第3話 夏の夜の夢
~6~
……今日の晩ご飯は何にしようかな?
夕方、結依は”チャイム”での仕事を終えて家に帰る途中だった。
宏平の誕生日をふたりで祝った後、宏平はまた残業ばかりで、なかなか会えない日が続いていた。
その日も、帰りが遅くなるというメールが結依の携帯に入っていた。
……最近、大変そうだよね、宏ちゃん。
本当に、体を壊さなければいいんだけど。
でも、宏ちゃんって、こういう時は頑張っちゃうのよね。
そんなことを考えながら、ぶらぶらと歩いていた、その時。
「ユイちゃんじゃないか?」
「きゃ!」
背後からポンと肩を叩かれて、結依は小さく悲鳴を上げた。
単に驚いたからだけではない、一瞬、電気のようなものが走ったように感じたからだ。
「ごめんごめん、驚かせちゃったかな?」
「あっ、津雲さん」
振り向くと、いつもの笑顔を浮かべて津雲が立っていた。
「こんなところでどうしたの?あ、そうか、今日は早番だったよね。じゃあ、今上がったところか」
「は、はい」
にこにこしながら、津雲はひとりで合点している。
そういえば、その日は珍しく津雲は昼前に来て、長居をすることなくコーヒーを1杯だけ飲んで帰っていたのだった。
「じゃあ、今日は彼氏と晩ご飯ってとこかな?」
「もうっ、津雲さんったら!」
そう返しながらも、痛いところを突かれて、結依の表情は冴えない。
「ん?どうしたの?」
「いえ、彼、今日は残業で遅くなるから……」
「ごめんごめん!そんなつもりで言ったんじゃないんだよ」
「いえ、大丈夫です。気にしてませんから」
そうよ、津雲さんは悪くないじゃない。
それは、ちょっと寂しいけど、宏ちゃんも頑張ってるんだし、私が悄げてどうするの……。
口では大丈夫と言いながらも、しょんぼりしている結依。
すると、津雲がポンと手を叩いた。
「……そうだ、じゃあ、僕と晩ご飯なんてどうだい?」
「ええっ?」
「余計なこと言ったお詫び。それと、いつもユイちゃんには、こんな暇なおじさんの話し相手をしてもらってるからね。お礼に僕がごちそうするよ」
「そんなっ、お礼だなんて!津雲さんは大事なお客さんですから」
「はははっ、まあ、僕がおごってあげるから。遠慮しないで」
「……でも」
「大丈夫大丈夫、下心はないから。なにせ、ユイちゃんには大切な彼氏がいるからね」
「津雲さんっ!」
「はははっ、まあいいからついておいで。いい店を知ってるんだ」
そう言うと、津雲は半ば強引に結依を連れていく。
「……もしもし、僕、津雲だよ。うん、これからふたり、いいかな?そう、いつもの席で」
前を行く津雲が携帯を取りだして、レストランと思しきところに電話をしているのが結依にも聞こえてきた。
そして、津雲が連れてきたのは……。
「あれ?……ここは」
「ん?なんだい?知ってるのかい、ユイちゃん?」
「はい。この間、津雲さんの占いで、私、ここを通って……そう、この店でプレゼントを買ったんです」
そう、津雲が結依を連れてきたのは、輸入ブランド店”ラ・プッペ”の前だった。
「へえ、そうなんだ。偶然ってあるもんなんだねぇ。あ、僕もこの店で時々買い物をするんだけどね」
結依の言葉に、津雲も少し驚いた様子だ。
「でも、もちろん、ここじゃ食事はできないからね。こっちだよ、ユイちゃん」
そう言って、津雲は”ラ・プッペ”ではなく、そのビルの入り口の方に入っていく。
「さあ、こっちこっち」
ビルの中に入ると、エレベーターの前に地下に降りる階段があり、その降り口に”メゾン・ドゥ・プッペ”という目立たない看板が出ていた。
その階段を、津雲は先に降りていった。
”メゾン・ドゥ・プッペ”って、レストランにしては変な名前……。
そういえば、上の店は”ラ・プッペ”よね……関係があるのかしら?
それに、プッペ、ってどういう意味?
首を傾げながらも、結依は津雲の後について降りていく。
階段の下のガラス戸を開けると、中はシックな雰囲気のレストランになっていた。
黒を基調にした内装に、やや控えめなオレンジの照明が店内を照らしている。
「お待ちしておりました、津雲様」
あら?この人の服装……。
ふたりを出迎えたのは、スラックスにベスト、蝶ネクタイという、男装した細身の女性。
上の店と同じ……。
やっぱり関係があるんだわ……同じ人が経営してるのかしら?
店員の姿を眺めて、結依はぼんやりとそんなことを考えていた。
なんだろう、この雰囲気?
上の店と同じ、不思議な感じがする……。
そのレストランの雰囲気に、結依は改めて不思議な感覚にとらわれる。
そんな結依をよそに、津雲は店員と親しげに話をしていた。
「では、お席をご用意しております。お客様、お荷物をお持ちいたしましょうか?」
「あっ、ありがとうございます」
笑顔で話しかけられて、結依は手にしていたバッグを店員に渡す。
上の店の時と同じだ。男装した美人に話しかけられて、妙にドキドキしてしまう。
「貴重品はございませんね」
「は、はい」
「では、ご案内いたします。さあ、どうぞこちらへ」
店員に案内されて、ふたりは奥の方へと進んで行く。
見回すと、店内には男装の女性の他に、スカートにエプロン姿のウェイトレスの姿もあった。
その格好は、”チャイム”の制服にも似ているが、ずっと洗練された感じだ。
それに、かわいらしい感じのカチューシャをつけているところも違っている。
他に男装の店員も何人かいるが、見回した感じ、働いているのは女性ばかりのようだ。
それに、他に客がいない割には、店員の数が多い気がする。
……まだ時間が早いからかしら?
でも、店員の人は美人だし、笑顔も素敵……。
ちょっと不思議な雰囲気のある店だが、感じは悪くない。
思えば、上の階の”ラ・プッペ”もそうだった。
「こちらでございます」
結依たちが通されたのは、店の奥にある個室席だった。
「さ、座って座って」
「は、はい……」
津雲に勧められて結依は席に着く。
「あ、あの……」
「ん?なんだい?」
「本当にいいんですか?」
正直、結依は店の雰囲気に少しびっくりしていた。
……こんな高そうな店でごちそうになっていいのかしら?
なんだか、津雲に申し訳ないような気がして尻込みしそうになる。
「ああ、大丈夫大丈夫。気にしなくていいから」
そう言って笑顔を見せると、津雲はメニューを広げた。
「そうだ、お酒は飲めるかい、ユイちゃん?」
「は、はい……少しくらいなら」
「この店には、僕が頼んで入れてもらってるいいワインがあるんだよ。飲んでみるかい?」
「あ……はい」
「よし、決まりだね」
津雲はメニューを見ながら、店員に次々と注文していく。
「これこれ、これが最高なんだよ」
店員がふたりの前のグラスに赤ワインを注ぐのを眺めながら、津雲が楽しそうに笑みを浮かべる。
「じゃあ、乾杯といこうか」
そう言って、ワインの注がれたグラスを津雲が取り上げた。
「は、はいっ」
慌てて結依もグラスを手に持つ。
落ち着かない彼女の気持ちのように、グラスの中で濃い真紅の液体が揺れていた。
「それじゃ、乾杯」
「か、乾杯」
軽くグラスを持ち上げた後、そっと口をつける。
「……あ、おいしい、です」
その言葉が、自然に口をついて出た。
本当にそんなに美味しい赤ワインは飲んだことがなかった。
とてもフルーティな香りがして、口当たりもいいのに、甘くなくてすっと喉を通っていく。
なんだか、気持ちまでほぐしていくような味だ。
「そうだろう。僕はこれが気に入っててね。馴染みの店には頼んで入れてもらってるんだ」
褒められて気をよくしたのか、津雲は上機嫌でグラスを空けていく。
実際、ワインだけではなくて、その店の料理も美味しかった。
前菜も、スープも、そして……。
「フルーツトマトの冷製パスタでございます」
「……あっ!」
その皿が出された時、結依の顔がぱっと輝いた。
「ふふっ、ユイちゃんは本当にそれが好きなんだね」
「え?私、前にお話ししてましたっけ?」
「いや、この間占いをした時に、トマトが好きだっていうのが出てね」
「ええっ!?占いでそんなことまでわかるんですか!?」
「まあね。さ、どんどん食べてよ」
「はいっ」
勧められて、結依はフォークにパスタを巻き付け、ソースをたっぷりと付けて口の中に入れた。
口の中に、トマトの甘みと酸味が広がり、そのフレッシュな香りがオリーブオイルとチーズの濃厚な香りと絡まって鼻腔をくすぐる。
「……うん、とってもおいしいですっ!」
「ははは、それはよかった。でも、まだメイン料理もあるからね」
ひとくち、またひとくちと結依はパスタを口へ運ぶ。
夢中になってパクついている結依の姿を、津雲は笑顔で見守っていた。
それから、だんだんと会話も弾んでいき、楽しい時が流れていく。
「うん……このケーキも、コーヒーもとってもおいしいです」
デザートに出た、甘めのホイップクリームを添えたビターなチョコレート・タルトが、濃いめのコーヒーとよく合う。
「ふう……こんなにごちそうになって、今日はどうもありがとうございます」
コーヒーをひとくち啜って、結依はぺこりと頭を下げる。
「どういたしまして。でも、コーヒーだけは”チャイム”にはかなわないね」
「い、いえっ、そんなことないです」
結依が、カップを置いてぶるんぶるんと頭を振る。
そんな結依の様子を、津雲は笑顔を浮かべて見ていた。
……あれ?なんだか、いつもの笑顔と違うみたい。
いっつも優しそうな顔なのに、今日は、笑ってるけど、目が笑ってないような……。
結依がそう思った、その時のことだった。
「”人形になれ、ユイちゃん”」
「……あ」
その言葉を言われた瞬間、結依の表情がぼんやりとなって、その瞳から光が消えた。
「立ってくれないか、ユイ」
「……はい」
虚ろな表情のまま、結依は椅子から立ち上がる。
「ちょっとそこで待っていてくれ」
「……はい」
津雲は、結依を脇に立たせる。
すると、それを待っていたかのように、何人かの店員が部屋の中に入ってきた。
彼女たちは、テーブルを隅に寄せると、部屋の真ん中にマットを置き、その上にシーツを敷いていく。
その傍らで、結依は虚ろな表情をしたままぼんやりと立っていた。
準備ができたと見るや、津雲は再び結依に声をかける。
「ユイ、服を脱いでこっちに来てくれ」
「……はい」
津雲に命じられたとおりに、結依はゆっくりと服を脱いでいく。
「よし、じゃあ、ここに座って」
「……はい」
結依をマットの上に座らせると、津雲もその体を背後から抱きかかえるように座った。
「……んっ、んんっ!」
津雲に抱かれて、結依がくぐもった声をあげる。
「僕に触られてそんなに気持ちいいのかい?」
「……ん。は、はい、気持ち……いいです」
抑揚のない口調で、津雲に返事をする結依。
その肌を撫でると、半開きになった口から熱い吐息が漏れ、喉がひくひくと震える。
「でも、こうするともっと気持ちいいよ」
「……んふっ、ふっ、ふぁ、ふふんっ!」
津雲がその股間の裂け目を指でなぞると、結依はうっとりと目を閉じ、鼻にかかった声をあげて身をよじらせ始めた。
「ふっ、ふうんっ、ん、ふっ、んふうぅ」
背後から結依の体を抱いて、津雲はその敏感な部分に指を這わせていく。
その動きに合わせて、結依はくぐもった声をあげ続ける。
「んふううっ!」
肉芽を弾かれて、結依の体がビクッと跳ねた。
体を弓なりに反らせ、その裂け目から、ブシュッ、と泡のような愛液が噴き出してきた。
「いやらしい体だね、こんなに濡らしているのかい?」
「ふうんっ、んんっ、んふっ、ふっ、ふううっ!」
裂け目の中に指を入れられて、結依がビクンビクンと体を震わせる。
返事もまともに返せないほどに喘いでいる結依の喉から、熱っぽい息が漏れていた。
津雲の指が中をこね回すたびに、クチュクチュという音が響く。
「ほら、こんなにいやらしい音がしてるよ」
「んふうっ、ふうっ、ふっ、んんっ、んふっ!」
「そんなに気持ちいいのかい?」
「ふうっ、んふっ、ふぁっ、ふぁいっ、んっ、ふうぅっ!」
体をひくつかせてよがりながら、やっと返事を返してくる結依。
津雲はにやりと笑うと、いったん出した指を、今度は2本合わせて一気に突き入れる。
すると、結依の体が、きゅっ、と反り返った。
「んっ、ふうううううううっ!」
「そうか、そんなにいいのか。じゃあ、ここらでイっとこうね」
「ふうっ、んっ、ふっ、んふうううううううううっ!」
津雲が、挿し込んだ指で結依の中をぐりぐりと掻き回す。
部屋の中にくぐもった声が響いたかと思うと、結依が、体を硬直させたままぶるぶると震わせた。
「んっ、ふうううぅ……。んっ、んんっ!」
そのまま、ぐったりと津雲に体を預ける結依。
それでも、裂け目に突き入れた指を津雲が動かすと、くぐもった呻き声とともに鈍い反応が返ってくる。
「どうだい?気持ちよかったかい?」
「ふ……ふぁいいいぃ……」
そう答えて、津雲の顔を見上げる結依の瞳は相変わらず虚ろなままなのに、涙で潤んで、うっとりと蕩けているように見えた。
「よく覚えておくんだ。きみは、優しくされるよりも、いやらしく、激しくされる方が好きなんだよ」
「……ふぁい」
津雲の言葉に、結依は濁った瞳を津雲の方に向け、ふやけた声で返事を返す。
「じゃあ、今度は自分でやってみるんだ」
「……ふぁい。……ん、んんっ!」
命令されて、今度は結依が自分の指を敏感なところに伸ばす。
「んふっ、んっ、ふっ、ふううっ!」
「自分でやるのも気持ちいいだろう?」
「んんっ、ふ、ふぁいっ、んんっ、んふうっ」
「気持ちよくて、きみは自分でやるのを止めることができないよ」
「ふぁっ、ふぁいいっ!んっ、んふうううっ!」
結依が自分で秘所を弄る動きが次第に激しくなっていき、また、その体がビクビク震え始める。
その様子を確かめると、津雲がにやつきながらゆっくりと口を開く。
「”目を覚ませ、ユイちゃん”」
「ふあ……え?えええっ!?ああっ、あああーっ!」
不意に我に返り、自分の置かれた状況に動転する結依。
「うああっ、やっ、なんでっ!?ふああっ!」
どうして!?なんで私こんなことしてるの!?
自分の手で自分のいやらしいところを弄りながら、結依は戸惑ったように喘ぐ。
「なんでこんなのっ、いあああっ!いやっ、なんでっ!?ひいいいいっ!」
とにかくっ、こんなの止めないと!
……なんで!?手がっ、止まらない!?
やっ、あっ、あんっ、足にっ、力が入らないっ!
異様な状況に、立ち上がって逃げようとしたが、腰が抜けたみたいに立ち上がれない。
本人は気づいていないが、一度イカされている上に、いきなり快感の激流の中に投げ込まれたのだからそれも無理はなかった。
「へえ、本当にいやらしいんだね、ユイちゃんは」
「ええっ!?津雲さんっ!?なんでっ、どういうことっ、ですかっ!?んくうううっ!」
そうだわ。私、津雲さんと一緒に食事をしてて……それが、どうしてこんな!?
津雲の声に、自分がさっきまで津雲とレストランで食事をしていたことを思い出す。
しかし、それがどういう経緯でこうなってしまったのか、結依にはまったく思い出せない。
「どういうことですかって、ユイちゃんが自分でやってるんだよ」
「そっ、それはっ!あっ、ふああああっ!止まらないっ、止まらないのっ!いああああっ!」
結依は、激しく自慰をしながら体を大きくよじらせる。
どうしても手の動きを止めることができないし、快感のうねりも止まらない。
「そんなにいやらしいんだったら、こういうことをしてもいいよね」
「えっ!?あっ、んふうんっ!やっ、津雲さんっ、そこはあああっ!」
背後から結依の体を抱いている津雲がその乳首をつまむと、結依が髪を振り乱して喘ぎ声をあげた。
……やっ、な、なんで!?
津雲さんに乳首を触られると、電気が走ったみたいにっ!?
「いああああっ、だめええっ、そこっ、感じちゃいますううっ!」
「ふうん、乳首、そんなに感じるんだ」
「あああっ、そっ、そんなに強くするとっ、私っ!」
「そうか、こうされるのが好きなんだね」
結依の乳房を乱暴に掴むと、切なそうな声が喉から絞り出されてくる。
「いああっ、そっ、そうじゃなくてっ!あっ、あああっ、だめっ、激しすぎですっ、津雲さんっ!」
「でも、ユイちゃんだってそんなに激しくやってるじゃないの」
「ふああああっ、そっ、それはっ!あっ、あうんっ!」
いやっ、こんないやらしいことされてるのに……こんなに激しくされてるのに……なんでっ、こんなに気持ちいいのっ!?
荒々しく津雲に胸を揉みしだかれながら、激しく自慰をしている自分に戸惑う結依。
しかし、それよりも、どんどん大きくなっていく快感がさらに結依を戸惑わせる。
……ああ、もう、おっぱいもアソコも熱くて……気持ちよくて……。
「ああっ、ふああああああああっ!」
一瞬、結依の頭の中が真っ白に弾けた。
体を固まって、裂け目の中に入れた自分の指がきゅうっ、と締まる。
その刺激に、結依の首がさらに反り返っていく。
「いああああああああっ!……あっ、ぅああ……ふあぁ……」
ああ……私、イっちゃった。
んふう……でも……まだ、手、止まらない……。
ぐったりとなりながらも、結依はなおも喘ぎ続けている。
だいぶ鈍くなったものの、敏感な場所に挿し入れられた指はまだ動き続けていた。
意識がぼんやりとしているところに、耳元で津雲が囁く。
「ふうん、イったのに、まだオナニーをやめないなんて、本当にユイちゃんはいやらしんだね」
「あっ……ふああぁ……そ、そんな……わらひ……いやらひくなんか……」
「じゃあ、そんなユイちゃんの好きなものをあげようか」
……わたしの……好きな……もの?
不意に、背後から自分を支えていた津雲が立ち上がる気配がした。
そして、そのまま仰向けに寝かされた結依の鼻先に、饐えたような匂いが漂ってきた。
……なに?なんなの、この匂いは?
朦朧とした頭で、結依はその匂いのもとを探す。
ぼんやりと映っていた、自分の前に突き出された長いものが、ようやく焦点を結ぶ。
……ええ?これは……津雲さんの、おちんちん?
そんな、こんなもの目の前に出されて……。
でも、どうして?この匂いを嗅いでると、なんだか気持ちよくて……すごくえっちな気分になってくる……。
目の前の肉棒を凝視したまま、鼻をひくつかせている結依。
その匂いを嗅いでいると、体が熱くなって、朦朧としていた意識が少しはっきりしてくる。
すると、目の前のそれを舐めたいという衝動が湧き上がってきた。
……なんで?津雲さんのおちんちんを舐めたいなんて……そんなこと……でも、でも。
「……ん……ぴちゃ……えろ……れろ」
ゆっくりと結依の舌が伸びて、目の前の肉棒を舐め始める。
すると、痺れる味が口の中に広がってきた。
「ぴちゃ、んふ、れる、れろろ、ちゅ、ぴちゅ、ぴちゃ、えろ」
ああ……津雲さんのおちんちん、おいしくて、気持ちよくて、ずっとしゃぶっていたくなっちゃう。
こんなのおかしいのに、でも、止まらない……。
「ん、あむ……」
肉棒をしゃぶり続けているうちにそれを口の中に入れたくなって、結依は口を開いてそれを中に含む。
「はむ、ん、んふ、じゅるる、むふう、ん、んむっ」
結依は、肉棒を口に含み、熱心にしゃぶり始めていた。
すると、うっとりとするような気持ちで心が満たされていき、体がさらに熱くなってくる。
津雲さんのおちんちん舐めるの……気持ちいい……こうしていると、んんっ、なんだかもっといやらしくなってきちゃう。
「んっ、んふうっ!んっ、んくっ、んぐっ、んむっ、んくくっ!」
動きが鈍くなっていた結依の手が、また自分の敏感な部分を激しく弄り始める。
「んぐぐっ!んんっ、むふうっ、ぐっ!んんんっ!」
肉棒をしゃぶりながら、激しく自慰をしている結依。
また、意識がぐにゃりと蕩けてきて、周囲がぼんやりとしてくる。
「やっぱりユイちゃんはこれが大好きだったんだね」
「んっ、んふう……んんんっ!んぐっ!」
トロンとした瞳を津雲に向けて、結依は笑みを浮かべるように緩んだ表情を見せる。
ああ……気持ちいい……体中が熱くて……とっても気持ちいい……ああ、きもち……。
だんだん、結依は身も心も快感の渦に飲み込まれていく。
そして、朦朧とした意識のまま、ひたすら肉棒をしゃぶり、激しくオナニーを続けている。
「んぐっ、ぐぐっ!んっ、んぐううっ!ぐくっ、んくっ!」
そうしているうちに、結依の体がビクンビクンと何度も跳ねるようになってきた。
首がぐっと仰け反って、時々白目を剥いて体を痙攣させている。
「おや、またイキそうなのかい?」
「んぐぐっ!んんっ!んむむむっ!」
津雲の言葉に、もう返事は返ってこない。
その代わりに、体を大きくびくつかせながら、結依は快感を貪り続ける。
だが、それもそろそろ限界のように思えた。
「しようがないね。じゃあ、僕のを口に注いであげようか」
「んぐぐぐぐっ!ぐむむむむむむーっ!んぐっ、ぶほっ、こほっ、あっ、ふあああああーっ!」
今日3度目の絶頂に達して、結依の体がまた弓なりに仰け反った。
弾みでその口から肉棒が外れ、溢れ出した白濁液が結依の顔を汚していく。
「あああっ!はあぁ……あぁ……あ、ふああぁ……」
結依は、ぐったりと体を投げ出し、蕩けた表情で大きく息をしながら、それでもまだアソコに手を伸ばしている。
満足そうにその姿を眺めていた、津雲の口がゆっくりと開く。
「”人形になれ、ユイちゃん”」
「……あ」
その言葉とともに、結依の表情が虚ろになり、手の動きが止まった。
すると、タイミングを計ったかのように、ウェイトレス姿の店員たちが入ってきて、精液にまみれた結依の顔、汗でぐっしょりとなった体、愛液で濡れた股間をきれいに拭いていく。
彼女たちが結依の体を拭き終えたのを確かめて、津雲は結依に命令する。
「立ち上がって服を着るんだ、ユイ」
「……はい」
さすがに、まだ肩で息をしていて動きは鈍いが、結依はゆっくりと立ち上がるとのろのろと服を着ていく。
すかさず、店員たちがシーツとマットを片付けて、テーブルと椅子をもとの配置に戻す。
「さあ、椅子に座って」
「……はい」
服を着終わった結依に向かって、津雲が声をかける。
その言葉に従って椅子に座る結依。
「眠るんだ。僕が起こすまで、深く」
「……はい」
そして、結依はテーブルに突っ伏すと動かなくなった。
「ユイちゃん、起きて、ユイちゃん」
「……ん、あ?」
体を揺さぶられて、結依は目を覚ます。
ぼんやりと顔を上げた結依の目に、津雲の顔が飛び込んできた。
すると、結依の頭に、さっきの光景が甦る。
「あ、津雲さん!?……あっ、いやああっ!」
津雲の顔を見て、結依は驚いて立ち上がった。
そんな彼女の様子に、これまた驚いた表情の津雲。
「ど、どうしたの、ユイちゃん?」
「……え?えええっ?」
自分は津雲さんに胸を揉まれて……そして、その、おちんちんをしゃぶりながらオナニーして、イっちゃった……わよね?
しかし、目の前の津雲はそんなことがあったような素振りはまったく見せない。
何ごとかという風に首を傾げて結依を見つめている。
「ユイちゃんたら、急に寝ちゃって。もしかしてワインに酔っちゃった?」
「ええっ?寝て、たんですか?」
動揺しながら結依は辺りを見回すと、そこはあのレストランの個室。
テーブルの上はすっかり片付けられているが、特に変わった様子はない。
とてもではないが、あんなことがあったとは考えられない。
「そうだよ、もしかしたら疲れてるのかなって思って、起こしたら悪いと思ったんだけど」
「そ、そうだったんですか……」
じゃあ、あれは、夢?私、今まで寝ちゃってたの?
全部夢だったっていうの?
私、なんていやらしい夢を……恥ずかしい……。
「どうしたの、ユイちゃん?顔が真っ赤だけど?やっぱり、ワイン飲ませ過ぎちゃったのかな?」
「いいえっ!大丈夫です!」
「そうかい、ならいいんだけど」
「今、何時くらい……きゃあっ、こんな時間!?」
携帯で時間を確認した結依が悲鳴を上げる。
夕方の、かなり早い時間に入ったはずなのに、時間はもう23時を回っていた。
「す、すみません。津雲さんにも心配かけて、お店にも迷惑を……」
「いやいや、ここは個室だし、この店は僕のわがままがきくから」
「でも……」
「本当にいいから。じゃ、タクシーを呼ぼうか。家まで送ってあげるよ」
「そんなっ、ここからなら家も近いですし、送ってもらわなくても大丈夫です」
「いいや、こんな時間だし、ひとりで夜道を行くのは危ないよ。それに、なんか飲ませ過ぎちゃったみたいだし、なにかあったら大変だから。どうせ僕もタクシーに乗って帰るんだからついでだよ」
「す、すみません。でも、大丈夫です」
「いいっていいって」
津雲が店員に、タクシーを呼ぶように言う。
「すみません、そんなに気を遣ってもらって」
「いや、本当に気にしなくていいから。……あ、そうだ、ユイちゃんの携帯の番号教えてよ、だめかな?」
「あ、いえ、かまいません。じゃあ、私にも津雲さんの番号とアドレス教えて下さいね」
「ああ、いいよ」
そして、ふたりは携帯を取りだして番号とアドレスを交換する。
そうしているうちに、タクシーが来たことを告げに店員が入ってきた。
「あ、ここです。ここで降ろしてもらったら大丈夫です」
「そうかい。じゃあ、運転手さん、そこで止めてくれないかな」
結依のマンションの前でタクシーが止まる。
「それじゃ、おやすみ、ユイちゃん」
「はい、おやすみなさい、津雲さん。今日は本当にごちそうさまでした」
「いいよいいよ。じゃ、また”チャイム”でね」
「はい!」
津雲に向かって結依は何度も頭を下げる。
そして、津雲の乗ったタクシーが見えなくなるまで結依は手を振り続けていた。
「ああ、運転手さん、僕はここで降ろしてくれるかな」
「はいよ」
タクシーが止まり、津雲は精算を済ませて降りてくる。
夜道を歩きながら、津雲は携帯を取りだした。
「ノゾミか?」
「……はい、なんでしょうか、社長」
何度か呼び出し音がした後に、女の声が帰ってくる。
「やつの様子はどうだ?」
「はい、どうやら、残業というのは本当のようですね。今日も出てきたのは21時を過ぎていましたから」
「まあ、話を聞いた分では真面目な男らしいからね」
「はい」
「近いうちにやつらの仲を裂く。そのときにはおまえに頼むぞ、ノゾミ」
「心得ております」
「じゃあ、そっちの監視を続けてくれ」
「かしこまりました」
「ああ、頼むよ」
そうひとこと言うと、通話を切る。
今の電話の相手は、彼の”従業員”のひとり。
先日、結依から宏平の住所と勤め先を聞いてから、彼女にずっと宏平を監視させていた。
実際に残業続きか……。
だったら、さっさと次の手を打つとするか。
……ん?
その時、メールの着信音がした。
もう一度携帯を手にすると、結依からメールが来ていた。
そこには、”ごちそうさまです。今日は本当にありがとうございました 結依”、というメッセージが入っていた。
「ふ……」
携帯を収め、含み笑いをひとつ浮かべると、津雲は夜の街へと消えていった。
~7~
私、どうしちゃったんだろう?
あんな夢を見るなんて……。
あんなの嘘……あんなえっちなことして……あんなの、私じゃない。
津雲と食事をしたあの時、そんなに疲れていたとも、特に酔っていたとも思えないのに眠ってしまって、そしてあんなにいやらしい夢を見てしまった。
今考えても、結依にはどうして自分があんな夢を見たのかわからない。
しかも、あの夢はとてもはっきりしていた。まるで夢ではないみたいに。
紛れもなく、あれは自分の夢なのに、いや、だからこそ言いようのない違和感を感じてしまう。
”チャイム”で津雲に会っても、あの夢のことが思い出されて、顔が赤くなることがある。
そして、結依が違和感を自覚するのはそれだけではなかった。
日曜日。
さすがに日曜は仕事は休みなので、結依は久しぶりにゆっくりと宏平と過ごすことができた。
一緒にランチを食べた後、ショッピングモールをぶらぶらと見て歩く。
休日を過ごす人混みの中で、少し恥ずかしそうに腕を組んでいるのも、5年目のカップルとは思えないほど初々しい。
こんなにふたりでゆっくりできるなんて、本当に久しぶり。
久しぶりに宏平とのんびり過ごす休日の、その雰囲気だけで少し浮かれていたのか、結依はその時まで自分の中の変化は自覚していなかった。
そして、夜、宏平の部屋で結依の作ったご飯を食べて、並んでテレビを見ているふたり。
……あ。
隣に座っている宏平が、そっと結依の肩に腕を回してきた。
いつもと同じように優しく、柔らかく結依を抱く宏平。
……あれ?
なんか、いつもと違う、気がする……。
いつもなら、その、自分を思いやる宏平の優しさが嬉しいはずなのに。
こうして肩を寄せ合っているだけでとても幸せな気持ちになれるはずなのに……。
もうっ、こんなのじゃ足りないよう……。
今日は、そんな優しい態度を物足りなく思っている自分がいた。
いや、それどころか不満すら感じていた。
どうして?ねえ、それだけなの、宏ちゃん?
もっと、もっと私を熱くしてよ……。
ふと、結依の脳裡に、あの時見た夢がはっきりと甦ってくる。
津雲の荒々しさ、そして、あの快感。
そして、いやらしく燃え上がる自分の体……。
きっと、きっと津雲さんなら、もっと激しく、もっと乱暴にしてくれる……。
もっと私を気持ちよくしてくれる。
……宏ちゃんの意気地なし。
はっ、私ったらなに考えてるの!?
我に返ると、結依は自分の中に浮かんだ考えを振り払う。
宏ちゃんは何も悪くない。
それに、あれは、あの時のは夢なんだから。
本当の津雲さんがそんなことするわけないじゃないの。
こんなこと考えてたら、宏ちゃんにも津雲さんにも申し訳ないじゃない。
一瞬でもそんないやらしいことを考えた自分が情けなくて、膝を抱える結依。
しかし、もっと情けないのは、いやらしいことをして欲しくて、アソコが疼いてきていること……。
「どうした?なんかあったのか、結依?」
「きゃっ」
不意に現実に引き戻されて、結依は悲鳴を上げて狼狽える。
「な、なんだ!?どうかしたのか?」
気づいたら、宏平が心配そうにこっちを見ていた。
「ううん、な、なんでもないよ、宏ちゃん」
結依は、とっさに笑顔を作ってごまかす。
「そうか、ならいいんだけど」
「私こそ、宏ちゃんが心配だよ」
「なんで?」
「このところ残業ばっかりで。……あんまり無理しないでね」
「大丈夫。無理はしてないから」
「うん……」
「ありがとう、結依」
そう言って、宏平がそっと結依の頭を抱きかかえる。
やっぱり、今日の私、なにか変だ。
いつもなら、こうされているとそれだけで胸がポカポカしてくるのに。
宏平を好きな思いで、胸が弾んでくるのに。
今日は、全然胸が弾まない。
でも、宏平を嫌いなわけじゃない。宏平が悪いわけでもない。
変なのは自分。
この間、あの夢を見てから、自分の中のなにかがおかしくなっている。
いやらしいことをして欲しい自分がいて、それを満たしてくれない宏平を不満に思う自分がいる。
こんなんじゃ、宏平に悪いよ……。
宏平に抱かれながら、自分への嫌悪感が募る。
「……じゃ、私、そろそろ帰るね」
いたたまれなくなって、結依は立ち上がった。
「送っていこうか?」
「ううん。大丈夫だから」
「そうか」
「うん。それじゃあね、宏ちゃん」
「気を付けて帰れよ」
「うん!」
自分の内心を見透かされないように笑顔で手を振ると、結依は宏平の部屋を後にした。
やだ……まだ体が熱い……。
家への道を歩きながら、体の疼きを持て余す結依。
私、本当にどうしちゃったの?
自分の身体の変化に、結依は戸惑いを隠せないでいた。
しかも、体が火照ると、この間の夢の中での津雲が頭の中に思い浮かぶ。
ごめん……ごめんね、宏ちゃん。
なんだか、自分が宏平を裏切ってしまったみたいで、胸が締めつけられる思いがしていた。
< 続く >