・6月20日(金)
最後の晩餐に佳織さんはワインを出してくれた。
「ちょっとだけね」
控えめに自分のグラスにも注いで、照れくさそうにしている。
乾杯でもするのかと思ってグラスを差しだすと、くいっと飲んで「美味しい」と笑う。
僕も笑って、2人での最後の食事を楽しんだ。
張り切って面白い話をしたし、佳織さんもたくさん笑ってくれた。
テーブルの料理が減っていって、グラスだけが残っても、僕らのおしゃべりは終わらなかったし、ずっと弾んでいた。
佳織さんは何度も髪をかき上げる。楽しんでいるけど、緊張もしている。彼女の瞳から視線を逸らさない僕に。
「あー、おかしい」
笑い続けているのは、緊張をごまかすためでもあるんだ。「楽しい」と口にすることで安心もしようとしている。
だけど、僕は彼女から目を逸らさない。あなたを見つめていると、視線で熱烈にアピールする。
その照れくささから逃げようと、佳織さんのワインは進む。
「あはは……笑いすぎた」
「佳織さん」
手でぱたぱたと仰ぐ彼女の頬は、軽く上気していた。
僕は、姿勢を正して膝に手を置く。
「やっぱり、あなたが好きです」
一瞬、ちょっとにやけたように唇を緩め、そして慌てて引き締めて佳織さんは「だめ」と言う。
「それはもうナシ。貴司くんは若いし全然モテるんだから、もっとお似合いの子と――」
「どうしようもないくらい、佳織さんが好きです。割り切ってどうにか出来る気持ちなら、こんなに何度もフラれるために告白なんてしません。少しでも、佳織さんの心に響かせたいんです」
僕はもう一度、「あなたが好きだ」と言った。
「……そんなこと言われても……」
「佳織さんは、僕のこと嫌いですか?」
「嫌いとかはないよ。でも、そういう気持ちを持たれるのは本当に困る」
「迷惑になってるのはわかってます。だけど、気持ちだけの話がしたいんです。お互いの立場を抜きにして、僕のこと好きですか嫌いですか?」
「……そういうのずるいと思う。立場を無視した話なんて、出来るわけないし」
「好きか嫌いかだけ、教えて欲しいんです」
「それは……好きだよ。嫌いだと思ったことはないし」
「男として、ということですか?」
「友だちとか、そういう意味でだよ」
「僕は男として、佳織さんという女性を愛してます」
「…………」
佳織さんは赤くなり、本当に困った顔してうつむく。
そして両手を太ももに挟むようにして居住まいを直し、顔を上げて。
「ごめん。今日はもう帰って――」
「僕の催眠人形」
決意を秘めた瞳から、するりと感情が抜け落ちる。
それは、僕の大好きな彼女の貞操観念と潔さ。そして僕への親切でもある。
僕自身も寂しさを感じながら、彼女に言う。
「あなたは、僕を追い返すことが出来ない。話し合いを続けます」
今日、優しい人妻から大事な部分を引っこ抜く。
僕の催眠術で、少しずつあなたの貞操意識を奪う。
そして何があっても、あなたの正直な気持ちを僕に引き寄せる。
その唇に届くまで。
「……せっかく職場にいい子もいるのに。そんなんじゃその子に悪いよ」
佳織さんはさっき言おうとしていたことを忘れて、話を違う矛先に向ける。
そのことに頷いて、僕も何事もなかったかのように続ける。
「でも、付き合ってるわけじゃないです。自分の気持ちにウソもついてないです」
「もっと普通の恋愛の方が貴司くんには合ってるよ。小田島さんのこと真剣に見てあげれば?」
「僕の催眠人形」
佳織さんのうつろな瞳に、彼女に囁く。
「小田島のことをあなたは忘れる。そんな話は聞いたことがない」
そして、解除して話を戻す。
「僕が好きなのは佳織さんだけです。他の女性には目を向けられない」
「……おかしいよ。私は人妻なのに」
「好きになった人が、人妻だったというだけです」
「だけ、なんて言わないで。私にとっては一番大事なことだよ。私はあの人の妻なの。貴司くんの職場の人だよ」
「……僕の催眠人形」
佳織さんの言っていることが絶対に正しい。間違っていない。
だけど、僕はどうしてもここで終わりたくない。
「僕だってそれくらい知っている。知っていてあなたを愛してる。だから、その説得は無駄です」
佳織さんの一番大切な男性は先輩。嫌になるほど思い知っている。
それでも僕は諦めない。
「……貴司くんは、普通の恋愛をした方がいいよ」
少しずつ言葉を削られて、佳織さんも力を無くしていく。
気の毒になってくるけども、ここまで来てはやめられない。
「世の中にはもっと可愛くて貴司くんひとすじになってくれる子はたくさんいると思うんだ。そういう子を探すのが一番いいと思う。今はちょっと、ホラ、私に餌付けされちゃっただけっていうか、ごはん食べさせてくれる人が欲しいってだけだよ。でも女の子なら誰でもこのくらいは作ってくれるからね」
「佳織さん、ちょっと自分を過小評価してるとこありますよね。あなたは本当に家庭的な女性です。こんなに美味しいごはん作れる人はなかなかいませんよ。実家でも出てこなかったですよ」
「男の人って、そのへん本当に脇が甘いよね。今どき主婦向けの簡単レシピなんて、それこそどこでも簡単に手に入るんだよ。残念でした」
「僕の催眠人形。ごはんの話はどうでもいいです」
「……そういえばこないだテレビで」
「僕の催眠人形。テレビの話も禁止です」
佳織さんを追い詰めていく作業に、やがて僕もサディスティックな快感を覚えていく。
催眠術がある限りどんな論戦にも負けない。彼女の心の動きも、催眠にかけるためにずっと観察していたんだから手に取るようにわかる。
疲弊していく佳織さん。
ギブアップまで許さず迫る僕。
彼女の心の鎧を脱がせていくような言葉の応酬に、僕の股間が徐々に熱くなっていく。
興奮してしまう。
「……じゃあ、どうしたらいいんだろうね」
待ちわびた一言に、僕は喉を鳴らす。
「先輩は、明日帰ってくるんですよね?」
「うん」
「だから、それまでの間。今夜だけでいいんです。僕を恋人にしてくれませんか?」
佳織さんは、「い」か「え」かわからない声を出して、椅子ごと後ろに下がる。
なぜか胸を手でかばって。
「いえっ、その、変な意味じゃなくて、なんていうか、雰囲気というか、気分だけというかっ」
真っ赤な顔をしている佳織さんに、その唇に、僕は正直に告白する。
今夜、絶対にお願いすると決めていたセリフを。
「……キスしたいです。一度だけ、思い出に」
佳織さんはいよいよ赤くなる。そして僕をきつく睨んで言った。
「ありえないよ。そんなの。出来るわけないじゃない」
やっぱりダメだった。どれだけ追い詰めても、佳織さんがそんなこと許してくれるはずなかった。
むしろ清々しいこの敗北感。佳織さんは素敵だ。理想の人妻だ。
だからこそ、どうしても彼女の意思で許して欲しかったけど。
「僕の催眠人形」
先輩に勝てるわけがなかった。
だけど、僕にだって少しは望みがあると信じている。
これまでの毎日が佳織さんの心に刺さってないわけがない。僕のことを嫌ってるはずないと思うんだ。
だから、一瞬だけ全裸にする。あなたの心を。
許してください。
「佳織さん。この数日のことを思い出してください。あなたは毎日、僕と一緒にごはんを食べて、笑って、マッサージさせてくれた。僕はとても楽しかった。毎日待ち遠しかった。思い出してください。あなたはどうでした? 先輩がいないこの数週間、僕と過ごしてどうでしたか? 僕は、あなたにとってどういう存在でしたか?」
これほど濃密な時間を過ごしたことは、人生で一度もない。
毎日ドキドキして、ワクワクして、そして満足して1日を終えられた。
僕は幸せだった。
佳織さん。あなたは?
「今、一瞬だけあなたの中から先輩が消える。僕のことを好きか嫌いか。キスを許せる男かどうか。そのことだけ考えてあなたは結論を出します。他のことは気にしない。結婚していることも忘れて、僕と過ごしたこの数週間を思い出してください。そして、僕があなたの唇に軽くキスしてもいい男かどうか、直感で答えてください。いいですか。軽くです。本当に……触れさせてくれるだけでいい。それだけで僕は幸せになれるんです。だから、考えてみてください。そして頷くか首を振るか、決めてください。それでは――解除します」
パン、と胸の前で軽く手を叩いて、まだ赤い顔をしている佳織さんを見つめる。
「いいよ」
佳織さんは、コクリと頷いた。
「いいんですか!?」
「え? え、ちょっと待って、今のは――」
「やった! ありがとうございます! 本当にありがとうございます、佳織さん!」
ペコペコと頭を下げて今にも泣き出しそうな僕に、佳織さんはわたわた慌てて否定しようとする。
でも、もう無理。絶対にキスする。
佳織さんは僕のことを認めてくれた。ありとあらゆる障害をなかったことにした上でだけど、キスを許してくれた。
「佳織さん」
「やっ、違うからっ。今のは本当に、そういうんじゃないのっ。絶対に、そんな……こっち来ないでっ」
「いいって言ってくれたじゃないですか」
「だから、あれは、自分でもわからないけど、でもっ」
「佳織さん」
「やめてっ、やだっ」
テーブルを回って、すみっこで身を縮める佳織さんの肩を抱く。
顔を背けて、唇を噛んで、彼女は真っ赤になっている。
「佳織さん。僕は絶対に誰にも言いませんし、先輩が帰ってきたら、もうこんなことはしません。ただのお隣さんに戻って、他に彼女でも作って佳織さんのことを忘れるよう努力します。でも、このままじゃどうしても僕は先に進めない。僕を助けるためだと思って、一度だけ、ほんの軽くだけでいいから許してください。お願いします」
僕を信じてくださいと、重ねて言う。
佳織さんの人の好さと義理堅さにつけ込んで、頭を下げる。
「ワインに酔っていたことに、してくれませんか?」
そして、お酒に責任逃れをして、もう一度肩を抱く。
「…………」
佳織さんは何も言わなくなった。
僕から顔を背けたまま、目を閉じて。
唇を、固く絞るように引き締めて。
「……失礼します」
首をひねって口を近づける。
佳織さんは、それ以上は逃げなかった。
僕も緊張して手が震えているのが、佳織さんにも伝わっていると思う。
不自然な格好で佳織さんに唇を近づけ――触れた。
ほんの一瞬だけ。
「んっ」
すぐに顔を離して、佳織さんは唇を指でなぞった。
露骨に拭われるかなと思ったけど、そんなことは彼女はしなかった。
ただ、お互いにどうしていいか困ってしまっただけだ。
佳織さんは動揺して呼吸を荒くしている。
僕の心臓はバクバク鳴っている。
どうしようもなく股間が膨らんで、苦しくて仕方ない。
「……マッサージ」
「え?」
「マッサージしましょう。いつものように」
「い、いいよ。今日はやめとく」
「させてください。優しくしますから」
「いいってば、もう今日は――」
「僕の催眠人形」
佳織さんは嫌だろうけど、最後の夜だ。佳織さんが僕にキスをさせてくれた記念日だ。
もっと触れたい。一緒にいたい。
「佳織さん。あなたも緊張して疲れた。マッサージしてリラックスしたい。そうしないと今日は眠れないかもしれない。だから、マッサージをお願いしましょう」
それと、忘れずにこれも注文する。
「服を脱ぐときはここで。前からそうしていたし、いちいち隣の部屋に行くのは時間の無駄です。僕の視線が気になってもそれはマッサージのためだから仕方ない。僕にマッサージしてもらうときは、最初からそうしていたんだから」
解除して、佳織さんの反応を見る。
僕をじっと見上げて、そして仕方なさそうに。
「……うん。じゃあ、お願いしようかな」
股間が正直に疼いた。
佳織さんの反応一つ一つが今夜はすごく僕に響く。
彼女は完璧な人形だった。僕の芸術だ。
今夜で、最後の仕上げをする。カオリちゃん人形のフィナーレを迎えるんだ。
その前に。
「……なんだか、これいつも恥ずかしいんだけどね」
じっくりと鑑賞する。
僕の前で恥ずかしそうに服を脱ぐ姿を。人妻が自ら隣人に素肌を晒す過程を。
それが当たり前だと思い込んでいる佳織さんは、恥ずかしいことをしている自覚がありながらも、やむを得ないと薄手のパーカーを脱ぐ。
それをキッチンの椅子の背にかけて、「ふう」とため息をつく。
Tシャツの胸を持ち上げる膨らみは相変わらずすごくて僕はそこに遠慮ない視線を向けていた。
佳織さんは、そんな僕に背を向けてTシャツも脱ぎ始める。
クロスした腕が首からシャツを引き抜くと、白いブラ紐もまぶしいきれいな背中のラインがうねった。
「はぁ……」
またため息をついて、Tシャツを椅子に乗せる。
相変わらず細い腰。だけど、ジーンズのお尻にはむっちりとボリュームがある。
学生時代はバレー部で、今でも時々体を動かしているというだけあって、大きな胸を抱えた細身の上半身を支える腰から下は、しっかりと肉付いている。
「…………」
少し躊躇してから、一気にジーンズを下ろす。
白い下着は大きなお尻を無理して包んでるんじゃないかと思うくらい張り詰めていて、僕は一瞬、まぶしさに目を細める。
佳織さんは手早く足を引き抜くと、パタパタっと簡単にジーンズをたたんで椅子に乗せる。
「さ、お願いします」
恥ずかしさをごまかすように、佳織さんはスタスタとソファの上に正座して僕に背中を向ける。
耳の後ろまで真っ赤になって。
「はい」
良いものを見せてもらったと、感謝しながら僕は後ろから彼女の肩に触れる。
「ん……」
色っぽい声。
これも今夜で最後かと思うと切なくなる。
たっぷりと聞かせてもらおう。
「んっ、はぁ……」
軽く押し込むだけで、肺の奥から息が出てくる。
毎日触れていた体が僕のマッサージを覚えてくれている。佳織さんの全身に、僕だけのスイッチがあるみたいだ。
「腕を上げてください」
「ん……」
左腕を上に伸ばして、肘を曲げる。肩甲骨のストレッチをさせておいて、僕は脇腹から脇の下をさわさわとなぞる。
「あっ、んっ」
「くすぐったくても我慢してください。ここは皮膚がデリケートだから、優しくマッサージしないと」
「んんっ、でも、あっ、くふっ、ん、んっ」
脇の下もすべすべだった。肋骨の感触も、脇腹のほんの少しの脂肪も気持ちいい。
口の中に溜まったよだれを飲み込み、佳織さんの体を指先で堪能する。
「あっ、くふっ、んんっ、あんっ、んっ、んっ」
お尻をよじるたびに、下着もよじれてシワを作る。
色っぽい声が耳をくすぐるたびに、彼女の匂いも濃厚になっていく気がする。
「佳織さん……」
「あんっ」
手を胸に回して、大きくこねる。
昨日よりもカップのラインが柔らかくて、胸の感触がよりダイレクトに感じられた。
「すごい……柔らかい……」
「あ、んっ、恥ずかしいこと、言わないで、んんっ、私だって、我慢、してるのに、んんっ」
「柔らかい。佳織さんの体をマッサージしてると、僕まで気持ちよくなります」
「し、知らないから、そんなのっ、んっ、私、普通にマッサージしてもらってるだけで、んんっ、んっ」
両手で顔を覆って、恥ずかしそうにしながらも佳織さんは僕にされるがままにさせてくれる。
でも男に下着姿で胸を揉ませるマッサージなんて、あるわけない。
こんなスケベなマッサージは、絶対に僕だけにさせてもらう。念入りに暗示して、先輩にも誰にもナイショにさせる。
僕だけのマッサージだ。
「佳織さん、ここに乗ってください」
「お、重たいからいいよぉ」
「全然そんなことありません。さ、いつもの体幹マッサージですから、乗ってください」
膝の上を跨がせて、お尻を股間の上に乗せる。
そして、後ろから胸を揉みながら、僕は彼女を突き上げる。
「あぁぁっ、あっ、あっ、これ、なんか、本当に、んっ、恥ずかしいのっ。あんっ、こんなマッサージ、恥ずかしいっ」
おっぱいに指を食い込ませ、固くなった股間をぐりぐり押しつけて、思いきり佳織さんの体で快楽を得る。
これでもマッサージだと信じて、佳織さんは歯を食いしばってこらえている。
僕はもっと激しく腰を使って、彼女の体を突き上げる。
「あぁーっ! あっ、あっ、あっ、これ、効くっ、んっ、体に、響くよっ、あん、貴司くんのマッサージ、すごいっ、あんっ、すごいっ!」
指のマッサージだと言って、佳織さんと恋人つなぎする。
右手はおっぱいを揉みしだいて、股間とお尻をくっつけて。
すぐに僕は絶頂が近づく。
「佳織さんっ。マッサージオイル、かけますっ。もっともっと感じて欲しいから、佳織さんのお尻のあたりに、たっぷりかけますから、このまま!」
「はいっ。あっ、あっ、かけて、お願いっ。もっと、気持ちよくして欲しいからっ。かけて、貴司くんのオイル、かけて欲しいっ」
ダメだ。
最高すぎる。
佳織さん、エッチすぎて我慢できない…ッ!
「あっ、あっ、今、出てるっ。貴司くんのオイル、あっ、熱いのっ、かかってるっ。お尻、じわって、きてるぅ!」
ズボン越しでもたっぷり染みるくらい出た。
佳織さんのおっぱいを握りしめたまま、僕は何度もそのお尻に精液をぶっかけた。
びくっ、びくって佳織さんのお尻も小さく痙攣して、僕の股間をぐりぐりと圧迫した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……佳織さん」
「ん、大丈夫? 疲れたでしょ。無理させちゃったみたいでごめんね?」
「いいえ。このくらい全然ですよ。次は、横になってください」
「え、いいよ、もう。貴司くんが心配だから」
「平気です。もっとしたい。今夜はいくらでも出来そうです。それに、オイルもたっぷりかけたばかりです」
「うん……ねちょねちょだね」
お尻にかかった液体を、指で摘まんでくちゅくちゅさせながら佳織さんは笑った。
彼女にはオイルに見えている僕の精液。でもそんな仕草を見せられたら、ますますやる気になってしまう。
「ほら、横になって」
「あ……」
半ば押し倒すように佳織さんを横たえる。
恥ずかしそうに彼女は顔を背け、そして僕の手によって足を広げられる。
「ね、ねえ。これ以外のマッサージって……」
「しません。今の佳織さんに必要なのは、ここをほぐすことです」
「あっ」
股間同士を密着させる。佳織さんはますますカッと赤くなる。
「これもいつもしているヤツですよね? 恥ずかしがることありませんよ」
「で、でも、やっぱりこれ恥ずかしい格好だし」
「どうしてですか? 僕は真面目にやってるんですよ」
「え、ご、ごめんなさい……」
素股までさせられて真面目も何もないっていうのに、佳織さんはシュンと首をすくめる。
そんな仕草まで可愛らしくてまたキスしたくなっちゃうけど、頬に手を当てるだけで我慢する。
「顔もマッサージしますね」
「あっ」
「腰も動かします。リラックスして」
「あん、あっ、あっ、あっ」
佳織さんの可愛い顔を撫でながら、腰をぐいぐいと使う。
ぐちゅぐちゅ音を立てる股間が彼女の股間をマッサージしていく。
「はぁっ、はっ、はっ、はっ」
開いてきた唇にも触れる。もちろんこれもマッサージだ。どこをどんな風に触れてもマッサージ。そんな暗示が彼女の全身を支配している。
僕が触れてはいけない場所は、佳織さんにはないんだ。
「指のマッサージを」
「うん、あっ、あんっ。あっ」
僕が恋人つなぎすると、佳織さんもなんだか嬉しそうな顔をした。
安心するのかもしれない。きゅっきゅと握ってあげると、無意識なのか佳織さんも僕の手を握ってきた。
ラブラブセックスしているみたい。
そんなこと考えて思わず笑ってしまう。快楽が顔に出てしまう。
「あっ、あんっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
だけど佳織さんは僕の表情なんて見ている余裕もないみたいで、仰け反って目を閉じて、口を大きく開いている。
僕はその唇をめくって、舌にも少し触れる。れるっと佳織さんの舌は逃げて、きゅってすぐに唇は閉じられた。
可愛い。
佳織さんのエッチな顔、可愛い!
「あっ!」
ぐりっと腰を強く押し当て、ひねる。回しながら、足を広げさせてさらに当たる面積を広くする。
「あっ、あっ」
佳織さんの割れ目を、僕の固くなっている陰茎で上下に擦る。
僕の精液が彼女の下着にますます染み付き、ぐぢゅぐぢゅと音を立てる。
柔らかくて、このまま潜ってしまいそう。佳織さんの下着もやがて中か濡れた音をさせる。僕の股間と混じり合うように、熱くなっていく。
佳織さんが、僕の肩に爪を立てて仰け反る。
「やっ、もう、あんっ、だめっ、もう、貴司くん、貴司くんっ。あっ、もう、いい、よっ。もう、いいっ、だめっ!」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、佳織さん……佳織さんっ!」
そして頭が真っ白になって弾け飛ぶ寸前、僕は理性で急ブレーキをかけて叫ぶ。
「僕の催眠人形…ッ!」
がくんと佳織さんは仰け反ったまま固まり、口だけが開いた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、ふー、ふっ、ふっ、ふっ」
呼吸は大きく、体を沈めて口を閉ざしても胸は上下している。
落ち着くのを待って、僕はじっとりと中で染みを作ったズボンのベルトを外し、糸を引く下着も脱いだ。
僕の興奮は、全然収まっていない。
「佳織さん……」
下着姿でお人形さんになっている佳織さんと、彼女の前で先端を濡らして勃起陰茎を構える僕。
「ごめんね、カオリちゃん……でも、最後だからいいよね? 僕の、君に入れちゃってもいいよね?」
用紙していたコンドームの箱を開けて一枚ちぎる。真っ赤になって早く射精したいとせがんでいる陰茎に被せる。
「はぁ、はぁ、カオリちゃん、ごめんね。今夜だけだから、ごめんね」
佳織さんの下着も脱がせる。僕の精液と彼女から染み出た愛液で濡れたパンツを。
足を担ぎ上げて、お尻をめくって一気に足首から抜いた。
佳織さんのソコは、僕に擦られたせいか、あるいは彼女自身の興奮のためか赤らんでいるように見えた。
カオリちゃんのあそこ。
完璧なお人形さんの、そこだけが生々しく人間的で雌だった。
セックスのために作られた機能だった。
「カオリちゃん……いいよね?」
お人形相手に僕は何度も確認する。返ってくるはずの答えは十分にわかっていながら、真逆の答えを頭の中で反芻する。
いいよ、と彼女は言った。だからキスをした。セックスもする。
今夜で最後だから僕はカオリちゃん人形を全部堪能するんだ。
「いいんだよね……?」
足を肩に担いで、割れ目に照準を合わせる。そして、先端を触れさせる。
「あぁ…ッ!」
柔らかくて熱い感触をゴム越しに感じて、それだけで達しそうになった。
腰に力を入れてこらえて、ゆっくりと押し込んでいく。
お人形さんの体に緊張はない。思っていた以上にスムーズに中へ潜っていき、ぬるりと吸い込まれるように、カオリちゃんの一番奥に到達した。
「あぁッ!」
やっちゃった。カオリちゃんとセックスしてしまった。
人妻とお人形セックスだ。
「カオリちゃん…ッ!」
じわじわと陰茎に感じる体温と女性器の感触に、僕の背中も痺れる。
快楽の波が過ぎるのを歯を食いしばって待ち、そして大きく呼吸して心臓が落ち着くのを待つ。
だけど、目の前の光景と自分の陰茎が収まっている場所を見ると、顔がにやけて心が弾んで仕方ない。
セックスした。カオリちゃんのあそこに僕のを入れた。
念願の行為にとうとう及んでしまったんだ。
涙が少しこぼれた。喉がひきつった。
すごく感謝するのと同時に、先輩に対する罪悪感もよぎる。
僕は人妻を犯した。この罪はずっと背負っていかないとならない。
でも、世界で一番愛している人形を抱いた。
今はただ、その感動を喜び、腰を動かしたい。
「カオリちゃん……うぅっ」
腰を引き抜くときの、わずかに吸い付く膣内のヒダ。
そして、押し込むときのぬめり。
あぁ…ッ!
これが、佳織さんの…ッ。
「カオリちゃんっ。いいよっ、カオリちゃん、いいっ」
僕の腰に合わせてソファが軋む。
頭の中の血が沸騰したみたいに熱くて、僕はだらしなく口を開いて何度も彼女の名前を呼ぶ。
「カオリちゃん…ッ、ひぃ、いいっ、いいよっ。お人形セックス、すごくいいっ!」
あの日、僕が愛してしまった姉のミカちゃんの人形よりも。
僕がこれまでに抱いてきた女の子たちよりも。
カオリちゃん人形は最高だった。
最高のセックス体験を僕に与えてくれた。
「…………」
カオリちゃん人形は虚ろな瞳を天井に向け、忘我の表情を揺らしている。
弛緩した太ももを折りたたむようにして覆い被さり、彼女のその顔を見ながらひたすら腰を使い続ける。
奥に突き立ててぐりぐりと回す。強烈な快楽をじっと堪えて、波が引いたらまた膣内をゆっくりと探検して彼女の感触を楽しむ。
女性の快楽なんて考える必要のないお人形セックスは、ひたすらに自由だ。
最高の肢体を与えてくれるだけで、僕に好きにさせてくれるカオリちゃん人形はセックスの女神だった。
「あぁっ、あぁっ、カオリちゃんっ、カオリちゃん!」
乱暴な腰使いがバウンドさせる胸を、ブラの上から鷲づかみにする。犯している実感が強まって、ぎゅっと胸を圧迫する。
「……ふ」
佳織さんが鼻から、あるいは口から軽く息を吐いた。
腰を叩くと、さらに「ふ」とお人形から空気が漏れる。
「ふ……ふ……」
奥を突かれたときに肺からこぼれるのだろう。とても弱々しいそれが、お人形さんのセックス反応なんだ。
僕は嬉しくなって腰を動かす。お人形さんの小さな喘ぎ声がもっと聞きたくて。
「ふ……ふ……ふ……」
もっと奥を。子宮口を。無抵抗な体に覆い被さって、上から叩きつけるように腰を打ちつける。
こりっとした場所を、こねくり回すように強く突いた。
「ふ、ふ、ふ、ふ」
ソファの軋む音とリンクしてカオリちゃんが呼吸する。
カオリちゃんが、ハミングしている。
ブラに僕のよだれが落ちた。
僕はだらしなく笑っていた。
「カオリちゃん……あぁ、可愛いっ、カオリちゃん、可愛いよ!」
「ふ、ふ、ふ、ふ」
「カオリちゃんっ、カオリちゃん!」
お人形セックス最高だ。
腰から下が蕩けてなくなりそうだ。
でも、もうこれが人生最後のセックスでもいい。最高を知ってしまったのだから、あとはもういらない。
弛緩したカオリちゃん人形のヴァギナは僕の暴れる陰茎を柔らかく包み込み、人肌の優しさとぬめりで抱き留めてくれる。
その美しい顔は意思をなくしたまま僕を見つめ、小さな吐息の歌声で僕の運動を応援してくれる。
そして、このグラマラスで健康的な体は、僕のわがまま手やキスや腰使いを余裕で受け止め、十分以上に楽しませてくれる。
「すごいっ……すごいよ、こんなッ……初めてだよ、カオリちゃん!」
「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ」
「気持ちいいよっ。夢みたいだっ、僕、佳織さんとセックスしてるなんて!」
「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ」
「あぁっ! いいっ! すごい、カオリちゃん、佳織さん!」
「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ」
このまま朝が来なければいいのにって思いながら、僕はカオリちゃんの体に溺れる。
頭がおかしくなったんじゃないかと不安になるくらい、快楽に脳みそが溶けちゃってる。
麻薬だ。こんなの何度も体験したら、僕は絶対に抜け出せなくなる。世界で最も自由で気持ちいいセックスに永遠に浸ってしまう。
あぁ、カオリちゃん。大好きだ。佳織さん、大好きだ。
「……ありがとうございます……佳織さん…ッ」
涙がにじみ頬を濡らした。
痺れるような快楽が走って、精液が陰茎を押し広げる。
「あぁっ、出る、出るっ、カオリちゃんっ、佳織さん!」
彼女の中で僕は射精した。
コンドームをしていたとはいえ、人妻の膣内で。
「あぁ……あぁ……」
陰茎は脈動を続ける。何度も何度も精液を吐き出し、妄想の中で彼女の子宮に種付けをする。
まだまだ出る。快楽はいつまでも僕の陰茎を震わせた。
「カオリちゃん……」
彼女の唇に口を近づけて僕はささやく。
「僕の催眠キス人形」
舌がぽってりした唇を割って出てきて、くるくると回り出す。
そこに唇を重ねて彼女の唾液と舌を味わう。
「好きだ……ちゅ、好きだよ、カオリちゃん……」
セックスの後のキスは幸福の味がした。しっかりと堪能してから、体を起こして引き抜く。
ゴムの中は2人が愛し合った証でたぷんたぷんだった。
「佳織さん……聞こえますね。あなたは今、僕にマッサージしてもらっただけだ。体に多少違和感があっても、下腹部におかしな感じが残っていても、それは僕のマッサージが効いているだけだ。体の奥まで僕がほぐしたんだ。だから別に変なことはされていない。いつもの気持ちいいマッサージだ。体の奥に残ったその感触は、じわじわとあなたを暖めていく……とても気持ちよく」
そして濡れた股間を拭いて、下着を元通りに履かせる。
「さあ、目を覚まします。マッサージが終わった。体を密着させて、揺さぶられて、あなたはとても気持ちよくなれた……だから、気分が良く目が覚める。僕が3つ数えたら、お人形からいつもの佳織さんに戻る」
慎重に3つ数える。
意識をそこに取り戻していく過程の瞳も好きだ。
お人形から人へと、彼女に感情が戻っていく。
「あ……」
そして僕と目が合うと、佳織さんは照れくさそうに微笑んだ。
「ふふっ、ありがとー。すっごく気持ちよかった」
髪をかき上げ、赤くなった頬を手のひらで仰ぐ。
自分の体から漂うセックスの匂いにも気づかないで。
「ふぅ……」
ずれたブラの紐を無意識なのか僕の前で直して、火照った体をソファに投げ出す彼女は、気怠げに事後の空気を漂わせていた。
僕とセックスした。佳織さんは僕に犯られた。なのに本人もそのことにまったく気づいてない。
これが催眠術だ。E=mC^2が僕に教えた魔法だ。
唇を湿らせる仕草に、僕はまた興奮していく。
「佳織さん……」
「え、なに?」
いきなり顔を近づけてくる僕に佳織さんは身を引く。だけど、僕は静かに彼女に迫る。
「や、だ、だめ……」
先輩が帰ってくるまでは僕の恋人。
勝手に迫ったキスだけど、佳織さんは強く拒んだりしなかった。それどころか、まだ体に僕の熱が残っているのか、僕に触れられるだけでビクンと性的な痙攣を見せた。
「……だめ……」
ぎゅっと目をつむり、唇を結ぶ。だけどその拒絶の囁きには密かな甘さも感じた。
固く体を緊張させる彼女のアゴを指で持ち上げ、僕はキスを――
佳織さんのケータイが鳴った。
慌てて体を離すと彼女は電話を取り、僕も気まずくなってソファの端へ逃げる。
「あ、あなた?」
しかも、かけてきたのは先輩らしい。
そこにいるわけじゃないのに僕はなぜか玄関を向いて身を固めてしまう。
「え、そうなの? ん、うん。ううん、私は大丈夫。うん。でもあまり無理はしないで……うん。うん」
下着姿のまま、佳織さんは先輩の声に耳を傾けるように何度も頷き、そして通話が終わると僕に背中を向けたまま呟いた。
「あの人……現場でトラブルがあって、しばらく戻れないって」
読ませていただきましたでよ~。
いやあ、逃げ道を削って言って最終的に思いどおりにするって本当にいいものでぅよね。
しかも、それを相手に気づかせずにできるのがMCのいい所でぅ。
今回、何が一番良かったってキスをいいよって言わせる所。拒絶しなければならない理由を全部なくして積み上げた好意で肯定させて、直後に正気に戻って慌ててる佳織さんが可愛すぎるのでぅ。
その後もマッサージと称して色んなところを触るどころか本番までやってるし。
そしてそんな関係も終わりかと思ったら期間延長が来てしまってお楽しみも増えるということでぅね。
しかしE=MC^2偉大だなーw
>みゃふさん
理路整然と詰めてる風にチート催眠を使ってるところ卑怯ですよね。
でも全部E=MC^2が悪い。僕は悪くない。