健人にとって、心躍る、最高の日々が幕を開けた。宮津市立東図書館の美人司書。君沢健人長年の想い人である佐伯弥生さんが、健人の彼女になったのだ。5歳の年の差など、健人には気にならなかった。なにしろ健人には、『催眠術』という切り札がある。これを使えば、佐伯さんと心の距離を瞬時に詰めることも出来るし、いとも簡単に主導権をもらうことも出来る。そして彼女の行動、趣味嗜好、考えから人格までも、彼が好むように変えることが出来た。
元々、佐伯さんは「本やドラマなど、ハマったものにとても感化されやすい」という性格ではあるが、基本的には自分をしっかり持って、自分らしい生活を心掛けてきた人だ。25歳という実際の年齢と比べても、落ち着いた暮らしを送ってきた。そして自分の体にも、(健人からすると意外で不要なものだったが、)人並にコンプレックスも持ち、特に異性と体の関係を持つことへの躊躇と拒絶感を隠し持っていた。
そんな彼女のガードを打ち崩してきたのが、健人の掛ける催眠術だった。佐伯さん本人には、『佐伯弥生大百科を借り出した健人は彼女の秘密を全て知ることが出来る』という暗示を介して、彼女のプライバシーを相当に覗き見させてもらった。そのうえで、『男性器、特に健人のペニスへの興味』を植え付けさせてもらった。素直な佐伯さんは今も、暇を持て余すとつい、健人のペニスのことを夢想しているはずだ。そして、これだけでは彼女の拒否感をスムーズには壊せないと感じた健人は、彼女に『アンソロジー本』という設定の一連の暗示を擦りこむことで、普段の彼女にはない、別の個性的なキャラクターたちを演じさせることに成功した。健人をリードして、性的な関係にもとてもオープンでフランクな、『セクシーなヤヨイ姉さん』。お淑やかだが持病の発作のために頻繁に発情してしまい、治療のために全てを主治医に委ね、何でも包み隠さず報告してくれる『薄幸なヤヨイお嬢様』。そして健人への愛に満ち溢れ、それを表現することに最大の喜びを感じている、包容力と奉仕の精神の人、『新婚のヤヨイ奥様』。この3人のキャラクターを使い分けさせることで、健人が望むことは大抵、実現することが出来た。
始めのうち健人は、佐伯さんが自分自身の人格への干渉を本能的に拒絶することを避けるために、敢えてこれらのキャラクターを「アンソロジーに描かれた、異なる作家による別個のキャラクターであり、たまたま佐伯弥生という名前と体を共有しているだけ」であるということを強調した。特にヤヨイ姉さんの性格や行動、記憶は佐伯さん本人とは分断されたものである、と伝えた。しかし、途中から徐々に、健人は擦りこむ暗示を変えていくように細工してきた。佐伯さんの深層意識も気づかないうちに、これら「アンソロジーの別キャラクター」たちは、最終的に佐伯さん本人のキャラクターに統合されていく、という、アンソロジー本の最終章への筋書きを伝えていくようにした。結果として、どうしても受入れられないような記憶を除いて、佐伯さんは、別キャラクターのしたことも、自分自身の行動だったと思い出すようになっている。
例えば今朝のお昼休み、佐伯さんは人目につかない別室に鍵を掛けて、健人と2人でお弁当を食べようとしていた。健人がウキウキした表情で、まだ付き合いたての彼女のお弁当を待つ。ナプキンを風呂敷のようにしてお弁当箱2つを縛っていた佐伯さんは、蓋を開けてギョッとする。朝、お弁当を作っていた時には、家事が得意な『ヤヨイ奥様』が料理してくれていたことを、彼女は気づいていないのだ。
「わっ……………ちょっと………これ…………、やっぱり、駄目です。ごめんなさい。健人さんは、今日、向こうのファミリーマートで、お昼ご飯を買ってもらう訳にはいきませんか?」
真っ赤になった顔に申し訳なさそうな表情を作りつつ、佐伯さんはせっかく作ったお弁当箱を下げようとする。
「え? …………どうして? ……………見せてくださいよ。弥生さん」
「駄目なんですっ。…………私、どうしてこんな…………。多分その、浮かれて、調子に乗りすぎたんだと思います。変な、お弁当になってしまっているので…………。お見せ出来ません」
「弥生さん、『バンザイしましょう』か?」
「わぁっ…………………………やだ…………、ちょっと…………。健人さん………」
お弁当の蓋を両手で持ったまま、佐伯さんがピンッと両腕を天井へ向けて伸ばす。一連の動きとして、彼女は立ち上がって背筋を伸ばした。腕はそのままの姿勢で固まってしまうので、佐伯さんは左右の手を見て、困った表情になるが、彼女自身ではどうにも出来ない。
こうした、いくつかの後催眠暗示は、彼女の了解のもとで掛けさせてもらっている。何しろ、『自分が健人に催眠を掛けている』時には、物凄いこともしてしまっているので、ちょっとした悪戯は受け入れなければならないと、佐伯さん自身が固く信じているのだ。こうして多少の催眠術を使った悪戯は、彼女も認識している、公然のものになりつつある。ちなみに、健人が植え付けた暗示は『バンザイしましょう、と健人に言われると、両手を上に伸ばしてそのままのポーズで固まってしまう』というものだったが、いつの間にか佐伯さんは腕を上げるだけでなく、立ち上がって直立不動になる、というアレンジが加わって反応するようになっている。ここは彼女本来の律義さが反映されているのだろう。そして今回は、両手を「パー」の形に開くのではなく、お弁当の蓋を落ちないように両手で掴んだまま、挙手している。これは、人間の柔軟な思考が反映されているのだろう。いずれにしても、健人からすると少しだけお得な気分になる、佐伯さんの反応だ。腕を上に伸ばして背筋をピンと伸ばすと、彼女の胸の綺麗な形が、服から浮き出て、より強調されるからだ。
「へぇ………どれどれ………。あっ。可愛い。ピンクの桜でんぶで、おっきなハート。あれ? 下に、海苔を切って作った文字で、何か書いてあります? 『こんやは、わたしをたべてね。けんとさん ハート』。こっちの小さいハートは、ハムで出来てるんですかね? ………すっごい手のこんだお弁当…………と、すごい、ストレートなメッセージ。………あはは、ありがとうございます」
「きゃぁーーっ。見ないで…………。読まないでくださいっ…………。これは、何かの間違いです。私の一時の気の迷いなんですっ。本当にヤダ…………。恥ずかしぃ…………。違うんです。たべてね………とか、変な意味、ないですから」
天井に向け一直線にお弁当の蓋を掲げながら、バンザイのポーズで固まったままの佐伯さんが赤い顔で狼狽する。『新婚のヤヨイ奥様』が上機嫌に作りこんだ、愛情丸出しの愛妻弁当は、佐伯さん本来の性格からはかなりかけ離れた演出がされてしまっていたが、佐伯さん本人が回想すると、自分自身が、その時だけの妙なテンションで作り上げてしまった、黒歴史のように思えるようだ。メッセージの意図を必死で否定して、誤解を解こうと、モゴモゴと言い訳している佐伯さんを、健人がもう少し、からかわせてもらう。
「そうなんですね…………。変な意味は、無いんですね…………。でも、僕、友達から聞いた話だと、女の人って、彼氏とヤル気満々の日は、勝負下着とか着てきたりするって………。弥生さんはまさか、そんなこと、ないですかね? ………ま、日中は堅めのお仕事ですし…………ね………」
「……………………。ぐぐぅ………………」
まるでセイウチが唸ったかのような音が出た。固まったままのポーズで、何かを思い出した佐伯さんは目を丸くして、言葉を失ってしまっていた。健人は笑いを? み殺す。お弁当を作る時には『ヤヨイ奥様』に出てきてもらい、下着を選ぶ時には『ヤヨイ姉さん』が主導権を握る。昨日の夜、そのようにメールで指示をしておいたのだ。携帯メールを読んだあと、佐伯さんはきっと、メールを削除して、そもそも受信したことすら忘れていただろう。そして、今朝早くに、下着選びとお弁当づくりの時に、それぞれ、設定された通りのキャラクターが佐伯さんの体を動かして、その時の記憶を今まで凍結させていた。………全てがうまくいっていた、という結果を、今、恥ずかしさに身悶えしている彼女の様子から確認することが出来る。午前中の彼女の落ち着いた仕事ぶりを知っている利用客たちは、お昼休み、彼女が真っ赤な顔で目を白黒させ、口を金魚みたいにパクパクさせながら彼氏の前で恥じらっているとは、想像もしていないだろう。とても気分の良いお昼休みだ。
これから佐伯さんの姿勢を解除してあげたあとで、ヤヨイ奥様にまた来てもらおう。彼女は膝枕でお弁当を一口ずつ、「アーン」と言って食べさせてくれるくらい、喜んで応じてくれるはずだ。時々、ヤヨイ奥様に帰っていってもらい、佐伯さん本人の正気を取り戻させよう。その度に彼女は、恥ずかしがって、そうした食べさせ方を中断したがるかもれないけれど、ヤヨイ奥様と佐伯さん本人の意識を何回も往復でスイッチさせていくうちに、諦めて、そうしたお弁当時間の過ごし方に、慣れてきてくれるのではないだろうか。
お昼休みが終わったら、佐伯さんのキビキビ、颯爽とした司書さんとしての仕事っぷりを2階から眺めさせてもらう。その間、彼女がエプロンとシャツの下に、どんなド派手で過激でエロティックなランジェリーを身につけているかを、想像して楽しもう。大事なお仕事を、ヤラシイ下着を着ながら、素知らぬ顔でこなしている自分を意識して、ちょっと興奮したり、濡れたりしなかったか………。その点は、後から『薄幸なヤヨイお嬢様』に診察スタイルで尋ねてみようか。佐伯さんは本当だったらどんなに隠し通したいことでも、健気で純真な眼差しで詳細まで正確に説明してくれるはずだ。もしも、お仕事時間中に佐伯さんが、密かに興奮していたりしたことがわかったら、治療の一環として、みっちりお仕置きしてあげないといけない。そんなことを考えているだけで、閉館までの時間も、閉館後の時間も、どちらも楽しみなものになるのだった。
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宮津市立北図書館の閉館時間が来ると、そこは今までに輪をかけて、健人のパラダイスとなる。今日も戸締り当番に立候補した佐伯さんは、まずは館内を回って利用客が出払ったことを確認し、窓のカーテンを1つずつ閉めていく。そして受付カウンターを撮影していた防犯カメラの録画停止ボタンを押す。利用客にストレスのない読書時間を提供するため、この館で使われている防犯カメラは受付カウンターを撮っているもの以外は、出入り口にあるものだけだ。職員通用口のカメラは、1年半も前から故障しているが、威嚇的な意味をこめて、ただカメラが設置されているというポーズだけを取って残してあるそうだ。閉館時のチェックノートに記入を終えた佐伯さんと健人が、館内で何をしていたとしても、他人には見つからないという状況なのだ。
休憩時間とは違って、読書スペースの机や椅子を使って、佐伯さんは健人に催眠術を掛ける。自分が掛けている、という暗示に従って、そう思い込んでいるだけなのだが、佐伯さんは本が並ぶ共有スペースで大胆にも健人の唇を奪う。そして彼の催眠状態をより深める効果があると信じて、服を脱いで下着姿へと変わっていく。答え合わせの瞬間だ。蝶々の柄の刺繍がされた、光沢ある紫色の下着。やはり健人の想像を超えて、なかなか攻めていた。蝶々の柄が無い部分は極めて薄めの縫製になっていて、素肌が透けて見える。そしてショーツは、前から見ると大きな蝶々が羽を広げているようなデザインだが、後ろはほとんど紐と言えるようなTバックになっていた。このショーツだと、午後の仕事の間、食い込みが気になって仕方がなかったはずだ。そのフラストレーションを発散するかのような勢いで、彼女は健人のズボンとトランクスを降ろさせて、有無も言わさずに彼のペニスを咥えこむ。
「………んん………」
やっと一息つけたと言わんばかりに、佐伯さんは健人のモノを根元まで咥えたところで、安堵の溜息を鼻から漏らす。今の彼女にとって、「催眠状態にある」健人のペニスを好き勝手にしゃぶれる時間が、究極の息抜きタイムになっているようだった。
「このあと………。あっちの机の上で、しますか?」
健人が、フェラチオに没頭している佐伯さんの頭を撫でながら尋ねると、彼女は舌の動きを止めないまま「ぅん」と喉を鳴らして頭を上下に振る。『催眠術に掛かっている』あいだ、健人は思ったことを自由に口に出して良いということになっている。そして佐伯さんも、自分の欲求の発散と同時に、出来るだけ健人の要望も応えてあげようと思ってくれている。これは健人から見るとWin-Winとしか言いようのない、佐伯弥生さんの催眠術セッションだ。残念なところがあるとすれば、それは佐伯さんは自分が催眠をかけて心に溜まった欲求を解放しているつもりになっているけれど、すべて裏で健人が設定した通りに行動している、ということくらいだろうか?
1F図書スペースの窓に近い場所にある、大きく縦長の読書テーブルは12人掛けとなっている。たった30分前まで、ここで何人もの利用客が、雑誌を読んだり、新聞を読んだり、真面目な顔で巨大な図鑑を開いたりしていた。確か今日の昼過ぎには、お喋りの声が大きかった主婦2人組を、司書の佐伯さんが、やんわりと注意してたしなめていたはずだ。そのテーブルに、健人が下半身裸になって寝そべると、彼を跨いだ佐伯さんが、まずは熱心なフェラチオを、そして途中から彼の腰の上に自分の腰を持って来て、騎乗位でのセックスを始める。最初の頃は「ヤヨイ姉さん」や、ポルノ映画に感化された時の「ヤヨイお嬢様」しかしてくれなかった、騎乗位というポジション。それが今では、「催眠状態の健人は抵抗しないし、そのことで佐伯さんに幻滅したり絶対にしない。そして後からそのことの記憶がない」という設定を受け入れた上で、だが、佐伯さん本人も、自分からしてくれるようになりつつある。この気持ち良さというものが、佐伯さんの体と深層意識に、繰り返し刻み込まれているからこそ、奥手の佐伯さん本人も、徐々にこの体勢を受け入れざる、あるいは求めざるを得なくなってきているのだろう。
紫色の派手な下着を肌から外して脇に置き、両手を健人と繋いで、佐伯さんが本格的に騎乗位の体勢で腰を振り始める。彼女の腰の動きも単純な上下運動ではなくなりつつある、角度を少しずつ変えたり、腰をくねらせるようにして健人のペニスを刺激したり、あるいはわざと彼の太腿に自分のお尻のお肉をペチンペチンと打ちつけてみたりと、芸が細かくなってきている。上体の肌を赤く染めながら、喘ぎつつ悶えつつ、徐々に乱れていく彼女を見上げているのは、とても満ち足りた気持ちになるひと時だ。つい先ほど、向こうの席に座っていて、佐伯さんから大きな声でのお喋りを注意された中年女性たちは、今の彼女の喘ぎようを見たら、何と思うだろうか? そんなことを考えると、また格別な気持ちになれるのだった。
「弥生さん…………。あとで、僕の催眠術にも、掛かって欲しいなって、思ってます」
「はぁっ……………あんんっ………………。良いわ…………。あとで……………、健人さんの…………、どんな暗示も………………受け入れるから……………。もう少しのあいだ…………、良い子でいてね……………」
「………………でも、弥生さん。………少しずつ、…………気持ち良すぎて、僕が催眠から覚めていく気がします」
「そっ…………それは駄目よ……………。ここで………覚めちゃ………、ムチュッ」
健人に跨って、性器で繋がりながら、佐伯さんは慌てて上体を折り曲げると、健人の顔にキスをする。彼が急に催眠から覚めることを恐れて、夢中でキスをする。より情熱的なキスならより深く催眠状態に落としこめる、強力な導入になる。そう信じきって、健人と舌を絡める。唾液を交換しながら、長いディープキスに没頭する。その間、腰の動きも止まらない。佐伯弥生さんは、閉館時間後もとても働き者だ。
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「ワフッ…………、ウォフッ」
閉館時間のあとも図書館の入口横に設置されている返却ボックスには、貸し出していた本が返されていく。それでも一旦、閉館前に返却された書籍をシステムで返却登録した上で、司書さんは正しい蔵書場所へと戻していく。そのお仕事を、今は佐伯弥生さんではなく、『忠犬サエ公』に担ってもらっている。健人に暗示を擦りこまれて犬になりきっているのだ。ただの犬ではない。日本で一頭の『図書館補助犬』だ。
「はい、サエ公。良い子だね。………次は、これ。日本の小説だよ。JN-862410だって。どの棚かわかる?」
「ウォンッ」
サエ公は嬉しそうに一吠えすると、興奮してお尻を左右に振り振りしながら、まるで餌を待つように、口を開けて本が手渡されるのを待つ。健人はハンドタオルで挟みながら返却本を渡すと、サエ公は唾が本につかないように、器用にタオルの生地の部分に歯を立てて、本を咥える。
「ゴー。サエ公」
「ウォフッ」
四つ足で、軽快にとまではいかないまでも、必死に駆けていく佐伯さん。返却された本を、元あった場所に戻すのはお手の物だ。
最初に彼女を図書館で犬にした時は、『可愛い子犬』という暗示を掛けてしまったために、健人は小さな失敗をした。目を離している間に、天真爛漫な子犬になりきっていた佐伯さんは、自分が最も好きな「海外小説」のコーナーの近くを散歩していて、その棚の木の部分に、マーキングとしてオシッコを初めてしまったのだ。健人の足元に戻ってきた彼女は、タイトスカートも中の下着も、そしてストッキングは足首まで、ズッポリ濡れて、汚してしまっていた。その日の彼女は、近くの量販店にあったジャージのズボンを履いて、帰宅することになってしまった。
当然、その時の記憶は消した上で彼女は覚醒させている。けれど佐伯さんの図書館を綺麗にしておくための執念は凄まじい。健人が『図書館補助犬』という設定を確立して、得意げにその暗示に掛かっている間の佐伯さんの記憶を残したまま覚醒させた時、彼女は「本を咥えさせるなら、絶対に布か何かを間にかましてくださいっ。唾液が本の表紙に付いたらカビの原因になりますっ」と、珍しく怒りを爆発させた。それくらい、本と図書館の扱いに注意を払っている彼女が、海外小説コーナーの棚から絨毯にかけて残っているシミに気づかないか、健人は開館時間中も彼女がその近くを通るたびに、半分ヒヤヒヤ、そして半分ドキドキしている。
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薄幸なヤヨイお嬢様の治療も、定期的に続けている。佐伯さんの中にヤヨイお嬢様のキャラクターを入れると、普段、佐伯さんが隠そうとしているような私生活やプライベートの秘密も、全て洗いざらい教えてくれるのが、便利でもある。そして彼女の、真面目で純真な深窓の令嬢っぷりと、強力な性欲の暴走とが戦うのを見ているのが、興味深いし魅力的だからでもある。
閉館後の図書館で時々、ヤヨイお嬢様の発作を、抑止せずにそのまま解放させてみる時がある。恥ずかしそうにしつつもスカートやストッキングにショーツまで脱いで、お尻を突き出して座薬の処方をお願いしてくる、可哀想なお嬢様に「申し訳ないけれど、今、薬を切らしています」と断り続けると、次第に発作的な性欲の爆発を抑えきれなくなった彼女は、目に入るもの全てに発情をし始めて、無差別に順番にまぐわおうとし始める。掃除道具、絨毯、机、壁、そして窓。相手かまわず裸の素肌を押しつけ、擦りつけ、切なげに腰を振る。その姿はもう、美女の大立ち回り、大暴れといったところだ。特に絨毯や壁、棚とセックスしている時の彼女は、一際大きな声で喘いで腰を動物的にグラインドさせている。まるで彼女が心底愛している、図書館そのものと結合しているかのように………。もちろん、彼女と本とを実際にまぐわせたこともある。よりによって、健人が選んだのは愛蔵版の新約聖書だった。本の背表紙を内股に挟んで、両手で髪をかき乱しながら濡れる股間を擦りつけていた彼女は、寝転がると本を開いて自分の胸や乳首の先端を本で挟んで強く刺激して喘ぎ泣いた。その後も分厚い本を懸命に両胸で挟んで揉み擦ったり、パラパラと弾かれるように連続でめくられていくページで自分のクリトリス周辺を擦ったりと、スマホのレンズを向けている健人が呆れるほどの、激しく、背徳的な行動を続けて、少しでも多くの快感をそこから貪りつくそうとする。背表紙の角を股間の粘膜に押しつけて激しく腰を動かしてイッた時には、図書館中に響き渡ったと思えるような、甲高い声で喘いだのだった。
敬虔なクリスチャンが、健人の録画した動画を見たら、卒倒するかもしれない。結局、愛蔵版の高価な本はビショ濡れになり、干した後にもページが波打ってしまっていたので、健人と佐伯さんが折半して、本を弁済することになってしまった。もっとも、佐伯さんの方はそのこと自体を覚えていないので、意識しない出費を、あとから家計簿をつける中で見つけ出してしまったらしい。生真面目な佐伯さんが、どうしても、何を買ったのか思い出せないので、自分の財布の緩さを随分と反省していたようだった。
最近、健人がハマっている、ヤヨイお嬢様との遊び方は、彼女と別れる際に、課題図書(これは図書館から借りた、本当に実在する本のことだ)を渡していくことだ。お嬢様には『自宅にいる間に、この本の中で必ず一か所は、興奮する場所を見つけ出して、そこを読みながらオナニーしなさい。イクまでオナニーをした上で、証拠として、そのページにシミ付きのパンツを挟んで翌日、健人に返しなさい』と伝えてある。健人が大学の講義が終わってから、あるいはサボってしまえる講義の日は朝から、図書館にいると、決まって司書の佐伯さんが、健人が読書していたり勉強している机のそばまでやってきて、人目を気にしながらも、昨日渡した本をスッと返してくる。そして、(少し赤らんではいるけれど)素知らぬ顔をして、仕事に戻っていく彼女の後姿を見送りながら、健人は彼女のショーツが挟んであるページを確認して、ほくそ笑むのだ。
ハーレクイン小説や、日本の恋愛小説を手渡すと、オーソドックスに恋人たちが盛り上がる夜や結ばれたところのシーンで彼女はオナニーをするようだ。そして昭和を感じさせる、中年男性向けの猟奇的な官能小説(研究者向けの成人限定室にあったものだ)を渡すと、彼女は主人公である未亡人が、悪徳地主に荒縄で縛られて折檻されるというシーンに、2つもショーツを挟んで返してきた。「本の中のどこかでは、必ず一度はイクまでオナニーをする」という暗示を与えたはずなのに、佐伯さんはそのシーンで繰り返し自分を慰めて、2度もエクスタシーに達していたようだった。
美しい女性患者が主治医の先生に悪戯されるという本を渡した時に、5着もの色とりどりのショーツが挟まれた状態で、その本を翌日に返してきたのが、ヤヨイお嬢様の回数という観点での最多記録だ。ショーツを受け取り続けていてもキリがないので、一通り健人の自宅で確認した後、手洗いで選択して、乾かしてから返しているのだが、この時はまるで、洗濯業者にでもなったような気分になった。
そして健人は彼女に、ほとんど興奮しようがないような、難解な科学書や哲学書も渡して、反応を楽しんだりしている。一番、ヒットしたのは、宅建の参考書を渡した翌日、困った表情の彼女が返してきた本は、全体が伸びきったショーツに包まれたような状態で帰ってきた。休憩時間にヤヨイお嬢様を呼び出して事情を聞いてみたら、どうしても自分の興奮を高められるようなページがなく、仕方がなく「健」と言う字を数えながら、恋人の君沢「健」人のことを考えつつオナニーしたところ、4回イクことが出来たそうだ。可愛らしくて健気なお嬢様には、ご褒美がわりに、その時は彼女の想像の中に存在する座薬を4つ連続で入れてあげた。副作用で潮を噴くほど快感にわなないたあげく、失神してしまったが、この上なく幸せな気分だった、と、あとから、両手で頬を包みながら教えてくれたのだった。
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新婚のヤヨイお嬢様は佐伯さんと健人がデート中など、気まずくなった瞬間をいつも救ってくれる。喫茶店でクリームソーダを頼んだ時、健人はアールグレイの紅茶を頼もうとしている佐伯さんに、一緒に飲まないかと誘ったのだが、彼女はアイスクリームは太るから、と遠慮してしまった。その後、会話がパタッと続かなくなる。健人も佐伯さんも、もともとプライベートではそれほど社交的な性格ではなく、デート中に沈黙が流れて気まずくなることもしばしばだ。そんな時に、「新婚のヤヨイ奥様、お願いします」と一言告げるだけで、佐伯さんの表情が一変する。さっきの、ギコチなく伏し目がちになっていた彼女が急に立ち上がると、対面から、健人の隣へと座り直す。そして彼の肩に頭を寄せたり。体を密着させたりと、途端にイチャイチャし始めるので、お店のウェイトレスさんも目を丸くすることが多い。クリームソーダが届くと、手を叩いて喜んでくれる、可愛い奥様。彼女は先に細長い銀色のスプーンを手に取ると、緑色のソーダの上に浮いているヴァニラアイスを掬って、「健人さん、ア~ン」と言って、彼に口を開かせる。口を開けて、アイスクリームを口の中まで運んでもらった健人がスプーンから歯でアイスを削ぎ取ると、ニッコリと笑顔の佐伯さんは、今度はまだ僅かにアイスが残っているスプーンをパクッと自分の口に入れてしまう。
「んふふふふ。………健人さんと間接キッス。………大成功っ」
満面の笑みを浮かべながら佐伯さんはそう言うと、まだスプーンを名残惜しそうにチューチュー吸いながら、健人に向けて左手でVサインを作って見せた。ヤヨイ奥様の、ちょっとイタいけれど、ストレートな愛情表現。健人はこれに照れながらも、温かい気持ちにさせてもらっている。そして、遠巻きにこちらをチラチラと見ているウェイトレスや、営業担当風のサラリーマンに対しても、優越感を感じることが出来る。
(君たち、さっきまで僕らのこと、ギコチないカップルだと思っていただろう………。彼女と男のルックスやグレードが不釣り合いだ、とか思っていたかもしれないな。…………でも、見てよ。彼女がこっちにベタ惚れなんだよ。………ほら見てよ。)
健人が2人の間に置かれているグラスの中のアイスクリームを人差し指で掬い取ると、何も言わなくても佐伯さんが頭を寄せてきて、健人の指ごとパクッと咥える。そして本当に幸せそうな笑顔になりながら、チューチューと音を立てて、健人の指を吸う。その瞬間に「奥様はお帰りください」と言うと、蕩けそうな笑顔だった佐伯さんの表情が引きつって固まる。
「ひっ……………やっ…………やだっ…………。ゴメンなさいっ」
こういう時の佐伯さんは、パニックになると、少し可哀想なくらい滑稽に慌てる。恥ずかしさのあまり健人を押しのけたり、とっさに彼氏を押しのけたことを今度は謝ったり、慌てて健人の対面に座り直して周囲の目を気にしながら縮こまったり、何かを誤魔化すかのように、さっき出されたばかりの紅茶を一気に飲もうとして、舌を火傷しかけたりと、日ごろの落ち着いた物腰から想像出来ないくらいにアップアップになってしまう。健人は何度か、彼女が実際に、「あわわわわっ」と、まるで漫画の登場人物のような言葉を口にしているのを見たことすらある。そしてそんな彼女のことを、本当に可愛らしいと思う。
「弥生さん、大丈夫ですよ。落ち着いて………。別に、誰に見られたって良いじゃないですか………。お付き合いしてるんだし」
健人が宥めても、佐伯さんはまだ周囲をチラチラと見ながら、真っ赤な顔で縮こまる。
「そんな訳に、いかないですっ。人目もあるのに…………まるで、付き合いたての、三流高校のカップルみたいなこと…………。いえ、あの、学歴がどうのこうのと、言いたい訳では無いんですよ………」
まだ動揺の収まらない様子の佐伯さんを見て、健人はもう一度、「新婚のヤヨイ奥様、お越しください」とお誘いをかける。すると佐伯さんはまた忙しく、席を立って健人の隣に擦り寄ってくる。
「健人さ~ん。………わたし…………ベロをちょっと、火傷しちゃったかもしれません。…………フーフーして、くださいませんか?」
目一杯、同情を買うような可哀想な表情を作って、ベロを突き出して甘えてくる奥様。健人が口をすぼめて、彼女の口元5センチくらいの距離から、フーフーと、冷たい息を吹きかけてあげると、ヤヨイ奥様の表情は、ベロを伸ばしたままで、嬉しそうにほころぶ。この一連のやり取りを見たら、四流高校のバカップルだって、気持ち悪がるかもしれない。けれど、パッとしない10代を過ごした健人にとっては、こういうイチャツキかたも、恥ずかしいようで嬉しい。
けれど、その後、ヤヨイ奥様から御礼もこめて、クリームソーダを口移しで食べさせてあげたいというオファーが来た時には、さすがの健人も逃げ回ることになる。そして催眠が解かれて、ヤヨイ奥様がいなくなった後、一瞬呆然と店内で立ち尽くした佐伯さんは、すぐにお店から、逃げるようにして出て行ってしまう。結局、健人がお会計することになったのだった。
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愛情をストレートに出して、健人の世話もあれこれと焼きたがるヤヨイ奥様は、時には、やり過ぎることもあるけれど、健人から見て、佐伯弥生さん本人には着実に良い影響を与えてくれている。彼女の日々の行動と健人のために何かをしている時の幸福指数の高さは、ジワジワと、佐伯さんの深層意識に染みこんでいっているのだ。
佐伯さんのお買い物に付き合っていると、健人は最近彼女から、「これとこれ、どちらが良いと思いますか?」と聞かれることが増えた。以前の彼女は、かなり自分の好みや趣味がハッキリしていたので、判断も早かった。そして買い物自体、それほど頻繁に必要としない、本以外のものをあまり必要としていない、ややミニマルな生活を好んでいたようだった。しかし今は、靴を選ぶ時もシャツを選ぶ時も、そして帽子やスカートを買う時にも、健人の意見を聞きたがるようになっている。
「どうして、弥生さんって、毎回、僕に聞くんですか? 僕あまり、ファッションセンス、良くないですけど」
健人は気になっていたことを、彼女に逆質問してみる。すると彼女は、顔を赤くして伏し目がちに答えた。
「だって……………、健人さんに、可愛いって思ってもらえるような、服とか、靴とか、着たいじゃないですか…………。その………、お付き合いしている訳ですし………」
健人がその言葉に、きちんと気の利いた返事を返せたかどうかは、きちんと覚えていない。それどころではなく、健人は心の中でガッツポーズをキメていた。
『おう…………。これって、彼女が、義務感や罪悪感でお前と付き合ってるんじゃなくて、好きで付き合ってる、っていう証明だよな。…………この人もずいぶん、素直になってきたじゃないか………。』
健人の頭の中で、もう一人の自分の声が久しぶりに響く。最近、心に思ったことは、お付き合いしている佐伯さんに、そのまま投げかけることが多いからか、頭の中でもう一人の自分と会話する時間が、減ってきている気がする。
(そうだよね………。これも、ヤヨイ奥様のキャラクターの影響がジワジワと出てきているのかな? いや、まだそれを期待するのは、先のことかな?)
そんなことを自問自答していた瞬間、佐伯さんと並んで歩いていた健人を、彼女が呼び止めた。
「健人さん、ちょっと止まってください。靴の紐が解けていますよ。………踏むと危ないから」
そう言われて、足元を見ると、確かに右足の靴紐が解けてダラリと垂れさがっていた。彼が立ち止まってしゃがみこもうとした時に、それを制するように、佐伯さんが彼の前に回りこんでしゃがんだ。
「私に結ばせてくださいっ。………ちょっと、こっちの向きから、蝶結びをするのが、慣れてはいないんですが………それも、練習ですから………」
「………練習?」
健人は彼女の言葉に、多少の疑問を持ちつつも、道端で立ち止まって、恋人に靴紐を結び直してもらっていた。通行人の目が少しだけ気にならなくもない。道端で跪いた女性に靴紐を結ばせている男性を、あまり見慣れないのだろう、いくつかの視線を感じて、健人は若干、居心地の悪い思いをしながら、彼女が結び終えるのを待っているのだった。
「はいっ。上手に出来ました。………健人さん。身の回りのことなどは、もっと、どんどん、私に任せてくださって良いんですよ」
嬉しそうに立ち上がった彼女が、健人と向かい合ったまま、優しい笑顔でそう言ってくれる。
「私、健人さんのお世話するの、嫌いじゃないみたいです………。もちろん、最初から全部上手には出来ないかもしれないけれど、色々、練習します」
「………でも………。僕も、自分の靴紐くらい………」
「その分、健人さんには、もっと大きなこととか、未来に向けたこととか、考えていて欲しいんです。…………私、健人さんについていきますから………」
そこまで言うと、少し恥ずかしくなったのか、佐伯さんは両肩をすくめた。その後、姿勢を正して、咳払いをする。
「ま、今のは、少し、言い過ぎかもしれませんが…………。大体、そういうことです」
それだけ言うと、彼女はまるで赤くなっている自分の顔を隠すかのように、回れ右をして、健人の前を足早に歩いていくのだった。
さっき、健人を覗き込むように見上げた彼女の視線。その柔かくて幸せそうな、愛情のこもった表情には、見覚えがある気がする。
(やっぱり、今の…………。ヤヨイ奥様の影響が少しずつ、佐伯さん本人に現れてきてるよね?)
『今のは、さすがに言い逃れ出来ないと、俺も思うな………。やっぱ、効いてるよ。ヤヨイ奥様効果。』
健人は彼女がこちらを振り向かずにスタスタと進んでいくのを良いことに、実際にガッツポーズを取って、頭の中のもう一人の自分の声と、これまでの健闘を称え合うのだった。
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図書館で仕事をしている時の佐伯さんにも、健人はほんの少しずつ、暗示を擦りこんでちょっかいを掛けている。佐伯さんはお気に入りの本が返却された時、元あった棚の場所に戻す際に、誰も自分を見ていないことを確認した後で、両手を上げ、背筋を反らし、ピョコンと、バレリーナのようなポーズで軽く跳ねて、本を戻す。その一連の行動の後で、自分のやったことと、おそらくこれが健人の掛けた後催眠暗示の悪戯だということに気がついて、顔を赤くする。もう一度、誰にも見られていないことを確認した後で、そそくさと受付カウンターまで戻ってくる。動線上に健人が勉強しているデスクがある時は、健人をキッと目で威嚇したり、時には誰にも気づかれないように、彼の二の腕をツネって行く時もある。そんな彼女の、仕返しさえも、健人には可愛いらしいと思えてしまうのだ。
以前、彼女に昼休み後も残る暗示を刷り込んでみたことがある。すると午後の勤務が始まって10分ほど経ったところで、しかめっ面の彼女が健人の横までノシノシとやってきて、耳元で囁いたことがある。
「けんとしゃん! あかちゃんことばが、おりまちぇんっ。このままだと、あたち、こまりまちゅ。なおちてくだちゃいっ!」
プリプリ怒っている彼女の目の前で、指を一回、弾くだけ。それだけで、彼女の口調は元通りの丁寧な成人女性のものになる。もっと怒りたそうな顔をしながら、慌てて仕事に戻る彼女の後姿は、本当に可愛らしかった。
そんな時のこともまた、思い出しながら、今回もメッセージを彼女の携帯に送ってみる。
『ヤヨイ姉さん、真面目な図書館でのお仕事は退屈でしょ? ちょっと刺激を味わうために、奥の棚のスペースで、誰にも見られていないことを確認してから、スカートをめくりあげて、パンツを丸見えにしてみませんか?』
真剣な表情で端末に蔵書の更新情報を打ちこんでいた佐伯さんが、ふと自分の携帯を覗き込む。しばらくその姿勢で固まっていた後、2Fの健人のいるデスクのあたりを見上げた佐伯さんが、不敵な笑みを浮かべて、こちらにウインクを送ってくる。立ち上がった彼女が歩いて行った先へ、ついて行ってみると、郷土の古地図が並べられている棚の奥で、美人司書さんが両手で自分のスカートの裾を、エプロンごと捲り上げ、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、直立していた。その日、彼女が履いていたのは、光沢のある、PVCのような素材でできた、ショッキングピンク色のショーツ。彼女の保守的なアウターの着こなしとはあまりにも対照的で、その場で写真を撮ったら、まるで露出癖を持った、本物の倒錯者のような画像になっていただろう。
彼女が素知らぬ顔で受付カウンターに戻ったところで、健人は彼女に『ヤヨイお嬢様、今まで、何をしていましたか? 発作と思わしき、体調の変化などありますか? カルテに書き留めるので、詳細にメールで返信ください。』とメッセージを送ると、カウンターで座って作業に戻ろうとしていた彼女が携帯を見ながら両肩をすくめ、周りを不安そうに見回す。5分もたったあとで、佐伯さんから、長文の返信が返ってくる。そこには如何にお嬢様が、仕事が退屈に思えてしまい、出来心で仕事中に恥ずかしい姿になってしまったか、利用客の誰かに見られたらと思うと気が気でなかったが、それが妙なスリルと興奮を掻き立てて、彼女がショーツを濡らしてしまったか。この発情が発作に繋がらないように、彼女がこの後、女子トイレのボックスのなかで自分を慰めるつもりであること。そして休み時間が来たら、主治医の君島先生にまた、座薬の処方をお願いしたことなどが、切々と、そして赤裸々に書き連ねられていた。それを読んだ健人はまた、素の佐伯さんに、『このメッセージ、何でしたっけ?』とちょっかいをかけてあげたくなってしまう。催眠術で彼女をからかい続ける、無限ループが出来上がってしまい、佐伯さんはもちろん、健人自身もそこから抜け出せなくなってしまうのだった。
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児童の絵本スペースには、子供たちがチョコンと腰掛けるために、クッション性のある、直方体のビニール椅子が、8個ほど並べられている。そこでたまに、ボランティアの女性が、幼稚園くらいの子供たちのために、絵本の読み聞かせを行う時間がある。閉館日に、健人は深い催眠状態の佐伯さんを大人用の椅子に座らせて、彼女に読み聞かせをしてもらうことにした。
「僕が肩を叩くと、佐伯さんは可愛らしい子供たちに、読み聞かせをしてあげます。けれど特別なことは、この読み聞かせ会は文部科学省の特別な実験の一部であることです。これは『超早期性教育』というプログラムの試行で、選ばれた図書館の司書さんが行う、名誉ある試行なんです。子供たちが性的なことに小さなころから忌避感を持たないように、かなり大人の事情を明け透けに教えてあげます。佐伯さんは試行の第一弾に選ばれた、優秀な司書さん。これはとても名誉なお仕事です。読む本は『佐伯やよいちゃんのエッチなまいにち』という本。作者は何と、『佐伯弥生大百科』の編者と同じ人ですね。だから、何でも本当のことが、少し子供向けに噛み砕いて書かれているんですよ。ただ読むだけではなくて、子供たちの理解を深めるためにも、進んで対話を交えて進めましょう。さぁ、子供たちが待っています。読み聞かせ会を始めましょう」
ポンッと肩を叩くと、佐伯さんは両目をパチクリと瞬きさせた後で、優しそうに微笑む。
「………はい。それでは読みますよぉ~。『佐伯やよいちゃんのエッチなまいにち』。はじまり、はじまり~」
健人は絨毯の上に体育座りになって、パチパチと手を叩いてみた。
「やよいちゃんは、エッチな女の子です。昔はそんなことないって、自分では思っていたのですが、さいきん、どんどん、どんどん、エッチになっていきます。これは、やよいちゃんがどんなに、いやだよ~って、思っていても、全然止まりません」
笑顔で優しく、子供たちに呼びかけるようなトーンと、その内容のギャップで、健人は思わず笑いそうになる。
「やよいちゃんが大好きなものは、とーっても仲の良いお友達、健人さんのオチンチンです。ほかにも、健人さんの手とか、声とか、背中の筋肉とか、匂いとかも好きです。でも、やっぱり一番大好きなのは、健人さんのオチンチンなんです」
「お姉さん、質問です。…………やよいちゃんはどうして、そんなに健人のチンチンが好きなんですか?」
「………う~ん。それは、やっぱり、とっても格好良くて強そうで、やよいちゃんをすっごく気持ちよくしてくれるからだと思うな。……………魔法……。そう、魔法のオチンチンなのかもしれないね。…………わかりましたか?」
健人がとりあえず無言で頷いておくと、佐伯さんは嬉しそうに微笑んで、また本を読み始める。
「うふふ…………。良い子ですね。…………さて、さっきお姉さんとのお話の中で魔法が出てきましたが、本の中でも魔法が出てきます。………実は、やよいちゃんは、なんと、魔法使いなんです。……………やよいちゃんは、魔法がつかえます。やよいちゃんが魔法のキスをすると、あら不思議。健人さんはあっというまに、やよいちゃんの言う通りに動くようになります。そんなとき、やよいちゃんは、なにをするのでしょう? ………やよいちゃんは、健人さんのオチンチンをおくちに入れたり、健人さんの体を触ったり、健人さんに自分の体をさわってもらったり。そして健人さんのオチンチンを、じぶんの大切なところに、入れてもらったします。大切なところとは、赤ちゃんが生まれてくるところなんです」
「はーい、お姉さん、質問です。やよいちゃんは、どうして、健人のチンチンを赤ちゃんが生まれてくるところに入れるんですか?」
佐伯さんの笑顔が少し強張る。顔もまた赤くなった。
「えぇっと…………。それはね、みんなも、もっと大きくなったら、きっと、わかると思うんだけど、…………その、大人はね…………、大切な人と、その、大切なところで、繋がりたいと…………思うんですよ」
「繋がると、お姉さんはどうなりますか?」
「………す………好きな人と、大事なところで繋がるとね………。もう、頭が真っ白になって、溶けちゃいそうなくらい、気持ち良くなるの。みんなにも分かるように言うのが難しいんだけれど………。その、ブランコとか、シーソーとかで遊んでいて、体が下に降りる瞬間にお腹の下の方が、キューンって、変な感じになったりするの、わかるかな? ………それの、何十倍も気持ちが良いの。もう…………嫌なこととか全部忘れちゃうの。なんていうのかな………、嫌なことの他にもね、もう、今、気持ちが良い。健人さんのことが大好きっていう気持ちの他のことは、何にも気にならなくなるの。………お姉さん、お口から赤ちゃんみたいに涎を垂らしちゃってることもあるのよ。…………変かな?」
佐伯さんはウットリとした表情で、瞼を薄っすら閉じながら、思い出しただけで幸せな気分になっているように微笑んだ。
「………そんなやよいちゃんは、きょうも、きっとあしたも、そしてあさっても、健人さんにオチンチンを、大事なところに入れてもらいます。入れたり出したり、入れたり出したり。あしたの夜にも、入れたり出したり、入れたり出したり。それはやよいちゃんにとって、ほんとうにしあわせな、まいにちです。だって、やよいちゃんは、とってもエッチな女の子になったのですから…………。おしまい」
佐伯さんはリズムに乗ってまるで歌いかけるように、頭を左右に揺らしながら読み上げた。とても上手な読み聞かせだった。そして健人は気がついたら、拍手をしながら勃起していたのだった。
「佐伯さん、読み聞かせお疲れ様。そろそろまた、『中庭で集合』しましょうか」
健人が告げると、そこに存在しない子供たち一人一人に丁寧に微笑みかけていた佐伯さんが、遠い目をしてボンヤリとした表情になる。児童向けの性教育本を持っていたはずの手は、ダラリと体の横にぶら下がった。健人は立ち上がると、ベルトのバックルに手を掛けて、ズボンを脱ごうとする。今日はこの児童スペースで、クッションを下にして、佐伯さんと体を重ねることにした。
「弥生さん。服を脱いで、裸になりましょう。貴方が今、読み聞かせてくれた通り、大好きな健人との大好きなセックスが始まりますよ。幸せですよね?」
健人に質問されて、佐伯さんはエプロンのストラップに手を掛けながら、声で返答するかわりに、蕩けそうな満面の笑顔を見せるのだった。
<おわり>
読ませていただきましたでよ~。
まるでドラゴンボールZかと思うような長いあらすじからの日々。
やっぱり物語としては前回で終わりで今回は長い長いエピローグって形でぅね。
ヤヨイ姉さん、ヤヨイお嬢様、ヤヨイ奥様と弥生さんが縦横無尽の活躍wをしてますね(弥生さんの意思は放り投げてるけどw)
しかも、奥様だけではなく、姉さんやお嬢様の性格、嗜好も徐々に侵食されていくのが素晴らしいでぅ。
みゃふとしては騎乗位のところ好きなんでぅけど、その前に防犯カメラって閉めたあとも点けておく必要あるんじゃないかとか、セコム的な外部防犯会社のセンサーとかないのだろうかとか思ってしまいましたでよw
まあ、壊れたカメラをはったりで置いておくくらいだから防犯意識は低いのかもでぅけどw
にしても、昼間の図書館ではっちゃけ過ぎではないかとちょっと思ってしまいましたでよ。
いかに利用客が少なくて、人の目を気にしていたとしても健人くんとの応対が変わってきてるのを気づいている人はいそうでぅし、赤ちゃん言葉の所は確実に弥生さんの赤ちゃん言葉を聞いた人がいるはずなので色々怪しんでいる人はいそうな気がしますでよ。
もしもおしゃべりを注意されてしまった中年女性にでも気づかれてしまったら大変なことになりそうでぅw
あと、侵食されきった結果として完全に素の弥生さんが催眠術に頼らずに健人くんと本番をするのは欲しかった所でぅ。侵食されてるほのめかしとして靴紐結んであげてるとかはあるんでぅけれど。うーん、でも、読み聞かせからのキーワード導入での最後は此処から先は想像に任せるみたいな形できれいだから捨てがたいしなぁ・・・
難しい所でぅ。
それはそれとして、今回も誤字があったので報告をば
>健人は笑いを? み殺す。
噛み殺すでぅよね? 今回も機種依存文字かと
>手洗いで選択して、乾かしてから返しているのだが
一瞬選んでるのかと思ったのでぅけど、洗濯でぅよねw
今回はここで終わりとのことでぅので、次は夏でぅかね。
次回作も楽しみにしていますでよ~。
であ