プリマ 第6話

<<フリーアナウンサーになった若園芳乃香の意外な再浮上がネットで話題沸騰>>

 かつて全国ネット局のホープで、夜のニュース番組のキャスターも務めた美人女子アナが、フリーになって地方ケーブル&ネット配信番組でキワドイお宝ショット連発、と言うと、一昔前なら、落ちぶれた元人気者が体を張って仕事をさせられる、惨めな話題と受け入れられたかもしれない。ところが若園芳乃香の『ふれあい人生ニューページ』(ヤマト・ワクワクチャンネル)のバズり方はどうも一味違うようだ。

 若園芳乃香(27)は京欧大学卒後にヤマトTVに就職した人気女子アナ。スポーツ番組のインタビューやお天気番組で人気を集めて、ヤマトTVの看板ニュース番組『ニュースAtoZ』でもキャスターを務めるなど、早くから注目を集めてきた。なんといっても、目を引くノーブルな美形と、抜群のプロポーション。特に服の上からも形の良さと柔らかさが想像出来るような見事な美乳は、多くのオジサンファンを獲得してきた。良家のお嬢様風のオットリとした喋り口からの、予想を裏切るような頭の回転の速さ、芯の強い自分の考え、トークの対応能力は、バラエティ番組からの呼び声も高かった。けれど彼女が選んだのは報道の道。アナウンス能力、インタビュー能力もメキメキと腕を上げていて、ヤマトTV・次代のエースアナと目する向きもあった。

 そんな彼女の意外なつまづきが、『ニュースAtoZ』の急遽降板だった。政府に批判的な放送内容や切れ味鋭いインタビューが自治省の上層部に嫌われたとか、番組の内容差替えについて会社と揉めた、または番組製作スタッフのトップと揉めたなど、色々と取り沙汰されたが、真相は闇の中だ。とにもかくにも、ニュース番組降板後、半年もたたずにヤマトTVを退社して、フリーになった若園芳乃香は、ラジオの音楽番組やネット配信番組で主役を務めるようになる。仕事の量は減っていなかったようだが、世間への露出は大きく落ちた。「都落ち」と見る人も多かっただろう。

 その若園芳乃香が、これまでのイメージを壊すかのように、地方ケーブル(&ネット配信)番組でお色気ショットを披露………。と言われると、まさに「零落した元スター・アナが、食い詰めて受けた、身を削る仕事」と思われても仕方がないかもしれない。ところがところが、この番組での彼女の様子が、とにかく「新しい彼女の魅力」につまっていると評判なのだ。

 発端は5月に放送された『催眠術企画』。これまでの番組の脈絡をぶった切るように、突然出てきたこの企画で、催眠術にかけられた若園アナは動物になりきったり、指揮者になったり、野球選手になってスライディングしたりと、大ハッスル。番組の所々で、普段の彼女が見せないような『サービスショット』に加えて、慌てたり泣き叫んだり、はしゃいだりと、今まで芳乃香ウォッチャーも見たことのないような素の表情を沢山見せる。

 翌週の『リベンジ企画』では催眠術に抵抗してみせると息巻いていた彼女が、またもやアッサリと催眠術で操られて、これまた大立ち回り。視聴者は笑ったりホッコリしたり、急に若園アナからの告白をうけてタジろいだりと、大盛り上がりだったようだ。番組の一部のキャプチャー画像がネットで出回って、さらに拡散されて話題を呼んだ。ネットニュースでご覧になった方もいるだろう。話題が仕事を呼んで、いまや若園芳乃香アナは再ブレイクを迎えつつあると言える。

<後編の記事に続く>

<後編記事>

 この企画の反響が凄かったからか、『若園芳乃香のふれあい人生ニューページ』は、放送時間を繰り上げて、30分から60分番組へと格上げされる。番組のAD(!)が催眠術師を務めた催眠術企画は、この番組の定番演出として、他のメイン企画の中の演出として、毎回組み込まれるようになる。それが番組で早くもお馴染みになった、『催眠ブースト』演出だ。

 地方の遊園地で絶叫マシーンやお化け屋敷にチャレンジする企画や、田舎の吊り橋から下を流れる川に飛び込むという地元の子供遊び参加企画、彼女が苦手とするカラオケ企画。そして最後に、彼女がもっとも嫌がるセクシー系の企画。こうしたものに彼女が番組の中で尻込みすると、プロデューサーの合図で、カメラの前にADが出てくる。彼が催眠術をかけると、30秒もたたないうちに若園アナの態度が豹変する。笑顔で絶叫マシーンに乗りこんだり、スキップしながらお化け屋敷に入ったり。吊り橋から番組名を叫んで宣伝しながらポーズを決めて飛び降りたり。セパレートのレオタードに身を包んで、スマイル全開でエアロビクスを披露までする。そして肝心のチャレンジ中に、催眠術が解けて、若園アナが絶叫したり、真っ赤になって恥ずかしがりながら逃走するというところまでがお約束となりつつあるようだ。

 彼女の再ブレークについて、女子アナウォッチャーを自称するライターの関川氏はこう分析している。

「催眠術という番組の演出が非常にうまくはまりましたよね。若園芳乃香さんと言えば、誰もが認める美人アナですが、その柔らかい喋り口で誤解されがちなものの、芯が強くて意識が高いところがありました。その彼女が催眠術にかかると、アッサリと番組側の無茶ぶりにも乗っかって、可愛らしい素顔を見せてくれる。すました美人というイメージがかなり砕けてきたことで、様々な年代の男女からの支持が集まりつつあります。それでいて、きわどめのショットやかなり攻めた企画の後にも、術が解けて正気の戻った彼女が恥ずかしがったり、うろたえたりするところを見せることで、彼女のお淑やかなイメージはそれほど傷ついていないんですね。ドッキリにも似た、面白い構造だと思います」

 彼女をキャスティングしたいという声が、朝の情報番組やバラエティ番組の企画会議でも上がっているという情報も聞こえてくる。元々そのルックスやアナウンス能力の高さは折り紙付きの彼女。一度ついた「堅そう、ごねそう」というネガティブイメージが払拭された後は、若園芳乃香の大躍進が待っているのかもしれない。>>

 スマホでネット記事を見ながら、一人でほくそ笑んだり、真顔になったり、布団でゴロゴロしている新藤マサキ。昨日の収録分がオンエアーされたら、こうした記事はもっと増えるだろうか? あるいは番組の暴走を危惧、批判する記事や書き込みが増えるのだろうか?

 この記事にあった通り、『催眠ブースト』演出は、メイン企画のクライマックスのあたりで満を持して始動するのが、お約束になりつつあった。昨日の収録中も、訪問先の地方都市にあるベリーダンス教室の先生と、芳乃香さんがベリーダンスを披露して結びになる予定だったが、彼女がいざ、本格的なベリーダンス衣装を手渡されてから、怖気づいてしまう。彼女が着替えの部屋に閉じこもってしまったなかで、運の悪いことに収録を終えなければならない時間が近づいてきた。そこでマサキは力技で、ドア越しに彼女に催眠術をかけた。

「芳乃香さんに『催眠ブースト』がかかりますよ。さっきまで練習したベリーダンスの曲が流れると、貴方はそこから飛び出してきて、思いっきり踊っちゃいます。曲が止まるまで、自分で止まることは出来ませんよ」

 そこまで伝えたところで着替え部屋のドア越しに、「ちょっと待って。まだ駄目っ」という彼女の声は聞こえていた。それでも、むずがっている芳乃香さんを無理矢理でも最後に一踊りさせて、番組を締めなければと焦っていたマサキは、音楽のキュー出しをしてしまった。

 アラビアンっぽい曲が流れ始めると、ドアを蹴り開けるような勢いで、芳乃香さんが飛び出てくる。マサキはそこで背筋に冷たい汗をかいた。若園芳乃香さんは、まだ衣装の胸当てをちゃんと結んでいなかったのだ。腰を振ってお腹を揺するうちに、すぐに胸当てがズレてきて、白くて美しい美乳が、完全にポロリしてしまった。講師の先生が固い笑顔で芳乃香さんとカメラの間に立って、彼女の体を隠してあげようとするが、オッパイ丸出しのまま、まだ芳乃香さんは踊り続ける。困った顔をしながらも、必死で腰をクネらせて、さっき教えてもらった振り付け通りに、曲の最後まで踊り切った。そのプロ根性に、先生も教室の生徒さんたちも感動して、拍手の渦になった。曲が終わった直後に、身を縮めてうずくまる、耳まで赤くなった芳乃香さん。それでも女性たちの拍手の嵐に、少しは報われた気持ちになっているようだった。小さな笑顔を浮かべて会釈。なんとなく、感動っぽい雰囲気で番組を締めることが出来た。残念ながら、オールカットになったくだりだ。

 マサキにとっては、つくづく反省の多い収録だった。マサキが暗示を塗り重ねることで、最近はかなり攻めた企画にも柔軟に、従順に取り組んでくれていたはずの芳乃香さんが、昨日はベリーダンスの衣装になることに、妙に拒否反応を示した。そのことが気になって、収録後の芳乃香さんにまた催眠術をかけて、正直に心の動きを説明してもらった。彼女いわく、午後のベリーダンス講習の前、お昼の食レポの際に、しっかりめに食べてしまったとのことだった。育ちの良い彼女はいつも、撮影に必要な分だけ食べて、あとを残すということが、出来ないのだ。いざ、着替え部屋でお腹を晒す衣装を手にして姿見の前に立った時、食べ過ぎてまだポッコリしているお腹が恥ずかしくなり、動けなくなった。遠い目をした芳乃香さんは、そう、全てを包み隠さずに話してくれた。

 マサキは思い出すと、枕に顔を突っ込んで呻く。マサキの催眠術の師匠、アキミチさんは、指導してくれた短い期間のうちで、しっかりと注意してくれていた。『かけられる側が操られることに慣れるのは良いけれど、かける側は操ることに慣れてしまってはいけない』と、はっきり言われていたのだ。催眠術は魔法ではない。術師が他人を思うがままに操ることに慣れきって、ぞんざいなかけ方をするようになると、どこかで手痛い失敗を引き起こす。マサキより年下の師匠、アキミチさんが、そこだけは真剣な表情で伝えてくれていたのに、マサキは明らかに、その失敗パターンにはまりかけていたのだと思う。先日、マサキが催眠状態に落とした芳乃香さんをキューさんに『乗っ取られかけた』のも、そうした慢心が一因にあったのかもしれない。

 師匠から警告は受けていた。催眠術が上手くいきすぎている時の気をつけ方について。しかしそれは、まだ催眠術を実際に使いこなせてもいない時点では、マサキの記憶の片隅に押しやられていたのだった。

 女性の心は複雑で、ビキニタイプのレオタードでエアロビクスを嬉々として披露するところまで操れるほどになっていても、「お腹がポッコリしているので見られたくない」と思い始めると、急に暗示のかかりが悪くなったりする。そうした繊細な心の動きに無神経になっていた。あろうことか、ドア越しに強引な暗示を刷り込んだ。その結果、暗示は効きはしたものの、マサキたちの番組の大切な主役、有名人の若園アナウンサーが、人前でオッパイ丸出しで踊り狂う羽目になってしまった。撮影スタッフ以外にその場にいたのが全て女性のパフォーマーたちだったので、何とか『プロ意識』の一点で押し切れた。もしかしたら、あと一歩で大きな騒動やトラブルになっていたかもしれない。芳乃香さんに深いトラウマを与えてしまっていたかもしれない。今は、色んな事が上手く回り始めている大事な時期だ。こんな時ほど、気を引き締めて、丁寧に暗示を重ねていってあげるべきだ。そう自分に言い聞かせる。

 結局、昨日はロケバスで東京に帰る間、恥ずかしさにふてくされていた芳乃香さんに催眠術をかけて、ずっとマサキの人差し指を舐めさせてあげる羽目になった。永福入口の看板が見える頃まで、ずっと横の席で指をしゃぶられる。芳乃香さんはチューチューとマサキの指先を吸いながら、『自分のクリトリスを吸っている』という認識と感覚を楽しんでいた。こうしている時、彼女はいつも、赤ちゃんのように屈託のない寝顔を見せる。ロケバスから降りる頃には、マサキの指先はすっかりふやけて、皮膚がブヨブヨになってしまっていた。

 自分が今、催眠術で芳乃香さんを自由に出来ている。そう思ってしまったことで、気の緩みが出来ていないか、マサキは最近の収録風景を思い起こしてみる。………思い当たることだらけだった。

 例えば、昨日の芳乃香さんはベリーダンスの衣装を受け取って、着替え部屋に入った。でもそれは周りにベリーの講師先生や生徒さんたちが沢山いたからだ。最近の芳乃香さんは、周りに撮影スタッフしかいない時は、着替えを渡されると、その場で着替えるようになっている。『その方が、時間の節約にもなってプロフェッショナルの矜持を感じる』と、思い込んでいる。手渡されたものがレオタードや水着だった場合も、彼女は当然といった表情で、その場で着替えを始める。キューさんやマルさん、ゴンさんが機材の調整、撮影の流れの確認をしているその場で、服も下着も全て脱いで、全裸を晒すことも意に介さない。それこそがプロのレポーター、とマサキが悪戯気分で刷り込んでから、芳乃香さんの『当たり前』になっているからだ。

 彼女が違和感を感じていない理由は、他にもあるかもしれない。芳乃香さんをサポートしてくれる、メイクの果代ちゃんやチーフマネージャーの柊さんも、芳乃香さんが着替える時は、一度一緒に裸になる。別に彼女たちは何に着替える必要もない。ただ、演者である芳乃香さんが恥ずかしい思いをしないように、自分たちも一度今来ている服を脱いで、また着直す。それが彼女たちにとって、芳乃香に気を遣わせないための『当たり前』なのだ。

 着替えの前に、ADのマサキが、主演の若園アナウンサーの控室を訪れて、当日の流れを説明する時間がある。マサキが部屋に入って、1週間ぶりに2人きりになると、芳乃香さんは目に見えてソワソワし始める。彼女の深層意識が、1週間貯めこんだストレスの発散先を求めて、『元、一心同体の相手』と体の繋がりを求め始めるからだ。マサキも1週間ぶりに会う、憧れの超美人アナと同じ空間を共有していると、我慢できないくらいムズムズしてくる。今日の収録の流れ説明などは、正直に言うと、やっつけ仕事になっていた。

『芳乃香の究極のリラクゼーション状態』と一言告げると、彼女はユラユラと立ち尽くすだけの、マサキの玩具に変身する。この場合は性具だ。「脱ぎなさい」と一言伝えると、服も下着も簡単に絨毯に落ちていく。1週間ぶりに見る、完璧に近いプロポーションと白い肌、清らかで無防備な裸。マサキが机に両手をついてお尻を突き出すようにと命じると、テキパキと両足を開いて、背を反らし、お尻を突き上げて、マサキの挿入を待つ。かつて彼女が人に見せることに極端な抵抗を見せたヴァギナも、時々マサキの人差し指の先っぽに移動してくる彼女のクリトリスも、そして僅かに黒ずんだ彼女の恥ずかしいお尻の穴までも、全てマサキの前に曝け出す。既に膣口は二チャッと開いて、ヌラヌラ濡れてマサキの挿入を待っている。

 彼女の腰骨を横から掴んで、ズボンを下ろした腰を近づけると、やや強引にマサキのモノを突っ込む。

「……………ア……………」

 芳乃香さんがペニスを突っ込まれた瞬間に、空気が押し出されるように、無機質に、声を出す。マサキはそのまま、勢いよく、腰を引いたり押し出したりを繰り返す。

「……エ…………イ………ウ………エッ………オッ………アッ………オッ」

 マサキがモノを押しこむたびに、空気が押し出されるようにして、芳乃香さんが喉から音を出す。これは発声練習だ。かつては番組の収録開始前、若園芳乃香さんが緊張と、舌と顔の筋肉をほぐすために行っていたルーティーンだった。今は、それをセックスと同時に行わせている。マサキにとっては、まさにアナウンサーを収録時間前に犯しているという実感を得るための、セレモニーのようになっている。

「カッ………ケッ…………キッ………、クッ…………ケッ……コッ・カッ……コ……。サッ、セッ、シッ、スッ。セッ、ソッ、サッ、ソッ」

 いつも、ラ行あたりまで辿り着く前に、マサキか芳乃香がイッてしまう。マサキが先にイッた時には芳乃香も同時に昇天すると刷り込んでいるので、実際にオルガスムに達するのは、芳乃香一人の場合とマサキと芳乃香同時という場合の、2パターン。2種類に分かれることになる。

 マサキとしては、若干気だるい気分で収録に入ることになる。それでも芳乃香の撮影中の笑顔はそうしない場合よりも柔らかくなる。この効果があるので、収録前のセックスは半ば常態化していた。

 最近では一度、芳乃香の前の仕事が押したせいで、彼女の到着後、すぐに収録となったことがある。グランピングの回だった。その回の撮影が、進行していて妙に獲れ高が少ない雰囲気となる。カメラマンのゴンさんや、プロデューサーのキューさんが、微妙に首を傾げているのだ。最近増えていた、芳乃香さんの、体の芯から蕩けるような、極上の笑顔が、その回に限って少なかった。結局、小休憩を入れて、マサキに何とかしてもらおうという流れになった。

 ADのマサキは一つ溜息をついて、考える。結局、芳乃香さんには「自分の手で」するのでも良いので、収録再開前にオルガスムに達してもらおうということになった。

「芳乃香さん、よく見てください。あそこの木から隣の木までの間、そこに立方体の箱みたいな部屋が見えますよね? あれは完全に密封型、防音処理のされた控室です。芳乃香さんはあの部屋に入ったらすぐに、服を全部脱いで、自分のアソコを自分の指で弄り始めます。あの部屋は実は、絶好のオナニー部屋なんです。今日はずっと欲求不満な感じですよね? それが、すっきり解消出来て、素の自分で仕事に向き合えるようになる。そのための、絶好の発散場所ですよ。…………せっかくですから、チーフマネージャーにも、隣部屋に入ってもらいましょうか?」

 前の収録から付き添っていた柊歩美さんにとっては、とんだとばっちりだが、彼女も催眠状態に入ってもらう。2人を、実際には何もない、原っぱに連れて行く。キューさんたち、撮影スタッフの目も届かない距離だ。マサキ本人が重そうな素振りで、そこに存在しない控え室のドアを開ける仕草をしてみせた。芳乃香が『部屋』に入る。歩美も『隣部屋』に入った。

「さー、お2人さん。お好きなことをしてもらっていて良いですので、15分以内に、気持ちを整えて、すーっきりとした気持ちで撮影に臨みましょうね」

 その声色には、確実に性的なトーンをこめてみた。催眠状態にあっても、いや、あるからこそ、女性陣はそれを敏感に感じ取る。マサキが『防音・密封型控室』に押しこんだ2人だが、しばらくの間は、『部屋の壁』に頭を近づけて、聞き耳を立てたりして様子を見ている。頭の良い柊さんは盗撮カメラや盗聴マイクがないか、何もない空間をキョロキョロと探したりする仕草を見せた。柊さんはとても警戒心が強くて、キャンプ場に突然現れた箱型の厳重な控室に対して、少し不信感を抱いたようだった。それでも、マサキの暗示を破るまでには至らない。やがて2人とも、ソロソロと服を脱いでいくと、『一人っきりの部屋の中』で裸になった。屋外で2人を全裸にさせるのは、久しぶりのことだった。

「芳乃香さんと歩美さん。貴方はスッキリとした気持ちで収録に臨むために、休み時間中にオナニーでエクスタシーに達しなければなりません。休憩時間はもうあまり残っていませんよ。頑張って一人Hに集中しましょう」

 マサキに言われて、芳乃香さんが少し恥ずかしそうに口元をモゾモゾさせながら、左手でオッパイを、右手でアソコを弄り始める。すぐにくぐもった息を漏らしながら、悶え始める。歩美さんはまだ周りをキョロキョロと見まわしていたが、自分を納得させるように一息吐くと、両足を肩幅に開いて、両手でアソコを弄り始める。2人とも同じくらいのタイミングで、アソコがクチュクチュと音を立て始めた。全裸の美女が2人並んで、野外でオナニーに没頭する。見ているマサキの胸には開放的で微笑ましい気持ちと、背徳的でやましい快感とが入り混じる。

「もう間もなく、休憩時間が終わってしまいます。早くイかないと………。頑張ってください。この部屋は完全防音ですから、何も気にせずにオナニーをもっと激しくしましょう」

 マサキが言うと、2人の喘ぎ声がどんどん大きくなっていく。芳乃香さんも、まるでいつものお淑やかな立ち振る舞いが嘘のように、指を奥まで突っ込んで、激しく悶え狂う。隣の歩美さんは両足を開いたまま中腰になって、膝に力を入れながら両手の動きを加速させる。愛液が飛沫になって地面に降り注ぐ。2人は身を捩ってオナニーに没頭していた。背を反らして歓喜の声を上げる芳乃香さん。俯き加減の姿勢を保って、アスリートのように激しく指を出し入れしている歩美さん。二人の喘ぎ声が、ある時はユニゾンのように、ある時はハモるように、お互いを高めあうようにして絶頂へと近づいていく。ほぼ同時にエクスタシーに達した芳乃香さんと歩美さんの歓喜の叫び声は、近くの木から鳥が飛び立って逃げるほど、大きなものになっていた。平日のグランピング場で、周囲に誰もいなかったのが、幸いだった。

 こうして振り返って、最近のマサキの彼女たちの操り方を思い起こすと、「気の緩み」と「慢心からくるエスカレート」ばかりだった。大事に至らなくて本当に良かったと、改めて背筋が寒くなる。きっと昨日の「ベリーダンス・ポロリ事件」は、マサキが気を引き締める契機とすべき、大事な予兆だったのだ。マサキは布団の上で寝がえりをうって、天井を見つめる。今、『芳乃香のふれあい人生ニューページ』は視聴率も配信数も上がって、ネットで言及されたり拡散されることもグッと増え、注目度が上がっている。この大切な時期に、妙な騒動やスキャンダルを起こすべきではない。撮影中や収録前後は慎重に、警戒心を解かずに、芳乃香さんの繊細な心の動き観察しながら、あくまでも求められている範囲の過激さで催眠術演出を進めて行こう。

 その分、欲求不満が溜まったら、撮影後の打ち上げや、休み時間、人目につかない場所で発散すれば良い。

。。。

 そんな訳でこの日は、収録後、打ち上げが始まる前の1時間で、ゆっくりと旅館の個室で疲れを癒させてもらうことにした。

 今日の田舎町訪問企画は、比較的おとなしめの演出にとどめた。芳乃香さんは『大きな木を見ると、わんぱく少女ゴコロが止められなくなって、木登りにチャレンジする』という暗示にかかって、収録途中で何回か、木登りを始めた。下から撮ったゴンさんのカメラにはスカートの裾から見える彼女の白い太腿の後ろ側や、パンチラが何度か収められているはずだ。太い枝に跨って、両手で口元にメガホンを作って、ヤッホーと叫ぶ彼女の爽快そうな表情は、真面目な視聴者を優しい気持ちにさせるはずだ。木から降りてきた彼女が、プロデューサーから何をしているのかと質問されて、前髪を弄りながら恥ずかしそうに弁明した。あるいは、自分で木登りを始めておいて、正気に戻ると、怖くて降りられないと、泣きべそをかいては、スタッフに降りるのを手伝ってもらった。その姿は、芳乃香ファンたちをキュンとさせるだろう。

 何より、収録前にマサキが芳乃香さんの体を求めなかったことで、撮影の事前予習がみっちり出来て、進行がとてもスムーズにいった。予定時刻よりも早く撮影を完了出来たのも、そのおかげだろう。キューさんたちが撮り終えた映像を確認している間、マサキと芳乃香さん、歩美さんと果代ちゃんは、先に旅館にチェックイン出来たという訳だ。

 そして今、座敷の布団の上で大の字になって仰向けに寝ているマサキの上を、3人の全裸女性がプロペラのように回転してマサキの股間を口で愛撫している。マサキはとっても満足してリラックス出来ている。彼女たちもきっとそうだ。そうなるように、暗示を刷り込んでいるのだから。

 今、芳乃香さんと歩美さん、果代ちゃんは、裸で四つん這いになって、マサキの股間に顔を埋めている。一人がマサキのモノを、残りの二人がタマを口に含んで、奉仕しているのだ。3人が同じ向きでモノとタマをそれぞれしゃぶろうとすると、お互いの頭が邪魔になる。だから向きを変えてもらうことにした、という訳だ。マサキのモノをしゃぶっている人はマサキの顔にお尻を向けるように跨って、ペニスを咥える。タマをしゃぶる人は、マサキの左右の足に跨るように、オッパイで太腿を撫で上げるように擦りつけながら、左右のタマを舌の上で転がしている。三人が約3分ごとに時計回りに位置を交代して、順番にタマ、ペニス、タマをしゃぶっていく。その様は、まるでマサキの股間を軸に回転する、3枚のプロペラの羽のようだった。

 この体勢でしゃぶられていると、マサキのペニスを咥えるお姉さんはペニスの上側に舌を這わせることになる。裏筋が舐められないので、マサキは簡単にイキそうにはならないが、そのぶん余裕を持って、3人の懸命な奉仕の光景を楽しむことが出来た。両足をバックリと開けて、マサキにお尻を剥き出しにしている歩美さんがフェラをして頭を上下するたびに、スレンダーな足の間、揺れる下乳から見え隠れするのは、果代ちゃんと芳乃香さんとが頬っぺたをくっつけ合いながら、マサキのタマを口に含んでご奉仕する姿。時間がたつと、3人がパートを交代して、芳乃香さんがマサキの体に逆向きに跨って、おチンチンを咥えこむ。膝立ちの彼女に挟み込まれるように仰向けに寝ながら、彼女のパックリ開かれたヴァギナからお尻の穴まで、指でなぞるように触れる。マサキの指の感触に反応するように、膣とお尻の穴がヒクヒクッと動いて、ヴァギナが潤っていく。同時にマサキのモノを吸い上げる力が強くなった。あけすけな雌の反応。マサキが『半覚醒』状態に導くだけで、若園芳乃香は周りに同性の同僚がいても、もはやそれを隠さなくなっていた。

 果代ちゃんがマサキのモノを咥えこむ番になると、彼女の大きなオッパイに隠れて、ほとんど芳乃香さんと歩美さんの顔は見えなくなる。それでも果代ちゃんが若さに任せて体を弾ませるようにフェラをすると、ユッサユッサと揺れる胸の隙間から、一瞬だけ、アナウンサーと元アナウンサーの美女二人が、頬を寄せ合ってマサキのタマを舐めているのが見える。その瞬間に見える景色が、とても貴重で、得した気分になる。かつての知性派美人アナと、今また再ブレイクを果たそうとしている可愛らしいフリーアナ。彼女たちは、視聴者に大切なニュースを届けるために、身綺麗にして自分磨きを怠らず、スポットライトを浴びて来た。そして今、自分の道、自分のキャリアを邁進すべく、さらに努力を続けてけている、働く女性2人。その彼女たちが隣り合って、マサキの左右のタマをしゃぶっている。玉袋を吸ったり、舌先でタマをつついて刺激したり、あるいは舌の上で円を描くようにタマを転がしたりしながら、マサキの反応を確かめて、少しでも彼を気持ち良くするために工夫を続けている。そんな彼女たちの健気な顔が、果代ちゃんの巨乳の間から、マサキの陰毛の間から見え隠れする。それはとても眩しい光景だった。

 番組の企画を過激になり過ぎないようにする、というアイディアには、キューさんも賛成だった。放送時間が繰り上がって、配信数も増えている今、攻めすぎた企画で芳乃香さんに体を張らせていると、早々に問題が起きる。そんな危惧は、キューさんも持っていたようだ。そこで芳乃香さんの「ニューページ」はしばらくの間、木登りやらカラオケやら、モノマネやら、微笑ましい暗示が増える。あからさまにセクシーめの演出が入ったのは、蕎麦打ち体験の回くらいだろうか? 何故か蕎麦打ちに対して意欲が上がりすぎた芳乃香さんが、白い水着の上にエプロンをかけて蕎麦粉を練ったり打ち付けたりした。そのたびに、美乳が揺れる。胸の谷間が強調される。バックショットでは力が入るたびに丸いお尻が突き出される。穏当な企画に物足りなさを感じていた新規ファンは、そこで少しは留飲を下げたようだ。

。。

 しばらくの間、番組の催眠術企画は、メイン企画の『ブースト』に留めるようにする。そのやり方も、視聴者の目、周囲の目を気にしながら、穏当なものに抑える。その間、マサキが思いつく、様々な操り方は、収録現場以外の場所、他のスタッフさんたちの目にも付きにくい場所へと、限定して発揮することを意識した。

 例えば控室。撮影後にキューさんたちが映像確認に没頭している間に、マサキがメイクを落としている芳乃香さんの部屋に挨拶に行く。御礼を言うマサキに、芳乃香さんが優雅に微笑んで会釈する。以前よりもずいぶん、親密な笑顔をマサキに向けてくれるようになったものだ。

「あの、マサキさんも良かったら、芳乃香さんと一緒に、洗顔しときます? さっきドーラン塗ったから、きちんと落としておかないと、肌荒れますよ」

 芳乃香さんのメイク落としを手伝っていた果代ちゃんが、マサキに優しい声をかけてくれる。番組にチラホラ出演するようになってから、果代ちゃんはマサキの見映えにも気を遣ってくれる。普段の態度はぶっきらぼうだが、とても心の優しいメイクさんだ。

「いやいやいや、僕なんか………。果代ちゃんは芳乃香さんのケアに専念してよ。僕は洗面所で顔洗うだけだから」

 マサキが言うと、果代ちゃんも芳乃香さんもいきりたつ。

「洗顔はもっと、気をつけないと駄目ですっ。マサキさん、ここ座って」

「そうですよっ。乱暴にお顔をゴシゴシ洗っちゃうと、落とさないでいい脂分も落ちちゃったり、肌を傷つけたりして、かえって乾燥したり、荒れたりしますからっ」

 果代ちゃんも、芳乃香さんも、美容に関しては真剣そのものだ。思わぬ剣幕に、マサキは言われるがままに、芳乃香さんの隣の椅子、化粧台の前に座ることになってしまった。

「…………じゃ………。失礼しますね」

 果代ちゃんは両手を体の前で交差させるように黒いTシャツの裾を掴むと、ガバッと豪快にシャツを捲り上げる。紺のブラジャーに包まれた、立派なバストがマサキを圧倒する。マサキはそこで思い出す。『マサキと2人っきりの時、あるいは他に芳乃香さんや歩美さんしかいない時には、果代ちゃんはマサキにオッパイで奉仕してあげたい。それが当たり前のことだと思う』という暗示を、先日彼女の意識に刷り込ませてもらっていたのだ。

「ほら………こうやって、きめの細かい泡の立つ洗顔ソープを使って、スポンジとか、スポンジ並みに柔らかいもので………、そーっとお肌を包み込んであげるんです。ゴシゴシ擦るんじゃなくて、揉み洗うみたいに…………わかります?」

 紺色のブラジャーも外すと、ブルンと威勢よく飛び出る、果代ちゃんの巨乳。そこに洗顔フォームの泡を乗せた果代ちゃんが、マサキの頭を抱きかかえるようにして、オッパイを顔に押しつけてくる。その柔らかさは、確かに顔の皮膚を絶対に傷つけなさそうな、若くてプニプニした感触だった。

 メイクさんの堂々とした仕事ぶりを横で見つめる芳乃香さんも、嬉しそうに微笑んでいる。若い仕事仲間たちと、こうして仕事終わりにお互いを労い合いながら帰り支度を出来るのは、とても嬉しいことだと思っているようだ。

 マサキの鼻どころか、顔の半分くらいを左右のオッパイに挟み込むようにして、それを左右の手で横からさらに捏ねるように「洗顔」してくれる果代ちゃん。マサキは気持ちが良すぎて、そのまま眠りに落ちそうになっていた。小鼻の脇や唇回り、瞼の周辺など、皮膚が重なったり凹凸が出来る部分には、器用に自分の乳首を滑りこませるようにして、汚れを優しくこそぎ落としてくれる果代ちゃん。仕事が乗ってくると、鼻歌まじりに、上機嫌にオッパイ洗いをしてくれる。マサキはこの子の気風の良さと、カラッと優しい性格に、文字通り首ったけになっている。

「うふふ………。マサキ君、気持ち良さそう………。理容室みたいね。痒い所あったら、言ってくださいね~って」

 隣で見守っている芳乃香さんが、からかってくる。マサキはふと思いついたことがあって、果代ちゃんの耳元で囁いてみる。

「……………………あ、………『痒いところ』っていうので、思い出した。…………芳乃香さん。暑い季節は、女性は胸元にも汗が溜まったりするから、汗疹の予防が必要です。芳乃香さんも上脱いで、ブラ外してくださいっ。マサキさんの顔と一緒に、芳乃香さんのオッパイも綺麗にしますよ」

 果代ちゃんが当たり前のように、やり残した仕事を『思い出す』と、有無を言わさぬ勢いで、芳乃香さんの服に手をかける。

「…………えっ、そんな…………私は、いいよっ。………やっ………」

 芳乃香さんは仰け反って抵抗しようとする。そこに、顔の大部分を泡で覆われたマサキが起き上がって、視線で制する。最近では、目を合せて、ゆっくりと頷いて見せるだけでも、芳乃香さんの意識は、彼女が理解するマサキの指示する方向に曲がっていく。

「…………お…………、お願い…します」

 頷いたマサキの動きを追うように、ゆっくりと首を縦に振ってしまった芳乃香さんが、抵抗を諦める。果代ちゃんがテキパキと芳乃香さんの上着から両腕を抜き取って、上品で高級そうなブラジャーを脱がしていく。最初は腕で胸元を隠そうとした芳乃香さんだったが、年下のメイクさんに両腕をピンっと椅子の左右に伸ばさせられて、大人しくなる。

 果代ちゃんの若くて張りのある巨乳と、芳乃香さんの柔らかくて白い美乳とが押しつけ合ったり、こすれ合ったりして、形を変える。オッパイ同士が離れると、その間を白い泡が伸びる。見ていて、幸せしかない光景だった。恥ずかしそうにしながら、時々、気持ち良さそうにビクッと震える芳乃香さん。鼻歌まじりで気分よく仕事をこなす果代ちゃん。そして果代ちゃんは時々、マサキの顔もそのオッパイで洗ってくれる。間接的に芳乃香さんのオッパイにも包まれていると思うと、とても温かい気持ちになれた。

。。

 企画会議に参画する。それは演者ではあるが番組作りに対して主体的に取り組みたい芳乃香さんが、ずっと願ってきたことだった。今回それが叶うと聞いて、芳乃香さんはとても嬉しそうだった。呼び出された場所は、チーフマネージャーである、柊歩美さんのマンション。防音設備も整った、豪華で広い、タワーマンションだった。そこに集まったのは、芳乃香さん、柊歩美さん、そしてなぜかメイクの果代ちゃんと、ADの新藤マサキだけ。会議室での本格的な企画会議を期待していた芳乃香さんは、キョトンと首を傾げていた。

「あの………、久米島プロデューサーも来られないんですか? ………私、てっきり番組のメイン企画の相談を、制作の方々とするのだとばかり…………」

「番組のワンコーナーとして、ゲームを取り入れたいというアイディアがありまして、どんなゲームが画的に映えるか、身内で試してみようというのが、今日の趣旨です。これだって立派な、企画会議ですよ」

「は…………はぁ………」

「あの、その会議に、私たちって、必要ですか?」

 まだキツネに摘ままれたかのように、キョトンとしていた歩美さん、芳乃香さん、果代ちゃん。しかしその3人はマサキの目をしっかり見て話を聞いているうちに、いつの間にか彼の話にすっかり納得していた。さっきまでの疑問は全て、氷が溶けて流れ落ちるようにして、消えて無くなる。全員で、ゲームを試してみたい気持ちでウズウズする。マサキが手の甲を上にして差し出した時には、3人とも、何の指示も無くても腕を伸ばして、全員で一つのバレーボールチームの仲間にでもなったかのように、掛け声を合せていた。

「ダルマさんが転んだ。………………ダ……………ル………………………マ…………さ………………んが、転んだっ!」

 大きなリビングの角にある、立派な観葉植物に寄りかかって、マサキが時々、体を反転して振り返る。部屋の隅から、3人の美女がマサキの背中へ向けて、ソロソロと近づいてくる。そしてマサキが振り返った時は、ピタリと動きを止める。大のオトナが4人揃って、真剣に子供の遊びに興じているのは、不思議な光景だ。けれど、いざ真面目にやってみると、なかなかに白熱する。参加しているお姉さんたちが全員、『ルールを守って、ゲームを楽しみたい』という思いに憑りつかれているからだ。そんな女性陣との距離が詰まってくると、マサキは彼女たちの静止を難しくするために、悪戯を仕掛ける。スカートを捲ってみたり、パーカーを捲り上げたり、開襟シャツのボタンを一つずつ外していって上半身裸にさせたりと、彼女たちが『動いてはいけない』のを良いことに、好き放題やってみせる。

『ゲームに勝つことが最優先』だと思いこんでいる、綺麗なお姉さんたちは、プルプル震えながらも懸命にそのままのポーズで硬直しようとしている。それでも、マサキにブラを脱がされてオッパイをツンツンと突かれたり、ショーツを脱がされて、大切な部分にチューリップの造花を差しこまれたりしたところで、ついに我慢が出来なくなってしゃがみこむ。マサキの背中を引っぱたいたりする。動いてはいけない時に、体を動かしてしまったのをマサキに見られた人から、スタート地点に戻って、懲りずに再チャレンジ。15分も続けているうちに、歩美さんも芳乃香さんも果代ちゃんも、完全に全裸にされていた。

『今まで体験したことがないほど楽しいゲームなので、自分がどうなっても、受け入れて、皆で盛り上がる』という暗示が刷り込まれた彼女たちは、裸にされても、まだゲームを続けようとする。最後に果代ちゃんがマサキの背中まで辿り着くことが出来た時には、自分の姿も気にせずに胸を揺らして飛び跳ねる果代ちゃん、両手を床についてうなだれる芳乃香さん。負けず嫌いな性格を露わにして床を転がって悔しがる歩美さんと、リビングルームは騒然としていた。

 またもや再チャレンジ。今度も早々に服を脱がされた3人。動けなくなった状態の彼女たちに、マサキが差し出したのは、まさかのオトナの玩具だった。「うそでしょ~っ!」と、目で訴えかけてくる美女たち。マサキはその視線から目を逸らしながら、不穏な振動音を立てるバイブレーターやローターを、裸の彼女たちの、敏感な部分に押しつける。早々にギブアップして崩れ落ちる芳乃香さん。エッチな刺激に耐えていた果代ちゃんは、そのままバイブを自分の手で持たされて、アソコに押しつけさせられる。その姿にカメラを向けられた時点で、辛抱の限界が来て、バイブを投げ出し、カメラの前から逃げていく。我慢強い歩美さんは最後まで堪えていたのだが、バイブを持たされ、アソコに押しつけさせられて、さらにもう片方の手で『Vサイン』をさせられた姿を写真に撮られたあたりで、恥ずかしさがキャパオーバーして、失神しそうになる。テクニカルノックアウトで3者ともリングアウトという裁定を下されてしまった。

「次に試すゲームのために、3人とも口紅をつけてください」

 マサキが言うと、身だしなみを整える間もなく、芳乃香さんと歩美さん、果代ちゃんはマサキからリップスティックを手渡される。マサキが事前に果代ちゃんから借りておいた、3色のリップだ。芳乃香さんは可愛らしいピンク、歩美さんはオトナっぽく濃いめの赤。そして果代ちゃんにはお洒落なオレンジのリップ。3人とも、白いバスタオルだけをやっと裸の体に巻き付けた姿で、言われるがままに、口紅を塗る。それぞれ、部屋の鏡のある場所を見つけ出して、塗った後の自分の唇を確かめているところが、女性らしい。

「5分の間に、自分の体以外の誰かの体に、いくつキスマークを残せるか、数を競い合います。よーい、ドン」

 マサキが合図をした途端、とにかくゲームに熱中するという暗示を刷り込まれている3人は、お互いの体に飛びついて、無我夢中でキスを始める。最初は争ってキスの連打を押しつけあっているが、途中から誰からともなく、技術的な進歩を見せ始める。自分の体にはキスされないように、相手を避けたり、抑えたりしながら、チャンスを狙ってすかさず相手にキスをする。相手の体のバランスを崩したり、力で抑えつけたり、あるいはフェイントを入れたりしながら、器用にキスをお見舞いしていく。いつの間にか、両手で相手と間合いを取ったり、踵を浮かせて機敏なステップを踏んだりと、スタイルが確立されていく。すでにバスタオルは剥ぎ取られて床に散らばっているが、ファイターたちは全く気に掛ける様子もない。きっと世界の格闘技や武道も、こうして進化を遂げてきたのだろう。マサキは可笑しくて仕方がない。3人の美女は真剣そのものだが、唇だけは尖らせて、いつでもキスが出来る体勢を整えながら、相手の様子を伺っているのだ。その膠着状態を、一気に崩してみようか………。

「あ、言い忘れてたけれど、僕の体に付けられたキスマークもカウントします。ポイントは3倍」

 そう言った直後に、マサキは3人の全裸の美女に部屋中を追い回されることになる。しばらくは、笑いながら逃げていたが、果代ちゃんの、意外と低いタックルを食らってうつ伏せに倒される。そのまま、起き上がれないくらい3人に圧し掛かられて、体中にキスの応酬を受けた。下半身は果代ちゃんが集中的に、そして上半身は夢中になっている芳乃香さんの唇にそこら中を吸われる。その隙間を狙って、歩美さんが頑張ってキスしてくるのだが、果代ちゃんは器用に背中で歩美さんをブロックしてもいるようだ。残念そうな歩美さんは、仕方なく果代ちゃんのお尻にキスをする。ポイントは3分の1でも、競争が少ない場所があるなら、そこで数を稼ぐという発想のようだ。いつもながらこの人は、発想が経営者っぽい。

「競争相手のキスマークを、舐めて消しちゃうという戦い方も有り」という答えを導き出したのは、芳乃香さんだった。発想が柔軟だし、意外と負けず嫌いなタイプのようだ。芳乃香さんの戦法を見た果代ちゃんも、歩美さんも、戦い方を少し変える。マサキはもう、その後のことは、あまり覚えていない。気がついたら5分なんて、とっくに過ぎてしまっていたが、体中を舐めまわされ、キスされまくっているうちに、そんなことはどうでも良くなっていた。やがて「終了」をコールしたくなったが、くすぐったい部分を舌で刺激され続けて、笑いが止められなかったので、ロスタイムは8分近く続く結果になってしまった。

 お腹がよじれるほど笑わされて、立ち眩みするほどだったマサキは、仕返しに3人の美女たちにも、お互いをくすぐり合わせることにする。3番目のゲームは、『牛乳我慢、くすぐり合い対決』。口に牛乳を含んでもらって、お互いをくすぐりあう。最後まで牛乳を噴き出さなかった人の勝ちという、あまり工夫のない競技になっていた。アイコンタクトで瞬時に連係プレーに合意出来たようで、芳乃香さんと果代ちゃんが、歩美さんの左右から近づく。意外なまでにくすぐりに弱いタイプだったことが判明した歩美さん。年下の女性2人に両手を掴まれて、脇の下をくすぐられ始めた瞬間に、牛乳をフロアに噴き出していた。その後、勝者2人の決勝戦になるかと思いきや、芳乃香さんが隙を見せてしまう。歩美さんの噴いた牛乳を拭き取ってあげようと、タオルを持って膝をついた瞬間に、後ろから果代ちゃんに脇腹をくすぐられる。人気アナウンサーはその可憐な唇から、綺麗な弧を描いて白い液体を噴き出してしまった。

「総合優勝は果代ちゃんです。負けた2人は罰ゲームが決まりましたー」

 マサキが告げると、また飛び跳ねて喜ぶ果代ちゃん。しかし、5分後には膨れっ面でソファーに座り、ビデオカメラを構えるマサキを睨みつけていた。

「あの………マサキさん。これ…………私も罰ゲーム受けてるみたいな感じするんですけど…………」

 納得いかないという表情で文句を言う果代ちゃん。彼女が両脇に抱えてあげているのは、2人の美女。アナウンサーと元アナウンサー。今は2人とも、自分のことを果代ちゃんの赤ちゃんだと思いこんでいる。果代ちゃんの左右のオッパイを口に含む、2人の美女。ママのオッパイをゴクゴク飲んで、幸せそうに頬っぺたをすぼめ、喉を鳴らしている。

「どのゲームもエロかったけれど、テレビでの放送は全然無理」

 マサキが検討書に書き込んだ所感は、始めから見えていた結論だった。けれどとても楽しい気晴らしにはなったので、マサキは満足だった。一部始終を収めた動画ファイルは、マサキのスマホや自宅PCにだけ保管することにする。

。。。

 マサキが人前で派手に芳乃香を操ることを控え始めてから1ヶ月ほどたつと、制作スタッフも若干の物足りなさというか、欲求不満のような様子を見せ始める。ある時は、昔の街道街のロケのあとで、オジサンたち3人で、夜の街に繰り出すという流れになった。

「ちょっとたまには、羽目を外しちゃっても良いんじゃないか? ………飲みも飽きたら風俗でもって、そんな年でもないかな? ガッハッハ」

 ゴンさん、マルさんの背中を押しながら、久米島Pが豪快に笑う。今日のロケには歩美さんも果代ちゃんも帯同していないので、若干気が緩んでいるのだろうか。大きめのロケバスの前の方の席に座っていた芳乃香さんが、パタッと音を立てて台本を閉じる。不快感を表したかったようだ。

 キューさんもマルさんもあからさまにソワソワしていたせいで、ビジネスホテルのマサキの部屋で行われた小規模な打ち上げは、30分で終了した。オジサンたちが夜の街へ繰り出していく。マサキと2人取り残された芳乃香さんは、あからさまにツンとしていた。

「あのー………。若園さんは明日もお仕事ですよね? ………休みましょうか?」

「そうですね………。私が早く部屋に戻った方が、………………マサキ君も、先輩たちを追いかけやすいでしょうし………」

「いえ………、あの、僕。今日はまだ明日の段取り確認しておきたいんで、キューさんたちとは、別行動ですよ。…………あの、風俗とか、行くつもりないですから………」

 風俗という言葉を聞くのも嫌だとばかりに、芳乃香さんがハァーっと溜息をつく。

「………そういう仕事にニーズがあるから成立してるっていうのはわかりますけど、売春行為って違法ですよね。公共放送に関わる人間が、悪びれもせずに利用するべきものじゃ、ないと思います。………社会勉強とかいう男の人もいますけど、そういう人にかぎって、本来の勉強は全然しないですよね」

 久しぶりに、ピリッとする芳乃香さんのトーク。笑顔は崩さないまま、しかし不快感はハッキリと、理路整然と伝えて来てくれる。マサキは妙にこの感じを懐かしく思った。最近の芳乃香さんには「仕事のストレスが溜まったら、その分、新藤マサキとセックスをして、溜まったストレスを発散したくなる」と暗示を、深層意識に刷り込んでいた。キワドイ企画が続いた時期は、そのストレスのせいか、彼女の表層意識はそれと理解しないままに、マサキとセックスが始まってもおかしくないような場所で2人きりになるよう、彼女も行動していた。それが最近は、番組の企画が大人しめ。すると久しぶりに、芳乃香さんのピリッとするトークが復活してきたのだ。マサキはクスっと笑ってしまう。企画が穏当でストレスが減ると、マサキに対しても辛辣なコメントが出てくるという、この構造。芳乃香さん本人は、何一つ気がついていないのだろう。

 そして、マサキの考えは、キューさんたちの言動にも及ぶ。あのオジサンたちは、以前だったらもう少し、芳乃香さんの前では、風俗関連の発言や行動を控えていたのではないだろうか? 「部下のADが演者さんの機嫌も記憶も完全に掌握しているので、何かミスっても修正が効く」彼らがいつもそう考えて行動している訳ではないだろうが、その事実は、彼らも気づかないうちに、彼らの言動にも影響を与えているのかもしれない。

「もちろん私は、利用する側ばかりを非難している訳じゃないのよ。違法とわかっていながら風俗業界で楽にお金稼ぎをしようと思っている女性にも問題はあると思う。視野が狭いの。可哀想な人たちだと思ってる」

「………仰る通り、日本で売春行為は違法行為ですよね……。もっとも海外では合法化されてるところもあるみたいですけど、日本にはまだ、早いですかね」

 マサキはこんな芳乃香が懐かしくって、思わず応戦してしまった。………まぁいい。惨めに論破された上に軽蔑されたり、あるいはブチ切れさせてしまったら、暗示をかけて忘れさせるだけだ。

「早いとか遅いとかっていう話じゃないと思うけど、日本の社会はまだまだ男女が不平等で歪なところがあるから。たとえ風俗業界を合法化しても健全なビジネスとしては成り立たないと思う」

「どうしてですか? ………好きでその仕事をしてる人もいるだろうし、そういう仕事しか見つからない人には、セーフティネットになっているとも思うんですが。お客さんのなかにも、風俗嬢の技術にきちんと敬意を払って、紳士的に扱う人もいるみたいですよ」

 そこまで聞いて、芳乃香さんが両膝をマサキに向けて座りなおす。本格的に論戦に応じてくれるようだ。

「私も、一応それなりにルポとか読んで、勉強した上で話してるつもり。何も知らずに批判してる訳じゃないのよ。もちろん、立派なお客さんもいるでしょう。真剣に技術を磨いてより立派な風俗嬢を目指している、殊勝な風俗嬢の子もいるでしょうね。でも、その子が熱心に技術を向上して、経験豊富になって、5年、10年とキャリアを重ねていくうちに、どんどん収入が増えて、周囲の尊敬も集めていくようになると思うかしら? 健全な業界にはそういうキャリアパスがあるはずよね?」

「………はぁ………」

 何となく、芳乃香さんが言いたいことに勘づくことが出来た。同時に思いついたこともあるのだが、ひとまず彼女の話を聞いていくことにする。

「真面目に仕事に取り組んで、経験を積んで、キャリアを重ねて、人生で一番お金が必要になる、子育ての年齢くらいの時に、彼女がキャリアの最高潮を迎えられるなら、それはとても健全で有望な業界だと思うわ。けれど、残念ながら、さっきの紳士的なお客様も、もう彼女をチヤホヤしてくれないと思う。風俗店に訪れるお客さんの大多数は、技術を磨きぬいた百戦錬磨のベテラン20年選手よりも、経験不足の新人さんを選ぶはずでしょ? 一般的に経験年数と収入とが反比例する業界だって、本で読んだわ」

 マサキの知っている風俗業界は意外と奥が深い世界なので、もちろん例外は山ほどあるはずだ。けれど、大体において、彼女の言いたいことは当たってると思う。

「つまりお金を持ったオジサンが、若くてまだ何もわかっていない女の子を、不当なほどチヤホヤして、結果的に搾取したり、貶めたりしている構造が、もう固定化されている業界だと思うの。ただでさえ性の問題は社会のとてもセンシティブな部分なのに、日本では社会の歪みがそのまま反映されているから、私は不健全だと言っているの」

「例え知識や技術が不足している新人でも、若いと優遇されて、逆にベテランのキャリアが見えにくい業界………ですか………。それってまるで、…………女子アナウンサーの世界の話を聞いてるみたいですね」

 マサキはもう少し、さっき思いついたことについて黙っていようか迷ったのだが、思わず口に出してしまった。その瞬間、芳乃香さんはキョトンとする。やがてマジマジとマサキの顔を覗きこんだ。自分がこんなかたちで、下っ端ADに言い返されるとは、思っていなかったのかもしれない。何か言おうとして口を開いた若園アナは、そのまま止まってしまった。

「それは………、興味深い指摘ね………。もしかしたら、私が………もっと本格的に報道の世界で仕事をしたい、今のアナウンサーの世界はちょっと生き辛い、って思ったりすることがある原因の、一つなのかもしれない」

 やっと口を開いた芳乃香さんは、まだ意外そうにマサキを見ている。

「………けど、新藤君が、私たちアナウンサーを風俗業界に模して見てるとは、思わなかったな」

「え? ………いや、そんなこと、言ってるわけじゃないですよっ」

 マサキが慌てて答えると、芳乃香さんはクスクスと笑った。

「冗談よ。………マサキ君に思わず核心をグサッと突かれちゃったから、まぜっかえしてやりたくなったの。………でも、もし本当に、頑張り屋のADさんが、私のことを風俗嬢みたいな目で見てたとしたら、…………ショックだなぁ~」

 まだ芳乃香さんはクスクス笑っている。さっきは返す言葉が見つからなくて思考停止していたのに、今は余裕を取り戻している。彼女も認めたとおり、これはまぜっかえしだ。ディベートとしては反則スレスレだろう。…………だったら、マサキにも反則技はある。それも、とびきり強力な反則技だ。

「じゃ、芳乃香さんを『究極のリラクゼーション状態』に導いて、もっと深くコミュニケーションとってみましょうか?」

 マサキが言うと、笑っていた芳乃香さんの目がボンヤリと遠くを見るように彷徨う。そのままの姿勢で、椅子の中に5センチほど沈みこむ。体の力が抜けているのだ。彼女は、いとも簡単に、深い催眠状態に落ちる。マサキのかける声だけを聴き、マサキの表現する言葉から想像される景色だけを見る。そしてマサキの誘導するように考え、行動するようになる。それがどんな指示であっても………。

「いいですか? 芳乃香さん。僕が手を叩くと、芳乃香さんは正真正銘の風俗嬢になっています。ここは貴方の仕事場。僕は大事なお客様。そして貴方は、顧客満足度ナンバー1。百点満点のお客様満足を目指す、やる気十分で優秀な、高級風俗嬢です。働いているお店の名前は………そうだな。ゴニョゴニョゴニョ………。わかりましたね? …………ほら、パチン」

 読書で得た知識を基に、風俗業界の歪さ、不健全さを指摘していた若園芳乃香アナに、その業界のど真ん中、エース級の風俗嬢になりきってお仕事をしてもらう。その後で感想を聞いてみよう。マサキは今日も、少し意地悪だった。

 瞼を何度かパチパチと開け閉めしながら、周りを見回した芳乃香さんは、マサキに笑顔を見せると、「いらっしゃいませ」と恭しく頭を下げた。

「キャッ、いつの間にお部屋がこんなに、汚れて………。もうっ。………ゴメンなさい。すぐ片づけますから………。こちらに座って、少々お待ちください」

 客であるマサキを椅子に座らせると、顔を近づけてきて、オデコに優しくキスをした芳乃香さん。背中を向けるとテキパキと部屋を片付ける。5人で行った手短な打ち上げの後片付けを1人で済ませる芳乃香さん。キビキビとした動作はいかにも有能そうだ。

「お待たせ致しました、お客様。一緒にシャワーを浴びましょうか」

 にこやかな表情で、マサキが服を脱ぐのを手伝う芳乃香さん。ズボンを降ろす時には床に両膝をついて、甲斐甲斐しく寄り添う。受け取ったマサキの服を丁寧にたたんで、ソファーの上に乗せていく。そしてマサキに背を向けると、スルスルと自分の服を脱いでいく。高級風俗嬢としてはちょっと清楚すぎるデザインの淡い水色の下着。それすらもマサキの前で、しずしずと脱いでいくと、芳乃香さんは一糸まとわぬ姿になる。

「熱かったり、ヌルかったりしたら、仰ってくださいね」

 ユニットバスにマサキを誘った芳乃香は、シャワーの温度を手で確かめながら、お客様であるマサキに営業スマイルで話しかける。こんな美しい風俗嬢を見たことはないマサキだが、彼女があまりにも自分が風俗嬢だと信じて疑わず、なりきった振舞いを見せるので、マサキも思わず、ここがお店なのかと勘違いして、緊張しそうになる。

「お客様………。キスしても良いですか?」

 ゆっくりと手をマサキの背中に絡めてきた芳乃香さんが、目をうっすらと閉じて、全身にシャワーを浴びながらマサキに抱き着いてくる。顔を上げて、唇を求めた。

 本来の風俗店では、キスは禁止となっているお店が多い。感情的にこじれるお客が出てくることを避けるためらしい。それでも、そんな業界の一般ルールは知らないこの美人嬢は、当たり前のように、キスを求めてくる。サービスの一環だと思っているようだ。せっかくなので、キスさせてもらう。いつも柔らかくて弾力のある、彼女の唇。今日は舌を入れると、その舌に芳乃香さんの舌を頑張って絡めてくる。いつもよりも、激しいディープキスにも、我慢してついてきてくれる。これが彼女の考える、風俗嬢のプロ根性なのだろうか。キスしながら、彼女の胸を揉んでみる。触り心地が変わる訳ではない。それでも、いつもよりも心なしか堂々と、彼女はマサキの手を受け入れてくれた。キスが終わると、彼女の乳首を摘まんでみる。ニコッと微笑んだ芳乃香が、マサキの顔を見上げる。

「お客様、2時間たっぷりあるんですから、慌てなくても大丈夫ですよ。ベッドでお好きなだけ、触ってください。今はお体を洗いますよ。キレイキレイにしますからねっ」

 優しく、諭すように囁く芳乃香さん。だんだん本物の高級風俗嬢に見えてきたような気もする。シャワーの勢いを調整して、お湯がやさしくマサキの体に当たるようにした芳乃香さん。彼の手をとって上に上げさせると、脇の下や脇腹を、素手で丁寧に洗う。首の後ろ、背中、お尻、太腿と洗っていく芳乃香さんは、ハミングでも始めそうなほど、機嫌が良さそうだ。仕事で疲れた男性の体を清潔に洗い流していけることが、本心から嬉しそうなのだ。まさにこの仕事が天職と思えるような、働きぶりだった。

「お姉さん。ここのお店の名前って、何でしたっけ?」

 マサキが悪戯っぽく質問すると、その時だけ、芳乃香さんは赤面して、素人っぽさを僅かに見せる。

「…………ゴ…………、『ゴールドマンコ・セックス』です…………。この店名、いっつも思うけど、すっごく恥ずかしいのよね………。自分でお勤め先に選んでおいてこう言うのも、なんだけど………。多分、オーナーが、世界でも通用するような一流のお店にしたくて、つけたのかな?」

 マサキが気まぐれに、ふざけて入れた暗示も、しっかりと彼女の頭に残ってくれている。彼女なりの分析まで披露してくれた。さっきマサキは、この店名にするか、それとも高級スーパーマーケット・チェーンになぞらえて『正常位・C』という店名にするか、でしばらく迷った。迷った挙句、体位のイメージを限定させたくないという理由で、前者を選んだのだ。………今考えると、実に無駄な時間だったと思う。

 気を取り直すように両膝をついた芳乃香さんは、両手のひらで挟み込むようにして、拝むようにしておチンチンを洗っていく。包皮の裏表も指でそっと洗って、亀頭を親指のひらで撫でるようにして汚れを落としたあと、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「うふふ……。失礼しまーす」

 口を開けて、マサキのモノを半分ほど、口の中にふくむ。温かい感触。すでに半分ほど勃っていたペニスが、グッと固く大きくなる。根元まで咥えこんだ芳乃香さんは、そのまま見上げて、マサキと目を合せる。そして目を細めるように、ニッコリと笑ってみせた。

 一度、チュパっと、わざと音を立てて、口を離す。唾液の糸を唇まで引かせているのも、わざとだろうか?

「うふふふふ。元気ですね~。お客様。……………今日は、芳乃香の体で、いっぱい楽しんでいってくださいね」

 小さい子の頭を撫でるように、芳乃香さんがマサキの亀頭を上からナデナデする。亀頭に話しかけている。「よろしくお願いします」と言って、ペコリと頭を下げた後、両目を閉じながら、顔の前にあるマサキの亀頭に、チュッと可愛らしいキスをした。まるでお姫様が、隣の国の王子様と交わすファーストキスのように、愛くるしい接吻だった。キスを終えた芳乃香さんは目を開けてマサキの顔を見上げると、首を傾げてニッコリと微笑む。マサキが直視するのも緊張するような、キュートで完璧な笑顔だった。

 バスタオルでまた丹念にマサキと自分の体を拭いた後で、裸の芳乃香はマサキと腕を組んで、ベッドへ連れていく。

「ベッドの真ん中くらいに寝そべってくださいねー」

 そう言った芳乃香は、言われた通り寝そべったマサキに、覆いかぶさるようにして体を重ねて、またキスをする。唇の後は喉仏、そして乳首を口で刺激した後で、お腹、脇腹、おヘソと、マサキの体中にキスをしていく。その間も、膝と両手で、マサキの体を跨ぐようにして自分で体重を支えている芳乃香さんは、お客さんであるマサキに乗っからないように配慮しながら、愛撫をしていく。時々、彼女の乳首がマサキの肌に触れる。オッパイがムニュっと変形しながらマサキの肌にくっつけられる。吸いつくようにスベスベでツヤツヤした肌だ。芳乃香は次第に舌を大胆に這わせて、マサキの上半身をキャンバスに、絵筆を走らせるようにして舐めていく。マサキが気持ち良いとかくすぐったいとか、反応するたびに、その周辺からまたジワジワと、焦らすように舐めていく。

「………ベロ、疲れない? ………あんまり、無理しなくても良いからね」

 マサキが声をかける。先日、『ゲームの企画会議』と銘打って、彼女の舌を酷使させたことも思い出す。彼女は今、自分のことを筋金入りの風俗嬢だと思っているが、本当の彼女は人気アナウンサーだ。あまりに舌を消耗させたり、傷つけさせたりしてはいけないと、少し心配になってしまう。

「んふふっ。優しいなぁ~。お兄さん。………大丈夫よ。私、こうしてるの、好きなの。まるで自分がちっちゃくなって、お客様の体をゲレンデにしてスキーしてるみたいな気分になるのよ。ほら、ひゅぅぅぅぅぅぅーって」

 舌を長めに出して、マサキの両乳首の周囲に『8の字』を描くように舐めていった芳乃香が、体を回転させながら、舌をマサキの股間の近くへと這わしていく。地形を楽しむようにして、おチンチンの真上をツーっと舌で一直線に舐めていく。本当に、スキーヤーがゲレンデの起伏を楽しみながら滑っているようだった。

 ヘソの下あたりをサワっと舐められた時、マサキは思わず体をビクッとさせてしまう。ヘソとペニスのちょうど中間くらいの場所。ペニスを舐められるような直接的な快感でない分、むず痒いような、焦らされる心地良さがあった。

「エヘヘ………。お客様の性感帯、見つけたかも………。お姉さん、嬉しいな~」

 悪戯っぽく口角を上げて、伸ばした舌を左右にペチャペチャと振る芳乃香さんは、同時にお尻を舌と逆方向にプリプリ振って、嬉しさを表現してくれた。本当に、生まれながらの風俗嬢のように見える。マサキは、忌避感が剥ぎ取られた後で芳乃香さんが見せる、いやらしい顔と仕草に、度肝を抜かれていた。

 マサキはゆっくりと目を閉じて、芳乃香のクリエイティブな愛撫を全身で楽しむことに集中した。さっきまで持っていた心配が、心地よく解けていく。自意識だけ風俗嬢になっても、風俗店の実態についての知識は乏しいである芳乃香が、途中で迷いだすことを懸念していたが、彼女の想像力はそんな心配を寄せ付けないほど、伸びやかで豊かに安定している。自分が超一流の風俗嬢だと思いこんだら、自信を持ってサービスをしてくる。経験不足は観察力でカバーしてくる。本当に大したものだと思う。マサキが気がついた時には、芳乃香さんは彼の横に添い寝するようにして、オッパイで彼の二の腕を、内腿で彼の左足を挟み込んで体を擦りつけていた。顔を間近に接近させた芳乃香さんが、マサキの顔をまじまじと見つめる。

「んんん…………。横顔の感じ…………。凄く似てるなぁ……………。お客さん、私の知り合いで、新藤君っていう子の、親戚だったり、しないですよね? ………………似てるんです。……………あの、AD君に…………」

「…………へ? ………新藤? …………しらないですね…………。僕は………し…………白木と言います」

 マサキがドキッとして目を開ける。彼の真横に、真顔で両目をパチクリしながら、覗きこんでいる、芳乃香さんの顔があった。

「………………そうなんですね……………。何か、…………この、私の体が…………引きつけられていく感じとか…………、こう…………、心が吸いこまれていきそうな、不思議な魅力が…………、ちょっと似てるんです…………。知り合いに…………」

「知り合いって…………、ADさんなんですか…………。あの、………テレビ番組とか作る?」

「……………………ん………。そうですね…………。確かに、私、…………どこでADさんなんかと知り合ったんだろ…………。お客さんだったかな?」

 芳乃香さんが黒目を上に上げながら、思案している。マサキはヒントをもらったように感じて、すかさず口を挟んだ。

「そうだよ、お客さんじゃない? …………ここのお店って、イメージプレイとかもするでしょ? お姉さんが女子アナ役で、お客がAD役。そういうプレイをしたんじゃない? ………多分、そうだよ。…………いや、絶対そう」

 マサキが声を下げていって、芳乃香さんの耳元で言い聞かせるように囁くと、芳乃香さんもだんだん自分の記憶に自信が出てきたように、笑顔になる。

「…………そう………ですねっ。そうでした。私、女子アナ役のプレイとか、上手なんです。その方も、AD役を良くやりたがる、常連のお客さんでした。………アハハ。私、ベッドの上だから、寝ぼけちゃってたのかな?」

 芳乃香さんはすっかり納得いったようで、また笑顔でご奉仕に戻っている。オッパイをマサキの胸元からお腹、腰元へと押しつけるようにしてずらしながら、自分の体をマサキの足元へと移動させる。どうやら、女子アナ役をやっている自分というものを想像した時に、とてもしっくりいったようだ。当たり前なのだが………。

「それで、その『AD君』は、どんな人なの?」

 マサキがふと興味が沸いて、聞いてみた。

「………頑張り屋さんだよ………。周りのオジサンスタッフさんたちにドヤしつけられながら、皆に気を遣って、番組を盛り立ててくれてるの。…………そういうプレイの設定」

 芳乃香さんが、ちょっと俯いて、クスっと思い出し笑いをするように笑みを零した。

「年下で下っ端か………。しんどそうだね。………で、アナウンサーさんが慰めてあげるの?」

 芳乃香さんは左右のオッパイでマサキのおチンチンを挟み、上体を起こしたり腰を曲げたりしながら、脇を締めてオッパイで包み込んだおチンチンを擦り上げる。マサキへのサービスの手を止めないまま、彼女は首を横に振った。

「うんん。それがね………、3ヶ月くらい前から、見違えるように、頼もしい感じになって………。お仕事に自信が湧いてきたのかな。それとも、何か、プライベートで成し遂げたこととか、あったのかな。本当に、人が変わったみたいに、ドッシリと存在感が増してきたの。男の子って、ああいう、急成長する時ってあるよね」

 芳乃香さんは目を上げて、思い返している。少し嬉しそうに喋ってくれていた。

「私ね、妙にこの子と距離が近づいたなぁ、近い時あるなぁって思ってたの。それが、よくよく気をつけてみたら、………私の方が、近づいてたの。そのAD君に。…………なんだか、磁石のSとN極みたいに、自然に引き寄せられる感じっていうか、…………近くにいると、安心する感じっていうか………………。トキメキとかじゃないのよ。なんっていうか、他人じゃない感じ。………ちょっとだけ、お客様にも、そんな感じを受けたんだけどね。…………あ………、これ、営業トークじゃないよ」

 マサキは思わず笑いを漏らしてしまった。

「トキメキとかじゃないんだ」

 言った時に、少しだけ胸の奥がチクッとする感触。芳乃香さんは真面目に思い返す顔をして、照れ笑いを浮かべる。

「あ………でも、あの子が、何か食べてる時とか、………私、ちょっとエッチな目で見ちゃってるかも………。お仕事の合間に、凄く早くお食事済ましちゃうんだけどね。………ベロとか見えると…………、あの舌で………私のカラダを舐めまわされちゃったら、どうなっちゃうんだろ~………とか……………………。ヤダ、私、変なことばっかり言って、ゴメンなさい。恥ずかしい~」

 芳乃香さんは首を横にブンブン振って、恥かしがったあとで、オッパイで挟んだマサキのおチンチンをゴシゴシとしごく。一度、オッパイを離して、口でペニスを咥えこんで、たっぷりと自分の涎をマサキのモノにつけた後で、滑りが良くなったおチンチンをもう一度オッパイで挟むと、両手でオッパイの外側からムニュムニュとこねくって、ペニスに快感を与える。途中で唾液が足りないと思ったのか、口を開けた芳乃香さんが、オッパイで挟んだままのペニスに、上から涎をダラーっと足した。

 こういう動作については恥ずかしいことだと思っていない、職人気質の風俗嬢になり切っている芳乃香さんに、マサキはもっと質問してみたいことがあった。実は、さっき風俗という業界について議論……、ほとんど口喧嘩をした時に、マサキはうっかり、ラッキーパンチで芳乃香さんを絶句させてしまった。彼女が想定していないような、深く刺さる一撃を入れてしまった。そのことはしかし、彼女に知性では到底かなわないと思っていたマサキにとって、新鮮な感動も与えていた。自分も、真正面から彼女に向き合って、一生懸命、頭を使い、知恵を絞って話し合えば、若園芳乃香を言い負かすようなことがあるのだ………と。よくよく考えると、風俗業界の構造的問題を話している彼女に、貴方のいる業界も似ていないかという指摘は、正しいディベートの勝ち方ではないかもしれない。けれど、彼女の立ち位置の土台くらいは揺るがした。もしかしたら、もっと真剣に、彼女に正攻法でぶつかって、何度も挑戦していたら、新藤マサキは、若園芳乃香を、もっと違うかたちで、揺るがしたり、惹きつけたりすることが、出来たのかもしれないではないか………。

「お姉さんは、すっごく細かい設定のプレイが出来るんだね…………。じゃぁ、一つ、聞きたいんだけど、………良いかな?」

 答えが返ってくるまでに、少し時間がかかる。気がつくと芳乃香さんの顔は見えなくなっていて、マサキの、腰を浮かせるように誘導された体勢の下半身に、隠れていたのだ。若園芳乃香さんは今、足を開かされたマサキの股間に顔を埋めて、お尻の谷間を開いて、マサキのお尻の穴を、丹念に舐めているのだった。背徳的で退行的な愉悦が、マサキの背筋をまさぐってくる。ピチャピチャとわざと音を立てるようにして、芳乃香さんはマサキの肛門のシワを、舌でくすぐっていた。

「はい………どうぞ」

 口を開いて舌を忙しく動かしながらも、芳乃香さんが答える。マサキはこの期に及んでもまだ迷いながら、やっとのことで、質問を口に出した。

「お姉さんはもし…………、その『AD君』から、告白されたら…………。おつきあいすると思う?」

 マサキの肛門のシワを伸ばすようにピチャピチャ動いていた、卑猥な舌の動きが、ピタッと止まった。

「何言ってるんですか、お客様…………。もう…………。風俗嬢と風俗の常連客ですよ。…………本当の恋愛関係なんて、成り立つわけ、無いじゃないですか………」

 美しい顔に困り笑いを浮かべた芳乃香さんが、マサキのお尻から顔を離して、ベッドの上で立ち上がると、マサキの股間に跨るようにして、ゆっくりと腰を下ろす。手でマサキのモノを誘導しながら、ヴァギナでズズズッとマサキのモノを咥えこんだ。部屋には潤滑油も置いていないのに、彼女の膣は充分に潤っていた。マサキへのサービスの過程で自分も興奮していたのだろうか。それともマサキの肛門を舐めている間に、器用に自分のアソコをいじくっていたのだろうか。いずれにしても、プロの技だった。

「プレイの続きと思って考えてよ。………もしも、芳乃香さんが本物のアナウンサーで、その『AD君』が、本物の番組スタッフで、その男の子が芳乃香さんのことを本当に好きだったらって、想像してみて。芳乃香さんは告白されたら、おつきあいすると思う?」

 芳乃香さんは、しばらくの間、何も答えずに、膝に力を入れて、腰を浮かせたり沈めたりしながら、マサキのおチンチンに快感を与えるピストン運動を続けた。10回くらい激しめのピストンをしたあとで、今度はペースを落とす。臼を回すように腰を時計回りにグラインドさせて、マサキのペニスに色んな角度から膣壁の摩擦を与えながら、ゆっくりと口を開いた。

「…………本当は…………。その子と、………エッチする夢を、何回かみたの……………。私がギュウギュウに縛られちゃっててね………。身動きとれなくて、………そのAD君に、体中、舐めまわされちゃうの。恥ずかしいところも全部見られて、綺麗じゃないところも触られて、舐められて………私はすっごく嫌がるんだけど、全然抵抗出来なくて…………。もう、好き勝手されて、グチャグチャにされちゃうの。…………でも、私、嫌がってみせてるのに、…………なんでかわからないんだけど、すっごい気持ち良くて、もう、溶けちゃうの。………真っ白になって…………。トロトロに溶けちゃう。イキすぎて、気持ちよすぎて、私が私でなくなっちゃうの………。変でしょ?」

 マサキに跨って騎乗位で腰を振っている芳乃香さんに、マサキは首を横に振る。変だ、なんて絶対に言えない理由が、マサキにはある。

「そんな夢をみた後は、パジャマもベッドのシーツもグショグショになっちゃってるの。もうオネショどころじゃないんだよ。バケツをひっくり返したみたいに、ズブ濡れ。………恥ずかしいなぁ…………。エッチで…………」

 芳乃香さんが心底、恥ずかしそうに俯く。けれど腰の上下運動は止めない。腰の動きから1秒遅れるようにして、彼女の形の良いオッパイが、ブルンブルンと踊っている。

「………でね………。私、…………起きて、濡れて冷たくなったパジャマも、下着も脱いで、シーツと一緒に洗濯機に入れてから、そのまま裸になって、鏡の前で立ったりしゃがみこんだり、しばらく自分を見ているの。…………あんな夢、また見られないかな~って、ボンヤリ考えながら、思い出して、ポーっとしてるの」

「そのAD君と、現実でもそんなこと、何回でもやれる状態になりたい?」

 しばらく目を閉じて考えていた芳乃香さんは、自分を笑うように、寂しそうな笑みを浮かべて、首を振った。

「それは…………。それはね。…………やっぱり夢なの。……………私と、…………その子は………やっぱり、………なんっていうか、………世界? ……………うーんと、なんて言うのかな」

「住んでる世界が違う?」

「そんなことないよ。…………なんていうか、目指している地平が違うのかな。人生で、得たいと思っているものっていうか、実現したいことっていうか………。私は、もっともっと、お仕事で叶えないといけないとことか、いなきゃいけない場所とか、あって、そのためにお世話になってきた人とか、犠牲にしてきたものとかあって………。彼は…………。今が一番楽しそうっていうか、…………今、彼の人生で、一番輝いてるって感じがするっていうか…………」

 喋り辛そうに、芳乃香さんが一言一言、言葉を選びながら話す。けれど彼女は語っている選択については、迷っている様子ではなかった。自分のなかに、前からあった決意を、丁寧に整理しながら言葉にしているという雰囲気。

「私ね、……よく色んな人のお仕事とか、人生とかお話ししてもらう仕事をしていたから、何となくわかるの。彼は多分、今、お仕事人生の中で、一番充実している時期を過ごしているんだと思う。………もちろん、もっと経験を積んで偉くなったら、大きなお仕事とか華やかなお仕事とか、後輩や部下も使って、指揮していくのかもしれない。けれど、彼が一番成長も感じて、試行錯誤も楽しんで、充実感があったなって、後から振り返るのは、…………この時期なんじゃないかな? …………けれど、私は、今を自分のピークとして認めるっていうことは出来ないんだよね。………………だから、もしも、あのAD君に告白なんてされたら、すっごくありがとうって御礼を言いたいな。すっごく嬉しいって。そのあとで………、ゴメンなさいって、言わないと……………」

 いつの間にか、芳乃香さんが腰を動かすたびに、マサキの胸元に彼女の涙が落ちて来ていた。

「ゴメンね? …………変な話で。…………実際のところ、私は頑張ってるお仕事で回り道しちゃってるから、これ以上、道草は駄目。20代の間は恋愛禁止。寂しいオンナなのです…………。はい」

 最後は冗談めかして笑顔を作って、首を傾げながら敬礼してみせる芳乃香さん。けれど目からは今も、涙が頬を転がり落ちていた。多分、彼女の瞳から出たばかりの時は彼女の体温と同じ温かさのはずの涙。それが空気中を落ちて来て、マサキの胸元で跳ねる時には、冷たく感じる。1メートルも無い距離を落ちてくる間に、これほど涙が冷えてしまうのかと、マサキはボンヤリ考えていた。

「………お客様、本当にゴメンなさい。変なムードにしちゃって………。どれだけでも延長して良いから、気持ちいいこと、何でも言ってください」

 しばらく無言になっているマサキを見ていて心配になったらしい芳乃香さんが、懸命に腰を動かす。内腿に力を入れて、自力で出来る限界まで膣を締めあげて、マサキのペニスを深々と咥えこむ。時々、腰を浮かせながら背中をそらせて、結合した性器同士をマサキに見せつけて、イヤらしい気分を盛り上げようとする。乱れた髪を、頭を振って背中の後ろにまとめようとする芳乃香。今度は両足を踏ん張るようにしてマサキの股間に跨り、腰を上下させる。さっきまでの膝立ちよりも勢いが付きやすいのか、摩擦の快感が大きくなった。チャッチャッチャッと、結合した2人の性器が音を立てる。内腿をマサキに向けて、大きく足を開きながらしゃがんだり腰を浮かせたりする芳乃香は今、堂々とセックスを主導していた。

「気持ちいいですか? したい体位とかあったら、何でも言ってくださいね。バックでも、駅弁でも………」

 マサキのペニスが、芳乃香さんのなかでもう一段階膨張する。駅弁ファックなんて言葉を、彼女が知っていることが意外だった。本来の芳乃香さんが、PCかスマホの前で顔を赤くしながら、エロ単語の意味を知って顔を背けているところが容易に想像出来る。後になってこんな風に、自分が夜のお仕事をしているつもりで口にすることになるとは、全く予期しなかっただろうが。………そう思うと、若園芳乃香を、身も心も丸裸にさせられているような気がして、さらに興奮したのだ。

「………お姉さんがエッチなこと言うから、思わずイキそうになっちゃったよ」

 マサキが言うと、芳乃香さんの顔が輝く。

「嬉しいっ。………このまま………、ナカで出しちゃっても良いんですよ」

 内腿に腱が張るほど力を込めて、芳乃香さんが膣壁をさらに引き締める。彼女のお尻の肉がマサキの太腿に当たって、パンパンと音を立てる。

「ナカにって、本当に?」

 芳乃香さんは激しい腰の動きで出し入れしているマサキのペニスの感触に悶え、身をくねらせながら、首を何度も縦に振る。彼女の両目の黒目が寄り目勝ちになっているのを見たところで、マサキには彼女が、全身全霊でマサキの快感を搾り出すことに没頭しているということがわかる。

「大事な…………大事なっ…………あんっ……………。お客様…………だからっ…………はぁああっ…………」

 気がついたら、マサキと芳乃香は両手を握り合って、指を絡め合っていた。マサキは自分がもうすぐイクということが分かっている。これまでに何度も肌を重ねてきたから、芳乃香さんが絶頂に近づいていることも分かっていた。1、2、3、4。2、2、3、4。彼女は最初の2回はわざと浅めに挿入させて、亀頭回りを膣の入り口付近で擦らせる。そして後半の2回で奥の奥までマサキのペニスを深々と咥えこむ。そうやって変化をつけて、大切なお客様を射精へ導いていこうとする。大した工夫だ。

「お姉さん、一緒にイこうか?」

 マサキが聞くと、芳乃香さんは快感に震えながらも、笑顔らしき表情を作って、頷いた。左右の乳首が、ブルンブルンと暴れるオッパイの真ん中でそれぞれ頷いているように見える。

 デュッ………、デュデューッと、勢いよくマサキが芳乃香のヴァギナの中で射精する。腰から脳天までが、甘く痺れるようだった。芳乃香さんは後頭部がベッドにつくかと思われるほど背を反らして、乳首を天井に向けて、ブルブルブルブルっと痙攣した。そのまま力尽きたようにベッドから落ちてしまった。

「………ぁ…………ぁぁ…………ごめんなさい…………。すっごい良かった……………。お客様も………、気持ち良かったですか?」

 まだ息も絶え絶えの芳乃香さんが、後頭部を押さえながら体を起こしてベッドに上がりこむ。マサキの横に、添い寝の形に体を横たえる。いつもの芳乃香さんだったら、これほど激しく絶頂を迎えた後は、しばらく卒倒したようになって、放心したまま天井を眺めているのだが、今日は頑張ってマサキの相手をし続けようとする。見上げたプロ意識だった。

「気持ち良かったよー。さすが上手だね、お姉さん」

「んふふふ。努力の賜物です」

 褒められて嬉しかったのか、芳乃香さんが元気になっていく。おもむろに、両足を閉じたまま、足の裏を天井に向けるようにして、膝を曲げずにグーっと上げていく。

「こうするとね、お客様の出してくれた精液が、私の子宮の中まで来て、チャプチャプって動いてる気がするんだ。…………面白いでしょう?」

 脚を降ろしていくと、今度は両足を開いて、手を股間に伸ばす。

「ちょっと、逆流してきちゃった。…………シーツに零しちゃうと、もったいないから………」

 指を見せる。マサキの精液を拭った人差し指と親指のはらを、ペタペタとくっつけたり離したり、しばらく遊んでいる、芳乃香さん。

「ちゃんとお仕事出来た証拠だから、大事なの」

 芳乃香さんは満足そうに指の精液で遊んでいると、パクっと口に入れて笑顔でマサキを見た。

「指、チューチューしゃぶるの、好きなの、私。…………赤ちゃんみたい?」

 人差し指を吸いながら、芳乃香がリラックスした表情を見せる。マサキは曖昧に愛想笑いを浮かべて誤魔化した。色々な暗示が混濁しているように思えて、少し不安を感じたのだ。

「芳乃香、赤ちゃんでちゅー。パパ、抱っこ」

 芳乃香さんが甘えた声を出して、マサキの体にすがりつく。ついさっき、お客さんに涙を見せてしまったことを、気にしているのかもしれない。妙に張り切って、マサキを盛上げようとおどけて見せる。そんな健気な夜のお姉さんが可愛らしくて、マサキも頭を撫でて、遊びに付き合ってあげる。

「可愛い赤ちゃんだねー。ほら、抱っこしてあげよう」

「んーっ。パパだいちゅき」

 まだ赤ちゃんの真似ごとをしながら、ギュッと体を押しつけてくる芳乃香。

(俺ってさっき、この人に振られたんだよな…………。)

 そう考えると、この状況がとてもシュールに思えてくる。芳乃香さんは新藤マサキとお付き合い出来ないと宣言した。その時も彼女のヴァギナはマサキのペニスを深々と咥えこんでいた。そのまま騎乗位でセックスに励んだ。そしてナカ出しを許して、今はマサキと抱き合っている。

「チューもしまちょう」

 甘えた声で、キスを求めてくる芳乃香。マサキも彼女の体に右腕を回して、抱き合いながらキスをした。左手で彼女の柔らかいオッパイを揉むことも忘れない。忘れていたのは、彼女の口の中にあったもののことだ。マサキの精液………。そしてついさっき彼女は、丁寧にマサキのお尻の穴を舐めていた。間接的に、自分の尻と精液を舐めさせられたことになる。強いて言うなら、これが失恋の味なのかもしれなかった。

。。

「白木さん、今日の私のサービスは、満足頂けましたか? 百点満点中、何点くらいの満足度ですか?」

 添い寝する芳乃香さんに尋ねられて、マサキは天井を見ながら考える。

「そうだね………、95点くらい?」

 百点満点という答えを期待されていることを理解しながら、マサキはあえて5点低い評価を口にする。そこに、ちょっとくらい意地悪したい気持ちも、無かったとは言えない。何しろマサキは今日、失恋をしてしまったのだ。それも一世一代かもしれない、猛烈な片思いの結果としての、大失恋だ。

「ぇ………あ、……あの、まだ時間は延長出来ますから、残り5点を取り返すことをしませんか? 何か、物足りないこととかありました? ………私、何でもしますっ」

 裸のまま、慌て始める芳乃香さん。ガバっと起き上がると、シーツが捲れ落ちて、形の良いバストが丸見えになってしまうが、お構いなしだ。

「私、お客様の言うこと、何でも聞きますよ。何でも言ってください。………あの…………、あ、そうだ。白木さん、私のパンツ食べますか? …………パンツ………。脱ぎたてのものが良かったら、一度穿きます」

 芳乃香さんが、お洋服を畳んだ椅子の上へ目掛けて、ベッドを降りる。

「いや、別にパンツ………食べないですよ。………どゆこと?」

 予想外の申し出を受けて、マサキが思わず吹き出してしまう。これが『風俗嬢』芳乃香さんが想像した、最上級のマニアックなサービスなのだろうか? それとも、彼女はマサキを見て、本当は言い出せないけど、パンツを食べたがっていそうな客だとでも、判断したのだろうか?

「大丈夫です。………ちゃんと、食べやすいサイズに切りますから、遠慮しないでください。………えっと、……ハサミ………、ハサミは……」

 ショーツを引っ張り出して来た後は、キョロキョロ見回して、ハサミを探そうとする彼女に、マサキが呼びかける。

「芳乃香さん、そこで立ったまま眠って。………貴方は深い催眠状態に戻ります。風俗嬢だった貴方はいなくなります。もうお客さんの満足度を気にする必要もないです。パンツを一口サイズに切り分ける必要もないんですよ。頭のなかが空っぽ。とても気持ち良い。僕の言葉の通りに感じて、考えて、動く、最高にリラックスした状態になるんです」

 マサキもベッドを降りて、芳乃香さんの真横へ行くと、ボンヤリ立ち尽くしている彼女の肩をそっと抱く。もう片方の手を取って、ベッドへと連れ戻る。まるでダンスのエスコートをするように、優しく彼女を誘って、座らせてあげる。全裸の2人はお互いを信頼し合って、心を開ききっているように、肩を寄せ合い、ベッドの縁に座った。両目を閉じている芳乃香さんの横顔を、改めてマジマジと見る。本当に美しいと思った。この美人が、さっきまで心尽くしの性的サービスをマサキにしてくれて、今の今まで、さらにマサキを満足させたくて、なぜか自分のパンツを食べさせようとしてくれた。その発想の跳び方や思い込みの激しさ、真面目さも、可愛らしいと思った。改めて、マサキはじっくりと、愛でるようにして、自分をさっき振った美女を観察する。頬っぺをペロリと舐めさせてもらう。腕を持ち上げ、脇の下に指先で軽く触れて、『仕事』で汗をかいた彼女の甘酸っぱい匂いを確認する。乳首を吸ったり、オッパイを揉みあげたりする。膝を開かせると、まだ充血して火照っている、彼女のヴァギナから、少し精液が垂れていることを確認する。

 マサキにとって、色んな点で本当に理想的な女性だった。難しいところもあるけれど、それを補って余りある魅力を、全身から、精神から、輝くように放っている人だと思う。本当のことを言うと、マサキは、この人と両想いになることが出来る。何しろ、催眠術企画を撮るかなり早い段階で、『ミネラルウォーターのペットボトルを持っている男性と恋に落ちる』という暗示にもアッサリと掛かっていた彼女なのだ。マサキが今、暗示を刷り込めば、5分後には彼女の方から、両膝をつき、絶対の愛を誓いながら、告白してくるだろう。そして、日数をかけてじっくりと、彼女に何度も暗示を刷り込み、植えつける。感情を信念として、生き方として、染みこませ、定着させていけば、若園芳乃香はマサキへの永遠の愛の虜となって、一生を彼に捧げることになるだろう。そのことを彼女の最高の幸福と思わせることも、出来るはずだ。

 けれど新藤マサキは、今、若園芳乃香に催眠暗示をかけて、彼女を恋人にしたいとは、なぜか思っていなかった。自分自身でも、今、そういう思いに至らないことが意外でもあった。もしかしたら、これは彼自身、芳乃香さん以外の誰か、あるいは芳乃香さん以外の何か、別のモノに恋をしているということなのかもしれない。

 ふと、別のことを考える。さっきの芳乃香さん。風俗嬢になった彼女が、サービスの一環のつもりで、赤ちゃんの真似ごとをしていた。「真似ごと」と言えるのは、以前『罰ゲーム』と称して、彼女を本当に赤ちゃんに成りきらせ、果代ちゃんのオッパイを吸わせたことがあるからだ。風俗嬢による、赤ちゃんの真似事。………いや、風俗嬢というのはマサキが刷り込んだ暗示で、本当の彼女ではない。彼女は本当は、アナウンサー。けれど、そのアナウンサーという身分も、もっと言えば、若園芳乃香という名前も、誰かが彼女に与えたものだ。では、彼は催眠術で彼女に何を与えることまでは許されて、何をすると、絶対に許されないのだろうか?

 彼女の場合は『ソフトクリームになる』という暗示が、はまりすぎるくらい深く刺さって、ここまで自在に操れるようになった。術者も被術者本人さえも知らない、それぞれの精神の「ツボ」のようなものがあって、そこを的確に押すと、その人がこれほどまで容易く自由自在に変身してしまうようになる。もっともっと色んな人に催眠術を試してみたい。マサキはその思いを、願望というよりも、自分の使命であるようにすら、感じ始めていた。

(…………失恋のショックから目を逸らすために、哲学ぶってるだけかな、今の僕は。)

 マサキは小さな笑みを、口元に浮かべた。今夜は芳乃香さんと議論になってしまった風俗の話からずっと、自分は考えすぎていると思った。自分の頬を両手で軽く叩いて、隣の美女に向き合う。肩に手を載せた。

「さて、芳乃香さん。貴方はさっき、20代は恋愛禁止。もっと高いステージで自分の仕事の可能性を試したいと言いました。それは貴方の本心だと思います。けれど、誰でも本心が揺らいでしまう時はありますよね。貴方が僕にしてくれたサービスへの御礼に、これから貴方の恋愛禁止を手伝ってあげる暗示をあげますよ。………嬉しかったら、御礼を言っても良いですよ」

「…………あ……………ありがとう……………ございます………」

 マサキが悪戯っぽい笑みを浮かべる。芳乃香さんは蕩けるようなリラックス状態にありながらも、若干、釈然としないような、微妙な表情で御礼を言った。多分、深層意識でも、余計なお世話だと思っているのだろう。

「これから貴方は思いがけず、胸のトキメクような素敵な男性と、デートする時があるかもしれません。でも、そんな時、過度にロマンチックなムードになりすぎないように、貴方はとても、ひょうきんな女性に変身します。素敵なBGMが鳴るお店にいたら、エアギターやエアドラム、エアサックスフォンで周りの人を笑わせてあげてください」

「………エア…………サックス………………。……はい…………」

 芳乃香さんの返事が微妙に不服そうだ。けれどマサキは止めない。

「芳乃香さんの決意が揺らぐような、格好良い男性と一緒に、お食事会などすることもあるかもしれません。貴方の前に料理が届いた時、不意に貴方は『早食い競争』が始まったと思い込みます。そう、貴方はフードファイター、芳乃香です。フォークやナイフ、お箸をお上品に使っていては、負けてしまうかもしれないので、顔を直接お皿につけて、食べつくしてしまいましょう。もちろん、食後は運動した方が良いですよね。その場で床に手をついて、腕立て伏せを20回。そして太極拳を、ゆったりと時間をかけて披露します。充分な運動が出来たと思ったところで、正気に戻ってくださいね」

「…………早食い……………。腕立て………………。……………………太極拳…………………。は…………い…………。わかりました」

 少し眉間にシワが寄った芳乃香さんが、訝し気に、それでも頷いている。

「もし素敵な男性と、キスをしそうになる瞬間があったら、貴方は急に、ゲップが止まらなくなりますよ。ロマンチックなムードが完全に消えたと思ったところで、ようやくゲップの連発は終わってくれます。……………最後に、貴方は素敵な男性と一夜を過ごしそうになった時、その人のオチンチンを見ると、急に笑いが止まらなくなります。彼がオチンチンを出して近づいてくるほど、貴方はお腹を抱えて笑い転げます。もう、息が出来ないくらい、大爆笑するんです。触れられようものなら、貴方は笑いすぎて、過呼吸や尿漏れを起こしてしまうかもしれません。急いで裸のまま外に逃げ出すと、ようやく笑いはとまりますよ」

「………オ…………チンチン…………………………。笑う…………………。にょ……………………尿漏れ…………………。……………………はい。………逃げます……………」

 もう芳乃香さんは、ションボリと寂しそうな顔をしながら、マサキの言葉に頷きながら返事をすることしか出来なかった。

「もちろん、これらは、僕、新藤マサキ以外の男性、それも素敵と感じた男性と過ごす時に発動する暗示です。貴方はこれらを思い出すことは出来ません。けれど、貴方にとって、条件が揃えば必ず起こる真実です。今日の夜の飲み会のことも含めて、綺麗さっぱり、思い出せなくなりますけれど、貴方の深層意識の中には、深々と染みこんで、貴方自身の一部となる事実です。少なくとも、僕が心変わりして、解除するまでは、有効な暗示。わかりましたね?」

 自分の口から出てくる暗示を聞きながら、マサキはようやくはっきりと理解することが出来る。マサキは気持ちの整理なんて出来ていない。自分はやっぱり若園芳乃香が好きで、彼女に振られたことは悔しくて、腹いせに今、意地悪な暗示をかけた。そして、彼女を射止めるような見事な男が出てきたら、邪魔してやりたいとも思っている。もう少し時間がたてば、彼女に違う暗示をかけることもあるかもしれないが、少なくとも今は、こんな風に芳乃香さんを弄んでしまう。そうすることが出来るのだから。それがマサキの本音だった。

 彼女に振られておきながら、それを催眠術の力で覆すこともせず、まるで『放し飼い』でもするように、気が向いた時に彼女を抱く。ある時は恋人として、またある時はセックスフレンドや発情期に割り振られた動物のオスとメスのように。あるいは風俗店のお客さんとして…………。そして彼女へ不意に訪れた恋路は、ズルく阻止する手段を講じる。それはもしかしたら、彼女に暗示を植え付けて最愛の恋人にしてしまうことよりも、罪深いことなのかもしれない。

 やはり自分は性格が悪い………。そう思い知った夜だった。

。。。

 翌朝、ビジネスホテルのロビーに集合した、番組製作スタッフと、演者の若園芳乃香さん。

「昨日はよく休めましたか?」

 ツヤツヤしているキューさんが聞くと、芳乃香さんは作り笑いを浮かべる。

「えぇ。思ったより疲れていたのか、もうグッスリ寝ちゃいました」

 キューさんやオジサンたちだけでなく、芳乃香さんまで、肌ツヤやが良さそうに見える。化粧の乗りも良さそうだ。

「僕も結局、あれから後片付けして早く寝たんですけど、キューさんたちは遅くまで飲んでたんですか?」

 マサキが聞くと、プロデューサーは右手で頭の後ろを掻きながら、悪びれた笑みを浮かべる。

「ま、ちょっと皆で盛り上がってて、酔った勢いで、年甲斐もなく、………オトナのお店まで寄り道しちゃったな…………、あ………、若さんの前で、こりゃ、失礼………」

 鼻の下を伸ばしてニヤニヤしているオジサンたちに、若園芳乃香さんは、キッと視線を送った。

「別に私とは関係がないことなので、どなたが何をしていようと自由ですが…………。それでも、一点だけ…………。あの、エッチなお店に行くのは別に良いですけど、迎える側は真剣なんですよ? 酔った勢いでとか、寄り道してとか、そんな気持ちで冷やかしに行くのは失礼だと思います。ちゃんと相手と向き合って、払ったお金分だけ、しっかり気持ち良くなって欲しいんです。それが、人としての基本だと思います」

「………………はぁ……………」

 キューさんも、マルさんも、ゴンさんも、ポカンとして芳乃香さんを見ている。皆、彼女に怒られていることはわかるものの、自分たちが何に対して怒られているのか、まったくついていけていないようだった。

「はぁ、もう………いいです………。私は別に………気持ち良くなって欲しいとか、言いたい訳じゃなくて、………………………もう。本当にいいですっ。帰りましょうっ」

 苛立ちを足音で表すように、プイっと顔を背けて、芳乃香さんがロケバスへと歩いて行ってしまう。ゴンさんが怪訝な顔でマサキの方を見たのだが、マサキは笑いを噛み殺しながら、ゴンさんの視線に気がつかない振りをして、大型のロケバスへ向けて歩き出す。キョトンとしているオジサンたちを置いてホテルを出ると、既に眩しい朝の光がアスファルトを照りつけていた。目が痛くなるほどの眩しさだった。

<第7話へ続く>

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