プリマ 第1話

 その日の収録も、当初スケジュールと比べて40分近く遅れていた。ADの新藤正樹は、頭の中でこの後の予定を思い描きながら設営を手伝う。今日のロケは泊りなので、機材やバスなどの返却時間は気にしなくて良い。この後のインタビューを撮り終えたら、ラストの締め括りのセリフを、案内役の若園さんからもらう。出来ればそのシーンは日没前に、外で撮りたい。ロケハンで候補に挙げておいた景色の良い丘の公園は、インタビュー後に移動していたのでは間に合わないから、駅前の商店街の入り口で、歩きながらのショットで何とか………。もしこの後の地主さんインタビューがさらに押してしまったら、室内でそのまま締めのテイクを撮ろう。

 マサキは、プロデューサーの久米島が首を縦に振ってくれそうな案を、頭の中で整理しながら、カメラと音声の調整を手伝っている。たかだかネット配信とケーブル放送の弱小チャンネルで流される、旅モノ・生活情報バラエティの30分番組だが、機材の設営には、素人さんたちが想像するよりもずっと時間がかかる。インタビューされ慣れていない人たちだと難しいのは、その設営を待つ時間が思ったよりも長いという間に、緊張が増してきたり、逆に緊張が途切れて、その場にとどまっていてくれなかったりする。今回の、地主のお爺さんも、「そういえば」と何かを思い出したように探し物に出たっきり、帰ってきていない。機材の設営が間もなく終わろうとしているのに、今度はインタビュー相手待ちの時間になってしまいそうだった。

「マサキ、若園さんは?」

 色黒で小太り、頭頂部まで綺麗に禿げ上がっているオジサンがマサキに聞く。丸めた台本でポンポンと自分の尻を叩いている時、この久米島プロデューサーの機嫌はそんなに悪くない。

「今、ロケバスで待機して頂いています。こちらのご主人の桑原さんがお見えになりそうだったら、先に呼んでって、頼まれました」

「あーそう。そろそろインタビュー始めないと、日が暮れるよな。俺、さっきのジーサン探してくるから、マサキも若園さん呼んでといてくれる?」

「はい。わかりましたー」

「ゴンさんもマルさんも、そろそろいいっすかね?」

 久米島Pが声をかけると、角刈りのがっちりしたカメラマンが無言で頷く。アフロヘア―で長身の音声さんは指でOKサインを作った。いつもロケをやり慣れている、ベテランスタッフのチームだ。マサキは駐車場に出ようとして、広くて薄暗い旧家の廊下で、一度立ち止まる。この後の段取りを確認して、若園さんに手短に説明しておくことにした。肩さげ鞄の小さなポケットから、台本とメモ帳を出す。ズボンのポケットからは四つ折りになってずいぶんくたびれた、スケジュール表が1枚。上着の胸ポケットからペンとペンライトを出すと、全部を器用に手で持って、確認事項に下線を引いた。以前は暗いところではスマホの光に頼ってメモを取ったりしていたが、その作業の途中で大事な電話が何度もかかってきて、パニックになりかけたことがある。ペンライトを咥えながらスケジュール表を見て、メモを取るのが、彼にとっての一番効率の良いスタイルになりつつあった。一度、鞄よりも両手が自由に使えると思って、リュックサックに荷物を入れて仕事をしようとしたことがあったが、久米島Pにドヤされて終わった。背中に荷物を背負い込むと、カメラに見切れたり、機材に当たったりと、致命的な不都合が増えるのだと、叩きこまれたのだ。

 灰色のハイエースは機材を載せる専用車。その前に泊っている白いハイエースが、演者さんと一部スタッフの乗る車だ。運転手さんはロケのたびに違う人になる。今日の運転手さんは煙草を吸う人なのか、車内にはいなかった。カーテンの閉まっている白いハイエースの、ドアを2回ノックする。反応がなかったので、スライドドアを5センチだけ開けた。

「若園さん、いますか? 今、よろしいですか?」

 ドアの隙間から覗き込んだりせずに、声だけかける。しばらく間が空いたあとで、「………はい」と、小さな返事があった。

「………あ、すみません。ちょっとウトウトしていました」

 マサキが軽く会釈しながらスライドドアを開くと、車内から良い香りが漂った。高級そうだが優しくて甘い匂い。香水の香りだけなのかはわからない。車内で若園ホノカさんは自分のジャケットを頭からすっぽりと被って、仮眠を取っていたようだった。

「うふふ。ごめんなさい。皆さんの準備中に」

 まだ少し、寝起きのまどろみのなかにいるような、柔らかい表情とトーンで、若園アナが話す。フリーになったあとも、報道の仕事は散発に、かつ不規則に入ってくるようで、細切れの仮眠の取り方は、こなれたもののようだった。彼女が窓のカーテンを開けると、薄暗かった車内に昼下がりの光が差し込む。

「いえ、全然大丈夫です。そろそろ今日のインタビュー相手の桑原さん、お越しになるようでしたので、応接室に戻って頂ければ。………先ほど見つけたという設定の、お庭の大きな観音様。あれを発注した地主さんの、理由と経緯を聞いて頂きます。大体台本に書いてありますが、亡くなられた奥様との思い出が色々と絡んでいまして、ホノボノしつつも、ちょっとホロっとくる、感動的なインタビューになる、という流れです」

「はい。台本で確認させて頂きました」

 笑顔で頷く若園アナ。マサキのような下っ端のADに対しても、話を聞く時は真っ直ぐにこちらの目を見て、姿勢を正して聞いてくれる。一緒に仕事をするようになってもう半年だが、マサキはいまだに、これほどの美人に話をする時には、激しく緊張していた。

 エンディングの場所が予定と変わるかもしれないこと、インタビュー相手の桑原さんは何かを探して蔵に行っていること、その他、いくつかの伝達事項を手際良く説明したあとで、マサキは若園さんを連れて、インタビュー現場の応接室に戻った。

 若園アナが入った後で、戻ってきた地主のお爺さんが手にしていたのは家系図。これからインタビューを始めようとしていた久米島Pが、演者側に聞こえないように、小さくため息をついた。カメラとマイクの前で、桑原さんと相対するように椅子に座った若園アナは愛想よく、お爺さんの家系にまつわる話に耳を傾けて、笑顔で頷く。表情を豊かに変化させて、老人の長話に、前のめりに聞きこんでいる。これは長くなりそうだった………。

 ………と思っていたマサキの予想に反して、いざ始まると、インタビュー自体は意外にも小気味良く進んだ。聞き出したいポイントを的確に拾っていく、若園芳乃香さんの聞き手としての技術は抜群だった。おっとりとした笑顔とお嬢様っぽい上品な物腰でありながら、とても理解力が高くて、上手に話を、受け手の側からリードするということが出来る。そして、インタビュー開始前にたっぷりとお爺さんの話を聞いて、打ち解けているからか、桑原さんも素人さんとしては驚くほど滑らかに、胸襟を開いて話してくれていた。時々話が本筋からズレそうになると、若園さんが礼儀正しく穏やかに、しかし的確に話を本筋に戻す。自分の孫ほどの年齢の女性に話を遮られることがあっても、桑原さんは上機嫌のままだ。先ほどの「雑談」のおかげか、既に人間関係がしっかりと出来上がっているのだ。いつもながら、彼女はインタビュアーとしてのスキルの高さを見せつけてくれた。そして、いつもながら、仕事中にも関わらず、マサキはついつい、優美に頷いている芳乃香さんの横顔の美しさに見とれてしまう。

 鼻筋が高く通っていて、パッチリとした大きな目と長い睫毛も相まって、女優さんのように整った造形をしている。栗色の髪と、少しパステル調に色づく白い肌のコントラストは、いつ見ても見飽きることがない。良く笑う口元と、やや垂れ目がちな瞼からの眼差し、そしてアナウンサーとしては若干鼻にかかっていて子供っぽいとされる声質は、オットリと、ノンビリとした喋り口を思わせる。それでいて、頭の回転はすこぶる速くて、インタビューを聞いていても、聞き惚れてしまうような、俊敏でスマートな知性。努力を怠らない、素直な人柄が伺えた。

 穏やかに、ノンビリしたお嬢様のような第一印象を与えながら、陰でしっかり努力をしているというのは、彼女の体型からも伺える。その見事なプロポーションは、特に胸元あたりが目を引いて………。

 ボフッと音がして、マサキは自分の尻が熱くなるのを感じた。久米島Pが、突っ立ったままで動きが止まっているマサキの、尻を蹴ったのだった。慌ててマサキはスケッチブックにマジックペンで進行の指示を書く。既にインタビューの獲れ高は充分だったので、「しめて」と書いて見せれば良かった。いや、本当だったら勘の良い若園アナにはジェスチャーだけでも伝わっただろう。

 インタビューが思ったよりも良いテンポで進んだことで、その日は予定通り、見晴らしの良い丘の公園でエンディングを収録することが出来た。夕焼けをバックに、街を一望した若園芳乃香は、眩しそうな笑顔でカメラに向かって笑いかける。

「今日は、偶然見つけた観音様の由来を聞くうちに、とってもロマンチックなご夫婦のお話を伺えたりと、素敵な発見が沢山ありましたね~」

 夕焼けという日差しが刻々と変わる、特殊な環境下で演者の顔と遠くの景色、両方を綺麗に撮り続けるのは、実は難しいことだ。それでも久米島Pもマサキも、そこはベテランカメラマンのゴンさんの手腕に全幅の信頼を置いている。今、マサキの仕事は、「撮影中です。ご迷惑おかけします」と書かれた紙を掲げて、カメラに映りたくないという地元の人が、偶然映りこんでしまわないようにすることだ。久米島Pに言わせると、これは昔とは正反対の仕事だそうだ。テレビが娯楽の絶対的な王様だった時代は、屋外ロケ中のADの仕事とは、カメラに映りこみたいと願う子供や若者たちの乱入を防ぎ、彼らを押し留め、遠ざけることだったらしい。視聴者から見ると、いつもながらの街ロケ番組のようでも、実はロケの仕方もかけられる予算も、大きく変わっている。

「次回も引き続き、この高崎市の魅力を、一緒に探って行きましょう。『若園芳乃香のふれあい人生ニューページ』。今度はどんなページをめくることになるのでしょうか? お楽しみに!」

 夕暮れ時の丘の公園は風が強く、芳乃香の少しウェーブがかかった栗色の髪は風に吹かれて少し乱れる。それでも目を細めてカメラに向かって両手を振る若園芳乃香。今年で27歳のはずだが、その姿はアイドルと比べても遜色のない可愛らしさだった。

。。

「はい、お疲れちゃーん。明日もあるんで、今日は軽めにですが、………乾杯っ」

 宿泊先の旅館ホテルで、小さなグラスにビールを注いで、久米島プロデューサーが乾杯の発声をする。「乾杯」と声を出して返したのは一番の若手である新藤正樹だけ。カメラマンの権藤さんと音声担当の丸山さんは、無言で、あるいはウン、と低い返事をしながらグラスを当てて、小さな音を立てる。グラスを両手の指先で持っている若園アナが、小さく頭を下げながら久米島Pと乾杯する。その後で若園さんはマサキに向かってもアイコンタクトを取りながら、グラスを当てる仕草をしてくれた。

 スタッフからは「キューさん」と呼ばれている久米島Pは、スケジュールがタイトであっても、小規模で構わないからと、必ず「打ち上げ」を入れたがる。明日の撮影の準備にも忙しいマサキにとっては迷惑な話だが、キューさんにはマサキがこの番組制作会社、「大谷プロダクション」に入社した時から、可愛がってもらってきた。言わば、この業界での父親のような存在。文句は一切言えない立場だった。キューさんがディレクターだったことからの付き合い。そう考えると、もう5年になる。カメラのゴンさんと音声のマルさんも、ロケのあるたびに顔を合わせている。相変わらず怖い先輩たちだが、マサキはこの小所帯でADとしてどんな小間使いでもさせられているうちに、最近ではそこそこ、仕事の段取りを覚えつつあった。

 ゴンさんは糖尿病の心配があるので、ビールは飲まずに焼酎のお湯割りに梅干しを入れる。マルさんは最初はビールだが途中からハイボールかジンジャーサワー。ちなみにこの音声さんは、アフロヘア―と言えるくらい強いパーマを髪に当てているが、仕事柄いつもヘッドホンをつけているので、アフロがヘッドバンドに押さえつけられて、いつも妙な形になっている。元ミュージシャンだったらしい、このマルさんが箸をドラムスティックのように持ってグラスを叩きだしたり、ウェストポーチの中から大事な革の巾着に入れている音叉を取り出して、呼び鈴替わりに慣らし出したりすると、酔いが回ってきているサイン。そんな時はさりげなく、次のお酒が途切れないようにしつつ、ハイボールを「薄め」で注文する。酔ったオジサンたちの会話が、若園さんの嫌っている「風俗関連」の話題に流れそうになったら、それとなく話題を変える。昔ながらの業界人であるキューさんが、調子に乗って若園アナの肩に手を回したりしそうになったら、さり気なく割って入って、「姫様」のご機嫌を損ねないように配慮する。打ち上げの席でも、マサキの仕事は無限にあるのだ。

 ここは昔の商人宿を改装したようなビジネス旅館。ロビーの一角にはアンティークの振り子時計や懐中時計の展示があるような、昔ながらの宿だった。今は座敷の一室を借りて打ち上げをしているが、こうした宿では飲み物の注文をするペースに気を遣っておかないと、すぐにあまり冷えていないビールが来たり、ハイボールを頼んでもサワーが出てくる。焼酎が麦の一種類しかないと言われたら、彼が買いに走るしかない。マサキにとっては、打ち上げとは、あまり気の休まる時間ではなかった。

「え……プロデューサー。私、そういう風には説明受けてませんでした」

 演者である若園芳乃香が強張った声を上げると、親子ほど年の離れたオジサンたちではあるが、裏方のスタッフたちは、話を止めて、この番組の主役の様子を伺う。どうやら若園アナにキューさんが明日の撮影内容を説明していたらしい。荒っぽい説明だったのか、これまでのやりとりが不足していたのか、「姫様」は若干、ご立腹だった。こういう事態は、今回が初めてではない。

「え………いや、ワカちゃん。別に大した企画じゃないよ。ちょっと街の整体師さんから、足ツボマッサージを受けるっていうだけで、街の人たちとの交流を撮ってくだけで………。別にそんな長く回すつもりもないから………。ね?」

 適当に誤魔化そうとする久米島プロデューサー。だが若園さんは追及の手を緩めない。

「足ツボマッサージって、足の裏のツボを、男の整体師さんが押して、痛がる私のリアクションを撮って、どこが体調悪いとか、生活習慣がどうだとか、色々言われるところを撮って面白がるっていう企画ですよね? ………私、別に、自分の体の情報とかを視聴者の方々に伝えたいっていう気持ちは無いんですけど。スポーツ整体師の方からお話を聞くって伺っていたので、了解していただけです」

「いや、もしかしたらそれは行き違いがあったかもしれないけれど、番組のコンセプトが小さな旅や街の人との交流を通じて、若ちゃんも世界の新しい1ページを体験するっていうことでもあるし、そのアポとれた人がスポーツ整体じゃなくて足ツボマッサージだっていうんだから、ちょっとくらい交流して欲しい訳ですよ。そもそもこれが今をときめく人気フリーアナウンサー、若園芳乃香の冠番組なんだから、若ちゃんファンだって、貴方の色んな表情を見たい訳じゃない?」

 キューさんの説明を聞きながら、若園さんは笑顔を崩さず、目を細めているが、その黒目が少しずつ据わっていく。良くないパターンだ。テレビ業界で少なからず修羅場を経験してきたADマサキの危険アンテナが反応していた。きっと今、キューさんのおざなりな説明は、事態を悪い方向に運んでいるのだ。

 現場に出れば何もかもがその場の流れでアドリブ的に決まっていくロケの世界だが、いざ撮影に出る前には何枚も企画書を書かされる。「大谷プロダクション」のようなチャンネル出稿型の番組制作会社は業界的には2次下請けといった弱い立場なので、プロジェクトの開始までの企画フェーズで、とにかく沢山紙を書かされる。マサキも企画書を自分で書いたので良くわかっている。明日はガッツリと美人アナウンサー、若園芳乃香が足ツボマッサージで痛がり喘ぐシーンを撮るための、下世話な企画になっていた。今日の撮影内容が優等生的な「ほっこり旅先街歩き」番組に寄りすぎていたからか、明日の企画はどっぷりとバラエティ番組へ振っていた。普段は優雅な物腰でニュースを読んだりインタビューを行う、澄ました美人アナウンサーが、今回は素足をオジサン整体師にグリグリ押されて、悲鳴を上げて痛がる。ここの臓器がどうだとか、こんな生活習慣が問題だとか、白衣の整体師さんに好き勝手決めつけられて、恥ずかしそうにしたり、血色ばんで否定したりする、若園芳乃香さんの素の表情をカメラに収めたい。たった今、若園さんが想像した企画通りとなっていた。

 いや、彼女の推測通りどころではない。最後にはドッキリ企画として、施術の途中で整体師が入れ替わる。スタッフの中で最年少のマサキが、白衣を着て、プロの整体師と途中で入れ替わる。アイマスクをして目のツボを温めている途中の若園さんが気が付かないうちに、交代したマサキが全国的に有名な美人アナの素足に触れて、痛がるポイントをグイグイ押して、最後に気がついた若園さんのヒンシュクをかって叱責される………。こんなドッキリ企画まで含めての、今回の高崎ロケになっていた。キューさんの指示とは言え、こんな下世話でオリジナリティもない企画を自分で書かされているマサキも惨めなものだった。

 しかし、情けない企画であっても、やはり視聴率は普段よりも取れると思う。かつて全国ネットのキー局、ヤマトTVで看板となっていた人気女子アナ、若園芳乃香。一時は報道番組でニュースを読んで、要人たちへのインタビューや取材も行ってきた、知的美女が、ローカルなケーブル/ネット番組で足の裏を刺激されて悲鳴を上げる。そしてドッキリ企画に慌てたり、憤ったり、嫌悪感を露わにするという、普段見せない素顔を出す。そこに視聴者たちは必ず食いつくはずだ。少なくとも、ローカルな旅番組の「観音像の由来インタビュー」よりは、喜ぶはずなのだ。

 そのことはきっと、賢い若園さんもわかっている。わかっていてなお、そういう「消費のされ方」を嫌がっているのだ。キューさんはきっと、若園さんが「わかっていてなお、嫌がっている」ことを「わかっていない」。だから、この2人はこれ以上は話さない方が良いのだ。

「大変申し訳ないのですが、企画に納得いかないので、お断りさせてください」

 若園さんはまだ微笑んで話している。それが年下のマサキには、より怖く感じられる。

「いやでもね、足ツボマッサージのオジサンだって、それで生活してる訳ですよ。そういう人たちとは交流しないっていったら、企画が成立しなくなっちゃう。番組が成り立たないでしょ?」

 キューさんは、自分の言葉に説得力があると思って話している。50歳を超えたプロデューサーとなると、同じ会社では誰も異を唱えなくなる。それが通用しない世界もあるのだが。。。

「交流しないって言っていません。男の整体師さんの施術に、別に男の人が出ても良いと思うんです。スタッフさん代表で、久米島さんや、新藤さんが施術されていても、問題ないと思いませんか? 私、横で精一杯、その整体師さんの良いお話を引き出せるように頑張ります。それに、企画が成立しないって、私、何度も企画会議にも入れて頂きたいってお願いしていますが、そこからは蚊帳の外ですよね。どうして企画段階に入れてもらえないお話の、成立のためだけに、私がリアクションの画を提供させられないといけないんでしょうか?」

「いや、俺たち男が足ツボで痛がってても、画にならないって。………それに企画会議はそういう職層のメンバーでちゃんとやっているから………。ね」

 そこまで聞いて、ゴンさんが小さく舌打ちした。キューさんが失言の地雷を踏んだことは、彼と同年代のゴンさんにもわかるようだ。たっぷりと間をとって、若園さんが強張った笑みを浮かべた。

「若い女はキャーキャー騒いで画作りに貢献して、男は男同士で企画会議とか全体の舵取りをする、っていうお考えでしたら、番組のニューページっていうコンセプトもなにも、全然意味がないと思うんですけれど………。番組の成立のために、私って消費されるだけの客寄せパンダですか? ………ご準備頂いている皆様には本当に申し訳ないのですが、私も私なりに小さなポリシーや希望をもって、このお仕事に携わらせて頂いています。なので今回の企画はご協力出来ません。ごめんなさい」

 若園さんが言い切ると、5人の小さな宴席は静まり返った。多分、若園さんよりさらに年下であるマサキが、何か言って、雰囲気を和らげるべきタイミングなのだ。それをわかっていながら、なおマサキは言うべき言葉を何も思いつけずにいた。

「あのね、若ちゃん。………僕もそれで良いと思っている訳ではないんだけど、テレビ番組を見て頂いている視聴者の方々や、この業界って言うのは、貴方が思っているよりも、ずっとずっと考え方が遅れていてね。僕らはそれを少しずつ、ほんの少しずつ変えていくしかないんだよ。それも、皆さんに楽しんでもらいながらっていうのが、大前提だよ」

 キューさんは、一息ついて、若園さんの説得にかかっている。若園さんは首を縦にも横にも降らずに、聞き入っていた。

「もう原始時代から、男が狩りをしたり敵と戦ってきて、女がそれを見守り、助けてきたっていうのが、ずっと続いてきた訳だよ。そこに女性も表舞台で一緒に戦っていこうとすると、華を添えながらっていうのが、やっぱりどうしても必要なんだ。貴方にとって、それはかったるい、屈辱的な役回りということも時にはあるかもしれないけれど、それでも大昔から続く、自然の摂理を覆していこうとするとだね、みんなでこういう仕事も乗り越えながらだよ………、色々と、回り道も、必要なんだよ」

 キューさんの調子が上がってくる。多分こういう説得で、これまでにも何人もの若い女性の演者を説得してきたのだろう。台詞回しが妙に滑らかだった。

「多分。その回り道を終える頃には、私は消費されきっていて、需要が無くなっていると思います。私にもキャリアのビジョンがあって、やりたいことと自分には無理なことを、日々トレードオフしています。若い女性の働き方について、久米島さんに教えて頂かなければいけないことはそれほど多くないと思いますね」

 若園さんは穏やかな口調でだが、キッパリと言い切った。

「それに、私がいつも不思議だと思うのは、男の人たちって、職場のジェンダー論になると急に、原始時代まで話が遡ったりするのは、どうしてなんでしょうね? それだったら、男の人同士でも、会議なんてしてないで、体力のある若い人に皆が従うとか、腕相撲で偉い人を決めるとかすれいいのに。そういうところだけは『いや経験に基づく判断力が』とか、『体力じゃなくて頭が』とか、急に文明人に戻りますよね? 女の話が出てくる時だけ、話が旧石器時代に逆戻り。都合の良い文明ですよね?」

 長く、重い沈黙が続く中、若園さんが立ち上がって、身だしなみを整えると、深々とお辞儀をした。

「経験も浅い若造が、勝手ばかり申しまして、本当に申し訳ございません。でも私たち自身にも、後輩にもやりがいのある仕事を残していく責任があると思っています。今回の企画は、辞退させてください。お詫び申し上げます」

 キッパリと言い切って、深々とお辞儀をする若園さんの態度はとても立派で毅然としていて、美しいと、マサキには思われた。けれど、彼女が去った後の酒席の空気の最悪なことといったら、まだほとんどビールを飲んでいないのに、吐きたくなるような心持ちだった。彼女がいなくなった席には、立った今、封を開けたばかりのスパークリングワインの瓶が置いてある。ビールが苦手な若園さんのために、マサキが購入して持ち込んだ、スパークリングワイン。ほとんど口もつけられていなかった。

 マサキは正直、キューさんも、そして若園芳乃香さんもまた、「やってしまった」と感じていた。圧倒的な美貌とアナウンサー技術、努力家のメンタリティーがありながら、全国ネットの局アナだった彼女が、ニュース番組を降板し、フリーアナウンサーに転向することになったのも、きっとこの、彼女の気風のせいだろう。

 なにより、彼女にとって可哀想なのは、若園芳乃香さんの外見や物腰が、いかにも良家のお嬢様といった、フンワリと柔らかいものだということだ。対峙しているのが、バリバリのキャリアウーマン風のインテリ美女だったら、オジサンたちも、それなりに防御の構えを整えて扱うだろう。それが、これほど優美で華のある雰囲気の彼女の場合、どうしても権力を持ったオジサンたちは、油断する。そうしたガードを下げたオジサンたちが、時代遅れの自説自論を気持ち良く歌っていると、可愛らしい彼女にバッサリと切り捨てられる。そのショックは、意外と彼女のキャリアの様々な局面で、彼女にとって不当な形で返ってきているはずなのだ。

 立ち去っていく若園さんの後ろ姿は、背筋がピンと伸びていて、本当に美しかった。綺麗な歩き方と、後ろからだとジックリ見ることが出来るプロポーションの良さ………。本来はマサキが追いかけて止めるべきなのかもしれないのだが、それを許さないような、毅然としたオーラに満ちていた。

「………おう、マサキ。………明日の整体師の先生。予約バラシとけ。…………もう、姫様が、ああなったら、明日の企画は無理だろ」

 ゴンさんがマサキの肩をバシッと叩く。マサキは頷いてから、恐る恐るプロデューサーを見た。

「バラシは良いんですが、明日、どうします?」

 マサキに聞かれて、キューさんは煙草を咥えたあとで、懐からジッポーのライターを出す。喉の健康を気にする若園アナの前では、煙草を吸わないように、気をつけているのだ。これでもキューさんなりに、若園さんに精一杯、気を遣っているのだ。それがわかるから、マサキの立場はいっそう辛いものだった。

「………こういう時は、ラーメン頼りだ。ラーメン食べ歩き企画。ラーメン屋の無い街は無いぞ。ラーメン企画の嫌いな視聴者はいないっ。………ラーメン、ラーメン………」

 キューさんは何度かジッポーの蓋を閉じたり開けたりする。なかなか火が点かない。苛立ったキューさんは、テーブルを拳で思いっきり叩いた。

「ラーメンなんだっ!」

 プロデューサーの絶叫で、最悪の打ち上げは、一旦お開きとなる。既に酔っているマルさんが、持ち歩いている音叉を鳴らして仲居さんを呼ぶと、キューさんのために灰皿を注文した。

「………僕ちょっと、整体師さんにキャンセルお伝えした後で、若園さんと、もう少しだけ、お話ししてみます」

 マサキが言うと、ゴンさんは頷く。

「そうだな。……お前は25歳だったか? ………姫様が27だろ? ………年も近いし、ちょっと話が通じるかもしれないな。ゴネる演者をなだめすかして説得するのも、優秀なADやDの仕事だ。………でもな、無理に説得しようとするな。揉めたらお前は、姫様側に立てよ。………番組は、これからも続くんだから」

 ゴンさんがそう言う横で、キューさんは自棄になったようにビールを煽っていた。

 出演交渉をしてきた整体師さんにキャンセルの電話を入れて、丁重に詫びたあとで、マサキは若園芳乃香さんが泊る301号室の前に立っていた。あれこれ自分の中で作戦を考えているうちに、既に30分以上の時間が過ぎてしまっていた。

 深呼吸する。「姫様」が、企画内容に納得いかずに揉めるというのは、これまでもあった。番組が始まってもう半年になる。若くて可愛い、美人フリーアナの魅力を引き出したがるプロデューサーと、ここでは真面目な生活報道番組のレポーターでありたい主役との軋轢は、番組初回から、すでに見えていた。今回は、その揉め事の仲裁に入るのがADの自分であるというのが重荷だった。

 今のエグゼクティブプロデューサーはロケ現場には顔を出さない。若園さんの事務所のマネージャーも、近場の泊りロケには帯同していなかったりする。ロケが成り立つ最小単位、プロデューサー、カメラマン、音声さん、AD。そして若園さんしかないこの現場で、揉め事が起きたというのが、悩ましいところだった。いっそアウトドア活動が沢山入る予定のロケだったら、スタイリスト兼メイク担当の梶田果代ちゃんが帯同してくれていただろう。それが今は、よりによって、オジサンスタッフ3人と、下っ端のADしかいない現場で、姫様がご機嫌斜めになってしまったのだ。

 気が重い。気は重いのだが、それでも、マサキが若園さんと話をしたくないかというと、決して、そうではない。むしろ、憧れの女子アナと2人でお話が出来るという機会が1つでも増えたことは、マサキの胸を期待で高鳴らせる、嬉しい出来事でもあった。

 初めて若園芳乃香をマサキがきちんと認識したのは、確か彼女がヤマトTVで3年目くらいの頃。深夜のバラエティで若手局アナが数名、催眠術を体験するという、バラエティ企画だった。そう考えると、報道志向の強い若園芳乃香だが、局の上層部からは最初から、バラエティ番組の資質を見込まれていたのかもしれない。

 3人の新人アナ、若手アナの中で、若園芳乃香は抜群の被暗示性を見せていた。催眠術師に「歌いたくなる」という暗示をかけられると、自分は音痴だからと嫌がっていた彼女が、途端に大きな声で、アカペラで歌い出す。確かに音程が少し外れていたような気がするが、その姿は見ていてとても微笑ましいものだった。お淑やかでおっとりした雰囲気の若手アナが、手品師のような身なりの催眠術師が指を鳴らすだけで、オペラ歌手に変貌して腹式呼吸で歌ったり、自分を演歌歌手だと思い込んで拳を回したりする。意外とその姿は堂々としていて、気持ちよさそうにすら見えた。「貴方は一番人気のプリマドンナです」と言われた若園さんは、その後も同僚のマイクを奪ってまで、歌いまくって番組が終わった。その番組は、今でもマサキの脳裏にはっきりと刻み込まれている。当然、プリマドンナの歌唱力は持っていない芳乃香さんだが、本人が成りきって、堂々と歌っていると、そこには妙な説得力が生まれていた。催眠術も凄いと思ったが、それ以上に、彼女の「信じこむ力」が、まるでその場を支配しているように思えたからだ。

 実はマサキはこうした、「若い女性が催眠術にかけられて、操られる」という類の企画や話が大好きだ。先ほどの若手女子アナ番組を見たのも、女子アナを見たかったからではなく、催眠術の番組を見たくて、チェックしていたからだ。もともと人を楽しませる舞台のエンターテイメントというものに興味を持っていた彼は、学生時代には短期間だがプロの催眠術師に、催眠誘導法やショー催眠を教えてもらったりまでしていた。

 催眠術の実践からは遠ざかったが、エンターテイメントに関わる業界にいたいという思いは、放送専門学校を卒業して、零細番組制作会社に就職した、今まで繋がっている。催眠術という技術への興味や情熱は、日々の仕事の忙しさに圧倒され、押し隠されつつある。けれど今でも、エンターテイメントのジャンルとしては、マサキの秘かなフェティッシュになっていた。

 だからこそ、その時に目を奪われた美人若手アナウンサーが、全国ネット・キー局の局アナからフリー宣言し、今、彼と一緒に番組作りに携わっているという事実は、マサキにとっては感慨深いものだった。若園芳乃香さんを怒らせたくないという思いもあったが、それ以上に、この番組を終わらせてしまうことだけは、絶対に避けたかった。

 さっきの夕方にロケバスで見た、寝起き直後の若園芳乃香さん。いつもに輪をかけてフンワリとしたトーンで、目をこすりながらマサキの話を聞いてくれた。まだ眠そうな顔をしていたが、カーテンが開いた後は、後光が差しているようにすら見えた。一瞬で、雰囲気が切り替わる。あんな、彼女の多彩な表情を、少しでも多く、近くで見ていたい。その思いがあるから、彼は勇気を振り絞って、彼女の部屋のドアをノックした。

 コン、コン、コン

「………お休み中、すみません。新藤です。………もし、よろしかったら、ちょっとだけお話を聞いて頂けませんか? 仕事の相談でして………」

 声をかけてから、10秒くらい、間が空く。足元のドアの隙間から、灯が漏れているので、彼女は部屋の中にいて、まだ寝ていないということを推測していた。辛抱強く待っていると、やっと若園さんの声が、ドア越しに響く。

「………はい、………ちょっと待って頂けますか?」

 しばらく判断に迷った挙句の回答だということが、トーンからも伝わってくる。静かだけれど芯のある声だった。ドアが開くと、髪を下ろして寝間着姿の彼女がいた。クリーム色に染められたシルク素材のパジャマの上に、紺色のカーディガンを羽織っている。マサキが入ってくるということで、慌ててカーディガンを身に着けたのかもしれない。メイクを落とした彼女は、赤い縁取りのお洒落なメガネをかけていた。胸元で腕を組んでいる。

「ちょっと待ってくださいね…………。ごめんなさい。ふて寝してやろうって思っていたから、こんな格好で」

 メガネをデスクに置くと、椅子を動かして、マサキの前に出してくれる。デスクには他に本と、メモ用紙、そして青い砂の入った、砂時計が置かれていた。

「稽古中………でしたでしょうか? お邪魔してしまってすみません」

「ナレーションのお仕事を頂きまして………。台本を読む時間配分の練習をしていました。砂時計だと、ストップウォッチとかで測るよりも、一目で時間のイメージがビジュアルで理解出来るから、チラ見するのに都合が良いんです」

 少しスッピンを気にするように俯きながら、若園さんが説明してくれる。部屋はどうということのない、旅館を改装したビジネスホテルなのだが、若園芳乃香がいるというだけで、良い香りが漂っているような気がした。

「新藤さん、久米島さんたちに言われて、私を説得しに来たんですよね? ………年も近いし、新藤さんならって、期待されているんじゃないですか? 申し訳ないですが、私、お話ししたことを取り下げられないです。ワガママ言っていると思われているのはわかっていますが、………ごめんなさい」

 若園芳乃香はお見通しだ。彼女のように賢い人だったら、当然だろう。マサキもここは、変に誤魔化したりせず、本音をぶっちゃける。但し、彼女が想定しているよりも、もっとぶっちゃけてやるつもりだ。交渉は既にスタートしているのだ。

「あはっ……。おわかりですよね。やっぱり。若園さん、お前なら、説得出来ないかって。………その通りです。それでいて、僕、貴方が信念を曲げるつもりがないことも充分わかっています。だから、説得なんて無理なんです。………そこでお願いなんです。あと15分だけ、ここにいさせて頂けませんか? 5分で帰ってきたら、お前、説得する気もなかっただろうって、叱られるんです。だからもうちょっといさせてもらって、精一杯努力したっていう形だけ作らせてください。お願いです。この通り」

 マサキが拝み倒すようなポーズをとると、若園さんは思わずクスっと笑ってしまった。

「ADさんも色々と、大変ですね………。まぁ、そういうことでしたら、もう少し、ここにいて頂いて結構ですよ」

 肩を上下させて溜息をつきながら、若園さんは少しリラックスした表情を見せてくれた。今から非建設的な説得や泣き落としの交渉を延々聞かされるのかと構えていたところ、拍子抜けして、一気に気が緩んだようだった。構えていたお願いと違う、想定外のお願いをポンと投げかけられると、つい受け入れてしまうことがある。マサキは5年間、方々で業界の無理なお願いをして回っているうちに、そんなことを学んでいた。

「そりゃーもう、ADって大変ですよ。明日の企画の再検討なんて、全然苦でもないです。多分、ラーメン屋巡りですよ」

「フフッ……。久米島さんって………困った時は、いつもラーメンの企画ですね」

 若園さんが顔を右に向けて、クスクスと笑う。久米島さんの名前を自分から出してくれるあたり、彼女のキューさんや番組スタッフへの心証は壊滅的に悪化したという訳でもなさそうだった。言いたいことを言って、ある程度はスッキリしたのかもしれない。

「実は、先月のラーメン企画の時も大変だったんです。小田原で凄く有名なお店が1店あるって言われて、取材交渉に行ったんですけど、テレビには出ないって頑固な店長さんに断られて、でもキューさんには、もっと交渉粘れって言われるし………。実は今回と同じ手口で、交渉している実績を残したいからもうちょっとだけ、店内にいさせてくださいって、お願いしました」

「あははっ。それが、いつもの新藤君の手なんだ」

「はぁ………。すみません。………それで、そこのお店では、ただ店内にいるだけでも迷惑だろうから、あくまでプライベートの客として、注文させてくださいってお願いしました。実際に食べてみると、さすがに凄く美味しかったので、最後に頑固な店長さんにお願いをしたんです。撮影の件は諦めます。ただ、すっごく美味しかったので、仕事の仲間を連れて、明日も食べに来てもいいですか? って………。そうしたら店長さんに何か伝わったみたいで、そこまでいうなら、夕方の開店前に30分間、撮影しても良いって、言ってくれたんです」

 マサキの話を、頷きも交えて聞いていた若園さんの顔が、パーッと明るくなる。

「凄いじゃない。……それって、マサキ君の真心が伝わったっていうことだよね?」

「そうかも………しれないです。………でも、この話、最後に酷いオチがありまして。次の日の撮影、他のお店のシーンが盛り上がって凄く押しまして………。僕がやっと口説き落とした店は、散々待たせておいて、結局撮影無しになっちゃいました。謝りの電話を入れた時は、店長さんほとんど返事もしてくれなかったです」

 ベッドに腰かけて、前のめりに聞き入っていた若園さんも、そこまで聞いて肩を落とす。この人は本当に共感力に優れていて、聞き上手だ。マサキの拙い説明からも、状況をありありと思い浮かべてくれていうようで、表情もコロコロと変わる。

「そういうこととかあると、本当に僕の仕事って何なんだろうって、虚しくなっちゃいますよね。別に踏み込まなくても地元で平和に完結している世界に、土足であがりこんで、好き勝手に喧伝して、散らかして出ていくっていう感じが、時々するんです。ホント、落ちこみますよ。そういう時は」

「そうね………。そういうことがあったんだ………。一応、私の名前がついた番組だから、私の責任にもなるよね。今度からは、出来ればそういう話は、早めに聞かせて欲しいな………。でも、マサキ君は、精一杯、自分に出来ることをやってくれてると思うよ」

 素直で真面目な若園さんは、すでに完全に、「仕事の相談にのってくれる先輩モード」に入っていた。こちらの手の内を見透かしてくる賢い相手には、相手の想定以上にぶっちゃけてしまって、むしろ相談に乗ってもらう。下っ端ADとしてあちらこちらから小突かれてきたマサキが学んだ処世術でもあった。気がつくと、難しい交渉相手として対峙していたはずの若園さんは、すでにマサキと同じ視線で、同情的にこちらの立場を汲み取ってくれつつある。

「あの、でも僕、何と言って良いかわからないですけど、若園さんがさっき言ってくれたこと、とても正しいと思います。僕もこの業界とか番組作りとか、変わっていかないといけないことだらけだって思っていますけど、今の自分の立場じゃ、どうにもならないことばかりで。………だから、若園さんから、さっきみたいにうちのプロデューサーに対して、はっきりと時代が変わってきてることを伝えてもらえて、本当にスッキリしました。それだけは、お伝えしたかったです」

 若園さんの真剣な眼差しが、不意に和らぐ。彼女が微笑むと、狭い部屋がパッと明るくなるように感じられる。

「ありがとう。マサキ君。………貴方にそれだけ伝わっているって思ったら、もう充分。………私、まだ納得はいっていないけれど、明日の企画は、当初の予定通りに進行してもらって良いです」

 マサキが息を飲む。若園さんの美しい顔を覗きこんで、真意をはかっていた。

「え………、それじゃ………。でも………」

「久米島さんにこう伝えるのはどう? ………僕が一生懸命、説得して、若園がOKなラインを色々と相談したら、最終的に、あの生意気でワガママな若園も、了解しましたよ。でも、明日彼女がどこでヘソを曲げて文句をつけだすかは、今の撮影班の中では僕が一番わかっていると思うので、僕に匙加減を調整させてくださいって………。こうしたら、貴方の発言権が今よりも、もう少し大きくなるんじゃないかな? 私を悪者にしちゃってイイよ」

 若園さんが悪戯っぽくウインクする。彼女は美しくて真面目なだけじゃなくて、こんな可愛らしい表情も出来るのだ。

「お互いまだ、思うようにやりたいことが出来ない立場だけど、2人の番組でもあるんだから、一緒に協力して、少しずつこの番組を、私たちの思う方向に変えていきましょう。1人で愚痴ったりゴネたりしているよりも、よっぽど健全で建設的だと思わない?」

 若園さんからのありがたい申し出に、マサキは首をブンブンと縦に振った。何よりも、憧れの女性と少しでも心の距離をつめることが出来るということが、ひたすらに嬉しかった。

「私も、もうちょっとアンテナ高く張って、大まかな撮影スケジュールを聞いた時に、もっと気をつけてれば、今になって揉めることもなかったんだけどなぁ…………。反省」

 若園さんは両手を重ねるように膝に置いて、深くため息をついた。

「足ツボマッサージとは、説明受けてなかったんですね」

「スポーツ整体の先生との短いコーナーって聞いたから、私、スポーツ選手とかに施術する先生から、お話を伺ったりする、インタビューだって、早とちりしていたの。………以前、プロ野球とか一生懸命勉強したことがあったから、アスリートの人たちを支えるプロの裏方集団とか、興味があって………」

 若園さんが、ヤマトTVに入社したての頃、プロ野球のニュースや取材からキャリアを始めたことを、マサキは思い出した。一度、週刊誌に、若手の注目選手と交際の噂について記事にされたこともあったような気がする。………結局あれはただのデマだったのか、1回きりのゴシップ記事が出て、その後が続かなかったようだが………。

「でも、足ツボでも何でも、やると決めたら、私は頑張るから、舵取りはマサキ君にお願いするね。………あんまり、番組の品位が落ちないように、気を遣って欲しいの。バラエティ色は必要だとは思うけれど、そちらの路線で戦っていくには、私に適性が無さすぎると思うから。………よろしくお願いします」

 マサキに向かって、丁寧にお辞儀をする若園さん。ここまでされると、マサキも踏み込んだ下世話な演出はやりにくくなる。そのあたりも、若園さんはちゃんと心得ている。単にオヤジ転がしが上手いだけではなかった。若園芳乃香もまた、優秀でしたたかな、男社会で働く女性だ。

「いえ………こちらこそ、よろしくお願いします」

 そこでマサキの言葉が詰まる………。

 何か言おうとして、また口ごもる。

 マサキは迷っていた。すでに目的は達成できた。番組の企画について、若園さんに了承してもらえた。それだけで、ADのマサキとしては予想外の収穫だ。先輩たち伝えれば、肩を叩いて褒めてくれるだろう。若園さんとも、これまで以上に親密な空気を作れたと思う。‥‥これ以上、望むべきことなんて、あるだろうか? 若園さんの部屋にも、夜遅くにいつまでもお邪魔しているべきではないだろう。今が、格好の切り上げ時だとは、わかっていた。

「えっと………、あの…………」

 それでも、まだマサキはまだ、若園さんの前から、去ろうとしていなかった。いつかチャンスがあれば、一度試してみたいと夢見て来たことがあったからだ。

「どうしたの?」

 瞬きしながら、マサキの様子を伺う、美しい年上の女性に、マサキは思い切って、話を切り出した。

「今回は、若園さんの期待に添えなくて、申し訳ないんですが、僕、以前、スポーツ整体ではないけれど、アスリートのメンタルトレーニングやイメージトレーニングを手伝っているカウンセラーの先生に、お話伺ったことがあるんです。特別なリラクゼーション法とか、色々あるらしくって。アスリート以外にも、プロの演奏家とか、パフォーマーの手伝いをしているそうです。その、よろしければ。もし、若園さんが興味あるようでしたら、今度、ブッキングを試してみようかと思いまして」

 若園さんの顔が、日が差したように輝く。

「面白そうっ。私、今はアスリートや、アーティストの方々が、どんな方法で満場のお客さんの前で、普段以上のパフォーマンスを出したり出来るのか、凄く興味を持っていたんです。取材させてもらえるなら、是非、お願いしたいな」

 マサキは頭の中をフル回転させながら、懸命に話の筋道を整理して、自分の作戦へと、提案を近づけていく。

「それが、そちらの業界では、相当に忙しい先生みたいで、その人のリラクゼーション法と相性の良い演者さんの番組だったら、効率良い宣伝にもなるから、取材にも応じるって、言われているんですが、若園さん、ちょっとだけ、試してみませんか?」

「今………ここで? …………マサキ君と?」

 キョトンとした表情で聞き返してくる若園さんに、マサキは生唾を飲んで、頷いて見せた。

「療法との相性を確認するくらいだったら、導入の理論さえわかっていれば、って、その先生が入口だけ教えてくれました。若園さん、さっきの話じゃないけれど、男社会の中で一生懸命、筋を通してお仕事されていて、色んなストレスも抱えていると思うので、もし上手くいけば、とても良い取材と、若園さんご自身のリラックスにもとても有効だと思って、ちょっと思いついちゃったんですが………。もし、興味なければ、無理は言いません」

 ゴリ押しするような態度は見せず、敢えて最後は少し引いてみた。ジャーナリストを志すメディア人なら、好奇心が勝ってくれるのではないかと、期待を持って………。すると若園さんは、後ずさりするどころか、ベッドの端に浅く腰掛け直して、身を乗り出してきた。

「試せるんだったら、今、ちょっと、やってみましょうか? ………そんなに時間はかからないんでしょう? 少しだったら………。どうかな?」

「コホン。………じゃ、失礼します。若園さん。まずは左腕を真っすぐ前に伸ばしてもらって良いですか?」

 ベッドの端、若園さんの隣に座り直したマサキが言うと、若園さんが左腕をピンと前に伸ばす。光沢のあるパジャマの袖からも、スラっと長い腕の形が見てとれる。

「このリラクゼーション法の新しいところは、最初から力を抜くっていうことを意識しないところみたいです。雑念を払って、何も考えないようにして、って言われても、実際は困っちゃうでしょ? 何も考えないっていうことは簡単じゃないです。体の力を抜くっていうのも同じで、リラックスしようって頑張っているうちは、普通の人間は、どこかに力のシコリを残しちゃって、完全なリラックスからは、かえって遠ざかっちゃうんです。だから逆に、左腕に力を入れてみてください。ギューッと力を入れる。拳を作った指先から、肘から肩まで、ガチガチに固くなるところを意識する」

 説明しながら、彼女の肘を、外側から内側に軽く押してやると、彼女の華奢な腕は、より固く硬直する。

「そう、拳の先から肩まで、一本の鋼鉄が入っているみたいにガチガチになる。そして………僕が触れると、一気にこの腕から一切の力が抜けて、グニャグニャに柔らかくなりますよ。ほら」

 今度は肘の内側から、肘を優しく曲げさせる。強ばっていた彼女の腕から、一気に力が抜けていく。手首を支点として持って、肩へ向けて波立たせるように彼女の腕を優しく振ると、一切の力みを無くして腕がブルンブルンと揺れる。

「あ………凄い。さっきより、軽くなってる気がする」

 若園芳乃香は、目を丸くして驚いてくれた。想像していた以上に良いリアクションだ。マサキは気を良くして、さらに語りかける。

「今度は両手を体の前で握りしめて、ギューッと強く握ってみましょう。また腕も硬直してくる。今度は両腕に鉄の芯が入ったみたいに固くなる。僕が数を数えると、自分の力で解けないくらいに、腕がガチガチに固まる。一対の鉄の棒になる。3、2、1………ほら。どうです。手を離せますか?」

 マサキが声に力を入れると、両手で彼女の両肘をグッと押し出して、腕を伸ばさせる。彼が手を離した後も、若園さんは両手を握って伸ばしたままの姿勢で、眉をひそめていた。

「ん…………離せない………? ………どうして?」

 懸命に、体の角度を変えたりしながら、腕を曲げて両手を離そうと、苦闘する若園さん。少しずつ、両手の指が動き始め、肘が曲がり始める。そこですかさずマサキが、両腕の内側を押し開くように触れる。

「はい、もう外れます。両手が楽になる。スーッと肩から先が楽になって、血の巡りが良くなる。リンパのめぐりも良くなる。肩から指先まで、柔らかく解れて、リフレッシュされていく。すっごく軽い。そうでしょ?」

「………本当………。マサキ君………。凄い。プロみたい………。何ていうか、これ、催眠術みたい」

「ふふふっ。ちょっと近いかもですね。イメージトレーニングと催眠誘導って………。でも、別にこれ、ショー催眠とかじゃないですから、警戒しないで良いですよ。何ていうか、精神の加圧トレーニングみたいに、負荷をかけたり、無くしたりして、心身のコリをほぐしているんです」

 催眠という言葉が芳乃香さんの口から出て、マサキは内心ドキッとするが、極力それを顔に出さないようにする。

 実を言うと、さっき試したものは、催眠術ですらない。肘の外側から内側に押し込まれるように腕を伸ばされて、伸びたままにすることを意識すると、腕は曲がりにくくなる。当たり前と言えば、当たり前のことだ。それでも、若園さんはその現象に、心から驚いてくれている。「握りあわせた指も離れない」、「腕が解けない」と、マサキの言葉通りに反応してくれた。集中力があって、被暗示性が高い。これまでにマサキが「師匠の前で」催眠術を試させてもらった、ごく数人の被験者と比べても、若園芳乃香さんは群を抜いて理想的な素材ということが理解出来た。

「今度は若園さんの全身。足の爪先から脳天まで、グーっと固くなっていくことをイメージしてください。石になる。カッチコチの冷たい石。肌も神経も脳までもカチンと石になる。体の芯からヒンヤリと、固く滑らかで動かない、1個の石になる」

 瞼で半分くらい隠れた黒目が、動かなくなる。若園さんは無表情になってまっすぐ前を見つめたまま、静止していた。

「はい、僕が背中を叩くと、一気に体が柔らかくなる。体の芯からグニャグニャ。全身がクラゲのようにプニプニ、グニャグニャになって、こちらに寄りかかってきます。きちんと支えるから、大丈夫ですよ。………ほら」

 カーディガンを羽織っている背中にポンと触れると、崩れ落ちるようにして、若園さんが、左側に座っているマサキの肩に体重をかけてくる。彼女の肩を支えると、頭が肩に乗っかる。左腕が、プランと振り子のように空中を揺れて、行ったり来たりする。見事な脱力状態だ。彼女の頭部がマサキの顔の近くにくると、シャンプーとリンスの香りが混じり合って鼻をくすぐってくる。

「はい、また体が固まる。ギューッと凝固する。脳もガチガチに停止する。何にも考えられない。そして今度はもう一度、体がフニャフニャに、柔らかく脱力する。頭の中もプリンのように柔らかくて優しい弾力でフルフル揺れる。僕の言葉をどんどん素直に受け入れられるようになる。全身の血の巡りが良くなって、体中がポカポカしてくる。逆に、今まで頭を使って難しいことを考えている間に、頭に集中して凝固していた血液と酸素とエネルギーが、スーッと全身に降りて来る。寝入りばなのような、心地良い、気持ちい―い、状態。全身が固まったり、解したりを繰り返すたびに、貴方の意識はどんどんと凝り固まった形を無くして、自由に広がって、究極のリラックス空間に沈み込んでいきますよ」

 10秒ごとに硬直と弛緩を繰り返していく若園さんの体を、支えながらゆっくりと傾けていって、ベッドに寝かせる。硬直と弛緩。それを執拗に繰り返すうちに、その振り子のような単調な反復が、ゆっくりと彼女の意識状態を、通常と別の段階へと導いていく。最初のうちはまだマサキの視線を意識するように大人しい表情だった芳乃香さんだが、次第に、硬直の時は顔をしかめ、弛緩の時には小さく口を開けて顔の筋肉を緩ませきったりと、自分の世界に深く入りこんでいく様子を見せつつあった。

「そうです。一度全身を硬直させてみることで、逆に本当の力の抜き方がわかってきましたよね。この気持ち良い、究極のリラックス状態を、若園さんの体と心はよーく理解する。この状態へ、自分から沈み込む方法を、しっかりと覚えていくことが出来る。だから、若園さんは、今までよりも、ずっとずっと効果的に、自分を解すことが出来るようになりますよ。…………はい、一度目を開けて、起きて見ましょう。周りの様子がはっきりとわかります。ほら、スッキリと目が覚める」

 声に、はっきりと力を入れて、両手をパンパンと叩くと、若園さんが目を覚ます。体を起こして、周りの様子を確認しながら、自分の身なりを整える。狭いビジネスホテルの室内で、ベッドに寝そべる姿を若いADに見られているのが、少し恥ずかしかったようで、彼女はカーディガンの襟元を握りしめるように引き寄せていた。

「若園さん、よろしければ、そのままの姿勢から、前屈してみてもらえますか? 足の爪先へ届くようにグーっと体を折り曲げて、手を伸ばす。今までよりも、体が柔らかくなってると思うんですけど、試してみください」

 彼女がマサキの少しでも視線を気にしなくて良いように、彼女の後ろ側へ行くようにしてベッドを回りこみ、マサキが言う。若園さんが前屈を始めると、後方からは彼女のパジャマの裾から腰の白い素肌がチラリと見え、ズボンに包まれた形の良いお尻の丸みが強調された。

「…………ホッ…………。…………あー、ホントだっ。………全然違う。……………うわー。ほら、こんなにっ。うおーっ」

 芳乃香さんが手の指先を足の爪先よりも前に伸ばして、前屈する。彼女は素直に感動してくれているようだが、マサキにとっては普段の彼女の柔軟性がわからないので、少し不安が残っていた。それでも、彼女の驚きぶり、興奮っぷりを見ていると、しっかりと、普段とは違う効果が出ているようだ。自信が湧いてくる。

「若園さん、このリラクゼーション法と、凄く相性が良さそうですね。これならきっと、カウンセラーの先生も喜んで、撮影に協力してもらえると思いますよ。ほら、そーっと目を閉じて、力を抜いて―。また究極のリラックス状態に沈み込んでいきます。全身のコリが一気に解れて、さっき以上にグニャグニャに柔らかくなる」

 マサキが言いながら近づくと、彼女の背中を支える間もなく、若園さんはボフッとベッドに上体を委ねていた。胸の柔らかい膨らみが反動で小さく跳ねる。ここまで来ると、完全に彼女は催眠状態に入っていると言って良いだろう。

「今度体を起こしても、貴方の意識はベッドに深く沈み込んだまま。どんどん深く入っていく。これが究極のリラックス状態。トランス状態。…………貴方を自由にしてくれる。心地の良―い催眠状態です。楽にしましょう。ここでは僕が言ったことが、どんなことでも本当のように感じられる。僕の言葉通りに見て、聞いて、感じることが出来る。その間、貴方の意識の表面は、すっかり休息をとることが出来るんです。それは10時間の睡眠に相当するくらい、良質な休息ですよ。わかりますね?」

「…………はい」

 体を起こした芳乃香さんは、薄っすらと瞼を開けている。右側の瞼が、僅かに痙攣している。たしか、カタレプシーという名前の現象だ。トランス状態が深化しつつあることを示しているはずだ。

「これから芳乃香さんが人付き合いで自分を擦り切らせて、悩んだり我慢したりしてきたストレスを、緩めて、溶かして、綺麗に流し去ります。その後には貴方は、とっても前向きで、楽な気持ちになれる。いいですね?」

「……はい」

 夢を見ているような目で、芳乃香さんはウットリと頷く。その表情は、思わず抱きしめてしまいたくなるような、美しさと儚さをたたえていた。

「今、芳乃香さんのお膝の上には、とっても可愛い、生後4か月の子猫ちゃんがいます。柔らかい毛の生え揃った、小さな生き物。撫でてみてあげましょう」

「………うふふ………。可愛い………」

「子猫ちゃんも、芳乃香さんに撫でてもらって、とっても嬉しそうですねー。とっても人懐っこい猫ちゃんです」

 満面の笑顔になった芳乃香さんは、マサキには見えない、膝の上の何かを両手で持ち上げて、顔を押しつける。可愛らしい動物が大好きなようだ。

「芳乃香さんに優しく可愛がってもらって、子猫ちゃんは本当に幸せそうですね。………僕が手を叩くと、芳乃香さん自身が、今抱いている子猫ちゃんになったことを想像しましょう。貴方が猫そのものになりきるんです。ほら、パチン」

 薄っすら目を閉じた芳乃香さんが、幸せそうな笑みを浮かべたまま、動かなくなった。しばらく様子を見て、マサキが仕掛けてみる。

「おーい。猫ちゃん」

「………………ニャー」

 芳乃香さんは笑顔のまま、可愛らしく返事した。

 マサキはしかし、この反応を見て、まだまだだと、自分に言い聞かせる。そして、もう少し丁寧に暗示を重ねることを考えた。

『いいかい、マサキ君。犬になったらワンと鳴いて、猫になったらニャーと鳴いているうちは、まだ相手は一番深い催眠状態には落ちてないんだ。』

 かつて、マサキに短期間、催眠術の触りを教えてくれた師匠は、彼にそう言って注意を求めた。動物のイメージが、ありきたりで紋切り型のリアクションに繋がっているうちは、まだ相手は頭で考えて、「自分の考える催眠状態」を再現しているという状態に近い。その状態であまりにも突飛な暗示や、非常識、あるいは反道徳的な暗示を入れようとすると、あっさり抵抗される。若園さんの今の催眠状態も、そういう不安定なレベルにあるということが、観察からわかったのだ。

 だから、マサキはさらに念を入れて、猫なら猫の暗示を、より周到に重ねることにした。二度と巡ってこないかもしれないチャンスなのだ。慎重に進めるにこしたことはないと考えていた。丁寧に、彼女の頭の中でイメージを具体化させる。概念としての子猫ではなくて、想像力で彼女の意識を埋め尽くすのだ。彼女の想像した子猫が彼女の頭の中で実体を持ち、彼女の意識的なコントロールから離れて、自由に動き出す。それくらい、イメージの具現化が必要なはずだ。

「猫ちゃんは、オスですか? メスですか? ………オスなら、1回。メスなら2回鳴いてみてください」

「………ニャー……………、ニャー」

「可愛いですね。生後4か月のメスの子猫ちゃんだ。喉元をくすぐったら、どんな反応をするのかな?」

「……………グルルルルル」

 芳乃香さんがアゴを突き上げて、心地良さそうに喉を鳴らす。とても綺麗な首筋だった。

「前足はどうなっているんでしょう? ………あ、肉球がプニプニしていて、気持ちいい………」

 マサキが芳乃香の手を取り、手のひらを押しているうちに、彼女の伸びていた指が、動物の前足を真似るように折れ曲がってくる。緩く握った拳になる。

「子猫ちゃん、ほら、ここに猫じゃらしがあるよ。ビヨンビヨン揺れていて、捕まえたくならない?」

「フーッ」

 マサキが少し驚くほど速い動きで、芳乃香は目の前の何かを腕で叩くように、手を振った。指を曲げて拳を作りかけたようなままの、「前足」の手で、何かを掴もうとしている。マサキが後ろにステップをして、芳乃香から距離を取ると、彼女は腰を上げて、その距離を詰めてくる。膝をカーペットにつけて、四つん這いになった。寄り目がちになって、マサキが掴んでいる想像上の猫じゃらしを、仮想敵のように見つめ、ジャレる彼女の様子は、もはや完全に子猫になりきっているようだった。

「もう一度、呼んでみよう。…………猫ちゃーん」

「…………ぃやーぉ………」

 鼻にかかったような、さっきよりもずっとリアルな、猫の鳴き声を出す。芳乃香。四つん這いで右へ左へ歩き回る彼女は、もう完璧な猫だ。満足げに見つめていると、芳乃香はベッドの上に上がった。マサキに正対するように四つん這いになった芳乃香は、背筋を弓なりに反らして、お尻を突き上げて、大きな伸びを始めた。右に向けた顔がクシャクシャになるほど口を大きく開け、歯を剥き出して、アクビをする。ブルブルっと体を震わせると、背中や全身の関節が、ポキポキと鳴った。そして突き上げられたお尻。パジャマのズボンから、その丸みや、谷間のシルエットがくっきりと浮き出てしまっていた。背中からはカーディガンとパジャマシャツの裾が捲り下がって、くびれた腰の素肌が見えている。

 体を丸めると、自分の手の甲を舐め、毛繕いを始めた。

 指の長い綺麗な手の甲に、芳乃香さんのピンクの舌が這っていく。唾液のせいで光沢が増していく拳を、首を傾げた頬や肩のあたりに、気持ち良さそうに擦りつける、猫ならごく普通の仕草。それを美しい成人女性がしているのを見ていると、マサキは妙な興奮を覚える。まるで、あまり見るべきではないものを覗きこんでいるような、背徳感とスリルに、背筋がムズムズとする。この舌は、電波に乗せて社会にニュースを伝えたり、経済問題を真面目を語ったり、街の人のエピソードを温かく伝えたりする、公の役割を担ってきた舌だ。上品で清潔感のある、選ばれた若い女性の、選ばれた舌。それが、今、手の甲にペチャペチャと唾液を塗りつけている。マサキは、思わず芳乃香と額がぶつかり合うほどの距離まで、彼女に近づいていた。

「猫ちゃん、………よく見て。…………今から面白いことが起きるよ。僕がハイっと言うと、僕の両手が貴方の前足になる。でも貴方にとっては、それが別に不自然なことだとは感じられない。………必ずそうなるよ…………。ハイッ」

 生唾を飲み込みながら、緊張でオーバーフローしそうになる頭を精一杯絞って、暗示を考える。不安と期待の入り混じった心を抑え込んで、極力冷静なトーンで伝えた。若園アナウンサーはしばらく、キョトンとした表情で、突き出されたマサキの拳を見て、瞬きを何回か繰り返す。マサキが不安に負けそうになった頃、ようやく首を伸ばすと、マサキの拳に向かって、桃色の舌先を突き出してきた。

 ピチャピチャピチャ。

 何回か、繰り返すようにマサキの拳に、いや、なぜかマサキの肘に繋がっている芳乃香の前足に、舌を這わせる。マサキはリズムを合せるように、その拳を芳乃香の頬や、首筋に擦りつける。芳乃香が嬉しそうに、コロコロと喉を鳴らした。一番最初の、「ニャー」という、とってつけたような鳴き真似とは全く違う、本物の猫に成り切った、芳乃香の仕草だった。

「猫ちゃんはちょっと体が痒くなってきたみたいだねー。痒い痒い」

 調子に乗ったマサキが、拳の指関節の部分で芳乃香さんの肩やお腹を掻く仕草をしてみせると、自分の前足がそうしていると信じ込んでいる彼女は、もっと掻いて欲しいと、体を押しつけてくる。シルク地の繊細なパジャマを通して、感じられる、彼女の柔らかさ、温かさは、マサキの願望、欲望を、どんどんと掻き立ててしまう。痒みの暗示をしばらく解かないでいたら、「後ろ足」でも自分の顎先を掻こうとした芳乃香さんは、足が届かず、バランスを失ってベッドに転がってしまった。パジャマの裾からお腹の肌がチラリと見える。また思わず、マサキが生唾を飲んでしまう。

「芳乃香さん。僕が手を叩くと、貴方は猫から人間に戻ります。けれどさっきの様に、ガチガチに硬直した、石人間になりますよ。何も考えることが出来ません」

 パチン、と手を鳴らすと、芳乃香さんは急に目をパチっと見開いて、体を起こし、ベッドの端に座った体勢で硬直した。その、弾かれるような予想外の素早い動きに、マサキは驚いて2歩、後ずさりしてしまった。びっくりしたような表情で停止している彼女の目の前で、彼の手をパタパタと揺らしても、芳乃香は瞬き一つしない。

「もう一度手を叩くと、柔らかーい。クラゲのような、ゼリーのような、ユラユラな存在になります。今度は、どんな言葉も当たり前のように受け入れる、すごく柔軟な意識になります」

 パチン。もう一回、手を叩く。今度はガクッと肩を落とした芳乃香さんが、座ったままの姿勢で左右に状態を揺らし始める。目は半開きの状態で、どこを見るともなく彷徨っている。

「…………いいですか? ………人間に戻った芳乃香さん。………けれど、今は究極のリラックス状態。僕がどんな言葉を話しても、貴方はそれを柔軟に受け入れて、吸収していきます。自分自身では、何も考えないで良い、とーっても楽な状態。そんな芳乃香さんですが、ほら、この両手は、さっきの猫ちゃんの前足と同じように、芳乃香さん自身の両手ですよ」

 自分の両手を手首でクルクルと回転させて、手のひらや甲を見せながら、マサキは伝える。彼女の耳元で囁きながら、ゆっくりとベッドの端を回り込んで、彼女の両手を取る。

「こっちはしばらく使わないから、こうやってしまっておこうか」

 彼女の本当の両手を掴んで、腰の後ろに回すと、右手で左手首を掴むように握らせて、ギュッと腰の後ろに押し当てた。

「こっちはもう、動かない。動かそうにも力が入らない。でも、心配いらないですよ。芳乃香さんの両手は今、こっちでピンピンしてますよね。ほら。元気」

 芳乃香さんの目の前で、両手をグー、パー、グー、パーと動かして見せる。彼女の表情があまり変わらないので、そーっと右手の先で、頬に触れてみた。プニッとした柔らかい弾力。

 27歳の女性の肌が平均的にどれくらいの柔らかさなのか、マサキには分らない。しかしこの状況で触れさせてもらった若園芳乃香さんの頬っぺたは、マサキにとっては、感動的に柔らかい、優しい感触だった。

「自分の手が自分の肩を掻いても、お腹をツンツン押しても、別に何も不思議なことはないですよね。貴方は何にも心配しなくて良いです。ただ、ゆーったりと、今の究極のリラックス状態を満喫しましょう」

 言いながら、紺色のカーディガンのボタンに手を伸ばし、上から一つずつ、外していくマサキ。芳乃香はまだ、頭を重そうに傾げながら、状態をユラユラと揺らしているだけだ。表情は弛緩しきって、口元にほんのりと、平和そうな笑みを浮かべていた。

 カーディガンのボタンを外しきって、肩まで捲り開くと、パジャマのシャツは彼女の胸元で、少し重力に引っ張られている、優しい丸みを二つ、くっきりと見せてくれる。ブラジャーをつけていないことがわかる。そういえば部屋に入れてくれた直後の彼女は、マサキの前で胸を隠すように腕組みをしていた。あれは、不機嫌だったからという理由だけではなかったようだ。

 彼女の左胸にそっと右手を寄せて、ついに指を押しつける。

 ムニュッ

 と反応が戻ってくる。マサキは早くも、芳乃香さんの頬っぺたが感動するほど柔らかいと思ったことについて、記録の更新が必要になった。芳乃香さんオッパイは、さらにその10倍は柔らかかった。確かにニュース番組にスーツ姿で出ていた時も、そのスタイルの良さ、とりわけ胸の綺麗な膨らみは隠せていなかった。彼女がスポーツコーナーに出ていた頃、「22:30の美乳アナ」と呼んでいた下世話な雑誌もあったし、政治経済を担当するようになってからも、「隠れ巨乳ホノカ様」とネット上ではキャプチャー画像が出回っていた。その、テレビやモニターの前の男たちが夢想して憧れた、お嬢様キャスターのお椀型のオッパイ。それを新藤正樹は今、パジャマの生地一枚越しに、自由に触って揉み擦っていた。下から掴んで支えると、右手にずっしりと重量感。それを離すと、プルプルと揺れる弾力。そして指を食い込ませるようにガッシリ掴むと、指の間からムニュ―っと柔らかい肉が移動する、このどこまでも女性的で優美な触感。人形のように整ったノーブルな顔立ちの下に、この宝物のような美乳をつけて歩いているのだから、彼女はやはり、特別な星の下に生まれてきているとしか思えなかった。親指の腹でオッパイの曲線を余すことなく撫でさすっていると、真ん中よりも少し上のあたりに、小さな突起が浮き出てくる。

「…………ん……………んふっ…………」

 くぐもった息が漏れる。マサキは右手の触感のことで一杯になっている頭を振って、懸命に注意を彼女の表情に向けた。芳乃香は半開きの目で遠くを見ながら、少しアゴを上げて、コインくらいの大きさに開いた口から、恥ずかしそうな吐息を漏らしていた。

「…………手が………もう………。………やだ……………」

 彼女の全身の様子を改めて見ると、腰に後ろ手に固定されている両手から繋がる肘と二の腕、華奢な肩に、力が入っているのが見て取れる。いつの間にか、カーディガンは肩から腰元までズリ落ちていた。どうやら芳乃香は、自分の手の勝手な動きを止めようと、必死で両手に力を入れているようだ。けれどそのことで、自分の胸が、乳首が弄ばれて揉みしだかれ、摘ままれて弄られることを止めることは出来ない。彼女が力を入れているのはあくまでも後ろ手に固定された、自分の本当の両手。今、彼女のオッパイを好き放題にイタズラしているのは、マサキの手だからだ。それなのに、懸命に自分の胸が揉まれる感触に身を捩って耐えながら、「自分の手の」不届きな動きを恥じらっている芳乃香。今まさに、国民的な有名人の美女が、マサキの手のひらの上で、催眠術の力で弄ばれている。そう思うと、マサキの僅かに残っていた自制心が、一気に弾け飛んでしまった。

「……………芳乃香さん……………。芳乃香さんっ」

 マサキはうわ言のように呟きながら、芳乃香のパジャマのボタンも首元からおヘソのあたりまで外していく。パジャマを開くと、白い肌と、うっすらパステルピンクに色づいた、丸く立派なオッパイ。そして思ったよりも小ぶりで色の淡い乳輪と、そこからしっかり立ち上がっている、桃色の乳首が現れ出た。直に手をつけて、グニャグニャに変形するほどに揉みしだく。気がつくと、マサキの左腕は、自分のベルトに手をかけ、バックルを外し、ズボンとトランクスをズリ下ろして、無遠慮に芳乃香の部屋で自分のペニスを晒していた。そしていきり立つモノを、左手で無作法にシゴき始めていたのだった。

 今日初めて、マサキの催眠術にかかった芳乃香さん。その人が今、目の前で半裸を晒して、オッパイを揉みしだかれていても、何も抵抗出来なくなっている。自分自身で、はしたなく胸を弄っていると誤解して、顔を赤らめるだけだ。………彼女なら、彼女になら、この催眠術の力を使って、もしかしたらどんなことでも出来るのではないか、完全に彼女を自分のものに出来てしまうのではないか。降って湧いたような刺激的な幸運と万能感に、マサキは酔いしれて、自分を見失っていた。

「芳乃香さん………、芳乃香さんっ…………。芳乃香さんっ」

 しばらくの間、マサキは、自分が頭の中で彼女に呼びかけているだけだと感じていた。胸を揉む感触に昂ぶり、女性の個室にいながら、無遠慮に自分の性器を晒してシゴいていた。異変に気がついたのは、それからだ。若園芳乃香さんが、少しずつ上体の角度を上げて、体を起こしている。呼びかけられて目を覚ますかのように、視線を彷徨わせて、周りをキョロキョロと見まわし始める。

 自分があろうことか、深い催眠状態にあった彼女を、名前を連呼して呼び覚ましてしまっているということにマサキが気がついた時には、すでに芳乃香さんの目には理性の光が戻りつつあった。

「…………えっ……私…………………。い………………イヤッ」

 肩で、マサキを突き飛ばした芳乃香が、ベッドの上で後ずさりする。マサキの人生がもう終わる………。そんな気持ちで、目の前が本当に暗転していくのを、若いADは、頭の片隅では意外と淡々と観察していた。本当にアウトな場面では、逆にこれほどまでに客観的な心境になるのだろうか。

「ごっ…………ゴメンなさいっ!」

「ゴメンなさいっ………。何かの間違いなのっ」

 土下座して詫びようと、頭を下げた瞬間に、マサキは自分の声が、芳乃香さんのものと重なったことに気がつく。最初のうちは、怖くて頭が上げられなかった。それでも、5秒ほど待っても事態が動かないので、マサキは頭の片隅に、ほんのかすかな希望を感じて、それに寄りすがるようにして、頭を上げてみた。目の前のベッドでは、若園芳乃香さんが、深々と頭を下げていた。

「私………マサキ君に、こんなことするつもりじゃ、なかったの…………。どうして、自分がこんなことしていたのかも、良くわからない…………。でも‥‥自分が…………気がついたら…………。こんなこと…………。もう、お仕事、一緒になんて……………。本当にゴメンなさいっ」

 頭を上げた芳乃香は自分で一言一言噛みしめるように、謝罪したり弁解したり、気が動転して、過呼吸を起こすのではないかと心配になるほど、息が上がっている。目からは涙がポロポロ零れていた。その頬に、ゴージャスな栗色の巻き毛が数本貼りつく。パジャマのシャツは、まだ前が、はだけられてしまっていて、ふくよかな胸の膨らみが露わになっていた。乳首が引っかかるように、シャツの前が完全にはだけようとするのを辛うじて留めている。そして彼女の両手は、まだ腰の後ろから離れていなかった。

「本当に私…………。どうして自分がこんな、はしたないことしてたのか、わからなくて………」

 ボロボロ泣きながら、釈明を重ねる彼女の前で、まだ半信半疑のマサキは、自分の両手を突き出して、ヒラヒラと向きを変えてみた。試しに、マサキ自身の鼻を、右手で摘まんでみる。

「やだっ………また私…………。信じてっ。マサキ君。私、真剣に話してるの。こんなこと、したくないのっ」

 必死の謝罪を続ける、可哀想な芳乃香さんの前で、マサキは膝からカーペットにズルズルと崩れ落ちて、肺一杯の安堵の溜息を吐き出した。

 若園芳乃香アナウンサーは今、「半覚醒」というトランス状態なのだ。目を覚ましていると意識していて、実際にほとんどの表層意識は正常な働きをしている。それでも、深層意識に残した暗示がまだ有効に機能していて、マサキの言葉を現実のものと信じこんだままに、覚醒状態のように振舞っている………。

 つまり彼女は、さっき自分の胸を揉みしだきながらマサキのペニスを無遠慮にシゴイていたのも、自分の手だったと、まだ思っている。今も、真剣な謝罪の途中でマサキの鼻を摘まんだのは、自分の右手の仕業だと信じていて、自分で自分に苛立ち、混乱している。そして、マサキに対して、ひたすら申し訳ないと思っている。新藤正樹にとっては、首の皮一枚繋がって、人生の終わりを回避出来る、チャンスが与えられているということだ。

「若園さん、僕の目を見て下さい。気持ちがスーッと落ち着いてくる。この指を見て。ここに僕が息を吹きかけると、あっという間に、これは芳乃香さんの指ではなくて、僕の指に戻ります。芳乃香さんの両手はちゃんと自分の腕についていて、腰から離れてブラーンと楽になる。同時に貴方自身も、深―い催眠術状態に戻って、全ての悩みから解放される。一吹きで、必ずそうなりますよ。ほら、フーゥゥゥッ」

 誕生日ケーキのロウソクの火を吹き消すような仕草でマサキが指先に息を吹きかけると、さっきまで力を入れてもがっちりと腰の後ろでロックされていたはずの芳乃香さんの本当の両手が、ブランと垂れ下がる。それとほぼ同時に、まるでマサキの息に飛ばされたかのように、芳乃香さんの上体がベッドの上にボフッとで背中から倒れこんだ。彼女の目はまだ涙を貯めたまま、ボンヤリと天井を眺めている。生気を失ってガラス玉のように虚ろになっていた。そんな状態でいても、石像の女神を思わせるような、完成された美しい顔だった。

 取り戻された彼女の両手を掴み、ゆっくりと彼女の上体を再び起こす。今度は途中でトランスから覚ませたりしないように、慎重に。まだはだけられたパジャマのシャツから覗く見事なオッパイの半球に手を触れたくなる自分を懸命に戒めながら、マサキが冷静な口調を取り戻す。

「芳乃香さんはこの後、僕が数字を20から0まで逆に数えていくと、スッキリとした気持ちで目を覚ますことが出来ます。さっきリラクゼーション法の話をしていたところから後のことは、貴方は思い出すことが出来ません。だから、貴方が自分の手で自分のオッパイを揉みながら、僕のおチンチンをシゴイていたなんていうことも、思い出すことは出来ません。貴方は心配する必要はないんです。思い出せないことは、心配しなくて良い。だけど、貴方の心のずーっと奥深くでは、貴方は自分が新藤マサキのおチンチンを握っていたこと、それをマサキが秘密にしていてくれているということを、覚えています。だから、貴方は、新藤マサキに大きな借りがある。いつか返さないといけない、とても大きな借りがあることを、心の奥底で知っている。そして、秘密を一緒に守ってくれているマサキのことを、心から信頼するんです。いいですね? 芳乃香さんは返事をすることが出来ます」

「………はい………。信頼…………。します…………」

「マサキには大きな借りがあります。返さなければならないです。そうですね?」

「……………………はい…………。マサキ君に…………お返し…………しないと………」

「今はその気持ちだけで充分ですよ。…………そして芳乃香さんは、僕、新藤マサキが、『究極のリラクゼーション状態』という言葉を口にするのを聞くと、今のように深―い催眠状態に陥ります。いつでも、どんな時でもです。貴方は目が覚めた時、僕がこう伝えたことすら思い出せませんが、僕がさっきの言葉を言うと、必ず、そのように反応します。………良いですね?」

「はい…………。究極の……………リラク………ゼーション………」

 言葉を口にした後、芳乃香の口元は力なく緩んだ。

「最後に、明日の朝、貴方は僕と挨拶を交わす時、無意識のうちに、自分の鼻を摘まみます。さっき『自分の手でした』みたいに………。でも自分でそうしていることには、気づくことが出来ませんよ」

「鼻…………摘まむ……………。……はい…………。気づけません………………」

「それでは僕が………………芳乃香さんに………………。この、最後の、お休みの、キスをして……………………………。20から…………………………………0まで数えると………………………………………………………貴方は、何の悩みも無く、疑いも持たずに、スッキリと目を覚まします」

 マサキは最後の誘惑に勝てず、これから催眠状態を脱しようとしている芳乃香の、弾けるような弾力の唇に、吸いついてしまった。リップクリームを塗っていたのか、マヌカハニーの甘みが口に広がる。そして、ラストチャンスということで、ツンと上向いた右の乳首にもキスをさせてもらう。その後は、未練がましく、左のオッパイも、乳首を中心にチューっと音がするほど吸い上げる。最後に、おヘソをペロッと舐めさせてもらった。最初にリップクリームのついた唇を吸ったせいで、どこを舐めても、ほんのりとマヌカハニーの香りがした。最後のおヘソだけ、そこに甘くてしょっぱい味覚が加わった気がする。最後の最後、もう一度唇を、息が切れるまで重ねさせてもらってから、やっと数を数え始めた。

「20…………、19……………、18……………、17………」

 数えながら、パジャマのボタンを留めていく。カーディガンも着させてボタンを留める。慌てていたために、何回もボタンが指の間を擦り抜けた。自分の衣服も整えなければならない。なんだか自分で数を数えていながら、そのカウントダウンにせっつかれているような気がした。

「10…………9……………8……………。スッキリとした気持ちになる……………。7……………6………………5……………時間の経過も気にならない。何も疑わしいことはない……………。4……………3………2…………、新藤マサキを信頼する……………。1………………………0! はい、スッキリとした気持ちで目が覚めますよ。ホラ」

 肩にチョンと、遠慮がちに触れると、大きな目をパチリと開けた若園さんが、数回瞬きをして、周囲を見回す。まだ頭の奥の方に残る軽い痺れを払うかのように、顔を左右に振った後で笑みを零した。

「私…………涎とか、垂らしてなかった? ……………やだ………、すっごい気持ち良く寝ちゃってたよね? …………これ、ちゃんとメンタルトレーニングの効果なの? 私が途中から居眠りしちゃっただけ?」

 若園さんは、照れ笑いと、はっきりとした口調で、ADのマサキに問いかける。自分の無防備な寝顔を見せていた気恥ずかしさと気まずさを押し隠すように、いつもより心なしか、口数が多くなっていた。

「大丈夫です。僕の想定以上に、このトレーニングとの相性が良かったみたいですね。きっと先生も喜んで話を聞かせてくれたり、色々と苦労や普段の心がけとか、話してくれると思いますよ。近いうちに、ブッキング、久米島Pとも話してみますね」

「うん…………。ありがとうね。……………じゃぁ……………。明日も、よろしく………。足ツボのシーンは、お手柔らかにお願いします…………。手柔らかって、………足だけど………。アハハ………」

 一生懸命、若園さんが軽いトーンを作っていることが分かった。彼女なりに、揉め事になったことを気にしているようだ。

「アハハ………。えぇ。出来るだけ、手短に済ませます。………足だけど………。………アハハ」

 二人で無理をしてジョークを交わし合って、無理に笑顔を作り合う。ギコチないけれど、マサキにとっては居心地の悪い空気ではなかった。

「あの、そろそろお暇します。遅くまでお邪魔しちゃって、本当にゴメンなさい」

「うんん。全然大丈夫。………マサキ君のことはADさんとして、信頼してるし…………。ほら、色々とお世話になってきてるし…………ね?」

 ドアまでついてきて、別れの挨拶をしようとするマサキの間近に立って、若園さんがそう言ってくれる。これまで何か特別なお世話をしたという記憶もなかったが、マサキには曖昧に頷くことしか出来なかった。

「では、お休みなさい。明日は、マルナナマルマルにロビー集合です」

「了解。お休みなさい」

 若園さんは可愛らしく敬礼をして、ドアを閉めた。これまでの態度よりもずいぶんと、親密な顔を見せてくれたような気がする。ドアが閉まり、彼女の気配がドアの向こう側から部屋の奥へと遠ざかって行ったのを確認した後で、マサキは音を出さないように気をつけながら、思いっきりガッツポーズをした。

 廊下を小走りに進みながら、慌ててスマホを取り出すマサキ。プロデューサーの久米島に電話をかけた。

「マサキです。若園さんからOKもらいました。明日、足ツボ企画バラさなくて大丈夫ですっ」

「…………おう、ホントかっ。……………お前、でかしたじゃねぇかっ」

 電話の向こう側では誰かが歌っている声が聞こえている、オジサンたちは夜のスナックにでも繰り出していたようだった。

「みんな~。マサキ二等兵がやりましたっ。姫様、明日の企画、了承でございますっ」

 酔ったキューさんの声に、オジサンたちの歓声が上がる。なぜか一緒に拍手をして乾杯の声を上げている、年上のオバサマたちの声も聞こえた。

 上司に褒められて、憧れの若園芳乃香アナウンサーとは、これまでになく距離を縮められて、マサキは有頂天の気分だった。自分の部屋に帰る前に、階段脇の自動販売機でビールを買う。ホテルの外よりも随分高い値段も気にせず、ロング缶を2本も買ってしまった。

 部屋に戻って、シャワーを浴びながら考える。いざ振り返ってみると、アマチュアとは言っても、催眠術師としては、ありえないような失敗をいくつも重ねていた。まずはパジャマ姿の女性と密室で二人きりになって、いきなり催眠状態に誘導しようとした。しかも自分はプロの催眠術師とかステージマジシャンとか、専門家の先生とか、一切の権威付けを持たずに、ADのマサキという状態でいきなり導入しようとした。普通はそこで失敗するはずだった。若園さんは以前にTV番組で深い催眠にかかった経験がある。トランス状態に自ら入る、コツみたいなものを無意識に掴んでしまっていたのかもしれない。そして彼女の、驚くほどの被暗示性の高さだ。素直で真面目で、思考が柔軟でイマジネーションが豊かで、共感力が高い。そんな彼女だったからこそ、運よくマサキの稚拙な導入にも見事に入りこんでくれたのだろう。

 催眠誘導中に、我を見失って、彼女の服を脱がしたり、体に触れたり、モノをシゴキだしたりというのも、言語道断の行為だった。もし仮に、彼女のトランスがもう少し浅くて、猫という暗示に、「ニャー」と答えていた頃と同じ深度だったら、瞬時に催眠から解けて、助けを呼んでいたかもしれない。目を閉じていても、催眠状態に入る途中段階の相手は、実は周りの状況を良く感じ取っている。師匠から言われた言葉は覚えていたつもりだったのに、性欲に負けて全てが真っ白になってしまっていた。

 そして最後に、興奮して、彼女の名前を声に出して呼んでいたせいで、それまでの状況でもまだ目覚めずにいてくれた彼女を、敢えてわざわざ起こしてしまった。あれが一番最悪だった。けれど奇跡的に彼女にまだ、暗示が残っていたおかげで、今こうして、自分の部屋に生還出来ている。

 そこまで並べ立てて反省すると、自分でも情けない限りだ。ベッドに腰を下ろしてうなだれる。

 しかし、少しの間、考えているうちに、違った思いも湧いてくる。ビールの缶を開けながら、マサキは自分の蛮勇をいくらかは褒めてやりたい気分にもなってくる。もしかしたら、もっと時間をかけて、万全の計画を練って、全てのリスクを避けられる状況を待ったとしても、今日のような結果は、得ることが出来なかったかもしれない。多くの幸運に助けられたことには、しっかり感謝して、反省すべき点はきちんと次に生かすよう反省しつつも、彼は、今日の自分の、博打のようなチャレンジを、褒めてやりたい気分だった。こうしたガムシャラで、無鉄砲な攻めより方で、現に今日、マサキは憧れの美人アナのオッパイに触れ、キスをすることまで出来てしまったのだから。

 思い出すと、ズボンの中で、マサキのモノが痛いくらいに昂って起立する。ビールを飲みながら、マサキはその晩、仕事のことを一旦全て忘れる勢いで、3回、4回と、セルフサービスに没頭した。ティッシュに何回も熱い精を噴き出すと、最後は芳乃香さんの名前をまだ何度も口にしながら、ベッドで大の字になって、満足の眠りについた。

。。。

 翌朝、目が覚めたマサキは昨日の夜の唇と手の感触を思い返してニヤつきながら、部屋のカーテンを開ける。ロケ番組の制作スタッフをしていると、朝起きて最初に気にするのは、その日の天気のことだ。眠気覚ましに、窓から差す陽の光を浴びながら、その日のスケジュールを考えるのが、癖のようになっていた。

 そして20分後、マサキは自分の詰めの甘さを、死にたいほど悔いながら、上司の久米島プロデューサーの前で立っていた。被告席で起立させられている気分だ。目の前にいるのは検事より暴力的な存在だが。

「え…………………どういうこと? ……………自分で、足ツボ企画はバラさないで良くなりましたって、電話してきたよね? ……………それでなんで、整体師の先生に、もう一度撮影の予約を取り付けてないの? …………バラしたまま、自分の中だけでオーライにしてて、そのまま寝ちゃってたってこと? そんなことってある? …………今すぐ電話して、やっぱり撮影ありますって頼みこめよっ! ボケがっ」

 早朝のロビーで、キューさんのガラガラ声が響き渡る。酒で灼けてカラオケで枯れたその声は、恫喝するヤクザそのもののようだった。古い旅館を改装したように見えるビジネスホテルのロビーには、振り子型の古時計や、懐中時計といったアンティーク時計の小さなギャラリーがソファーの後ろに設置されている。そこから聞こえるカチカチカチカチという振り子時計の音は、まるでマサキの死刑執行に向けてカウントダウンされているような気分になる。

「すみません。昨日、キャンセルの電話は入れていたんですが、その後、結構遅くまで交渉に時間がかかってて、終わったあとは、先生にキャンセルを取り消すっていう電話を入れ忘れて、寝ちゃいました。ホントすみませんっ。さっき電話したら、整体の先生、郊外のゴルフコースから呼び出しがあって、ギックリ腰の急患さんを診てるそうです。今日の昼過ぎまでは、無理だと思います」

「…………今日、イチハチマルマルまでには東京戻らないと、若さんも次の仕事に入れないし、機材の返却時間も間に合わねぇだろっ。お前が足ツボ大丈夫って言うから、ラーメン屋のリサーチもしてねぇぞ。俺たち、あのまま、浮かれてスナックを梯子しちゃったんだからな。どうすんだっ。金もかかったぞ」

 怒ったキューさんは、スナックのレシートを投げつけてきた。そこまではマサキの責任範囲なのか、良くわからなかったが、とにかく平謝りで頭を下げるしかなかった。

「…………マッサージが無いなら、ドッキリ企画用に準備した、この白衣も使わないか…………」

 いきり立つ久米島Pのことを、あまり意に介していないのように、角刈りのカメラマン、ゴンさんは淡々と、東京から持ってきた、貸衣装の白衣を畳んでいた。

「昼すぎまでにあらかた撮影済ませないと、番組に穴開くぞっ。お前、自分で穴埋めに何か、企画を考えろよ」

 キューさんはマサキの頭を小突いて、もう2枚程、レシートをポケットから出すと、それで額をはたいてきた。………これも製作費の精算に含んでおいてくれというのが、本当は言いたいことなのだ。もういい加減、キューさんに怒鳴られたり小突かれたりするのには慣れきっているので、大したショックもない。それよりも、自分の失敗の大きさと、これから急遽考え出さなければならない、番組の企画の難しさに、マサキは顔を真っ青にさせていた。

 整体の先生に移動要の器具を搬入してもらう予定だった貸しスタジオは8時から15時まで押さえてあった。そこでどんな企画が出来る?

 小道具として考えられるものといったら、ここにある、マサキのサイズの白衣と、マサキの私物の…………ペンライト? 久米島プロデューサーはジッポーのライターを持っていて、音声のマルさんはこだわりの音叉を持ち歩いている。他には、若園さんが原稿読みの練習に持ち歩いている、砂時計くらいだろうか? ホテルに頼めば、ロビーの一角に展示されている、鎖のついたアンティーク懐中時計くらいは貸してもらえるかもしれない………。…………それらで一体、どんなテレビ番組の企画が、考えられるだろう?

 マサキは色んなパターンを考えたが、何度考え直しても、一つのアイディアにズルズルと辿り着いてしまっている。いや、それとも自分には、どうしてもやりたいことが、一つだけあって、そこに無理矢理、これまでに目にした小道具候補や、シチュエーションを嵌め込んでいるだけなのかもしれない。

 このアイディアが上手くいかなければ、キューさんにドヤされるだけでは済まないかもしれない。しかし、もし、この企画がうまく行ったなら、それは、彼の長年の夢が、叶う瞬間になるのではないだろうか。

「おはようございまーす」

 快活な顔で、番組の主役、若園芳乃香アナウンサーがエレベーターを出てくる。彼女はプロデューサーやベテランスタッフに挨拶をして、昨日の言動を手短に詫びたあと、下っ端ADであるマサキにも、笑顔で会釈をしてくれた。そしてその後、10秒ほどの間、何ごともないような顔をしたまま、右手で自分の鼻を摘まんでいた。その光景が、まるでマサキの途方もない決断の、背中を押してくれているように感じられた。

 新藤マサキは下を向き、両目を閉じて、両手を膝に置いてもう一度深呼吸。やっと決意を固める。確認する。今日、この場には、貸しスタジオと白衣とペンライト、ライターと音叉と砂時計と、懐中時計と、催眠術の心得がある男。そしてたった今も抜群の被暗示性の高さを証明してくれた、美人アナウンサーがいる。必要なものは全て揃っている。そう思うことにした。

「わかりました、キューさん。お願いです。僕に尺をください。温めていた企画があります」

 一度口にしたら、撮影現場では後には引けない。既にプロジェクトは動き出しているのだ。不安と期待が、新藤正樹の胸を痛いほど打ち鳴らしていた。

<第2話につづく>

6件のコメント

  1. また月曜の0時にPCの前で更新ボタンを連打する季節がやってまいりましたな。
    新シリーズ投稿ありがとうございます。

    第一話に相応しい催眠導入部分の丁寧さは健在。
    そして登場人物がキチンとキャラ付けをされているので、ただ美人アナを主人公が操る話では味わえないものがありますね。

    引き続き頑張ってください。

  2. うおおおお!
    いつもながら、丁寧で情緒溢れる話の導入と、しっかりとオリジナリティが確立されながらも非常に高い説得力のある催眠誘導。
    永慶さんの拘りが遺憾なく発揮され、魅力的な世界観が本当にしっかりと描写されていて感動いたします。

    しかし本当に、催眠状態まで落としておきながら性欲に負けていきなり芳乃香さんの胸を触り始めた時は読んでいて冷や冷やもんでした。
    案の定というかそのせいで覚醒しかけてしまった時には、何だか安心してしまいました(笑)
    そしてどのように話が展開するかと思いきや、まさかの催眠企画番組の撮影!
    攻め役が経験豊富な催眠術師なのと違って、マサキの詰めの甘さのこともあり、果たしてどこまでうまく行くのか先の展開の予想がつかなくてどきどきします。
    次回の展開も目が離せません。

  3. うわぁ、永慶さんが来てしまった。
    その前までにはなんとかはまを仕上げたかったのに・・・(っていうか前回からもう10ヶ月も経ってるんだから終わらせておけという話でぅけどw)

    そんなみゃふのダメなところは置いといて、読ませていただきましたでよ~。
    最近はアプリとか魔法とかスキルとかで即落ちなのばっか見てたので正統派な導入が見れて幸せでぅ。
    しかも、理知的なキャリアウーマンで意思もしっかりしてる相手がどろどろに溶かされているのはギャップが素晴らしいでぅね。
    しかし、マサキくん。アマチュアなだけあっていい感じにがっついてますね。そのせいで結構やばいミスしてるし。芳乃香さんの高い被暗示性や偶然に助けられてますが、そのうちやらかしてしまいそう。
    でも、やっぱりそういう感じの主人公のほうが好感もてますね。

    次回は催眠番組でぅか。個人的には人知れず支配していって欲しいところでぅが、永慶さんの好きそうな展開なので仕方ないでぅねw
    催眠番組自体は無難に済ませてプライベートでエロエロな方向でお願いしたいでぅw

    であ、次回も楽しみにしていますでよ~(←お前は早く続きを書け)

  4. 永慶さんお久しぶりです。新作、首を長くして待ってました!
    今回もオーソドックスかつ捻りもある充実した誘導シーンでたいへん感動しております。
    登場人物の描写を読むに今回のターゲットはヒロイン1人になりそうですが、
    マサキくんが調子に乗ってハーレムを作ろうとするのも見てみたいところですね。
    (しっかり芯のある女性が催眠に堕ちるシーンを個人的にたくさん見たいだけです(笑))
    次回のショー催眠もどのような展開になるのか楽しみにしています。

  5. >慶さん

    ありがとうございます。今回は全6話で考えていますので、
    8月いっぱい投稿することになるイメージです。
    1話目は人物紹介や諸々セットアップに文章費やしました。
    導入部としてお気に入り頂ければありがたいです。
    1月ばかり、お付き合い頂けますと幸いです。
    よろしくお願いします!

    >ティーカさん

    毎度感謝です。凄くオーソドックスな催眠術話に、
    自分なりに真正面から取り組んでみたいと思いました。
    ご指摘の通り、主人公が素人なので、最初は試行錯誤がありますが、
    催眠企画番組のお約束ごとをきちんと押さえていきたいと思います。
    忌憚のないご意見、お待ちしておりますです。

    >Iswkpさん

    お待たせしました。日本のメディアやTV業界の話が多く出てくるので、
    分かりにくい部分もあるかもしれません。何でも質問してください。
    今回は本格的な催眠術小説を6話構成で書いてみたいと思っていますので、
    翻訳で読んでいると、展開が鈍重に感じられるかもしれません。ごめんなさい。
    楽しんでもらえる部分があれば、とても嬉しいです。
    よろしくお願いします。

    >みゃふさん

    来てしまいました(笑)。夏休み・冬休みのイベント感覚で準備しております。
    正統派(を目指す)催眠術小説ということで、導入時や初期段階は
    ミスや想定外の事態がチョイチョイ起こると思っています。
    かける側、かけられる側の、心のせめぎ合いが欲しいので。。。
    ご指摘の通り、ショー催眠的な要素が大好きなので、2話目は表舞台、人前で進行しますが、
    3話目あたりは密室での秘め事になると思います。
    飽きずにお付き合い頂けましたら、嬉しいです。

    >きやさん

    ありがとうございます。お待たせしてすみませんです。
    前作「おるすばん」で後半割とアッサリとスーパー催眠に移ってしまったこともあり、
    今回は、ご指摘頂いたようなオーソドックスなお約束事から入って、
    どれだけ膨らませられるかということを、割とこだわって書いてみたいと思っております。
    が、どうなることやら(笑)。見届けて頂けるとありがたいです。
    よろしくお願いします。

    永慶

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