戻れない、あの夏へ 第6話 前編

第6話 前編 淫ら、時々、不安

~17~

「ん……ああ……もう、朝?」

 結依が目を覚ますと、部屋の中はすっかり明るくなっていた。

「……あ、雄司さん、まだ眠ってるんだ」

 結依は、自分の傍らで寝ている津雲の顔を見る。

 ここは、津雲のマンション。
 昨夜はあの後、津雲と少し飲んでからこの部屋に来て、たくさんセックスをした。
 蕩けるようなセックスをいっぱいして、何度もイって、そして、一昨日、初めてセックスしたときと同じで、わけが分からなくなってそのまま眠ってしまったのだろう。

 だから、ふたりとも裸のままだった。

 ……好きよ、雄司さん。

 津雲の、赤銅色に焼けた筋肉質の体に自分の体を寄り添わせると、昨夜のセックスの、夢のような時間が甦ってきて、幸せな気持ちに包まれる。
 
「……あ」

 何気なく下に向けた結依の視線が、津雲の股間に釘付けになった。

 雄司さんのおちんちん……。

 それを見ていると、昨夜のことが思い出される。
 ふたりで肌を重ねたときの、胸の高鳴りと体の火照り。自分のアソコの中に、固く膨らんだそれが入ってきたときの、体を燃やし尽くすような熱さ。
 そして、自分の中でそれが暴れ回るときの、荒々しいまでの快感の嵐と天にも昇るような気持ち。

 あれが、何度も私のアソコに入ってきて、いっぱい気持ちよくしてもらったんだわ……。
 やっぱり、こうやってじっくり見ると、ちょっと恥ずかしいな。
 でも……。

 のろのろと上体を起こすと、思いとは裏腹に結依はそれに顔を近づけていく。
 まだ眠っている津雲のそれは、当然のことながら萎れてくたっとなっていた。

 これが、あんなに大きく、固くなって私の中に入っていたなんて、信じられない。

 まじまじと見つめていた結依の顔が、無意識のうちにその方に近づいていく
 すると、ぷん、と饐えたような匂いが鼻をついた。

 ……変な匂い。
 でも、嫌じゃない。
 それもそうよね。昨日、あんなにいっぱいセックスしたんだもの。きっと、この匂いの半分くらいは私の匂いなんだわ。

 結依は、くんくんと鼻を鳴らしてその匂いを嗅ぎ続けていた。
 そのうちに、体をモゾモゾとさせ始める。

 なんで?雄司さんの、舐めたいって……お口に入れたいって思ってきちゃった。
 これは、アソコの中に入れるんだよ、お口に入れるものじゃないのに。
 ……でも、舐めたいよ。

 結依は、それに手を添えて持ち上げると、こわごわと舌を伸ばす。
 それは、しょっぱいような、つんと舌の先を刺すような、青臭い味がした。

 なんだかおかしな味だけど、この味、好きかも……。
 私、変なのかな?
 男の人のおちんちん舐めて、嫌じゃないなんて。

「ぺろ、ぺろろ、えろっ、れるっ」

 手で軽く握って舌を伸ばし、ぴちゃぴちゃと音を立ててその先を舐める。

 もっと、もっと味わいたい。……そうだ、お口の中に入れてしまえばいいんだわ。

「ぺろろっ……。ん、はむ……」

 口を開けるてそれを口の中に含むと、痺れる味が口いっぱいに広がっていく。

 ん、おいしい……。
 でも、どうして?初めてじゃないような気がする……あっ、そうだ!あの時、夢の中で……。

 結依は、レストラン”メゾン・ドゥ・プッペ”で眠ってしまったときの夢のことを思い出していた。

 あの夢の中で、私、こうやって雄司さんのおちんちんを舐めて、自分のアソコを弄って、それがとても気持ちよくって。
 そう、こんな感じで……。

「んっ、んむうっ!」

 結依の手が、自分の敏感な部分をまさぐる。
 すると、その体が小さく震えた。

 おちんちん舐めるの、気持ちいい……。
 それに、とてもいやらしい気分になって、えっちなことをもっとしたくなっちゃう。

 ……知らなかった。私、こんなにいやらしい女の子だったんだ。
 そうか、私がいやらしいから、宏ちゃんじゃ満足できなかったんだ。
 ……なんか、宏ちゃんに悪いことしたかな。

 結依の脳裡を、ふっ、と宏平の顔がかすめる。

 なっ、なんで宏ちゃんのことなんて考えてるのよ!
 悪いのはあっちじゃない!
 だって、宏平は飛鳥と…………本当に、飛鳥が私を裏切るなんて……そんなひどいことをするかな?

 不意に飛鳥のことが思い浮かんだ瞬間、そんな思いがよぎる。
 よく考えたら、結依の知る飛鳥がそんなことをするなんて思えない。

 でもっ、現にああやって私に隠れてふたりで会ってたじゃない!

 頭の中に浮かんだ宏平と飛鳥の面影を振り払うように、結依は口の中のそれをしゃぶるのに集中する。

「んふ、んんっ、ぺろっ、あふうっ!んむ、ぴちゃ、えろっ、ん……んむ?」

 夢中になってしゃぶっているうちに、結依の口の中でむくむくとそれが膨れ上がってきた。

 うれしい、こんなに大きくなって。
 そうよ、こんなにいやらしい私を受けとめてくれるのは雄司さんだけなんだから。

 口の中で熱く脈打ちはじめた肉棒をしゃぶり続けていくうちに、結依の頭の中は津雲への思いで満たされていく。

「んふ、あふ、えろろ、はふ、ん、ちゅばっ、んぐぐっ!」

 ……もう、こんなに大きく固くなってる。
 だから、アソコの中がいっぱいになって、気持ちよくなるのね。

「んくうっ!んっ、あふ、ちゅぼ、んふ…………あれ?」

 自分の敏感な部分を指先で弄りながら、膨らんだ肉棒を夢中でしゃぶっていた結依は、頭を撫でられる感触に顔を上げる。

「あ……雄司さん……」

 いつから起きていたのか、津雲が結依を見ていた。

「ご、ごめんなさい……。私、こんなはしたないこと……」
「いや、いいんだよ、ユイ」

 津雲は柔らかな笑みを浮かべて頷いた。
 そして、体を起こすと、結依の股間へと手を伸ばす。

「あっ、雄司さん!んっ、あふうっ!」
「自分でしていたのかい?こんなにぐしょぐしょだよ」
「ご、ごめんなさい。私、こんなにいやらしくて……」

 朝から、津雲のものをしゃぶって、自分の指で体を慰めていたことが恥ずかしくて、結依は顔を真っ赤にして俯く。
 すると、その体をそっと抱きしめられた。

「だから、いいんだよ、いやらしくて」
「……え?雄司さん?」

 はっとして顔を上げたすぐ目の前に、津雲の顔があった。

「……ユイ」
「雄司さん……ん、んむ、んんっ!」

 ごく自然な流れで、ふたりは口を吸う。
 津雲の舌が、結依の口に入って中を掻き回し、結依の舌と絡み合う。
 そっと唇を重ねるだけの、宏平とのキスとは違う、濃厚なキス。
 それだけで、蕩けそうな気持ちになってくる。

「んんっ、ぷふぁあ……」

 口づけの後、うっとりと潤んだ瞳で結依は津雲を見つめる。
 相変わらず微笑んだままで津雲が囁いた。

「ほら、ちょっと腰を上げて」
「はい」

 言われるままに、結依は少し腰を浮かせる。
 津雲が、結依を抱いたまま、その尻の下で胡座をかくような姿勢になる。

「……あ」

 アソコに、固いものの先が当たる感触がした。

「もういいよ、体を沈めて」
「は、はい……あっ、はううううっ!」

 結依が腰を沈めると、アソコを押し開いてそれが体の中に入ってきた。

「はうんっ、んんっ、ああっ、雄司さんのおちんちんが入ってますううううっ!」

 一昨日、昨日の2日間ですっかり慣らされた感覚に、結依が蕩けた笑みを浮かべて歓喜の声をあげた。
 アソコの奥が、まるで喜んでいるようにひくひく痙攣しているのが自分でもわかる。

「あっ、ふあああああっ!」

 下から津雲に突き上げられて、結依の喉から絞り出すような声がもれる。

「あっ、あんっ、あんっ、んふうっ、はっ、ああんっ!」

 ガンガンと突き上げられる度に、アソコの中が擦れて、びりびりと快感が走る。

「あっ、あああっ、いいっ、いいですっ、雄司さん!あふっ、ふああああっ!」

 津雲の首に腕を引っかけて、結依はぶら下がるようにして体を後ろに倒す。
 そうすると、角度が変わって中で擦れる快感が一気に強くなった。

「ああっ、あんっ、はああっ、あっ、はんっ、んっ、雄司さんっ、あああっ…………え?」

 と、不意に、結依の体を突き上げていた津雲の動きが止まった。

「……どうして、雄司さん?」

 訝しそうに津雲を見つめる結依の腰が、快感を得ようとして、モゾモゾと動く。

「自分で動いてごらん」
「え?自分で?」
「だって、朝から僕のにしゃぶりついてたのはユイじゃないか」

 冗談っぽく言われて、結依は顔を真っ赤にする。

「や、それはっ!……雄司さん、意地悪なんだから」
「でも、自分で腰を動かすようないやらしいユイも見てみたいな」
「そ、そこまで雄司さんが言うんだったら……あっ、んあああっ!」

 体を動かしやすいように、津雲の方にぐっと体を寄せると、しがみつくようにして結依は腰を浮かせ、また沈める。

「ああっ、これっ、深くてっ、奥まで当たるのっ!ああっ、あんっ、はああっ!」

 最初はゆっくりと動いていた結依の腰が、次第に激しさを増していく。

「すごくいやらしくて、素敵だよ、ユイ」
「ああっ、あんっ!わたしっ、こんなにいやらしくてっ、いいのっ!?」
「もちろんだよ、ユイ」
「あああっ!ゆっ、雄司さんっ!あっ、んくううっ!奥にっ、奥に当たってるのっ!」

 ……ああっ、雄司さんのおちんちんが中で擦れて、奥にごつごつ当たって、気持ちいいっ!
 雄司さんなら、私のいやらしい気持ちを満たしてくれる……雄司さんなら、こんなにいやらしい私でも受け入れてくれる……。
 ……私、雄司さんに会えて本当によかった。

「あっ、ゆっ、雄司さん!大好きよっ!あんっ、ああっ、ふあああっ!」

 うっとりと目を閉じ、だらしなく緩んだ口許から涎を垂らして一心不乱に結依は体を上下に動かす。
 津雲の肉棒が自分の中でいっぱいになって、全身が蕩けそうなほどに気持ちいい。
 それでも、熱を帯びた体の火照りは収まるどころか、ますます燃え上がっていく。

「ふああっ!あんっ、イイっ、すごくイイのっ、雄司さん!あうっ、ふあああっ、あっ、雄司さんのおちんちんがっ、びくびくって!」

 結依の中で、いっぱいに膨らんでいたはずの肉棒がさらに大きくなったような気がした。
 それが、びくびくと震えているのを感じていた。

「出るのねっ、雄司さんっ!出してっ、私の中に、いっぱいっ!ああっ、んあああっ!」

 津雲にしがみついて腰を振っている結依の体も、ビクッ、と震えた。

「ああっ、私もイキそうっ!だからっ、出してっ!あっ、あああっ、来るっ、来ちゃうううううっ!」

 ぎゅっと津雲にしがみついたまま、結依が体を固まらせた。
 アソコが肉棒をしっかりと咥え込んで、きゅっと締めつける。
 と、結依の中で熱いものが弾ける。

「ふああああああっ!出てるっ、雄司さんの、いっぱいっ、私の中にっ!ああっ、イクっ、わたしっ、イっちゃううううううっ!

 まるで、自分のお腹の中で小さな爆発が起こったかのような衝撃が、結依を一気に絶頂まで押し上げていく。
 全身の神経が快感に打ち震えているように痺れて、頭の中が真っ白になる。

「ああん……ふあああ、あっ、ああっ」

 自分の中に熱いものがどくどくと注がれて、結依は何度も体をビクビクと震わせた。

 ああ……雄司さんの精液がいっぱい出てる。
 こんなにいっぱい出されたら、赤ちゃんができちゃうかな?
 でも、それでもいい……。

 本来の彼女なら、きっと妊娠してしまうことをもっと心配しただろう。
 しかし、快感で蕩けてぼんやりしている頭では、そんなことはすごく些細なことのように思えた。

「すごくいいよ、ユイ。とってもいやらしくて、可愛らしかった」
「ふあああぁ……ううん……雄司さん……」

 ぐったりとした体をベッドの上に寝かされる結依。
 津雲は、にっこりと笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。
 絶頂の余韻に包まれて、結依はトロンとした眼差しを津雲に向けたまま、いっぱいの幸せに満たされていた。

~18~

 結依が津雲と一緒に姿を消してから3日後。

「なんですって!?どういうことよ?」

 その日、宏平からかかってきた電話に、飛鳥は自分の耳を疑った。

「結依が、俺と別れるって……」

 携帯から聞こえる宏平の声は、聞いていて痛々しいほどに憔悴しきって、かすれていた。

「いったい何があったのよ?」
「それだけじゃない。他に好きなやつができたからって」
「そんなバカなことっ、あるわけないでしょっ!!」

 宏平の言葉に、飛鳥は、思わず大きな声を出していた。

「しかし、俺はその男を見たんだ。背が高くて、がっしりとした、髭面の中年の男」
「……背の高い、髭面の中年男?」
「どうした?知ってるのか?」
「あたし……そいつを”チャイム”で見たことがあるかもしれない……」
「なんだって?」
「あたし、今から”チャイム”に行ってくる!また後で連絡するね!」

 通話を切ると、飛鳥は、”チャイム”に向かって走り始めた。

「マスター!聞いたわよ!結依が辞めちゃったんですって!?」

 ”チャイム”に飛び込みざまに大きな声を出すと、マスターが驚いて顔を上げた。

「なんだ、誰かと思ったら飛鳥ちゃんか。あれ?飛鳥ちゃんも知らなかったのかい?」
「ええ。さっき宏平から聞いたの。実家のお父さんが倒れたんですって?」
「そうなんだよ」

 そう言って、マスターは浮かない顔をした。

「結依ちゃんはいままでよくやってくれてたから、文句は言いたくはないんだけどね。……もうひとり、急にバイトの子が辞めちゃってね、困ってるんだよね……」

 飛鳥に向かって、マスターはそうぼやき続けている。

 だが、飛鳥がここに来たのは、その話をするためではない。
 前に、ここで見かけた、スーツに髭面の男のことを確かめるためだ。

 ぶつぶつと呟いているマスターの言葉を遮って、飛鳥は質問をする。

「ところでね、マスター。ここのお客さんで、髭を生やしたおじさんがいるでしょ?背が高くて、日に焼けて、がっしりとした」
「背が高くて髭面で、日に焼けた……あ、もしかして、津雲さんのことかな?」
「その人、先月、あたしがここに来たときも来てたよね?ほら、あたしが後片づけ手伝って、結依と一緒に帰ったあの日!」
「……うん。そういえば来てたかな」
「その人、あたしがここでバイトしていた頃にはいなかったよね?」
「ん?……ああ、津雲さんがこの店に来始めたのは……たしか1年くらい前からだからね。そういえば、あの人、ここ何日か来てないね。前は毎日のように来てたっていうのに」
「本当に!?」
「ああ」
「ねえ、マスター!その人のフルネームわかる!?あと、何してる人なのかも!?」
「ええっと、たしか名前は津雲……雄司だったかな?仕事は何をしてるのか聞いたことはないねぇ……。だけど、津雲さんがどうかしたのかい?」
「ううん、ちょっとね。ありがとう、マスター!じゃあ、また来るから!」
「お、おい、ちょっと、飛鳥ちゃん!?」

 いったい何があったのか理解できないまま、軽く手を振って駆け出していく飛鳥の後ろ姿をマスターは呆気にとられて見送るしかなかった。

 ……津雲…雄司……あの男がっ、結依を!

 走りながら、飛鳥は頭の中に、津雲というその男の姿を思い浮かべる。
 あの日、宏平の誕生日の前日に、”チャイム”の入り口でたった一度だけすれ違った相手だが、印象ははっきりと残っている。
 日に焼けた、浅黒い肌、無造作に伸ばしているようで、丁寧に手入れされた口髭と顎髭、背が高く、がっしりとした体。
 そして何より、その顔に浮かべていたあの笑顔……。
 一見、柔和で紳士的に見えるが、その視線が、まるで相手を舐め回すように、あるいは値踏みするように自分に絡みついてくるような気がして、飛鳥は少し薄気味悪いものを感じていた。
 あの笑みが、脳裡に焼きついて離れない。

 きっと、あの男が結依になにかしたんだわ!
 そうよっ!結依はそんなに簡単に心変わりして相手を変えるような子じゃないものっ。
 だいいち、ついこの間まであんなに宏平のことを心配してたじゃないの!
 こんなの、絶対におかしいんだからっ!
 あの男から結依を取り返さないと!
 そのためには、まず、あの男を見つけなきゃ!

 唇を噛んで、飛鳥は夕暮れの街を走っていった。

~19~

「んっ、あっ、あふうっ……んっ、んんっ!」

 津雲のマンションで、ベッドの上で仰向けになった津雲に馬乗りになり、結依は自分から体を揺すっていた。
 初めはゆっくりと動かしていたのが、次第に動きが早く、大きくなっていく。

「あっ、奥まで当たってっ!ああんっ、イイのっ、雄司さん!あっ、ふああああっ!」

 津雲の腹に手をついて、体を上下させる結依の首が、糸で引かれたように後ろに反り返る。
 自分の中で、大きくて固い津雲のそれが擦れると、全身が蕩けそうな快感が走り、子宮口をごつごつと叩かれると、そのたびに、目の前が白くフラッシュする。

 この数日、結依はずっとここで過ごしていた。
 その間、自分の部屋には一度服を取りに戻っただけで、それから帰っていない。いや、もう、結依は自分の部屋に帰る気すら失せていた。 
 食事の時に外に出るくらいで、それ以外の時間はこうやって津雲と体を重ねる日々。

 ああっ、私の中が雄司さんでいっぱいになって、とっても幸せ……。

「あっ、あああっ!」

 後ろ手に手をついて体を後ろに傾けると、中に突き刺さる角度が変わって、結依の中を肉棒が抉るようだ。
 しかし、それがかえって、結依の中を抉るように擦れる度に、頭のてっぺんまで突き抜けるほどの快感が走る。

 んんっ!こうしてっ、この角度だとっ、ものすごく擦れてっ!んっ、ここをこうするとっ、もっとっ、あああっ!

 少しずつ角度を変えて、より気持ちいい場所を探っては、夢中になって腰を動かす。
 胸を張るように反らせた体の、その、形のいい乳房がゆさゆさと揺れている。
 そして、体を揺らすたびに自分の中で肉棒が擦れる、その快感。

 もう、結依には、この快感のない生活など考えられない。

 本当は、時々、宏平の顔がちらつくときもある。
 自分でも、どうして宏平のことを考えることがあるのかよくわからない。
 もっとわからないのは、宏平が自分を裏切ったことへの怒りと同時に、なぜか、後ろめたい思いもすることだ。

 それと、津雲に言われたからとはいえ、居場所がわかるとなにかと面倒だろうからと”チャイム”をやめてしまったことを後悔することもあった。
 店をやめることを電話一本ですませてしまったことが、長い間、なにかとよくしてくれたマスターに対して申し訳ないと思っていた。

 でも、それ以上に体が、そして心が津雲を求めてしまう。
 そして、こうして体を重ねていると全てを忘れることができる。
 こうしている間は、余計なことを考えなくて済む。
 ただ、津雲のことを考え、津雲とセックスする快感に満たされていく。

「あああっ!あんっ、イイっ、これっ、イイのっ!雄司さんのおちんちんが中でっ、中で擦れてっ、んんんっ!」

 もっとっ、もっといっぱい雄司さんのおちんちんを感じたいの。
 もっともっと気持ちよくっ、あっ、あああっ!

 固くて熱い肉棒が、結依の中をいっぱいに掻き回す感覚。
 そうしていると、頭の中がじんじんと熱くなってきて、アソコの中をいっぱいに押し広げているそれをもっと感じていたくなる。
 それが、結依の動きをさらに激しくさせていく。

 しかし、それだけではなかった。

「んくうっ!気持ちっ、いいですかっ、雄司さん!?」

 腰を揺すりながら、津雲に訊ねてくる結依。
 その表情は、以前の彼女からは想像もつかないほどに淫らに緩んでいた。
 今の結依は、津雲の前ではいやらしい姿を晒すのをためらう様子も、恥じらう素振りも見せない。

 津雲と毎日セックスを重ねる度に、自分がすごくいやらしいことを実感する。
 そして、いやらしく乱れることが全く恥ずかしくなくなっていく。
 むしろ、津雲の前で淫らな姿を見せることが嬉しいとすら思えてくる自分がいた。

「ああ、気持ちいいよ、ユイ。ものすごく、締めつけてくる」
「んんっ!ああっ、もっと雄司さんのこと気持ちよくしてあげるから、もっともっと私のことも気持ちよくしてっ、!あああーっ!」

 実際に、結依が高い声で喘ぐたびに、結依のそこがきゅっと肉棒を締めつけていた。
 その中も、きついくらいに肉棒にみっちりとまとわりついてきて、津雲を楽しませる。
 結依の仕上がり具合は、津雲を満足させるのに十分だった。

 と、結依は、肉棒がいきなり奥深くまでねじ込まれたように感じて身をよじらせた。

「ふわあああっ!そんなっ、深いところまでっ!んくうううううっ!あっ、んはあああっ!」

 津雲が下から突き上げてやると、結依はぎゅっと目を瞑って喉から声を絞り出してよがり狂う。

「もっと気持ちよくしてあげるよ、ユイ」
「あっ、はいいっ!あんっ、はぁんっ、はあっ!あっ、あぁん!ひっ、ひくうううっ!」

 結依の腰を掴み、下から強く突き上げてやると、結依の体がガクガクと跳ねる。
 喘ぐ声のトーンが上がり、その体がビクビクッと震え始めた。

 やあっ!こんなすごいのっ、奥までっ、突き抜けちゃうううううっ!

 快感が、子宮口も、子宮も突き抜けて、頭のてっぺんまで突き上げてくるような衝撃。
 気持ちよすぎて、他の感覚が麻痺していく。
 まるで、快感しか感じることができないみたいに。

「イキそうなんだね、ユイ?」
「あんっ!ふああっ、はっ、はいいっ、もうっ、もうっ、イキそうっ!あっ、ふわあああああああっ!」

 大きな喘ぎ声をあげて、結依の体が反り固まった。

「はああぁっ……ごっ、ごめんなさいっ、雄司さん!またっ、私ばっかり先にイっちゃってっ!ああっ、あううんっ!」
「いいんだよ、ユイ。何度イっても」
「はいいいいっ!あっ、あふうっ、あんっ、ああっ、またっ、またイクううううううううっ!」

 何度も体を震わせて絶頂する結依を、津雲が容赦なく下から突き上げる。
 いや、容赦なく、というのは正しくない。
 結依は、喜びに蕩けた顔で肉棒を受けとめているのだから。

「くうっ、僕もそろそろいくよっ、ユイ!」
「ふああっ、ふぁいいいっ!来てっ、雄司さんのっ、いっぱいっ、中に注いでええええっ!」

 津雲の言葉に応じるように、結依の中がきゅっと締まった。
 まるで、精液を搾り取ろうとでもいうかのように。

「くっ、ユイ!」
「雄司さんっ!あっ、ふあああああああああああっ!」

 肉棒の先から、結依の中に熱いものが注がれていく感覚。
 ここで津雲と過ごすようになってから、体を重ねるたびに感じる、幸福で満たされていく瞬間。

 ……ああ、また、雄司さんにいっぱい注いでもらったわ。

「すごい……雄司さんのが、いっぱい入ってきてる。……ん、ちゅむ」

 体を前に倒し、結依は津雲の唇に吸いついて舌を絡める。
 絶頂の余韻に浸り、肩で大きく息をしている結依の、その淫らに潤んだ瞳は、もう津雲しか映していなかった。

* * *

 私、毎日いっぱい雄司さんとセックスして、こんなにいっぱい中に出してもらって……。
 ……こんなに中に出されたら、赤ちゃんができちゃうかな?

 セックスの後、幸せな気持ちで少しまどろんでから、ようやく起き出す。
 そして、ぼんやりとリビングでくつろぎながら、結依はそんなことを考えていた。

 あっ、でも……。
 もし、本当に赤ちゃんができたらどうしよう……。

 ふと、そんな思いが頭をよぎる。
 もちろん、今、こうやって津雲と一緒に過ごす日々になにひとつ不満はない。
 自分は津雲のことを好きだし、一緒にいると幸せだし、なにより津雲とのセックスはとても気持ちいい。
 しかし、セックスしているときの狂おしいほどの熱が冷めると、些細なことが気になってくることがあった。

 そんなときに、なぜか宏平や飛鳥のことを思いだしてしまうことがある。
 ”チャイム”のマスターに、勝手にやめてごめんなさいと謝りたくなることもあった。

 それに……。

 ……赤ちゃんができちゃったなんて言ったら、お父さんもお母さんもきっと怒るだろうな。

 実家の両親のことを考えると、少し気分が沈む。
 冷静に考えると、普段は優しいけれど、田舎の人間らしく実直で真面目な結依の両親が、できちゃった婚なんて認めてくれるはずがなかった。

 でも、雄司さんの赤ちゃんだったら欲しいな、私。
 雄司さんはどうなんだろう?
 私の赤ちゃん欲しいのかな?
 そうだよね、こんなに毎日セックスしてるんだもの、いつかは言わないといけないよね、私と……け、結婚して欲しいって……。
 あ、でも、お父さんとお母さんにはなんて言おう……。

 宏平との結婚も考えていた結依は、両親に宏平のことを紹介していたこともあった。
 それを、別な人と結婚するなんていきなり言ったらどう思うだろうか。
 ふたりには、どう説明したらいいのか……。

「どうしたんだ、ユイ?」
「……え?雄司さん?」

 気がつくと、津雲が心配そうにこちらを覗き込んでいた。

「考えごとしてたみたいだけど、なにか気になることでもあるのかい?」
「い、いや、なんでもないの……」
「やっぱり気になるのかい、あの彼のことが?」
「いいえっ、そんなこと……ないわ」

 本当は、宏平のことが時々思い浮かぶことがあった。
 そんな時は、宏平の顔と一緒にあの時の怒りも思い出すのだが……。
 ただ、怒りとは別な思いもたしかに湧いてきていた。
 申し訳ないというか、後ろめたいような感情が。
 なぜ、そんなことを考えるのか自分でもよくわからない。
 でも、それを津雲には知られたくないと思った。

 だから、津雲に答える結依の口調は、どこか歯切れが悪かった。

「それとも、”チャイム”のマスターのことかな?僕もあの店にはよく通ったから、申し訳なく思っているんだけどね」
「いいえ、それも……いいんです。たしかに、マスターには悪いことをしたと思ってるけど、それはきっと、いつか私から謝りに行くから……」

 さすがに、結依はその問いには悲しそうに顔を伏せた。
 俯いて目を合わせようとしない結依を、津雲は黙って見下ろす。
 少しの間、そうやって黙っていた後、ゆっくりと津雲の口が開く。

「”人形になれ、ユイちゃん”」
「あ……」

 結依の体が、ビクッと小さく震えた。

「こっちを向くんだ、ユイ」
「……はい」

 力なく返事をして、津雲を見上げた結依の瞳からは光が失せていた。

「何を考えていたんだ、ユイ?正直に話してみろ」
「……お父さんと、お母さんのことを。雄司さんと一緒にいられて私、幸せだし……雄司さんとセックスするのもすごく気持ちいいし。でも、こんなにいっぱいセックスしてたら、赤ちゃんができちゃうかも、って思って……。こんなこと知ったら、きっとお父さんもお母さんも怒るだろうな、って……。でも、私、雄司さんとなら赤ちゃんができてもいいと思ってるし、雄司さんさえよければ、結婚したいと思ってるの……だって、そうでなかったら毎日こんなにセックスしないもの……。でも、お父さんたちには宏平のことを紹介しちゃってるし、雄司さんのこと、なんて言って説明したらいいだろうって……」
「ふっ……」

 思わず、津雲は吹き出しそうになった。
 結依の思い悩んでいることは、津雲にとっては全くどうでもいいことなのに、彼女にとっては深刻な問題であるらしいのがおかしかった。
 それにしても、たった数日で結婚まで考えているとは。
 結依をそういう風に、自分のことを好きで、しかもいやらしいことが好きな女にしたのはたしかに津雲だが、結婚する相手としかセックスをしないとでも考えているような節があるのが、真面目な性格の結依らしい。

「なるほどな。で、他には何か気になることはないか?この際だから全部言ってみろ」
「……時々、宏平のことを思い出すの。私にもどうしてかわからないけど……なぜか宏平に悪いことをしたような気がして……。自分でもどうしてそんなことを考えるのかわからない……だって悪いのは宏平の方なのに……。それに飛鳥のことも……なんでだろう?飛鳥が私のことを裏切るなんて、悲しいけど……私の知っている飛鳥は、そんなことをしないような気もして……。でも、でも……雄司さんはとても素敵な人だし、私は、雄司さんのことを本当に好きだから、雄司さんと一緒にいることに、なんの不満もないのに……どうしてあのふたりのことを考えちゃうんだろう?そんなこと考えてたら、雄司さんにも申し訳ないのに……」

 結依が、ぼそりぼそりと自分の思いを語る。
 虚ろな表情ながら、その瞳には僅かに悲しみの色が浮かんでいるように見えた。

「なるほど……本当に優しい子だね、きみは」

 誰に言うともなく、津雲は呟く。

 今は、津雲とともに過ごす時間に流されていて表面に出てくることはないが、瞬間的な怒りが冷めて冷静になると、彼らが本当にそんなひどいことをする人間かどうか疑問に思う気持ちが、心の底にわだかまりとなっていても不思議ではない。

 一時の感情で宏平に別れを告げたものの、結依には、宏平と一緒に積み重ねてきた時間がたしかにある。
 それは、飛鳥という友人にもいえることだ。

 結依のように優しい性格ならば、自分にとって大切な人間のことを、いつまでも怒りの対象としていることはできない。
 ましてや、本人でも意識していない心の奥底に、まだ彼らを信じる気持ちが残っているのならなおさらのこと。
 一方で、今、津雲と過ごしている生活を大切に思っている気持ちが結依の中に新たな葛藤を生んでいる。
 本人さえ自覚していない、別れた恋人と、自分を裏切った友人を信じようとする思いと、津雲への愛情の間で、結依の心は板挟みになっているのだろう。
 もちろん、人によっては過ぎてしまったことを、過去のものとして割り切り、ドライに心を切り替えることのできる人間もいる。
 だが、結依にはきっとそれはできない。
 彼女は過去の想い出を、それがどのようなものであれ、自分にとって大切なものとして心の中にしまっておくようなタイプなのだろう。
 そして、それをふとした機会に思い出して、自分の心を翳らせることを繰り返していくに違いない。

 両親のことを気に病むのもそうだ。
 実際には、そういうことになっても、うまく立ち回れる人間はいくらでもいる。
 だが、優しくて真面目な結依は真剣に思い悩んでしまう。
 たとえ、結婚を考えている相手として親に紹介していても、その相手と別れることは実際にあるだろうし、説明のしようはいくらでもあるというのに。

 そして、そういった大切な人たちへの思いを断ち切ることには結依にはできない。
 なにより、津雲との結婚を本気で考えているほど純真な結依には、津雲の”従業員”たちとの生活を受け入れることなどとてもできないだろう。
 だいいち、結婚したいなどという結依の思いに、津雲の方が応えられるわけがなかった。

 それなら、いっそのこと……。

「もう、何も悩まないで済むようにしてあげるよ、ユイ。何も考えず、ただ、僕のことだけを考えていけるようにね……」

 結依に聞こえるか聞こえないかの小さな声で津雲は呟く。
 そんな津雲の顔を、結依はぼんやりと見上げたままだ。

 津雲が手を伸ばして頬を撫でてやると、結依は、ふっ、と虚ろな笑みを浮かべた。

< 続く >

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