十四話
魔王城の中庭には、下草すら生えていない。ただ、奇怪に身を捻る魔界の植物が、片隅に茂っているだけだ。そこに人界から帰還した三王女と、魔界へ連れられた聖女がいる。我は、四人の様子を中庭の入り口から眺めていた。
魔に堕ちた三人の姫が見守る中、聖女は膝をつき、リンゴの苗木を植えていた。
「人界の植物が魔界で育つとは、到底、思えぬな」
我は、聖女の背に声をかけた。苗木を植え終えた聖女が立ち上がり、ゆっくりと振り返る。人族の仇敵である我を見つめても、なお柔和な表情はまるでただ一人聖域であり続けているかのようだった。
「私たちには、時間がたくさんありますから……待ちましょう。もし、収穫できたら、あなたにもリンゴ酒をふるまいます」
聖女が言った。聖女の足元では、フィオが壺に汲んだ水を苗木にかけている。
「終わったのなら、ついて来い」
我が、聖女に背を向けようとする。
「お待ちください」
聖女の声が響く。我は、再び聖女のほうを向き直った。聖女の顔に、厳しい表情が浮かんでいる。
「魔王……私は、あなたと取引をしたいのです」
聖女が凛とした声で告げた。我は冷めた笑いを口元に張り付け、聖女のもとに歩み寄る。
「ほう? いまさら、何を言い出すかと思えば……何を、どう、取引する気だと言うのだ?」
我は聖女の前に立つと、目の前の女を見下ろす。聖女の表情には怯えの色も、恐れの色もない。
「魔王。あなたに、これから私が聖術による大結界で魔界を人界から隔離することを許していただきたいのです。そのあとでしたら、私を如何様に扱ってもかまいません」
聖女の提案に、我は嘲笑のため息をつく。
「断ったら、どうする?」
聖女が我を睨みつける。
「私の持てる力をすべて使い、あなたに抵抗します……それに、聖術大結界の発動は、私の聖術の力をほとんど使い切ってしまいます。私を支配するのなら、その方がやりやすいのではないですか?」
我は、聖女の顎に手を当て、その瞳を覗きこむ。聖女は、目をそらそうとはしない。
「その身を呈して、人界を守るための取引か?」
我は、薄く笑った。
「いかなる術であっても、永遠に続くことはない。千年か、二千年後には、聖術大結界とやらも崩れゆくだろう。それに、貴様の心を支配し、貴様自身の手によって、この契約を反故にさせることもできるのだぞ?」
我に顎を握られた聖女は、小さくうなずく。
「全て……覚悟したうえで、言っています」
我は「良かろう」と言い捨てると、聖女の身体を解放した。
「フィオ、手伝って?」
聖女は、フィオに声をかける。フィオが聖女のもとに駆け寄ると、二人は中庭に聖術のための陣を描き始めた。精緻な聖術陣は、時間をかけて大きく描き込まれていく。魔法陣とは異なるそれは、どことなく優美さを感じさせた。やがて、待つこと半日ほどの時間が流れただろうか。中庭いっぱいに描きあげられた聖術陣の中央に立った聖女は、流れるような言葉で聖句を唱える。すると、まばゆい閃光が魔界の空へ向けてほとばしる。やがて、我に魔界全体が白い壁で包まれたかのような感覚が伝わってきた。
「終わりました……」
聖女は、我を振り向く。その顔にはじっとりと汗が浮かび、憔悴したかのようだった。我は無言で聖女についてくるよう促すと、背を向ける。我と、聖女と、三王女は、魔王城の玉座の間へと足を進めた。
闇に満ちた、玉座の間。そこには、エレノアとリーゼとフィオの娘たちの中から、年長の一人ずつが控え、我と三王女の帰りを待っていた。我は広間を横切り、玉座に腰を下ろす。あらためて聖女を振り返ると、その姿があるだけで玉座の間の闇に一筋の光が差し込んだようであることに気がつく。
「三王女よ。聖女の服を脱がせ。聖衣などここでは、必要のないものだ」
三王女は、我の命令に従って聖女の衣を解く。聖女もまた口を紡ぎ、抵抗する素振りも見せず、黙って三王女のなすがままに身を任せる。
ほどなくして、聖女の裸身が、我の眼前にあらわになる。千年を生きていたとは思えないほどに瑞々しく透き通った肌はほんのりと赤みをおび、生命の血潮を感じさせる。肩から腰、足や手の指先に至るまで、その柔らかい曲線は途中で乱れることもない。乳房も尻肉も、エレノアやクレメンティア、あるいはフィオのように不自然なほどに大きいというほどもなく、かといってリーゼやリリアーネのように控え目ということもない。決して改変のしようがない黄金比という名の均整を表現した肉体。秘裂の近くにわずかに茂る陰毛ですら瑠璃色に透き通り、宝石のように見える。
凝縮した光から削りだされたような姿を前に、我の喉がなる。今すぐにも押し倒し、その肢体を余すところなく貪ろうとする衝動が沸き起こる。我は、自らの身体に力をこめ、身を引き裂かんばかりの衝動を抑え込む。それでは意味がない。聖女の身体だけではなく、高潔な意志も、穢れなき魂までも我の物としなければ意味はない。我は、淀んだ溜息を肺腑から吐き出す。
「聖女ティアナ……貴様は、我のものだ……」
自らの影を動かす。ぐねぐねと歪に蠢く影の底から、幾本もの黒いイバラが這い出してくる。高貴なる人界の英雄、三王女たちを堕とし、闇の眷族へと引きこんだ心を持たぬ魔性の植物。黒石の床を這う闇色の蛇のようなそれは、我の渇望に応じて聖女ティアナの足下へと近づき、取り囲んでいく。黒い粘液を滴らせ、イバラはその先端をもたげる。禍々しい動きで、聖女の肌に触れたその瞬間……
バチィッ!!
電光が弾ける。イバラが、慌てふためくようにもがきながら、床にその身を伏せる。我は思わずこぶしを握りしめ、立ち上がっていた。聖女が使い果たしたはずの聖なる力が……もはや搾りかす程度にしか残っていないはずなのに……闇のイバラを弾いたのだ。祈るように手を組み、目を瞑り続けている聖女が静かに口を開く。
「意志なきものが私を辱めることはできません。触れるならば、人の手で私に触れなさい」
いかなる感情をこめず、それでいて凛とした聖女の声が響いた。
「いいだろう……ならば、貴様の望むようにしてやる……」
我は傍らに控える魔物の娘たちに、顎で指示を出した。娘たちは、玉座の片隅に用意していた大きな壺と、杯、何枚かの布を抱え、聖女と三王女の前へと運んだ。壺を抱えた蛇の下半身の娘が、蜘蛛の脚の娘が持つ杯に中身を注ぐ。黒く粘ついた液体が甘いような、腐ったような臭気が、玉座の間に広がる。その臭いをかいだ三王女の顔は、淫欲に蕩けたものになる。壺の中身は、黒いイバラから染み出る媚毒の力を持った樹液、それを煮詰めて発酵させたものだ。魔物の娘たちに命じて造らせた闇の毒液は、イバラの樹液が持つ淫毒としての力が何倍にも濃縮されている。並の人間ならば、触れただけで全身に毒がまわり、発狂しかねない代物だ。
「杯の中身を、聖女に飲ませろ」
我は口角を歪めながら、命じる。蜘蛛の脚の娘が、自分の母親であるリーゼに杯を差し出す。リーゼはそれを受け取ると、聖女の口元に近づける。異様な臭気に、聖女の表情がわずかに歪む。
「さぁ、聖女様。たっぷりと、飲んでください……」
リーゼは聖女の唇に杯を触れさせると、ゆっくりと傾けていく。聖女は目を閉じて、鼻の息を止め、少しずつ液体を飲み干していく。なみなみと注がれた杯の媚薬が、わずかずつ聖女の胃の中へ落ちていく。
「フィオ。私たちは、外側から染み込ませて差し上げましょう?」
「うん、そうだね。エレノア」
エレノアが妖艶に笑い、フィオが無邪気にうなずく。エレノアとフィオは娘から布を受け取ると、それを壺の中に浸した。
「聖女様。これから、魔王様に身を捧げるのにふさわしいよう、私たちが清めて差し上げますわ」
「フィオ達も、この樹液のおかげで、いやらしい身体になれたんです。ティアナ様も、キモチ良くなってくださいね?」
エレノアとフィオは、黒い媚毒をたっぷりと染み込ませた布を聖女の白磁のような肌に這わせていく。はじめはイバラを弾いたように、聖なる光が黒い毒液を拒絶するように火花をあげる。それでも、エレノアとフィオがしつこく純白の肌を淫毒で撫で続けると、やがて根負けしたかのように光は弱くなり、闇の粘液が聖女の身体へ染み込んでいく。聖女がわずかに身を震わせると、杯を支えるリーゼが中身をこぼさぬように聖女の後頭部を抱きすくめる。
エレノアは聖女の手を軽くぬぐうと、二の腕まで布を這わせ、次いで背筋に丹念に液体を塗り込んでいく。フィオは、足先から徐々に、上へと登り、太ももを磨きあげるかのように何度も媚毒を染み込ませる。
「ん……んん……」
エレノアとフィオからもたらされる官能の感触に耐えきれなくなったのか、聖女が身をよじる。
「もう、聖女様……暴れるのなら、杯の中身を飲み干してからにしてください」
リーゼは聖女の首を押さえると、杯を一気に傾けた。聖女は目をつむり、喉を鳴らして、粘つく媚酒を飲み干していく。
「ふあ……甘い……」
聖女がため息をつく。その間に、エレノアは媚毒を浸した布を聖女の領の乳房に絡まる。杯を置いたリーゼも布を手に取り、尻肉を淫らの粘液で撫で始める。さらには、フィオも布を媚液に浸しなおして、聖女の秘所を責め始めた。
「ふあぁっ……あぁぁ……」
聖女が断続的に嬌声をあげて、身悶える。エレノアは乳房をこねまわすように布越しに揉みしだき、先端の乳首を中心に媚毒を擦りこむ。リーゼは尻の双球を割るように、菊座を念入りに責め始めた。フィオは秘裂の入り口である媚肉をめくる様にして、秘所の内側までも淫薬を塗りたくっていく。
「ああぁぁぁ……ッ!?」
聖女が甲高い悲鳴のような嬌声をあげた。三王女の責めに、快楽の頂へと上り詰めた瞬間だった。それは、その高潔な身体に媚毒が染み込みきった証拠でもある。
我は魔物の娘たちに命じ、自らの装束を脱がせさせる。全裸になれば、千年求め続けていた極上の乙女を前に、自らの剛直がこの上もなくそそり立っている。
我は玉座から立ち上がると、三王女に身体を支えられた聖女のもとへ歩み寄る。聖女は荒く息をつきながら、潤んだ瞳で男根を見つめ、次いで我の顔を見上げた。その目に、抵抗の意志を欠片も見取ることはできない。聖女の全身はますます赤みが強くなり、白磁の肌は薄桃色となっていた。
我は聖女の顎を掴むと、乱暴に唇を奪う。
「んん……!!」
聖女がくぐもった声を上げるのもかまわず、自らの長い舌で唇を押し開いて、割り込ませる。そのまま、聖女の唾液を、舌を、さらには、頬の裏の肉から咽喉まで、聖女の口内のすべてを蹂躙する。
やがて、わずかに身を強張らせていた力も聖女から抜ける。我は、聖女の軽いほどの肉体を抱き寄せると、玉座まで引きずった。そのまま、聖女を抱きかかえるように玉座に腰をおろし、ようやく聖女の唇を解放する。
我の眼前で、聖女が浅い呼吸を繰り返す。我が野太い指でその秘所をなぞってやると、全身をビクンと震わせる。指先が淫液で湿り、先ほどの口内の蹂躙でも何度か絶頂を味わったことをうかがわせる。
「……聖女も、こうなってしまえば、ただの淫婦か」
我は、聖女の目を覗きこんだ。聖女は、潤んだ瞳で、すがるように我を見つめ返す。
「魔王……あなたは、三王女の望みをかなえたと聞いています。ならば……私の、望みもかなえてくれますか……?」
聖女の、消え入るような途切れ途切れの言葉が耳に響く。我は、聖女の背と首に回した手に力を込める。
「なんだ? 聖女ティアナよ。貴様は、何を望むというのだ?」
我が言葉をかけると、聖女は少し目を伏せる。そして、意を決したように口を開いた。
「あなたを……ハルベルトという名で、呼ばせてください……」
聖女が、聞きなれない名を口にする。だが、全く聞いたことがないその名は、何故かどこかで聞いたことのあるような錯覚を我に与える。
「……!?」
次の瞬間、我の食道の奥が、カッと熱くなる。さらには、ぬるりとした何かが、不快感とともに込み上げてくる。
「ガァ……ガバアァ!!?」
我は、聖女から顔をそむけた。幾度も味わった、あの不快感とともに、我は床に血と肉のまじりあった汚液をぶちまける。魔王の身体に、血は流れない。それは、何かをきっかけに、我の身体に血潮が生まれようとしているかのようだ。
「お父様!!」
「ご主人様!?」
「魔王様!!?」
三王女が、口々に悲鳴を上げる。我は、三王女に「騒ぐな」と制すると、口元をぬぐった。そのまま、強く聖女を抱きしめる。
白磁のような、絹のような柔らかい肌が、我の胸板に沈む。ハッ、ハッ、と短い音を刻む吐息が、甘い香りを花に運ぶ。目の前を優美に流れる瑠璃色の髪が、目に入る。
「良かろう……聖女ティアナよ。我が、ハルベルトだ……そして、貴様は、我がハルベルトに従属する牝だ。淫乱極まりない、女奴隷だ……」
我は、聖女ティアナの耳元に口を寄せて、ささやく。
「あぁ、ハルベルト様、ハルベルト様ぁ……」
聖女が、白痴になったように、その名を繰り返し呼ぶ。その度に、吐き気が沸き起こり、我はそれに耐える。
そうだ。
この身体を貪ればいい。この極上の乙女の肉体を、蹂躙しつくせばいい。それで、全てが満たされる……我は、止めどもなくあふれる不快を押しのけ、聖女の腰を浮かせた。千年間求め続けた女を前に、そそり立つ剛直を、聖女の秘所へとあてがう。
そのまま、いまだ萎えぬ剛直の上に腰を落とす。三王女に丹念に媚毒を塗りこまれた身体は、すでに淫らに開ききっている。蜜をあふれさせて蕩けきった秘唇は、苦もなく我の男根を呑み込み、柔らかく包み込む肉壁が肉幹を刺激する。
「あぅ……!!」
聖女が、悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げた。我の脚の上に、赤い滴が点々と落ちる。この女は、千年もの間、純潔を守り続けていたとでも言うのか?
「処女でありながら、淫欲を感じたな……やはり、貴様は淫らだ。発情しきった肉欲の乙女だ。我が肉棒に狂うどうしようもない淫婦だ……」
我は、聖女の脳裏に淫欲を刷りこむように、言葉をささやき続ける。すると、聖女の瞳が焦点を失い、顔は上気していく。秘所の奥で息づく肉壁が、我の剛直を包み込んだまま、熱を増していく。
「私は……淫らな女……ハルベルト様に発情する……ハルベルト様の肉棒に狂う淫婦……」
聖女が、呆然と言葉を繰り返す。
我は、乱暴に聖女の蜜壺を突き上げる。聖女の喘ぎ声もまた、享楽の色に染まっていく。聖女の滑らかな腕が我の背に回される。絹のような唇が、我の顔へと近づけられる。
「……口づけを、させて……」
聖女が唇を突き出し、我は鷹揚にうなずく。聖女と我の唇が触れ合い、今度は聖女が舌を我の口内へ突き出してくる。ただ、その舌の動きは、三王女が初めて口で奉仕した時よりも、稚拙で、ぎこちない動きだった。
それでも、聖女のつややかな肌が、全身で我の肉体と触れ合う感触は、我の性感を高めるのに十分なものだ。さらには、聖女もまた高まってきたのか、肉壺の内部が柔らかく、そして温かく、我の男根を包み込んでくる。
「私も……果ててしまいそうです……ハルベルト様ぁ! どうぞ、御一緒に!!」
聖女が、唾液をまき散らし、喘ぎながら、叫ぶ。我は、一層強く、聖女の身体を抱きしめる。
「良かろう! 我が精を……注いでやる!!」
我と聖女は絶叫し、同時に絶頂を極める。噴き出していく精を、全て聖女の中へと注ぎ込むと、我は玉座に身をあずけ、聖女は我の胸板にしなだれかかる。激しい動きのため、情交の後、我と聖女の結合はほどけてしまう。それでも我は、心地よい聖女の内側の残り香を味わっていた。
「昔々、千年以上も前……」
我が、聖女の肉体の余韻に浸っていると、聖女が何事かをつぶやき始める。聖女の、澄んだ声が我の耳に響く。意味も分からず、我の鼓動が乱れ始める。
「“昼の国”というところに、一人の青年と、一人の少女がいました。青年は若くして魔術を極めて、少女は幼くして聖術を学びました。二人は、お互いの実力を認めあい、国に並ぶもののない術者へと成長していきました」
聖女が、小さな声で語り出したのは、フィオが話したのと同じ物語だった。我の手がしびれ、少しずつ頭痛が増し始める。
「やめろ! その話を、語るな!!」
我は怒鳴りながら、乱暴に聖女を抱きすくめる腕に力を込める。それでも、聖女の声は淀まない。
「二人は、人々のために自らの術を使ったので、国は繁栄し、人々は大いに喜びました。しかし、二人は、あるとき、“昼の国”が、対となるもう一つの国“夜の国”に飲み込まれて、滅ぶ未来を予見してしまいました」
全身に力が入らない。それだけではない。魔王としての魔力すら、蒸発し、霧散するかのように我から消えていく。
「青年は、生ける人柱となって“夜の国”を鎮めるため、ただ一人“夜の国”に渡りました。“昼の国”に残された少女は、千年の間、青年を待ち続けました」
のどが詰まるようだ。呼吸が苦しい。「やめろ」という言葉すら、喉から出てこない。
「ここから先は、フィオにも言ってはいないこと……」
聖女が、静かに呼吸を整えると、再び口を開く。
「……“昼の国”に残った少女の名前は、ティアナと言います……」
我の臓腑が、悲鳴を上げながら跳ねる。我は聖女を抱きすくめたまま、顔を床に向け、喉をけいれんさせた。我が反吐をぶちまけるにもかかわらず、聖女は言葉を続ける。
「そして、“夜の国”に渡った青年の名前は、ハルベルトです……」
我は、脱力して垂れていた頭を無理やり持ち上げると、聖女をにらみつける。その顔は、虚ろで、聖女が何を想っているのかはうかがえない。我は、震える右手をのばした。激しい不快感とともに、消滅していく魔力のうち残された力を、手のひらに集める。
「聖女ティアナ……貴様は、我のものだ……」
我は、弱々しくつぶやく。
「はい。私は……ハルベルト様のものです……」
聖女が、つぶやき返した。我は、聖女の胸に手を押し当てる。ドジュッ、と肉が焼けるような音が響く。我の魔力と、聖女の聖術の力。共に残されたわずかな力が、お互いに反発しあう。
「く、くぅ……」
「あ……あぁ……」
我と聖女は目をつむり、ともに苦悶の声をもらす。やがて、少しばかりの時間が流れ、我は掌を離した。
「ティアナ……」
目の前にいる女性の名を呼ぶ。聖女ティアナが、ゆっくりと目を開く。ついで、聖女の胸元に、横一文字に赤い線が伸びる。赤い線は上下に歪み、血の涙の筋を幾本か流しながら、三王女に植え付けたものと同じ魔性の瞳へと姿を変える。
聖女ティアナが笑った。それは、柔和で澄み切った笑顔ながら、顔一面に妖艶で淫らな色が浮かび上がっている。
我は、荒く息をついた。己の魔力のほとんどを使い切ってしまった。にもかかわらず、我が心は、凪いだ湖面のように静かであることを感じていた。そして、その湖面の底で、情欲の炎が燃えたぎっていることも、また理解できた。いつの間にか、腹の底から沸き起こる不快感も消えうせた。
「あぁ、ハルベルト様ぁ……」
ティアナが媚を含んだ声をこぼす。その声を聞いて、我の剛直が先ほどと同じほどに……いや、それ以上の硬さと大きさに膨れ上がる。鉄のような男根が、聖女の太ももの隙間を撫で、ティアナもそれに気がつく。
「ハルベルト様……あなたのティアナが、お慰めいたします……」
ティアナは、我の身体の上から降りると、ひざまずき、我の肉棒に口づけをした。唇を肉棒に擦りつけるも、その動きはあまりに稚拙でぎこちない。ただ、ティアナの淫欲が突き動かすのか、その表情だけは真剣そのものだ。
「もう、ティアナ様ぁ。それじゃ、ダメですよぉ……」
そう言ったのは、いつの間にか、傍に歩み寄っていたフィオだった。
「ティアナ様ぁ。フィオが、お口でのご奉仕のやり方を、教えてあげますぅ」
「あぁ……お願いね。フィオ……」
フィオは、ティアナの横にひざまずき、見本を見せながら、二人での口淫奉仕に没頭していく。
「肉棒の筋に沿うように、舌でなめるんです。唾液をなじませながら……指先で優しく撫でたり、たまたまを柔らかく揉んであげたりすると、もっといいですよぉ……」
「んん……こうかしら、フィオ? 気持ちいいですか、ハルベルト様?」
フィオから、教わった技術をその場で吸収し、ティアナの口淫奉仕は見る間に上達していく。亀頭の付け根に下唇を這わせ、男根の先端を舌でつつきながら吸引され、我はティアナへのとどまらぬ欲望がさらに高まりゆくのを感じる。
「ティアナ、イクぞ……我が精を、受け取るがよい……」
我は、ティアナの頭を手で押さえ、その口内に白い濁粘液を噴出する。聖女は、瞳に喜悦の色を浮かべて、我が肉欲のすべてを受け止めていく。喉を鳴らして、精を飲み干すと、肉欲に染まっただらしのない笑みを浮かべて、口を開く。
「ハルベルト様……私で、感じてくださったのですね。ティアナ、幸せです……」
ティアナが、至福の表情で声をこぼす。だが、我の欲望は、まだ満たされない。
「ティアナ。まだ、愛してやる。我の上にまたがれ」
我は、ティアナに対して命じる。
「あぁ、ありがとうございます。ハルベルト様! 愛していただきます!!」
ティアナは、いまだ萎えぬ剛直がそびえる腰の上にまたがった。そのまま、腰をおろし、甘いため息をこぼす。そのとき。
「お待ちください。ご主人様」
「お父様。私たちも、もう我慢できないわ」
エレノアとリーゼもまた、歩み寄ってくる。二人とも、顔は紅潮して、淫欲一色に染まっている。耐えきれなかったのか、服を脱ぎ捨てて全裸になり、片手を自らの秘所に押し当てて、刺激させていた。床や太股には、愛液の筋とたまりが、点々とできている。
我は、エレノアとリーゼを招き寄せ、二人と口づけをかわした。我と聖女の情交を見つめながら自慰に耽り、蕩けきった二人の唾液は、糖蜜のように甘い感触がする。
「あぁ、お父様の唾液、美味しぃ……」
「ご主人様……どうぞ、私たちの口内も蹂躙してください」
我は、二人の美姫の求めに応じ、舌をからめ合う。
「えへへ。じゃあ、私はティアナ様のここに、口づけしちゃおうっと」
ティアナの肩越しに、フィオが笑うのが見える。フィオは、そのまま、聖女の尻穴に接吻を施した。
「……ふぁっ!?」
ティアナが、聖女とは思えない間の抜けた声を上げる。すると、顔がますます赤くなり、口元から、一本の唾液の筋が流れた。我の男根を包み込む、聖女の内部の締め付けが、きゅうときつくなる。柔らかく、それでいながらきつく締めあげる矛盾した快楽をもたらす、聖女の肉壺は、我に至高の快楽をもたらしていく。
「我が精を……受け取れ、ティアナ!!」
「あぁ、ありがとうございます……! ありがとうございます、ハルベルト様ぁ!!」
我は、ティアナの中に再度、精を放つ。歓喜をもって、我のもとに堕ちた聖女はそれを受け止める。それでも、終わりにはならない。我は、三王女の肉体を貪りつつも、何度も、何度も、絶えることなくティアナの身体を突き上げ続けた。
そこにいる女は、もはや聖女ではなかった。そして、そこにいる男も、魔王でもなければ、人界を救おうとした大魔術師でもない。ただ、女を切望のままに支配する男と、男の蹂躙を甘受する女が、いるだけだった。
< 続く >