パペドル

 皆様ご存じ、NKN43は2000年代の半ば、東京は中野にある劇場を拠点として立ち上げられたアイドルグループだ。『直接会って触れ合えるアイドル』をコンセプトに、40名を超えるアイドル希望者を、事務所横断で募って結成された。プロデューサーは芸能界の大ベテラン、春本潔(はるもときよし)。結成当初の数年は中野のオタク文化の中だけで『濃い』ファン相手に活動をしてきたが、2010年以降、人気はすっかり全国区。派生形のグループが全国各所に出来た今では、押しも押されぬ、日本を代表するグループだ。

 人気爆発の要因は色々とメディアに分析されている。キャッチーな歌、愛着のわく容姿の女の子たち。大人数での迫力のダンス。意外と大胆な露出にも前向きなグラビア攻勢。様々な角度から『NKN論』が語られているが、やはりそのなかでも圧倒的な躍進理由は『NKN商法』と呼ばれる一連の販売戦略だろう。

 世に名高い(悪名高い?)『NKN商法』とは、春本プロデューサーが仕掛けた斬新なキャンペーン戦略を指す。CD販売と握手会をセットにする。数多いメンバーの中から選抜やポジション競争を行い、購入客にお好みのメンバーの順位を上げさせる(熱狂的なファンによる、複数枚の購入も視野に入れている)。公衆の面前で行う選抜総選挙。スキャンダルに対する厳しい処断と、それに対してツイッターなどへのグループメンバーのつぶやきは統制しないというメディア戦略。一見炎上商法ともとれるような「あこぎ」なスタイルだが、いつの間にか、うら若き少女たちの紡ぎだす因縁のドラマが、日本の芸能ニュースを席巻するようになった。不景気の日本で、CDセールスNo1。子供たちの話題を独占。ネットでの注目度ダントツを誇るようになったNKN43は、もはや誰にも無視出来ないほどの勢いを手に入れるようになった。テレビで雑誌でネットで、彼女たちの姿や話題を目にしないでいるのは1日だって困難なほどだった。

 そんな飛ぶ鳥を落とす勢いの最強アイドル集団、NKNにあって、見た目、歌、ダンスともにパッとしていない割に、安定したポジションを保持しているアイドルがいる。小柴紗羅である。いや、ルックスや歌唱力、ダンスのレベルを酷評されるメンバーは他にもいくらでもいる。メンバー間の競争を煽る戦略で成長してきたNKNのファンは、自分が熱をあげているメンバー以外のライバルたちを、比較的気軽に酷評しがちだ。そしてそもそもが、NKNのコンセプトである『会えるアイドル、触れ合える等身大のアイドル』という考え方自体、圧倒的なダンスのクオリティや人を寄せ付けないほどの美貌の完成度よりは、親しみやすいアイドル像を打ち出しているのだから、仕方がない。しかし、それでも彼女たちが一流の有名人になっていく過程で、垢抜けたり、オーラを纏ったり、成長したり、あるいはプチ整形したりして、NKNのトップメンバーたちは名実ともにアイドル性を手に入れてきた。そんななか、小柴紗羅だけは、オタクアイドルだった初期のNKNの頃から、ルックスも歌も踊りも改善しない。選挙があれば20位前後をうろうろしているが、スポットライトの外に外れてしまうことはけしてなかった。

 ファンたちは小柴を「メンバーたちの信頼厚い、精神的支柱」とか、「通好みの素人っぽさが受けているベテラン」とか、「影の番長」とか呼んでいる。そのようにでも理解しなければ、トップアイドル集団の中で今もパッとしない彼女の安定感が納得出来ないから、無理やりそう解釈しているようだ。しかし、『影の番長』と呼んだファンは、実は鋭い。NKN43を影で束ねているのは、絶対的なリーダーの高岸美奈子でも、センターを務めてきた前野麻未でも大沢優奈でもない。小柴紗羅なのだ。もっとも、そのことを普段から知っているメンバーは少ないのだが。。。

 小柴紗羅、23歳。NKN結成当初からの古参メンバー。応募した理由は、自身が根っからのアイドルオタクだったから。血液型AB型。家族構成は両親のみの一人っ子。性格は意地悪だけど面倒見は悪くない。特技は心理テスト。占い。そして催眠術。春本プロデューサーからメンバーのメンタルケアを任されることもある、腕利きのイメージトレーナー。Sっ気と底意地の悪さが玉に傷だが、基本的にはメンバー達をフォローしてきた、NKNの精神安定剤。プロデューサーは彼女のことをそんな風に買っていた。

 グループに『精神安定剤』が必要な理由。それは言うまでもなく、アイドルが過酷な商売だからだ。十代の未成熟な女の子たちが大人の世界でチヤホヤされる。不安定な人気稼業のなかで若さや清純さを消費されていく、「アイドルビジネス」の危うさは、昔から言われている。そんな中でも、NKNはファンとの距離が近く、グループ内の競争は激しく、そして恋愛禁止のルールも厳格だ(とされている)。容姿に秀でた女の子たちが毎日のようにラブソングに綴られる恋心を、心を込めて歌い、恋愛ドラマで根を詰めて演技をし、その上で実生活の恋愛は厳禁とされる。ストレスが溜まらない方が異常と言える。そうした中でも、「ファンのため」、「自分で選んだアイドルの道だから」と文句も言わずに笑顔で人前に出続けるために、グループメンバーは常に精神安定剤的な存在を必要としている。小柴の、一歩引いたキャラと軽妙なトーク。自身がメンバーの熱烈なファンでもあるというオタク気質、そして彼女の特技は、疲れたメンバーたちを虜にしていたのだった。

 もちろん、活発な女子が数十人揃って競争していれば、皆がみんな、紗羅の友達になるわけではない。楽屋裏で、面と向かって紗羅に悪意を示してくるメンバーもいた。浜口知佐や中川優香といったメンバーだった。彼女たちは既に、元メンバーになっている。それどころか、ファンも含めて禁忌に近い存在になってしまった。浜口知佐はNKN脱退後、AVデビューしてしまったからである。楽屋で紗羅とダンスの振りの話で衝突してから、わずか一月後のMUTEKIデビューであった。ルックスとダンスはセンター候補とも謳われていた一本木なダンス少女だった知佐が、裸で微笑んでいるパッケージに、ファンは号泣したり熱狂したりと大騒ぎとなった。デビュー作前半のインタビューでは、「親しいメンバーに相談をしていて、突然啓示を受けたように目の前が開けて、日本一のAV女優を目指すことにしました」と微笑んで話していた浜口知佐。先月で30作目のAVに出演し、今後はセルへの転向も考えていると言う。今では痴女プレイから野外SMまであらゆる役柄をこなすが、十八番はアイドルのコスプレだ。

 中川優香のことは、浜口ほどは語られない。もともとイジメっ子キャラで売ろうとしていたのだが、年齢が初期メンバーの中でも上の方だったので、孤立しがちだったようだ。楽屋での陰湿な悪戯の噂もあり、小柴との衝突がなくても、いつかは脱退していたかもしれない。人知れずグループを離れた中川は、風俗店を渡り歩いているらしい。今でも熱狂的なファンは、中川優香が勤めていると噂されるソープ店を巡って、吉原や雄琴、中洲を巡礼しているようだ。

 小柴紗羅に嫌われると、なぜか酷い目に会う。小柴紗羅に好かれすぎても、なかなか大変な目に会う。そんな噂が、NKNの中では囁かれている。グループの看板を務める大沢優奈も、後輩たちが語るそんな噂を、一笑にふすことは出来ないでいる。彼女自身、まったく心当たりがないわけではないのだ。一度、握手会があまりにも連続するので大変だ、と紗羅に愚痴ってしまったことがある。心配そうに紗羅が「優奈ちゃんはNKNの顔だから、いつも人一倍注目も集めるし、大変だよね。マッサージしてあげよっか」と優しい口調で近づいてきて、腕を揉んでくれたところまでは優奈も覚えている。そのあとの記憶はない。ふと気がつくと、体は8時間寝た後のように、リフレッシュされていた。気力も十分。元気一杯で握手会に向かったのだが、体の変化はそれだけではなかった。右の手のひらが、女性の大切な部分のように、エッチな快感を感じとる器官に変わってしまっていたのだ。ファンの方々と握手をするたびに、まるで股間の秘部を撫でられるような、押しつけられるような感覚を感じ取る。立って握手をしていると、ついつい内股になって、膝の内側をこすり合わせてしまう。顔は紅潮して、息は激しくなって、目は潤んだ。一生懸命抑え込んでいるのだが、時々、恥ずかしい声が漏れてしまう。筋金入りのド根性で握手会終了まで持ちこたえたものの、感覚の上では数百人の男たちに股間をイジくり回された優奈は、控え室で腰が抜けたようになってしまった。衣装のアンダースコートが、パニエが、バケツの水をぶっかけられたかのように、股間を中心にグッショり濡れていた。

「優奈ちゃん、お疲れ様。さすがは女優ね。じゃあ、オネムの時間でしゅよ~。」

 紗羅が近づいてきてそう囁いたところで、優奈の記憶はまた途切れている。子猫に変身して、大好きな飼い主様にシャワールームで洗ってもらったような、おかしな夢を見たのだが、気がつくとロッカーで着替えを終えていた。この時以来、優奈は握手会やスケジュールに愚痴を言ったことは一度もない。普通に手を触ってもらうだけの握手会が、ありがたいとさえ思っている。これ以降の大沢優奈の高いプロ意識、そして仕事に取り組む姿勢は、他のメンバーたちの見本になるほどだった。それでも、コアなファンの間では、「京都の握手会での優奈」はなぜか最高に色っぽかったと、伝説になってしまっているらしい。「潮対応」と褒め称える声まであった。

 センターのままでNKNを卒業した、前野麻未も、紗羅と会うと少し緊張してしまう。同年代で、一緒にNKNを支えてきた戦友だが、紗羅は同時に前野のファンでもあった。前野の髪型やメイクの方法、ファンとの接し方まで、紗羅は事細かくアドバイスしてくれる。ありがたくもあり、少し鬱陶しくもありといったところだったが、それ以上に、紗羅の言葉になんでも従ってしまう自分がどこか、恐ろしくもあった。今でも不可解な思い出は、卒業を舞台上で電撃発表した後のことだ。その夜、紗羅と語り合ったことをほとんど覚えていないのだが、紗羅は麻未の突然の卒業宣言を、裏切りのように感じたらしく、恨みがましい目をしていた。麻未が心の内をすべて正直に曝け出した後は、紗羅も納得してくれた。それでも最後、少し悪戯っぽい笑顔を見せながら、こう言ったのだ。

「これまで最強アイドルグループのセンターとして、窮屈だったでしょ。少し、羽を伸ばしたらいいと思うよ。あと、世間にも、ちょっと大人なスキャンダルくらいサービスしてあげてもいいかもね・・・。アサちゃんが、路上で半ケツ披露とか・・・どう? いきなり世間は話題沸騰だと思うんだけど。」

 びっくりした前野が、紗羅のキツい冗談をいなしたのだが、その後、何を話したかは思い出せない。翌々週の写真週刊誌を見て、口から心臓を出しそうになったのは麻未本人だった。事務所の社長からもマネージャーからもこってり叱られたが、紗羅だけは頭を撫でてくれた。

「さっすが、元NKNのセンター。どうせなら夜遊びも派手なくらいが格好いいよ。一皮剥けたんじゃない?」

 紗羅に頭を撫でられると、麻未はなぜか甘い気持ちになって全身の力を抜いてしまう。倒れ込んだベッドで何が起きたかは覚えていないが、前野麻未はその日以来、清純派アイドルの道に区切りをつけて、女優の修行を本格的に始めることにした。

 中島春乃は本来大人しい、引っ込み思案の性格だが、紗羅と仲良くなってからカメラの前で大胆な露出を厭わなくなった。グラビア、下着のモデル、際どい水着、フラッシュの光に包まれると、もっと多く、すこしでも多く、自分の肌を見せつけたくて、セクシーに体をくねらせる。「見せたがり姉さん」、「下着がユニフォーム」・・・。口の悪い後輩たちに噂されていると知ると、本来おっとりとして控えめな性格の春乃は消え去りたくなるほど恥ずかしい思いをするのだが、いざカメラの前に立つと、スイッチが入って別人になってしまう。テレビに出演している時も、常に乳首が立っていて、ブラに擦られている。股はいつも潤んでいて、いつ内腿を垂れていかないか、不安でしかたがない。それでもレンズに収まっている自分を想像すると、いつも上気してしまう。バラエティ番組などでトボケた受け答えをしてしまうことがあるのも、カメラに発情しているせいだ。このことを気に病んで、時折、親友となった紗羅に相談するのだが、気がつくとマネージャーに、次のランジェリーのお仕事をお願いしてしまっていたりする。それでも紗羅に言わせると、これが春乃の天職なんだそうだ。

 メンバー間で小柴紗羅の噂が流れることがあっても、渡部美優は歯牙にもかけない。むしろ、恩人である紗羅を庇う側に立つ。美優にとって、紗羅は彼女の秘密を守っていてくれる、生命線だからだ。プロデューサー春本も「天性の正統派アイドル」と太鼓判を押す渡部美優の、絶対に知られてはならない秘密。それは「オヤジ癖」と「ヤリマン」であることだ。両目がパッチリとしていて肌の白い、美少女。そのお淑やかな佇まいと裏腹に、最近の美優はオヤジと見ればホイホイと股を開いてしまう性格なのだ。決して昔からそうだった訳ではない。もちろんグループに加入した時には、美優はヴァージンだった。打ち上げパーティーの二次会で、内緒で先輩に勧められたお酒に酔い、美優は理性を失った。気が付いたら、ガウン姿のオヤジに上に乗られていた。知らないホテルで二人きり。恐怖で言葉を失っていた美優を見つけ出し、助け出し、落ち着かせてくれたのが、ほかならぬ紗羅だった。それだけではない。初めてを見知らぬオヤジに捧げた夜に、いきなり「開花」してしまった美優の性欲の、はけ口を紹介してくれるようになったのも、他ならない小柴紗羅だった。業界に顔の利くプロモーター経由で、次々と紹介してもらえる有力者。制作会社の重役もいたし、大物芸人もいた。司会者も、大事務所の社長もいた。次々と美優に様々な性技を仕込んでくれるオジサマたちに、渡部美優も必死の奉仕で応えた。今では歌やダンス以上に、夜のベッドで腰を振ることの方が得意な程だ。美優の腰使いのおかげで、NKN全体や、メンバーにCMやドラマ出演の話が舞い込んでくることも少なくない。そのためにプロデューサーも、見て見ぬふり、聞いて聞かぬふりを決め込んでいるようだった。上層部の黙認を得て、今夜も美優は夜の営業活動に勤しむ。「みーんなの精子を頂きみゆゆ」小首を傾げて可愛らしく決め台詞を口にする渡部美優は、今日もオヤジ殺しのスマイルで業界人たちの精を搾り取る。

 渡部美優がNKNの「夜の営業部長」なら、卒業してしまった人気メンバー、城田芽衣子は「夜の秘書室長」、北野萌実は「夜の受付嬢」と呼べたかもしれない。スレンダーなプロポーションとキュートな顔立ち、お姉さまキャラで人気を得た城田芽衣子は業界の大物一人に気に入られ、囲われた。その大物を紹介したのも、小柴紗羅である。クールな城田は、物怖じせずにそのオジサマとの会食に応じたが、それでも必要以上に近しい関係を求められると、穏やかな口調できっぱりと断った。それなのに、紗羅と二人きりで話し合った後は、妙に従順に、前向きにそのオジサマと「お友達」になる。2年後にNKNを卒業し、服飾のショップを経営させてもらうようになるまで、城田は一人の変態的な趣味を抱えたオヤジに、つま先から髪の毛まで浸るほど、どっぷりと調教を受けた。目の粗い網タイツにガーターベルト。レースの黒いブラを身に着けて、頻繁にスイートルームで舞い踊るトップアイドル。ヴァギナもアナルも口も喉も、そのオヤジ専用に開発された城田芽衣子は、どこからでもパトロンのペニスを嬉々として受け入れた。夜の修行は芸の肥やしにもなっているようで、城田が纏った大人の魅力は、昼のアイドル活動にも影響を与えた。お姉さまキャラに磨きをかけた彼女は、少女たちのドタバタをどこか別世界から見守るように、アンニュイに笑う。その様子は、リーダーの高岸美奈子さえも「芽衣子様」と呼んで畏怖するほどだった。

 今、城田芽衣子はNKN43を惜しまれつつ卒業し、夢だったファッション関係の仕事に就いている。レザーを主体としたセクシーでビザールな芽衣子ブランドは、妖しげなインパクトで、先鋭的なオシャレ好きを魅了している。パトロンとの蜜月も続いているようだ。紹介して「説得」をした紗羅も、城田の潜在的な魅力の開花を、とても喜んでいる。

 最初に北野萌実を見た一般人は、「ヤンキーっぽい子かな?」という印象を受ける。身長が低くて子供っぽい体形の割に、長い茶髪。そして化粧もガッチリメイクだからだ。集団の中にいても、よく目立った。しかしロリっぽい顔立ちと、彼女の真面目な内面を好んでいるファンたちは、彼女が瞬間的に見せる煌めき、華やぎに魅了された。総選挙のたびに順位が取り沙汰された。ダークホース、萌実の真骨頂である。その萌実が、限定CDを購入したファンになら誰にでも、濃厚なフェラチオと微乳での懸命なパイずりをプレゼントしてくれるという噂が流れると、ネットの裏サイトが震撼した。オークションサイトではその限定CDの値が高騰し、昼のワイドショーですらその高騰ぶりが報じられた。グループメンバーで、萌実と親しいとされている小柴紗羅のファンクラブがセットアップした秘密の会場に、招待状を受け取った熱狂的なモエミストたちが列を作る。アップルの新製品発売と時期が近かったために、間違ってそこに並んでしまった一般の人もいたそうだ。照明を落とした仮設会場で、列の先頭に並ぶ徹夜明けのファンが一人ずつ、カーテンの向こう側に呼ばれていく。お手拭の山とバケツの間で、笑顔のトップアイドルが口から涎を垂らして、まんべんなくファンのモノを濡らす。そしてわざわざチュパチュパと音を立てながら、焦らすようにネットリと、口でのご奉仕をプレゼントする。微乳のために、残念ながらパイずりはそれほど迫力のある責めではないのだが、長年萌実を推し続けてきたファンの中には、彼女の涎が股間に垂らされただけで果ててしまうものも少なくなかった。根気よく、千人近いオタク全員の精を口の中で受け止めて、笑顔で天国に導いた北野萌実。濃いファンたちを納得させて、半年後に波乱に満ちたNKN人生を終え、円満卒業した。

 熱血派体育会系のリーダーである高岸美奈子は、その性格を見込んだ春本プロデューサーに、この役目を任された。責任感の強い彼女は、ダンスや歌のレッスンに一切妥協せずに臨んできたし、グループメンバーの甘えも許さなかった。そのせいで、歌も踊りもパッとしない小柴紗羅とは、最初のうち、よくぶつかった。高岸が一方的に小柴を叱咤したと言った方が正確かもしれない。その頃の高岸は、責任感が空回りして、ついついグループの中でも浮き気味だったかもしれない。振り返ると、美奈子は紗羅との衝突が、この悪循環にブレーキをかけた、一つの転機だったと感じる。「私の目を見て、もう一度今の言葉、言ってみてよ。」普段は冴えない風采の紗羅が、珍しく美奈子に立ち向かってくる。それを思ったよりも堂々としていて好ましいとすら思ったリーダー美奈子は、何度でも紗羅にダンスのテンポが遅れることについて、駄目出ししてやるつもりだった。それなのに、紗羅の黒目の深い黒を覗き込んでいるうちに、彼女の囁きに誘導されるままに、ふと美奈子は脱力した。肩を紗羅に支えられる美奈子。頭がガクンと落ちる気がして、そのまま記憶が途切れた。気が付くと美奈子は、鶏に変身して、羽をバタつかせながら、稽古場狭しと、走り回っていた。稽古場の鏡に映る自分の姿すら、鶏そのものに見える。稽古疲れでへたり込んでいたメンバーたちは、お腹をよじらせて笑い転げていた。

「はいっ。もとの高美奈に戻るよっ」

 紗羅が手を叩くと、不意に正気に戻った美奈子は呆然と立ち尽くす。叱りつけるはずだった小柴紗羅に、何か不可解な悪戯をされたと察した美奈子が、顔を赤くして震えながら怒鳴ろうとしたその時、また紗羅が手を叩く。

「ほらっ、今度は江頭さんになるよ。」

 パチンと手が叩かれる音がした時、美奈子のスイッチは、今度は暴れ馬のようなお笑い芸人に切り替わった。低い声で叫びながら、歪な三点倒立を見せたNKNのリーダーは、上半身のスウェットを脱ぎ捨てて、走り回る。キャアキャア言って逃げ惑うメンバーたちを追い回しては、奇妙なポーズを大真面目に繰り返した。紗羅が手を叩く音が聞こえると、我に返った美奈子は恥ずかしさに、唸り声を上げながら顔を覆って蹲る。この日の紗羅は美奈子の可愛らしいほどの真っ直ぐな変貌ぶりに気を良くしたのか、他のメンバーたちにも次々と「囁き」を入れていった。見る間に、クールな芽衣子様がダチョウになりきって跳ね回る。センターのアサちゃんがおサルになってお尻を掻き毟る。男勝りの優奈がカエルになりきってピョコピョコ跳ぶ。天然お嬢様キャラのナカハルが孔雀になって下着姿で求愛ダンスを始める。悪いムードになりつつあったダンスの稽古場に、突然の動物園登場で、若手メンバーまでが笑い転げた。

 動物キャラのままで、猿が仕込まれた芸を披露するかのように、課題曲のダンスをフルコーラス踊らされたフロントメンバーたちは、紗羅が手を鳴らすと、照れ笑いをしながら、肩で息をしてへたり込む。高美奈ももはや、怒るような雰囲気では無くなっていた。

 不思議な盛り上がりを見せたこの日のレッスン以来、孤立しかけていたリーダーはグループメンバーたちと再び強い結束を取り戻した。高岸美奈子が小柴紗羅のメンタルケアに絶大な信頼を寄せるようになったのもこの頃からだ。今では後輩や新人メンバーから相談を受けると、リーダーは必ず紗羅のメンタルケアやイメージトレーニングを推薦する。絶対的リーダーに薦められたメンバーたちは、素直に紗羅(たちのグループ)の楽屋をノックする。

 いまや、NKNは、小柴紗羅にとって、所属グループであり、アイドル愛と羨望の対象でもあり、絶好の遊び場にもなってくれている。練習生も含めると100名近い催眠術の練習台。それぞれが魅力的な、紗羅専用のサンプルであり、モルモットなのだ。緊張しすぎて自由な振る舞いが出来ていない子には、暗示をかけて弾けさせてあげる。セクシー度をアップさせれば、ファンの人気もうなぎ上りだ。ガードが固くて隙が無さすぎるような子には、うっかり無駄毛の処理を忘れてしまったり、見せパンを履き忘れて舞台に上がってしまうような暗示をプレゼント。時々は主要メンバーにもパンチラやポロリを披露させて、木目の細かなファンサービスをご馳走する。性格悪くて矯正が難しいような子にはエゲツないスキャンダルでお仕置き。鼻息荒いメンバーをジャカルタに送ったりもした。時には坊主刈りのような飛び道具まで出して、世間の注目を離さない。全て紗羅の気まぐれな筋書き通り。みんな健気に懸命に、紗羅の思いつくままの悪戯や指導に、体を張って従ってくれる。日本一のアイドルグループは全員、小柴紗羅の糸に操られる、パペットアイドル。紗羅の呼ぶところの、「パぺドル」という新ジャンルの遊び道具なのだ。

 パペットといえば、全てを糸で操っているつもりでいる春本潔プロデューサーまでも、今や紗羅の指示に従って動く、ロボットのような存在になってしまっている。紗羅が伝えたことを、全て自分の天才的な閃きだと思い込んで、ブヒブヒ言っている。自分自身で、すべての筋書きを書いているつもりでいるロボット。紗羅から見ると、一番可哀想な存在だ。恋愛禁止をうたって、厳しい体育会系クラブを運営するようにアイドルプロジェクトを推進していたつもりの春本だが、今ではNKNは枕営業もファンへの裏サービスもありきの、巨大なビジネススに成長してしまった。事態は実際のところ、とっくに春本の制御下を離れて進行しているのに、彼には止めることは出来ないのだ。彼もまた、紗羅のパペットなのだから。

 あまりにもうまく行き過ぎて、紗羅は時々、この精巧な玩具たちをぶち壊してみたいような、破壊衝動にすら襲われる。十代や二十代前半の小娘たちに、媚びへつらって取り入ろうとする芸能マスコミ。経済効果だの現代文化だのと、もっともらしく批評したつもりになっている文化人。十歳近くも年下であろうこの子たちに、全時代的な「女の子らしさ」を求めながら、自分たちは男らしく振舞おうとせずに、スキャンダルのたびに見苦しく狼狽え、罵詈雑言を吐く、困ったファン。そしてそんな欺瞞を山ほど見ながら、汚いものなんて何も知らないという素振りで今日も可憐に振舞う自分たち。NKN43がビッグになればなるほど、紗羅には誇らしい思いと国民的アイドルを弄ぶ優越感。そして同時に、全てを崩壊させたいような破壊衝動が芽生えていた。

 NKNをぶっ壊す準備は、実はもう、とっくの昔に出来ている。どうせなら、派手に全てをひっくり返したい。天下のNHKの生歌番組が相応しい舞台ではないかと、現場のスタッフや放送技術者も念入りに催眠術の支配下に置いてある。日本指折りの高視聴率番組で、3階建ての巨大なセットで40名を超えるNKNメンバーたちが舞い踊る。大晦日に家族で見ている視聴者たちを仰天させて、日本をひっくり返してNKNを破壊したい。Aメロ、Bメロ、コーラスがあって、間奏後に紗羅のパート。ほぼ毎曲、ワンフレーズだけあてがわれる紗羅のパートで、小柴紗羅が一言、歌詞と違うことを言う。

「みんな、ホントのショータイムよっ」

 その一言を聞くと、NKN全員の後催眠暗示が発動する。全員が歌いながら、踊りながら、衣装を脱いでいく。元気っ子キャラの子たちは逆に艶っぽく脱衣。セクシーキャラの子たちはコミカルに思いっきりスカートを捲って、一気にパンツを足首まで下ろす。お嬢様キャラの子たちはド派手にコスチュームを破り捨てて、まだキャラの定着してない子たちはさっさとスッポンポンになって、憧れのカメラの前に全裸で群がる。みんな生まれたまんま(プラス下の毛)の姿になって歌って踊って、これまで応援してくれたファンの人たち、家族、テレビの前の日本国民の皆様に、自分自身の発育具合をしっかり見てもらうのだ。全裸にカチューシャだけのアイドル、全裸にシュシュだけのアイドル。ポニーテールで全裸のアイドル。ピチピチの裸、ムチムチの尻、熟れ頃のオッパイ、まだ未熟なオッパイ。持てる全てを曝け出して、視聴者の目を楽しませてこそ、国民的アイドルではないか。

 放送事故に慌てたスタッフがいても、技術者、スタッフ陣の半数以上は紗羅の支配下で、懸命に番組を続行する。受信料をもらっているのだ。こんな時に放送を止めてどうするというのだ。

 3度目のサビが来ると、セットの高台で踊る若手メンバーたちは、全裸のままブリッジして仲良く放尿。いつの間にか笑顔で舞台に駆け上がってきた春本プロデューサーが舞台中央で寝そべり、肥満した顔面でその水流を嬉しそうに受け止める。スポットライトがキラキラと反射させる少女たちの水流は、古来からの伝統芸能、水芸のように日本の年越しを賑わしてくれる。メンバーたちが音楽に合わせて左右に腰を振るたびに、水流は蛇行して、プロデューサーをまんべんなくずぶ濡れにする。フロントメンバーたちは素っ裸で客席に突入だ。したり顔で最前列に並ぶ審査員席に上り込んで、こちらにもオシッコをぶっかける。

 NKNメンバーたちほとんどが満面の笑みで全裸で踊り狂っているなか、強張った笑顔でパフォーマンスを続行しているのが、今年新センターにも選ばれた樫原莉那の他、大沢優奈、柏田由実、渡部美優の4名だ。彼女たちは、意識だけは正気のままで、体は迷いなく紗羅の指示をすべて実行するように暗示をかけてある。強張った営業スマイルのまま、小さな悲鳴を上げたり、びしょ濡れの審査員に謝ったりしながら、舞台に戻って大股開きでオナニータイムだ。夢のステージに寝そべると腰を上げる4人。カメラにアピールするかのように、人差し指と中指の二本を突き立てて、ズボズボとアソコに挿入する。スナップを利かせて、愛液をわざと跳び散らかしてみる。歌のサビではきちんとクリトリスを、指が痙攣したかのように擦り上げて、喘ぎ声をビブラートさせる。全て、紗羅の細やかな演出通り。着実に体は従って紗羅の暗示を一つずつ遂行していくのだが、莉那、優奈、由実、美優の心は悲鳴を上げている。本当は中島春乃も入れての5人に、こうした暗示をかけていたのだが、春乃はカメラの前で全裸になれた歓喜で、いち早く潮を噴いて失神してしまっていた。

 こうしてスーパーアイドルの紅白特別メドレーがクライマックスに近づく。莉那、優奈、由実、美優の4人が曲のリズムに合わせて公開自慰行為に励む。激しく出し入れされていた指は動きを止め、今度は腰のほうが豪快に打ち振られて、指を割れ目で銜え込んだり吐き出したり。そのたびに恥ずかしい飛沫があがる。残りのメンバーもステージで後ろ二列に並び、全員笑顔。それぞれ右隣のメンバーの可憐な秘部に指を突っ込んで、リズムに合わせ、動きを揃えてズボズボと出し入れする。前列は中腰で、後列は背筋を伸ばしての、カメラを計算しつくした集団オナニーだ。曲のフィニッシュまで、全員にエクスタシーは許されていない。誰にもイクことは許されていないはずなのだが、舞台片隅で寝そべる春乃だけはすでに幸せそうに昇天している。彼女は紗羅の話の何を聞いていたのだろうか? 天然とは恐ろしい。

 残りのメンバーはメドレーがリフレインされる限り、オルガズムス寸前の状態でも激しいオナニーを続けなければいけない。最後に爆発音とともに、テープが飛ばされ、大量のプリズム素材の紙吹雪が舞い、スーパーアイドルグループは大崩壊する。全員で女の幸せを噛みしめながら、股間から間欠泉のように愛液を撒き散らして、イキ顔を順番にカメラでアップで抜かれながら、少女の時代を大々的に卒業するのだ。

「それで・・・、その時、紗羅は、どこにいるの?」

「えっ・・・私? ・・・私は・・・皆を・・・、舞台袖から・・・見守って・・・。」

「プロデューサーまでステージ上でずぶ濡れになって横たわってるっていうのに。メンバーの紗羅一人が、舞台袖から眺めるの? 崩壊の引き金を引いておいて、自分だけは袖にはけて、騒動の野次馬になっちゃうの?」

「わ・・・わたしは・・・」

 今、自分は、誰と話しているだろう? 小柴紗羅がそのことを思った瞬間。大狂乱となっている紅白の舞台から、仲間たちの姿は消え、観客も審査員も消え、照明が落ちた。暗いステージにはただ、風が吹いている。

「紗羅が思いついたNKN大カタストロフィーでフィナーレっていうアイディアは、とても面白いな。いつか実現させたいね。でも、今、それをやられちゃうと、2人でせっかく築き上げてきた夢のプロジェクトが、一気に崩壊しちゃうよね。パぺドルたちがみんな、引退しなきゃいけなくなっちゃう。そんなバッドエンドをこんなに早く実現させるのは、僕には、ちょっと耐えられないなぁ」

 最後には舞台までも消えて、真っ暗。ここは暗い部屋。紗羅の一番落ち着く、一番心を安らげることが出来る部屋で、紗羅は男の人と相談していた。この人は、多田野宅人さん。

 本名かどうかはわからないが、タクトさんは小柴紗羅デビュー以来のファンで、彼女のアイドル活動のブレーンのような存在だ。そういえば、特技がないと悩む彼女に、催眠術の手解きをしてくれたのも、タクトさんではないか。紗羅はいつも、イラついたり困ったことがあると、タクトさんに相談する。彼の誘導でこの小部屋に導いてもらう。目が覚めると、いつも紗羅はワクワクするような悪企みや、グループの方向性。悪戯のアイディアなど、たくさん思いつくことが出来る。ただのアイドルファン、アイドルオタクだった彼女に、自らアイドルを志願するように勧めたのもタクトさん。アイドルオフ会で初めて出会った時には挙動不審気味で若干気味悪かったタクトさんも、今では日本一のアイドルグループを操る、影の番長、小柴紗羅の秘密のブレーンになっていた。

 ブレーンだけでなく、タクトさんは紗羅の手足となって動いてくれる。気に入らないメンバーのヴァージンを奪う時、メンバー理想の恋人役を演じてくれたのもタクトさん。城田芽衣子や渡部美優に枕営業を仕込む時にも、仕上がり具合を事細かにチェックしてくれたのはタクトさん。北野萌実のバキュームフェラ&パイずりセットを辛抱強く評価して、チューニングしてくれたのもタクトさん。大沢優奈にソープ嬢の人格を仕込んだ時にも、ローションでドロドロになるのも厭わずに、紗羅が知りようもない様々なソープ嬢テクを優奈に叩き込んでくれたのもタクトさん。その優奈がギンガムチェックのTバックの虜になるようにアイディアをくれたのもタクトさん。紗羅がメンバー全員を大部屋の楽屋で発情した犬に変えて、まるで保健所のような騒ぎにした時にも、冷静に一匹ずつバックで犯して、途中からは大人の玩具を使って全員処女卒業させて、成長させてくれたのもタクトさんだった。

 いつの頃からだろうか? 紗羅は色々と親身に協力してくれるタクトさんを全面的に信頼し、尊敬するようになった。外見的には決して惹かれない風貌をしているが、紗羅に特技を授けてくれ、いまでもリラックスの時間と、様々なアイディアのヒントを与えてくれるタクトさんに、出来ることを全てしてあげたいと思うようになった。みゆゆと優奈を「お尻好きシスターズ」に仕立てて、アナル拡張に励ませたのも、タクトさんに新たな刺激をプレゼントしたかったから。不動のセンター、アサちゃんのヴァージンをフライングゲットさせたのも、柏田由実に、その立派なお鼻に似合う、巨大なペニスバンドを装着させて深夜のテレビ局廊下をストリーキングさせたのも、全てタクトさんに喜んでもらうための、紗羅からの贈り物、貢物だった。いつも紗羅は、メンバーのなか、あるいは派生グループの若手の中から、タクトさんの食指が伸びそうな子を探しては、タクトさんに捧げようとしている。パぺドルたちはいつでも、紗羅の遊び道具であると同時に、タクトさんの性具なのだ。

「マルル、最近、ファンへの対応が素っ気ないんじゃないかって、噂になってるらしいね。」

「サラっち先輩・・・。私、別に不愛想にしてるつもりはないんですけど・・・、ちょっと不器用で。」

 ネットで叩かれたと、うなだれている島関真理香に、先輩でグループのカウンセラー格の小柴紗羅が優しく声をかける。つい先ほど、リーダー兼総監督の高岸美奈子からもお灸をすえられたらしい。

「マルルだって、アイドルって言っても中身は女の子なんだから、年中お人形みたいに笑顔で愛想振りまいてられないよね。」

 包み込むような優しい口調で、サラっち先輩が慰めてくれる。この人柄があるから、この人はルックスも歌も踊りもそんなにパッとしないのに、天下のNKNにあってしっかりポジションを確保しているのだろう。

「サラっち先輩、ありがとう。でも、やっぱり私、ポンコツなんですよ。優奈さんとか、私よりもっともっと忙しくても、いつでも最高の笑顔を披露出来でますもん。」

「マルル、私の目をしっかり見て。黒目の中。ずーっと見つめてると、黒目の暗がりの中に、時々、キラキラしたものが見えるでしょ? その光を追いかけていくの。ずーっと奥深く。ステージから真っ暗な客席を見るみたいにね。ここは武道館かな? 西武ドームかな? 凄く大きな会場。ずっと遠くから、チラッ、チラッと、光が見えてくるでしょ? それを見失わないで。貴方を照らすためのスポットが、テストしてるのよ。」

 深みを増した紗羅の言葉に聞き入るように、島関真理香が表情を少しずつ無くして、紗羅の両目を見入る。

「貴方を綺麗に照らすための光。大事なスポットライト。今はテストのために、小さな光を、ゆっくりと点滅させてるわ。でも見失っちゃ駄目。本番でしくじっちゃうでしょ。真剣に光の点滅を見ていて。・・・集中して見つめていると、だんだん疲れてきちゃうよね。頭の中を空っぽにして、ただ見つめていればいいのよ。意識をコントロールするのはパフォーマーの基本。一流パフォーマーは、舞台の前に、余計なことを考えずに、頭を空っぽに出来るの。貴方も出来るでしょ?」

 真理香は紗羅の言葉に返答するのも忘れるほど、呆然と紗羅の両目を見つめている。紗羅が優しく真理香の両肘を掴んで揺すってみると、抵抗もせずに真理香は前後に揺れた。

「ほら、頭の中、すっかり空っぽ。今の真理香は最高のパフォーマー。極上の器になったのよ。でも、この器の中は空っぽ。これから中に入るものを何でも柔軟に受け入れるの。演出家の言葉、春本さんの求めるイメージ。リーダーの指揮。そしてファンの皆さんの愛。真理香は曲のたび、演目のたびに変貌する、最高の演者の器なのよ。」

「最高・・・の演者・・・。うふ・・・うふふ・・・うれしい」

 真理香の虚ろな表情が、ホンワカとした笑顔に包まれる。視線は紗羅のはるか後方。どこか遠くを彷徨っている。

「マルル。空っぽになれた貴方に、今から演出家の私が、素敵な役を与えてあげるわよ。貴方はそれに、こころからなりきることが出来るの。といっても、今日はいつもとはちょっと違う役。色んなパートがもう他のメンバーに割り振られちゃって、貴方には『ストリッパー』の役しか残ってないわ。」

「え・・・、ストリッ・・・」

 フワフワと笑みを浮かべていた真理香の顔が急に曇る。清純派アイドルには厳しい役の割り振りだ。

「空っぽの器である、マルルにスポンッ。もうストリッパーの役柄が入りこんじゃったわよ。もちろん、ストリッパーっていっても、全部脱ぐわけじゃないわ。貴方の下着の下に、ちゃんとベージュのレオタードを着込んでいるでしょう? これは演技。演技なんだから、普段の自分とかけ離れた演技が出来るほど、女優としての貴方にみんなが感心して、賞賛を送るの。貴方は普段真面目であればあるほど、今日はエッチなストリッパーになる。それをみんなが褒めてくれて、貴方はどんどん嬉しくなるの。そうでしょ?」

「あ・・・はい・・・・。そう・・です・・・うふふ・・」

 曇っていた表情が晴れる。しかし頬を少し上気させた真理香の、潤んだ目はどことなく妖しい光を宿していた。

「今日はお客さん限定イベントだから、自分のキャラとかイメージとか気にしないでいいのよ。でもストリッパーの役柄なのにレオタード着ちゃってるんだから、そのぶんセクシーに過激に演じなきゃだめよ。お客様たちに見えないヌードを見せてこそ、本当の演技よ。わかったわね。・・ほら、ミュージックスタート。」

 紗羅がリモコンを操作すると、楽屋のCDラジカセから「いかにも」といった感じのムード音楽が流れだす。2、3度瞬きをした島関真理香は、誰もいない壁に向けて、妖艶な笑みを浮かべてウインクした。笑顔で音楽にのせて身をくねらせながら、一歩ずつ、思わせぶりに壁に歩いていく真理香。BGMを聞いてか、外からドアをノックする音がした。

「いいわよ。入ってきて。」

 ドアが開くと、青いチェック柄のネルシャツに毛玉を沢山つけた、オタクっぽい男が覗き込む。

「おっ、今日はマルル。最近批判されてたみたいだけど、元気みたいでホッとしたよ。」

 お尻をセクシーに振っている真理香に見とれるタクトさん。そのタクトさんの様子を、紗羅は嬉しそうに見守る。

「最近、色気も素っ気もないとか、ネットに色々書き込まれてたみたいだから、今日から、お色気たっぷりでサービス満点の新マルルに生まれ変わらせてあげるの。最初のお客様は、いつも通り、タクトさんにお願いしようと思ってるんだけど、どうかな?」

「もっちろん!」

 小太り気味の体に似合わず、素早い動きでソファーに飛び移る多田野宅人。壁と空のソファー相手に愛想を振りまいていた真理香に、かぶりつきのお客さんが出来る。焦らすように一つずつ、シャツのボタンを外しながら、真理香は白く若い肌を見せていく。時々シャツを閉じて、隠すような素振りをして、「満場の」客席をからかう。余裕と愛嬌たっぷりの、妖艶なお姉様だ。足をピンと突き出して、スカートを太腿までめくり上げる。切なそうにすぼめていた口をニッと口角上げると、可愛らしい舌をペロッと出して、悪戯っぽく、一瞬だけパンツを見せてくれた。シャツのボタンが全部外れると、女の子らしい控えめな刺繍の入った白いブラが見える。そのままシャツを脱ぐのかと思ったら、シャツを両肩に羽織るようにかけたまま、スカートのチャックを下ろして、床にファサッと落してしまう。スラッと形のいい美脚と、ブラと揃いのパンツがタクトさんの目の前に曝け出された。床にしゃがんで足を突き上げたり、悪戯っぽい笑みを浮かべながらブラジャーのカップ周辺を両手で思わせぶりに撫でまわしたりと、真理香のソロパートは続く。満場の観客の視線を独占していることに酔いしれているように、真理香はうっとりと身をよじった。

「いいぞー、マルル。もっと脱げー」

 両手をメガホンのようにして、タクトさんがコールする。それに煽られるように、立ち上がった真理香はシャツを背中からスルスルと落す。少し恥ずかしそうに両手をクロスさせて両肩を抱く真理香。しかし腰は音楽に合わせて艶めかしく左右に揺れている。

 ふと右手を高々と伸ばす真理香。後を追うように左手も上に上がる。体を後ろに反らして、ブリッジになる直前くらいまで頭を後ろに下にと下げて、綺麗に弧を描く。髪の毛が後ろの床につくほどだ。その大勢のまま、両手を背中にやった真理香は、ブラジャーのホックをゆっくりと外す。タクトと紗羅の指笛が響く中、体を起こしてブラのひもから手を抜き取った真理香が、恥ずかしそうにブラのカップを両手で抱えて、しばしそのまま動きを止める。モジモジとした真理香が、その場で静止してしまった。見る間に、肩まで赤くなる。

「ありゃ・・・このへんが限界? ・・・でもこの壁も・・・、突破するしかないでしょ!」

 ソファーでタクトさんの横に座って、かぶりつきで、真理香のセクシーパフォーマンスを堪能していた紗羅が、慌てて真理香の左後ろに回り込む。

「マルル。どうしたの? 頂いた役をやり切れないの? ほら、舞台袖で貴方の後輩たちが春本さんに訴えてるよ。貴方なんかよりもずっとセクシーに、お客さんを魅了出来るって、立候補してるみたい。みんなが貴方の順位を飛び越えて、ブレークしたがってるよ? 恥ずかしかったら、譲ってあげよっか?」

 両手でブラを持って胸を隠したまま、身を小さくしようとしていた島関真理香が、唇を噛みしめて、目をギュッとつむって首をブンブンと左右に振ると、顔を起こす。壁の向こうにいるであろうお客さんに、顔を赤くしたまま笑顔を見せて、ブラジャーを下ろし、「きをつけ」の姿勢になる。丸くて白い美乳がプルプルと震えていた。薄いピンクの乳首が、遠慮がちにオッパイの先端で揺れている。マルルは、思い切ってブラジャーを客席に放り投げた。決意を示すように、両手をぐっと腰の後ろで握って、胸を張る。

「マルル。凄いよっ! みんなの拍手で、歓声で、音楽が聞こえないくらい! とっても気持ち良くなる。お客さんに喜んでもらうと、貴方はどんどん嬉しくなる。エッチな快感も感じる。女の子の幸せな気持ちが、股間から脳天までギュルギュル駆け巡っちゃうのよ。」

 紗羅に言われるがままに、真理香は赤らんだ顔のまま、最高の笑顔を浮かべて陶然となる。薄く目を閉じて、深呼吸の途中のように両手をスッと左右に広げて、胸を突き出し、全身を観客たちに晒す。今度は、小ぶりな乳首が限界まで垂直に突き立っていた。

 ベタベタと抵抗するように張り付くショーツを肌から離して、足を抜く。恥ずかしいマルルの染み付きショーツもアリーナ席にプレゼント。淡く生え揃ったアンダーヘアが恥ずかしい液体に濡れて光っている。バレリーナのようにクルクルと回転して全身をお客さんに見てもらったマルルは、お尻を床につけて、両足をゆっくりと開いていく。ヘアの中から、小豆色の割れ目が顔を出した。照れくさそうに笑いながら、真理香は手を股間に持ってきて、何かを握るような仕草をする。音楽に合わせて、右に、左にと、何か掴んだものを引っ張っているような動作だ。

「ん? ・・・・あら、マルル。レオタード引っ張って、ヘアとかアソコをチラ見せしちゃってるの? 凄いじゃない。」

「こんなサービス・・・。今までのマルルからは考えられないよ。やっぱ、紗羅ちゃん最高!」

 感激しているタクトさんに褒められて、紗羅も嬉しくて失神しそうなほどだ。実際の島関真理香は、楽屋で2人の男女の前で、全裸で踊っているだけだ。それなのに、彼女が想像上のレオタードをずらして、自らオマ○コをチラチラ披露しているということが、タクトさんや紗羅には極上の喜びをもたらしている。マルルは紗羅の演出を超えて、お客さんを喜ばせるためにこの行為を自ら行っているのだ。これこそ、催眠術師、小柴紗羅の歓喜の瞬間だ。

「うぅっ・・・み、みんな・・・マルルのこと・・・もっと見てっ。お願いっ!」

 両手で、内股のあたりで何かを掴んだような動作をして、その両手をグッと上に引き上げる。マルルが想像上の痛みに耐えて、歯を食いしばる。レオタードを、限界まで食い込ませているつもりのようだ。タクトさんと紗羅が熱い拍手で応じる。

「はぁっ・・・もうっ・・・もうっ・・!」

 感極まったような表情の島関真理香。両手を胸元に持っていくと、またグーを作って、その両拳を左右に大きく開き切った。せっかく演出家の先生が与えてくれた、想像上のレオタードを、自分から破り捨ててしまったのである。本当はそれまでも、マルルはすでにスッポンポンで、丸いオッパイを揺すっていたのだが、タクトさんと紗羅の目には、今こそトップアイドル、マルルが身も心も、裸になってくれたように見えた。涙を流して拍手するタクトさんと紗羅。至福の笑顔で大の字になって楽屋でポーズを取るマルル。

「ビュビュッ! ビュッ。・・・ビュビュビュッ!」

 股間から熱い愛液を迸らせると、マルルは笑顔のまま白目になって、大の字のポーズを崩さずに後ろに倒れていった。島関真理香。人生最高のオルガズムスを経験した瞬間。実際は楽屋で2人の前で果てただけだが、彼女の耳には、大満足した5万人の歓声が鳴り響いている。天上で聞く最高の音楽のように、その歓声はいつまでも止むことを知らず。そして歓声が鳴りやまない間、真理香は止めどもなく愛液を放出し続け、イキ続けた。ファンサービス命、「二代目エロ姉さん」誕生の瞬間であった。

 稽古場の一室にビニールシートを敷き詰めて、今日もタクトを迎えてのNKNの宴が始まる。グループの主要メンバーは、すでに紗羅にあれこれ指図をされなくても、満面の笑顔でタクトを迎え入れ、服の脱がしあっこを始める。遠くからそれを取り巻く若手メンバー、練習生たちはテキパキと服を脱ぐ。若い女の子たちが全裸でギュウギュウ詰めになると、室内には甘酸っぱい、女の子の匂いが充満する。マットの上に寝かされた、裸の王様、タクト様。彼を喜ばせるために、ハーレムにはべる侍女たちは精一杯女を駆使して奉仕する。タクト様に触れられるのは、選ばれたメンバーだけ。特に口でタクト様の口、両乳首、二つのタマ、肛門、そしてペニスに奉仕できるのは選りすぐりの7人。この下のお世話係七人はグループ内で「シモ・セブン」と呼ばれて羨望を集める。

 NKNの懐かしのナンバーから新曲まで、ノンストップでディスコグラフィーがおさらいされる中、メンバーたちが裸で踊って見せる。選抜メンバーたちは、振付にお色気やお下劣なアレンジを加えて、タクト様の笑いを狙うことも許されている。そんな馬鹿騒ぎの中、綺羅星のような7人の人気アイドルが、タクトの口の中に、肛門に、乳首に、睾丸に、ペニスに、思い思いに舌を這わせ、熱のこもったご奉仕を披露する。タクト様は時々、目についた新人や、最近成長の激しい若手を側に呼んで、オッパイを揉んだり、尻を叩いたりしてからかう。タクトさまに声をかけてもらえた若手は、他のメンバーや練習生たちの嫉妬を一身に受けながらも、晴れやかそうに胸や尻を突き出して弄ばれる。みんな、我こそは次の「お呼ばれさん」に、そして次世代の「シモ・セブン」に、と懸命に扇情的に舞い踊る。時折開かれるこの宴を通して、色気を競い合って視線に磨かれるうちに、NKNの底力が育まれる。欲求不満も吹き飛んでしまう、酒池肉林のパーティーだ。

 そして、そのパーティーも佳境になると、タクトが紗羅に頷く。紗羅が「メドレータイム」を選曲すると、全メンバーが歓声を上げる。全員が、ワンフレーズ分だけ、タクト様の体に跨っては、騎乗位で挿入して頂くことが出来るのだ。

「I Love You!」

「I Need You!」

「I Want You!」

「I Eat You!」

 60名以上のメンバーが代わる代わる、タクトのペニスをアソコで銜え込んで、自分のパートの間、歌いながらズボズボとタクトのペニスを締めつける。後半に行くほど、我慢が厳しくなる、タクトにとってもなかなかヘビーなローテーションだ。それでも、タクトの周りに「シモ・セブン」や選抜メンバー。卒業した名誉メンバーまでが寄り添って、両手で拝むようなポーズになってタクトに我慢を求める。

「次の次、私のターンだから、タクト様、私を待ってて!」

「芽衣子様がそのあとなんだから、私でイってよ。」

「タクト様、久しぶりなんだから、私の中に出して~。」

「絶対、私でイってください。みんなの精子を頂きみゆゆなの!」

「タクト様~。」

「お願い~」

 黄色い歓声のおねだりと、一振入魂の腰使いでタクトのペニスを責めたてるアイドルたち。代わる代わるタクトのモノを膣内に頬張って、ギュッギュッとダンスで鍛えた下半身の実力を見せつける。華奢な足、引き締まった足。ムチムチとタクトの腰の上で揺れる太腿。玉のような汗を浮かべた細い太腿。それぞれに揺れる巨乳、美乳、豊乳、美乳。あるいは幼く平坦な胸板。圧力の凄い膣、優しく包み込む膣壁、濡れて温かい胎内。まだ慣れていないような、強張ったヴァギナ。嬉しそうにペニスを迎え入れる、意外と使い込まれたヴァギナ。全てが、日本中の男たちの暗い欲望を集める、アイドルの秘密の、禁断のパーツだ。それを持て余すほどに独り占めする。この快感を、優越感を、万能感を、簡単に手放してしまうことは、タクトにはなかなか難しい選択だ。

「タクト様、私、生まれ変わったんです~。」

 順番が来て、タクトの体に上ってきたのは、さっきようやく意識を回復したばかりのはずの、島関真理香。素っ気ないファン対応を批判されたはずの、美少女アイドルだ。今は100%視線を気にしながら、プロ顔負けのシナをつくって、タクトの上で楽しげに跳ねる。

「サービス命。新マルルをどうぞ、楽しんでください。」

 見られることの昂ぶりを表しながらも、誠心誠意、心のこもった腰使いに、タクトは先ほどの彼女の、ど根性ストリップを思い出す。思わず、自分でも予期しないタイミングで、漏らすように精子を出してしまった。それもドップリと、何回にも分けて。

「あ・・・、ゴメン、みんな。最後のサビでイってやろうと思ったんだけど、もうイッちゃった・・・。」

 タクトが面目なさそうに頭を掻くと、他のグループメンバーたちはみんな声を上げてうなだれる。突っ伏するみゆゆ。床を殴っている優奈。全員が落胆して腰を下ろす。両手を口に当てて、喜びを全身で表現するマルルは、これからもNKNの中で順位を上げそうだ。真理香が腰を上げると、割れ目からズプズプと精液が垂れ落ちる。そこに舌を滑り込ませる優奈と芽衣子は、さすがに抜け目ない。

「タクト様~。もう1回くらい、出来ませんか?」

 長年センターを務めた自負からか、あるいは単に空気を読まない性格なのか、前野麻未がズバッと核心的な質問を投げてくる。

「う・・・。僕も、そんな絶倫でもないから・・・ね。ま、2回はヤルんだけど、最後の1回は、いつも相手、決めてるんだ。」

 アサちゃんも最後は納得して肩を落とす。祭りはひとまず終了したということだ。タクトは端のほうに座って見ていた、小柴紗羅の元へ行って、肩を叩く。

「・・・さ。紗羅ちゃん。いつも通り、最後は君から僕へのご奉仕。お願いします。」

「ん・・・いいけど・・・タクトさん。いっつも、私でフィニッシュでいいの? もっと可愛い、美少女たちが綺羅星みたいにはべってるのにさ・・・。」

「僕は・・・昔から決めてるんだもん。いつも最後は紗羅でイクんだよ。」

 紗羅の髪の毛を無造作にグシャグシャと弄りながら、キスを求めるタクトさん。紗羅は反射的に目を閉じて力を抜いて、キスに応じる。

「NKN・・・。紗羅ちゃんは、本当にぶっ壊したいの?」

「ん・・・わかんない。ただのジェラシーなのかもしれないし、みんなへの愛なのかも・・・ただの破壊衝動かもしれないし、自傷行為なのかも・・・。」

 口のあとは首筋、胸元、乳首。タクトのキスの奉仕を逆に受けながら、紗羅は呟いていた。いつの間にか、うっすら涙が浮かんでいる。自分でもこの涙の意味はわからなかった。

「そっか・・・。それじゃぁ、紗羅ちゃん。僕と勝負してみない? 僕の禁止暗示を破ることが出来たら、紗羅ちゃんは今度の紅白の本番で、こないだ教えてくれたシナリオを実行することが出来るよ。君は、僕の暗示を打ち消して、みんなへの後催眠暗示のキーワードを口にすることが出来る。そうしたら、全国放送の生本番で、君が思い描いた通りの破滅が実現するんだ。君が僕の暗示を打ち破れなければ、NKNはいつも通りの華麗なステージをこなして、おめでたい年明け。僕はいつもより、軽めに暗示をかけるから、今の紗羅ちゃんの腕なら、頑張ればこの禁止暗示をかき消すことが出来るかもしれないよ。」

「タクトさん・・・。どうして、こんなこと・・・するの?」

「僕だってわからないよ。面白いから? 久々にスリリングな紅白を楽しみたいから? 何かの復讐? 気まぐれ? ・・・いや、ひょっとしたら、このアイドルっていうシステムは、僕らも含めて、みんなを巻き込んで、いつの間にか、みんながみんなに踊らされちゃう、怖いシステムなのかもしれないね・・・。ま、いっか。それじゃ、禁止暗示をかけるよ・・・。」

 タクトが両手を紗羅の両肩に置くと、紗羅は頷いて目を閉じる。スルスルと、自分の体が深く暗い部屋に落ち込んでいくような、気だるい安心感。こんな自分に、日本の芸能界を揺るがすような勝負が、委ねられて良いのだろうか? 一瞬不安になったが、紗羅はすぐに深い深い部屋に着地した。タクトが禁止暗示のキーワードを囁く。

「紗羅ちゃん。
 ・・・・Show Must Go On・・・」

< Fin >

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