スパイラルトラベラーズ 3

 その日の結沙たちは、いつものように崇泉院学園高校の文化サークル棟に足を運ぶと、部室のお掃除を始める。結沙たちが通う聖クララ女学院の授業が終わってから、バスに乗ってここまで来ているのだが、さすが崇泉院は偏差値の高さと歴史の長さで知られるエリート校。部員たちは自由学習という名の強制個別勉強時間や、図書館での調べもの、班に分かれて与えられた課題への取組みなど、それぞれの時間を過ごしてから、やっと部室へやってくる。他校から移動してきてもまだ早く部室に到着する、吉沢結沙たち部の『サポーター』は、この時間に部室をホウキで掃いて、雑巾がけするように申し渡されているのだ。普段は優雅に女子高生生活を満喫しているはずのお嬢様たちが、ここではまるで召使のような役割………。そう思うと、腹も立ってくるが、掃除の手を抜くわけにはいかない。何しろ、この後、結沙たちは部室や両隣の空き部屋の、どこで寝転がって素肌を床に密着させて、何をすることになるか、わかったものではない。そして自分たちでコントロールすることも出来ないのだ。全体を綺麗に清潔に保っておくことは自分のメリットにもなる。そう思うと、お掃除にも身が入る。そんな、いつも通りの放課後時間だった。

 

 ガラガラガラ。

 

 部室の扉が開く音。両手をついて雑巾がけをしていた結沙は、少し嫌な予感を持って、顔を上げる。この時間にもう部室に到着出来るのは、この学校では中等部の生徒のはずだからだ。

 

「あっ…………。いたいたいた………。ウフフフフ」

 

 扉から顔を部室に入れて覗きこんでいるのは、コケティッシュでちょっと意地悪そうな目をした、小柄の美少女。今里愛良だった。

 

「ユーイッサちゃんっ…………」

 

 予感は持っていたはずなのに、直接名前を呼ばれると、ギクッと両肩がすくみ、背筋がビンッと伸びる。

 

「あっちのお部屋で、2人っきりで、遊ばない?」

 

 お誘いを受けると、結沙は強張った笑みを浮かべた。

 

「今…………仕事中だから…………。行かない」

 

「今日は、部室が結構汚れてるから、人手が足りないんだ」

 

 隣で雑巾がけをしていた咲良も、助け舟を出してくれる。

 

「そっか…………。『スパイラルの旅行者の結沙ちゃん』は、部員である私の言う通りに、一緒に遊びに来てくれると思ったんだけどなぁ~。………しょうがないか~。残念だけど」

 

「………ぅぅぅ……………」

 

 ほとんど結沙の両足が勝手に、愛良に付き従うようにトコトコと歩み寄ってしまう。行きたくなくても、結沙に選択肢は無いようだった。

 

「来てくれるの? ………やったー。嬉しい~。結沙ちゃん大好き。…………うふふっ」

 

 愛良は、結沙の恨めしそうな顔に手を伸ばして、頬にチュッとキスをする。人差し指を上に向けて関節をクイッと曲げる。ついてきて、というジェスチャーをした。結沙は部室から出て、扉を閉める時に、部室に残った咲良たちと目が合う。咲良は結沙に申し訳なさそうに両手を合わせている。梨々香は十字を切って、結沙の無事を祈るという仕草。野乃はグーを2つ作って、「頑張って!」とこちらに気合を送ってくれていた。結沙は精一杯、ふてくされた顔を作って彼女たちに手を振ると、扉をそっと閉める。

 

「大丈夫だってば。別に結沙ちゃん、イジメたりしないよ。………私、結沙ちゃん、大好きだもん」

 

 前を歩きながら、結沙たちの発している気配に気がついたらしい愛良が、明るい声を出す。けれど、結沙の気持ちはそれほど明るくはならなかった。

 

 

「結沙ちゃん。『スパイラルの旅行者』さんとして、私に、何でも正直に答えてね。あと、隠しごとなんてしないで欲しいから、…………とりあえず、裸になろっか? ………あのさ、昨日の夜って、結沙ちゃんはオナニーしたの?」

 

 いきなりド直球の質問。

 

「…………はい…………。私は、…………毎晩、…………1人エッチをします…………」

 

 顔を赤くしながら、そして制服を脱ぎながら、結沙は隠し切れずに正直に答える。

 

「毎晩………か…………。でもさ、………生理の時とか、困らない? 弘太も他の男子たちも、みんなデリカシーとか無いから、そういうの気にせずに、『毎晩』っていう暗示を押しつけてるんじゃないかな? ………アタシから、弘太に言ってあげよっか? ………生理の間は、したくない時はしないでも済むようにしてあげて、って。………だって困るでしょ?」

 

「はい………。生理中も……困りながら、してました………」

 

 目からウロコが落ちるような気持ち。………確かに、結沙は弘太に心も体も支配されていて、今はその支配を完全に受け入れてしまっているような状態だけど、女子の支配者の視点から、いくつか指摘をしてもらうことが出来るなら、もっと心地良い生活に、スムーズに変化出来るかもしれない………。少しだけ、今里愛良という美少女のことを、見直す気持ちになった。

 

(…………もしかしたら、この子、………第一印象が意地悪な感じなだけで、深く知り合ったら、いい子のなのかも………。)

 

 結沙がブレザーとシャツを脱ぎ、スカートを下ろし、タイツを下ろして下着も脱ぎながら、そんなことを考えていると、愛良はクスっと微笑んだ。

 

「ところで結沙ちゃんは、昨日はどの部分を触って、オナニーしたのかな~?」

 

「ぅうっ……………………。わ…………わたしは…………。オッパイとか、………アソコとかを触って…………オナニー………しました」

 

「アソコとか、って、どこ?」

 

「アソコと…………クリトリスと……………お…………お尻の穴も…………ちょっと、つついてみました…………………」

 

 震えながら上ずる声で、結沙は答えた。頭の中で(ひえ~っ)と悲鳴が上がる。それを聞いた愛良が、両手を叩き、飛び上がって喜んだ。

 

「えーっ。ヤッターッ。結沙ちゃんに、私の暗示が残ってるじゃ~ん。超嬉しいっ」

 

 愛良に抱きつかれた結沙は、オッパイに彼女の顔を擦り寄せられながらもそれに抵抗は出来ず、とりあえず両手で顔を覆った。恥ずかしすぎるインタビューなのだが、今の結沙に出来る精一杯の抵抗は、顔を手で隠すくらいしかない。それも全裸で。

 

「ヨッシャーッ。スーパー美人女子高生、変態化計画・進行中。フーッ」

 

 ガッツポーズを取って、飛び跳ねる、小悪魔的な美少女。愛良に「ねぇ、気持ち良かった? 良かった?」と聞かれるたびに、顔を手で隠したままの結沙がコクコクと頷く。体が正直に回答してしまうことを止められなかった。

 

「じゃ…………、昨日の夜の、結沙ちゃん・嬉し恥かし・1人エッチショーを、ここで再現してもらおっか? ………録画始まったら私が合図するから、四つん這いになって、こっちに上目遣いで『愛良様のおかげで、吉沢結沙はお尻の快感に目覚めました。御礼に昨日のオナニーを完全再現しますから、ご覧くださいませ』って言って、自分のタイミングで初めてね。リアリティも大事だけど、カメラの前では多少は大げさに動きを見せてくれないと、何やってるかわからないから、その点、気をつけてくださーい。はい、カメラ回すよー、5、4、3、2、1………」

 

 急にテンション全開になって、早口気味にまくしたてる愛良。結沙は顔色を無くしながら、愛良の言葉に逆らうことも出来ずに、裸のまま四つん這いになる。見上げると、愛良の携帯電話のレンズがこちらを向いている。

 

(………いやっ! …………絶対、絶対、いやっ…………。)

 

 震える唇が、結沙の心に逆らって、口を開いていく。「愛良様の………」とまで言いかけたところで、この部屋の扉がガラッと開かれた。

 

「結沙ちゃん、いる? ……………あ、愛良また…………、俺の彼女に意地悪しようとしてないか?」

 

 扉を開けたのは、その人。小湊弘太だった。結沙の目には、後光までさして見える。

 

「え? …………ヤバッ…………。って、弘太じゃん。…………別に、何も変なことしてないよ…………。ただの、女子トーク。……………ねぇ~? 結沙ちゃんっ」

 

 急に焦り出した愛良が、大げさな身振り手振りで取り繕う。結沙に向けた笑顔は、ちょっと怖かった。その愛良が自分の体を弘太と愛良の間に入るようにしながら、結沙の顔の前、弘太からは見えない角度で手をあげて、何かを摘まむような仕草を作って手首を捻る。

 

『カチャン』

 

 愛良の手の動きに合わせて、結沙の頭の中、奥の方で金属のような音が響く。何かの鍵が施錠された時のような音。結沙は本能的に理解した。今の合図を受け取ったことで、結沙は、たったいま、愛良に言われたこと、させられそうになったことについて、弘太や、他の人たちに、伝えられなくなったのだ。まるで机の引き出しに鍵がかかって、中の資料を取り出せなくなったかのように………。結沙は口をパクパクと動かして、声が全く出ていないことを確認して、ションボリとした顔になった。

 

「それより、弘太、結沙ちゃんの口元とか、背中。こっち来て見てよ………。睡眠不足のせいだと思うけど、ちょっとだけ、吹き出物とか肌荒れになってるでしょ? ………貴方たちがコキ使い過ぎだよ。寝不足は美容の大敵なんだから………」

 

 愛良は自分のイタズラ未遂を誤魔化すかのように、急に結沙の体を気遣う発言を始める。

 

「はい、結沙ちゃん、立ち上がって、バンザーイってして、ここでゆっくり回ってみて。………ほら、このへん………」

 

「………どれどれ……………。これって………ニキビじゃないの?」

 

「これは………違うでしょ。肌荒れだってば」

 

 結沙は両手をバンザイの形に上げて、全裸のままゆっくりとその場で回転しながら、両目をキツく瞑る。自分の心配をしてくれているとはいえ、年下の女の子と、彼氏とに、間近で自分の体を凝視されるのは、さすがに恥ずかしかった。

 

「睡眠不足」、「寝不足」、「夜更かし」といった言葉が出るたびに、両目をつむった結沙の顔が赤みを増す。連夜のオナニーは、いまでは弘太の暗示のせいなのか、完全に自分の癖になってしまったものなのか、もはや、結沙にも見分けがつかなかったからだ。しかも昨夜の深夜に、どんなオナニーをしていたのか(させられていたのか)については、絶対に弘太には知られたくなかった。

 

「…………まぁ…………、俺だけのせいなのか、わからないけど………。結沙ちゃんが疲れてるんだったら、酷使しないように、気をつけるよ………」

 

 弘太が結沙の頭を撫でてくれる。それだけで、結沙は体も心も蕩けて、愛しい彼氏に身を委ねそうになる。まるで対抗するかのように、愛良が結沙のお尻を撫でてくる。この手からは逃げたかったが、うまく抗うことが出来なかった。

 

「今日はこんなこと、してる場合じゃないんだよ。金曜だろ? 明日が何の日か、愛良は忘れてるんじゃね?」

 

「………あっ…………。そっか! …………もう下半期の、部総会じゃんっ!」

 

「そうだよ。…………明日の準備があるんだから、結沙にイタズラしてる暇なんてないって」

 

「うーーーん。……じゃ、結沙ちゃんとはまた今度………」

 

「あと、この子、俺の彼女な。またルール違反の暗示入れこんだら、愛良にペナルティがいくから………」

 

 弘太と愛良は会話をしながら手は結沙の裸で無防備な体を好き勝手にまさぐっている。その手から与えられる甘くて温かい快感に身悶えして、体をクネらせながら、結沙は(早く誰か、このポーズをやめさせて………)と願っていた。そろそろ真っ直ぐ上にあげたままの両腕が、痛くなってきたからだった。

 

 

。。。

 

 

 結局、金曜の『スパイラル・サークル』の活動からは、結沙たち4人は、早めに解放された。弘太と愛良が言っていた、『部の総会』というものが、翌日の土曜日にあって、現役部員たちはそれなりの準備が必要なのだそうだ。結沙たちは彼らが作業や企画に入る前の30分ほど、『景気づけ』という名目でペッティングさせられたり、口や胸の谷間でご奉仕させられた後で、解放された。

 

「明日に備えて、ゆっくり休んでね」

 

 弘太は結沙たちにそう言った時に、少しは愛良の言葉も思い出していたのかもしれない。…………結局、結沙たち4人は、まだ他のサポーターの先輩たち(たいてい、もう少しあとで来る)も部室に顔を出す前に、シャワールームで体を綺麗にして、家に帰らされた。最後にいくつか、指示を受け取ったような気もするが、そのあたりは例によって、あまり明確に思い出せない。記憶の雲の向こう側に隠れてしまったのだ。

 

 

。。。

 

 

 土曜日の朝、結沙はいつもよりも元気な状態で目を覚ます。昨夜は、結沙の日課となっている、夜の1人エッチが、割とアッサリと済んだから、思いのほか、長い時間眠ることが出来たのだ。通常のオナニーをした後に、ちょっとだけ、お尻の穴を指先で刺激する程度で、1回イクことが出来た(イク時には喘ぎ声に混ぜて弘太の名前を呼んだ)あとは、意外とスッキリした気分になったので、1回だけのエクスタシーで眠りにつくことが出来た。最近の傾向と比べると、意外なほどだ。ベッドから起き上がった結沙は、パジャマ姿のまま、自分の部屋でストレッチを始めた。体の関節をじっくり解す。開脚した上で内腿をポンポン叩いたりして、股関節まわりも、入念にコリを解していった。

 

 選んだ下着は、先日新調した、ピンクのランジェリー。念入りに可愛いコーディネートを選択して、脱衣所に置くと、浴室に入って、いつもよりも丹念に、体を洗う。体を拭いて自分の部屋に戻ると、思い出したかのように、下半身にもシュッとパフュームを振った。

 

 鏡の前でしばらく苦闘。やっと満足のいく髪型と、ナチュラルなメイクが完成すると、結沙はいつもの土曜日よりも早めの時間に、家を出る。予備の下着やお着替えも入れると、思ったよりも荷物が大きくなったので、ママのバッグを借りていった。

 

 待ち合わせ場所のバス停の近くにあるコンビニが目についたので、スポーツドリンクと、ウェットティッシュ。そして結沙の覚えている限りでは生まれて初めて、コンビニで栄養ドリンクの小瓶を購入した。

 

 茶色い小瓶の蓋を回して、コンビニの前でグビリと飲みこむ。ドロッとした感覚の甘い液体が喉を通った後で、喉の中がチリチリと焼ける感覚。独特の飲み心地だ。

 

「…………朝っぱらから、戦闘態勢って感じだね………。ちょっとオジサンみたい………」

 

 咲良の声がして振り返る。優等生の親友、井関咲良としては珍しく、ちょっと丈が短めのワンピーススカートを着ていた。見ると、薄っすらとメイクまでしている。彼女がここまでオシャレをして外出するのを見るのは、初めてかもしれない。

 

「…………咲良も、ちょっと飲んでみる? ………最初が甘いのに、喉が焼けるみたいな感じするよ」

 

 仲間を作ろうとする結沙を遮るようにして手のひらを見せた咲良は、そのままコンビニに入って、結沙と同じ栄養ドリンクを、3本も買って来た。結局、あとからやってきた野乃と梨々香、合計4人で横一列に並んで、朝っぱらから、強精剤にカテゴリーされる栄養ドリンクを飲み干すことになった。そしてやはり後味が気になったので、ミント味ののど飴も舐めながら、バスに揺られて、目指すべき家へと向かった。

 

 その家は、高級住宅街にある、大きな建物と広いお庭の家。結沙の学校の友だちには裕福な家庭の子も多かったし、以前に何回か呼んでもらった城崎野乃の家ほど瀟洒な邸宅ではないので、4人にとっては気後れするまでではなかったが、ごく普通の高校生たちだったら、見知らぬ豪邸のチャイムを鳴らすことに足がすくんだかもしれない。

 

「いらっしゃーい。まだ、OBはほとんど来てないけど、部員と、ОG、それから校外サポーターさんたちは大体来てるから、一緒に準備を手伝ってくれる?」

 

 分厚いドアを開けたのは小湊弘太。まるで自分の家であるかのように、気兼ねなく結沙たちを誘い入れた。梨々香、咲良、野乃の順番に、遠慮がちにお辞儀しながら、大きな家の中へ入っていく。そして結沙が玄関へ入るまでドアを開けていてくれた弘太は、皆に聞こえないくらいの音量で一言だけ囁いた。

 

「結沙ちゃん、私服も可愛いね」

 

 その、たった一言で、結沙のつまさきまでフワッと宙に浮く。今日、このあと何が起こったとしても、絶対に良い日として結沙の大切な記憶になるだろうということが実感できた。

 

「………化粧、濃くないかな?」

 

 褒めてもらえたことで、勇気を出して聞いてみる。朝、家を出る時から、ずっと気になっていたのだ。

 

「全然大丈夫。すっごく綺麗だよ」

 

「……………んきゅぅ…………」

 

 自然な仕草で靴を脱ごうとしていたのに、一瞬、ハムスターが潰れるような声を出してしまった。結沙は慌てて靴からスリッパへ履き替えて、咲良たちの後を追う。恥ずかしくて弘太の顔を見返すことが出来なかった。本当はもっと見てもらいたかったのに。

 

 立派なおうちの中には、顔馴染みの部員たちと、先輩のサポーターさんたち、そして、初めてご挨拶する、綺麗な成人女性の皆さんが、パーティーの準備で忙しくしていた。「正式な挨拶は後で」と言われたので、すれ違う美女たちとは会釈だけで済ましているが、カウンタータイプのキッチンで大皿料理を作っていた、20代中盤くらいのゴージャスで上品なお姉様には、一通りの紹介をされた。国宮眞澄さんという、この家に住んでいる若奥様だった。

 

「いらっしゃい。貴方が、結沙さんね。お話は伺っています。………皆さん、ちゃんとしたおもてなしも出来なくて、申し訳ないのですけれど、せめて何かあったら、遠慮なく仰ってくださいね」

 

 柔和そうな笑顔で、やさしく迎え入れてくれた眞澄さんは、白いセーターとチャコールのロングスカートの上にエプロンをまとった、シンプルな着こなしなのに、まるで映画に出てくる女優さんのような美しいオーラを放っていた。料理の腕も卓越していることは、他の美女たちに運ばれていく大皿料理の盛り付けと、漂う香りからも伝わってくる。併せて、その優しさと気品に満ちた性格までも伝わってくる。結沙たち4人が(咲良は少し違うだろうか?)、揃って夢に見るような、理想と言うべき大人の女性像だった。

 

 テラス席の飾りつけをしていた奈緒美先輩の姿を見つけたので、4人は歩み寄って、彼女からお手伝いの指示をもらう。サポーターの中でも詩織先生(部と関わってる時はいつも、笑顔で全てを受け入れる、頷きロボットのようになってしまう)よりも、そして多くの部員よりも、奈緒美先輩の指示の方が的確で従いやすい。結沙は言われた通り、折り紙で作られた鎖の飾りつけを壁や天井に括りつけたり、テーブルや椅子のセットアップに奔走した。そうするうちに、1人、また1人と、見知らぬ成人男性も増えてくる。

 

「結沙ちゃんたち、お客さんのお給仕を手伝って」

 

 奈緒美先輩に言われると、結沙たち4人は返事と同時に直ちに行動を起こす。部室でも日常的に「可愛らしくて従順なウェイトレスさん」役をこなしている彼女たちは、男性のお客様たちが何を求めているかは、本能的に察知することが出来る。普段、アルバイトはしていなくても、接客の経験値は同年代の女子たちをはるかに上回っていた。

 

「いらっしゃいませっ。お席へご案内致しますっ。………キャッ…………。お、お元気ですね。お客様」

 

 いきなりお尻を撫でられる。結沙は両肩をすくめて飛び上がったが、必死で笑顔を取り繕う。

 

「………はいっ。城崎野乃と申します。Aカップです。えぇ。80-52-81ですよ」

 

「梨々香です。Dカップです。はい。いつもはもっとホールド性を重視した下着なんですが、今日はおめかししてまいりました。うふふっ」

 

「こちらどうぞ。……あっ………。これからお飲み物やお食事を召し上がっていただきますので、わたくしどものスカートや下着をお触りになると、手が汚れてしまいます。仰って頂けましたら、いつでもこのようにお見せしますし、もしお触りになりたい場合は、都度、お手を消毒させて頂きます。いつでもお申しつけくださいませ」

 

 冷静に考えると、自分たちでも嫌になるくらい、営業スマイルと破廉恥なサービスが板についてきている。いちいち考えなくても、明らかに行き過ぎた接遇の言葉が、スラスラと口をついて出てくる。

 

 トレイに小さなシャンパングラスを沢山載せて、バニーガールのコスチュームに身を包んだ堀木花蓮さんが、リビングに入ったお客様に、順番にシャンパンを薦める。さすがは読者モデル。抜群のプロポーションが露わになっている。この美脚の長さはなんだ………。

 

「あら、お久しぶり。お元気でしたか?」

 

 ハイソサエティな雰囲気の美人マダムが、オジサンのOBを出迎える。軽いハグをした時に、オジサンがマダムの股間に手を伸ばすけれど、彼女も全く抵抗する素振りを見せない。「ウフフ」と含み笑いを漏らしながら、身を委ねて、クネらせるだけの美人妻。やはり、今、結沙たちに刷り込まれている一揃いの暗示セットは、もう何代も前の『意識学研究会』メンバーたちから、受け継がれてきたもののようだった。

 

 

 気がつくと、リビングからテラス席、そしてガーデン席まで、男女総勢で50人近くの人々がひしめきあっていた。部員を入れても、男性よりも女性の数の方が多い。そして、男性は色んなルックスの人たちがいるが、女性は誰を見ても、目を奪われるような綺麗どころ、美人、美女、美少女ばかりだった。

 

「………おほんっ…………。えーっと………。今年の、崇泉院学園祭の、『意識学研究会』出し物で、ショーマンを務めました、小湊弘太です。そして、こちら側がショーを皆で遂行した現役部員のメンバー。あとは、こっち側に並んでいるのが、ショーを盛上げてくれた出演者で、今年の新規加入サポーターの4人です。皆、聖クララ女学園の生徒です」

 

 大人たちを前にして挨拶している弘太は、いつもよりも若干、緊張気味の様子だ。すぐにその緊張は結沙にも伝わってしまい、ギコチない仕草でお辞儀するようになる。初対面の大人たちとの挨拶。どうしても、気まずい時間。エプロン姿のままで、優雅にこちらに手を振ってくれる、眞澄さんの笑顔に、何とか救われた気持ちだった。

 

「それではいきなりですが、カクテルパーティーと、新人紹介を兼ねた交流の時間を始めます。新人サポーターの皆さん、いや、新人『スパイラルの旅行者』の皆さんは、採点表を留めているバインダーを持って、初めて会うOBの人たちにご挨拶まわりをしましょう。どうすればいいかは、昨日、指示したことを思い出すはずです。……………はい、さっそく、交流の時間、スタート………ということで」

 

 弘太が言い終わらないうちに、結沙たち4人はピンと背筋を伸ばして、歩き始めていた。圭さんが配ってくれる、紙とボールペンを留めたバインダーを受け取りながら、目が合った初対面の男性の元へ駆けていく。

 

「あ………あの、初めまして。聖クララ女学園高校2年の吉沢結沙と申します。スパイラル・サークルのサポーターとして、部員の皆さんのお世話をしたり、意識学研究をお手伝いさせて頂いています。どうぞよろしくお願いします。お手隙でしたら、お確かめください」

 

 結沙が深々とお辞儀をして話しかけたのは、温厚そうな30代くらいの紳士。目で結沙のことを上から下まで何度も見ながら、頷いて、結沙が両手で差し出したバインダーを受け取った。許可を得た結沙は、スルスルと服を脱いでいく。弘太と週末に校外で会うために、選び抜いたコーディネートも、彼の好みを(イコール、即、結沙のヘビーローテーション)素直に反映した下着の上下セットも、惜しげもなく脱いでいかなければならない。結沙は頬を赤く染めながらも、お客様を待たせないように、テキパキと脱いで、衣服を畳むと、全裸の状態で「きをつけ」の姿勢をとる。本当は胸や股間、自分の体の無防備な素肌を出来るだけ隠したいところなのだが、綺麗に直立不動になる。そうしないと、悪いことをしているような気がして、どうしても頭に浮かんでくる指示に逆らえないのだ。

 

「結沙ちゃんか………。可愛いね。綺麗系って言われることが多いかな? 同年代からだと………。でも、表情が生き生きとしているから、オジサンたちから見ると、可愛さも充分感じられるな………。当然、『5』をつけるね。…………胸は…………。うん。形が良いね。丸くて、張りがあって大きさもなかなか………。弾力も………。うんうん。『5』だな」

 

 オジサンが、評価表を左手に、ボールペンを右手に持って、全裸で直立している結沙を観察しながら、5段階評価をつけて行く。ボールペンの、ペン先と逆の端で、結沙のオッパイを押して、反応を確かめている。まるで獣医さんが、ペットを診察でもするかのように………。結沙は、恥ずかしさと情けなさに苛まれながらも、円滑に評価をつけてもらうために、自分から胸を突き出して協力するのだった。

 

 お尻を評価される時は自分から後ろを向いてお尻を突き出す。

 

「お尻も良いね。プリプリしてる………『4』かな………。あ、特記事項が入ってるな。…………『お尻の穴、絶賛ジンワリ開発中です by 中里愛良』………、この子って中里君の妹かな? ………中里君、懐かしいなぁ~」

 

 オジサンが思い出に浸っている間も、結沙は頭がクラクラして、倒れそうになる。これはお尻を突き出して頭の位置を下げているから血が登ってしまっているという訳ではない。わざわざそんな特記事項をつけて、皆に知らしめようとする、愛良のイタズラ心と自己顕示欲に、改めてショックを受けているのだ。せめて、初対面のオジサンたちには、秘密にしておいて欲しかった………。そう思ったけれど、もう後の祭り。オジサンにボールペンの先でお尻の穴を優しくつつ突かれると、「はぁんっ……」と切ない声を漏らして背筋を反らす結沙。その反応で、『開発』が順調に進んでいることをオジサンに自分から伝えてしまったのだった。

 

「どれ、最後は実技評価か………。うん。部員のステディさんだから、本番は選択できないんだね。…………じゃぁ、キスとフェラをお願いしようかな? 現役女子高生らしい、瑞々しくて情熱的なのをお願いするね」

 

「………はい。畏まりました」

 

 まだ恥ずかしさでボンヤリしている頭を上げて、結沙がオジサンの体にしがみつく。裸の素肌を密着させるようにして抱き着いて、そっと唇を重ねた。『現役女子高生らしい瑞々しさ』というものが、自分でもどう表現すれば良いのかわからない(そんなものあるのだろうか?)、オジサン用語に思えたので、迷いながらも、結沙は真面目に、そして真摯にキスをした。今、口の粘膜をくっつけあっている相手が、最愛の恋人、弘太だったらと思うと、自然に鼻息が荒くなってしまう。気がつくと舌を絡めていた。その瞬間に、オジサンが結沙を抱きしめる腕に力が入る。本能的に、結沙は理解した。自分が『現役女子高生らしい瑞々しさ』を出せているかなど、わかりようがないが、とにかく結沙としては、今の相手を弘太だと思って、自分を真正面からぶつけてみる。それで引かれたり、幻滅されたりしたとしても、この相手は弘太本人ではないのだから、ダメージは少ないではないか。そう思うと、少し気持ちが軽くなったような気がした。

 

 思い出すのも恥ずかしい、ねっとりと濃厚なキスを終えた結沙は、両膝をついて、オジサンのベルトとトラウザーのホックを外し、チャックを下ろしていく。(私はいったい、土曜の朝から何をしているのだろう)という疑問を一生懸命押し殺しながら、こぼれでてきたオジサンのオチンチンを口に含む。両目を薄っすらと閉じて、弘太のことを考える、途端に、口一杯に存在を主張しているオチンチンを舌で愛撫することに躊躇が無くなっていく。

 

(なんか今の私って、弘太のことを考えると、何でも出来ちゃう存在になってない?)

 

 追い払おうとしても、余計な思いがまとわりついてくる。結沙は、自分の獲得した、あまり嬉しくないスーパー能力を、自覚させられていた。舌と口の筋肉を駆使して苦闘しているうちに、口と喉の中に、熱くてドロッとしたものが噴き出される。

 

「はい。お疲れ様でしたー。僕は、『5』をつけるよ、実技にも。何より実際に行為に入る前に、自分の中で葛藤があるのが見えてきたのが、グッと来た。結沙ちゃん。素直で健気で良い子だね。もう、実際の実技に入る前から、『5』だと思っていたよ」

 

 とりあえず褒めてくれているので、結沙はペコペコと頭を下げて御礼を言う。けれど内心では、(実際の行為に入る前から、評価が決まってたなら、実技させないでよ~)と、優しい雰囲気のオジサンに対しても少しだけ、抗議の気持ちを消しきれずにいた。

 

 

 大学生、新人会社員、公務員、起業家、学者の卵………。スパイラル・サークルには、色んなOBがいた。その1人1人に、結沙は裸を凝視されて、好きなように触られて、舐められたり、くすぐられたり、摘ままれたり、写真を撮られたりした。自由評価欄への記入という名目では、彼らにとっては久しぶりであろう催眠術をかけられて、ニワトリにされて雄叫びを上げたり、リスになって頬っぺたを限界まで膨らませた、みっともない顔を撮られたりした。

 

 

「結沙ちゃんっていうんだよね? ………学園祭で見てたよ。君は素晴らしい素材だ。…………でもねぇ、結沙ちゃん。僕は何と言うか、貧乳で、ツルッペタの胸の上に乳首だけが大きめ長めに勃ってくれる子が好みなんだ。それってなんだか、弱小高校の野球部で1人、エースで四番の選手が頑張ってるみたいな気がするだろう?」

 

 髭の濃いオジサンは、確かに学園祭のステージ近くで見たことがあるような気がした

 

「…………はぁ…………。そう………なんですね………。すみません………、ご希望にそぐわなくて、申し訳ないです」

 

 結沙は微妙な笑顔を浮かべながら、とりあえず謝ってみた。「気がするだろう?」と聞かれたが、全く共感が出来なかったので、流すしかなかった。

 

「いやいや、申し訳ないのはこちらの方だよ。君のオッパイはオッパイで、素晴らしいよ。けれど、僕の好みとこだわりのせいで、『4』しかつけられない。ゴメンよ。………この通りだっ。チュパッ! 君もゴメン。チュパッ!」

 

 髭も顔も濃いそのオジサン(のように見えるが、実は学生?)は、お詫びの言葉を口にした後で、結沙の左右の乳首を音を立てて吸い上げた。混じりっ気のない目で、乳首に話しかけてくるその人を、結沙は少し怖いと思ったが、微妙な笑顔で乗り切ったのだった。

 

 

「…………吉沢結沙クンか、聞いてるよ。…………今年のイチ推しなんだって?」

 

 メガネをかけた、長髪でヒョロッとした大学生は、結沙の体や顔を値踏みしながら、色んな所を執拗に指で弄ってきた。

 

「あの………イチ推しかどうかは、自分では、わからなくって…………。ゴメンなさい」

 

「ふーん。………良いけど………。僕ね、お高く留まったお嬢様が、羞恥に悶えるところが、一番好きなんだけど、…………現役の子たちからは、聞いてない?」

 

「…………あ…………。すみません…………、伺っては…………」

 

 結沙も答えに困ってしまったが、その痩せた大学生は、神経質そうに自分の髪をかき上げて、メガネの位置を直しながら小さく溜息をついた。

 

「やれやれ………。後輩たちも、だいぶクオリティ落ちてんな………」

 

「そっ………そんなことは、無いと思いますっ。皆、凄腕の催眠術で、私なんか、簡単に遊ばれちゃう、操り人形っていう感じですよっ。全然、クオリティ、悪くないと思いますっ」

 

 反論した後で、すぐに後悔した。今日のイベントのゲストであるOBに逆らうことは、現役の部員たちにも迷惑がかかるかもしれない、タブーだったはずだ。それなのに、弘太を含めた現役メンバーが、けなされていると感じた瞬間に、結沙はわざわざ自分を下にするような言い方で、彼らをかばいたくなってしまったのだった。

 

 青ざめた顔で、結沙は反射的に彼氏である弘太の姿を探す。けれど今年のショーマンを務めた弘太は、部員OBやサポーターOGに囲まれて、色々と意見交換をしているところのようだ。彼の助けが得られないことを理解した結沙は、いよいよ嫌な予感を持ちながら、顔を真正面に向けた。痩せた大学生の表情は、不快感を神経質そうに抑えつけているようだった。

 

「………………ふーん。そっかそっか………。ま、良いんだけどね」

 

「あの、大変失礼致しました。申し訳ございませんでした」

 

「いや、そういうの良いから………。それよりスパイラルの旅行者さん、ここに風船が見えるでしょ?」

 

 大学生が両手で、空間を包み込むような形を作ると、結沙の目には、確かに見る間に、何もなかったはずの空間に、赤い風船が現れる。

 

「これね、魔法の風船でさ………君の腸のなかと繋がってるんだよ。………ってことは、だ。こうやってギューッと押しつぶすと、風船の空気は、どこに流れていくと思う?」

 

「…………ぅあっ…………ちょっと……………失礼しますっ。…………お手洗いにっ」

 

「でも君の足、床と一体化してるでしょ? トイレに行こうにも、一歩も歩けないよ」

 

 細めの高音で、痩せた大学生がそう言うと、結沙の足の裏が床から1ミリも離せなくなる。駆けだそうとした勢いのせいで、結沙は態勢を崩して床に両手をついた。

 

「はい、風船をどんどん、ギュウギュウ押しつぶしているよ。お腹が張って苦しいでしょ? 空気は逃げ場を探して見つけ出す。そしてそこから一気に逃げていくよ。我慢出来ないんじゃない?」

 

 結沙の下半身が、生理現象の要求を無慈悲に知らせてくる。床に手を着いた状態で、裸の結沙がブンブンと頭を左右に振った。

 

「絶対イヤッ。やめてくださいっ」

 

 両目に涙が浮かんでくる。誰かに助けて欲しい。………出来れば、弘太にこの場に駆け付けて、救い出して欲しかった。けれど、愛しの彼氏が駆けつけてくるところで、結沙の我慢の限界を超えれば、死ぬほど恥かしいノイズを聞かれてしまうという、最悪の事態も考えられた。それを思うと、大きな声を上げることも出来なかった。涙がポロっと頬を伝った。結沙の体は、彼女の言うことをあまり聞いてくれない。プシュッと空気が体の後ろへ抜けていく感触を感じ始めていた。その時。

 

「おいっ、栗原君、何してんの? 私の大事な結沙ちゃんを四つん這いにさせて! ブーブー、ストップ・ザ…虐待、ブーブーッ!」

 

 近くで、聞きなれた声がする。コケティッシュな可愛い声と悪戯っぽい口調。見上げると、中里愛良の小柄な体があった。

 

「おっ、中里の、………妹か。……………愛良ちゃんだったっけ? …………久しぶり」

 

 四つん這いでお尻を突き上げるような姿勢で、懸命にオナラの暴発を堪えていた結沙の後ろで、「栗原」と愛良に呼ばれた大学生の、ちょっと勢いを失った声が聞こえる。彼の様子の変化を感じ取ったのか、結沙の下半身の緊張が少し和らいだ。『お腹に空気が流れ込んでくる』という暗示も力を失っていくのが、自分自身の体を通じて感じられる。ほんのちょっとだけ、空気が漏れてしまったかもしれないが、多分、恥かしい音は、周りの人たちにもほとんど聞かれていない。もしかしたら、偶然なのか、愛良の咄嗟のブーイングが、かき消してくれたのかもしれない。結沙はやっと溜息をつくことが出来た。手の自由を確認しながら、頬の涙を拭う。

 

「ほら、結沙ちゃん、もう立てるでしょ? ………うちのお兄ちゃんが、栗原君は同期だけど部の劣等生だったって言ってたから、この人の評価なんて、もらわなくて良いよ。2階に、アタシと遊びに行こうよ」

 

 愛良の声色からは、明らかに彼女が結沙のことを気遣ってくれていることが伝わってきた。普段は結沙にイタズラばかり仕掛けてこようとするクセに、こんな時には助けてくれる、年下の美少女を、結沙は少し見直していた。結沙は1回鼻をすすった上で、立ち上がると、裸のままの姿で栗原としっかり向き合った。

 

「…………愛良ちゃん、助けてくれてありがとう。でも、これは私のお仕事だから、きちんとOBの方々の評価を頂かないと………。もう、大丈夫よ。評価はあと、1項目だったと思うし」

 

 きちっと見据えると、痩せた大学生、栗原のメガネの奥の目が一瞬泳ぐ。この人よりも、ずっと年下の愛良の方が、目が座っていて、ずっと怖い催眠術師様だ、と、結沙は自分に言い聞かせる。

 

「栗原様、最後に、結沙の技能面の評価をお願いします。口か手か、胸でのご奉仕の中から、選んでください。よろしくお願いします」

 

 丁寧に伝えると、栗原の視線が、素早く結沙の体の上を上下左右に動き回る。

 

「…………んと、………じゃ、…………胸で」

 

「はいっ。畏まりましたっ。どうぞ私の胸でお楽しみくださいませ」

 

 栗原のズボンのファスナーを下ろそうとすると、彼も自分の手でベルトを外し、ズボンを下ろす。奉仕を受ける時はモノをファスナーの口から出すのではなくて、しっかりズボンとブリーフを膝まで下ろすのが、栗原の好みのスタイルのようだ。結沙はテキパキと彼のペニスを自分のオッパイへ誘導しながら、彼の好みや反応を記憶していく。今日の後の時間で、あるいは今度会った時にも、きちんとご奉仕出来るためだ。もちろん、この痩せた神経質そうな大学生は結沙の好みとは全く違う。それでも、このOBに、後輩である小湊弘太が、催眠術師として、そして支配者として優秀であるということ。そのことを、結沙自身の体と振舞いとで、何度でも証明してやりたくなった。

 

 そう決心が固まると、結沙は頑張れる。栗原のモノを色の白いオッパイの間に挟んで、包み込むように擦り上げる。ムクムクと、彼のモノが元気になる。その素直な様子に、結沙は心の中で思わず微笑んでしまった。結沙が顔を上げると、ドギマギした表情で見下ろしていた栗原は慌てて、どうでも良いといった表情を取り繕う。その変貌ぶりが、今の結沙には可愛らしく思えるほどだ。そのままの動作で彼のペニスを撫で擦っていても、フィニッシュまで辿り着けそうだったが、結沙は敢えて、自分の口を開く、10秒ほどたつと、唇から、涎が糸を引くように垂れていって、彼のペニスの先端にかかった。その上から、もっと涎を垂らしながら、オッパイでムギュムギュと彼のものを握りしめると、その感触の変化に反応したようで、オチンチンはさらに必死の硬直を見せた。

 

 その後、4往復もオッパイの谷間をオチンチンに滑らせると、彼のモノはビクンッ、ビクンッと跳ね上がって、結沙の胸元に、白くて熱い粘液を噴き出す。タイミングを見計らって、結沙は敢えて栗原のオチンチンの先を上に向ける。自分の顔に、彼の精液がかかる。終わりかけと思われた射精は、その瞬間にまた勢いを持ち直したかのように、数回に分けて、結沙の顔に熱い精を噴きかけた。

 

「……………恥ずかしい…………。こんな…………私…………。見ないでください…………。栗原様………」

 

 顔いっぱいに精液を浴びたまま、潤んだ目で栗原を見上げる結沙。栗原はもう、余裕の仮面をつける余裕もなく、結沙の顔と胸元とを食い入るような目で見下ろしながら、呼吸を荒くしている。それを見た結沙は、自分はこの大学生の意のままに操られて、弄ばれてしまう存在だけれど、この瞬間だけは、彼に完全勝利したんだ、と確信した。

 

 

「結沙さん。こちらへいらっしゃい。お風呂で洗ってあげましょう。貴方は今年のショーマンの大事な彼女さんなのに、いつまでもそんな姿でいたら、可哀想だもの」

 

 柔和な声をかけてきてくれたのは、眞澄さんだった。大皿料理の提供が一区切りついたようで、エプロンは外していた。結沙の両肩に手を置いて、栗原に優雅に会釈をしてから、そのまま裸の結沙を押し出すように、リビングの外へと誘導してくれる。

 

「アンタ、今みたいに思いっきり、結沙ちゃんにブッカケまくってて、評価『3』とかだったら、お兄ちゃんたちに言いつけるからねっ」

 

「…………お………おう…………。今のは、さすがに文句なしの『5』だよ………」

 

 リビングを出ていく結沙は、背中越しに愛良と栗原の会話を聞く。8歳近く年上のはずの男性に対して、強気で話す愛良の剣幕を、結沙はとても頼もしく思った。………もう少しくらい、愛良の悪戯を受け入れて、自分をもうちょっとだけ変態に作り変えさせてあげても良いかもしれない。…………いや、結沙は甘すぎるのだろうか?

 

 

 案内された広めの浴室には、すでにお湯が張られていた。裸なのでそのまま浴室に入って、体を洗い始められる結沙。白いセーターとロングスカートをスルスルと脱衣所で脱いで、下着も外していく、眞澄さんのシルエット。彼女も入ってくると、バスルームの温度と湿度が一段と上がったような気がした。柔らかそうな肌と女性的な曲線美から醸し出される色気の質が段違いなのだ。

 

「結沙ちゃん。さっきはお疲れ様。………でも、今日の部総会はまだ、始まったばかりだから、無理をしないようにしてね」

 

 労うように諭すように、優しく結沙の背中を洗い始める眞澄さん。結沙はバスチェアに腰かけて体を縮こませたまま、恐縮して頷いた。石鹸を沢山泡立てた手で、眞澄さんに体を洗ってもらうだけで、胸がドキドキして、頭がジンジンと痺れる。このまま眞澄さんに全身全霊を委ねたくなるような安心感と、同時にとてもイケナイことをしてしまっているような背徳感とが、頭の中で心地良く混じり合う。栗原の精液がベットリつけられた胸元や顔、首筋から鎖骨まで、丁寧に洗ってもらうたびに、結沙ははしたなく喘いでいた。

 

「ウフッ、上手でしょう? 心配しないで、私に任せて頂戴。…………私はね、『スパイラル・サークル』にお金を入れるために、会員制ソープランドとか、人妻ヘルスとかで、時々、お仕事をさせてもらっているの。………家庭生活に支障のない範囲で、なんだけどね。…………時々、女のお客様にだってご奉仕したりするのよ。………こうやって」

 

 眞澄さんは自分の体を結沙の背中に密着させながら、両手で結沙のオッパイと乳首を、円を描くような手つきで愛撫する。そしてそれと逆回転で自分のオッパイを結沙の背中に押しつけながら動かす。間に挟まれた結沙の頭と体は少し混乱し、翻弄されながらただただ快感に喘ぐ。まるで自分の自我が優しく蕩けさせられていくような、退行的な快楽。結沙は放心したように顔を緩ませて、甘えるように切ない声を漏らした。

 

「もうそろそろ、綺麗になったかしら? シャワーで流したら、一緒にバスタブに入りましょうね、結沙ちゃん」

 

 呆けたような表情のまま、無言でコクリと頷く結沙。今日会ったばかりなのに、すでに眞澄さんに心を許しきった幼児のように、結沙はシャワーを浴びさせてもらい、湯船につかって、当たり前のように彼女の柔らかい体にしがみついた。

 

「さっきの栗原君のことは、あんまり気にしなくて良いのよ。ちょっと複雑な性格だけど、いつもあんなにトガッてはいないの。優秀な学生さんたちも、高校を卒業して、みんながみんな、快適な大学生活や社会人生活を送っている訳ではないわ。えぇ、優秀だからこそ、色々なプレッシャーもあるかもしれないわね……」

 

 眞澄さんの胸に顔の横を押しつけて、赤ちゃんのように屈託のない表情で両目を閉じている結沙の、頭を撫でながら、あやすようにして話しかける。

 

「今日はそんなふうに、快適な高校の部活動を卒業して、社会で色々と苦労している先輩たちを、労う会でもあるの。もちろん、他にも色々な目的があるんだけどね。学外のサポーター女性たちを繋ぎとめるために暗示を更新したり。………そして結沙ちゃんたちみたいに、とっても素敵な新人サポーターさんたちを歓迎したり。…………ちょっと、失礼するわね。ウフフ」

 

 眞澄さんは説明を中断すると、バスタブの中で自分の位置を変えて、結沙を仰向けに寝そべるようにさせると、その結沙の腰を上げさせ、股間が湯面からちょっと顔を出す位置になったところでそこに自分の顔を埋める。彼女の舌がうごめくたびに、結沙は身をよじって悶える。まるでお湯の中に漂いながら、エクスタシーの波に心と体が洗われていくような感覚。結沙はいとも簡単に、絶頂へと押し上げられていった。

 

「はぁっ……………ぁあ…………い……………イクッ……………」

 

「良いのよ…………。この中で、思いっきり、イってしまって。結沙ちゃん。とっても可愛いわよ………」

 

 舌と両手とで結沙を的確にオルガズムへ導いていく眞澄さん。その手の中、口の中で、結沙は果てた。浴室に響き渡る自分のはしたない喘ぎ声でまた、いっそう快感を高められ、何度もよがり鳴いた。

 

 

「結沙ちゃん。…………聞こえるかな? …………そのまま、楽にして、私の話を聞いて欲しいの」

 

 眞澄さんは結沙のオデコに貼り付いた前髪を整えながら、優しく話しかける。

 

「他の人から聞くと、ショックを受けるかもしれないと思うから、私の口から言わせてもらうわね。…………弘太君。………貴方の大事な大事な彼氏の弘太君が、新入部員だった頃、………いいえ、あれは彼が、まだ中等部で、入部が内定したばかりの頃かしら? …………歓迎会の場で、私を指名してくれたから、私が彼の初めての女性になったの。………キスと、口でイってもらうのと、あとは、アソコでも繋がって、私のナカでイッたの。…………まだ結沙ちゃんと会う、ずっと前の話よ。…………それから彼は、催眠術師として成長して、独り立ちして学園祭で伝統のショーマンを務めて、そこで出会った貴方を射止めたのよね? 今日、彼を久しぶりに見て、見違えたわ。そして、貴方に会うことが出来て、私はとっても嬉しいの」

 

 弘太のことを聞いて、思わず顔を上げる結沙。その唇に眞澄さんが優しく自分の唇を当てた。(この人が、弘太の初めての人………。)そう思うと、結沙は嬉しい気持ちと、この人には敵わないのではないかという不安な気持ち、そして純然たるジェラシーとが、頭の中で渦を巻く。自分でも説明の出来ない涙が、目に浮かんできた。

 

「大丈夫よ。結沙ちゃんは弘太君が一番好きな子。ショーマンには、先輩サポーターやOGサポーターだって、お相手に指名する権利があったはずだけれど、貴方を選んだのよね。私や奈緒美ちゃんじゃなくて、貴方。その理由が、さっきの貴方の毅然とした態度を見ていて、よくわかったわ。貴方は、催眠術師の思い通りに操られるだけじゃない。とっても素直な心で、刷り込まれる暗示と悪戦苦闘しているうちに、暗示を与えた相手の想像も超えるような吉沢結沙を見せて来てくれる。その姿はとっても可愛らしくて、健気で、愛おしかったの。………きっと、弘太君も、そんな貴方が大好きで、大好きで、仕方が無いんだと思うわ」

 

 眞澄さんが結沙の髪を撫でつけるたびに、彼女の柔らかい二の腕から水滴が湯面に落ちて、チャポンッ、チャポンと、浴室に反響する。美しくて優雅で優しくて、素敵な女性をそのまま現実化させたような眞澄さんという若奥様に宥められながら、やっと結沙の気持ちは落ち着いてきた。

 

「…………眞澄さん。………ありがとうございます。正直に色々と教えてくれて。…………それで………あの、………もしよろしければ、…………1つだけ、質問させて欲しいんですが………」

 

 結沙が迷いながら言うと、眞澄さんは返事をするかわりに、笑顔を作って首を傾げた。その仕草は、とてもチャーミングなものだった。

 

「弘太のオチンチン………の、玉のところに、あるものって、知ってますか? …………あの、変な質問でごめんなさい………」

 

 眞澄さんはしばらく黒目を上にあげたり斜めにしたりして、何かを思い出そうとしていた。4秒くらい、間が空く。その後で、また目を細めて、眞澄さんは優美な笑顔を作った。

 

「もう、ずいぶんと前の彼しか知らないし。…………多分、わからないな………。高校生くらいの男の子って、凄いスピードで成長するはずだし、多分、私が知っている彼と、今の彼とは、細胞も身体も精神面でも、ほとんど別人なんじゃないかしら? 今の本当の彼を知っているのも、結沙ちゃんだけ。今の本当の貴方を知っているのも、弘太君だけなんだと思うわ。………きっとそうよ」

 

 その一言で、結沙は一気に救われた気持ちになった。不意に涙がまた、頬をつたって零れてしまった。肩までお風呂につかって、全身濡れた状態でなお、顔を俯かせて、頬の涙を手で拭う結沙。その結沙のオデコに、眞澄さんが、そっとキスをする。2人はそのまま湯船で抱き合った。

 

 

。。。

 

 

 結沙はお風呂から出たあとで、すっかり元気を取り戻したように、明るく快活に、残りのOBたちの『評価』を済ませた。美貌と均整の取れたプロポーション。そして真面目な性格やずば抜けた被暗示性の高さには、誰もが感嘆の溜息と高評価を残した。

 

 

 今年のショーマンを務めた弘太は、他の同学年の部員たちと一緒に、年上のサポーターさんたちやOGサポーターさんたちを、メンテナンスするという名目で催眠術にかけていく。暗示のキーワードは何年かおきに、更新されているようで、リビングルームでは『螺旋状の散歩者』や『スパイラル迷子さんたち』、『約束の守り手』といった、その時代、その時代のキーワードらしき言葉が飛び交っていた。ようやく私服を着直して、皆と一緒に、現役部員たちの『暗示と反応のメンテナンス』をボンヤリ見ていた結沙たち4人。新人サポーターとしてオジサンやオニイサンたちの評価をやっと済ませた、休憩していていいはずの時間に、異変は結沙に現れた。

 

「翠さんは僕の声を聞いていると、意識がボヤ―っと拡張していく。この手のひらから目が離せなくなりますよ。そして僕がこの手を握ると、ほら、全身の力が抜ける。スーッと抜ける」

 

 リビングの中央で、綺麗なOLさんに話しかけている弘太の声を聞いていて、結沙は急に膝からガクッと力が抜けて、思わず隣に立っている咲良の肩に掴まってしまう。

 

「…………結沙。重いよっ…………。今、アンタのパートじゃないってば」

 

「………ゴメンッ」

 

 慌てて体に力を入れなおして、結沙が周囲の目を気にしながらも、きちんと立ちなおす。

 

「宏美さんは、僕が指を鳴らすと、好きな人に触られると気持ちが良くなる場所を、口に出して説明したくて仕方なくなります。ほら、僕が指をこうやって構えるのを見ただけでも、もうムズムズしてきた。ほら、我慢できない。…………ティックッ」

 

「………唇です………」

「オッパイッ! ……………アソコッ……………。お、お尻もっ…………。お尻の穴もっ」

 

 宏美さんというグラマラスな奥様が手を頬に当てながら、恥ずかしそうに「唇」と言った声を、結沙の大声が掻き消してしまった。リビングルームにいる大勢の大人たちの注目が集まる。

 

「結沙ちゃんに聞いてないよ~。もう、お尻の穴とか、わざわざ教えてくれなくても、わかってるってば」

 

 嬉しそうに、愛良がダイニングから首を伸ばして声をかけてくる。結沙は耳まで真っ赤になって、両手で自分の口を塞いだ。弘太のセッションの、邪魔をするつもりはなかったのに………。周りの視線が痛すぎて、逃げ出したくなった。

 

「諒子さんは…………、今、僕が真正面から話しかけている諒子さんだけが、僕がハイと合図をしたら、犬になります。元気よく吠えて良いですよ。…………良いですね? 諒子さん。ハイッ」

 

「…………ゥゥウウ、ウォンッ」

「ワォオオオオオオオオオオオオンッ」

 

 今度も、わざわざ弘太が何度も「諒子さんにかけている暗示だ」と、チラチラと結沙を見ながら注意深く指示を出したのに、諒子さんの犬の鳴き真似をはるかに上回る声量で、両手を前足のようにすくめた結沙が、わざわざ両膝立ちになった姿勢で遠吠えを聞かせた。結沙は、何度も「これは自分に向けられた暗示じゃない。自分がかかったらおかしい」と自分に言い聞かせて、何なら耳も塞いで聞かないように試みていたのに、弘太が合図をすると、どうしても反応せずにはいられない。

 

「もらい催眠か………。反応良すぎな気もするけれど」

 

「暗示の独占欲が凄い。さすがは熱愛カップル」

 

 誰か、OBのオジサンが呟くと、近くのOBが返答する。

 

「暗示の支配を、日頃から全力で受入れすぎてて、パブロフの犬みたいになっているんじゃないかな?」

 

「心のパッキンがもう、ユルユルになってるってことはないか?」

 

「いや、いままでほとんど自分や仲間だけが部員の暗示を一手に引き受けていたから、他人が暗示をかけられてる状況に、適応出来ていないってことも………」

 

「いずれにしろ、これはこれで、可愛いな………」

 

 皆、意識学には一家言あるメンバーらしく、それぞれが仮説を出しては、頷いたり私見を述べたりしながら、興味深そうに結沙を見ている。弘太はもう、そういうサンプルです、と割り切るようにしたのか、結沙が、他のターゲットへ向けた自分の暗示を次々と『もらい催眠』していくのを、途中からもう、防ごうともしなくなっていた。

 

「では、ここにいる、翠さん、宏美さん、諒子さんは皆、スピーカーからBGMが流れるのを聞くと、楽しくて仕方が無くなって、穿いていたショーツを頭にかぶります。そのまま、陽気にスキップしましょう」

 

 子供向けのピクニックをテーマにした無邪気な曲が流れ始めると、貞淑な美女たちが、モジモジしながらもスカートの裾に手を伸ばして、居心地悪そうにだが、ゆっくりと下着を脱いでいく。その彼女たちをリードするかのように、軽やかに結沙は舞い跳ねる。頭にはとっくにピンクのショーツ。笑いが止まらない結沙が回転しながら、まるで美女たちを誘うかのように、先頭に立ってスキップしていく。

 

「リビングは狭いですから、お姉様方、お庭へ出ても良いですよ。外でも、曲が聞こえる限り、楽しくスキップしましょう」

 

 弘太が言う「お姉様方」に自分が含まれていないことは、誰に指摘されなくてもわかりきっているのに、結沙は率先して庭に出て、両手をブンブン振り回し、スキップをして回る。笑いが止められない。面白くて、楽しくて仕方が無いのだ。多少迷いながらも結沙の後を追うように、下着を頭に被ってスキップする、本来の暗示のターゲットである美人妻や美女たちの、誰よりも、高く遠くへ、結沙が飛びあがってスキップしていく。曲が止まると、我に返って、恥ずかしさと情けなさに悶絶する結沙の姿に、この日の総会に参加したメンバー誰もがお腹を抱えて笑う。

 

(ひ~っ。誰か、私を止めてよ~っ)

 

 結沙が身をよじらせて恥ずかしさに悶える。まわりのお姉様たちも赤面して困惑しているけれど、彼女たちは、弘太から指示されたことを実行している、正当な暗示の対象たち。唯沙は、飛び出してきて暗示を「横取り」している『注目浴びたがりの彼女気取り』と見られているのではないか? それを思うと、何倍もの自意識の攻撃に苛まれる。OBたちのいう「もらい催眠」というものが、これほど恥ずかしいものだとは、結沙以外の誰に想像出来るだろうか?

 

 

 一通りの催し物が終わったようで、リビングやテラス、あるいは別部屋で、総会の参加者たちはお喋りに熱中したり、気に入った『お手伝いさん』にちょっかいをかけたり、あるいは昔からお馴染みのサポーターさんたちと旧交を温めたりしている。結沙は真澄さんからもらった、オレンジジュースの入ったグラスを手に、庭にあるウッドデッキに腰を下ろして、束の間の休息を確保していた。頑張ってコーディネートした上着やスカートは、どこかへ行ってしまっている。小春日和とは言え、まだ下着姿で外気に触れると肌寒いけれど、自分が今日、晒してきた狂態を思い出すだけでまた体がカッカと芯から熱くなるので、肌寒いくらいがちょうど良い、と思うことにした。

 

「………ここにいたんだ。………お疲れ様」

 

 その声を聴くと、鼓膜が、耳が喜んでいると、実感する。結沙が顔を上げると、やはりそこにいたのは、愛しの恋人、小湊弘太だった。

 

「………お疲れ、じゃないよ。………私が勝手に、バタバタしてただけだもん………。暗示のターゲットでもなかったのに……………。恥ずかしい……………」

 

 結沙は両足をウッドデッキに上げて、自分の顔の下半分を膝で隠すかのように、体育座りをして身を縮めた。

 

「可愛かったよ。………あれで、みんな、結沙ちゃんのこと、大好きになったと思うよ。こんなにビビッドに、暗示に前向きになってくれる子がいるんだ、って、感心してたよ」

 

 まだ紅潮している顔を少し傾けて、弘太を見上げる結沙。

 

「ホントに? …………弘太のコントロールが上手くいってないって、思われたりしてない? 私、弘太が私のせいで、悪く思われたら、…………死んじゃう」

 

 結沙がそこまで言うと、弘太の返事のかわりに、彼からのキスが来た。

 

 ウッドデッキにドリンクを置いて、2人で手を繋いで、広いお庭を散歩した。よくよく考えると、弘太とこうして、部室や彼の高校の外で、手を繋いで歩くのは、初めてな気がする。2人は5歩くらい歩くたびに、抱き合ってキスをした。大き目の木に囲まれた茂みを見つけると、結沙から弘太の手を引っ張って、その中へ誘い込んでしまった。今朝から散々、初対面の人たちの視線やタッチに晒されてきた、結沙の肌が、体が、今、恋人の温かい手を求めて、疼いて仕方がないのだ。

 

「…………私………。身も心も全部………。貴方のものだよね? ……………貴方が私の持ち主で、私は貴方の恋人で、ペットで、玩具で、実験用のモルモット…………。そうでしょ? ……………時々、混乱するとちょっとだけ、そのことを忘れそうになるから…………、ちゃんと私の体に、忘れないように刻み込んでよ……………」

 

 友人や、結沙のもともとの知り合いに聞かれたら、と考えると発狂しそうになるくらいヤバイ台詞も、今なら勇気を出して言える。結沙は熱に浮かされたような表情と潤んだ目で、それだけ伝えると、ショーツを左足の足首にだけ引っかかるところまで下ろし、ブラも肩から鎖骨あたりまでズラして、両手を大きめの木に当てた。足を肩幅まで開くと、お尻を突き出すような体勢になって振り返る。

 

「弘太。………今日の結沙が、貴方の期待した私の役割を充分果たせていなかったと思ったら、お尻をぶって。…………私が充分、いい子だったと思ったら、ご褒美に後ろからシテ欲しいの。…………甘やかしちゃ、駄目だよ」

 

 結沙が弘太の目を見て、それだけ伝えると、弘太は照れたように笑う。

 

「…………ちょっと、そこまでマジに捉えなくて良いよ。もっと緩く、楽しんでいこうよ」

 

「駄目っ。………私を甘やかさないで。………これはご主人様の責任なんだから。きちんと躾けなさいっ」

 

「…………は………はい」

 

 弘太のほうが気圧されている。変な構図だとは思うが、結沙は遠慮してなんかいられなかった。さっき、真澄さんという、完璧な女性、男性の夢の具現化のような貞淑でエッチな性の天使に出会ってしまったことで、結沙の野望がメラメラと燃えているのかもしれない。あの人を超える、立派なセックスシンボルにならなければ、結沙は弘太にずっと夢中になっていてはもらえないのかもしれない。そう思うと、もう、恥ずかしがってなんかいられなかった。

 

「ハイッ。お願いしますっ」

 

 結沙が背筋を限界まで弓なりに反らして、お尻を高く突き上げると、弘太が、ちょっとだけ迷いを残した手つきで、彼女の腰骨を掴む。ズボンを下ろす音。結沙はご褒美を意識して、涎を垂らしそうになる自分を、頑張って律する。案の定、彼女に与えられたのは、罰としてのスパンキングではなくて、後背位の体勢での、バックからお尻のお肉を掻き分けるように入ってきた、愛おしい弘太のおチンチンだった。はしたなくご馳走を咥えこむかのように、彼女の腰が無意識のうちにも動いて、弘太の硬くて熱いペニスを、喜び勇んで迎え入れる。頭の芯がジーンと痺れて、脳内に快感分泌物が溢れ出す。弘太のおチンチンが結沙の奥深くに押し込まれるたびに、結沙の視界が真っ白になる。結沙はあられもない喘ぎ声を、庭の片隅から、豪邸の家の中まで聞こえるくらいに張り上げた。むしろ、聞かせてやりたいくらいだった。結沙がどんなに弘太を愛しているか、弘太とのセックスを楽しんでいるか、弘太に動物みたいに後ろから犯されているのが、どんなに背徳的で退行的な喜びか。結沙がどれだけ解放されて一匹の動物のように快感を貪れるのか。世界中に聞かせてやりたい気持ちだった。

 

 立派な木の幹を引っ? くようにして、交尾に夢中の猫のように鳴いて、結沙が快感の波に喘ぐ、快感の渦によがり鳴く。自分からも弘太以上に激しく腰を振って、その快楽を搾り取るように下半身をいやらしくクネらせた。一瞬、さらに大きくなった弘太のおチンチンがついに爆発する。結沙の中で、熱くてドロッとしたものを撒き散らす。結沙は歓喜の叫び声でそれをすべて吸い上げる。出来ることなら、弘太が一生で作り出す精をすべて、今ここで搾りつくして吸収してやりたい。そんな気持ちで下半身に力を入れ、粘膜を締めつけては、彼のモノを擦り上げた。

 

 コンマ2秒くらいの時間差で、結沙も絶頂、昇天する。ここで今、結沙という生き物が生きていることを世界に知らしめるかのように、よがり鳴いた。声を裏返らせながらも鳴いた。やがて、木の幹から両手と体を滑らせるようにして、倒れこむ。弘太の両腕に抱えられる。体重を全部、優しい弘太に預けながら、結沙は幸せの中で意識を失っていった。

 

 

 

「………結沙ちゃん。………このままだと、風邪ひくよ」

 

 肩を揺すられて、結沙は目を覚ます。左右を見回して、自分が庭の芝生に寝そべっていることに気がついた。どうして庭で意識を失っていたか、思い出してくると、また顔が赤くなる。思い出すと、やっぱりさっきの結沙は、弘太の言う通り、気合が入りすぎていたのかもしれない。

 

「風邪をひいたら、大変だから、早く中に入ろう」

 

 弘太に抱き起される。本当なら、ずっとこのまま、少し肌寒い屋外で、彼氏に抱きしめられていたかったけれど、結沙は弘太の言葉に従順に従って、歩き出す。

 

(ナカに入ってきたのは、弘太の方じゃん………。)

 

 そう言ってやろうかと思ったけれど、これ以上、はしたないことばかり口に出して、弘太に幻滅されていはいけないので、黙っていることにした。かわりに肩を彼氏の体にギュッとくっつけて、その温もりを自分の肌で感じる。

 

「弘太……………。1つ、わからないことがあるの………。教えてくれる?」

 

 結沙は、今日はこの後も忙しくなると想像して、弘太と話をするチャンスを逃さずに、思い当たった質問を、忘れないうちに(そして忘れさせられないうちに)聞いておこうと思った。

 

「なぁに?」

 

 弘太が無邪気な笑顔で返す。結沙の好きな、可愛い笑顔。それを見せられるたびに、胸がキュッと疼く。

 

「…………真澄さんって、すっごく素敵な人だよね。……………おうちも、とっても裕福そうだけど…………。どうして、部のために、お外で働くの? ……………うちの部って、そんなにお金が必要な活動とか、別にしてないと思うんだけど」

 

 その綺麗な若奥様の名前が出た瞬間だけ、弘太の笑顔はわずかに固まったのだけれど、彼が心配したのとは、違う質問が投げかけられたようで、また少し安心した様子で答えた。

 

「いや、色々、年間行事もあるから、それなりにお金はかかるんだよ………。春は、部の新歓旅行があるでしょ? 夏は合宿あるし、校外で18禁のショーとか開催したりもするよね。秋は海外旅行に、関西の姉妹サークルとの交流会もある。そしたら、あっという間にまた、学園祭だよ。…………結沙ちゃんと一緒に行けると思うと、今から、楽しみだよ…………。あれ、聞いてなかった?」

 

 今度は、結沙の表情が固まる番だった。旅行? 合宿? 交流会? …………今日の部の総会というのが、外部の人から辱めを受ける、最大級のイベントだと思っていた結沙は、これからのことを思うと、足がすくんだ。

 

「あ、この後、午後には4月から高等部に入る新入生で、セレクションに受かった、入部内定組が体験入部に来るよ。みんな、結沙ちゃんの可愛さとエッチさに、絶対に夢中になると思うな。…………あぁ~、楽しみだ」

 

 能天気な声を上げる、結沙の彼氏。結沙は、想像していなかった展開と、どうもビッグイベント目白押しになりそうな今年のスケジュール。想像するだけで意識が遠くなりそうだ。結沙は、自分の視界がグニャっと回り、まるで螺旋上にゆっくりと回転を始めたような気がしたのだった。

 

 

<おわり>

3件のコメント

  1. いつも相変わらず、圧巻のキャラクター描写に催眠描写に情景描写
    テキストにも関わらずイラストの様な威力があります
    ごちそうさまです
    魔法使いの小冒険より23 年あまり草野知也君も30代後半、時間はあっと言う間でしたが、増々魅力が増し続ける先生の連載作品の新作が更新され続ける幸せを噛み締めてます
    これからもお元気で頑張って下さい
    応援させて貰ってます

  2. 読ませていただきましたでよ~。
    今回のお話は全体的に愛良ちゃんにお仕置きする流れなのかと思ってたのでぅが、全く違ったw
    むしろ、いたずら好きでややわがままなところはあるけれど愛良ちゃんは根はいい子で相手を思いやれる子だとわかってよかったのでぅ(いい子は催眠で操ったりしないw)

    結沙ちゃんの被暗示性、そして一途さが彼女の可愛さを形作っているという内容でしたね。もらい催眠も弘太が暗示を入れているからもらっちゃうんだろうし、栗原に対しても弘太のために頑張っているというのが可愛かったのでぅ。

    今回はこれで終わりで次は夏でぅかね?
    なんか別に短編がありそうな気もするけど。
    どちらにせよ、次回作も楽しみにしていますでよ~。

  3. >筆筆さん
    またも過分なお褒めの言葉を頂きました。
    褒めすぎですが、嬉しいです。ありがとうございます。
    魔法使いの小冒険。言及頂きまして懐かしいです。
    もう、ずいぶん前のことになりますが、覚えて頂いている方がいらっしゃる間は、
    「次作で若い頃の作品群を超えるぞ」と頑張っていきたいと思います。
    また、気が向いたら、読んでやってくださいませっ。ありがとうございました!

    >みゃふさん
    いつもありがとうございますっ。
    結沙としては成長物語なのですが、催眠としてはより深いところまで支配が浸透しているという、
    性格悪いお話にもなっているな、と我ながら苦笑いしております。
    この冬も、もう2話ほど、別で短編がございますが、そっちはかなりやらかしている可能性があります。
    優しい目で見守って頂けますと本当に幸いです。それではっ!

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