「へぇー、それは大変だったねー」
そう言って、目の前の女の子はオレンジジュースをストローで一口。
「ん……」
そううなって、あたしは手元のチョコパフェにスプーンを突き刺した。
今は夏休み、しかも今日は日曜日だけど、さすがにこのクソ暑いおやつ時ではそもそも外に出る気力のある人自体が少ないらしい。ガラガラというほどではないけど、ファミレスはかなり空いていた。
そんな中、窓際の「指定席」で、いつものようにくっちゃべってるあたし達二人。
「都ちゃん、それはちょっとまずかったと思うなぁ、涼くんかなり凹むと思うよー」
「やっぱり?」
長い髪の毛を揺らしながら、ちょっと間延びした声で私にアドバイスしているのは、京橋 流(きょうばし・ながれ)。あたしの昔からの親友で、結構おっとりしている。基本的にとってもいい子。基本的には。
ちなみに、「都ちゃん」というのはあたし小田島 都(おだじま・みやこ)のことで、「涼くん」というのは──
「さすがに、彼女を押し倒して突き飛ばされたんじゃねー」
「ちょっ……こらっ」
そう、「涼くん」というのは、あたしの彼氏である大沢 涼(おおさわ・りょう)のこと。
あたしと流、涼の三人は、同じ学校の2年生。涼とは前の学年で同じクラスになって知り合ったんだけど、その学年の修了式の日に、あたしは涼に告白されてつきあい始めた。
活発、というかガサツでどっちかっていうと男の子っぽいあたしとは対照的に、涼は料理とかが得意で、引っ込み思案。外見的にもちょっと女の子っぽい(見間違えるほどじゃないけど)。本人はそのことを少し気にしてるみたいだ。
ちなみに、涼は流とは中学校時代からのクラスメートで、比較的仲がいい。もっとも、どっちも恋愛感情ってわけじゃないはず。涼はあたしと付き合っているし、流にも彼氏がいる。以前、涼にそのことを聞いてみたら、「流さんは、彼女っていうよりは、双子のお姉さんって感じ」だって。何でそうなのか、あたしにはよくわかんないけど。
ってか、流の悪いところが出始めたぞ。
「流……そんな言い方ないだろ」
「えー? だって押し倒されたんでしょー?」
「そ……そうだけど……」
あたしは(多分)ほっぺを赤くしながら、何とか答える。
でも、まあ、そうなんだよなぁ……と思いつつ、あたしはもう一度昨日のことを思い出していた。
昨日の夜、涼の共働きの両親は、両方とも出張でいなかった。そんな状況で、涼に「都さん、土曜日、僕の家に来ない?」と誘われた。
──そんな状況で呼ばれたってことは、当然「そういうこと」だよね……
そう思って、あたしは緊張していた。いや、期待してた訳じゃないぞ、決して。たまたま新しく買った下着を着けていったりはしたけど。たまたまだよ。
で、家で涼の手作り料理(あたしにはできないよ……)をごちそうになったあと、涼の部屋に招かれた。部屋でテレビ観たり、夏休みが始まってすぐに行った遊園地のデートの話で盛り上がったりで、結構いい雰囲気になったんだけど……。
ええと、その、ベッドの上に一緒に寝っ転がった瞬間に、涼の歯とあたしの歯がぶつかったんだ。「痛っ」とあたしが言ったら、涼があわてちゃって、今度は涼の膝があたしのふくらはぎに「ごんっ」と強烈ヒット。それで、あたしは反射的に涼を蹴り上げちゃった。
涼は、あたしに完全に拒否されたと思いこんじゃったみたいで、あたしから「して」と言い出すわけにもいかず(ってか、したかった訳じゃないんだって)、結局勢いで「何すんだよ!」と叫んで、涼の家を飛び出しちゃったんだ……しかも、涼の家の門を開けっ放しで。
「でもさぁ、都ちゃんは涼くんとセックスしたかったんでしょー?」
「ぐふ……げほっ、げほっ」
流のそんなトンデモナイ一言で、あたしは現実に引き戻された。
うぇー、アイスが変なとこに入った。
「流! だからそういう変なこと言うな!」
「あはは、顔まっかー。都ちゃん、ウブだねぇ。それに、セックスは気持ちいいんだよー、変なことじゃないよ」
変なのはお前の脳みそじゃ! とは思ったけどとりあえず言わなかった。
流は、基本的にいい子なんだけど、こういうところだけは正直理解できない。流は自分の彼氏とやったこととかを、こんな風にあけすけな言葉で平気でしゃべるのだ。その内容も結構カゲキなのが多い。さらに、そういうことをした、ってことを流は明らかに喜んでいる。
一言で言えば、流はおしとやかなふりしてヘンタイなのだ。いや、別に悪口じゃないよ。流本人が「私はヘンタイだからー」って公言してるんだもん。
で、もっとタチが悪いのは、あたしがそういう話を苦手なのを知ってて、わざと「そういう言葉」を使って、あたしの反応を楽しんでるところ。こういうときは、いつものように柔らかい微笑みであたしを見るんだけど、よく見ると口の端が微妙にひくひく動いてるからわかる。サドだ。
「そーいう問題じゃないってば。ってか、そんな言い方して、木更津先輩に退かれたりしないの?」
「んーん、健くんは喜んでたよー、『そういうことをもっと平気で言ってくれる方が俺はソソる』とか言ってたー」
「木更津先輩」「健くん」っていうのは、木更津 健(きさらづ・けん)先輩のこと。流の彼氏で、涼の部活の一年先輩だ。あたしも何回か会ったことがある。眼鏡をかけている、(少なくとも外見は)いい男だ。
流と木更津先輩は付き合って1年。そういえば、元々流は「それ系」の話をよくしてたけど、(あたし基準で)決定的におかしくなったのは先輩とつきあい始めてからだった。
そーか。やっぱりあの人が元凶か。あたしの流を返せ。
「でさぁ、都ちゃんはどう思ってるのー? 涼くんとセックスしたいのー?」
「だ、だからそういう言い方……」
そう言いかけて、あたしは流に相談した本来の目的を思い出した。
数秒考えて、あたしは黙ってうなずく。
あー、見なくてもわかる。顔真っ赤だ、あたし。
「そっかー」
普段と変わらない口調で流は言う。でも、
ひくひく。
口の端が微妙に動いてますぜ、流さん。
サドが。
恨みがましいあたしの視線に気づいていたかどうかはわからないけど、流は少し考え込んで、あたしにこう切り出した。
「都ちゃん、ちょっと私に考えがあるんだけどー、試してみる?」
「え、本当?」
「んー。よければ、次の土曜日に、私の家に来てほしいんだけどー」
「……えと、なにするの?」
「まだ考えがまとまってるわけじゃないから、土曜日に話すよー」
「そぅ」
なんか微妙にイヤな予感がする……けど、ここは親友の流を信用しよう。
「あ、そういえば、涼くんには謝ったのー? 連絡取りづらいなら、私の方からメールしとくけどー」
「ああ、ん、ありがと」
うん、それはありがたい。さすがにあんな後じゃ、顔は合わせづらいし。「じゃ、決まりー」
そう言うと、流は「そろそろ帰るー」と立ち上がった。
「あれ、なんか用事?」
そう聞くあたしに、流が近づいてきて、あたしの耳元でこう答えた。
「健くんのお○んちんが欲しくなってきたから、おねだりしにいくのー」
「────流ぇ! てめえ!」
再び顔を真っ赤にして叫ぶあたしを後目に、流はいつもの笑顔でファミレスを出ていったのだった。
……あれ、ジュースの代金は?
(ん……やっぱり緊張するなあ)
涼の家に向かう途中、あたしはそんなことを考える。
昨日の夜、涼から「僕の家にまた来て欲しい」とお誘いがあった。もちろんあたしはOKした。
実は、涼から連絡があるまで、あたしは気まずくて涼と連絡が取れなかった。流からは「涼くん、怒ってないみたいだよー」と電話をもらったけど、やっぱり安心できなかった。といっても、今も安心してるわけじゃない。会ったところで、何を話せばいいかわからない。
でも、やっぱり会いたいし、でも気まずいだろうし。うーん、フクザツ。
そんなことを考えている間に、涼のマンションに到着。いつもより到着に時間がかかったのは、日曜ダイヤであることを忘れて某駅で乗り換えをしくじったからだ。おかげでクソ暑い中、駅のホームで10分以上待たされた。おかげで、シャツが汗びっしょり。ちなみに、下はジーンズだ。ショートカットのあたしには、スカートは似合わないと思っているので、基本的にズボン系しかはかない。……あたしって、男の子みたいだよなあ、って、そんなコンプレックスはどうでもいい。
ええと、302号室、と。あった。
こん、こん。
「はーい」
とは、涼の声……じゃない。女の子の声だ。ってか、この声は……
がちゃ
「待ってたよー」
「流!」
扉の向こうから顔を出したのは、流だった。
「ちょっ、何でこんなところに……」
「いーからいーからー、とりあえず中入ってー」
とまどうあたしの手を掴んで、流は強引に部屋の中に引っ張り込んだ。
なんだかよくわからないままスニーカーを脱ぎ、部屋に入ると、ベッドに涼が腰を掛けていた。
「ほらねー、ちゃんと来たでしょー」
「う、うん……」
「都ちゃん、もう完全にかかっちゃってるから、何でもできるよー」
「は、はぁ……」
状況が全然飲み込めてないあたしをよそに、流と涼が話している。もっとも、涼の返事もなんだかとまどってるみたいだけど。とりあえず、このまま放っておかれるのもしゃくなので、
「だから! こりゃどういうことなの! 何で流がここにいんだ!」
と怒鳴り気味に言ってみた。
その声にびっくりしたのは涼で、その涼の様子を見て、ゆっくりとあたしの方を振り返ったのが流。
「都ちゃん、『ラストカードは私に』」
すぅ──っ。
「都ちゃん、私の声が聞こえるー?」
「……うん、きこえる……」
「都ちゃん、これから命令するねー。都ちゃんは、私か涼くんに『都』って呼び捨てにされると、私たちの言ったことが本当になっちゃうし、質問にも素直に答えちゃうよー」
よびすて……いったことがほんとうに……すなおに……
「わかったー?」
「うん……」
「おっけー。じゃー、『ラストカードはあなたに』」
……あれ?
「流、今、何か……」
「都、涼くんのこと、すきー?」
「え……うん、すき……って、え!?」
最初は自分の言ったことがわからなくて、次に自分の言ったことに気づいて、その次に言ったことの内容の恥ずかしさに顔が真っ赤になった。
「ちょっ……な、な、な、何!?」
「あはは、大せいこー」
「流! いったい何なんだよ、これ!」
「まあまあ、都、とりあえず落ち着いてー、今から説明するからー」
流はそう言ってあたしをなだめ、涼の横に座らせた。
「健くんが、都ちゃんに催眠術をかけたのー」
「え……」
催眠術って、あの催眠術?
「都ちゃんが素直になれないから、私が健くんに頼んで、都ちゃんを操れるようにしてもらったのー」
……えぇっ!? 操れるようにって……そんなことできるのか!?
と、そこで、流が以前していた「それ系」の話の中に、催眠術がどうたら、とかいうのがあったのを思い出した。
「健くんは催眠術が得意なんだよー、私もかけてもらうのすきー」
そうか。木更津先輩が催眠術の使い手だったのか。知らなかった。
いや、でも、やっぱりまだ信じがたい。そんなことってあるんだろうか。
そんな感じで悩んでいるあたしに、
「都ちゃん、ここがどこだかわかるー?」
と、流が突然言い出した。
「え……どこって、涼の家……でしょ?」
うん、ここは涼の家だ。白い壁に、テレビとパソコン。大きいベッドに、鏡。間違いない。
なのに、
「あはははは」
何故か笑ってる流。横を見ると、涼が困ってるんだか、がっかりしてるんだか、それとも喜んでるんだかわからない複雑な表情であたしを見ている。
「じゃあ、種明かしー。都、ここは涼くんの家じゃないよ、ラブホテルだよー」
……。
「……へっ!?」
そう言われて、急に自分のいる場所がおかしいことに気づいた。涼の部屋はこんなに広くないし、テレビもこんなに大きくない。パソコンはあるけど型もレイアウトも全然違う。ベッドもこんなに大きくなかったし、鏡なんてなかった。
それ以前に、そもそも涼の家はマンションじゃなくて一軒家だ。先週、あたしは涼の家の門を蹴破って帰ってきたじゃないか。
ぼーぜんとするあたしに向かって、流が説明する。
「今日は、涼のお父さんもお母さんも、おうちにいるからねー。こっちに来てもらう方がいいって思ったのー。昨日のうちに、私が都ちゃんに暗示を埋めこんどいたんだよー。ね、これで信じてくれるー?」
こうなっちゃうと、あたしももう信じるしかない。
負けを認めるのがイヤなので、流の質問には答えずに突っ張ってみる。
「……そーかそーか。流はそんな手の込んだことをしてくれたんだ、って、え、昨日?」
はて? 昨日、あたし、流と話したっけ?
昨日のことを思い出そうとしてみると、あたしの頭の中から昨日の記憶がほとんどすっぽり抜け落ちていることに気づいた。
あたしが昨日のことを必死に思い出そうとしていると、流がにこっと笑う。あ、口の端がひくひくと……
「都、昨日のことを思い出すよー」
その瞬間、昨日のことが、あたしの脳裏に鮮やかによみがえった。
「先輩! いったい何なんですか、これ!」
「まあまあ、都、落ち着いて」
先輩があたしをなだめる。と、不思議と心が落ち着いた。って、呼び捨て? さっきまで先輩、あたしのことを「みゃこやん」って呼んでたはずなんだけど。
「とりあえず、どういうことだか説明してくださいよ」
「えーとね、今、みゃこやんに催眠術をかけたんだよ」
「へ? 催眠術って、あの催眠術?」
「そそ、他に催眠術があるか知らないけど、その催眠術。で、今のみゃこやんには、俺かりゅーがみゃこやんを呼び捨てにすると、みゃこやんが俺たちの指示に従う、っていう暗示がかかってる」
ちなみに、「りゅー」ってのは流のことだ。
「え、う、うそ……」
「都、スリーサイズはー?」
「……82,59,80……って、何を!」
思わず、右手で口を押さえる。
「じゃあ都、ブラジャーのサイズは?」
「……Bです……うぅ……」
……だめだ、抵抗できない……。
「ちなみにねー、都ちゃんはBカップって言ってもほとんどCなんだよー」
「じゃかしいわ流!」
ちなみに、スリーサイズを聞いたのは流、ブラのサイズを聞いたのは先輩だ。
ってか、恥ずかしい……男の人の前でこんなこと言わされるなんて……絶対、顔真っ赤っかだ。
「ね、わかったでしょ?」
先輩がにやっと笑う。なんかすごくムカツク。
「それはわかりましたから、何でこんなことしたんですか、先輩」
「決まってるでしょー、都ちゃんが涼くんとセックスできるようにするためだよー」
先輩を詰問したが、答えたのは流だった。
だから、そういう単語を使うなって!
「って、これでどういう風に……」
「まず、みゃこやんには大沢(涼のことだよ by 都)とセックスしてるところを想像してもらおうかな、みゃこやんは相当な恥ずかしがり屋みたいだから、そうした方が本番でも抵抗が少なくて済むでしょ」
「想像してもらうだけじゃなくてー、オナニーまでしてもらった方がいいんじゃないー? そっちの方が本番に近くなると思うよー」
「あ、りゅー、ナイスアイディア。それ採用」
「ちょ……何だよそれ! ってか、あたしを置いて話を進めるなぁ!」
あたしの想像を絶するようなことを勝手に相談されて、恥ずかしさといらだちでブチギレ寸前になったあたしが叫ぶ。
と、先輩があたしを見た。
「都、オナニーはしたことある?」
またそんなことを……
「く……あります……」
「都、どれくらいの頻度で?」
あ、これ言いたくない……
「……週に、2,3回くらい……」
「都ちゃん、結構いやらしいんだねー」
「お前に言われたかないわ!」
「都ー、どんなこと考えながらオナニーするのー?」
質問者が流に変わった。
言わなきゃ駄目なのね……
「……涼に、胸とか、触られるのを想像したりしてる……」
「おま○こ触られるところとか、想像するー? 都」
うわ……勘弁してよ……
「……うん、する……」
「都、じゃあ、なめられるところは?」
あ、また先輩に戻った……
「……1回だけ……」
「ふむ、じゃあ、都、大沢のおちんちんをおま○こに入れられるところは想像する?」
あたしって……
「……はい、します……」
「都ー、おちんちんって入れられるだけー? 動いたりするのー?」
やっぱり、流の言うとおり……
「……うん……動くとこ、想像する……」
「最後。都、オナニーの時、おま○こに指入れる?」
相当、いやらしいのかも……
「……はい、入れます……」
「いやー、みゃこやんって処女でしょ? その割に結構激しいよね」
「都ちゃん、涼くんが初カレだから、処女のはずだよー」
「流! 余計なこと言うな!」
「都ちゃんに言わせた方がよかったー?」
「ぐ……」
だめだ。こりゃ勝てない。
あたしは、完全にこの二人のドレイになっていることを悟った。
恥ずかしいことばっかり言わされて、もう恥ずかしがるのも疲れた。いや、今でもものすごく恥ずかしいけど。
でも……なぜか、あたしの心はあんまり嫌がってないような気がする。……多分気のせいだ。
そんな感じで、一人で勝手に敗北宣言していたせいで、あたしは先輩が近づいてきたのに気づかなかった。気づいたときには、あたしの頭が先輩の両手に抱えられ、腕で目隠しをされていた。先輩が、あたしの頭をぐるぐると回し始める。
「都、だんだん頭がぼーっとしてくるよー」
うわー、男の人に頭抱えられるのも結構恥ずかしい……
「ぼーっ」
今度はなにされるんだろ……
「ぼーっ」
なんかきもちいーなー……
「ぼーっ」
もーどーでもいーやー……
「はい、身体から力が抜ける」
かくん。
ねっころがった。
「都、俺の声聞こえる?」
きこえるー。
「……反応ないな」
「力抜け過ぎたんじゃないー?」
「そか。じゃ、答えられるようにしてあげよう。都、答えるときは声出せるよ。聞こえる?」
「……きこえるー」
「都、今から、大沢と……っと、今から、涼とセックスするところがリアルに想像できるよ、想像したい?」
「……したいー」
「じゃ、都、想像始めて。想像してると、だんだん本当にセックスしたくなってくるよ。でも、涼はお○んちんは入れてくれない」
あー、りょうだー。
キスしてー。
(ちゅ)
んー、キスきもちいー。
あ、りょうの手がふくの中に入ってきた…
(へぅっ……はぁん)
ちくびつねられたー
びくっとするー
(はぁっ……はぁっ……あぁん……)
(あぅ……あ…あぁぁん……)
(あぁ……あはあぁ……)
りょう、ちくびなめてるぅ……
すごく、きもちいいよぅ……
(ぴくっ、ぴくっ)
あぅ……りょうがちくびかんだぁ……
うぅー、りょう、あそこもさわってよー
ジーンズぬがせて……
した、ショーツだけになっちゃったー
あ……りょうのゆびが……
「はぁん」
(ぴくっ)
き、きもちいー
もっとさわってー
「ぁ……はぁっ……」
りょうが、あそこなでなでしてるー
あったかーい、きもちいー
「あぁ……ゃ……はぅん」
ねー、そろそろ、ちょくせつさわってほしーなー。
ショーツずらしてー。とがってるところなでてよー。
「はぁぁぁん、……いぃ…」
(びくびくぅ)
そこそこー。
いっぱいしてー。中もさわってぇ。
「あうっ、いっ、はぁっ、あぁぁぁ」
だめー、ほしくなってきちゃったよぅ……
りょう、ほしいよー。
いれてー……
「はぁああん、やぁん、あぅ、はぁっ……」
「どう、いいと思う?」
「うん、そうだねー。都ちゃん、腰動いてるし、してほしそうだよー」
「よし、そろそろいいか」
「都、どう? セックスしたくなってきた?」
「……うん、したいー」
「でも、今日は涼はそこまではしてくれないみたいだから、代わりにオナニーしようか」
「……やだー、りょうとしたいー」
「今日は涼具合悪いんだって、だからオナニーで我慢しよ」
「……やだぁ、りょうとじゃなきゃやだぁ」
「……しょうがない、じゃあ都、今からここでオナ「それはだめー」
「……りゅー?」
「それはだめー。都ちゃんは女の子なの、いくらなんでも涼くんより先に健くんにオナニー見せるのはだめよー」
「おい、みゃこやんにオナニーさせろって言ったのはお前だろうが。……でもまあ、りゅーの言うとおりだな」
「あとは、私に任せてー」
「都、ちょっとずつ頭がはっきりしてくるよー、でも身体はうずいたまんまだよー」
(ぐーる、ぐーる)
りょうー……
(ぐーる、ぐーる)
はぁ、りょうとしたいよー……
(ぐーる、ぐーる)
ダメ……からだがあつくてたまんない……
(ぐーる、ぐーる)
催眠って、すごいんだなぁ……
流が、先輩と同じようにあたしの頭をぐるぐる回すと、あたしの思考は戻ってきた。
「都ちゃん、大丈夫ー?」
「……ん、なんとか……」
「よかったー。で、どおー? もっと気持ちよくなりたいー?」
こくん。あたしはためらいなくうなずいた。
涼とのリアルなやつを想像させられたせいで、あたしの身体はいつも一人でしてるとき以上に熱くなっている。このままではとても我慢できない。
「でもー、ここには健くんがいるから、お手洗い行こー。つかまってー」
は、そうだった。先輩がいたんだ。
先輩のそばであんな恥ずかしい妄想してたのかと思うと……あ、また顔真っ赤だ、あたし。
でも、とりあえず流はトイレに連れてってくれるらしい。いくら何でも、彼氏でもない男の人の前で、一人でするなんて無理。女の子として、生きて帰ってこられなくなる。
やっぱり女の子同士、あたしの気持ちをわかってくれてるんだなあ、と思った。
……のもつかの間。
流に肩を貸してもらい、一緒に部屋を出たと同時に、流はあたしにこう耳打ちした。
「都、一歩ずつ歩くごとに、どんどんオナニーしたくなるよー」
とん。(←足を床につけた音)
「はぁん!」
やっぱり、流は悪魔だった。
「はぁん! ああん! やぁん!」
したい! したい! あそこ触りたい!
一歩一歩足を地面につくごとに、激しい衝動が足の裏からズゥン、ズゥンと響いてくる。
流の家は、さっきも言ったけどかなり大きい。それでも、流の部屋からトイレまでは、普通ならどんなに多目に見積もっても三十歩だ。
その三十歩が、長い。
「都ちゃん、大丈夫ー?」
「だ、ああっ! 誰のせい、あん、だと、ひっ! 思ってるん、ん! だ! かはっ!」
やばい。気持ちよくなりたくてたまらない。油断すると、このまま座り込んで、あそこ触り出しちゃいそうだ。
触りたいよぉ……だめ、絶対、トイレまで、がまん、しなくちゃ……あぁ……きもちよくなりたい……
「都ちゃんがオナニー我慢してる顔、やらしーよー。涼くんに見せてあげたいー」
「おまっ! はぁっ! あとで、ん! 絶対、やぁぁっ! どつくっ! いあぁっ! あっ! だめっ! あそこぉおおっ! こすりたいよぉおぉ!」
もう、自分でも何言ってるんだかわからない。なんかやばいこと口走った気もするけど、そんなことを気にする余裕は今のあたしにはない。
(がちゃっ)
「ん! はっ! やぁっ!」
最後の力を振り絞って、あたしは洋式便器に座り込んだ。もう、我慢できない。座ると同時に、あたしはジーンズとショーツをひん剥くように脱ぎ始めた。
はぅっ、ジーンズが太股にこすれるだけできもちいい。
ショーツが破れそうになるのもかまわず、膝まで服を降ろして、いきなりあそこをさわる。確認するまでもなく、ショーツはドロドロだった。
「あああぁぁ…………んん」
いきなり大きな声が出て、その後は何とか押さえ込んだ。ドアの向こうには流がいるはずだし、音楽好きな流のために防音設備になってるとはいえ、向こうの部屋には先輩もいる。目一杯声を上げたい衝動をギリギリでこらえて、あたしは「性欲の発散」を続ける。
「あぁ……すご……涼、気持ちいいよ……あんっ……やぁっ」
どうしても涼に触られているところを想像してしまう。さっきの催眠もあって、あたしは涼にしてもらいたくてたまらなかった。
……ぁぁん、涼、あたしを襲ってよぉ……涼と、したいよぉ……
「ふあぁぁ……! 涼! 涼! あぁぁん! りょぉぉおああん……」
あそこの中にゆびがはいって、同時にあそこの上のでっぱりを押しつぶしたとたん、あたしの理性がとんで、なにもかんがえられなくなった。もう、なんでこえをがまんしようとしているのかもわからない。処女膜をやぶらないようにきをつけながら、ひたすらゆびをだしいれする。
あぁ、きもちいい、もうダメ。あたし、いっちゃう。いっちゃう。いくぅ。
「都ー」
ながれのこえ。よびすて。
「オナニーの声が、全然我慢できなくなるよー」
「ああああああああぁぁっ! やあああぁぁっっ! だめええぇぇぇ! りょおおおぉぉぉ! あたし! いっちゃう! いく! いくぅ! あああああああああああああぁぁっぁぁっぁぁっぁぁっぁあああああああ!!!!!」
びくびくびく、びくぅっ。
「はぁ……ん、きもち、よかった……」
あたしは、今まで感じたことのないしあわせを感じて、そのまま、気を失った──。
「……」
(……)
「… … … … … … … …」
(都さん、どうしたの?)
(多分、昨日のこと思い出して、固まってるんだとおもうよー)
ひそひそ。
「… … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … …」
(都さんに、何したの……)
(聞きたいー?)
(…………いい、今はやめとく)
(あ、今迷ったでしょー。じゃああとでねー)
「… … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … …流ええええぇぇぇぇ!!!」
「あー、都ちゃんやっと戻ってきたー」
昨日の出来事のあまりの非常識さに、あたしは思いだしてからたっぷり1分以上硬直してしまった。そのあたしを見て、流と涼がなにやらこそこそ話をしていたみたいだ。
「てっめぇ! 昨日のがどういうことだか、説明してもらおうじゃねえか!」
「都ちゃんー、そんなに怒っちゃダメよー」
「まあまあ、都さん」
二人になだめられたが、爆発したあたしの怒りは収まらなかった。
「私は、都ちゃんのことを思って頑張っただけだよー」
「うそつけ! お前、最後、あたしの身体で遊んでただけじゃねえか! 絶対面白がってただろ!」
「都、黙って。あたしの話を聞いて」
ぐっ。
流らしからぬ口調でそう言われて、あたしは動けなくなった。
催眠が発動したのもあるけど、流が滅多に見せない厳しい顔を見せたことに、あたしが気圧されたからでもある。
でも、流はすぐに、いつもの笑顔に戻った。
「順番に説明するから、ちゃんと聞いてねー。
昨日も言ったけどね、先週の日曜日に都ちゃんに頼まれて、私、どうすればいいかいろいろ考えたのー。
都ちゃん、涼くんともう5ヶ月も付き合ってるんだし、やっぱり普通にやってもうまくいくとは思えないよー。
だから、少し手荒だけど、催眠術を使って、都ちゃんと涼くんがセックスできるようにした方がいいって思ったのー。
都ちゃんはすごい恥ずかしがり屋さんだから、少しくらい無理矢理しないと、うまくいかないよー」
そ、そんなこと……と言いたいところだけど、流の指摘が思いっきり当たってるように思えて、反論できなかった。そもそも催眠がかかってるからしゃべれない、と気づいたのはその一瞬あと。
「だから、健くんに頼んで、都ちゃんに催眠をかけてもらって、ここまで準備したんだよー。
都ちゃんだって、涼くんとセックスしたいんでしょー。先週も、昨日も、そう言ってたじゃないー」
ぐ……昨日言ったかはあんまりよく覚えてないけど、先週は言った。確かに、あたしは涼と……そういうことがしたい。
「涼くんだって、したいでしょー?」
「えっ」
流が涼の方を見る。釣られて、あたしも涼の方を向いた。涼は、いきなり話を振られてびっくりしていたけど、せわしなく目玉を動かしたあと、意を決したようにあたしの方を見つめて、
「都さん……僕は、都さんを、襲いたい」
と言った。
お、襲いたいって……。
かあぁぁぁぁっ
その言葉の恥ずかしさに、あたしは真っ赤になる。そう言った涼も、顔が真っ赤だ。
ヤバイ、心臓がドキドキする。
「どうする? 都ちゃん」
あたしの決断を促すように、流が問いかける。
あたしはしばらく考えて、耳まで真っ赤になってうつむきながら、やっとの思いでうなずいた。
「よし、けってー。あ、都、もうしゃべっていいよー」
「で、昨日あたしの身体で遊んだことについては、どう説明してくれんの?」
流が一瞬固まった。よし、ナイスそっこー切り返し。
「……何したら都ちゃんが喜ぶか、涼くんに教えようと思ったのー」
「うそつけ!!」
「ちょっと待った! 僕は何も聞いてないぞ!」
あたしと一緒に、涼も流に猛突っ込み。流石にどうしようもなくなったみたいで、流はついに
「……ごめんなさーい」
と言って、頭を下げた。
「……うむ、よろしい」
あんまりよろしくないけど、とりあえずいいことにする。強引だけど、ここまでお膳立てしてくれたのは流だから。まあちょっとあたしの方が大盤振る舞いしすぎのような気がするけど。どう精算するかは後で考える。
「都さん」
「ん?」
「シャワー浴びてきたら?」
あ、そうだ。
真夏なのに駅でずっと待たされて、汗びっしょりになった。だから、このまましちゃうわけにはいかない。
「じゃ、シャワー浴びてくる……」
「シャワー」という単語にまた赤くなりながら、あたしは立ち上がる。
「都ちゃん」
「ん?」
あ、そういえばそういうことするなら流を追い出さ「『ラストカードは私に』」
ないと……と思いながら、あたしの意識は闇に落とされた。
(がらがら)
(あー気持ちよかった)
涼を待たせるのも悪いから、あたしは気持ちを落ち着けつつ、急いでシャワーを浴びた。ラブホテルってよく知らないけど、想像していたよりは広いお風呂だった。今のあたしは、身体にタオルを巻いて、お風呂からちょうど出てきたところ。あたしは髪が短いから、髪の毛をあんまり気にしなくていいのは幸いだ。
(さて……いよいよなんだな)
そんなことを思って、ついつい緊張してしまう。
体をよく拭いて、タオルを元の位置に戻し、服を着ようと思ったところで、
(あれ……?)
洗面台のところに、小さい紙袋があるのに気づいた。
(なんだろ)
中を見てみると、中には新品の下着がワンセット。
色は「純白」という言葉が似合いそうなくらいの真っ白で、よく見なくても上下ともにフリフリがついてる。かわいい。
うあ……あたしには似合わなさそう……と思ってしまった。あたしは自分を「男の子みたいだ」って思ってるから、こういった下着をつけたことがない。
だけど……
そこでふと気づいてしまった。あたしはここに来るまでに汗だくになったから、下着(ちなみに黄色)は汗で汚れているはず。ただでさえ一度つけた下着を着るのはイヤなのに、そんな下着を涼に見られて、そーいうことをされるのは……でも、この下着はちょっと恥ずかしいし……
うーん………………
……しょうがない。何故これがここにあるのかよくわかんないけど、白い下着を着けよう。
よいしょっと。
まずショーツを履いて、次にブラを着ける。これはフロントホックだから、いつもと勝手が違う。ちなみに、サイズを確認したら、一つ大きいCカップだった。でもまあ、着けられないことはない。流が昨日言っていたように、あたしの胸はCカップに近いのだ。
よし。OK。
その流れで、思わず鏡を見る。
うっわー、恥ずかしい……というか、これは照れる……
フリフリな下着を着けてるあたしって、なんか変な感じ……
おっと、こんなところでとまどってる場合じゃない。
さっさと出ないと……さっさと……って、さっさと出ていいんだろうか。
そんなことを思いつつジーンズを履く。靴下は……いいや。部屋の中だし。あとはシャツを……
「あれ?」
着ようと思って、異変に気づく。なんだか、すごくシャツを着てはいけないような気がするのだ。
あれ、何でだろ……と考えて、思い当たった。
あたし、汗かいたからって下着替えたのに、シャツ替えないんじゃ意味ないじゃん。
でも、何故か置いてあった下着と違って、替わりになりそうなシャツはない。かといって、汗だくになったシャツを着たんじゃ、お風呂に入った意味が……
……今の格好のまんま、部屋に行ってみようか?
ふと、ジーンズに上半身ブラジャーだけの格好で、涼のいる部屋に行くことを考えてしまった。
瞬間、あたしの顔がまた「かあぁぁぁっ」と真っ赤になる。
あ、あたし、何考えてるんだろ……
ちょっとパニックになりながら、でも着てきたシャツはもう着たくなくて、でも替わりはなくて、どうしようもなくなって立ちつくしてしまった。
と、
(ぱたぱた)
「都ちゃーん」
「わ! 流!」
「あ、やっぱりもう出てたー」
「あ、あの……」
「あはは、やっぱりそのブラ、都ちゃんに似合ってるよー」
「あ! いや、これは……ん?」
やっぱり?
「そのブラねー、涼くんが選んだんだよー。
おととい、あたしと一緒にランジェリーショップに行って、選んできたのー。
催眠つかっちゃったけど、都ちゃんに着てもらえてよかったー」
「……流ええぇぇぇぇ!???」
思わず怒鳴ろうとして、流に腕を引っ張られる。
「ほら、涼くんのところに行こー」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って、まだあたし、シャツ着てない……」
「えへへー、都ちゃん、シャツ着れなかったでしょー?
それも、あたしが催眠かけたんだよー」
「な……! なんで!」
「だってー、その格好の方が、涼くんにすぐ下着姿見せられるでしょー」
うそだ。口の端がひくひくしてる。
絶対、あたしが恥ずかしがるのを見たいからだ。
「さー、行こー」
「や、ちょっと……」
精一杯抵抗するあたし。でも、
「しょーがないなー、都、涼くんのところに行くよー」
「……うん……」
流に呼び捨てにされたら、やっぱり逆らえなかった。
「都さん……」
「……ぃやぁ……」
流によって、涼の前に引きずり出されたあたし。
まだベッドに座ってる涼の目の前に立たされて、流はあたしから離れた。即座に、両腕でブラとお腹を隠す。普段はへそ出しなんかしないし、太ってるから(全然そんなことないよー by 流)お腹を見られるのもとっても恥ずかしい。でも、
「都、身体隠しちゃダメよー」
と流に命じられて、あたしの手は垂れ下がってしまった。
今日何度目か、顔を真っ赤っかにしてあたしは下を向く。ブラとおへそが見えた。それを見て、また恥ずかしくなる。もうしょうがないから、開き直って顔を上げた。目の前に、いつの間にか立ち上がった涼の顔。
「かわいいよねー」
流が涼の方を向いて、確かめるように言う。
「うん……かわいい」
涼は、あたしの方を見て、赤くなりながらもはっきりとそう答えた。
「あ……ありがと」
誉められたので、とりあえずお礼を言っておく。
「涼くんがねえ、都ちゃんがあんまりおしゃれしないから、かわいいのがいいって言ってたよー。
都ちゃんも女の子なんだから、もっとおしゃれしなきゃー」
おしゃれって言っても、あたし、男の子みたいだし……と思いつつ、涼が誉めてくれるならやってもいいかな、なんて考えてしまう。
そのせいで、あたしは涼が近づいてきていることに気づかなかった。気づいたときには、涼の手があたしの背中に回っていた。
ぎゅっ。
あ……きもちいぃ……
涼に抱きつかれると、密着しているところから何とも言えない快感が伝わってくる。
あたしは涼に抱きしめられるのがすきだ。恥ずかしいから言わないけど。
「あー、都ちゃん顔がとろけてるー」
あ、流がいたのを忘れてた。
「流……取り込み中だから、部屋から出てくれない?」
「取り込み中って、何がー?」
くっ……わかってるくせに。
「涼、あんたも何か言いなよ」
「え。……あー、そのー」
流を追い出してくれると思いきや、何故か口ごもる涼。
何で! と思ってると、流が「助け船」を出した。
「ここのホテル代、私が出したのー」
「……」
あー、そういうことか。
つまり、涼は流にお金を出してもらったから、強く出られないってわけだ。
……ある意味、催眠で操られてるあたしより惨めじゃないかい? 涼クン。
「で、でも、流石にこれ以上のを見られるのは、あたしも恥ずかしいし……」
「ってことは、恥ずかしくなければいいのね?」
「え、いや、そういうわけじゃ「都、私に見られるのが、全然気にならなくなるよー」
うわ、卑怯……恥ずかしいのに……恥ずかしいはずなのに……何が恥ずかしいんだっけ?
……だめだ、流に見られるのが恥ずかしいと思ってたはずなのに、今は何で恥ずかしいのかが全然わからない。
流が催眠かけたんだから、絶対恥ずかしいことのはずなんだけどなー。
……まあ、いいや、これ以上考えてもわかりそうにない。諦めよう。
すぱっと切り替え(たことにし)て、涼の方に顔を向ける。
涼は何か複雑そうな顔をしていたけど、あたしの顔を見て気を取り直したみたいだ。涼の顔が近づいてきて、そのまま唇を重ねる。
「ん……」
しばらくすると、涼の舌があたしの唇を叩いた。その意味に気づいて、あたしは涼の舌を受け入れた。
「ん……んふ……」
涼の舌が、あたしの舌をとらえる。ちょっととまどいながら、あたしも応えた。
「ふぅ……ん、ぅ……ふ、んん……」
ぴちゅ。
あたし達の唇から、たまにそんな恥ずかしい音が聞こえる。涼もこういうのは慣れてないみたいで(涼も初めて……なんだと思う、多分)、「ど素人」のあたしでもぎこちないのがわかる。でも、まあ、こういうのは気分の問題だし。
「ん……ふ……んあ……」
唇が離れた。
あはは、涼、顔真っ赤だ。
多分、あたしもだけど。
「都さん」
涼があたしに言う。
その意味はすぐにわかったし、心の準備もできているつもりなんだけど、思ったように足が動かない。
「え、えと……いいんだけど……まだちょっと心の準備が……」
……あたし、この期に及んで尻込みしてんのかい。
あたしは涼に向けて苦笑するが、涼は真剣な顔を崩さない。
次の瞬間、涼の目が、決意に満ちたものに変わった。
あ……
そうか。あたし……
「都」
涼の「それ」を、待ってたんだ……
「エッチしよう。ベッドにおいで」
「……うん」
ぞく……っ
あたしの背中に、「何か」が走った。
とさっ。
涼に導かれて、あたしはベッドに寝っ転がる。
涼はすぐに襲ってくるかと思ったけど、涼はその前に服を脱ぎ始めた。
ゆっくりと、気持ちを落ち着けるようにして、涼はシャツのボタンを外していく。
そして、涼はシャツを脱ぎ捨てた。涼はこれでも(失礼)運動部に所属していて、身体はなかなか引き締まっている。
そう思った瞬間、涼はゆっくりと、あたしの上に覆い被さってきた。
ぎゅぅ……っ
涼は、またあたしを抱きしめる。
さっきとはまた違う、明らかな快感があたしの前身を駆けめぐった。
うわぁ……、裸で抱き合うのって、こんなに気持ちいいんだ……。
あたしの肌と涼の肌がぴったりと密着して、微弱な電流が流れるような感覚がある。
反射的に、ずっと抱きついていたい、と思ってしまった。あたしが上半身に唯一着けているブラが邪魔に思えてくる。
あたしとまたディープキスをしたあと、涼の唇が向かったのは、
「へぅっ」
あたしの耳だった。
ちゅぱっ……ちゅっ……
「あぁ……はぁぁ……」
すごい。きもちいい。思わず身体が「ぴくっ、ぴくっ」と動いてしまう。
今まで、流に冗談で耳を噛まれたことはあったけど、耳がこんなに感じるとは思わなかった。
感じる……そうだ、あたし、感じてる……あえいでるんだ……
改めてそう気づいてしまって、あたしはますます顔を赤くする。
「ぁ……」
そんなことを考えている間に、涼の手があたしの胸をブラの上から触っていた。ちょっと怖がっているのか、慎重に、ゆっくりとなで回す。
「あぁ……はぅっ……んん……はぁ、はぁ……ふぅ……」
胸のあたりがどうにも切なくなってきた頃、涼が胸の谷間に手をかけた。ブラのフロントホックがぱちんと外れ、あたしの胸があらわになる。
「はぁっ!」
涼が、あたしの乳首にいきなり吸い付いた。
あたしの乳首は、涼の愛撫を期待して、もう固く尖っている。
「はぁぁぁっ……ああぁぁん、涼、きもちいい……そこ、もっと……」
思わず、そんなおねだりをしてしまう。恥ずかしさを感じる感覚が、だんだん麻痺してきている。
「はぁああぁぁん!」
涼に乳首を吸われて、大きなあえぎ声を出してしまった。
「気持ちいい?」
涼に聞かれて、
「うん、きもちいい……」
オウム返し。
涼に胸を愛撫されていると、だんだん下半身が熱くなってきて、股間がむずむずしてくる。
最初は違和感程度だったそれは、今では明確に「触って」と叫んでいた。
「涼……」
「ん?」
恥ずかしさをこらえて、あたしは涼に告げた。
「お願い……」
そう言って、涼の手を掴み、下の方に引っ張る。
涼もそれでわかってくれたらしく、あたしのジーンズのボタンに手を伸ばした。
「うわぁ……すごい」
涼が、あたしのショーツを見て、そう感想を漏らす。
「やだ……見ないで、恥ずかしい……」
無駄だとわかりつつ、そんな抗議をしてみる。
ショーツの状態は、見なくてもわかる。多分、あたしのいやらしい液体がかなり染みているはずだ。今履いているショーツは白だから、なおさら目立つはず。
「触るよ……」
そう宣告して、涼はあたしのショーツの染みに手を伸ばす。
「あん!」
そこを涼の手がぎゅっと押した瞬間、あたしの前身の筋肉が一斉に反応した。
「やっ……すご……んん……ああ!」
普段から自分で触ってはいるけれど、他の人、ましてや涼に触られるのは初めてだ。感じるというより、身体が驚いている。
「りょ、涼! もうちょっと、優しく……!」
「あ、ごめん」
そう言って涼は一旦手を離し、改めてそこに触れてくる。
「ん……ふぅ……」
気持ちいい。気持ちいいんだけど、今度はちょっと弱すぎる気がする。最初は快感を感じていたけれど、だんだんじれったくなってきた。わがままな身体だ。
それを知ってか知らずか、
「都……ショーツ脱がすよ」
涼が言う。呼び捨てにされているから、抵抗できない。する気もないけど。
するする、とあたしのショーツが脱がされ、あたしは全裸になった。
「ちょっと待ってて」
そう断って涼は、かちゃかちゃ、と音を立てる。どうやら、あたしが裸になったのに合わせて、涼も服を脱ぐらしい。
ちょっと手間取りながら、涼はスラックスとトランクスを脱いだ。
「わ……っ!」
涼の股間にあるものが一瞬見えて、あたしは思わず声を上げた。
もう完全に固くなって、脈打っている。
あれがあたしの中に入るの……?
「ひゃん!」
あたしが混乱しているうちに、涼はあたしの股間に顔をうずめていた。
……ってことは……
「やぁ! そこ、なめちゃや、ひゃうん!」
思わずそんなことを口走るけど、今の涼が聞いてくれるわけがない。
見てると、よくわかる。あんなに女の子っぽかった涼が、今は完全に「雄」になっている。
そして、「男の子みたい」と思っていたあたしは──そんな雄にあそこをなめさせて悦んでいる、いやらしい「雌」だ。
「あああぁぁっぁ、だめ! そこだめ、きもちい! そこ、すわないで、すって! んやっ! ひゃあああ!」
涼が、あそこの上にある突起に狙いを定めて、ちゅうちゅう吸ってくる。もう、だんだん何を言ってるんだかわからなくなってきた。
「んあああああ! すご! すごいぃ! りょう、きもちいいよぉ! あたし、おかしくなりそう……! うああああぁ! ゆび、いれないでっ! それ、すごく、かんじちゃうからぁっ! ああああ! はぁぁ! あああああん!」
あぁ……いれてほしい……ゆびじゃなくて……
もう、あたしの理性はとけてなくなってしまったみたいだ。とにかくきもちいいことをしてほしくてたまらない。あたしのなかにいるりょうのゆびにあわせて、あたしはよろこんでこしをふっていた。
「はあぁああ、だめ、だめぇ! おかしくなるぅ! きもちいい! きもちいいよぉ!!」
そういったとたん、りょうのゆびとくちびるが、すっとあたしのあそこからはなれた。おもわず「もっと」といいそうになって涼のかおを見ると、涼が真剣な表情であたしを見つめている。
ちょっと考えて、その意味がわかった。
「……いい?」
「……うん」
いよいよなんだ。快感にほぼ真っ白になっていた頭が、緊張で少し思考を取り戻す。
涼がなにやらごそごそスラックスを触っている。何をやっているのかと思っていたら、ポケットから何かが出てきた。
あ、なるほど。コンドームだ。
あたしが涼の仕草を観察していることに気づいて、涼は微笑む。「雄」じゃない、「涼」の微笑みだ。
「ちゃんと、つけないとね。妊娠したら、大変だし」
そりゃそうだ。何しろ二人ともまだ高校生、万が一にも妊娠したら大変どころじゃ済まない。
あたしも、頭の中で自分の生理周期を思い返してみる。
……大丈夫。排卵日は一週間以上前に過ぎた。
「よし」
あたしが思考を逸らしているうちに、どうやら涼は準備完了となったらしい。
あたしの顔を見つめながら、涼はその身体をあたしの股間に滑り込ませた。
「……いくよ」
……こく。
覚悟を決めて、あたしもうなずく。
あー、心臓がバクバク言ってる。ものすごい。
涼が、あたしのあそこにこすりつけながら照準を合わせ、ぐっ……と……
「くっ!」
イタタタタタ! 痛い!
思わずそう言いそうになったけど、すんでの所でこらえる。
こらえつつも、涼はどんどんあたしの中に進んでいく。
「いっ……あっ……!」
は、早く終わって……そう思いながら、あたしは必死で叫び声をこらえる。
最後に涼が、ぐっ、とあたしの中に押し込んで、やっと止まった。
「……痛そうだね」
そう言われて、思わずこくこく、とうなずく。黙ったままだったのは、声を出したら、そのまま叫びだしてしまいそうだったからだ。
「ちょっと、待つからね」
そう言って、涼は入ったままあたしに抱きついてきた。
ぎぅっ。
その体勢で、涼はあたしの鼻にキスをする。
あたしは顔を上げて、涼の唇に自分の唇を合わせた。
痛い。正直痛い。めちゃくちゃ痛い。
でも、涼がこの痛みを与えてくれたことは、正直とっても嬉しかった。
恥ずかしいから言わないけど。
「大丈夫? どうする? 催眠で痛み消す?」
あたしは、首を振った。
「もぅ……ちょっと……我慢する……初めてだもん……痛くないと、かっこつかない」
「かっこつかないってなんだよ」
嬉しいって言えないからそう言ったんだ、とはもちろん言えない。
「でも、僕は都に悦んで欲しいなあ」
「……ん……じゃ、最初だけ、痛いまんまで、動いて」
本当のところ、涼には早く動いて欲しかった。
痛いのはイヤだけど、嬉しい。早く動いてもらって、早く痛みを味わいたい。そして、早くこの痛みを終わりにしたい。あたしにもよくわからないけど、そんな気持ちだった。
「じゃ、都、動くよ」
「うん……ん! 痛っ!」
涼が、少しずつ動く。そのたびに、あたしのあそこは悲鳴を上げる。
「くっ! あっ! ああっ! ぐっ! うあっ!」
「声出さないと辛いだろ、都、我慢せずに声出しな!」
「ぎゃああ! 痛い! ああああっ! ぐあああっぁぁあぁ! ひいいぃ! あがぁ!」
涼に命令されて、あたしは遠慮なく悲鳴を上げる。確かに、声を出した方が多少は楽だ。ムードはぶち壊しだろうけど。
「あああ! があ! ひい!」
「そろそろ、気持ちよくしてあげるよ!」
「ぎゃあ! ああ! ぐあ!」
「都、痛みがなくなって、」
「ひゃあ! はあ! ああん!」
「一気に気持ちよくなるよ!」
「はああぁぁあぁあん! あああ! ああああん! はあ! うぁぁぁ!」
涼に命令された途端、あたしの身体を襲っているものが、破瓜の痛みから爆発的な快感にすり替わった。あたしの腰の奥から、一瞬にしてあまいあついマグマがふきでる。涼のこしが大きいうごきになった。いっきに、あたしのあたまがかいかんでぬりつぶされる。
「あああぁぁぁあん! はあああ! いいぃぃ! いいよおぉぉぉ! りょおおおお! もっとおおおぉ! もっとついてえぇぇ! やああああ! もっとはげしくぅぅぅぅ!」
「くっ! 都! 僕も気持ちいい!」
だめえ……あたし、とんじゃう……おねがい……りょう、もっときもちよくして……
「とんじゃうぅ! あたし、もうとんじゃうよう! りょおぉぉぉぉ! ああああああああ!」
「都! 僕がイクまで、我慢するんだ!」
「ああああ! ああああああああ! ああああああああああ! はああああああ! あああああああああああ!!!」
「都! そろそろイクぞ! 僕がイクのと同時に、都もイクんだ! イクときはイクっていうんだぞ! わかったか!」
「あああぁぁああ! わかったぁぁぁぁああ! りょおおおおお! はやくうぅあああ!! はああああああああ! だめえええぇぇ!!! はやくぅああああああああああ!!」
「都! イク! イクぞっ!」
「あああああああああああああああああ!!!!! あたしもぉおおおおぉ! あたしもいくううぅぅぅ! りょおおおお! りょおおおおぉぉぉ!!!! いくうぅぅぅ! いくうううぅううううぅ!! いくぅうううぅううううううううう!!! あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっっっ!!!!!!!」
びくっ、びくっ、びくぅっ……
(どく、どく……)
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……
だきあいながら、あたしとりょうは二人そろって息をととのえている。
りょうのはまだあたしのあそこに入ってるけど、さっきみたいな力はもうない。
あたしも、涼も、完全につかれはててる。あたしはもう、眠ってしまう寸前だった。
「愛してるよ」
涼が言う。
「好き」と言ってくれたことはあるけど、「愛してる」と言われたのは初めてのような気がする。
あたしは、ものすごくうれしくって、幸せな気持ちで眠ろうとする。
でも、涼はそこに追い打ちをかけてきた。
「都は? 僕のこと、愛してる?」
あ……言わされちゃう。
……でも、まあ、いいか。
あたしは、涼に改めて抱きつくと、あたしの口にこう言わせた。
「うん、あたしも、愛してるよ、涼……」
「へぇー、それは大変だったねー」
そう言って、目の前の流はりんごジュースをストローで一口。
「流、ちょっとはあんたのせいなのに他人事(ひとごと)かよ」
そう文句を言いつつ、あたしは手元のいちごパフェにスプーンを突き刺した。
2学期が始まってすぐの日曜日は、暑いけれどカラッとして多少は過ごしやすい。こういう日は、小さい子供のいる家族にとっては絶好の外食日和のようで、満員というほどではないけど、ファミレスはかなり混んでいた。
そんな中、窓際の「指定席」で、いつものようにくっちゃべってるあたし達二人。
あの日、目を覚ましたらもう流は部屋からいなくなっていた。涼によると、あたし達の一部始終を「観戦」して、あたしがダウンした直後に帰っていったらしい。
とりあえず、あたしは次の日に流を呼び出して、一通り文句を垂れた。その結果、あたしと涼に焼き肉をおごることで手を打つことになり、あたしと涼は結構高い肉をたんまりとごちそうになった。旨かった。
まあ、お金持ちの流だから、そのくらいの出費はたいしたことないんだろう……と思うと、あたしとの身分の違いを感じてちょっとだけ凹む。
一方の涼は、あの一件のあと、あたしを「都さん」じゃなくて「都ちゃん」と呼ぶようになった。
あたしは、「あの日」のうちに催眠を一回全部解いてもらおうとしたんだけど、「呼び捨ての催眠」(涼に聞いたんだけど、これって「後催眠」と言うらしい)は涼の強い希望で、「涼に呼び捨てにされたとき」だけに発動する、という形で残された。
でも、涼はどうやら呼び方の使い分けがうまくできてないみたいで、おとといなんか校内であたしのことを「都」と呼び捨てにした。すぐに気づいて言い直すんだけど、あたしからすればビクビクものだ。
あたしはあたしで、涼に呼び捨てにされると、命令されなくても背中にぞくっと「寒気みたいなもの」が走る。別に呼び捨てにされるのを悦んでるんじゃないよ。きっと催眠のせいだ。いや、もしかしたら風邪ひいただけかもしれない。そうだ、そうに違いない。
ちなみに、あの件の直後、涼があたしにくれた初めての命令は「産婦人科でピルをもらってこい」だった。おまけに、ピルの代金は流持ち。どうやら、涼はあたしとは別口で流と「報酬」の交渉をしていたようだ。まー、見事な連係プレイですこと。
催眠といえば、実は涼はあの日の前から、木更津先輩のところに行って催眠術の特訓を受けていたらしい。涼によると、「一から催眠をかけるのは難しいけど、もうかかってる人に追加で催眠をかけるのはそう難しいことじゃないらしい」そうで、あたしはあの一件のあと、何度か涼の家に呼び出されて催眠の実験台にされた。もっとも、涼はもう先輩のところに通うのはやめたらしい。理由を聞くと、「もっとやれば催眠をマスターできるって言われたけど、僕は都ちゃんにしか催眠かける気ないから」だって。……こういうことを言うから、あたしは涼がすきなんだ。ちくしょう。
だけど、涼とエッチしたのは、実はあの日の一回だけだ。残念ながら(いや、「涼にとっては」ね)、エッチする場所がないのだ。あたしの家にも、涼の家にも親がいて(あたしのお母さんは専業主婦だし、涼の両親は順番に夏休みをとっていた)、部屋でエッチするわけにはいかなかった。両方とも親が特段厳しいってわけじゃないけど、流石に親がいるところでそういうことに及ぶのは気が引ける(ついでに言えば、おとといは学期明けの実力テストだった。頭がいい涼はともかく、あたしはさすがにそっちの方で頭が一杯だった、ってこともある)。
そこで涼は、デート代を稼ぐためにバイトを始めた。「家がダメなら外で」ってわけだ。ちなみに、流は涼に「お金貸してあげるよー」と提案したそうだけど、涼は断った。その理由は、「流さんに借りたら、あとでどうなるかわかったもんじゃない」。なるほど、それは納得。
で、今はその涼のことを流に相談中だ。
「涼くんも男の子だもんねー。性欲で頭一杯のはずだもんー、そのくらいは我慢してあげなきゃー」
「むぅ……」
「性欲」という単語に顔を赤くしながら、あたしはうなった。
そうなのだ。
あれだけ引っ込み思案で女の子っぽいと思っていた涼が、あの日から明らかに「豹変」した。もう、こいつはこんなにいやらしかったのか、と思うくらい行動が積極的になっている。
おまけに、サドだ。催眠をかけるときも、あたしが恥ずかしがることばっかりする。
涼が以前、流のことを「双子のお姉さん」と言っていたのが、今になってようやくわかった。この二人は、根本的な「性癖」が同じなのだ。
……ん? ってことは、涼は流の性癖を知ってたってことか?
そう思って流に聞いてみたら、
「うん、私、涼くんにもいろいろ話したよー」
とあっさりと答えやがった。
一方、涼に改めて「何で流を彼女にしなかったのか」と聞いてみたら、「だって、僕は最初から都ちゃんしか考えてなかったし」と、あたしが恥ずかしくなるようなことを言った後に、ボソッとこう付け加えた。
「それに、僕、マゾじゃないし」
……ちょっと笑えない。
「でもさー」
その一言で、あたしの意識は現実に引き戻される。
「そういう涼くんが、都ちゃんはキライなのー?」
「うーん、別にキライってわけじゃ……ただ、ずいぶん『変わった』っていうか、『騙された』って気が……」
「ふーん、『騙された』こと自体は、イヤじゃないのー?」
うーん。あたしは首をひねる。実は、それがよくわからない。
あたしのそんな態度を見た流は、いつもの笑顔を浮かべて、あたしにこう切り出した。
「健くんもねー」
流は続ける。
「私とつきあい始めた頃は、あんなにヘンタイだなんて思わなかったよー。
あたしも結構ヘンタイだったけど、健くんはもっとすごかったー。
でも、あたしは健くんがだいすきだったから、そのくらい平気だったなー。
それに、今じゃすっかり私も『こっちの世界』のヒトだしー。
都ちゃんも、きっとそのうちそうなるよー」
「お前と一緒にするな! 流!」
本当、それだけは勘弁して欲しい。あたしは「そっちの世界」の住人になんかなりたくない。あたしは、「そっちの世界」に興味があったりしない。絶対。きっと。多分。
「それはともかくー、涼くんのことがすきなら、そのくらい受け入れてあげなきゃだめよー。涼くんも、そういうとこ以外は変わらないんでしょー?」
うーん……
確かに、気になるのは涼の性癖の部分だけだ。それ以外の部分は、変わらないどころか(「都ちゃん」と呼んでくれたり)むしろ良くなってたりする。
ピルだって、コンドームじゃ避妊しきれるかわからないから、ってことで買ってくるように言われたのだ。そういう優しいところは、全然変わってない。もちろん、「そっちの方が気持ちいい」っていうのもあるんだろうけど。
なんだかんだ言って、あたしはやっぱり涼がすきだ。
「あんまり深く考えちゃダメよー。キライになるまで、すきでいればいいのー」
それが、流のとどめの一言だった。
「……うん、そうだね」
そうだ。あたしは涼がすきなんだ。だったら、もうちょっと様子を見よう。
本当にイヤだったら、それから考えればいい。
流が、時計を見る。
「あー、時間だー、そろそろ帰るー」
あたしがアイスを口にいれた瞬間、流は立ち上がった。
「んー」
あ、このアイスおいしい。
「そろそろセックスしたいからー、健くんのところに行ってくるねー」
「んー」
もぐもぐ。
……はっ!?
流が席を離れて2,3秒経って、そこでやっと気づいた。
あたし今、流のいやらしい単語、思いっきりスルーした……?
いつものあたしだったら、言われた瞬間に顔を真っ赤にして、流を怒鳴ったに違いないのに。
あたし……もうダメかも……
あたし自身の変わりように、あたしは思いっきり凹みながら、ファミレスから出ていく流の姿を見送った。
……あれ、ジュースの代金は?
< 第1話終わり >