中庭のある図書館 1

 君沢健人が今日、自分が20歳の誕生日を迎えたのだと気づいた時、彼は一人で小ぢんまりとした図書館にいた。あまり冴えた誕生日の迎え方ではない。地元にいる高校時代の友だちにそのことを伝えていたら、要らない同情を買ってしまっていたかもしれない。けれど彼自身にとっては、それは決して嫌なことではなかった。もちろん、今時の若者として、これがあまり自慢にもならないことはよくわかっている。だから他人に吹聴するつもりはない。けれど、穏やかな陽だまりのなかで、うつらうつらと昼寝しそうになりながら、本を読んでいる時間というものを、健人はそれなりに大切にしていた。

 

『………ってまるで、定年退職後のジイサンみたいな好みだな。』

 

 頭の中によく浮かぶ、もう一人の自分の声、と言える冷めた視線に対しても、やんわりと反論する。小さくて老朽化も進んでいて、利用者も多いとは言えない市営の図書館にいて、健人には、まったりと読書をすること以外にも楽しみがあったのだ

 

(ジイサンみたいだって? あれをちゃんと見ろよ………。ほら、今、ちょっと笑っただろ?)

 

 健人が分厚い本の角度を微調整して、視線に悟られないように気をつけながらチラチラと観察しているのは、1Fにある図書館の受付コーナーだ。2Fの読書用机(彼がいつもキープする席だ)から見下ろしていたのは、利用者に接客中のである司書さん。「佐伯さん」という名前の女性だった。

 

 佐伯さんは、健人より何歳年上なのだろうか? おそらくは20代中盤くらい。綺麗にまとめた黒い髪、雪のように白い肌、そして襟のピシッと立った清潔そうなシャツが印象的な美人だった。おそらく健人がこれまでの人生で出会った中で、一番の美人だったのではないだろうか?

 

『確かに顔立ちは整ってるよ………。けど、これだけの期間見てて、男の影を全然感じないよな。………なんか、人格的に難があるんじゃないのか? …………ちょっと、性格キツそうにも見える気もするし。』

 

「もう一人の健人」はいつもシニカルで皮肉屋だ。健人本人はそんな頭の声を軽くいなして、接客している佐伯さんを見つめていた。

 

(今、ちょっと笑ったじゃないか………。おばあさんに何か聞かれて、親切そうに応えてるよ。………多分、あの人、また返却日を遅れたんだよ………。)

 

 健人は司書の佐伯さんについて語らせたら、もう一人の自分の声にも、そしてそこらの常連利用者にも、負けない自信があった。何しろ、彼女をこうして観察し始めて、もう3年になるからだ。

 

 

 今は、隣のN市にある大学に通っている健人が、初めてこの図書館を利用するようになったのは、彼が予備校に通う浪人生だった頃のことだ。その時は確か、佐伯弥生さんの左胸にあるネームプレートの上に、「研修中」と書かれた、もう一回り小さなプレートが付いていたように思う。最初に彼女と受付カウンターを挟んで向かい合った時、健人は心臓が止まったかのような気がした。健人とそこまで年が離れているようには見えなかった彼女は、すでに完成されたような顔立ちに造形上の美をたたえていたのだ。あまり愛想の良いタイプの職員さんではなかったが、その口調や物腰からも、彼女の生真面目な性格は伝わってきた。

 

 自宅にもっと近い場所に、より大きな図書館はあった。「宮津市立中央図書館」だ。あるいはN市にある予備校にも、授業の後で残って自習するために開放された部屋もあった。けれど健人はその日から、偶然立ち寄った「宮津市立東図書館」の方に、入り浸るようになったのだった。その習慣は、彼が2度目の受験イヤーで何とか志望大学のグループの1つに滑りこんでからも、続いていた。

 

『そういや、もう3年か………。健人のストーキングも。』

 

(ストーキングじゃないって言ってるだろっ。僕は普通に図書館使ってるだけだよ。)

 

 健人はまだ階下の受付カウンターの様子から目を離さずに、頭の中の声と議論をしていた。高齢の女性客への応対を終えて、佐伯弥生さんが返却された本を一旦置くためのキャビネットに置いていく。一冊ずつ、本の向きを揃えて。その仕草が、健人にとってはとても優雅なものに見えた。

 

 ネームプレートには「佐伯」とだけ示されている彼女の、下の名前が「弥生」だとわかったのは、彼女を最初に見てから1年も後のことだ。彼女はそれくらい、同僚の司書や警備員、掃除のオジサン、常連の利用客たちには「佐伯さん」とだけ呼ばれていた。2年前からこの図書館で勤務するようになったパートタイム職員のオバサンだけが、彼女を「弥生ちゃん」と呼んだ。随分と利用客とも距離感の近いオバサンだったが、健人は彼女に、佐伯さんのファーストネームを教えてくれたことについては、今でも密かに感謝している。

 

 そんな訳で、君沢健人が、佐伯弥生さんの仕事ぶりを密かに目に留めながら、宮津市立東図書館で自習や読書に時間を使うようになって、もう3年になる。その間、佐伯さんは2回ほど髪型を変えた。最初は研修中だったはずの彼女は、職員の移動によって、より大きなポジションを任されるようになって、今ではこの図書館のサービスの中核になっている。彼女は月曜の図書館定休日以外にも木曜に休みを取るが、土日を通してこの図書館で働いている。火曜日と金曜日の午前中は市役所の職員待遇らしいオジサン司書と一緒に仕事をする。そして彼が(おそらく市役所か中央図書館で)勤務している残りの日は、補助としては、木下さんという、例の中年女性が14:00から閉館時間の18:00になるまでやって来る。土曜と日曜の午後は、子供に絵本の読み聞かせをするボランティアの人たちもやってくる。それら以外の時間は、佐伯さんが一人で、この図書館を切り盛りしているのだ。もっとも、中規模の建物の中に2フロア。蔵書6万冊と利用者が日に20名から40名くらいの小さな図書館なので、有能な司書さんが1人いれば、問題なく運営出来ているようだった。

 

『フルネームやら勤務体系やらまでガッチリ押さえておいて、これがストーキングじゃないって? だったら、お前はストーキングというものをどう定義するんだ?』

 

(………純粋に、異性への興味とか横恋慕とかで、相手のプライバシーも考慮せずに踏み込んでいったり、追い回したりするのが、ストーキングなんじゃないか? 僕はあくまでも図書館の利用者として、利用者に許される行為に留まっている。喫茶店にお気に入りの看板店員さんがいたとして、彼女とコミュニケーションを取りたくて通い詰めているお客が、全員ストーカーとはならないというのと、同様だよ。…………第一、僕は彼女を邪な目的で観察してるって訳じゃない。純粋に、…………読書がはかどるんだよ。………わかるだろ?)

 

 健人がもう一人の自分の声に、同意を求めるように訴えると、頭の中でもう一人の自分の声は沈黙する。彼はそれを、自分の中での同意と捉えた。そう。健人は元々、読書は好きではあるが、あくまでも趣味の範疇。文学部で見たような、筋金入りの読書家たちほどには、本の世界に次から次へと没頭出来るタイプではない。それでも、彼がこの3年間、自習時間以外は読書が続いたのは、佐伯さん。彼女のおかげでもあった。

 

 多くの小説の中には、主人公が恋焦がれたり、あるいは主人公の運命を翻弄したり、あるいは主人公と艱難辛苦を乗り越えて添い遂げる、美しいヒロインが登場する。時には清楚で、時には怪しげな魅力を放つ悪女として、主人公を特別な行動に駆り立てる、そんな物語中のヒロイン。彼女たちをリアルに思い浮かべられるかどうかで、その小説の世界の中にダイブして泳いでいく容易さが格段に変わってくる。健人は読んでいる本の中に美女や美少女、淑女や貴族令嬢が出てくるたびに、チラリと受付カウンターで作業や応対をしている佐伯さんを覗き見る。彼女のキリッとした横顔や高い鼻筋、高貴な雰囲気や生真面目な立ち振る舞いを見て、再び物語に目を戻すと、彼の脳裏に浮かぶヒロインキャラクターの造形がよりヴィヴィッドに、リアルに、生き生きと思い浮かべることが出来るようになる。彼女は、健人にとって、読書により没頭するための触媒のような存在でもあったのだった。

 

 集中して本を読む。本との相性によっては、1時間、2時間と読み続ける。トイレのために中座したり、閉館時間が近づいて席を立たなければならないことが惜しいくらい、没頭して読める本に出合えた時は幸せだ。もちろん、そうでない本もある。10ページ読み進めるごとに、「今は全体の35%まで来た。今日は50%まで行けるか」と、進捗を気にしながら読む本もある。さらには途中でプツリと集中力が途切れて、そこから一行も前に進められなくなる本もある。そんな時には健人は、2Fと1Fを繋ぐ大きな階段と吹き抜け天井になっている部分から、仕事をしている佐伯弥生さんの様子を伺う。

 

 彼女は大体において、真剣な表情を崩さずにいる。人によってはその完成度の高い美貌も相まって、「冷たそうな人」という印象を持つかもしれない。いつも糊の効いている、パリッと襟の立った白いシャツの様子からも、潔癖、あるいは神経質的な要素をかぎ取る人もいるかもしれない。けれど、よく見ていると、そうした部分だけでないことは、自然と健人に伝わってくる。装丁の劣化や破損を補強したり修繕した後の本を目と指で確認してなぞっている時など、彼女はリラックスしたような解れた表情を見せる。子供の利用客や老人と会話する時、少し中腰になり、彼らと目線を合わせて、柔らかい表情を見せる。図書館の業務が完全に落ち着いた、いわゆる凪のような状態の時、彼女は一部の破損が激しい本のページの紛失を確認しようとページをめくりながら、その内容に視線を添わせて、こっそり読書を始めてしまう。そんな時、急に受付カウンターに現れた利用客に慌てて応対する時の彼女は、少しだけ顔を赤らめて、飛び上がるように立ちあがって応対を始める。その仕草はとても可愛らしい。

 

 彼女の性格の良さを伺える場面も頻繁にある。図書館には色んな人が来る。ある時期は、交通事故に遭って、脳の障害のリハビリ中という男性が、リハビリも兼ねて本を読もうとして通っていた。佐伯さんはそんな男性に、頻繁に声をかけ、本の内容が頭に入ってこないとボヤく彼に対して、仕事が忙しくない時に音読してあげたり、書いてある内容を言葉にまとめて教えてあげたりもしていた。そんな、心優しい人間的な本質を、プロフェッショナルな表情の下に隠し持っているのだ。

 

 受付カウンターにはこの東図書館、蔵書の中で「司書さんが最近読んだお薦め書籍」が立てかけられているコーナーがある。図書館を出入りする時にそのコーナーをチェックすると、佐伯弥生さんが海外小説から日本の近代小説、純文学、SFや歴史小説、学術書やエッセー、詩歌まで、広範な読書量を誇っていることが良くわかる。なかでも、一時、現実世界を忘れられるような、魅力的な世界観を持った小説世界に没入出来るような物語が好みのようだった。

 

 そして、4時が過ぎるくらいの時刻に、彼女は決まって、少し周囲の目を気にしながら、ささやかなストレッチをする。両手を背中の後ろで組んで腕を伸ばし、その手を上へ上げながら体を「くの字」に曲げる。そしてそのまま、ぐーっと、胸を反らせて顔を天井へ向け、両手を下へ下ろしていく。その瞬間、エプロンとシャツの下から、彼女の意外にふくよかそうな胸と、女性的に柔和な体の曲線が見える。その光景は、君沢健人の心を踊らせるほど、綺麗なものだった。

 

『僕は彼女を邪な目的で観察してるって訳じゃない…………、ってか………。よく言うな………。』

 

 頭の中の、もう一人の自分がため息を漏らす音。それに気がつかない振りをして、健人は本の中の文章に目を落とした。目だけは文章をなぞってみるが、頭には何も入ってこなかった。また癖のように、チラリと受付カウンターを覗き下ろしてしまう。その時、受付では、佐伯さんが男性に応対している最中だった。カウンターには本や館で提供している、本を入れるための手提げ袋が置かれていない。中年から壮年にさしかかるくらいの年齢に見える男性に、佐伯さんは図書館の場所の案内をしているようだった。スッと顔を上げて、手を肩の高さ位に挙げる佐伯さん。健人は、彼女と目が合ってしまうことを恐れて、反射的に顔を本の影に隠した。

 

 紳士は彼女に御礼を言って、受付カウンターを立ち去る。中央の階段を登って、健人が席についている2Fまで上がってきた。そして、健人の横を通り過ぎて、奥へと歩いていく。どうやら彼は、午後に開かれる「カルチャー講座」の参加者のようだった。そう言えば、先ほども、定年後らしい夫婦と、頭の禿げあがった老人が2人ほど、そして中年の奥様3人組が、2Fの奥にある、「多目的ルーム」へと入っていくのを見た。この図書館では週に何度か、市民向けの、文化教養講座を開催している。健人が首を捻って多目的ルームの方向を見ると、口座のプログラムと予定表が掲示されているボードには、今日の講座名が書かれていた。

 

『不眠・赤面症・不安の改善 自己催眠療法講座』

 

 ボードにはそう書き記されていた。

 

 健人は再び前を向いて、読書に集中しようとする。けれどその集中は5分も経たないうちに、途切れることになる。さっき、健人がいる机の横を通って、多目的ルームの方へと歩いて行った、口髭を生やした眼鏡の男性が、さっきと逆方向に、また健人の横を歩いていったからだ。階段を降りると、その男性は、受付カウンターにいる佐伯さんとまた何かを話し始める。

 

「………そういうことでしたら……、運営とお話しませんと…………。はぁ……………。えぇ………」

 

 佐伯さんの声が2Fまで聞こえてくる。静寂を旨とする図書館の中で、彼女の澄んだ声が2Fまで聞こえてくるというのは、珍しいことだった。話し込んでいる男性と佐伯さん。彼女の表情から、少し困っている様子が見て取れた。健人の興味が惹かれる。もはや完全に本の内容は頭から飛んで行ってしまっていた。

 

 やがて、眼鏡と髭の男性に誘われるようにして、佐伯さんも2Fへ上がってくる。彼女が健人の近くを通り過ぎる時、健人はいつも息をひそめて、彼女が歩き去るのを待つ。生唾を飲み込んだりする音を悟られないようにするためだ。今回も、彼女が通ってから、暫くは、体を緊張させていた。ほんの僅かに、石鹸のような、佐伯さんのまとっている香りが鼻をくすぐった。健人はそっと振り返って様子を伺う。佐伯さんは少し迷いながらも、男性に促されて、多目的ルームのある、中扉の向こう側へと入っていった。

 

 10分くらい読書用の机から様子を伺っていた健人が焦れて無意識のうちに立ちあがる。

 

『何してんだろうな? プロジェクターが動かないとか、照明のスイッチの場所がわからないとか、単純な技術的な対応だったら、もうそろそろ終わってるはずだ。カルチャー講座は図書館の催し物の一つだが、一番大事な仕事じゃあない。ここにいつまでも佐伯さんがかかりきりになるのって、あんまり見ないことだよな?』

 

 健人の頭の中の声は、彼を煽り立てるように、ネチネチと事実を並べてくる。健人はそれに頭の中で反論するのが面倒臭くて、自ら立ち上がって、事態を見極めるために足を踏み出した。もっとも、それほどヒロイックな動きは彼の脳内で再現されているだけで、実際に彼がとった行動というのは、耳をそばだてながら、そろそろと忍び足で多目的ルームへと近づいていくという、およそヒーローらしからぬものだった。

 

 

「皆様の中には、そもそも、自己催眠なんていう怪しげなものにどれほどの効果があるのか、疑いが抜けない方々もいらっしゃると思います。当然と言えば、当然のことです。………そして、その疑念を持ったまま、自分自身に暗示を刷り込んでいこうとしても、それは決してうまく行くことはありません。だからこそ、導入として、まずはこの催眠療法というものが、どれほどの力を持ったものか、ヤラセや気休めではない、現実に影響を及ぼす現象なのかを、その目できちんと確かめて頂く必要があります。全てはそれからですね」

 

 太くて低い声が、多目的ルームと図書室とを分ける中扉の向こう側から聞こえてくる。その声は、先ほどの髭と眼鏡の紳士の太めの首と体格から想像出来る声と、一致していた。健人は耳を、頭を、中扉にくっつけるようにして聞き入る。

 

「今、こちらでご協力を頂いているのは、皆様も良くご存知と思われる、こちらの図書館の司書さんです。私と事前に何も示し合わせていない、何の利害関係もない、第三者といって良いでしょう。その彼女の、手が、こうしてオデコから全く離れなくなる。これが、暗示の力というものです。こちら、もう片方の手も、こうして吊り上げられたまま、下ろすことが出来ないでしょう?」

 

「………………は……………、はい…………。下ろせません…………」

 

 佐伯さんの、困惑したような声が聞こえてくる。健人はいつの間にか、中扉を開いて、多目的ルーム側の通路に自分の体を運び入れていた。

 

 

「3つ数えると、こちらの手は簡単にオデコから離れて、こちらの手も自然に下りてきます。体が自由になるのです。いいですね? ………3、2、1………。はいっ」

 

「…………あっ………」

 

 オーォォッっという、感嘆の声が響いてくる。健人は多目的ルームBと書かれた部屋のドアに密着して、中の様子を音から伺っていた。

 

「あの…………。凄いですね。よくわかりました。それでは、私は申し訳ないのですが他の業務もありますので、このあたりで………」

 

 ドアの向こう側から、聞きなれた佐伯さんの声が聞こえてくる。それは驚きと狼狽、そして恥じらいのようなものを取り繕うような口調になっていた。

 

「でも、私が指を鳴らすと、また深~い催眠状態に陥りますよ。ほら、パチンとなると、スーッと全身の力が抜けて、深~い眠りに落ちる」

 

 椅子がズズッと擦られるような音。男性の声がややくぐもって小声になる。まるで誰かの耳元で囁いているように。

 

「これから私が言うことは全て貴方にとって真実になりますよ。それはとっても心地の良い感覚。私の言葉に委ねて、面白くて楽しい体験に身を任せてください。…………さぁ、良いですか? 私が次に指を鳴らすと、貴方はもう、図書館に勤めている真面目な司書さんではなくなります。貴方は、と~っても可愛らしい、子犬。ワンちゃんになっています。と~っても人懐っこくて、皆に愛されている、幸せそのもののワンちゃん。必ずそうなる。ほら、パチンッ。…………どうぞ…………。自由に動いてください」

 

「………………アンッ…………アフッ…………ウォフッ……………」

 

 甲高い、犬の鳴き声を真似るような声が、ドアの向こう側から聞こえてくる。また低い、感嘆の息が漏れ聞こえる。その部屋のドアを、健人は気がついた時にはガチャリと開けてしまっていた。

 

「…………おや? …………追加の受講者さんですか?」

 

 ホワイトボードの前に立っている口髭と眼鏡の紳士は、冷静に、そして穏やかに反応した。他の聴講者が振り返ってこちら視線が集まる。しかし健人の視線は、立っている紳士の足元に釘付けになっていた。

 

 そこにはいつも清楚で知的な物腰を崩さない、司書の佐伯弥生さんが、四つん這いになっていた。口から舌を出して、ハッハッと荒い息を吐きながら、屈託のない表情でこちらの様子を伺っている。やがて彼女は、健人がリアクションを取れずにいると、彼から興味を失ったのか、紳士の膝のあたりに自分の顔を擦りつける。心底、愛おし気に、懐いている仕草をするのだった。

 

「あ………あの、いえ、………ちょっと………」

 

 健人は、何と言っていいのかもわからずに、ただ立ち尽くしている。佐伯さんのあまりにも衝撃的な変貌ぶりを頭の中で整理しながら、同時に彼がここに来た理由を理論立てて説明することなど、不可能に思われた。

 

「私がもう一度指を鳴らすと、貴方は大空を自由に飛び回る、カモメになりますよ。海風にのって、気持ち良~く滑空しましょう」

 

 パチンッ

 

 かがんだ紳士が佐伯さんの耳元で囁いて指を鳴らすと、嬉しそうに膝元に四つん這いでジャレついていた佐伯さんは直ちに立ちあがる。そして両手を水平に横に伸ばすと、ゆっくりとその両手を上下させ始める。まるで幼児がお遊戯か何かでやってみせるように、鳥の動きを真似て、多目的ルーム内をグルグルと走り始めたのだ。

 

 健人は唖然として、彼の目の前を、佐伯さんが両手を羽ばたかせながら駆けていくのを見送った。彼女は本当に気持ちよさそうに、大空に翼を広げているようだった。

 

「はい、催眠が解けますっ」

 

 パチンッ

 

 口髭と眼鏡の紳士が声をかけて指を鳴らすと、佐伯さんの動きがピタリと止まった。ゆっくりと両手が降りてくる。呆然と周りを見回している彼女。その戸惑う様子を見て、ギャラリーたちが感嘆の声と、まばらな拍手を送る。佐伯さんは恥ずかしそうで、情けなさそうで、何より明らかに困惑している表情だった。

 

「ありがとうございます。こちらの椅子に戻ってきてもらえますでしょうか?」

 

 紳士がホワイトボードの前から声をかけてきた時、佐伯さんの背筋がギュッと伸びて、体の重心が後ろに下がる。本能的に嫌がっている。傍にいた健人には、そのことが伝わってきた。

 

「もう………私は結構です………。他の仕事もありますので、戻らないと………」

 

「もう少しだけ、デモンストレーションに付き合ってもらっても良いではないですか? 貴方の被暗示性には素晴らしいものがあります。最適の被験者です」

 

「そ………そんなこと、言われましても………」

 

「さぁ、嫌がっていても、貴方の両足は一歩ずつ、こちらの椅子へと水から足を進めてしまいますよ。まるで強力な磁力で引っ張られるかのようです。………ほらっ………」

 

「あぁっ…………ちょっと…………。困りますっ」

 

「あのっ。………すみませんっ!」

 

 佐伯さんの声に、本当に嫌そうな響きがこもった。そう思った瞬間、健人は思わず、大きな声を出していた。すでに3歩ほど、椅子の方向へ歩き出していた佐伯さんの体も、そこで止まる。ギャラリーも、ホワイトボードの前の紳士も、健人の方をもう一度向いた。

 

「………カウンターに………、誰もいなかったから、探しに来たんです。………あの、司書さんに、検索してもらいたい本があるんですが、………ちょっと急いでいまして、今、よろしいでしょうか?」

 

 咄嗟に思いついた事情を、内心ドギマギしながら口に出して伝える。イラついたような反応を見せないか、心配しながら目を向けると、紳士は意外にも穏やかな表情で両肩をすくめるようにして溜息をついた。

 

「そうですか…………。これ以上のデモンストレーションへのご協力のお願いは、ご迷惑になりますかな………」

 

 すると、紳士の今の溜息の、倍も大きな溜息をついてみせたのは、佐伯さんだった。振り返って彼女が健人に見せた表情は、本当に弱々しいものだった。

 

「本の検索ですね。もちろん、すぐに伺います。………では、私は仕事に戻らせて頂きます」

 

 まるで2人で悪のアジトから脱出するかのような勢いで、佐伯さんは健人を伴って、多目的ルームBから退出した。中扉を押し開けて図書ルームへ戻るまで、彼女は走り去るような勢いで進んでいったのだった。

 

 

「…………助かりました………。急に、講座のデモンストレーションを手伝って欲しいと言われて、困っていたんです。…………アシスタントや補助が必要な場合は講座の先生側で手配頂くか、市の生涯教育課に事前にご連絡くださいとお伝えしていたのに………」

 

 図書ルーム側に辿り着いたところで、佐伯さんは立ち止まると、健人へ向けて、深々とお辞儀をした。本当に折り目の正しい人だと、改めて思わされた。

 

「それは、大変でしたね………。当日にその場で、強引に、頼まれちゃった訳ですね」

 

「えぇ…………。あの、それほど強引に、という訳でもなかったのですが、………断りづらくて………。でも、きちんとお断りできなかったのは、私の落ち度だと思います」

 

 佐伯さんは迷惑がっていた口調から、少しトーンを落とす。冷静にこれまでの経緯を思い出してフェアに話そうとしているのか、あるいは自分が一定の時間、切り盛りを任されている図書館内でのトラブルを大事にしたくないのか………。いずれにしても、とても頭の回転の速い人だということが、僅かな会話からも伝わってくる。

 

「………下で、一杯、麦茶でも飲みましょうか? …………落ち着くと思います」

 

 1Fのゲートと自動ドアを抜けたところ、洗面所の手前には自動販売機と、無料の麦茶が出るサーバーがある。時々、彼女がそこで麦茶を飲んで短い休憩をとることも、健人は知っていた。

 

「………でも、お急ぎで、お探しの本があるんですよね?」

 

「あ、いや………。さっきのは、とっさに思いついて、適当に言った、出まかせです。………佐伯さんが、お困りの様子だったので………」

 

 この図書館に通い始めて3年。本の借り出しと返却の事務的なやり取り以外で、初めて彼女ときちんと会話をしている。その夢のような時間が終わってしまうのが惜しくて、健人は勇気を出して、正直に話した。

 

『健人にしては、頑張ってるじゃないか………けど、彼女の名字を口にしたのは、あんまり得策じゃなかったな。』

 

 頭の中で、もう一人の自分の声が聞こえる。彼の言う通りだと、健人は苦々しい思いで後悔した。彼女の名前は胸元のネームプレートにも記されているし、受付カウンター手前の勤務表にも今日の担当者として札が入っている。この施設の職員として、名前が知られていることは彼女も理解しているはず。それでも、自分から名乗ったこともない相手に、突然名前で呼ばれることは、警戒されるだけの、キモい動きだったかもしれない。

 

「ありがとうございます。……君沢さん…………ですよね。とっても助かりました」

 

 佐伯さんは汗をかいた顔を手で仰ぎながら、リラックスした笑顔を見せた。彼女も健人の名前を知っていた。これだけの期間と頻度で本を借りたり、オーディオブースの利用申請を出したりしているので、登録されている名前を覚えられているのも、当然のことだ。しかし、健人としては、舞い上がるような気分を、表情に出さないように苦労した。

 

 2人で、若干ギコチない会話を交わしながら、階段を降りて、受付カウンターを通り過ぎ、給湯室へ向かう。給湯室には、自宅から持って来た水筒を手にして、お茶を飲んでいるオバサンが1人、ソファーに腰かけていた。図書館スペースの中は飲食禁止となっているので、ここで飲み物を飲んで休憩する人は時々いるのだ。そのオバサンは、健人と佐伯さんがサーバーから紙コップに麦茶をくんでいる間に、給湯室兼休憩スペースから出て行った。

 

「さっきの講座は、今日が初回なんですか? 郷土史の講座とか、話し方講座とかは、よく、ポスターを見た気がするのですが、ああいうのは、初めて見ました」

 

「えぇ………、ちょうど、郷土史と健康づくりの授業の間が3週間、先生たちのご都合で空きまして、市の生涯教育課から、県内の別の自治体でも人気があった講座だからと言われて、3コマ分だけ、入りました。先生は、プロのカウンセラーで、催眠療法の研究者だって聞きましたが、今日、初めてお会いしました」

 

 佐伯さんは説明しながら、少し表情を曇らせる。

 

「下見と事前確認に来られた日に、私がお休みを頂いていて、別の者が対応していたのですが、導入でデモンストレーションをするとか、何も聞いていませんでして、とてもビックリしました………」

 

「今日、初めて会って、短い時間のなかで、催眠術って、本当に掛けられるもんなんですね………。僕も、どんな講座なんだろう? って思って、部屋の近くまで行ったら、佐伯さんが「ああ」なっていたんで………、ビックリしました。テレビ番組とか、映画では見たことがありますけれど、ああいうのって、ヤラセや演出が大分入っているんだろうと思っていたので」

 

 健人がそこまで言うと、透き通るように白い肌をしている佐伯さんの顔が、カァーッと耳まで赤くなる。さっきのことを思い出してしまったようだ。

 

「………私も、全く想像していませんでした。………あんな………、犬になるとか、鳥になるとか………、簡単に…………。人前で、恥ずかしい思いをさせられてしまったので、君沢さんに呼び出してもらえて、本当に助かりました………」

 

「さっきの、講師の人………、御厨さんって言うんですか? 意外と凄腕の催眠カウンセラーっていうことなんでしょうね………。初対面の佐伯さんに、そんなにすんなりと掛けられるんだから。佐伯さんにとっては、ご迷惑だったでしょうけれど、何と言うか、不運としか言いようが無いですね。そんな凄腕の人に掛けられたんでは………」

 

 健人がポスターに書かれていた、髭と眼鏡の講師の名前を思い出しながら話す。あくまでも、佐伯さんが恥ずかしがっている、「催眠術にかけられて、変な行動を人前で見せてしまった」という点にフォーカスするのではなく、「凄い技術を持った講師の人だったようなので、仕方が無いこと。不運だっただけ」という論点に持って行ったところ、それが佐伯さんの心のつかえを少し取る効果があったようで、彼女はウンウンと頷いてくれた。

 

「凄いというのは、本当にそうだったと思います。私、目が合って、二、三言、お話していただけなのに、自分でも気がつかないうちに掛けられていたようですから………。手がオデコから離れないとか、右手が上に引っ張られるとか、………あとは、動物になるとか、なんだか頭がポーッとして、少しだるいような、気持ち良いような、不思議な感覚になったと思ったら、もう、言われるがままに動いていましたから。…………あの、自分が全く消えてしまうような感じじゃないですよ。少し、後ろにいて、見守っているのだけれど、前にいる自分の体が、言われた通りに反応していくのを、ついつい見送ってしまう感じというか…………。初めての感覚でした。新鮮な感じではあるけれど、後からやっぱり怖いって思いました。ゾワゾワしました………」

 

 佐伯さんはさっきまでの、人前で変な行動を取っていた自分に対する恥ずかしさに苛まれている気持ちを、自ら切り替えようとしているかのように、やや熱っぽく、健人に語っていた。気がつくと、2人とも、紙コップの麦茶を飲み干して、まだ話していた。健人にとっては、夢のような時間だ。これまで3年間の合計時間を軽々超えて、佐伯弥生さんとお話出来ているのだから、しかも2人きりで。

 

「ごめんなさい。話過ぎてしまいましたね………。そろそろ、受付に戻ります」

 

「あ……はい。僕の方こそ、お引き留めしてしまってすみません。結局お仕事のお邪魔をしてしまって」

 

「いえ、良いんです。…………お話していたら、さっきよりもずいぶんと落ち着きました」

 

 佐伯さんはニッコリと優雅に微笑んだ。

 

「君沢さんも、もしも興味が出たら、先ほどの御厨先生の講座に参加されてはどうですか? あと2コマありますし、まだ受講者の枠には空きがありますよ………」

 

 佐伯さんの微笑に、少し悪戯っぽい、冗談めいた色が籠る。いつもはやや表情に乏しい、クールな美女だが、こんな顔も見せるんだ、と、健人の胸を疼かせた。

 

「いや………やめておきます………。さっきは講座の邪魔をしてしまった人間だし、今日を除くとあと2回しかないようですし………。僕には、「話し方教室」とかの方が、似合っていると思います」

 

 健人が頭を掻きながらそう伝えると、佐伯さんは少し残念そうな顔をする。

 

「せっかく、『凄腕の』講師先生に来てもらっているのに、私のこともあって、参加しにくい雰囲気になったということなら、なんだか、申し訳ないです。…………当館の講座は申請手続きと聴講者の枠さえあれば、どなたでも、部分的な参加でも可能な体制にしていますので、気が変わられたら、いつでも仰ってくださいね。…………それでは、ありがとうございました」

 

 佐伯さんは、たった今、この給湯室で話しこんでいた時とはまた別の、プロフェッショナルな顔つきに戻って、健人にそう伝えると、一礼して、給湯室から出て行った。

 

『……………。』

 

 頭の中のもう一人の自分が、何か言いたそうな気配を感じとる。

 

(なんだよ。どうせ、佐伯さんに、そのまま行かせちゃって良いのか、とか、もっと話をしろ、とかって言うんだろ? けど、これが今の僕の精一杯だよ。…………彼女と初めてこんなに話しこんだんだ。これ以上は無理だよ。今でも体が心拍数のコントロールに苦戦してる。君だって分かるだろ?)

 

『いや、俺は別に、お前の今日の行動をなじりたい訳じゃない。………フェアに考えて、お前は良くやったよ。もちろん、せっかくのチャンス、もっと上手く活用することは出来た。少なくとも、会話らしい会話を初めてしたんだから、次の会話に繋がるような、芽を作っておくことぐらいをしておけば、この次のステップが、もっと踏み出しやすくなったはずだ。忘れちゃいけない、お前には3年もそうした準備を練る時間があったんだからな………。けどまぁ、贅沢を言い出してもキリがない。総合的に見て、お前は上手く立ち回ったと思うよ。勇気を出してさっきの講座の中に足を踏み入れて、困っていそうな佐伯さんを助け出した。その後、彼女と2人で話をして、これまでよりもずっと打ち解けた。…………むしろ、これ以上、話しこもうとして、彼女を引き留めていたりしたら、仕事の邪魔をするっていう意味では、さっきの講座のオッサンと同じような人間の種類の箱の中に、彼女の中で入れられてたかもしれない。良かったと思うぜ………。まぁ、問題は、これからなんだけどな………。』

 

 健人は素直に頷いた。まず、自分が作り出した自意識のシニカルな声から、珍しく、褒めてもらった。ただ、欠けていたのは、次の会話に繋がるような芽………。そう言われてみて、その通りだと、認めざるを得なかった。せっかく初めて佐伯さんとこうして話が出来たのだから、次回も自然な感じでお話が出来る、糸口みたいなものを得られていたら、最高だったはずだ………。

 

『まあ、欲を言えばキリがない。彼女に名前と一緒に認知してもらって、悪い印象は残さなかったはずだ。それどころか、まあまあの好印象を作れた。何の進展も無かった3年間と比べたら、大きな一歩だ。月面に踏み入れた一歩みたいなもんだ。あとは、さっきも言った通り、これからだ。この後、長い間、次の一歩を進められなかったら、結局、月面にも着陸してなかったんじゃないかみたいな、陰謀論に晒されることになる。』

 

(うん………。大事なのは、これからだよな………。どうすれば良いと思う?)

 

『どうすれば良いか、というよりは、お前がこれから、どうしたいか、だよ。本の貸し出しや返却の時に、軽く微笑んで目配せするくらいの、ちょっと親しい司書と利用客の関係くらいが目指すところなら、今回稼いだポイントを元手に、安全な路線を進めば良い。難しいことじゃないはずだ。けれど、今回のことを活用して、彼女にもっと接近したいなら、まだいくつかリスクを負って、賭けに出なきゃいけないかもしれないな………。お前が、どうしたいか、なんだ。』

 

 健人は、ついさっき、佐伯さんと給湯室で会話しながら過ごした、2分間のことを思い出して、穏やかで温かい気持ちに包まれる。プロフェッショナルな司書という仮面を僅かな時間だけ脱ぎ取って、彼女が見せた自然な笑顔や悪戯っぽい表情、あるいは親密な微笑み………。それらをもっと見たい気持ちがあった。しかし、さらに時間を遡ると、多目的ルームの中での彼女を思い出す。するとそれだけで、反射的に体がカーッと熱くなる。四つん這いになって、怪しげな催眠術師の足元にすがりついていた時のあの、小動物が心の底からご主人様に懐いている、というような、屈託のない笑顔。あの弛緩して、完全に心を相手に委ねているといった雰囲気の、混じりっ気のない親愛の表情。健人がどれだけ紳士的に知的に、誠意をもって彼女と距離を近づけても、知的で生真面目な佐伯弥生さんの、あんな表情に辿り着けるような気はしなかった。

 

(僕も………、催眠術を覚えたい。…………今日のあの御厨っていうオジサンみたいに、佐伯さんに催眠術を掛けて、彼女が隠し持っている表情を、色々と引き出してみたい。。。)

 

『………あのオッサンの、講座に参加するのか?』

 

(……………いや………。しばらく、自分で勉強してみるよ。…………多分、そうするためのリソースは、ちゃんとあるはずだから。)

 

 健人も給湯室を出る。廊下を10歩も歩いて、ゲートをくぐると、そこは図書館だった。

 

 

。。。

 

 

「催眠術」というジャンルは、本の分類で言うと、健人が想像していたものよりも、もっと不明確で曖昧模糊というか、色んなジャンルの上にアメーバのようにヌルヌルと寝そべっていた。医学のコーナーに精神医学として置かれている本もあったし、心理学のコーナーにも概論や入門的な位置づけの本があった。かと思うと、コミュニケーション技術として自己啓発・教養のコーナーに括られている本もあったし、夢占いやニューエイジ、あるいはサブカルチャーの棚に置かれている本も発見した。健人は本のタイトルや装丁、出版社や著者で判断せず、とにかくその図書館にある『催眠』と名のつく本をまずは片っ端から読み漁った。大学も2年目で教養課程の履修科目も少なくなってはいたので、時間は十分過ぎるほどあった。

 

 これまで以上の頻度で、宮津市東図書館に通い、閉館時間までこのカテゴリーに入る本を読み耽った。受付カウンターの前を通る時や、本の整理をしている佐伯さんとすれ違う時など、彼女と目が合うと、本当に小さく会釈をした。彼女は2回に1回は、健人に小さな笑顔を作って目配せを返してくれるのだった。

 

 東図書館にある、「催眠」と名のつく本を全て読み尽くすと、健人は市の中央図書館にも足を向けて、彼にとってのホームグラウンドである東図書館にはない、催眠術関連の蔵書を何冊か借りて読んだ。

 

 もとはこの宮津市中央図書館は、「宮津町図書館」と呼ばれていた。東図書館の方は、「宮島町図書館」と呼ばれていた。この2つの町は町村合併で宮津市になったのだ。だからそれほど大きな市でもないのに、図書館は2つある。しかし、行政サービスの効率化のために、市は少しずつ、中央図書館の運営に軸足を置きつつあるようだ。DVD視聴ブースや、インターネット閲覧用のPCなどは、明らかに中央図書館に多く設置されている。雑誌コーナーの面積も広い。現在「東図書館」となった、元「宮島町図書館」は、だから、蔵書数と面積で言うと中程度の図書館の規模の割には、佐伯さんを始めとして、必要最小限の職員数で管理されていた。利用客の数も、3年前よりも最近の方が、減っている。健人はしかし、その環境を気に入っていて、わざわざ中央図書館からそこにしかない「催眠関連本」を借り出しては、東図書館に持って来て、そこで読み込んだ。

 

 関係する書籍を20冊も読破した頃、健人の頭の中におおよその、このジャンルの輪郭が見えてきた。導入部や著者がどのようにこのジャンル・現象と関わるようになったかなどの書き方は違っていても、人を「催眠状態」というものに誘導するための手法の説明に入ると、大体のセオリーみたいなものがあることを理解するようになった。やがて新たな関連本を手にしても、導入部を読んで、その本の著者がおそらくどの学派にいて、どんな本が引用元になっているかまで、想像出来るようになってきた。軽めの内容のハウツー本にも、ライターが参考にした底本がある。読んでいるだけで、それを想定できるようになる。時には整理の仕方のとっちらかった拙い入門本を読むと、自分で添削して再整理してあげたくなるほどだった。(これなら自分が書いた方がマシなのでは?)そう思うような、程度の低い本に、2、3冊連続で突き当たった頃、このジャンルのインプットについては充分という域に自分が達したことを、自分で認めてあげることにした。

 

『これでお前も、いっぱしの催眠術師っていう訳かい?』

 

 答えを知りながら、頭の中のもう一人の自分が、からかうように問いかけてくる。

 

(いや………、どこまでいっても、机の上でのお勉強だけでは、実用性がない。今の僕は、学問として催眠療法や催眠誘導法を理解しただけ。これは完全に生兵法だよ。)

 

 もう一人の自分に対してそう答えた時、健人は次のアクションを明確に思い浮かべることが出来た。スマホを出して、検索バーに名前を入力する。

 

「御厨隆治 催眠 セミナー」

 

 検索すると、古くて終了しているものもあったけれど、これから開催される講座、セミナー、イベントなども現れた。健人はN市の中心部にあるバーラウンジを貸し切りにして開かれる予定の、「御厨隆治の催眠術セミナー」を見つけ出して、参加希望フォームを開いた。

 

 

。。。

 

 

 君沢健人は、「御厨隆治 催眠術・催眠療法講座」については、N市で行われているものに、合計で3回参加した。1回8千円の受講料。図書館で行われていた、生涯教育の一環として宮津市が支援している講座と比べると4倍もお金がかかった。これは大学生の健人にとってはなかなかの出費だった。しかし、彼はその意義には納得していた。頭の中のもう一人の自分が指摘していた通り、本から得た知識と、催眠術の実践との間には、それなりの距離があったからだ。3回の講座を受けただけで、その距離を埋められたか? それはまだわからない。けれど、少しでも、受講者同士でペアを作って、お互いを催眠状態に誘導しあうなど、実践に近い経験を得られたことは、ある程度の自信にも繋がった。そして御厨隆治という口髭と眼鏡の催眠術師が、受講者のうちの希望者に次々と催眠術を掛けていくところを目の当たりにして、この技術がかなりのコミュニケーション能力や注意力、観察力、さらには演技力を必要とする、対人的な技術であるということを実感することが出来た。だから健人は、それ以上、専門書や解説書、入門書やストーリーに催眠術を含んだ小説などを読み漁って満足する、ということを止めることにしたのだった。

 

 図書館の読書机では、本を積み上げて読み耽ることを一旦やめて、ノートを開いて、ペンで計画を立て始めた。こんなに頭を働かせたのは、2度目の大学受験の頃以来のことだ。何ページか破いて、書き直す。書きながら、自分の頭を整理したり、襲い来る不安を逃れるように、シミュレーションを重ねた。そして健人が御厨先生の講座に3回目に参加した日から1週間後、彼のプランは一旦の完成を見た。

 

『試してみる価値はある作戦だと思うな………。お前にしては、なかなか大胆なアイディアだ。………でも、これまで佐伯さんを遠くからチラ見しただけだったのに。どうしてここまで、大胆に急接近を図るんだ? この賭けの勝算の根拠は何なんだよ。』

 

(御厨さん、3回目の講座の最後、ちょっと個人的に話した時、僕が図書館のセミナーで、佐伯さんを使ったデモンストレーション中に邪魔をした奴だったって、話していてようやく思い出したよな?)

 

『あぁ………。あいつ、佐伯さんのことも覚えてて、「あの人は一目見た時から、凄く被暗示性が高くて、良い被験者サンプルになるって思った」って、確かに言ってたな。だけど………まさか、それだけの理由で、お前がリスクを負って挑戦するっていう根拠としては、弱いな。』

 

(合計3回受けた講座で、御厨さんが全部で12人の参加者に催眠術を掛けるところを生で見た。そのなかで9人はきちんと催眠状態に誘導出来て、その中の7人は記憶の操作まで行った。でも2人は感触や身体操作のレベルまで留まっていたよね? ………3人は、本人は掛けてもらいたがっていたけれど、人目も気になって集中出来なかったのか、うまく掛からなかった。つまり、プロの御厨先生でも、皆に掛けられるっていうようなものじゃないんだ。)

 

『………そのことと、素人のお前が佐伯さんに掛けられると思ったことが、どう結びつくんだ?』

 

 立ちあがってノートを閉じた健人は、本を3冊手にして、歩き始めた。大きな吹き抜けと一体になっている階段を降りて、1Fへ向かう。

 

(N市の講座の中で、御厨さんが実践して見せた、催眠状態への誘導。うまく行った9人。いや、その中で一番うまくいった人も含めて、全員、最初は20秒くらいかけて、じっくり導入していた。瞬間催眠を披露したのは、前の講座で深い催眠状態に落としたことがある相手だけだった。けどあの日、図書館の多目的ルームで、佐伯さんへの導入は15秒もかかっていなかったはずなんだ。佐伯さんはあんまり協力的な姿勢じゃなかったはずなのに………。僕自身も何人かに実際に催眠術を掛けさせてもらって、そこはわかった。被暗示性の高さは人によって大きなバラつきがある。僕が今までに得られた知識と、ちょっとだけの経験を基に観察すると…………。きっと、佐伯さん………。催眠術の被験者として、凄く適性があるんだと思う。御厨さんが言ってた通りに………。)

 

『…………それが、本当かどうか、これから試してみるんだろうけど………。まぁ、一つだけ言っておくと、お前はちょっと変わったな。あの誕生日の日から………。その変わった先の方向性は、俺も興味があるな…………。まぁ、せいぜい、頑張るこった。』

 

 1Fに降りると、受付カウンターにいたのは佐伯さん1人だった。返却された本のシステム入力をしているようだ。他に、本の貸し出しや返却、相談などのためにカウンターに近づこうとする利用客がいないことを確認して、健人は1回だけ生唾を飲み込んで、受付カウンターへ近づいた。

 

「………御用でしょうか?」

 

 佐伯さんは顔を上げると、微笑むまではいかないけれど、少しだけ表情を緩めて健人を見た。彼女は真剣に仕事をしている時、美人だが少し硬めの表情になる。それが接客には適していないと自分でも理解しているのか、意識をして表情を柔らかくしようとしている。とても聡明な人なのだ。あるいは、健人に対して、先日の件もあって、少しは良い印象を持ち続けてくれているのだろうか?

 

「あの…………。本の新規調達の申し込みをしたいと思っているのですが、その候補が3冊もあって、出来れば1冊に絞り込んで、申請したいんです」

 

「そうなんですね………」

 

 パタン、パタン、パタンと本をカウンターに置くと、佐伯さんは小さく「ハッ」と息を飲むような音を立てたようだった。置いた本3冊は、どれも催眠誘導、催眠術、催眠療法の実践に関する入門書だった。

 

「それぞれ、バックグラウンドも学派とかスタイルの違う人たちの、入門編がこちらの図書館にあります。けれど中級編の本を取り寄せようとすると、3つも発注するのはもったいないと思いまして………どれか、自分によく合ったもの、1冊だけ、中級編を新規購入頂きたいんです」

 

 健人はドキドキする自分の心臓の鼓動を悟られないかと心配しながらも、これまで推敲してきた台詞をそのまま喋った。けれど、口が乾いて、少し言葉がギコチないようにも感じていた。佐伯さんは、あまり表情を変えないようにしながら、その本を手にして、近くのデスクトップパソコンのキーボードを弾く。そして小さな溜息をついた。

 

「こちらの3つの本の続編や中級編は、………市の中央図書館の蔵書にもないですね………。はい、申請を頂いた場合、新規購入で当館で調達することになります」

 

『そんなことはとっくに確認済みだよ、佐伯さん』

 

 頭の中の声を振り払うように、健人が計画に集中する。出来るだけ誠実な読書家が、思慮深く困っている、といった表情を作って見せた。うまくいっているかどうかはわからないが、ベストを尽くす。催眠術師には演技力も必要なのだ。

 

「あの、自分にあった教本じゃないと、せっかく注文しても、結局、途中までしか読まなくなることが心配で………。佐伯さんに個人的なご相談で、本当に申し訳ないんですが、例えば休み時間とかに、この入門編の、実際のトライというか、実践を、お付き合い頂くことは出来ませんでしょうか?」

 

「………わ…………私が…………ですか?」

 

 佐伯さんは目を見開いて、健人を見返す。健人の心臓が握りつぶされるような不安に襲われる。けれど、ここは勇気を振り絞って、困惑と恐縮の表情を崩さずに、ゆっくりと頷いてみる。健人はノートにまとめた検討のページをとっさに頭に思い浮かべて、不安を紛らわせる。

 

<佐伯弥生さんがNOと言わない(であろう)理由>

 

 A。佐伯さんは本がとても好きで、司書の仕事に誇りを持っている。読書に関する利用客の悩みを解決することに協力を惜しまない自分でありたいと思っている。

 

 B。佐伯さんが勤務している東図書館は市の政策もあって、中央図書館よりも予算が逼迫しているらしい。催眠術教本なんていうマイナーな、利用回数が増えにくいであろうタイプの書籍なら、新規購入での調達を絞り込めた方が嬉しい。1人の契約司書さんである彼女が図書館の財政までどれだけ考えているかはわからないが、聡明で責任感の強い彼女は、健人が「最後まで読まない本を無駄に注文したくないので、入門編の実践を試してみたい」と言ったら、その思いには若干の共感と好感は持ってくれるはずだ。

 

 C。佐伯さんは先月の教養講座で、急に催眠術のデモンストレーションに巻き込まれた時に、健人の助け舟のおかげで抜け出せたことを感謝している。生真面目な彼女は、彼に何かのお返しをしてあげたいと考えるはずだ。

 

 D。佐伯さんは健人が彼女をその講座のデモンストレーションを邪魔して、彼女が抜け出すのを手引きした分、その講座に興味を持ったとしても、新たに受講申請を出しにくい状況になったと解釈している(そして彼女は、彼が館外の御厨催眠術講座に参加したという事実は知らない)。健人のこれまでの大量の「催眠関連本」の貸し出し履歴を当然のように管理している彼女は、健人が興味のあることについての講座に出にくくなり、独学に徹しているのは、自分のせいかもしれない、と解釈してくれているはずだ。

 

 

<佐伯弥生さんがNOと言う(かもしれない)理由>

 

 E。彼女は先回の御厨先生のデモンストレーションに有無を言わさず巻き込まれて、催眠術をかけられてしまって恥をかいたと思っている(今も少し思い出しているようで、顔を赤くしている)。彼女にとって催眠術は「嫌な記憶」として残っている可能性が高い。

 

 F。彼女はプロの司書として、特定の利用客と特別に親しい関係にはならないように配慮している可能性がある。特に彼女のような美人に言い寄ってくる若い男には警戒心が高い(かもしれない)。

 

 G。君沢健人は男としての魅力が他の同年代の男と比べて、高いとは言えない(極端に低いとまでは思わないものの。。)。単純に、不細工な男にキモイ近寄られ方をした、と思われればアウト。

 

 

 YESとなる4つの根拠を、NOとなる3つの根拠が上回る力を、彼女の中で持ってくれるなら、健人は賭けに勝つ。けれど、根拠Gのリスクが高すぎて、冷静な比較検討が難しいかもしれない。ここは彼女の、人の良さ、生真面目さ、責任感に助けを求めるしかなかった。

 

 しばらくの沈黙の後で、佐伯さんが小さな溜息を漏らす。

 

「あの………、短い時間で済むようでしたら、一度だけ、ご協力します。………でも、これは、私の業務範囲からは外れることだと思っています。休憩時間に、個人的に、一度だけのご協力でも、よろしいでしょうか?」

 

 佐伯さんの方が、逆に申し訳なさそうな顔をして、そう答えてくれる。健人は心の中で、小さく拳を握って、ガッツポーズを作った。

 

「…………お願いします。………本当にすみません。助かります」

 

 

。。。

 

 

 パートタイム勤務のオバサンが来てから、佐伯さんは30分の休憩を取らせて欲しいと彼女にお願いして、快諾を得てくれた。彼女の案内で、健人は2Fにある、多目的ルームコーナーの一番奥の部屋へ連れて行ってもらう。

 

「こちらの部屋は今は使われていません。机と椅子くらいしかありませんが、良いでしょうか?」

 

 健人が「もちろん、結構です」とばかりに頷くと、佐伯さんが鍵を開け、ドアを開いて呼び入れてくれる。

 

「すみません。少し匂いますね。空調も入れて換気します」

 

 そういわれてみると、部屋の中にはかすかに、古い絨毯の匂いがこもっていた。佐伯さんに言われなければ、気づかなかったほどのものだ。ライトとエアコンをつける。密封性と落ち着ける雰囲気、被験者に圧迫感を与えない程度の広さがある小部屋だったので、3冊の本を抱えた健人は、充分ですとばかりに頭を上下に振った。

 

「それでは………。あの、君沢さんが、リードしてもらって、良いですか? …………あの、前に、講座の先生に催眠術を掛けられたときは、あっという間のことで、気がついたら不思議な感じになっていて、よく覚えていないものですから………」

 

 佐伯さんは、思い出してまた少し顔を赤くしていた。

 

「それでは、あの、椅子に深く腰掛けてもらっても良いでしょうか? ………出来れば、そちら側を向いて座って頂けると………。はい、ありがとうございます」

 

 健人はさりげなく、佐伯さんが座る椅子の向きを、壁に向けるように、直させてもらった。

 

『うんうん、そうだな。………お前の意図はわかる。………佐伯さんが仕事との繋がりを意識しがちな、この部屋のドアと、その左上に掛けられた時計。この2つは視界に入らない方が、誘導しやすいかもしれないな。窓の方を向いても、外の景色とか、気になるかもしれないし………。お前なりに、本から吸収した知識を、自分なりに消化してるじゃないか………。最初のムーブとしては、悪くないぞ。』

 

 頭の中にいる、もう一人の自分の声に、珍しく背中を押されるようにして、健人は一気に催眠導入に入ろうとする。

 

「それでは佐伯さん。僕を見て、よーく聞いてください」

 

「………あのっ………。君沢さん。………実は、一つ、提案があるんです」

 

 佐伯さんに遮られて、健人は言葉を失う。何と答えていいかわからなかったが、頷くしかなかった。一気に暗示分を畳みかけようとしていた気勢は、はっきりと削がれてしまった。

 

「今回は、私が君沢さんに教本に沿って、催眠術をかけてもらうという、実験にご協力します。……………近いうちに、逆に私にも、君沢さんに、催眠術を掛けさせて頂きたいんです。………私も、ちょっとだけ勉強してみますから…………」

 

 佐伯さんのお願いは、健人の想像や想定を、はるかに超えるものだった。彼がノートに(清書までして)書き連ねた計画は、彼の頭の中で、一瞬、真っ白になってしまった。

 

「あのぅ…………。はい………。良いですよ………。もちろん」

 

 健人は、戸惑いながらも、やっとそれだけ答える。すると、佐伯さんは少し満足したかのようにささやかな微笑みを浮かべて頷き、膝を揃えて、改めてきちんと椅子に座りなおしてくれた。

 

「はい。………それでは、どうぞ…………」

 

 佐伯さんの再びのゴーサイン。健人は、さっきの戸惑いを内心に抱いたまま、何とか覚えこんだ暗示文を、(多少棒読み気味にだが)口にし始める。

 

「佐伯さん、右手をこのくらいまで、上げて頂けますか? …………今から、僕がこの手が重くなることを伝えると、どんどん、この挙げた右手が重くなり、自然に下がっていきます。同時に、貴方の瞼もゆっくりと重くなり、やがて眼を閉じていきます。無理に従う必要もないですよ、でも無理に抵抗する必要もないです。自然な状態、自然な気持ちで、僕と呼吸を合わせてください。はい、吸って―。吐いて―。そうです。そのリズム…………。右手がだんだんと重くなります。瞼もグーッと重くなる。……………僕が数字を逆に数えていきますよ。10……………。9……………。8……………。7…………。6…………。5………………。ほら、どんどん重くなる。…………4………」

 

『おい、健人。見ろよ。暗記した暗示文を、お経みたいに唱えるのが目的じゃないだろ。…………相手の様子、ちゃんと確認しろよ。』

 

 頭の中の言葉に、健人が注意を佐伯さんへと向けなおす。

 

(………あ…………。)

 

 佐伯さんは頭の高さまで挙げてくれていたはずの右手を、肩より数センチ低い位置に下ろしていた、すでに瞼が半分以上、目を塞ぐようにして降りてきている。まだ数字を4までしか数えていないのに………だ。

 

「3……、2………、1………。はい、眠って~」

 

 健人が矢継ぎ早に残りのカウントダウンをして、一言告げると、佐伯弥生さんは、アッサリと両目を完全に閉じて、右手をダランと体の横に垂らしてしまった。まるで昏倒するようにして、深い眠りに入ったような様子を見せたのだった。

 

 

<第2話に続く>

4件のコメント

  1. 半年ぶりの更新、お待ちしておりました。
    待ちこがれてここ最近読み上げソフトに「蟲の湧く星」を読んでもらったりしてましたが、結構いいですね。
    5年前と知ってビビりましたが・・・。

    今回はがっつり催眠。それも1話読み切ったのに誰も脱いでない!
    「プリマ」みたいな感じでじっくりねっとり系かな?楽しみです。
    「もう一人の僕」は時に天使に、時に悪魔になって怖気づいた主人公の背をおしたり、逆に暴走を抑えてくれるのでしょうか。
    次の更新を心待ちにしております。

  2. 読ませていただきましたでよ~。

    最近はノクターンやピクシブなどで催眠ものを読んでいるわけでぅが、魔眼、発情、超能力などが多く、暗示をいれるシーンはあっても導入、深化がガッツリ書いてるのがなかなかないので久しぶりにこういうのを見た感じでぅ。

    導入などもそうでぅが、図書館という静謐なイメージの場所、佐伯さんという物静かで憧れの女性が雰囲気をすごく作ってて、催眠でどういうふうにエロエロになっていくのかがすごく楽しみでぅ。
    しかも、佐伯さんも催眠をかけるとかこれなんて秘密の箱?(違うw)

    そして心の中のもう一人の健人くんの存在。斜に構えた健人くんの盛大な自己ツッコミなんでぅけど、それがブギーポップシリーズのエンブリオみたいな感じに見えて、催眠導入深化*ヒミハコ*ブギーポップというみゃふの好きなものが詰め込まれてて最高かよという感じでぅ。(冒頭の地の文的な語り口もブギーポップの文型を連想しました)

    とにかく何が言いたいかって次回はよw
    来週が待ち遠しいでぅ。
    であ。
    ・・・肉体操作もあるといいなぁー(チラッ)

  3. 明けましておめでとうございます。
    今年もよろしくお願いします。
    うおお……永慶節全開の本格催眠ものじゃないですか……。めちゃくちゃツボです、こういうの。
    何より主人公の姿勢がいい。弥生さんへの想い、そして弥生さんを通じての催眠への出会い。
    催眠への関心の強まり方から、独学、体験、そして実践。
    こういう、主人公の催眠に対する執念や、目標に向けてのステップが描写されているのが、本当に素敵なんですよね。「催眠」への愛がある。
    ここから、弥生さんに対して催眠術で何をするのか。続きも楽しみにしています。

  4. >慶さん

    いつもありがとうございます!
    蟲の湧く星。我ながら懐かしい(笑)。
    旧作もこすって頂き、嬉しいです。
    本作、導入でノロノロしてしまいごめんなさい。
    出来るだけ濃く、催眠術セシッションと
    堕としていく過程を書いてみたいと思います。
    お付き合い頂けますと幸いです。

    >みゃふさん

    毎度、ありがとうございます!
    今回は、対象を絞り込んで、
    じっくりやるつもりです。
    お楽しみ頂けるといいなぁ。。。
    もう1人の健人の声は、
    まだ思春期を引きずっている自意識の象徴なのかと
    思っていますが、良い効果が出れば、
    他の作品でも使うかもしれません(笑)。
    頭の中の自問自答を対話形式にすると、
    書き進める勢いがついたり、読みやすくなったりは
    するのかな?と思っています。

    >ティーカさん

    ありがとうございます!
    主人公の心の中でも、
    一体自分は対象者が好きなのか、
    あるいは、手段であるはずだった催眠を
    掛けたり深めたりすることがより好きなのか、
    わからなくなるような話は私も大好きです。
    言ってしまえばフェチ、っていうことですが、
    この成分が少しでも、拡大するMC好きの人口に
    膾炙してもらえると、嬉しいですよね。。。

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