伝染の元凶

「ぺっ」
 頼宗(よりむね)は口に溜まった血を吐いた。
 無数のうめき声。
 その中に頼宗は立っていた。
 頼宗は拳を血で汚し、そこら中で倒れてうめいているちんぴらを一瞥してから立ち去った。

「頼宗!」
 家に帰ってきた頼宗を伊織(いおり)が出迎えた。
 伊織は頼宗の顔をつたっている血を見て、声を上げた。
「どうしたの」
「なんでもないよ」
「うそ!」
 伊織が叫ぶ。
「血が出てるじゃない!また喧嘩したんでしょ」
 伊織が頼宗の顔を拭う。
 その手を押さえて頼宗が押し出すように言った。
「・・・誰も俺を殺すほど殴ってくれないんだ。俺はいつも殺すつもりで殴っているのに・・・」

 A.D2064年
 科学技術は格段に進歩した。
 移動には無公害なソーラーカー、発電は水力発電と太陽光発電、それに風力発電を組み合わせた自然によい技術をどんどん作り出した。
 森村頼宗はごくごく普通の中流家庭の一人っ子として生まれた。
 技術進歩と中流家庭の経済状況が相まって、頼宗は何不自由しない生活をしてきた。
 しかし、いつの頃か頼宗の心の中には誰かを殺し、誰かに殺されたいという願望が生まれていた。
 その願望を彼自身も持て余していた。
 そして、中学に入った頃から彼はその願望に赴くままに喧嘩を続けた。
 それが彼の幼なじみである伊織の悩みの種でもあった。
 伊織と頼宗は生まれた頃から家が隣同士で、他人との交流の少ない頼宗にとって数少ない友達の一人だった。
 伊織は喧嘩で傷ついていく頼宗を見たくなくて、何度と無く喧嘩をやめろと言ってきたが頼宗は聞き入れなかった。

 ある日、頼宗は家に遊びに来ていた伊織にこんな事を言った。
「時々感じるんだ。自分の中の大きな力、抑えきれないくらい大きな力。おばあちゃんから聞いた話だとおじいちゃんはとても変な人だったんだって。32歳の時に自殺したってさ。俺の中のこの気持ち、誰かを殺したくて、誰かに殺されたいこの気持ちはおじいちゃんに似たせいかもしれない」
 そう一息に言って頼宗はエアーソファーに突っ伏したまま眠ってしまった。
「頼宗・・・」
 伊織は寝てる頼宗に毛布を掛けてやり、そのまま愛おしげに見ていた。

 その夏、頼宗は薬に手を出した。
 その日、頼宗は伊織に何も言わずに家を出た。
 頼宗は歓楽街へ行き、売人に誘われるまま古びた喫茶店に入った。
 喫茶店の中は見るからにやばそうな連中がたむろしていて、カーテンで区切られた部屋の中からは女の嬌声が響いていた。
 女の嬌声が聞こえなくなると、カーテンの中から見るからにボスという感じの厳つい男が出てきた。
「誰かと思えば頼宗じゃないか」
 ボス風の男は頼宗を見るなり、皮肉たっぷりに言った。
「今日はなんのようだ?}
「いや、ちょっとこいつにようがあってな」
 頼宗はそう言って薬を示した。
「はぁーはっは、あの頼宗もついに薬に手を出すのか!」
「いつも伊織がうるさくてな」
 ボス風の男が頼宗の隣に座り、ニヤリと笑う。
 頼宗もそのボス風の男に向かってニヤリと笑った。
「ところでこいつはいくらだ?」
 頼宗はボス風の男に聞いた。
「俺は初めての奴から金を取ったことは一度もねーよ。それより・・・」
 ボス風の男はかぶりを振り、言った後頼宗にその厳つい顔を近づけてきた。
「お前の彼女も薬漬けにしねーか?」
「好きにしろ。大体、伊織は俺の彼女なんかじゃない」
「そうか、わかった。あの娘には前々から目を付けてたんだ。だけど、お前の彼女だと思ってたから手を出さなかったんだ」
 ボス風の男は満面に醜悪な笑みを浮かべて喜んだ。
 そして、ボス風の男は頼宗に薬を渡した。
「さあ、やってくれ」
「ああ」
 頼宗は薬を受け取ると、一気に飲んだ。
 数分後、頼宗はうめきだした。
「ああああああああああああああああああああ」
 頼宗は叫んで椅子から崩れ落ちた。
 ボス風の男はそんな頼宗を見て言った。
「いい薬だろ、頼宗。体中が喰われていく感覚。最高だろう!」
 ボスッ!!
 ボス風の男は倒れている頼宗に向かってけりを入れた。
 頼宗は吹っ飛んで、区切っているカーテンに引っかかった。
 その衝撃でカーテンレールが取れて落ちてきた。
 カーテンの向こうにはエアーソファーがあり、エアーソファーの下に素っ裸の少女達が座っていた。
 少女達には首輪がはめてあり、少女達の目はどれも一様に濁っていた。
 そして、少女達の身体のあちこちには白濁液がこびりつき、股の間から血が出てる少女もいた。
「うああああああああああああああああ!!」
 カーテンに包まれたまま頼宗はもがく。
 ボス風の男は頼宗の側に立つと、何度も頼宗を踏みつけた。
「いいざまだなぁ、頼宗。お前にこう出来るなんて夢みたいだぜ。はーっはっはっは!!」
 ボス風の男が勝ち誇り、高笑いをした時、
 バンッ
 乱暴にドアが開かれた。
「動くなっ、警察だ!!」
 開かれたドアから、武装した警官達が入ってきた。
 もがき苦しんでる頼宗と素っ裸の少女達を見て刑事と思われる人物が言った。
「拉致監禁に麻薬取締法違反の現行犯で逮捕する」

「どうもすみません」
 頼宗の母は頼宗に同行してきた警官にぺこぺこと頭を下げた。
 その様子に恐縮した風に警官は言った。
「頼宗君は初犯だったからすぐに出てこられましたが、次からは留置場ですよ」
 警官の言葉に頼宗の母は更に頭を下げた。
 警官が帰ると、頼宗の母は頼宗を家に閉じこめた。
「頼宗、何で麻薬なんかしたの!!」
 頼宗に強い調子で叱りつける。
「・・・・」
 頼宗は何も答えない。
 頼宗の様子に満足したのか頼宗の母は部屋を出ていく間際にこういった。
「頼宗、これから外に出ちゃ駄目よ」
 プシュー
 戸が閉まるとパタパタと母の足音が遠ざかっていった。
 ピンポーン
 インターホンが鳴った。
 数分後、足音が部屋に近づいて来た。
 シュン
 戸が開いて、伊織が入ってきた。
「頼宗・・・」
 伊織は心配そうな顔をして、頼宗の側へ行った。
「おばさんから聞いたわ。麻薬に手を出したんですって?」
「・・・ああ」
 頼宗は静かに答える。
「どうして、どうしてそんなことを!!」
「いつも言ってるだろ。俺は殺して、殺されたいんだ」
「私は嫌よ。頼宗がいなくなるなんて・・・」
 伊織は俯いて言う。
 髪の毛が垂れ下がり、伊織の表情を隠す。
「あれは素敵な薬だよ伊織、D・O・M(ディーオーエム)って言ってさ、不吉な毒虫に身体の内側を喰われていくみたいだったよ」
 頼宗は酷く自虐的な笑みを浮かべていった。
「頼宗、お願いだからそんなこと言わないで・・・」
 その日から頼宗はぱったりと家を出なくなった。
 伊織は毎日のように頼宗に会いに来て、その日の出来事などを事細かに頼宗に伝えていった。
 ある日、伊織はいつもよりも早く授業が終わったのでその分早く頼宗の家に行った。
 頼宗の部屋に入った伊織の目に映ったのは倒れている頼宗の姿とその左手首の辺りの血だまりだった。
「頼宗ッ!!」
 伊織は悲痛な叫び声をあげて頼宗を抱き上げた。
 カランッ
 抱き上げた頼宗の右手からカッターが落ちた。
「頼宗ッ、頼宗ッ」
 伊織は頼宗の止血をしながら呼びかける。
 頼宗は一命をとりとめ、また部屋に閉じこもった。
 そんな頼宗に対して伊織は言った。
「頼宗。私は好きよ、頼宗が。だから、死にたがらないで・・・」

 それから3年の月日が流れた。
 相変わらず頼宗は家の中にいたが、自分の中の性への欲望や破滅への渇望が強くなっていくのを日に日に感じていた。
 頼宗の家の周りでは強姦や殺人事件、そして自殺が増えていった。
 そしてその日が来た。
 その日は梅雨の長雨で一日中雨が降っていた。
 伊織は課題に追われ、家にこもっていた。
 その日の夕に頼宗は立ち上がり、3年ぶりに家の外へ出た。
 いつの頃からか頼宗には超能力が使えるようになっていた。
 それがいつなのかは分からない。
 だが、その力はスプーンを曲げるとかそんなちんけな物ではなかった。
 そのサイコキネシスは厚さ30センチはある壁を崩す事もできた。
 しかし、特筆すべきはサイコキネシスではなく、超能力者の中でもごく一部にしかいないという自分の思考を相手に伝染される能力であった。
 その能力を持つ者は伝染源と呼ばれ、隔離され、能力を弱められていった。
 伝染源はテレパシーとは違い、自分の思考を広範囲に、一度に多数の人間に植えつける能力であった。
 頼宗は外に出てしばらく歩くと立ち止まった。
 ずぶ濡れになりながら空を見上げ、両手を開く。
 そして、伝染源の力を解放した。
 さあ、ここへ来い。
 頼宗の思考が辺りに飛び散ってそこら中の人々に伝染していった。
 呼びかけに応え、頼宗の周りには人々が集まってきた。
 みな、目は虚ろでボーっと雨に濡れていた。
 さあ、パーティーの始まりだ。
 頼宗が次々と思考を伝染させるとともに人々は服を脱ぎ、ところかまわずオナニーを始めた。
「はあっ・・・・んっ・・・」
 辺りにくぐもり声が響きだした。
 気持ちいいだろう・・・
「ああっ・・・・はぁぁぁぁ・・・・」
 サラリーマンや主婦はもちろん、少女や果ては幼女まで自分の性器を弄くっている。
「はぁん・・・ふぁ・・・」
 どんどん気持ちよくなっていく・・・
「ひぃん、あっ、ふああっ」
 人々の呼吸はどんどん切れ切れになっていく。
 イッちまいな
 頼宗がその思考を伝染させた次の瞬間、
「あああああああああ~~~~~!!」
 絶叫と共に女はつま先までピンと伸ばして痙攣し、男は辺りに白濁液を放出していた。
 まだだ、もっともっと気持ちよくなりたい・・・
 倒れていた人々は起きあがり、再び自分の身体を弄びだした。
 ペ○スが欲しい・・・しゃぶりたくてたまらない・・・
 男も女も男の性器に群がっていった。
 性器を飴でもなめるように美味しそうにしゃぶっている。
 頼宗の側にも少女が一人来て、カチャカチャと頼宗のズボンを脱がし始めた。
 少女は頼宗と同い年で、頼宗の通っていた学校のアイドル的存在だった。
 艶のある漆黒の長髪と透き通るような白い肌は白濁液にまみれ、可愛いと評判の顔に浮かべる表情もとても淫らな笑みである。
「どうした、間(はざま)?」
 頼宗は少女――間 恵里香を見下ろして言う
「ち○ぽをなめたいの!!なめさせてぇ!!」
 恵里香は叫ぶやいなや、頼宗のペ○スをしゃぶりだした。
「むっ、はむっ、ふぅっ、んぐっ」
「間、そんなに美味しいのか?」
「ええっ、頼宗君のち○ぽ!美味しい!美味しいわ!!」
 いつもは高圧的に人に接する恵里香が悦びの声を上げてよがっている姿は、頼宗を満足させた。
 お前らは盛りのついた犬だ・・・
 思考が伝染すると頼宗以外は四つん這いになり交尾を始めた。
「わん、わんっ」
 頼宗が下を見ると、四つん這いになってる恵里香が物欲しそうな顔をして頼宗の足に頬ずりしていた。
 みると、股間の辺りには粘的な水たまりが出来ている。
「ほしいのか?」
 頼宗が聞くと恵里香は嬉しそうな顔をしてうなずいた。
 頼宗は恵里香の後ろに回り込む。
 恵里香の性器はすでに濡れぼそっていて、前戯の必要はなかった。
 頼宗は自分のを恵里香の性器にあてがい、一気に押し込んだ。
 ブチブチッ
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 抵抗をうけたが無理矢理につっこむと、何かを破るような感触と共に恵里香が絶叫した。
 恵里香と頼宗が繋がっている部分からは恵里香の処女の証がしたたり落ちていた。
 恵里香の中はきつきつで、そのきつさが頼宗に快感を与え続けている。
 頼宗は一気に動き出した。
 ズリュッ、ヌチャ、ズンッ
「あっ、んっ、ああっ」
 相変わらず初めての恵里香の中はきつかったが、恵里香の愛液と血が潤滑油になりスムーズに動いた。
 どんどん気持ちよくなる・・・
「ひああっ、あんっ、うああっ」
 恵里香の喘ぎ声が上がった。
 恵里香だけでなく、周りの声も上がっている。
 ヌリュッ、ビチャッ、ズチャッ
 頼宗の動きが早くなるにつれて、音が大きくなっていく。
「ふぁっ、はぁっ、ひいっ」
 恵里香は濡れた髪を振り乱してあえいでいる。
 恵里香の呼吸が鋭く、短くなっていく。
 頼宗もだんだんたかぶってきた。
 とても気持ちいい・・・何度でもイッてしまう・・・
「あああああああっ」
 すぐに恵里香はイッてしまった。
 頼宗はなおも腰を動かす。
「ああっ、あっ、ひぃんっ」
 頼宗がつくたびに恵里香はイく。
 そして、何度かついた時、
「・・・・・!!」
 ドピュッ、ドピュ、ドクドク・・・
 声無き雄叫びをあげて、頼宗は恵里香の中に射精した。
 ズッ
 頼宗は恵里香からぺ○スを抜くと、そのまま家へと帰っていった。
 後には素っ裸で交尾をすることしか考えられない犬達が残った。

 その事件は次の日には取り上げられていた。
 被害者達は盛りのついた犬のように振る舞い、捜査陣を当惑させた。
 捜査当局はこの事件を伝染源の仕業と断定し、伝染源の特定を急いだ。
 あの事件以降、頼宗の家の周りでの殺人、自殺、強姦が急増した。
 その中には頼宗に薬を与えたあのボス風の男も混ざっていた。
 男の死因は麻薬の大量使用による、ショック死だった。

 ある日、頼宗はいつものように家にいた。
 伊織もその日は頼宗の家にいた。
 外では長雨が続き、雨足は強かった。
 シュン
 戸が開いたので頼宗と伊織はそちらを向いた。
 そこには二人の若い男が立っていた。
 二人とも同じ服を着て、同じサングラスをしていた。
 一人はリーゼントで、もう一人は髪を分けている。
 その服は警察の制服のように見えた。
「だれ?」
 伊織が問う。
「ああ、失礼。我々は警察の物だ」
 髪を分けている男が言うのに合わせて、二人は手帳を取り出しホログラフィーで警察のマークを写した。
「君が・・・頼宗君だね」
 髪を分けている男が頼宗を見て聞いた。
「ああ」
 頼宗は手短に応えた。
「一緒に来てくれないか?」
 頼宗とリーゼントの警官は外に出た。
「待ちなさいよ!!」
 その警官を伊織は追いかける。
 しかし、伊織はもう一人の警官に阻まれた。
「落ち着いて!!」
「どうして頼宗が連れて行かれるのよっ!!頼宗が何をしたっていうの!!」
 伊織は警官に抑えられて、もがいていた。
「彼は伝染源なんだ」
「伝染源・・・頼宗が?」
「そうだ」
 傘も持たずに外に出た伊織達の身体を雨が吹き付ける。
「伝染源は放っておくと大変なことになる」
 警官は淡々と言う。
「検査の結果、エスパー値が特Aで最高、いずれ念動力やテレパシーを使って人を傷つけるかも・・・いや、もう傷つけてるかもしれない。今からエスパー値を下げる治療を施さないと・・・」
 伊織はその言葉を最後まで聞かずに叫んだ。
「もう二度と会えないのぉーーッ!!」
 伊織の目がら大粒の涙が溢れている。
「あんなのでも、伝染源でも、頼宗は私の大切な友達なのよっ!!お願いっ!!一週・・・いえ、一年に一度でいいから頼宗に会わせて!!!」
「・・・・」
 警官はそのサングラスを直していった。
「君は・・・頼宗君の幼なじみだったね」
「え?」
 突然の言葉に伊織は言葉を失った。
「だとしたら、伝染源の抗体が出来てるかもしれない。伝染源と共に育った者は伝染源の影響を受けないんだ。伝染源の抗体を持つ者は伝染源担当の刑事になれる。そうすれば国家権力以上の力で彼と会うことが出来るよ」
 警官は伊織に優しく微笑んでいった。
「あ・・・ありがとうございますっ!!」
 伊織は深々とお辞儀をした。
「いやいや、俺も君と似たクチでこの職に就いたからさ・・・君がほっとけないんだよ」
 警官は恥ずかしそうに頭をかくと、手を振って去っていった。

 そして、伊織は伝染源担当の刑事になった。
 伊織は刑事になってからも毎日のように頼宗と会ったが、頼宗からは憎しみに満ちた視線しか帰ってこなかった。
 そしてある日。
「大変だーっ!!」
 頼宗は脱走した。
 頼宗は実験中のタイムワープ装置のあるビルへ逃げ込んだ。
 そこは時間の塔と呼ばれ、時に関する実験、考察が行われているところだった。
 伊織達がタイムワープ装置の置かれている部屋のドアを開けると同時に頼宗はタイムワープした。
 70年前・・・自分の祖父がまだ学生だった時代へ・・・

< 了 >

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