魔法の指輪 後編

後編

- 1 -

 温泉宿に来てから7日間が過ぎた。

 温泉での療養は、贅沢といえば贅沢だがヒマでしょうがない。

 寝るか食うか温泉に入るかしかないからだ。

 暇な時間は、俺やリュカの自慢話、アリアの宮廷のこっけいな話などで盛り上がった。

 セラは相変わらず無言であったが。

 夜の遅い俺は昼になってゆっくりと起きる。

 それから遅い朝食を取り、運動をする。

 アリアとの剣の稽古だ。

 戦士たるもの鍛錬を怠ってはいけない。

 互いに戦うというのではなく、ほとんどアリアに指導してもらっていたのだ。

 アリアは強い。聖騎士の名は伊達ではなく、強かった。

 俺の剣は我流なため、無駄な動きが多い。

 その点、剣の師匠にみっちりと叩きこまれたアリアの剣は隙が無い。

 互いに学ぶべき点は大いにあった。

 俺とアリアは一度戦っている。

 まだ、ここに来る前の話しだ。

 いつもは歩いて移動するのだが、その日は馬車に乗せてもらった。

 前日セラが倒れたため大事を取ったのだ。

 リュカはセラに帽子をかぶせてやったりと、かいがいしくセラの世話をした。

 リュカはどういうわけか、セラもアリアの事もすっかり気に入ったようで何これと話しかける。

 セラはいつも無言だし、アリアとて自分から話しを切り出すタイプではない。

 リュカがいなければ随分と暗いパーティになってただろうな。俺はそう思う。

 その時はなんとなくアリアの話しになっていた。

「いーなー。アリア。美人だし、スタイルいいし、もてるよねー」

 リュカが問い掛ける。

 アリアはぶっちょう面で答えた。

「確かに殿方は寄ってくるが、うっとうしいだけだぞ。特にあの貴族連中ときたら 思い出しただけで、鳥肌がたつ」

「どしたの?」

「あなたは、アデル蝶の様だとか、薔薇のように美しいとか、 夜空の月ですらあなたの前では霞んでしまうだろうとか 気持悪い。よくあんなセリフが シラフで言えるものだ」

「きゃははははは」

「奴らは馬鹿だ。しかも、馬鹿の上にしつこい。いくら断っても『アリア殿は慎み深い』とか 『照れておられるのだ』とか勝手に決め付けてくる」

「あははははははは」リュカは笑い転げている。

「ある時、あんまりしつこい奴がいたのでこういってやったのだ『わたしは自分より弱い方は 殿方として見ることはできません。わたしが欲しければわたしと戦って、わたしより強いことを 証明してくださいな。』という風にな」

「ふーん、それでどうなったの?」

「どういうわけか、そのうわさはたちまち宮廷に広がって、何人もの独身男性が立候補してきた」

「へー、それで結果は?」

 アリアは自慢の黒髪をさらりとかきあげると言った。

「わたしの身体は清いままだ」

「ふぇー、アリア強いんだね~」

 リュカが感心していった。

 そのとき、黙って聞いていた俺にいきなり矛先が向けられた。

 アリアが俺を見るとさらりといった。

「そうだ、リーン。それでどうだ?」

 何?

「わたしと試合しろ。勝ったらわたしを好きにしていいぞ」

 なんだとー!?

 俺は魔法使いの館での後も何度か彼女に迫っていた。毎度断られていたのだが。

「貴公はいつものらりくらりとわたしとの勝負をはぐらかすからな。この条件ならやるだろう?」

 なんて物騒な女だ。

「きゃー!がんばってねリーン!勝ったらボクもおまけにつけちゃうよ!」

 リュカが無意味なことをいいながらはやしたてた。

- 2 -

 その日はまだ、早いうちに宿を取った。

 試合をするためである。

 つまり、結局試合をするはめになったのだ。

 宿屋に記帳すると、俺はそのオヤジに問い掛けた。

「おやじさん、ここに木剣はないかい?」

「ん?ああ、わしが若い頃に使っていたものならあるが」

 彼に取ってきてもらうよう頼み、一旦自分の部屋に入った。

 俺は戦うことが別に嫌いではない。

 しかし、無駄な戦いほど嫌いなものはなかった。

 なんで、魔力で支配している女を抱くために剣をとらねばならないのだ?

 俺は左手でにぶく光る指輪をにらみつけた。

 指輪は何も答えない。

 俺はため息をひとつ吐くと部屋を後にした。

 宿の受付の前ではアリアが木剣を振って重みを確かめていた。

 木剣とはその名の通り木でできた剣だ。

 剣士が稽古のときに使うもので、刃がつぶしてある。

 もし、俺とアリアが真剣で戦うなら、どちらかが死ぬか大怪我をすることは目に見えている。

 木剣を使うのは当然のことだ。

 俺も自分の分を手に取り軽く振ってみた。

 うん、古いものだが悪くはない。

 これならぽっきり折れることもないだろう。

 アリアは何度も振っている。

 普段使っている自分の剣とは重さが違う。

 しかも、アリアの剣はレイピア、つまり小剣で、今持っている剣は幅広の剣を模したものだ。

 使い勝手がかなり違う。

 俺は「なんなら他のものに変えようか?」と聞いたが、

「いや、貴公のものも普段使っているものとは違うだろう、ハンデはなしだ」

 そう答えた。

 場所は宿屋の裏手の空き地で行うこととなった。

 観客は、リュカとセラ。それになぜか宿屋のオヤジも来ていた。

「あんた、店はいいのかよ?」

 俺が問うと、

「なーに、こんな時間に来る客なんかいねえ」

 そう答えられた。

 試合は3本形式。3本中2本を取った方が勝ちとなる。

 俺の意識は既にアリアに集中していた。

 俺も剣で生きてきた男だ。相手の強さがわからないようでは話しにならない。

 足運びや、目線の使い方、殺気。そういったものでだいたいわかる。

 アリアはまちがいなく強い。

 俺が普段使う剣はバスタードソード。幅広の両刃剣で剣の重みで相手に叩きつけるといった戦法を取る。

 この剣はあきらかに小さく軽かった。

 俺は右手に剣を構え、右足を軽く前に出し半身の体勢をとる。

 アリアもそれにあわせるように構えた。

「はじめ!」

 午後の陽射しの中リュカの声が響き渡った。

 互いにすぐには動かない。

 相手の動きをさぐるようにじりじりと左回りに足を運ぶ。

「ふん、これではらちがあかん」

 互いの位置が入れ替わったあたりでアリアが仕掛けてきた。

 鋭いがまだ余力を余した突き。

 様子を見るらしい。

 俺も、剣を合わせ防ぐ。

 一合、二合、三合。

 軽い手合わせの後、アリアが来る。

「フッ、まいる」

 そういった後、ラッシュが来た。

 アリアの戦法はレイピア使いらしい突きを多用したものだ。

 しかも、確実に急所を、場所を頻繁に変え、たくみに角度を変え、襲ってくる。

 俺はそれを全て受ける。

 もともと受けに徹するつもりだったので、防御の姿勢で耐える。

 まだ、こちらからは仕掛けていない。

 やがてアリアが一歩引いた。

「リーンそんな事ではわたしを抱くことはできないぞ!」

 たからかに彼女が言い放つ。

 明らかな挑発。

 だが俺は冷静だ。

 戦場に出れば、気分は高揚するが、その分頭は冷えていく。

 が、そのとき俺はわざと、その挑発に乗った。

「いくぞ!」

 大きく突っ込み、右側から左側に向けて剣を大振りする。

 当たればただではすまない勢いはあるが、もちろんアリアは造作もなく避けた。

 剣のいきおいに振られ俺の身体は泳ぐ、胴ががらあきになった。

 アリアは躊躇なくそこを襲おうとする。

 が、俺は剣に振られたわけではない、そのように見せただけだ、

 そのまま剣の勢いを殺さないように、右足を軸にして身体を回転させる。

 いきなり背中を見せられたアリアは一瞬戸惑う。

 俺にはその一瞬で充分だった。

 回転し、勢いを乗せたまま自分の剣をアリアの剣にぶっつける。

「くっ!」

 手放しこそしなかったがアリアの右手は大きくはじかれバランスをくずす。

 俺はそのまま肩からぶつかっていった。

 身長はおなじくらいとはいえ、俺のほうが体重がある。

 アリアは後ろにしりもちをついた。

 その首筋に剣を突きつける。

 リュカが叫んだ。「いっぽーん。リーンの勝ちーー!」

 アリアはするどい視線で俺をねめつけながら言った。

「やはり強いな。貴公。師匠以外でわたしに土をつけたのははじめてだ」

 俺は答えない。まだ試合は終わっていない。

 3分後、2本目がはじまった。

「本気をださせてもらう」

 アリアのその言葉通り、彼女のラッシュは尋常ではない。

 先程より更に手数が多い。しかもフェイントが加わったのだ。

 俺はじりじりと押されていった。が、やがて気がついた。

 アリアの攻撃には一定のパターンがある。

 左から切り下げ、心臓に突き。のどにフェイントをかけ、いきなり右上から。

 それも1、2、3、4のリズムだ。

 左から入ってくる攻撃は必ずこのパターンだった。

 スピードは速いが、パターンさえわかればあしらうのは簡単だ。

 そう、このフェイントの後には、右上から。

 俺は彼女の剣を強くはじくために右上方に力をこめた。

 が、彼女の剣が来ない!

 しまった。と思ったときは遅かった。

 アリアはするりと俺のふところに入りこむ。

 未だに俺の剣は宙をさまよっている。

 右腕の付け根に激痛が走る。そこを突かれた。

 俺の剣は、俺の手を離れる。

 アリアが俺の顔にぴたりと木剣を付けた。

「い、いっぽーん。アリアの勝ち!リーン大丈夫?」

 リュカが心配そうに寄ってきた。

「幻惑剣、”胡蝶”」

 アリアが俺に剣を向けたままそういった。

 全ては罠だったのだ。

 人はリズムに弱い。体が勝手に拍子を取ってしまうのだ。

 アリアは俺をリズムに乗せ、そしていきなりテンポを変えた。

 見事な剣技だ。

「しかし、リーン。さすがだな。あの瞬間に下がられるとは思わなかったぞ」

 アリアの剣が俺に当たる瞬間、俺はステップバックをして衝撃を弱めた。

 そうでなければ、この試合はここで終わりだ。もう剣を持てなかっただろう。

 俺は、剣を拾い、軽く振る。

 どうやら大丈夫なようだ。

「なんなら、休んでからにしてもいいぞ」

 アリアの申し出を俺は断った。

「いや、大丈夫だ、このまま続けよう」

 俺には俺の思惑がある。

 そして3分後、最終戦がはじまった。

 試合は駆け引きだ。無論腕の差というものはある。

 が、俺とアリアのように実力が伯仲している場合は駆け引きがものをいう。

 要は、相手の実力を出させないようにし、そして自分の実力を大きくみせる。

 それができれば、勝ちは転がり込んでくる。

 試合は1対1だが、俺のほうが不利だ。右腕の痛みというハンデをしょっている。

 しかし、俺に有利な面もある。俺はこれまで、彼女を攻撃していない。

 ただ一度、一回戦に使った奇襲戦法を見せただけだ。

 彼女は俺の太刀筋をまったく知らないことになる。

 相手のデータがないという事は戦いにおいて大きなハンデとなる。

 俺はわざと、そういう風に仕向けたのだ。

 対峙をしてはじめてその事に気づいたのか、アリアは軽い舌打ちをした。

 俺は右手だけで剣を持つのをやめ、両手で構えた。

 痛む右腕をかばうように見えなくもない。

 が、これはバスタードソードを使う本来のスタイルだ。

 俺は、気を練り上げ、開始の合図とともに一撃を放った。

 アリアは大きくステップバックしてこれをかわす。

 剣風を浴びたアリアが青ざめる。髪が乱れている。

 なんの事はない剣を大きく振り上げ、振り下ろしただけだ。

 が、そこにはとんでもない力が込められている。

 筋肉を極限まで絞り、気を練り、一瞬に爆発させる。

 当たりこそしないが、アリアは自分の身体が真っ二つにされたように感じただろう。

 名前はないが俺の奥義のひとつだ。

 とはいえ、この技は筋肉を酷使する。一度の戦いに何度も使えるものではない。

 それに、溜めるという予備動作がどうしても必要になるため、アリアには通用しない。

 なぜそんな技を使ったのかというと牽制だ。

 2回戦のように、アリアのラッシュを浴びてしまえば防戦一方になりずるずると負けてしまう。

「うかつにくるなよ、こっちには大砲があるぞ」そういう意味が込められていた。

 あんな大振り全てよけられる。そう頭ではわかっても、イメージを払拭することは難しい。

 事実アリアは後手にまわった。

 俺はアリアに切りかかる。

 二合、三合、と打ち合う。

 アリアは俺の剣を全て絶妙な角度で受け、力を流していった。

 こんなときだが俺は嬉しくなる。

 これほどの相手は久しぶりなのだ。

 いつも一人で戦う俺にはこうやって打ち合える仲間はいなかった。

 が、いつまでも遊んでいられる相手ではない。

 俺は、一度攻撃を止めると、わざとこういった。

「この技で決めてやる」

 そして右手に移した剣で大きく振りかぶる。

 そう、一戦目に見せたあの技だ。

 俺の剣が右から左にかけぬける。

 水平にないだ剣をなんなくよけるアリア。

 そのまま回転動作に入る俺、そして背中がアリアにむけられる。

 アリアの舌打ちが聞こえる。

 彼女はそれを侮辱と受け取ったろう。

 アリアには同じ技は通用しない。

 アリアは俺の回転のタイミングを計り、全てを受けきれるように剣を出す。

 そして全ては一瞬のうちに起こった。

 次の瞬間、アリアの木剣が真中から真っ二つに折れていた。

 自分の剣を呆然とみつめる彼女に俺はいった。

「俺の勝ちだ」

- 3 -

 アリアに同じ技は通じない。

 そう、俺は同じ技など使うつもりはなかった。

 声をかけることによって同じ技を使うと思わせた。

 彼女をぺてんにかけたのだ。

 俺は彼女に背を向けた瞬間、右手の剣を左手に持ち替えた。

 そして、剣の柄の方を鋭く突き出したのだ。

 その結果俺の剣は彼女が予想するより半瞬早く彼女に届いた。

 俺の剣の柄は見事に彼女の剣の平に突きささり、これを砕いたのだ。

 呆然と俺を見ていたアリアがいった。

「貴公、本当は左ききか?」

 俺は息を整えながら答えた。

「いや、剣は両方で使えるように鍛えている」

 それを聞いて彼女は笑い出した。

「リーン。面白いぞ貴公、実に面白い。惚れてしまいそうだ」

「ああ、とっとと惚れてくれ。毎回これじゃ身が持たん」

 俺はそう小声で答えた。

 ようやく、リュカが叫んだ。

「あわせて二本!リーンの勝利ーーー!!」

 こうしてようやく俺はアリアを抱く権利を得たのだ。

「すばらしいものを見せてくれた」

 宿屋のオヤジはどうやら剣術おたくだったらしい。

 豪華な晩飯をごちそうしてくれた。

 それはこの宿の自慢の品らしく大変旨かった。

 大変旨かったのだが、そんな料理の味を忘れてしまうようなごちそうが俺の目の前にあった。

 アリアだ。

 アリアを裸にしてあらためて見ると、すばらしい体つきだ。

 女なら誰でもあこがれ、男なら誰でも自分の腕に抱くことを夢見る

 そんなプロポーションだ。

 胸は美しい形を保ちながら張りだし、小さな乳首が己を主張する。鍛えられた胸筋がそれをささえ

 決してたれることはない。

 ウエストはきゅっと締まり、やがて腰へのなだらかな曲線を描く。

 尻は大きく、筋肉のバランスがよく釣りあがり、男の煽情をまねく。

 脚線美が見事だ。

 俺にはないが、その手の趣味のやつなら、こいつに踏まれることを夢見るだろう。

「なあ、・・・なんでだ?なんで、そこまで立派な身体を持ってるくせに感じないんだ?」

「さあな」アリアがそっけなく答えた。

 約束通り、アリアは俺のベットの上で裸になった。

「好きにしろ」

 そう言われ、アリアを抱いたのだが、何かおかしい。

 俺が胸を揉もうが、女性器をいじろうが、平然としている。

 それは、快感をこらえているとかそういった風情ではない。

 感じないのだ。

 くすぐっても、だめ。舐めても、噛んでもだめだった。

「言ったであろう、わたしの心は神のものだと」

 テクニックにはいくらか自信のあった俺のショックはそうとうなものだった。

 アリアの女性器は最後までしめりもしなかった。

「疲れた。寝る」

 アリアはそう宣言すると、眠りについた。

 同じベットで、アリアの臭いと身体のラインが目に付いた俺は朝まで眠れなかった。

 そのあと、もう一度挑戦してみたが、結果は同じだった。

 今夜は3度目の挑戦である。

 具体的な攻略方法も思いつかず、俺は途方にくれていた。

 そこへ、当のアリアがやってくる。

 アリアは宿屋の貸してくれたYUKATAという服を着ていた。東方風のものだ。

 長身のアリアにはよく似合う。

 帯にさした、レイピアが不釣合いだったが。

 アリアは己の剣を手放さない。根っからの戦士なのだ。

「リーン。またするのか?」

「ああ、今日こそはお前に快楽を教えてやる」

 俺は根拠のない自信を口にした。

「ふむ、わたしもお前の言うセックスとやらに興味がないではない」

「?」

「セラが明るくなった」

「なに?セラがしゃべったのか?」

「いや、あいかわらずだがな、なんとなく明るくなったよあの子は」

「ふーん」俺はなんとも答えられないので、そう返事をした。

「さあ、さっさとはじめようか」

 まるで、部屋の掃除をはじめるように言い放つと、アリアは無造作に服を脱いだ。

 

 そもそも、これが間違っている。

 恥じらいがない。

 あの、リュカですら服を脱ぐときは恥らうのだ。

 もしかして、アリアは自分が女だということに気づいてないのではないか。

 服を脱ぎながら俺はそう考えていた。

 アリアの不感症は心因性のものだ。

 あれだけ立派な身体だ、健康そのもののアリアに身体上の原因があるとは思えない。

 心の底で、「感じてはいけない」と、強く命じる壁があるのだろう。

 なにかをきっかけにその壁を破ることができれば、彼女の肉体は花開くはずだ。

 そもそも、乳首や性器は敏感な部分だ。

 そこをいじられて、痛くもかゆくもないという事は異常なのだ。

- 4 -

 俺は彼女をうつぶせにして、尻をながめていた。

 たまんないな。見れば見るほどいいケツだ。

「リーン。何をやってる」

「尻の鑑賞」

「・・・そんなものを見て楽しいか」

「ああ、楽しいぞ」

「・・・・」

 性器を見られるよりは、多少の羞恥があるようだ。

 俺は彼女の性器をいじりだした。

 やはり、しめりもしない。

 くりかえし、そこを責め続ける。

 必然的に俺の視線は、彼女の尻の穴の上にいく。

 きれいな形だな。

 そういえば、ここはまだ試してなかったな。

 尻の穴で繋がるという行為があることは知っていたが、興味はなかった。

 やはり、汚いというイメージがある。

 俺は深い考えもなく彼女の尻の穴に触れた。

 びくん。

 アリアの身体が震える。

「な、リーン!どこに触るんだ!」

 アリアが上半身を起こし抗議する。

 俺は苦笑した。さすがにアリアでもここは慌てるらしい。

 ん?まてよ?こんなに慌てた彼女をみたのははじめてだ。

 もしかして!?

 俺は彼女の背中をまたぎ、そこに座る。

 これで、どう暴れても動けまい。

 俺は両手で尻の肉を広げると、その谷間に唾液を落とした。

 アリアの背中がぴくりと震える。

 右手の人差し指で尻の穴を揉んでやる。

「やめろ!リーン!そこは、だめだ!そこは不浄だ!」

 もうれつに暴れる彼女を押さえつける。

「大人しくしろ。好きにしていいんだろ?」

「他の場所ならいいが、そこだけはだめだ、だめだ、やめてくれ・・・やめ・・・」

 俺は彼女におかまいなく、そこを揉みほぐしていった。

 抗議の声がだんだん小さくすすり泣くようになってきている。

「だめ・・・、いや、いや、やめて・・・お願い・・・。そこはだめ、きたない・・・」

 俺は右手の中指を舐め、たっぷり唾液にまぶすとぶすりと突き刺した。

「ひっ」

 アリアが息を呑む。

 尻は、きゅっと締まって抵抗する。

「アリア、力を抜け。息をはくんだ」

 やがて、耐えられなくなったのか大きく息をはきだす。

 少しゆるんだ拍子に、俺の指はずるりと中に入っていった。

「いや、気持悪・・・・。やあ、やめ・・、ん。はあ、はあ、はあ、やだ。きたな・・い。そこは・・不浄の場所・・・だ・・」

 俺はある予感を覚え、左手で彼女の女性器をまさぐる。

 そこはぐっしょりと濡れていた。

 な!?いままで湿りもしなかった場所が濡れている。

 俺は右手の指をさらに、深く押しこみ、左手で性器をなぞる。

 彼女の豆に触れた。やや、膨らんでるようだ。

 そのまま揉み込んでやる。

「やあ、なに?ああぁー熱い、熱い、だめだ、だめ・・。いやだ、やめろ。リーンなにをしてる?どこを触ってるんだ?くっ・・・」

「やめろ。頼む、やめてくれ、おかしくなりそうだ。身体が変だ」

 ときおり、尻の中にいれた指を動かしながら、クリトリスを刺激する。

 だんだんアリアの言葉は意味をなさなくなった。

 やがて、俺が彼女の真珠をぎゅっとつまんでやると、尻が大きく震え、そのまま落ちた。

 いったのだ。

 尻を指でつらぬかれたまま、彼女はいってしまったのだ。

 俺は呆然となった。

 同時に激しく興奮していた。

 ペニスが痛いほど勃起している。

 あのアリアが聖騎士様が俺の指でいったのだ。

 たまらなくなった俺は後ろから、ぐっしょりと濡れた性器にそれをあてがい、

 強引に押し入っていった。

 破宮の痛みに目を覚ますアリア。

 が、痛みには耐性があるのか、歯をくいしばって耐える。

「ぐ、・・・くうぅぅぅ。はあー」

 ときおり荒い息が漏れる。

 俺は右手を尻にすべらせる。

 途端に、はっとなるアリア。

「いや、やめろ、そこは汚い!そこだけはだめだ!」

 アリアの弱々しい態度がさらに俺の興奮を高めた。

 俺の指が尻の穴に入った途端アリアはおかしくなった。

 いやいやを繰り返しながら高みに昇って行く。

「ひー、はあ、やー、なに?どうして?いや!いやぁ、いやぁ」

 俺はペニスをはげしく動かす。

「はあ、だめ、だめだ、きたな・・・いいぃぃぃ。ふっ、はあ」

「へん、あつい、へん、へん。いや、いや、あ、ああ、あああ!!」

 アリアの中はきつく俺を締め上げた。

 俺の背筋を快感が貫いた。

「ぐっ!出る」

 俺が中へ出すと同時にアリアも達した。

「あ、あ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 アリアの中を俺で汚してやった。

 俺のもので満たしてやった。

 まちがいなく、彼女を開ける扉は尻の穴だった。

 一本の指が彼女を狂わせた。

 俺は荒い息がおさまると、もう一度彼女に挑みかかっていった。

 今度は前からだ。

 一度開いた扉は閉まることはなかった。

 形のよい胸を揉みこんでやると激しく感じた。

 キスを教え込む。舌と舌とを絡めるいやらしいキスだ。

 アリアは嫌がらない。

 舌を絡めながらも甘い声が漏れる。

 俺の興奮を誘う声だ。

 いったばかりの膣は俺にしがみつき、深いまさつを得ようとする。

 アリアの体が俺を欲しがっていた。

 俺はアリアの欲しいものを与えるため動きを早める。

 アリアの両手が俺の背中に回される。

「リーン、リーン」うわごとのように繰り返される俺の名前。

 俺はすぐに2度目を放った。

 アリアには散々じらされたせいか俺の興奮はなかなか収まらない。

 アリアの中から抜かないまま、行為を続ける。

 俺はアリアを抱えあげ、自分の腰をまたがせるようにした。

 対面座位である。

 深く入る。

 あの気丈なアリアがまるで子供のようにすすり泣いていた。

「もうだめ、もうだめ、もうやめて・・・」

 体は疲れてもう動けないはずなのに、はじめて与えられた快楽が深すぎるので

 止めることができないのだ。

 アリアはやめてと言いながら、自分から腰を動かしている。

 俺はそれだけでは許さない。

 俺は右手をアリアのお尻にまわすと、穴の中にすべらせた。

「あひぃ!」

 アリアが狂った。

 彼女の尻も膣もぎゅっと閉まって俺を絞めつける。

 アリアは嫌といって絞めつけ、イイっといって絞めつけた。

 二人は2匹の獣となって互いを求めた。

 しなやかな雌豹と、強靭な野獣。

 互いの汗が空気を満たし、臭いが交じり合う。

 まるで、足らなかった破片が収まるようにピタリと互いの身体が吸いつく。

 アリアのヴァギナには俺のペニスが必要で、俺のペニスにはアリアのヴァギナが必要だ。

 それがわかった。

「もうだめだ、だめ!いい!いい!すごくいい!リーンリーン!」

 アリアの黒髪が宙を舞う。

 アリアが激しく頭を振っているからだ。

「ひーふあ、ん!はあ、はあ、いい、いい、いい!いい!」

 アリアはまるで子供のように泣きじゃくりついに負けを認めた。

「いく!いくうぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 俺はアリアに夢中になった。

 アリアの身体は、砂漠が水を吸収するようにセックスを覚えていった。

 朝起きて、彼女を抱き。

 飯を食べて風呂に入り、彼女を求めた。

 その晩、膣で2回いかせた後、アリアの後ろに入った。

 彼女は獣のような声をあげながらいきまくった。

- 5 -

 次の朝目覚めると、アリアが俺を見下ろしていた。

「ん?どうした?」

「何度もお前を殺そうと思ったが、どうしてもできないんでな、困っていた」

「なんだそりゃ?ぶっそうだな」

 アリアはつとまじめな顔になると、耳飾りをはずした。

 あの聖騎士の証であるやつだ。

「これを預かってくれないか」

「なんでだ?お前の大切なものだろう?」

「わたしは、もう聖騎士ではない。聖騎士は国に忠誠を誓うものだからな」

「は?」

 俺が間抜けな顔をしてアリアを見ていると、彼女の機嫌が悪くなった。

「にぶいやつだな!わたしはお前に忠誠を誓うといっているんだ!」

 あ?ああ、ああなるほど。

 俺は耳飾を受け取るとアリアを抱き寄せ、キスをした。

「うむ、よきにはからえ」

「まったく、不真面目なやつだな」

 アリアは怒っていたが、頬は緩んでいた。

 器用な顔だ。

 俺はそのまま、アリアをベットに押し倒し胸をもみはじめる。

「待った。リーン。今日はだめだ」

「あん?」

「忘れたのか?今日はオーク退治にいく日だろう」

 そーいえばそうだっけ?

 昨日、またおかみがやってきて、金をつまれたのだ。

 俺は、一刻も早くアリアを抱きたくて、適当に答えたのだ。

 わかった明日、退治に行く。と。

「わたしは風呂に入ってくる。身体じゅうにお前の臭いがしみついてるからな」

 するりとベットを抜け出すと、アリアは出ていった。

 俺が一人で自分の鎧を着て、準備をしていると、リュカとセラが入ってきた。

「準備できた?」

「ああ、もう少しだ」

 リュカが近づいてきた。

「なんだ?」

 いきなり、俺の腕をぎゅっとつねった。

「いて!何するんだこら」

「だってこの頃相手してくんないんだもん。ボク寂しいな」

 セラがとことこやってくる。

 俺のうでをつまむ。

 どうやらつねっているようだ。

 無言で俺を見あげる。

「・・・・・・」

「あー、わかったわかった。悪かったよ。今日帰ったらたっぷりサービスしてやるって」

「ほんと!?」

 リュカが嬉しそうにする。

 セラが見つめている。

「二人まとめて面倒みてやるって」

 まさか、そのあと、あんな事が起きるなど想像もつかなかった俺は、

 笑いながら二人に答えていた。

「ブギー!」

 不気味な断末魔の声を残して最後のオークが倒れ付した。

 はあ、はあ、はあ。

 何が、20匹だ!くそ!30匹以上はいたぞ!

 俺達はオークの住む洞窟に来ると、煙を使っていぶりだした。

 怒って、襲ってくるオークを引き付け、開けた地に誘導する。

 林の中では、こちらの身動きがとれないからだ。

 オーク達はかなり怒ってるようで、のこのこと追いかけてきた。

 そこで、切り合いになった。

 俺とアリア、リュカが戦った。

 セラはあっさりと結界を作るとそこで観戦している。

 まあ、魔法の援護など必要なかった。

 このパーティでクエストをこなすのははじめてだが、なかなかバランスの取れたいい、パーティだと思う。

 どうも、セラの戦力は未知数であるが。

 俺達は互いの背をかばいながらオークどもを倒していった。

「くそ、追加金をせしめてやるぜ」

 俺が愚痴をいってると、林の奥から突然、大きな唸り声が聞こえた。

 俺達は警戒する。

 まだ、残ってたのか?

 そこに現れたのはオークではない。ハイオーク!

 オークの親分みたいなやつだが、こいつは侮れない。

 体の大きさが全然違う。

 背丈は俺の首くらいまでだが、横幅は3倍以上ある。

 筋肉の盛り上がった腕はリュカの胴体くらいあった。

 こいつが、棍棒を振りまわしてる。

 あれにあたったら、俺の頭なんか、スイカと同じようにひしゃげちまうだろうな。

 俺は3人に向かって言った。

「これは、俺が仕留める。手を出すなよ!」

 なぜ、そんなことを言ったのか、俺にもよくわからない。

 3人の前でかっこつけたかったからなのか。

 戦闘に酔っていたのか、あるいは彼女達を危険にさらしたくなかったからなのか。

 ともかく、俺と奴との決戦がはじまった。

 俺は奴の前にまわり、奴のふりまわす、棍棒をさけて、切りつける。

 ヒット&ウェイだ。

 どちらかというとアリアの得意とする戦法だが、俺の一撃必殺の戦いでは外れたら後がない。

 俺は慎重に奴をかわし、傷つけていった。

 やがて、奴の腕が血まみれになる。

 ハイオークは俺がちょこまかとよけるのが気に食わないのか、ぐわーっと大きく叫ぶと、上から下に棍棒を叩きつけた、右にさっとよける俺。

 下から跳ね上がった得物がさらに俺を襲う。

 俺は、それも上体を引いてかわした。

 血ですべったのか、振り上げた手から棍棒がすっとんでいった。

 空になった手をみて呆然とするハイオーク。

 ばかなやつ。

 だが次にやつは、両手を大きく広げると、そのまま俺に突っ込んできた。

 まずい、よけられない。

 俺はとっさに、腰だめに剣を構えると、奴の腹にずぶりと剣を突き出した。

 奴の勢いも手伝って鍔元(つばもと)までもぐりこむ。

 それでも、強靭な生命力をもつ奴は、俺をそのままはがいじめにし、締め付けてきた。

「ぐ、・・・」

 肺の中の空気が押し出される。とんでもない力だ。

 俺は、両腕に力をこめ剣をえぐった。

 さしもの、奴もこの痛みに耐えかねたのか、そのままよろよろと後ろ向きに倒れる。

 地面に突き立った剣が押し出され、柄の部分が俺の腹に突き当たる。

「ぐぅ・・・」いてえぞコノヤロォー

 奴は倒れた拍子にどこか打ったのか、右手から力が抜けている。

 それでも、左手一本でぐいぐい絞めつけてくる。

 俺はなんとか自由になった左手で奴の顔を殴った。

 なんども殴る。

 やがて、奴の牙が折れた。

 それでも、締め付けがやまない。

 俺は更に殴りつづける。

 奴の顔面が血に染まった頃、ようやくハイオークは力尽きた。

- 6 -

 俺は、返り血をあび、ひどいありさまだ。

 鎧も砂があちこちに付着している。

 背骨はどうやら無事だったようだ。

 心配そうに見ていた。3人に笑って見せると、

「どうやら、これで終わりらしい。宿屋へ帰るぞ!」そう言った。

 俺とセラが歩き出そうとする。

 が、リュカとアリアは立ち止まったままだ。

 ん?どうした?

 二人とも俺を見ている。

 心なしか青ざめているように見える。

 リュカがちょこちょこと俺の前にやってきた。

 俺の左手を掴む。

 なんだ?

「見せて」

 ん?

「いいから、手を見せて!」

「傷はたいしたことないって・・・」

 言いかけた俺とリュカは同時にそれを見た。

 指輪に、あの支配の指輪に大きな亀裂が入っていた。

「あ」二人の声が重なる。

 そして、それは俺達の目の前でぱっくりと二つに割れて落ちた。

 俺の思考は停止する。頭の中が真っ白になる。

 何が起こったか理解できなかった。いや、理解したくなかった。

 たっぷりと時間が過ぎた後、ぽつりとリュカが言った。

「つまり・・・、ボク達はもう自由って事だよね・・・・・」

 そう、そうだ。俺は彼女達の主人ではなくなってしまったのだ。

 おそらくオークの牙を折ったときだろう。

 そんな意味もないことを延々と考えつづけていた。

 突然横合いから殺気が襲った。

 身体が反応して大きく跳び退る。

 アリアが剣を手に突っ込んできたのだ。

「剣を抜け!リーン!貴様を殺す!貴様を殺して、わたしも死ぬ!」

 みると、アリアの顔は真っ赤で涙までこぼしていた。

 う。

 アリアの気持はわかる。

 あの、精錬潔白な聖騎士が、性の快楽を教え込まれ、まして尻までささげたのだ。

 俺を殺したいと思う気持はよくわかった。

 が、だからといって殺されるわけにもいかない。

 俺は剣を抜き応戦した。

 アリアの攻撃は剣技と呼べるものではなかった。よほど頭にきているのだろう。

 子供がでたらめに剣を振りまわしているようなものだった。

 俺は、剣を操ることで少し自分を取り戻した。

 まあ、割れてしまったものは仕方がない。残念ではあるが。そう、開き直った。

 やがて、息の上がったアリアの手を叩き、レイピアを落とさせた。

 足でけり、彼女から遠ざける。

 大きく息をする彼女は俺を睨みつけ言った。

「殺せ。わたしを殺せ!もう、わたしは生きている価値はない」

「ばか、自分の女を切れるか」

 俺はそう言い返した。

 彼女の視線は激しい。もし、視線で人を殺せるならば、そんな目だった。

 俺はアリアのそんな目が悲しくて、背を向けた。

 離れたのはまずかったかもしれない。

 突然、彼女は叫んだ。

「神よ!穢れたわたしをどうかお許しください!!」

 振りかえった俺が見たものは短剣をのどにかざし、まさに突かんとするアリアの姿だった。

 間に合わない!!

 短剣がアリアののどを切り裂く!

 そう思った瞬間。

 以外にも動いたのはセラだった。

 するりとアリアに近づくと彼女の手をぽんと叩いた。

 どんな魔法を使ったのか、アリアの手から短剣が落ちる。

 抗議しようとするアリアに向かって手をかざした。

 セラの手に淡い光が生まれる。

 それを見た途端アリアの顔から表情が抜け落ちた。

「アリア聞いて。リーンの指輪は壊れていないの。あれは夢だったの」

「ゆ・・め・・?コワレテイナイ・・・?」

「そう、忘れて。あれは夢、なかったこと。アリアは今までのままでいい。指輪は壊れていない。だからリーンに抱かれてもいいの」

「あれは・・・、ゆ・・・め・・、いままで・・・と・・かわりない・・・・」

 そういうとアリアは安心したのかぐったりと倒れこんだ。

「ななななな、なにすんの!」

 それを見て我に返ったリュカがセラに抗議する。

「せっかく、指輪の呪縛から逃れられたっていうのに!」

 セラが答える。

「だってこうしないと、アリアの心が壊れてしまう。彼女死んでしまうわ」

「ま、ま、ま、そーだけどさ・・。じゃ、セラはどうなの!?このあと、どうするの!?
 セラはどうすんのよ!」

 セラはいつもの無表情のままリュカをみつめ答えた。

「セラ?セラは変わらないよ。セラはリーンが好きだから、リーンに抱かれるの嫌じゃないし。それにいままでだって、別に指輪に支配されてたわけじゃないもの」

 セラがこんなにしゃべった事にも驚いたが、その話の内容に愕然とした。

 セラには魔法がかかっていなかったのだ。

 いわれてみれば、セラも強力な魔法使いだ。そう簡単に魔法にかけられるとは考えにくかった。

 思い当たる節もないではない。

 はははは、そうだったのか・・・・・・はは、はははははは。

 俺もリュカもあっけにとられていたが、先に立ち直ったのは俺のほうだった。

 風向きは俺に向いている。

 俺は内心の驚愕をなんとか隠し、リュカに言った。

「・・・・すると、あとはリュカだけだな」

 顔に穴が開いたように呆然としていたリュカが振り向く。

「ほえ?ボク?」

 まぬけな反応のリュカ、まだ立ち直れないらしい。

「ああ、セラもアリアも今までのままだ。つまりあとは、リュカだけだ」

 俺はそう言うと、セラに手伝ってもらってアリアを背負った。

 気絶した人間は重い。戦闘の後の体にはこたえるぜ。

 リュカを無視し、俺達は宿屋に帰る。

 支配の魔法が解けたリュカのすることは2つしかない。

 このまま俺達と別れどこかへ消えるか。俺を殺そうとするか。

 どちらにしろ、俺はもうリュカを抱くことはできない。

 少し寂しかった。

 俺は山道を下っていった。

 

「ちょっと待ってよ!待ってってば!」

 我に返ったリュカが追いかけてきた。ちょこちょこ追いつき俺に並んで歩く。

「悪いが俺を殺すつもりなら、後にしてくれ、アリアをここにおいていくわけにはいかないからな」

 不機嫌な声でリュカに答える。追いかけてきたということは俺とけりをつける、

 そういうことだろう。

「誰も殺すなんていってないじゃない」

 そのセリフで俺ははじめてリュカを振り向いた。

 たしかにリュカに殺意はなさそうだ。しかし何故だ?

 腑に落ちない俺にリュカがいきなり言った。

「一万ゴールド!」

 は?何の話だ?

「リュカ?なんだそりゃ?」

「だーかーら、ボクに対する陵辱の数々への慰謝料」

「はあ?馬鹿かお前は?」

 俺は素直にそう答えてしまった。

「一万ゴールドだあ?そんな金がどこにあると思ってんだ?」

 ちなみに今回の依頼料が200ゴールドである。

 いかに、リュカのふっかけた額が法外かわかるだろう。

「あれえ?払えないの?んーじゃ、分割でいいや。しょうがないねえ、じゃあ、払い終わるまでついてくから」

 お前一体いつまでついてくる気だ?と暗算しかけて気づいた。

「はーーーん。なんだお前、慰謝料とかなんだいって、本当は俺と分かれたくないんだな」

「な、な、な、何いってんのよ。リーンなんかといっしょにいたいわけないじゃない。お金が払えないっていうからいっしょに行くだけだよ!」

 顔が真っ赤だ。

「ほー」

 俺がにやにや笑ってると。

「何笑ってんのよ!さっさと別れたいんだからお金払ってよね!二万ゴールド!」

 ときた。

「おい、さっきより増えてるぞ!」

「乙女を侮辱した分の追加金」

「乙女だあ?どこに?」

 俺はわざとゆっくりリュカの頭の上を見まわした。

「ここだーーー!!」

 山の中にリュカの絶叫がこだまする。

 そしてセラが後からついてくる。

 アリアの笑い声が背中から聞こえたような気がした。

 俺の、いや俺達のパーティはまだしばらく続きそうである。

< 魔法の指輪 後編 了 >

あとがき

 こんにちわ。はじめまして月之満欠といいます。
 この作品は再録ですのでもしかしたら知ってる方もいるかもしれません。
 自分のHPも閉めてしまったので身請けして頂きました。

 魔法の指輪は僕の2作目で、キャラには結構思い入れがあります。

 みなさんはどの娘が気に入りましたか?よかったらこっそり教えてください。

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