スパイラルサークル 第4話

 ガチャン、ガチャン、ギギー、ガチャン。

 

 結沙の頭の中には、自分が手を振るたび、足を上げるたびに、錆びかけた金属のたてる音が鳴り響いている。結沙と他の3体のブリキの兵隊は今、意気揚々と文化サークル棟へ向かう小湊弘太の後を、一糸乱れぬ行進で追尾していた。

 

「あっ………、さっきはお疲れー」

 

「結沙ちゃんだよね? ………こっちは野乃ちゃんだ。皆、可愛かったよー」

 

「野乃ちゃん、大ファンになったよー。結沙ちゃんの美乳も最高っ」

 

 廊下を闊歩していくと、時々、さっきまでスパイラル・サークルが開催していた催眠術ショーに、観客として入っていたらしい男子たちが、声をかけてくる。その声を嫌がる様子も喜ぶ様子も見せず、真顔で無表情の4人の女子は、手足をピンっと伸ばした軍隊調の行進を続けていった。

 

 

「はい、到着しました。この人数に対して部室は狭く見えると思うけど、両隣が空き部屋になってるから、そこも使わせてもらってるんだ。だから、皆、遠慮なく入って、くつろいでください。…………あ、催眠解ける。君たちはブリキの兵隊じゃなくて、人間だよ。ほら、うちのサークルの大事なお客さんです」

 

 弘太が指を鳴らすと、4人の硬直した女子は一斉に催眠から解けて、周りを見回しながら、普段の自分を取り戻す。梨々香と野乃は凝り固まった自分の手足を解きほぐすように、ブラブラさせる。咲良はメガネに触れながら、サークル棟の中を訝しげに見まわす。そして結沙は少し顔を赤らめながら、スカートの裾を念のために押さえていた。

 

(私………、伸ばしたままの足をブンブン振って、校内を行進してたんだよね? …………。パンツ穿いてないのに………。大丈夫だったかな?)

 

 催眠術ショーの朧げな記憶を掘り起こせば、行進途中にスカートがめくれて、中が見えてしまうくらい大したことない、と思えるくらい、怒涛のように恥をかいたはずだ。けれど密室状態だった音楽室。妙なグルーブ感と一体感が形成されていたあのショーの現場とは違って、冷静な不特定多数の人々に恥を晒すというのは、また異なる「避けたいこと」だった。

 

 そんな結沙の気持ちにも気づかずにか、あるいは知っていて気づかない振りをしているのか、弘太がにこやかに部室のドアを開ける。

 

「ようこそ。我らがスパイラル・サークルの部室へ」

 

 彼が開いたドアには、『意識学研究会』という古い札の上に、渦巻きマークの木札が重ねられていた。

 

「うおっ」

 

 誘導されるままに、部室に入ろうとした結沙は、前で立ち止まった咲良の背中にぶつかる。急に立ち止まらないで、と文句を言いたかったが、部屋の中の状況を見て、結沙自身も足と思考が止まってしまった。仕方なく、後ろから弘太が4人の背中を押すようにして部室のドアを閉める。部屋の中には男子たちが6人、椅子に腰かけていて、その前で4人の裸の女性が男子たちの膝の間にひざまずくようにして頭をかがめていた。

 

「あー、来た来た。今年の催眠術ショーを盛上げてくれた、聖クララ女子の4人さんと、ショーマンの小湊弘太君でーす」

 

 確か、藤村君彦と名乗っていた男子の、聞き覚えがある声がすると、部屋の中の男子たちは拍手で結沙たちを迎え入れる。女の人たちが顔をあげて振り返ると、結沙はさらにドキッとした。4人とも、目の覚めるような美女揃いだったのだ。彼女たちは、今の今まで、高校生たちの部室の中で、ほとんど年下と思われる男子たちに、裸で接していた。どうやら、その綺麗な唇で男子たちの股間のモノを咥えこんでいたらしかった。その愛くるしい笑顔、髪をかき上げる上品な仕草と、全裸で男子の前にひざまずいて行っていた様子のその行為とが、どうしても結びつかなくて、結沙の頭をクラクラさせた。

 

「左から、数学の水沢詩織先生。テニス部の木崎奈緒美先輩。この2人は、同じ学校だから、普段からこの部室でよくお世話になるんだ。あっちにいるのが、大学生の柴里圭さんと、お仕事してる花蓮さん」

 

 弘太は期限良さそうに紹介する。4人は結沙たちに会釈をしたり手を振った後、また自分の前に、下半身裸で座っている男子たちへの奉仕に戻る。

 

「花蓮さんって……………、堀内カレン?」

 

 梨々香が目敏く指摘する。結沙もファッション雑誌の熱心な読者ではないが、年頃の女子高生として、地元出身で人気上昇中のモデルの名前と顔くらいは知っている。確かに言われてみれば、堀内カレンとそっくりだった」

 

「そうなんだ。実はカレンさんがスカウトされて、デビューするよりも前に、うちのサークルの先輩が彼女にスパイラル・サークルのサポーターになってもらってたんだよ。ねぇ? 花蓮さん」

 

 弘太が声をかけると、雑誌で何度も目にした美人モデルは、チュパっと音を立てて、男子の股間から口を離して振り返る。

 

「そうなんだよね。…………今でも、サークルの活動のお手伝いとか、ここの皆のお世話に支障が無い範囲で、お仕事入れてもらってまーす。よろしくね」

 

 それだけ答えて、悪戯っぽいウインクをすると、またすぐにカレンさんは正面を向いて、顔の前のオチンチンを咥えこむ。まるで1秒でもそのオチンチンから口を離したくないといった様子だ。他の美女たち3人も、周りの声が聞こえないかというほどの集中力で、一心不乱に口での奉仕に勤しんでいた。

 

「とはいっても、サークルと関りある人が有名人になるっていうのは、僕らにとっても嬉しいことだし、迷惑はかけたくないから、どうしても学外の人たちは呼び出す頻度が下がっちゃうんだけどね。………でも今日は、もし新しい被験者が確保出来なかったら、っていう予備のために、この4人に来てもらってたんだ。君たちが参加してくれたおかげもあって、早めに打ち上げの方に回ってもらってるんだけどね」

 

 それだけ言って、弘太も結沙たちにウインクした。………どういう意味のウインクなのかは、よくわからなかった。

 

「そんな訳で皆さん。今日はお疲れさまでした。先輩たちや1年生も、準備や運営を手伝ってくれてありがとうございます。………早速ですが打ち上げは、盛り上がってますか?」

 

 弘太が聞くと、男子たちは拍手をしたり、「ういーっ」と声を上げながら後ろの机に置いてあった、プラスチックカップを掲げたりした。中には炭酸のジュースが入っているようだった。

 

「そんな訳で、今日は僕たち、お仕事おしまい。あとは打ち上げっていう状態なんで、君たちも、一緒に楽しんでいってよ」

 

「…………無理。うちら、帰るよ」

 

 梨々香が強張った顔で答える。結沙も全く同感だった。今日の音楽室であった、破廉恥なショーや、今、ここで目にしている、美女たちの常軌を逸して熱心な性的サービスを見せられて、このサークルの、この部室でくつろげるとはとても思えなかった。

 

「えーっ。さっきは喫茶店でくつろいでもらえるように、僕らも頑張ったのに」

 

 たしか夏原保と名乗っていた男子が、不服そうな声を出す。それを言われて、結沙はようやく、最初にこのサークルの人たちとの接点になったのが、喫茶店の模擬店だったことを思い出した。それくらい、今、目にしている光景と、催眠術ショーの朧げな記憶が、強烈なインパクトだったのだ。

 

「じゃ、せめてさっきの喫茶店と立場逆転で、こっちの子たちには、可愛いウェイトレスさんになってもらおう」

 

 君彦が、不穏な提案をする。結沙と咲良が抗議しようとして、同時に口を開いたけれど、そこに割って入った弘太が口を挟んだ。

 

「じゃ、『スパイラルの旅行者』さんたちは、全身リラックスさせて僕の言葉をよーく聞いてください」

 

 その一言で、結沙の意識はズブズブと、深い沼に沈み込んでしまう。体の緊張も、抗議の気持ちも、溶けてなくなるようにして引いていってしまった。

 

 

 気がつくと、結沙はなかなか繁盛していて忙しい、喫茶店で働いていた。

 

「ウェイトレスさーん、こっちに、タケノコの里を2つ。あとコーラ足りないよ」

 

 お客様の声が聞こえる。結沙の担当メニューだ。

 

「はーい、ただいま」

 

 目一杯の愛想を振りまいて、可愛らしくて素直なウェイトレスの結沙は、お客様の元へ飛んでいく。

 

「ご注文ありがとうございます。お客様。こちらタケノコの里でございますぅっ」

 

 結沙は、とびきりの笑顔でお客様(確か保様だ)をもてなす。彼の間近まで近づいて、まずは右手に持っていたコーラのペットボトルを机に置くと、空いた手で左手の紙皿にあるタケノコの里を、2つまみ。丁寧に手に取ってお客様の口へ、直接食べさせてあげる。お客様が、結沙の担当している「タケノコの里」を選んでくださったことが嬉しい。鼻が高い。ついつい、「キノコの山」を担当している咲良の反応を伺ってみたくなる。2人はアルバイト仲間でありながら、ライバルなのだ。

 

「コーラは、口移しではなくて、コップにお注ぎしますか?」

 

「…………うん」

 

「畏まりました」

 

 結沙は紙皿を机に置いて、ペットボトルを手に取ると、フタを外して、お客様が手にしたコップに丁寧に注ぐ。コーラと泡の比率は7:3。お店の厳格なルールだ。あまりに真剣な眼差しで慎重にコーラを注いでいる結沙の表情がツボにはまったのか、保様はクスクスと笑った。

 

「先輩、汗をお拭きしましょうか?」

 

「………んーー」

 

 結沙が声をかけると、保様に「フェラチオ」を提供している、バイトの先輩である奈緒美さんは、保様のオチンチンを口に咥えたまま、返事をした。結沙はハンカチを手に取って、奈緒美先輩のこめかみから首回りにかけて、玉のように浮いた汗を拭きとった。

 

「お顔の精子も、お拭きしましょうか?」

 

 結沙が質問すると、座っている保様が手を挙げて遮る。

 

「いや、これはこのままにしておいて」

 

「………はい。畏まりました。先輩。頑張ってください」

 

 結沙がにこやかに答える。これがこのお客様の満足と、バイトの先輩の仕事のやりやすさに繋がるなら、新人バイト・ウェイトレスである結沙にとっては、とても励みになることだった。

 

「結沙ちゃん、こっち、注文いい?」

 

「はーいっ。タケノコの里ですか?」

 

 結沙がさらに磨きをかけた営業スマイルで振り返ると、そこには君彦が座って下半身にエッチなサービスを受けていた。

 

「違うよ。オッパイ・サンド。1つ。…………ある? ………オッパイ・サンド」

 

 君彦は、格好つけるようなポーズで、頬杖をついたままの手で人差し指を上げた。結沙はゴクッと生唾を飲み込む。新人ウェイトレスとしては、ここが一つ、乗り越えるべき大きな勝負だ。

 

「は………はい。ございます。………オッパイ・サンドですね。喜んでっ」

 

 結沙が急いで、制服のボタンを外していく。ラッキーなことに、今日の結沙はなぜか、ブラジャーを着けていなかった。手間が1つ、省ける。シャツをはだけるとプルンと零れ出る、結沙の丸いオッパイ。ウェイトレスの彼女は今日、初めてこの注文を受けたはずなのに、この、胸を曝け出す時の外気に当たる感触はなぜか、今日、何度も繰り返し体験したことのようにも感じられて、結沙は首を傾げながら準備を進める。

 

「お待たせしました。当店自慢のスペシャルメニュー。オッパイ・サンドになりますっ」

 

 結沙が君彦の横から近づいて、ムギュっと自分の胸を押しつける。首を曲げて、顔の正面から結沙のオッパイの密着を受け止めた君彦は、体の真正面ではもう1人のお姉さんから股間に口での奉仕を受けている状態だ。高校生なのに、贅沢なお客様だな………と、結沙は思いながらも、お店の規則に従って、精一杯のお客様サービスを提供してみた。

 

「あ………あの、………息苦しかったりしたら、仰ってくださいね」

 

「ムー………。柔らかいから、全然大丈夫」

 

「あ…………ありがとうございます。ご、ごゆっくりどうぞ」

 

 熱心な新人ウェイトレスである結沙が、御礼を言う時、まるで外国のメイドさんが「コーテシー」のお辞儀をするように、一瞬、膝を曲げて腰を落とす。その分だけ、オッパイがムニュっと変形して、君彦の顔に擦りつけられる形になる。君彦が結沙のオッパイの合間から「ムフフ」と笑い声を漏らした。この反応を、意図せず自分から引き出してしまうような形になっていたことに気がついて、結沙がさらに赤くなった。それでも、お客様が充分に満足するまでは、提供したメニューを自分から勝手に取り下げる訳にもいかないので、我慢してそのままの姿勢を保つ。

 

「はい。OK。ありがとう。結沙ちゃん。柔らかいし、オッパイ、綺麗な形してるよね」

 

「………あ、ありがとうございますっ」

 

 結沙は強張った笑顔を作って返事をする。もし、ここにいる男子が、お店のお客様じゃなくて、そのへんの他校の男子だったとしたら、ビンタしてやりたくなるような馴れ馴れしい物言いだけれど、ここはグッと我慢して、大事なアルバイトに励む。結沙は一旦、君彦に背を向けて、ヘソまで外していたシャツのボタンを留めなおそうとする。その作業を、終わらせてくれない声がかかる。

 

「結沙ちゃーん。こっちにも、オッパイ・サンド、1つね」

 

 君彦の隣に座っていた、保が注文をしてきたのだ。せっかく身だしなみを整えようとしていた結沙が、また固い営業スマイルで振り返る。

 

「は、はーいっ。ただいま伺いますっ。……………ご注文ありがとうございますっ。当店自慢のスペシャルメニュー。オッパイ・サンドになります」

 

 結沙は剥き出しになっている自分の胸を、せめて両腕で出来るだけ隠しながら隣の席へ急ぐと、さっき君彦に伝えた時に保にもきっと聞こえたであろう台詞を、そっくりそのまま繰り返した。お店のルールなのだから、仕方がない。ムギュっとオッパイを押しつける。保は、鼻を結沙の左右のオッパイに挟まれる形になりながら、くぐもった声を出した。

 

「…………厳密には、ダブル・オッパイ・サンド…………ね」

 

 彼の左手が指を指している、下の方を見てみると、奈緒美先輩が、保のオチンチンを、自分の白いオッパイで挟みこんでもらっていた。美人でプロポーション抜群な奈緒美さんは両手で絞り込むようにして、懸命に保のオチンチンを挟み、しごいている。

 

「………あ…………、はい………。失礼しました。お客様」

 

 結沙は、一応謝ってみたものの、自分が何に謝っているのかもよくわからないくらい、頭がクラクラしてきた。

 

 自分のしていること、自分と密着している保と、彼に密着している奈緒美さんのしていることに目を向けていると、頭がおかしくなってきそうな気がして、結沙は無意識のうちに周囲を見回してみる。すると咲良と野乃の2人がペアになって、1人のお客様の顔を左右から挟み込むようにしてオッパイを押しつけている様子が見えた。彼女たちのオッパイのサイズが、1人では1人のお客様を満足させるのに不十分だと、お客様に判断されたのだろうか? それとも、自分たちでそう判断したのだろうか? どちらにしても、少し悲しいミッションに思える。それでも咲良も野乃も、そんな感情を表に出さずに、可愛らしい営業スマイルでメニューの提供に勤しんでいた。そんな2人の向こう側に見えるのが梨々香。当たり前のようにオッパイを丸出しにして、その立派なバストの上から、シロップのようなものを垂らしていた。その左右のオッパイを、2人の男子が仲良く分けて、吸いついていた。2人で1人のお客様に応対している咲良と野乃とは正反対だ。お客様に乳首を吸われた梨々香が、気持ち良さそうにアゴを上げる。

 

(あんなことも、されちゃうんだ……………。…………んあっ………。)

 

 結沙も、眺めていた梨々香と同じように、天井を仰いで喘ぐ。

 

「ちょ………ちょっと………、お客様っ………」

 

 結沙が思わず抗議の声を上げようとする。目が合った保が、ニヤッと笑う。

 

「………駄目?」

 

 お客様に面と向かって質問されると、結沙の抗議の気持ちがシュルシュルと小さくなっていってしまう。思わずシュンと俯いてしまった。

 

「………い……いえ………。あの…………ごゆっくり………。お楽しみ………くださいませ」

 

 何か釈然としない思いに小首を傾げながらも、結沙がヒクついた笑みで、やっと答えた。保がさらに強めに乳首を吸い上げると、慣れない快感と刺激に、結沙は背を反らして悶える。お客様から注文いただいたオッパイを、顔から離さないために、必死の思いで両腕で保の頭を抱え込み、身を捩りながらもオッパイをお客様の顔に当て続けた。

 

(お………お仕事って………、大変だよぉ~………。)

 

 結沙は、自分がいずれ新人ウェイトレスからベテランへ、そしてバイトチーフへ昇格するようなことがあったら、店長に、お店の女の子たちの労働環境改善を訴えようと、心に決めた。けれど、それまでは、与えられたお仕事をきちっとこなさなければ………。

 

「結沙ちゃーん」

 

 背後の君彦が、また声をかけてくる。結沙は乳首を吸われる刺激と、妄想じみた決意から不意に我に返って、後ろへ笑顔を返す。

 

「はっ………、はいっ、御用でしょうか?」

 

「こっちに、今度はオシリ・サンドをお願い」

 

「はいっ………。ただいまっ………。あの、お客様………。オッパイ・サンドの方は、もうお下げしても………」

 

「まだ、味わってるから、下げないでくださーい」

 

「あっ………はい。かしこまりましたっ…………。あの、お客様、オシリ・サンドですが、もう少々お待ち………」

 

「出来るだけ早くお願いしまーす」

 

 お客さんたちの要望に『挟みこまれた』かたちになった結沙は、半分パニック状態でスカートを捲り上げる。ありがたいことに、たまたま結沙は、下にもショーツを穿いていなかった。

 

「かしこまりましたっ。…………こちらっ……………当店……………、自慢のっ…………お…………オシリ……………サンドに………なりますっ」

 

 左側に首を捻って、顔を突き出した君彦めがけて、結沙はピョンピョンと跳ねてお尻をくっつけようとする。2人のお客様がもう少し椅子を動かして距離を詰めてもらえれば楽なのだが、それをお客様に要求することも出来ず、結沙はオッパイとお尻を制服から出した格好で、内股気味にピョコピョコ跳ねながら、必死でお客様たち2人のオーダーに、同時に応えようと体を張っていた。お尻が君彦の顔に当たらない時は振り向いて謝り、ジャンプを頑張りすぎて、お尻が強く当たってしまった時も謝る。その合間にも保が乳首を強く吸うと、身悶えしながら保の体にしがみつく。サービス業は、そして飲食業は、過酷な仕事なのだと、新人アルバイトの結沙は痛感していた。

 

 

「おーい。みんな、そろそろメインディッシュに移ろうかと思うけど、どう?」

 

 弘太の声が聞こえると、結沙はお客様たちに解放される。ホッとした気持ちと、ほのかにゾクッとする不穏な予感を胸に、結沙は複雑な思いで声の主を見た。

 

「ウェイトレスさんたち、お疲れさまでした。………じゃ、そろそろサークル・サポーターの先輩たちに、シャワーと、簡単な引継ぎをお願いしよっか? ………『スパイラルの旅行者』の皆さんは、サークル棟1階の、女子シャワールームへどうぞ。奈緒美先輩が先導してくれるかな?」

 

 弘太の言葉とともに、ウェイトレスたちのお給仕が止まる。裸で男子たちの足の間でしゃがみこんでいた美女たちが、ゆっくりと立ち上がった。結沙の、シャツのボタンを留めなおそうとしていた手が、呆気なく体の横へダランと下がる。せっかくの、無防備な胸を隠すチャンスは、また失われてしまったようだった。

 

 弘太が指を一度、パチンと弾く。裸のままの「奈緒美先輩」と呼ばれる綺麗なお姉さんが、急に意識を取り戻したような顔で、振り返って結沙たちに告げた。

 

「………あ、それじゃ、皆さん。シャワールームに案内します。こっちのバスタオルを1人、1つ取って、行きましょう。廊下を歩くから、先生たちもタオル巻いてくださいね」

 

 バスタオル1枚を体に巻きつけただけの姿で、奈緒美先輩は部室を出ていく。結沙たちも、スカートは自然に膝付近まで降りてきたが、シャツはまだボタンを留められず、シャツの胸元がパックリ開いた状態のまま、フラフラと先輩たちについていくことになった。

 

 

「うちの学校、何年か前に女子も受け入れるようになって、急に設備をあっちこっちで拡張したから、変な配置になっていてね。女子シャワー室はプールと体育館の間にもあるんだけど、足り無さそうだったから、慌てて文サ棟にも追加したんだって。………でも、予定したほど、女子生徒が入学してないから、いつもガラガラなんだけどね。………………あ、ちなみに私が女子生徒2期生で、そっちの詩織先生は、女子生徒も怖がらないように、入学募集が始まった時に新卒で赴任したんだって…………。ねぇ、先生」

 

「はい……。奈緒美先輩の仰る通りです」

 

 肩が隠れるくらい、ちょっと長めの黒髪が印象的な、美人教師は、生徒であるはずの奈緒美先輩に対して、自分の上級生でもあるような口調で返事する。穏やかな、というか、夢でも見ているような笑顔で、先を行く奈緒美先輩の後ろを従順な仕草でついて歩いている。

 

「………あ、一応このサークルに、サポーターとして巻き込まれるのが、私の方が早かったから、先生は後輩なんだ。私は別に、先生なんだから私たちに敬語で喋る必要無いよ、って言ってるんだけど、ユウマの入れた暗示だったかな? ずっとこうみたい。ね? 先生」

 

「はい。奈緒美先輩の仰る通りです」

 

 詩織先生は歌うように答える。その声色は、まるで奈緒美先輩に付き従うことが嬉しいことだと言っているようだった。他にバスタオルを巻いただけの姿で廊下を歩いている「先輩」は圭さんと花蓮さん。やはり、カレンさんの歩き方が颯爽としていて、一番格好いい………。結沙はそんなことを、取り留めも無く、ボンヤリと考えながら、ただ言われた通り、後をついて歩くのだった。

 

 

「はい、ここ、シャワールーム。これからうちのサークルに遊びに来るたびに、ここ使うことになると思うから、覚えておいてね。じゃ………『スパイラルの旅行者』さんたちは、バンザイして、先輩たちに制服を脱がしてもらってください。………沢山、汗かいたり、男子に舐められたりしたでしょ? 一旦、キレイになろっ」

 

 奈緒美先輩がそう言うと、結沙の両手が勝手に宙に上がる。バンザイの姿勢になって、体が動かなくなる。逆らおうという気持ちも起きなかった。………見ていると、詩織先生や花蓮さん、圭さんもバンザイの姿勢になっている。バスタオルがハラリと落ちて、見応えのあるナイスバディがまた、結沙たちの目に晒されてしまった。

 

「あっ………。間違えた。『今日から加わった、スパイラルの旅行者』さんたちだけ、バンザイの姿勢で待機して。元からのサポーターさんたちは、新人さんの制服、脱がしてあげよう。…………裸になったら、シャワー始めて。………あ、『引継ぎ』も一緒にね………」

 

「はい」

「わかりました」

「はい。奈緒美先輩の仰る通りです」

 

 3人の、両手を上げていた全裸の先輩たちが、口々に返事をすると、咲良たちの前に1人ずつ立つと、シャツの残りのボタンを外し始める。結沙の正面には奈緒美先輩が来て、中腰になってシャツを脱がせにかかる。結沙は何の抵抗も出来ずに、ボンヤリと前を見て、されるがままになっていた。

 

「はい。こっちおいで」

 

 奈緒美先輩が手招きすると、全裸にされた結沙は、両腕を上にあげたままの姿勢でシャワールームの個室スペースに入る。先輩はカーテンを閉めず、そのままシャワーの蛇口を捻った。最初、冷水がかかった結沙の白い体に鳥肌が立つが、すぐに水温が上がって、温かいお湯になった。ボディソープを両手に泡立てていた奈緒美先輩が、結沙の体にソープの白くて細かい泡を塗りたくる。結沙は真っ直ぐタイルを見つめて、無反応を貫いていた。

 

「………あ………そうだ……。結沙だったよね………。あなたは、こうやって、女の子に体を洗われるのも、大好きだよ。感じやすくなるし、女同士の優しいタッチでイチャイチャするのも、本当は大好き。この快感には逆らえない。抵抗出来なくなる。エッチな気持ちも隠せなくなる。洗われているうちに、このカラダはどんどんエッチになっていくよ」

 

 耳元で奈緒美先輩に、ややぶっきらぼうな言い方で言われた途端、無反応だったはずの結沙の顔が緩む。両手は体の上にあげたまま、触れらた部分をヒクっと震わせて、内膝を擦り合わせるように身を捩る。

 

「ふっ……………んんっ…………ぁあんっ…………」

 

 思わず声が出てしまう。今日初めて会った女の人に、こんな、はしたない姿を見られていることを恥ずかしいと思うのだが、こうされるのが大好きなのだから仕方がない。結沙は女の人に体を洗ってもらうと、どうしようもなく感じてしまうこと。そしてそうなってしまう自分を隠せないし、この誘惑には一切逆らえないという自分の体質、性格を不意に思い出した。もうどうすることも出来ない。これが誤魔化したり、嘘で覆い隠すことの出来ない、結沙自身の本質なのだから。

 

「だから、これから私たちのサークルに遊びに来たら、帰る前に出来るだけここで体を洗っていったら良いよ。友達同士で体を洗いっこしたら、もし部室でたまに、嫌なこととかあっても、帰る時には、許せるようになるから。………ね?」

 

 ボディソープをたっぷり持った手で結沙の体を隅々まで撫で擦りながら、奈緒美先輩が言う。結沙はその言葉がどれだけ納得できるものか、考えることも出来ず、ただ悶えながら頭を縦に振ることしか出来なかった。

 

「さっきの様子から見て、多分、貴方は、小湊弘太のお気に入りなんだと思う。今年は彼がショーマンやったんだし、さっきまでの前菜パートでは貴方に指一本触れなかったから、この後、弘太に貴方の指名権がいくはずなんだよね。弘太は乱暴じゃないし、そんなにマニアックなこととか、サディスティックなこととか、してこないから、アイツに可愛がられるっていうのは、結沙にとっても、ラッキーなことだよ。弘太が求めるなら、結沙はそれに応じて、全力で弘太を大好きになろう。それが、結沙のためにも良いことなんだよ」

 

 温かいシャワーが結沙の頭から踵まで、彼女の汚れを洗い流していく。それに合わせて、奈緒美先輩が、結沙の体を綺麗にして、可愛がるように気持ちの良いところを刺激してくる。結沙はただ、言われるがままに両手を上げて立ち尽くしながら、奈緒美先輩の指や手のひらの刺激に身悶えして、感じていることを声で出してしまう。奈緒美先輩の言葉に頷く。なんだかこの、温かくて柔らかいシャワーが、結沙の心の芯からも、何かを洗い流していくような不思議な感覚に包まれていた。

 

「今日、この後、結沙のココに、弘太のオチンチンが入ると思うよ。痛くても怖くても、抵抗しきることは出来ないよ。結沙は『スパイラルの旅行者』だから。どこまで逃げても、同じようなところをグルグル回るだけ。………それどころか、逃げようとすればするほど、深みにはまる。ドップリと、弘太の支配下に入っていくだけなんだ。………でも、それは本当は結沙にとって悪いことじゃないよ。貴方の幸せへの近道なの。貴方は、催眠術師、弘太に見初められた、弘太の彼女になるべき人だから………。貴方は心の奥では、弘太が大好きだから」

 

 シャワーが当たる場所から少し体の位置をズラされて、バンザイポーズのままの結沙が奈緒美先輩に、洗われたばかりの股間を、さらにねちっこく弄られる。クチュクチュと音がたっていた。

 

「………どう? …………………」

 

 奈緒美先輩が結沙の顔の前に突き出した人差し指と中指には、ベットリとお湯とは違う、結沙の出した液がついていた。本能的に顔を突き出して口を開け、彼女の第二関節あたりまで、その指をくわえてしまう。結沙の大好きな味。幸福感に、結沙の表情が蕩けた。

 

「あはっ。ほら、やっぱり。これ、弘太のお気に入りの子にかける暗示だよ。………マーキングみたいなものみたい。思った通り、あなたは弘太とラブラブの仲になることが、もう決まってるみたいだよ」

 

 奈緒美先輩は愛おしそうに、結沙の頭を撫でる。その手で髪に、指を通して撫でつけた。

 

「今は、あなたの口で、幸せを目一杯、味わってるでしょ? ………これからはこっち………。結沙のアソコも、最高の幸せを、目一杯味わうことが出来るんだよ。それは弘太のオチンチンがココに入る時。そして弘太にココのなかで、思いっきり彼の精子を出してもらった時。もう、結沙のエッチな汁を口で味わうよりも、何十倍の幸せが、ここから溢れ出て、結沙をトロトロに溶かしちゃうの。最っ高な感覚だから、期待しててね。弘太の前では結沙の体は、とってもエッチなカラダになるの。………わかるでしょ?」

 

「…………はい…………」

 

 結沙は両手を挙手したまま、奈緒美先輩に頭を撫でられながら、無意識のうちに腰を突き出して、オネダリするようにいやらしくグラインドさせていた。

 

「私に言われたことは、催眠状態から覚めると、意識の表層では思い出すことが出来ないけれど、結沙の心の奥深く、そしてあなたのこの、綺麗な体が、全部覚えている。全部、本当のことになる。………わかったね? ……………それから…………ちょっと細かいけど、業務連絡的な引継ぎがもうちょっとあるから、またシャワー浴びよう」

 

 まだ腰をクイッ、クイッと動かしながら、結沙はシャワーの当たる位置に誘導されて、また温かいシャワーを全身に浴びる。その間にも奈緒美先輩は色々と結沙に囁きかけていた。結沙はただただ、頭を空っぽにして、まるで乾いた砂場がシャワーの飛沫を吸い込むように、頷きながら吸収していった。

 

 

 シャワーを終えて、バスタオルで体を拭いてもらった結沙たちは、行きの時の先輩たちと同じ格好、白いバスタオルを体に1枚巻いただけの姿で、2階の部室まで歩く。タオルはやっと結沙の胸の真ん中よりちょっと上から、太腿の上、3分の1くらいを隠してくれるだけの面積しかない。歩いていると裾がはだけてチラチラと腰骨から股間あたりまでが見えそうになる。階段を歩く時は下からは丸見えになっているはずだ。何人かの知らない男子とすれ違ったが、皆、その光景を楽しみつつも、思わせぶりな笑顔を奈緒美先輩に送っていた。

 

 

「おかえりなさーい。身も心もスッキリしたんじゃない? ………先輩たちに洗ってもらって、綺麗になったでしょ。…………ま、これからまた、グッチョグチョになるんだけど………。一旦みんな、『スパイラルの旅行』から帰ってこようか」

 

 部室に女子が全員入ったのを確認した弘太に言われると、結沙はとたんに冷静な意識を取り戻す。バスタオルが緩んでいないか、結び目を手で確かめながら、顔を赤くした。同年代の同性に体を隅々まで洗ってもらったことなど、これまで一度もなかった。それに他校とはいえ、学校の廊下をバスタオル1枚巻いただけの恰好でウロウロするなんて、普段の自分の素行からは、全く考えられない行動だったからだ。

 

「じゃぁ、さっき決めた組み合わせで始めよっか。皆、自由行動で、よろしく」

 

 弘太が言うと部室の中にいる男子たちが、それぞれ咲良や梨々香、そして花蓮さんや奈緒美先輩の前に1人ずつ立つ。野乃と詩織先生の前には、2人の男子が立った。結沙はこわごわ、弘太の顔を見る。目が合った。ポッと結沙の顔が赤くなる。バスタオル1枚を肌に身に着けただけの姿の女子たちが、男子たちに伴われて、ソファーや、マット、そして隣の部屋へと移動していく。皆、正気は戻っているはずなのに、なぜか抵抗せずに、おとなしく男子についていってしまう。野乃などは、潤んだ目で2人の男子を交互に見つめながら、小さい歩幅で小走りについていく。まるで、大好きな飼い主に付き従う、可愛らしいペットのような仕草だった。結沙はまた、弘太の様子を伺う。そしてまた目が合った。そのたびに、ポッと顔が赤らむ。下半身が勝手に、「キュッ」と疼いたような感触まで覚えた。

 

「結沙ちゃん。…………さっきから、もしかして、僕のこと、気になってる?」

 

 弘太がご機嫌な様子で聞いてくる。結沙は慌てて視線を逸らして顔を横に向けた。弘太の声はなぜかこの部室内で、他の男子たちの声とは違った響き方をしているような気がする。そして、思ったよりも、いい声だと、結沙は素直に感じてしまった。聞き心地良いというか、ずっと聞いていたくなるというか、結沙の耳に自然に馴染む音程と声質なのだ。(何時間か前、初めて会った時には全くそうは思わなかったのが、不思議でもあった。)

 

「べっ、別に…………。その、貴方がさっきから喋ってたから、また何か、言うのかと思って………」

 

「そっか。………でも、僕と結沙ちゃんの相性だったら、もう何も言わなくても、伝わっちゃう感じがしない? あと、僕のやりたいことが伝わったら、全力で従ってあげたいと思ったりしない?」

 

「ぜ…………全然そんなこと思わな………キャァッ。ヤダ、なんで………」

 

 否定する結沙の言葉の途中で、弘太が体の前で両手のひらを合わせて、ピラッと指先を、左右の指を離すように開いて見せる。それを見た結沙が、話の途中でなぜか反射的に、バスタオルの裾を両手で掴むと、自分からバスタオルの両端を引っ張って、ガバッと開いてしまった。体の前面が完全に丸出しになってしまっている。結沙は首をイヤイヤと左右に振ったけれど、手はバスタオルを開ききったままの状態で動かすことが出来なかった。

 

 弘太が自分の両手の指をパッと広げて、何かを放り出すような動きをする。結沙がそれを見た時にはもう、床に湿った布がバサッと落ちた音が聞こえていた。弘太が左右の人差し指を下に向けながら並べて、ゆっくりと片方の人差し指を角度をつけて根元から上げていく。それを見る結沙の視界がグラグラ揺れる。なぜなら彼女の左足がつま先立ちになって、もう片方の右足が水平に近いくらいまで伸ばされて後方に上げられているからだ。必死にバランスをとるために、結沙は両腕も前に突き出した。弘太が両手をクルリと回転させていくと、結沙もそのポーズのまま、ピョコピョコと跳ねて、ゆっくりとその場で回転する。完全に弘太のいる位置と反対側の方角を向いた時などは、高く突き上げられた足の根本、捩れた自分の大切な場所が見えてしまっていることを意識して、耳まで真っ赤になった。やっと360度、回転を終えた結沙は、バレエでいう「アラベスク」のようなポーズを維持したまま、もっと高く、ピョーン、ピョーンと左足一本で飛び跳ねさせられる。ジャンプのたびに、無防備なオッパイがブルンブルンと揺れるところを弘太に間近で見られている間、結沙はこの部室から消えて無くなりたいと思うくらいの恥ずかしさと戦っていた。

 

「も、もう、わかったから、イタズラしないで。足が痛いよ」

 

 ピンと水平に伸ばした右足も、体の全体重をつま先立ちで支えながらジャンプしている左足も、普段慣れない動きに悲鳴を上げている。結沙が弱々しい声を出した。

 

「あら、痛かった? ………ゴメンね。座って良いよ」

 

 弘太が自分の手をブラブラさせながら、一言発するだけで、結沙はアクロバティックで苦しいポーズから解放された。ペタンと床に尻もちをつく。

 

(………ちょっと優しいんだ………。)

 

 思わず、結沙の胸の奥がキュンとしてしまった。けれど、弘太はまた、2本の人差し指をくっつけたあと、ゆっくりと指先を離していく。床に座り込んでいた結沙の両足が、それに合わせてグーっと左右に引っ張られ、開いてしまう。

 

「筋肉痛には、ストレッチが一番だからね。両手を頭の後ろに組むと、効果が上がるみたいだよ。ほら、手が頭にくっついて離れない」

 

 簡単に、言われた通りになってしまう自分の両手が恨めしい。結沙は弘太の視線が自分の股間。ガバッと開かれた太腿のあいだで止まっていることを意識して、恥ずかしさに呻いた。どんなに脚を閉じたくても、限界まで開ききってしまう。恥ずかしさで体温が上がる。呼吸も荒くなってきた。

 

 弘太が2本の人差し指の指先をまた寄せていくと、結沙の両足が閉じて、彼女がホッとする。けれど弘太の指が遊びだすと、スラリと長い美脚はピタッと閉じたまま真上に上がったり、自転車をこぐようにクルクル回転したり、また限界まで左右に開いたりする。開いたり閉じたり、開いたり閉じたりを繰り返す。結沙は恥ずかしさで頭が沸騰しそうな思いだった。自分の恥ずかしい割れ目が、パカッと開いたり閉じたりを繰り返しているところを見られているから。………それだけではない。その部分が開いたり閉じたりするたびに、ピッチャッとか、二チャッとか、粘り気のある液体音がしてしまってるからだ。その音はどんどん大きくなる。完全に弘太にも聞かれてしまっている。この、はしたない、情けない音を消したい。音が鳴らないようにしたい。それなのに止まらないのは、結沙の大事な部分が、さっきからトロトロと、恥かしい液を垂れ流しているからなのだ。バスタオルが落ちた瞬間から、結沙は弘太の視線を自分の体で感じると、ごく自然に火照ってしまう。全身の、淡くまばらな産毛が総毛立つような感覚。そのゾクゾクする感触を喜んでいるような反応を示してしまっているのだ。もう下半身の疼きは、結沙が我慢できないくらいに高まっていた。

 

「もっ…………もう………。玩具にしないで…………。こんな…………晒しものにされるくらいだったら、……………はやく…………」

 

「………………はやく………。なぁに?」

 

 弘太がニコッと笑って質問する。その質問は凄く意地悪だと思ったけれど、同時に弘太の笑顔はクシャッとしていて、無邪気な雰囲気もあって、…………可愛いと言えなくもないと、結沙は心の奥底で感じてしまっていた。

 

「その…………はやく………………。え、これも言わないといけないの? ………………ホント意地悪……………。え………、その、どうせ、私と………するんだったら…………。私を操って、無理矢理、するつもりなんだったら………。こんな風にイジメてないで……………。早く…………シテよ…………」

 

 結沙は迷いに迷った挙句、ボソッと呟いた。こんなの、私が思ってた初体験なんかじゃない。私がこんなことを求めてるんじゃない。これは弘太が私を操ってるから、しょうがないんだ。そう思うと、少しだけ、気持ちが軽くなって、苦しい思いが弱まった気がする。

 

(そうだ………。私は、どうしたって弘太の思い通りになっちゃうんだから、そうするしかないよ。………逆らおうとしたって、絶対無理じゃん。こんなに…………シタいのに………。)

 

 結沙はそう言い聞かせた。嬉しそうな顔をして、弘太が覆いかぶさってくる。

 

(あ…………、やっぱ、こいつの笑顔、可愛い…………かも………。)

 

 そう思っただけのはずなのに、結沙は覆いかぶさってきた弘太に対して、首を伸ばして顔を近づけて、自分からキスを求めていた。

 

 キスしながら弘太が結沙の体を抱きしめる。ギュッとされただけで、自分の全身から蕩けるような快感が溢れ出る。少し体を離した弘太がオッパイを揉むと、揉まれた結沙は身悶えしながら、背筋を反らして、ブリッジしかけるような体勢をとってオッパイを自分からも弘太の手のひらに押しつける。気持ち良すぎて何も考えられない。もっと触って欲しい。もっと素肌を密着させ合いたい。弘太と1つになりたい。気がついたら結沙は両足を弘太の腰の後ろに回して、自分の体を少し浮かすようにしながら、彼のシャツのボタンを外していた。

 

「結沙ちゃん、積極的………」

 

 弘太が呟く。

 

「…………貴方がこんなに焦らすからでしょっ!」

 

 結沙は自分を散々弄んでいる弘太に、あらためてこんなことを言われたことに腹を立てた。腹いせに、白い開襟シャツの最後のボタンが1つ留められているのも気にせず、裾を思いっきり左右に引っ張ってやった。プラスチックのボタンは、ブチっと音を立てて飛んでいった。露わになった弘太の上半身に、結沙が待ちかねたといった勢いで抱きつく。素肌を広い範囲でペッタリ密着させると、それだけで結沙は、天国にいる気分になった。横から手を回してきた弘太が結沙の乳首を摘まむ。痒みと痛みのコーティングに包まれた特大の甘い快感が、胸から全身へとスパークする。天国が、さらに眩しい光に満ちた。

 

「結沙ちゃんは、どうして欲しいの?」

 

 弘太が聞く。

 

「…………もう………質問………しないで………。貴方の好きにしていいからっ」

 

 結沙がお願いするけれど、決めるのは彼女ではないようだ。弘太は耳元で囁く。

 

「正直に、僕にして欲しいことを教えて。思ったことを隠さないで。もう止まらないよ」

 

 頭がジーンと痺れる。結沙の次の行動が決まっていってしまう。その感触だ。

 

「もっと強めに、乳首をイジッて欲しいの………。体も色んなところ舐めて。私も舐めさせて欲しい。下の方も触って。ベタベタ触って、舐めまわして、グチャグチャにして欲しいっ。絶対、気持ちイイと思う。私、なんでか、そうされるのが好きだってわかるの。初めてなのに。さっきシャワーが終わってから、今までも、ずっと待ってたと思う。なんでだろ。…………好きなの。弘太の声が気持ちいい。貴方の指で触られるの大好き。貴方の唾が、すっごく美味しい。ロイヤルミルクティより美味しい。甘いの。肌で甘みがわかるの。………なんでだろ。………これノンシュガーなら、甘くても太らないかな? お得な感じ? …………って私、なに言ってんだろ………。あ、ここも。脇の下も舐めて。恥ずかしい………けど気持ちいい。くすぐったいのも気持ちいい。あっ、ちょっと痛いくらいも気持ちいい。好きっ。弘太にされること、全部好きっ。全部気持ちいいっ。私のアンテナが全部、バカになっちゃったみたい…………。それも好きっ」

 

 ダムが放流を始めたみたいに、急に結沙は、思ったことを全部口から垂れ流し始める。どんなに恥ずかしくても、変でも、バカみたいな感想でも思ったことでも、何も隠せなくなった。呼吸が苦しくなるくらい、次から次へと、言葉の濁流を吐き出してしまう。

 

「………わかったわかった。ちょっと喋ること、絞って良いよ。でも、僕が聞きたそうなことは、ちゃんと話してね」

 

「………………好き………。小湊弘太が大好き。…………意地悪されるのも…………イタズラされるのも……………催眠術で………操られるのも………………。…………………大好き。すっごく気持ちいい…………。ずっとして欲しい…………。エッチも…………。最後まで、……………して………ほ……しい………」

 

 弘太が目を閉じて、ジーンと何かに感じ入っているような表情を見せた後で、目を開けてクスっと笑った。

 

「あ………笑顔、可愛いっ…………」

 

「いいんだね。…………結沙ちゃんのヴァージン。僕がもらうよ」

 

「ヴァージンだけじゃなくて……………、私の全部をもらって………。私を貴方のモノにしてよ………」

 

 結沙がそれだけ言った時に、不意に頭を撫でられた感触が蘇った。柔らかい女性の手。奈緒美先輩にシャワールームで頭を撫でられた時の感触だ。それはまるで、奈緒美先輩が結沙の言葉と行動に満足して、褒めてくれているような、不思議で安らぎに満ちた錯覚だった。

 

 両膝をついて力を入れた弘太が、トランクスを下ろす。彼はいつズボンを脱いだのだろう。もしかしたら結沙が脱がしたのだろうか。そんなことを考えているうちに、トランクスから弘太のオチンチンが出てくる。ずっと待っていたものだ。結沙が見る前から大好きだったものだ。一瞬、その血管の浮き出た怒張具合にビクッとしてしまったが、その力強さにまた、惚れ直す。今思うと、これが今まで結沙のアソコに収納されていないということの方が、不自然とすら思えた。

 

 膝を割った状態の、完全に無防備な結沙の下半身に、弘太の腰が近づく。彼の両膝に力が入る感触。結沙は自分から腰を浮かして、弘太を受け入れようと本能で動いていた。結沙の腰を弘太の両手が掴む。オチンチンの先が、結沙のアソコに何度か触れる。上手く入れる場所と角度を探っているようだったが、まるでオチンチンで結沙のアソコにキスをしてくれているようだ。そう結沙が思った瞬間に、甘い感触が下半身に広がった。また、だらしなく、恥かしい液を垂らしてしまう。そこに、弘太がグッと入ってきた。途中で膜の抵抗が、侵入者を押しとどめよう、押し返そうと、儚い試みをする。結沙が両手を弘太の背中に回す。2人で、呼吸を合わせるように、一緒に結沙の処女膜を裂いた。燃えるような痛みが走って、結沙が顔をしかめる。

 

「痛みは減っていくよ。気持ち良さが勝っていく」

 

 弘太が慌てて言おうとするのを、結沙が止めた。

 

「ちょっとは、痛くても大丈夫だから…………。その方が、………初めてを、体に………刻みこんでおける気がするから………。お願い………」

 

 結沙が言うと、弘太は頷いた。彼が暗示を囁くと、痛みは少し引いたけれど、まだ下半身をズリズリと責める。肌がヤスリで削られるようなひどい感触。けれど結沙は唇を噛んで、それに耐えた。結沙のカラダは、彼女が思っているよりも、全然、思っていた十倍もエッチだった。エッチにどん欲だと思った。だから、結沙は、こんな自分の体に、この痛みと一緒に、教えこみたかった。

 

(弘太が私の、初めての人。私が大好きなのは弘太。私は弘太のもの………。他のオチンチンは、ノー。…………ノー・アザー・オチンチン。おい、わかったか。エッチなカラダめ………。)

 

 血と愛液が潤滑油のような役割を果たして、結沙の体内では弘太のオチンチンの強引な侵入を、ジリジリと受入れ始めている。初体験で、早くもその摩擦の喜びにダラダラと愛液を垂らして歓喜している、「エッチなカラダ」に対して、結沙は懸命に言い聞かせていた。同時に、自分が快感のせいで頭がおかしくなっているような不安も、かすかに感じてはいた。

 

「結沙ちゃんのアソコのナカが、僕のを、ギュッと絞めつけてきてる………」

 

 これはただの、弘太の感想なのかもしれなかった。けれど、耳元でそう囁かれると、結沙の下半身にはさらに力が入ってしまう。結沙は弘太の言葉を絶対の真実として受け止めて、自分の心と体と行動でそれを再現してしまうのだった。もうすでに、痛みよりも気持ち良さが勝つようになっていた。

 

「…………はぁっ……………ずっと……………。欲しかったから……………。離したくなくて…………」

 

 荒い呼吸で丸い胸を揺らしながら、結沙がやっと喋る。弘太がもう一段、深くオチンチンを押しこんでくると、彼女はアゴを天井に向けて喘いだ。お腹の奥が圧迫されて苦しいようで、やっぱり気持ち良さが勝ってしまう。結沙は本当にこの、一つ一つの感触・感覚、気持ちの揺れ動きが好きだった。この一秒一秒を両手で抱えて、抱きしめたい気持ちだった。女子に生まれて来て、弘太に出会えたことに感謝した。野乃に、この学校に連れて来てもらったことに感謝した。スパイラルサークルのメンバー皆に、この状況を作ってくれたことに感謝した。嬉しくて、気持ち良くて、ボロボロと涙を零した。気がつくと、涎も垂れて、鼻水も少し出てしまっている。顔をクシャクシャにして、言葉と吐息の中間のような声を漏らしながら、全力で弘太と結合している快感を味わいつくそうとしていた。

 

 弘太の息が結沙の顔にかかる。嬉しい。好きな人の、大好きな口から出た息だ。今度は彼の呼吸と合わせて、自分も息を吸ったり吐いたりしてみる。呼吸を合わせながら腰を押しつけ合うだけで、結合した性器が生む快感が増したような気がする。共同作業なのだ。お互いが気持ち良くなれるのだ。コツがわかってきたような気がして、結沙はますます嬉しくなる。

 

 ビッショリかいた汗のせいで、弘太のグラインドのたびに床を結沙の背中が少し滑る。こんなに汗をかいて、きっとさっきのボディソープの良い香りも、飛んでしまっているだろう。発情している結沙の体臭は、自分ではわからなくても、匂うかもしれない。弘太に嫌われたら……と思うと、胸がギュッと押しつけられるような不安にかられる。けれど自分の体臭と、この大好きな弘太の体臭とが混ざり合って1つの空気になっていると思うと、ゾクゾクした嬉しさの方が勝つ。出来ることなら、ビニール袋にこのあたりの空気を詰めこんで、家に持って帰りたいとすら思った。

 

 

 弘太が腰の動きを早く、激しくしていく。結沙は荒波のような快感に翻弄されながら、必死で弘太の腰から離れないように力を入れる。自分からも腰を動かした。今、乱れきった自分の顔が酷いことになっているのはわかっている。せめて必死に自分でも腰を振って力を入れてオチンチンを締めつけて、弘太に気持ち良くなって欲しいと思って力を振り絞った。可愛いオンナだと、好きな人に思ってもらいたかった。

 

「………もうすぐイキそうだ………」

 

「…………はい………。結沙は………、………あはぁっ………。もうすぐイキそうです………」

 

「あ、いや、ゴメン、今のは、僕のことね」

 

「はい………。でも、私も、…………普通に…………もうっ…………。…………イキそうっ」

 

 自分で自分の体を触って確かめようとしたことは何回かあった。けれど、この先に何か、まるで自分自身が反転してしまいそうな、怖いものがあると思って、結沙は今まで、イクまでしたことはなかった。それでも今、初めてのセックスで、自分がイク寸前になっていることは本能的にわかった。

 

 彼女のナカを激しく行ったり来たりして、空気入れのように結沙の快感を膨らませてくれている、弘太のオチンチン。それが、今までよりも、もう一段階、大きくなったような気がした。頭の奥がジーンと痺れ、そのなかで白い火花がチカチカッとほとばしる。こめかみのあたりがギューッと押しつけられたようになったあとで、下半身の、そして体中の腱がビーンッと突っ張る。目の前が真っ白になると、結沙の下半身はビクビクッと痙攣して、熱い液を股間から噴き出した。ほとんど同じタイミングで、弘太がビュッとオチンチンから熱いものを出す。お腹の奥の奥まで、放出されたものが届いてピシャっと跳ねたような気がした。真っ白に光っていた視界が、ゆっくりと暗くなる。嬉しすぎて、気持ち良さ過ぎて、結沙は気を失っていくのだった。

 

 

 

「…………ん…………………。んんっ…………。あれ? …………わたし………」

 

 結沙が目を覚ますと、マットの上に、弘太と手を繋いだ状態で並んで寝ている自分に気がついた。申し訳程度にさっき巻いていたバスタオルが体にかけてある他は、全裸だった。股間に手をやると、恥かしい液と血と、弘太の精液の混ざり合ったものでベトベトになっている。気絶した結沙をマットに寝かせたところで、弘太も力尽きて、急に眠くなったといった様子だ。今日のショーの準備など、彼は彼で色々と気疲れしたり、体力を消耗させることも多かったのだろう。結沙は、主に自分の体の上にかかっていたバスタオルを、そっと弘太の体にかけてやった。

 

 部室の四隅ではまだ、セックスやペッティングに勤しむカップルがいる。皆、それぞれ自分だけの世界に没入しているようだ。結沙は胸と股間のあたりを何となく腕でカバーしながら、裸のまま、部室の備品を拝借しては、弘太の寝ているマットのところへ戻ってくる。普通の紙のティッシュの他に、ウェットティッシュとハンドタオルを手に入れることが出来た。バスタオルの下の方をペロッと捲ると、自分の体よりも先に、小湊弘太の下半身を綺麗にし始める。オチンチンの周りには結沙の血と、体液の混合物がベットリ付いている。それを丁寧に拭き取った。陰毛にくっついた精液を取るのに、思ったよりも時間がかかったが、やがて綺麗になる。結沙に何度も触れられたためか、弘太のオチンチンはまた少し、元気になっていた。

 

「…………あの…………。これから、色々、お世話になります。………よろしくお願いします………」

 

 変かとも思ったが、結沙は一応、寝そべっている弘太の横に膝をついて、弘太のオチンチンにお辞儀をしてみた。少し、迷ったあとで、顔を近づけて、オチンチンの先に、チュッとキスをしてみた。弘太が起きないように、ソーっと気をつけながら………だ。念のために彼の顔を見てみると、少しだけ微笑んだような気がして、ギクッと肩をすくめる。………しばらく無反応なことを確かめると、結沙はやっと安心して、自分の体の後始末に移ることが出来た。弘太の体に背を向けて、両膝を開いて、股間を拭く。大切な部分はまだジクジクと痛んだ。おヘソの下のあたりを拭こうとして、自分の血がほとんど混ざっていない、ほぼ弘太の精液のみに見える、粘液を見つけた。なんとなく、指で拭って、自分の顔に近づけてみる。雨上がりの森に、ハイキングで入った時のような匂いがした。パクっと指を口に含む。弘太の精液だと思うと、甘みが口のなか一杯に広がる。ウットリとした表情になって、結沙は自分の指先を、チューチューと音を立てて吸った。

 

「結沙ちゃん、付き合おうよ」

 

「ブッ……………………。………起きてたの? ……………ちょっと、タイミング………」

 

 背中から弘太に不意に声をかけられた結沙が、びっくりして指も口の中の甘い汁も、噴き出してしまう。後ろから見ると結沙は、お尻丸出しで両膝を割ってしゃがみこみ、指を舐めているという、最悪のポーズの時に、告白されたのだと思うと、恥ずかしさに頭がクラクラした。なんと答えるべきか、言葉に迷っている間に、結沙のお尻を弘太がムギュっと掴む。

 

「キャッ………。何するの! ………私まだ、考え中なんだけど………」

 

「じゃあこうしようか、………僕のことが好きか嫌いか、僕の彼女になりたいか、なりたくないか。僕が指を鳴らすと、結沙ちゃんの本音が口から大声になって飛び出すよ。部室をグルっと行進しよう。僕が止めて良いっていうまで、大声と行進が止まらなくなる………」

 

「そんなこと、止めてよっ。………ちゃんと答えるから、それだけは………」

 

 パチンッ

 

 音が鳴ったのを聞くと、結沙の体は素っ裸のまま、ビシッと直立してしまう。

 

「私は弘太が大好きですっ。小湊弘太の彼女になりたいですっ。私は弘太が好きですっ。弘太の彼女になりたいですっ」

 

 部室の隅で自分たちの世界に没入していたカップルたちも、思わず振り返って、笑ってしまう。裸の美少女が両手両足をキビキビと振り上げて、またブリキの兵隊になったかのように、部室の中を行進する。背筋をピンッと伸ばして、大声で恋心を宣言して回る、思春期の少女姿を見て、応援したいと思わない人はいないようだった。

 

「もうやめて………やめさせてーっ。…………大好きですっ。弘太が大好きなんですっ。彼女になりたいですっ」

 

 恥かしさと、みっともない姿を隠すことも出来ない情けなさとで、結沙の眼に涙が溜まる。それを見た弘太が宥めるように声をかけてくる。

 

「じゃ、最後にそこの窓を開けて、大声で1回叫んだら、今の暗示は解けるよ」

 

「ひーっ、ひーっ、…………やーっ…………もう………………」

 

 進路を変えた結沙が窓際まで行進すると、手が勝手に薄手のカーテンと透明な窓を開け、肺が勝手に空気を限界まで吸い込んでしまう。

 

「わ・た…しっ! よ・し…ざ・わっ! ゆ・い…さ、はっ! こ・み…な・とっ! こ・う…たが、だ・い…す・き…ですっ! か・の…じょ・に、し・て…ほ・し…い、ですっ! もっと・だ…い・て…ほ・し…い・ですっ!」

 

 一言一言、声を学校の敷地の外までも飛ばすくらい、大声を張り上げてしまった。結沙は自分の体が自由を取り戻した瞬間に、窓を叩きつけるように閉め、カーテンを千切れそうな勢いで閉じると、窓の下の壁にしゃがみこんで頭を両手で抱えた。最後の一言は、弘太に指示されたわけでもないのに、はずみで叫んでしまったのだ。さっきの窓の外の光景を思い出す。文化サークル棟の外は校内の西の端にあるせいで、そこまで近くを歩いている人は多くなかったが、皆立ち止まって、2回の窓から大声で宣言する、オッパイ丸出しの女子高生の姿を、驚いた顔で見上げていた。

 

「もうヤダ……………。最悪すぎる…………」

 

「大丈夫だよ。結沙ちゃん。僕も男だから、ここまで体を張って告白してきてくれた、君のことを、責任もって大事にするよ」

 

 能天気な慰めを投げかけてくる、スキャンダルの仕掛け人を、結沙はジトっとした目で睨んだ。

 

「あんた………。私を彼女にしたいの? ………玩具にしたいの? ………それとも実験のモルモットか何か? …………はっきりさせなさいよっ」

 

 結沙がワナワナと肩を震わせながら問いただすと、弘太はあっさりと笑って答えた。

 

「もちろん、全部だよ。………こんな可愛くて真面目で、被暗示性も最高な子、滅多にいないし。正義感強くて優しくて頭も良くて、スタイル抜群。暗示を入れたらエロエロにもなってくれる。あと超美乳でしょ。1つのカテゴリーに納めるには、もったいなさ過ぎる逸材じゃん。だから僕のモノにしたんだ。大事にするから、許してよ」

 

(絶対許さないっ!! ………………って…………。くっ…………。ちくちょう………。笑顔、可愛いなぁ………。)

 

 平手打ちしようと、右手を振り上げた結沙だったが、顔をクシャッとさせて笑う弘太を見ると、胸の奥がキュンキュンして、つい見惚れてしまう。気がつくと、ビンタをお見舞いするはずだった手は弘太の後頭部に回っていた、結沙は弘太のホッペに熱烈なキッスを捧げていたのだった。

 

 

 。。。

 

 

「………結沙ちゃん、彼氏出来たんだよね………」

 

「…………ん……………。聞こえてたでしょ………。私の絶叫………」

 

 野乃と結沙、そして咲良と梨々香は、夜になっても学園祭で盛り上がっている崇泉院学園高校を後にして、トボトボと家路を歩いている。最初は皆、無口だったけれど、沈黙に耐えられなかったのか、野乃が一番最初に声を出した。結沙の、そんな野乃への返事は、いつもと比べて、優しくないトーンになってしまっていた。そのことに少し罪悪感を感じた結沙が、言葉を繋ぐ。

 

「野乃も、出来たんだよね、彼氏。…………一応……………おめでとう…………だよね………お互い…………」

 

「………うん…………5人。………………初めて、男の人と付き合うことになったんだけど…………。一度に5人と、お付き合い…………。ママに、何て言おう………」

 

「…………絶対、言わない方が良いって。野乃ママ、お嬢様育ちだし保守的だから、5股を許してくれるわけないでしょ」

 

 咲良がシレっと答える。彼女は、今日、急に彼氏が出来たりはしなかったようだ。但し、生徒が4人出来た。非公式な研究会が急遽設立されたらしい。『性教育の実地演習』がテーマで、彼女は先生をしたり、共同研究者になったりと、これから忙しくなるらしい。

 

「アタシも微妙なんだよねー。彼氏がいるって、あんだけ言い続けたのに、気がついたらセフレが6人出来ちゃった。…………どうしてか、断れなかったんだよなぁ~。明人にバレたら、アウトだよね」

 

 梨々香が髪を弄りながらボヤく。そこへ咲良が咳払いをした。

 

「あの言っとくけど、野乃ママにも、明人君にも、あと結沙の家族や学校の皆にも、今日会ったことは、絶対知られないようにしないと駄目だよ。下着を無くしたことも、誤魔化さないと駄目。…………だって、スパイラル・サークルの秘密をバラすことに、繋がっていっちゃうでしょ?」

 

(『スパイラル・サークルの秘密をバラす』…………。確かに、それは絶対駄目っ。これは私たちだけの、秘密にしておかなきゃっ)

 

 結沙は咲良の言うことに大いに納得して、何度も頷いた。頭の中で、何かの鍵が、カチャリとかかる、音が聞こえたような気すらした。

 

「そっか…………。そだよね……………。秘密、増えちゃうな…………」

 

「あの、小湊弘太ってのに、やられたね…………。あんなにアッサリ、あんなに強力に、催眠術って、かかるもんなんだ…………」

 

「そうだよね。私はいつもボーっとしてるって言われるから、しょうがないけど、咲良ちゃんまで、あんなふうに、皆の前でオシッ……」

 

「し・て…い・な…い」

 

「…………イ、イエッサー………。全部、悪いのは、弘太君とあのサークルの人たちだよねっ」

 

 また咲良の迫力に押しこまれて、野乃が誤魔化そうとする。野乃の気持ちは痛いほどわかるのだけれど、さっきから結沙の胸も苦しくて仕方がなかったので、一言だけ、お願いさせてもらう。

 

「あの…………………野乃………。貴方の言う通りだと思うんだけど………。それで、ほんっとに言いづらいことだし、都合の良いお願いなんだけど…………。その………、弘太の悪口みたいなのは…………言わないで欲しくって…………。その、私で良かったら、土下座するし、明日から貴方のパシリにでも、なんでもなるから…………」

 

 4人のあいだに、重い沈黙が流れた。

 

「ごっゴメンね………。結沙ちゃん。………そっか………。結沙ちゃんの彼氏だもんね………。あははっ。誰も悪くないよ。………しょうがない………。しょうがない………かぁ………」

 

 4人で溜息をつくしかなかった。風が吹くと、肌に触れるシャツの感触で、ノーブラで歩いている自分を意識させられる。4人の下着は今日あったらしい『ジャンケン大会』の賞品として消えていってしまった。それでも奈緒美先輩たちが、サークルの「備品箱」から、ショーツを持ってきて貸してくれた。ショーツとナプキンでガードしていないと、ロストヴァージンした結沙と野乃は、帰路にもまた血が垂れてくるかもしれない、と奈緒美先輩が気を利かしてくれたのだ。

 

「今日は皆、疲れてるし、夜もすることあると思うから、このまま解散で………」

 

「ん…………。じゃ、明日………」

 

 咲良の申し出に、皆、重く頷いて、トボトボとそれぞれの家へ帰る。皆の姿が見えなくなった後、結沙の足取りは少しだけ軽くなった。

 

(コンビニで、………スポーツドリンク1リットルと、高級ティッシュ買って行こうかな………。)

 

 夜の予定のことを考えると、色々と段取りが必要だ。両親には「体育の課題の創作ダンス練習するから、物音しても部屋に来ないで」など、お願いしておく必要があるだろう。結沙は帰り際の、奈緒美先輩の言葉も思い出す。

 

「もしも、今夜1人エッチとかすることがあったら、クリを触るくらいにしておいた方が良いよ。まだ膜が破れたあたりは痛いと思うし、バイキン入ると、良くないから………」

 

 奈緒美先輩の言葉を胸に、結沙は安全な方法を確かめながら、今夜やるべきことに没頭することにした。そう思うと、自然に足取りが早くなる。結沙は他の3人と違って、妙にウキウキしてしまっている自分を、少し不謹慎だと思い、心の中で謝った。それでもいつの間にか、結沙の速足は、スキップのように軽やかなものに変わっていくのだった。

 

 

(第5話につづく)

 

4件のコメント

  1. こんにちは(^◇^)

    第一話から第四話まで一気に読ませていただきました。

    集団催眠ショーはやっぱりいいですねぇ(*´ω`)

    じっくり催眠をかけてきてからの、第四話……勉強になりますm(__)m

    これからどんな話になっていくのか、楽しみです(*^▽^*)

    次の話も楽しみにしてます!

  2. うおおおおおおおおおお!
    結沙ちゃん可愛すぎ!
    べた惚れで弘太くんに逆らえない結沙ちゃんの破壊力がやばすぎましたでよ。
    しかもこれで終わりのように見せかけてまだ続くとか楽しみがやばすぎでぅ。
    もっとのろけつつ恥ずかしい目に合わされる結沙ちゃんを見たいところでぅが、詩織先生や奈緒美先輩に続いて花蓮さんも気になる所(・・・圭さんは?w)
    グラドルの美人さんを好きに操れるとかホントえろいでぅ。しかも仕事の合間に操るんじゃなくて、操る合間に仕事を入れるっていうスパイラルサークル中心の意識が素晴らしいところでぅ。

    文化祭は一旦終わってこの先は日常回になるわけでぅが、結沙ちゃんたち四人組がどんな感じにえろえろにされるのか楽しみにしていますでよ~。
    ん~、クリスマスとかまでやるのかな?
    であ

  3. 4人の美少女の『スパイラルの旅行者』にサークルの部員が意外と着実に楽しく遊ぼう!という催眠暗示を作ってくれるのが笑うところw

    「シャワー室もバスタオルもきちんと用意してくれるじゃないか」と思ったが、部員たちのその後のさわやかなハメのためというのが優しく清潔だが同時に陰険な本音が感じられ、すばらしい!

    もう少しおもちゃのように扱ってもいいんじゃないか!と思わず思ってしまいますが、とにかく本格催眠!という感じなのでどうでもいいです!(*´∪`)

  4. 操られてる内面の描写がすごく良い……っ!
    自分が催眠で操られているせいにすると気が楽になるところとか、
    サークルの秘密を絶対に隠し通そうとしてるところも勿論ですけど、
    本人がいない場所なのに、自分を洗脳した相手を悪く言われてすごく嫌な気持ちになってるところとか、
    台詞だけなのに心の奥底まで暗示が行き届いてることが分かるのがね……
    永慶さんの、MCによる影響力の描写は、本当に毎回驚かされます。

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