生徒会ゲーム 第9話

第9話

「き、き、今日は久しぶりに、ご、五感を操作させてもらおうかな?」

 可児田樹が嬉しそうに計画を発表するのを、ふてくされた生徒会役員6人が直立不動の姿勢で聞く。会長の高倉沙耶、書記の清橋優奈は不安げに眉間に皺を寄せている。会計の鶴見栞、選挙管理委員長の芹沢澪は悔しそうに唇を噛んでいる。副会長の佐倉陸、庶務の小峰駿斗、広報部長の湯川倫太郎はキョロキョロとお互いの様子を伺っていた。いつもの生徒会室の放課後、それぞれの部活に勤しむ生徒たちが運動場や体育館に出払った後の校舎。生徒会室のある棟には、人が近づく気配もなかった。

「じ、人格変化とか後催眠暗示とかと比べると、ベーシックだよね。でも時々基本に立ち返るのも面白いかなって思って。ほら、みんな座って楽にしてよ。」

 いそいそと生徒会室の真ん中に、椅子を6つ並べる樹。生徒会役員たちは、テキパキした樹の動きを見ながら暗澹たる気持ちになる。樹が彼らを「楽に」させてくれるつもりがないことは、これまで毎日彼らが参加させられてきた「ゲーム」の経験からも明らかだった。

 樹の指示に始めから背いていては、どんなお仕置きを与えられるかわからない。生徒会メンバーは溜息を漏らしながらも椅子に腰かける。自然に背筋が伸びるのは、キャラクターに違いはあれど、全員が良家の子息、息女としてきちんと育てられてきたことを示していた。

「みんな、僕の目をじーーっと見つめて。だんだん瞼がオモーくなってくるでしょ? 一度閉じたら、もう開かないよ。目を閉じるとそのままふかーい眠りに落ちる。僕の声が頭の芯まで響く他はなーんにも気にならない。ほら、もう落ちる。ストンッ」

 樹と目を合わせた瞬間から、すでに優奈と駿斗は眠そうな顔をしていた。誘導のままに体の力を抜いて、お互いの体に寄り添うように体重を預ける。目を懸命に開けていようと試みていた澪は、何度か頭を揺らした後で、派手にガクッと俯いて頭を落とす。沙耶が椅子に沈み込むように眠りに落ちると、体から緊張が、糸のほどけるように緩んだ。行儀よく揃えられていた膝元が緩んで、白い内腿が僅かに露出する。倫太郎と陸もスヤスヤと眠りこけている様子。最後まで抵抗しようとしていたのは栞だった。

(なんで・・・、キーワード1つでみんな落ちるのに・・・、こうやって時々、基本的な導入からおさらいしてるの? ・・・・遊んでるの? ・・・技術の維持?)

 この期に及んでも、樹の腹の内を探ろうとしていた分析家肌の栞だったが、樹が人差し指を立てて栞の目の前に差し出すと、両目を寄せて注目してしまう。そして、樹が「ティック」と舌を鳴らして、人差し指を横に倒すと、その動きに合わせるように頭を肩に預けて目を閉じた。全員、樹の催眠導入を繰り返し受けているうちに、僅かな動作で非常に深い催眠状態に落ち込むようになっていた。

「・・・そろそろ、起きようか? 出発の時間だよ。」

 樹に言われて、生徒会メンバーたちが目を覚ます。たっぷりと睡眠時間をとったあとのような、爽やかな気持ちと、頭の芯がまだかすかに痺れているような、深い眠りからの覚醒。学園のリーダーたちが目を瞬かせて周りを伺うと、彼らは自分たちが大型の強化プラスチックと金属とゴムで出来た、頑丈そうな椅子に腰かけていることに気が付いた。

(出発の時間?)

 きょとんとしていると、ショック吸収用の分厚いゴムに覆われた、安全バーが自分を覆うように腹まで下りてきた。

 ブーっとけたたましいブザーが鳴る。自分の椅子の下から、ガタゴトと車輪が動く振動が突き上げてきた。

「アメージング・イツキ・ライドへようこそ。皆さんを現実からぶっ飛ばす、素敵なファンタジーライドと最新型の絶叫マシーンとの融合型アトラクションだよ。」

 椅子に座って、安全バーを握りしめるポーズを取って、生徒会役員たちは心配そうに周りをキョロキョロ見回している。普段は自信を秘めて颯爽と校内を歩いているリーダーたちの、可愛らしい表情を見るのは、樹の楽しみになっている。

「ぜ、絶叫・・・・。ヤバいって・・・。」

 芹沢澪が呟く。樹が目をやると、男勝りの美人アスリートが、いつになく青ざめた顔をピクピクとひきつらせていた。

(澪ちゃん、絶叫系苦手なのかな? ・・・手加減してあげる? ・・・・まさか・・・)

 樹はニヤリと口元を歪ませる。ゲーム仲間の趣味趣向に合わせて容赦してあげるほど性格が良ければ、2か月にもわたって美男美女を支配下に置いて玩具にするはずもなかった。

「皆さんを最初にお出迎えするのは、笑いの部屋です。カートが部屋に入ると。ほら、ピエロさんたちが沢山、サーカスのトリックを披露していますね。ほら、でも転んだりボールを頭にぶつけたり、失敗ばかりしています。面白いですね。だんだんおかしくなってきますよ。とっても面白い。笑いが止まらくなっちゃうほど、おかしな動き。ドジばかりのピエロさんたちです。」

「やだっ・・・きゃははっ。」

 優奈が小首をかしげて、笑い出す。

「ぶっ・・・何それ。」

 我慢していた栞も噴き出してしまう。

「うふふふっ・・・・ははっ・・・ちょっと・・・苦しい・・・。」

 遠慮がちに笑っていた沙耶も、お腹を揺らして笑い出す。

「なんだよ~それ・・・」

 澪は豪快に、両足でドンドンと「カートの」床を叩きながら笑っていた。男子も含めて全員、生徒会室に横一列に並んで座りながら爆笑している。樹から見ると、少し異様な光景だ。

「あれ、笑われたピエロさんたちが怒ったぞ? みんなに近づいてきます。」

「やっ・・・ごめんなさいっ。」

 怯えた目で顔を上げて見上げているのは、生徒会長の高倉沙耶。男子生徒たちも、安全バーに体を拘束されているので、身動きとれず、緊張の面持ちだ。

「ピエロさんたち得意の、笑い返し攻撃だっ。身動き取れないみんなの体を四方八方から、くすぐりに来たよ。コチョコチョコチョコチョ。みんな動けない。コチョコチョコチョコチョ。」

「ひ~、やめてーっ。」

「ひゃははははははっ、・・・・ひどいっ・・・・やははははんっ」

 全員が、顔を真っ赤にして、苦しそうに笑い転げる。いつもの、上品にお澄ましした生徒会がぶち壊し。口を限界まで開けて、両目から涙を流して笑い悶えている。

「ほら、安全バーが変形して、両手をバンザイさせちゃう。両足も大きく開いて上がっていくよ。ウィーン、ガシャンッ。脇の下と足の裏が無防備だ。そこにピエロさんがコショコショコショコショッ」

「やだやだやだ・・・ひぃいいいいい、ひはははっ。」

 両手を高々と上げて、大股開きになった生徒会メンバーたちが、身をよじって笑い転げる。お腹の筋肉が痙攣するほど笑っているせいで、顔は酸欠気味、口からは涎がこぼれてしまっている。涙と涎を振り撒きながら、髪を乱して悶え狂った。

「はあい、やっと笑いの部屋を出ることが出来ました。苦しかったかな? ・・・でも沢山笑えたよね? 笑いは健康にも美容にもいいし、体の免疫力を高めて癌などと戦う力をつけてくれるそうです。良かったね。」

 早くも呆然とした様子で、バンザイポーズのまま樹の話を聞く生徒たち。呼吸を整えるのに精一杯で、樹が口にする、聞きかじっただけのようなお題目は頭に入ってこなかった。

「ゆっくり安全バーが元の着席体勢に戻ってくれます。ウイーン、ガチャン。2番目は『恥じらいの部屋』ですよ。ここでみんな、羞恥心の大切さを改めて感じとってもらうものです。最新のバーチャルリアリティを駆使した、スーパーコンピューターグラフィックスを楽しみましょう。ほら、あっちで手を振っている女の子がいますね? 誰でしょう? 見たことあるよね?」

 樹が指をさした方角を、生徒会メンバーたちが従順に見晴るかす。首を伸ばして、目を細めて、遠くから近づいてくる女の子の様子を伺った。

「あれ? あの子、栞ちゃんそっくりじゃないですか? いや、そっくりどころじゃない。栞ちゃんそのものです。本人さんご登場。笑顔で手を振っていますね。」

 生徒会メンバーたちが困惑しながら、カートに乗っている栞と、駆けながらブンブン右手を振っている栞とを見比べる。溌剌と笑顔で走る様子がいつものクールビューティーには似合わないものの、顔かたちは栞そのものだった。

「栞ちゃんは何しに来たのかな? あれ、スキップしながら、制服をどんどん脱いでいっちゃうよ。ほら、どんどん脱いで、下着もポンポン投げ捨てちゃう。こっちの栞ちゃん、嬉しそうに裸になっちゃった。」

「こっ、コラッ、やめなさいっ! アンタ、馬鹿じゃないの?」

 カートの椅子に固定されている方の栞は、また顔を真っ赤にして、ストリーキングをしている方の鶴見栞を叱りつける。しかし脱いでいる方の栞はどこ吹く風。嬉しそうに服をポイポイ投げて、全員の前でセクシーなポージングを披露し始める。

「やっ、やめなさいってばっ! ・・・もう、みんな、見ないでよっ・・・・倫太郎っ、アンタ、目をつむってなさいよっ。」

 栞の非難を余所に、裸の栞が男子生徒一人一人の前で体をくねらせて挑発していく。男子たちも唖然と見守る他なかった。

「ほら、悪戯好きな裸栞ちゃんを追い返すには、心に刺さる、彼女の琴線に触れるようなコメントをしてあげないといけませんよ。褒め言葉でもけなし言葉でもいいから、裸栞の図星をつかれるようなコメントを投げてあげましょうか。」

「う・・・・・く・・・・。・・・ひ、貧乳っ!」

 着席している栞が、悔しそうに言葉を捻り出す。彼女の目の前には、小ぶりな胸を自慢げに見せびらかす、自分自身の姿があるのだから、仕方がない。

「想定内のコメントには、裸栞ちゃんは全然ビクともしませんね。みんな、思いついたハードコメントを正直に口にしましょう。正直に、包み隠さずに。いいですね。」

 樹が言う。確かに裸の栞は、自身の体に対して酷いコメントを投げつけたはずの着席栞に対して、平然とウインクを返している。裸のままターンをしてみせる。

「や、やせっぽち! ・・・・ガリ勉!」

 澪が、裸栞を追い返すために、サポートをしてくれる。着席栞は近くで座る澪に軽く会釈をしながらも、複雑な視線を投げかけた。

「色が白いから、アソコの毛の黒さが際立ってるよね・・・。俺は嫌いじゃないけど。」

「貧乳とか言われてるけど、俺はこのサイズ感好きだよ。」

「感じた時に出す声が意外とか細くて女の子っぽいよね。」

 男性陣は概ね好意的なコメント。しかし着席栞は真っ赤になったまま口をパクパクさせていた。

「あの、栞ちゃんって、湯川君が好きなこと、丸わかりなのに、隠せてると思ってるよね。秀才なのに不器用。」

 沙耶が口にしたあとで、ハッとなって唇を噛む。着席栞と目が合うと、申し訳なさそうに頭を下げた。どうしてだろう。頭に思い浮かんだ言葉がそのまま唇をすり抜けてしまった。「正直に、包み隠さず」コメントしなければ、という思いに勝てなかったのだ。

「ムッツリスケベ!」

 横の沙耶の後悔と逡巡を全く気にせずに、優奈があっけらかんと言葉を発した。全員が、着席栞から、「グサッ」という心の音がするのを聞こえたような気がした。

 裸栞が、初めて立ち止まって、モジモジしはじめる。自らさらけ出していたはずの全裸の体を両手で隠し、裸のまま退散していく。プリプリと左右に揺れるお尻を、全員が見守った。

「ありゃ、もう一人の栞ちゃんが逃げていきますね。・・・でも・・・。今度は向こうから誰か来ますよ。・・・あれ、レオタードの下はサポーターも何もつけてないのかな? 紫のパツパツレオタードがボインボイン揺れてます。あれは、やっぱり澪ちゃんだね?」

「わーっ、来るなよっ。なんなんだその恰好はー!」

 着席澪が絶叫する。しかしその澪を含む生徒会全員が、樹の指し示す方角から駆けてくる、肌も露わな過激レオタードに身を包む、笑顔の芹沢澪を見てしまっていた。

「さて、澪ちゃんのセクシーエアロビタイムが始まります。エクササイズの合間にどんどん脱いで、体にローションを塗りたくってダンシング。この澪ちゃんを止められるのは、誰のコメントだっ。」

「巨乳すぎっ! 牛みたい! バランス悪いぞっ」

 着席している澪本人よりも先に、親友の鶴見栞が声をかける。お互いまた、複雑な視線が絡みあった。

「お、・・・おう・・・。」

 着席澪は、言葉を飲んでしまった。しばし沈黙が流れる。

「エロい! ・・・レオタード、はちきれそうっ。最高!」

「この前のパイずりが忘れられないっ。いつも顔を見ると思い出す。」

「みんな澪のオッパイのこというけど、俺は尻の引き締まりっぷりが好きっ。直に叩いてやりたいっ。」

「モデルさんみたいな体型だけど・・・、ちょっとだけ肩幅広いと思う。運動し過ぎかな。」

 最後に投げかけられた言葉は、優奈の口から出たものだった。全員が、自分の発した言葉を振り返って顔を赤らめる。裸澪が立ち止まり、ヌルヌルの体を後ろに向けて退散し始めたのをみて、ホッとした澪だったが、顔は心なしか小刻みに痙攣していた。

「さてさて、お次は・・・。あれ? あの子、沙耶ちゃんですか?」

「やめてーっ。来ないで、私っ!」

 高倉沙耶が懇願して振り絞る言葉は、素面で聞くと、常軌を逸している。しかし沙耶は本気だった。これまでの、栞や澪のように、破廉恥な姿を晒す自分を、友人たちと一緒に見るなんて耐えられない。沙耶は、迷っているように遠くを見ている樹の視覚に委ねきって、それが自分でないことを祈った。

「あ・・・やっぱり沙耶ちゃんだ。・・・最初、沙耶ちゃんじゃないかと思ったのは、・・・お相撲さんみたいにマワシを締めて、髷を結っているからですね。ほら、褌一丁でドスコイ、ドスコイって近づいて来ますね。」

「もぉぉぉぉおおお、やだーぁあああああ。ひどいよ~。そんな恰好、してこないでよ~。」

 着席沙耶が、イヤイヤと首を左右に振って、髪を振り乱す。涙目になって恨めしそうに、もう一人の自分を横目で非難がましく見る。そんな視線を意に介さず、桃色のマワシを締めた美形の女力士が、突っ張り稽古をしながら前に進んでいく。華奢な体と可憐な肌を晒して、大真面目な稽古。玉のような汗がこちらに飛んでくる。

「高倉くらい可愛いと、チョンマゲでも似合ってるように見えてくるな。」

「オッパイの形がいいよね。プルンプルン弾むのが健康的。乳首もツンって固くなるんだよね。生徒会長のオッパイって思うと、たまんなくなるよ。」

「み・・・みんな、変なこと言わないでっ・・・・。」

 着席沙耶の必死のお願い。生徒会役員としては聞いてあげたいのだが、相撲の稽古に没頭する、力士沙耶の異常な光景を前に、頭に浮かぶ言葉がすべて口から出て行ってしまう。

「みんなよく見て、お相撲さんの沙耶さん。マワシが合わないのか、ちょっとギコチナイ動きだね。あ、立ち止まって、マワシを外しちゃったよ。」

「駄目―っ、何てことっ、馬鹿っ、私の馬鹿~っ。」

 着席沙耶が叫ぶが、全員の目の前にいる力士沙耶は桃色のマワシを解いて外してしまう。こうなると、ただチョンマゲを結った全裸の美少女であった。

「やっぱりマワシのサイズか素材が合わなかったみたいだね。おケツ痒い痒い。ポリポリポリっと。」

「ひっ・・・・・・も・・・もう・・・・。」

 親友たちの前で、お尻をポリポリ掻きながら、気持ちよさそうな表情を見せる、もう一人の自分。その様を見て、着席沙耶は失神しかけていた。

 その、気を失いかけている沙耶に、手を緩めずに樹が続ける。

「ほら、沙耶力士が蹲踞。土俵入りだよ。」

 大真面目な顔で、髷を結った全裸の生徒会長が両膝を大きく開ける。アンダーヘアーの隙間から、パックリと大切な部分が剥き出しになっているのが誰の目にも明らかだったが、それを気にする様子もなく、両手を広げて、パチンと正面で打っている。

「沙耶ちゃん、アソコも綺麗だよね。樹に入れられてるとこみると、締め付けも良さそうだし。」

「前よりも、使い込まれてるうちに、チ○コ受け入れやすくなってるみたいだよな。可児田とやりまくってるうちにこなれてきてるのか、それとも体の相性が合ってきてるのかな。」

「沙耶ちゃんってやっぱり、露出狂の素質あるよね? ・・・可児田君に操られてからなのかな? それより前にもちゃんと適性はあったのかな?」

「私も、意外と沙耶が一番エッチ好きな子かもって思う。時々、樹にされた悪さを思い出して、1人でウットリしてるとこ見るし。」

「み・・・みんな・・・。みんなぁ~。」

 高倉沙耶が耳まで真っ赤にして、親友たちの率直なコメントを聞かされている。催眠状態にない、可児田樹の目からすると、生徒会メンバーは単に椅子に張り付いたように座っている、制服の生徒たちに過ぎない。しかし彼らは今、これまでにないほど裸に剥かれているとも思えた。目の前で破廉恥な自分自身の姿を見せつけられて、赤裸々な思いを投げ合って、元々は一枚岩のように頑強だった結束を、わずかに解れさせている。その解れと葛藤を見るのが、樹の喜びだった。

「あれ、今度は力士沙耶ちゃん。後ろを向いたと思ったら、そのまま「はっけよーい」のポーズだ。」

 背を向けて、足を肩幅に開いたチョンマゲの美少女は、全裸のまま上体を落として両手を「土俵」につけ、お尻を高く突き上げた。全員の眼前に、可憐なお尻のすぼまりが突き出される。

「ちょっと沙耶。お尻の穴、ちょっとだけ開いちゃってるよ。」

「後ろも結構、使い込まれてるからな。色とかは綺麗だけど。」

「沙耶ちゃんって、アソコに入れられてる時より、お尻におチンチン入れられてる時の方が気持ちよさそうだよね。なんか、切なそうな、すっごい色っぽい、オンナの顔になっちゃうもん。」

「オンナの顔っていうか・・・、ちょっと動物みたいな表情入るよね。完全無欠の優等生がそんな表情混ぜてくるから、また色っぽいんだけど・・・。」

 好き勝手、言いたい放題、沙耶を批評している親友たち。それを非難出来なくしている、彼らの顔の前で平気な顔で下品極まりないポーズをとっている、もう一人の自分の存在。その両者の板挟みにあって、沙耶はすでに放心して脱力していた。膝元は、妖しい液体を内股から垂らしている。コメントされるたびに、すでにイってしまっていたのだ。

 笑顔で馬と交わった、もう一人の清橋優奈は、ここぞとばかりに女友達からの「変態」呼ばわりに、ベソをかいた。そして全裸でかけてきた男子メンバーたちのホモ組体操は全員をゲッソリと萎えさせた。見ているだけで疲労困憊になってしまった

(あれま・・・。ちょっと悪趣味が過ぎたかな? みんなクタクタになっちゃった。・・・本当だったら、この後、テクニシャンな豚さんたちに体中舐めまわされる「喘ぎの部屋」や、嫌いな食べ物をお腹いっぱい食べさせられる「お行儀の部屋」、それから男女が入れ替わっちゃう「性器引っ込み出っ張りの部屋」を経由してから行ってもらう予定だったんだけど・・・、みんな、もう持たないかな? ・・・みんな明日からも生徒会のお仕事頑張ってもらわないといけないから、ここはショートカットと行きましょうか?)

「じゃあ皆さん。セーフティーバーがもう一度キチンと閉まりますよ。皆さんの体をガッチリ固定。ここでお楽しみ。若者が大好きな、スリル満点、絶叫マシーンライドのコースにカートが入っていきます。」

 ガチャン、ゴトゴトゴトゴト。生徒会メンバー全員が、重厚な金属音を聞く。ローラーが接触するたびに、金属がこすれる。全員、背筋をピンっと伸ばして、心なしか体を後ろへ傾けていた。カートが坂道を上がっていくところを想像しているのだ。

「ちょ・・・ちょっと、やめる・・・。アタシ、降りる。」

 中でも一人、狼狽してるのが、血の気を失った芹沢澪。普段男勝りの気風のいい姐さんが、今日は意外なほど怖がっていた。

「無理です。降りられないですよ。ほら、もうすぐ坂道の頂点。ほら、カメラがある。みんな楽しそうにバンザイしましょう。あとでアトラクションを降りたところで写真が見られますからね。はい、ポーズ。」

 全員、ひきつった笑顔で、両手を上げる。とんでもない高所を想像しているのだ。澪はバンザイのまま、泣きそうな顔をしていた。

「ガタゴトガタゴト。」

「ヒャァーァァァアアアアア」

「ほら一回転!」

「きゃあああああああああっ」

「ほら、きりもみ。4回スクリュー。」

「やんっ、やんっ、やんっ、やんっ!」

 黄色い声を上げながら、沙耶が前傾姿勢で縮こまる。栞が安全バーのあると思われる空間を握りしめる。優奈が隣の駿斗にしがみつく。澪はすでに完全に無表情になって、右に左に、体を揺らしていた。澪ほどではないが、悲鳴を上げられない男子たちも意外と辛そうだ。

「ここからが普通のコースターとは違うところだよっ。またピエロの笑いゾーンだ。ほら、安全バーがバンザイのポーズに両腕を上げて、両足も開いて、コチョコチョスロープ。コチョコチョコチョ。」

「きゃははははっ、もういい。やめてぇえええ、ははははっ。」

「お次は急に、後ろからアイスバケツチャレンジカーブ。バシャー。」

「ひぇっ、つ、冷たいっ!」

「若い男女のデリケートなゾーンに襲い掛かる、毛じらみカイカイゾーン!」

「はぁっ・・・・・やめてぇ~、かゆいぃぃぃいいいいっ」

 冷水をかぶせられたように身をすくめたり、バンザイのポーズのままで痒みに苦しんで身をよじったりしながら、美男美女が七転八倒する。

「風圧で服がビリビリに飛んで行ってしまいます。全員素っ裸。そのあと、まずいことにカートがゆっくりと遊園地を観覧する、のんびりゾーンに入りました。みなさん家族連れのお客さんたちに指をさされて見られていますよ。」

「やだぁー。服が・・・。止めてください~。」

 女子たちが口々に悲鳴を上げる。沙耶の悲鳴は少しくぐもっていた。両手を大きく上げて、大股開きの体勢のまま、自分たちが裸で吊るされていると信じ込んでいる。想像上のお客さんたちの視線が、自分たちの素肌に突き刺さってくるような気がした。

「ほら、お次は小学生たちの悪戯ゾーンだ。悪ガキたちが水鉄砲で皆の恥ずかしいところを狙って来たり、サインペンで顔に落書きしたりしてくるよ。でも身動き取れないね。中にはマセたガキもいるみたいで、器用にマジックハンドで恥ずかしい部分を刺激してくるよ。なかなかのテクニシャンだ。」

「こらっ、ボクたち、あっちに行きなさいっ。そんなこと、しちゃ駄目っ・・・。あぁんっ。駄目なのにっ」

 優奈が太ももを震わせる。内股になろうとしたのだが、足が拘束されている・・・という暗示にかかっている動きだ。

「やめろ、やめろ・・・お姉さん怒るぞっ・・・イタタタタッ。」

 バンザイのポーズのまま、澪が胸を突き出す。右胸をマジックハンドに摘ままれて、引っ張られていると思っているようだった。

「うんんんっ・・・もうっ・・・・やんっ・・・。」

 股間をビクンビクンとひくつかせているのは高倉沙耶。水鉄砲で集中的に狙われていると思ってるのだろうか。

「ほら、やっとカートが悪ガキ悪戯ゾーンを通り抜けて、・・・もとの絶叫ライドコースに戻ってきましたよ。さっきのスピードの倍で走ります。・・・しかも、みなさんの椅子の股間から、怪しい機械が出てきましたよ。女性用はバイブレーター。男性用には電動オナポットのサービス付です。宙返りのところでみんなで文字通り、昇天しちゃいましょう。ほら、みんなのアソコにガチャン。イってらっしゃーい」

「はぁあああああああ」

「だめ、絶対! ・・・こんなの・・・、おかしくなっちゃう~ぅうううう」

「ふぁああああああぁ」

「もう、俺、イッたよ・・・まだ・・・・うわぁあああ」

「はぁあああああん、いっくぅうううううううううううう」

 椅子ごとガタンと後ろに倒れてしまった生徒会メンバーが6人中3人。後頭部をぶたなかったか、一瞬ヒヤッとした樹だったが。樹に体を支えられて、放心しながらもみんな、直した椅子に座りなおすことが出来た。全員、激しかった絶叫マシーンのスピード、反重力、急旋回の余韻と、機械による強制的なエクスタシーの余韻とで、目が飛んでしまっている。口を開けたまま、しばし意識を中空に漂わせていた。

「服・・・着てる・・・・。・・・よかったぁ・・・」

 沙耶が自分の体を抱えるようにうずくまって、その後、何かを思い出したかのように、小さく震えて、目を閉じる。オルガスムの波が小さく寄せ返した様子だった。

「あんな・・・コースター。もう、二度と無理。・・・・特に、途中が酷過ぎだよ。」

 栞が、ズレた眼鏡をかけなおす。

「駿君・・・。優奈、怖かった~。」

 ベソをかいた清橋優奈が小峰駿斗にすがりつく。優奈の彼氏である駿斗は無言で優奈の背中をさする。同時に彼は、ひそかに(恥じらいの部屋とかいうところでの、優奈のコメントも、けっこう怖かったよな)と心の中で呟いていた。

「みんな・・・大丈夫?」

 男である佐倉陸が、リーダーシップを発揮して、全員の無事を確かめる。樹の目から見ると、全員、生徒会室の真ん中で、横一列に座っていただけなのに、無事の確認も何もないのだが、彼らにとっては、それだけの体験を感じさせられていたのだ。そのことに、可児田樹は深い満足を覚える。

「澪も、・・・大丈夫だね・・・ん? ・・・・・・・あっ? ・・・・」

 副会長の陸が、肩に手を置いて澪の無事を確認したつもりだった。それでも澪は動かない。ウェーブのかかったゴージャスな髪で顔を覆ったまま、澪は小さく震えていた。鼻をすする音で、栞が異変に気づく。陸と栞が気まずい視線を交わしている間に、澪の泣き声は大きくなった。

「嫌だって・・・。降りるって、いっただろうが・・・・。馬鹿ぁ・・・・」

 しゃっくりのように声をひくつかせて、すすり泣く澪。みんなが駆け寄ると、椅子と床に黒い染みができていることがわかった。靴下から上履きまで、グッショリと濡れてしまっている。スカートの中から床まで垂れて出来た、水たまりだった。

「わぁぁーん、ばかぁぁーん、あぁぁぁぁぁぁぁん。」

 子供返りしてしまったかのような、取り繕う気もない、ストレートな泣き声。澪は何かが崩壊してしまったかのように、両足をバタバタさせてワンワン、大泣きを始めてしまった。

「コースターの途中の、アイスバケツチャレンジでかぶった水かな? ・・・って、そんな訳ないか。あれも全部、暗示だもんね。澪ちゃん、ジェットコースター苦手だったんだね。意外な一面みっけ・・・・。」

 パシッ!

 能天気に面白がって話し続ける、可児田樹の首が一瞬、横を向く。続いて頬が、ビリビリと熱くなった。見ると、生徒会長の高倉沙耶が、樹の顔を見据えている。睨んでいるのではない。もっと深い、冷静さを伴った、まるで悲しさまで帯びたような怒りを目に浮かべていた。

「沙耶っ・・・。樹に手を出しちゃ、まずいっ。」

 栞が声を上げる。それでも栞の方を振り向くことなく、高倉沙耶は樹に視線を向けたままで応えた。

「いいの・・・。可児田君。貴方、私たちに催眠術をかけて、支配したからって、何でも思い通りになるって、いつまでも思わない方がいいわよ。・・・私の友達に酷いことしてる貴方を、私は絶対に許さないんだから。それだけ、わかっておいて。」

 生徒会メンバーたちが、不安と心配の視線を、可児田樹に集めた。

 可児田樹の顔が、ピクピクと震える。怒ろうか、笑おうか、それとも泣きだそうか、顔の筋肉自体が迷っているというような様子だった。やがてたっぷり時間をとって、ようやく落ち着いた樹が、顔をゆっくりと緩めて、まるで度量の大きな君主のような表情を見せる。両手を広げて、何か言おうとした。それでも言葉は出てこなかった。

 最後に樹が、喋ることをあきらめて、右手で股間を指さす。

 それは何か、すでに仕込まれた合図だったのだろうか。その仕草を見た高倉沙耶は、ただちに跪いて、恭しい仕草で樹のズボンのチャックに手を伸ばし、トランクスから樹の萎びたモノを取り出して、顔を近づけ接吻した。舌を出してチロチロと舐め、口に含んで愛撫する。丁寧で丹念、そしてやがて情熱的なフェラチオを始めた。ジュパッ、ジュルジュルッ。わざと大きく音を響かせるような、卑猥なすすり上げる音。

「さすがは生徒会長だよね。この勇気に感服するよ。・・・沙耶ちゃんの言う通り。ちょっと澪ちゃんには可哀想なことしちゃったね。ちゃんと澪ちゃんの名誉回復のために、何かフォローを考えておくよ。・・・今は、みんなで澪ちゃんの後始末をしようか。沙耶は僕へのフェラで忙しいから、残りの皆で、澪ちゃんを綺麗にしてあげよう。」

。。。

 後から思い出しても、妙な時間帯だった。栞が冷静に振り返っても、果たしてこの時、生徒会メンバーたちが樹の暗示に操られて行動していたのか、半ば正気で行動していたのか、はっきり判断できないのだ。おかしなことばかり起こった結果、全員が、樹も含めて全員が夢心地で、言わば集団催眠のようなものにかかって動いていたのかもしれない。栞と優奈は、スカート、ショーツ、そしてシャツの裾まで汚れてしまった澪の制服を洗いに、手洗い場へ行った。男子たちは床と椅子を雑巾で拭いて、まだ鼻をすすっていた裸の澪を、慰めるように丁寧に拭いた。男子たちに、言われるままに立って足を開いて、股間や足を拭かせる澪。陸、駿斗、倫太郎は彼女の体を労わるように拭いたあとで、チュッと紳士的にキスをした。まるで、彼らの目の前でおもらしをしてしまった澪が、女性として傷つかないように、彼女がオンナとして十分以上に魅力的であることを示そうとしているようだった。彼女の体が綺麗になると、男子3人は3方向から芹沢澪の体を優しく愛撫した。それを澪は陶然と受け入れて、気持ちよさそうにしていた。そしてその間ずっと、沙耶は懸命に樹のモノに口で奉仕を続け、最後に樹が果てると、うっとりとした表情で、樹の精を飲み込んだ。唇のまわりに、はみ出した分を指で取っては口に含み。一滴残らずお腹に入れた。樹は、綺麗になっていく澪の体を見上げながら、時折、沙耶の髪を掴んで、彼女の頭を股間に押しつける。そうかと思うと、愛おしそうに髪を撫でつけながら、フェラチオを、たっぷりと彼が2回イクまで続けさせた。

。。。

 まだ腫れぼったい瞼で気丈に微笑んで、澪は生徒会の仲間たちと学校を後にする。スポーツ万能な彼女だけに上下ジャージの姿で下校しても、気に掛ける生徒はいなかった。

「ちゃんとフォローはするから」

 如何にも悪だくみを練っていると思える表情で、可児田樹が生徒会役員たちを送り出した。その中身を役員たちが知ることになったのは、翌日の放課後だった。

「失礼しまーす」

 陸が生徒会室の扉を開くと、中では鶴見栞が窓際の席で読書をしていた。

「おっ。栞ちゃんだけ?」

 陸が声をかけると、本から目を上げた栞が、声を出さずに頷く。そして視線で合図をしながら、本を持つ手をわずかにほぐして、人差し指を水平に伸ばした。栞が指差す先には、黒板前の長机、そしてその上には、化学の実験道具が一式、置いてあった。

「これ・・・、栞ちゃんが来た時には、もうあったわけ?」

「ん・・・。嫌な予感がするっていうか、・・・嫌な予感しかしないよね。」

 栞の言葉を聞いて、陸も溜息をつきながら、近くの席を適当に選んで腰を下ろした。

 何が始まるのかわからないが、特にどうすることも出来ないので、大人しく可児田樹を待つ。樹が来なくても、誰か他の生徒会メンバーが顔を出すだろう。生徒会室は栞がたまにページをめくる音以外は、静寂になる。窓の外から、吹奏楽や球技に興じる、部活動の音が聞こえる。青春の1ページ。この学校の生徒たちは、まさかそのリーダー的存在の生徒会メンバーがこの生徒会室で、元ヒキコモリ生徒に弄ばれ続けているとは、想像もしないだろう。陸はサラサラヘアーに指を通してかき上げながら、黒板前に設置された長机を恨めしそうに見る。フラスコ、メスシリンダー、大型のスポイト、そしてビーカーの3分の2程注がれた水がある。横には実験のノートらしい、大学ノートが無造作に置かれている。樹は果たして、何をたくらんでいるのだろうか。

「ったく・・・。よくまぁ、次から次へと、あれこれ思いつくよな。・・・この想像力のスタミナには畏れ入るよ。」

「・・・それだけ、学園生活の明るい面に、恨みや憧れが強いんでしょ。・・・別に私たちが実際明るい面ばかり享受してるわけじゃないんだけど。彼から見ると、私たちはその象徴。辛かった時期に毎日、気取ったエリートたちを辱める想像でもして、鬱憤を晴らしてきたんじゃない?」

 栞は本から目を離さずに答える。「この時の主人公の気持ちを70文字以内で述べよ」というテストの問題にでも答えるかのように、スラスラと分析してみせた。

「もうその、樹君のことはあんまりアレコレ慮っても、仕方がないって思うようにしてるんだけど、それより澪ちゃんはどう? 今日は会った?」

「移動教室の時に廊下ですれ違っただけだけど、元気そうに挨拶してくれたよ。心配するなって、伝えたかったんだと思う。だからアンタたち男子は、いつも通り、普通に接してくれた方が嬉しいと思うよ。」

「やっぱそう? ・・・本人には、あれこれ心配そうに聞かない方がいいかと思ったんだけど。」

「ん・・・・。倫太郎にも、陸からそう伝えておいてよ。アイツ、アンタみたいなデリカシー、皆無だから。」

「オイーッス。・・・あれ、何これ? 理科の実験でも始めるの?」

 ガラガラと扉が開いて、その湯川倫太郎が部屋に入ってくる。

「今日は栞ちゃんと陸だけ? ・・・澪ちゃんどうしてるかな? 昨日のお漏らしのこと恥ずかしがって、ここに来たがってないなら、俺が慰めて連れてこよっか?」

 栞が分厚い本から一切目を離さずに、無表情で大きく一つ、舌打ちをする。陸は笑いを噛み殺した。

「ちょうど今、その話をしてたところだよ。倫太郎は澪ちゃんの心配よりも、自分が幼馴染に張り倒されないように気をつけた方が良さそうだよ。彼女は大丈夫。もう僕らは忘れた方がいい。アレコレ言わないでおいた方が、良いみたい。」

「あ、そっちの作戦・・・。はいはい。」

 椅子を引いた倫太郎が体を伸ばして浅く腰掛ける。倫太郎は空気は読まないが、なんだかんだ言って場の空気を明るくしてしまう。不機嫌そうな顔をしている栞も、そのことは評価しているはずだ。陸はチラチラと湯川・鶴見ペアを繰り返し見ていた。

 再び扉が開くと、小峰駿斗の大きな体と、そこにピタッと寄り添うというかくっついて離れない清橋優奈の姿。彼らがくっついたまま着席して間もなく、プリントを抱えた生徒会長、高倉沙耶が現れた。そして最後に、曇りガラスにスラッと背の高い、澪の影が映る。全員が見守るなか、生徒会室の前の廊下を2度ほどトコトコと往復した芹沢澪が、扉をガラガラと開いた。

「オッス。・・・あ、皆来てんだ。」

「うん・・・。待ってたよ。」

 沙耶が自然な笑みを見せる。陸や栞と何も打ち合わせをしていなくても、生徒会長の一声と、少しはにかむようなスマイルで、澪を含む生徒会メンバーは、何のわだかまりも無く、一つにまとまったような気がした。

「あれ、なんだこれ・・・・。また、樹の野郎、しょうもないこと考えてるの?」

 澪が長机に近づく。陸や栞のように用心したりしない、いつもの颯爽たる澪の行動だった。

「ノートの中に何か書いてあるよ・・・。『生徒会、選挙管理委員長の澪さんが、以下の手順でチームワーク良く、実験してください』・・・だってさ。何かわかんないけど、やってみよっか?」

『チームワーク』という言葉を読み上げたあたりから、澪の声に力がこもる。姿勢も前のめりになってノートを読み込み始める。

「まずは・・・、『芹沢澪さんを心から大切な友人だと思っている女子生徒は、右手を挙げてください』だって・・・、なんか照れるね。」

 澪が照れくさそうに読み上げる。しかしそれに合わせて、沙耶がピンッと手を挙げる。優奈も右手を駿斗の腕に絡めたまま、左手を伸ばした。最後に栞が、少し不安げに挙手。生徒会の女子全員が、座ったまま手を挙げた。

「そのまま、化学の実験だってさ。・・・まずビーカーから、水をフラスコに移して、スポイトで水を出来るだけ多く吸い上げます・・・と。アタシ、こういう実験とか苦手だったんだよね。昔からプレパラートとかよく割っちゃったよ。あれ、パラプレートだっけ?」

 澪が緊張を誤魔化すように、いつもよりも言葉多めに、あれこれ口走りながら手を動かす。友人たちしか生徒会室にはいないとはいえ、皆の注目する中で一人で実験をするのは、澪にとっても緊張する状況だった。それでも、何かに突き動かされるように、手を止めずに作業する澪。部屋には水がガラスの底を打つ音が響いた。

「スポイトで水をたくさん吸い上げたら、思い切ってスポイトのゴムの部分を押して、水を勢い良く飛ばしましょう・・・だってさ。なになに? 『これが、澪ちゃんの昨日の失敗のフォローになります』・・・って、どういう意味だ? ・・・ま、いっか。」

 大型のスポイトを上に向けて、小豆色のゴム部分を片手で握った澪。

「ちょっと待って、澪!」

 親友の鶴見栞が、何かを察知して鋭い声を上げる。しかしギリギリ間に合わず、澪は勢い良く、巨大スポイトのゴムを押しつぶしてしまう。上を向いたスポイトの先から、水がピューーーーッと、放たれた。天井まで届くかと思われる勢い。その瞬間。挙手したままの女子生徒たちが悲鳴を上げた。

「きゃっ・・・」

「あんっ・・・・やだぁ~。」

「ひぇっ・・・・・・・、もうっ・・・。」

 肩をすくめて、縮こめる沙耶。優奈はここへ来て初めて、体を駿斗から離してうずくまる。栞は椅子の上で体操座りのような姿勢になって、慌ててハンカチを手に取った。

「ちょっと、お手洗いに・・・。」

 真っ赤な顔をした沙耶が椅子から立ち上がって、扉へ小走りしようとする。沙耶が立った後の椅子の座面には液体が水たまりを作っていた。

「これ・・・『澪ちゃんはチームワーク良く、水が無くなるまで元気いっぱい、スポイトから飛ばしてやりましょう』って書いてあるぞ。・・・なんか、止まんない・・・。なんだろ? テンション上がってきちゃったんだけど。」

 澪が容赦なく、スポイトを空にするまで水を飛ばす。

「あぁんっ・・・澪ちゃん。・・・・それ、やめてっ。」

 スポイトの先から水が飛び出るのと連動するかのように、内股で小走りに駆けていた沙耶が、立ち止まって小さく股間を前に突き出す。スカートの裾から、彼女の足首、靴下、上履きまで濡れてしまっているのが見える。陸、駿斗、倫太郎たちは口を開けたまま、声も出せなかった。

「やだー、止まらないよ~。」

 優奈がベソをかく。栞はメガネがずれるのも気にせずに、顔を手で隠して、倫太郎に背を向けていた。沙耶は扉にたどり着けず、教室の前、澪の横で立ち止まったまま、動けなくなっている。全員が悲鳴を上げながらも、澪の手にするスポイトの動きに合わせるようにして、失禁を続けていた。

「どんどん、テンション上がってきたぞっ! それっ、ピュッピュッピュッ!」

 澪が右手を振り回すようにして、スポイトに水を補給すると、三三七拍子のリズムで景気よく水を放つ。そのリズムに合わせるように、美少女たちが小刻みに股間をクイッ、クイッと前に押し出す。全員恥ずかしさに身をよじりながら、スカートとパンツの中でオシッコを飛ばしていた。

「あ・・・もう、水、無くなっちゃった。」

 澪が、憑き物が落ちたような顔で、ガラス製の大型スポイトを長机に置く。冷静に戻った澪が見回すと、生徒会室は酷い状況になっていた。沙耶、優奈、栞の3人が、呆けたような表情で床にしゃがみこむ。全員、足元に大きな水たまりを作ってる。沙耶は動いた足取りが分かるように、動線上に水の道を作っていた。

「あ・・・あの。今日は、アタシが皆の服とか下着、洗うから・・・。気にしないでいいよ、お互い様だから・・・。」

 澪が申し訳なさそうに、後頭部を掻きながら言う。うなだれた美少女たちは、澪の言葉にも反応しなかった。

 澪が手洗い場で豪快にジャブジャブと友人たちのスカート、パンツ、靴下、シャツを洗っている間、生徒会室の中では全裸になった女の子たちを男子の生徒会メンバーが必死に拭いてあげていた。甘酸っぱい匂いが充満したままだが、生徒会室の窓を開けるのは躊躇われた。廊下側の窓を開けてしまっては誰かが通りかかりでもしたら見られてしまう。だが運動場側の窓を開けても、決して匂いが漏れて誰かが気づくことなどないはず。それでも、何となく誰もが、窓を開けることを嫌がった。まるで、生徒会の恥が身内の外に出てしまうのを無意識のうちに避けているような雰囲気であった。

「ご・・ごめんね・・・。」

 沙耶が呼吸を荒げながら、股間を拭いてくれる陸に謝る。陸はあえて答えないようにしていた。沙耶が謝っているのは、高校生にもなって、男子の陸の前で裸を晒して、尿を拭き取ってもらっていることだろうか? それとも、陸の視線を敏感に感じ取って、股間が別の液で潤んできていることについてだろうか?

「やっ・・・だから、近いってばっ。」

 内股に倫太郎の鼻息がかかると、栞は敏感に震える。白い肌に触れる、幼馴染の指先とタオルの繊維、そして鼻息を感じて、栞は両目をギュッと瞑っていた。

「駿君・・・、今、何考えてる?」

「・・・・たぶん、優奈と同じこと・・・。」

「その、・・・思ったより、ノーマルだった・・・よね・・・。」

「・・・おう、俺たち、やっぱ異常かな。」

 優奈と駿斗は、バツが悪そうに赤い顔を寄せ合って、小声で語り合っている。2人とも、化学の実験道具を見た瞬間、今日起きたことよりもずっとハードなプレイを想像してしまっていた。少なくとも2人っきりでいる時に大きなスポイトやメスシリンダーを見たら、もっとエゲツナイことに使っていただろう。この2人だけ、生徒会メンバーの中で、今日の出来事を「意外とノーマル」と感じてしまっているのだった。

 この日も生徒会メンバーは一緒に下校する。昨日とは一転して、ジャージ姿の高倉沙耶、鶴見栞、清橋優奈。芹沢澪は普通の制服。それほどスポーツに入れ込んでいない3人の生徒会役員がジャージで帰るというのは珍しいらしく、すれ違う生徒たちに意外そうな顔をされる。そのたびに、沙耶たちは顔を赤くしてモジモジと歩くのだった。

「気にすることないって、全員綺麗になったんだから、堂々と歩こうぜ。」

 澪が快活に笑って女子たちを先導する。昨日とは打って変わって、一転の曇りもない笑顔だった。屈託のない澪が戻ってきたことは嬉しい・・・が・・・。沙耶、栞、優奈は若干複雑な表情で澪の後ろをトボトボ歩く。生徒会の男子たちに裸を間近で見られるのは、これが初めてではない。しかし、特に栞と沙耶にとって、下半身をまんべんなく拭いてもらって、自分が漏らしてしまったオシッコの後始末をしてもらうのはショックの大きな恥ずかしさだった。なんだか大人の女としての自信を打ち崩されたような、衝撃的な事件。心なしか、男子たちの自分を見る目すら、変わっているような。考えすぎかもしれないが、思春期の女子たちは、こうしたことにとても敏感であった。

。。。

 翌朝、バスに乗って登校中の高倉沙耶は、吊り革につかまっている方の方をポンポンと叩かれる。振り向くと、可児田樹がニヤニヤして立っている。

「可児田君・・・。どうして?」

 可児田樹は別ルートのバスで登校しているはずだった。それとも沙耶と同じバスに乗り込むために、早起きに遠回りまでしてバス停で待っていたのだろうか。想像するだけで、沙耶の清潔な体に鳥肌がたった。

「心配になったから、ついてきてあげたんだよ。沙耶ちゃんが、昨日の下校時みたいに、今日もノーパンで登校してたら、危険だと思って、心配で心配で・・・。」

 バスが混雑しているために、樹は耳元で囁く。その息が耳にかかるたびに、沙耶はゾッとして身をすくめた。

「ご・・・ご心配なくっ。・・・あの、あんな『フォロー』も要らなかったわ。澪も私たちも、あんなこと気にしてなかったのに。」

「そっかな? 澪ちゃんの様子。皆も失敗しちゃって、一緒になってからの方が、楽そうじゃなかった? 僕も見てみたかったな。元気を取り戻した瞬間の澪ちゃん。」

「可児田君。悪いけど私、全校集会の準備があるから・・・。」

「沙耶ちゃん・・・。ノーパンじゃなくて、パンティーもオシッコで汚れていないんだったら、それを証明するために、僕にちょうだいよ。」

「・・・え? ・・・ここで? ・・・・な、何を言ってるの?」

 失礼な物言いに、さすがに腹が立って沙耶は樹を睨みつける。その沙耶の目の前に、樹は小さなプラスチックを差し出した。

「小さなスポイト・・・。でも、後催眠暗示の効果はまだ残ってると思うんだけど。・・・これバスの中で、水を出してみる?」

 樹が目を細めて笑う。沙耶をなぶって喜んでいるのだ。

「い・・・いい加減にして・・・。こんなところで…私・・・。・・・嘘でしょ?」

 沙耶が血の気を失って怖気づく。公衆の面前で昨日のような失敗をしでかしたら、沙耶は2度とバスに乗れない・・・。本気でそう思ってしまった。

「スポイトが嫌だったら、一昨日みたいなアミューズメントライドでも良いよ。ここで絶叫マシーンで最後までイッちゃうのも、意外と爽快かもしれないよ? それか・・・僕が軽く沙耶ちゃんにタッチしちゃおうか。・・・君からここで、朝っぱらからハードなペッティングのお返しをもらえるのかな?」

「・・・・お願いっ。言う通りにするから、酷いことさせないで・・。」

 眉をハの字に曲げて、沙耶が懇願する。つぶらな瞳と整った顔立ち。美形の生徒会長のお願いを真正面から受けると、さすがの樹もドキリとしてしまう。その高鳴りを隠すかのように、沙耶にキツめの言葉を投げかけた。

「わかったら、さっさと言う通りにしろよ。・・・これは、こないだ僕を引っぱたいたバツなんだから、君に拒絶する権利なんてないんだぞ。」

「・・・ごめんなさい。・・・許してください。」

 しょんぼりと身を小さくした沙耶が、周囲の目を気にしながら、スカートの裾に手を入れる。鞄で上がる裾を隠しながら、モゾモゾと腰を落として膝元を探る。やがて屈みこむようにして、スラリと細く、白い足から、さらに白く、薄い布を下ろしていく。膝を通った後は体を起こし、足踏みするように左右の足を上下させて、混み合ったバスの車内でパンツを下ろしていく。何かを拾い上げるような素振りで、足を抜き取った後のショーツを右手に握りこむと、周りに見えないように握ったまま、樹の手に押し込んできた。

「僕の制服の、内ポケットに入れてよ。」

 樹が容赦なく指示を出す。沙耶は耳まで赤くなって、恥らっているのか腹を立てているのかわからないような表情で樹の胸元に、自分の体を押しつけてきた。ボタンを一つずつ、両手で丁寧に外していく。第3ボタンまで外れたところで、「V」の字に開いた制服の内側へと手を差し込む。人ごみの中、熱愛の新婚さんが旦那の仕事の準備を手伝うかのような姿勢で、内ポケットに自分のショーツを入れた。

「ありがとう。沙耶ちゃん。ちょっと足元涼しいかもしれないけど、全校集会での生徒会長挨拶、頑張ってね。」

「馬鹿・・・・。負けない・・・。」

 沙耶が樹をキッと睨む。樹はさらに何か言おうと思ったが、バスがいつの間にか秀泉学園高等部前のバス停に近づいていて、ブレーキを踏む。ドアが開くとすぐに、清楚な生徒会長は身を翻して、他の生徒を押しのけてバスを抜け出ていった。駆けていく綺麗な女生徒の後ろ姿。スカートの後ろの裾が跳ね上がらないように、慎重に右手で抑えながら小走りに去って行くのだった。

< つづく >

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