序章 出会い
彼の名前は佐々木ケンゴ。様々な年代の人間が通う事で有名なある大学の2年生である。彼は話術に優れた頭の回るキレモノだった。そのおかげか彼には男女年齢問わず友人が多かった。
だが天は二物を与えない。
彼は中身が優れている陰で外見のほうが残念であった。ケンゴ自身の努力のおかげで、生理的嫌悪を与えるまででは無かったが、好意的に見られるものでも無かった。
そんな彼はもちろん女性経験など無い。
優れた話術を持つ彼だ、付き合ったことはある。だが、付き合った全ての女性は、行為に及ぶとなると途端に逃げ腰になり結局キスすら出来ぬまま別れてしまう。
当然のことに彼はそんな外見にコンプレックスを持っていたが、かといって整形などは周りの反応が怖く、かつお金も無いので出来なかった。
だがケンゴは現状を打破しようと努力した。なんと悪魔召還に手を出したのだ。
いわゆる「お前の魂と引き換えに願いを3つかなえてやろう」というヤツである。
ケンゴは万全の準備を整えた。
・魂の受け渡しは自分の寿命が尽きてからにする為の交渉文
・もし交渉がうまくいかなかった場合にすぐ召還陣を無力化する手段
・悪魔に頼む願い事3つ
以上を入念に準備してから召還陣を起動させた。
そして何故か天使が召還された。
「…………………」
この絶句は当然ケンゴのモノである。
当たり前だ。
こっちは悪魔を呼ぼうと思ったのに出てきたのは明らかに天使だった。白いローブのような服、鶴の様に真っ白いふわふわの翼、そして光る輪っかをつけている。
「……………うん、コレは天使だな。」
つい呟いてしまうのも無理はないだろう。
絶句するケンゴの前で天使が口を開いた。
「ようっ(‘-^*)/」
再び絶句するケンゴ。まさかの馴れ馴れしさだった。
「なんだなんだ、挨拶してんだから返せよ人間」
「…………ハッ!」
そう言われてから暫くたってケンゴは挨拶を返した。
「あ、ハイ、あの、………こんにちわ?」
「なんで疑問系だよ」
即座にツッコミが帰ってきた。
「こんにちわでいいだろうよ今は昼間なんだからな人間」
「あ、そうっすよね、じゃぁ改めて、こんにちわ、天使さん」
「うん、こんにちわ」
……なんだコレは?
ケンゴの頭の中で疑問が渦巻くが、それを表に出さずに冷静に質問をする。
「あの、なんで天使さんがココに?」
「ふむ、予測通り、大したモンだ」
……質問と関係無い答えが返ってきた。めげずに再び質問をする。
「えっと……なんでです?」
それに対する天使の答え。
「簡単だよ人間、お前が呼び出そうとした悪魔をぶっ殺して俺が来たのさ人間」
………………つまりなんだろう。悪魔と天使は敵対関係で、俺の魂を巡って戦ったということなのか?
そんなことを言ってみたら
「正解だよ人間、中々頭の回転が速いな人間」
………語尾に人間ってつけるのは口癖なんだろうか。
まぁそんなことは置いといて。
ケンゴはケンゴにとって一番大事な質問をする。
「とりあえずアナタは願いを叶えてくれるんですか?」
そういうと天使は当然という顔をしながら
「モチのロンだよ人間。…………ウン、色々ときっちり説明してやろう」
いやもっとはやく説明してくれよここまでの30行近く無駄だったじゃねぇかよ無意味な時間すごしたわ。
という思考を表には決して出さずにケンゴは説明を促した。
「簡単に言うとだな、この世には天国と地獄があるわけだよ。んで俺たち天使は当然天国側、悪魔は地獄側の使者だな。そいで普通は死んだ人間を善人悪人に振り分けて魂を運ぶわけなんだが、当然そんな<普通>ってのの裏をかこうってヤツがいるもんだよ世の中。それがお前の手を出したヤツだ。」
それが悪魔召還術か。
いつのまにか正座していたケンゴは先を促す。
「そいでその対策としてこうして俺が出張ってる訳よ。悪魔なんかに遅れをとるわけにはイカンからな。まぁ問題は召還陣が起動してからしか術に関与できないことなんだが。だからお前の願いは俺が叶えてやらなくちゃナラン。それがこの悪魔召喚術のルールだからな。天使たるものルールを破るわけにはいかねぇわけよ。ま、そのかわりお前の魂は俺がもらうがな」
ふむふむ。これまでの話、なんか結構な事を聞いている気がする。普通に生きてたら絶対に知れなかったな。
そんなことを考えながら先を聞く。
「という訳だ、さっさと願いを言え、叶えてやるぞ」
……アレ、もう終わっちゃったぞ。
ちょっと残念に思いながらとりあえず最初の予定通り交渉を始める。
「その、魂の受け渡しはボクの寿命が尽きてからではダメでしょうか?」
いつの間にか一人称が変わっているケンゴの発言を受けて天使は
「うん、いいよ。」
軽く即答した。
すごい肩透かしをくらったケンゴを放置し天使は話を進める。
「今のは、願いに含めないでやるからさ、ホラ、さっさと言えよ叶えて欲しい事をさ人間」
あ、口癖戻ってきた。
そう思いながら願いを口に…………しなかった。そのかわりもう一度質問。
「悪魔と天使って叶えられる願いに差はあるんですか?」
この質問に対して天使は言う。
「当然だ人間、俺のほうが優秀だぜ人間、叶えられる範囲もモチロン広いさ人間よ。だけれども叶える回数を増やすとかはダメだぜ、メンドクサイからな人間」
ならば、とケンゴは考える。
考えていた願いじゃもったいなくないか?と。
最初ケンゴが考えていた願いはこうだ
・俺を整った顔立ちにしてくれ
・体えをたくましくしてくれ
・その事実を回りの人間に前からああだったと認識させてくれ
だった。
悪魔召還術の本にはこれくらいが願い事の限界だと書いてあったのだ。
すなわち、物理的な願いごととそれを周りの人間に誤認させること。
だがである。
これ以上を天使が出来るんだとしたら。
ルックスをよくしようとしたのは所詮は男としての本能があったからだ。
だが、だがだ。
もっと色々できるならば。
ほかの人間には決して出来ないことが出来るようになれば。
具体的には催眠術。
だがあの程度じゃ満足しない。
あれは術をかけるのが大変でいうほど優秀なものじゃないと聞く。
やるからにはもっと万能のチカラが欲しい。
思考の海に沈んでいたケンゴを引き戻したのは天使の声。
「いい加減に決まったかね人間よ。」
その質問に対してケンゴはこう答えた。
「他人の中身を書き換えられるチカラをください。」
< 続く >