-2-
俺は負け犬にふさわしく、家に帰ってネネさんの抱き枕に抱きついて泣いていた。
負けた。ものすごい負けた。
しかも学校で吐いた。ゲロンゲロンに吐いてしまった。
小学生のとき、授業中にお漏らししたことあるから、あとはうんこ漏らせばグランドスラム達成だな。
いや、そんなことはいい。
それより問題なのは布団ババアと藤沢の親子だ。
あいつらに目をつけられてしまった以上、俺は何もできない。というよりも近いうちに抹殺される。
ババアの精神世界で味わった恐怖は思い出すだけで吐き気と震えを起こす。あるいはババアは、俺自身の心に直接恐怖を植え込んでいったのかもしれない。
つか、名字は藤沢なのかよ、あのババア。呂とか張とかじゃねえのかよ。
俺に勝てるわけないんだ。
ババアの圧倒的な能力とイカレた言動も、生身であのババアに対抗するパーフェクト娘の精神力も、親子揃って変態すぎる。無理。ぜったい無理。
ケータイもさっきから震えてた。渡辺と三森が、ひっきりなしにメールや電話をよこしてくるんだ。
廊下で吐いたこと気にしてくれてんのかな?
でも、俺はそれどころじゃない。もう藤沢にもバレちまってるから、あの2人にも関わりたくない。
藤沢親子が、死ぬほど怖い。
その恐怖が俺に対人恐怖症を思い出させていた。
藤沢もババアに俺のやってることチクるって言ってた。俺、殺されちゃうよ。藤沢と布団ババアに殺される。
もう、学校に行きたくない。外に出たくない。
ひきこもるしかない。
「お兄ちゃん、いる?」
ノックと一緒に、妹の美結の声がした。
俺は当然、シカトを決め込む。だけど美結のやつは勝手に俺の部屋に入ってきて、勝手に俺のベッドの上に腰掛けてくる。
いつもツインテを解いて、デコ出しにした髪。シャワーでも浴びてきたのか。
「寝てたのー? うりうり」
そう言って俺の腰のあたりをくすぐってくる。人の気も知らないで、いい気なもんだ。
「うるせーな…出てけよ」
「えー、なにそれ。ひっどーい」
落ち込んでる顔を枕に埋めて、あえてぶっきらぼうに言い放つ。
俺は結構マジにイラついてるんだが、美結は冗談でも言ってるとでも思ってるらしく、俺の尻をペチンと叩いてきた。マジ、うっぜ。
「あ、あのさー、お兄ちゃん。あたし、考えたんだけど……」
美結は俺のベッドの上で、足をブラブラさせながら、クッションを抱きしめる。出てけっつってんのに。
「あたしたち、兄妹じゃん? なんか、こ、こういう関係になっちゃうのって、本当はやばいんだよね? 結婚もできないんだし、ね?」
なんか言ってるよ、コイツ。それどころじゃないってのに、俺は。
「だからさ……もしも、本気で続けるんだったら、きっと大変だよ。だってみんなには絶対内緒だし、人前でイチャイチャしたり出来ないし。フツーの兄妹のフリして隠れて付き合ってくの……たぶん、いろいろ大変なんだろうなぁって思うんだ」
美結のやつ、何を言ってるんだ? 俺のこと言ってんの?
こんなときにくだらねえこと言ってんじゃねぇよ。兄妹で付き合うわけねえだろ。そんな気ねぇんだよ、俺は。
「んでもね。ていうか、お兄ちゃんは、どう思ってんのかなあって。その、もしもあたしたちが付き合うなら、ほんと大変だと思うけど……でも、お兄ちゃんが本気なら、あたしだって覚悟しなきゃって思うしっ。だから、んと……お兄ちゃんの気持ち次第なのかなぁって……思って……」
見上げると、美結は耳まで真っ赤にして、俺のクッションをギュウギュウ抱きしめていた。
なにコイツ、俺にやられたいわけ?
そんな気ないって言ってんのに……。
「お兄ちゃんは……どう思ってんの?」
どう思うも何も、そもそも今まで妹なんか性の対象に見たことねぇし、お前まだ全然ガキじゃん。
ロリなんて、渡辺や三森の中でさんざん食ってきたわけで、あっちの世界の素直で理想的な無垢少女たちに比べたら、現実ロリータなんてのは世俗の手垢まみれで、全然食欲を感じねぇよ。
見ろよ、美結のタンクトップからの伸びる肩も腕も、水泳部やってるだけあって、男子みたいに固そうじゃないか。
それにショーパンの太ももだって、まだまだ女っぽさが100年ほど熟成の足りないし、第一、むだ毛もなくてすべすべしてそうだし、ぜい肉のない感じが締まりの良さを予感させるだろ。
日焼けした肌もまるでフルーツのように瑞々しいっていうか、元気っ娘の魅力に溢れてるし、そんなあたしの性の目覚めをお兄ちゃんの手で開発してちょうだい、なんてことを俺のベッドの上でいきなり言われても、そんなのお兄ちゃんアンソロジーのカラー4ページみたいで困るっていうか、猛るだろうが。
あれ? 俺、ボッキしてる?
もともと、美結の見た目は悪くない方だ。悪くないっていうか、あと何年かすれば、うちのクラスでも十分戦える女になると思う。
昨日のキスは悪くなかったし、フェラも嫌がってなかったから、仕込めばそれなりに使えるようになるだろう。
どうせ俺は一生ひきこもり決定してるし、こいつを俺のオンナにしてしまうのもいいかもな。
てか、むしろ妹なのがラッキーだったかも。いつでも家にいるんだし、セックス以外にも使えるし。
俺の暗い感情が、そのまま美結に対する欲情に変わっていくのがわかった。
「美結、こっちこい」
「え、やっ」
美結を引きずり倒して、ベッドに押さえつける。軽い体は簡単に転がり、美結は目を真ん丸にした。
「おにい…ちゃん?」
見慣れたいつもの妹の顔だ。
女として見るには時間かかるかもしれないが、とりあえず抱いてみなきゃわからない。
俺は美結の唇を奪った。
「んんんんっ!?」
柔らかくて、薄い唇。そこに強引に舌をねじ込む。唾液のたまった美結の口が、ぬちゃってエロい音を立てる。
「んっ、ふっ、んっ、おにい、んっ、おにいちゃん? んんっ、んーっ…ふぅん…ん…ちゅぷ…ん、んん…ちゅ、ちゅく…」
最初は逃げようとしてた美結も、舌を絡めているうちに、声を甘くして、俺に合わせて舌を動かしてくるようになった。
ふむ。昨日が初キスだったわりに、なかなか飲み込みが早いじゃないか。さすが俺の妹だな。
唇を離すと、俺たちの舌の間に唾液の糸がテロンと伸びる。美結は目を潤ませて、吐息を熱くする。
「お兄ちゃん……ひょっとして、するの?」
「お前だってそのつもりだったんだろ?」
「あ、あたしは…」
「脱がすぞ」
「やっ、んっ!」
美結のタンクトップをめくっていく。小っちぇヘソ。ブラなんて当然なしの、ぺたんこサイズ。だけど水泳部独特の日焼け跡は、ちょっとしたご褒美だった。
「は、恥ずかしいんだけど…カーテン、閉めない?」
胸を両手で隠して、美結は顔を真っ赤にする。でもメンドくせぇから、このまま続行だ。美結の上半身を俺は手や唇で愛撫してやった。
「ふっ、あっ、あんっ!」
喉に舌を這わせると、美結はビクビクンと良い反応した。胸から腹を撫でてやると、首をすくませて声を上げた。くすぐったがりだったから、ソフトタッチだと笑ってんのか感じてんのか、よくわかんない。
でも、乳首を舐めてやったら、わかりやすく甘い声を出した。舌で乳頭転がしてやると顔を真っ赤にして暴れ出した。
「じっとしてろよ。乳首吸われたくらいで騒ぐな」
「う…うぅ……」
俺はそのままショーパンに手をかけて、下着ごとずり下ろしてやった。まさか妹のパンツをずり下ろす日が来るとは思わなかったぜ、お兄ちゃん。
ていうか、相手が妹だと思うと少し萎えるから、そこにはもう目をつむることにしよう。こいつは妹じゃない。俺の妹がこんなに可愛いわけがねー。
俺はこの女を犯してやるんだ。そして、俺は初めて処女の女を抱くんだ。
そう思うとテンション上がっていく。男としてのステップを着実に昇ってる感じがする。
美結の膝を両手で開く。コイツのそこはまだ幼い。そして、まんじゅうのようにすべすべだ。
今日、俺がこの肉まんじゅうに肉棒を詰まらせてやる。やってやる。美結と大人の証を分かち合ってやる。そして美結は女になり、そして俺は「破瓜威者(バージンブレイカー)」の二つ名をいただくんだ。
「美結、今日から俺のことは兄ちゃんじゃなくてバージンブレイカーと呼べ。草原で出会ったら闘わずに逃げろとお前の仲間にも教えてやれ」
「やっ!」
美結は小っちゃい悲鳴を上げて、俺の視線から逃げるよう股に手を挟み、転がった。
「な、なんか、違うよ」
「何が?」
「お兄ちゃん、ちょっと怖いし…優しく、してよ」
「あぁ?」
カチンときた。
俺に指示してんなよ。俺に惚れてるくせに。やられたいくせに。
どうやろうと俺の勝手だろ。
「美結、手ぇどけろ」
「や、やだよ……そんな言い方しないでよ」
「どけろ!」
「きゃあ!?」
無理やり腕を剥がしたら、美結は本気になって暴れてきた。強引に組み敷いて、またキスしてやろうとしたら、思いっきり頭突きしてきた。
「イテェ!」
「もうやだッ! こんなの、やっ! お兄ちゃん、変!」
ムカつく。
なんだよ、どいつもこいつも。
俺に逆らうなよ。抱かれろよ。俺は無敵なんだ。誰にも負けないすげぇ力を手に入れたんだ。渡辺だって三森だって俺の女になったんだ。俺をシカトしてきた奴らを、この力で全員犯してやるんだ。
誰も俺の邪魔すんなよ! 美結も、藤沢も、布団ババアも!
「お兄ちゃん、痛い! 離してってば!」
───美結の星に俺は降り立った。
美結の心の中は、ヒゲオヤジの宇宙冒険ゲームの世界観を模して、美結の夢や希望を星にしたギャラクシーワールドになっている。
大人を夢見る少女である美結は、これを一つずつ攻略することで、自分の夢を叶え、成長していくという心の仕組みになっていた。
そして、ここで昨夜新しく生まれたばかりの小さな星。白い砂浜と夕焼けの『お兄ちゃんと結ばれたい星』で、俺は小さな美結と対面する。
「よぉ」
二段ベッドの柱に隠れている美結が、びくりと震えた。
なんだよ、昨日まであんなに俺に懐いてたくせに。
「どうして隠れてんだよ?」
また体を震わせる美結。
理由は聞くまでもなく、わかってるけど。
「俺に乱暴されると思ってんのか? でも抱かれたいんだろ、お前?」
ベッドの後ろに隠れる美結。
美結が俺に抱かれたいのは本当だ。でも、自分の想像していたエッチと違うから、戸惑っているようだ。
ガキだな、ホント。めんどくせえ。
俺は美結の隠れているベッドを持ち上げて、宇宙の果てまでぶん投げる。美結は驚いて尻もちをつく。
「こんなもので俺から逃げられるわけないだろ。バカじゃねえの?」
美結の目に涙が溜まっていく。あー、それ、なんだか俺の中のサディスティックな部分を良い感じで刺激するわ。
「抱いてやるよ、美結。それがお前の望みなんだろ?」
俺が近づくと美結は後ずさる。さらに俺が近づくと……美結は、砂を蹴って走り出した。
「おい、待っ」
俺が命令するより早く、美結はピヨーンと大ジャンプをかます。小さい尻はあっという間に宇宙に飛び去り、俺の前から姿を消した。
だけど、逃げられるかよ。
こっちの俺は無敵なんだ。俺に勝てるやつなんていないんだ。
「イヤッフー!」
俺もヒゲオヤジを適当にマネしてジャンプする。美結も必死で宇宙を逃げるが、俺の敵じゃない。
飛び交うキラーを踏んづけ、ノコノコ歩いてるカメを踏んづけ、土管を潜って海を泳ぎ、ファイアーボールでフラワーを燃やして、うぜえキノピオの笠を掴んでイラマチオしながら追い詰めていく。
やがて、美結は小さな星に降り立った。
「むっ」
俺がそこに降りた途端、足元の草が俺の体に伸びてきて、絡め取られる。
明らかにゲームの敵と違う動きは、美結の本気の拒絶を意味していた。
この星の名は───『お兄ちゃんから逃げたい星』
笑わせる。
てか、笑い事じゃないくらいムカつく。
美結は星に俺を残して大ジャンプをかます。だが、その前に俺は美結に向かって叫ぶ。
「お前が捕まれ!」
「きゃあ!?」
草がロープのように伸びて、美結の体に絡む。そして、美結をそのまま引きずり落とした。
この世界で、俺から逃げようたって無駄だ。まあ、ギャラクシー追いかけっこも楽しかったし、せっかくだからクッパ城まで付き合ってやろうと思ってたけど、もうやめだ。
生意気なんだよ、美結。
「逃げられると思った?」
「んー、んー…!」
す巻きにされた美結は、口まで塞がれてしゃべることもできない。俺は美結に恐怖を与えるよう、ゆっくりと近づいていく。
「お前の世界は、とっくに俺のモノになってんだ。抵抗しても無駄だって。逃げる場所も隠れる場所もねぇよ」
「んんー……」
妹のくせに兄に反抗しようなんて、悪い子だ。兄として、こいつには二度と抵抗できないように、たっぷりと教育してやる必要がある。
俺は美結の星空を見上げた。そして、適当な星を見つける。
「美結、見ろ。お前の大事な星も、俺の手にかかれば、こうだ」
星に向かって、「破裂しろ」と命じながら右手を握る。
あわれ、『赤西のサインが欲しい星』は大爆発だ。
「んん~~ッ!?」
美結は目を見開く、呻く。ざまぁみろ。お前の世界は俺の思いどおりだ。俺は美結をどうにでもできる権利を持つ。
俺は最強だ。無敵だ。そうだよ。誰も俺に逆らうことなんてできないんだよ。それでいいんだよ!
「壊れろ! どんどん壊れろ! お前の星なんていらねぇよ。全部壊れちまえ!」
「んーっ!? んん~~ッ!」
次々に美結の希望の星を壊していく。『テストで良い点を取りたい星』も『水泳部のリレー代表になりたい星』も『友だちだけで旅行に行きたい星』もデストロイだ。
「美結ッ! 今からここは『お兄ちゃんの性奴隷になりたい星』だ。お前の星はそれ一つだけだ! 他の星なんて全部壊れろ!」
「んん~~ッ!?」
デストロイだ。まさに俺は破瓜威者だ。じつに気持ちいい。
美結の心を真っ新にして、俺だけの女に改造する。俺の性奴隷妹として美結は生まれ変わるんだ。
やっぱり俺は強い。この能力は無敵だ。
この能力がある限り、俺は誰にも危害を加えられることはない。死ぬまでハッピーに生きていられる。
藤沢親子にさえ、会わなければ。
───現実の世界に帰ってくる。
目の前に横たわる美結の裸体。細く日焼けした腕と足。白い水着の跡。
未成熟な果実を今から、俺専用の女に仕込んでやる。そして、ずっと俺のために働かせる。
そのうち、美結に適当な同級生を見繕って連れてこさせよう。今日から俺は女王蟻。出産の予定はないが、働きアリをめちゃくちゃ増やして、ここを俺の巣にしよう。
「さて、美結。抱いてやるぞ。股を広げろ」
美結は、ぴくりと動かなかった。目を開いて、あらぬ方を見たまま、俺の命令を無視していた。
「おい、聞こえないのか? お兄ちゃんの命令だぞ」
美結は動かない。半開きになった口元から、よだれが垂れてきてる。
「……だらしねえ寝顔だな。おい、起きろよー」
ゆさゆさ揺する。反応がないから、肩を掴んでがしがし揺する。
美結の首が力なく振り回され、だらりと垂れた。
「……冗談よせって……」
心臓がドキドキしていた。
美結の口元に耳を寄せる。呼吸はしていた。まずは一安心した。
そうだよな。まさか死ぬはずないよな。そんなわけないよな。
でも、美結は目を覚まさない。
何度呼びかけても、かなりきつめにビンタしても、美結はくったりしたままだった。
どうなってんだよ?
俺は、美結の世界へ飛んでいく。
───何もなくなっていた。
そこはもう、宇宙ですらない。
真っ暗な空と、真っ白で平らな砂漠。
地平線しか見えない世界で、幼い美結は、現実の彼女と同じように、意識のない目で横たわるだけだった。
「美結…?」
膝が震えた。喉が引き攣った。
こっちの世界に来ちゃったせいで、俺は美結の身に起こってることを全部理解してしまった。
そして、理解できちゃう自分の能力を恨んだ。
ここは『無』だ。
虚の平面だ。
美結の心は──死んでいる。
「美結……ごめん。さっきのウソだよ、本当にごめん! 美結の星は壊さない。壊さないから! だから…ちょっと、起きてくれよ、美結! 俺の話を聞いてくれ!」
小さな美結の体は、驚くほど軽かった。
中身が空っぽだって、すぐわかった。
「美結、起きろ! 目を覚ませよ! もうイジワルしないから…お願いだから、美結!」
いくら叫んでも、揺らしても、美結は反応すら見せない。
やべえ。やべえよ。どうすんだよ。
何もない世界で、俺の力はどこまでも無力。俺の力が届くものは何もない。目の前にいる妹にすら届かない。
マジかよ。
───現実に戻る。
ベッドの上で全裸で横たわる美結は、まるでタチの悪い抱き枕のようだ。だらしなく開いた唇。力ない瞳。
そうだ、救急車呼ばなきゃ。いや、でも何て説明するんだよ。
ていうより、医者に美結が助けられるんのかよ。
考えろ。どうしたらいいか考えろ。
俺は再び美結の心の中に戻る。そして、呼びかけたり、体に触れたり、抱きしめたり懇願したりする。
でも、彼女は目を覚まさない。現実の世界の彼女も同じ。何度も往き来して、美結の名を呼ぶ。大声で呼ぶ。
どうにもならないって気持ちが強くなってきた。
現実世界では刻々と時が過ぎていき、このままだと親もいずれ帰ってくる。
俺は怖くなって美結の中にこもった。
ここなら、現実での時間は流れない。いくらでも考える時間がある。
でもそれは、絶望を長く味わうための時間でもあった。
*
あれから俺は砂漠を歩き回った。美結に何度も謝った。目を覚ますようにお願いした。四方八方に向かって祈りを捧げた。
何にもならないけど、何かしてないと狂いそうになるから、いろんなことを試しては無駄だということを確認していった。
「美結、起きてくれよ。頼むって……」
外での時間は動かない。俺がここにいる限り、俺と美結の時間はここでしか流れない。
俺の体感時間では、一週間は過ぎている。
空っぽの美結と2人きりで、音すらない砂漠で過ごしていると、本当に頭がおかしくなりそうだ。
でも、現実に戻ってリアルな美結の状態を見る勇気は、もうなくなってた。
あれはきつい。妹のあんな姿を見るのは、本当にきつい。
いろいろと考えてはみた。
美結はおそらく、自分の世界が目の前で破壊され、そのショックで心を閉ざしただけなんだ。
本当に死んだわけじゃない。何かのきっかけで、目を覚ますはずなんだ。
自分のしたことの反省なら、もう何日もした。何度も美結に謝って、土下座までした。
なのに美結は帰ってこない。ここで、死んだみたいになったままなんだ。
……本当に、死んだわけじゃないよな?
いやいや、そんなわけないよ。あんなことで、そう簡単に人が死ぬわけないって。外の美結は、心臓だって動いてたし。
絶対、大丈夫。美結は大丈夫。
ちょっと心が止まっただけなんだ。どうにかしてやれば、動き出すはずなんだ。
でも、どうやって?
じつは布団ババアのことも何度か思い出していた。
アイツなら、きっとこういうことに詳しいに違いない。ひょっとしたら、美結を助ける方法を知っているかもしれない。
でも、もしも知らなかったら?
それに、もし知ってても、アイツがこの状況を見て、助けてくれると思うか?
それこそありえなかった。
でも俺は、他に頼るべき人間を知らない。どうしたらいいのか、ひたすら考える。アイツの弱みを握って、美結を助けるように脅してみるとか?
でも、アイツに弱点なんてあんの? 実の娘にも容赦しないって話だし、他人の心を痛めつけることを心底楽しむナイスな人間なんだぞ。
逆に追い込まれるのがオチだ。ババアにこのこと相談するわけにはいかない。そもそも話が通じるかどうかも怪しいもんだ。
じゃあ、どうすりゃいいんだよ。
……てか、とぼけるか?
外に出て、美結に服を着せて、親が見つけるまで自分の部屋で寝かせておけばいい。
まさかうちの親も俺のせいでこんなことになったって思わないだろうし、黙ってればバレっこない。
それに、病院で面倒みてもらってれば、そのうち運が良ければ美結も目を覚ますかもな。
そうだそうだ。そうしよう。現実に帰ればなんとかなる。親がなんとかしてくれる。
そうだよな、美結? それでいいよな?
美結は、いつものように虚空を見上げるだけだ。
「……うそうそ。お兄ちゃんがお前を見捨てるわけないじゃーん」
逃げる勇気すらない俺。
もう何度も同じこと繰り返してる俺。
美結の隣に腰掛ける。小さな腹を撫でて、真っ暗な空を見上げる。
絶望。そんな色してた。
*
「……美結、覚えてるか? 小っちゃい頃、父ちゃんに川に連れてってもらって遊んだよな? あんときは楽しかったよなー」
あれから、さらに時間は流れている。3週間くらいかな。
相変わらず俺は美結の世界にいる。状況は何一つ変わらない。
動かない美結。砂漠。真っ暗な空。
どうしようもない孤独と不安の中で、俺は1人で悩むのは止めた。
何もできないのは変わらないなら、美結のそばで見守ろうと決めたんだ。
「俺が小さい魚を捕まえたんだよな。そしたら美結が欲しいって言って泣いてさ。仕方ないから俺が魚やったら、美結、花のかんむり編んでお礼だってくれたんだよな。ははっ、あの頃の俺らは、仲良かったよな」
1人でいると、昔のことをいろいろ思い出す。
家族との思い出なんて、普段は気持ち悪いだけだと思ってたけど、こうして振り返ってみると、たくさんのことがあった。
二人兄妹だからか、美結との思い出が一番多かった。
「こないだ、クラスの女の子からも花かんむり貰ったんだぜ? 突っ返したけどな。俺、じつは最近モテてるんだ。しかも可愛い子ばっかり。信じられる? られねーだろ」
美結は、ずっと真っ暗な空を見ている。ぴくりと動いてくれないし、返事もくれない。
でも、いいんだ。美結はここにいるだけで、いいんだ。
「あー……なんか懐かしいな。三森、元気にしてるかな? あ、でも向こうじゃまだ今日会ったばかりなのか。変なの。なんで俺だけ……こんなに懐かしいんだよ」
だって1人じゃ耐えられない。こんな孤独に耐えられるはずがない。
美結もそうだろ? だから、俺はここにいる。お前を独りぼっちにしたくないから。
でも。
「会いたいなぁ……三森と、渡辺に。もうずっと会ってないよ。俺、好きな子が出来たんだ。しかも2人も。優柔不断な俺らしいだろ? ハハハ」
マジ、胸が張り裂けそうだ。あの2人に会いたい。会って抱きしめられたい。キスとかセックスとかフェラチオとかして、お返しに何時間もクンニしてやりたい。会いたい。
「美結。お前も、会いたい人いる? 友だちでも親でもさ。みんな、お前のこと待ってるよ。お前、結構楽しいやつだからな。みんなお前と遊びたがってるよ、きっと」
美結はよく笑うヤツだったんだ。
今はちょっとした反抗期で、家族の前じゃムッスーとしてたけど、本当は明るい子だってこと知ってる。
一昨日も一緒にゲームして、楽しかったよな。
昨夜は急にエッチなこと始めるからビックリしたけど、でも、一緒の布団で寝るのはなんか懐かしくて、ちょっと恥ずかしかったよな。
「美結。俺、お前のこと好きだよ。もちろん家族としてだけど」
俺は間違ってた。
美結の心をイジるべきじゃなかったんだ。生意気でもシカトされても、美結の心には踏み入るべきじゃなかったんだ。
だってこんな力に頼らなくても、美結は最初から『お兄ちゃんと昔みたいに遊びたい星』を持っててくれた。
自力でそこに辿り着かなきゃならなかったのは、美結じゃなくて、俺の方だったんだ。
バカだ。俺は本当にバカアニキだ。
「美結……帰って遊ぼうぜ。俺、何時間でもゲーム付き合うから。お前が勝つまでやってやるから。約束する。もう、絶対にお前をイジメないって約束する」
可愛かった妹。生意気だった妹。俺にキスしてくれた妹。
大好きなんだと思う。俺は、妹の美結のこと大好きなんだって、ようやくわかった。
「帰ろうよ、美結……一緒に」
俺の想いが固まって、涙になった。
そして溢れて、美結の頬にこぼれ落ちた。幾つも零れて、彼女の頬を濡らしていく。想いの一粒一粒が、美結に重なっていく。
やがて、俺の涙に触れた美結の体が、仄かな光に包まれ──…なかった。
普通に、ちょっと濡れただけだった。
「……チッ」
作戦その11『泣き落とし』も失敗か。
オーケー。ならば作戦その12『脅し』だな。
「おうおう、テメェ! 誰に断ってうちのシマで死んでやがるんだよ!」
*
美結の心滞在記も、2ヶ月過ぎたと思う。
その間、ちょっと迷走してた時期もあったけど、ちゃんとした進展もあったんだ。
俺は今、砂漠の砂をこねている。
横たわってる美結に働きかけるだけじゃダメなんだ。ここは全体で美結の心のなんだから。
美結の世界を復活させるためには、その前にかつての姿に戻してやらなければならない。ようするに、器がなければ中身も入らないというわけ。
というわけで、俺はもう何時間も砂を丸めている。砂といっても、ちゃんと俺がイメージを固めて握れば、だんだん形になっていくことはわかった。
あとは手作業で、一つずつ再生させていくしかない。時間はかかっても、これが上手くいけばきっと美結も目を覚ます。
まずは、俺があのとき一番最初に壊した『赤西のサインが欲しい星』をコネコネしているところだ。
モノクロ基調の、なんかカッコイイ星だったはず。精神世界で能力値が向上している俺の記憶の中には、美結ギャラクシーの星が形がひととおり残っている。あとは再生していくだけだ。砂は、俺の手の中で形を変え、星になっていく。
……出来た。
手のひらサイズのミニチュアだが、確かにこれは美結の『赤西のサインが欲しい星』だ。
俺は手を離す。ふわりと星は漂い、真っ暗な天に昇って、小さく瞬いた。
じわりと涙が浮かんだ。そして俺は、大声を張り上げてガッツポーズを取った。
「見ろ、美結。出来たぞ! 赤西のサイン星だ! お前の欲しいヤツだろ、アレ。見ろよ、かっこいいな、アレ! 俺も赤西のサイン欲しいよ、美結! ホラ、起きろって」
美結はぴくりとも動かない。なんにも変わらない。
……あぁ、そうか。これ一つだけじゃダメだよな。まぁ当然だな。
心配するな美結。兄ちゃんがいっぱい作ってやる。お前の星を、全部返してやるからな。
俺はさっそく、次の星に取りかかることにした。
よーし、次は『角オナの気持ちよさが知りたい星』だ!
*
「……完成した」
あれから、ひたすら星を作りまくって、どれくらいが経っただろうか。
でも、時間なんて関係ないんだ。今、俺の前には、宇宙が広がっている。美結ギャラクシーを彷彿させるステージが。
「美結……見てくれよ。これ、お前の宇宙だろ? 目を覚まして見ろよ。お前のギャラクシーが完成したんだ!」
美結は目を開けてくれない。俺は必死に呼びかける。体を揺らす。
「起きろ、美結。もう完成したんだって。目を覚ましても大丈夫なんだって。起きろよ!」
目の前に、砂のかたまりが落ちてきた。
「……あ?」
ドサ、ドサって、次々に落ちてくる、砂のかたまり。
形を失った、俺の作った星たちだ。
何百という星が、力ない流星のように、まっすぐに落ちてきて砕けていく。
「ちょっと、待てって……なんで落ちてくるんだよ! やめろ! そのまま浮かんでろよ! 美結の星だぞ! 止まれ! 止まれ!」
ドサドサ、砂が降ってくる。俺は必死に「止まれ」と命令する。なのに、星はまるで命を失ったかのように、ただの砂に戻ってしまう。
「やめろよ…頼むから…やめてくれよぉ……」
頭を抱えて、へたり込む。俺の背中にも、バンバン砂のかたまりが落ちてくる。
苦労して作った宇宙が消え失せるのは、あっという間だった。
「……はいはい、オッケ、オッケー。わかったよ」
俺は砂に埋もれた体を起こす。
まあ、そんなことだろうと思ったぜ。
確かに俺もちょっと浮かれてたっていうか、こんなに上手くいくはずないってわかってたもんな。
それに、俺だって調子に乗ってオリジナルの星なんかも結構浮かべちゃったし。美結、角オナなんてこれっぽっちも興味なかったもんな。ゴメンゴメン。
いいだろう。もう一度、やり直しだ。今度こそ完璧なギャラクシーにしてお前に叩き返してやんよ、美結。
俺は砂を固めだす。また『赤西のサインが欲しい星』からだ。
楽勝だよ。何年かかろうと、この世界では関係ないんだ。いくらでも付き合ってやるぜ。兄ちゃんは全然平気だから心配すんな、美結。
心の汗が一滴、眼球のあたりから溢れて手のひらの砂を濡らす。
全然余裕。マジ平気。
てか、赤西って誰なんだよ、まったくもう。
*
「きゃ~~~ッ!」
全裸で突っ走る砂漠は最高! 最高!
待ってろよ、地平線! 今すぐ俺がお前を抱いてやる!
「イヤッフー! ヘキサゴーン!」
ポインポインと軽快なヒゲオヤジジャンプを繰り返しながら奇声を発して俺は走る。
もうあれから俺は何年も何年も何年も何年も、美結ギャラクシーを作っては壊れて作っては壊れて作っては壊れて作っては壊れて、とうとう俺が壊れてしまいましたイエー!
マジ楽しい。発狂マジ楽しいから、みんなもやってみ。
とにかく自由。自由すぎる。最初っから幸せの青いフリーダムは俺のすぐ近くで起動スタンバイしてたんだよ。
叫び、走り、転び、跳んで跳ねて跳躍して小躍りして転んで泣いてまた起きるだけのことがこんなに楽しいなんて僕知らなかったよ! 知らなかったよ! 一瞬で死にてぇ!
ぐるぐるぐるぐる俺は走る。両手広げて走る。奇声発して走る。かまってちゃん歌って走る。走る。走る。走るのだ!
「気ン持ちイイーッ!」
全裸で全力疾走してると乳首が立つのは空気力学的な優しさ設計で人は造られているからだ!
さらに全裸で走ってると右のタマと左のタマが入れ替わったような錯覚に陥るけど決してそんなことはないからガッカリだ!
でも気持ち良く走ってればいつか俺たちにエクスタシーが訪れる! その反動を利用すればあの地平線を俺たちの前立腺にすることも可能なのだ!
ああぁ~ン! ドーパミンが溢れて止まんないよォ~!
「…あ?」
地平線の手前に何か見えた。
近づいて見ると、それは置き去りにしてきたはずの小さな美結の体だった。
周りに俺の足跡はない。なのに、確かにそれは嫌になるほど見覚えのある、美結の体だ。
そいつが俺に「お前はどこにも逃げられない」と言っているわけで。
狂ったフリしてた頭が冷めていく。喉が引き攣って、また目が潤んでいく。
ごめん。勘弁して。お願いだから、もう少しだけ狂わせていて。
あとでまた、いっぱい泣くから。
「きゃ~~~ッ!」
美結から背を向けて、俺は再び発狂の旅に出る。
*
……やっぱり変だ。どう考えてもおかしい。
ここは美結の心の残骸だと思う。たぶん、それは間違っていない。
美結の心は俺によって破壊されて形を失い、美結の核ともいえる小さな美結は、こうして死体のように横たわったままでいる。
だから俺は、ここは美結の心の死を象徴した無の光景だと思ってた。
だけど、そもそも死とか無を象徴するってどういうこと?
無を象徴することは有じゃないか。どれだけここから逃げ走っても、必ずこの美結の死に出会うっていうのは、つまりこの光景には意味が存在し、存在する以上は無じゃないってことだろ。
なんとなく、漠然とだけど感じていた「美結は死んでない」っていう勘を、少し論理的に理解してきた気がする。あくまで漠然としたままだけど。
砂を蹴る。うろうろする。
そもそもが曖昧な解釈で作られた世界で、他人の形而上を直感だけで体験している俺に、確固たる理論はない。
というより、確立する意味もない。人の心なんてちょっとした間に簡単に形を変えるし、ここでの解釈が次の瞬間ではまるで変わるってことも十分にありうる。
俺がここにいる間、外では時間が流れないっていうのも、きっとそういうことだろう。心の固定は時間停止と同じことだ。ここは物理の働く世界じゃない。
ただのイメージだと考えろ。ここは写真やスケッチで作られた世界だ。構図が変われば世界も変わる。
まあ、という解釈も、次の瞬間にはガラっと変わってることもありうるわけだけど。
待て待て、もうそれ考えるな。
そっちに行くとループするだけで答えはないと、何度も同じこと繰り返してわかってるはず。
まず最初に考えるべき疑問は、心という形のないものを形にして対話するという、俺の能力の矛盾についてだ。
俺、なんか勘違いしてたんじゃないだろうか。
今まで俺は、自分の能力は他人の心に入って、中から変革していくものだと思っていた。無意識の自己ってのをメタ化して、そこに命令を注入して言うことを聞かせてきたと思ってた。
でも、それで合ってるの? てか、他人の心の中に入ったら、俺もそいつの心の一部でしかないってことにならない?
俺が今まで対話してきたあいつらは、はたして本当にあいつら自身のものなのか? 対話している俺は、俺と、そいつの、どちら側に属する俺なのか?
そもそもこの世界を作っているのは、美結なのか、俺なのか?
待て待て、そっちもダメだ。俺が求めてる答えはそっちには多分ない。
とりあえず、今、俺は美結の心の中にいる。そういうことにしておけ。
何か解りかけてるのは確かだ。
そしてそれを言葉にしようとしても、俺にはそんな学はないし、てか言葉には出来ない分野だ。だからイライラするんだけど、でも、それは仕方ないことだ。あきらめろ。
自分が今、形而上の中にいることを忘れるな。言葉で理解しようとすれば、たぶん俺は失敗する。
思い違いや知識不足が多すぎるんだ。独力でここまで来ちゃったから、わからないことだらけなんだ。
でも考えろ。そして思い出せ。
思い出したくもないけど、唯一俺の先を行っている布団ババアと会ったときのことを、俺は思い出す。
俺はあのとき、バイトでコンビニのレジにいた。ババアが来た。そして先輩に何か言った。きっと先輩のトラウマの何かだ。心を覗かなきゃわからないことだ。そして先輩は、ババアの口からそれを聞かされ、キレて逃げ出した。
何か違う。俺とババアは、何かが違う。
よぉく思い出してみる。
そして、単純な違いに気がついた。
ババアは、先輩に触ってなかった。
俺は他人に触れなきゃ心に入れないと思っていた。でもそれは違うんだ。
すごく単純で、だからどうしたっていう程度の勘違い。
でも考えれば考えるほど、そこから疑問は広がっていく。
他人の心に入るのに、体に触れる必要もないってどういうこと?
だったら、俺はお互いの体以外のどこから出入りしてるんだよ?
じゃあ、ここはどこだ? 美結の中か? 俺の中か? やっぱりそのどちらでもない、俺たちの間にある違うどこかか?
心ってどこにあるんだ? 入り口はどこにあった? そして出口は?
そもそも、ここが終点だなんて、誰が言ったんだ?
きた。
久しぶりに目ン玉開いた感じがした。
俺は美結の体に駆け寄る。小さな体を膝の上に乗せる。くったりした首が垂れる。
軽い体だ。でも、これは美結の体じゃない。ただの形だ。
俺が体だと思いこんでいただけだ。
胸に手を乗せる。深呼吸する。
心配するな。感じたことを、思ったとおりにやれ。ここはそういう世界なんだ。
「美結……痛かったらゴメンな」
美結の胸の中に、手を突っ込む。心の中に潜っていく感じで。
ずぶりと、手首まで埋まった。
そのまま肘まで埋め込んでいく。肩まで、そして顔も突っ込む。
「……ごぼごぼごぼごぼッ!?」
美結の中の美結の、その向こう側。そこにはもう一つの世界があった。
激流のように流れる情報の渦。鼓膜を突き破るほどの轟音を立てて渦巻く、巨大な無意識の集合体が世界を埋め尽くし、生き物のように絡み合っている。
ただそれだけの場所。でもその高密度は、俺の体を楽勝で破裂させてしまいそうで。
「───ぁぁああッ! はぁ! はぁッ、はぁッ」
美結の中から抜け出る。汗と、それ以外の何かで顔中が濡れていた。拭うと、それは俺の手の上で、ブルブルと文字のように形を変えながら蒸発していった。ゾッとした。恐怖で歯がガチガチ鳴った。
見てはいけないものだった。でも、やっぱりあったんだ。
形而上の、その上の世界。
巨大な生き物のような思念の集合体が何体も絡み合い、さらに巨大な何かを作る。その支流の端っこに俺たちの形而上は存在はする。人の心はその流れの中で生まれ、そして卵のようにぶら下がり、繋がれている。
俺は自分でも気づかないうちに、そのそばを通ってきたんだ。そして今は美結のいる場所に寄り道している。そこを通れるというのが、俺の能力の肝なんだ。
でも、それ以上は考えるな。あの場所を語るな。
俺が辿り着いた答えは、理解してはいけないもの。神話が、哲学が、歴史が、物理学が語って語り尽くせぬものを、俺なんかが語れるはずがなく、知るべきでもなかった。
俺みたいなバカが、その秘密の末端に触れる力を持ってたなんて。
でも、美結はそこにいる。死んではいない。無くなってもいない。
あの渦のどこかにいるはずなんだ。だって、抜け殻をここに残してあるんだから。
「行かなきゃ……」
そして、連れて帰ってこないと。
おそらくギリギリなんだ。今は俺の主観で美結の状態は固定している。でも俺が離れたら、きっと美結は完全に向こう側に落っこちてしまうだろう。
今、俺が引き上げるしかない。
でも死ぬなよ俺。あの渦に巻き込まれても、絶対に千切れるな。俺は美結を連れて帰ってこなきゃならない。泣こうが喚こうがションベン漏らそうが、死んでも死ぬなよ、俺。
震える奥歯を噛みしめる。
美結の抜け殻に体を潜り込ませて、その向こう側の世界にダイブする。
「わぁーーッ!」
*
「……ぁぁぁぁぁああああぁあッ!!」
美結の胸から這い上がる。帰ってきた。美結の砂漠に帰ってきた。俺は帰ってこれたんだ。
でも安堵してるヒマもない。体は今にもバラバラになりそうだし、頭も破裂しそうだ。
何かがパンパンに詰まってる。すげえ音と悪臭が頭の中で膨らんでる。目が回る。まるで俺の中で何万人という人間が一斉に喚いてるみたいだ。脳みそにインテル千個くらい埋め込まれたみたいだ。
「ああーッ! ああああーッ!」
耳を塞いで大声を出す。あの世界で見たことも聞いたことも早く忘れろ。俺の頭じゃ保たないぞ、あのハンパない情報量は。
でも、あれだけは忘れるな。
俺は見つけた。俺は確かに、あの渦の中で美結の声を見つけたんだ。
「あーッ! あー…あぐっ!? ギギッ!? ギギギ、ギッ! ギギギギィィィィィっ!?」
ぎしぎし頭蓋骨が軋む。痛む。
なんだこれ? 俺の頭が膨らんでく。2倍から5倍になって、さらに膨らんで、まるで罰ゲームの巨大風船みたいに膨らんでく。膨らんでく。
やばい。死ぬ。死ぬ。死───。
「げろろろろろろろッ」
そして中身が、大量の液体となって俺の口から出てきた。
黒く澱んだ液体が溢れていく。砂漠を覆い尽くし、美結の小さな体を飲み込み、津波となって地平線まで黒く染めて、あっという間に砂漠に吸い込まれていく。
「はぁッ、はぁッ、はぁッ…」
え、何、今の? 俺、何を吐いたの? ちょっとした海じゃない?
って、美結は? 美結の体はどこ行ったッ!?
……振り向いた俺の後ろに、小さな女の子がいた。
1、2才くらいの、なんだか少し見覚えがあるような子が、ぺたんと砂漠の上に座っていた。
「美結?」
女の子は小首を傾げる。そして、その体がぼんやり光って、頭の先から小さな光の玉を出した。
俺はそれにも見覚えがある。小さな小さな、その光の名前は。
『水が飲みたい星』
「……雨、ふれ」
今まで、俺の命令にまったく反応しなかった砂漠が、雨を降らせた。俺はこの手に、何かを掴んだような気がした。
女の子は上を見上げて、俺の顔を見て、再び体を光らせる。
そして、ぼんやりとした星をまた吐き出した。
『アイス食べたい星』
「……ぷっ、ははははっ」
なんだよ、コイツ。
ほんとどうしようもねえ。
助かったと思ったら、さっそくのワガママ放題か。
ホント、どうしようもねえ妹だな。人の気も知らないで。
「あはははははははっ!」
笑えて仕方ない。止まらない。俺は腹を抱えて転げ回った。
こんなとき、どんな顔していいかわからないってアニメあったよな。
確かにすごく簡単なことなんだ。
笑うしかないんだって。こんなときは。
*
「んーと……それはこっちでいいか?」
美結はコクンと頷いた。
俺は『水泳部のリレー代表に選ばれたい星』の隣に、『新しい水着が欲しい星』を浮かべる。
『部活』カテゴリに入れるか、『ファッション・コスメ』に分類するか迷うところだが、水泳部の成績次第では母も折れる可能性があるので、部活方向に関連づけることにした。
それに、あくまで競泳用の水着を買わせることが大事だ。おしゃれ水着でも買われて海にでも行って変な男にナンパされても困るし。美結にはまだそういうの全然早いからな。
宇宙を作るという仕事は大変だ。将来のことも見据えて、細心の注意と根気で取り組まねばならない。神の気苦労も偲ばれるというもの。
そして美結は、俺の助手兼星製造器だった。俺のそばで、星を出したり運んだりして、俺の手伝いをしてくれている。
星を吐き出すたびに、彼女は少しずつ成長していく。成長はしてるけど、まだ全然喋ってくれないし、表情も乏しい。
でも、美結ギャラクシーが完成したあかつきには、きっと最高の笑顔を見せて「お兄ちゃん、ありがとう」って言ってくれると思うんだ。
そしたら俺は「どんなもんじゃい」と胸を張り、頭でもナデナデしてやって、晴れて現実世界にリターンするつもり。
もう少しなんだ。もう少しで、美結ギャラクシーは完成する。
だが、そのとき事件は起こった。
「……とうとう出てしまったか……」
例のアレだ。『お兄ちゃんと結ばれたい星』だ。
もうダメでしょ、こんなの出したら。この星1個にどんだけ振り回されたと思ってんだよ。
しかし、見て見ぬフリしてコッソリ捨てようとした俺の腕を、すかさず小っちゃい美結が掴む。そして首を横にフリフリする。
「いや、でもこれは元々ここにあっちゃいけないヤツでさ」
そもそも、俺が余計なことをしたせいで生まれた星だ。美結が自分自身の望みとして生んだのとは、微妙に違う。
てか、これが全ての元凶といってもいい。
「こんなの捨てよ?」
フリフリ。
頑なな意志をまったく感じさせない無表情で、美結は首を振る。しかし、俺の腕を掴む力を強くする。
俺の知ってる頑固でわがままな美結が、彼女の中で少しずつ育ってきているようだ。
「……わかったよ。これも一応、浮かべておこうな?」
コックリと美結は頷いた。
そうだな。こんなものだって大事な美結の星だもんな。
きっかけは何であれ、美結の心に生まれたものは美結のものだ。決めるのはコイツでいいんだ。あとは外の世界で、俺がしっかりしてればいいだけのこと。
残念だが美結、その星は攻略不可能だぜ。
今度こそ、ちゃんと普通の兄妹するんだからな、俺は。
「出来たー!」
小さな宇宙が出来上った。ミニチュアサイズだが、間違いなく美結の心の世界だ。俺の作った偽物と違って、それはやはりキレイだった。
そして、星々が弾けるように空を飛ぶ。
天高く広がって、大きくなった。それぞれの星がステージだ。キラキラと瞬く。グリグリと動く。
「…すっげぇ…本物だ…これが本物の……」
美結ギャラクシー。
ポップでカラフルな星々が、宇宙いっぱいに広がる。女の子の夢とワガママと可能性で作られた宇宙は、欲張りなくらいに無限大。
倉島美結の宇宙は、限りなく大きい!
「すっげな、美結。やったぜ! 美結ギャラクシーの完成だ!」
美結は、ぼんやりと宇宙を見上げていた。
そしてゆっくりと俺を振り返って……満面の笑みを浮かべた。
「お兄ちゃん、ありがとう」
いろいろと言ってやりたいことはあったんだ。
俺がどんだけ苦労したかとか、それを黙ったままカッコつけようとか、やっぱり一言くらい文句は言おうかとか。
でも、気がついたら俺は頭を下げていたね。
「……ごめんなさい。美結、本当にごめんなさい」
情けないことに喉はヒクヒク震えてしまうし、目から潮汁があふれ出るし。
でも止まらない。俺が美結に言いたいことは、最初からこれしかなかったんだ。
「俺、俺、お前に本当に、ひどいことした。兄ちゃんのくせに、絶対やっちゃいけないこと……美結、ごめん! 本当にごめん!」
美結は何も言わず、小さな手のひらで俺の頭をナデナデしてくれた。
顔を上げると、美結はニコリと微笑んだ。そして、俺に向かってバイバイと手を振ると、背中を向けて走り出した。
もう俺は呼び止めたりはしない。ただ見送るだけだ。
その頼りなげな背中を。砂を蹴る確かな足取りを。
小さな美結が、無限の宇宙に向かってジャンプするのを。
───俺はベッドの上で、美結を組み敷いていた。
「……お兄ちゃん、痛いってば」
美結の腕を掴んでいて手を、俺は放す。美結はしかめっ面して、でも、少し恥ずかしそうに俺から顔を背ける。
「に、逃げたりしないから……もっと優しくしてよ」
美結。俺の妹でクソ生意気な美結。バカ美結。
「バーカ!」
「え、なに?」
俺は布団の上に顔から突っ込んだ。すっげー疲れたし、すっげー虚脱感。
そして、この安心感。現実の空気。現実の体の重み。隣にいる美結のぬくもり。
「どしたの、お兄ちゃん……しないの?」
美結が俺の腕をツンツン突く。俺に素肌を寄せてくる。
「するわけねーだろ、バーカ……ウソに決まってんじゃん」
「なにそれ!? 信じらんない!」
美結はギャーギャー喚きながら俺のこと叩いたり「さいてー!」と罵ったりする。
でも、構うもんか。俺はもう美結にエッチなことしない。しないったらしない。
「……お兄ちゃん、マジで、どうかした? 泣いてるの?」
「っく…泣くわけねーだろ…黙れ、処女が…」
なんで泣いてんだ、俺? 安心しちゃったの? 妹の前で泣いちゃってるわけ?
やだもう、かっこ悪い。
「なによー。お兄ちゃんだって童貞のくせに」
マジで童貞ちゃうわ。
でも、美結は文句言いながらも、俺の頭を撫でてくれる。そういうのまた俺の涙腺刺激するでしょっていうのに、優しくナデナデしてくれるんだ。もー、バカバカ。
「……美結。俺たち兄妹だから、やっぱエッチは無理だ。キスもしないほうがいいな」
「えー、なんでー!」
「その代わり、仲良くしようぜ。ゲームしたりアイス食ったり遊んだり……ちゃんと兄妹しよう。これからずっと」
「……なにそれ? どしたの、急に?」
「どうもしねぇよ」
これからも、恋愛の真似事程度には、仲の良い兄妹を続けようと思う。
いつか美結にちゃんとした彼氏とか出来るまで、俺がそいつの代わりをしてやろうと思うんだ。
「美結。いつかお前が俺の手の届かないところまでジャンプしても、俺はここにいるよ。宇宙の果てまでだって、俺がずっと見守っててやるから、お前は安心して飛べよ。どんなに離れても、心は一緒だから」
俺みたいなダメ兄にこんなこと言う資格ないかもだけど、こんな俺でも美結にとっては兄ちゃんだ。
そして俺にとっても、美結はかけがいのない妹だと、今ならハッキリ言えるから。
「ずっとお前の……そばにいるよ」
───パァン!
そのとき、美結が打ち鳴らすハンドクラップが、俺の耳元で炸裂した。
普段の俺なら死んでも言わないような、珠玉のハズいセリフ連発に、美結はとうとう耐えきれずに、手をパンパン叩いて笑い始めた。
転げ回っては笑って、涙を拭っては笑って、俺のネネさん抱き枕をバシバシ叩いては笑って、「しかもテルマのパクリとかwwww」と言っては大爆笑してた。
今日もうちの妹が元気でなにより。
もちろん、ぶん殴ってやりましたけどね。
*
俺は今、可愛いあの子をスネークしている。
藤沢、やっべぇよなぁ。
今日もめちゃくちゃ可愛いわ。あり得んくらい可愛い。ホント、よく俺らこんな美少女のいる教室で授業受けられるよな。彼女の輝きが黒板に反射して読めねぇだろ。
彼女は窓際の自分の席で、渡辺や三森あたりのイケてる女子たちと一緒に雑誌広げて読んでいる。
朝っぱらから、クラスの有力者たちを集合させちゃうカリスマ性はさすがですよね。
俺は、そんな彼女を掃除道具ロッカーにもたれかかり、そっと見ている。
ハブられボーイの俺と、カリスマアイドルの彼女。
俺たちに接点なんかない。永遠の平行線どころか、お互いの視野には存在しないも同然だったんだ。
昨日までは。
「おい、ゲロ島。邪魔だぞ」
どっかのバカが、ヘラヘラと近づいてくる。後ろでアホみたいに笑ってる連中も一緒だ。
昨日の件で、俺も多少は有名になったようだ。光栄だね。
俺はバカを寝かしつけてやる。
野郎の心の中など一寸の虫ほどの価値もないので省略するが、背中を向けたままそいつの心に触れて、10分ほど寝てろと命令してやった。
「え、おい、どうしたんだよ…おま……?」
「だいじょう、ぶ…か…?」
後ろの連中も寝かしつける。
バタバタと倒れていく男子たちに、他の連中も気づいて教室が騒然としていく。 藤沢は、完全シカトで雑誌のページをめくってる。
渡辺と三森が騒ぎに気づいて、俺を見て目を丸くした。
2人とも、今日も可愛いね。でも朝の挨拶は後にしよう。ちょっと俺、忙しくなりそうだから。
集まってくる連中を、俺は寝かしつけていく。教師を呼んでこようとする連中も扉の前で寝かしつける。
ついでに、ゲロ島の記憶を消すことだって忘れない。さすがにそのアダ名はカッコつかないし。ゲロ島て。ストレートすぎるわ。
男どもにはパンチの一つも浴びせていく。女子には優しく、お尻の一つも触ってから寝かしていく。
余計なことして遊んでるヒマはない。
俺の目当ては、藤沢だ。
騒ぎの中心で平然としている俺に気づいたのは、渡辺と三森だけ。俺は2人にだけわかるように、人差し指を唇に当てる。渡辺と三森は視線を戸惑わせる。
藤沢は、微笑すら浮かべ、雑誌から顔も上げようともしない。
次々にみんな、夢の中に落ちていく。でも少しの間だけだから心配するな。少しだけ、藤沢と2人だけにして欲しいんだ。
10分だ。10分だけ、この教室の時間を貰う。
真面目っ子の遠藤も、ビッチの山口も、少女時代の彼女たちの姿は可愛らしく微笑ましかった。俺は優しく彼女たちを寝かしつける。
寺田には屁をかけてやった。クソ腹立つ男子たちには、それぞれに俺への恐怖と畏敬を叩き込んでから寝かしてやった。
渡辺と三森が腰を浮かせる。でも、俺にいつもと違う空気を感じたのか、そこからは動けないでいる。
今、この教室で平常を保っているのは俺と藤沢だけだ。
彼女のパーフェクトな精神力は、この程度の事件なんかで動揺なんかしない。明らかに昨日よりもパワーアップしている俺を前にしても。
ゾクゾクする。藤沢はやっぱりすげえ。最高だ。
オラより強いヤツがいるなんて、ワクワクするぜ。
ワクワクしすぎて、テニス部の秋田の心に入ったとき、おもわずチューしてしまった。テンションに任せて、アソコとかにも触っちゃった。思わず俺に惚れさせてしまったが、まあ、こいつもそれなりに可愛いんだから仕方ない。
次に出会った文芸部の菊地は意外と気の強い内面してたから、俺への従順を仕込んでついでにフェラもしてもらった。
そんなことしてる場合じゃないっていうのに、俺ってテンションとエロが直結してるタイプだし、バレー部の二階堂は少女のくせに豊満な体してたから、セックスしてしまった。
やべぇよ。何遊んでんだよ、俺。
でも気持ち良かった。他人の心を口説いてセックスするのは、やっぱり楽しい。
藤沢は、静かに髪をかき上げるだけだ。
やむを得ん。
こうなったら男子を先に寝かせてしまって、女子は一通り抱いてしまおう。
この俺がMCで教室支配なんて生意気なことしちゃうなんて考えたこともなかったが、やってみたら自分でも驚くほど興奮してしまっていた。
しかもさっきの俺、異常事態の最中に渡辺と三森に「シーッ」とかやっちゃって、なんか謎の転校生ぽくなかった? 厨二的に激しくかっこよかったと思うんだけど。いや、かっこよかった。確実に。
もう、抱いちゃえ抱いちゃえ!
今の俺、かっこいいからみんな抱いちゃえ!
さっき寝かしつけた真面目っ子の遠藤の心の中を起こして、俺に惚れさせてセックスして、もう一度寝かせた。
ビッチ山口には、あえて俺に心底惚れさせるだけでエッチなことはせず、純愛を仕込んでやった。
高口も斉藤も可愛いから抱いた。うちの女子、ほんと力のあるヤツばっかりだ。抱ける。マジで全員抱ける。
美結の心の中という、精神と時の部屋で長年を過ごし、大きな事件を乗り越えた俺は、確実に昨日の俺と違っていた。
今の俺には、別の世界が見ている。
教室に、何かが横たわっている。薄いベールを被せたみたいに、黒いモヤが地を這うように、人の心の間を這う川のようなものが広がっている。
俺だけがそこを歩いている。その先にあるのは、みんなの心。形のない世界の形。
どいつもこいつも、愉快でキレイで滑稽で気色悪い世界を持っていた。俺は自由にその中を渡り歩き、みんなの秘密の世界を覗き、エッチなこともさせていただいている。
俺が見ているのは、形而上を繋ぐ大きな道だ。
捻れて歪んで、果てしなく長い。踏み外すと二度と帰ってくれないかもしれない。呑まれると命を失うかもしれない。でも俺は行く。この道を見て、知って、歩く俺は形而上の散歩者だ。
恐れずに歩け。慎重に自由に歩け。支配者の行く道を。
貧乳の堀内には、胸をでかくするためには倉島君の精液が有効だと教えておいた。
美術部の松倉には、前にイジワル言ったこともある俺に対して常に罪悪感を抱くようにして、お詫びとして俺に「デッサンのモデルになって」と言われたらどんな恥ずかしい格好でもしなければならないと脅迫した。
俺の前の席に座ってる柴田には、アナルに指を突っ込みながらセックスして、授業中にも俺にこのアナルを見て欲しくてどうしようもなくなるように仕込んだ。
イジメられっ子の馬淵には手コキをさせて、俺にどんな性的イタズラされても軽いイジメ程度にしか思わず、じっと我慢するように命令した。
仲良すぎてレズ疑惑のある渋井と嵯峨野には、俺も混ぜての3Pプレイを極上とした。
ランク第4位の高谷は、体操着を着るたびに俺に抱かれたくなーれと命令した。
5位の江畑は俺の匂いフェチになーれ。6位の中橋は変な下着マニアになーれ。
俺の後ろの席の西尾は、俺が目の前で消しゴムをかけるたびに自分のマンコが擦られる感覚に震えーれ。
そんな感じで他の女子もみんな抱いて、俺に恋をさせたり、変な命令したりを楽しみ、支配していった。
男子は、まあ、俺のやることに従って適当に生きてろって感じにした。
「な、なにこれ…? シュウ、これ何が起こってるのッ?」
「あの、ご主人様…リナはどうしたら…」
動揺して素が出てしまっている渡辺と三森を、俺は問答無用に抱きしめる。
すんごく久しぶりに抱く彼女たちの柔らかさに泣きそうになりながら、俺は心の中の彼女たちに優しくささやきかける。
愛してるぜ、はるか、リナ。心配させてごめんな。
だけど今は少しだけ眠っててくれ。すぐに終わるから。
俺の腕の中で、渡辺と三森の体から力が抜けていく。
藤沢は、ぴくりとも動じない。
クラス全員が俺に倒され、渡辺と三森を目の前で奪われても、その完璧美少女の横顔には、ほんのわずかの動揺すら浮かばない。
さすがだぜ藤沢。それでこそ藤沢。
ていうか俺、いろいろ常識改変しすぎてない? じつは結構な大惨事じゃない?
やりすぎに気づいた俺は、もう一度クラスのみんなを心の中で叩き起こして、今後、教室の中で俺がどんなエロハプニングを起こしても不問にせよと命じて回った。
でもアレだな。これだけ教室のみんなに異常が起こったら、隣のクラスのヤツらにも気づかれてしまうかも。
うん、やばいよな。なんとかしないとダメだよな。
そんなわけで俺は、隣のクラスも支配することにした。
このクラスは、北別府というゴージャスな美少女が女子を仕切っている。
俺はまず最初に彼女の心を激しく抱いて抱いて抱きまくり、俺のチンポなしでは生きていけない女にした。
そして可愛い順に次々と抱いていき、ブスはまあ、俺が何しても騒ぐなよ程度に命令しておき、男子にも同様なことを命令した。
そして、隣の隣のクラスにも飛んだ。俺はこの場にいながら、意識だけを教室の外に走らせ、支配範囲を拡大していった。
藤沢は、退屈そうに雑誌をめくって、長い髪をかき上げた。
あぁ、なんてセクシーなうなじ。
早く藤沢にみんなをエロ支配してるとこ見せつけて「最低」となじられたい。
よーし、もう、いっちゃえいっちゃえ。
いっそのこと学校支配だ!
下級生も上級生もめぼしい女は俺のオンナにした。当然、職員室も例外ではない。
新卒の可愛い系体育教師である伊沢先生には、俺たちの体育担当になって毎回ひもビキニで授業しろと命令した。
黒髪ロングの安達先生は、明日から女海賊ばりのセクシードレスと高慢な態度で俺たちのクラスの担任になれと命令した。
校長は、さっそく職員会議でそのことを通達しろ。教頭はその席でヅラを外せ。
各クラスの男子は、今月中にミスコンテストを開催して、上位3名の女子を俺に献上しなくてはならない。
1学年6クラス。倉島54クラブの結成だ。
寺田は各クラスより選ばれたメンバーの顔写真入りリストを作成して、他の男子数名とともにクラブの運営にあたれ。
そして軽音楽部と提携して、彼女たちのデビュー曲『くらしま☆ちゅちゅちゅ』の完成を急ぐんだ。文化祭までには間に合わせるのだ。
藤沢は、スイーツかなんかの記事を見て「あ、これおいしそ」なんて顔して微笑んでる。
ホントすげぇな、藤沢。俺も相当おかしいけど、お前もどっか狂ってるよ。
お前1人を残して、学校全部が俺にイカレた支配されてんだぞ。俺の奴隷と性奴隷しかいない校舎で、どうしてそうも平然としてられるんだよ。
あ、でも待てよ。今日、まだ来てないヤツとか、休んだりしてる人もいるよね?
そいつらの支配はどうすんの? 常識人を少しでも残しちゃったら、俺の支配もそこまでじゃない?
ちっくしょー、思わぬ落とし穴だ。いっそ街を? 都市ごと支配してしまう?
いや待て、そんなことする必要ないじゃん。いいこと思いついた。
俺、お前らをクラスタ化しとく。
1人1人に下した俺の命令と暗示とは別に、集合的な暗示を全員でプールしておく。そして複数人が形而上的に繋がると、俺の暗示が発動するようにトラップを仕掛けておく。
つまり、今日ここにいない人間でも、明日この学校に参加すれば自然に俺の暗示に染まる罠というわけ。さらに街でも家でも、複数以上の生徒や先生が存在すれば、それは共通理解として無関係の人間にも広がる。
俺の身の安全は保証される。どんなことをしても許される。まさに俺の理想的な支配。
藤沢は雑誌をめくりながら、アクビを噛み殺す。
ゴメン、藤沢。もうちょっと待ってて。
俺もう一回、校内洗脳やり直してくるし!
すでに広範囲支配に慣れてきた俺は、超高速でこの場の人間たちの意識に繋ぎ、共通常識を書き換えていく。
俺に限っては、学校内でのスカートめくりは無罪放免。キッスは挨拶。ベロチューは世間話。ペッティングは文化活動。
今後、女教師や女子職員の採用条件は俺好みとする。保健室のベッドは、俺専用のラブホだから俺が誰を抱いてようが気にすんな。女子トイレも体育倉庫もシャワー室も俺のプレイルームだ。更衣室だって俺は女子のを使っちゃう男だから気にすんな。
そんで俺の机は隣の女子とくっつける。椅子はベンチにして、女子は毎時間交代で俺の隣に座って、こっそり奉仕しろ。あくまで見つからないようにが前提だが、見つかったとしても、まあまあ気にすんな。そういうプレイだから。
いっそ俺の席の周りは女子だけにするか。弁当もハーレムで食おう。みんなの弁当を「あーん」で食べさせてもらおうは。ちなみに俺、ブロッコリー嫌いだからみんな覚えておいて。
そうだ。月に1回、倉島54クラブでパジャマパーティしよう。
男子のカンパでケータリングして、体育館に布団敷いて騒ぎまくろう。メンバー以外にも参加したい女子は、布団持参で参加OKだよ。みんなで朝までアルコール・アンド・エッチで騒ごうぜ!
それじゃブス以外の女子、みんな聞いてー。
最近流行りの制服の着こなしは、ノーブラでシャツは第2ボタンまでオープンだよ。パンツは白かチェック柄、時には大胆セクシー系。そんな下着を倉島にだけこっそり見せちゃう小悪魔系で迫っちゃえ。俺とのセックスは最高に気持ちイイし、健康と美容のためにも最高なんだ。だから処女ん子さんたちは、倉島くんに奪われるまで大事にとっておこうね☆
俺のくっだらねえ妄想が学校に蔓延する。思いつくままに学校を支配していく。クラスタ暗示は今後、転校生でも新入生でも支配する。
全員、今から10分間の睡眠に陥り、目が覚めたときは俺に従う人形に生まれ変わるんだ。ハジケる俺の能力が現実と妄想の壁を突き破り、倉島イズムで学校を染めていく。
興奮する。
この感覚は俺じゃないと味わえない。選ばれたヤツにだけ与えられるエクスタシーだ。
他人の支配。妄想の実現。なんていう強烈な快感!
全ての支配を終えて、俺は再び教室に帰ってきた。藤沢は、何かを悟ったかのように雑誌を閉じた。
俺は抱いたままだった渡辺と三森を近くの席に座らせ、藤沢の席に近づく。
悪魔の支配者となった俺と、その俺にたった1人で対峙する天使の藤沢。
静まりかえる教室。眠りにつく学校。
藤沢は、ゆっくりと立ち上がって、初めて俺の方を見た。
その笑顔は、まさに天上の者にしか出せないほど純度の高い魅力に満ちていて。
「おはよう、倉島君」
藤沢綾音は、今日も完璧。
ただの挨拶に、俺は圧倒された。
どんな状況でも、どんな場所でも、彼女は彼女であり、完璧であることに変わりなかった。
たった今まで、学校を支配下に置いて余裕だった俺の万能感も吹き飛ばすほどに。
「……おはよう、藤沢さん」
彼女は自分の強さを知っている。こんなことで揺らぐようでは完璧超人とは言えない。動揺するフリぐらい簡単なはずなのに、それを知ってる俺の前では、自分の異常なまでの平常心を隠さない。
「私に何か用なのかな?」
憎たらしいほどの美少女。思わせぶりな笑顔は、容赦なく俺をときめかせる。
自分の容姿が一番の武器であることを彼女はよく知ってる。
「もう一度、君の中に入っていい?」
俺は藤沢に右手を差し出す。
「いいけど。でも、無駄だと思うよ」
「やってみなけりゃわからないよ」
藤沢も、右手を差し出した。
彼女だって俺が昨日と違うことくらい気づいてるだろう。
だが、その程度のことで動揺したら藤沢は藤沢じゃなくなる。差し出された俺の手から逃げることは彼女にはできない。
笑顔で受けて立つのが、藤沢綾音という人だ。
「変な人だね、倉島君って」
「藤沢さんほどじゃないけどね」
フッと、彼女は柔らかく笑う。そして、きっぱりとした目で俺を見る。
「それじゃ、勝った方が学校一の変人ってことね」
「ははっ、それいいね」
藤沢とこんなことになるなんて、あらためて考えると不思議な感じ。クラス一の美少女と、この俺が決闘するんだぜ。
ちょっとした優越感と、触れた手のひらの柔らかさに感動を覚えながら、俺は藤沢綾音のパーフェクト・ワールドにダイブした。
───教室から人が消える。
その中で握手する俺と藤沢。
超がつくほど現実的で、なのに現実よりもはるかに美しく、完璧な姿をした世界。
こんな光景を作り出せるのは、藤沢だけだ。すごいよな、やっぱり。
「また来たんだね、倉島君」
そして、この世界の藤沢は、現実という煤けたフィルターがない分、もっとキレイに見えるんだ。
俺は彼女の手を放す。
「……昨日は俺のこと、変態だの最低だの言ってくれたよね」
「うん。でも本当のことでしょ?」
藤沢は、悪びれることもなく小首を傾げる。
「そのとおりなんだ。俺って最低の変態でクズ野郎で、エロいことばっかり考えては一年中ボッキとオナニーを繰り返している変態模範生徒なんだよね」
「やっぱりー」
クスクスと朗らかに藤沢は笑う。
表情が変わるたびに、どれも可愛いものだから、変えて欲しくないような、もっといろんな表情が見たいような、ムズムズする感じになる。
恋しちゃったかなぁ、俺。
藤沢はキレイで、強くて、可愛くて、たまらなく素敵で。
俺はたぶん、こいつが好きなんだ。
「だからさ、俺、藤沢さんをめちゃくちゃに犯してやろうと思うんだ」
「ハァ?」
藤沢は、一瞬、心底気持ち悪そうに顔をしかめて、「無理に決まってるでしょ」と笑った。
俺は彼女の胸元に向かって手を伸ばす。藤沢は俺を手首を掴み、軽くひねるだけで俺を投げ飛ばした。
机をなぎ倒して、俺の体はもの凄い勢いで真横に吹っ飛び、壁に背中から激突して落っこちる。
うーん、すごい。攻撃には攻撃を、彼女は容赦なく反射してくれるんだな。
「無駄だって言ってるのに」
俺をゴミクズのように見下ろす彼女は、楽しげにすら見える。
立ち上がって、教室を見渡す。倒れたはずの机も、いつの間にか整然と並んでいる。キズ1つ残っていない。
ビビるなよ、俺。
見た目に騙されるな。彼女は強い。誰よりも強い。遠慮なんてしてたら、また負けちまうぞ。
「たぎれ、俺のエロパワー!」
俺の厨二エナジーをオーラに変えて全身から発する。その膨大な氣の奔流にパーフェクト・ワールドも震える。
見よ、これが思春期の男子の性欲。青臭い欲望が俺の全身を覆い、主に下半身を奮い立たせる。
我ながら、なんて凄まじいエネルギー。このままではきっと、明日の朝にはまたすんごいニキビが出来ることになると思うが、それぐらいの犠牲はやむを得まい。藤沢に勝つためには!
「ハッ!」
俺のオーラに弾かれた机が、藤沢に向かって飛ぶ。
「だから……どうしたっていうのよ!」
しかし藤沢は飛んでくる机を意に介さずかいくぐり、俺に向かって突進してきた。
まっすぐ来るか、藤沢。
俺のこの異常に激しく攻撃的なオーラを見ておきながら、躊躇なく肉弾戦に持ち込むそのクソ度胸ときたら。
どんな勝負も真っ向から受けて立ち、勝利するのが彼女の生き方。
やっぱり藤沢かっこいい。濡れる。
藤沢に敬意を表して、俺も荒ぶる鷹のポーズで迎え撃つ。
彼女の鋭い正拳突きを左に捌き、その後頭部に向かって肘を入れた。だがその前に藤沢は体を反転させていて、逆に俺の懐に潜り込み、下から喉を狙って手刀を突き上げてきた。
容赦ない急所狙いに、ぞくりと悪寒が走る。俺は体を反らして手刀をかわし、後ろに下がる。しかし藤沢は、今度はがら空きの胴体に向かって回し蹴りを伸ばしてきた。膝と肘を使って受け止めたが、ガードごと吹っ飛ばされて床を滑った。
息つく隙もない。しびれる肘を振り払って、俺は構える。
「ハァァッ!」
「やあぁぁっ!」
ガチの戦闘力としてはほぼ互角。なぜなら、藤沢は俺の戦闘能力を見事に反射しているから。俺がスピードを上げればスピードを、パワーを上げればパワーを上げて食らいついてくる。
しかも、技の発想は明らかに藤沢が上だ。思考能力が違う。押されているのは俺の方だった。
藤沢、恐るべし。ノーマル人間のくせに、異能力者の俺にここまで対応できるとは、まさに底なしのメンタル強さだな。
しかし、俺はこの戦いの中で、もっと恐ろしい事実に気づいた。驚愕すべきことだった。
藤沢は……スカートの下にショータイを穿いている!
「バカヤロウ! パンチラもないのに、無駄な汗かかせるんじゃねぇよ!」
「何言ってんのよ、ヘンタイ! あんたなんかに私が下着を見せるわけないでしょ!」
くだらん。付き合って損した。
真面目な顔して「ハァァ」とか言って、俺バッカみてぇじゃん。
「ほらよ、太陽拳」
「きゃっ!?」
俺は太陽拳とは名ばかりのファスナー下ろしで、藤沢にチンコを見せつけた。
驚いた藤沢が目を覆う。その隙に俺は彼女の背後に回り、おっぱいを揉んでやった。
「いやあああ!?」
「やったー! 藤沢のおっぱい揉んでやったぜ!」
「何すんのよ、エッチ! ヘンタイ!」
「あぁ、俺はエッチだ。なおかつ変態だよ。だからエッチついでにお前にいいこと教えてやる。藤沢のおっぱい、渡辺より小せえんでやんのー!」
「ッ!? バ、バカー!」
藤沢は顔を真っ赤にして殴りかかってくる。
しかし、さきほどまでの鬼戦闘力が消え失せた、ただの女の子パンチだ。俺は楽勝で受け止める。
「な…なんで…?」
「ククク…わからないのか、藤沢? お前は美しい鏡だ。他人の想いも攻撃も全て跳ね返す完璧な鏡。俺のどんな攻撃も、お前なら打ち返すこともできるだろう。だが!」
俺は藤沢の手をベロンと舐める。
「きゃあああ!? やめてよ、バカ!」
「俺はただ、俺の中の変態を解放しているだけだ。だが、お前の引き出しの中に『変態』はない。このジャンルでは俺が最強、お前は無力。お前は俺に勝てぬのだ!」
「なっ!?」
藤沢は顔を青ざめ、そしてすぐ真っ赤になって怒った。
「いばって言うことじゃないでしょ、ヘンタイ!」
「あぁ、確かにいばれることじゃない。むしろちょっと恥ずかしいくらいだ。でもその恥ずかしさがいいんだよ! 見ろ! 恥ずかしいけど見てくれ、藤沢!」
「ちょっ、やめてよ! そんなの見せないで!」
俺はチンコを出して見せつける。藤沢は顔を隠して俺から逃げる。
だが、無駄だ。俺から逃げられるはずもない。
俺は右手に力を込めて、宙をドンと叩く。そこから藤沢のパーフェクトワールドに大きなヒビが走り、崩れる。
「もっと俺を見てくれ、藤沢ァー!」
俺の妄想が爆発する。教室の空間を突き破って、巨大な俺のチンコが何本もニョキニョキ生えてくる。大蛇のようにのたうつ俺のチンコに翻弄され、藤沢が悲鳴を上げる。
「きゃああッ!? いやッ! 気持ちわるっ!」
「ぜははははーッ! どうだ、この“チンチンの実”の能力は! お前が完璧だというなら、この俺の変態も受け入れてみせろー!」
「誰がこんな気持ち悪いもの……えい!」
「あんっ」
藤沢が目を閉じて集中すると、空間のヒビは閉ざされ、巨大チンコも寸断された。
思わず股間がキュンってなった。
「これだから男はイヤなの。いやらしい。スケベ! こんなの私は認めない。必要ないのよ!」
「違うよ、藤沢。人間ならこういう汚い部分があって当然なんだ。あって初めて完璧な人間なんだよ。汚さ、いやらしさを持たないお前は、ただキレイなだけだ。完璧じゃない」
「なに言ってるのよ。完璧だから、キレイなんじゃない。私の完璧な世界に汚いものはいらない。あなたなんて、いらない! 消えて!」
藤沢がビシっと俺を指さすと、そこに黄金色のオーラが星くずのように散らばる。彼女の振るまいの一つ一つが、この世界の完璧を構築する。
きれいだ。文句なしに美しい心の世界。
でも、藤沢。やっぱり俺はお前がおかしいと思うよ。
この世界は理想的すぎる。美しくて、強すぎる。
まるで……夢みたいだろ。
「……藤沢。今から俺が、全力で男のいやらしさをお前に見せつけてやる」
「はぁ? 何言ってんのよ」
「お前を犯しに犯して、ぐっちょぐちょの精液まみれにして、アヘ顔で『イクイクいっく~ん』っていうまで、この俺が犯しまくってやるっつってんだよ!」
「だからそんなの、冗談じゃな…きゃあッ!?」
「ぜははははーッ!」
突き破れ、俺のペニス。
藤沢のパーフェクト・ワールドに挿入しろ。
この女の世界を、めちゃくちゃにしてやれ!
「こんなもの…!」
藤沢のメンタルガードが空間を閉じていく。
しかし、剛直な俺のチンコはドッカンドッカンと空間から突き出て、藤沢のメンタル立て直しの速度を上回る。
無駄だ。いくら頑張って体裁を整えようとも、俺のエロさと執念もお前の美しさに負けない。
俺だって、ダテに長年、半ヒキのオナニー中毒やってたわけじゃないんだよ。
「俺の妄想は尽きないッ。男子の性欲は射精するまで止まらないッ。しかも一度や二度の射精では止まらなくて自分でも怖くなるときがあるから覚悟しろ。基本サルだぞ、男子って!」
「ふざけないでよ、スケベ! 気持ち悪いからもう喋らないで!」
「あぁ、好きなだけなじれ。俺を罵れ。だが覚えておけ。俺はその罵声をご褒美に変換することもできる。変態だからな!」
「なんなのよ、あなた! マジキモい! さいってー! きゃああッ!?」
ごちゃごちゃ言いながら、藤沢は俺の巨大ペニスたちに突き倒され、転がされる。
すげえ。あの藤沢をチンポの先で転がす日が来るなんて、思いもしなかったぜ。
「ククク…、とりあえず一回ぶっかけておくか」
「え…?」
巨大な砲門のような鈴口を、一斉に藤沢の方に向ける。藤沢は口を真ん丸にして固まった。
「発射!」
360度、あらゆる方向から藤沢向かって射精する。ガロン単位の精子砲。しかし、その直前に藤沢はペニスの包囲網を突破していた。
チッ、すばしっこいヤツ。
「逃がすかぁッ!」
「いやぁぁッ!?」
俺は壁から生えてきた巨大ペニスの上に跨り、廊下を逃げる藤沢を追跡する。巨大ペニスの鈴口は縦にぱっくりと割れ、サメのような牙をガッチガッチ鳴らして彼女の尻に迫る。
「やだやだ、キモい! こっち来ないで! 来ないで!」
「藤沢! いいことを教えてやる。お前だって、男のチンコが多少は伸びるものだということくらいは知っているだろうが、俺のチンコはそんなものじゃない。13kmや!」
「だからどうしたのよ、バカ! バカバカ、バカー!」
まさに俺。圧倒的に俺。
これこそが俺の世界。クズ野郎の真価。欲望のままに、思いつくかぎりのエログロい妄想を爆発させる。
何にも縛られるな。自分を解き放て。
俺は今、変態の風だ。もはや誰も俺を止められない。
現実ではひ弱で貧相なこの僕も、こっちの世界じゃモヒカン刈りで改造バイクのオーナーさ!
「ヒャッハー!」
「いやあああッ!?」
藤沢のきれいな尻と太もも。それを追いかけ回す醜悪な俺の巨大ペニス。
ここでは俺は何をしても自由だ。ハレンチな想像力を武器にして、やりたい放題だった。
つまり俺こそが本物の非実在青少年。
規制できるものならしてみろ、都議会!
「やだ、やめて! やめてぇ!」
藤沢のパーフェクト・ワールドが崩壊していく。廊下も教室も俺のペニスが貫き、犯していく。
巨大ペニスに生えた牙が、藤沢のスカートとショートタイツを絶妙な歯使いで切り裂く。必死で逃げる藤沢を弄び、徐々に見えてくる彼女の白い肌が俺の興奮をますます煽る。
「えいっ」
「へ?」
藤沢が、階段の前で直角に曲がった。いつの間にか廊下の端まで来ていたことに気づかず、俺は巨大ペニスとともに壁に激突し、廊下を突き破ってしまった。
「ざまぁみなさい」
俺とペニスが突き抜けたあとの壁を睨んで、得意げに藤沢は笑う。
そして、振り返って背後に立っている俺を見て、髪の毛を逆立てた。
「なんであんたがここにいるのよ!?」
「自由だからさ」
この世界に常識など通用しない。ここには法則もなければ摂理もなく、文法も順序も位置も時間も関係ない。
想像力が全てなんだ。
「こ、この化け物!」
藤沢は、拳を握って構える。
無駄だとわかっているはずなのに、それでもまだ抵抗はやめられないのか。
「ふん、仕方ない……ギャルのパンティおくれー!」
「承知した」
「きゃああッ!? あんた、誰!?」
誰って、お前、神龍に向かってなんて口の訊き方だよ。
俺の願いを聞き取ってくれた神龍が唐突に背後に現れ、ありがたくも藤沢を押し倒し、その巨大な爪を小器用に動かし、すでに半分破けてる藤沢のパンツをするする脱がせ、俺の上にヒラヒラと落としてくれた。
「いえーい! 藤沢のパンツもゲットだぜー!」
「なんなの…なにすんのよ、もう! パンツ返して!」
俺の思い描いたことは全て実現し、それは藤沢の世界の秩序を超えて作用する。
藤沢の内面は誰よりも美しく秩序的だ。でも、それは心と呼ぶにはあまりにも狭量なんだ。だから好き放題やってる俺に翻弄される。ついて来れなくなる。
心の世界はもっと広いんだぜ、藤沢。もっと自由に振る舞ってもいいんだ。俺を見ろ。感じろ。
そして一つだけ、この自由の下で赤裸々になった事実がある。
俺ってば、本当に少年ジャ○プくらいしか本読んでないのな……。
「抵抗しても無駄だよ、藤沢。どんなに足掻いても俺には勝てない。あきらめて俺の女になるんだ早く今すぐ俺に抱かれて抱いてください」
「イヤよ…絶対に、イヤ! 私は私。誰かのものになんてならない。あなたにも、お母さんにも、絶対に負けないんだから!」
崩壊した教室と、服をボロボロにしてなおかつノーパンな藤沢は、それでも拳を握りしめる。
この状態でも、不屈の頑固と潔癖さで俺を拒む藤沢はたいしたもんだよ。チキンでヘタレな俺から見れば、その無謀とも言える強気はカッコ良く思える。
てか、チンポが13kmも伸びてDBなしで神龍呼べる俺に勝てるわけがないのに。むしろ勝てるほうがアホなのに。
これ以上俺がやりたい放題やれば、藤沢の精神にも大きなダメージを与えることになるだろう。
だが、ここでやめるわけにもいかない。
俺に藤沢を壊すつもりはない。でも、このまま放っておくつもりもなかった。
完璧な彼女から、妥協と許可を引きずり出すまでは。
そのためには───まだまだ、変態が足りない!
「これだけはお前に見せたくなかったが、やむをえん……見ろ! これが本当の俺だ!」
俺は、恥も外聞も人間の体もかなぐり捨てて、首から下を触手に変えた。
「なんでッ!?」
藤沢は顔を青くして悲鳴を上げた。
俺も羞恥で顔を赤くした。
「藤沢…じつは俺、ずっとこういうことしてみたかったんだ。授業中とかに、なんかこうムラっとしたときとか、触手伸ばして女子の制服の下に潜り込みてぇなあって、いつも想像してたんだよ…」
「やだやだ、やめて! ホント気持ち悪いって、マジでー!」
藤沢が悲鳴を上げるのは仕方のないことだろう。俺だって、ここまでやっちゃうつもりなかった。
まさか触手とか。まさか人の体を捨てて触手とか。
でも教室中に張り巡らせた俺の触手が、藤沢の体に絡まり、拘束していくこの感じ。
あぁ、たまらない。なんて扇情的な光景だ。
「なんなの、これ!? いやっ! うう~~ッ!」
いくら抵抗しても、俺の触手からは逃げられない。
藤沢の体の感触が触手と化した皮膚に伝わり、心地よい。柔らかい肌がヌメヌメの粘液によって滑りよく俺の触手を刺激する。振り解こうとあがく藤沢だが、今の俺は女の力でどうこうするのは無理レベルの化け物だし、逆に触手を引いたり締め付けたりする動きが、ますます気持ち良い刺激となって、全身が性感帯となった俺を悦ばせてくれる。
やばいよ、これ。想像していたよりも、かなりやばい。
人間やめて良かった。触手、やっぱり気持ちよかったよ!
「倉島ッ、マジでやめて! 気持ち悪い! 本当に気持ち悪いよ、あなた!」
「あぁ、これ確かにやばい。マジで気持ちいい。全身がニュルニュルで藤沢の体に絡みつく…すげぇいい…いいよぉ…」
「その顔もやめて! こっち来ないでってば!」
「気持ち悪いっていうな! 女なんかに何がわかるか! 触手は男の夢なんだよ。触手があれば何もいらないんだよ。思う存分、女を触手で縛れるなら他に何もいらないって、男はみんなそう思ってんだよ!」
「私女だけど、そんなこと考えてる男は絶対あんただけだから」
「え…やっぱそうなのかな…?」
「当たり前でしょ! なんでこんな気持ち悪いもので女を縛らなきゃなんないのよ。普通に抱けばいいじゃない!」
「リア充のお前なんかに、わかるはずがない……クラスの女子には相手にされず、男子にまで空気扱いされて、寝たフリ、便所メシ、一人登下校の俺の気持ちなんて……。お前らが悪いんだぞ! 俺のこと無視するから! 誰も相手してくれないなら、触手しかないだろうが! こんな俺には、もう触手で体をまさぐるぐらいしか、女の子と接する方法がないんだよ!」
「いや、どう考えても触手以外の選択肢たくさんあるし」
「そこに気づくとは……やはり天才……」
「あなた、いつもこんなことばっかり考えてたんだ? 授業中も、寝たフリしてるときも、触手で女子にイタズラすることばっかり考えてたんだ。ヘンタイ! 気持ちわる! 気持ちわるー!」
「……それが何か問題でも?」
「え、開き直るの?」
「俺がどんな想像しようが自由だろうが! 想像の中で女子をどうしようが男子の勝手だろうが! 特にお前なんてなあ、毎日のように俺の触手に絡め取られてんだぞ! お前が教科書を読んでるとき、もしも今、触手を藤沢のスカートの下に潜らせたらどんな悲鳴上げるだろうかって、いろいろ想像巡らせてはネタにさせてもらってたんだぞ!」
「どんな悲鳴って、普通に気持ち悪いと言わせてもらうわよ! ていうか、その想像自体がおかしいじゃない。こんなものぶら下げてたら、授業中に伸ばす前に職員室か警察行きでしょ。バカじゃないの!」
「ハッ! そんな誰でも思いつく程度の心配などない! その触手は普段は俺の体内に収納されている。そして俺が性的興奮を覚えたときにだけ体外に射出される仕組みというか設定なのだ! 誰にも見つかりっこない!」
「それでも触られた時点で警察呼ぶけど!」
「いや、それも無理だ! 俺の触手の粘液には女性を興奮させる成分も含まれている。最初は抵抗している女も、俺の触手に愛撫されていくうちに体は徐々にいやらしく反応し、アハンアハンしちゃって、恥ずかしくて人には言えない感じになって、最終的には俺の触手の虜となってしまうのだ。さらに俺の触手の先端は、ホラ、このとおり自由に切り離しができるから、女の膣内に入れたままにしておけばその女をいつでもイかせることが出来るし、それを使って複数の女を同時に監視しておくことも可能なのだという設定も考えてあるから、全然大丈夫なの! はい論破論破!」
「気持ち悪い……そんなキショい妄想を必死になって守る姿が、本当に気持ち悪い……」
「うん、まあ……確かに俺って気持ち悪いな? だけどなあ、藤沢! 俺もお前に一つだけ言っておきたいことがある!」
「なによ?」
「俺が普段こんなことばっかり考えてるって、他の女子には黙っててください」
「死ね!」
藤沢と軽い罵声のキャッチボールをしながら、俺の触手は彼女の手足を器用に絡め取り、胸をいい感じにシュルシュルと這い回り、股も広げていく。
「放してよ、もう…ッ! やめ、て…あっ…!」
フフ、いくら抵抗しても無駄だぜ、藤沢。
なんと俺の触手のニュルニュルには、女を興奮させる成分が含まれているのだ。あれ? これさっきバラしちゃったんだっけ?
まあ、いいや。とにかく俺の触手をネチネチヌルヌルと藤沢の体に絡みつける。彼女の感触とぬくもりが触手を通して俺の脳にダイレクトに伝わり、とてつもなく気持ちいい。
まさにこれこそ別次元の性体験。もう人間の体になんて戻りたくねーよ!
「あぁっ、やめ、やめて!」
「気持ちいい……気持ちいいよ、藤沢ェ……」
俺の触手にMんこ開脚されて、さらに全身をまさぐられて気色悪さと快感に翻弄される藤沢と、そんな彼女の反応と感触とシチュエーションに震える、首と触手だけになった俺。
端から見れば猟奇エロマンガだろうが、気持ちいいものは気持ちいい。
藤沢の体にニュルニュルの触手を絡みつける。まるで、彼女の体を俺の中に取り込んでいくみたいだ。
すごい。普通に抱くだけじゃ、こんな一体感は味わえない。俺は今、藤沢綾音を俺の体で拘束している。彼女の体を余すことなく感じている。
もっと。もっと藤沢の体を知りたい。
俺は、藤沢のマンコに首を近づけていく。
「藤沢…ここもすげぇキレイだ…」
「あ、いやっ、そこはッ!」
藤沢の、秘密の割れ目が見えている。でも渡辺や三森のと違って、足をこんなに開いてもまだそこは固さがあるのか、開ききってはいない。
顔を残しておいて良かった。彼女のここを、俺の目で見て、匂いを嗅いで、そして味わうことができるんだ。
藤沢の大事な場所へ、舌を伸ばして触れる。やや濡れ始めていたそこは、俺の舌で開かれることによって、さらに奥から液を溢れさせる。
「やっ、ダメ…ダメェ!」
ぞわぞわと肌を泡立たせ、藤沢が声を大きくする。
自分の中から愛液が出るのが、わかったんだろう。顔を真っ赤にして、必死で抵抗を始めた。でも、もちろん俺がやめるはずもない。
マンコ周辺のビラってしてるヤツ、藤沢のは内側に向いてる感じ。そして少し固い。渡辺のはもっと外に開いてたと思う。そんで、この上の方にクリトリスっぽいのもあるはずなんだけど、藤沢のは、もうちょっと奥の方にあるみたい。潜ってて舌じゃよくわからない。きっと、まだ誰もここに突っ込んだことないから、閉じているんだ。まだ誰もここを知らないから。
それが藤沢のマンコ。
全男子生徒及び全男性教師が聖地と崇め、ここを巡り水面下で激しい戦争を繰り広げてきた夢の桃源郷。余りにも難攻不落ゆえに、実在するかどうかも懸念されたエルドラド。
そこに俺が一番に口をつけた。
藤沢のオマンコを最初に舐めたのは俺だ。ここに触れたことのある男は、まだ俺だけなんだ。すごい達成感。脳みそ蕩けそう。
「……やめて! なんで私が、あなたなんかにこんなこと…ッ! ふざけないで!」
しかし藤沢は、この状況でもまた化け物じみた集中力を発揮する。
崩れた教室が元の姿を取り戻す。破れた制服が整っていく。乱れた髪がサラサラに流れて、彼女の握った拳に星くずが飛び散る。
「私は、誰にも屈しない……あなたにも、お母さんにも、絶対に負けないんだから!」
触手に縛られた腕を、自分の力で縮めていく。みっともなく開かれた足も閉じていく。
「私に指一本触れないで……私の中から出て行って! あなたたちみたいに醜くて傲慢な力、私は絶対に受け入れない。死ぬまで戦ってやる!」
俺を睨みつけるその眼は憎しみと怒りに満ちていて、彼女と布団ババアとの確執の深さを伺わせた。
しかしそのドロドロとした感情と闘争心を内深くに秘めていても、それでも彼女は気高く美しかった。美少女だった。
正直、俺は藤沢に怖い顔で睨まれてドキドキしてた。積極的に失禁したいくらいだった。
俺の触手が、彼女の完璧な美しさに屈服し、彼女の体から剥がれていく。
強ぇ。藤沢マジ強ぇ。
俺もかなり興奮してた。ゾクゾクワクワクしてた。
藤沢はこんなにもキレイで強いのに……俺のほうがもっと強いなんて!
「感謝するぜ、藤沢……お前のおかげで、俺の触手はさらに強くなれるッ!」
「だから、あなたはいつまで触手の話してんのよ!」
触手だけに引っ張るなってか。さすが藤沢は上手いことを言うなあ、うんうん。
だが、こんなものじゃ俺は終わらない。更に進化を。もっとインパクトを。
俺の首から下、触手の部分がさらに数を増やしていく。しかもそれだけじゃない。カラーリングにも凝ってみた。
もう気色悪いなんて言わせない。この夏流行のアースカラーをうまく取り入れ、複雑に絡む触手はまるで森の中のような静の空間を教室に重ねていく。
「な、なによ、これ…ンンッ!? いやッ!」
藤沢の腕を縛る触手を、先端から枝分かれさせる。さらに幾重にも分割を重ね、蔦のように彼女の制服の中を這っていく。
教室も。
細く長く枝分かれした触手は色を多彩に変えていき、壁も天井も床も、机も椅子もカーテンも黒板も全部、俺の触手が色を重ね、模様を変えて蠢き、飾っていく。俺のクラーケン(触手の名前)が藤沢のパーフェクトワールドを覆い尽くす。
壊すだけじゃダメだ。
藤沢の美しい世界は、もっと優しく、強引に、包み込むように浸食してやらないとダメなんだ!
「やめてよ、気持ち悪い! やめ、あ、ンンっ!? ンンン~~ッ!」
藤沢の口の中に、触手を数本絡めて突っ込む。口内の感触が、まるでフェラされてるみたいに伝わってくる。
強引にズポズポと動かした。藤沢は苦しそうに、よだれと粘液を口からこぼして喘ぐ。
彼女を拘束する太い触手はシルバーでキラッキラにする。丁寧に巻いていく。
その下を網のように這い回る細く複雑な触手はパステルカラーにして、制服の下で妖しく蠢めかせ、ジュエルの煌めきを反射させる。
学園ナンバーワンの美少女を、俺の触手でデコってやったわ。
すげぇ興奮する。藤沢きれいだよ藤沢。もっと俺の触手でヌルヌルのテカテカにしてあげたい。
「んん……ンンンンーッ!」
カラフルな触手が床に模様を描き、壁にアーティスティックな壁画を描き、触手の森に彩りを与えていく。机に描いた蠢く螺旋は川のように森を流れ、天井にはドット点滅する触手のスクリーンが大きな藤沢を描いて艶めかしくダンスさせる。
藤沢の教室を、俺の触手のステージに変えてやる。
「んんんっ、んー、ンンっ!」
毛細血管のように細い触手が、藤沢の制服の下をどこまでも潜っていく。ブラの中に入り込んだ数本の触手が彼女の乳首を捉えたとき、彼女はピクンと喉を反らせた。胸を愛撫するように優しくヌメった触手を這わせると、彼女は鼻にかかった息を吐いた。
「ぅ…んんっ! んっ! んんん!」
ビクビクと跳ねる体を俺の触手が押さえつける。少しきつめに締めると、藤沢は苦しそうな声を上げ、俺の触手にはよりリアルな彼女の柔らかさが伝わって、ビリビリしびれる。
教室も全部だ。全部が藤沢なんだ。俺のクラーケンが彼女の全てを抱きしめる。
俺は今、藤沢綾音を余すことなく抱いている!
「んん…んんー! …んん…っ」
彼女の尻の割れ目を、シルバーのキラ触手で執拗になぞる。脇の下も耳の穴も、彼女の恥ずかしいところも全部、俺の触手でくちゅくちゅしてやる。藤沢の体から徐々に強張りが解けていく。俺の触手に抵抗を失って体をぶら下げる。
浸食していく。俺の妄想が彼女のパーフェクトな世界を濡らしていく。
すげぇ興奮してきた。ますますやばい。俺、超キマってる。
白い天使が俺という悪魔に出会って雫をこぼす。ガイアが俺にもっともっとと喘いでいる。触手と俺とお前の織りなすノワールがストリートを濡らすぜ!
「んっ……ぁ……ふぅんっ、ん、んぐっ」
俺の触手から逃げようともがく藤沢の舌を、触手で追いかけて執拗に絡ませる。気持ちいい。藤沢の舌、柔らかい。その感覚がゾクゾクと俺の脳に伝わり、興奮を増長させる。
抱きたい。藤沢を抱きたい。
願望が触手に伝わる。クラーケンは俺の欲望を形に変える。
床から触手のカタマリが浮き上がる。キラ触手とパステル触手がヌメヌメと絡まり、作る姿は女の裸身だ。
藤沢は目を見開く。
わかるんだろう。日々完璧であるためにボディチェックぐらいは欠かさず行っていただろう彼女に、わからないはずがない。
触手でトレースした彼女の肉体を、俺は触手で正確に再現してみせた。
めちゃめちゃキレイだ。
様々な色触手が作りだした彼女の裸身は、本当に美しかった。
渡辺より小さいとバカにした藤沢の胸も、素晴らしく形が良い。え、それのどこに内臓あるのってくらい細い腰と、スラリとした足の長さも本当に芸術的なバランスだった。
なのに、そのボディが男に与えるのは感動ではなく、飽き足らない衝動と、やり場のない情欲だ。そして、その意味を理解したときに、俺は初めて感動に震えたんだ。
まだ未完成。
今だってこんなにキレイなのに、藤沢の体はこれでもまだ未完成なんだ。
きっと、今から数年後の完成のために、彼女自身の意志で、完璧に、慎重に管理されて育てられているに違いない。
だから今は足りない。何が足りないのか俺にはわからないけど、まだ手を出すには早い。なのに、もう欲しくてたまらないんだ。他の男に奪われたくないって。
少女の肉体として、それは正しい。可能性と将来を約束されたボディ。それはこの年頃の女子として、成熟した体よりも正しく魅力的だ。
完璧だ。藤沢はやはり完璧だった。自ら模倣した彼女の美しさに、触手自身が感動に震えている。
藤沢ありがとう。今日までこの体を守ってくれて、本当にありがとう。
そして、もう1人。足の長さや筋肉度をやや上方補正した男の姿が床から現れる。
やっつけで25%ほど美化した俺だ。しかし雄々しくボッキしたクラーケンジュニアはリアルな俺だ。
触手の藤沢がその場に跪く。細い指を俺のに絡め、そして口の部分を大きく開いて、飲み込んだ。
「んんッ、んんん~~!」
藤沢はそんな自分の姿に反応し、恥ずかしがって体をくねり、口の中に入っている触手を吐き出そうとする。
でもまだだ。お前に見せたいのはまだまだこんなものじゃ足りない。
敬意を持ってお前に晒したい。俺の醜い欲望の全てを。
次々に男女の触手が生まれていく。
床にうつ伏せになり尻を高く掲げて俺に犯される藤沢。机の上に俺を寝かせてその上で腰を揺らす藤沢。窓に顔を押しつけ俺に尻を貫かれる藤沢。教卓の上で俺にクンニされる藤沢。天井でシックスナインする藤沢と俺。天井で俺に正常位で抱かれる藤沢。
美しい。この感動をもっとお前に伝えたい。
細い触手が教室のあちこちに弦のように張り詰める。
その太めの触手にシルバーの触手が絡む。優しく擦り合い、低い音を奏でる。深海のクジラのような歌声。さらにその上の弦に別の触手が絡む。撫でる。歌うように。
重ねっていく。触手の歌声は、まるでそれ自体が触手であるかのように幾重にも絡み合い、美しい旋律で、触手藤沢と俺の営みに彩りを与える。
触手のカノンだ。
染まっていく。藤沢のパーフェクト・ワールドが、俺の触手が作り出すヘンタイ・ワールドに堕ちていく。
天井で正常位に抱かれる触手藤沢が、触手倉島の腰に足を回して絶頂したとき、藤沢はくぐもった悲鳴を上げた。
二人同時に手コキしていた触手藤沢が、背後に現れたもう一人の触手倉島に向かって尻を突き出したとき、藤沢は泣いてんのか笑ってんのか、わかんない顔に表情を崩した。
机の上で腰を揺すっている触手藤沢が、別の触手倉島の手を自分の胸に導いて揉ませたとき、とうとう藤沢はいやらしい声を出した。
とても色っぽく瞳を潤ませ、舌で俺の触手を舐めたんだ。
俺のポップでクレイジーなエロスの世界へようこそ、美少女!
藤沢の体を拘束する触手が太ももをなぞると、彼女は自分から足を広げた。俺が再びそこに顔を近づけても、藤沢はまるで抵抗しなかった。
むしろ、嬉しそうな声で呻いた。この素晴らしい触手の調べに重ねるように。
チンチンの実の能力で、床からリアルな巨大ペニスが突き出る。雄々しく張り詰める裏スジもあらわに。
そして、その上で触手は絡み合う。グチョグチョと音を立てて、巨大なカタマリに変化する。そのカタマリが表現する細い腰、無駄のない太もも、そして丸くて形のいい尻。
知ってるだろ、藤沢。毎日鏡で見てたんだろ。
お前の尻だ。少女らしくツンと張り詰め、大人っぽく丸みを帯びているお前の尻だ。
それが大きく股を広げ、俺のペニスの上に跨る。
そして……ズブリと一気に飲み込んだ。
「ンンン~~ッ!?」
触手を咥えたまま、藤沢が絶叫する。あそこからプチュっと愛液が迸り、俺の顔にかかった。
ドシン、ドシンと藤沢の巨大尻は俺の巨大ペニスを飲み込み、ピストン運動を繰り返す。そのたびに藤沢はビクンビクンと反応してトロみがかった愛液をそこから垂らした。
「ひっ、あぁっ、やっ、やっ、ンンンっ、あっ! ああっ! あぁぁッ!」
まさに俺。圧倒的に俺。
藤沢の口から触手を抜き取り、彼女の美声が悦びに濡れていくのを心ゆくまで楽しむ。
彼女は何度もイっている。絶対的なメンタルが俺の精神攻撃に疲弊し、俺の愛撫に溺れていく。
藤沢の汗と、愛液と、粘液を混ぜてそのきれいな顔に擦りつける。髪も制服も、藤沢は俺の粘液でベトベトだ。俺の触手が顔をなぞると、藤沢も舌を伸ばしてくる。
あちこちで触手の藤沢がセックスをして、視界をエロスに埋めていく。触手のカノンが、彼女の耳を優しく愛撫し、甘い旋律を重ねていく。
目の前の巨大な尻が巨大ペニスを飲み込むたびに、彼女自身の腰もシンクロして、いやらしく跳ねるんだ。
「う…あぁ…あ…あっ…んっ、あっ、あっ…」
焦点の合わない、藤沢のうつろな目。桜色の頬。だらしない口元からこぼれる喘ぎ声と唾液。
藤沢綾音の心を、俺は犯している。
彼女の声は快楽に甘え、溺れる自分を許している。俺が彼女のアソコに強く顔を押し当て、舌を深く潜らせたとき、彼女の体が震えたのは、間違いなく悦びの痙攣だ。
もう限界だろ、藤沢。降参しろ。
これ以上、俺を拒んでもお前の心が───。
「や……やめ…もう、やめて……ンンッ…ッ…お、お願い…わかったから…一度だけなら……いいから……」
折れた。藤沢の完璧が、ようやく折れた。
「ハァ、ハァ……ん、くっ…一度だけ……一度だけ、抱いていい…だから、こんなのやだ…普通に抱いて…頭がおかしくなる…」
俺は彼女の体を触手から開放し、床に下ろす。全身触手男から、普段のヒョロい倉島修吾に戻った。ありがとう、クラーケン。そして、力を失い、ベトベトになった体を横たえる藤沢を見下ろす。
お前は頑張ったよ。超強かった。
てか、頑張りすぎだろ。並の女なら神龍に押し倒された時点で降参してるよ。よくここまで我慢したな、ホント。
でもこれで終わりだ。お前の完璧な防衛本能は、壊れる前に俺を受け入れることを選択した。そしてそれは正しい判断だよ、藤沢。
俺は藤沢の足を持ち上げ、股の間に腰を落とす。くったりとした藤沢の体は、柔くて軽い。
「…いいんだよな、藤沢?」
涙を浮かべて、藤沢は力なくうなづく。
「俺がお前の中に入るぞ。いいんだな?」
少し逡巡してから、藤沢はうなづいた。
彼女の破れかけた制服の胸を、俺は掴む。
ほんの一度の妥協で十分。俺が欲しかったのは彼女の許可だ。
強引に開けば、美結のように彼女を壊してしまう。だが彼女が俺の侵入を許してくれたのなら、ここから俺はさらに潜ることが出来る。
でも───。
「……藤沢、ゴメンな」
俺の沈んだ声に、怪訝そうな顔をする藤沢。
キレイな顔だ。すげぇ可愛い。彼女に傷をつけるのは俺だってイヤだ。でも、これはまだ本当の彼女じゃない。
俺の手で、彼女の制服を引き裂く。彼女の体ごと引き裂く。
藤沢のパーフェクト・ワールドを───引き裂く。
そもそも、彼女の言ってることはおかしかったんだ。
例え完璧であろうと、心は心だ。強引に壊そうと思えば壊せる。
藤沢の完璧というのも、美結のギャラクシーや渡辺の鉄の城と同じように、ただの形にすぎない。美しい鏡。でもそれだけなら、俺のように攻略しようと思えばできないこともないんだ。
でも布団ババアは、これで彼女に手を出せないでいるという。
それもまた考えづらい話だ。こんなのババアなら、ハナクソ飛ばすくらいで余裕で壊せる。ババアは強い。なにしろババアだ。娘だから手加減するとか、そんなタマでもなさそうだし。
そうなると、怖い予想が考えられる。
どうして彼女は、ここまで完璧な心を保つことができるのか。品行方正成績優秀好感度抜群の良い子ちゃんは、本当に彼女自身が自分に求めた姿なのか。
そしてババアは、どうして娘の抵抗を許しているのか。
そもそも24時間、ずっと平常に律せられた心を作るには、無意識レベルでの制御が必要なんだ。
しかも完全に制御するなんて、たとえ俺が命令しても不可能だ。渡辺も三森も美結も、俺の命令に従ってはいても、その方向性は残したまま、自分自身の意志で勝手に心を作り替えていたじゃないか。
受け止めたあとの進化は本人が決める。心だって生き物だ。
そういう意味では、じつは俺たちの力は弱い。同じ状態で固定し続けるなら、もっと強力な支配力が必要だ。だから彼女の言うように「自力で作った」なんてことも考えにくいんだ。
でも、もし誰かに何らかの方法によってパーフェクト・ワールドが作られ、彼女がそれを自力だと思いこまされているんだとしたら、その手段も想像できる。
当然それは正常の手段じゃない。無意識への命令や催眠なんて生易しい束縛ではなく、もっと異常で強力なものでなくてはならない。
例えば……俺が美結の中で覗いた、あの世界を使う。
そして、そのためにはとても残虐な手段が必要だ。
彼女の自己を削り、一部分を失わせる。そこをある命令で埋める。この場合、「藤沢綾音は非の打ち所のない女子になれ」とか、そういう命令だ。そしてそこを向こう側の世界に直接繋ぐ。
欠落し、瀕死になった彼女の自我は、生き延びようとする本能でその部分から生命力を得るだろう。そしてそこから得た異常なエネルギーは、彼女に与えられた“命令”のバイパスを通って、凄まじい力で彼女を支配するに違いない。
無意識を、もっと大きな無意識で縛り付けるわけだ。
彼女の無意識は、その命令に従って意識を形成する。生きることへの執着が、自分を改造したものへの恨みが、必死の防衛本能が、全て一つの命令に塗り替えられて彼女の心と行動を決定する。
すると藤沢のように、ありえないほどのエネルギーで完璧を実現する、サイボーグ良い子ちゃんが完成するわけ。
おそらく便利なんだろう。そういう娘や旦那が家にいると。
でもそんなの考えるだけで気分が悪い。もしもそんなこと本気で実行できるヤツがいるなら、そいつは相当イカレてる。ましてや、自分の家族相手にそんなことできるはずがない。
俺は、このパーフェクト藤沢が、彼女の言うとおり彼女自身の努力の賜物であって欲しいと願っている。俺の想像が間違ってることを期待している。
俺が美結にしてしまったことを思い出すと、今でもぞっとするんだ。
もう絶対に、あんな過ちを繰り返したくない。
確かに、俺はクズ野郎だ。
ドスケベな変態で、女を自分の性欲任せに抱きまくるセックスマシーンだ。
人生を適当に生きて、やばいことからは逃げて、変な力を使って安全な場所から他人を操って暮らしていたい、永遠のピーターパンがこの俺だ。
でも、こんな俺ですら吐き気をもよおすような悪意が、この世にはある。
絶対に許せない光景っていうのが───あったんだ。
「………布団ババァッ!」
真っ二つにされた藤沢の左半身が、砂漠の地面から伸びたチューブに繋がれ、痙攣していた。
───現実に戻ってきた俺の前で、藤沢が膝を崩す。
「え、…え?」
自分に起こったことが理解できないみたいで、藤沢はポカンとした後、体をガタガタ震わせた。
「な、なに…何かしたの? あなた、私に何かした?」
先ほどのまでの自信に満ちた藤沢は消え失せ、不安を滲ませた顔で俺を見上げている。
とても小さく、か弱い女の子に見えた。
「わ、私を、犯し…ッ!?」
「違うよ、藤沢。俺は何もしてない。俺の負けだ。だから藤沢の心も変わってないよ。今でも俺のこと、嫌いだろ?」
藤沢は、俺をジトっとした目で見上げて、「大っ嫌いよ」と頷いた。
彼女のパーフェクト・ワールドは、元に戻してある。
今の彼女は、瀕死の自我がICUで見ている夢だ。ババアの恐怖と、たった一人で戦ってきた女の子が、今も戦い続けてる夢。
無理やり目覚めさせて、自分が地獄の中にいることを知ってしまえば、彼女の精神は保たない。
「藤沢の母さんに会わせてくれないか?」
「え……私のお母さん?」
「あぁ。君んちの布団ババアに、コンビニの店員から話があるって伝えておいて欲しいんだ」
藤沢を本当の藤沢に戻すには、欠落した半分が必要だ。
そして、それは布団ババアが持っている。自分の娘から切り取った半身を。
自然と俺は拳を握りしめていた。
「お前を絶対許さないって、言っといてよ」
ババアのやっていることと、俺のやっていることと、たいして違いはないだろう。
他人の心を弄んで、高いところから見下ろしてるのは同じなんだから。
だから今さら正義を気取るつもりもないし、藤沢を助けるためだなんて言わない。
ただ、俺が許せないものを見てしまった。どうしようもなく腹が立ってしまった。それだけだ。
この街に、クズ野郎は1人で十分なんだよ。
「…うちのお母さん……怖い人だよ?」
「知ってるよ。でも俺なら全然平気だから、気にしないで」
布団ババアに対する恐怖はもうない。
このクソみたいな怒りは、その程度の脅しでは収まりそうもない。
アイツがどんだけクレイジーだが知らんが、今の俺だってそうとう強いんだ。
やってやんよ。めっためたにしてやんよ。
完全に目覚めた今の俺に、もはやビビリも逃げもない!
「あの人……なんか人を殺したこともあるって言うよ?」
「ゴメン、腹痛いから帰る」
俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ。
倉島修吾先生の次回作にご期待ください。
< 完 >
サイトリニューアルお疲れ様です。
以前のサイトの感想掲示板に作者様の続編プロットが掲載されていたと思うのですが、
やっぱりもう消えてしまってますでしょうか?