第2部 第3話 そして、悪魔の巫女へ
薄暗い世界樹の洞の中で、フィオナは力なく壁に凭れていた。
私は、何日の間こうしているんだろう?
3日?……いや、4日?
そんなの、もう、どうでもいいわ……。
だって、私にはもう、どうすることもできないんだもの。
ぐったりと座りこんだままのフィオナの目は、昏く沈みきっていた。
この何日か、悪魔に体を差し出すことはなかった。
今となっては、そんなことをしても彼女にとって何の意味もなかったし、悪魔の方からフィオナを求めることもなかった。
彼女にできるのは、ただ、その虚ろな視線でぼんやりと前方の光景を見つめることだけだった。
最後のあの時に破滅の啓示を受けてから、二度と世界樹の声が聞こえることはなかった。
自分は、世界樹に見放されてしまった。
そんな自分には、もうあの悪魔を倒す事も叶わない。
そんな彼女の、その澱んだ瞳に映っているのは……。
……みんな、こんな風になってしまうの?
「んああっ、いいっ!シトリーさまのおチンポがっ、ゴツゴツあらっれっ、気持ちいいれすううううっ!」
悪魔に抱きついて、自分から激しく腰を動かしているニナの姿。
嬉しそうに細めた目は、恍惚として半ば白目を剥き、口の端からはだらしなく涎を垂らしている。
長い髪を振り乱して、いやらしく喘ぎ続けていた。
そうやってあのふたりが体を重ねるのは、今日だけでもう何度目だろうか。
淫らに腰をくねらせて、すでに呂律も回らないくらいに、ニナは何度も絶頂に達していた。
いまや彼女は、完全に悪魔のものになってしまった。
フィオナの見ている前で、連日、自分から求めて悪魔とのセックスを重ねていた。
それもこれも、全ては自分のせい。
彼女が堕ちる前に悪魔を倒せなかった、自分の力が足りなかったせいだ。
もう、自分には彼女を救う術はない。もう、何もできない。
自分に残されているのは、絶望しかない。
それなのに……。
「……んっ!」
いやっ……またっ!
ニナのいやらしい姿を見ていると、体が疼く。
アソコがズキズキと疼いて、体が芯から熱くなってくる。
「……んんっ、はうううううううううっ!」
無意識のうちに手を伸ばして、フィオナは自分の敏感な部分をいじっていた。
秘裂を指でなぞり、堅く敏感になった肉芽に触れた途端に、痺れるような刺激が駆け抜けていく。
今なら、それが快感だとはっきり実感できる。
これと同じ感覚を、与え続けられている時には、煩わしいとしか思えなかったのに。
今は、その感覚を心底気持ちいいと思える。
心地よい痺れが、まるで麻薬のように身も心も溶かしていく。
絶望に沈んだ中で、それだけが確かなもののように響く。
でも、こんなものでは足りない。
「んふぅううううううっ!もっと、もっとよっ……」
こんな、指で触るくらいでは全く足りなかった。
もっと強い刺激がないと、この疼きは抑えられない。
この、心の飢えは満たされない。
フィオナにはわかっていた。
この疼きを止めることができるのは、悪魔のあの、堅く大きな肉棒だけだと。
「ふぁあああんっ!いいれすっ、すごくいいれすっ、、シトリーさまぁああっ!んふぅうううっ、ふぁっ、あああっ、わらしっ、イキそうれすっ!」
目の前では、ニナが悪魔にしっかりと抱きついて、ガクガクと壊れたように腰を振っていた。
ああ……ニナはあんなにいっぱい入れてもらって、羨ましい……。
どうしてニナだけが……。
私も、あれが欲しい。
あれが中に入ってきた時の快感が……。
「はんっ!んくぅううううっ!」
堪らなくなって、アソコの中にめいっぱい指を挿し込む。
さっきより、少しだけ快感が強くなるけど、まだまだ満足できない。
やっぱり、あれじゃないとだめだわ……。
あの時は、それを入れられることが心底嫌だったのに。
そんなことで快感を感じさせられることが、不快でしかたなかったというのに。
今、自分の体はこんなにも、あの、熱くて太い肉棒を求めてしまっている。
たった数日の間放っておかれただけで、体がこんなに疼いてしまっている。
心は屈していないつもりだったのに、体はすっかり快感を覚え込まされていた。
……でも、もういいわよね?
だって、私は負けてしまったんだもの。
もう、全て終わってしまった。
どうしようもないんだから。
だから、もう屈してしまってもいいわよね?
ううん、屈してしまいたい。
どうしてもあの大きいのを、アソコに入れて欲しいの。
あの快感を与えてくれるんだったら、もう、屈してしまってもいい……。
自分の心の折れる音が、聞こえたような気がした。
「ふぁああああっ!ああっ、シトリーさまぁっ!わらし、もうイッちゃいますっ!んふぅううううん!イクッ、イックぅううううううううううううっ!」
目の前では、ニナが悪魔にしがみついて、ビクビクと体を震わせていた。
そして、気を失ったのか、そのままぐったりと悪魔に体を預ける。
それを見届けると、フィオナはふらふらと立ち上がった。
そして、悪魔のもとに歩み寄る。
「お願い……私にもしてちょうだい……」
そう頼み込んだフィオナの顔は、熱に浮かされたように頬が赤く火照り、額には汗の粒が浮かんでいた。
そして、ドロリと澱んだその瞳の奥には、暗い情念の炎が宿っているのがありありとわかった。
「なんだ?またいつものやつが始まったのか?」
そんなフィオナの本心を知ってか知らずか、悪魔は揶揄するように軽い調子で答えてくる。
「違うの!心の底から、あなたとセックスしたいの!」
もう、彼女には恥も外聞もなかった。
今の彼女にあるのは、悪魔の肉棒を自分の中に入れてもらうことだけ。
そのためなら、森の守護者としての責任感も、エルフの誇りも、捨ててしまってもよかった。
「ふうん。だったら、僕に屈してもいいのか?」
「屈するわ!あなたのものになるからっ、……だから、お願い」
「なるほど。じゃあ、ちょっと確かめさせてもらうぞ」
そう言うと、悪魔は立ち上がってフィオナの股間に手を伸ばしてくる。
「あんっ、んふぅうううん……」
秘裂の中に指を入れられて、フィオナの口から出てきたのは悲鳴ではなく、悩ましげな喘ぎ声だった。
「ほーう……。こんなにぐっしょりと濡らしてるじゃないか」
「だって、あなたのが欲しくて欲しくて、自分で触るだけじゃもう満足できないの」
「なるほどね。どうやら、心の底から僕とやりたいってのは本当みたいだな。……いいだろう」
「……あうっ!」
ニヤニヤ笑いながら、悪魔はフィオナをその場に押し倒した。
そして、その両足を抱えると、大きく広げさせる。
そんな恥ずかしい格好をさせられているというのに、フィオナの胸はドクンドクンと高鳴っていた。
「それじゃあいくぞ。いいか?」
「はい……お願いします」
悪魔の問いかけに素直に頷いたフィオナの瞳には、恋を覚えたばかりの少女のような、期待と、そしてほんの僅かの怯えの色が浮かんでいた。
その様子に満足げな表情を浮かべると、悪魔はフィオナの足を抱えて肉棒をその裂け目に宛がい、ねじ込んだ。
「はうっ!んくぅうううううううううう!」
フィオナが怖れていたとおり、アソコが裂けるような痛みと、息が詰まるような圧迫感が襲ってきた。
だが、初めての時と比べると、遙かに軽い。
それになにより、ズブズブと内側の襞を擦りながら入って来る快感ときたら……。
痛みが、ほとんど気にならないほどだった。
「どうした?やっぱり痛むのか?」
「大丈夫……です。少しきついけど、それ以上に、気持ちいいのっ……」
「じゃあ、動くぞ」
「はい。……んっ、あっ、あんっ、あはぁあああんっ!」
悪魔が腰を動かし始め、ズンズンと中を突かれると、たちまちフィオナは甘い声を上げて喘いでいた。
これよっ!
これが欲しかったの!
自分の指よりもはるかに太いものが、指では絶対に届かないところまで満たしている。
その、満ち足りた思いと、頭の芯まで響く刺激でいっぱいになる。
膣の中の襞が肉棒に絡みついて、体も喜んでいるのを感じる。
「んっ、ああっ、気持ちいいっ、気持ちいいのっ!あんっ、あっ、ああんっ!」
無意識のうちに、フィオナは快感を口にしていた。
今回のそれは、この間のように操られて言ったものではない。
今の彼女の率直な感想だった。
「あんっ、すごいっ、奥まで届いてっ!この快感が欲しかったのっ!あぁんっ、はんっ!…………え?」
うっとりと目を閉じて、身も心も快感に委ねていたフィオナは、不意に抽送を中断されて思わず目を開く。
見ると、悪魔は彼女の足を抱えたまま、こちらを見下ろしていた。
「……どうして、動いてくれないの?」
そう言いながら、自分からもぞもぞと腰をくねらせる。
そうすると、じんわりと快感がこみ上げてくるが、こんなものでは全然物足りない。
どうして相手が動きを止めてしまったのか、訳がわからない。
自分は、もっと気持ちよくしてもらいたいのに。
すると、フィオナの顔を見つめて、悪魔が口を開いた。
「この先を続けたいんだったら、ひとつだけ条件がある」
「それは……何?」
「僕に屈して、完全に僕のものになるんだ」
「えっ?でも……私はもう……」
「そうだな、おまえはもう僕に屈している。だが、まだ僕のものにはなっていない。少なくとも、おまえの心はまだね」
「そんなことは……」
「いや、僕がおまえに力を流し込んだ時、おまえの心はそれに染まらなかった。だから、体だけを僕のものにしたんだ。今度こそ、僕の力を受け容れて身も心も僕のものになるんだ」
「身も、心も……」
「ああ、そうだ。心の防御を解いて、僕の力を受け容れる覚悟はあるかと訊いているんだ」
「……あります」
ほぼ、即答だった。
実際、彼女の心はもう完全に折れていた。
快感を与えてくれるなら、悪魔の言葉にはなんにでも従うつもりだった。
その意味では、自分は悪魔のものになっているのも同然だった。
だから、自分がまだ完全に相手のものになっていないと、そう言うのなら、そうなるようにするだけのことだった。
「よし、いいだろう」
ひとつ頷くと、悪魔は腕を伸ばして、フィオナの額に指を当てる。
そして、その金色の瞳が輝くと、指を通してその力が流れ込んできた。
「くうううううううっ!」
一瞬にして、邪気を孕んだ力が体に満ちて、手足の先まで痺れるような感覚に包まれる。
体を弓なりにして、苦しげな呻き声を上げるフィオナ。
「ほら、何をしている?心のガードを解くんだ」
「はうううううっ!?」
悪魔の言葉に、自分が無意識のうちに歯を食いしばって、流し込まれる力に抗おうとしていることに気がついた。
彼女たちエルフの術者は、精霊と心を通わせるために、受け容れた精霊の意志に流されずに自己の精神を保つ修行を重ねていた。
もし、精霊の意志に流されてしまうと、そのまま自己の意識を取り戻せなくなって、精霊に精神を支配されてしまう。
それはつまり、己の精神の喪失を意味していた。
だから、経験の豊富な術者ほど、ごくごく自然に、自分の中に流し込まれる力に抗って自分の精神を守る習慣が身についていたのだった。
「そら、早くするんだ」
「はっ、はいっ……」
悪魔に促されて、フィオナは心の緊張を解き、流し込まれる力を受容していく。
「うぐぅううううっ!」
すぐに心の中に禍々しい気が流れ込んできて、その違和感に思わずフィオナは顔を顰めた。
息苦しいほどの邪悪な気に、悲鳴を上げずにはいられない。
「ぐああああっ!」
「少しだけ、我慢するんだ」
「はっ、はいいいいいぃ!」
悪魔の声に、そう答えるのがやっとだった。
自分の精神が、邪気に満ちた力に流され、弄ばれていく。
本能的にそれに抗おうとするのを、なんとか押し止める。
「ううっ……ああ、あ……あぁ……」
程なくして、苦しそうに歪んでいたその表情が緩む。
さっきまで違和感に満ちていた悪魔の気が、いつの間にか心地よく感じられるようになっていた。
「あああ……あ、あは……ふふ、うふふ……」
今やフィオナは、恍惚とした表情で悪魔の力に身も心も委ねていた。
悪意、非情、頽廃、淫欲といった種類の邪念が渦を巻いて流れ込み、自分の精神をどす黒く塗りつぶしていく。
だが、それすらも心地よかった。
そして、その中心にあるのは、あの、金色の瞳。
その相手に対する絶対の忠誠心と、狂おしいほどの愛情が心を満たしていく。
「んんんんっ!はうううぅ……」
最後にもう一度、悪魔の瞳が強く輝き、フィオナの体がビクンと震えた。
そこでようやく、悪魔はその指をフィオナの額から離す。
「はぁっ……はぁっ……!」
「よし、これでいい」
ぐったりとして大きく息をしているフィオナを見下ろしながらそう言うと、悪魔は再びその足を抱え上げた。
そして、ドロドロに蕩けたその秘裂に肉棒を押し当てると、抽送を再開する。
「あぁん!んふううううううううんっ!」
もう一度、襞を掻き分けて肉棒が入って来る感覚に、フィオナは歓喜の声を上げた。
これ以上はないくらいの、満ち足りた感覚。
それに、この蕩けるような快感。
自分の身も心も、すっかり淫らになってしまったのを感じる。
「ふぁあああああっ!おチンポがっ、太くて堅いのがっ、ゴツンッて奥まで入ってきてっ、気持ちいいいいいいいっ!」
そんないやらしい台詞も、もう羞じらいもなく口にすることができた。
堅くて熱いものが、ズブズブと中を擦り、奥を突いていく。
狭い自分の膣をいっぱいに満たした肉棒の感触が、以前よりもはっきり細かいところまで感じられた。
まるで、膣の中全体でその感触を味わうための、新たな感覚が目覚めたみたいに、自分の中に入った肉棒の動きが手に取るようにわかる。
奥にゴツッと当たる勢いが強くなったように感じられるのは、快感で子宮が降りてきているからだ。
突き当たって行き場をなくした肉棒の先が、奥の気持ちのいい場所をざりっと擦りながら滑って子宮口をノックすると、膣全体がキュッと締まる。
そうして、押しつけられた中の襞が、出て行こうとする肉棒を引き留めるようにしっかりとまとわりついて、擦られた熱で体が一気に燃え上がる。
その感覚をもっと味わいたくて下腹に力を入れると、きつさがさらに増して快感がどんどん大きくなっていく。
「んふぅんっ!ああっ、中っ、いっぱいになって、すごくっ、すごく気持ちいいですうううっ!」
もう今は、痛みも、嫌悪感も全く感じない。
ただ純粋に、快感だけを感じることができる。
望んでいたものが満たされていく歓びだけを感じる。
「もっとっ、もっといっぱい突いてくださいっ!私の中っ、おチンポでっ、満たしてくださいいいいいっ1」
今まで何度もこうして体を重ねてきたのに、こんなのは初めてだった。
アソコを突かれるたびに、体中をゾクゾクと痺れる刺激が走って、芯から熱くなってくるのは同じだけれど今までの何倍も気持ちいい。
こうして、肉棒で突かれて、こんなに幸せに感じたことはなかった。
これに比べると、他の歓びや幸福が、色褪せて味気ないもののように思えてくる。
この幸せを与えてもらえるのなら、他には何も要らない。
こんなに素晴らしいことだっら、もっと早くこの人のものになっていたら良かったのに、とすら思える。
この人のためなら、自分の全てを捧げることができる。
「ああっ、あんっ、はあっ、あああああっ!だめっ、私っ、もうっ、イキそうですうううううっ!」
あまりの快感に、あっという間に登り詰めてしまうフィオナ。
さっきから、頭の中がふわりとして、ヒクヒクと体が痙攣するのを止めることができない。
その顔は、だらしなく口許を緩め、目を細めてうっとりとした笑みを浮かべていた。
「仕方のないやつだな。じゃあ、そろそろ出してやるか」
「はいいいっ!出してっ、くださいっ!中にっ、精液っ、いっぱい!はぁああああん」
出すと言われて、フィオナは興奮して体をくねらせる。
もう、精気を搾り取るとか、そんな考えは微塵もなかった。
ただ、あの熱い精液をたっぷりと注いで欲しいだけだった。
「んっ、あっ、激しっ、んっ、んんっ、あっ、あんっ、はんっ!」
ラストスパートとばかりに突き入れる腰の動きが速くなって、フィオナは息も絶え絶えに喘ぐ。
頭はのぼせたように熱くなって、体もビクビクッと震えっぱなしだった。
そして、体の奥で、肉棒から熱いものが迸り出たのを感じた。
「ふわぁああああああっ!出てるっ、精液、いっぱい出てますうううううっ!」
海老反りになって堅まったフィオナの中に、焼けるように熱い精液が叩き付けられているのを感じる。
頭の中が真っ白になって、駆け抜ける快感に身を任せる。
あの、望まぬままに達せられた時の、暗い自己嫌悪に満ちた絶頂とは違う。
輝き溢れる、歓びに満ちた絶頂。
たとえ、それが悪の光であったとしても、それこそが彼女の望むものだった。
「んふぅうううううう……。こんなにいっぱい……ふぁああ……幸せですうぅ……」
お腹の中を熱くてドロドロとしたもので満たされる、この、温かくて幸せな感覚。
実際、こんなに幸せな絶頂は初めてだった。
「んんん……ふぁああああ……」
絶頂の余韻に浸りながら、うっすらと目を開くと、口許に笑みを浮かべながら悪魔が見下ろしていた。
いや、違う。
悪魔なんてとんでもない。
この方は、自分が使えるべき主だ。
その名前は……。
「ふぁああ……シトリー様ぁ……」
「ん?どうした、フィオナ?」
「……はい!」
名前を呼ばれただけで、歓びが満ち溢れてくる。
本当に、自分はこの方のものになったのだと実感できる。
そこには、悲しみも屈辱もなく、歓びしか見いだせない。
まだ胸を弾ませながら、フィオナは自分の主人に崇拝の眼差しを向けていた。
「私……シトリー様のものになって、良かったです……」
「そうか」
「申し訳ございません。今まで、シトリー様に抗ってしまって……。この愚かな女を、どうかお許しくださいませ」
「ああ、それならいいんだ。でもまあ、おまえがそこまで言うのならフィオナ、償い代わりに、おまえに頼みたいことがあるんだが」
「はい、なんでしょうか?」
「おまえの仲間を、僕に差し出してくれないか?」
「もちろん、よろしいですとも」
今まで自分が守ってきた仲間を差し出せという依頼を、フィオナはあっさりと引き受ける。
そのことに、今の彼女はなんの罪悪感も感じていなかった。
なにしろ、自分の主人、シトリーの頼みなのだ。断れるはずがない。
それに、むしろ皆を差し出して、その役に立てるようにすることこそが自分の使命だと思えた。
「本当にいいのか?」
「ええ、構いません。それに、私も、あの子たちにシトリー様のすばらしさを教えてあげたいんです」
「ふ、そうか」
妖艶な笑みを浮かべてそう答える、元・世界樹の巫女を見下ろして、シトリーも口許を綻ばせる。
と、微笑みながらシトリーを見ていたフィオナが、いきなり体を起こした。
「あっ、シトリー様!」
「なんだ?どうした?」
「シトリー様の、汚れていますから、私が口できれいにいたしますね。……ん、はむっ」
そう言うと、フィオナは目の前の肉棒を手にとって、自分から口に含む。
そうすると、痺れる味と臭いが口いっぱいに広がって、フィオナはうっとりと目を細めた。
* * *
「はむっ、んぐっ、んっ、んっ、んむっ、んっ、んっ、んっ!」
肉棒を口に咥えて前後に頭を振り、扱きあげるフィオナ。
さっきから、口の中でピクピクと肉棒が震え、その先からトロトロと先走りの汁が溢れてきていた。
もちろん、今の彼女は、以前のように顔を顰めたりはしない。
むしろ、恍惚とした表情で目を閉じ、肉棒をさらに激しく扱いていく。
すると、口の中で肉棒が大きく跳ねて、熱い精液が迸り出た。
「んぐっ、んむむむむむむっ!」
口の中に吐き出されたそれを一滴も漏らすまいと、頬をいっぱいに膨らませて受け止める。
「んぐっ、んふぅ……くちゅ、んふ……」
それを一度、よく味わうように口の中で転がすと、いやらしい味と臭いがいっぱいに広がる。
「んっ、んくっ、んぐっ、こくっ、んくっ」
そして、ドロリと濃い精液を、喉を鳴らして飲み干していく。
結局、掃除のつもりのフェラだったのに、すっかり熱中してしまってまた出してもらってしまった。
「こくっ、こくっ……んふぅうううう……」
全て飲み終えた後で息を吐くと、いやらしい臭いが鼻腔をくすぐって、トロンとした気持ちになる。
「はああぁ……シトリー様ぁ……」
そのまま、熱っぽい視線でフィオナがシトリーを見上げていた時のことだった。
「終わったみたいですね、シトリー様」
背後から聞こえてきた声に振り返ると、エメラルドグリーンの長い髪を垂らした女が立っていた。
見た目はエルフに似ているが、漂わせている雰囲気は全く違う。
「……あなたは?」
「私の名前はメリッサっていうの。あなたと同じ、シトリー様の下僕よ。よろしくね、フィオナさん」
「は、はい……」
丁寧に挨拶されて、フィオナも思わず頭を下げる。
「私はね、シトリー様の命を受けて世界樹を倒しにきたの」
「……え?」
もちろんフィオナは、世界樹の精霊がとうの昔にメリッサに喰われてしまっていたことは知らない。
ましてや、彼女がシトリーの手に堕ちるまでの間、メリッサが世界樹の精霊になりすましていたことなど。
だが、首を傾げてはいるものの、フィオナはたいしてショックを受けている様子はなかった。
「この樹の精霊は私が飲み喰らったから、今はもう抜け殻のようなものね。放っておけばあと1ヶ月と少しで枯れてしまうでしょう」
メリッサが、洞の天井を見上げながら言う。
それを聞いても、フィオナには何の感慨も湧いてこなかった。
自分が世界樹の巫女であったことが、遙か遠い昔のことのように思える。
それに、自分には世界樹のことよりも、今、目の前にいる主人のほうが大切だった。
「1ヶ月ですか。ならば、その前に皆をシトリー様に捧げなければなりませんね」
「まあっ?フィオナさん!」
むしろ、メリッサの方が驚いたように目を丸くする。
そして、ふたりは互いに顔を見合わせて声を上げて笑う。
だが、すぐにメリッサが真剣な表情に戻ってシトリーの方を向いた。
「ところで、シトリー様。私が世界樹の精霊を飲み込んだ際に、妙な記憶が流れ込んできたのですが……」
「妙な記憶だって?」
「はい。この樹は、神との誓約で、何かを封印していたようなのです。それも、おそらくは魔界に」
「なんだと?」
「ただ……そこに何が封印されていたのか、魔界のどこに封印されていたのかまではわかりませんでした」
「ふーむ……」
シトリーは、腕を組んで考え込む。
そして、フィオナの方を向いた。
「フィオナ、おまえは何か知らないのか?」
「……はい。それはきっと、代々の世界樹の巫女にだけ伝えられてきた伝説のことだと思います」
「それを、詳しく聞かせてくれないか?」
「はい。それは、まだ天地創造からそれほど時間が経っていない時のことだと言われています。その頃、この世界には、全ての神々や魔王の力をも凌ぐ、強力な魔物がいたそうです」
「ふんふん?」
「その力を怖れた神々と魔王たちは、共謀してその魔物の隙を突き、幾重にも封印をしたそうです。それは、天界、魔界、地上を巻き込んだ大事件だったそうです。なにしろ、その封印には神だけではなく、魔界の創造主たる伝説の大魔王も一枚噛んでいたということですから」
「なんだって!?」
フィオナの語りはじめた話に、さすがのシトリーも驚きを隠せないでいた。
「もちろん、古い伝説の中の話ではあります。しかし、その封印の話は、先代の巫女からだけでなく、世界樹からも直接聞いたことがあるので、信憑性は高いと思います」
「ふーむ……」
「そして、その魔物を封印した棺は、魔界の最深部の誰も踏み込まない場所に安置し、その封印の押さえとして、この森の世界樹を植えたと伝えられています。それから程なくして、私たちの祖先がこの森を守るために住むようになったとのことです」
「なるほど、そんなことがあったなんてな……。で、その魔物がどういうものなのかは伝えられてないのか?」
「詳しいことは……。ただ、その魔物が本気で怒ると、神々や魔王が束になっても敵わなかったそうです。その上、その魔物は神々の言うことも魔王の言うことも聞かなかったために、天界、魔界の双方から疎まれ、怖れられていたとのことです。だから、今でも天界はその魔物の封印が解けるのを怖れているらしいですが」
「なんだって?じゃあ、天界の神もそのことを知っているのか!?」
「はい、それは間違いなく。このことが魔界にどう伝わっているのかは知りませんが、少なくともこの森と天界には伝わっているはずです」
「そんなはずはない!僕は堕天使だ、もともと天界にいたんだぞ!だけど、そんな話は聞いたことがない!」
「この話は、この森でも世界樹の巫女にしか伝えることを許されなかった秘伝となっていますから、おそらくは天界でも限られた者にしか知らされていなかったのではないでしょうか?」
そう言って、フィオナは首を傾げる。
「……なんてこった。つまり、僕たちはその魔物の封印を解いてしまったことになるんだな?」
「はい。ただ、その魔物には何重もの封印がしてあるとのことなので。この樹が枯れたからといって、直ちに封印が完全に解けるわけではないと思いますが」
「それにしても、神も魔王も怖れる魔物なんて、そんなものがいたなんてな……」
再び黙りこくって考え込むシトリーに、メリッサが声を掛ける。
「いかがいたしましょうか、シトリー様」
「いや、どうするって言っても、それはたしかに気にはなるけど、まさか今から魔界に戻って確かめるわけにもいかないしな……」
「それも、そうですね」
そのまま、また思案を巡らして、ようやくシトリーは口を開いた。
「……まあ、このことは頭の中に入れておいて、この戦いが終わってから調べてみることにするさ。どのみち、今すぐどうこうできる代物でもなさそうだからな」
「はい」
「それに、これからが忙しいぞ。世界樹が枯れると怪しまれるからな。それまでに、この森の連中をできるだけ堕としておきたい」
「わかりました」
「じゃあ、まずはフィオナ」
「はい、なんでしょうか?」
「とりあえず、瞑想中に世界樹から新たな啓示があったことにしてくれ。そして、理由を付けて女をひとりずつここに連れてこい」
「わかりました」
「境界の警備にあたっている男どもは、その後で適当に始末する。いいな?」
「はい。シトリー様がそう仰るのなら、私は構いません」
自分の仲間を堕とし、処分する指示を平然として聞いているフィオナ。
艶然と微笑みすら浮かべているその姿は、もはや誇り高き世界樹の巫女ではなく、悪魔の下僕に堕ちた闇の巫女そのものだった。
< 続く >