My Sweet Sweet Witch

 ……毎日が、面白くなかった。

 繰り返される似たような、学校での日々。大学受験のことしか言わない、母親。ろくに眼を合わそうともしない、父親。判ったような口をききながら、結局他人の悪口でしか盛り上がれない、クラスの連中……。

 …それよりなにより、そんな中に埋もれながら、自分で何も変えられない『僕自身』。
 それが一番気に入らなかった。

『ちくしょう……っ!』

 そんな苛立ちを胸に、夜の街を歩いていた。
 自分自身が気に入らなくて、苛立って、情けなくて……。

 だから、

『ガシャン…!』

     「やめ、やめてよ……っ!」

  「うるせーなっ! 静かにろよっ!!」

 そんな、いつもなら近づかないようにして遠ざかるはずの音に、自分からふらふらと近づいていった……。

「……ねえ、大丈夫?」

 声が、聞こえる。
 僕は顔の上に乗った濡れたタオルを持ち上げ、声の方を向いた。

 白い、清潔そうな部屋。
 壁際には薬品類の入った戸棚があり、それ以外にもいかにも病院の診療室ってな感じの部屋だ。

 そして僕が横になっているベッドのすぐ側には、ウエーブのかかった長い髪をした、若い女性。まあ、”若い”といっても、高校生の僕よりは年上だろう。多分、20歳台前半か。
 ちょっと化粧が濃いようにも感じるけれども、間違いなく美人と言っていい。スタイルもイイし…。

「ええ、まあ…」

 うやむやに返事をして、ベッドから起きあがろうとする。
 が、

「あ…?」

 ぐらっと、きた。
 連中にタコ殴りにされたダメージが、まだ残っているらしい。

「あっ、まだ横になってたほうがいいよっ。
 お医者さんも、少し休んでいっていいよって言ってくれたし…」

 彼女が慌てて僕を支えるようにし、再びベットに横にさせた。

 彼女の手が動き、濡れたタオルを再び僕の顔に乗せてくれる。
 そのひんやりとした冷たさが、熱をもった傷に気持ちよかった。

 …ふいに、僕の手を冷たい、柔らかい感触が包んだ。
 彼女の、手だろう。

「……ありがとうね。助けてくれて」

 彼女が、そう言う。

「いや、『助けた』って言っても…」

 騒音の聞こえた路地にはいると、そこではこの女の人が、二人組の男に絡まれていた。
 格好を付けて止めに入った僕は、あっさりとボコボコにされてしまったわけだ。
 その間に、通りがかった人が警察に届けてくれたらしい。警察官が何人か駆けつけて、僕と彼女は何とか助かった。
 とは言え、僕の方は無事にとは行かず、医者にかけられることになったのだが…。
 結局、打撲だけで大したケガは無かったらしい。

「結局、何も出来なかったし…」

 そう言いかけた僕の手を握った彼女の手に、キュッと力が加わった。

「そんなことないよ。
 怖くて、だけど誰を助けに呼べばいいのか、ぜんぜん思いつかなくて……、ホントに、凄く怖かった。
 キミが助けてくれなかったら、私はきっとひどい目に遭ってた」

「……」

「ねえ、どうして助けてくれたの?
 ケンカとか、強いわけじゃあないんでしょう?」

 まあ、僕が弱いって事くらいは、この結果を見れば解説の必要なんか無いだろう。

「別に、理由なんかありませんよ……」

 そう、大した理由なんか無い。僕自身の、あくまで僕自身の為だけの、そんな理由からしたことだ。
 …だけど、そんなことを彼女にわざわざ説明する気にはなれなかったし、したくもなかった。

「そう……」

 彼女も、それ以上はしつこくは聞いては来なかった。
 部屋に、沈黙が流れる。

「……よっ、と」

 僕は、ベッドから起きあがった。

「あ、ちょっと…」

 彼女が慌てて声をかけてくるが、そのまま床に立ち上がってみる。
 大丈夫、あちこち痛むが、歩けない程じゃあない。

「もう、大丈夫ですよ。歩いても平気そうです」

「そう?」

 彼女はまだ少し心配そうだったが、それでもほっとした顔でそう言った。

「それで…、警察の人がね、キミの家に電話したけど誰も連絡が取れなくて、って…」

「ああ、うちの両親、今日は二人ともいないんです」

 親父は仕事を理由にあまり家には帰ってこないし、母親は今日は主婦仲間で温泉に行っているはずだ。

「そっか……わかった。
 じゃあ、せめて車で送らせて?」

 時計を見ると、もう終電に厳しい時間だった。

「それじゃあ、お言葉に甘えて…。
 ……えっと…」

「ああ、ごめんね。まだ名前を言ってなかったよね。
 大山 蓮(おおやま れん)…、ハスの花の”蓮”って書いて、”レン”っていうの」

 彼女が、初めて笑った。
 その笑顔があんまり綺麗だったので、思わずドキッとしてしまった。

「ああ、わかりました。
 じゃあ、大山さん、お言葉に甘えさせていただきます」

 動揺を隠すように、そう答える。

「よかった。
 じゃあ、車を取ってくるから、玄関の所で待っていてね?」

 僕が頷くのを確認し、彼女は部屋から出ていった。

 それから、僕は蓮さんと時々会うようになった。
 というより、彼女がヒマになると、僕を遊びに誘ってくれるといった感じだ。
 僕はあまり女の子と遊びなれていない人間だし、彼女に何が気に入ってもらえたのかは判らない。それでも年上の美人(その後聞いたら、彼女は23歳、僕より6歳年上だった)と出歩けるのは、すごくウキウキしたことだった。

「僕と一緒で、楽しいですか?」

 実際に、そう訊ねてみたこともある。
 でも蓮さんは、その綺麗な顔で軽く笑うと、

「うん、楽しいよ」

 と言ってくれた。

「年下の遊びなれていない子を連れ回すってのも、結構たのしいよね」

 その言葉通り、彼女は僕を、いろんな場所に連れて行ってくれた。
 おしゃれな洋装店や、喫茶店や、…普通は高校生には入れないようなバーとか。

 そんなわけで、僕たちは今、レストランにきている。
 目立たない、ビルの地下にある、無国籍料理とかいうものをだす店。
 出てくる料理には、なんだかよくわからないものも混ざっていたが、それでも楽しめた。

「どう? おいしい?」

 今日の蓮さんは、わりと落ち着いたシックな色合いで統一された服を着ている。
 それがなんだか、僕の中にある年上の女性への憧れと妙にマッチしているようで、妙にドキドキした。

「うん。凄く美味しいです」

「そう? よかった」

 微笑みながら、ワイングラスを傾けている。
 僕の方も、慣れないアルコールをご相伴させてもらっていて、なんだかいい気分だった。

「ねえ?」

 店内の薄暗い照明に照らされた彼女は、いつもよりもさらに綺麗に見える。
 そんな彼女が、僕に尋ねてきた。

「そろそろ、教えてくれないかなあ?」

「…何を?」

 なんの事だか判らなくて、そう訊き返す。

「あの日、キミが私を助けてくれた理由。
 まだ教えてもらってないもの」

「……」

 困ってしまう。
 なんと答えて良いのか、正直判らなかった。

「理由なんか無い、って言ってたけど、…そうなの?
 なにか……」

 僕の目をのぞき込むようにして訊いてくる、蓮さん。
 その彼女の綺麗な顔と、その表情、そしてアルコールでゆるみきった僕の脳味噌が、僕を素直にさせた。

「…本当に、たいした理由なんて無かったんですよ」

「……」

 蓮さんの目を、正面から見ながら、言う。

「僕は、いろんな事にむしゃくしゃしてて。
 だけど実際には何にも出来ない自分自身に、一番苛立ってて…。
 僕なんて、ただ文句や愚痴を言うだけで、実際には何にも出来る力なんて無くて、何にも出来る勇気なんて無くて、何にも出来る能力も無くて……」

 蓮さんは、何も言わない。
 ただ黙って、僕の目を見ながら、僕の話に耳を傾けてくれていた。

「…だから、あの日、蓮さんの悲鳴が聞こえたとき、そのまま通り過ぎたくなんかなかったんです。
 ただ、何か、したかったんです。

 ……そんな、ただ僕自身の為の、ただの自分本位な行動だったんです」

 自分が、何を言っているのかよくわからなかったし、自分の感じていたことを上手く言葉に出来たのかも、全然わからなかった。
 それでも、そんなふうに言葉にして初めて、自分の思ったこと、自分の行動したことの意味を、自分にも理解できた気がした。

「……だから、蓮さんが、僕に礼を言う必要なんか無いんです。
 僕が、僕の為だけにやったことで、偶々そこに蓮さんが居合わせただけなんです」

 …ふっと、自分の肩から力が抜けるのがわかった。
 そんな脱力感のままに蓮さんを見ると、彼女はやっぱり真剣そうな眼差しで僕のことを見ていた。

「ははっ、わかったでしょ。
 あんまりカッコイイ理由があったわけじゃあ、無いんですよ」

 だけど彼女は、ゆっくりと首を横に振った。

「そんなことないよ。
 ……ありがとうね」

「いや、だから……」

 そんな僕を軽く押しとどめて、彼女は話す。

「キミは私のことを助けてくれて、そして今、キミ自身の一番奥にあることを私に話してくれて……。
 …だから、ありがとう、…だよ」

 ……蓮さんは、そっと微笑んでいた。静かに、それでいて優しく。

 僕の中の何が、彼女にそんな表情をさせてあげることが出来たのか。それは判らなかったけど、それでも彼女からそんな顔を向けられた自分がなんだか誇らしくて、嬉しかった。

「あ、えっと、そういえば…」

 それがあんまり嬉しくて照れくさかったから、僕は思わず話題を逸らしてしまった。

「蓮さんって、何をしている人なんですか?」

 今更の事ながら、僕は彼女がどんな職業の人なのか、知らなかったのだ。かといって、学生でもないらしいし…。
 彼女の方も、びっくりしたような顔をして、僕を見た。

「あれ? 話したこと、無かった?」

「はい。まあ、僕も訊かなかったんですけど」

 …まったく、間抜けた話だ。

「奇術師(きじゅつし)よ」

 彼女は、さらっとそう答えた。

「え? きじゅ…?」

 聞き慣れない響きに、戸惑う。

「奇術師。手品師って言った方がわかりやすいから」

「え? 手品って、蓮さん、手品できるんですか?」

 そんな僕の質問に、蓮さんはにやりと笑ってみせる。
 そのままバックの中に手を入れると、なにやら取り出した。…トランプだ。

「はい、じゃあ、よく切ってくれる?」

 僕はそのトランプの束を受け取り、よくシャッフルする。
 彼女はそれを受け取ると、もう一度軽くシャッフルしてから、上から5枚づつ、僕と彼女の前に配った。

「ポーカーは知ってるわよね?」

 頷く僕。

「そしたら、お互い1回チェンジのみで勝負しよう。
 キミからやっていいよ」

 手札を見る。ハートのA・10・J・Qと、クラブの8。僕は迷わず、クラブの8をチェンジする。
 引いたカードは、ハートのK。
 ハートのロイヤルストレートフラッシュ。思わず頬がゆるむような手だ。

「私は2枚チェンジね」

 彼女が手札から2枚切り、山から2枚引く。

「それじゃあ、見せっこしようか」

 お互いにカードを見せ合う。
 彼女の手は、スペードの10・J・Q・K・A、……スペードのロイヤルストレートフラッシュ! 僕の負けだ。

「すごいや、蓮さんっ。なんか、魔法みたいだよっ。
 どうやったの?」

「へへへ……、それは秘密だよ」

 自慢そうな顔で笑う彼女。

「ホント、すごいやっ。
 他にもいろいろできるの?」

「うん、まあ、トランプは基本として、後はいろいろね」

「いろいろって、あの金属の輪っかがつながるヤツとか、あっという間に消えるヤツとか、そういうの?」

 思わず勢い込んで訊ねる。

「ええ、そういうのもやるわね。
 あとは、……そうね、催眠術とかも、少しだけやるわよ」

「え? 催眠術って、あの『あなたはだんだん眠くなる』ってヤツ?」
「そう、それ」

 なんだか思わぬ隠し芸が、ポロポロと現れる。

「…でも、もしもそんなことができるなら、あのとき僕が助けてあげなくても、どうにかできたんじゃあないの?
 あの連中を、眠らせちゃうとか…」

 そんな僕の台詞に、蓮さんはちょっとムッとした顔をして見せた。

「無茶言わないでよっ、マンガじゃああるまいし…。催眠術ってのは、そんなのじゃあないんだから。
 そうね、なんて言ったらいいのかなあ。そう、”集中力”を高める技術っていうのが、正しいわね」

「”集中力”?」
 なんだか、思わぬ方向に話が進む。

「そう。 たとえば、人が棒みたいになって、その上に他の人が腰掛けても大丈夫っての、見たことあるでしょう?」

「うん」

 …まあ、見せ物としての催眠術ものの、定番みたいなもんだ。

「あれは、術者が催眠術をかけられてる人を操ってるわけじゃあなくて、その人の集中力を高めて、普段では出せない力を『引き出させてる』ってわけね」

「ふーん、…じゃあ、あれは本来、かけられてる人の力ってわけ?」

 蓮さんは一つ頷く。

「そう。もっとも実際には術者の方でも、いろいろな錯覚を用いたテクニックも使うけどね。
 まあ、だから、これもよく言われるけど、『かけられる人が本当に嫌がってることは、させることができない』ってのも、本当なのよ」

 なるほど、そういうものなのか。
 とは言え、なんだか興味も湧いてきた。

「ねえ、蓮さん……お願いがあるんだけど」

「ん? なに?」

「いや、さ……、試しに僕にも、催眠術ってかけてくれないかなあ?」

「え?」

 ちょっと驚いたような顔をする、彼女。

「なんだか、興味が出てきた。一度くらい、かけられてみたいかなあ、って。
 それに、今の話だと、かけられたとしても本当に僕がイヤなことは、させられないんでしょう?」

「うん、まあ…」

 蓮さんは、ちょっと迷ったようなうな顔をした。
 これはもう一押し必要かなあ、と僕が考えはじめたそのとき、彼女は顔を上げると言った。

「わかった、じゃあ、お見せしましょう。
 でも、ここじゃあなんだから、食べ終わったら他の場所で、ね」

「やった、ラッキーっ」

 思わず声を上げてしまい、蓮さんにクスクスと笑われてしまう。
 それでも楽しみなものはしょうがない。

 店のウエイターの人が、食後の良い香りのするコーヒーを、テーブルまで運んできてくれた。

「じゃあ、遠慮なく上がって」

 蓮さんはそう言って、僕を部屋に通してくれた。

 女性の部屋、しかも一人暮らしの若い美人の部屋に入ることなど初めてな僕は、ちょっとドキドキしながら玄関をくぐる。

 蓮さんの家は、綺麗なマンションの一室で、結構広そうだった。
 部屋の中は綺麗に片づいており、なんだかいい匂いがした。

「へえ…、手品師って、結構儲かるんですか?」

 ついそんなことを訊いてしまう。

「あはは、そんなわけないよ。よっぽど人気があるならば、別だけどね。
 …私の場合は、両親がまとまったお金を遺(のこ)してくれたから」

 …つまり、蓮さんのご両親は、すでに亡くなっていることになる。

「……その、ごめんなさい」

 だけどそんな僕に、彼女はそうサラリと応えてくれる。

「やだなあ、そんなに気にしなくてもイイよ。
 別にキミが悪いわけじゃあないんだし」

 そして彼女は、僕をリビングのような部屋に通すと、

「じゃあ、ちょっと着替えてきちゃうから、待っててね」 と言いのこして、他の部屋に行ってしまった。

 一人その部屋に残された僕は、辺りを見回す・
 わりとシンプルな、ゴチャゴチャした飾り付けのない部屋で、なんだか居心地が良さそうにまとまっていた。
 蓮さんらしいレイアウトだな、というのが正直な感想だった。

 漠然とした期待感にそわそわしながら、彼女を待った。
 そうした(スケベな)期待が自然と沸き上がってしまうのが半分、そんな自分を戒(いまし)めようとする気持ちが半分、といった感じだ。

 だから蓮さんが、ゆったりとした部屋着になって部屋に帰ってきてくれたときは、ちょっとほっとした。

「ねえ、それじゃあ、早く催眠術やってみてよ」

 そんな僕に『しょうがないなあ』といった顔で笑って見せ、

「はいはい、それじゃあ、リクエストにお答えして…」

 そう言ってくれた。

 僕をゆったりとした椅子に腰掛けさせ、部屋の明かりを薄暗くする。
 そんな部屋の中、彼女と二人きりということが意識され、ドキドキしている僕に、彼女は少しトーンを落とした、ゆっくりとした話し方で囁いた。

「それじゃあ、息をゆったりとして。
 …吸って、…吐いて、……そう、ゆっくり呼吸するの。そうしているうちに、自分の呼吸が自然とゆったりとしてくるの、判る?」

 彼女の言葉通りに深呼吸していた僕は、だんだんと呼吸が落ち着いてくるのを自覚して、小さく頷いた。

「そう、…そうしたら、今度はこれを見て」

 目の前に、何かが差し出される。銀色の……指輪だ。
 蓮さんのほっそりとした長い指につままれたそれが、目の前で小さく揺らされ、その度にその表面に反射する光が、チラチラと変化する。

「ゆっくり……呼吸して…。
 そう、ゆっくり……
 そうしているうちに、だんだん身体が動かし辛くなっていくわよ…」

 言われて、右手を動かそうとする……が、動くことは動くが、なんだかいつもよりも反応が鈍い気がしてきた。

「ね? 言ったとおりでしょう。
 …今度は、ちょっとやり方を変えてみましょうか。
 私が指でキミに触るから、その部分に全ての神経を集中させるの。…いいわね?」

 コクン、と僕は頷く。
 それを満足そうに見る、蓮さん。

 蓮さんの指が、僕の右手の指先に触る。その触れあった部位が、凄く敏感に感じられた。
 彼女の手が動く。…気がつくと、触れあった指先がくっついてしまっているかのように、僕の腕は自然と上がり、彼女の指の動きを追っていた。

「はい、今度は指が離れるわよ」

 蓮さんの指が離れたとたん、『プツリ』と糸がとれたように、僕の上がっていた腕が身体の横に落ちる。
 今度は反対側の手で同じ事を行い、やっぱり僕の手は勝手に動いた。

 なんだか頭がぼうっとしている僕に、蓮さんのゆったりとした声がささやきかける。

「さあ、これでもうキミは、私の声しか聞こえなくなる。
 いいわね?」

 僕は『コクン』と頷く。
 事実、今の僕は、頭が働いていないわけではないが、それでもいつのと違う状態になっているのは判った。
 頭は動いているのだが、それ以外の全てが…身体を動かす力も、あるいは眼や耳といった感覚も…じんわりと鈍くなっている気がする。

 そんな世界の中、唯一蓮さんの声だけが、はっきりと聞き取れた。

「そう…、そうしたら、私の顔を見て」

 …気がつくと、蓮さんの顔が、僕の真正面にあった。
 座った僕に顔の高さを合わせて、その目は僕をじっと見つめている。瞳の中に、薄暗い部屋の照明が反射していて、それを見ながら僕は、『ああ、なんか綺麗だなあ…』などと漠然と考えていた。

「それじゃあ、これから、キミは私に対して嘘はつきたくなくなるわ。
 本当の、自分の心に従った事だけを話してね?」

 僕は再び、『コクン』と頷いた。

「ありがとう。
 じゃあ……」

 そのときになって、僕は気づいた。蓮さんはなんだか、すごく緊張したような顔をしている。
 いつもは綺麗な笑顔を浮かべたその顔が、なんだか今は妙にまじめな顔をしていた。
 その手が差しのべられ、僕の頬をさわる。彼女の触れた部分から、何か熱のような物が感じられた。

 そして彼女は、僕の目を見ながら、言った。

「私ね……、キミのことが好きだよ」

「……え?」

 思わず、間抜けた声をもらしてしまった。
 だけど蓮さんは、そんな雰囲気を壊すような僕の声は無視して、続けた。

「私ね、キミのことが好き。
 キミに助けてもらったあの日から、キミのことばっかり、頭から離れなくて…。そのあと、何度もキミをあちこちに誘って、いろんな話をして、そしたら、キミのことが好きになってたの」

 彼女の潤んだような瞳が、僕の目を射る。
 そして僕は何も言えずに、ただ彼女の言葉に耳を傾けた。

「ごめんね、こんな、不意打ちみたいな形の告白で。
 でも、こうでもしないと、言える勇気が無くて…。

 私なんかキミから見れば、ずっと年上のオバサンかもしれないし、多分ほかのみんなに言えば、そんなに年下の子が好きになるなんておかしいって言われるだろうし……。
 …それでも、ね。……わたし、キミのことが好きなの」

 ……確かに、不意打ちだった。僕は、少しぼうっとしたような頭で考える。
 こんな場面で、こんな話が出てくるなんて思いもしなかった。
 第一、蓮さんみたいな美人が、僕みたいなうだつの上がらない、しかもこんな年下の高校生のことを、そんなふうに思っていたなんて……。

「蓮さん…」

 いろいろな考えが、頭をよぎる。
 こんな、催眠術にかかってまともに動けないような状態で、こんな話を持ちかけるなんて、少し卑怯じゃあないかとか。あるいは、今の僕に、まともな思考が出来るのか、とか…。

 だけど僕は、そんな中で、いちばん自分に正直な想いを、そのまま口に出した。

「…僕も、蓮さんのことが好きだよ。
 僕は、蓮さんに憧れてたんだ。年上で、綺麗で、いろんな事を知ってて……。
 だから、今僕は、凄くびっくりしてるけど……、でも、ものすごく嬉しいよ」

 …蓮さんの顔が、嬉しそうにほころぶ。
 年上の彼女にこんな表現をしては失礼かもしれないが、女の子にそんな表情をさせることが出来たということが、凄く自分を嬉しくさせた。

「…ありがとう」

 蓮さんの顔が近づく……そして、柔らかな感触が、僕の唇に触れた。

「ん……」

 軽く、触れるだけのキス。
 なのに……

「んん……っ!?」

 彼女の唇が触れたそこに、僕の全部の神経が集中する。
 そしてその部分から、信じられないほどの心地よさが背筋を震わせた。

「……ちょ、ちょっと、蓮さん…」

 うろたえ気味に、彼女にそう訴える。

「え?」

 なんでそんなふうに声をかけられたのか判らずに、きょとんとした顔を向ける蓮さん。
 そんな彼女に、弁解するように言う。

「その……やっぱり、催眠術、かかってるみたいだよ。
 僕、体が動かないし、しかも蓮さんに触られると…」

 そんな僕を見る蓮さんの目が、いたずらっぽく輝いた。

「そうだね……。私もこんなの初めてだけど、このままやってみようか?」

「やるって…」

 分かり切ったことを馬鹿みたいに口にする、僕。

「えっち……しようか?」

 …多分、今の僕は、情けないほど顔を真っ赤にしてる。
 この部屋に来たときから、そんな話になるのを期待していたくせに、そのときになって自分がこんなに動揺しているのが、恥ずかしいほどにわかる。

 そんな僕をどのように見たのか、蓮さんは小動物を見るネコみたいな目で、僕の目をのぞき込んだ。

「それじゃあ、私の言うことをよく聞いてね…」

 ゆっくりとした、低めの声に戻って、彼女は僕にささやきかける。
 さっきの指輪だろうか? なにかチラチラと光る物が、僕の視野の端で小さく輝いていた。

「だんだん、体が重くなるよ…。手も、脚も、動かすのがたいへんになってくる……ほらね?」

「蓮さ…んっ」

 抗議の声を上げたつもりだったが、それは自分でもわかるほどに力の入っていない声でしかなかった。
 彼女の言葉通りに、手足が重たく感じられる。
 指さえも、動かすのが重労働に思えてくる。

「さっき言ったこと、憶えてるね?
 私に触られたところに、神経を集中させるの…。私が触るところが、とっても敏感に感じられるようになるよ……」

 そう言いながら、蓮さんは僕の顎を軽く撫でた。

『ぞくり…っ!』

 たったそれだけで、僕の全身に鳥肌が立った気がした。

「う……っ」

 情けなくも、声がもれる。
 自分が、彼女に触られた部分の感覚が、信じられないほど鋭敏になっているのがわかる。

「ああ……」

 その指先が徐々に下り、首筋へと移る。
 彼女は、ほんの指先だけで触っているだけ。だけど僕には、そのわずかな部分に体中の全ての神経が集まってしまっているような、そんなふうにさえ感じられた。

 彼女の長く器用な指先が胸元でうごめき、シャツのボタンをはずしている。
 布越しに触れるその感触が、もどかしくてしかたがない。

「なんか、かわいいね」

 蓮さんはそういうと、はだけられた僕の胸元に顔を埋めた。
 彼女の唇から現れる、赤い、とがった舌…。ちろり…と、濡れたような感覚が、僕の乳首を襲う。

「ぐぅ…っ!」

 脳味噌が真っ白になるほどの快感っ。
 鋭敏になった僕の神経は、彼女の舌の微細な凹凸、その上をぬらす唾液の粘度、それらが自分の肌の産毛と絡まる様子、そんなものまでわかるような、そんな気がした。

 …比喩ではなく、本当に理性が焼き切れそうだった。

「あは、男の子もここ、感じるんだね」

 そういって上目遣いに見上げる、蓮さんのつり目がちな瞳。
 ……実際、僕はもう限界だ。

「蓮さん、僕、もう……っ!」
 僕が本気なのに、気づいてくれたらしい。
 彼女は僕の乳首をなぶるのをやめて、顔を上げた。
 そして僕の状態を、確認する。

 僕のモノは、もうこれ以上ないほどにいきり立っていた。
 信じられないほどの血液がそこに集まっているのが実感できるほどで、それを覆い押さえつけるズボンや下着で締め付けられるようだった。

「そう……そんなに感じてくれてたんだ。うれしいな」

 その盛り上がった布を見て、彼女は目元を赤らめながらも、嬉しそうに笑う。

「でも、もう少しだけ、我慢しなくちゃあダメだからね…。
 また、私の目を見て…、私の声を聞くの、いいわね…?」

 再びゆったりした口調に戻す、彼女。
 それに従って、僕の神経も、次第に彼女の声へと集中されていく。

「これから、とっても気持ちよくしてあげる。
 今まで通り、私の触ったところが、どんどん敏感になるの。
 ……でも、イっちゃダメ。
 どんどん気持ちよくなっても、私がいいって言うまで、キミはどうしても射精する事を我慢するの。どんなに苦しくても、それを解放することはできないの。
 いいわね?」

「ちょ…、そんな……」

 ……それは、いくらなんでも無理が…

「大丈夫よ、…私を信じて。
 我慢すればするほど、最後のときは気持ちよくなれるわ。
 だから、キミはそのために、頑張れるわ。……いい?」

 …そう言われると、なんだか頑張れる気になってきた。
 僕はぼんやりと、頷く。

「そう、よかった。
 それじゃあ、気持ちよくなってね」

 そう言うと、蓮さんの顔が下がっていった。
 僕の足下に膝をつき、ベルトに手を伸ばす。

『ゴクリ…』

 思わず唾を飲み込んでしまった。その音がやたらと大きく感じられ、蓮さんにもバレなかったかと、心配してしまう。
 だけど彼女はそんなことに気づいた様子もなく、僕のベルトを外した。
 そのままジーンズのボタンを外し、ジッパーを下げる。
 厚い布越しにも、その彼女の指の感触が感じられ、ますます僕は興奮していった。

「少しだけ、手伝ってちょうだい。
 腰、上げて?」

 いままで指一本動かすことができなかったのが、蓮さんの言葉に反応し、彼女が服を下げるのを助けるために腰が上がった。
 そのタイミングを逃さず、彼女はズボンとトランクスを下げる。
 トランクスを下げるとき、その布が僕のモノの先端に引っかかり、その刺激で危うく声を上げてしまいそうになった。

 蓮さんが、じっと僕のモノを見つめている。
 今の僕にはその視線さえもが、まるで物理的に僕を刺激しているようにさえ感じた。

「じゃあ……触るね?」

 なんだかやけに緊張した面(おも)もちで、蓮さんは僕の勃起した性器に手を伸ばす。
 その指が僕のペニスに触れたその瞬間、

「うわ…っ!」

 彼女の指に触れられたその瞬間、そのあまりの刺激に、耐えきれず声を上げてしまう。
 それと同時に『ビクンッ』とペニスが反応し、蓮さんは「きゃっ?」と言って手を離してしまった。

「…びっくりした。
 そんなに…気持ちよかったの?」

 僕の顔を見上げ、そう訊ねてくる。
 頷く僕に、「そうなんだ……」と言いながら、彼女は再び僕のモノに視線を戻した。
 ゴクン、とつばを飲み込んで、再び僕のモノに、今度はさっきよりもさらにそっと、指を伸ばす。

『ツ──』

 と、彼女の指先が僕の肉棒の幹の部分に触れた。

「く…っ」

 歯を食いしばり、これ以上情けない声を出すまいと、必死で耐える。
 そんな僕には目もくれずに、蓮さんはペニスに指を這わせた。

『ゾク……ッ!』

 背筋を快感が駆け上がる。
 それはもはや震えなどという生やさしいものではなく、ほとんど固形化されたような、そんな質量を持った快感だった。

 蓮さんの冷たい指先が触れた、『点』。それがじわじわと移動し、僕を刺激する。
 彼女の催眠術でほとんど極限まで高められた『集中力』。その全てが、その一点に集中する。

 その『点』は、幹を気が狂うほどゆっくりと何度か上下し、そして先端へと向かう。
 じわじわと移動して、やがて段差のついた部分へと達した。
 その段差を越える、その瞬間、『クッ…』とそれまでより大きな摩擦が、その場所に発生する。

「う…あっ」

 そのちいさな、それでいて確かな摩擦が、圧倒的な感覚として僕の快楽を高める。

 そして彼女の指は、さらに移動する。
 亀頭の裏側の縫い目の部分を、そろそろとはい上がる。
 僕の集中され、鋭敏になった感覚は、彼女の指の指紋のザラザラが、縫い目のちいさなヒダのような凹凸とこすれ合い、あるいはなじみ合うのを実感する。
 やがてその快感が、僕の性器の最も先端の部位、耐えきれずにじみ出た滴をたたえた部分に達した。

『くちゃり…』

 尿道口に作られた先走りの滴と、彼女の指が濡れた感触を伴い、ふれあい、溶け合う。
 おおよそ男にとってもっとも敏感な場所が、粘液をまとい新たな蝕感を得た指先で、なぶられる。

 ……いっそ、彼女の手の平に包まれてしまった方が、楽だったかもしれない。そうすれば、その刺激は『面』となり、その分広い面積に拡散されたはずだ。

 だけど、彼女は相変わらず、その指先だけで僕をいたぶった。
 僕の全ての意識は、その『点』に凝縮され、研ぎ澄まされ、その感覚を限りなくクリアに脳へと伝える。
 それはもはや、『痛い』といっていいほどの感覚だった。

 そしてそれほどの快楽にも、僕はイクことができない。
 股間の全ての筋肉が限界まで緊張し、締め付け、その信じられないほどの圧力に達した高まりを解放することを、許さない。

 本で読んだ事がある。『痛みと快感、苦痛と快楽は、紙一重のものだ』って。
 今の僕には、それが本当のことだとわかる。

 ……『痛い』ほどの快感が僕を責め、苛む。そして『苦しい』ほどの快楽が、僕の理性をギリギリと締め付ける。

「蓮…さんっ。
 …もう、…たす、けて……」

 僕のそのうめき声に、いまさら気がついたように蓮さんは顔を上げる。
 その顔はまるで熱にうかされたように、どこか呆然と、そして目元を紅くし、はっきりとした興奮をその表情に浮かべていた。

「…イきたいの?」

 そっと、とてもそっと、そして意地悪く彼女は訊ねる。
 でも僕にはもう、恥も外聞もなく、ただ何度も頷くだけしかできなかった。

「そっか、じゃあ……」

 彼女は微笑む。
 綺麗な、そしてサディスティックな悦びに満ちた笑み。

「あと、私が10数えるあいだ、我慢して。
 数え終わったら、射精(だ)していいから…」

 …10数える間……。今の僕には、それが果てしなく遠い時間に感じる。
 あと、まだそれほどの時間、僕はこの苦痛を受け続けなければならないのか……。

「ひとつ…、ふたつ……」

 相変わらず、彼女は指先で、僕をいたぶる。
 その『点』が、僕の神経を切り刻む。

「みっつ……」

 これ以上ないほどに緊張した腰から脚にかけての筋肉が、ぶるぶると震える。

「よっつ…、いつつ……」

『にちゃ…』と、聞こえるはずもない、僕のにじみ出た粘液と彼女の指がたてる音が、その部分の皮膚を通して聞こえてくる気がする。

「むっつ……、ななつ……」

 あと、みっつ。
 あとみっつで、この苦しみから解放される。

「やっつ……」

 耳の脇の血管が、『ドクッ、ドクッ』と早鐘を打つように響いている。
 その脈動と比べて、彼女が数を数えるのはなんと遅いことか…。

「ここのつ……」

 僕の極限にまでいきり立ったモノの表面に触れる、彼女の指先。
 その一点に、僕の中のあらゆる神経が、凝集される……

 そして……

「とう……」

 ……その瞬間、

「ああああ……っっ!!」

 どこかで、押し殺した叫び声のようなものが聞こえる。
 そして、一瞬の後に、理解する。
 …それが、自分の上げた咆吼(ほうこう)だと。

「あ、ああ…っ」

『どくっ、どくっ…』

 圧縮され高まりきった熱が、尿道を通り、信じられないような勢いで、先端へと駆け抜ける。
 何度も、何度も、僕のペニスの先端から、熱そのもののような粘液が吹き出す。

『びゅくっ、びゅくっ…』

 その白く濁った粘液は勢いよく噴出し、僕の前に座った蓮さんの服の胸元に飛び散った。

「ああ……」

 蓮さんは、その自分を汚す僕の精子を見ながら、呆(ほう)けたような声をもらした。
 だけど今の僕には、そんな彼女を観察しているような余裕なんか無かった。

『びゅく…』

 そして、いつまでも続くかと錯覚したその噴出もやがて止み、

 ………僕は、訪れたその圧倒的な、それでいて心地よい脱力感に包まれ、あっけなく意識を手放してしまった……………

「う……ん…」

 深い海の底から浮かび上がるように、意識が戻る。
 まだぼんやりとしたままの僕は、なにか暖かく肌触りのよいものに包まれていた。

「あ…、起きた?」

 すぐ近くで、声がする。
 目を開けると、そこには蓮さんの顔があった。

「あれ……?」

 起き抜けで、まだ現状が理解できていない。
 どうやら僕はベッドに寝ていて、毛布にくるまっているらしい。
 そしてベッドのすぐ傍らには蓮さんがいて、僕を見ていた。

「あれ、もしかして…」

 慌てて毛布をはだけ、起きあがる。
 そこまでしておいてから急いで確認すると、僕は一応、Tシャツとトランクスだけを身につけていた。

「蓮さん…、あの……」

 おそるおそるそう声をかけると、蓮さんは恥ずかしそうに、それでも『ニマッ』と笑って僕を見た。

「うん、キミの寝顔があんまり可愛くって、…ずっと見てた」

「……」

 思わず、顔が熱くなる。
 でもそんな僕が何か言う前に、彼女はその笑顔を引っ込めて、

「その…、ごめん。調子に乗りすぎたみたい」

 そう、謝った。
 その顔はどこか不安げな、すがるような表情をしていた。

「あのね、…その、私、実はあんまりああいう経験って無くて…。
 それでも、キミには私にできるかぎり気持ちよくなってもらいたくって…、それで……」

 …蓮さんは、卑怯だ。
 年上の憧れの女の人に、そんな綺麗な顔で、しかもそんな目をされて、それでもまだ怒っていられるほどに、僕は人生経験を積んでなんかいなかった。
 だけどそれはそれとして、なんだか今までに感じたことのない、沸き立つような感情が、僕の胸の奥から頭をもたげた。

「……まだ、怒ってる?」

 おずおずとそう訊ねる彼女に、僕は聞き返す。

「許して欲しい?」

 彼女は「え?」と驚いたような顔をして、それから困ったような表情を浮かべた。
 そんな彼女を、不意打ち気味に抱きしめる。

「きゃっ…!」

 蓮さんは驚いたような声を上げる。
 年上の彼女にそんな可愛らしい声を上げさせたことに、僕の心は躍った。

「ねえ、蓮さん。今度僕にも、催眠術って教えてよ」

 そんな彼女の耳元で、僕はささやく。

「今度は僕が、蓮さんを気持ちよくしてあげたいんだ」

「……うん、いいよ。楽しみにしてるね?」

 僕の耳に、クスクスと彼女の笑う声が聞こえる。
 その、どこか余裕を持った、お姉さん的な物言い。

 そんな彼女を抱きしめながら、僕はやっぱり感じる。彼女は僕なんかより年上で、僕よりも頼りになる人間なんだって。

 ……僕の大事な、彼女。僕の腕の中で微笑む、魔法使い。
 今の二人はこんなだけど、いつか彼女に頼りにされるような、そんな人間になって彼女を見返してやりたい。そんなふうに、僕は思ったのだった。

< 了 >

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