生徒会室の夢

「ふぅ」

 傾く夕日が教室を橙色に染め上げていく中、天音 霞は背もたれに身体をもたれかけた。
 目の前にある書類の束をトントンと揃えてまとめる。そして、「う~ん」と身体を伸ばし、関節をぽきぽき鳴らした。

「さて、と」

 荷物をまとめ、霞が席をたったその時、ガラリと扉が開く。そこには一人の男子生徒が立っていた。
 その姿を見て、霞は目を丸くする。なぜなら、それは生徒会や委員会、そして部活にも無縁そうなクラスメイトの姿だったからだ。

「あれ、どうしたの? こんな所に何か用?」
「ああ、天音の姿が見えたから。今日はお前を手に入れようかと思ってたんだ」
「え?」

 その言葉に霞はきょとんとする。その隙を見逃さず、男子生徒は霞の目の前でパンと勢いよく手を叩いた。思わず、びくっと肩を竦め、目をぎゅっとつぶる。すかさずその瞼を押さえて、言葉を重ねた。

「はい、もう、天音は動けない。声を出すこともできない。瞼を開けることすらできない!」
「どんなに身体を動かそうとしても、瞼を開けようとしても、絶対に動かない。絶対に開かない。動かそうとすればする程、身体がどんどん固まって動けなくなっていく!」

 断定的な言葉を重ねて、男子生徒は霞から離れる。瞼や肩、腕などに力が籠もり、ぷるぷると震えている。しかし、どんなに動かそうとしても、霞の身体が動くことはない。

「絶対に動かない。ほら、動かない。力を入れれば入れる程、身体が硬くなって動かなくなっていく。どんなにがんばっても天音の身体が動くことはない」

 静かに、確かに断定する。それでぷるぷると震えていた霞の身体は止まっていく。すぐに霞の身体は動かなくなる。呼吸すらも止まっている。まるでマネキンになったかのようだ。
 男子生徒は注意深く霞を眺める。それは実験機器を眺める学者のようでもあり、賞品の品定めをする番頭のようでもある。
 霞の身体が再びぴくりとする。次の瞬間、ぶはあっと霞の口から空気が吐き出た。

「はい。もう、身体を動かすことができますよ。呼吸と共に身体の力が抜けていきます。ほら、息を吐く度にどんどんどんどん身体の力が抜けていく。どんどんどんどん抜けていく」

 男子生徒の言葉に翻弄され、霞の身体はふらふらと揺れていく。男子生徒は後からそれを支えて、その耳に囁きかけていく。

「体中から力が抜けていく、もう立っていることもできない。力が入らない。さあ、椅子に座ろう」

 男子生徒に促され、先程まで座っていた椅子にすとんと座らされる。ずるりと滑り、ぐったりとしたように力無く座った。

「さあ、力が抜けきると今度は呼吸と共に頭の中身が抜けていく。ほら、何も考えられなくなる。頭が真っ白になっていく。そして、どんどん気持ち良くなっていくよ。ほら、あたまが真っ白になって何も考えられなくなっていく。それはとても気持ちいいことだ」
「きも・・・ち・・・・い・・・い・・・」
「そう、それはとても気持ちいい。気持ち良くなりたいだろ?」

 罠へと誘う悪魔の問いかけ。その問いに霞は何も考えられない頭で答えた。

「うん・・・・・きもち・・・よく・・・・な・・・り・・・・たい」

 その答えに男子生徒は口に浮かべた嫌らしい笑みを深くした。

「何も考えず、僕の言うことを聞いていればとても気持ち良くなるよ。僕の言葉以外は何も聞こえない、何も見えない、何も考えられない。この聞こえる声だけがあなたの全て。この声に従っていれば貴方は気持ち良くなれますよ」
「きもち・・・よく」
「さあ、肩を叩かれるととても身体が疼いて なんだかオナニーをしたくなりますよ。はいっ」

 男子生徒がポンと肩を叩く。その瞬間、霞の身体がビクンと跳ねた。その手は何かを求めるようにふわふわとあてどなくさまよう。呼吸は乱れて荒くなり、辛そうな表情で何かを求める。

「ほら、オナニーをしたくてたまらない。もう何が何でもオナニーをしたい」

 さらに男子生徒は霞の肩を叩いた。後から驚かされたようにビクンと跳ねて、その手はまっすぐに自らの胸に向かっていった。しっかりと自己主張するその胸を掴み、ふにふにと指を這わす。つつとゆっくりと胸を滑り、自らを焦らし悶えていく。

「あ・・・っく・・・ぅ」
「ほら、どんどん気持ち良くなっていくよ。いつもとは比べ物にならないくらいに気持ちいい。もっともっと感じてしまう」
「ぁああっ!! ん・・・ふあぁぁっ」

 突然大声が出された。よく通る、澄んだ高い声。口が開き、舌がピンと前へと突き出される。それに驚き、男子生徒は慌てて声を重ねた。

「声を出してはいけない。しっかりと口を閉じて快感の抜けるところを閉じてしまおう。そうすれば快感は貴方の中に響き渡り、何倍にも増幅される」
「んんんんっ!!」

 霞は口を閉じる。するとさらに強い快感が霞の身体を貫く。その快感に一気にイッてしまいそうになった。
 切羽詰まったように霞の指の動きが速くなっていく。腰を押し出すように背中を何度も反らせる。
 そんな霞にさらに男子生徒は言葉を重ねて縛っていく。

「さあ、服の上からではなく、直接触ればもっと気持ちいい。そして、霞は何度でもイッてしまう。何度も何度もイッてしまう。イッて脱力するたびに霞の心の深いところに落ちていく。そう、イクたびに霞はもっともっと深い催眠状態に落ちていく」
「っ!!」

 服をずらそうとした時に地肌に触れたのだろう。霞はビクンと大きく身体を反らして、直後に脱力した。一瞬、動かなくなるがすぐに身体を動かして、服をずらしていく。その度に手が肌に触れて、ビクンと身体を震わせる。

「はぁ・・・・は・・・ぁ・・・・」

 霞は呼吸を荒くして、それでも自らの身体を求めていく。口からは涎が垂れ、その表情には力がなかった。
 瞼がきゅっと閉じられる。胸をすくい上げるように持ち、親指と人差し指で乳首を挟み、こりこりと刺激する。

「んんんんっ!」

 大事なところから逃げ出す快感を閉じこめるように開きかけていた足を勢いよく閉じ、ピンと足の先を伸ばす。ぎりぎりと力強く口を閉じ、瞼も強く閉じる。体中に力が入り、そして抜けた。
 霞はずるりと椅子から落ちそうになる。男子生徒はそれを支え、霞を床に横たえた。

「ほら、まだ、大事なところが残っているよ。まだまだ足りない。もっともっとイッてしまいたい」

 すでに濡れているパンツに指をかけ、脱いでいく。それにすら快感を感じるのか何かに耐えるような表情で膝まで降ろすのがやっとだった。つうっとパンツと割れ目を銀色の糸がつなぎ、ぷつんとその糸がとぎれた。
 ぺたんとお尻を下ろし、足の付け根に指を這わす。端から見れば滑稽な程、ビクンと大きく身体を震わせる。一生懸命に口を固く結び、快感を自らの内へと閉じこめる。
 ぐちゃぐちゃに濡れているその場所に指を差し込んで、ぬちゃぬちゃと粘性の高い液体を掬い出し、胸や肌へと塗りつける。その度に感じるのか、霞の表情はどんどん弛み、悦びに染まって力無く笑っている。

「はぁ・・・はぁ・・・ん」

 ちゅぷ。
 再び裂け目へと指を這わせ、その中へと指を進める。びくんと大きく震わせるが、今度はそれだけではイカないようだ。快感に身体を打ち振るわせながらもゆっくりと指を前後させる。
 襲い来る感覚に眉根を寄せ、せり上がってくる感覚を耐えていく。
 男子生徒はその痴態をにやにやと見下ろしていた。
 びくんびくんと身体を震わせる。霞の隣へとしゃがみ込み、その耳へと口を寄せる。

「さあ、これから三つ数えると、霞は今までにないくらいにイッてしまう。すると、心のもっとも深いところへと霞は落ちていく。もう戻れないくらいにおちてしまう」
「・・・は・・い・・」

 荒れた呼吸のまま、霞が頷く。無表情のはずのその貌には期待とも恐怖ともとれる曖昧な貌が浮かんでいた。

「一つ」

 男子生徒は霞の頬に舌を這わせてぺろりと舐めあげる。霞もそれに応えるように男子生徒に頬を寄せた。

「二つ」

 霞の胸に指を這わせ、ピンと固まった乳首をこりこりと刺激する。霞は指を胸から腹を通り、股の間へと滑らせる。

「三つ!」

 その言葉を待っていたかのように霞は股の奥へと指を進めた。同時に男子生徒はその少し上、ピンと固く自己主張して立っている芽をキュッとひねり上げた。

「んんんんん・・・・ひぐぃああああああああっ!!!」

 襲ってきた快楽に耐えきれず、思わず口が開いてその通る声で霞は叫んだ。
 その肢体を大きく反らせ、体中に力が入り固まっていく。まだ外には部活動に励む生徒達の喧噪。その中で霞の時間だけが止まっていた。筋肉の動きも、呼吸も、心臓の鼓動すらも止まっていた。

「・・っはぁ」

 そして霞の時間は動き出す。小さく、早く、空気を取り込み、霞の身体から力が抜けた。ずるずると壁にもたれた身体が滑り落ちていく。
 その身体は汗と愛液にまみれ、べとべとに濡れている。ほつれた紙が頬や背中に張り付いている。その表情は脱力しきり、安心しきっていた。

「さあ、霞は心の底まで落ちた。ここは霞の中。回りは全て霞。怖い事なんて起こらない。ここは霞がもっとも安心出来る場所。自分をさらけ出せる場所」
「・・はい。ここは私が一番・・・・私でいられる場所」

 呟くように霞の口から言葉が漏れる。

「そう、ここは霞が一番霞でいられる場所。ここには霞しかいない。だから、聞こえるこの声も霞の心。まっすぐに受け入れられる」
「ここには・・私・・一人。声は全て・・・私の心」

 感情のない、静かな声。それでいて良く通り、滑舌もいい。

「そう、聞こえる声は全て霞の心。だから、その聞こえる声に従うことは霞にとって嫌なことではない。むしろ、従えば従うほど心地よく、気持ち良くなっていく」
「声に従えば・・・きもち・・・いい」

 霞の返答に笑みを深くして、男子生徒は横たわっている霞を起こし、壁にもたれかけた。

「さあ、三つ数えると霞は目を開くことができる。だけど、頭は何も考えられないまま。この状態のまま目を開く。一つ、二つ、三つ」

 男子生徒の声と共にゆっくりと霞は目を開く。その瞳には何も映っておらず、瞳孔も開き、焦点が合っていない。汗で湿った頬に張り付く髪の毛が妖しさを強調する。薄く開いた口からは真っ赤な舌がちろりと見える。
 脱力した、それでいて妖しさの漂う淫靡な表情。その貌に男子生徒はごくっと唾を飲み込んだ。

「これを舐めろ」
「・・・・はい」

 男子生徒は自らの性器を取り出し、霞の前へと突き出す。それはすでにピンと勃って大きくなっていた。
 その固い棒をそっと手に取り、顔を近づける。ぺろりと先っぽを舐め上げ、手を前後に動かす。口に溜めた唾液を棒の先端に垂らす。唾液は棒に伝っていく。さらにそれを舐めて、棒全体を唾液にまみれさせる。
 愛しそうにその棒を頬擦りして横から横笛を吹くようにくわえ、ハーモニカを吹くように顔を滑らせて棒を舐める。
 ビクンビクンと棒が震え、男子生徒の感じる快楽を表している。
 そして、縦笛を吹くように雁首をくわえ直し、口の中で舌を蠢かす。その新しい快感に男子生徒はぞくりとした。
 そのまま頭を前後させる。喉を刺激し、吐き出しそうになったが、それを我慢する。きゅっと締め付けるように唇をすぼめ、肉棒を刺激した。

「あっ、で、でる!!」
「んむっ!!」

 突然の衝動に男子生徒の目の前は真っ白になった。肉棒から真っ白な液体が飛び出し、霞の口に満たされる。
 ずるりと力の抜けた性器を引きずり出して、男子生徒は後始末をする。

「霞、口の中に入っている物はまだ飲んではいけない。口に溜めたままにしておくんだ」

 うつろな表情のまま、霞はコクンと頷いた。
 服を着せて、先程まで霞が座っていた席へと座らせる。

「いいか、俺がこの部屋を出て行くと、霞は眠ってしまう。そして五分後、目を覚ますけど、今ここであったことは霞の見た夢だ。そう、霞は提出資料の作成中に眠ってしまったんだ。わかったな」

 口に精液が溜まっているので、霞はコクンと頷いて意を示す。

「そして、霞の口に溜まっているのは精液ではなく唾液だ」

 その言葉に霞は口から『唾液』を少量、指の上に垂らす。そして、『唾液』を確認し、再び口の中へと戻した。

「いいか霞。俺が『霞の鍵』を開くと、霞はまた、この気持ちいい霞のもっとも深いところへと来ることができる。分かったな」

 ちゃらりと自転車の鍵を取り出して、霞に見せる。それを霞はじっと見ていた。

「じゃあ、言い夢を」

 そう言って、男子生徒は教室の外へと出て行った。
 がらがらと音を立てて戸が閉まる。それを見届けた霞は糸が切れたようにぷっつりと机に伏した。

「ん・・・」

 気がつくと机に突っ伏していた。
 あれ・・・・? 寝ちゃったんだ・・・・。

「あっ」

 見ると机に『涎』が垂れていた。泣きそうになりながら、それをティッシュで拭き取る。口の中に『唾液』が溜まっているのに気づき、慌てて飲み込んだ。
 そういえば、なにか夢を見ていたような・・・
 とても淫らな夢・・・・

「え、うそっ」

 そして、私はあることに気がついた。パンツが濡れて、シミがスカートにまで拡がっている。よく見ると制服の上も何かに濡れていた。
 どうしよう・・・こんな格好じゃ外に出れないよ・・・
 それに夢精っていうの? 夢で感じちゃってたんだ・・・
 恥ずかしさに顔が熱くなっていく。誰も見てないのが救いだった。
 もう、さっさとこれを先生に提出して帰らないと。
 結局私は鞄に入っていたジャージに着替えて家路についた。

< 了 >

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