第二話 傷跡
――チャラ
ポケットから、金属プレートのキーホルダー付きの鍵を取り出し、家の鍵を開けた。
ドアを開き、玄関に入ると同時にドアが閉まる。
「……ん?」
背後に誰もいないことを不思議に思いドアを開けると、ドアの前で突っ立っているパウがいた。
「なにしてんだ? 入れよ」
「……お邪魔します」
俺の後ろから、おずおずとパウが玄関に入ってくる。
結局、俺達はアパートの火事が消し止められるまで、現場で一部始終を見つめていた。
いつまでもアパートから目を離さずにいるパウを、放って置いて自分だけ帰ることはできなかった。成り行きで連れてきてしまったが、その後のことまでは考えていない。
パウをリビングに通し、L字型ソファーに座らせる。リビングは、というよりも家の中全てに言えるのだが、お世辞にも綺麗とはいえない現状だ。誰かを家に入れるなんて滅多にないからな、と思っていたが、しょっちゅう来ていたとしても俺は片付けないだろうな、と思い直す。
俺は2人分のコーヒーを煎れるためにキッチンで電動式コーヒーメーカーのスイッチを入れた。焙煎、ミル、ドリップと全部やってくれるタイプのコーヒーメーカーだ。親父の形見分けで、俺の手元にやってきた品である。コーヒーは嫌いじゃないので、愛用させてもらっている。
コーヒーが煎れ終わるまでに、コーヒーカップにソーサーとスプーン、ボトルタイプのクリームと砂糖の入ったビンをお盆に載せておく。
ドリップの終了を告げるランプが点灯したのを見て、コーヒーサーバーをお盆に載せ、リビングに戻る。ソファーの前にあるガラス張りのテーブルにお盆を置き、パウの左向かいのソファーに座る。
「あとは適当にやってくれ」
自分のカップにコーヒーを注いで、俺はサーバーをパウの側に置く。
砂糖とクリームを適当に入れ、飲む。
ズズ……
リビングに、俺がコーヒーを啜る音だけが響く。
パウはサーバーには手を伸ばさず、ソファーに座ったままぼんやりしている。
ま、家が焼けたんだ、ショックなんだろう。しばらくそっとしておくか。
俺はそこらに放り出されていた新聞から今日付けのものを探し出し、読み出す。
ズズ……
パラ……パラ……
コーヒーを啜る音に、新聞をめくる音が加わるが、それでも静かなことにはかわりない。
お、桜ノ里学園の記事がのってる。興味を惹かれた俺は記事に目を通す。
へえ、県下じゃ東大進学率がトップなのか。なになに、桜ノ里学園は中高大一環教育で、特に中等部高等部の6年間を通して大学受験に向けた教育方針を採っており、大学進学率に関しても高い数値を残している……か。
大学受験に関しては優秀なのかもしれないけど、中学、高校の学校生活に関しては生とが満足できるもんなのかな。第一、大学進学率が高いって、一環教育だったらエスカレーターで進学できるんだから、数字も当てにならないよな――などと、どうでもいいようなことを考えていると。
「ああ……」
家に入ってからずっと黙っていたパウが、ようやく口を開いた。
「全部、燃えてしまったのレす……」
がっくりと頭を垂れ、ひどく落胆した調子で、独り言とも話しかけているとも判断つかない口調で言葉を紡ぐ。
俺は記事に落としていた視線を、パウに向ける。
胸のつかえを全部言葉にして吐き出してしまえば、どんなに落ちこんでる人間でも、その時よりは立ち直れるものだ。そしてそれには聞いてやる人間が必要なのだ。
俺は黙ってパウの言葉に耳を傾ける。
「お気に入りだったのに……あの熊の木彫りの置物も、梟の木彫りの置物も、キタキツネの木彫りの置物も――」
「全部木彫りかよ! じゃなくてだ、落ちこんでた理由は置物が燃えたからなのか!?」
「……どうして怒っているのレすか?」
パウは突然叫び出した俺に、生気の無い瞳を向けてくる。
「怒ってない! 怒ってないけどな、違うだろ! なんか知らんがそれは違うだろ!?」
「何が違うというのレすか? みんな……ああ、みんな私の家族になってから1週間と経たずに灰になってしまったというのレすのに……。まラ名前もつけていなかったのレすのに……。楽しみに……本当に楽しみにしていたのレすよ……」
「なんなんだ、その北海道ライクなみやげ物の数々は……」
俺の呟きをよそに、パウは唇を噛んで何かをこらえるようににして、ソファーに力無くもたれた。
俺はいまだ哀しみに暮れているパウを見た。さきほどまでの深刻さは微塵も感じられなくなっている自分に気付く。
……まあ、価値観なんて人それぞれだしな。わざわざ死人に鞭打つようなことをしなくてもいいだろう。
言いたことはまだまだあるのだが、俺は黙っていることにした。
「せっかく……せっかく集めたのに……木彫りの熊なんて、一番小さなものから大きなものまレ全部揃えられたのに……みんな揃った姿は、もう二度と見ることは出来ないのレすね……。一度くらい、みんなの名前を呼んであげたかった……」
北海道、木彫りの熊といえば、鮭を咥えてる例のアレか。全部揃えたって、一体いくつあるものなんだろうか。確か大きいものといえば、大人がまたいで座れるほどの大きさで、数十万くらいする、という話を聞いた記憶がある。……木彫りの熊がずらっと並んでいる図を想像して、ちょっと壮観かもしれないと思ってしまった。
それにしたって――そこまで木彫りが好きなのか?
ツッコミを入れたい衝動を懸命に押さえながら、俺は新聞を読むことに集中することにした。
「太郎……二郎……三郎……四郎……五郎……六郎……七郎……。ああ、みんな……」
「おかあさんの木かい! って、お前に言っても通じないか」
「知っているのレすよ」
「なんで知ってるんだよ!」
「うう。なんラか良くわからないことレ怒られてばっかりなのレすよ~」
「あ――いや、ほんと悪い。ついノリと勢いでツッコむ癖がな……」
「嫌な癖なのレすよ」
「ほっとけ」
これが、なかなか難しかった。
小1時間ほど、失った木彫り人形達への思いの丈を吐き出したパウは、ようやく落ちついたのか、ぬるくなったコーヒーに手を伸ばしていた。
砂糖とクリームを混ぜると、静かにカップへ口をつけている。
「拓真さん、電話と電話帳をお借りしたいのレすが、よろしいでレしょうか?」
「ああ、いいぜ。けど、どこにかけるんだ?」
「お父さんと連絡を取りたいのレすが、携帯電話を共同住宅に忘れてしまって……。レすから、心当たりのある方に電話をかけたいのレす」
「なるほどな」
携帯電話はアパートと運命を共にしただろう。俺は立ちあがり、電話の子機と電話帳を持って来ると、パウに渡した。
「ありがとうございます」
パウは電話帳を受け取ると、ページをめくって目当ての電話番号を探す作業に入る。
手持ちぶさたになった俺は、床に置きっぱなしにしていたPC関連の雑誌を拾い、前々から考えていた新しいパソコンの導入計画を練ることにした。
うーむ、最近のパソコンは10万円台でも平気でCPUが2GHzを超えてるな。いま使っているのは4年前に購入したもので、CPUが1GHzで確か30万くらいしたような記憶がある。自分の金で買ったわけでもないし、パソコンは水物とはいえ、さすがに半分の値段で倍の性能を出されると切なさがこみ上げてくる。
ピ、プ、ピ、ポ、ペ――
プッシュ音が耳に入る。目的の電話番号が見つかったのだろう。
気にせず物色を続けるか。どれどれ――げ、HDDも120GBか。俺のは30GBだから、4倍になるのか。それにTVチューナーにDVD-RWまでついてこの値段かよ。いま使っているパソコンも充分現役で動くんだが……うーむ、悩むな。
「夜分遅くに申し訳ありません、勝浦泰助さんはいらっしゃいますレしょうか――いいえ――いいえ、急な用件レすのレ、話は通してはいないのレすが――はい――先日伺ったアルバート・ライナバルトの娘、パウ・ライナバルトと申します――はい――はい、お手数をおかけします。ありがとうございます」
すぐ側にいるのだから、聞き耳を立てずとも声は嫌でも耳に入ってしまう。
さすがに電話の盗み聞きというのは良い趣味ではない。席を外そうか悩むが、聞かれたくない内容ならばパウが席を外しているはずだし、そこまで気を利かさなくてもいいだろう。
「こんばんは。先日、アルバート・ライナバルトが――はい、そうレす。こんな時間に――はい。そうレすか、もう知ってらしたのレすね――いえ、違います。実は、携帯電話が共同住宅と一緒に焼けてしまって、父の電話番号を失ってしまったのレす。それレ、勝浦さんなら知っていると思いまして電話をした次第レす。――はい、申し訳ありません――はい、ちょっと待って下さい。……拓真さん、書く物と用紙を貸して貰えないレすか?」
「んお!? あ、おう。ちょっと待ってくれ」
結果としてパウの電話に気を向けてしまっていた俺は、突然声をかけられて動揺してしまう。その動揺を隠すように、立ちあがると急いでメモとボールペンを取ってきた。
「ありがとうございます」
パウは俺の動揺に気付かなかったのか、すぐに電話に戻る。
「どうぞ――はい――はい――はい」
メモに電話番号を書き留める。
「ありがとうございました――そうレすか、わかりました――はい、ご心配おかけしました――そうレすね、次の機会には、是非――はい、それレは失礼します」
電話を切ったパウは「もう少し貸して下さい」と断りを入れ、すぐさまメモっておいた電話番号に電話をかけはじめた。
「Hello?」
俺が聞き取れたのは、この最初の一言だけだった。その後パウの口から発せられたのは流暢な英語であり、俺程度の脳ミソではとても理解不能なものだった。
「すげえ……日本人じゃないみたいだ」
電話中だったパウが、言葉を切って不思議そうな顔で俺を見た。
「何を言っているのレすか。私の国籍はアメリカにあるのレすよ」
「あ、そうだったな。すっかり忘れてた」
パウの日本語があまりに流暢なので、そういったことはすっかり忘れていた。出会いやら火事やらのインパクトが強すぎて、アメリカ人という情報は上書きされて消えていたのだろう。
それにしても、いくら授業で習っているとはいえ、生の英語というのは本物の英語と感じるな。少なくとも、授業の英語は本物には程遠い。映画やテレビで聞く英語も、やはり生の迫力には叶わない。
会話の内容は理解できないが、パウの声で響く英語に惹かれた俺は、自然と聞き入っていた。
「――拓真さん。電話を代わって貰いたいのレすよ。お父さんからなのレす」
「いっ!?」
唐突にパウが受話器を差し出してきたので、俺は慌てて首を振った。
「無理。俺、英語なんて話せねえって」
「大丈夫なのレすよ。お父さんは日本語を完璧に習得しているのレすよ」
「そうなのか? ……だったらいいけど。それにしたって、パウの親父さんが俺に用事なんてあるのか?」
受話器を受け取りながら俺は疑問を投げかけるが、パウはにこにこと微笑むだけで答えない。仕方なく、俺は受話器に向かった。
「――もしもし、電話代わりました。山崎ですが」
「もしもし。はじめまして。パウの父、アルバートと申します」
受話器越しに、低く、それでいてよく通る男性の声が聞こえてきた。しかもパウのような微妙な鈍りのない、完璧な発音の日本語で。
良かった。一瞬英語で話されたらどうしようかと思ってしまった。
「……安心されましたか?」
「えっ?」
俺の内心を見透かしたかのような言葉に驚くが、すぐに察しがついた。保留になっていなかったから、こちらの会話が筒抜けになっていたんだな。
「そうですね。俺は英語を全く使えませんから」
多少の気恥ずかしさを感じながら、答える。
「本日は、娘が大変お世話になったようで、感謝の言葉もありません」
「いえ、俺は大した事はしてません」
「ご謙遜を。父である私が言うのもなんなのですが、娘の方向感覚の不自由さには、私も手を焼いているのです。娘は自分の不得手なことは、全て努力を重ねて克服できる強さを持っている子なのですが、どうしても方向感覚に関しては、その努力も空回りしておりましてね。なまじ自分の努力に自信があるものですから、意固地になっているのでしょう。ですから、例え一人では道に迷うとわかっていても、他人の力を借りずに自分の力だけでなんとかしようとするのです。私や知人が同行している場合はいいのですが、一人で家から出てしまった場合――結論としましては、警察に保護されることも少なくないといった有様でして……」
「そうでしょうね……」
俺はしみじみと同意した。今日の様子を見ているだけで、アルバートさんが言っていることは決して誇張じゃないことがわかる。
「ですから、娘は貴方に大変感謝をしていたのですよ」
「は?」
突然何を言い出すんだ?
「娘を送るというのは、大変な労力が伴ったのではないのですか?」
「……はい、まあ」
主に精神的な面で。
「娘は自分の欠点を理解しているのですよ。ただ、自分がこだわっていることに関しては、決して後に引かない頑固な性格なのです。これが原因で友人を数人失っておりますから、貴方の優しさは充分娘に伝わっているのですよ」
「はあ……」
なんでここまで持ち上げられるんだろう。こう、手放しで褒められるのは好きじゃない。なんというか、気持ちが悪いのだ。どうしても別の真意があるのではないかと勘ぐってしまう。
それにしても、俺はパウのことを少し勘違いしていたみたいだな。強硬に自分の道が正しいと言っていたのは、勘違いでもなんでもなく、あいつの意地だったわけだ。俺を心配するような言葉も、一緒に来て欲しいという想いの裏返しだったのだろうか。
なんつーか……難儀な奴。
「このことは、娘には秘密にしておいて下さい。私が話したと知ると、娘は大変怒るのです」
「わかりました」
そりゃあ怒るだろうな。
自分の内面を第三者を通じて暴かれるなんて、例え親であろうと当人にとって恥ずかしいものだ。
わかってるんなら、アルバートさんも言わなければいいだろうに。
「そこで、そんな優しい山崎拓真さんにお願いがあるのです」
褒め殺されていた頃からそんな予感がしていたが、その通りだったか。
「はあ。なんですか?」
「知っての通り、娘がこちらでの生活先にと選んだアパートは焼けてしまいました。そこで、娘が日本の学校に通っている間のホームステイ先に、貴方の御宅を使わせていただきたいと考えているのです。いかがでしょうか? 娘の了解は既に得ているのですが……」
「無理です」
即答した。
何を考えてるんだこのオヤジ!? 俺は一人暮しだぞ? そんなとこに若い女性を放りこんだらどうなるか――って、ああそうか。この人は俺が一人暮しをしているってことを知らないのか。教えておかないと。
「わるいんですけど、俺、一人暮しなんですよ。ですから――」
「ああ、その辺のことは心配しておりませんよ。娘は貞操観念がしっかりしておりますから」
……その娘を目の前にして、実の父親から貞操なんぞいう言葉を含んだ会話をさせられる俺の身にもなってくれ、オヤジ。
俺は座っている姿勢を変え、パウの顔を視界から消す。居心地が悪いったらない。
「そもそも、娘は自分の身を守れる程度には強い子ですから。間違いなど起きようはずもないのですよ」
それは暗に、俺より強いと言っているようなもんなのですが。色々と考えさせられる言葉だなあ。
「とにかく。それは無理です。今日はもう遅いですし、1日くらいならいいですけど、これからずっと、っていうのは困ります」
「そこを曲げてお願いします」
はっきりと断っているのに、向こうは全く諦める気配がない。なんというか、押し売りまがいの訪問販売員やキャッチセールスを思い出してしまう。
「当然、お世話になるというのですから、生活費も払わせていただきます。なんでしたら、そちらの言い値でお支払いしてもよろしいのですが――」
瞬間、俺は殺気立った低い声音で呟いていた。
「……あ?」
口から出たのは、剣呑な声。受話器を握る力も自然と強くなる。ギッ、と眉間に皺が寄り、俺は虚空を睨みつけていた。
はっとして、慌てて自省する。
ああ、駄目だ。落ちつけ。向こうは好意で言ってくれているんだ。こんなことでキレてどうする。お門違いも甚だしい。冷静になれ。
小さく深呼吸をして、意識して落ちついた声を出す。
「いいですか? 金の問題ではないんです。彼女に対して一切責任を持てないのに、一緒に暮らすなんて出来ない、と言っているんです」
「1日10万円までなら用意できるのですが――」
その言葉で、俺の怒りはあっさりと臨界を突破した。
「金の問題じゃねえんだよボケが!」
ああ、駄目だ。もう止まらない。頭の隅で冷静な俺がそう呟いた。
カッとなった頭は、瞬時に罵詈雑言の大量生産体勢へと移行。
「テメエは何だ? 金さえ払えばなんでも思い通りになるとでも思ってんのか? ナメてんじゃねえぞクソが!」
全ての衝動が、受話器の向こう側にいる男を怒鳴りつけることだけに作用する。
「大体な、なんでも信用って言葉で片付けてんじゃねェよ! テメエの娘だろうが、もうちょっと心配してやったらどうなんだよ! 見ず知らずの男に預けるなんてどういう神経してんだ? 信用するってのと放任するってのは違うんだぞ、知ってたか? あ? よかったな、ひとつ利口になったな? 信用なんて金をかければいいってもんじゃねェぞ。お前は子供を育てんのに金さえかけられればいいとでも思ってんじゃねェだろうな。それとも何か? 金さえありゃあなんでも買えるってか? コンクリ履かせて沈めんぞコラ。海ん底で好きなだけ酸素でも買ってろや。札束もコンクリに混ぜといてやるから安心だろ?」
言いたい事を言い尽くして、少しすっとした。
唐突に訪れた沈黙に、受話器の向こうから反応があった。
「……突然、どうしたのですか? 私は何か気に触ることでも言い――」
再び、メーターの針が振り切れた。
「テメエのただれた脳じゃ理解できねェか? だったら何度でも言ってやらァ、金の問題じゃねえっつたんだボケ! いっぺん死んで人生やり直してから、もっかい死ね!」
プッ
怒りに任せて電話を切る。
だが、俺の怒りは納まらない。
「くそっ!」
ソファーを殴る。何度も、何度も殴る。自分の感情を持て余してしまっていて、全く制御ができない。まるで小さな子供のようだ。
「あの……どうかしたのレすか?」
「あぁ!?」
反射的にパウを睨みつけてしまった。
彼女が少し怯えた表情になり、それを見て俺はすぐに後悔した。
俺は何をパウに八つ当たりなんかしてるんだ……!
「っ……、悪い」
情けなさと申し訳なさに加え、その原因となったあいつに対して更なる怒りが募る。
と。
ピルルルル――
握り締めていた子機から着信音が響く。おそらくはあいつが着信履歴から返信してきたのだろう。あいつの声なんぞ、聞きたくもない。
「ん」
俺はパウの側に子機を放り投げる。
「え、あ……」
彼女は子機と俺の顔を交互に見た後、子機に手を伸ばして通話ボタンを押した。
「はい、山崎レす――」
直後、パウの言葉が英語に変わる。やはりあいつだったか。パウは英語で話しながら、ちらちらと俺の様子を伺っている。
「あの……お父さんが話の続きをしたいそうなのレす……」
おずおずと、パウが子機を差し出してきた。
俺は子機を受け取り、
プッ
すぐさま電話を切った。
「俺は、話すことなんてない」
パウはとても困惑した表情で俺を見ていた。彼女は何も悪いことをしていないのだが、どうしても怒りの矛先が向きかかってしまう。とても申し訳ないと思うのだが、これでも懸命に押さえているのだ。
ピルルルル――
再び電話。
「ん」
俺はやはりパウに子機を放り投げ、彼女は「はい、山崎レす」と応対、直後に英語となる。そして、俺をちらちらと身ながら会話。
受話器から口を離したパウが、悲しそうな、寂しそうな表情で俺を見ていた。
「拓真さん……」
「…………」
俺は目を閉じて、パウの視線をシャットアウト。
「…………」
パウがじっとこっちを見ているのが、気配でなんとなく感じられた。
互いに、無言。
長い沈黙。
どちらも諦めず、根競べの様相を呈していた。
だが。
その長い沈黙は、俺の怒りを徐々にだが、確実に冷ましていく。
やがて、俺の制御を離れていた感情は、手綱の効く状態にまで落ちついていった。
瞼を開く。と、じっと俺を見ているパウと目があった。
嘆息。
「悪い」
短く謝って、手を伸ばす。パウはほっとした様子で子機を渡してきた。
「もしもし」
向こうの第一声は、小さな安堵の吐息だった。
「どうやら私は、貴方にとって嫌悪の対象となる発言をしてしまったようですね。謝罪します。本当に申し訳ありませんでした」
「……ああ」
正直、まだ胸で燻っているものがあるが、こうも真摯に謝られてそれを突っぱねるというのは、明らかに俺が悪い。それに、俺のようなガキにあそこまで一方的に怒鳴り散らされて、大人であるアルバートさんがその憤りを全く表に出さないというのは、尊敬に値する行為だ。
「私の名誉のために弁解させてもらいますが、私は金で信用を買えるとは思っていません。まして、愛情をかけずに子供を育てることはできないと考えています。そこだけは、理解してください」
「……俺も、言いすぎたと思います。すいませんでした」
「いえ、いいんです。私も金で解決しようという考えがなかったわけではないですからね。不快な思いをさせました。……改めて、君にお願いします。娘を――パウ・ライナバルトを預かってもらえないでしょうか」
「お断りします」
こればかりは、何度言われても頷くわけにはいけない。一つ屋根の下で生活して、いつまでも普段通りでいられるほど俺は俺自身を信用していない。努力はする。だが、いつかなにかの弾みに暴走したらどうする。
俺は、以前重大な罪を犯した。
大好きだった女の人を、欲情に任せて襲ってしまったのだ。
あんな後味の悪いことは二度と御免だ。自分が許せなくて、相手に申し訳なくて、でもどうしようもない気持ちをずっと抱えていかなければならないのだ。
前科持ちをどうして信用できるという。だから、パウと一緒に暮らすことはできない。
「……山崎君、アパートの火事の出火原因は、放火です。狙われた理由は――娘の入居したアパートだったからなのです」
「……!?」
衝撃の発言に、俺は驚いて息を飲んだ。
「君が娘と出会ったのは、放火される前の時刻。そして、火事を知らぬまま2人はアパートまでやって来て、今に到ります。……これは、とてつもない幸運が働いた結果なのですよ、山崎君。もし、このまま娘が君の家にホームステイをすることになれば、少なくとも対外的には自然な流れになります。火事の前から一緒に行動していた事実は、向こう側も既に確認済みです。そして何より、君はあの山崎紳一郎氏の実子。これほど安全な庇護下はない――」
「あんた、どこまで知ってるんだ!? 第一、親父をどうして知ってる! 親父が関係しているのか!?」
俺の問いには一切答えず、アルバートさんは淡々と言葉を続けてくる。
「山崎くん。もしも君が娘を預かってくれるのなら、当然のことながら君も危険に巻きこまれる可能性が生まれてきます。だが、私にとってはそれ以上に娘の安全が増す方が大切なのですよ。……汚いと思ってくれていい。罵ってくれてもいい。それで気が済むのなら、いくらでも私を蔑んでください。そのかわりに、娘を預かってもらいたいのです」
静かな調子で感情の起伏の無い言葉は、それゆえに重みを感じさせた。
「だが、娘は自分が狙われていることをまだ知らないのです。娘は自分の置かれている立場や、自身の重要性というものを理解していませんから。私があまり大きく動くと、事態が悪化してしまう。それでは駄目なのです。放火をした犯人の目星はついていますが、証拠が揃っていない今、それだけは避けねばなりません。……いや、それは理由としては二番目ですね。私の本心は、ただ、娘に学校生活を体験させたいだけなのです。私は仕事の都合で世界中を飛びまわっているのですが、それには娘も同行しています。それが娘にとって安全に繋がるからなのですが、おかげで娘は学校というものに通ったことが一度もないのです。娘の学力は、全て家庭学習による賜物です。今回、私は日本で長期に滞在する仕事に就いています。だが、問題が発生したとなれば、すぐさま元の各地を転々とする生活が始まるでしょう。今回を逃せば、次の機会はいつになるかわからない……。お願いします、娘の為に……同居を許可して頂きたい……!」
搾り出すような声で、アルバートさんは告げた。
……卑怯だ。
そんな頼み方をされては、断る理由が見つからない。金がどうのと言われるよりも、最初からこう言ってもらった方が、すんなりと話が進んでいただろう。
だが、ここでイエスというのは、しっかりと考えてからでなくてはならない。本当に、俺はパウに対して責任を持てるのか? アルバートさんの想いに応えられるだけのことが出来るのか? その覚悟はあるのか? 引き受けるのならば、俺はこの人の真剣な想いを絶対に裏切りたくはない――
「どうやら悩んでいるようですね」
俺の逡巡を察したアルバートさんが、こんなことを言い出した。
「では、こういうのはどうです? 引き受けてくれるのなら、そのお礼と言っては何なのですが――山崎紳一郎氏について、君が絶対に知らない、私の持っている情報の全てを教えてあげましょう」
それが、覚悟を固める決め手になった。
「……わかりました。パウは――娘さんは、しばらく俺の家で世話をします」
「そうですか……。ありがとうございます。本当に、ありがとう」
心底ほっとした口調。
「ああ、でも親父の話はしばらく後にして下さい。いつ話すかは、アルバートさんの判断に任せます」
「それは、何故なのですか?」
「その方が、俺の油断がなくなっていいと思いましたから。それに、親父の話だけが引き受けた理由じゃないですし」
「なるほど。自分に厳しいのですね、君は」
「いえ……それはただの買かぶりです」
「それでは、何か不都合があった場合、可能な限りこちらで善処するので、遠慮無く連絡をしてください」
「大丈夫ですよ。……とりあえず、金には困ってないですから」
俺がふざけた調子で言うと、向こうからくぐもった苦笑が漏れた。
「そういじめないでください。……では、娘のことはよろしく頼みます。一度、君とは顔を合わせて話をしてみたいですね。それでは、失礼します――」
電話を切った俺は、大きく息を吐いてソファーに深くもたれた。
「ロうやら、決まったみたいレすね」
「まあな」
横を見ると、嬉しそうにこちらを見ているパウの顔があった。
「うっとうしい。こっち見んなよ」
気恥ずかしさから、つい乱暴な口調になってしまう。
「いいじゃないのレすか。今は拓真さんの顔を見ていたいのレすよ」
ああ、まったく、気楽な一人暮しともしばらくお別れだな。
俺は頭を抱えて、パウの視線から逃れるようにソファーにうずくまった。
一緒に暮らすとなれば、まずはパウの使う部屋を決めなければならない。
俺が住んでいる家の間取りは6LDK。現在の部屋割りを説明すると、1つは俺の部屋。1つは和室、1つは開かずの間。1つは書斎で、残りの2つは物置と化していた。
俺の部屋と開かずの間は論外。書斎は元々は親父の寝室だった。親父の寝室だった名残というのか、いるだけで女性を妊娠させるようなオーラが部屋全体から漂ってくるので、ここも駄目。残りは2つの物置と和室になるのだが、物置と化している部屋の1つが、まあなんとか部屋として使える状態だった。
そこは主にバッグや靴、帽子からバスタオルやらガウンなど、とにかく箱に入っている物を収めるための部屋に使っていた。部屋は見渡す限り箱に占拠されていたが、ベッドがあるのは大きい。
一通り家の中を案内した後、俺は物置部屋のドアを開き、パウを招き入れる。
「とりあえず、ここが一番まともだと思うんだが……。パウは使いたい部屋とかはあるか?」
「え、と……」
少し躊躇したあと、控えめに手を挙げた。
「あのう……和室がいいなー、なんて思っているのレすが……ロうレしょうか?」
和室はリビングと隣接した場所にあり、リビングに迫り出した形である10畳間だ。
「和室でいいのか? まあ部屋の状態としては一番まともだけど、壁の半分が障子だぞ? 防音は正に紙並で、プライバシーなんてゼロに近いぞ?」
「とんレもない。私はああいう日本間に憧れていたのレすよ~。共同住宅の部屋も悪くはなかったのレすが、洋間ラったのが残念ラったのレすね。せっかく日本で生活するのレすから、畳のある部屋に住みたかったのレす」
「ふーん。そういうもんなんだな」
物置部屋から出て、リビングへ向かう。障子を開きっぱなしにしていたため、和室の中がリビングの入り口からでも見える。和室の前まで行き、脱ぎっぱなしで散らかっていた服を掻き集め、とりあえずそれなりに見れるようにする。
「よし、いいぜ。お前が使いたいって言うんなら、今日からここはお前の部屋だ」
「私の部屋なのレすか……、私の……」
何故だか感動した様子で和室に足を踏み入れるパウ。部屋の真ん中で座りこむと、ペタペタと床を軽く叩いた。
「自分専用の部屋なんて、初めて貰ったのレすよ。凄く嬉しいのレすよ。拓真さん、ありがとうございます」
「別に礼を言われるようなもんじゃない」
そういえば、世界中を飛びまわってたとかアルバートさんが言ってたな。ということは、ほとんどホテルを点々とする暮らしか。そういう生活は、俺にはあまり魅力的には感じられない。やっぱり土地に根を降ろすというか、特定の場所に長く住んでいるのが落ちついていい。
ふと、時計を見る。時刻は午後10時を過ぎようとしていた。
「うわ、もうこんな時間か。さっさと飯食って寝ないと明日に響くな」
と、今日は雑事が多すぎて、全く食事の準備をしていないことに気付いた。
「あー、しまった。米炊いてなかった。今から炊くのもな……」
コンビニまで買いに行くのもおっくうだ。今日は精神的に疲れることが多すぎて、もう家から一歩も出たくない気分だ。
「仕方ない、今日の晩飯はインスタントラーメンだな」
「即席めんレすね、あれは美味しいのレすよ。調理も簡単なのが良いレすね」
「確かに味は悪くない。けど、毎食続けて食いたいもんじゃないな」
食事を終えた後、パウが「お風呂を貸して貰いたいのレすが」と言ってきた。
と、いうわけで。パウは今、風呂に入っている。
替えの下着やら寝巻き用の浴衣は、家にあったのを貸した。
言っておくが、俺に女物の下着を集める趣味なんてのはない。物置部屋にあったものを貸したのだ。
俺は最後までやると言っていたのだが、パウがそれを頑なに拒んだ。「貰うわけにはいかないのレす。お世話になりっぱなしレは申し訳ないのレすよ」というのだが、返してもらったところで俺にはどうしようもできないんだけれども。
ちなみに、2つある物置部屋のうち1つは箱置き場、もう1つは衣装部屋として使われている。もちろん女物の、だ。部屋を埋め尽くさんばかりの服、服、服。部屋にある箪笥の中にはサイズ、種類、柄、各種様々な女物の下着で埋まっている。
この物置部屋一杯の荷物、これらは全部親父の遺産である。これらを処分、廃棄は許されず、適当な理由なしに譲渡は許されない。この決まりを決めたのは誰かは知らない。遺産相続の際に、親父の財産のほとんどを俺が持っていったのを快く思わなかった、親戚連中のくだらない嫌がらせであることは知っている。おかげさまで、家の2部屋……あかずの間を入れて3部屋が使えなくなっているが、1人暮しなのでさしたる問題はない。
当然だが、俺は親戚連中の言い成りになるつもりなんてない。ただ、この山のような荷物を処分するのが面倒で、今まで放置していただけである。
で、くどいようだが、パウは風呂に入っている。
つまり、チャンスというわけだ。
進吾から借りた、エロエロなゲームをプレイするのは。
ちなみに今はインストール中である。
今まで「誰かに見つからないように」なんて心配、する必要は無かったからなあ。これからは大っぴらにオナニーもできなくなるわけだ。クラスメートとの話題でたまに上がるが、オナニーを親にバレた時の気まずさというのは、とてつもなく厳しいものがあるらしい。俺もとうとう危険と隣り合わせの戦いをすることになるわけだ。
……うっわー、あいつにだけは絶対にバレるのは嫌だ。想像しただけでゾッとする。
…………。
…………。
…………。
それにしても、暇だな。
インストール待ちの間、なにをしていようか。
「進吾さーん」
遠くから、パウの俺を呼ぶ声がした。
部屋から出て、脱衣所のドアの前まで行く。
「呼んだか?」
「あのー、忘れていたのレすが、お風呂用の西洋手ぬぐいを用意してもらえないレすか?」
パウの言う『お風呂用の西洋手ぬぐい』がバスタオルであると気付くのに、しばらくかかった。
奇妙な言い回しを使う奴だな……。
「ああ、わかった。出しとくから、お前は風呂に入ってろ」
「はい」
バタン、と浴室の戸が閉まる音。そして、シャワーの水音が続いていく。
うーむ……浴室で反響したパウの声って、なんというか、色っぽいものがあるなあ。それに、水音だけっていうのも、なんというか中の様子がわからないから逆に想像力が掻き立てられるというか――
「――はぁ」
嘆息。
吐息と共に、胸の中に生まれたもやもやした感情を一緒に吐き出した。
やれやれ。俺は何をやってるんだか。
俺は物置部屋にバスタオルを探しに行った。
バスタオルはすぐに見つかった。バスタオルの入っていた箱は潰して玄関に置いておく。次の燃えるゴミの日にこのまま捨てればいい。
一応、脱衣所のドアをノックしてからドアを開ける。
「バスタオル、ここに置いておくからな」
「はい、すみません」
バスタオルを脱衣かごの中に入れて顔を上げた瞬間、曇りガラスの向こうに、ぼんやりとしているパウの肢体が見てしまった。
そこから視線を逸らすと、今度は洗濯かごの中にパウの下着を見つけてしまう。再び胸の中が、もやもや。
これ以上ここにいるのは、目に毒だ。
俺は脱衣所から出て真っ直ぐ自室に戻ると、ベッドに横になった。
額に腕を乗せ、蛍光灯の光を見つめる。
「はぁ……」
深いため息。
身近にいる女性に欲情することは、俺にとって罪悪感と嫌悪感をもよおす行為なのだ。
罪悪感。
俺の罪を思い返させる。
嫌悪感。
子供の俺がいるにも関わらず、昼夜問わず家にとっかえひっかえ女を連れ込んでいてはセックスしていたろくでもない親父を思い出す。
嫌悪感を覚えて考えることは、出来ることなら性欲なんて俺の中から消え去って欲しい、ということだ。放っておいて治まるものでもなく、仕方なくアダルトビデオやエロ本、エロゲーのお世話になることとなる。
罪悪感を覚えて考えることは、性欲は生物としての本能だ、という自分に対する言い訳。性欲はあって当然、ない方がおかしい。そうすると、あの時性欲を押さえきれなかった俺自身が悪いということになる。
当然の帰結。何度も辿りついた結論。
なにより一番嫌なのが、あんなことをしておいて、まだあの人――桃口秋――シュウさんへの未練を捨てきれない自分自身だ。絶縁状を叩きつけられるのが恐くて、あれ以来一度も会っていない。謝罪の言葉すらまだなのだから、既に愛想をつかされていることだろう。
……ああ、そういえば。
俺は身体を起こして、ディスプレイに視線を向けた。インストール終了の表示が出ているのを確認して、ゲームをプレイすることなくアンインストール、そして電源を落とした。
とてもじゃないけど、そんな気分じゃなくなった。
俺はパウが風呂から上がるのを待たずに寝ることにした。湯上りのパウを見て、またどこから欲情してしまうかわからない。
寝る前に、和室に布団を敷いておいてやらないと。
身体を起こし、ベッドからのそりと降りる。そのままのたのたと廊下を歩き、のったらのったらと布団を敷いた。すっかり気分が滅入ってしまって、歩くのすら億劫になっている。
真っ直ぐ自室に戻ると、電気を消してベッドに倒れこんだ。
まったく。自分が情けない。
俺は布団を頭にかぶり、ただじっと心を落ちつけることだけに集中した。
次第に頭が重くなっていくのを実感していく。
「拓真さん? もうお休みになっているのレすか?」
しばらくして、パウの声が聞こえた。布団に潜りこんでからどれくらい時間が経っているのかわからない。
「ああ……」
口から出た声は、自分でも思っている以上に眠気を帯びたものだった。
「そうだ、布団……敷いといたから、寝るときはそれを使ってくれ……」
「分かりました。それレは、お休みなさい。明日もよろしくお願いします」
「ああ……」
「良い夢を」
そう聞いたのを最後に、俺の意識はふっつりと途切れた。
――△◎□◆×・・・・・・・・――∇Σ∥|
――※※※×××vfgiARΦ∮∞απアろあーアーあーあ
――あいうえおかきくけこさしすせそ
――アイウエオカキクケコサシスセソ
――言語設定 選択 ――選択候補:日本語・・・・・・・・――選択完了
――五感調整・・・・・・・・――調整開始
――●●●●●●
――◎◎◎◎◎◎
――○○○○○○
――調整完了
――接続コード 確認・・・・・・・・――確認完了
――接続・・・・・・・・――接続・・・・・・・・――接続
――接続完了
――識別コード 検索中・・・・・・・・――該当有り
――該当 2件
――識別コード ≪それは嫌悪する他人≫ で入力します・・・・・・・・――入力失敗
――識別コード ≪直感は理論を凌駕する≫ で入力します・・・・・・・・――入力失敗
――識別コードに登録されている、精神フォーマットが違います。精神フォーマットを、再登録して下さい
――精神フォーマット 登録中・・・・・・・・――登録完了
――識別コード 検索中・・・・・・・・――該当無し
――識別コード 登録・・・・・・・・――登録完了
――貴方の識別コードは ≪反発する自我≫ です。次回ご利用時より、接続前に識別コードを入力して頂ければ、初期設定モードをスキップ出来ます
――入館ゲート 検査開始・・・・・・・・――検査完了
――入館ゲートより、優先命令『絶望の後継者』を確認
――識別コード ≪反発する自我≫ は『絶望の後継者』に従い、再設定モードへと移行します
――再設定モードへ移行・・・・・・・・――移行完了
――接続コード 設定・・・・・・・・――設定完了
――精神フォーマット 設定・・・・・・・・――設定完了
――識別コード 設定・・・・・・・・――設定完了
――再設定モードを終了します・・・・・・・・終了完了
――ようこそ、館長候補 山崎拓真様
――放浪大図書館は、貴方の入館を歓迎します
――世界が記憶、蓄積した万物の知識が、世界の為に使われるよう、館長一同、切に願っております
――全ては、遥かなる明日の為に
< 続く >