第六話 キセイ
パンッ! パンッ! パンッ!
リビングいっぱいに響き渡る、肉と肉とがぶつかり合う音。
その音に合わせ、
「あんっ! ああんっ! ああぁんっ!」
私は家族みんなに聞こえるくらい大きく、いやらしい嬌声をあげる。
「ははっ! いい声で啼くようになったじゃねぇか、梨花。ついこの前まで処女だったのが嘘みてぇだ。そんなに俺のチンコが気に入ったのか?」
リビングの椅子に手をかけお尻を突き出した私の腰をつかみ、自らの腰を激しく前後に振る『お兄ちゃん』がそう尋ねてくる。
私は肩越しに『お兄ちゃん』を見つめながら、
「うんっ! いいぃぃっ! 『お兄ちゃん』のおちんぽ、すごく気持ちよくてぇぇ! んああっ! 声、いっぱい出ちゃうのぉぉっ! んいぃっ! あっ! んっ! んあっ! 『お兄ちゃん』のおちんぽぉ、大好きだよぉぉぉ! あああんっ!」
そう叫ぶ。
大好きな『お兄ちゃん』に処女を捧げてから数日。
私は『お兄ちゃん』の、熱くて硬い肉棒の虜になっていた。
寝室でもお風呂でも、台所でも玄関でも、ありとあらゆる場所で『お兄ちゃん』の精液を浴び、飲み、注がれるそのたびに、私の心は安らぎと幸福に満ちていく。
里奈が前の彼氏と別れたのもわかる気がする。
『お兄ちゃん』の肉棒を一度挿入されたら、他の男の人のことなんか考えられない。『お兄ちゃん』の肉棒さえあれば、それで幸せなんだもの。
「んあぁぁっ! 『お兄ちゃん』、すごく良いよぉぉ! んいぃぃっ! 私のオマンコぉ、もっとぉぉ、じゅぽじゅぽしてぇぇ!」
快楽に染まりきって叫ぶ私の姿を見て、
「ふふ、梨花ったら、んっ! すっかり、んっ! 『お兄ちゃん』の、んっ! んっ! 虜ね。『お兄ちゃん』にっ! たくさ、んっ! 遊んでぇっ! もらえ、てっ! よかったわ、ねっ!」
椅子に腰かけ、股間に取り付けた巨大な黒いディルドウでお父さんのお尻の穴を犯しながら、お母さんは嬉しそうに呟く。
「うんっ! うんっ! 『お兄ちゃん』のおちんぽで遊んでもらえてェェ! んいぃっ! 私、嬉しいよぉっ! あぁっ!」
喘ぎ声の混じった言葉を私が叫ぶと、
「んほぉ! おっ! おぉぉっ! そう、か……ほうぉぉっ! んびひぃぃっ! よかった、んおぉぉぉっ! なっ、り、かぁぁぁぁっ! んほぉ! んぉぉぉぉっ!」
お母さんの膝に腰かけ、後ろからディルドウでお尻の穴を責め立てられているお父さんも、私同様にひぃひぃと声を上げた。
そんなお父さんに抱き着くようにして座っている里奈も、
「んあぁぁっ! だ、めっ! お父さんっ! そんなっ! 動い、ちゃっ! んあぁぁっ! オマンコ、感じ、ちゃうよぉっ! んひぃぃっ!」
『お兄ちゃん』の肉棒に比べてはるかに劣るお父さんの肉棒を、根元まで膣内に挿入し、喘ぎ声をあげている。
どうやらお母さんがお父さんのお尻の穴をディルドウで責める度に、お父さんが腰をびくびくと震わせるので、それが里奈により強い快感を与えているらしい。
お父さんの肉棒ごときであんなに里奈が喘ぐわけないと思ったら、そういう理由みたいだ。
「ほらっ! お父さん、もっ! もっと里奈、をっ! 悦ばせてあげ、なさいよっ! あなたは、それしか、できない、んっ! オス豚なんだ、からっ!」
「んひぃぃっ! わ、わかった! んごおぉぉぉ! わかったらか、そんなにお尻、ひぃぃぃっ! 責めないで、く、れぇぇぇっ! お、母さ、んんんんんっ!」
「んんいぃぃぃ! お父さん! だめぇぇえっ! 私のオマンコ、はぁぁぁっ! 『お兄ちゃん』専用なんだか、らぁぁぁぁっ! 感じさせちゃ、だめぇぇぇっ!」
私の前で、犯し、犯される家族たち。
あぁ、なんて素敵な光景だろう。
家族みんなが一緒に気持ちよくなれている。
家族みんなが一緒にいる。
これも全部『お兄ちゃん』のおかげだ。
「んあんっ! んっ! んいぃぃぃっ!」
「あ、そういえば……」
「え……」
突然、私の膣内を犯していた『お兄ちゃん』の腰の動きがぴたりと止まる。
「な、何? どうしたの『お兄ちゃん』。なんで動いてくれなく」
「梨花、今日一人暮らしのアパートに帰る日だったよな」
私の言葉を遮り、『お兄ちゃん』はリビングの壁にかけられた時計を指さしながらそう尋ねて来た。
「う、うん……そう、だ、けどぉ……そ、それより、は、早く、お、おちんぽでぇ……」
動かなくなった『お兄ちゃん』にねだるように、私はうずうずとお尻を自ら振る。
根元まで挿入された『お兄ちゃん』の肉棒が、膣壁にゆるゆるとこすれ、これで多少なりの快感を得ることはできる。
だけど……
「……『お兄ちゃん』早く動いてぇ……おちんぽ、動かしてぇ……私、『お兄ちゃん』のおちんぽでぇ、早く気持ちよくなりたいよぉ……」
やっぱり全然物足りない。
早く『お兄ちゃん』のおちんぽを感じたい。
もっとガンガン、おちんぽでオマンコをついてもらいたい。
私は背後の『お兄ちゃん』に潤んだ瞳を向け、そう懇願したのだが、
「いやいや、帰るんだったらそろそろ家を出ないとダメだろう? ここは田舎だからよ、電車の時間、間に合わなくなっちまう、ぞっ!」
そういいながら『お兄ちゃん』は私のお尻に一発、平手打ちを食らわせた。
ぴしぃぃっ!
「あんっ! で、もぉぉ……『お兄ちゃん』のおちんぽぉ、もっと感じていたいよぉぉ。電車なんか、もう、どうでも……」
「へぇ……ってことは、もう一人暮らしのアパートには帰らないつもりなのか?」
ぴしぃぃっ!
『お兄ちゃん』はそう尋ねながら、もう一発、私のお尻を叩く。
「んいぃぃっ!……えぇ、でもぉぉ」
帰らないと、大学には通えないし……でも、そうしたら『お兄ちゃん』とは一緒にいられなくなる。『お兄ちゃん』のおちんぽで、もう遊んでもらえなくなる。
でも、あれ? 帰った方がいいんだよね。だって、せっかく入った大学、で、一人暮らし、も、ずっと、楽しみにして、て……大学に、行く、あ、れ? 家に、いる?
カゾク、ミンナ、デ、クラス、フツウ。
ズット、カゾク、ミンナ、ココ二、イル。
……それが普通のことだろ。梨花。
私の耳元で囁かれるあの声。
それは間違いなく『お兄ちゃん』の声だ。
「いいじゃ、んっ! ないっ! んふ! んんんっ! 帰らなくて、もっ! ずっと、ふっ! ここに、いなさい、よっ! んっ! んっ! ここが、あなた、のっ! 家、なの、よっ!」
お父さんのお尻の穴を犯しながら、お母さんがそう私に提案してくる。
その言葉に続けるように、
「うごぉぉっ! おっ! あぁぁっ! そ、うだぞ……っ! 梨花、あぁぁあっ! 家族、みんな、でぇえっ! 一緒にいようっ! おおあぁぁぁっ! お母さん、そこ、そんなぐりぐりしないでく……ぎゅぉぉぉ!」
もはや言葉として聞き取れないくらいの声で、お母さんに犯されながらお父さんもそう叫ぶ。
そんなお父さんに犯されながら、
「そうだよぉぉ! んんんんっ! お姉ちゃんもぉぉ、ずっと一緒に、ここにぃぃぃ! いよぉぉぉっ! ふぉぉぉっ! おっ! お父さんのおちんぽがぁぁ、ひくひくしてるぅぅっ! だめっ! それ以上ダメだよぉぉっ!」
里奈もそう告げる。
「……家、私、ここ、ずっと、い、た、い……帰りたく、な、い」
ぼそぼそと呟く私のお尻を持ったまま、『お兄ちゃん』は止めていた腰をゆっくりと振り始める。
「な、家族みんながそう言ってくれてるんだ。このままここにいろよ、梨花」
「んっ! んっ! んっ! ここ、に、い、る?」
「そうだぜ。そうすりゃよ、ほら」
『お兄ちゃん』は私の髪の毛をつかみ、
「あんなふうにもっと気持ちよく……仲良くなれるぜ」
目の前の三人へと視線を向けさせた。
「あぁっぁあっ! お母さん、だ、ダメだっ! そ、それ以上お尻の穴、ぐりぐりしたらぁ、あぁぁっ! んおぉっ! だめだっ! だ、 出るっ! 出ちゃうよっ! 娘のマンコの奥に、お父さん汁が、ふきだしちゃうよぉぉっ!」
「あっ! あああっ! いいわよぉ! 出しなさい! 実の娘に思い切り射精するのっ! びゅるびゅる音を立てて、お父さんのザーメンを吐き出すのよ! ほら、早く出しなさい! 変態オス豚っ!」
お尻の穴を犯しながらお父さんに射精を命じるお母さんと、これまでに見せたことがないくらい情けなく顔を歪めて、里奈の膣内を犯しているお父さん。
「いぐぅ! んぐぅいぃ! お、どう、さんんっ! わ、だしもぉぉ、いっじゃ、うぶつぅぅぅ! いっじゃうのぉぉぉっ!」
お父さんに両手と両足を絡め、自らも腰を振り、濁った叫び声をあげる里奈。
そして……。
「おぁああっ! 出るっつ! でるぞぉぉっ! 里奈ぁぁ! お父さん、お前の膣内に射精するかなぁぁぁぁ! お父さんのザーメンをぉぉ、娘マンコで受け取ってくれぇぇっ! あぁぁぁっ! 出る出るっ! でるぅぅぅぅぅ!」
お母さんがお父さんのお尻の穴に、その根元までディルドウを突っ込んだ瞬間、
「んぎぃぃぃっ! お父さんの精液きたぁぁぁっ! 私のオマンコの奥にィィィ、いっぱいきたよぉぉぉぉっ!」
びゅりゅびゅるという射精音が聞こえるのではと思うほど、お父さんの腰がビクンビクンと激しく動く。
里奈も子宮口でお父さんの精液を感じているのだろう、お父さんにまたがったまま、その白い喉をさらし、天井めがけぴんっ! と舌を突き出して震える。
あぁ、気持ち良さそう……。
その光景を見つめる私の耳元で、
「なぁ? こんな風に、ここでずっと、家族みんなでスキンシップとろうぜ。梨花っ!」
『お兄ちゃん』はそう囁き、そのまま大きく腰を私の膣奥に打ち付けた。
「んあぁぁぁぁんっ!」
その心地よさに、大声を上げたその瞬間、
「うんんっ! そう、するぅぅ! そうするよぉぉぉっ! わた、しぃぃっ! もう、大学にもぉぉ、アパートにもぉ、帰らないぃぃぃ! ずっと、ずぅぅっとここでみんなと暮すぅぅっ! これからもぉぉ、『お兄ちゃん』のおちんぽでぇぇぇ、んぃぃぃぃっ! 気持ちよくなりたいのォォォ! 家族みんなでぇぇ、気持ち良くなるぅぅぅっ! んぃぃぃぃっ!」
私の中にあった何かがガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
……あぁ、もう、どうでもいいや。
『お兄ちゃん』と、ううん、家族みんなで気持ちくなれるなら、もう、何でもいいや。
そんな私の様子を背後から見ていた『お兄ちゃん』がゲラゲラと笑いながら叫ぶ。
「ははっ! ついに堕ちたな、梨花! 実はお前がそう言うと思ってよ、もうお前のアパート、昨日のうちに解約しておいたんだ! 今日からお前は一生俺の肉奴隷だからな。俺が飽きるまでずっとここで、俺の性処理をして暮らせ! いいな、梨花」
「うん。うんっ! そうするぅぅ! 私、『お兄ちゃん』の性処理して暮らすのぉぉぉっ! んあぁぁ! しあわせぇぇぇぇっ!」
私がその言葉を叫ぶと同時に、『お兄ちゃん』は腰を振る動きを再開し、さっきよりも激しく、深く、その肉棒を私の膣内へと打ち付け始める。
「んぎい! んあひぃぃぃぃっ! 『お兄ちゃん』のおちんぽきたぁぁぁっ! またきてくれたぁぁ! んあぁぁぁっ! すごっ! さい、こぉぉぉっ! 最高だよぉぉっ! 気持ちいいっ! 『お兄ちゃん』おちんぽ、最高なのぉぉ! んぁぁぁっ! あぁぁあっ!」
『お兄ちゃん』は私は背後から激しく犯しながら、お母さんの上でぐったりとしているお父さんに向かって、
「おい、そこのマゾ豚クソおやじ! お前はこれからも俺のためにしっかり金を稼いでこいよ。そうすりゃ、そのババアのマンコくらいなら、たまに使わせてやるからよ」
そう告げる。
すると、
「えぇ? いやよぉ、お父さんのおちんぽなんか、もう絶対オマンコに入れたくないわ。それよりもぉぉ、私は『お兄ちゃん』のおちんぽをオマンコにいれたぁぁい」
「んほぉぉっ!」
お父さんのお尻の穴からディルドウを抜き取りながら、お母さんはまるで汚物でも見るような視線をお父さんに向けそう述べた。
だが『お兄ちゃん』はそんなお母さんに対して、
「あぁ? 梨花が俺のモノになった今、お前みたいな中古ババアのマンコなんか、誰が使ってやるか。お前はもう用済みだ。新しい肉穴の梨花がいれば、しばらくは良いからよ。ま、とりあえず、ソープで働いてもらって月に百万くらい稼いで来たら、相手してやるよ」
そう告げた。
そんな言葉を『お兄ちゃん』から言われてもなお、
「はぁい。よぉし、『お兄ちゃん』に相手してもらえるように、お母さんマンコでお金を稼いでくるねぇ」
と、お母さんは嬉しそうに述べる。
『お兄ちゃん』はお父さんにまたがったまま、絶頂の余韻に浸る里奈に対しても、
「里奈、お前のマンコももうずいぶんと締まりが悪くなってきたからよ、お前にはデリヘルのバイト紹介してやる。稼いできた金に応じて、お前のマンコの相手もしてやっから、まぁ、頑張れや」
吐き捨てるようにそう述べた。
「……んっ、あ、ふぁぁ、い、わかったよぉぉ『お兄ちゃん』……」
ぐっ! ぐっ! と肉棒を私の子宮口に押し付けながら『お兄ちゃん』は、
「梨花、お前はたっぷり俺の相手をしてもらうからな。処女喪失して間もないお前のマンコは締まりが良くて最高に気持ちいいからよ」
そう述べた。
「あっ! あああんっ! ありがとぉぉっ! んひぃぃ! 『お兄ちゃん』! んあぁぁあっ! あっ! 『お兄ちゃん』をぉぉ、んひぃ! 満足させられるようにぃぃっ! ひぃっ! あひぃ! 私ぃぃ、がんばるよぉぉっ! ほぉぉ、おほっ! んほぉぉっ!」
「へへ、頼むぜ、梨花……くっ! おら、そろそろイケよ、梨花っ! 家族の前でアヘ顔晒してド派手にイッっちまえ、よっ!」
「んごぉぉぉっ! イグっ! イングっ! インぐぅぅぅっ!」
『お兄ちゃん』の太い肉棒を膣内で感じながら、私は身体をびくびくと震わせながら絶頂を迎えた。
絶頂を迎え、快楽に歪みきった表情私のを、家族みんなが見つめ、幸せそうな笑みを浮かべている。
私もそんな家族を見つめながら、全力の笑顔を見せるのだった。
そんな私の耳元で、
カゾク、サイコウ。カゾク、サイコウ。
ナカヨクスルノ、サイコウ。ナカヨクスルノ、サイコウ。
と、いう囁き声が聞こえてくる。
うん、本当に、家族って、最高だよね。
これからもずっと仲良く、家族みんなで気持ち良いことしていきたいな。
リビングに置かれた大型テレビからニュースが流れている。
「……次のニュースです。三週間前から行方不明になっていた大学生の石崎梨花さんが、今朝、無事に保護されました。
事件が起きたのは三週間前。都内の大学に通う石崎梨花さんが、「実家に帰省する」という連絡を友人に送ったのを最後にそのまま行方がわからなくなり、心配した友人が捜索願を警察に提出。事件、事故の両方で警察が捜査を進めていました。
警察の調べによりますと、石崎さんの両親、妹も行方不明になっており、同様に捜索願が出されていたとのことです。行方不明になってから三週間後の昨日、都内から遠く離れた山中で四人全員が無事保護されました。
発見されたとき、四人は衣服を一切身に着けておらず、警察の問いかけに対しても「お兄ちゃんと遊んでいた」と意味不明な言葉を繰り返しており、現在、都内の病院にて治療を受けています。
このような家族全員が一斉に行方不明になる事件は、今年になってすでに四件発生しており、発見された家族は全員「お兄ちゃんと遊んでいた」という言葉を述べているため、警察はこれらの事件の関連性を調べています。では、お天気です」
天気予報が始まったのを見た私は、バラエティ番組にチャンネルを切り替えた。
芸能人たちがグラタンを、誇張した言葉で「おいしい、おいしい」と連呼している。
あぁ、グラタン食べたいなぁ。今日の夕飯は蕎麦だったから物足りなかったんだよねぇ。なんて思っていると、
ピンポーン!
突然、家のチャイムが鳴り響いた。
誰だろう。こんな夜遅くに。
「お姉ちゃん! ちょっと代わりに出てくれる? 今、手が離せないの!」
洗い物で手が離せないのか、キッチンから大声で叫ぶお母さんに、
「はぁい。わかったぁ」
と、返事をした私は、テレビを消しそのまま玄関に向かう。
「彼氏でも来たんじゃね?」
「うっさい」
一階の自室でゲームに興じていた弟がそんな戯言を述べる。私はそれを軽くいなし、そのまま玄関へ向かった。
「はぁい」
がちゃり。玄関の扉を開けると、
「こんばんは。こちら、遠井さんのお宅で間違いないでしょうか?」
見知らぬスーツ姿の男性が立っていた。
男性の背後に、まるで隠れるようにしてもう一人、小太りの男性が立っている。
赤と緑のネルシャツにシーパン。寝ぐせだろうか、整っていない髪の毛には大量のふけがついているのが見える。
秋めいてきてだいぶ夜は涼しいのに、男性は額についた大量の汗をシャツの裾で拭っていた。
見るからに不潔そうな背後の男性に私は顔をしかめながら、
「はい。そうですけど」
と、スーツの男性に述べる。
スーツの男性はにこにこと、胡散臭い笑顔を私に向けたまま、
「いやぁ、素晴らしいお宅にお住まいですね。なんとも「キセイ」し甲斐がありそうだ。ねぇ、お客様」
「う、うん」
背後の男性にそう述べると、その問いかけに消え入りそうな声で背後の男性が返事をする。
キセイ?
「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私、こういう者です」
スーツの男性はそう言いながら、そっと名刺を差し出してきた。
『寂しい一人寝の夜にサヨナラを! 温かい家庭に『キセイ』しよう! そこでは『お兄ちゃん』としてすべてが許されます! パラサイト株式会社、代表取締役社長 真田崑(さなだ こん)」
「パラサイト株式会社?」
「私共の会社はお家で一人寂しく生活しているシングル男性に、楽しい家族生活を過ごしてもらうために創設された会社です。創立してまだ間もないですが、すでに四件ほど、すばらしい実績もあげております」
「はぁ……」
「昨今は男性のお一人様暮らしが急増しております。家族の温かみを感じられず、話し相手も、夜の相手もいない……寂しくして、寂しくて毎晩、一人で自家発電ばかり。薄給のあまり、夜のお店にも行くことがでいない。暗い部屋で、冷たい飯を食べながら、アダルト動画に興じだけの毎日……あぁ、なんと嘆かわしいことでしょうか」
「は、はぁ……」
な、なんだ。なんか変なこと言い始めたぞ……。
私は一歩、後ずさる。
「私たちはそんな可哀そうなシングル男性たちを救うため、独自に開発した『装置』を使用し、『寄生』先に選んだお家にお客様を、『お兄ちゃん』として送り込み、家族団欒、裸の付き合い、夜のお供に至るまで、様々なスキンシップをとっていただいております」
そう早口でまくし立てるスーツの男性の言葉に、
「あの……もう夜遅いので遠慮してもらえますか?」
恐怖を覚えた私が男性に帰ってもらおうとそう述べると、
「いえいえ、もうすでにあなた様のお宅に『寄生』させていただくことに決めましたので。あなた様のような美しく、若いお嬢様がいるこんなお宅なら、こちらのお客様の心も身体も、そして性欲も満足していただけることでしょう」
「な、何を言って……」
「さぁさぁ、遠井さん。久しぶりの『お兄ちゃん』のお帰りです。準備いたしましょう!」
スーツ姿の男性はそう呟くなり、私の目の前でぱちんと指を鳴らした。
その瞬間、
「へ、あ……」
私の記憶はそこで途絶えてしまった。
「さぁ、お客様。準備は整いました。こちらが今日からお客様の『寄生』先になります。どうぞヤリたいことをヤリたいだけ、ヤリまくってください。どんなことをしても、この家族からは『お兄ちゃん』として歓迎されますから、ご安心ください」
そう言いながら、スーツの男は仰々しく頭を下げ、小太りの男を玄関の中へと誘う。
「う、うん。ほ、ほんとに大丈夫なの?」
汗をぬぐいながらそう尋ねる小太りの男性に、
「えぇ。すでにこの家の上下水道やウォーターサーバーに我が社が研究・開発した『蟲』を放っております。この『蟲』は水を摂取した者の脳神経に寄生し、幻覚や幻聴をもたらす画期的な生物です。寄生先の家族たちには記憶など一切は残りませんのでご安心を」
そう説明した。
「そ、そう……なら、良いけど」
「はい。存分に『お兄ちゃん』としての生活をお楽しみください」
スーツの男性に誘われるまま、小太りの男性が玄関をくぐる。その後に次いで、この家の長女が
「みんなぁ! 『お兄ちゃん』が帰って来たよぉ」
と叫ぶ。
「ふふふ。『お兄ちゃん』になってみたい方は、ぜひとも我が社のご利用をご検討ください。お待ちしております」
<完>
読ませていただきましたでよ~。
幽霊とかそういう類じゃなかったのかw
完全にしてやられたのでぅ。
で、ちょっと気になったので一話、二話を読み返したのでぅが、梨花ちゃんは帰省した際になにか口にした描写がないのになぜか蟲の声を聞いているんでぅよね。水を介して寄生させるのだったら何か飲ませる描写が必要だったし、肉親から直接寄生だったとしてもそういう描写が見受けられないのは設定として問題が有るのではないでぅか? 内部の寄生虫っぽいから体液交換とかになるだろうし。空気感染とか直接侵入するなら最後の水に放ってるっていうのは入れる必要ないでしょうし、そのあたりが気になってしまったのでぅ。
それにしても寄生させてお兄ちゃんとさせる商売かぁ・・・
なんで自分で使わないんだと思ってしまう独占スキーの性w
いや、もう飽きたのかもでぅけど。
であ、次回作も楽しみにしていますでよ~。
読んで下さってありがとうございます。
そうなんですよねぇ。まさにご指摘の通りです(ーー;)
ご指摘の通り、1、2話あたりにその辺の描写が必要だったと思っております。
幽霊的なものにするか、どうか、最後まで悩んだんですよねぇ。タイトルもタイトルだし……最後の話は蛇足になってしまったかなと。それだったら最後のシーンはなくして、よくわからん謎の存在に操られてました、の方が良かったかなぁ……。
貴重な意見ありがとうございます(^^)
次回作も頑張りますm(__)m