隔離病棟
――1――
「神保くん、何だね? その格好は?」
「はいっ! 対感染症用の防護服です!」
「防護服を着ていったいどこへ行くのかね? 神保くん」
「もちろん、隔離病棟ですっ!」
「わしはまた、生物化学兵器が投入された戦場にでも行くのかと思ったわい」
「先生、何を呑気な!」
皆さ―――ん、お久しぶりです!
私のことを覚えておいででしょうか?
はい! 超越医学研究所・主任研究員の神保美紀です!
この日、私は研究所長である水道橋正宗先生の特命を受けて、隔離病棟に収容中の患者の診察に向かうはずだったのですが……。
「先月の23号室の患者の診察に際しては、担当医が一名、一週間前の11号患者の時は、患者の採尿を行った看護婦が一名、いずれも悪性の病原菌に感染して死にかかっています! 両名とも、いまだにベッドで寝たきりですわ!」
超医研の隔離病棟がいかに恐ろしいところか、水道橋先生が一番ご存知のはずなのに……。
「今回の患者に認められるのは、おもにメンタルな問題だ。空気感染なぞせんから、そんな大げさな装備はいらんよ。神保くん」
「はあ……」
精神病質では感染はしませんわね……。
そうとわかれば、こんな宇宙服みたいな装備はさっさとポイですわ。重いし、息は苦しいし、胸はきついし……。それに、フルフェイスのマスクだと、眼鏡をかけているのがつらくて……。
「これがカルテですか? 右前腕両骨の骨幹部骨折、被顎強打撲ほか全身に打撲傷、腰椎椎間板突出、股関節亜脱臼……。先生、これは隔離するよりも外科的な治療が必要では?」
「それは患者本人のカルテではない。昨日患者の診察にあたった男性医師が、患者にとらえられ、重傷を負った」
「きょ……凶暴な患者なのですか? 私、空手の達人ではありませんのですけど……」
「そうだな、このVTRでも見てもらおうか。一昨日の、患者の病室での映像の一部だ」
所長室の、ワイドスクリーンTVの電源が入ると、画面が明るくなって……。おや、なんでしょう? いきなり、画面いっぱいに、やわらかそうなものが蠢いている像が映りましたわ。
あれ? これって、患者を撮影したビデオでは?
像がしだいにピントを結んでいくと、なんだか見たことがあるようなものが……。
キメの細かい肌色の盛り上がりが、豪快にゆっさゆっさと揺れて……。
げげっ!!
こ、これは大映しにされた女性のバスト! 乳房! おっぱい、ですわ~~っ!
しかも、で、で、で、でかい!!
あまりの巨大さに、最初それとは気づきませんでしたわ!
バストの巨大さに比例して、まるでお月様のように、まん丸くて、くっきり大きなピンク色の乳輪……その真ん中の乳首が、すっかり硬くなって、しこっているのが映像でもわかりますわ……!
患者って女性でしたの?!
私、や、やっと情況がわかってまいりました!
画像が、ぶるんぶるん揺れていると思ったら、画像の女性は、自分で自分の乳房をわしづかみにして、も、も、モミモミしている……揉みしだいているのですわ~~!
ななななな、何ですの?! これは~~~~~っ!!
アダルトビデオではありませんの?!
カメラがナメて、被写体の顔を捉えました。
ちょっと見た感じでは、くっきりした西洋風の顔立ちの、かなりの美人なんですが……とろんとした目は焦点が定まらず、ぽってりとした紅い唇は、だらしなく開いて、そこから涎がだらだらと流れ出して……。
あはあぁ~~~~~ん!
んふうぅ~~~~~ん!
さっきからくぐもった変な声が聞こえると思ったら、こ、こ、こ、これは……あえぎ声ですわ~~! 音声つきですか?!
欲しいのぉ~~~~~!
欲しいのぉ~~~~~!
画像の女性が、悩ましく身をよじると、鋭角に近いような曲線を描く、ウェストラインから、太ももの付け根が映し出されて……。
影のように見えるのは、黒々とした体毛? アンダーヘアですか?!
いやぁ~~~~ん!
この女の方、真っ裸ですわ~~~っ! しかも明らかに発情していらっしゃる!
かなり大柄の女性とお見受けしたのですが……。
身体をごろりと反転させると、今度は巨大なヒップがアップになって……!
ひぃっ!! 丸見えっ!!
アヌスから、ち……恥丘にかけての色素の沈着した部分がっ!……ある種の体液にまみれて、ぬめぬめと光りかがやいていますわ~~~っ!!
そして、泉のみなもと……ぱっくりと開いた、みずみずしいピンク色の柔肉の部分に、ご自身の指がそえられて……!
いやっ! いやっ! そんなに激しく指を動かしては……!!
包皮のむけた、ク、ク、クリ、クリ……ク○トリスが、指先でもてあそばれてコリコリするたびに、女性の身体が反応して、びくんっ! びくんっ! と、動くのがわかります!
ああっ! そんなに深く指を入れたら、膣口に傷がついたりしないのでしょうか?!
いれてぇ~~~~っ!
おちんちん、いれてぇ~~~~っ!!
ねえぇ……いれてぇ~~~~~っ!! いれてよぉ~~~~~っ!!
な、なんて直截的なアッピールでしょうか?!
あの、ぬるぬるとした膣口の奥に、殿方の、せ……生殖器……を挿入することで、性交が、成功するのでしょうか?!
いけませんわ……私としたことが下品で、ありきたりな親父ギャグを……!
冷静にならなければと思うのですが、やっぱり、イヤですわ! イヤですわ!
拝見している私自身が、発情してしまいますわ……。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………!
終わりましたわ……。
いけません、息が乱れてしまいました。私としたことが、我を忘れて、つい見入ってしまいましたわ。
いったいなんでしたの? 今のは?!
もしや先生は、私に性教育を施そうと意図してらっしゃるのでは?!
「今のが、ゼロ号室の入院患者だ」
水道橋先生は、ひどく落ち着いた声で、おっしゃいました。
「どうだね? 感想は」
感想とおっしゃられても困るのですが、私、先生にひとつだけおうかがいしたいことがございます。
「今のカメラアングルは、いささかマニアックかと」
「なに、裏ルートに流して、研究費の足しに……いや、いや。患者は発作的に、いま見られたような性的に興奮した状態におちいる。何度服を着せても、怪力で自分の衣服を引きちぎり、素肌を露出しようとする。とくに男を見ると興奮して手がつけられなくなるのだ。彼女を診察した男性医師は、彼女に抱きつかれ、組みしかれ、あんなことやこんなことをされて、重傷を負った」
「多淫症……ニンフォマニアということでしょうか?」
「それは外面的で、部分的な症状に過ぎない。
多淫症や、露出癖として説明するには、ときおり見せる発作は、日常生活にも支障をきたすほどだ。おそらく、内面的な原因によるものと思われるが……」
「精神的外傷(トラウマ)ということですか?」
先生はそれにはお答えにならずに、患者の個人データを記したメモを、私にお渡しになりました。
「彼女の名前はキャシー竹橋。職業は……軍人だ」
「!!」
「詳しい事情は訊かないでもらいたい。彼女は戦地から、こちらへ送られ、隔離病棟に収用された。現在は鎮静剤の効果もあり、おとなしくなっている。看護婦を一名つける。神保くんは必要以上に患者に近づく必要はない……! キャシー竹橋について、観察し、できる限りの情報をわしに報告したまえ!有効な治療方法について、検討する必要がある」
一瞬、変な期待を抱いてしまいましたが、これはやはり医師としての、真面目なお仕事のお話ですわ……!
「了解しました! 私、誠心誠意先生のご指示を遂行させていただきます!!」
あら、つい敬礼をしてしまいましたわ。
――2――
超医研に勤めておりますと、しばしばこうした謎めいた仕事が入ることがありますの。
おそらく、今回の患者も、超医研がスポンサードを受けている、ある財団につながりのある……。
「ねえねえ、主任」
何か陰謀めいた匂いが……。気になりますわ。気になりますわ。
でも、私はただ、先生のご指示のままに仕事を進めればそれで……。
「ねえ、主任ってばぁ……!」
うるさいですわ……。
人がメランコリーな気分にひたっている時に……。
「主任! 今度の患者さん、外人さんですかぁ?」
ちなみにこの子は看護婦の小川もと子ちゃん。
私と、もと子ちゃんは、隔離病棟の厳重なガードシステムを解除しつつ、今回の患者が収容されているゼロ号室へと向かっていますの。
「なんで外人だと思いますの?」
「だって名前がキャシー竹橋っすよぉ! ハンパじゃありませんよぅ!」
相変わらずおかしなしゃべり方をする子ですわね。日本語は正しく使っていただきたいものですわ。
「そうですわね。まさか、芸名ではありませんでしょうから、ハーフか、日系人かもしれませんわね」
さきほど、所長室で水道橋先生は、キャシー竹橋を「軍人」とおっしゃいましたわ。もと子ちゃんはミーハーで言っているだけでしょうけど、おそらく患者は外国籍ですわね。
ゼロ号室は、超医研の隔離病棟の中でも、最も厳重なセキュリティに守られた部屋ですわ。ここでは、ゼロ号室の入院患者をゼロ号患者といい、最も危険性が高く、細心の注意を要する患者として扱いますの。
私たちは部屋に通じる最後のドアのセキュリティを解除し、室内に一歩足を踏み入れたのですが……。
病室内を見て、私は思わず目を剥きましたわ。おっと、眼鏡が1.5センチほどずり落ちてしまいました。
部屋の中央に巨大なベッドがひとつ。そのベッドには、一糸まとわぬ女性が一人、大の字になって横たわっていました。
しかもその女性は、両手、両足、胴体と、ベッドの本体とフレームに、身動きのとれないように皮ひもで縛りつけられていたのです。
キャシー竹橋……先ほどビデオで見せられた女性に、間違いありませんわ。
彼女は、突然病室に現れた私と、もと子ちゃんのことを見て、ニヤニヤ笑っています。ビデオで見たような錯乱状態にはありませんが、何を考えているのかわかりません。
ひどい癖毛の、ウェーブのかかった髪は、漆黒にかがやき、高い鼻梁に、澄んだ瞳が印象的でした。
彼女の、身長180センチはあろうかという巨躯に、ぜい肉のいっさいついていない、鍛えられた全身の筋肉は、野生の獣を思わせました。
仰向けになっているにもかかわらず、まったく型崩れしない、まるで小山のような、ふたつの乳房が盛り上がって、呼吸をするたびに波打っています。
「……主任より、デカいっすねぇ」と、もと子ちゃん。
……何を言っているか、わかりませんわ。
そして、彼女のアンダーヘアは、黒々としたデルタをつくり、真正面から見ると、本来なら、下着にでも隠されて、ひっそりと息づいているはずの女性器が、すっかりあらわになっていました。
私、いくら保安上の緊急措置とはいえ、同性の方がこんなあられもない姿をさらしていることに、同情を禁じ得ませんでした。私は、シーツをたくし上げて、彼女の裸体を隠そうとしたのですが……。
「よけいな気づかいは無用だぜ。
ここは暑っ苦しいんでな。着せられた服は全部自分でひっちゃぶいちまったんだ」
しっかりした、しかし、多分に毒を含んだ口調でした。
コミュニケーションは可能なようですわ。
「キャシー竹橋さん、ですわね?」
彼女は、皮肉なうすら笑いを浮かべたまま、質問には答えませんでした。
「私は神保美紀……! あなたの担当医です」
彼女は、首を心持ち起こして、私のことを頭のてっぺんから、足のつま先までねめ回しました。
「なんでえ、またイキのいい若いオトコ差し入れてくれたのかと思ったのによ。女かよ……。くくくっ……」
確かに精神状態は安定しているようですが……問題は、ありそうですわね。
「ここでの待遇に何か不満がありまして?」
「不満と言われてもねえ……」
彼女はニヤニヤしながら、自分を縛めている皮ひもに目をやりました。
インフォームド・コンセントの観点からは、大いに問題ありですわね。
「昨日のオトコの医者よぉ、腰がくだけるまで抱いてやろうかと思ったのによ……」
本当に砕いていては世話がありませんわ。
「イイところでヘンな白髪頭のじいさんが現れて、あたしのことをふん縛っていきやがった。年寄りだと思って油断したな……」
水道橋先生のことですわ……。
「看護婦の嬢ちゃん、そんなところで震えてねえで、メシぐらい食わせてくれや……」
「こわい~~~~」
「心配ありませんわ。もと子ちゃん、キャシーさんに食事をさしあげてください」
といってもちろん、拘束を解くわけにはまいりませんわ。食事は看護婦のもと子ちゃんが、スプーンを使って食べさせてあげます。全半身のきかない患者にはよくある措置なのですが……。
お腹がすいていたのでしょうか、彼女はもと子ちゃんがさし出すスプーンに盛られた食事を、矢継ぎ早に食べ始めました。親鳥から餌をもらう雛鳥のように。
「食事に希望がありましたら、可能な範囲でかなえてさしあげられますわ」
キャシー竹橋はそれには答えず、黙々と食事を続けています。相変わらず、うすら笑いを浮かべて、私の方を時折ちらちらと盗み見ていますわ。
「なあ、看護婦の嬢ちゃん……。ちょっとだけほどいてくれねえか……? トイレに行きてえんだよ……。逃げたりしねえからよぉ」
「申し訳ありませんが、ほどいてさしあげるわけにはまいりませんわ。もと子ちゃん、わかっていますわね?」
このような場合、女性用の、受け口が大きめの尿器をあてがって、用を足していただくことになります。
「おいおい、これで済ませろってのか?」
「それで我慢していただくしかありませんわ。あなたの拘束は絶対に解かないようにと厳命されていますので……!」
キャシー竹橋は、恨めしそうな目で私のことを見つめていましたが、しかたがないと諦めたようです。
「まあいいけどな。あたしが自由になったら、借りは返させてもらうからな。え? 神保センセイ……」
私を脅しているつもりなのでしょうか。
「はい、どーじょ」
ぶっしゅわああああああああ!
透明のガラス製の尿器の中で、勢いよくしぶきが跳ねまわり、見る見るうちに尿器の底に、お小水がたまっていきます。たしかに、長い時間、トイレをがまんしていたようですわ。
大の字に横たわり、ベッドに縛りつけられたグラマラスな女性が、医師と看護婦とはいえ、他人が看視する中、大量に放尿する……。
その異様な光景に、私ともと子ちゃんは、呆然として息をのみました。
「ああ~~~気持ちいい~~~~」
キャシー竹橋はうっとりして、目を細めました。
そして、放尿が終わり、尿器が股間からはずされると、彼女は、何を思ったか、いくらか自由のきく腰を上下左右に振り、虚空に淫らなラインを描きはじめました。それとともに、彼女の陰部が……さらにその奥の部分が見え隠れして……。
イヤらしいですわ……。
私はとても正視できずに、視線をそらせたのですが……。
「べつに珍しいもんでもねえだろ? おめえにもついてんだろうがよ? なあ、女医さんよぉ……」
キャシー竹橋の言葉は、私の感情をいたく刺激しました……。
彼女は、なみなみとお小水で満たされた尿器を扱いかねている、もと子ちゃんの方に視線を向けて、
「嬢ちゃんよぉ。シビンの始末はおいといて、あたしのおマタを拭いてやってくれねえか。このまんまじゃションベン臭くなっちまう……」
「あう~~」
看護婦を嬢ちゃんよばわりするのも、いかがなものかと思うのですけれど……。
もと子ちゃんは、病室に備えつけのタオルを、彼女の股間にあてがいました。
「んっ……!」
キャシー竹橋が鼻にかかった息を漏らしましたので、もと子ちゃんは一瞬、手を引っ込めようとしたのですが……。
「や……やめるな……! う、後ろの方も、拭いてくれよぅ……」
無理な体勢で用足しをしたので、お小水のしぶきは、彼女の股間から太ももにかけてまで、ぐっしょりと濡らしていたようです。
しかたなしに、もと子ちゃんは、さらに念入りに彼女の股間を拭きにかかったのですが……。
「うめえじゃねえか、嬢ちゃん」
別にサービスをしているわけでは、ないと思うのですが……。
彼女ときたら、もと子ちゃんが手を動かすたびにおかしな声を出して……。
「あんっ……! ひっ……!」
「もっ……もういいですかぁ?」
「だ、だめさね……。まだ、こんなに濡れてる」
「でも……い、いくら拭いても、キリがないですぅ……」
「そんなこと言うなよ……。このままじゃ、気持ち悪いよぅ……」
もと子ちゃんは、顔を真っ赤にして作業を続けました。
「こ、これでいいのっ……?」
「いいっ……もっとぉ……!」
キャシー竹橋は、不自由な身体をよじって、甘い吐息をつきました。
自分から、女性器を、もと子ちゃんの手にこすりつけるようにして……。
「はあんっ……! ふうっ……!」
……な、な、な、なんてことですの……?! このイケナイ雰囲気!!
「も、もっと強く……拭いてぇっ……!」
そして、もと子ちゃんも言われるがままに、手を動かし続けるのです。病室の中に、普通とは違う、淫らで、猥雑な空気が満ち満ちていますわ。
私ともと子ちゃんは、その雰囲気にすっかり呑みこまれていました。
後にして思えば、私は異常に気づくのが遅れてしまっていたのです。
もと子ちゃんは、いつのまにかタオルを取り落とし、素手でキャシー竹橋の陰部を激しく愛撫していました。
「いいっ……! いひっ……! イイよぅっ! 嬢ちゃん!」
「あんっ! あんっ! きゃん! ひゃうっ!」
か……感応している?! もと子ちゃんは、キャシーが身体をのけぞらせ、波のような快感に耐えているのに反応して、自分で自分を慰めているかのように、喘ぎ始めたのです……!
「う、ふん……! あはぁっ……! お願いっ……ゆ……指、いれてぇっ……!」
「きゃうんっ……! ひゃんっ……! いやぁんっ……!」
もと子ちゃんの指が、キャシーの身体の中に入っていくのを、私は呆然と見つめていました。湿り気を帯びた、いやらしい音がして……もと子ちゃんも、自分の手の動きに合わせて、身体を揺すり始めました。
セ、セ、セ……セックスをしているみたいに……!
「い、いいよぉ~~~っ!! いっ、いっ、よぉ~~~~!! ああんっ……!」
「いいのぉっ……?! ひいんっ……! はあっ! やんっ!! やんっ……!」
キャシー竹橋の、女としては野太い、野性的な喘ぎ声と、もと子ちゃんの、幼女のような、可愛らしい声とが、お互いの絶頂を求めて、高まっていくのがわかりました……!
もと子ちゃんのナース服(ここでは淡いピンク色ですが)ごしに、彼女が全身を紅潮させ、興奮しているのが、ありありと見て取れるのです!
それでも、私は声をあげることができず、目をそらすこともできずに、お二人の行為にただ見入っているだけでした!
「もっと、めちゃくちゃにしてえぇっ……!」
「ふあっ……ふあいいっ……!」
信じられないことに、もと子ちゃんのもう一方の手は、やがて魅入られたかのように、キャシーの右腕を拘束している皮ひもに伸びて、まるでキャシーの意思が働いているかのように、留め金をはずしにかかったのです。
い、いけない!! 何してるの?! もと子ちゃん!!
「おっと! 動くな!」
キャシー竹橋の鋭い眼光の一瞥を受け、動くなと命じられた瞬間……!
何かしら?! うまく言い表せないのですけど、大きな手で、心をわしづかみにされたような感覚があって、私はその場で立ちすくんだまま、本当に動けなくなってしまったのです!
「???????」
キャシー竹橋は、自由になった手で、自らを拘束している皮ひもをすべてはずすと、ベッドからむくりと起き上がりました。
同時に、もと子ちゃんは、力尽きたかのように、その場にがっくりと崩れ落ちて……。
そして、キャシーは、私の方へと歩みを進めてきたのです。
立ち上がったキャシーの巨乳は、それはド迫力でしたわ……! 大股で彼女が歩くと、ぶるんと揺れて、それが私に迫ってくる……!
やられる!
私はそう思ったのですが、彼女は私には一瞥をくれただけで、悠然と傍らを通り過ぎ、出口の方へと向かいました。
逃げられてしまいますわ!
何とかしなければと、頭ではわかっているのですが、私は馬鹿みたいに突っ立ったまま、一歩もその場から動くことができません。
いけませんわ! このままでは!
私は、あらゆる雑念を振り払って、大脳中枢から全身にかけて、「動け!」という命令を出したのです。
「きゃあああああああああ―――――――っ!!」
……思わず大声を出してしまいましたわ。
すると急に、私を束縛していた力が解けました。私は床に膝をついて、前のめりに倒れそうになったのを、かろうじて踏みとどまりました。
全身が総毛立ち、息は荒く、冷や汗をかいていましたけれども、その時私は、なんとか助かったと思いました。手足も、どうやら普通に動かせるようですわ!
だけど、もと子ちゃんはと見ると、床にへたり込んだままぐったりとしていますわ。
危険な状態ではないでしょうか?!
「もと子ちゃ―――ん! も―――と―――こちゃ―――ん!!」
私はもと子ちゃんを助け起こして名前を呼びました……。
な、何だか変ですわ! イッてしまったような目をして……。口もとがだらしなく開いてるし……。あらやだ、この子、お漏らししてますわ。
き、気つけをしなくては……!
びんた!びんた!びんた!びんた!びんた!びんた!びんた!
「いて!いて!いて!いて!いて!」
どうやら気がついたようですわ。
「もと子ちゃん! あなた自分で歩けまして?!」
「ふにゅ~~」
私たちは部屋を飛び出して、キャシーが逃げ去った方角を確認いたしました。
長い廊下の突き当りを、全裸のキャシー竹橋が曲がり、走り去って行くのが見えました。
隔離病棟からは絶対に逃がすわけにはいきませんわ!
こういうときは、緊急のセキュリティシステムを作動させて、退路をふさぐのが有効ですわ!
私は白衣のポケットから、専用の無線電話を取り出すと、ピ・ポ・パ……とコントロール室を呼び出して……。
「こちらはIDコードSJ7301・神保美紀! 緊急指令ですわ! ゼロ号患者が逃走! ゼロ号室から、病棟外につながる第1、第3、および第5エリアの隔壁を大至急閉鎖! お願いいたしますわ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
大音響がして、何重もの隔壁が次々と閉じられていきますわ。
われながら、なんて手際のいい処理なんでしょう。これで、キャシー竹橋は、隔離病棟の外に絶対に出られませんわ!
「あ、あのぉ~~~、主任……」
「何ですの? もと子ちゃん、青い顔して」
「こ、ここは第1エリアですぅ~~~」
「それがどうかしましたの?!」
「だって、あたし達まだ、閉鎖区域から退避してないのに、隔壁閉鎖したら外に出られなくなりますよう……!」
げっ! そうでしたわ! でも……
「あ、あわてることはありませんわ……。閉鎖はあくまでも緊急措置ですから、安全を確認したのち、私達だけIDコードで必要な隔壁のシステムを解除して外に出ればいいんですわ」
「でも、主任はいま、無線電話使ってコントロール室にパーソナルIDかけたじゃないですかぁ……。ここの隔壁は内側からは絶対に電波なんか通しませんよぅ……」
「………………!!」
隔離病棟のセキュリティシステムでは、同一IDと、声紋を用いない限り、最低24時間は、コントロール室といえども、一度かけた緊急防御を解除するのは絶対不可能!
と、いうことは……。
オ――――ッ! ノオ――――ッ!!
私たち、閉じ込められてしまいましたわ~~~~~!!
それも超危険なゼロ号患者・キャシー竹橋が潜むエリアの内部に!!
――3――
「いま、16時20分ですわね」
隔壁を閉鎖してからすでに5時間がたとうとしていますわ。
あれから私たちは、自分たちが閉じ込められたエリア内を探索し、現在の状況を確認いたしました。
何重にも閉ざされている隔壁は、閉鎖エリアをいくつかに区切っており、どうやら私たち二人と、キャシー竹橋は、異なるブロックに閉じ込められたようですので、とりあえずホッとしているところなのですが。
「主任~~~、お腹減った~~~」
もと子ちゃん、食料が確保できない環境下で、食欲を今ここで満たすことは残念ながら不可能ですわ。
たかだか24時間の絶食、ダイエットだと思っていただくしかありませんわ。
「じゃあ、Hしたい~~~!」
……性欲もダメですわ。
それにしてもなんと慎みのない……。はぁ……。
年頃の女の子から、それも看護婦という聖職にある方から、このような破廉恥な言葉を聞こうとは、思いもしませんでしたわ。
現在の状況下で、空腹を訴えたり、性欲を処理したい云々という、本能的な衝動が、いかに非生産的なことか、よくよく認識していただきたいですわ。
「ふにゅ~~」
実は、もと子ちゃんの様子が変なのです。まあ、もともとおかしなところのあった子ですけれども……。
先刻、キャシー竹橋の強催眠で彼女の術中にはまりトランス状態におちいってから、心神喪失状態からはとりあえず脱したものの、性的に敏感な状態になっているのが、傍目にもありありと見て取れるのです。
息づかいが荒いですし、時々自分のナース服の股間を手でまさぐるようにして。
イヤらしいですわね。
まるで、盛りのついた雌猫ですわ……って、申し訳ありません、身もふたもない言い方ですわね。
照明も暗めの閉鎖エリアの中で、私ともと子ちゃんが二人っきり。
女どうしですから、だからどうだというわけでもないはずですのに、なぜか私身の危険を感じてしまって……。
そのようなことを言っている間にも、もと子ちゃんは、私に身体を密着させてきて、手を伸ばしてきますの。
「ひっ!」
ひ、ひ、人の敏感な部分に無遠慮に触ってきて、しかも本人は悪びれる様子もなく、ニコニコしてこちらを見ていますわ!
ふだんでしたら、思い切りどつき回してやるところですのに。
実は私も、大きな声では言えないのですけれど、キャシー竹橋に金縛り状態にされてからというもの、ヘンに感じやすくなってしまって……。はぁ……。
おマタをもじもじと、擦りあわさずにはいられないんです。下着が、うっすらと濡れてきているのがわかるんですの……。
あっ! もちろん、お漏らしなんかではありませんのよ! でも、は……恥ずかしいですわ……。
まさか自分で自分を慰めるわけにもまいりませんし……。だから、もと子ちゃんが身体をこすりつけて来ますのを、拒否しきれずにいますの。私、そんなはしたない女ではありませんのに……。
まさか、もと子ちゃんには気づかれていないと思いますけれど。
「主任もさっきから真っ赤ですよぅ。もじもじして、Hなこと考えているんじゃないですかぁ?」
気づかれていますわ……。
でも、ここは平常心でのぞまなければなりませんわ!
もと子ちゃん、少し緊迫感というものを持っていただけまして?!
「くすくすくすくす……」
なんですの、この子? 気持ちの悪い笑い方して。
「主任ってば……もしかして……処女でしょ?」
ぎくうっ!!
「くすくす、ほ~~ら、当たったぁ」
な、な、な、な、な、な……なにを脈絡のないことを!
そ、そ、そ、それも何の根拠もないことを!
「ねえねえ主任、ねえ主任ってばぁ」
もと子ちゃんたら、目をそらそうとしても、まるで家猫みたいに私にまつわりついて来て……。し、知りませんわ!
「主任はすぐに顔に出るから嘘はつけないですよぅ」
「もっ、もと子ちゃん! ちょっとそこにお座りなさい!」
「ふにゅう」
い、いけませんわ! つい動揺して眼鏡がずり落ちてしまいましたわ!
気を取り直しまして……。
「いいですか、もと子ちゃん。いま私たちは、一歩間違えれば命にかかわる状況にありますのよ! ここから脱出するまでは油断はできません! 緊急時に、冷静な態度でのぞめませんと、医療にかかわるものとして、失格ですわよ!」
「主任はバージン」
あ――もう、しつこいですわ!
もと子ちゃんは、外形年齢はせいぜい15歳ぐらいですけど、今まで多くの男性とお付き合いしてきて、決まった彼氏が何人も(?!)いることは、研究所内で知らない者はいませんわ。
でもでも、私だって恋愛経験がゼロだというわけではありませんわ。
「こ、こう見えましても私、高校生の頃、近隣の男子校の生徒さんとデートしたことが、ありましてよ」
スポーツマンで、けっこうカッコいい男性でした。私に、「好きだ」という、飾り気のないお手紙をくださったのですが……。
「でも、その男は、主任から離れていった……。『美紀さんは、偏差値が高すぎて、僕と一緒にいても、楽しくないだろう』と、言い残し……ってとこじゃないですかぁ? 主任」
「………………!」
きらい……ですわ。
もと子ちゃんの意地悪。しくしくしく……。
「主任、泣かないでくださいよぅ」
この子に、悪気はないんですけれど……。
「もと子ちゃんは、すぐ近くに愛しい人がいて、振り向いていただけないつらさがおわかりになりまして……?」
「ふにゅ……?」
ポカンとした顔をしていますわね。しょせん、もと子ちゃんにはわかっていただけないことと諦めていますわ。だいたいもと子ちゃんは……
「いやですよぅ、主任!」
バッチ――――――ン!(背中をどつき回す音)
痛いですわ!
「主任ってば、ぜんぜん気にする必要なんかないですよぅ。くすくすくす」
そ、そんな無意味にうれしそうな態度で迫られましても……!
「処女であることが値打ちでもないし、非処女であることが悪行でもありませんよぅ」
それはフォローになっていませんわ!!
「主任は美人だし、いい身体してるんだから、自信持っていいですよぅ。裸で男の胸にとび込む勇気さえあれば、どんな男でもイチコロですよぅ」
そんな、あなたがおススメする処世術が通用するほど世の中は甘くはありませんわ!
ひっ!
ま、また、そんなところを触ってきて……!
「どーせ、セキュリティが解除されるまではすることもないし、二人で快楽に身をまかせましょうよぅ、主任」
どうしてそうなるのですか?!
あなたはどうしてそう楽天的な生き方ができるのでしょう? 私は泣きたくなっているというのに。
あっ、そんなところに手を……。い、いけませんわ! もと子ちゃん……。
―――女医と看護婦が、女同士のみだらな行為に没頭するの図。ああ……。
その時のことです。
私たち二人は、どこからともなく聞こえてくる奇妙な物音に気がついたのです。
注意深くしていれば、もっと早く気がついたのかもしれませんが、それはドシン! ドシン! と、何かを激しく叩くような音です。
もちろん私ともと子ちゃんには、心当たりはありませんし、私たちのほかに、ここには誰もいないはず……。
私ともと子ちゃんは、お互いの目を見合わせました。
そして、音のする方向に目を向けたのです。コンクリート壁が天井と交わるあたりより、少し低い位置に通風孔が……。その縦30センチ、横80センチほどの四角い通風孔は、鋼製の格子でふさがれているのですが、音はその鉄格子を内側からドシン! ドシン! と、たたく音だったのです。
私は事態を把握して、青ざめました。通風孔―――閉鎖されたエリアの内部であっても、通風孔をたどれば、ブロック間の移動が可能かもしれません。
見る見るうちに、通風孔の鉄格子は、形をゆがめ、アメのようにひん曲がり、鉄鋲をはじき飛ばし、ガバッと大きな音がしてはずれると、床に落下しました。
ガラ――――――ン!
あとには鉄格子をけり落した足が、宙に浮いていました。すぐに、二本の、すらりと伸びたカモシカのような脚が通風孔からぶらさがり、続いて裸の下腹部があらわれ、お臍、胸と、するすると滑り落ちて来ると、ひらりと床に飛び降りて、着地しました。
あれだけの巨躯にもかかわらず、狭い通風孔を苦もなく潜り抜ける柔軟さは驚嘆に値するというべきでしょう。
猛獣の虎は、身体がギリギリ入るだけの狭い檻の中でも、容易に身体の向きを変えることができると聞いたことがありますわ。
「よう、久しぶりだな」
もちろん私たちの目の前に現れたのは、隔離病棟からの脱走を図る凶暴なゼロ号患者・キャシー竹橋でした。
――4――
おそらくここにたどり着くまでに、キャシー竹橋は、脱出を試みてそうとうな苦労をなさったはずです。しかし、そんなことはおくびにも出さずに、私たちの前に立ちはだかっています。圧倒的な威圧感をもって……。
彼女は、逃走した時の姿のまま、全裸でしたが、数時間前に病室で会った時とは、明らかに様子が違っていました。
肌の色つやには陰りが見えましたし、瞳はどんよりと曇り、生気を失っていました。
疲労だけではないはずです。何らかの禁断症状が表れているのでしょう。
しかし、変化はむしろ私たちの方が大きかったのです。
もと子ちゃんは、キャシーの姿を見たとたん、パニック状態におちいったのです。
「ひっ! ひええええええ!!」
恐怖? 確かにそれもあるでしょう。閉鎖された空間の中で、恐怖感が増幅されるのはよくあることですわ。
まして、キャシー竹橋を前にして、もと子ちゃんの怯えには無理からぬものがあるでしょう。
だけど、もと子ちゃんの恐怖表現には、度を過ぎたものがありました。
条件反射的な怯えというか、刷り込みとでもいうべき強烈なトラウマを、もと子ちゃんはキャシーから受けていたのでしょう。かわいそうに、腰をぬかして失禁してしまいました。
そして、もと子ちゃんは、まるで吸い寄せられるようにキャシー竹橋に捕えられました。
「嬢ちゃんの首、へし折られたくなかったら、おとなしく言うことをきくんだな、センセイ」
「助けてぇ――っ! 助けてぇ――っ! 主任、助けてぇ――っ!!」
「その子には何の罪もありませんわ。どうか放してあげてください。それにどの道、あなたは病棟の外に脱出はできませんわ」
キャシーはフフンと鼻で笑いました。
「おまえらは囚われの身のあたしの、そのまた籠の中の鳥ってわけだ。大きな口をきける立場かどうか、よく考えな!」
……17時30分、まだ18時間以上ありますわ。彼女の言うとおり逃げ場はありません。
私はもう、自分たちの運命を悟り、ただうなだれるしかありませんでした。
「さ~て、女医さん。さっきの診察のお礼でもさせてもらおうかな。とりあえず、服脱いで裸になんな!」
そ、それは……! 私は救いを求めるように彼女を見たのですが、キャシー竹橋の目は完全に本気でした。
「どうした、早くしな! さもねえと……」
キャシー竹橋が、後ろから羽交い絞めにしていたもと子ちゃんの、ナース服の前のあわせを、思い切り左右に引きちぎると、ボタンとともにブラジャーまでちぎれ飛んで、もと子ちゃんの小ぶりな乳房が飛び出しました。
「いや――――っ!!」
……ふにゅふにゅふにゅと、声にならない声をあげながら、もと子ちゃんは大粒の涙をぼろぼろとこぼしていました。
これ以上逆らうわけにはまいりませんわ……。
私が裸になれば、もと子ちゃんの身の安全は保障していただけますのですね?
私はすでに白衣をかなぐり捨てておりましたが、自らのブラウスのボタンに手をかけました。ひとつ、ふたつとボタンをはずす手が、ふるえてしまって……。
「お上品ぶってるんじゃねえ。さっさとしな」
ブラウスを脱ぎ捨てて、タイトスカートのジッパーをおろします。
同性の前でとはいえ、あられもない下着姿を人前でさらすことになろうとは……。
恥ずかしいですわ……。
「泣いてるんじゃねえよ。ほら、次いけ、次!」
ブラのホックをはずすと、急に締めつけのなくなった胸を、私は自分の両腕で抱きしめるようにいたしました。
「おら、手をどかしな! へえ、けっこういい乳してるじゃねえか。83のDってとこか?」
86のFですわ。ぐすん……。
「さあ、いよいよ大詰めだぜ。見物人が少ねえのが残念だが、気分出していってみな!」
やはりこれで許してくれるつもりはないようですわね……。
私は思い切って、最後のパンストを引きおろしました。
私は眼鏡以外、一糸もまとわない裸で、キャシー竹橋の前に立ちすくんでおりました。正直言って、彼女の超グラマラスな裸身に比べると、自分の裸は貧弱に思えてならなかったのですが……。
「こっちを向きな! 隠すんじゃねえぞ! 手を頭の後にまわせ!」
まるで囚人か何かのような扱いですのね。しかし、彼女の次の要求は、さらに過酷なものでした。
「どうれ、余興だ。そこで立ったままションベンしてみせな……!」
「えっ……! そ、そんなこと……」
「できねぇってのか? あたしにはやらせたくせによ」
「でも……でも……」
いくらおろおろしようと、哀れみを乞おうと、ムダなことでした。この閉鎖エリアの支配者は彼女でした。残酷な笑みを浮かべて、もと子ちゃんの首をひねる仕草を見せられれば、命令どおりにするしかありません。
こう……ですか……?
じゃあああああ~~~~~~~~!
黄色の生温かい液体が、太ももをつたって、勢いよく床に流れ落ちるのを、私は解放感と、絶望感をもって呆然とながめていました。
実をいいますと、私は先刻からおトイレを我慢していましたので、一気にお小水を出してしまうのが、キモチよくもあったのです。
でも、こ、こんなにたくさん出るなんて……。お願い、もう止まって……止まって……。
「ひゃははは! ざまあねえぜ! インテリの女医先生が、こともあろうに素っ裸で立小便とはな……!」
キャシーは、すでに失神しかけているもと子ちゃんを放り出すと、私の股間に無遠慮に手を伸ばしてきました。
「いっ、いや……です!」
「ふん、トシの割にゃキレイなもんだな」
「……あっ、イヤ、やめて……やめて……!」
私の哀願にもかかわらず、彼女は私の女性器への刺激をやめようとはしませんでした。
「おまえ……もしかして……?」
「………………」
彼女は、あの、意地悪い、人を小馬鹿にしたフフンという鼻にかかった笑いをみせて……
「なるほど、暗示にかかりにくいんで妙だと思ったんだが……。そうか、おめえ処女か?」
処女であることが、値打ちではありませんわ……。私は心の中で、どこかで聞いたような言葉をつぶやいていました。
「男を知らねえんじゃイマジネーションに欠けるのも無理ねえな……。
な~に、心配するな。あたしが一から教えてやるよ。ほれ、壁に手をついて尻出しな」
彼女は、私にくるりと後を向かせると、手近な壁面に両手をつかせ、彼女に向けてお尻を突き出させました。
「あたしなしでは生きられない身体にしてやるよ」
そう言うなり、彼女は私の背中からのしかかって来て、私を抱きすくめると、後から乱暴に乳房をわしづかみにしました。
それはまるで、以前いやらしい写真で見たことのある、男が女を後から、立ったままで犯す姿勢のようでした。
「いっ、痛いっ……!」
「悪く思うなよ。ここを脱出するのに人質がいるんでな」
キャシーの指、唇、腰は、私の全身の性感帯を刺激し始めました。女同士であるにもかかわらず、私はしだいに快楽にあえぎ始めたのです。女性であるキャシーに、なぜか巨大なペニスがついているようなイメージが、私の頭の中に生れました。
「いやっ! ああっ! んふっ! ひっ……! や、やめてぇ……!」
キャシーの責めは、激しく、巧みでした。殿方を知らない、私の肉体の、どこをどう責めれば、快感を引き出せるのか、ちゃんと知っている責め方でした。
あっ! やめて! 乳首をコリコリなさらないでぇ!
お○……ん……こを、×××しないで……!
「さっきから乳首はカチカチ、おツユはあふれっぱなしだぜ。イヤらしい女だな。センセイよ……!」
「そ、そんなこと、ありませんわ……!」
いくら言葉であらがってみても、生理的な反応を抑えることはできません。
これから何時間にもわたって、責めて責めて責め続けられれば、おそらく私は完全に自我を崩壊させて、彼女が言うような肉欲の奴隷となってしまうでしょう。そんな恐怖が頭をかすめたのですが、そんな時、水道橋先生のお顔が、浮かんできて……最後の一線だけは越えてはいけない、そんな気がしてきたのです。
「チッ! しぶとい女だ! こうなったら……」
ぞおっとするような、さむけを感じ、私は戦慄しました。
暗い闇の底に、私の身体が突き落とされて……得体の知れない浮遊感覚に包まれたかと思うと、周囲の闇が一瞬にして肉色に変色して、私に向かっていっせいに襲いかかってきました。
いやあああああ!
入ってこないで! 私の中に入ってこないで!
彼女は私に、精神的な干渉をかけてきたのです。
私の身体の、やわらかい部分を無理やりこじあけて、侵入してくる巨大な肉塊、触手のようなもの。
ピンク色のやわらかな肉が、分泌液で濡れ濡れになって、それ自体が意思を持つ生き物のように蠢いて、私の口、耳、鼻の穴……下半身の穴、毛穴という毛穴から、形を変えて繊毛運動のように入り込んでくる!
何ですの、これは~~~~~?!
今まで経験したこともないような快感と、嫌悪感が、波のように入れかわり立ちかわり、私を襲いました。
いやっ! いやっ! いやですわ~~~~~っ!!
……私はおどろおどろしい群生体に自分の肉体を貪られながら、冷たい触手と身体を擦り合わせて、しだいに精神を融合させていきました。すると、それまで見えていなかったものが見えてきたのです。
私にシンクロし、私を快楽と淫蕩の海へと引きずり込もうとする怪物の正体……。
それはキャシー竹橋自身のイメージだったのです。
彼女の肉体の、まるで野生のカモシカのような美しさ、気高さとは正反対の、醜く、冷たく、どろどろとした不安な物体……。
私の心に入り込み、私をコントロールしようと試みる彼女の心の、いまの姿は、なんて寂しく、哀しみに満ち満ちているのでしょう。
キャシーさん……何があなたを、追い詰めてしまいましたの……?
「何をそんなに怯えているのですか?」
「何だと?!」
私がふいに発した言葉に、彼女は一瞬とまどったようでした。
「あなたの心は、暗く、冷たい淵をさ迷っていますわね……」
「だ、黙れ! このヤブ医者!」
彼女の手に力が入りました。痛い……ですわ……!
どうやら彼女の逆鱗に触れてしまったようです。
「処女膜だけは勘弁してやろうかと思ったが、もう許せねぇ!! お前なんかに! お前なんかに! あたしのことがわかるものか!」
キャシー竹橋は、激高し、その狂気の刃を私に向けてきました。
完全に私の精神と肉体を征服する攻撃に出てきたのでしょう。
だめえええええ……!
舌なめずりをしながら、交尾を求めてくる無数の男根……。
私の、まだ男性を知らない体内に、どろどろとした精を放とうとする淫らな欲望……。
だめ……! だめぇ……。
キャシー竹橋のかけてきたマインド・レイプは、イメージを肉のかたまりとして実体化させて、私の女性器の粘膜質へと一気に這い登ってくる。
それでも、自分の意思とは関係なく、私の中の女としての本能が、感じてしまうのです……。
ああんっ! うふっ! んんっ! あはぁん! き、来て……! 来てぇ!
――5――
…………………………
どうしたのでしょう?
私の肉体をいままさに貫こうとしていた、無数の触手、欲望の炎が、なぜか突然勢いを失い、実体からただの幻覚へと逆戻りし、消滅していきました。
私の股間の柔肉を引き裂こうとしていた、キャシー竹橋の指の動きが、急にぎこちなくなったのを感じ、私はまるで夢から覚めるように陶酔と、嫌悪感の淵から引き戻されました。
ズシ――――ン
何の音でしょう? どこか遠くから聞こえてくる、地響きのような音は、幻聴ではありませんでした。
ズシ――――――ン
音は確実にこちらに近づいてきておりました。
そしてキャシー竹橋は、なぜか周囲を見回して、怯えた表情を見せました。
ズシ―――――――ン
地底から響いてくるような、重く、暗い音。それにつれて、周囲の壁や床が、ビリビリと震えました。
戦火……私はもちろん戦場に行ったことはありませんが、その時私の脳裏に浮かんだのは、炸裂する砲弾と、バラバラに飛び散る人間の肉体のイメージでした。兵士であったキャシー竹橋が体験した戦場での記憶を、私は共有していたのだと思います。
「ヒッ!!」
キャシー竹橋は恐怖の色をいっそう深めました。さっきまで倣岸としていた彼女が……。
私の身体を求める彼女の感触は、先程までの勝ち誇った支配者としてのそれではなく、恐怖に怯えた小さな子供が母親にしがみつくそれでした。
ズシ―――――――――――ン!
「いやだっ! 助けてっ!」
私は思わず、キャシー竹橋の裸の肩を抱き返していました。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
そして次の瞬間、信じられないことが起こったのです。
エリアを封鎖していた隔壁が、轟音とともに上昇し、開放されていきました。
壁の外からはまばゆい光がいっせいに射し込んできて、その光の中にこちらを向いて立ちはだかっている一人の男性のシルエット……。
水道橋正宗先生ですわ!!
私とキャシーは、その光景をあっけに取られながら見つめていたのですが……。
「現れやがったな! この糞じじい!!」
キャシー竹橋もそれが誰であるかを認識したようです。
突発的な怒りにかられた彼女は、私を放り出すと、野獣のような叫び声をあげながら、水道橋先生に向かって突進していきました。
危ない! 先生!!
その時、私には先生の眼が、強い光を放ったように見えました。
同時に、先生にまさに襲いかからんとしていたキャシーは、目に見えない縄にでもからめ取られたかのように、動きを止めました。
彼女はなおも、一歩、二歩と、大きな力に逆らうように、前へ進もうとしましたが、無駄な努力でした。先生は彼女に何をなされたのでしょう?! それはまさに、キャシーが私たちに使った強催眠のようでした。しかも、何倍も強力な……。
「ウアアァァァァァ―――――ッ!!」
獣のような叫び声をあげると、キャシー竹橋は、両膝をがっくりと床に落とし、両腕をだらりと下げた状態で、顔を空に向けるようにして、はあはあと大きく息をつきました。
病棟の照明に照らし出された、彼女のグラマラスな裸体は、うなじ、乳房、腹筋、手足、そして恥毛と、すべての影の部分を奪われて、まるで真っ白い彫像のように、キレイで、そしてたまらなくエロチックに私の目には映りました。
それが、私には哀しくて、切なくて、思わず涙ぐんでしまいまして……。
ごめんなさい! ごめんなさい! 先生、許してあげてください!
まるでスローモーションのように、彼女は前のめりに床に倒れこみ、今度こそ本当に動かなくなりました。
死んだ……のですか?! いえ、息をしております!
白服の男性職員たちがバラバラとエリア内に入ってくると、何やら口々にどなりながら、完全に動きを止めたキャシー竹橋と、失神した小川もと子ちゃんを担架に乗せて運び出していきました。
そしてそこには、私と、水道橋先生だけが残されたのです。
「……先生、なぜ? セキュリティシステムの解除には、まだ時間を必要とするはずでしたのに」
「外部からの物理的なダメージを受けることにより、中の人間に危険が及ぶと判断された場合、隔離病棟のセキュリティシステムは手動で解除可能になる」
そうでした……。でも、そのためには、病棟の外郭部分に多大な損壊を与えるほどの攻撃が必要では?
きな臭い匂いがたちこめ、離れたところで消化装置が作動し、非常ベルが鳴り続けていました。
水道橋先生はそれ以上何もおっしゃいませんでしたが、先生が隔壁閉鎖を解除するために何をなさったのか、私は理解いたしました。
私はその時、深い感謝とともに、先生の優しさに触れたいという思いで、いっぱいになったのです。
(裸で男の胸にとび込む勇気さえあれば、どんな男でもイチコロですよぅ……)
なぜかこんな時に、もと子ちゃんの言葉がフラッシュバックのように、私の頭の中に聞こえてきました。
私、何も身につけておりませんでした。このまま、裸で先生の胸に飛び込んで行けたら、どんなに……どんなに……。
「どうしたね? 神保君、顔が赤いぞ。熱でもあるのかね?」
「せんせい……私、身体がほてって……」
先生のお顔が、手を伸ばせばとどく、すぐ、そこに……。
「ガマンできませんの……抱いて……ください」
先生はその時、私の目をじっとお見つめになって……。吸い込まれるような、深い憂いと、強さを秘めた目。
先生は、ご自分の白衣をお脱ぎになると、それを裸の私に羽織らせてくださいました。
そして肩をつかんで、私の目をじっとご覧になり、
「神保くん、キャシー竹橋の病状について報告してくれたまえ」
それは医師としての冷静な、そして威厳に満ちた言葉でした。
一生に一度の勇気でしたのに……。
ただ、私にも、キャシー竹橋の症状について、思うところはあります。
先生にお伝えしなければならないことがあります。
「患者は、何者かによって、強力なマインド・コントロールをかけられていたものと思われます。彼女が多淫症の兆候を示したのは、性的な虐待が、マインド・コントロールのベースにあったからでしょう。さらに、薬物の常用による禁断症状が見受けられます。おそらくLSDか、それに類する幻覚剤……」
彼女を薬漬け、SEX漬けにしたのは、おそらく軍隊の……私はそう言いかけて、思わず口をつぐみました。言ってはいけないことのように、思われたからです。
「キャシー竹橋は、君と小川君に精神的な干渉をかけて、コントロールしようとしたようだが……?」
先生はすべてお見通しですね……。
「催眠術を使うようです。また、彼女の特殊能力の正体は、感応精神病の一形態かと思われます。
キャシー竹橋の精神病質が、閉鎖空間の中で、暗示にかかりやすかった小川さんや……私に伝わり、リアルな幻覚を見せたのでしょう……」
先生は、一瞬、深く考え込むようなそぶりをお見せになると、強い口調で、私にこう問いかけられました。
「直せるかね? 神保くん」
「直せます! 私が直してみせます!」
キャシーが、私の心の中に侵入を試みてきたとき、私は逆に彼女自身の中に、救いを求める、哀しい魂の存在を感じたのです。
そのことに本人は気づいていませんでしたが、彼女の過去の無惨な体験が、精神的外傷となり、発作的な精神病質の原因となっているのだとしたら、治療してさしあげるのが医師である私の務めだと信じます。
水道橋先生は、よし、わかったというように黙ってうなずかれると、くるりと背を向けて足早に歩み去っていかれました。
キャシー竹橋に関しては、すべてを私に任せていただけるということでしょうか。
ありがとうございます、先生。
でも、私、胸騒ぎがいたしますの。
今回の一件が、いずれ研究所のみんなの運命すら変えてしまうような、そんな予感が……。
だけど、たとえ、そうだとしても、後には退けませんですわ。
人間の命と、魂の救済のために、すべての叡智をあつめて全力を尽くす……。
それが超越医学研究所(HYPER MEDICAL LABO)の、使命なのですから。
教えてください、先生。私は、間違っていませんですよね?
< 終わり >