章 之 序 「人 形」
ついに見つけることが出来た。
殺戒を明けてから、ずっと探しつづけてきた人間を。
3千年かけて造り上げた宝貝(パオペエ)“光輝班”。それを埋め込むための人形を。
いくつか条件があった。まず、女であること。それも10代の。
女なのは、たぎりきった自分の性欲を満たすために使うためだし、10代なのは宝貝との融合をはたし易いからだけど、これ以上に重要な条件がある。それは、仙骨があること。これがない人間に、大切な宝貝を埋め込んでも、なんの役にも立たない。
千年前に比べて、遥かに人の数は増えたけど、仙骨を持つ人間の数はたいして変わっていなかったから、ひどく見つけづらくなっていた。
でも、ついに見つけた。
ついに。
日本の学校に通っている少女。
これ以上ない、と言うくらい最高の仙骨を持っていた。
容姿の方は仙骨……すなわち、理想の骨格を持っているのだから、悪いはずがないが、その少女は黄宝文が生きてきた、一万年以上もの年月の中でも、5指に入るくらいの美しさだった。
ついている。本当に自分はついている。まさに、彼女こそ、自分の人形とするのに、理想の存在だった。それが目の前にいる。手間こそかかったが、ここまで理想的な人形に出会えるとは、正直なところ思ってなかった。
これならば……。
自分が作り上げた中でも、最強の宝貝、“光輝班”とこの人形があれば、あの忌まわしきモノを倒すことすら不可能ではないはずだ。
仙人になれる力を持ちながら、仙人になることを拒むモノ。自らを外仙と呼ぶ、忌まわしきモノ。殺戒が明け、宝貝を使う仙人が現れると、これと戦い倒して封神台へ送り込んでいた。一万年近く生きてきた黄宝文にも、それ以上のことは、わかっていない。今から、3千年ほど前に、闡教と截教との間で起こった大戦のときには、実に9割以上もの仙人、妖仙達が封神されてしまった。
黄宝文は、たまたま殺戒が明けておらず、そのために助かった。
闡教側は、截教側がを行なっていると思っていたようだし、截教側は、闡教側がやっているって考えていたようだ。
結果として、両者ともほぼ壊滅状態となって、大戦は終結した。でも、その状態をまねいたのが、たった一人の外仙によるものだと気付いた仙人はおらず、黄宝文が真相に辿り着くことができたのは、たんなる偶然に過ぎなかった。
呂尚と呼ばれる一人の導師が、金鰲島の残骸の中から拾い上げた1つの宝貝。名も知れぬその宝貝は、半径百里以内に起こったすべてのことが記録されており、そのおかげで真実がわかった。
そこに写されていたのは、外仙と呼ばれる化け物の姿。
仙人達が生み出した、超兵器たる様々な宝貝が、なすすべもなく、その化物に打ち砕かれてゆく。それを使った仙人達もあっさりと倒され、一瞬のうちに封神されてしまう。
累々と横たわる仙人達の屍の中に立つその化物は、極北に輝く星よりも冷たく、そして美しかった。
その姿を見たとき、単なる映像でしかないことを知っていたにもかかわらず、黄宝文は全身が震えだすのを止めることが出来なかった。その時初めて、彼は、恐怖と言う感情がどう言うものなのかを知ったのである。
それから黄宝文は、自分が作りかけていた、すべての宝貝の作成を一時中止した。それなりの自信がある宝貝ではあったけど、外仙のモノに対して、何の役にもたたないことは明らかであったからだ。
なにしろ、仙界の中でも1、2を争う破壊力をもっていたはずの宝貝、伸公豹の“雷公鞭”が、何のダメージも与えられなかったのだから。
それから、必死になって宝貝を作り続けた。5百年後、殺戒が明けたけど、それでもさらに5百年かけて、宝貝を作り上げた。
それが“光輝班”。“雷公鞭”をも超えた威力を持った宝貝。これなら、あの化物だとて倒せるはずだ。
いつの間にか、願望は確信へと変化していた。
理想の獲物を前にして、こみ上げる笑い声を抑えることは困難を極めたし、股間の巨大な一物は、きたるべき時を想って限界まで膨れ上がっていた。
雨宮悠子を、普通の女子校生だと言うのは、極めて無理があっただろう。
なにせ、入学以来学年トップの成績を続けていたし、剣道部の部長を勤める彼女は、1年と2年と連続して全国大会で個人優勝を果たしていた。でも、彼女の場合、そういった燦然たる経歴よりもなお、彼女を特徴付けているものがあった。
それは美貌。一目見たら、たぶんその人の心に一生きざみつけられることになるくらいに、超越した美貌。
どれくらい、すごい実績を積み重ねようと、その美貌の前には、ほんの瑣末なことでしかない。
そう思わせるくらいの。
悠子自身は、それが本当にいやだったから、そう言われないために努力を惜しまなかったし、顔が良いだけの女の子、なんてことを言う者は、確かにいなかった。でもそれは、自身の美貌をあまりに過小評価しすぎていた。なぜなら、勉強なんて出来なくたって、剣道大会で優勝なんてしなくったって、彼女に対する評価はあまり変わらなかっただろうから。
でも、そのおかげで彼女は、強大なプライドと、多少のことでは動じない、強力な精神力を手に入れていた。
「センパイ。さよなら」
「はい、さようなら」
最後の部員を送り出した後、悠子は部屋に鍵をかける。それは、部長である彼女の仕事だった。
すっかり暗くなってしまった校庭。人気もなく、悠子は一人横切る。
いつものこと、いつもの風景だった。……ちょうど、校庭の真中にさしかかるまでは。
「見つけたぞ、ついに」
いきなり背後から声がした。それまで人影どころか、気配すらなかったのに。
悠子は振り返りながら、後ろへ跳ねる。殺気は感じなかった。ただ、彼女の本能が告げたから。
危険だと……。
「お前は、なんだ?」
悠子は、誰かとはきかなかった。
「ほう? さすがに、特上の仙骨を持つ娘。わしのことを、本能的にさっしたか」
妙に、きれいな顔をしている男だった。口元には、いやらしい笑みを貼り付けている。髪は長く、先のほうは三編みにして纏め前にながしていて、左手でそれを弄んでいた。
「わたしに、なんの用?」
そう聞きながら、悠子は手にした袋の封を解き、中から木刀を引き抜く。普通の木刀ではない。中に、鉄心をいれて強度と重さとバランスを調整してある。悠子が竹刀を使うのは、後輩相手に稽古を付けるときくらいで、自分で稽古をするとき、師匠を相手に道場で稽古をつけてもらうとき、常に、これを使っていた。
「わけを聞きながら、戦いにそなえるか。ますます気に入ったぞ、娘」
男は、心底うれしそうに言う。
「どうやら、答える気はないみたいね」
悠子の瞳に、危険な光が宿る。
「こわいな。答えんとは、言ってなかろうに」
こわいと言いながら、口元に浮かんだ笑みは相変わらず、いやらしさに満ちている。
「わしのモノになれ。わしの人形として、わしのためだけに生きるのだ。さすれば、永遠の命と、巨大な力をお前にさずけよう」
男の答え。
「ごめんね。おことわりだわ」
悠子は、きっぱりと否定する。
「なぜだ。その美貌を永遠に保てるのだぞ?」
ますます楽しそうに、男が尋ねる。
「永遠の命? 巨大な力? バカにしないで、それは、わたしに人間をやめろってことじゃない。 それに、なりより、あなたのためだけに生きる人形ってのが気に入らないわ。わたしの主は、わたし自身だけよ。どうしてもわたしを手に入れたければ。わたしが死んでから自由にすればいい。それが出来れば、だけど、ね」
悠子は、もうすっかり戦う気になっていた。
構えは下段、切っ先は、わずかに地面に潜っている。
「なぜ、逃げることを考えん? 大声を出して人を呼んでも良いのだぞ?」
あえて、悠子が選ばなかった選択肢を、男が示してみせると。
「わたしの目は、節穴じゃないわ。街のざわめきが、いきなり聞こえなくなったのは、なぜ? 空を飛ぶ虫達が、羽ばたきもせず、空中に浮かんでいられるわけは? どう考えても、あなたを倒す意外の選択肢があるとは思えない」
それが、悠子の答え。
「なるほどな。だが、単なる人の身で、このわしに勝つことなぞできんぞ?」
「そんなこと、やってみなければわからない!」
そう言ったと同時に、悠子が動いていた。
剣を下からはね上げると、木刀の切っ先に乗せていた小石が礫となって、男の顔をおそう」
技の名は、訃宣。もちろん、剣道にこんな技はない。彼女が師事した古流剣法、三条流の技の一つ。
男が、石をかわした一瞬の間に、一気に悠子が間をつめる。普通の剣の間合いより、さらに大きく一歩踏み込んだ位置。それが、三条流の間合。
右手で剣の柄の辺りをつかみ、左手は剣の中ほどにあてがわれている。
ほとんど密着するくらいまで間合を詰めた悠子が技を放つ。
「ハッ!」
右手を引きながら、左手で発徑を行なう。切っ先に触れたものは粉砕され、引き裂かれることになる。これが真剣なら、単に切り裂かれるだけだから、そのダメージは遥かに大きなものになる。
よって、三条流にとっての真剣とは、木刀のこと。
手ごたえはあった。肉を裂く感触がその手にはっきりと伝わってくる。でも、悠子は止まらない。男の体に、直角に木刀をあてがい、今度は右手で発徑を放つ。
あっさりと、木刀は男の体を貫いた。
貫いた木刀に肘を掛け、体全体を使って上に引っ張り上げる。男の体が縦に引き裂かれる。
これが、三条流の技。いかに短時間に、徹底的に相手の肉体を破壊しつくすか、そのためだけに生まれた技だ。
それまで止めていた息を吐きながら、木刀を一気に引き抜き、一旦間合いを取る。木刀……いや、剣を納めなかったのは、まだ相手が生きていたからだ。
「三条流……。まさか、まだ伝える者がいたとは、正直驚いた」
言っている間に、男の体に刻みつけられた傷が、完全に塞がってしまう。
「ば、ばけものめ」
悠子がはき捨てるように言った。
「どうだね? まだ、やるかね?」
楽しそうに男が尋ねる?
「むろん。わたしは、まだ生きている。まだ、戦える。それに、体がダメでも、頭を潰されたら、どうだ!」
言い終える前に、再び悠子が動き出す。
さっきよりも、さらに速かった。
間合を一気につめると、右にいっぱいにねじった体を反対側に回転させ、爆発的な力を得る。使うのは剣先ではなく、柄の部分。すさまじく速度の乗ったそれに、インパクトの瞬間に発徑を加える。三条流の技の中でも最大級の破壊力を誇る技、“破山”。これが、頭に当たれば、頭は一瞬で吹き飛ぶ。
でもそれは、当たらなかった。当たる。そう確信していた。インパクトの瞬間まで。
いなかった。男の姿が消えうせる。技は、むなしく空を切っていた。
「ここまで、だな」
声が背後から聞こえる。悠子は、背筋に冷たいものが疾るのを感じた。
振り返らずに、前へ跳ねようとする悠子。判断は正しかった。でも、もう遅かった。
大技を繰り出した、その直後だったから……。
全身を襲う衝撃。
悠子の意識は、そこでとぎれる。
「すさまじいものだな。タイミングが少しずれれば、やられていたか……」
つぶやくように言った黄宝文の頬は裂け、血が流れだしていた。
それから、どれくらいの時が流れたのだろう。
悠子の意識が戻り、目を開くと、まったく見知らぬ部屋に立っていた。
体が動かない。
目は開けられた。視線だけは、自由に動かせる。でも、それだけ。中国風に整えられた部屋の中央に、一糸纏わぬ姿で、気をつけの姿勢で立ち尽くす悠子。
でも、悠子は気付いてなかった。彼女の頭に、金冠がはめられていることを。
誰かが悠子の体を撫で回していた。
乳房をやわやわともみしだき、乳首を摘み上げる。もう一つの手が前に回され、まだ誰にも触れられたことのないスリットに指を差し込んでくる。
全身を、激しい嫌悪感が包む。でも振り払ったり、声を上げたりすることはおろか、表情を変えることすらゆるされなかった。
「気が付いたようだな」
悠子の背後に立ち、耳元で囁くようにそう言ったのは、黄宝文だった。もちろん、悠子の体を無遠慮になで回し、もみしだいているのも黄宝文。
「お前の体には、わしの作った宝貝“光輝班”が埋め込まれている。すでに完全に同化しているから、お前が“光輝班”といってよかろう。もう、お前は、わしの人形だ。わしのためだけに生きる、な」
そうささやきながら、黄宝文の口元には、いやらしそうな笑みが浮かんでいる。
「とりあえず、口だけは自由にしてやろう……」
“疾(ジャイ)”
黄宝文の口から発せられたのは、力の込められた言葉。
悠子は、自分が自由に話せるようになったことを知った。
「……手を放せ。きさまの汚い手で、わたしにさわるな!」
それが、悠子の第一声。
「ククッ。楽しいな。すばらしいよ、まったく」
言われたからではないだろうけど、黄宝文は悠子から離れる。
そのまま、ゆっくりと悠子の正面に回りこみながら、黄宝文が語りかける。
「お前に使ったのは“光輝班”ばかりではない。……自分の頭を触ってみろ」
言われると、それまで指先まで真っ直ぐに伸ばしたまま、微動だにしなかった両腕が動くようになっていた……。ただし、自分の意志に関係なく、ではあるけど。
「これは……」
自分の頭をまさぐった悠子が、そこに金属のわっかがはまっていることを確認する。不思議なことに、触れてみるまで自分の頭に、そんなものが付けられているなんて、全然わからなかった。
「“操考冠”と言う名の宝貝だ。それが、お前をわしが自由に使える道具にしてくれる」
その話を聞いたとたん、悠子は必死になって、それをはずそうと試みるが、彼女の両手は無常にも元の位置に戻されてゆく。悠子の必死の努力は微塵も役にもたたなかった。
「こいつを、はずせ。わたしを自由にしろ」
正面に向かってゆっくりと歩いてゆく男を、目だけで追いながら、悠子がうなるようにそう言った。
おさえてはいるけど、内心怒り狂っていた。もし、体に自由が戻ったら、その瞬間、悠子は男に襲いかかっていただろう。
でも現実は、ただ気を付けの姿勢をしたまま、そんな言葉(セリフ)を口にするのがせいぜいだった。
「いや、まったく、何度も言うが、お前は本当にすばらしい」
ちょうど黄宝文は、悠子の正面に来たところで立ち止まり、ゆっくりと向き直る。
「これから、お前とすることを考えただけで、私のモノが破裂しそうだよ」
「汚らわしい。貴様のようなやつに弄ばれるくらいなら……。いっそ殺せ!」
はき捨てるように、悠子が言った。
「ククッ……。どうも、何か勘違いしているみたいだから、少しその宝貝のことを説明しておこう。その“操考冠”を付けられた人間は、それを付けた者の言葉に従う。お前が体験したように、な。だが、それはその宝貝のサブ=システムでしかない。“操考冠”の真価は、思考をあらかじめ条件に応じて決めておくことができることにある。以前は単純なことしかできなかったが、今はコンピュータと言う便利なものがあって、かなり複雑なこともプログラムすることもできるようになった。まあ、今それにインストールしてあるのは、OSとこれからやる簡単なアプリケーションが何本かだけだが。……まあ、これ以上話したところで、お前も退屈だろう。起動してみるか?」
なめまわすように、悠子の体を見ながら、黄宝文がたずねると、
「わたしは、お前の自由などにはならない。たとえ、今は体の自由を奪われていても、心までは自由にさせない。かならず、きさまの喉笛に喰らいついて、ひき……」
悠子は、最後まで話すことはできなかった。黄宝文が自分のズボンを下ろして、中から巨大な一物をつかみ出すのを見てしまったから……。
“操考冠”のプログラムが起動する。
悠子は自分の肉体が自由を取り戻したことを知った。でも、彼女は自分の言ったことを何一つ実行することはできない。
「ち、……んぽ……。ちんぽ……。なめる……」
それは、悠子の口から漏れてくる言葉。
そして、それは彼女の頭の中に浮かぶ言葉そのままでもあった。
ふらふらと、黄宝文に近づいてゆく悠子。彼女は、命じられることもなく、黄宝文の目の前に跪いて、まだしなだれたままのモノを両手で握る。
「なめる。なめる」
ぶつぶつとつぶやき続ける悠子の口元からは、よだれがたえまなくつたい落ちている。手にしたモノを舐めるために、その愛らしい口を大きく開くと、口の中に溜まっていた涎が、いっぺんに溢れでてきた。
大きく開けた口に、男のモノを咥える。
吐き気がくるくらいの強烈な嫌悪を、悠子は感じているけど、それでも考えられるのは一つのことだけ。黄宝文の肉棒を舐める。それだけが、悠子が今考えることのできる唯一のことだった。
強烈な嫌悪感を感じながら、たんねんに、丁寧に、隅々まで黄宝文のチンポをねぶり回す。そのことしか考えられなくなっている今の悠子には、当然手を抜くとか、嫌悪のあまりやめてしまうとかいうことなど、できはしない。
黄宝文の巨大なモノが、急速に成長を始める。それまでも、口の中一杯だったそれは、すぐに口の中ではおさまりきらなくなってしまう。
悠子は、それを喉の奥のほうまで突き入れることで、完全に咥えこむことに成功していた。
口は限界近くまで、めいっぱい開ききっている顎は、たえず痛みを訴えていたし、たえず喉の奥まで突き入れている肉棒のために、はげしい嘔吐感と、満足に息をすることのできない苦しさを感じ続けていた。
でも、それでも、悠子が考えられるのは、“肉棒を咥えること”だけだったから、どんなに苦痛があっても、どれほど嫌がっていても、彼女ができることは、それしかない。
でも、それも長くはなかった。
「ふむ。これはこれで気色がいいが、やはりものたりんな」
独り言でも言うみたいに、小さくそうつぶやいた後、
「とりあえず、一時停止だな……。疾」
悠子の体が凍りつく。大きく口を開いたまま、舌は、肉棒を舐め回しているときのまま。
それと一緒に、悠子の頭に思考の自由がもどる。もっとも、完全にではなかったが。
“なんで、わたしがこんなことを。チンポ……。吐き気がする、むかつく、なめる……。くやしい、くやしい、チンポ……。くそっ。なんで、こんなのが、チンポ……。頭に浮かんでくるの? なめる……。こんなことしか、なめる……。かんがえられなくチンポ、なって、こんな男の汚らわしいチンポ……を、舐め回すことしかできなくなって、チンポ、今だって頭の中から、なめる……、離れようとしない。なめる……。自分の考えを自由にできないのが、こんなに、チンポ、つらいなんて、なめる、思わなかった”
そんなことを考えている間に、固まってしまった悠子の肉体は、黄宝文の手に抱えられ、大きなベッドの上に運ばれてしまっていた。
“くそっ! 一体これから、チンポ、なにをさせる気? なめる”
悠子の疑問は、すぐに解かれることになる。
身をもって。
「疾(ジャイ)」
黄宝文の口から、その言葉が発せられると同時に、悠子に付けられた“操考冠”が再び起動する。
肉体は自由を取り戻し、思考は縛られる。でも、今度はさっきとはまるで違った。
悠子の全身がやけつくように熱く、乾いている。
強烈な欲求。
頭の中は真っ白。何も考えられない。右手が自分の胸を力いっぱいもみしだき、左手はスリットに差し込まれて、溢れ出てくる熱い蜜を、すべて掻きだすかのような勢いで動きつづけている。
「あん、ん、あうん、うん、うっ!」
悠子の口から出てくる声は、とろけるような喘ぎ声ばかり。
視線はぼうっとしたまま宙を彷徨い、だらしなく開かれた口の中では、見えない何かを舐めようと、舌が淫らに動き続けていた。
「やはり、女はこうでなくては、な。わしに剣を向けて来たときのことを思い出すと、わしのものがたぎるぞ」
そのセリフを口にしたとき、黄宝文は、何も身につけていなかった。いつ、どうやって服を脱いだのだか……。
まあ、そんなことを気にするような人間はこの場にはいなかったけど。
黄宝文が悠子にキスをする。
だらしなく開かれた口に、自分の舌を突っ込んでねぶりまわし、唾液をたっぷりとその中に送り込む。
それを感じたとき、悠子は全身に衝撃を受けていた。
それは、快感。
「あ、あ、あ、あ」
キスでふさがれた口から、そんな声がもれてくる。
黄宝文は、そのまま悠子の足を開かせると、いきなり自分のモノを突っ込んだ。
その瞬間、悠子の体が跳ね上がる。黄宝文を上に乗せたまま、すごいいきおいで、のけぞったのだ。
苦痛からではない。
今、悠子は、快感以外は感じない……と言うよりは、すべての感覚が快感へと変換されている。だから、悠子の破瓜の痛みは、すべて強烈な快感となり、一気にオルガスムスへと導かれてしまった。
「コマンドA0が起動した。わしの精を記憶することで、これなしではいられん体になる。……といってもわからんか」
悠子の耳元で、黄宝文がささやくように言った。でも、当然今の悠子に理解できるはずがない。なにせ、頭の中には、気持ちいいことしか浮かばず、それ以外のことは理解できないようにされていたのだから。
「あ゛あ゛あ゛……」
体全体を大きくのけぞらせ、喉の奥からしぼり出すように、声をあげている悠子。
ただ、それだけしかできない、オルガを感じるだけの人形。それが、今の悠子だった。
腰を突き上げながら、両手で悠子の胸を握りつぶしてしまいそうなくらい力を込めてもんでゆく。
全身を突っ張らせながら、時々ビクン、ビクンと体をケイレンさせる悠子。どうやらイッてるのらしいのだが、その後力が抜けてしまうことがないのを見ると、イキっぱなしになってしまってるらしい。
「さて、そろそろ出させてもらおうか!」
黄宝文は、悠子とは正反対に完全に冷静さを保ったまま、自分の欲望を制御していた。
右の乳首を奥歯で、左の乳首を右手の指で、そしてクリトリスを左手の指でそれぞれひねりつぶす。
噛みちぎる、あるいは引きちぎるほどの力が加わったけど、血はおろか、かすり傷一つ付かない。宝貝と融合したと黄宝文が言っていたその肉体は、すでに人のものとは違っていた。
人間の感覚中でもっとも鋭く、そして強烈な感覚、……痛覚。それが、すべて快感へと変換される。
その結果、悠子は、あまりに強烈な快感にさらされることになる。息もできないほどの快感。それが悠子を襲ったとき、黄宝文が精を放つ。
黄宝文の気がたっぷりと込められたそれは、悠子の全身に、すみずみまで広がってゆき、悠子をさらに遥かな高みへと飛翔させる。
普通だったら、とても正気をたもっていられなかったろう。でも、今の悠子は宝貝“操考冠”によって、完全に意志を封じられている。それゆえ、その快感すべてを、何のダメージも受けることなく、受け止めることができた。
上に黄宝文を乗せ、美しいブリッジを形作っていた悠子。
目は開いていても、彼女の意識には何も映ってはいない。
エクスタシーが最大値に達した瞬間、悠子の刻は凍り付いていた。
思考も、動きも、呼吸も、そして、鼓動すら止まり、黄宝文の気が込められた精が全身、指の先にいたるまで広がり、すべての細胞がすさまじい快感をうったえてくる。
悠子はそれをただ受け止めるだけの器だった。
「保険を掛けさせてもらった。“光輝班”となったお前に、“操考冠”だけではいささか心もとないのでな」
声をかけた後、黄宝文が悠子にキスをすると、その体から力が抜け、ふたたびその心臓は鼓動の響きをとりもどす。
「げっはっ。げ、げ、はぐうっ……。は、は、はぁはぁはぁ」
はげしくえずき始める悠子。
「最後のプログラムが起動した。……それでは、今度は私も楽しませてもらおう」
そう言った黄宝文の腕の中にいたのは……。
「はい、ご主人様。どうか、このいやらしいメス犬の肉体を、存分にお楽しみ下さい!」
黄宝文に絶対忠実な奴隷とされた、悠子だった。
アメリカ国防総省……ペンタゴン。
居並ぶ将軍達の前で、その映像が上映されていた。
超超高度、衛星軌道上からのものと思われるその映像には、まったく何のへんてつもない砂漠が映し出されている。
ただ退屈なだけの映像。
でも、それを見ている将軍達の表情は、誰もみな真剣で、話し声どころか、息すらもつめているようだった。
変化は、何の前触れもなくおとずれる。
始めは、小さな白い点だった。そこに光が螺旋状の弧を描きながら集まりだす。最初は何本かの光りの帯に過ぎなかったが、すぐに奔流へと変わり、画面には巨大な光の渦が生まれていた。
渦の中央、点に過ぎなかったものは、急速に成長を続け、やがて渦そのものを飲み込むほどに大きく育った後、あらわれたのと同様、いきなり消え去った。
その後には、また以前と同じような光景が映し出されていた。
でも、その映像には、一つ大きな違いがあった。
砂漠が消えていた。
変わりに、そこには巨大な穴があった。
真円の縦穴。
爆発でできたクレーターではなく、垂直に抉り取ったような縦穴。
押し殺した、うめくような声が部屋のそこかしこから聞こえてくる。
でも、それで終わったわけではなかった。
今度は、画面の中央から光が放たれる。
光が一瞬のうちに画面を包み込み、その後、画面は暗転する。
もう、画面に映っているものは何もなかった。ノイズの嵐が数秒吹き荒れ、それもすぐに消える。
「これが、わが国の偵察衛星“アルフェス”の捉えた映像です」
スクリーンの右横に用意されていた、演説台に立っている白衣の男が言った。
「では次に、今の映像の中央部分を、約一万倍に拡大した映像をご覧下さい」
その言葉が終わるのと同時に、スクリーンには再び砂漠の映像が映し出される。
ただ今度は、さっきと違って、地面の様子がはっきりと判別できる高度に視点が固定されている。
最初は何もない、砂漠が映されている画面。数秒後、変化は突然おとずれる。
何もなかった中空に、いきなり現れたもの、それは漆黒の髪に黄金の冠を頂き、真紅のチャイナドレスを纏った女だった。
真上からの映像では、女の顔は判別できなかったが、なぜか、誰もがその美しさを疑うことはなかった。
女が両手を地面に向けてかざすと、その周囲にちらちらと光が舞い始める。
始めはほたるのようにかすかに瞬いていたけど、次の瞬間には螺旋状にうずまきだし、光の奔流へと変化する。
スクリーン全体が白い光で埋め尽くされた後、唐突に光が消える。
女は何も変わらず、そこに浮いていた。でも、その遥か下方にあったはずの砂漠は消え去り、変わりに巨大な穴ができていた。
女は、その後上を向く。
真っ直ぐに偵察衛星を見上げている。
美しい顔。
これを見ていた将軍達は、彼女の顔を一生忘れることはないだろう。
彼女が右手を上げ、偵察衛星に向けて光のうずを打ち出す、ほんのわずかの間だったにしても。
「一応尋ねておくが、“フィッシュマン”基地はどうなったのかね」
年をとってもなお、鍛え上げられた肉体をもった老人が、真っ先に口を開く。
左の胸に付けている階級章は、彼が海軍提督の地位にあることを示していた。
「あの穴の直径は100マイル、深さは25マイルに達しています。その中にあったものはなんであれ、この世に存在していないものと断言できます」
白衣の男は、いかにも学者らしい回りくどさで答える。
「つまり、あの攻撃の前では、核シェルターなど役にたたんと言うわけか……」
提督の声は重い。
アリゾナ砂漠に、冷戦時代に作られていた、核戦争を想定して設計され建設された戦略基地。
ソ連が崩壊し、位置的な問題点もあって、半ば放棄されていたが、その防御能力には、まったく問題はなかったはずである。
なのに、この結果。
あの兵器の前では、現在人類が有している、どのような防御機構であろうと、まるで役に立たないと言うことである。
これは、世界の軍事バランスを変えてしまうほどの、極めて深刻な事態であった。
「一体、どんな兵器が使われたのか、解析はできたのかね?」
今度は陸軍大将のバッヂを付けた初老の男がたずねる。
「いえ、我々には、皆目見当もつきませんでした。しかし、それに関しては、私どもより、遥かにふさわしいゲストにお越しいただいています」
そう言って、白衣の男がホールの入口の方を指し示すと、二人の人間が、閉じたままの扉を通って入ってきた。
一人は男。
白いチャイナ服に身を包み、長い髪を先の方で三つ編みにしている。
きれいな顔立ちをした男だった。
そして、もう一人をみたとき、この部屋にいた、白衣の男を除いた全員が息を飲んだ。
自分が見ているものが、自分で信じられない。
たぶん、全員がそういう思いだったろう。
真紅のチャイナドレスを着て、漆黒の髪には金色の冠を頂き、無謬の美しさをたたえた女。
さっき映像として彼らの前に映し出されていた、決して忘れることのできない、あの美しい女が、今彼らの目の前に立っていたのだった。
< つづく >