なみのおと、うみのあお Other2 -由布-

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「ふぅっ」

 私は大きく息を吐いて、ソファーに腰を下ろした。自分の部屋に戻ってこれだけ落ち着くというのは、やっぱりそれなりに緊張していたからだろう。
 今日は、明聖高校に赴任した当日。いくら先生って仕事は慣れてるつもりでも、初めての高校では気疲れもしようというものだ。

「さて、シャワーでも浴びようかな」

 BGM代わりにテレビをつけると、私はソファーからだるくなってる身体を立ち上がらせた。一人暮らしが長いからか、何をするにも独り言を言ってしまうのは、既に癖になっていると思う。誰に聞かれるでもないから、どうでもいいんだけど。
 給湯器のスイッチを入れて、お湯が暖まるまでの間に脱衣所で服を脱ぐ。洗面所も兼ねているので、目の前の大きな鏡で、だんだんと服を脱いでいく自分の姿も見える造りだ。これで自分の身体のバランスを確認するのも、既に習慣の一つとなっている。

「うん。相良由布、今日も綺麗だぞ」

 私は冗談めかして、鏡の中の私に笑い掛けてみる。
 23歳の私の身体は、綺麗さとえっちさをほどよくブレンドしているように見える。つんと上を向いた胸も、引き締まった腰も、他に見せる相手がいないのが残念なくらいだ。ついでに言うと、きゅっと引き締まったお尻が、一番の自慢なのだけど。
 自分のボディチェックを終えると、鏡に映った顔を凝視する。
 ウェーブのかかったセミロングの髪は、重い印象を与えるぎりぎりの長さで後ろに流されている。自分でも美人と評価できる顔は、でも吊り目のせいで性格がキツく見える。まぁ、自分が優しくて穏やかな性格なんて、冗談でも言えないのは確かだけど。

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「でも、ヘンな学校だったなぁ・・・」

 化粧も落したし、シャワーも浴びたしで、お気に入りのソファーに腰掛けて、私は今日赴任した学校の事を思い出していた。
 いや、奇矯な生徒がいる訳でも、いわゆる不良がいる訳でもない。かと言って無気力という事もなく・・・会う生徒全員が優等生、もしくはいい子。でも、今の時代にそんな事があるはずがなくて・・・その自分の中の常識と折り合わないから、『ヘンな学校』って感想になってしまう。
 信じられるだろうか。
 あのズボンをだらしなくずり下ろした穿き方──私はアレ、嫌いなのだ──をした男子生徒が一人もいない。顔が整った女生徒によくある、妙に化粧の濃い子・・・それも一人もいない。校則が厳しいのかと思ったけど、別の先生に聞いたらそうでもないらしい。

「居心地がいいけど・・・落ち着かないのよねぇ」

 世の先生方からすれば、贅沢な話だ。
 そう言えば、まさかここに陽子がいるとは思わなかった。高校の時の同級生なんだけど、今は明聖高校の保険医らしい。雰囲気は相変わらずボケが入ってて、まぁ可愛いといえないことも無い。今週末の先生方主催の歓迎会とは別に、陽子とはぷち同窓会っぽく飲む事を約束してる。

「まぁ、せっかくいい職場に入れたんだから、明日もがんばりますかー」

 私は大きく伸びをした。時間はまだ早いけど、今日はもう寝るとしよう。

- 2 -

「先生、おはようございます」

 校門をくぐって、さぁこれから教員用の玄関の方に方向転換ってタイミングで、私に挨拶をした生徒がいた。
 振り返ると、可愛い顔の男子生徒と、顔を赤くして男子生徒に寄り添う女生徒の姿があった。俯いている女生徒とは対象的に、男子生徒は自信に満ちた笑みを浮かべている。妙に顔と雰囲気のギャップがある生徒だ。

「おはよう」

 軽く挨拶を返して、私は踵を返した。まだ生徒と馴れ合うほどここにいる訳じゃあないし、相手の名前だって知らないのだから。
 でも・・・不思議と意識に残る男の子だった。
 今も背中に視線を感じながら、この高校にあって初めてアクの強い生徒に会ったと思った。ふと・・・ヘンなことに気が付いて、下駄箱の前で首を傾げた。

「一緒にいたコ・・・まさか、調教中ってワケじゃないよね?」

 馬鹿な想像だけど、今になって気になった。まぁ、気のせいとは思うんだけど、ね。
 あの位置関係や女の子の様子とかが、なんかそんなふうに感じられたんだけど・・・。
 教員用の玄関から振り返ると、もうさっきの生徒の姿は無かった。

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 放課後、私は陽子の保健室に遊びに来ていた。テストなども無いし、受け持ちの部活動も無い。さくさくと帰るのも気が引けるというワケで、同世代のお話しやすい陽子の所に行くというのは、私にとって自然な流れだった。
 あと、やっぱりこの学校の雰囲気に違和感を感じるから、先輩──あの性格はともかく、一応は──に相談するのは間違ってないだろう。

「陽子センセイ、入りますね」

 軽くノックをしてから、返事を待たずに保健室に入る。引き戸を開けると、お煎餅を口に咥えたまま、きょとんとしている陽子と目が合った。

「ひりゃっひゃい~」

 取り敢えず、口に物を咥えたままで喋るのは止めてもらえないだろうか。両手で丁寧にお茶の入った湯呑みを持っているせいか、陽子はお煎餅をぴこぴこと上下に振っている。まさか、これが挨拶のつもりなのだろうか?
 でも、いくら両手で丁寧に湯呑みを持っていても、口に咥えたお煎餅を取らなくてはお茶を飲めない。その為には最低片手を湯呑みから離す必要がある訳で・・・こういうのって、構造的欠陥っていうんだっけ?

「あなたも相変わらずねぇ・・・」

 私は半分呆れながら、陽子の向かいの丸椅子に腰掛けた。
 陽子は何を言われたのか判らないって顔で、きょとんと私を見詰めている。まぁ、コイツは前からこんな風にトボけたヤツだったし、気にしてもしょうがないんだけどね。

「ひゃひひゃ?」

 これは多分、『なにが?』って事なんだろうけど・・・。

「人と話す時は、口に物を入れないっ!」
「んぐっ!ご、ごめんなさぁい」

 私の一喝で、陽子は残りのお煎餅を強引に飲み込むと、目を白黒させながら謝った。まぁ、素直なところは評価してもいいとは思う。

「もう・・・。ねぇ、この学校ってなんだかおかしくありません?」

 せっかく人が真面目に相談したというのに、陽子は今度は喉を詰まらせたお煎餅を飲み込もうと熱いお茶を飲み、挙句に口の中をやけどして悶えている。なんてヤツだ。仕方が無いから、陽子の背後にまわって背中を叩いてあげた。

「ふあぁ、死ぬかと思ったぁ・・・」
「あなたね、もう少し落ち着きなさいよ」
「えへへへ」

 これじゃ、どっちが先輩か判りゃしない。
 照れ笑いを浮かべる陽子に多少の疲労を覚えて、私は少し乱暴に椅子に戻った。

「それで、陽子先生はこの学校、おかしいとは思いません?」
「どういうふうに?」

 笑顔で聞き返す陽子に、私は言葉を詰まらせた。

「・・・いい子達過ぎるって感じかな。あの年頃って、もっと反抗的だったり、ヒトの話を聞かないコが多いと思うんだけど、この学校ではそういうコは見かけないのよね」

 居心地が良くて、それが酷く気になる。俗に言う、『幸せ過ぎて怖い』って感じかも知れない。

「別に、おかしくはないでしょ?ご主人さまのご意志の下で、意思の統一が出来てるだけだもの」
「え・・・?・・・ようこ・・・あなた、何を言って・・・」

 つまらない冗談に笑おうとして、私は何も言えなくなってしまった。陽子はいつもどおりにこにこと笑みを浮かべていたけど、それは冗談を言っている顔じゃなかったから。どちらかというと、恋人の事を惚気るように、少し照れが入っているようにも思える。

「大丈夫。由布もすぐに判るから。ね、諒一さん?」
「ええ、もちろんですよ」

 私は突然横から掛けられた声に、びくんと身体を震わせた。慌てて顔を向けると、朝の男子生徒がいた。あの時と同じように、自信に満ちた顔で薄い笑みを浮かべて、ベッドに腰掛けてこちらを見ている。

「せっかく陽子先生の推薦で来て頂いたんですから、たっぷりとおもてなししますよ。愉しんで下さいね」

 そうにこやかに言って、その男子生徒は鞄からラジカセを取り出した。私はそれを見た瞬間、酷く嫌な予感がした。なんの根拠も無いけど、自由にさせたらまずいという思いが焦燥感を伴って、私の心を掻き乱した。咄嗟に私は椅子から立ち上がった。

「わわっ、ま、待ってっ!」
「陽子、放しなさいっ」

 それはもう溺れかけた子供が縋り付く位、激しい勢いで陽子が抱き付いてきた。振り解こうとしても、私の力よりも陽子の方が強いらしくて、どうにもならない。暴れている為にぶれる視界の片隅で、あの男子生徒がラジカセのプレイボタンを押すのが見えた。

- 3 -

 緩やかな旋律。
 穏やかなおと。
 繰り返し流れ、
 心を満たして、
 私を支配する。
 それは、酷く幸せな感じが・・・した。

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 水面に向かってゆるゆると泡が上っていくように、私の意識がゆっくりと覚醒に向かう。
 不思議と満ち足りた眠りにも似て、目覚めは爽やかだった。

「由布先生、目を覚まして下さい」

 その男の子の声で、一気に目が覚めた。何があったのか、何をされたのかは判らない。けど、確実に何かされている。私は瞼を開き、怒鳴りつけた。

「ッ!あなた、今のはいったい何っ!」

 けれど、その男子生徒は堪えた様子もなく、薄い笑みの仮面にはヒビ一つ入らない。それは、一層私の中の不安を掻き立てた。それに、いつからそうしていたのか、その男子生徒に蕩けるような微笑を向けて、寄り添っている陽子にも。

「由布先生を作り変えました。
 1つ、あらゆる手段で、この高校の関係者以外に、高校での事を話す事が出来ない。
 2つ、この学校内で僕の命令で行われる行為を、止める事が出来ない。
 3つ、僕の命令に、逆らう事が出来ない。
 もう一つありますが、それはその時にお教えしますよ」

 何それは。
 そんな都合の良い事、出来る筈が無い。
 そう思いながら、でも心の片隅で、その通りと男子生徒の言葉に肯いている自分がいる。その自分は、自分はそういう機能のモノなのだと、当たり前のように納得している。
 それは恐ろしい事の筈なのに、心のどこかが麻痺したように、静かに受け入れている気がした。

「それじゃあ証明しますから、このベッドを見やすい場所に座って、僕と陽子先生がセックスする所を見ていて下さい」
「何言ってるのよ!・・・えっ?」

 それは私があげた、同時に起こった2つの事に対する驚きの声。
 一つはセックスすると言われた陽子が、怒りもせずに嬉しそうに服を脱ぎ始めた事。
 もう一つは私の身体が勝手に動いて、窓際に椅子を持って移動すると、そこに腰を掛けた事。自分の身体が勝手に動いたという事実は、酷くおぞましかった。

「もう、由布先生には僕の命令に逆らう自由は無いんです。でも安心して下さい。すぐに自分から進んで従うようになりますから。陽子先生みたいに、ね」
「陽子っ!何してるのよ、やめなさいっ!!」

 陽子は私の方を見る事も無く、全ての服を脱いで全裸になった。同性の私が見蕩れるほど美しい裸身を惜しげも無く晒すと、男子に近付いて笑みを浮かべた。

「諒一くん、今日はどういう風にしたい?」

 それは、もう何度も性交渉していたという事だ。私はあまりの事に、目の前が真っ暗になった。これが外に漏れたら、もう陽子は生きていけない・・・それほどのスキャンダルだ。

「今日は由布先生にたっぷり見てもらいたいし・・・じゃあ、由布先生の方を向いて、上に乗って下さい」
「はぁい」

 その子──諒一とか言ったか──がベッドに座ると、陽子は後ろ向きで諒一に跨って、ゆっくりと腰を下ろしていく。私の目は陽子の股間が濡れて、異性を求めるように充血している様子が見て取れた。それは、酷くいやらしい光景だった。まだ外は明るいというのに、全裸で生徒に跨る女医・・・。

「ちょっと、窓・・・窓開いてるっ!誰に見られるか判らないのに、止めなさい!」
「大丈夫ですよ。ここは学校の外からは見えない位置ですからね。校内の先生や生徒になら、見られても大丈夫なんです」

 私が焦って言うのに対して、諒一は小憎らしいほど余裕を持って答えた。この非日常的な光景も、諒一の自信の前には当たり前の事のようにすら感じられる。

「んぁあッ!」

 それだけで絶頂に達しているのではないかと思わせる、陽子の悦びの声が響いた。
 前戯もしていないというのに、陽子のそこは嬉しそうに諒一のごついモノを、ゆっくりと飲み込んでいく。脚を開いて立て膝の形で、柔らかそうな丸みを帯びたお尻を下ろしていく様子は、いやらしさと美しさを同時に醸し出している。止めなくてはいけないのに、私は食い入るように陽子のそこを見詰めてしまった。
 ずにゅ。ず。ずちゅ。
 そんな卑猥な音を響かせながら、諒一のモノは根元まで陽子に入り込んだ。全て受け入れた事を感じたのか、陽子はどこか安堵したような溜息をついて、蕩けたみたいな笑みを浮かべた。

「ん、はぁ・・・。ぜんぶ、はいったの・・・おくがこすれて・・・これだけで・・・へんにぃ・・・なっちゃ・・・はぁああ」

 顔を上気させて、陽子が目を閉じた。それは貪欲に快楽を貪っているようで、オンナという単語を連想させる。私も自分のアソコがキュッと疼くのを感じて、戒めるように唇を噛み締めた。

「陽子先生、もっと見せ付けるように動いて、淫らに感じて下さいね。由布先生が、退屈しちゃいますよ?」
「あぁん・・・ごめ、んなさ・・・うご・・・うごくね・・・ひああッ!!」

 前屈みの姿勢で器用に腰を振った陽子が、まるで感電したみたいに仰け反った。挿入しただけであんなに快感を感じていたのだから、腰を振ればそうもなるだろう。虚ろに見開かれた陽子の瞳は何も映さないままに、つぅと端から涙が流れた。陽子がどれほどの快感を感じているのか・・・一瞬私は羨ましいと思ってしまった自分に恐怖した。

「ほら、また動きが止まってるよ」
「ひあ、や!たたくと、ずんって・・・ずんって、ひびいちゃうのっ!ひあああっ!」

 ぺちぺちという湿った肌を叩く音がした。諒一が陽子のお尻を叩いている音だ。跡すら残らない、さして力の入っていないというのが判る叩き方だけど、陽子はその振動すらも快感に感じているらしい。ぐりんと白目勝ちになった目から涙が、だらしなく開いた口からは涎が、まるで堪えようとする意思すらも壊れてしまったように、垂れ流されている。べたべたになった顔は汚いはずなのに、いやらしくて、淫らで、目が離せなくなるほどに美しかった。

「ひゃふっ!あ、ひあっ!かはっ、あ、ああっ!」

 ぬちゅっ、ぬちゅっという濡れた秘所が擦れる音をたてながら、陽子はくいくいと腰を動かしている。その顔は泣き笑いにも似た感じに蕩けきって、諒一の命じるままに動き続けている。
 もしかしたら、陽子はずっと絶頂を繰り返しているのかも知れない。陽子の痴態に圧倒されて茫然としながらも、そんなふうに・・・ふと思った。それは、どんな感じなのだろうか、と。

「ひゃぁあっ!あ、あぃい!は、ああっ!くあ、あ、あ、あっ!」

 陽子の声が大きくなった。酷く切羽詰った感じから、すごく大きな波がくるのだと、想像出来た。苦痛めいた表情で顔を振りたくる陽子は、その都度きらきらと輝く汗を撒き散らしている。
 あつい・・・。
 部屋の空気が息苦しい気がして、それが自分の身体が原因なのだと気が付いた。
 いったん意識すると、切ない疼きがじんじんと自己主張を始めた。
 勃起した乳首が、大きく呼吸をするごとにブラに擦れる。
 熱を持った秘所は、下着と擦れる度に更なる刺激を求めてくる。
 砂漠で見つけた1滴の水が喉の渇きを増すだけという事のように、下着と擦れる程度の刺激は、更なる欲情の後押しでしかない。
 陽子が羨ましい・・・。私も・・・。
 そこまで考えて、その恐ろしい思考に冷水を浴びせられたように感じた。
 どんなに異様な状況だとしても、流されていては教師失格だ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 私が唇を噛んで理性を総動員するのと、陽子が絶頂に達するのが、ほとんど同時だった。私の視線の先で、ガクガクと身体を痙攣させて、陽子が身体を仰け反らせている。一瞬陽子は背筋をぴんと伸ばして、それから軟体動物みたいにぐにゃっと脱力した。ずるずると後ろの諒一にもたれかかり、荒い呼吸を繰り返している。
 その声の大きさに一瞬驚いたけど、ドアの外や窓の外では、特に騒ぎにはなっていないみたいだった。諒一の言ったように、校内の先生や生徒も、諒一に操られているのかも知れない。

「いかがでしたか、由布先生?」

 あれだけ激しいセックスをしたにもかかわらず、諒一は息も切らさず、余裕すらみせて私に尋ねてきた。

「そうね、AVをただで見た程度の価値はあったわね」

 私が侮蔑を込めて言うと、一瞬諒一は驚いた顔をして、それから楽しそうな笑みを浮かべた。その時だけ、歳相応な顔に見えたのが、なぜだか印象的だった。

「数百円程度ですか。ふふ、詰まらないと言われるよりは良かったですよ。では、もう先生の身体は自由になりますから、どうぞお帰り下さい。また・・・明日」

 それがまるで魔法の言葉のように、椅子から私を解き放った。まだ興奮している身体を悟られないように冷静な顔をして、私はそのまま保健室を立ち去った。幸せな夢を見ている陽子には悪いけど、早くこの異常な状況から逃げたかったのだ。
 でも、悪夢は覚めなかった。

- 4 -

 全身の骨が砕け散ったかのような脱力感の中、私はソファーに乱暴に腰を下ろした。
 結果はさんざんなものだった。
 他の教員に相談したが、それがなんの問題があるのかと聞き返された。
 交番に直接行こうとして、途中で脚が動かなくなった。
 警察に電話をかけようとして、指が動かなくなった。
 手紙を書こうとして、一文字たりとも書くことが出来なかった。
 メールも、BBSも、思い付いた全ての手段が、自分自身の身体によって邪魔された。
 意を決して見知らぬ他人に話そうとして、口が全然開かなくなった時には、その場で死にたくなるほどの絶望を感じた。
 私は・・・無力だ。

 ・
 ・
 ・

 そして、翌朝。
 私は驚くほどにいつも通りに身支度を整え、学校への道を歩いていた。

「由布せんせーっ!」

 後ろから聞き覚えのありすぎる声がして、私はゆっくりと振り返った。そこには予想通りの、にこにこと笑みを大安売りしているような、陽子の笑顔。罪悪感も、羞恥心も、その笑顔には欠片も含有されてはいないようだった。

「・・・おはよう」
「ええ、おはようございます~」

 陽子が横に並んだので、仕方なく歩調を合わせて歩き出した。
 その陽子の表情から、一つの可能性を思い付いた。

「陽子先生、昨日の事・・・覚えてます?」

 もしかしたら、性格や記憶も操作されていたのかも知れない。直接的な単語は使わないようにして、陽子に聞いてみた。

「え?覚えてますよぉ。まだ、ボケるような歳じゃありませんもの。もぉ、やだなぁ」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・」

 年齢的にはボケるには早過ぎるけど、陽子は致命的にボケている。
 朝からの噛み合わない会話に、脱力感が増した。

「それに、あれだけ気持ち良くしてもらったんだから、忘れるなんて無理だもの」
「・・・そう・・・」

 くすくすと嬉しそうに、陽子は笑った。
 それで判った。催眠術か超能力か、それとも魔法かは判らないけど、あの諒一は日常に深く浸透するほどの暗示を与える事が出来るんだ。そして、それはこの学校の中の全員が・・・私自身も含めて、感染している。
 ただ、なんで私だけが、行動には制限があっても精神的には変えられていないのか・・・それだけが気になった。その気になれば、陽子のように出来るはずなのに。
 俯いて溜息を吐いてから、これが目的なのかもと思った。つまりは、無力感に苛まれる私を、嘲笑う為。だとしたら、私を馬鹿にするにも程があるというものだ。
 私が不機嫌な顔をしたのに気が付いたのだろう、陽子がほややんと笑みを浮かべた。

「大丈夫。由布先生もすぐ判るから」
「・・・」

 心を作り変えられて得る悦びなんて、欲しくも無い。

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 今日の1時限目の授業は、諒一のいるクラスだった。名簿を見て、初めて相川という苗字だと知った。
 窓際の席に諒一の顔を認めた時は、怒りで頭がどうにかなるのではないかと思った。でも、せめて先生らしく、授業だけはしなければ・・・。

「先生、今後このクラスの授業は、裸かそれに類する格好でしてもらえますか?」

 諒一の声が、これから授業を始めようとする私の声を遮った。
 しかも・・・。

「ひっ!」

 私の両手が、勝手に服を脱いでいく。身体が自分の自由にならない恐怖は、昨日の保健室の比ではなかった。
 まるで自分の意志で動いているかのように、腕は服を綺麗にたたみ、教壇の上に置いている。そのたたみ方がいつも自分がやっているやり方と気が付いて、吐き気さえした。

「大丈夫ですよ。先生の綺麗な裸は、男子生徒には認識できないようにしてありますから。鑑賞するのは、女子と僕だけです」

 ブラを外そうとする手に怯えながら、私は教室を見渡した。確かに、突然教師のストリップが始まったにもかかわらず、男子生徒は気が付いていないという、普段通りの様子を見せていた。もしかしたら、諒一との会話も認識できていないのかも知れない。
 しかし、女子は笑みを浮かべて私を見ている。揶揄するような顔をする子、羨ましそうな表情を浮かべる子、どこか淫靡にくすくすと笑う子・・・私の身体が、羞恥で熱くなった。

「やめて!こんなことさせないで!お願い!!」
「僕が脱がしてるんじゃなくて、先生が自分から脱いでるじゃないですか。脱ぎたくなかったら、手を止めればいいんですよ」
「ッ!」

 そうしている間にも、私の両手はパンツをくるくると丸めながら下ろし、片足ずつ上がって脱いでいた。もう、身体を隠すものは、何一つない状態だ。

「準備が出来たみたいですし、授業を始めて下さい。ヘタに隠したりしないで、いつも通りにお願いします」

 私の授業は、黒板を端から端まで大きく使い、その合間に教室中を歩き回るスタイルだ。どうして諒一が知っているのかは判らないけど、私が教室の中で満遍なく晒しモノになる事を期待しているらしい。あまりの事に怒りが湧き上がったが、なぜか授業を放棄しようという気にはならなかった。
 もしかしたら、これも『諒一の命令に従う』という条件に当てはまるからだろうか。私は恥ずかしさに震える手で、教卓の上の教科書を手に取った。この教室から逃げるという気にもならず、身体を隠す事も出来ない。ただ屈辱と恥ずかしさだけを感じていた。

 ・
 ・
 ・

「じゃあ・・・滝沢くん、こ・・・ここから読んで」
「はい」

 私の身体は教科書を手に、机と机の間を歩いている。生徒が全員席についているというのに、その傍らを全裸で歩く。それは、なんて異様な光景だろうか。
 そして、楽しそうに私を見詰める諒一の視線──性的というより、おもちゃを見ているようなそれに、私の声は自然と震えた。

「・・・はい、ありがとう。・・・じゃあ、そ、そこの訳を・・・水原さん、おねがい・・・」
「はい」

 そうして授業が進む中、怒りか、羞恥かで、頭の中が熱く茹だったようになってきた。身体に力が入らずに、ふらふらと歩く。足が踏みしめる感触は雲のように頼りなく、思考はとめどなく垂れ流されていく。

「せんせー、顔が赤いけど、だいじょうぶですかー?」

 突然掛けられた女子の声に、ビクンと震える。
 その少し間延びした口調は、まるで私を揶揄しているようだった。いや、実際に揶揄しているのだろう。心配そうな顔を装って、でもその口元は楽しそうに歪んでいる。生徒だらけの教室の中で一人肌を晒している私の羞恥を煽るように、状況を愉しんでいるかのように、微笑む。

「だっ・・・だいじょうぶですっ・・・」

 生徒の半数は気がついていない・・・そうは思っても、クラス中の視線が集まるとどうしても恥ずかしさに身体が震えた。
 男子はただ無表情に、女子は微量の嘲りと興味を込めて。
 大事な所を隠したいと思う私の意識とは裏腹に、両腕はピクリとも動かない。それは、拷問にも等しく、だんだんとどうしようもない状況に諦め始めている自分が怖かった。

「風邪でもひいたら大変ですから、気を付けてくださいねー」

 くすくすと微かに笑いの混ざった口調で、女生徒はそう収めた。同時にあちこちで、別の女生徒の笑い声が響いた。悔しさと情けなさで心が砕けそうになりながら、身体はしゃがみこむ事さえ許してはくれなかった。
 酷く消耗した頭で、授業を続けた。

「きりーつ、れー」

 やる気のあまり感じられない男子生徒の声でふと我に帰ると、授業は終わっていた。生徒が一斉にぺこりと頭を下げると、各々休み時間に突入する。
 私はやっと服が着られるという事実に安堵したが、これからも同じ事が繰り返されると思うと、一瞬喜んだだけに反動が大きかった。

「先生、お疲れ様でした」

 いつの間にか、目の前には余裕の笑みを浮かべた諒一が立っていた。私は下着よりも服を優先して身にまとうと、涙さえ滲ませながら諒一を睨み付けた。

「怖いですよ。せっかくの美貌が台無しです。どうです、楽しんで頂けましたか?」
「楽しい訳無いでしょう!」

 ピントの外れた質問に、思わず大声を出してしまった。しかし、その程度では諒一の自信に満ちた余裕は崩れない。悔しいけど、この歳の男の子とは思えないぐらい、成熟してる気がする。

「そうですか?でも、みんなに裸を見られて、興奮したんじゃないんですか?」
「ッ!」

 思わず諒一の頬を張ろうとして、右手が動かなくなった。貧血を起こしたみたいに気持ち悪い中、諒一の笑顔だけが視界の中に鮮明に映る。

「無理ですよ。逃げる事も、抗う事も、事前に禁止してありますから。それより、次の授業もあるし、そろそろ移動した方がいいんじゃないですか?授業のボイコットも、逃げる事と同じですよ」

 それを言われて、初めて今日自分が学校に来た理由が判った。学校に来ない=逃げるという等式に、諒一の暗示が発動したんだ。ますます絶望的な状況に泣きそうになりながら、私は下着を隠すように胸に抱きしめて、急いで諒一の前から立ち去った。

 ・
 ・
 ・

 ──裸を見られて興奮したかなんて、そんな事ある訳が無い!

 心の中でそう怒鳴りながら、教員用のトイレに向かった。急いでいたので、まだ下着は身に付けていないからだ。大体、生徒の前で悠長に下着を着る姿など、見せられるはずも無い。

「な・・・なにこれ・・・っ!」

 トイレの個室でパンツを履こうとして、私は焦った声を上げていた。履いた瞬間に甘い疼痛にも似た感触を覚えたので確認したのだけど、ボトムの部分が濡れている。履く前にはそんな事は無かったのだから、考えられる事は一つだけだった。

 ──そうですか?でも、みんなに裸を見られて、興奮したんじゃないんですか?

 脳裏に諒一の言葉がリフレインされて、愕然とした。
 泣きそうになりながら、トイレットペーパーで股間を拭う。これでは、本当に裸を晒して興奮する露出狂みたいだ。

「そんな訳、無い・・・」

 否定の言葉は、まるで吹き荒ぶ風に晒されたろうそくの炎のように、酷く儚い響きを伴っていた。

- 5 -

 そして翌日。目覚めは最悪だった。
 身体の中にもやもやとしたものを抱え、良く眠れないままに朝を迎えてしまったからだ。
 かと言って休む訳にもいかず、さぼる事も出来ず、今日も学校への道を歩いている。
 周りを談笑しながら歩く生徒たち。
 こんなに大勢いるのに、みんなが私と同じように暗示に縛られているんだろうか。
 あの髪の長いおしとやかな感じのコも、あっちの髪の短い活発的なコも、私のように辱められているんだろうか。
 私の視線の先で、彼女達は楽しそうに笑いながら歩いている。
 そこだけ切り取れば、それは当たり前の日常の風景だ。
 私は小さく溜息を吐いた。

 ──私も、受け入れてしまえば、あんなふうに楽になれるんだろうか・・・

 ・
 ・
 ・

 今日の授業でも、私は裸にさせられた。
 昨日と違うのは、教室の前の方に、諒一と鈴崎さんが出てきている事だ。椅子を出して、その上に二人で腰掛けている。・・・下半身だけ、裸で。
 まるで私に見せつけるように、鈴崎さんの可愛いお尻がこちらを向いている。諒一の男性器が、鈴崎さんの奥深くまでえぐっているのも、酷く鮮明に見えている。

「んああっ!諒一ッ!諒一ッ!!」

 鈴崎さんは感極まったという風に、半分泣きながら腰を揺すっている。それに合わせるように諒一も腰を打ちつけて、教室には濡れた粘膜がくちゅぐちゅと擦れる音が響いていた。

「やぁ・・・これじゃあ、ま・・・また、イっちゃうよぉ・・・ッ!」

 顔と言わず、耳や首筋までも赤く染めて、鈴崎さんは甘えたように快感を訴えた。諒一のモノを濡らす愛液の量は、鈴崎さんがどれほど感じているかを示している。白濁したそれは、諒一のものが出入りする度に、粘ついた様子で絡んでいる。このまま腰を挙げれば、そのまま糸をひきそうだ。

「ああ、何回だってイっていいよ。今日は、先生にたっぷり見せてあげよう。綾香がどんなにえっちで、どんなに感じてるのかを、ね」
「はッ、はずかしい、よぉっ!」

 それでも、鈴崎さんの腰の動きは止まらない。見られる事で一層興奮したのか、鈴崎さんのあそこは、諒一のものにまとわりついて捲り返りそうになっている。酷く生々しいその光景は、思わず目を奪われるような淫靡さに満ちていた。

「せんせー、じゅぎょーして下さいよー」
「そうそう、なにぼーっとしてるんですかぁ?」

 生徒の呆れたような口調で、二人のセックスに見惚れていた事に気が付いた。物欲しそうに見えなかったかと、恥ずかしさに顔が熱を持つのが感じられた。そう、この身体の火照りは、恥ずかしいからに違いない。私は自分の身体がどういう状態になっているか、極力考えないようにしながら授業を再開した。

「じゃあ、この例題を・・・」
「んぅっ!あ、はあっ!いあ、い、ああああっ!!」

 私の声に被さるように、鈴崎さんの絶頂の悲鳴が響く。聞いているだけで、こっちまで熱くなってしまいそうだ。気のせいか、胸も張ってきているような気がした。乳首だって、つんと立っているような気がする。誰かに触って欲しがっているような、いやらしい形だ。

「んっ!」
「すごいよぉ、りょうい、ちぃ・・・あは、あ、んぅ・・・は、ああっ、は、はふ・・・ん・・・」

 教科書を持つ腕を組むと、勃起した乳首に腕が触れた。思わずあげた声は、鈴崎さんの声に紛れて周りには聞こえなかったと思う。私は顔を赤らめたまま周りの生徒の反応を観察して、誰も私に注目していない事にほっとした。
 いや、私を見ていないのは、鈴崎さんを見ているからだ。
 相変わらず男子は無反応・・・というか何が起こっているか気が付いていない様子なのだけど、女子は全て判っているようで、前の鈴崎さんの痴態を、顔を赤らめて見詰めている。
 羨ましそうに見詰めているコや、引き寄せられたように視線が行って、恥ずかしそうに逸らすコ、中には興奮のあまり、自慰を始めてしまっているコまでいた。

「綾香、良かったよ」
「あぁ、りょういち・・・嬉しい・・・」

 二人は、後戯にはいっているようだ。甘くてけだるい声に、軽い口付けを交わす音が続く。諒一の手が鈴崎さんの背中に回されて、優しく撫でている。

「ぁは・・・」

 ふいに、ぞくんと身体が反応した。酷く身体が熱い。吐息、というにはあまりにも熱くて粘っこいものが、私の口から漏れた。

「あ・・・」

 胸が重く張っている。乳首もぴんと勃起して、触ってもらうのを求めているよう。あそこも熱を持っていて、濡れているのが判る。その熱は頭の方にまで上がってきて、まともに考える事が出来なくなってきている。
 もう、認めよう。
 偽っても、どうしようもないと。
 そう、昨日よりも強く、私は欲情している。
 目の前の鈴崎さんのように、犯されたいと願っている。
 先日の陽子のように、快感を感じたいと期待している。

「せんせい、授業が止まってますよ?」

 明らかに私が欲情しているのが判っている口調で、諒一は笑みを浮かべながら言った。

「あ・・・」

 今の私は、どれだけ物欲しげな浅ましい顔をしているんだろう。その事に思い至って、酷く恥かしくなった。けど、それは欲情を消し止める水ではなく、一層燃え上がらせる燃料でしかなかった。
 まるで熱病を患ったような茫とした頭で、ふらふらと私は諒一に近付いた。今が授業中だとか、教室の中には生徒がいるとか、なんだか全てがどうでも良くなっていて、考えられるのはえっちな事だけ。欲しいのは快楽だけになっていた。多分これが、教師である事も、大人である事も、私の心の深い所で等しく価値を無くしてしまった瞬間だ。では私はナニカというと、『牝』という言葉が相応しい。自分で自分を抱きしめるようにしながら、素直にそう思った。

「先生はどうしたい・・・いいえ、どうなりたいですか?」

 嘲るように問う諒一の足元で、しどけなく跪いた鈴崎さんがご奉仕している。諒一の硬さを失わないものの幹を手で上下に擦りながら、精液や愛液でぬらぬらと濡れた先端を、愛しそうに舐めている。

「わたし・・・わた・・・し・・・」

 ──あたまがうまくうごいてくれない。なんていったら、アレしてくれるんだろう。あのおっきいアレで、わたしのなかをぐちゃぐちゃにしてくれるんだろ・・・

 私はもう一歩、諒一に近付く。
 身体が・・・あつい・・・。

「答えられませんか?じゃあ、選択肢をあげますね。
 1、記憶をすべてなくして、この学校から出て行く。
 2、心の底から僕の奴隷になって、ずっと快楽の中で生きて行く。
 どちらがいいですか?」

 そんなの、聞くまでも無い。
 私の中では、もう決まっているのだから。
 この、切ないなんてレベルを超えた、飢餓にも似た欲情を満たしてくれるなら、どうなったっていい。

「2、です。・・・わたしも・・・きもちよく・・・なりたいの・・・」
「判りました。それじゃあ、教壇の上に座って、みんなに良く見えるようにオナニーしてください。いやらしくできたら、たっぷり犯してあげますよ」
「あぁ・・・は、はい・・・」

 私は一番前の生徒の机を使って、酷くみっともない格好で教壇に登ると、生徒たちに向かって見せつけるように脚を開いた。一斉に視線が集中するのを感じて、私は熱い吐息を漏らした。見られるだけでも感じるなんて、まるで露出狂になってしまったみたいだった。私は舌で唇を舐めると、右手の指をアソコに向けて這わせた。

「みなさん・・・よく、みててね・・・ぁ・・・はぁ・・・わたしぃ・・・いつもは、ここを・・・触るんです・・・。ん、はっ・・・ああっ!」

 中指の腹が、膣の入り口に触れた。ひくひくと震える、肉の穴。快楽を求める、欲望のかたち。ただ触れただけのそこは、驚くほど鋭敏な快感を伝えた。

「んふっ、あ、はんっ、ふ、あはっ、あ、あああっ!」

 いつも一人でするのより、ずっと気持ち良かった。お腹や太ももが、意識しないままにびくびくと震える。
 濡れた粘膜が、白濁した愛液にまみれている。それを指で擦るだけで、ぬちょ、ぐちゅとはしたない音を立てる。

「あっ・・・あとは・・・、ゆびさきを・・・ぬらして、く・・・クリトリスを・・・かるく、ふれるの・・・ひ、ああっ!!」

 興奮のあまり顔を出したクリトリスは、まるで剥き出しの神経みたいに、軽く触れただけで目の前がチカチカするような快感で、私の身体中を燃やし尽くした。

「ふくっ!あ、はああっ!ひぅ、と・・・とけちゃ、ああっ!!」

 もう、頭が馬鹿になったみたいに、何も考えられなかった。生徒に見られている事も、諒一に見られている事も、すべてがどうでも良かった。気持ち良さのあまり涙を流しながら、右手と左手の指を躍らせて快感を貪る。

「おっ、おまめもぉ、おま○こもぉっ!いっ、いいっ!ぐちゃぐちゃって、ぐちゃぐちゃにぃ、なっちゃうのぉッ!あぐっ!ああっ!?」

 自分が何を言っているのかも判らない。
 快感が身体中の神経を駆け巡って、快楽以外の情報は切り捨てられてるよう。
 でも、気持ち良ければ気持ち良いほど、イってしまわないのが不思議だった。普通だったらもう、とっくに絶頂に達しているぐらいの快感を味わっている。それはもしかしたら、もっと凄い高みに向かっているからなのかも知れなかった。

「なんでっ!なんでイケないのっ!?くっ!きもち、いいのに・・・このままじゃ、ふくっ、あああっ!へんに・・・あたまぁ、へんにぃぃっ!!」

 指を、膣に挿入した。ぬめぬめとした襞に絞られる指の快感と、指に擦られる膣の快感・・・それが、気が遠くなるほど気持ち良い。でも、快感のボルテージは高まっても、イクことだけはできなかった。

「あぎっ!あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!・・・らめぇ・・・もぉ、らめぇえ・・・しんじゃう・・・コワれちゃうよぉ・・・」

 もう、なにも判らなくなった。上下の感覚も、時間の感覚も喪失する。
 それが絶頂なのか、それとも別のナニカなのか・・・ただ、意識が・・・私という形が失われていくのを、感じていた。

- 6 -

「まさか、こんなに感じちゃうなんて、ね」
「もともと、見せるのが好きだったんじゃないかなぁ」
「ふふ、素質は十分だったって事?」
「そうそう!だって、こんなにえっちな身体なんだもん」

 目が覚める直前の柔らかいまどろみの中で、私の耳にそんな会話が聞こえてきていた。一人は諒一さま、もう一人は鈴崎さんだろう。

「ほら!このおっぱい、すごいよねぇ」

 その声と同時に、胸を開いた掌で掴まれた。指の間から肉が溢れてしまうような力の入れ方に、身体の芯が甘く反応した。

「ん、ふぁ・・・ああん・・・」

 手の動きに合わせて、胸が形を変えていく。その都度、身体の温度が上がっていくのが判る。喘ぎ声が自然に漏れていく。乱暴にされているのに、それがとても気持ち良かった。

「ね、こんなに気持ち良さそうなんだもん」
「ほんとだ」

 くすくすと笑う声。
 柔らかい日の光。
 それらに包まれて、私の意識が覚醒した。

「あ・・・」

 私が目を開けると、そこは保健室だった。
 ベッドに寝ていた私を見下ろすように、諒一さまと鈴崎さんと陽子がベッドを囲んでいた。みんな裸で、鈴崎さんは双頭バイブらしきものを自らに挿入している。

「目を覚ましたばっかりで悪いんだけど、早速ご奉仕してくれるかな?」

 諒一さまの言葉と一緒に、目の前に突き出される諒一さまのモノと鈴崎さんのバイブ。それだけで私のあそこが、じゅんっと湿るのが感じられた。例え前戯無しに突き入れられたとしても、今の私なら純粋に快楽だけを享受する事が出来ると思う。

「はい、諒一さま」

 やっと、諒一さまに触れることが出来る、その喜びに心を震わせながら、ベッドから身体を起こした。まずは諒一さまのモノに顔を寄せて、親愛のキスを先端に。次いで先端を咥えて、吸うのと舌を躍らせるのを同時に行う。
 ぴくん、と口の中で諒一さまのモノが震えるのを感じて、それだけで私は嬉しくなってしまう。今度は舌を裏筋に沿って密着させて、喉の奥までストロークを始める。喉の奥に当たると苦しいけど、それ以上にご奉仕出来る喜びに涙が出てしまいそう。

「先生、上手ですね。でも、僕だけじゃなくて、綾香にもしてあげて下さい」
「あぷ・・・ふぁぃ」

 口一杯に頬張った諒一さまのモノを、口から出さなければいけないのを残念に思いながら、それでも不満を口調に出さないように返事した。だって、諒一さまの命令は絶対なのだから。私が不満だなんて、考えるだけでも不遜というものだ。
 視線を移すと鈴崎さんが頬を赤く染めて、嗜虐への期待に満ちた目で私を見下ろしていた。同性の、しかも生徒に嬲られる・・・その想像は、いっそう私の身体を熱くした。

「あぁ・・・は、む・・・」

 何かのホームページでも見たこのディルドーは、確か外に出ているのと同じだけ、鈴崎さんの中に入っているはずだった。しかも、それを固定するようなものは見受けられない。だったら、たっぷりと愉しんでもらおう。
 最初っから口を開いて、男性器を模したそれを奥まで咥えた。それから唇できゅっと締め付けて、頭を大きく振った。

「きゃっ!だめっ、そんなつよくっ!あ、あはっ、は、んあっ!」

 思った通り、口で固定されたディルドーが、鈴崎さんの膣内で暴れている。だめとは言っているけど、かなりの快感を感じているようだ。腰を突き出すように仰け反っている姿勢も、強くなった愛液の香りも、それを証明している。

「んっ、んっ、んっ、んっ!」
「あああっ!せんせ、せんせぇっ!」

 乱れた鈴崎さんの声が、だんだんと切羽詰って行く。身体を動かし易いように腰を捕まえているのだけど、そこからガクガクと震える感じが伝わってきてる。サービスのつもりで右手の人差し指を、鈴崎さんのお尻のすぼまりに差し伸べた。ビクンッと反応する鈴崎さんの身体は、嫌悪感などは感じていないようだ。きっと、諒一さまに躾て頂いてるに違いない。

「ふやぁっ!あ、ひあっ!だめッ!そこだめぇッ!!」

 いっそう高まる声が、限界が近い事を教えてくれる。お尻が柔らかくこなれているのを指先の感触から確認して、ゆっくりと指を差し込んだ。窮屈なそこは、けれど自分から指を引きずり込むような感じがした。

「は・・・、う、ああぁぁああっ!」

 ビクンっ、と激しく痙攣すると、そのままの格好で少しの間硬直して、それから身体中の骨が無くなったみたいに、鈴崎さんはずるずると倒れ込んだ。そばにいた陽子が、鈴崎さんの身体を支えて、隣のベッドに横たえた。

「こんなに早くイカせるなんて、先生すごいですね。面白いものを見せてもらったお礼に、これから先生を犯してあげますね。嬉しいでしょう?」

 諒一さまはそう言って、ご自分のモノを根元からしごいて見せた。たったそれだけの行為で、私の頭の中はいやらしい妄想でいっぱいになる。さっき口でご奉仕した時の香りや味が思い出されて、快楽への期待で頭がぽうっとなった。

「あぁ・・・はい、うれしいです・・・こわれるぐらい、おかしてください・・・」

 諒一さまの行動に合わせるように、私も自分の指をアソコに伸ばした。諒一さまに見えるように、秘所を開いて曝け出す。まるで壊れたみたいに溢れている愛液で指が滑るけど、腰を突き出すような姿勢を維持した。正直、それだけでもイってしまいそうなぐらい、感じてしまった。

「いい格好だね。じゃあ、お尻をこっちに向けるんだ」
「はい、こうでしょうか?」

 こうすると、大事な所もお尻の穴も、全部見えてしまう。恥かしい気持ちともっと見て欲しい気持ちがぐちゃぐちゃに絡まって、えっちな気持ちが加速するようだ。つぅと、熱い汁がふとももを伝った。

「なんにも触れてないのに、こんな滴るほど濡れるなんて、由布先生っていやらしいんですね。それに、僕は生徒なんですよ?」

 諒一さまの言葉で嬲るやり方に、頭の中が沸騰したようになってしまう。

「ああ・・・はずかしいです・・・」

 赤くなった顔を隠すように、ベッドに顔を押し付けた。私の準備は整ってるのに、諒一さまは何もしてくれない。焦れた私は、這うのに使っていた両手を後ろにまわして、アソコを目一杯広げて、脚を開いた。

「ああ・・・おねがいです・・・は、はやくぅ・・・」

 くねくねとお尻を振る。諒一さまのものが欲しくて、本当に頭がおかしくなりそうだった。

「奥の方まで広げて見せるなんて、そんなに犯してほしいんですか?由布先生って、淫乱なんですね。いつも、授業をしながら生徒に犯される事を妄想してたんじゃないんですか?いやらしいですね」
「そうっ!そうなんですっ!だから、だからぁっ!!」
「では、犯してあげます。たっぷり味わって下さいね」

 諒一さまが私のお尻に手をかけると、一気に一番奥まで貫いた。あまりの衝撃に、私は呼吸も出来ずに口をぱくぱくとさせた。

「かっ!ひぅっ!・・・あ・・・ひゃふ・・・」

 魂までも吹き飛ばされるような、圧倒的な快感だった。
 今まで経験してきたセックスが、ただの遊び以下だったと思い知らされる。それまでの価値観や知識や常識なんて、なんの意味もなかったとすら思わせられる、それほどの快感だ。

「あふ、あ、はああっ!は、ひっ!くぅっ!ああっ!」

 諒一さまが腰を動かす度に、身体の中がごりごりと掻き出されるようだった。息を吐く間もなく、抑えようの無い喘ぎが口を割る。途切れる事の無い快感が身体中を駆け巡り、全身が蕩けて無くなってしまいそうだった。

「ひゃあっ!あひっ!ひ、イイっ!あ゛っ、う゛あああっ!!」

 なんだかずっとイキっぱなしみたいになって、あんまりにも気持ちよくて、幸せすぎて、涙とか感情が止まらなくなって、もう、何がなんだか判らなくなった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」

 意識が薄れて気絶するまでの間、ずっと幸せを噛み締めてた。

 ・
 ・
 ・

 そうして、また意識が戻った。
 前には諒一が椅子に座って、私の方をなんとなくと言った様子で見ている。そして、その両脇には陽子と鈴崎さんがいた。
 私は身体を起こして、そうして初めて全身を蝕む喪失感に気が付いた。

「気分はどう?」

 笑みを多分に含んだ口調で、諒一が問い掛けた。きっと、私が今どういう状態なのか、理解して言っているのだと思う。
 こうなってみると、諒一はつくづく悪人だ。まるで面白い遊びのように、女が堕ちる過程を愉しんでいるんだ。

「最低・・・です」

 本当に、気分は最低だった。
 自分がこれからどうなるのか・・・いや、どうなりたいのか、判ってしまっている。

「そう、じゃあ最後の質問だね。
 1、全て無かった事にして、ここを立ち去る。・・・まぁ、記憶も一部無くしてもらうって事だね。
 2、身も心も、僕のものになってもらう。さっきの状態が、当たり前の日常になるって事だよ。
 さぁ、どっちがいい?」

 まるで私の答えなど判っていると言わんばかりの余裕を持って、諒一はにこやかに笑って問う。
 私は、ぎゅっと自分自身を抱き締めた。目覚めてから感じている喪失感が、いよいよ限界にまで達しようとしているからだ。
 さっきのセックス・・・あれは、麻薬みたいな効果があった。
 身体の快楽だけだったら、もしかしたら忘れ去る事もできたかも知れない。
 けど、諒一を『ご主人さま』と認識していた時のあの幸福は、失うと思っただけでもこんなにもこの心を苛んだ。
 もう、あの幸せ無しに、生きていける訳が無い。
 だって、今この瞬間だって、世界は灰色に埋め尽くされてる。
 この絶望の中を、これ以上我慢なんて・・・できない。

「2・・・です」

 涙と一緒に、言葉を押し出す。この涙は悔しさからなのか、喜びからなのか、自分でもわからなかった。ただ、これで楽になれると、それだけは感じていた。

「判りました。由布先生・・・僕達の仲間に、ようこそ!」

 芝居掛かった口調で、諒一が・・・諒一さまが言った。
 これでいい・・・今までの緊張を溶かすような、巨大な安心感が身体を包んだ。
 私は床に降りて、諒一さまの足元に跪いた。

「これからも、宜しくお願いします・・・ご主人さま」

- Epilogue -

「やだ、由布ってばなんか変わったぁ?」
「そうそう!なんだか私もそう思ったー」
「そうかなぁ?」

 今日は、久し振りに友達と会っている。ご主人さまに尽くす事の無い、かわいそうな友達に、私は笑みを向けた。

「だって、なんだか雰囲気も柔らかくなったし、綺麗になったみたいじゃない?」
「うあ、なんだか悔しいよねー」

 二人は本人を目の前にして、ああだこうだと盛り上がっている。
 まぁ、あながち間違ってはいないのだけど。

「「好きなヒト、できたんでしょーっ!!」」

 二人が同時にそう言って、狭いテーブル越しに私に詰め寄った。急に言われたので、つい私はビクっと反応してしまう。

「「やっぱりーっ!」」

 まぁ、全部は隠す気は無いからいいんだけど。

「ふふ、まぁね。今、とってもステキな恋をしてるから」

 あんまり私が自慢げに言ったものだから、カレシ募集中の二人が憤慨してるのを横目に、私は諒一さまのことを思い浮かべて幸せな気分を満喫した。
 世界は、幸せで光り輝いていた。

< 終わり >

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