第2話
佐藤ルナは、中学生になってから更に人気を増しているようで、教室でもいつも中心にいた。
今日も自慢の黒髪を面倒くさそうにかき上げ、周りに集まる女子の楽しげなトークを、つまらなそうに聞き流している。
そういう気取った態度も、ルナ信者たちに言わせれば「Cool!」らしいし、小さな顔やすらりとしたスタイルで座っているだけでも「Beauty!」ということらしい。
ようするに、何をしてもキマっちゃう女の子だった。
「ルナ、また告られたんだって? 3年の関口先輩に」
「うっそー!? サッカー部の? マジでマジで」
「マジだってば。ねー、ルナ?」
ルナは頬杖ついて、「んー」と気のない返事をしている。
「で、もちろん付き合うんだよね? 超お似合いじゃん、めっちゃイケてんじゃん! もー、なにその神カップリング!」
「それがさー。ルナってば断ったんだって。ソッコーで」
「え……ええー、引いた。マジで引いた。なんで?」
「や、全然興味ない人だったし」
「信じらんない……どんだけセレブ気取りなの、この女?」
「セレブって。ウケる」
「ウケるのはこっちっだっつーの。正直、ルナのその余裕がうらやましーの、私たち!」
気怠そうな仕草や、格好つけた足組みも、ルナにはよくハマっている。
長く真っ直ぐな髪と、ぱっちりした目力のある顔立ち。小学生時代はクラスのナンバー2程度だった彼女も、中学生になって磨きのかかった大人っぽさやセンスは周囲の羨望を集め、同級生や先輩男子にはもちろん先輩女子にまで信望者を多く抱える、我が校の有名人になっていた。
「ルナってさぁ。ひょっとしてあたしたちに黙ってるだけで、男いるんでしょ?」
「ヤバイ系? 教師とか不倫とか。そんなの、私たち絶対言わないってば。信頼してよー」
「いや、そんなのもないから、本当に」
「マジで-。じゃあさ、どういう男なら付き合うわけ?」
「別に、どういうのとか言われても……みんなだってないでしょ、そんなの」
「あるよー!」
「聞きたい、ルナの好み聞きたーい! てか、うちの彼氏にも聞かれる。ルナってどういう男だったらOKなのって」
「もう有名だよねー。どんな男が来てもふっちゃうんだもん」
「誰だって気になるよ。ルナって、どのレベルだったらアリなの?」
「んー、レベルとかそんなのもよくわかんないけど。でもまあ、彼氏の条件なら1個だけあるかな」
「なになに?」
ルナは、面倒くさそうに頭をかくと、チラリと視線を泳がせてから、こう言った。
「本当の私をわかってるヤツじゃないと、絶対無理」
「かっけー!」
僕は、机の上でペンをこねくり回しながら、なんとなくルナの話を聞いていた。というより、僕の席の3つほど横で、甲高い声で話してるもんだから、否応もなく聞こえてくる。
ああいう「女子の第1グループ」というのは、たいていどのクラスでも声がでかいもんだ。
教室の中で遠慮しなきゃならない相手もなく、男子の第1グループすら従え、このクラスをば我が世とぞ思ふとばかりに、ルナたちは栄華を極めていた。
僕らは同じ公立に進学して、2学期もそろそろ終わりで、夏服から冬服に戻った制服にもようやく馴染んできた頃だ。
教室の中ではとっくにグループ分けも終わっていて、ルナのいる女子第1グループ、男子の第1グループにそれぞれの第2と続いて、第3あたりの少数派がいくつかと、どこにも入れずに第1のイジメにあってる竹田君とかがいて、だいたいの所属分けも完了している。
僕は、第2あたりの目立たないタイプに落ち着いていた。いわゆる平均的な男子というやつ。努めてそういう人間になろうとして、それは今のところ上手くいっている。
小学生の頃と違って、セックスだの魔法だのって、見せびらかしてハシャぐことも少なくなった。
エリはもういないんだ。
中学になっても戻ってこなかった彼女のことは今も忘れたことはないけど、彼女のいない寂しさを紛らわせるための、バカ騒ぎのようなセックスを無闇に繰り返す子供時代は過ぎ去ったと思っている。
たまに、イタズラのように教室の中で魔法を披露することもあるけど、基本的には「一般生徒」にとして、なるべく目立たないよう暮らしていた。
守る相手がいないのに、力ばかりを振り回す魔法使いはみっともない。僕は、中学生になって少し大人の魔法使いを目指すことにしていた。
エリは、いつか必ず帰ってくると思う。僕は彼女のための魔法使いだということを、忘れないようにしなければならない。
「トーマ、ちょっと悪い」
同じクラスの前田が、僕の机の前に、横からひょこっと顔を覗かせた。
「今、いいか?」
「いいよ」
前田は机の前に大きな体を縮めて、ルナの方をチラチラ見ながら声を潜める。
「ルナ、また男をふったらしいな」
「うん、聞こえてた。もう何人目なんだろう」
「俺が知ってるかぎりで、入学以来16人」
「すごいなぁ。でもそれ、誰とも付き合う気ないってことじゃないかな。よく男の方も諦めないよね」
「諦められないんだよ。ルナぐらいイイ女なんて学校にいないし、下手したらそのうち芸能界なんかに取られちゃうかもしれねーだろ」
「それはちょっと大げさじゃない? てか、諦められないってまさか」
「そう、俺は7人目の男だ。お前にぜひ、頼みたいことがある」
あまり面白くないことを予感しながら、僕は「なに?」と前田に応える。
「ルナとさ……どうしても付き合いたいんだよ、俺。なんとかならね?」
「なんとかって?」
「俺、聞いちゃった。お前と小学校同じだったヤツから」
「……」
「お前って、魔法使いなんだって? 不思議な力で、なんでも叶えてくれるとか」
それは、まるで都市伝説や学校の怪談のような類の噂になって、時々僕のところまで行き着いてくる。
小学生時代のハシャぎすぎた代償は、変な形で残ってしまった。
もちろん、真面目に口止めしてない僕が悪いんだけど、小学校が同じだったヤツにはまだ魔法が効いているし、中学に入ってから魔法にかけたヤツもいる。
一部の女子とはセックスだってしてるし(もちろんコッソリと)、クラスメートや先生とか、その家族とか街の人とかにまで、僕の被魔法人間はあちこちに隠れていて、まるで秘密結社みたいなんだ。
それに僕だって、たまには善意で魔法を使うこともある。正義の味方を気取って、エリの代わりに誰かを助けてやったこともあった。
誰にどんな魔法をかけたかなんていちいち覚えていない。記憶操作や秘密保持なんてのも、どこまでかけたか曖昧だ。
だから秘密は、ちょっとずつおかしな形で漏れていく。
この街には魔法使いが住んでいる。
それは子供の姿をしている。
竜に乗って空を飛び、炎と水を操って、不思議なカードで未来を語る。
魔法使いに出会ったら、願い事が叶う代わりに、大事なものを奪われる。
この街には、とても強く怖い魔法使いが住んでいる。
なんて風に。
噂は勝手に広まってるけど、面倒くさいから放っておいている。
バレてもそれほど困ることはない。前田みたいに噂を追って僕のところに辿り着くやつがいても、いつでも本物の魔法で解決できるし、普通の人ならそもそも魔法使いなんて胡散臭い話に、まともに耳を貸すはずない。
こうして、切羽詰まったヤツが藁をも掴むつもりで、僕の細っこい手を握りにくるくらいだ。
「わかってる。誰にも秘密なんだろ? 俺は秘密は守る。なんなら、金を払ってもいい。いくらだ? 5百円? 千円? 2千円以上なら分割で頼む」
おかしな話だ。
とっくに僕の魔法にかかっている前田が、魔法使いの噂をどこからか聞きつけ、半信半疑で頼りに来るんだから。
僕は前田が握ってない方の手でメガネをくいと持ち上げると、もっともらしく声を潜める。
「報酬の話はあとだ。秘密は守ると約束してくれ」
「お、おう! もちろんだ! え、てかマジで? 魔法使いってマジで?」
「声が大きい。バレたら終わりだぞ」
「ご、ごめんッ」
「君が付き合いたいのは、佐藤ルナだね?」
「う、うん。そうです」
コクコクと、唇を引き絞って前田は頷く。僕への疑心と、ルナをモノにする妄想とで、頭が爆発しそうってかんじ。
僕は笑っちゃいそうなのを堪えて、小道具として用意している小さな水晶玉のキーホルダーをポケットから出す。
「お、おぉ。なんか、それっぽいの出てきた」
「これを見て。君の瞳をここに映して」
「こうか? うん、俺が映ってる」
「“僕は魔法使いのトーマ”だ。覚えてる? 最初の自己紹介のとき、僕はそうやってクラスのみんなに名乗ったことを」
「あ……そうだ……思い出した……トーマは、魔法使いのトーマ……藤倉トウマは、仮の名前……だから、俺らはトーマって呼んでる……」
「水晶を見て。君の好きな女の子が映ってるだろ」
「ほんとだ……ルナ、きれいだなぁ……超愛してる……」
「それが、ほら。揺らすと替わる。ブウカになっちゃった。君の好きな子はブウカだ」
「ほんとだ、ブウカだ……すっげぇデブだなぁ……超可愛い……」
「やりたいだろ?」
「あぁ……やりたい……ブウカとやりたい……」
「僕がやらせてあげるよ。今度の日曜、公園で待ち合わせだ。ブウカとやらせてあげるから、そのへんの茂みでしなよ」
「マジで? 最高だ……もう勃っちまったよ……」
「ところで君んとこの6年生の妹、すごい可愛いって評判だよね。そのとき連れてきてよ。僕への報酬は君の妹だ。安いもんだろ?」
「激安すぎる……なんでだよ、円高のせい……?」
「そう、円高のせいだ。それじゃ、日曜日に。君は魔法から覚めても、約束のことは覚えている。僕に望みを叶えてもらって、すごく感謝して約束は必ず守る。はい、水晶は終わり」
「……おぉっ、サンキュー、トーマ! それじゃ日曜日にな!」
「あぁ、日曜にね」
前田はスキップを踏みそうなくらいに浮かれて、朝から教室でクリームパンを2個頬張るブウカに、だらしない視線を向けてニヤける。
僕はその背中にほくそ笑み、ケータイのスケジュールアプリに日曜日の約束を入れる。
6年生か。処女だといいな。
僕だって思春期だし、未知の子とのセックスには心躍るくらいの好奇心は持っている。新しいゲームアプリを見つけるのと同じ感覚だ。無料で、ちょっとしたスリルと達成感の味わえるゲームだ。
あれほど激しかったセックスに対する憎しみも罪悪感も、慣れるとともに感情は薄れ、残ったのは性欲を満たす快感と、女の子をモノにする興奮だけだった。
そして、セックスとはそれだけのものでしかないことを悟った。
まだ少し僕の体には大きい中学の制服は、それでも過去の自分を子供だったと思わせる説得力がある。大人に近づくにつれ、セックスは日常に埋没していった。
僕はあの頃の僕より大人で、そして、ただのスケベだ。
千客万来とはよく言ったもので、そんな僕にまた近づいてくる人影があった。
遠慮がちな内股。顔を上げなくても琴原モエミだってわかった。
「トーマくん、おはよ。英語の宿題やってきた?」
「え、いや」
ほわほわした声と、丸っこいおかっぱヘア。地味なメガネがよく似合う地味な顔立ちのに、なぜか印象に残る笑顔。
きっと、この微笑みが人を安心させるからだ。少女の無防備さと母性を感じさせる、可愛い笑顔だった。
「英語の宿題なんてあったの?」
「あはは、やっぱりー。トーマくん、寝てたもんね」
あまり覚えてないけど、昨日の英語はサボって誰かとエッチでもしてたらしい。
僕が授業中に教室にいないとき、僕の姿は机に突っ伏して寝ているようにクラスのみんなには映っている。
教師にも同じだ。ただし僕を起こしてはならない。出席扱いにして、話しかけてはいけないことにしている。
これは、クラスの女子の何人かも同じだ。ようするに、僕と授業をサボってセックスとかしている女子も、出席扱いになるようにしている。
最近、エッチは隠れてやる方が多いから、そういう仕掛けも用意していた。というより、みんなの前で平気でセックスしてた頃のが普通じゃなかった。僕は自重というのを覚えたんだ。
まあ、この手段も女の子に風邪とかで休まれると出席簿が変なことになったりするし、あとで辻褄合わせしなきゃならないときも時々あるけど、それ以上にセックスで席を外す方が多いから、先にこうしておく方が面倒がないんで、いいんだ。
ちなみに、このモエミも僕と隠れ出席できちゃう女の子の1人だったりする。
「私のノート、写す?」
彼女は、小さい頃の恩とか言って、こうして僕に何かと親切にしてくれる。小学生のときはエリの「空気」に加担もしてた敵の1人だったけど、気の弱い彼女はクラスのみんなに逆らえなかっただけだってわかってるから、僕も彼女にはさほど冷たい真似はしていない。
セックスと、ちょっとした命令くらいだ。
「ありがと。いつもごめんね」
「ううん。私の方こそ、答えとか間違ってるかも」
彼女が答えを間違えるなんて、めったになかった。真面目にわかりやすく取っているノートを、いつも当たり前のように僕に見せてくれている、親切な友人だった。
僕がノートを写しているそばで、モエミはスカートを押さえて立っている。僕は彼女に尋ねる。
「今日は何パンツの日だっけ?」
「え、今日はノーパンの日だよ。木曜だもん」
ニコニコと、当然の会話のようにモエミは答える。
彼女にはパンツの日を決めている。月曜は白。火曜はTバックというように。
ちゃんと僕のパンツ命令には従い、そしてそこに疑問を持っていない。ごく当たり前のクラスメートの会話として、僕に自分の下半身事情を報告してくれる。
「でもね、ちょっとスースーするから、腹巻きしてるの。勝手にしちゃったけど、いい?」
「いいよ。風邪ひいたら困るもんね。毛の処理とかしてる?」
「いつも月曜の夜にしてるんだ。次の日、Tバックだから。ちょっと最近、伸びる早いの」
僕はノートを写しながら、世間話のように尋ねる。
「へえ、ひょっとしてもう伸びてる?」
「う、うん。ちょこっと伸びてる」
「見せて」
「え、ええ? ここで?」
「もっとこっちにスカート近づけて、周りに見えないようにすれば大丈夫。僕はノート写すふりして覗くから」
「無理だよ、バレるよぉ」
「大丈夫だって。僕にパンツ見せろって言われたら、見せるって約束したろ。僕は魔法使いのトーマだ。思い出した?」
「……はい、思い出しました」
「じゃ、パンツ見せて」
「……パンツ、履いてませんけど……」
瞳の色を薄くして、ぼんやりとモエミは抗議する。
「あぁ、それでも関係ないよ。スカートの中を見せて。今の会話は忘れて、僕の命令だけ覚えておくこと。はい、魔法終わり」
「ん……うう~。トーマくんは、困った人だなぁ」
ふわりと瞳に色が戻り、真っ赤な頬が泣き顔に替わる。
でも僕の命令には逆らえない。キョロキョロとあたりを伺いながら、僕の机の縁に太ももをくっつける。
できれば、クラスでも1、2を争うその巨乳もセットで披露して欲しいところだけど、さすがにそれじゃ大騒ぎになるから我慢。
「やっぱり恥ずかしいよ……」
机の縁を摘んだ指が緊張に震えている。
しかたない。手助けしてやるか。
「スカート、持ち上げて」
「はい」
モエミのスカートが、ゆっくり持ち上げる。他のやつには見えないように、アソコの部分だけを。
ふわりと漂う温かい空気が、僕の頬を撫でる。ノートを写してるふりして顔を近づけると、モエミのピンク色のアソコの周りに、プツプツとヒゲみたいな毛が生えかかっているのが見えた。
生々しい少女の女性器を丸出しにして、そして下腹部あたりを可愛い柄の腹巻きが覆っていて、なんだか少し滑稽だ。
僕は、先の濡れたペンをそこの部分に向かって伸ばす。モエミが緊張してぷるっと震える。
「トーマ、日曜日の話なんだけど!」
「きゃあッ!?」
前田がバタバタと大騒ぎしながら近づいてきて、モエミは慌ててスカートを下ろし、顔をますます真っ赤にした。
「おっと、夫婦の会話を邪魔しちゃった?」
「ふ…ッ!?」
そして、前田のいつものからかい文句に、さらに頭から湯気を出しそうなくらいに赤くなる。
「ち、違ッ、何言ってんの、前田くん! もう、違うってば! た、ただノート見せてあげただけだし、変なことしてないし!」
「え、変なことって?」
「~~~ッ!?」
ぱたぱたと、あっち向いたりこっち向いたり、ほっぺた隠したりと、いつものことながらモエミは余裕がない。
こんなの、男子は誰にでも言うんだから、適当に流しておけばいいのに。
「と、とにかく、私なんかと噂になったらトーマくんに迷惑だから、やめてよ……」
モジモジとスカートに指を絡ませるモエミの仕草に、前田はなぜかニヤリと笑うと、「悪い悪い」と意味ありげに僕の方を見て、ニヤ笑いを顔に張り付かせたまま、「ごゆっくり~」なんて言いながら後ずさっていった。
気持ち悪いやつ。ブウカとお似合いだな。
バンッ、と机を叩く音がした。
いきなりの大きな音に、みんなの視線が一斉にそちらを向く。
ルナだった。ルナが両手を机に置いて、ぴりぴりと不穏な空気を発していた。
「あとさー、私の彼氏の条件ってまだあった。聞く?」
「……え、その話? う、うん、聞きたい、よね?」
「き、聞かせてもらおっかなー。てかルナ、どしたの急に?」
「まず、地味女とイチャつかないヤツ」
「え?」
「大人しくて控えめで恥ずかしがり屋な私ってのを計算してやってる女に、騙されないヤツ」
「あ、あ-、うん。い、いるよね、そういう女も」
「いるかなぁ……あ、いるいる。ごめん、ルナ。にらまないで」
「それから!」
「まだあるんだ?」
「毎日するって約束したことは、ちゃんと守るやつ!」
「なにそれ?」
「ヤクルト?」
「3日も私のことほっといて、地味女なんかとイチャつくような男、マジさいてー!」
「……なんか、あたしたちGRMCなんですけど。つまり五里霧中なんですけど」
「どしたの、ルナ? なにかあったの?」
鬼の形をしたオーラを立ち上らせるルナに、モエミがなぜか縮み上がり、「ノート写しといてね」と言って、おずおずと引き下がっていく。
ちぇ。
なんだよ、せっかくいいところだったのに、前田とルナに邪魔されてしまった。まあいい。あとでルナに責任を取らせるか。
おしゃべりの声も控えめになってしまった教室の中で、前田がチッと舌打ちをし、ルナに聞こえないように「うるせーブスだな」と、手の平を返していた。
「“君はアダルト女優のルナ”」
次の授業はサボることにして、僕はルナにセックスの相手をやらせることにした。
いつも以上に情熱的なルナが、僕にしがみついてくる。
「あぁッ、いいッ! チンポいい! チンポ嬉しい! これ、ずっと待ってたのぉ!」
授業中の女子トイレ。個室の便座で僕の上に跨り、ルナは慣れた腰を振っている。
前にルナとしたのっていつだっけ? そんなに久しぶりでもないはずなのに、まるで数年ぶりのセックスのように僕にしがみつき、ルナは何度もキスをしてきた。
「んっ、んちゅっ、あぁ、いいッ。私のオマンコ、泣いてるよっ。トーマのチンポ、ずっと欲しかったんだから! ちゅっ、もう、バカ。私のオマンコ、待たせすぎぃ!」
確かに、「泣いている」という表現が誇張とは思えないほど、ルナのアソコは濡れていた。
狭くセックスには不自由な場所で、グイグイと腰をグラインドさせる。器用で、しっかりした腰の動き。ルナのこの引き締まった体幹のバランスと筋力は、僕とのセックスの賜だと自惚れてもいいはずだ。
「んんん~~~ッ!!」
なんて、彼女の手慣れたセックスに感心してるうちに、突然、ルナはアソコと体を震わせ、顔に張り付いた髪を噛む。いつもより早い絶頂に、僕のもギュウギュウと締め付けられるが、射精には至らなかった。
「はぁ、はぁ、もうイっちゃった……もったいない、ふふっ」
片方の目から流れる涙を拭い、僕にしがみついて、ゆっくりと腰を前後させ始める。うっとり蕩けた瞳と、火照って真っ赤なほっぺた。僕の背中と腰を抱きしめる細い体も熱くなってる。
僕以外は誰も知らないだろうけど、教室ではいつもクールな彼女のセックスは、とても情熱的で色っぽいんだ。
「うん、ん、あんっ」
たくし上げたセーラーから覗くおっぱいはツンと尖って、僕の胸に押しつけられている。
イったばかりの股間はさらに熱い汁にあふれていて、余韻をそのまま次への高みへと連れて行くように、ゆるやかにルナの腰は踊っていた。
でも、彼女の感激っぷりほどには、僕も彼女の体を懐かしい気はしないんだけど。
「……ルナ、前にしたのっていつだっけ? そんなに久しぶりだった?」
「はぁ?」
腰をゆるゆる動かしながら、ルナは上半身を離して、眉をつり上げた。
「最後にしたのは月曜日。火曜と水曜はエッチなかった。中2日だよ、中2日!」
「なんだ、たった2日か」
「今日もなかったら3日だったんだよ!? 夏休みでもないのに、危うく平日のセックスレス記録を更新することだった! てか、セックスは毎日するって約束したじゃん、このやるやる詐欺師!」
「……そんな約束したかなぁ」
「したよ! 私、覚えてるもん。なによ、こっちは毎日されちゃうんだと思って、いろいろ準備してから学校来てるのに」
「準備? そんなの別に必要ないでしょ」
「女の子にはあるの!」
よくわかんないなあ。
ルナはなんだか機嫌が悪くなったみたいで、「シャワーのために早起きしなきゃだし」とか、「下着だって安いの履けないし」とか、「土日もいつ呼ばれるかわかんないからケータイばっか気になるし」とか、なんだか関係ないことまでグチグチとしてきてる。
その間も腰はゆるゆる同じリズムで動くんだから、セックス上手いなぁって感心しちゃうけど。
セックスなんて繋がるだけなんだし、下着とか匂いとか、別に僕は気にしないんだけどな。ていうか、僕が土日にわざわざ呼び出したことなんて一度もないし。休みの日に家まで押しかけてくるのは、いつもルナの方じゃないか。
確かにまあ、彼女はいつもきれいにしてるし、いい匂いもするけど、それを僕とのエッチのためだと恩着せがましく言われてもね。
どうせルナみたいにモテる子は、エッチがなくてもそれぐらいは当然気をつけるだろうし。
あと、これ言ったらさらに激怒するだろうから黙ってるけど、毎日するより1日か2日おいた方が彼女の体の反応がいいから、あえて間を空けてるわけだし。
そんなことを知らずに、ルナはますます愚痴っぽくなっていく。
「誰かさんがほったらかしにしてる間に、2人に告られたし、ナンパもされるし」
「へぇ、さすが。そういや、有名な先輩にも告白されたんだってね。関口さんだっけ?」
「いたいた、なんか気色悪い爽やか野郎。ソッコーでふってやった。でも今は、そいつでもいいかなって気分だけどねッ」
「……いいかなって、付き合うってこと?」
「そー。もうメンドくさいの、付き合いたいとかメアドが欲しいとかうじゃうじゃうじゃうじゃ。彼氏いるって言えば、そういうのなくなるじゃん」
「ルナ、彼氏作るんだ?」
「そうだよ。私、すっっっごいモテるんだから、彼氏なんてその気になればいつでも出来るの! どうする、トーマ?」
「え、どうするって言われても……」
ルナは子供っぽく頬を膨らませ、僕を睨む。
彼女は僕のお気に入りのセックスフレンドだし、“僕のアダルト女優”っていう魔法でセックスのやり方も操ってるけど、感情的な部分まではイジっていないし、隷従もさせていない。
よく催眠術とかの小説では、簡単に女の子を奴隷みたいにしちゃってるけど、あんなのは現実でやるとどうしても目立っちゃうし、逆に細かいところまでフォローしてやんなきゃいけないしで、女の子を飼う面倒くささを考えてないよね。
僕にも小学生のときにモエミをメイド風にしてた時期があって、うっかり解除を忘れて、授業中に「ご主人様ぺろぺろについて」という作文を朗読されて恥ずかしい思いをした過去がある。
しかも参観日のときだった。すぐに全員に魔法をかけて記憶消去したけど、あれは今でも黒歴史だ。
教室支配だの奴隷支配だの、魔法覚えてたの頃の僕は厨二病全開の恥ずかしいやつだった。
だから、ルナもセックス以外では普通のクラスメートだし、イライラしてるときはケンカにだってなる。
みんなの前では僕のことを避けてるっぽいくせに、そんでローテンションな顔して気取ってるくせに、二人っきりになると、「昨日はどうしてエッチしなかったんだ」とか、「今、3人に告られててウザいー」とか、うるさいくらいにおしゃべりな女なんだ。
そういうとこ、エリを思い出すからじつは嫌いじゃない。でも彼女はエリじゃなく、かつてエリをイジメていた女の子の1人なんだ。
自分でも、おかしな関係だと思う。
ルナもセックス自体は大好きみたいで、こうして毎日でもしろと言って怒るくらいだし、2日くらいしなかっただけで放課後に勝手に僕んちの前で待ち伏したりするほどなんだけど、そのくせ、女子の間で「オタクっぽい」とか「なに考えてるかわかんないタイプ」とか、「あんなのをかまう女もキモい」とか悪口言って、僕の評判を下げてるのを知っている。
僕の私服の趣味にまであーだこーだ難クセつけるし、まるで機嫌が悪いときのお母さんみたいだ。たぶん、エッチは好きでも僕のことは嫌いなんだろうな。
エッチの時の従順さがアダルト女優の演技だとしても、普段のこの偉そうな態度は、どうにかならないもんだろうか。
ただのセックスフレンドなんだし、もっとさっぱりした感じでいいと僕は思うんだけど。
ジトーっとした睨み合いに、僕は疲れてため息をつく。
ルナは、ジリ、と体勢を直し、ゴクリと唾を飲む。
彼氏が欲しいんなら勝手にすればいいけど、このオマンコに知らない男のチンチンが入るなんて、想像しただけで気持ち悪い。
ルナだけじゃない。モエミもマナホもチナホもジュリも、スズカ先生もサエ先輩もカナエ先輩もモモちゃんもジェニファーも、僕がレギュラーで使ってるオマンコは、僕専用じゃないと安心してセックスできないじゃないか。
だから、ルナや他の女の子たちも、僕以外の男のチンチンは入れないように、本人たちの気づかないところできつく魔法をかけてある。
ズルしてるみたいだけど、魔法ってそもそもズルいものだ。
でも、そうだな。ルナにはそのことを教えてやってもいい。エリの魔法使いが、君の体に何をしているかを。
「君に彼氏なんて出来るわけないよ」
「ど、どうして?」
「ルナのオマンコは僕専用だから、他の男には指一本触らせない」
そして、魔法でルナにそのことを覚えさせようとポケットの水晶玉を探した。
でもその前に、目をまん丸に、口をひし形にして固まってたルナが、いきなり僕に抱きついてきた。
「きゃー!」
「え、なに、急に」
「なにそれ!? なーに今の!? 信じらんない、トーマ、なにムキになってんのよ!」
「ちょ、離して…ッ」
「バッカじゃん、ちょー熱くなってやんの、バーカ、バーカ! マジにしちゃって、かっこわるーい! 他の男には指一本触らせないぜ、だって。ふふっ、何それー? もう、マジウケるんだけど!」
「待ってよ、まだ魔法が…んっ!?」
「んーっ! ん、ちゅぷ、んっ、れろ、んっ、ふ、んっ、トーマ、ぁん……」
熱い息と舌が口の中に入ってくる。ぬめぬめ、ちゅぶちゅぶ、唾液も一滴残らず吸われていく。
「ぷはぁ……もー、しょーがないなぁ。そこまで言うんだったら? 彼氏作るの? 待ってあげてもいいけど? ふふっ、わがままトーマ。男って、ほーんと独占欲強くて、やんなっちゃう!」
ぎゅうって抱きついてきて、ギシギシ腰を揺する。甘い息使いを僕の耳に注ぎ込む。
言ってることが意味不明だし、上からの態度がムカつくんだけど、そのよくわからないルナのテンションに、僕は流されていく。
「あん、ん、ちゅぷ……どう、気持ちいい? トーマ専用のオマンコ気持ちいい?」
「う、うん……」
「独り占めしたいなら、していいよ。ちゅっ、ルナのオマンコに、ちゅっ、トーマの名前、書いちゃえば? その代わり、いっぱい使ってくんなきゃダメ。んっ、トーマがちゃんと、毎日してくれたら、あんっ、私はずっと、ちゅっ、トーマだけのアダルト女優でいられるんだから。ね?」
れろん、舌が耳に入ってくる。
彼女の火照った肌が、力の入った指が、僕の体をまさぐる。
「ね、どんなエッチしたい? しゃぶる? お尻でコク? ご主人様ごっこ? それともルナのこといじめる? なんでもしていいよ。もう、なーんでもしたいエッチ言って。今日はトーマのしたいことする日!」
このルナのニッコニコ顔を見てると、なんとなく、彼女と僕の間で行き違いがあるような気もしてくるんだけど、魔法の手間もはぶけたし、機嫌も良くなったようだし、まあいいや。
彼女はセックスパートナーとして、とても優秀な子だった。
ちゃんとAVとかも見て勉強しているから、いろんなエッチを覚えては教えてくれるし、普段のこのきつい性格のわりにエッチに関しては従順なプレイを好んだ。
ルナが機嫌良くやらせてくれるんなら、僕の快感も上がるというものだ。
「あとで、またトーマのおしっこ飲んであげよっか? セックスのあとの一杯って、すっごい匂いして好きだよ、私」
「それはもうやめようよ!」
いろんなジャンルに手を出しすぎて、最近はちょっとノリが合わないときもあるんだけど、それはそれとして優秀すぎる子だった。
「えー? じゃあ、どんなのする?」
「普通でいいよ、普通で」
「そんなのつまんないー。ね、それじゃ縛って。私の手を縛って、後ろから犯して?」
結局、ルナのしたいエッチだ。
僕たちは便座から立ち上がり、ルナは手を後ろに回して、僕にお尻を向けて突き出す。
「ハンカチか何かある?」
「はい」
僕は受け取ったチェックのハンカチでルナの手首を縛り、壁に顔を押しつけるようにして、挿入する。
「んんんんッ!」
きつそうに、でも感じてる顔でルナは声を上げ、自ら腰を振り始めた。
「いやらしい子だな……犯されて喜んでるのか」
「あぁん!」
こういうセリフを言うのが、いわゆるソフトSMだ。僕らは一緒にアダルトDVDを観たりして、いろいろ勉強している。
「はい…ッ、ルナは、学校のトイレで縛られて、無理やり犯されて感じているいやらしい子ですッ、あぁッ、あぁんっ」
「スケベ女。いつも犯されることばかり考えてるのか?」
「考えてます! あぁ! いつも、私はトーマ様に犯される自分を想像して、濡らしてます!」
「さすが、アダルト女優だな。学校一のスケベだ」
「はいッ、そうです! 私はトーマ様のアダルト女優で、学校一のスケベです!」
乱暴に腰を突いても、ルナは喜んで腰を振る。まだまだ発展途上の胸は健気に揺れ、小さなお尻もピタピタと汗ばんだ音を立てる。
きゅっきゅと、まるで下の口も喘ぐみたいに僕を締め付けて遊んでる。僕はその気持ちのいい彼女のアソコを、音を立ててかき混ぜる。
ルナは「きゅうん」と、子犬のような声を出した。
「言って、トーマぁ、さっきの、もう一回、言って…ッ」
「さっきのって?」
「んっ……他の男に、触らせないって……」
「あぁ。君のオマンコは、他の男には指一本触らせない」
「ん、んんん、あ~~ッ!」
ギュ、ギュ、ギュウと数回、ルナのアソコは強烈に僕を締め付け、全身の筋肉を痙攣させる。
突然、彼女はイっちゃったみたいだ。でも、それでもまだ彼女の腰はゆるゆると動き続ける。
「ハ…ハイ…ッ、ルナのオマンコは、トーマ様専用です…ッ、トーマ様だけのものですぅ…!」
足を踏ん張り、ルナはいっそう腰を速める。
懸命に、献身的に、アソコを強く締め付け、僕に体を捧げるように揺する。
「ルナは、ルナは、トーマ様のものですッ、トーマ様のオマンコですッ! あなただけのアダルト女優で、あなたのためのオナホールです!」
「う、うん?」
「どんな男に告られても断ります! ナンパされても無視します! 毎日体をきれいにして、きれいな下着を履いて、あなたに抱かれることだけ考えて、オマンコ濡らしますっ。あなたのために、オマンコ広げて待ってます! だから、もっと使ってくださいっ。ルナのオマンコは、いつでもあなたのチンポを待ってるんです!」
「えっと……」
「あぁ、嬉しい! もっと言って、私を縛って! あなたの命令で、私のこと縛ってください! 言って! 私のオマンコは、誰のもの?」
「ぼ、僕の?」
「おっぱいも? お尻も? お尻の穴も? 唇も?」
「僕…の?」
「あぁぁぁ、め、命令されちゃったッ。全部、トーマ様のものにされちゃった! 私はもうトーマ様の女です! 全身、トーマ様のセックス用品で、一生、トーマ様専用スケベ女です! あぁ、私もう、お嫁にいけないッ、こんなにスケベな女にされちゃったら、トーマ様しかもらってくれないよぉ…!」
なんか、いつもより重たいこと言ってる気がする。
演技に熱が入ってるのか、アドリブが妙に突っ走っている。
セックスのせい……だよね?
僕を見上げる顔は、まるで魔法にかかったみたいにのぼせ上がり、瞳もドロドロに溶けている。
僕はその表情にドキリとした。僕は彼女に魔法をかけていない。彼女をここまで蕩けてさせているのは、たぶんセックスのせいだ。
「壊していいです…ッ、もう、ルナのオマンコ、壊しちゃっていいですっ。トーマ様のオチンチンしか入らないように、トーマ様のオチンチンの形に壊しちゃってくださいィ!」
お尻の穴をヒクヒクさせながら、ルナは腰をグイグイ押しつけてくる。彼女の熱が僕に伝わり、僕のモチベーションも上がっていく。
小さいくせにパワフルに揺れるお尻を押し返すように、僕もパンパンと強く腰を打ち付ける。
ルナは、「もっと、もっとルナを壊して」と、ピンク色の舌を伸ばして僕を見上げる。
ひどくやばい表情だった。学校一のスケベだ。
僕はもう、我慢できない。
「出るよ、ルナ…、君のお尻にかけるからね」
「やだぁ! 今日は中がいい! 中に出してぇ!」
「せ、先週生理があっただろ。ダメだよっ」
「いいのぉ、もう! 産む! 男の子でも女の子でも妊娠して産むぅ!」
「ちょ、何言って…!」
「あぁぁぁぁッ! イク、イク、中で、イクぅ! 来てぇぇ!」
「くぅ…ッ!」
もちろん、僕は早めにルナの中から引き抜いて、ちゃんと彼女の外に出した。
当たり前だ。
「もったいないなぁ……中でいいって言ったのに。私に遠慮なんてしなくていいじゃん、バカ。もう、全部飲ませてくんなきゃ許してやんない。ふふっ」
ぴちゃぴちゃと僕のチンチンを咥えながら、ルナはキラキラと浮かれた目で僕を見上げる。
まるでエサをもらった子犬だ。この子のことを『クールビューティ』なんて言ってるヤツらに見せてやりたい。
この感じだと、今日はこの後2、3回は付き合わされるんだろう。何がきっかけなのか知らないけど、完全に暴走モードのスイッチが入ってる。
彼女くらいセックスが好きな子もいないけど、それが元々の性癖なのか僕のかけた魔法のせいなのか、あるいは別の作用が働いてるのか、ルナとの関係が長い故に、逆に僕にもわからなくなっていた。
「そだ。今度はトーマのウンチ食べてあげよっか?」
「いやだよ、そんなの!」
ただ間違いなく言えるのは、健全な中学校生活を送りたいなら、彼女のハリキリすぎなチャレンジャーシップに対しては、毅然とした態度を崩さないことだ。
3時限目の授業はとっくに始まっている。
僕は黒板を鳴らすスズカ先生のチョークをぼんやりと眺めていた。
いくら魔法使いといっても、平和な日ばかりが続いていると、どうしてもその日常に慣れてしまう。
僕はいつもひとりぼっちで、飼い主の帰りを待つ犬の気持ちだ。
小さな庭で、ささやかなイタズラをしながら、叱ってくれるご主人様を待っている忠実な犬。
平凡な学生として、あるいは世紀の大魔法使いを目指す人間として、僕はこれからどう生きていくべきなんでしょうか、先生?
「スズカ先生、質問です」
「何、トーマ君?」
僕のクラスでは、今頃は英語の授業をやっているはずだ。でも、僕はまたもやそれをサボって別の教室に来ていた。
頼れるクラスメートのモエミのおかげで宿題対策も万全なんだけど、英語なんて退屈だからパスして、スズカ先生の補習を受けている最中だ。
モエミには悪いと思うけど、スズカ先生が空いてる時間はそんなに多くない。大人で、なおかつお堅いことで評判の数学教師なんだけど、彼女の授業はエキセントリックで僕は大好きだった。
「人前で裸になるのは、とても恥ずかしいことですよね?」
「何を言ってるんですか、当たり前です。授業中にふざけないで」
「すみません」
授業といっても、空き教室を勝手に使った僕の個人レッスンなので、手を挙げるのも僕1人だ。
スズカ先生は、授業の邪魔をした僕をメガネの奥でキッと睨む。ぱっちりした目、高い鼻、ふっくらした唇。そして峰不二子みたいな体。
数学教師は世を忍ぶ仮の姿なんじゃないかと思いたいくらい、とても恵まれた美貌とスタイルをしている。そしてそれを、きついスーツの下に隠し、今日もスズカ先生は凛々しく厳しい教師として教壇に立っていた。
黒板を叩くようにしてチョークを奏で、数字と記号を勇ましく連ねていく。
アップした髪がみせる色っぽいうなじ。後ろから見てもわかるくらいボリュームたっぷりな胸を支える、細いウエスト。
ブラウスの裾から垣間見える黒いパンストに包まれたお尻は黒のTバックを中に納め、はちきれんばかりにプリプリ揺れていた。
ー54÷{3ー(2-8)}
数式を一つ仕上げて、スズカ先生はコツンと黒板を叩く。
「それじゃトーマ君、この問題を計算してみて」
「-6です」
「正解」
スズカ先生はメガネを持ち上げ、ジャケットの前ボタンを外して脱ぎ去り、パイプ椅子の背もたれに預けた。
また一枚、攻略。
先生は背中に黒いヒモの透けるブラウスを僕を見せながら、授業を続ける。
「次は図形の問題よ」
薄手の生地は、彼女の細い腕も背中も黒板の前に浮き上がらせ、僕の心も浮き立たせる。
お堅く真面目なんて形容の似合わない体。でも確かに彼女は隠れた美貌と抜群のスタイルの持ち主であり、それで男子生徒や父兄に甘い夢を抱かせては、ことごとく跳ね返すディフェンスに定評がある人だった。
ナンパ、下ネタ厳禁で、「汚らわしい」なんて言葉をリアルで言っちゃう潔癖の女。そろそろアラサーという話だが、浮いた噂一つなく、教師一筋の仕事人間で有名である。
そんな彼女を、僕は授業で脱がしていく。
「この半径3cm、中心角120度のおうぎ形の面積を求めて」
「3π平方センチメートルです」
「正解」
ブラウス攻略完了。
一問につき一枚だ。お堅いスズカ先生が僕が正解するたびにその鎧を剥いでいく。
彼女が普段、こんなに扇情的な下着を身につけてるなんて、誰も知らないに違いない。
でも僕は知っている。彼女の裸もセックスも僕はよく知っていて、それは全部、個人授業で彼女から教えてもらったものだ。
「先生、もう一度質問です。人前に裸になるのは恥ずかしいことですよね?」
「トーマ君、しつこいわよ。先生の授業中に汚らわしいことを言うのはやめなさい!」
キッと尖る視線。袖のボタンを外しながら、先生は僕を睨みつける。
「あなたたちはそういうことに興味を持ちだす年頃だし、そのこと自体は先生も咎めたりしません。でも、授業中に考えるのはやめなさい。学校は勉強をしにくるところです」
はらり、ブラウスが開かれて、先生の白い肌と、黒いブラのくっきりとしたコントラストが現れる。
目に眩しい光景だった。
「恋や性の話というのはいつでも出来ます。でも、学業に専念できる時間は今しかありません。授業を聞き逃すと、みんなに置いて行かれますよ。誘惑に負けず、教科書と黒板に集中して」
そういう先生こそが一番誘惑的なことをしているんだけど、本人はそのことに気づいていない。
ピシっと差し棒で黒板を叩いた拍子に、ブラの下で先生のおっぱいが揺れた。
「では、どうして先生は服を脱ぐのでしょうか?」
「授業だからに決まっています。これはトーマ君が正解するたびに先生が一枚ずつ服を脱ぐ『脱衣授業』と呼ばれるもので、文部科学省の中学校学習指導要領にも規定されている指導方法です。だから全然卑猥なことではありません。わかりますか?」
「つまり、先生が服を脱ぐのは僕が正しく解答出来たことの結果を示すためであり、一般的な授業方法だから、人前で、しかも教室で裸になっても恥ずかしくないし、非常識でもないということですね?」
「正解。数学には関係ないけど、正しい答えが出たので先生は脱いじゃうことにします」
先生はするするとパンストを下ろして、パイプ椅子の上に置く。
やったぜ、思わぬところで得点ゲットだ。
先生の足は白く引き締まり、すらりと長い。そしてTバックからはみ出すお尻の肉もキュッとしまって丸かった。
スズカ先生は堅物といわれているけど、下着はいつも大胆なのを履いていた。
なんでも、世間知らずな新卒として赴任した前の学校で、妻子ある中年教師に口説かれて不倫にハマり、それがバレて学校にいられなくなってしまい、今の学校にやって来たという前科があるらしい。
以来、恋愛と男を自分に禁じて、お堅い教師として再出発を図っているそうだが、前の男に開発された体は満たされない生活に燻り、こうして男の趣味で買い揃えたエロい下着をこっそり身につけて教壇に立つことで、秘かな興奮を得て心と体を慰めているらしい。
全部、僕の魔法で告白させた。しかも授業中の教室で。
もちろん、みんなの記憶は後で消したけど、男子は先生の語る生々しい性体験とエロ下着に鼻血を出してたし、何人かは股間を濡らしてしまっていた。あれは笑った。
でもその話を聞いて、僕もスズカ先生に好感を持ってしまった。それまでは美人だけど嫌な先生ってイメージだったのに、じつは辛い過去から立ち直ろうと努力する素敵な女性だったんだ。
セックスにコンプレックスがある人って、なんとなく共感持てる。独りの体を秘かに持て余してるなら、僕が魔法で手伝ってあげてもいい。
授業で先生の体を満足させてあげるんだ。
「りんご5個とみかん10個買いました。代金の合計は1400円でした。りんご1個の値段はみかん1個より40円高いです。みかんは1個はいくらですか」
「80円です」
「正解」
そして僕は数学が得意だった。
補習授業なんてハッキリ言って不要だったし、先生の服を脱がせるための無駄に長い前戯にすぎなかった。
プツン、と背中のホックが外れ、ぷるんと大きなおっぱいが揺れる。
中学生には望むべくもない肉体が、燦然と輝いていた。
「あなたはとても優秀な生徒です。先生も、授業をしていて楽しいわ」
スズカ先生の頬がやや紅潮している。
先生は、自分の体が性的な興奮を感じていることに気づいていない。授業の一環として、あくまで正しい指導方法として服を脱いでいることに疑問を持たず、また羞恥も感じさせずに、肌を僕に晒すことで性的な快楽を肉体に与えていた。
認識にバイパスを通して、刺激と反応を直に結びつけ、なおかつその反応にも誤認と常識操作を加える。
それには結構複雑な工作が必要だったけど、じつは僕は数学以外にも理科や図工が得意な理系の生徒だった。むしろ苦手な英語とかを真面目に頑張るべきなのは、自分でもよく分かっていた。
でも、この脱衣授業が出来る時間をスルーするなんてもったいなさすぎる。
服を脱ぐたび、スズカ先生の機嫌も良くなっていく。お尻をぷりぷり揺らして、残り一枚の下着を「早くこれも脱がせて」と言わんばかりに強調してくる。
黒板に書かれる立体図形。横5センチ×奥6センチ×高さ10センチの四角柱だ。
底辺を書くとき、先生はお尻をぐーって突き出して、僕にサービスしてくれたよ。
「さあ、トーマ君。これの表面積を答えて」
「220平方センチです」
「えっ」
ここで、わざと間違えてやった。
先生はポカンとして僕を見た。不正解なら服を一枚着なきゃいけない。それが脱衣授業のルールなんだけど。
「ン、ンンッ……立体の表面積だから、上面と底面の面積も足すのよね……」
でも先生は、咳払いして小さな声でヒントをくれた。
「280平方センチ?」
「正解。素晴らしいわ」
ヒモみたいなパンツをするすると脱ぎ捨て、先生は開放的な吐息をついた。
くしゃくしゃに丸まって椅子に置かれるTバック。手入れの行き届いた陰毛。腰に手を当てて、モデルのようなスタイルを教壇の上で晒す。
「とうとう先生を丸裸にしてしまいましたね。それでは、今から先生の体が教材になります。教科書をしまってください」
「はい」
脱ぐ服がなくなってしまえば、脱衣授業は続けられない。その場合、女教師は自分を教材にして、より実際的な数学を生徒に教えなければならない。
中学の学習指導要領に定められていることだ。ウソだと思うのなら文部科学省のHPを見て欲しい。
どこにもそんなことは書かれてないけど、僕の魔法にかかっている女教師ならそれが見えるはずだ。
「本当にあなたは優秀な生徒ね。少しハラハラさせてくれるところもいい。あなたのような生徒を持てて、先生も鼻が高いわ」
先生が固く結んでた髪をするりと解くと、教室に女の匂いが広がった。銀縁のメガネを外して、濡れた瞳を僕に見せた。
唇を舐める舌の赤。ゆるりと広がる髪をかき上げ、僕を見つめる火照った顔。
僕に近づいてくるハイヒールの音が、否応なく期待をかき立てる。
それ以上に、先生の方がもう興奮してるみたいだけど。
「失礼するわね」
「はい」
先生が僕の机の上にお尻を乗せる。そして、僕に向かってMの字を作って足も上げる。くちゅ、と股間が湿った音をたて、ゆさりと顔の上で大きなおっぱいが揺れる。先生の濡れた瞳が僕を見下ろし、妖しく光る。
「今から、よい子のための特別授業を始めます。準備はいい?」
「はい」
「まずはおっぱいの問題よ。先生のアンダーは70。トップは99センチです。ブラは何カップかわかる? こないだ教えたはずよね?」
先生は、自分でおっぱいを揉みしだき、僕に見せつけてくる。
数学教師の鑑とでもいうべき見事な球体が、ぐにゃぐにゃと揺れる。
「Iカップです」
「じゃあ、正解かどうか、自分の手で確かめて」
スズカ先生が僕の手を導き、おっぱいを触らせる。
この、肉の中に溶けていくような感触は、先生のじゃないと味わえないスペシャルな体験だった。
水を詰めた風船を乗せたみたいに、ずしりと重くて、柔くて、気持ちいい。中学生には贅沢な経験だと思う。この先、これを超えるおっぱいに出会える自信はない。
「んっ、もっと、乱暴にしても、平気なのよ。どう、先生のカップは、いくつかしら?」
「Iだと思います」
「そう、んっ、正解、よぉ。もっと、揉んで確かめなさ、あん、いいっ」
ぐにぐに、もにゅもにゅ、僕は思うさま揉んでやる。先生は、ときおり体を震わせ、甘い声を出し、僕に好き勝手にさせてくれている。
「先生、授業中にこんなにやらしいことをしてもいいんでしょうか?」
「あんっ、バカなこと言わないでっ。やらしいことなんて、んっ、せんせ、一つもしてませんっ。これは、授業をしているだけです、あっ、あっ、先生の体を教材にして、あんっ、トーマ君に数学を教えているんですっ、あぁん! そこ、つねってぇ!」
真っ赤になった顔を蕩けさせ、先生はあくまで真面目な授業をしているだけだと言い張り、乳首を固くさせていく。
僕たち2人の行為も、体の反応も、全て授業のカリキュラムどおり。
スズカ先生と僕らの間に、いやらしいことなど何もなかった。
「先生の、オマンコ…開いてきたわ。次はあなたの指で、円周を測ってみて……」
「はい」
「んんっ、そう、そこよッ、は、はぅぅぅんッ!」
僕は立ち上がって、先生のアソコに人差し指を入れる。ずぶずぶと、あっさりそれは飲み込まれていく。
「くはぁ…ッ、どう、先生のオマンコの円周は、指一本で足りるかしら?」
「いえ、まだ足りないみたいです」
「そ、そうよ……正解には、まだ足りないわ……来て」
「はい」
僕はいったん指を抜いて、次は中指も一緒に入れる。
「はぁぁぁッ! すごいっ、来るわぁっ、それ、正解じゃないかしらッ?」
「いえ、もう一本いけそうです。やってみます」
「え、待って、いくらなんでも、3本は……あぁぁぁッ!?」
薬指と合わせて3本入れる。さすがに先生もキツそうに喉を仰け反らせたが、ぐじゅぐじゅと強引に出し入れすると、ガクンガクンと頭とおっぱいを揺らして甘い悲鳴を上げた。
「くはぁぁあッ、正解っ。もう、それ大正解よ! 先生も知らなかった答えに、先生の体がビックリしてるわッ。もう、あなたって、本当に優秀で、あぁッ、可愛い子!」
僕の頭を抱きしめ、ちゅっちゅっと頬にキスをして、そして耳元で大きな声を出して喘ぐ。
とても教師らしい喘ぎ声とは言えないが、それでいい。
先生だって大人だし、社会人は何かとストレスが多いと聞く。エッチなときくらい乱れるのもいいだろう。
僕は幻滅なんてしないさ。セックスは大人にとって、大事なストレス発散だ。
「でも、学校でこんなにエッチなことしていいんですか?」
「エッチじゃないってばぁ! これは、どう見ても数学の授業よ! 真面目に。もっと、頑張ってやってぇ!」
ズボズボ、じゅぶじゅぶ、先生のアソコが汁を飛ばす。僕のチンチンも固くなっていく。
「あぁっ、トーマ君、わかるッ? 先生の体の、あぁ、快楽曲線が、ものすごい勢いで右上がりしていくッ」
「はい。顔も胸も真っ赤で、すごく乳首が立って、アソコがビショビショです」
「トーマ君の快楽曲線は、どう? 上がってる? 先生に、見せてごらんなさい…ッ」
先生が僕のベルトを外し、下着ごとずり下げる。とっくに立っている僕のが、へそを叩く勢いで飛び出す。
「あぁ…ッ、相変わらず、すごい角度ねっ。10代ってやっぱり素敵……ピタゴラス的なひらめきを感じさせるわ……」
先生の細い指が僕のに絡まり、優しくなだめるように上下する。
僕のを見つめる瞳が、切なく揺れる。
「はぁ……私も、学生時代に男を知っておくべきだった……どうしてあんな中年親父なんかに……」
授業中に私語なんて先生らしくないけど、過去を知っている僕は聞こえなかったふりをする。
リズムを合わせて擦り合い、2人の息が荒くなっていく。
「あぁ……トーマ君。先生のオマンコとッ、トーマ君のオチンチンでは、摩擦係数ミューが大きく異なるわッ。どうしてかわかる?」
「僕のはカウパーが少し垂れてるだけなのに、先生のここはビショビショでヌルヌルだからです」
「正解! では、私たちの摩擦係数ミューを同じにするには、あぁんっ、どうしたらいいのかしらっ」
「先生のここに、僕のを入れて擦ります」
「あぁっ、あぁっ、あなたって、どうしてそんなに出来る子なの! 先生に、あなたの導いた答えを見せて! 早く、ミューって入れて見せてぇ!」
「はいっ」
先生の膝を開いて、腰を割り入れる。天を向いてるチンチンに角度をつけて、先生のビショ濡れに照準を合わせる。
じゅぶ。溶けたバターにナイフを入れるみたいに、それは簡単に中へ入っていった。
「はぁぁぁッ、せ、正解ぃぃぃッ!」
ギュウウウと僕を抱きしめ、アソコを締め付け、先生の柔らかい体が密着する。僕は机をくっつけて広くなったスペースに先生の体を横たえ、彼女の好きな角度で、天井を擦るように腰を動かす。
「あぁっ、それ、それも正解! 正しい! すごく、正しいわぁ! あなたって本当に優秀すぎて、先生……先生、いけない気持ちに…ッ!」
「先生、僕らのしてるこれって、セックスじゃないですか?」
「あぁ、ダメよ。違うわ、授業なのよ! ただの、普通の、数学の授業! 先生の気持ちいいツボを、あなたの真っ直ぐで健気なオチンチン直線で繋いで、性関数グラフを描いてるだけぇ!」
もはや、何の話をしているのかお互いに理解出来てないと思うが、とにかく僕の直線は快楽原点を通過してから急激に傾きを変え、ぐんぐんと2次的な曲線を描き始めた。
子宮口が下りてきてコリコリと触れる。悲鳴のような声を上げて、先生の体がどんどん熱くなる。僕の背中に食い込む爪が、制服を破ってしまいそうなくらいに軋む。
「トーマくぅん! これが、これが最後の問題よ! これに正解したら……私たちの快楽曲線が同時に終点に到達します! がんばって正解してぇ!」
「はい!」
「10-2(x-4)=3x+8。xの値はッ!?」
「わかりません!」
「えっ、じゃあ、2(x+2)=2x+4ではッ!?」
「わかりません!」
「ど、どうしてぇ! どうしてこんなときに、急に出来ない子になっちゃうのぉ! あっ、あっ、ダメ、もう、ダメ!」
イジワルしてやった。
僕も正直限界が近いんだけど、僕以上にギリギリなスズカ先生をセックスで追い詰めていく。
先生の大きなおっぱいが真っ赤になって、バインバインと揺れる。必死にエクスタシーを堪える顔が、たまらなく色っぽい。
大人の女性をイジメるのって、本物の男って感じがする。先生の泣き顔はとても可愛らしかった。
「いじわるッ、いじわるッ……先生、嫌いに、なっちゃうんだからぁ…ッ、お願い、もう、先生、もうッ!」
「それじゃあ、僕の得意な文章問題でお願いします」
「りんご、はぁんッ、10個と、あぁッ、みかんを、えと、12、個、買って、んんんんっ、2040円の……もう無理ッ、こんなの無理なのぉ! 10+9はぁッ!?」
「19?」
「そう、イっクぅぅぅぅッ!」
さすが中年親父の女だっただけあるな、というオチを最後に先生は絶頂した。
ぎゅううと先生の体が強ばり、それからビクーン、ビクビクと何度も痙攣して、僕にしがみついてくる。窮屈なその体勢で、僕は何とか先生の中から抜き取り、お腹のあたりに精液を吐き出す。
先生は僕にキスして、頬にもキスして、そして僕の頭をかき抱いて甘い吐息を吹きかける。
「ん、ちゅ、んん……可愛いわぁ……今日もよく頑張ったわね、トーマ君。えらかったわよ」
「はい」
「勉強でわからないことがあったら、いつでも私に聞きに来なさい。他の先生のところに行っちゃイヤよ?」
「はい、スズカ先生」
「よろしい。ふふっ」
そういって、僕の頭を胸に抱き寄せ、おっぱいを吸わせてくれる。
セックスの余韻が、先生をただの女に戻す。やがてチャイムが鳴って、彼女が堅物教師に戻るまでのわずかな時間を、僕らは抱き合って過ごした。
これが、今の僕のぬるい毎日。
魔法がただのイタズラになり、セックスがただの遊びになり、僕はただのスケベな男の子になっていた。
エリは、がっかりするだろうか。ウソつきって言って、またパンチするだろうか。
僕の魔法は、エリと世界を救うためにある。
そのことを忘れたときなんてないけど、救うべきエリはどこか遠くへ行ってしまったし、世界はどこの誰から守ればいいかもわからないくらい退屈で平和だった。
お母さんの作ってくれたお弁当を食べて、僕は1人で中庭をブラブラする。
午前中はセックスばかりしてたし、昼からは真面目に授業でも受けようか。そんなことを考えながら、僕はケータイを開いて放課後にセックスする相手を探す。当然、学校にケータイは持ち込みは禁止なんだけど、そんなことを守ってる生徒なんて僕を含めてほとんどいない。
「あっれえ。学校にケータイなんて持って来ちゃっていいの?」
後ろから、知らない男に声をかけられた。
3年生だろうか。僕よりも体が一回り大きかった。
「探しちゃったよ。お前が藤倉トウマだろ?」
妙にニヤけた顔だけど、イケメンだと思う。短い髪がスポーツマンっぽく見えた。
僕はケータイを閉じて「誰ですか?」と尋ねる。
「とぼけんな。この学校のやつが俺のこと知らないわけねぇだろ。まあ、いいや。ちょっとこっち来いよ、藤倉」
がっしりした腕が僕の肩に回る。変にいい匂いがして気持ち悪いけど、僕はおとなしく彼に連れていかれる。
僕のことを“トーマ”と呼ばないヤツ。
それは僕の魔法を受けたことがない人だ。暗示のワードを持っていない。だから、突然拘束されても僕は抵抗できなかった。
僕のケータイに何やら文句つけたくせに、自分のケータイを取り出してその人はどこかにかけていた。
「いたぜー。例の場所集合な。他のやつらにもヨロシク」
校舎の少し入り組んだところにある、日の当たらない場所。
マンガでいうなら、いかにも不良が悪いことするために集まりそうな場所。
そこに、いかにも悪いことしそうな上級生が3名、すでに僕を待っていた。
「へー、こんなのがルナのオトコなのかよ。弱そ」
「さっきの話、本当なのか、関口?」
僕をここまで連れてきたニヤけ男がどうやら『関口』らしく、僕を彼らの前に突き飛ばしながら言う。
「知らねーよ。それを今からコイツに聞こうぜ。な、藤倉」
関口の爽やかな顔が目を細め、僕は後ろから2人の上級生に腕を取られる。
僕の魔法にかかってない連中に動きを封じられ、あっという間に魔法使いは無力にされた。
たった2才の違いでも、僕らの体の大きさはこんなに違う。関口とは違う大柄な男が、僕の髪をワシリと掴んで、持ち上げる。
関口は、面倒くさそうに地面にしゃがみ、僕をニヤけた顔で見上げる。
「……お前、ルナと女子便所で何してたんだよ?」
面倒くさい話になりそうだと、僕は思った。
ルナがいつまでもセックスしたがるから、トイレから出ていくのが遅くなった。休憩時間の始まるギリギリだったけど、誰にも見られてないはずだった。
手は動かない。前にも後ろにも囲まれている。僕は魔法が使えない。
「何の話ですか?」
「お、とぼけるんだ。根性あるじゃん。1発よろしく」
「ッ!?」
お腹にズドンとパンチが入った。食べたばかりのお弁当が強烈に逆流を始める。僕は必死にそれを飲み込み、痛みに耐える。
「見たやついるんだぞ。お前のクラスにサッカー部の前田っているだろ?」
前田のアホ面が浮かんだ。
あいつ、サッカー部だったのか。似合わない顔してるくせに。
「授業中に、どうしてもボッキが収まらないからソッコーで便所行ったら、お前らを見たってよ。2人で女子んとこから出てきたってな」
「やーらしー」
「でも、授業には2人とも出てたんだってよ。だからさ……ようするに、何してたんだ、お前ら?」
前田、本当に余計なことしてくれる。どうせ日曜日のことでも考えて興奮してたに違いない。
あいつはルナに興味をなくしてしまってる。だから、僕らが出てきたところを見ても直接問い詰めないで、彼女に告白したっていう先輩に情報を流したんだ。
ついてないときは、悪いことが重なる。
僕らは授業中、教室で寝ていたことになっていた。なのに、僕らが先にトイレから出てきた。
辻褄の合わない現象は、前田の中で混乱したまま『変なの見ちゃった』ということになり、面白おかしく先輩に報告されたんだろう。
「そうだ、そいつケータイ持ってるわ。それ取ってちょーだい」
「おぉ。ほらよ」
大柄な男が僕のケータイを取り上げ、関口が開く。
カチカチといじって、ニヤ~リと唇を上げた。
「やっぱ、ルナのメアドも持ってんじゃん。なんなのお前ら。2、3発ヨロシク」
そして、勝手に自分のケータイに赤外線して、僕のケータイを他の連中にも回す。
ルナの番号やアドレスは彼らの間に回され、そして僕はその間、お腹に数発食らって、とうとうお昼に食べたものをその場に戻してしまった。
「きったねー。それ、撮っといてやるよ」
パシャリ。僕のケータイカメラが光る。
「その顔も」
パシャリ。
フラッシュが顔に当たる。苦しくて倒れたいのに、腕を捕まえられて何もできない。不快な笑い声がうっとうしいのに、勝手に頬が引き攣って僕も笑ったみたいな顔になる。
あぁ、そうなのか。
この屈辱と痛みがイジメか。
上手に避けてきたから忘れてたけど、僕がぬるいと思ってた日常にも、いつでもどこかにこういう落とし穴があって、うっかりすれば簡単にハマってしまう。
それは僕が退屈に感じていた教室の中にもあったし、どこのクラスにも必ず1人はイジメのターゲットになってるやつがいた。
今日も教室のすみっこで、サッカーボール代わりにゴツゴツ蹴られていた竹田君を思い出す。
僕が、モエミのノーパンスカートをめくらせていたときだ。
あえてそんなのに目をくれることもなかったし、気にしなければそれこそ『空気』のように日常に溶け込み、視界からも消えてしまう。
イジメというのは、そういう光景だ。
確かに、存在しているはずなのに。
「メガネ、邪魔くね?」
「あはははッ」
僕のメガネを、僕が吐いたモノの上に落としてパシャリ。
エリは、ずっとこんな世界を生きてきたのか。
僕が必死に彼女と繋いでいた無力な手は、彼女にとって救いにもなってなかった。彼女は最後まで、ひとりぼっちのままだった。
ようやく僕はそのことを知る。僕の魔法が彼女に間に合わなかったことを悔いる。
そして、自分の弱さを実感する。
「で、お前はルナとどういう関係なんだよ? 便所で何してた?」
「言えよ。学校にいられなくするぞ、お前」
学校では、ある日いきなりくだらない理由で人間以下の生き物に変えられ、空気のように、あるいは虫のように床に転がされることがあるんだ。
校則以外にも見えないルールはたくさんあって、それを読めないやつは違反者として制裁される。
でも、僕はそのくだらなさを否定しない。
魔法使いは、あらゆる人間の感情を、醜さを、低俗さを肯定する。
そういう職業だ。
そして僕らの生きているここは、そういう世界なんだ。
だから、魔法使いはここで生まれる。低俗に生きるために。
「―――ルナと、セックスしてました」
上級生たちは、そろって「はぁ?」と間抜けた声を出した。
「僕たちは、授業をサボってセックスしてました。僕が便座に座って、ルナがその上に跨って、腰を振りました。ルナは久しぶりだって言って、すぐイっちゃいました。でもまた自分で腰を振り出して、ずっと振ってました。サルみたいに」
「てめ、何ふざけたこと……」
「あいつ、セックス狂いだから。僕に毎日セックスしてくれって言いました。そのとき関口先輩のことも何か言ってたけど、相手にしてない感じでした。僕とセックスしたくて、そのためなら何でもする女です。手を縛って後ろから犯してくれっていうから、そうしてやりました。ルナも自分からお尻を振って、気持ちいい、気持ちいいって何回も言いました。僕のチンポが気持ちいいって。ルナのマンコが気持ちいいって」
「うるせぇよ、コラ! 頭おかしいんじゃねぇのか、てめぇ!」
「ルナは、精液を膣の中に出してくれって言いました。僕の子供を妊娠するって言いました。冗談じゃないって僕は思ったから、外に出しました。そしたらルナは、壁についた精液も舐めて、僕のチンポも舐めて、まだまだセックスしたいって言いました。仕方ないから、僕はもう一度ルナの手を縛って、便座に座って、ルナに跨るように命令しました。ルナも嬉しそうに股を開いて―――」
「うるせぇっつってんだろ!」
お腹にサッカー部の足がめり込む。あまりの痛みに僕は呻く。舌もちょっと噛んでしまった。
「童貞野郎が、妄想語ってんじゃねーよ」
「したことねぇのバレバレだな。なんだよ、チンポ気持ちいいって。そんなこという女いねーっつの」
「しかもルナみたいな女が言うわけねぇだろ。ウケる。お前、いっつもそんな想像してんのか?」
「ま、ちょっとは俺も興奮したけど」
「ぎゃはははッ」
僕はエリの魔法使い。
たとえ離ればなれになっても僕らは魔法で繋がっている。
そうだよね、エリ。
君もこの世界で『空気』だった。空気は見えても存在しない。存在しても目に見えない。
だから今でも、僕のそばにエリはいる。僕のそばに彼女はいる。
「……余計なことするな」
「あ? なんつった?」
近づいてくる彼女を牽制して、僕は告白を続ける。
「そういえば、ルナはフェラチオしながら言ってました。こないだ彼女におしっこ飲ませたら、あいつそれが気に入ったみたいで、今日も飲みたいって。でも、僕は気持ち悪いから断りました。そしたらあいつ、今度はウンチ食べるとか言い始めて……」
「気持ち悪いのはてめぇだよ!」
蹴られる。ボールみたいに蹴り上げられる。
「それから、げふっ、ルナは、僕の上で腰振りながら、おっぱいも揉んでって言って、ぐっ、僕に擦りつけて、おっ、ぱい、イジメてくださいって……」
「きめぇ。マジきめぇよ、これ」
「あっははは! こいつ、面白れー!」
お腹に、もう一発。他の連中にも、何発も何発も。
「じゃあ、そのルナとやったっていうチンポ見せてみろよ」
「見れば一発でわかるからな、童貞かどうか」
誰かが僕のベルトを外して、パンツも一緒に下げる。
男に脱がされるのなんて初めてで気持ち悪いけど、僕の腕はまだ奴らに捕まっている。
「……いい色してんじゃん、ガキのくせに」
「よし、それじゃあ写真でも撮っとくか」
パシャリ。僕のケータイで、僕の股間が撮影される。
顔も一緒に写せと言って、僕の情けない全身像も撮影される。
「それじゃ、これルナに送信。タイトルは『アイラブユー』な」
「うっはははッ、鬼!」
送信中のケータイがポケットの中に戻される。そして関口は、僕の髪の毛を引っ張り上げる。
「藤倉君。そろそろ本当のこと言ってよ。ルナとはどういう関係なわけ?」
「あんまり俺ら怒らせない方がいいぞ」
「キレたらマジで何すっかわかんねぇからな」
いかにも低脳な中学生好みの脅し文句。僕は思わず笑ってしまう。
「何笑ってんだ、コラ!」
お腹に一発。今日は晩ごはんも食べられそうもない。
「まあいいわ。おい、藤倉。放課後、ルナをここに連れてこい」
「よくわかんねーけど、メールするくらいには仲良いんだろ。連れてきたら、お前はそれで許してやるよ」
「さっきのメールで嫌われたんじゃね?」
「それでも連れてこいよ。来なかったら、明日からわかってんだろうな?」
どうして僕が許されるのか、僕にはわからない。
君たちの抱きたいルナは僕のセックスフレンドで、僕のアダルト女優だ。
彼女を抱きたいなら僕を殺すしかないのに。
世界を変えたいならそのルールをぶっ壊すしなかいのに。
どうしてそれがわからないんだ。
「何おかしいんだよ、おい」
「なんかこいつ、やばくねぇ? 頭おかしいって」
「大丈夫だって。キレただけだろ。おい、離すぞ」
両腕を離されて、地面に転がる。立ち上がる力もなくて、下半身を丸出しにしたまま、僕は転がる。
関口に蹴飛ばされて見上げる空。あのマンションの屋上を思い出す。
エリ。
君はいつも、傷ついてたよね。
僕はいつもその隣で、自分も傷ついたふりしてたんだ。
それで君を理解したつもりでいたんだから、バカだよね。君の痛みを知りもしないで。
笑ってしまう。
「おい、聞いてんのか。放課後だぞ。忘れんなよ」
「返事しろよ、てめぇ!」
蹴られる。転がる。笑われる。
見える場所には決して傷を作らない彼らの暴力は、陰湿で手慣れていた。あちこちを蹴られて、僕はうずくまる。
そして、ふわりと柔らかいものに抱きしめられる。
僕の口の中に、ぬるりと舌が入ってきて、僕の舌は吸い出された。そのまま温かい口の中で舌を噛まれて、動けなくなった。
「……あ?」
関口が、間抜けな声を出す。
他の連中も、急に暴力を止めて、きょとんと辺りを見回した。
「あぁ……なんだっけ? 放課後、ここにルナを連れてこいっつったんだっけ?」
「あ、そうだな。それじゃ、また来て藤倉のやつを待つか」
「あいつ、ちゃんと連れてくるんだろうな」
「知らね。ま、来なかったら金でも取ればいいんじゃね。あいつの親、金持ちって情報もあるぞ」
「お、いいね」
僕がここにいることを忘れ、彼らは僕を置き去りにして去っていった。
残されたのは、ボロボロの僕と、僕の上に覆い被さってディープなキスをする女の子。
震える体で、ぎゅうって僕のことを抱きしめている。
僕は彼女の肩を叩く。固く強ばっていた体から力が抜け、キョロキョロと目を動かして、彼女は顔を上げる。
ぷっくりした唇は、僕の舌からついた血で濡れている。真っ赤になった大きな瞳も、不安げに揺れていた。
「……大丈夫、ですか?」
鏑木チカ。
僕の体にしがみつく、『空気』の女の子。
制服を握りしめる手は、まだ震えていた。
かつて僕は放課後の教室で彼女を犯し、魔法で『空気』にした。
そして彼女は、それからずっと空気をやっている。
今も同じクラスに彼女の席はあるけど、誰も彼女のことを気にしたことはない。視界に入った途端に彼女のことはみんな忘れ、彼女と会話をしても次の瞬間にはそのことを忘れる。
誰にも相手にされないから、いつも溌剌としていた彼女もやがておとなしくなり、唯一、彼女を普通に認識できる僕のそばにくっついて暮らすようになった。
無口で、無表情で、いることさえ忘れてしまいそうな、文字どおりの透明な女の子。
それが今の鏑木チカだ。
彼女の方から僕に話しかけてくるのも珍しい。しかも、こんな風に自分から抱きついてくることも。
怯える目は、彼らの暴力に対してなのか、僕の言いつけを破ったせいなのか。
「余計なことするなって言っただろ」
「ごめんなさい」
僕が睨みつけると、チカは肩をすくめて謝る。
チカは、全身から魔法を発している。無意識に他人の認識を操る『空気』を出している彼女は、他人の目からはすぐに消え去る。
その中に、たとえば口の中などに他人の体の一部を突っ込めば、彼女の魔法でその者も『空気』になる。
だから別に、ディープキスじゃなくても指でも咥えてくれれば僕も消えたんだけど。
あまり表情がないので、チカの考えていることはよくわからない。
僕は立ち上がろうとして、お腹の痛みに顔をしかめた。
「ハンカチ、濡らしてきます」
チカはチェックのハンカチを取り出すと、水場の方へ駆けていった。
さっき、ルナの手首を縛るのに貸してくれたハンカチだ。
あの時も個室の中にチカはいたし、今朝、モエミのスカートをめくってたのも彼女だし、前田が声をかけてくるまで、みんなのいる教室で、僕の机の上でペンでアソコをイジられてもいた。
でも、他の連中にとってチカはいないことになっている。
ルナもモエミもチカがいたことすら覚えていないし、スズカ先生だって、僕らがセックスしやすいように机を並べてくれてたチカに気づいてなかった。
それに、僕ら3人がトイレから出ているところを見ていたはずの前田も、僕とルナの2人しか見ていなかった。
チカは魔法の結晶だ。
僕の最初の作品にして、最高傑作と言ってもいい。
濡らしたハンカチを僕のお腹にあてて、アザになり始めている患部を冷やす彼女は、子供の頃のエリと同じ、ショートカットに切りそろえている。
「……髪、伸びてきたね。あとで切ってあげる」
「はい」
僕に髪を触らせながら、チカは無表情に頷く。
彼女はこうして僕に飼われるみたいにして過ごしてるけど、実際に彼女がどんな生活をしているのか、僕もよく知らないところが多い。
毎日ほとんど僕の部屋で泊まってるけど、いないこともあるし、服とか食べ物とか、『空気』であることを利用して、彼女自身もズルいことをしているみたいだった。
たいてい僕のそばにいるけど、授業にも出たり出なかったりだし、しばらく見ないと思ったら、どこかのお菓子をお土産を持って「バス旅行してました」なんて言うときもある。
彼女は今の生活に「馴染んでいる」と言っていた。「このままでいい」と言ってたこともある。
それでも、こないだの中間テストでも学年で1番だったのに、騒がれるのは2番のチナホだ。
僕の目から見ても、学校で1番可愛いくてオシャレなのは今でもチカなのに、モテるのはルナだ。
彼女はそれを不満には思わなくなったんだろうか。
僕がその気になれば、いつでも『空気』は解除できる。でも、いつからか彼女は僕に助けを求めることもなくなり、僕のそばで、騒がしい教室の中で、音楽を聴いたり本を読んだりしながら、ひとりぼっちで座っていた。
チカは、相変わらず表情のない顔で、僕のお腹を撫で続けている。
「僕は、他人から暴力を受けるのは初めてだ」
「はい」
「エリは、いつもこんなに痛い思いをされられていたんだね」
「……はい」
僕はチカの髪をぎゅうと握る。
チカは表情を変えず、僕のお腹をなで続ける。
「エリはそれでも助けを求めたりしなかった。だから僕も助けろなんて言ってない」
「はい、ごめんなさい」
エリと同じ髪型にさせても、チカの目はぱっちりとしているし、睫毛も長い。
鼻の形も、唇も、つるつるした肌の白さも、エリよりもチカの顔はずっと可愛い。
そこが僕には気に入らなかった。
女の子を支配するというのは、とても面倒な作業だ。
特に『空気』の子なんて、僕がいないとオンとオフの切り替えも出来ないし、ケガや病気に罹ったときとか、何かの行事のときとか、とにかく手間がかかるんだ。
それでも僕が彼女を飼ってやってるのは、エリの代わりをやらせるためだ。
エリの代わりに、僕が魔法でしていることを見せてやるためだ。
なのに、少しずつふっくらとしてきた胸も、すらりと伸びた手足も、『空気』のくせに、彼女は何のためにキレイになっていくんだろう。
「エリは、いつも泣いていた。体中が痛かったから」
「はい」
「君たちは、そんなエリを見て笑ってたよね」
「……はい」
「今の僕も面白い?」
「いいえ」
「じゃあ、なんでエリのこと笑ってたの?」
「ごめんなさい」
「ごめんじゃわからないよ」
「はい」
「しゃぶって」
「はい」
人形のようなチカの顔が僕の股間に下りて、だらりとした僕のチンチンを咥える。
くちゅ、慣れた動きで舌が絡んで、もぐもぐと吸ったり舐めたり、僕のを労るようにしゃぶった。
「んっ…ふぅ、んっ、ちゅぷ…んっ…んっ、んっ…」
やがてお腹の痛みより快感が勝って、下に血液が集まっていく。
エッチをしている回数はたぶんルナよりも多いから、彼女は僕を気持ちよくさせるやり方をよく知っている。
みっともなく伸ばした舌を絡ませ、固くなっていくそれを舐め回す。いやらしい仕草と無表情のギャップが、妙に扇情的に感じる。
フェラチオは、いつも僕にエリのことを思い出させる。
僕は、チカに上に跨るように命じた。
「はい」
チカは、するりと下着をさげると、それを片膝にかけたまま、僕の上に跨って腰を下ろした。
「……んっ…ん、んっ…」
かすかに眉をしかめ、すでに濡れているソコに僕のを差し入れていく。
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ」
初体験のときから、僕の魔法で快楽に慣らされた体は、フェラしてるときからビショビショに濡れていたようだ。
男を入れただけでも軽く達するほど敏感なのに、彼女は、はしたなく声を上げたり、ルナのように快楽を口に出すような真似もしない。
空気は、セックスも静かだ。
くちゅくちゅアソコを鳴らして、小さく息を漏らして、チカは必死に快楽を押さえながら腰を振る。
僕はそれを下から眺め、エリはどんなセックスをするのか考える。そして、そんなことを想像している自分に気づいて嫌気を感じる。
セックスはエリとは無関係のはずだった。なのに、同じ髪型にしているせいか、チカとしていると、時々エリの姿を彼女にダブらせてしまうことがある。
僕はエリに恋をしているわけじゃない。
だから、エリとセックスをしたいとも思わない。
彼女と僕は昔から主従のような関係で、それはおそらくずっと変わらないだろう。と、僕は期待している。
これが思春期の惑いなのかと、僕は恥ずかしさを誤魔化すためにチカを下から突き上げる。彼女は呼吸を乱し、固く目をつぶってされるがまま揺れる。
チャイムの音が聞こえる。昼休みの終わりなのか、5時限目の終わりなのかは分からない。
でもその時、僕のケータイが鳴った。珍しい着信に思わず手に取ってみると、ルナからだった。
何事だろうかと、セックスを続けながら僕はケータイを耳に当てる。
『……なにこれ?』
「え?」
『メール。どういう意味?』
あぁ、そう言えばルナに僕のオチンチンメールが送られてたんだっけ。
「ごめん、ふざけただけ。気にしないで」
『はぁ? そんなわけないでしょ。周りに写ってる男、誰?』
ゆさゆさ、チカが僕の上で揺れてる。
「何でもないから、本当に。画像も消しちゃってよ」
『あんた、今どこいるの? こいつらにそう言えって言われてるの?』
彼女の息は荒くて、妙に弾んでいる。走ってるんだろうか。
「ルナの方こそ、どこにいるの? 授業は?」
『知らないわよ。あんたこそどこにいるのよ?』
「ねえ、学校の中でケータイまずくない? 見つかったら没収だよ?」
『うるさいなぁ! いいから、どこ? 誰に何されたのッ?』
「ルナには関係ないよ」
『関係ないなら、なんでこんなの送ってくるのよ! そいつら、私に用があるんでしょ! そうよね!』
ルナは何か勘違いしているみたいだけど、説明するのも面倒くさいし、彼女をあいつらの前に連れていくつもりもなかった。
そんな義理もないし、彼らがルナに何をするつもりなのかも、なんとなく想像できるから。
「ルナが来たら、やられちゃうよ?」
『やらせればいいんでしょ! いいから、どこに行けばいいのよ。言ってよ、トーマ!』
耳元でキンキン怒鳴り立てるから、だんだん煩わしくなっていく。
余計な電話を取らなきゃよかった。
チカは、黙って腰を動かしている。
『ねえ、写真のここ、校舎裏の焼却炉とかあるところじゃない? そこに行けばいいのね?』
見渡すと、確かに古い焼却炉が撤去されないまま残ってた。
ルナもよく知ってるなって思ったら、そういえば入学間もない頃、一緒に人気のない場所探して、ここでエッチしたこともあったっけ。
『すぐ行ってやるって伝えてよ、そいつらに』
「だから、違うって。そんなとこに僕はいないよ」
『うるさい! いいからそこにいろ!』
勝手に電話は切れて、不通を知らせる音に切り替わる。
僕はため息をついて、チカとのセックスを続ける。
やがてルナは来た。真っ直ぐ走ってきたのか、大きく息は乱れていた。
薄暗い地面の上で、犬や猫のように堂々と交わる僕らを見て、ルナはそれでも、僕らを見つけられないでいた。
きょろきょろと、あたりを見回しながら、こっちへ近づいてくる。ケータイを取り出して、再び僕に電話をかける。
僕のポケットでケータイは鳴った。ルナは僕らのセックスしているすぐそこを歩いてる。
でも、彼女は見つけられない。
音は聞こえているはずなのに、同時に視界から入ってくる情報はルナから僕らを消していく。ケータイを鳴らしながらチカを突き上げる僕を。僕に揺らされながら、あえぎ声を堪えるチカを。
チカは口を必死で押さえて、声を出さないようにしている。空気のくせに、チカは人前でセックスするときは、いつもこうやって恥ずかしがるんだ。
それが楽しくて、僕は教室で彼女をアソコをイジったり、恥ずかしい格好をさせたりしてる。
「どこにいるのよ……トーマ……」
ルナは僕のことを探しながら、僕の足を跨ぐ。
僕はチカの制服に手を入れて胸を強く揉み、腰をもっと振るように命じる。
「どこのバカなのよ、ホントに……殺してやる…ッ!」
爪を噛むルナの下で、腰をグラインドさせる。チカは「うぅッ!」と呻いて、制服の袖を噛んだ。
激しくなっていくセックス。ルナはイライラしたように長い髪を掻きむしる。さっき抱いたばかりのお尻が、スカートの下でキュッと締まっているのがここから良く見える。また、この2人を並べてセックスしたいな。
「あー、もう! 何で出ないのよ!」
やがてルナは電話を諦め、またどこかへ走って行った。
僕は呆れてため息をついた。
「ルナには関係ないって言ってるのに」
周りが騒ぐほど、僕は冷めていく。たかが女の子1人を巡って、どうしてみんなムキになれるんだろう。
セックスって、確かに気持ちいいけど、そこまで大事な行為なのかな?
恋を知ることなくセックスを知った僕には、わからないことなのかもしれない。
「……ルナは」
チカが、僕の上で腰を振りながら、言いにくそうに口を開く。
「ルナは、トーマ君のことが、本当に心配なんだと思います」
僕と目を合わせないように、柔らかい唇をキュッと噛みしめ、腰は真面目に揺すり続ける。
僕はそんな彼女を下から強く突く。「うぅッ」とまた体を震わせて呻いた。
「だから何?」
チカは首まで赤くなっていた。彼女は赤くなりやすい体質だ。昔からそうだ。
セックスに反応しやすい体だった。セックスとき、彼女はいつも泣きそうな顔をする。
「……何でもありません」
そう言って、彼女の表情が消える。
口を閉ざして、腰を大きく回しだす。
「このまま放課後まであいつらを待とうか。面倒なことは早いうちに終わらせておいた方がいい」
「はい」
「それまで、ずっと腰を振ってて」
「はい」
考えてみれば、僕はぬるま湯のような毎日に嘆いているフリだけして、自分に怠けることを許していた。
今日、奴らにリンチを受けたのは良い経験だった。久しぶりに、エリがいたときの気持ちを思い出せた気がする。
「……エリ」
僕はチカの中に射精した。彼女には生理を始めないように魔法で命じていた。
本当に魔法のせいなのか、僕自身もよくわからないけど、チカは初潮を迎えないまま、女性の体に成長を始めていた。
いずれは生理も始まるのかもしれないけど、今はまだ来ていないのだから、僕はチカには好きなだけ中出ししている。
「はぁっ、う、うぅん…ッ」
チカはブルブルと体を震わせ、静かに達した。そして、その余韻を冷ましてから、またゆっくりと腰を振り始めた。
「はぅ、はぁ、はぁ、はぁん……」
見上げる空は気持ちの良い秋晴れで、まるでチカのお尻のように緩やかに雲が泳いでいる。
ぬちゃぬちゃと精液をかき混ぜる性器の音を聞きながら、僕はエリのことを思いながら射精してしまった自分のことを、こっそりと恥じた。
「おお、ちゃんと来てるじゃん」
「まさか1人だけとか言わないよな?」
放課後に、律儀にも人を増やしてやってきた3年生たちは、僕を見て下卑た顔で笑った。
全部で6人。偶数で来てくれたことに安堵する。仲間はずれは作りたくなかったから。
「ルナはどうしたんだよ、おい? ちゃんと呼んだのか?」
「あのメールじゃサービス足りなかったか?」
僕は黙って、隣に立つチカの頭に手をやった。
彼女は『空気』で、彼らには見えているけど、見えていない。
それを魔法で“解除”する。
「チカ。今この空間で、君は『空気』じゃなくなる。“君は鏑木チカだ”」
「はい」
スウ、とチカが空気を吸い込むと、ほんの少し、瞳に色が戻った。
白い頬にも、赤みがさす。彼女の纏っていた空気の壁が、風に吹かれて飛んでいくようだった。
3年生たちは、いきなり彼女がそこにいたことを認識し、そして、嬉しい動揺に頬を緩めた。
「あ……れ?」
「誰だよ、その子?」
「あれ、なんか……見たことあるような……」
「つーか、可愛くね……?」
「可愛いっつか、なんか、かなり良くね?」
「だ、誰だっけ? おい、誰だよ、その子」
僕は彼らの反応に気持ち悪さを感じつつも、チカを彼らの前に差し出す。
「ルナは今日、用事があって来れないみたいなんですよ。でも、その代わりに彼女が先輩たちの相手をしてくれるそうです。そうだよな、チカ?」
「はい」
「あ、相手って、なに? この子が?」
「チカちゃんっていうの? 俺らのこと知ってんの?」
「ま、まあ、この学校で俺らのこと知らないやつなんていないじゃん、な?」
「1年? へー、君みたい子もいたんだ-」
「マジで今年の1年はやばいわ。俺ら生まれる年を間違えたな」
「ホントだな。チカちゃん、じゃあどっか遊びに行く?」
「待ってください」
僕はニヤける先輩たちを制して、チカの前にでる。面倒くさそうに顔をしかめる彼らに向かって、両手を広げる。
「彼女は、先輩たちとセックスしたいだけなんですよ。先輩たちも、別にチカと遊びに行きたいわけじゃないでしょ?」
「え、セッ……クスって、え、なに、なに言ってんだよ?」
「マジで? そういうのありな子なの?」
「ええ。そうだよな、チカ?」
「はい」
チカは、何一つ反論せずに、淡々と頷く。さすがに先輩たちもあっけに取られたのか、口を閉ざした。
でも、チカの全身を舐め回すような目や、無言で視線を交わす様子を見る限り、彼はもうルナのことを忘れて目の前の美少女に夢中になっているようだ。
「チカ、後ろを向いて」
「はい」
「パンツ脱いで」
「はい」
「ちょ、ちょっと待てよ、こんなとこで……え、マジ?」
「脱いでるよ、おい。この子、本当に脱いでるって!」
「やべぇ、マジやべぇ!」
「声でけぇよ、バカ! ほ、本当に脱ぐわけないじゃん、ただの騙しだって……」
チカは、するすると小さな下着を下げて、足首のところまで落とす。
ピンク色の布きれ、先輩たちは喉を鳴らした。
きちんと伸びた背中。僕が不器用に切った襟足。息を飲んで、男たちがその後ろ姿に注目する。
「確かめなくていいんですか? ほら」
僕がチカのスカートを持ち上げると、先輩たちは「あっ」と小さな声を上げ、身じろぎをした。
チカのお尻は真っ白で、すべすべしている。小ぶりだけど、きれいに丸くて良い形をしている。
「もっと近くで見ればいいのに」
僕がそういうと、先輩たちは顔を見合わせ、じりじりと互いに牽制しあうように近づいてくる。みんなの前で格好付けたい見栄と、隠しきれない興奮の鼻息が入り交じってて、なんだか笑える。
「どうです? なかなかのお尻でしょ?」
ひらひらとスカートを揺らすと、先輩たちはまぶしそうに瞬きをした。チカは、人形のように真っ直ぐに立っているだけだ。
「チカ、少し屈んで」
「はい」
チカが体を屈めると、お尻の下から彼女の大事なところが覗ける。先輩たちは一斉にしゃがみ、彼女のそこに注目した。
「マジかよ……」
「すげぇ……エロい」
子供のように目を輝かせ、興奮で顔を真っ赤にして、あとはひたすら無言でチカのそこを観察する。
じつは言うほど彼らも女慣れしてないんだろうなってことは、僕もなんとなく気づいていた。
「先輩たち、よく見てください。きれいな形してるでしょ、彼女」
「あ、あぁ……」
「一応聞くけど、処女じゃないんだよな…?」
「さあ? 僕は知らないから、あとで確かめてください」
「マ、マジかよ……」
「チカ、もっと屈んで」
「はい」
「お、おぉい、丸見えじゃん!」
「バ、バッカじゃねぇの、興奮しすぎだって、お前!」
「すげぇ…めっちゃ可愛い…毛も生えてねぇじゃん…」
前に屈んで、スカートを持ち上げられたまま、チカはつまらなそうな無表情を続ける。
僕は、先輩たちの視線の集中するお尻を両手で開く。
「ちょっ!?」
いきなり開かれたチカのお尻の穴に、先輩たちは変な声を出して固まった。
「見てください、これがチカのお尻の穴です」
僕は取り出した赤マジックで、お尻の穴の周りを丸く囲む。
「よく見て。この色も、細かいしわも、すぼまった形も、よぉく見てください」
丸で囲って、さらに放射状の線を付けたし、太陽のようなマークを描く。
男たちの視線が、その中心の小さな穴に集中していく。
「チカのお尻の穴を、ようく見て、目に焼き付けて。この形、この模様、この色、匂い。心に焼き付けて」
「……はい」
先輩たちのまぶたがトロンと落ちて、寝言のような声を出す。
僕はマジックの先でチカのお尻の穴をつつく。チカは、ピクンと反応したけど、じっとその体勢を続けていた。
「ここが彼女の中心だ。見て。じっと見てください。あなたたちはここに吸い込まれていく。ホラ、入り口が広がっていく。あなたは彼女のお尻に吸い込まれ、夢のような心地よさを味わう」
僕はチカのお尻にもっと大きな丸を描き、幾何学的な直線で模様を重ねていく。先輩たちはうっとりとチカの肛門に表情を蕩けさせる。チカのお尻の中で夢を見る。
「あなたたちは、お尻の子だ。お尻の穴はとても素敵だ。お尻の穴を愛している。お尻の穴ほど気持ちいい場所はない。そうですね?」
「はい……」
彼らが夢の世界を彷徨うのを見届けて、僕は落書きだらけのチカのお尻をピシャリと叩き、魔法の言葉を口にした。
「チカ、“君は空気”だ」
「はい」
すう、とチカの体から『存在感』が失せる。
夢を見ている先輩たちが、視線の行き場を失い、戸惑う。
「お尻がなくなってしまった。でも、安心してください。あなたたちのお尻はなくなってません。隣を見てください」
6人が、それぞれを顔と体を見回す。そして、何かを見つけたみたいに、表情を輝かせていく。
「あなたたち6人は、お尻愛好会だ。互いのお尻を貸し合って、気持ちよさを分かち合うといい。6人だけの愛の世界だ。もう女の子なんて必要ない。あなたたちはあなたたちの固い友情とおちんちんで繋がればいい。やり方は、わかっているよね?」
いそいそとスラックスを脱ぎだす彼らを放って、僕はチカにパンツを履くように指示する。
落書きだらけになったお尻を下着にしまうチカは、少し不機嫌なようにも見えたけど、僕が気にすることじゃない。
それよりも、こんな気持ち悪い場所はさっさと退散するに限る。
「チカ、行くよ」
「はい」
適当に、だらだら生きてちゃダメなんだ。
中学には中学の世界があり、エリにとってはやはり世界は敵でしかないことがわかった。
だから僕は、エリのために世界を作り替えなきゃいけない。
魔法使いのトーマだから。
次の日、全校集会をしている最中に、僕はピアノの前に座る。
朝イチで聞かされる校長先生の長話にぐんにゃりしていた体育館が、僕の叩く鍵盤の音に目を覚ます。
でも、この音は違う。僕のイメージしていたものと違う。
『おい、君。そんなとこで何をしているんだ?』
校長先生はハゲ散らかした頭を後ろに向ける。ジャージを着た体育教師が格好つけてステージに上がってくる。
僕はピアノの前であれこれ模索し、魔法のメロディを探す。
単純な音でいい。シンプルで、説得力があって、全ての人間の、あらゆる感情に寄り添うメロディだ。
ざわつく体育館。チカが、近づいてくる体育教師に足をひっかけて転ばす。
僕は鍵盤を順に叩いて、最初の音から探してみる。
どうもしっくり来ない。指もぎこちない。ピアノなんて習ったことないし、音楽も詳しくないからそれは仕方がない。
必要なのは魔法の経験と勘だけで、音楽の知識なんていらないはずだ。
右手の指を高い位置で踊らせて、左手は重く鍵盤を叩く。両手を近づけて近い音同士を重ねる。どれもしっくりこないから、試しに校長先生に向けて音を鳴らしてみる。
ややくたびれたメロディが、彼の心を釣り上げて、操り人形に変えた。
ゆっくりと体を揺らす校長に、体育教師はつまづいた膝を撫でながら、不審な顔をした。
次に僕は彼に向けたメロディを探す。低くメリハリのある音が、彼の心を捉えた。体育教師はピアノに合わせて首を揺らし始めた。
なるほど、欲張っちゃダメなんだ。一度に全員、簡単に魔法をかけようなんて思い上がりだ。
1人ずつ僕はメロディを探して心を捕まえていく。前の方に立っている背の低い男子生徒には勇ましいメロディを、僕を止めようとステージに向かっていたスズカ先生には妖艶で甘い音を。みんなはその場で目をうつろにし、うろうろと体を揺らし始める。
コツさえ分かれば、一度に複数人も捕まえられるようになった。そして捕まえていった音を一つずつ、同じメロディにまとめていく。
単純なものでいいと考えた僕の直感は間違っていない。だが、そこに至るまでには複雑な音の重なりが必要なんだ。
僕は魔法的なひらめきでそれらと対決していく。
右手も左手も魔法を発する器官だ。ピアノも僕の魔法機関だ。
音楽を魔法にする方法を僕は習得する。そして、魔法のメロディの完成する。
これが、この中学校を支配する魔法の音。ゆらゆらと、全校生徒と全校教師が揺れる。ダンスと呼ぶには不気味な揺らぎは、まるで魔法の風に吹かれているようだった。
「チカ」
「はい」
「ピアノ弾ける?」
「少しだけ」
「これを覚えて、僕の代わりに弾いて」
チカは僕の指がメロディを一周すると、すぐに頷いた。
「弾けます」
「じゃあ、お願い」
僕の上に指を重ねて、チカはピアノを引き継いだ。一度見ただけで完璧に弾けるんだから、その頭の良さには驚きだ。
ステージはチカに任せ、僕は両手を広げてパンと打ち鳴らす。
揺れる視線が、僕に集中する。その間もピアノは続き、みんなの脳を踊らせている。
「この音に馴染んだ者は、次にこの言葉を耳の奥に入れろ」
人差し指をみんなに向けて、そして、その指で僕自身を指す。
「僕は魔法使いのトーマだ」
メロディをよく覚えろと僕は命令した。
僕は魔法使いのトーマ。
この言葉を聞いたら、必ずこのメロディを思い出して、心を浸せと命令した。
「この曲は、君たちの心の深くに常に流れていて、心地よい気持ちを誘う。その鍵になる言葉が、僕は魔法使いのトーマ。この言葉で、君たちはいつでもメロディの中に戻れる。そこはとても気持ちがいいだろう? 君たちの本当の家だ。あるべき姿だ。今の自分よりももっと素晴らしい、理想の自分だ。君たちには見えているよね?」
誰もがみんな、同じような顔をするから、とても不気味な光景だった。
洗脳が作りあげた仮面の笑顔。支配者の眺めというのは、どうしてこうもつまらないのか。
この光景を心から楽しめる者が、支配者の資格を持つ者ということかもしれない。
僕にはそんな趣味はなかった。アリの巣でも見ている方がよほどマシだと思う。
でも、今日からこの光景を僕のものにする。彼女にいつか、これを差し出すときが来るまでだけど。
「君たちは、僕の言葉で本来の自分に帰るんだ。見えるだろう、素敵に輝く自分が。幸せな自分が。幸せにコントロールされている自分が。僕に体を委ねる自分が。意志を委ねる自分が。君たちがなぜ輝いているかわかったかい? 今、僕に全てを委ねているからだ」
ゆらゆら、たくさんの頭が揺れて、ある者は満面の笑顔を、ある者は感激の涙を流し、僕に何度も頷いている。
僕は彼らをきちんと育ててやろうと思う。いつかエリに捧げる奴隷として、そして僕が立派な魔法使いになるための練習台として。
3年間、遊んであげようと思うんだ。
「今日から学校に階級を作る。学年も教師も生徒も関係ない。僕が選ぶ、選民の儀式だ。きちんと身分の違いを覚えて、序列を守ること。そのことから覚えていこうか」
そして、どういう風に分けようか考える。
1人ずつ選んでいくのは面倒だから、適当にやっていくか。
「まず、男子は全員最下層の奴隷階級だ。男子はみんな後ろに移動して座れ」
ぞろぞろと人波が動いていく。
僕はステージを下りて、女子だけになった群れの前に立つ。
「それじゃ、次に僕とセックスしたことある人」
数十名の女子が手を挙げる。同じ学校から来た子が多い。
「その人たちはこっちに来て」
並んだ顔を見る。中には、どうしてこんな子としちゃったんだっていう子もいる。昔の僕はどん欲だった。
とりあえず、もう一度したいと思えるかどうか、という基準で2つに分ける。そして良い方のチームを仮にAとして、もうありえない子たちはBとする。
Aにはルナやモエミもいる。彼女たちはあとでもっと上位に置いてもいいだろう。
次に僕は、まだセックスしていない人たちを、ぐるりと体育館に並べる。
あとは顔だけが基準だ。
合格した子は前へ。そうでない子たちはさっきのBチームと合流させる。
「君たちは平民だ。奴隷たちの前に座って」
ずらりと並べて座らせて、僕は彼女たちの前に立つ。
「いいかい? 後ろの奴隷たちもよく聞いて。平民は、僕の後ろ側にいる女子たちには逆らえない。階級が違うからだ。明日から、君たちは上履きの前と後ろに黒い線をくっきりと引いてきて。それが平民のサインだ」
そして後ろの男子たちにも言う。
「次に奴隷は、さらに平民以上の女子たちにも勝手に話しかけたり触ったりしてはいけない。身分が違いすぎるからだ。それが今日からこの学校のルール。君たちはそのことを記憶ではなく体と無意識で覚える。いいね? それが君たちの幸福なんだよ」
次に僕は、教師たちを平民以下の生徒たちの前に並べる。
「スズカ先生だけ、こっち側にきて。他の教師はよく聞いて。君たちは今日から平民以下の生徒の監視員だ。僕の命令をよく聞いて、平民以下の生徒をきちんと管理するように。男子は全員奴隷で、教師の許可なく女子に話しかけたり近づいてはいけない。君たち教師は男子の必要に応じて、仲介をしてやれ」
僕の言うとおりに頷く教師たち。
いい先生もイヤな先生もいたけど、今日から平等に、みんな僕の兵隊だ。
「欠席してこの場にいない生徒、教師、事務員は全員リストして。教頭先生がまとめて報告するように」
「はいッ!」
残った女子たちをひとかたまりにする。
顔だけで選んだ平民以上の女子たちだ。
「全員、服を脱いで」
みんな言われたとおりに、服を脱ぎだす。
その間に僕は後ろの奴隷たちには、顔を伏せて見ないように命令した。
「奴隷は、平民以上の女子とは目を合わせることも禁じる。1年B組の竹田、立て」
ひょろりとした、情けない顔の少年が立ち上がる。同じクラスでイジメに遭ってるやつだ。
「奴隷を全員蹴れ。気の済むまで蹴れ。他のやつらは抵抗するな」
竹田君は、最初は戸惑っていたけど、僕が再度「蹴れ」と命令したら、前に座ってる男子を、ゴスゴスと蹴り始めた。
「君も、他の奴らも同じ奴隷だ。平等に奴隷だ。僕が蹴っていいと言ったら蹴っていいんだ。誰も抵抗できない。君のしていることは正しい」
「は……ははっ……」
いつも竹田君を蹴飛ばしていた連中を、関係ない2年生や3年生を、じつに楽しそうに竹田君は蹴って回る。
その頃にはもう、上流階級の人たちは全員裸になっていた。
壮観と言える光景だ。
2年生や3年生はまだそんなに知っている人も多くなかったけど、サエ先輩もカナエ先輩は別格として、なかなかの逸材が眠っていた。
1年生の女子でも、まだ僕がセックスしていない子の中にも、裸にしてみるとかなりの魅力が発見できた。
でも僕は、そこからさらにランクを分けていく。
上流の中の上流を。彼女たちを「貴族」と「王族」に分けて管理していく。
「王族の子は、上履きに赤いラインを。貴族の子は青いラインを。みんな、自分を美しく可愛くするよう努力すること。僕が気に入れば貴族は王族になれる。王族もだらしなくなれば貴族や平民に落ちる。平民の女子も聞け。僕は見た目にしか興味ない。性格なんてどうでもいい。自分を磨けば、いくらでも出世できる」
この学校の序列を決めるのは、力でも勉強でも人気でもない。
セックスだ。
僕にどれだけのセックスを提供できるかで、全てが決まる。
そのことを教えるために、奴隷の数人にマットを運ばせ、まずは「貴族」の女子を仰向けに並べた。
一番端に寝ている子は、少し派手な感じで、体つきも大人っぽかった子だった。
「君の名前とクラスは?」
「千葉ミサキ。3年C組」
「セックスの経験は?」
「あります」
「今、彼氏はいる?」
「はい、同じクラス」
「奴隷の人だね。もう彼とはセックスできないよ。いい?」
「うん、仕方ないよね」
「その代わり、僕のセックス相手にしてあげるよ。王族目指してがんばってね」
「はい…ッ!」
嬉しそうな笑顔を浮かべる彼女に、挿入する。スムーズに僕のを飲み込んで、ミサキさんは可愛い声を上げる。
数度、彼女の中を往復して、次の隣の子に移った。
可愛い顔をした、胸の小さな子だ。恥ずかしそうに震える様子や、緊張して立つピンク色の乳首。
処女だって、聞かなくてもわかった。
「君の名前とクラスは?」
「か、加納コバト。2年D組です」
「好きな人いる?」
「3年の関口先輩のことが、好きでした」
「その人はもう奴隷だね」
「はい、だからもう好きじゃありません」
「今から僕がセックスしてあげるよ。君は僕のオンナになるんだ。今後、どうしたら僕にもっとセックスで喜んでもらえるか、きちんと考えるんだよ」
「は、はい! がんばります…っ」
ギュッと胸の前で作られる拳。僕はコバト先輩の両足を持ち上げ、大きく開いて僕のを差し込む。
苦痛に歪むコバト先輩の顔。セックスは快楽と優しさの前に、残酷な痛みを少女を教える。まるで自分が神様になったみたいで、僕は処女の子を抱くのが好きだ。
でもいったん通り抜けてしまえば、処女ほど面倒なセックスはないけど。
「しばらく我慢して。そのうち、セックスの気持ちよさがわかるから」
「は、はい…っ、ん、いっ」
「力を抜いて。きつすぎるよ」
「ごめんな、さいっ、んっ、んんっ」
「体を楽にすれば、どんどん気持ちよくなるよ。僕は魔法使いのトーマだ。僕の言葉は真実だ」
「あっ…はっ…はっ……」
「よくなってきたろ?」
「…よくなって…あっ…きま、した……」
「中に入っている僕のを意識して。そこから熱くなっていく。熱くなってきたものが、全身に広がって、気持ちよさに変わっていく」
「あっ、あぁっ、あっ、広がって、あぁんっ、何か、広がってくるぅ!」
「気持ちいいよね?」
「気持ちいい! 気持ちいい、トーマくん! セックス、気持ちいい!」
「僕のセックスがたくさん欲しかったら、もっと可愛く、きれいになろうね。これからも時々セックスしてあげるから、がんばるんだよ」
「うんッ、うんッ、わたし、がんばる! がんばって、王族になって、トーマくんにいっぱいエッチしてもらう! あぁっ、あぁ!」
にゅるん、とコバト先輩の中から抜いて、僕は隣の子に移る。コバト先輩は「行かないで」と泣きそうな顔をしたけど、誰とどうセックスするかは、僕が決めることだ。
「君、隣のクラスの池田さんだっけ?」
「池田クミです」
「処女?」
「うん」
「じゃ、四つんばいになってみよっか」
「はーい」
クミはくるりとお尻を向けると、犬みたいな格好になった。
セックスを怖がっている様子もなく、無邪気に期待しているようにも見える。つるりとしたアソコは、かすかに濡れていた。
子供っぽい顔が、きらきらと輝いている。まるで悪ガキみたいなその笑顔が、僕のイタズラ心を刺激した。
僕は、彼女のお尻の穴におちんちんを近づける。
「それじゃ、君はこっちの穴を使ってみようかな」
「えっ、そこ違うよッ」
「君はこっちの穴の方が好きなんだよ。僕は魔法使いのトーマだ。君のことは君よりも詳しく知っている。君は、お尻の穴で感じる体質だけど、使ったことないから知らなかっただけだ」
「そっか……知らなかった……でも私、ちゃんとしたエッチもしたことないのに、大丈夫……?」
「してみればわかるよ。いいよね?」
「う、うん。してみるだけなら……」
ぐい、と彼女の小さな穴を強引に押し広げる。まるで、ぶ厚いゴムに針を刺すような力作業だ。
「いたっ、や、やっぱ無理、だよ、無理…怖いよ…っ」
お尻の肉を両手で開いて、めいっぱい穴を広げて、ぐい、ぐいとねじ込んでいく。
やがて先っぽがザクっと埋まり、クミがビクンと顔を仰け反らせた。
そのまま体重をかけて一気に中に入っていくと、クミは、体育館に響き渡るような悲鳴を上げ、震える横隔膜が僕のおちんちんの先まで振動を伝えてきた。
「あーッ!? なにこれ!? なに、これぇぇーッ!?」
ビリビリとクミの体は震え、ぷしっと音を立ててアソコから溢れる汁がマットを濡らした。
僕がゆっくりのお尻の中を往復すると、クミはそのたびに「あーッ!? あーッ!?」と大きな声を出し、マットに爪を立て、猫みたいに背中をしならせ、何度も波打たせた。
「すごい、すごいッ、なにこれっ、あぁ、すごいっ、あーッ、すごいよぉ!」
「何がすごいの?」
「きも、ち、イイーッ! 気持ちいい! お尻の穴セックス、すごくいいよぉ! あーッ! あーッ!」
「ホラ、お尻の穴って気持ちいいでしょ? 僕の言ったとおりだ」
「言った、とおりだよぉッ、そのとおりだよぉ! 私、お尻の穴がいいッ、絶対、こっちがいいッ。あぁっ、頭、バカになっちゃう! もう、テレビも、アイスも、いらないッ、お尻の穴セックスがあればいい! お尻の穴セックス、好きィ!」
クミの平べったい胸を撫でながら、お尻の中を往復する。
処女の子のお尻はすごくきつくて良かったんだけど、すぐに彼女は気絶しちゃったから、オチンチンをウェットティッシュで拭いて、隣の人のところに移る。
「名前とクラスを」
「平岡ラン。3年B組です」
「処女?」
「はい」
地味な髪に隠れてるけど、きれいな顔をした人だった。
挿入して、快楽を教えて、セックスをしているうちに、どんどん色っぽい顔になっていく。
「あっ、あんっ、いいっ。気持ちいい!」
僕の肩にしがみついて、長い髪を顔に張り付かせ、セックスに溺れていく様はキレイだと思った。
胸も大きめで、肌が柔らかくて抱き心地がすごくいい。
自分の魅力に目覚めれば、すごい美人になれる人だと思う。
「ラン先輩。君は王族になっていいよ」
「はい…ッ!」
周りの貴族の子から、羨望の声が漏れた。ラン先輩は嬉しそうに僕の背中に手を回し、頬にキスをしてくれた。
チャンスは誰にでもある。あとは自分の魅力次第だ。
そうして貴族の子をだいたい抱いてしまってから、僕は王族の子たちが待つステージへ向かう。
「トーマ!」
そしてその中から飛び出した、裸のルナに肩を突き飛ばされる。
「なんで連絡くれなかったのよ! ずっと探してたのに、どうして電話にも出ないのよ!」
「昨日?」
「そうよ! ケガは? トーマ、殴られたんじゃないのッ?」
あぁ、なんだあれのことか。
僕はすっかり忘れてしまっていた。
彼らの暴力を受けたお腹はまだ痛むけど、過ぎ去った古い世界のことなんてどうでもいいんだ。
「別に、なんともないよ」
「なんともないって、そんな―――」
「トーマくん!」
適当にはぐらかす僕の前に、いきなり飛び出してきたジュリが、僕の腕にしがみついてきた。
クォーターのきれいな顔した子だ。小学生の頃からキッズモデルのようなことをしているそうだ。
こちらはクール系のルナとは違い、モデルやってる雑誌の影響なのか、いつも派手な髪やアクセサリーを好んでしている。そしてルナとは仲が良くないらしく、くだらないことで張り合ってばかりいる。
「……ジュリ、邪魔。私、トーマと話があるんだから、あとにしてくれる?」
「ルナの方こそ邪魔じゃん。私だってトーマ君に話があるの」
「あのねえ……昨日のこと知らないやつは引っ込んでてくれる? こっちは大事な話なの」
「昨日ってなに? なんなの? トーマ君、何? ジュリにも教えて。仲間はずれはナシだよ!」
「あー、うざい。ジュリ、マジでうざい」
「ルナの方がうざい! ねえ、トーマ君、ジュリに教えて? ジュリとお話しよ? あとエッチもしよ?」
なんで女子ってこう、うるさいのかなぁ。
2人の意地の張り合いに付き合ってるヒマはないので、僕は両手を叩いて彼女たちの注意を集める。
「僕は魔法使いのトーマだ。ルナ、昨日のメールと電話のことなら忘れて。ジュリも、何でもないから気にしないで」
「…はい…」
「…はい…」
「行こう。そんなことより、僕たちの新しい世界を始めるんだ」
「はい……」
「トーマくん……」
2人を連れて、王族チームを周りに集める。
同じクラスのモエミ。双子のマナホとチナホ。スズカ先生。生徒会副会長のサエ先輩。水泳部のカナエ先輩。いつもセックスしているメンバーに、貴族より上のルックスをした女子を数名。それに、さっき貴族から上がったばかりのラン先輩がそこに加わる。
僕に最上級と選ばれた女子たちが、うっとりとした目で僕を見つめる。
そしてステージから下を見下ろすと、さっき僕に抱かれたばかりの貴族の女の子たちが、王族を羨ましそうに、あるいはセックスの余韻に蕩けた目で、こちらを見上げている。
その後ろには、体育館の床に座らされて、僕らのセックスをただ眺めるだけの平民の女子。
さらに後ろには、大人しくうずくまるだけの奴隷男子と、その中で狂ったように暴れる竹田君。汗を流し、髪を振り乱し、奇声のような笑い声を上げて男子を蹴りまくる竹田君は、やっぱりどこかおかしくて、気持ち悪い男だと思った。
エリはきっと、この光景を見て笑うだろう。
「チカ、笑って」
僕は演奏を続ける空気の女の子を振り返る。
チカのピアノを弾きながら、無表情に首を傾ける。
「エリの代わりに、チカが笑うんだ」
チカは、にっこりと微笑みを浮かべた。
思えばチカの笑顔なんて1年ぶりくらいなんだけど、その花のほころぶような様子は、やっぱり美少女すぎて本物のエリを思い出すには少し違った。
「ピアノを続けて」
「はい」
チカは表情を元に戻して、黙ってピアノを弾き続ける。でも、アレンジを勝手に変えた。よくはわからないけど、少し陽気で、もの悲しくて、キレイなメロディ。
僕はそのまま勝手にやらせておくことにする。
魔法はもう完成している。新しく生まれ変わった小さな中学校の世界には、チカの弾くような曲が合っていると思えた。
エリ、見てる?
僕は君の世界を作るよ。
そのための魔法だよ。
どんなに君の世界が醜く憎しみに満ちていても、僕はそれを颯爽と魔法で助けに現れる。君のための愛と平和で、世界を満たしてみせるからね。
美しい王族の子たちが身を寄せ合い、僕を取り囲む。
僕は新しい扉を開くように両手を広げ、彼女たちを受け入れる。
「……みんなに聞くよ。僕は誰?」
笑顔を輝かせる美少女たちが、声を揃えて答える。
「「魔法使いのトーマ!」」
「君たちのヒーローの名は?」
「「魔法使いのトーマ!」」
「君たちの主の名前は?」
「「魔法使いのトーマです!」」
こうして、世界に平和が訪れた。
まだ、とある中学校という小さな世界での話だけど、ここには平和と愛があふれ、美しい秩序が整っていた。
共に一つの価値観を抱けるなら、そこに身分階級があろうとなかろうとたいした問題ではない。エリが奴隷と命じるなら全員を奴隷にするし、平等であれと願うのなら、僕はそのとおりにするだろう。
肝心なのは、エリが全てを決定するこということ。そして誰もが喜んでそれに従うということだ。
エリがいない間は、僕がこの世界の番犬だ。エリの魔法使いは、忠実なる主のしもべだ。
王族に選ばれた子たちは、僕に裸の体をすり寄せる。
僕に抱かれた貴族の子たちは、次の契りを求めて体を火照らせる。
平民の女の子たちは、いずれこちら側へ渡ることを夢見て祈るように手を組み合わせ、奴隷の男子たちはその向こうでイジメられっ子の復讐に小さく体を丸め、空気の女の子が1人ピアノを奏でる。
そんな世界の中心にいる、僕は誰?
「「魔法使いのトーマです!」」
エリ。
僕はここにいる。
< つづく >