の尼僧の体を貪っているのか、それとも二人が啓人に与えられる快感を貪っているのか。
「ああんっ・・・ああっ、んああっ」
「あっ、ああんっ、ああんっ」
少なくとも、尼僧達には判断する事は出来なくなっていた。
< 続く >