落ちこぼれのレイニー・ブリスルスハート 第4話

-4-

 森の中で一人、息を潜める。
 おそらく何かの作業場か小屋のあった場所なのだろう。崩れた廃屋跡と、切り拓かれたスペースがあった。ノベル兵たちの集合場所にもなっているのか、大勢の屈強な兵士がウロウロしている。
 場所はここでいい。あとは息を潜めて出番を待つ。
 背中にモモの作った黒いカーテンを背負っているが、いつまでもごまかせるとは限らない。心臓はうるさいくらいに鳴り、手が震えていた。
 5エント硬貨を握りしめて、落ち着こうと試みる。今、この状況で自分自身に強い催眠暗示はかけられない。それでも催眠導入のために教わった手順で多少は動悸も収まっていく。
 もうすぐ始まる。全ては俺にかかっている。
 何度目かの深呼吸のあと、それは始まった。
 キラキラと輝く霧が、森を覆いだした。

(……霧が出てきたぞ。早く奴らを見つけ出せ)
(もう森を出たんじゃないのか?)
(いや、そっちは真っ先に封鎖しているはずだから……待て、この霧は変じゃないか?)
(霧、なのか? こんな霧は見たことが―――)

 不思議な色に発光する霧に、兵たちは戸惑う。
 この森の広さは一つの集落規模に匹敵するだろう。それを全て覆い尽くす魔法など、まして光魔法などと、他国のあいつらに想像できるはずもない。
 モモ・エンドロールの名を知る限られた人間にしか、こんな現象は説明できないんだ。
 
「ぎゃああああああッ!?」

 近くで兵が悲鳴を上げる。あちこちで、連鎖して悲鳴が上がっていく。霧の中に突如浮かんだ、不気味な小鬼たちの姿に、屈強な精鋭部隊がみっともなく動揺していた。

「な、なんだこれは!? 何が起こっているんだ!?」

 鈴の音のような嘲笑を鳴らし、小鬼は踊る。
 剣を抜いて勇敢に兵士たちは戦った。しかし、光魔法で作られた生き物がその程度で消えるはずはなく、次々に姿を現しては兵士たちを翻弄する。
 やがて森の外にいた兵士たちにも集合がかけられ、一か所に、俺の潜む近くに集められていく。
 そろそろ行かなきゃ。一度にこれだけの魔力を消費し続ければモモも長くは保たない。いくら催眠術で集中力を増しているとはいえ、尽きる前に決着をつけないと。

「兵隊さんたち、待ってくれ!」

 俺は声を張り上げて、兵に向かって走っていく。いきなり現れた部外者に、兵は剣を向けて構える。
 心臓をバクバクさせながら、その敵意には気づかないふりをして、俺は息を切らせて、最高の演技をしてみせる。

「あ、あんたたち、トンガリー公爵様の兵だろ? な、なんでこの森に入ったっ。今は小鬼が繁殖に現れる季節だぞ!」
「はあ?」
「小鬼が?」
「繁殖ぅ?」

 完全にスベったようだった。
 いや、確かに台本に少しだけ無理があったような気もするが、無害な人間のふりして姿を現すには村人その1を気取るのが一番だったし。それに現地の者しか知らない知識を振りかざせば、この怪奇現象に踊らされる人々は食いつくはずなんだ。
 と、俺は思うんだけど。

「お、俺はジャレン村の木こりだ! 妙に森が騒ぐと思って来てみれば、こんなに大勢兵隊さんがウジャウジャと……と、とにかく、動くなみんな! 取り殺されてしまうぞ!」

 モモが気を利かせて小鬼を彼らの頭上に旋回させる。みっともない悲鳴を上げて、兵は驚き逃げまどう。

「い、戦乙女の伝説を知らないのか! ここは、その森なんだぞっ。今の時季は、兵隊さんは絶対に入っちゃならないんだ。伝説を繰り返すことになるんだぞ!」

 この大陸では広く知れ渡った伝説だ。兵の何割かは俺の話に注目し始めている。
 急がなきゃ。考える時間を与えちゃダメだ。

「こ、小鬼は5エント硬貨がエサなんだ。俺がここに小鬼を集めるから、じっとしてて。今……助けるから」

 ゆらゆらとコインを揺らす。モモの魔法が俺の手元を明るく照らす。
 小鬼が俺の手元に近づいたり、動こうとする兵をけん制したり、忙しなく動き出す。
 兵はやむなく俺の手元に集中する。いける。大丈夫だ。催眠術は最強なんだ。
 おっさんは、一人で小隊と戦った。俺だって勇気を出せば……。

「いや、怪しいぞ、その男」

 兵の一人が、俺の見せる導入に見向きもせずに剣を向ける。

「おそらく、さっきの者どもの一人に違いない。逃げられないと思って芝居を打ったか。どうせこの鬼も何かの魔法だ。脅かすだけで襲ってはこないぞ。恐れることなどない!」

 兵の何人かがそれに同調して、剣先が俺に向く。手に魔法を浮かべる者もいる。小鬼はまだ飛び交っているが、モモは魔法で人を傷つけられない。見抜かれればそれで終わりだ。
 俺のコインは虚しく空振りをする。

「い、いや、違う、俺は本当に……やめて、くださいよ」
「そいつを捕えろ! 他の仲間のことを吐かせるんだ!」
「う、うわあああッ!?」

 情けなく転がって、尻もちをつく。剣のひとつもなく、いや例え持っていようが使えるわけもなく、悲鳴を上げて転がるだけ。
 やっぱりダメなのか。俺じゃダメか。
 頭を抱えて体を縮こまらせ、死の恐怖に怯える。
 そのとき、ふわりと俺の頭上を何かが舞った。
 白金の、人の形をした鎧だ。

「……おおおおおっ!?」

 突然、空を舞って現れた人影に、兵たちは驚き後ずさる。
 俺まで一緒になって、息を飲んだ。
 顔まで覆う白金の鎧の塊。継ぎ目すらない白金の人型。今は地に足をつけてかがんでいるが、霧を裂いて飛翔する姿は誰しも目撃している。音すらしない軽さで、森を飛び越えて現れた。

「な、なんだ貴様は……?」

 筋力と光魔法の融合でしか為しえない跳躍。その鎧が曲線の肉体にぴたりと合っているから、正体は女性とわかる。
 いや、ただの女性と呼ぶには、あまりにも美しすぎた。
 何度も彼女を抱いてきた俺ですら、その完璧な女体のバランスにあらためて驚く。顔を隠していても、いや、隠しているからこそ、その美しさを予感させ、月光に輝く鎧は男たちの視線を釘づけにした。
 その仮面に、幾重にも亀裂が入る。カシャカシャと金属音を立て、細かく直線を引きながら複雑に開かれていく。
 女性の輪郭を露わにした後、仮面はさらに細かく裁断されて、一枚の長いマントに変化し肩に留まった。それは命ある翼のように大きく広がってうねり、彼女が天の使いであることを物語った。
 そして白金の長い髪をなびかせ、エアリスが顔を上げる。
 光魔法で処理を施された瞳が、七つ色に瞬いて、兵士たちの視線を貫く。
 誰もが声を出すのを忘れた。
 彼女の美しさに見惚れ、魂を引っこ抜かれた。
 やがて、兵の一人が震えながら、とうとうあの名前を口にする。

「い……戦……乙女……?」

 伝説の降臨に、戦慄が走る。
 どこの国の人間でも、子どもの頃から聞かされよく知っていたヒロインの名。兵士たちの驚愕は森中を凍らせ、俺まで総毛だった。
 エアリスは剣を抜く。
 そこにもモモは魔法を施してあり、学院支給の長剣は光り輝く聖剣となっていた。
 剣身には神代文字を思わせる文様が描かれ、それもまた不思議な光を発しながら変化し続けている。エアリスが軽々と横に振るうと、鳥の鳴くような風切り音が立ち、兵は驚いてさらに後ずさった。
 人智を超えた圧倒的な存在感で、エアリスは兵の心を捉える。俺も、ようやく自分の役割を思い出し、声を張り上げた。

「戦乙女が降臨なさったぞ。伝説が再び始まったんだ!」

 本当なら、俺がある程度催眠術を進めてから、導入を深めるための一手として、俺の合図で登場するはずだった。
 ところが俺が間抜けにも失敗して殺されかけたものだから、我慢できずに乱入したんだろう。
 催眠術で仲間の行動を規制すれば、手順違いの恐れは減るが、不測の事態に対応できなくなる。だから今回の作戦では、催眠術で集中力を上げたくらいで、彼女らの行動まで縛っていない。いざというときには自分の判断で逃げるようにも言った。
 それが功を奏したわけだ。
 だが、次の手がない。兵士がエアリスに目を奪われている間に、俺はこの場を上手く鎮める手段を考えなければならない。
 その考えもまとまらないうちに、小鬼たちがエアリスに襲いかかる。
 エアリスは、慌てることなくその特殊な剣を大きく振るい、兵士を圧倒してみせてから、小鬼たちを切り裂いた。
 次々に現れ、決して消えることなかった小鬼たちを、彼女の剣は美しく舞って仕留めていく。
 エアリスの舞は、俺とヒプノの森で何度も練習した八百長の剣舞だ。だが、鍛練の時よりも、俺と授業で戦ったときよりも遥かに華麗で美しかった。
 あの生真面目な優等生は、俺のウソなんかを信じて、どれだけの練習を積んだんだろう。前に教えたものなんかよりも、ずっと洗練された舞として完成していた。
 兵士たちも、これだけの舞いを見せる剣士が、ただの学生などとは思いもしない。見事な剣舞にすっかり魅せられた目は、俺が導入するまでもなく半分忘我に至っている。
 俺は、涙でにじむ目をこすって静かに兵士に語りかける。

「……物語になる夜に、参加できた気分はどうだ? あぁ、いいものだろう。今宵、この美しい乙女に出会えたのは俺たちだけだ。しばらくこの舞に心を浸していよう」

 完璧な舞台と演者がいれば、観客は自らその世界観に飛び込んでいく。
 ゆっくりと兵たちに距離を詰めていく。警戒する動きはない。誰もがエアリスに釘づけだ。一瞬たりとも彼女の姿を見逃すまいと、眼をいっぱいに開いている。
 エアリスの舞に呼吸を合わせて、同じテンポでしゃべる。
 彼女とは何度も一緒に舞っているから楽勝だ。俺の言葉と彼女の舞が、一つになって彼らに浸透していく手ごたえを感じる。
 
「ここは動かない方が良い。戦乙女の伝説はみんな知っているだろう。俺たちは小鬼に囚われた兵士だ。伝説のとおりするのが正しい。それ以外の行動は間違いだ」

 兵士たちの剣を握る手が、ぴくぴくと震える。
 肉体の緊張。意識を強引にエアリスに持っていかれ、現状を忘れ始めている。
 これだけの騒ぎと注目を集めれば、兵士はここにいるのが全員と思って間違いない。そのうちのどれだけをエアリスの舞と俺の催眠術で縛り上げることが出来るか、ここからが勝負だ。

「静かに。呼吸も出来るだけ静かにした方がいい。森の一部になったつもりで。物語の邪魔をしてはいけない。ゆっくりと呼吸をすれば、戦乙女の邪魔にならない。彼女の美しい舞の邪魔なんてしたくない。そうだよな? だから、ゆっくりだ。落ち着いて呼吸しよう」

 呼吸に集中させて、剣のことを忘れるように誘導する。
 それでも相手は精鋭の兵士だ。そして、目の前で舞っているのも美しい剣士だった。
 エアリスのおかげで視線を集中させることは出来たが、次の段階が難しい。どうやって戦闘中の兵士に剣を捨てさせ、拘束まで持っていくか。
 言葉がなかなか浮かばない。自分でも焦りを感じるほど沈黙してしまう。
 エアリスはまだ動けるか。モモの魔力はどこまで持つか。考えれば考えるほどドツボにはまる。俺たちには打ち合わせの時間がなさすぎた。

「おおっ!?」

 そのとき、頭上に巨大な鬼が数匹浮かんだ。
 ギィギィと不快な音を鳴らし、上空を旋回する。
 兵士は新たな敵に戦慄し、肉体をさらに硬直させた。
 エアリスは、凛々しく剣を構え、敵の来襲に備える。
 始まった巨大な敵との戦闘は、戦乙女を苦戦させた。大きな爪と長い尾は、地上に大きな音を立てて飛来し、戦乙女の剣にも斬れなかった。
 これは、どういうことだ?
 俺がまごついているのを見て、モモが作戦を変えたのだろう。しかし俺にはわからない。この演技で俺に何の合図を送ってるんだ。
 わからないぞ。どうしたんだモモ。そんなに魔力を使ってまで何をしたい? おまえの力が尽きたら俺たちはおしまいなんだぞ。

「……伝説と違うからだ」

 そのとき、声を上げたのは敵兵の一人だった。

「伝説では、兵士たちは小鬼に縛り上げられている。でも僕たちはどうだ。僕たちが縛られていないから、伝説が再現されないんだ。このままじゃ戦乙女が敗ける。僕たちの戦乙女が!」

 兜に顔を半分覆われたその兵士は、キザオスだった。
 エアリスが最初に捕まえたノベル王国兵の鎧を着て、いつの間にか敵兵の中に紛れていた。
 どうして、おまえがそこにいる。いざというときはモモを連れて逃げるよう、彼女のそばにいろと言ったのに。

「誰か、僕を縛ってくれ。みんなもお互いを縛れ。戦乙女の戦いを汚すな!」

 そばにいた兵が、うつろな瞳でロープを取り出す。ぎこちない動きだ。催眠術にかかりやすいタイプの男なんだろう。キザオスの言葉を疑うことなく行動に移っていた。

「そうだ。その兵士さんの言うとおりだ。どうしてみんな、突っ立っているんだ。戦乙女が戦っているというのに。みんな、ロープは持っているだろう。あぁ、そうだ。兵隊さんだものな。伝説でも、小鬼は兵隊さんのロープを取り上げて縛ったんだ。どうしてもっと早く気がつかなかったんだろう。これじゃ伝説がだいなしだ。みんな、急げ。早くロープで縛るんだ」

 モタモタとした動きで、兵士たちは自分たちを縛り上げていく。それを一緒に手伝いながら、俺は泣きそうになっていた。
 たまたま仲間に恵まれただけだ。俺一人じゃ何もできなかった。こんなのまぐれ。出来すぎなんだよ。
 しかし、気持ちのもう半分は勝利の予感に躍っていた。浮かれて大声出したいのを、必死にこらえていた。
 
「さあ、そのまま地面に腰を下ろして、静かに戦いを見守ろう。俺たちの戦乙女は勝つ。彼女が敗けるはずがない。そうだろ? 彼女は勝利の女神だ。俺たちの女神だ」

 俺たちは勝つ。
 ひょっとすると、この先もずっと勝ち続けてしまうのかもしれない。
 そんな予感までして、声が震えていた。

「見ろ。見るんだ。彼女が最後の剣を揮うぞ。これを見逃すな」

 鬼が残り一匹になっていた。
 巨大な鬼が空から長い尾を垂らし、振り子のように揺らしている。
 俺たちの上で、糸付きのコインみたいに。

「伝説の幕開けだ。俺たちが物語になるんだ。まばたきもしちゃダメだ。声も出すな。ゆっくりと心を落ち着かせて、その時を待つんだ。戦乙女が、勝利する瞬間を」

 尾はゆっくりと左右に揺れて、一定のリズムを保つ。
 最初の実習の夜に、俺がモモにやってみせたとおりに。
 4人でドタバタと過ごした数日間を思い出して、思わず笑ってしまいそうになる。

「そのとき、俺たちの魂も彼女と一つになる。美しい戦乙女に。彼女の勝利に、彼女の物語に……俺たちはなるんだ」

 戦乙女は勝つ。俺たちは全員それを知っている。だからこその安堵に兵隊たちは包まれている。
 鬼が、エアリスに向かって下降を始めた。
 エアリスは高く剣を掲げ、神に祈るように目を閉じる。
 そして、一気に振り下ろした。剣は波動となって鬼を切り裂き、ギィィと軋んだ音を立てて霧散させる。
 その派手な演出には俺まで驚かされた。エアリスは両手を広げて天を仰ぐ。白金の鎧が光に戻った。素肌の彼女を光が覆い、天使のように輝かせる。
 光は強く輝いた後、やがて収束し、エアリスの姿が消えて彼女のいた場所に小さな点となる。そしてその瞬きは、キンと金属音を立てて高速で上空に飛んでいった。
 夜空に、光の花が咲く。
 モモの派手な演出に兵たちは赤子のような笑顔を浮かべ、幸せの極致に至った。
 きらきらと降り注ぐ光の粒に祝福されながら、彼らはその瞬間に、自分たちが兵であることを忘れる。
 俺は、ふっと息を吹きかけるように優しく彼らに囁いた。

「―――それじゃ、おやすみ」

 敵兵、約二百名。
 捕縛完了だ。

「……レイニー様」

 木陰から、エアリスが顔だけ出している。
 不機嫌そうだった。

「お疲れさま、エアリス。俺の戦乙女は、今夜は最高に美しかったぞ」

 甘ったるい言葉をかけて、いつもならそれでデレデレになるはずなのに、エアリスはジトっとした視線を返すだけだった。
 
「お褒めいただくのは嬉しいのですが、このようなことは二度としたくありません」

 体に光魔法の鎧をぴったり着せるために、全裸となった彼女は木陰から動けず、両手で胸を覆ったままだった。真剣に抗議したいと、忠実なる俺の騎士は怒っていた。
 マジで格好よかったのに。怒ることないのに。

「ご主君以外の男の前で素肌を晒すなど、世が世なら切腹ものだというのに……ちゃんと彼らは私のことを忘れるのでしょうね? そういう約束ですよね?」
「あぁ、ばっちりだ。全員、俺の術中だからな。あと最後の演出は光が多すぎて、裸は見えなかったぞ」
「本当ですか? 本当に見えてなかったんですか?」
「ホント、ホント。マジで」

 残念だが本当だ。あの場にいた全員が目を細めていたと思うが、本当に見えなかった。
 それに、兵士たちは自分たちを縛ったまま眠っている。今ならどんな暗示でも効かせられる自信がある。全部忘れさせてやるよ。
 俺の可愛いエアリスの雄姿は、もったいないけど俺だけのものにするぜ。
 キザオスも、なぜか一緒に眠ってしまってるし。あとでコイツにも礼をしないとな。

「モモは?」
「向こうにいるはずですが……」
「あっち?」

 俺はモモのいた場所にいく。
 そして、木陰に倒れる人影を見て、肝を冷やす。

「モモッ!?」

 魔力を最後まで絞りつくしたのだろう。
 小さな寝息を立てて、彼女は気を失っていた。

「モモ……ありがとうな」

 抱きしめて、何度もありがとうと言った。
 汗で濡れた体は、かわいそうなくらい軽かった。
 
「ご主君」

 服を着終えたエアリスが、引き締まった声で俺を呼ぶ。
 そう、まだ全部が終わったわけじゃない。

「やがて、後発の五百の兵が異変に気づいて押し寄せてくるはずです。私たちは村へ急がなければなりません」

 その目は、自分に殿(しんがり)を命じろと言わんばかりに鋭くなっている。
 エアリスは、死線を潜り抜けたこの数時間で一人前の兵士に成長していた。最後まで戦う覚悟も出来ていた。
 だけど俺は、ようやく安堵の眠りについたばかりのモモの髪を、撫でていてやりたかった。

「……俺たちは、もう戦えそうもないぞ」
「私一人でも、ご主君たちをお守りすることはできますっ」
「いや、俺はおまえを守りたいんだよ」

 エアリスは目を丸くした。そしてみるみる真っ赤になっていった。
 こんな可愛い女を、俺の大事な女たちを、これ以上戦争なんかですり減らしてたまるか。

「あいつらを使うぞ」
「え、あ、は、あの、あいつらとは、あの敵兵を?」
「そうだ」

 縛り上げた敵兵二百を使って、俺たちが今やるべきこと。
 それは勝利ではなく、撤退でもなく、もっと学生らしく平和でくだらないオチだ。

「この戦争を、笑いものにしてやる」

 そして数刻後、俺たちはジャレン村にいた。
 美しいと評判の若奥様たちが、俺を離してくれないのだ。

「そう、これを見て。このコイン。都会ではこれがすごく流行っているんだ。じっと見ていると気持ちよくなる。ホントだよ」

 今頃、あの森ではノベル王国兵のバカ騒ぎで、大変なことになっている。
 俺たちはジャレン村に、トンガリー公爵への連絡をつけにやってきた。
 『森の近くにノベル兵が集まっていた。酒盛りをしていたらしく、酔っぱらって国境付近の森からこちらの領地に侵入し、大人数でバカ騒ぎをしている』と。
 現に俺に催眠術を食わらされた兵士たちが、裸になって歌いながら暴れ、後発部隊の五百に乱闘をしかけている。森の外から大騒ぎになっているのを確認して、俺たちはジャレン村に引き返していた。二百対五百の大ゲンカだが、精鋭の二百は俺の催眠術で酔っぱらいの狂戦士と化しているので、俺の命令どおりに朝まで大騒ぎしてくれることだろう。
 奴らの記憶もそのとおりに改ざんしている。五百はわけもわからず、振り回されるだけだ。
 すでに公爵へは早馬が走っていた。フェイバリット先生が昔の同僚に声をかけてくれて、情報部隊の兵士を村に潜入させてくれていたのだ。
 あの兵士なら、公爵の耳に直接情報を入れてくれる。朝が来る前にはトンガリーの兵が鎮圧してくれるはずだ。
 村長たちは、危険な目に遭いながら異常事態を知らせた学生の俺たちを歓待してくれた。今夜の宿まで用意してくれた。
 そして腹いっぱい飲んで食べて、自分の部屋に戻ろうとしたところを、色っぽい体をしたお姉さんたちに捕まったというわけだ。
 都会の話が聞きたいって、そんなわざとらしいことを言って誘惑してくる若い人妻たちに。

「それじゃたっぷり、都会の話を聞かせてあげるよ。都会の話は気持ちいい。体が痺れる。オマンコも疼く。たまらない気持ちになるよ」

 酒を飲んでいるらしい彼女たちは、すぐに俺の術中に落ちた。
 豊満な胸を左右から俺に押し付けながら、食い入るようにコインを見つめ、熱い吐息で自らの肢体を火照らせていく。
 美味そうな体をした若妻たち。年もまだ二十代ってところか。
 旦那たちも出稼ぎに行っているというし、さぞかしその肉体を持て余してらっしゃることだろう。

「はい、それじゃ続きはキザオスに任せる」
「え?」

 ちょうどよいタイミングで宿の廊下を通りかかったキザオスに、交代を宣言する。
 風呂上りらしいキザオスは、長髪を女みたいに上にまとめて、俺が両手に抱える女たちにポカンとした。

「彼女たち、都会の話が聞きたいんだってよ。たっぷりねっとり、夜通しでも聞かせて欲しいって。俺ちょっと忙しいから頼むわ」

 発情した若妻たちが、キザオスの方に身をすり寄せる。
 すぐに合点したキザオスは、「りょーかい!」と彼女たちの肩を抱き、グッと俺に親指を立てて、部屋へお持ち帰りしていく。
 まあ、あいつに今回は助けられたしな。これくらいの美味しい思いはさせてやらなきゃ班長失格だろ。
 俺もマジで今夜は忙しくなりそうだし。
 気合を入れ直し、ようやく自分の部屋に戻った俺を、風呂上りの美少女2名はベッドの上で待っていた。

「お待ちしておりました、ご主君」
「先輩、遅いんですけど。村のお姉さんたちに鼻の下伸ばしてたんじゃないですか?」

 モモって時々鋭すぎて怖いよな。
 俺は「そんなことないって」と言いながら、二人の間に腰を下ろす。
 良い匂いのする花を両手に。これに勝る幸せなんてないね。

「世界一可愛い美少女たちが俺を待っててくれてるのに、他の女と遊ぶわけないだろ」
「ご主君様……」
「す、すぐそんなこと言ってごまかすんだから。騙されませんよーだ」

 エアリスはうっとりと俺の顔を見上げ、そっと俺の体に手を添える。モモはくすぐったそうにモゾモゾ動いて、俺の胸に顔を埋める。

「二人の活躍のおかげで、この村も無事だった。本当にありがとう」
「いえ。全てはご主君の軍略です。私たちはご主君に命じられるまま動いただけです」
「エアリス……」
「いや、それはウソですよねエアリス先輩? レイニー先輩の立てる作戦って、ホント大ざっぱだし適当すぎましたよね。私たちが機転を利かさなかったらどうなってたと思うんですか?」
「ぐ、ぐぬぬ…ッ!」
「しかも、せっかくの大手柄だったのに、私が寝ている間にただの笑い話にしちゃったそうじゃないですか。催眠術をナイショにしたいのはわかりますけど、へたれすぎですよねー。そんなことで本当に出世なんてできるんでしょうかね?」
「う、うるせー! おまえなんて『せんぱい、たすけて~』って泣いてたくせに!」
「あ、あれはエアリス先輩に言ったんです! なんですか、レイニー先輩だってめちゃくちゃビビッてたじゃないですか。生まれたての羊みたいにプルプル震えちゃって―――んっ」

 モモの唇を奪って、とろりと唾液を垂らす。
 うっせぇよ、年下のくせに。人がせっかく素直にお礼を言ってやってんのに。
 生意気な口を塞いで、ついでに、感謝のキスと唾液を、たっぷりと流し込んでやった。

「ぷは……はぁ……せんぱい、もっとください」

 まぶたを蕩けさせて、モモはおとなしくなる。こうなってしまうと彼女も可愛い後輩だ。
 よしよし、でも待て。エアリスも欲しがってるからな。

「んんっ……ご主君……」

 エアリスもモモみたいに俺の唾液を欲しがり、舌を吸う。風呂上りの良い匂いをさせる髪を撫で、彼女の欲しがるものは何でもやるつもりで、たっぷりと飲ませてやった。

「ほら、みんなでしようぜ」
「んっ、はい、ご主君……れろっ、ちゅっ、れろ、んん」
「ちゅっ、れろ、んっ、せんぱい、私にも、舌、れろっ、んっ、ちゅぅっ」

 二枚の舌が競い合うように俺の舌に絡み、唇をはみ、吸い付いてくる。左右から挟まれ、交互になぞっていく女の子の舌の柔らかさに、俺は心地よく勃起していく。

「先輩、もうおっきくしてるんじゃないですか?」

 モモがすかさず俺の股間に手を這わせ、形をなぞるように擦ってくる。エアリスはキスを俺の耳や首筋に移動させ、シャツを器用に脱がせていく。
 
「おまえらも脱げよ」

 少女二人は、にこりと微笑み、灯りを小さくして服を脱ぎ捨てていく。
 俺の自慢の美少女たち。
 エアリスの成熟した瑞々しい肉体も、モモの発育途上な青々しい肉体も、俺には世界一魅力的に見える。
 裸になって立ちあがる俺に、彼女たちは並んで傅いた。醜く無骨な俺のペニスに、揃って口づけをして、愛おしげに舌を這わせた。

「んっ、ちゅ、ぺろ、ちゅぴっ」
「れろっ、ちゅ、れろれろ、んっ」

 息の合った動きで、可愛らしい音を立て、仲の良い愛撫を披露してくれる。エアリスが俺の袋を口に咥えて吸いつき、モモが先端をしゃぶって舌を回す。
 気持ちよさももちろんだが、この光景にはいつも興奮させられる。王様になった気分だ。

「んっ、ぺろ、ちゅっ、れろんっ」
「ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅうっ」

 彼女たちの髪を撫でながら、生きて帰れた幸運に感謝する。
 こんなに可愛い女たちとの交わりを、二度と味わえなくなるところだった。
 俺は二人をベッドに誘う。
 昂ぶっているのは彼女たちも同じだった。死線を越えて還ってきた興奮で、いつも以上に体は性を求めていた。俺を仰向けに寝かせたあと、顔もペニスもつま先から乳首まで、全身を舌で愛撫してくれた。
 そして、そうしながらメスの匂いを濃く発していく。すでにヴァギナをべとべとに濡らしているエアリスを横向きに寝かせ、挿入する。

「あぁっ!? は、あ、あぁぁぁんッ!」

 ビクンビクンと尻を痙攣させて、達してしまうエアリス。
 感度が良いのはいつものことだが、今夜は特にすごいようだ。動かすとぐぢゅぐぢゅと音を立て、熱くなったそこが必死になって俺を締め付けてくる。これじゃ、今夜は何度イくことになるんだろう。肉厚な尻を掴んで、ねじこむように腰を打ちつける。

「あぁ、あぁっ、ご主君、ご主君様っ! い、愛おしいっ。あなたが、愛おしい! 体中が、燃えるようですっ。全身が、あなたへの愛と忠誠で、燃え尽きてしまいそうですっ! あ、あぁ、どうか私を、あなたの思うままにっ。あなたに使われることが、この体の悦びですっ。あなたに溺れることが、私の幸せです! どうか、私を、永遠の恋奴隷に、ご命じくださいっ。あぁ、あなたには、あなたになら、私の全てを、あっ、あっ、あぁぁっ!」

 可愛らしいことを言いながら、快楽に悶える女の色っぽい横顔を俺に見せ、何度も達し続けるエアリス。
 溺れているのはこっちの方だ。これだけの美少女を、好きに抱きながら求められる幸せを、教えてくれたのはエアリスだ。
 気を失うまででも、抱いてやりたいと思う。

「……エアリス先輩って、美人だし可愛いしで、ちょっとずるいですよね」

 俺たちの横で、悶えるエアリスを眺めながら、モモはちょっと拗ねたように言う。

「先輩、さっきのアレ、もう一度見たいんじゃないですか?」

 そしてイタズラっぽい顔で俺を見上げる。
 何のことかわからないでいたら、モモはくるりと指先を回して、復活した光魔法をエアリスにかける。
 みるみるうちに、俺と結合している部分だけを残して、エアリスの体が白金に包まれる。
 戦乙女の鎧に顔まで覆われ、キシキシと金属の音を立てた。
 
「んんーッ!?」

 くぐもった声を上げて、エアリスは驚く。そういや、どういう仕組みかわからないが、顔中を覆われても目は見えているようだ。

「わ、悪ふざけはよせ、モモっ! この格好は二度としないと言ったではないか!」

 俺に組み敷かれたまま、鎧は抗議はする。
 しかし、体の線をくっきりと覆うその鎧は、あのときも思ったが逆に彼女の肉体の完璧さを強調させ、不思議な興奮を誘う。
 俺はそのまま、腰の動きを再開した。「んんんーっ!」と悲鳴をこもらせて、エアリスは身悶える。

「やっ、いっ、いけまっ、お許しください、ご主君っ! は、恥ずかしい、こんな格好で、ご主君に抱いていただくなど、無礼でっ、あっ、いけませんっ!」
「何言ってるんですか、すごい綺麗ですってば。エアリス先輩ってどんな格好しても良く似合うけど、最強なのはやっぱり裸ですよねー。私、もっと頑張って硬度上げるんで、実戦でもその鎧でお願いしますよ」
「こ、こんなはしたない鎧で人前に立てるか! ご主君に恥をかかせてしまう!」
「いや、マジで最高だ。こんなに色っぽい騎士見たことない。エアリスじゃなきゃ似合わない鎧だ。最強だよ」
「ご、ご主君まで、からかわないでください!」
「本気だ。おまえの戦乙女は最高だよ。今日、おまえに本気で惚れ直した」
「……あっ、あぁっ……ご主君様……っ!」

 鎧に覆われた手が、感極まった震えで俺の頬を撫でる。白金で出来た女に愛されているような倒錯的な感情が湧いてくる。
 俺は、エアリスの耳元に囁く。

「って、“大魔法使いのおっさん”も言っていた」

 くた、とエアリスの手から力が抜けて落ちる。表情は見えないが、腰を動かしてもベッドと鎧の軋む音しか聞こえない。

「この鎧がおまえの性感帯になる。クリトリスになる。全身を覆っている鎧が全部おまえのクリトリスだ」

 囁いて、解除した。
 くったりとしたままのエアリスの肩にそっと触れる。魔法で作られたものとはいえ、本物の金属のように滑らかな触感だ。
 
「あっ……はぁ……」

 ピクンと、白金の腕が揺れる。
 まだぼんやりとしているのか反応は鈍く、ゆっくりとした呼吸に合わせて、胸の部分が膨らんでは沈む。

「んっ、あっ?」

 その胸の曲線を中指の先で掠めるようになぞると、ピクピクっと痙攣して、エアリスは高い声を上げる。

「あっ、んっ、やっ、あの、えっ、あんっ!?」

 指先だけで背中や腰、太ももから腹や胸を両手でなぞる。
 ぶるぶるっと、鎧の胸を大きく揺らしてエアリスは体を縮める。膣圧がぎゅっと上がって俺のを締めつける。
 
「あのっ、ご主君、んんっ、やっ、あっ、あっ、指が、あっ、あんっ、指が、それ、やめっ、いけませあんんっ、待って、くださ、あっ、あぁっ、待って、んっ、体が、あっ、体、変なんですっ、あっ、あぁぁっ」

 全身のどこを触れても強い快楽に震え、身悶えて膣内を蠢かせる。腰を同時に動かすとひときわ大きな声をあげ、シーツにしがみついて身をよじる。
 顔は隠れているが、今はきっとあの表情をしているに違いない。高貴さを感じさせるいつもの美しさを、淫らに咲かせて快楽に蕩けるあのアヘ顔だ。
 全身を隠してくれている鎧の下の肌も、真っ赤に染めて汗で濡らしているだろう。
 
「あぁぁぁーッ!?」

 白金に包まれた美少女は、獣じみた悲鳴を上げて俺のペニスを痙攣させた。軽く頬に触れるだけで絶頂の潮を飛ばし、くぐもった悲鳴を何度も何度も狭い室内に響かせる。

「……まーた催眠術でえっちなことしてるんですね」

 モモがあきれた声で指先を回す。
 鎧の仮面が剥がれて、久しぶりのエアリスの顔と対面する。

「あぁ!? あっ、あっ、あぁーッ、気持ちいいっ、気持ちひぃです、ご主君ッ、ごひゅくんひゃまぁッ!」

 涙で濡れた瞳は七つ色に輝き、だらしなく舌の伸びた口が空気を求めるようにパクパクしていた。そして仮面の変化したマントは大きな翼になり、彼女の性感に合わせて喘ぐように痙攣する。
 戦乙女のスケベ顔。
 今の俺って、伝説の女を抱いた唯一の男だな。ますます腰の動きを速め、鎧の肌を手のひらで撫で回し、彼女の中で射精するまで腰を振った。

「あ、あ、あぁぁぁーッ!?」

 シーツに大量の愛液をこぼし、しなやかな体を反らし、エアリスは絶頂に痙攣する。
 俺の精液が膣奥に当たるたびにビクンビクンと尻を揺らし、ゆっくりと翼が萎れて、そのままの格好で失神した。
 ペニスを引き抜くと、そこだけが素肌のヴァギナは俺の精液を吐き戻し垂らしていく。まだ生温かそうなそれが鎧の太ももに触れると、ピクンとエアリスは反応して甘いため息をこぼした。
 やばい、この光景。騎士レイプみたい。

「……先輩、すっごいスケベでした」

 モモは顔を赤くして、恥ずかしそうに唇を尖らせる。
 そして、まだ固くそそりたったペニスを見せつける俺に、「ちょっと待ってください」と言って、ベッド脇で寝転んでいる黒猫を呼ぶ。

「ジジ、おいで」

 黒猫がぴょんとモモの頭の上に乗る。何をするのかと見守る俺の前で、黒猫は光に戻ってモモの全身を包み込む。
 そして、モモの頭上に黒猫の耳が、尻のところには長い黒シッポが出来上がっていた。

「先輩はスケベだから、きっとこういうのもお好きなんでしょうねっ」

 自分でやったくせに照れてしまったのか、もじもじと指を遊ばせながら、耳をぴこぴこさせている。
 あぁ、確かに俺はスケベだ。でもその発想はなかったぜ。
 好きか嫌いかと聞かれれば、大好きだと答えるけどな!

「可愛いな、モモ!」
「きゃっ、ちょっと苦しい、抱きしめすぎですってば、もう!」
「いや、そこはさあ、猫なんだから『苦しいニャン」って言うとこじゃないか?」
「バカですか、誰が言いますか、そんなこと。コーフンしすぎです、せんぱいキモい!」

 からかうと、さらに真っ赤になった。
 でも猫耳は撫でるとちゃんとぴこぴこ動く。
 なにこれ本物みたい、ちょ~可愛い~。

「つーか、どうして急に猫なんだよ? エアリスの戦乙女に嫉妬しちゃったのか?」
「ばっ、何言ってんですか、何の嫉妬ですか。ただの創作意欲ですよ、創作!」
「せっかくの子猫ちゃんだし、バックでしちゃおっかなー」
「やんっ、ちょっと、えっちですよ、またこの格好ですかっ。恥ずかしいから嫌だって言ってるじゃないですか!」

 この体勢だと、モモのぷりっ尻がぷりぷりして大変美味しくいただけるので俺は好きなんだ。
 俺がいつも「ぷりぷり」と撫でまくるので、モモは恥ずかしいらしいが。

「もう……」

 モモだって、とか何とか言いながら、ぷりっと俺にお尻を突き出している。俺が本気でモモの尻を気に入ってること、最近はわかってくれたみたいなんだよね。
 猫耳は恥ずかしそうに俯いて、黒シッポはもじもじとお尻の穴やアソコを隠そうとする。でも俺がペニスを近づけると、どうぞとばかりに場所を空けてくれるんだ。
 
「んっ、あんっ」

 にゅるりときつい膣を通り抜け、いつものモモの中に収まる。手が丸まってシーツを掴み、耳がぴんと伸びてシッポがふさっと広がった。

「すっげえいいよ、モモの中。モモも俺の感じるか?」
「……知りませんっ」

 真っ赤になって、目を閉じて、唇に力を入れてモモは仏頂面をする。
 でも。

「腰、動いてるぞ」
「だっ、だから……知りませんってば……っ」

 くいくいと、ぷり尻が俺のペニスを飲んだり出したり、小刻みに揺れている。
 気持ちよかったら、尻を振る。俺のことも気持ちよくするために尻を振る。最初にしたセックスのときから、彼女はずっと俺のために腰を振っている。
 『天才問題児』と呼ばれ、教師の手を焼き、周りの同級生を小馬鹿にしてきた高慢ちきな毒舌女が、こんな健気なセックスをするなんて誰も知らないだろうな。
 真っ赤になって腰を振るモモは、それだけでもすげぇ可愛い。しかも今夜は猫仕様だ。ぴこぴこ揺れる耳を見ながら、腰をじっと落ち着かせ、モモのオナニーショーみたいなセックスを堪能する。
 そして俺は、彼女が猫のマネなんかをしてまで欲しがってたものを、耳元でささやく。

「催眠術、かけてやろっか?」
「あっ、ふっ、な、何がですかぁ」
「その耳とシッポ、エアリスの鎧みたいに、すっげぇ感じるようにしてやろっかって言ってんの」
「んんっ、い、いりませんよ、そんなのっ、バカみたい!」

 ウソつけ。エアリスみたいにして欲しいと思ったから、そんな飾りを付けたくせに。
 素直じゃないんだよな、モモは。

「ほら、俺の指を見ろ」

 3本の指を立てて、モモの前に見せる。彼女は、唇をきゅっと締めて、それを見る。

「俺が数えて、指を折る。最後の1つが消えたとき、おまえは俺の術中に落ちる。3つ。まずは3つからだ。おまえはもうすぐ催眠術に落ちる」
「や、やめてくださいよぉ、スケベ。そういうのいりませんってば」
「2つ。おまえは何度も俺の催眠術を受け入れている。だから、嫌でも体は覚えているんだ。セックスみたいに、おまえの中に深く染みついている。俺のセックスと催眠術は、もうおまえから切り離せない」
「えっち、えっちえっちえっちぃ! そんなこと言っても知りませんから、私はっ」
「1つ。もうすぐおまえの意識は俺の手の中に転がる。俺の人形になって、俺の思いのままになる。抵抗はできない。逃げられない。おまえ自身が望んだおまえの場所だからな。おまえがそうしたいと思っているからだ」
「だ、だから、私、そんなこと思ってないですってば! 違います、もう、せんぱいのバカバカっ。私は、催眠術なんて…ッ!」
「ゼロ。おまえは眠る」
「ッ…………」

 憎まれ口が消えて、ふっとモモの意識が落ちる。瞳から光が抜ける。シーツを握った手が固まる。
 そして、ぷり尻だけが変わらず振られている。
 前に、「おまえって催眠状態でも尻は振るんだぜ」って教えてやったら、ものすごい殺人ハンマーで襲われたことあるからもう言わないことにしているけど、この状態、俺はすごい好き。自動セックス人形って感じで。
 絶対、俺よりこいつの方がスケベだと思うんだよな。
 だから、それを今夜確かめてやるぜ。

「モモ、これから俺が命令する前に、想像してみてくれ。今からどんなセックスをしたい? おまえは、俺にどうされたい?」
「…………」
「これから俺が言うのは、それだ。おまえの想像したとおりのスケベなことを、俺はおまえに命令してやる。絶対にやるようにおまえに命令する。催眠状態のおまえは、逆らえずに俺の言いなりになる」
「…………」
「指を鳴らしたら、おまえは目を覚ます。そして俺に命令されてしまったセックスをするんだ。恥ずかしくても絶対にする。催眠命令だから拒めない。さあ、指を鳴らすぞ」
「…………」

 モモの想像に全て任せる。
 彼女も俺の催眠術に抗えないほど慣らされてはいるが、言葉一つで被暗示状態になるエアリスほどには、深く支配してはいない。半分は彼女自身の意思と思い込みで、俺の催眠奴隷になりきっている。
 それがモモの資質に合っていると思ったから。彼女の個性まで俺の催眠術で支配するのは、かえってもったいない気もしてた。
 そして彼女は、思ったとおりに自ら催眠術にハマっている。自分で自分に暗示をかけてしまうくらいには、もうなっていると思う。
 細かい指示などしない。戦地で俺たちを助けてくれたように、彼女の創造力が俺たちのセックスを豊かにしてくれると信じてみる。
 指を鳴らした。
 モモは、尻を動かしながら、ぼんやりと瞳に色を取り戻す。
 
「…………」

 ぴこぴこ揺れる耳に、指を触れてみた。

「あんっ!?」

 モモは、まるでクリトリスにでも摘ままれたみたいに、体をぐぃんと仰け反らせた。
 やっぱりさっきのエアリスが羨ましかったんだな、コイツ。
 調子に乗って何度も触っていたら、あんあん言ってたモモも、顔を真っ赤にして俺を振り返る。

「せ、せんぱい、やっぱりそれしたニャ! えっちニャ、えっちニャ! やっぱりせんぱいはえっちニャ!」
「えっ?」
「えっ、にゃ、にゃんにゃの、この口は!? 勝手に猫語になっちゃうニャ! これもせんぱいのせいなのニャ! 本当に変態なのにゃ、せんぱいは!」
「いや、さすがにそれは……」

 ないだろ。
 猫語はただの冗談だろ。
 なんていうか……アホだろ、この子。

「にゃっ、にゃんっ、もう、いやにゃ、こんにゃのっ。どうして男の人って、こんにゃに、スケベなのニャ! は、恥ずかしいにゃっ、屈辱にゃっ。変態なのニャ! にゃ、にゃ、にゃ~~んっ!」

 にゃんにゃん言いながら、いつもより饒舌にモモに尻を振り続ける。
 時々シッポや耳を触ってやると、ビクビクンと体を震わせ、にゃ~んと絶頂に達する。
 いや、やっぱ猫語は猫語で、結構いいかもな。なんか新しい扉を開けたな。
 
「ほれほれ、シッポで耳擦ってやるよ」
「にゃああああっ!? イ、イタズラするにゃあ!」
「ほ~れほれ」
「にゃ、にゃ、いやにゃ、いやニャ! せんぱい、嫌いにゃっ、もう、だいっきらいニャ!」

 やべ、可愛い。なんか楽しくなってきた。俺も腰が動いちゃう。

「嫌い、嫌いにゃ……せ、せんぱいなんて、大好きニャ!」
「え?」
「好きニャ、せんぱい、好きニャっ。い、いや、違うにゃ、口が勝手に、思ってもないこと言うにゃっ。こ、これもせんぱいの催眠術のせいニャっ。最低にゃ、さいてーにゃ!」
「おまえ、何を……?」
「好きにゃあ! せんぱい、大好きにゃあ! 違うにゃ、ウソにゃ、そんなことにゃいニャ……でも、す、好きニャ! 勝手に口が、言ってしまうニャ! せんぱい好きニャ! いやにゃ、私、そんなこと思ってニャいのに! でも、大好きニャ、先輩!」
「ど、どうしちゃったの?」
「先輩が催眠術で言わせてるニャ! とぼけても無駄ニャ! だいっきらいって言いたいのに、好きになっちゃうニャ! こんなの卑怯にゃっ! せんぱいは卑怯にゃっ!」

 マジで、これはどういうことだ?
 モモは何がしたいの?
 
「せんぱいのこと、大好きニャ! 愛してるにゃん! 今日、せんぱいが大丈夫って言ってくれて、モモやみんなを助けてくれて、嬉しかったニャっ。せんぱいが前にいてくれたから、モモも頑張れたニャっ。あんなにおっかない戦争を止めちゃうせんぱいって、かっこいいニャっ。モモの英雄にゃっ。モモ、今日はいっぱい、せんぱいに惚れ直したニャ! にゃ、違う違う、そんにゃことないニャっ、ウソにゃ、ウソにゃー!」

 モモは顔真っ赤にしながら、おかしな告白を始める。
 俺は呆然とそれを聞いている。

「せんぱいの、猫にニャりたいニャ! 猫にニャって、せんぱいの膝でお昼寝したいニャ! それでずっとずっと、モモのこと可愛がって、遊んで欲しいのニャ! ウソにゃ、そんなこと私思ってないにゃ! 大好きなせんぱいの猫になりたいって、そんにゃこと、思うはずないにゃ! 大好きにゃ大好きにゃせんぱいに、そんなこと言えるわけにゃいニャー!」

 きっと、俺に言いたいって、彼女が心の底で思っていたこと。
 それを無理やりにでも聞いて欲しいって、彼女が思っててくれたということ。
 俺は、猫耳モモに後ろから抱き着いて、思いっきり腰を振る。

「可愛いぞ、モモ! 可愛いぞー!」
「にゃ、にゃ、にゃんっ、せんぱいのえっち、えっち、えっちー! こ、こんにゃ恥ずかしいこと言わせておいて興奮するにゃんて、変態にゃ! も、もう大好きニャ、ちがっ、だい、きら……好きにゃ、せんぱい! もう、仕方ないから、えっちでいいニャ、せんぱいは! モモが我慢すればいいことニャ! だから、もっと、モモを可愛がって欲しいにゃ! モモのことを好きにニャって欲しいニャ!」
「もちろんだ、モモ! おまえ、めちゃくちゃ可愛いぞ!」
「だから、違うニャー! こ、これは、せんぱいが、催眠術で言わせてるだけにゃ! モモ知ってるニャ、これウソだってこと!」
「あぁ、そうだ。俺がおまえに催眠術でウソを言わせてるだけだっ。だから、言え! 気にしないで、口から出てくることは全部言え。聞いてやるからっ。そのまんま、受け入れてやるから!」
「も、もうっ……じゃあ、言ってあげるニャ! せんぱい、せんぱいっ、好きにゃー! せんぱいの、にゃんだかんだで優しいとこ好きにゃ! にゃまいきなモモと、本気で口げんかしてくれるとこ大好きにゃ! せんぱいじゃにゃきゃ、モモはダメにゃのにゃ! 愛してるニャ! 愛してるニャーン! モモ、せんぱいの、猫にニャりたーいっ!」

 モモにしがみついて、必死で腰を振る。にゃんにゃん言いながら、モモは甘い告白を続け、何度も達する。
 正直、顔が熱い。こんな告白聞いたことない。しかもあのモモが、こんなことを。
 とてつもなく興奮した。ぷり尻を掴んで、耳をぺろぺろ舐めて、にゃあにゃあ言わせて腰を振って、振らせて、わけわかんなくなるくらい、猫セックスに溺れた。
 モモの尻ががくがく揺れる。体の制御もできないくらいに快楽に溺れ、お互いの限界点まで腰を揺すり、ぶつけ合う。

「にゃ、にゃ、にゃっ、にゃっ、せんぱ、せんぱい、好き、好きにゃのっ、もう、だめ、死ぬくらい、好きっ、死んじゃうにゃっ、モモ、もう、ダメにゃ、せんぱい、せんぱいっ!」

 ぎゅううとシーツを握り締め、同じくらいの強さで膣を締めつけてくる。
 俺も、もうダメだ。頭の中では何回もイッているのに、体がその快楽に追いつかない。早く出したい。この生意気で可愛い俺の猫の中に出したい。
 必死になって腰を振る。そして、ようやく二人の快楽の頂点が合致する。
 
「にゃ、にゃ、にゃああああああああッ!?」

 大量の液体を、ぶつけ合うようにお互い吐き出し、モモの小さな膣内でかき混ぜる。
 ぞくぞくと体が痺れ、幸福感と快楽が溶け合う心地よさに酔う。
 すごい良かった。
 本当に、気持ちよかった。
 ぐったりとしたモモの猫耳がへたり、シッポもしなしなになって垂れる。
 軽くその尻を一撫でして、全力疾走の疲労感に息を吐き、汗を拭う。
 いいセックスだった。
 満足した。
 そして、横を向いたら、エアリスが真っ赤になって正座していた。

「すみません……途中で目が覚めてました」
「えっ、見てたの!?」
「ッ、ち、違いますよ! 今のは、先輩が私に無理やり…っ!」

 モモは真っ赤になって起き上がりかけ、だが腰が抜けて体も起こせず、無意味に猫耳を揺らす。
 恥ずかしさに身もだえする俺たちに、なぜかエアリスも恥ずかしげに、視線を泳がしてモモに言う。

「可愛かったぞ、モモ……不覚にも、萌えてしまった」
「にゃあああああ、やめてやめて、やめてください! ウソです、今のは先輩が悪いんです! 私は謀略に巻き込まれたんです!」
「私も触っていいだろうか、その……子猫ちゃんの部分を」
「ダメです、ダメです、えーい、こうなったら!」

 ポン、とエアリスの頭に光が弾ける。
 にょきっとその頭に生えてきたのは、白いウサギの耳だった。
 
「な、なんだこれは!?」
「エアリス先輩は、今日からウサギ先輩です! 白ウサギの女騎士です、超お似合いです!」

 素っ裸のエアリスに、ウサギ耳とウサギしっぽ。
 それは、なんていうか、まあ、驚くくらい似合っていた。
 可愛かった。

「ふっ、ふざけるな、モモっ。こ、こんな可愛いもの、私に似合うはずあるかぁ……」

 エアリスは真っ赤になって頭を隠し、耳がへたんと垂れる。
 尻の方では、短い白シッポが恥ずかしそうにピコピコ揺れている。

「……美人だし可愛いしで、エアリス先輩って、女として卑怯なんですよね……」

 モモの意見に同意だ。
 これはもう、犯してくれと言っているようなものだろう。
 おまえら本当に、可愛すぎてたまらない。

「んっ」

 エアリスの唇を強引に奪う。
 ぴこっと耳が立って目を見開いたエアリスも、俺が舌を差し入れてうにょうにょ絡ませてやると、すぐに耳を垂らしてうっとりと目を閉じる。
 乳首を軽く指で弾いてやると、ぴこっとまた耳が立ち、「んっ」と甘い吐息を漏らす。
 いや待てよ。どういう仕組みで動いてるんだよ、この耳は。

「筋肉の動きに反応しているだけですよ」
「ひゃん!?」

 モモがエアリスの脇腹を撫でると、耳がぞくぞくっと立ち上がり、シッポまで震えた。

「や、やめないか、モモ。ご主君がせっかくキスしてくださっているのに――んんっ」

 すかさず俺がキスをしながら太ももを撫でてやると、安心したようにゆっくりとウサギ耳が垂れてくる。
 そして、モモが乳首に吸い付くと、びっくりして立ち上がる。

「きゃっ!? あ、遊ぶな、モモぉ……」
「ふふっ、かわいー、エアリス先輩っ」

 楽しげに揺れるモモの猫シッポ。
 それをこっそり、後ろから撫でてやる。

「にゃああああッ!?」

 さっき性感帯にしたばかりのモモのシッポは、ぞわぞわと膨らんで、耳もピィンとそり立った。
 
「なるほど、これは面白いな」
「や、やめてください、先輩! 卑怯で―――にゃぁぁぁんッ!?」

 今度はエアリスが後ろからモモの耳をはむっと甘噛みし、悲鳴を上げさせる。
 可愛いぞ、この動物たち。これはもう、このまま食べっこ動物するしかないな。

「二人とも、四つんばいになって」
「え、ま、まだするんですか? 今日の先輩、しつこいですよぉ」
「今夜のご主君は、戦帰りのせいか特に昂ぶっておられる……このようなみっともない格好ではありますが、殿方の精をお慰めするのは女の務め。どうぞ、この肉体を存分にお使いください」

 というか、俺が昂ぶるのは主におまえらのせいだけどな。
 エアリスのむっちりした尻と、モモのぷりっとした尻を並べさせる。
 フェイバリット先生のどっしりした尻がここにないのは寂しいが、猫とウサギのシッポを可愛く揺らす少女たちだけで十分以上に俺を興奮させてくれる。
 俺は幸せ者だ。これだけの美少女を同時に愛することが出来るなんて。
 そして、催眠術でイタズラすることも出来るなんて。

「二人とも、この硬貨を見るんだ」
「先輩、また私たちにエッチなことさせる気ですね?」
「はい、ご主君。私たちをお導きください」

 尻を並べた二人の間に、コインを揺らす。
 エアリスも、モモも唇を尖らせながらコインの揺れに集中する。
 やがて、二人とも瞳をうつろにしていく。

「耳とシッポが性感帯。それはモモもエアリスもそうだ。ここに触られるとクリトリスのように感じる。動物はみんなそうだ。耳とシッポが気持ちよくて仕方ない。気持ちよい場所が増えるのは良いことだ。だから、いっぱい触ってもらって気持ちよくなろう」

 そして、今夜は今までに試したことのない場所を使ってみようと思う。

「気持ちよくなる場所がもう一つ。それは、ここだ」

 エアリスの尻の穴と、モモの尻の穴を交互に指で触れる。
 彼女らの白い肉体の中で、おそらく一番色の濃い部分は、意外なくらい柔らかく、そして不思議な指触りだった。
 そう。あの尻穴っ娘を抱いたときですら、あえて我慢して特別な日にしようと思っていた尻穴セックスというものを、今夜みんなで体験したいんだ。

「この穴が、すごく気持ちいい。俺に触られたときだけ、すごく気持ちよくなるんだ。力を抜け。緊張しないで、お尻の力をすっかり抜くんだ」

 エアリスの尻が、すっと緩くなる。
 そこを傷つけないように、慎重に指を中に進めていく。
 温かく、中まで柔らかかった。

「中も気持ちいい。ここも俺の体に反応して、すごく気持ちよくなる。天国へ昇ったみたいに。ここは天国の入口。鍵は俺の肉体。俺たちがここで繋がったとき、おまえは天国を体験するんだ」

 ぬるりとエアリスの中から抜いて、次はモモの中へ。

「力を抜け。そう。今、俺の指が入っていく。感じるか? そこがすごく気持ちよくなっていく。俺の体に反応して、気持ちよくなるんだ。猫にマタタビだ。見たことあるだろ? マタタビをもらった猫は、興奮して、気持ちよくなって、酔っぱらってふらふらになる。おまえの体もそうなる。ここはおまえのマタタビ穴で、俺の体がそのマタタビだ。二人とも今の命令は忘れるが、体は覚えている。俺に触れられると、今言ったとおりの反応をする」

 指を抜いて様子を見る。
 二人とも頬を染め、体の芯に興奮を灯らせているのがわかった。
 信頼があるから、俺が何を注文しても受け入れてくれる。俺のことを愛してくれているから、何でもしてくれる。
 普通の恋愛なんかじゃ、ここまで愛されることはないだろう。催眠術がくれた最大の幸運だ。
 落ちこぼれの俺には、本当にもったいない女神たちだ。

「……そのまま聞いてくれ。二人には本当に感謝している」

 さっきは、モモの憎まれ口に邪魔されたからな。ちゃんとまだ礼を言えてなかった。
 揺れるコインを見つめるエアリスとモモ。その横顔に俺は囁きかける

「俺は出世して、必ず二人の夢を叶える。エアリスは近衛兵隊に、モモには戦争とは無縁の平和を。それは俺が絶対になんとかする。俺はおまえらを幸せにするためにも、必ず出世する」

 こんなこと、普段じゃ絶対言えない。
 でも、今夜は特別だ。こっそりと言っちゃおう。

「あ……愛してるからな!」

 いざ口に出してみると、かなり恥ずかしい台詞だった。
 うん、これは勢いで言っちゃわなくて正解だったな。バカじゃねーの、俺。

「よし、今のは忘れろ。心の奥深くまで沈めて、聞かなかったことにして、記憶から消す。いいな?」

 ゆっくりと二人が頷くのを確認して、俺は催眠を解除した。
 目を覚ましたエアリスとモモが、うっとりと顔を赤らめる。

「ご主君……何をお命じになったのかわからませんが、どうぞ、お試しください」
「どうせ、またろくでもないことを言ったんでしょうね。本当に変態ですよね」
「ふふふ、さあ、それはどうかな。エアリス、尻を上げろ」
「はい。あっ、あんっ!?」

 そそり立ったそれを、エアリスのアソコに擦りつけながら、シッポや耳を愛撫する。エアリスは過敏に反応して、すぐにまたビショ濡れになっていく。

「ご主君、せつない…っ、あの、お願いですから、あぁっ、焦らさないで、あっ、お願い、ですっ」
「入れて欲しいか?」
「はい…ッ!」
「どこに入れて欲しい?」
「え、あっ、あのっ、オ、オマンコですっ、オマンコッ!」
「いや、そっちは使わない」
「えっ、そんな、では、あの、せめてお口に…っ」
「俺が使うのは、こっちの穴だ」
「ひゃあああっ!?」

 エアリスの愛液で十分に濡れたそれを、尻穴に擦りつける。
 飛び上がるような悲鳴を上げて、エアリスの体が震えた。

「そ、そこ、はぁ、あぁっ、ち、違いますっ、あぁっ!? いけませ、あぁんっ、ご主君、お戯れを、あっ、いけません、そんなとこは、あぁぁぁッ!」

 軽くグリグリと押し付けるだけで、エアリスは何度も悲鳴を上げた。
 敏感になった尻穴の刺激で、アソコまで濡らして潮を吹いてしまった。
 
「ここに入れるぞ」
「そっ、そこに入れるんですか!?」

 エアリスより先に、モモが耳を尖らせて驚いた。
 しっかり見ておけ下級生。6年生が模範を見せてくれるからな。
 
「い、いけません、ご主君っ、そんな不浄の場所でご主君を迎えるなど……あっ、あっ、入ってくるぅ……い、いけないのに、そんな、ご主君、あ、ああぁぁあぁっ!? ダメ、待ってください、すごく、そこっ、あっ、あぁぁぁッ!?」

 亀頭を多少強引に挿し入れると、あとはぬるりと入っていった。きつい管を広げるように侵入すると、ペニス全体を締め付ける密着感と同時に、強烈な蠕動と痙攣が始まった。
 あぁ、これはすごい。指でも不思議に感じたあの感触が、ペニスだとすごい先鋭的な刺激になる。
 どこまでも潜っていけるこの深さに、ハマってしまいそうになる。

「あぁっ、いやぁっ、ご主君、これ、これは、あぁっ、体が、壊れるっ、頭が、変になるっ、こんな、こんなの、私は、初めてですぅ!」

 エアリスもぶるぶると尻肉を震わせて、じわりと肌に汗を浮かべ、みるみるうちに赤みがかっていく。
 快楽が全身をくまなく突き抜ける衝撃に、少女の肉体は簡単に屈服して、大量の潮を噴き出した。

「あぁっ、うあっ、あんっ、あぁっ、ご主君、ご主君様っ、あぁっ、ご主君様が動くたびに、頭の先まで、気持ちいいのが、きちゃいます! こんなの、あぁっ、こんなのがあるなんてっ! あぁっ、すごすぎます、ご主君っ、あなたは、すごすぎます!」

 俺は彼女の中で腰を使い始める。
 引いても押しても、いちいち彼女の体は反応し、痙攣で俺に快楽を伝えてくる。
 初めての感覚に戸惑っているのは俺も同じだ。尻穴でセックスする行為は前から知ってはいたが、なかなか試す気にはなれなかった。なにせ尻穴だからな。結構勇気がいるんだぜ。
 でも、エアリスのなら全然汚くない。そういう気持ちになれる。むしろ今までどうして試さなかったんだろう。今のコイツ、最高に気持ちいいし可愛い。
 腸のごりごりした感触は、まったく新しい快楽を俺に教えてくれた。

「ご、ご主君っ、まるで、天国ですっ、気持ち良すぎて、幸せすぎて、他のこと忘れてしまいそうです! あぁ、ご主君、あなたは素敵ですっ、唯一無二ですっ。私、私は、あなたに死ぬまで仕えていたいっ、どうか、お願いですから、何でもしますから、あぁっ、どうか私を、あなたのおそばにぃぃ!」

 言われるまでもなく、そうするつもりだ。
 この最高の騎士を、最高の女を、俺が捨てるわけなんてない。

「……すごすぎますってば、二人とも……」

 だけど、モモ。
 おまえのことも俺は忘れたわけじゃないんだぜ。
 エアリスの中から、いったん引き抜く。

「あぁっ!?」

 大きな声を上げて、エアリスはくったりと崩れ落ちる。
 そして、さらに猛りを増したペニスを、モモに見せつける。

「次はおまえだ」
「わ、私はいいですよぅ!?」
「ダメだ、尻を向けろ」
「遠慮しておきます!」
「いいから、こっち向け!」
「きゃああああッ!? へ、へんたいー!」

 無理やり抑え込んで、うつ伏せにして腕を後ろに取る。
 いくら暴れても、芸文系猫耳少女が男の力に敵うはずがない。それどころか、まるで強姦みたいで興奮させてくれる。
 目の前でぷるぷる震える耳に舌を這わせて「ひゃう!?」と悲鳴を上げさせ、その隙に尻穴に俺のペニスを押し付ける。

「んんんんっ!?」
「どうだ? すごい感じるだろ?」
「やっ、あっ……やだ、先輩、何するんですか……あん……」
「気持ちよくなってきたろ? 体から力が抜けるか? 夢見心地にしてやるよ」
「えっち……先輩って、本当にえっちです……あんっ、あっ……何、したんですか、私にぃ……」
「ぐえっへっへ。そりゃあもちろん、幸せになる魔法よ」
「ひぐっ、へんたい……へんたいぃ、んっ……もう、力入らない……はぁ、はぁ……」

 猫にマタタビ。モモに尻穴ペニス。
 ぷり尻に挟むようにして先端を擦りつけているだけで、モモの体から抵抗は消えて、熱に浮かされたように表情が蕩けていく。

「入れるぞ」
「……ばかぁ」

 弛緩しきった尻穴は、簡単に俺のを飲み込んだ。

「あぁぁぁあああぁぁぁぁッ!?」

 陸に上がった魚みたいに、モモは俺の下で暴れる。
 だが、ずっぷりと上から串刺しになったペニスがそう簡単に抜けるはずなく、俺はモモの尻で弾みをつけ、その狭い感触をズボズボ擦って楽しむ。

「ふにゃ、あっ、あっ……いやぁ、あっ……なに、これえ……?」

 快楽で酩酊して、モモは目をぐるぐるさせながら喘ぐ。
 弛緩と緊張をくり返す尻と尻穴は、俺に与える快楽を変化させ、彼女の腰のあたりはぐっしょりと濡れていく。

「あぁ……なにこれ、やぁ、やぁぁ……あっ、あんっ、あぁ、頭、バカになるぅぅぅ」
「なぁ、モモ。気持ちいいだろ?」
「えっちぃ。先輩、また私に変な命令したぁ。ばかばかぁ」
「気持ちいいんだろ?」
「や、やぁ、こんなの、やぁだ、んっ……あ、あぁんっ」
「言わないと、猫耳噛むぞ?」
「ん、やだ、言う……気持ちいい……気持ちいいよ、せんぱい……」
「はむっ」
「んんんんっ!? ず、ずるいよぉ、いじわるぅ」
「ふっ、俺は悪い人だからな」
「最低だよ、もうっ……だいっきらい、んんっ……あぁ……」

 嫌いとか言うくせに、手を握ってくる。
 俺は腰を大きく上下させて、そんなモモの尻を揺さぶる。

「あっ、あっ……うぁ……ふにゃぁ……」

 酒に酔ったような顔をして、どんどん蕩けていくモモ。
 強引にその尻を持ち上げ、まだぐったりしているエアリスの隣に尻を並べる。

「次は二人同時だ」
「あっ、ご主君、ま、また入ってくるぅ!」
「やぁ……せんぱい、すごい、えっち、です。今日のせんぱい、えっちすぎて、あん、あっ、はぁぁぁ……っ!」
「いくぞ、二人とも!」
「あっ、あっ、あっ、せんぱい、強い、強い、あっ、あっ、ダメ、変なのきちゃうっ、知らないのきちゃうっ。頭の中、ぐるぐるしちゃうぅぅ!」
「ご主君様っ! 私、天国の心地ですっ。新しい世界ですっ。こんな、不浄の場所でも天国があるなんて、初めて知りましたっ。もう、イきますっ。すごいのが、きそうですっ。ご主君に、新しい場所を教えていただいて、私っ、私はぁ!」
「あんっ、ふにゃっ、ふああぁぁぁぁッ!?」
「あ、あ、あ、あ、あ、ご主君、ご主君ンンンンッ!?」

 モモの中で射精して、急いで抜いてエアリスの中でも射精する。
 大きな声を出して彼女たちも絶頂に達し、尻を真っ赤にしたまま余韻に体を沈める。
 美少女の尻二つ。薄明りの下で汗で濡れている。
 誘うようにシッポを揺らして。

「――よし、もう一度だ」
「えっ、あの、せんぱい、私はもう……あぁっ!?」
「ご主君ッ……あっ、ご主君が、また…ッ!」

 緩みきったモモの尻穴、きちっと締め返してくるエアリスの尻穴。
 交互に味わいながら、俺も息を荒げていく。

「やっ、にゃっ、もうダメ、こんな体に、されちゃって……んんっ、こんな場所まで、犯されちゃって……もう、私、せんぱいのとこしかないよっ。モモ、せんぱいのとこしか、お嫁に行けるとこなくなっちゃったよぉ……」
「ご主君、あぁ、ご主君様ぁ! 私を、お導きくださいっ。あなたに生涯、仕えてまいります! この体と、心を、あなたにお捧げいたしますっ。あぁ、あぁ、私は、心から尊敬できる方に、可愛がっていただいて、あぁ、あぁっ、あなたにっ、し、し、尻穴をっ、尻穴まで捧げることが出来て、本当に、あぁっ、あぁんっ、あぁぁぁぁッ!?」
「二人とも、『尻穴最高』って言え」
「尻穴、さいこっ……最高ニャンッ……もう、体中が尻穴ニャン…ッ!」
「尻穴最高! 尻穴天国です! ご主君、ご主君様っ、私の尻穴天国、ご主君にお捧げしますっ、あぁぁぁっ!」

 モモもエアリスもされるがままに、尻を持ち上げた格好で悲鳴を上げ続ける。
 夜もとっくに日付を超えて、今日はいろいろなことがありすぎて、俺たちはへとへとだった。
 しかし、止まるわけにはいかない。
 俺はまだまだこの二人を抱く。限界を超えて抱く。枯れ果ててでも抱く。
 なぜなら。

(あぁっ、キザオス様、すごい、すごいっ、信じられないっ! こんなの初めてでございます!)
(気持ちいいっ、気持ちいいですっ! もう、旦那なんてどうでもいい! どうか、私たちをあなたの都会へ連れてってぇ!)

 隣の部屋に、負けるわけにはいかないのだ。

「レイニー・ブリスルスハート。今回の功績により、あなたに従少年軍一等勲章を授けます」

 王宮の広間に、凛とした女性の声が静かに響く。
 事前に習ったとおりに、書記官が勲章を運んでくるまで、俺は顔を下げたまま膝をついている。
 咳一つ鳴らないが、俺の仲間も緊張した面持ちで参列しているはずだ。
 そいつらの顔を思い浮かべて、平静をなんとか保つ。
 
 あれから、ちょっとした出来事がいくつかあった。
 
 俺たちは王都に戻ったあと、情報部隊の兵士からいろいろなことを聞き取りされた。
 今回の件を、『酒に酔った隣国の兵が暴れて国境を侵犯した』という、でっち上げた報告どおりにはどうやら受け止められてもらえなかったようで、むしろ俺たちにも間諜か反乱の疑いがかけられているような感じだった。
 まあ、考えてもみりゃ当然だ。あれだけの兵を国境に揃えたノベル王国に開戦の意図があったのは明らかだし、それがあんなバカバカしい形で自爆するのも前代未聞だ。被害国側である我がエムシー王国にしても、信じられないのは無理もない。
 じゃあ、誰がノベル王国を嵌めたんだって話にもなるさ。
 俺たちはその第一容疑者だった。さすがにヤバいと思って、エアリスとモモには一時的に記憶を改ざんし、俺も自己催眠でウソに自信をつけてから聞き取り調査に臨んだ。
 催眠術という古代秘術を知らないヤツらには、俺たちのしたことなんて想像しようもない。「僕たち、ただの学生ですけど?」って顔していれば、ごまかせる自信はあった。
 それでも情報部の担当兵士は執拗で頭も良く、俺の停学後の急な成績の変化に目をつけ、ヒプノの森の事件まで洗い直していると聞き、貴族待遇で調査を免れていたキザオスに、なんとか裏から手を回せないか相談したりもした。
 しかし、ちょうどその頃に、俺の報告を“事実”として処理することが王宮で決定され、調査は打ち切られた。
 俺たちが情報部隊の捜査に右往左往している間にも、大人たちはさまざまな駆け引きや戦略で動いていたらしく、総合力で勝る我が国に戦争を仕掛けるタイミングを完全に逸したノベル王国側も、今回の件は『一部の国境警備兵の失態』ということで同意し、「開戦」だの「戦争」だのという言葉は使われないまま、事件解決協定が二国間で締結された。
 そして俺のことも、国境の安全に貢献した学生として、知らないうちに評価が逆転していた。叙勲の知らせが学院に届いたときには、いよいよ出頭命令かと思って崩れ落ちたぐらいだ。
 まったく、全然笑えないオチになってしまった。
 キザオスの聞いた話では、今回の協定でノベル王国にかなりの圧力をかけることに成功したらしい。
 俺たちが戦った自称『警備兵』の国境付近からの撤退はもちろんだが、貿易の強化を約束させたほかにも、トンガリーのバカ三男坊と交換に、かの国の幼い双子の王女姉妹を留学生として学院に招くことになったという話だ。
 つまり数年間の人質交換だ。かなりこちらが優位の。
 今回の叙勲は、そのきっかけを作った者への、ちょっとしたご褒美だった。従少年軍一等勲章ってのも御大層な名前だが、学院卒業生で成績上位のやつらが毎年貰ってる、通称『たいへんよくできましたで章』だからな。

「身に余る光栄に存じます」

 それでも俺は、緊張しながら章を賜る。
 勲章はいつもの学生向けでも、王妃様が自ら親授してくれるのは、ちょっとした一大事だった。
 普段は貴族の誰かや教育文化大臣あたりがやるような仕事だ。これだけの大物は、学生相手には普通は出てこない。
 なにせ王妃エリスは、病に伏せがちな王の代わりに、ほとんどの執務を行っている方だからな。今回の件に、王妃はそれだけの興味を持たれたらしい。
 そして勲章には、彼女からのご褒美もついてきた。
 俺たちの調査を担当していた情報部隊のキリコ・D・ティーチという若い黒髪の女性兵が、今後は俺たちの班の『特別教官』になり、実習も情報部の指定任務が直接回ってくることになった。
 成績優秀者として、特別な実習を体験させてやるってことらしい。
 ようするに、叙勲なんてただのエサだ。この件での疑いはまだ残っているが、もしも国を欺くだけの能力や才覚があるというなら、今後それを王のために使うと証明すれば許してやるぞっていう、得意の圧迫施策だ。
 わざわざその釘を刺すために、自ら俺の顔を見に現れたんだとしたら、恐ろしすぎるぞこの王妃。

「ブリスルスハート。あなたは今回の叙勲により、我が国の英雄の一人に名を連ねました。この名誉に応え、王国の栄光と勝利のために尽くしてくれることを期待します」
「はい。必ずや、我が王のために!」

 思い切って顔を上げる。
 王妃の美しく堂々とした顔と目が合う。その後ろで、おとなしく顔を伏せている王女ティアナの可憐な姿も目に焼き付ける。
 この国で、最高に出世した男の隣に立つ女たちの顔を。
 せいいっぱいの虚勢を張って、俺は笑みを作った。
 見たけりゃ見ろ。よく覚えておけ。
 俺は必ず、あんたらのところまで行くぞ。

「そして、我が祖国と国民のため、一日も早く戦争を終わらせ、長久なる平和と繁栄をもたらすことをお約束します」

 王妃は驚きはしなかったが、わずかに眉を上げた。
 王女は顔を上げて、大きな瞳なキョトンと開いた。
 そして参列者たちが気取った咳払いや失笑を浮かべる中、王妃は静かに息を吐き、「頼もしいこと」と微笑んだ。

「バカじゃないですか、恥とかないんですか、なぜそこまで王様視点なこと言えちゃうんですか。私たちまで巻き添えになった気分なんですけどっ」

 叙勲式が終わって帰り道、班のみんなで王宮の庭を歩く。
 平民にはめったに拝めない絶景の庭だというのに、モモはさっきから不機嫌だ。
 キザオスが、ため息まじりの苦笑を浮かべてフォローする。

「まあまあ、モモくん。僕たちの働きに対して『よくできたで章』で済まそうとした王宮には、良い薬だったと思うけどね」
「それだけで済んでないじゃないですか。これからは、あのおっかない人の監視付きで、きっつい実習に行かなきゃいけないんですよ。これ以上立場を悪くしてどうするつもりなんですか。キザオス先輩が何とかしてくれるんですかっ」
「うーん。さすがに僕も、エリス様には睨まれたくないからなあ」
「いいじゃん、別に。今さら笑い話のネタが増えたところで、俺は全然気にしないし」
「私たちが恥ずかしいんですよっ。というか、エアリス先輩はいつまで泣いてるんですか!」
「えぐっ……やはり、私の眼に狂いはなかった……我が主君こそ、この国で最高の人物だ……ぐしゅっ」

 俺の叙勲の挨拶(?)に、いたく感動したエアリスは、ボロボロと流れる涙が止まらなく、一人じゃ歩けないらしいので俺の腕に掴まっている。
 なんていうか、そこまで感動されると逆にバカにされてるみたいなんだけど。
 大きな胸に腕を挟まれ、二度と離さないとばかりにしがみついてくるので、さっきからずっとベタベタしながら歩いている。

「ふんっ、バカップル」

 なんだ、機嫌悪いのはそっちが理由か。
 俺は空いた方の手をモモに出してやる。

「ほら、せっかくのいい景色なんだから、手ぇ繋いて歩こうぜ?」
「変態ですか。そんな恥ずかしいことするわけないじゃないですか。私の両手は荷物で塞がってますし!」
「ていうか、何でスケッチブックなんて持ってるんだよ。見せろ」
「あうっ、ちょっとやめてくださいよ!」

 キザオスと一緒に、モモのスケッチブックを取り上げる。表紙の黒猫までチリリンと抗議の音を立てるあたり、これってジジが変化した光魔法か。
 そこに描かれた一番新しい絵は、王妃の前に跪いて叙勲を受ける俺と、その様子の記録だった。驚くほど精密な絵だ。

「だ、だってうちの班って報告書もデタラメだし、日記にも書けないようなことばかりだしっ。今回みたいなことがあったとき、誰も本当のこと記録してないと困るじゃないですか。だから、私が観察日記をつけてあげることにしたんです!」
「観察日記って……俺たちオタマジャクシじゃないんだから」
「なるほど、これならいざというときもすぐ隠せるってわけか。それに、今までのこともかなり正確に記録しているな。ほら、僕が敵兵に変装した場面まで」
「へえー、すごいな。これは助かるぞ、モモ」
「こういうの、ちゃんとしとかないと私が落ち着かないからです。もう、頼りにならない先輩たちなんだからっ」
「ふっ、『王妃エリスに堂々と平和を説く』だってさ。文句を言っていたわりに、レイニーのことずいぶん格好良く描いてるじゃないか。ずるいぞ」
「そ、それは必要最低限の脚色というものですっ。レイニー先輩があまりにもバカっぽくて、描いてて恥ずかしいからですよ!」

 キザオスが感心しながらスケッチブックをめくっていく横で、モモと俺は手を繋ぐ。
 そして王宮を振り返り、いつかまたここへ戻ってくるときのことを思う。
 きっと、そのときには今よりも増えた仲間たちのことが、彼女のスケッチブックに描かれているに違いない。

 ―――数年後、「落ちこぼれのレイニー・ブリスルスハート」と題する一人の男の英雄譚が、本や演劇となって国民を熱狂させることになる。
 今のは、その『伏線』ってやつだ。

< おわり >

感想を書く

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.