第8話 告白
そして、その日……。
「陸くん、放課後ちょっといい?」
休憩時間に、羽実がそっとそう言ってきた。
「いいけど、どうしたの?」
「うん、ちょっとね……」
僕が聞き返したら、羽実は頬を染めて言葉を濁すと、小走りに自分の席に戻っていった。
放課後に用事なんて……いったいなんなんだろう?
わけのわからないまま、僕は羽実の方をぼんやりと眺めていた。
そして、放課後。
校舎裏。
羽実に連れられてこんなところに来たけど、この場所にはあんまり良いイメージがないんだよなぁ……。
普通は、女の子に校舎裏に呼び出されるなんて、胸がドキドキするもんなんだけど。
ここは、空に催眠術をかけられた子が何人も告白してきて、そのたびに断った場所だ。
だから、なんか妙に落ち着かない。
「陸くん……」
前を歩いていた羽実が、僕の方に向き直った。
「ど、どうしたの?」
羽実に見つめられて、思わずドキッとしてしまう。
背筋を伸ばして、真っ直ぐに僕の目を見ている羽実はもちろんかわいらしいんだけど、それだけじゃなくてハッとするくらいにきれいに見えた。
どこがどう違うかって言われると困るんだけど、なんか、表情が少し大人びてるというかなんというか……。
そして、じっと見つめ合ってる僕の目の前で、まるでスローモーションのように羽実の口がゆっくりと開いた。
「私ね、陸くんのことが好きなの」
「……えっ?」
一瞬、言葉の意味がわからなかった。
いや、意味はわかるんだけど、本当に嬉しい言葉を聞いて、頭の中が空っぽになってしまってなにも考えられなくなる。そんな感じだった。
だから、間抜けにも聞きかえしてしまう僕。
「私、陸くんのことが好き。陸くんが私の彼氏だったらいいなって、陸くんの側にいれたらいいなって、前からそう思ってたの……」
「え、えっと……」
その言葉に、顔が熱くなってくる。
羽実が、僕のことを好きって言ってくれてる。僕に告白してくれてる。
それは、すごく嬉しいことのはずなのに……。
だけど、羽実の告白を聞いている僕は、なにかしっくりこないものを感じていた。
「だから、私とつきあって、陸くん」
僕を真っ直ぐに見つめたまま、なんの迷いもなく羽実はそう言い切る。
それで、僕の感じていた違和感の理由がはっきりとわかった。
だから、次の瞬間僕は大声で叫んでいた。
「おいっ、空!いるんだろっ、空!」
そう、これはきっと空の仕業だ。
この間、羽実は自分からは絶対に告白できないって言ってた。
それなのに、羽実の方から告白するなんて絶対におかしい。
あれからまだ時間も経ってないし、どうしても羽実から告白する決心をするほど僕たちの関係が大きく変わるようなことがあったとも思えないし。
よしんばそんなことがあったとしても、羽実が恥ずかしがるそぶりも見せずにこんなにはっきりと告白してくるなんて考えられない。
だから、これはきっと……。
「空!おい、空!見てるんだろ!?」
「なに言ってるの、陸くん!空ちゃんは関係ないでしょ!?」
羽実が戸惑ったような声を上げたけど、僕には空がどこかで見ているっていう確信があった。
だって、この場所……。
ここは、空が女の子に催眠術をかけて僕に告白させた場所だ。
もし、本当に羽実が僕に告白するんだったら、他にいくらでも場所はあるはずなのに、わざわざこの場所を選ぶなんて。
「おいっ、空!どこだよっ、空ったら!?」
「なんで空ちゃんを呼ぶの!?ねえ、陸くん、私への返事は!?」
羽実が泣きそうな顔で僕の腕を掴むけど、こんなことはすぐに止めさせないと。
よりにもよって羽実に催眠術をかけて僕に告白させるなんて、そんなこと……。
「空!出てこいよっ、空!」
「ねえっ、陸くんったら!」
「”お遊戯する人この指とーまれ!”」
僕と羽実がもみ合っていると、空の声が校舎裏に響いた。
「空……ちゃ……?」
木陰から現れた空の、突き立てた人差し指を見つめたまま、羽実の動きが止まった。
そのまま、空は羽実の方に歩み寄るとそっと囁きかけた。
「ゴメンね、羽実。散々な告白になっちゃったね。とりあえず、今日陸に告白したことは忘れちゃおうか?今日、羽実は何もしなかった。陸に告白したことはなにも覚えてないの、いい?」
空の声に、羽実は虚ろな目をしてコクリと頷く。
「よし、じゃあ、羽実はちょっと眠っててね」
と、空がそう言うと、羽実の体がぐったりと倒れそうになった。
それを支えると、空はその場にゆっくりと座らせて校舎の壁に凭れさせる。
そして、立ち上がって僕の方を見た。
「どういうことなんだよ、これは!?」
「どうって、羽実の方から告白するようにしてあげたんじゃない」
語気を強めて問いただした僕に、空は平然とそう答える。
だけど、いつものような軽い口調じゃなくて、淡々とした口調で。
「おまえっ!」
「だって、陸の方からは羽実に告白できないみたいだから。羽実の方から告白させるしかないじゃないの」
「そ、そんなことっ!」
何かを抑えているような静かな口調で、空は言葉を続ける。
だけど、そんな理屈は僕を苛立たせるだけだった。
僕が自分から告白しないからとか、そういうのは問題じゃない。
よりにもよって、羽実に催眠術をかけてこんなことをさせたのが許せなかった。
「それよりも、陸こそどうして羽実の告白を受けなかったのよ?」
「ふざけるなぁっ!」
「きゃ!」
頭に血が上った僕は、思わず空の頬を思い切りはたいていた。
驚いた顔で、頬を手で押さえる空。
「ふふ……叩かれちゃった……。陸に叩かれるのっていつ以来だろ……?小学生の頃?下手をすると幼稚園のとき以来かもね……」
そう言った空の顔は、どこか寂しげだった。
でも、僕の怒りはまだおさまりそうにもない。
「おまえなぁ!こんなことしたらダメだって言っただろ!催眠術を使って僕のことを好きにさせて告白させるなんて!それも、よりによって羽実に!」
「……させてないよ」
感情を押し殺した、低く、だけど強い声で絞り出すように空がそう言った。
「えっ?」
「あたしが羽実にかけた暗示は、自分の素直な気持ちを真っ直ぐに陸に伝えるってことだけ。それ以外のことは何もしてないの」
「なっ!?じゃ、じゃあ……」
「そう。羽実は陸のことを本当に好きってこと」
「そんな……」
空のその言葉に、冷や水を浴びせられたような気がした。
「羽実が……本当に僕のことを……」
「そうよ。だから、羽実の告白、受けちゃおうよ、陸……」
「いや、でも……それは……」
羽実が本当に僕のことを好きだって……。
そのことは嬉しく思う。
だけど、やっぱり空の催眠術にかかって告白してくるのは本当の羽実じゃないような気がする。
だから……。
僕が躊躇していると、空が苛立ったように尋ねてきた。
「どうしたのよ、陸?陸は羽実のことを好きなんでしょ?で、羽実も陸のことが好きだっていうことがはっきりしたんだから、告白を受けたらいいだけのことじゃないの?」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
「だったらどういう問題なのよっ!?」
「……空?」
それ以上なにも言えなかったのは、空がいきなり声を荒げたからじゃない。
まるで駄々っ子のような表情を浮かべた空の、その目には……。
「なんでよっ!?なんでいっつもそうなのよ!?あたしの気持ちも知らないで……陸のバカッ!!」
「あっ、おいっ、空!」
走り去っていく空の後ろ姿を、僕は呆然と見送ることしかできなかった。
だけど、すぐに羽実のことを思い出してそっちに駆け寄る。
「羽実!おい、羽実!?」
「……ん、んん。あれ、陸くん?」
名前を呼びながら体を揺さぶると、ゆっくりとその目が開いて僕の方を見た。
「私……なんでこんなところに?」
「覚えてないのか、羽実?」
「え……?うん……」
「なんか、用事があるって言ってたけど、ここまで来て急に倒れて……貧血かなにかかな?」
そう言ってごまかすと、羽実は首を傾げた。
「そう……なんだ?全然覚えてないけど……」
まだ、不思議そうに首を傾げながら立ち上がる羽実。
「大丈夫か?」
「うん……なんともないみたい」
「念のために、保健室に行った方がいいんじゃないか?」
「どうだろう?でも、本当になんともないし、大丈夫だと思うけど」
そう言いながら、羽実は制服に付いた草をパンパンと払う。
本当に、さっきのことは何も覚えていないみたいだった。
「そうか、大丈夫ならそれでいいんだけどね……」
「うん。ありがとう、陸くん。それと、心配かけちゃってゴメンね」
「いや、それはかまわないんだけど。……じゃあ、帰ろうか、羽実?」
「うん!」
笑顔で頷くと、羽実は僕と並んで歩き始める。
羽実の方は大丈夫そうだけど……。
それよりも、空のやつ……。
さっき、あいつ、泣いてなかったか?
羽実と一緒に正門に向かいながら、僕はさっきの立ち去り際の空の姿を思い浮かべていた。
* * *
「本当に大丈夫か、羽実?」
「うん!なんともないし、ここまで来たらもう大丈夫だよ」
「そっか……」
「ありがとね、陸くん。じゃあ、またね!」
「うん、またな」
いつもの交差点で、手を振って羽実と別れる。
そして、家に帰って……。
「ただいま」
「あ、おかえり、陸」
「空のやつ帰ってる?」
「ええ。さっき帰ってきて、自分の部屋にいると思うけど。珍しいわね、別々に帰ってくるなんて」
「うん、ちょっと僕だけ用事があってね」
空が帰ってることを母さんに確かめてから2階に上がる。
「……空。おーい、僕だけど?」
空の部屋のドアをノックして呼んでも、なんの反応もない。
ドアを開けようとすると、鍵が掛かっていた。
……くそ。
なんなんだよ、いったい?
もう一度ノックしたけどなんの返事もないので、しかたなく自分の部屋に入る。
さっきの空、なんか様子が変だった……。
いや、変といえばこのところずっと変なんだけど。
とりあえず、勉強机に座って最近の空のことを考える。
このところ、やることは無茶苦茶だし、なんか情緒不安定だし、本当におかしいと思う。
まあ、もとからやることなすこと無茶苦茶なやつだったんだけど。
それにしても……だ。
いったい何があったっていうんだよ?
考えても、その原因は見当がつかない。
そうやって、空のことで頭を悩ませていると……。
「……ん?」
誰かがドアをノックした。
「空……?」
ドアを開けると、そこに空が立っていた。
「この指先を見つめてっ、陸っ!」
「うっ……!?」
いきなり、空気を切り裂くような速さで目の前に空の指が突き出され、これまた気合いをかけるような鋭い声が響いた。
まるで、剣術の達人のような鋭い動きと気迫に気圧されて、真っ直ぐにその指先を見つめてしまう。
「ほら、もう陸はあたしの指先から目が逸らせない。息もしたらダメだよ。じっと、息を詰めてこの指を見つめるの!」
またもや、鋭い気合いのような声が響き、空の指先を見つめたままで僕は呼吸を止めてしまった。
いったい、空のどこにこんな気迫が隠されていたのかと思うほどに相手を圧倒する雰囲気を漂わせていて、否応なしにその言葉に従ってしまう。
そして、息を詰めて空の指を見つめていると、だんだん息苦しくなってくる。
でも、本格的に苦しくなる前に空がまた口を開いた。
「さあ、ゆっくりと息を吸って。すうぅー……。今度はゆっくり吐いて。はあぁー……」
空の言うとおりに、大きく深呼吸をする。
有無を言わせない空の雰囲気もあるけど、息を詰めてから、ちょうど苦しくなってきてたところなので、ごくごく自然に従ってしまった。
「じゃあ、もう一度深呼吸しようか。今度は息を吐くと陸の体から力が抜けるよ。ほら、吸ってー、吐いてー」
「すうぅー……はあぁー……わっ!」
大きく息を吐いた瞬間、体から力抜けて、ペタンとその場に尻餅をつく。
自分でもなにがなんだかわからないけど、まるで、腰が抜けたみたいに下半身に力が入らない。
「ほらっ!この指を見てっ!」
「……わわっ!」
また、ビシッと空気を裂いて、目の前に空の指が突き出される。
「さあ、じっとこの指を見つめて。なにも考えずに気分を楽にして、この指だけを見つめて」
「う、ううう……」
言われるままに、突き出された指を真っ直ぐに見つめる。
そうしていると、なんだか目の前の指先がどんどん大きくなって視界いっぱいに広がっていくような気がして、他のものが目に入らなくなっていく。
「ほら、なにも考えなくていいの。じっとこの指を見つめて、楽な気持ちで、また深呼吸してみようねー。すうぅー……。はあぁー……」
「すうぅー……はあぁー……」
声に導かれて深呼吸すると、なんだか頭の中がフワフワして、すごく楽な気分になってくる。
「ほら、すうぅー……はあぁー……。そうやって深呼吸してると、どんどん気分が楽になって、周りが白くなっていくよ、すうぅー……はあぁー……」
「すうぅー……はあぁー……」
「ほら、どんどん周りが白くなっていって、この指先しか見えなくなる。でも、すごく気持ちいいよ、すうぅー……はあぁー……」
「すうぅー……はあぁー……」
こうやって深呼吸していると、目の前がだんだん白くなっていって、どんどん気持ちよくなってくる。
フワフワした真っ白い中に、こっちに向けられた指だけが見える。
……この指は誰のだっけ?
……そんなの、どうでもいいや。
だって、なにも考えなくていいんだから……。
「ほら、どんどん白くなって、どんどん気持ちよくなってくる。すうぅー……はあぁー……。もう、この指先しか見えないし、この声しか聞こえない。でも、この声だけを聞いてればいいの。なにも考えずに、この声の言うことだけを聞いていればいいの。すうぅー……はあぁ……」
うん……この声だけを聞いていればいいんだ……この声だけを……。
語りかけてくる声に耳を傾けながら、僕の目の前も頭の中も、すべてが真白になっていったのだった。
* * *
あ……目を覚まさないと……。
パチンと手を叩く音が聞こえた気がして、僕は目を開けた。
「ん?……空?」
いつの間にか、僕はベッドに座っていて、こっちを見下ろすように、目の前に空が立っていた。
「空……」
話しかけようとして、思わず途中で言葉を飲み込んでしまう。
僕を見つめる、空のその表情。
固く強ばった表情で、どこか思い詰めたような顔をしていた。
そんな顔をした空を見るのは、初めてかもしれない。
「ねえ、陸、大事な話があるの……」
話をすることが躊躇われて黙りこくっていると、空の方から口を開いた。
「……え?なに?」
「あたしね、陸のことが好きなの」
「なん……だって……?」
空の口から出てきた言葉。
それは、僕への告白だった。
「あたし、本当に陸のことが好きなの。陸に、抱いて欲しいとすら思ってるのよ……」
「ちょっ、ちょっと待てよ!」
慌てて、空の言葉を遮る僕。
「わかってるのか?僕たち、兄妹なんだぞ!?」
「わかってるわよ、そんなこと」
「だったら、そんなこと絶対におかしいだろうが!」
驚いて大きな声を上げる僕を見おろして、空が、ふっ……と、寂しそうな笑みを浮かべた。
「うん。全部わかってるよ。兄妹でそんなのはいけないってことも、陸は絶対にそんなのは受け容れてくれないだろうってことも」
そこまで言っていったん口をつぐむと、空はまた真剣な表情に戻って真っ直ぐに僕を見据えた。
「だから、催眠術を使ったの」
「催眠術って……空、おまえ……?」
「本当は、陸には絶対に催眠術を使わないって、そう心に決めてたんだけどね。でも、陸がいけないんだよ。さっき、羽実の告白を受け容れてくれなかったから。あれを受けてくれていたら、あたしは陸のことを諦めようって、そう決めてたのに。なのに、陸があんなことするから!」
話しているうちに感情の高ぶりを抑えきれなくなってきたのか、空の語調が強くなってくる。
僕を真っ直ぐに見つめるその目は、熱でもあるみたいに潤んでいた。
「おまえ、なに言ってるんだよ……?」
そんな僕の言葉が聞こえていないみたいに、空は切々と話し続ける。
「それくらいあたし、陸のことが好きなの!もう、この気持ちは自分でもどうしようもないの!……だからあたし、陸に催眠術をかけたの」
「空……?」
「あたしが合い言葉を言うとね、陸は自分の妹とでも平気でセックスしちゃうようなケダモノみたいな男になっちゃうの」
「なっ……!?」
「そして、ケダモノみたいな陸は、本当にあたしのことを好きで、あたしのことしか見えなくなるの」
「空!おまえっ……!」
僕を見下ろす空のその顔は、思わずぞっとするくらいに大人びて、そしてきれいだった。
そして、空の唇がゆっくりと動き始める。
「”ケダモノの陸はあたしのことしか見えない”」
「……うっ!?」
空がその言葉を言うと、一瞬、くらくらと目眩がして、目の前が真っ暗になった。
「くうぅ……なんだぁ、おい?」
ふらつく頭を軽く振って意識をしゃきっとさせて顔を上げると、目の前に”俺”の妹の空が立っていた
「おう、空……じゃねぇか」
声をかけながら思わず見とれちまった。
こいつ、いつの間にかすっかりいい女になったよな。
ちょっと華奢すぎるけど、こういう女、俺は嫌いじゃねぇぜ。
長い髪を、今日は少しポニーテール気味に後ろで結んでいて、ほっそりした顔のラインがよくわかる。
ぱっちりとした大きな目は、何か期待するみたいに潤んでて、なんか今日はやけに色っぽく見える。
なんていうか、見てるだけで股間の辺りがムズムズしてくるようないい表情してやがるぜ。
あん?俺たちは双子の兄妹だって?
そんなの関係ねぇよ。
こんないい女をほっとけるかってんだ。
そんなことを考えながらにやついていると、空はこっちを見ながら、はああぁ、と熱っぽいため息をついて口を開いた。
「あたし、陸のことが好きなの。陸は、あたしのこと、嫌い?」
「そんなことねぇよ」
「本当に?」
「ああ。おまえみたいないい女、今すぐ俺のものにしたいくらいだぜ。なあ、空……」
「え?……んっ、んんんっ!?んむ……」
立ち上がりざまに空を抱き寄せて、唇を吸った。
一瞬、空は驚いたように目を見開いたけど、すぐに嬉しそうに目を細めて俺のキスに身を任せる。
まったく、かわいい奴だぜ。
じゃあ、こんなのはどうだ?
「んむむむっ!?」
空の唇の隙間から、俺の舌をねじ込む。
すると、さすがにビックリしたのか、腕の中で空の体がびくんと震えた。
ディープキスってやつ?
俺もやるのは初めてだけど、いっぺんやってみたかったんだよな。
「んむ……むふ、んむっ……」
最初は驚いていた空も、おそるおそる俺の舌に自分の舌を絡めてきやがった。
なんか変な感触だけど、これってけっこういやらしいな、おい。
「んん、ぷはぁ……」
長いこと舌を絡め合った後でようやく口を離すと、俺たちの間を唾液の糸が引いた。
「これが俺の答えだぜ、空」
「ああ……陸ぅ……」
俺の言葉に、恥ずかしそうに顔を伏せてもじもじしてるその仕草がたまらなかった。
「空!」
「きゃっ!?……んんっ、んんんんっ!?」
空をベッドに押し倒すと、もう一度キスをする。
そして、キスをしたまま空のブラウスのボタンを外していく。
「んんんっ……ああっ、陸っ!」
ボタンを全部外すと、服をはだけさせてやる。
下から顔を出したブラを乱暴に押しのけると、控えめっていうにもあまりに小さい胸が丸見えになった。
「まったく、本当に小さい胸しやがるな、おい」
「もう……気にしてるんだからそんなこと言わないでよ……」
からかうように言うと、空は真っ赤な顔で唇を尖らせ、イヤイヤと拗ねたように首を振る。
「でも、心配するこたねぇよ。おまえの胸がおっきくなるように俺がいっぱい揉んでやるからよ」
「……ホントに?」
「ああ、本当だぜ」
「あぁ、陸ぅ……あんっ!?はうんっ!」
俺の言葉に、恥ずかしそうに、でもちょっと嬉しそうに睫毛を伏せるのがこれまたかわいいじゃねぇか。
だから、さっそくその小さな乳房を軽く握りつぶしてやると、空は大きく身をよじった。
「やんっ、陸っ、そんなに強く握っちゃやだぁ……」
「こんぐらい強くしないと揉み甲斐がねえだろうが。それともなにか、痛いのか?」
「ちょっ、ちょっと痛いかも……あうっ、ああんっ!」
「でも、痛いってわりには声は痛そうじゃないぜ?」
「やん……だってぇ、痛みよりも、なんか、じんじんって熱くなってきて、んっ、変な感じなんだもん……あんっ」
喘ぎ声を上げて身をよじっている空。
痛がっているっていうよりも、むしろ嬉しそうな感じがしてるんだけどな。
その証拠に……。
「ああんっ、陸うぅ……」
甘ったるい声を上げた空の小っちゃな胸は、小さいなりにパンパンに張って、乳首がツンと上を向いていた。
「へえ、貧乳でもこうするとちゃんと勃つんだな」
「もうっ、貧乳って言わないでよぉ……きゃうっ、きゃふうぅんっ!」
「でも、こうやって乳首がビンビンに勃ってさ、エロいぜ、空。……ちろっ」
「きゃうううぅん!」
胸に吸いついて舌先で乳首を弾くと、空の体がビクククッと震えた。
「ちゅぱ……ちろろろっ……」
「あうっ、ああっ、きゃうんっ、ふああああっ!」
片方の乳房に吸いつきながらもう片方の乳房を握って指先で乳首を弾くと、ビクンビクンと面白いように空の体が跳ねる。
「あうううんっ!やあっ、あんまりおっぱいばっかりいじめないでよぉ……!」
「そうか?だったら、今度はこっちなんかはどうだ?」
「え?……ひゃううううっ!?」
スカートの中に手を突っ込んで股間を指先でなぞると、空はひくひく体を震わせながら悲鳴を上げる。
というか、この感触……。
「なんだよ、パンティーがグショグショじゃねぇか?」
「ううっ……それはぁ、陸があんまりおっぱいいじめるから……」
「じゃあ、今度はこっちをいじめてやるよ」
そう言うと、俺は体を起こして空のスカートをめくり、パンティーを脱がした。
そして、顔を近づけてじっくりと見てみる。
こうやって生でよく見てみるのは初めてだけど、そこは充血して赤く裂け目が入ったみたいになってて、空の体がひくっと震えるたびに、トロッといやらしい汁があふれ出てきていた。
「初めて見たけど、空のここ、すげえエロいな、おい」
「やだっ……そんなの知らないよぉ!……あたしだって自分のアソコ、見たことないんだもん……」
俺の軽口に、空は真っ赤になって顔を手で覆う。
とことんかわいい奴だよな……。
恥ずかしそうにしてる空を見ていると、思わずにやけ笑いが浮かんでしまう。
そして、もっとそんな姿を見たくなってくる。
「ほら、ここなんかいいんじゃないか?」
「はうっ、んんんっ!」
ひくついている裂け目を指でなぞると、顔を覆ったまま呻き声を上げて空は体をよじる。
「へえ、気持ちよさそうだな……今度は、ここをこうして……おっと!」
「やんっ、ひゃくうううううんっ!」
裂け目に指を滑らせていると、弾みで指先がヌポッと裂け目の中に入った。
すると、空が腰を浮かせて大きく喘ぐ。
「すげえな。ちょっと広げてみるぜ」
「やだっ!人のアソコで遊ばないでよっ!あうんっ、んっ、ひゃうううっ!」
指先でバクッと広げると、中の方はもっと赤くてヒクヒクと震えていた。
と、俺は裂け目の上の方に少し隠れるようにして、ポチッと赤くなった豆粒みたいなのがあるのに気がついた。
へえ、これがクリトリスってやつか?
初めて見るクリトリスを、好奇心から指先でさすってみた。
「ひゃううううううううううっ!」
すると、悲鳴に近い声を上げて空の体がきゅっと弓なりになった。
同時に、ヒクヒク震える裂け目から大量の蜜が溢れてくる。
「おいおい、そんなにでかい声出すとバレるだろうが」
「だっ、大丈夫っ!母さんは、催眠術でなにがあっても気づかないようにしてるから!んっ、んんんっ!」
なるほど、そういうことか……。
じゃあ、心おきなく。
「あうっ、ふああああああっ!」
もう一度クリトリスをいじると、また大きく喘いだ空の腰がぐっと持ち上がった。
さっきから、空の裂け目はぱっくりと開いて、栓が壊れたみたいにトロトロと蜜を溢れさせていた。
「すげえエロいな。おまえのここ、いやらしすぎるくらいに涎たらたらだぞ。俺、もうたまらねぇや」
そう言うと、俺は起き上がってベルトを緩め、ズボンを脱いでいく。
実際、喘ぎながら身悶えさせる空がいやらしくて、さっきからズボンの下で俺のチンポはパンパンに膨れあがっていた。
そして、パンツも脱いでいざという段になって、空が体を起こした。
「ま、待って!ちょっと待って、陸!」
「なんだよ?」
「あ、あのね……陸のおっ、おちんちん……よく見てみたいの、ちょっとあたしに見せて……。あ……すごい……やっぱり、大きい……」
恥ずかしそうに頬を赤らめてそう言うと、空は剥き出しになった俺の勃起チンポをみて感嘆の声を上げた。
そして、手を伸ばしてチンポを握ると、興味深そうに上下に握った手を動かす。
「すごい……こんなに固くて、熱いんだ……。ねえ、この前も思ったけど、陸のってすごい大きいよね?」
「知らねえよ。他の奴のなんか見たことねぇし。ていうか、他の奴の勃起したチンポなんか見たくもねぇし」
「そうなんだ……。こ、こんなに大きいのが、あ、アソコに入ってくるんだよね……?は、入るのかな……?」
「知らねえよ。入るんじゃないのか?そんなにグショグショになってるんだから。女のそこって、そのために濡れるって聞いたことあるぜ」
「そ、そうか……そうなんだよね……」
「ていうか、俺は早くしたいんだけどよ。おまえはいいのかよ?」
「……えっ?」
「初めてなんだろ?」
「えっ……?あっ、う、うん……あたしも……あ、あたしの初めて、り、陸にもらって欲しいな、なんて……」
おい、こんなのってアリかよ!?
真っ赤な顔で睫毛を伏せて、上目遣いに俺を見ながら恥ずかしそうにそう言った空の表情がヤバすぎて、またチンポが膨らみそうになったじゃねえか。
服をはだけて胸が丸見えの女が、羞じらいながら初めてをもらってくれなんて、エロすぎてヤバいだろが。
「かーっ、もう我慢できねえや!」
「きゃっ!……陸!?」
空をそのまま押し倒すと、その上にのしかかるような体勢になる。
「いくぜ、空」
「……うん」
顔を近づけてそう言うと、空は小さく頷く。
それを見て、俺は空のアソコにチンポを宛がうと、片手で調節してからその中にねじ込んだ。
……て、あれ?
「くっ、きつうううっ!」
「きゃうっ、痛っ、つううううっ!」
ほぼ同時に、呻き声が上がる。
いや、俺も初めてだからわかんねぇんだけど、女のここってそんなにきつきつなのかよ!?
これ、まだ先っぽの方しか入ってないのに、すっげえきついんだけど!?
まるで、俺のを押し返してくるみたいじゃねえか!
「くううっ!きっ、きついなっ、おい!」
「つうううっ!はっ、初めてだからかなっ!?あうっ、いっつううううっ!」
少しずつ、めり込むように入れていくと、涙目になった空が俺にしがみついてきた。
ていうか、歯を食いしばってガチガチに体に力が入ってるじゃねぇかよ!
「おまえっ、もっと体の力抜けよ!」
「無理無理!そんなの無理だって!んっくうううううっ!」
だから、そんなにしがみついてると体に力が入るだけだろうが!
俺、セックスってもっと気持ちのいいもんだと思ってた……。
初めてのセックスが、意外と厳しいものだと知ったが、それでもなんとか奥の方へとチンポを押し込んでいく。
「やああああっ!痛い痛い痛いっ、いったぁああああ!」
「どうした、空っ!?」
今、空の奴がやたらと痛がったけど……。
あっ!ひょっとして!
「なんかっ、今っ、ブチッて感じで、すっごく痛かったの!あっ、あれってきっと、しょ、処女膜破れたんだよね!?」
と、痛みをこらえながら途切れ途切れに空が答える。
……やっぱりそうかよ。
ていうか、あまりにきつすぎて全然気づかなかったぜ。
そんなに痛いなんて俺も思いもしてなかったけど、でも、ここまで来てもう引き返せないよな。
「もう少しだ、空!」
「うんっ!つうっ!あっくぅうううううううっ!」
なんとか根元までチンポをねじ込むと、空が苦しそうに呻いた。
そのまま、歯を食いしばって俺にしがみつき、荒く息をしている。
「ふっ、ふうう……奥まで入ったみたいだぜ。……大丈夫かよ?」
「くううっ……すごく痛くて、固くて大きいものがお腹の中に入ってきてて苦しくて、もうっ、わけわかんない!」
苦しそうに喘ぎながら、息も絶え絶えに答える空。
て、どう見ても大丈夫じゃねえな。
と、空が俺を見て、痛みに口元を歪めながら泣き笑いのような表情を浮かべた。
「でっ、でもっ、これって、陸のがあたしの中に入ってるんだよね……。だったらっ、だ、大丈夫。す、少し休んだら大丈夫だから……!」
いや、そう言ってくれるのはいじらしいんだけどよ。
真っ赤な顔で歯を食いしばって、痛みを必死に堪えてるっぽいのを見るとやっぱりな……。
なんとかならねぇのかな?
「おまえ、催眠術で痛みを取るとかできねぇのか?」
「む、無理だよ!だってあたしっ、自分には催眠術かけられないもん!」
「そっか……けっこう不便なんだな」
少しでも空の気が紛れるように、そんな会話を交わす。
ていうか、セックスってこんなに大変なもんだったんだ。
そうこうしているうちに、まだ痛そうに顔を歪めているけど、空の呼吸がだいぶ落ち着いてきた。
「そろそろいいか?」
「う、うんっ、まだ痛いけど、だ、大丈夫だと思う……」
「そうか、じゃ、いくぞ。……くっ」
「つうっ!……あくぅうううううううっ!」
中に入れたままのチンポを、ゆっくりと引いて、そして、また押し入れる。
なるべく、痛くないようにゆっくりと。
だけど。
「あくううううっ!っつうううっ、くはぁああああ!」
「くううううっ!やっ、やっぱりきついな、おい!」
やっぱり空は痛みに歯を食いしばり、その中はきつきつでこっちも痛いくらいだった。
「なっ、なんであんなに濡れてたのにこんなにきついんだよ!?」
「やっ、やっぱり陸のが大きいんだよ!だって、こんなにあたしの中でいっぱいになってる!はうっ!いっ、痛いけどっ、陸のこといっぱいに感じられるよっ!っつうううう!」
いや、セリフはいい感じなんだけどよ、歯を食いしばって無茶苦茶痛そうにしてるじゃねえかよ……。
こっちも、ガチガチに固い中を動いてるみたいであんまり気持ちよくないし。
せめて、その思い切り入った力を少しでも楽にしてくれたらいいんだけどよ。
それに、お互い慣れない初めてのセックスに動きもぎこちないし。
本当にこんなので気持ちよくなれるのか?
そう思いながら、ゆっくりと腰を動かして、どのくらい時間が経ったのか……。
「くううううっ!んっ、あっ、はんんんっ……」
「くっ!……おっ!?」
痛みをこらえる空の呻き声に、少し甘い感じが混じったかと思うと、その体がブルルッと震えた。
同時に、ガチガチに強ばってたアソコの中が少し緩んだ気がする。
「はううううっ!あんっ、んふうっ!」
……間違いねぇ!
少しずつだけど、確実に空の中の固い感触が薄れていってる!
まだ、ゆっくりとだけど、さっきよりもずいぶん滑らかに動くようになっていた。
「はうううんっ!あっ、今っ!ビリビリって!んっ、むふぅうううん!」
空の口から、甘ったるい吐息が漏れる。
おっ!?おっ!?これって!?
さっきまでものすごく緊張していた空の体から、無駄な力が抜けていくのがわかる。
そして、一気にほぐれたみたいに、アソコの中も柔らかくなっていく。
「空っ、おまえっ、もしかしてっ!?」
「うんっ!まだ少し痛いけどっ、これっ、気持ちいいのっ!」
そう叫んだ空の腕は、さっきまでのしがみつくっていう感じじゃなくて、俺の頭を抱きかかえるようにしていた。
そして、ぎこちないけど自分から腰を動かすようにしてるじゃねぇか。
「あんっ!やだっ、これっ、すごいいいっ!アソコの中がっ、陸のおちんちんでいっぱいになってっ、あっちこっち擦れてっ、自分でするのよりも全然気持ちいいいいっ!」
「くっ、空っ、俺もだいぶよくなってきたぜ!」
お互いに、快感を口にしながら腰をぶつけ合う。
俺も空も、自然と腰の動きが大きく、そして激しくなっていく。
実際に、さっきまでとうって変わって、空の中はずいぶんと柔らかくなって、すごく気持ちよくなっていた。
もちろん、柔らかいっていっても緩い感じはしないし、ものすごく締めつけてくる。
でも、さっきまでのガチガチで固い感じじゃなくて、しなやかで弾力のあるものに締めつけられる感じで、オナニーじゃ絶対に味わえない感触だった。
それに、すごく熱くて、うねうねとまとわりついてくるような感じで……。
すげえっ、セックスって、こんなに気持ちいいのかよ!?
ようやく味わえたセックスの快感に、俺はちょっと感動していた。
「陸っ!陸も気持ちいいのっ!?」
「ああっ、滅茶苦茶気持ちいいっ!最高だぜっ、おまえっ!」
「ああっ、嬉しいっ!あたしもっ、気持ちいいよっ、陸!やっぱりっ、陸のおちんちんすごいよっ!一番奥まで来てるのがわかるもんっ!でも、すっごく気持ちいいの!」
「空っ!うおおっ、空!」
「陸っ!陸っ!」
お互いの名前を呼びながら、激しく体を絡め合う俺たち。
だけど、初体験の体がそんな激しいセックスに耐えられるわけもなく、すぐにその時が来そうになる。
「ふあああっ!陸っ!?今っ、陸のが中でビクビクッて震えたよ!?」
「うおおおっ!俺っ、もう出そうだぜ、空!」
「うんっ!いいよっ、陸っ!あたしっ、今日は大丈夫な日のはずだからっ!だからっ、中に出してっ、陸っ!」
そう叫んで、空が俺をぎゅっと抱きしめる。
言われなくても、もう俺も止まれそうになかった。
それに、さっきから空の中がチンポを締めつけたままビクンッて震えて、射精しろって言ってるし。
「くうううっ!空っ、本当にっ、出そうだ!」
「うんっ!あたしもイキそうなのっ!だからっ、一緒にいこうねっ、陸っ!」
俺に抱きついてきた空のアソコが、ぎゅっと俺のチンポを締めつけて、そして、それがとどめになった。
「ああっ、出るぞ、空ーっ!」
限界が来た俺は、そのまま空の中に欲望を全部ぶちまけていた。
「あああああっ!中でっ、ビュッて……!わかるっ、陸のが中でっ、ああっ、すごいっ!んんんんっ!ああっ、あたしもっ、あたしもイッちゃうううううううっ!」
俺にしがみついた空が、思い切り腰を打ちつけてきて体を仰け反らせると、ヒクヒクと震えた。
まるで、吸い取ろうとするようにアソコの中もビクビクと震えて、俺の精液を最後の一滴まで搾り取っていく。
「ふううううぅ……」
射精の開放感の中、ごろんと転がって空の横に仰向けになる。
初めてのセックスに、最初はどうなることかと思ったけど、最後は最高に気持ちよかった。
やっぱり、おまえはいい女だぜ、空……。
余韻に浸りながら空の方を見ると、仰向けになったままの空は大きく息をしながら、まだ少しイッてるのか、時々胸がひくひくっと痙攣していた。
そんな姿をじっと見つめていると、空もチラッと俺の方を見て、顔を赤くしてうつ伏せになり、枕に顔を埋める。
今さら照れやがって、本当にかわいい奴だよな。
空が照れくさくて顔を伏せたと、そう思って俺がにやついた時、伏せたままの空から少し震えたような声が聞こえた。
「”本当の陸は、優しいけどちょっと頼りない陸”」
「え……?うっ!?」
その言葉を聞いた瞬間、くらくらっとして、目の前が真っ暗になった。
* * *
……あれ?僕は?
意識がはっきりすると、ベッドの上にいる自分に気づく。
そして、目の前ではうつ伏せになった空が、枕に顔を押しつけていた。
その服ははだけて肌が露わになってるし、肩が小さく震えて、呻くような声が漏れていた。
……泣いてるの、空?
……て、ちょっと待て!?
たった今、僕は!?
枕に顔を埋めて泣いている空の姿に、さっき自分がやったことをはっきりと思い出した。
僕は……空の初めてを!?
「ご、ごめん、空!本当にごめん!」
慌てて空に平謝りする僕。
さっき、僕は空の処女を奪った。
それも、柄にもなく”俺”とか言って。
でも、あれって空も悪いよな?
空があんな催眠術を僕にかけたから!
でも、僕がやったことはやったことだし……。
「本当にごめん、空。あんなことしちゃって……」
「ううん……。陸は悪くないから。悪いのは、全部私なんだから……ごめんね、陸……」
何度も謝ってると、やっと少しだけ顔を枕から上げて、空がそう言った。
僕は、なんて言っていいのかわからずに、気まずい沈黙の時間が流れる。
少しの間そうした後、口を開いたのは空の方だった。
「……ねぇ、陸」
「な、なに?」
「ちょっとだけ、あたしの話、聞いてくれないかな?」
そう言って、空がちらっと僕の方を見る。
その、なんとも言いようのない、真剣な、そして悲しげな眼差しに、僕は黙ったまま頷いていた。
そして、空が語り始める。
「あのね……あたしが催眠術を覚えたのはね、全部、陸のためなのよ」
「僕のため?」
「うん。あのさ……陸は、中学3年になった頃から、いじめられることとか、ひどくからかわれることがなくなったでしょ?」
「そ、そういえば……」
そういえば、小さい頃から泣き虫で、よくいじめられたり、からかわれたりしていて、男の友達はほとんどいなかった。
まあ、どのみち遊び友達は羽実たち3人と空しかいなかったんだけど。
そういうのが中学3年になった頃から次第に減っていって、空の言うとおり、ほとんどなくなっていたような気がする。
それは、みんなそれなりに大きくなったし、僕もみんなとうまくやるようになったからだと思ってたけど。
「あれはね、学校のみんなにあたしが催眠術をかけて、陸のことをいじめたり、からかったりすることがないようにさせたの」
「そんな!?嘘だろ?」
「本当だよ。全部ね、あたしがみんなに催眠術をかけて、陸と仲良くするようにさせてたの。あ、もちろん羽実たち3人は別よ。あの子たちは昔から陸に優しくしてくれてたからね。そして、高校に上がるときになって、どうしても嫌な奴は催眠術で他の高校を志望するようにさせたりもしたの。そして、高校生になってからも、まずやったのはうちの学年の全員に陸と仲良くやるように催眠術をかけていくことだった。そして、それが済んだら次は先生たちや、ヤバそうな先輩っていう風に、次々と催眠術をかけていったの」
……それでか。
調理実習の時といい、この間のプールの時といい、いつの間にみんなに催眠術をかけたのかと思ってたけど、1年のときにはもう学年の全員が空の催眠術にかかってたのか……。
でも……。
「なんでそこまで?」
「だって、陸を守るのはあたしの役目だもん!陸は、優しいけど泣き虫でいつもいじめられてたから、だから小っちゃいときからあたしが陸を守らなきゃって、そう思ってたんだもん!」
そうだった……。
小さい頃、いつも僕がいじめられてると、守ってくれたのは男勝りで腕白な空と亜希だった。
「だけど、女のあたしはいつまでも陸を守ってあげ続けることはできないから、それだけの力はあたしにはないから……だから、必死になって催眠術を覚えたの。催眠術を使えば、力が弱くても陸を守ることができる。みんなが陸をいじめないようにさせることができるって、そう思ったの……」
そういうことだったのか。
僕は、自分がみんなとうまくやるようになったからだと思ってたけど、それは全部この過保護な妹のおかげだったんだな……。
でも、守ってもらっていた僕が言うのもなんだけど、過保護すぎだよ、おまえ。
「それでね。そうやってずっと陸のことを守って、陸のことを考えているうちに、あたし、陸のことを好きになってたみたいなの……」
「いや……だっておまえ、男らしい人が好きって言ってたじゃないか……」
「うん……。でも、それも本当なのよ。そういう男らしい人が好きだし、陸にも少しは男らしい、頼りがいのあるお兄ちゃんになって欲しかったら、あたしいっつも言ってたでしょ、もっとしっかりして、男らしくなって、って。でも、あたし自身、自分の本当の気持ちに気づいてなかった。すごく男っぽい人を見て、素敵って思っても、結局は陸のことを考えてしまう自分がいた。なんでだろう?って自分でも不思議だったんだけど、最近になってやっとわかったの。陸のことを考えると、胸が熱くなってくるあたしがいる。陸になら、抱かれてもいいって思うあたしがいる。ひとりエッチするときに、ちょっと逞しくなった陸に、荒々しくされてるのを想像してるあたしがいる。……あたしは……陸のことが好きなんだって……」
なんてこった……。
おとぎ話では、白馬の騎士はお姫様と恋に落ちるのがお約束だけど……。
ていうか、その例えだと騎士が空でお姫様が僕になるから全然納得いかないけど。
とにかく、小さい頃から僕のことを守り続けているうちに、白馬の騎士は守っている相手に恋してしまったんだな……。
でも、僕たちは兄妹なんだぜ。
そんなの、笑い話にもなりゃしないよ……。
そんな僕の思いがわかっているかのように、空は話を続けていた。
「でもね、あたしたちは兄妹でしょ。本当は好きになったらいけないでしょ。だから、そのことは絶対に陸には言えなかった……言ったらいけないって思った」
ああ……。
この間の女子会の時に、”告白したらいけない”とか言ってたのは、暗に僕のことを好きだって言いたかったのか……。
ていうか、そんなのでわかるわけないじゃん。
「でも、自分の気持ちをどうしたらいいのか自分でもわからなくて……。それでね、もし、陸に好きな子ができてつきあい始めたら、あたしも諦めがつくんじゃないかなって、そう思うようになったの」
あ、それで女の子に催眠術をかけて僕に告白させるようになったんだな……。
いや、でもやっぱりやってることが無茶苦茶だよ、おまえ。
「だけど、陸は全然誰ともつきあってくれないし、だから、羽実たちならどうかな?て思ったの。あの3人の誰かと陸がつきあうんなら、あたしも心から祝福できるって、陸への思いを断ち切ることができるんじゃないかって、そう思ったの。で、最初の調理実習の時にはもう、ひょっとして陸は羽実のこと好きなのかなって目星はついてて、一度、羽実と陸を一緒に過ごさせようって思ったんだけど、いきなりあたしと羽実が入れ替わったら陸は戸惑って何もできないだろうから、最初は亜希から始めたの」
はぁ……。
あの、亜希たちが交代で空になってたのも、そこまで考えてやってたのかよ……。
「あたしは本当にね、陸と羽実をひっつけさせたいって、その思いでやってたのよ。だけど、あたしの中で計算が狂ったことがいくつかあって……。明日菜とあたしが入れ替わってたときに、明日菜が陸があたしに告白するって勘違いしたでしょ。あの時あたしね、陸に告白してもらえるとこ想像して、本当に胸がドキドキしてたの……」
ていうことはなにか?
あの時恥ずかしそうにしてたのは、演技じゃなくて本気だったってこと?
「でね、次の朝、陸にキスしたときにも、顔には出さなかったけど心臓が飛び出そうなくらい嬉しかった。胸が高鳴って、やっぱり陸が好きだって気持ちが溢れてきて……。でも、それはやっぱりいけないことだから、ちゃんと陸と羽実をひっつけようって、あの女子会の時はね、本当にそう思ってたの。でも、陸と羽実がぴったりだって亜希や明日菜にからかわれてるのを見て、それに、陸も羽実も嫌そうにしてないのを見てたら胸がチクチクして……。あたし、最低だよね。陸と羽実が仲良くしてると、心の中でドロドロと嫌なことを考えてる自分がいて、初めて陸のおちんちん見たときにものすごく興奮して、いやらしいこと想像してる自分がいて……。それで、自分の気持ちをコントロールできなくなってきて、陸を好きだって気持ちがだんだん抑えられなくなってきて。それであの後、自分でもわけがわからないうちに陸とケンカしちゃって、あんなことをして……。でもね、女子更衣室で倒れた陸を見て、こんなのもうやめよう、って、これで最後にしようって思ったの。だから、羽実に告白させて、それを陸が受け容れてくれたら、陸のことは諦めようって……そう思ってたのにあんなことになって、それであたし、もうそれ以上どうしたらいいのか本当にわからなくなってしまったの。そんなのいけないってわかってるのに、陸を好きな気持ちをもう抑えられなくて、あたし、こんなこと……」
静かに、なるべく感情を抑えるように話す空の顔から、枕にポトリポトリと涙がこぼれ落ちていく。
「でもね、さっき陸とセックスしてるときは……陸に愛されてるときはすっごく幸せだった。まるで、夢の中にいるみたいな気持ちだった。だけど、それが終わって冷静になってみるとすっごく後悔しちゃって。だって、あたしと陸は兄妹だもんね。やっぱり、こんなのいけないよね……。それにあたし、陸だけじゃなくて羽実を裏切るようなことまでして、本当に最低だよね……。ごめん、本当にごめんね、陸……」
そこまで言うと、空はまた枕に突っ伏して泣き始める。
「ごめんね……ごめんね、陸……」
枕に顔を埋めて泣きながら謝り続ける空にかける言葉が、僕には見つからないでいた。
双子の兄のことを好きになって、そんなことしたらいけないっていう空と、僕のことを好きな気持ちを抑えられない空がいて、いろんな感情の葛藤があって、いろんな思いが空回りして、結局こんなことになってしまったのか……。
バカだよ……本当にバカだよ、おまえ……。
空のしたことは、本当に馬鹿げてると思う。
だけど、僕にはどうしても空のことを笑う気にはなれなかった。
「ごめんね、陸……」
「空もさ、僕なんかじゃなくて、本当に空のことを幸せにしてくれるいい男を見つけなよ」
僕の言葉に、空は枕に顔を埋めたままで小さく頷いた気がした。
僕も空みたいに催眠術が使えたら、みんなが幸せになるようにできるのに……。
だけど、僕にはそれができない。
僕は、自分の言葉で空を慰めてやることしかできない。
それなのに、こんな陳腐な言葉しか出てこない自分が情けなかった。
< 続く >