(1) 漆黒の少女
『まったくガラじゃないんだよな・・・』
俺は欠伸をかみ殺しながら、心の中でブツブツと恨み節を呟いていた。
俺の名前は宮本正樹。大学生だ。
久しぶりにバイトも休みだった。大学もようやく冬休みに入った。今日こそはゆっくり朝寝するぞと心に決めていた。
なのに、である。
俺は午前中から、ホールを満たすピアノの調べに耳を傾けていなければならなかった。
目の前の舞台では、小学生くらいの女の子が一心不乱にピアノを弾いている。その子には申し訳ないが、俺は今にも寝てしまいそうだった。
こうなると座り心地の良い椅子が、拷問器具に感じられる。
ツンツンと、俺の横腹が肘で突かれる。
横に座った女が注意するように俺の方を睨んでいる。
そう。こいつが全ての原因だ。
こいつは佐伯虹華(さえき にじか)、俗に言う幼馴染という奴だ。
昔一緒に遊んでいた頃は、男の子だか女の子だかわからない元気いっぱいの子供だった。それがしばらくぶりに再会してみれば、当たり前かもしれないが、一人前の女性になっていた。
すらりとした長身で、スタイルはモデル並みだ。昔と変わらない意志の強そうな瞳が、銀縁の眼鏡越しに見えた。
親の転勤で俺が引っ越してから、長らく会う事も無かった。しかし大学に通う為、昔住んでいたこの街に俺が再び戻ってきてから偶然再会した。それ以来たまに会ったりしていたが、今日は朝からたたき起こされ、連れて来られたというわけだ。
ここは市民ホール。なんでも今日はピアノの発表会が開催されており、虹華の友人も参加するらしい。
「ちょっと、目閉じていたんじゃないの?」
小声で虹華が注意する。
「耳は閉じてないぞ」
「まったく・・・次が友達の番なんだから、ちゃんと聴いてきいていなさいよ」
「はいはい」
俺が気のない返事をする。俺はピアノになんて興味はない。その友人とやらの演奏が終わったら、帰ってもう一度寝るとしよう。
そう心に硬く決めていた時、ちょうど女の子の演奏が終わった。こちらを向いて可愛らしく一礼する。パチパチと観衆から拍手が上がる。
「次の演奏は、一之瀬結菜(いちのせゆいな)さんです」
舞台のそでから、結菜という虹華の友達が登場した。
ザワ。
ホールの雰囲気が一変したのがすぐにわかった。客席の目が、新たに登場した少女に注がれる。つられて、俺も虹華の友達という少女をまじまじと見た。
俺は恋に落ちた。
白く透明感のある肌。軽くウェーブのかかった黒髪。目鼻立ちの整った顔立ち。その全身を包むのはゴスロリを言うのだろうか。黒ずくめで白いレースつきドレスは、彼女によく似合っていた。まさに人形かと思える姿だった。
結菜は観客に向かって優雅に一礼すると、ピアノの前に座り演奏を始めた。
「どう?彼女は美人でしょう。ま、私には負けるけどね」
「ああ・・・」
俺は虹華の冗談じみた話に適当に付き合いながらも、目は結菜から離す事ができない。
結菜の、白くて細い指が、鍵盤の上を巧みに動き回っている。
「なぁ、虹華」
「何?」
「この曲なんていうんだ?」
「たしかプログラムに書いてあったと思うけど・・・あった。メンデルスゾーンの『後悔』って曲なんだって」
「そうか」
ふと気が付くと、虹華が俺を見つめていた。何か言いたそうな、そんな目をしていた。
「何だよ?」
「別に」
それ以上、虹華は何も言わなかった。俺も何も言わず、視線を結華に戻す。
「・・・『後悔』か」
俺は誰に言うでもなく、呟いた。
発表会が終わった。
俺と虹華は市民ホールの廊下に置いてある、長いすに座っている。廊下は発表会の関係者が忙しそうに行き来していた。
俺と虹華は、結菜が出てくるのを待っていた。
俺は虹華に、結菜を紹介するように頼み込んでいた。虹華は渋ったが、駅前のバカ高いケーキ屋の限定ケーキ五個で手を打った。
「ま、紹介するのはいいんだけどね。口説くのは無理だと思うけど」
そんな事はやってみなければわからない。恋はいつも当たって砕けろ、だ。
控え室、と書かれた扉が開いた。中から虹華が出てきた。舞台に上がった時と同じ、黒いドレス姿だ。
黒い上下のワンピースに、今は黒いレースの手袋をしている。のど元にはやはり黒い皮のチョーカーを付けていた。スカートの下は膝上までの黒いストッキングに、厚底の黒いブーツ。全身黒づくめの格好が、結菜の白い肌と絶妙なコントラストを描いていた。
俺と虹華が結菜に近づいた。虹華が声をかける。
「結菜」
「来てくれたんだ」
虹華を見て、結菜は感情の起伏がない声で言う。
「約束していたしね。でも、良かったよ。演奏」
「ありがとう」
『いい加減に紹介しろ』
そんな念を込めて、結菜に見えないように、俺は虹華の腰を突いた。
「あ、あのね。この人は宮本正樹。昔からの友達なんだ」
結菜の視線が、虹華から俺へと移動する。結菜に見つめられて、俺の心臓が大きく鳴る。
「どうも。宮本正樹と言います。よろしく」
「一之瀬結菜です。始めまして」
見た目通りの鈴のような声だった。
「結菜さん、今日は時間ありませんか?よかったらこれからお茶しませんか」
俺は勇気を振り絞って言った。喉はカラカラだ。
「少しなら時間はありますが・・・虹華さんは?」
『お前は来るな』
俺は虹華にそんな念をこめた視線を、にこやかに送ってみる。
「んー、私はちょっと用事があるんだ。二人で行ってきたら?」
俺の視線の意味に気づいたのだろう、虹華はそう言って結菜を促す。ナイスだ、虹華。
「それでは、二人でちょっとお茶にしましょうか。正樹さん」
結菜の言葉に同意しながら、俺は内心ガッツポーズしていた。
喫茶店の中はコーヒーの匂いに満ちていた。市民ホールのそばにある適当に入った店だが、自家焙煎が自慢の店らしい。灰皿の中にまでコーヒー豆が入れてあった。
店の飾りつけは西洋のアンティーク家具で統一してあった。店の雰囲気に、黒いドレス姿の結菜は、まるで一枚の絵のように溶け込んでいた。
「結菜さんはピアノうまいんだね」
「ピアノは小さい時から習っていましたから」
口数の少ない結菜とは、会話がつい途切れがちになる。それでも、俺は幸せだった。
結菜は決して人に冷たい印象を与える少女ではない。物静かな雰囲気は、結菜にどこか浮世離れした高貴な風格を与えていた。
あまり感情を表に出さない結菜は、正直何を考えているのはわからない。ひょっとして、俺とこうしてお茶していて退屈しているのではと不安になる。だからこそ、俺を見据えて話してくれる何気ない一言が、俺にはたまらなくうれしかった。
「あのさ、結菜さんは付き合っている人とかいるの?」
注文したホットコーヒーが冷めてきた頃、俺はとうとう一番聞きたかった事を口にした。
「お付き合いしている人はいません」
少し頭を横に傾けて、結菜が答える。
「じゃ、じゃあさ、俺なんかどうかなーって」
冗談めかして言ってみた。結菜は黙っている。やはり、自爆だったか。
「・・・お付き合いしている人はいませんが、好きな人はいます。だから、どなたともお付き合いするつもりはありません。ごめんなさい」
「そ、そうなんだ」
俺は平静を装って言った。こうして俺の恋は一瞬で終わった。
「すいません。私そろそろ行かないと。今日は演奏聴きに来てくださって、ありがとうございました」
結菜はレシートを手にして、席を立った。
「私はお兄ちゃんのものだから・・・」
結菜は去り際に、不思議な言葉を呟いた。そしてそのまま精算を済ませると、半ば呆然としている俺を残して、結菜は喫茶店を出て行った。
夕方、俺は千鳥足で自分のアパートまでの帰り道を歩いていた。自慢ではないが、俺は酒に強くない。滅多に酒は飲まないが、今日は特別だ。近所の居酒屋に開店直後から入り浸っていた。
飲まずにはいられなかった。一目ぼれだったとはいえ、あの子を好きだったのは事実なのだ。俺は惚れっぽい男だが、失恋の痛手は長引く方だ。
『私はお兄ちゃんのものだから・・・』
結菜の最後の言葉が脳裏に浮かぶ。あれにはどんな意味あるのだろう。ブラザーコンプレックス、ブラコンという奴だろうか。兄が好きだから、恋愛はしないのだろうか。どうであれ、俺がフラれた事だけは間違いない。
俺のアパート前の公園にたどり着いた時、人影に気づいた。それは虹華だった。虹華は街灯の下のベンチに座っていた。
「虹華・・・」
虹華も俺に気づいた。ベンチから立ち上がって、じっとこちらを見る。
「遅いよ。お尻痛くなったじゃない」
「何の用だよ?」
「慰めてあげようと思ってね」
虹華は悟っていたのだ。俺がフラれる事を。もしくは結菜に聞いたのか。かぁっと頬が熱くなる。
「いいから、ほっといてくれよ」
恥ずかしくなって、俺は虹華を無視して通り過ぎようとした。
「私はお兄ちゃんのもの」
俺は足を止めた。
「結菜はそう言わなかった?あれはね、本当の事なの。あの子に近づいた男性は、私の知っているだけでも相当な人数だけど、口説けた人間はいない。みんな、その一言でフラれているの」
「どういう意味だ?」
俺は振り返って、虹華を見た。
辺りはすっかり暗くなっていた。子供たちも帰ったのだろう、公園には俺と虹華しかいない。遊ぶ者のいなくなった遊具の間を、冷たい風が吹き抜けていった。
「正樹がこの町から出てから、しばらくして司さんと結菜はこの町に引っ越してきたの。よく一緒に遊んだわ。二人は、本当に仲の良い兄弟だった」
虹華は遠くを眺めるような目をしていた。
「そのうち司さんは数年間、アメリカに留学したんだけど、戻ってきた司さんは様子が変わっていた。司さんは本物の悪魔主義者になっていたの。アメリカで悪魔主義者による『洗礼』を受けてね。そして、司さんは結菜の心を自分に縛り付ける魔法をかけたの」
「おいおい。俺を慰めてくれるのはありがたいが、だからってそんなヨタ話を信じろってのは無理な話だぜ」
「嘘なんかじゃない」
虹華はきっぱりと言い切った。
「・・・なぜなら、その場に私もいたから」
虹華は自嘲気味に笑う。
「・・・私が馬鹿だったわ。私は司さんに惹かれていたの。司さん自身にも、司さんの黒魔術にも。司さんが黒魔術をする時、いつも私が手伝っていた。でも、司さんの本当の目的は、結菜を手に入れる事だったなんて。気づきもしなかった」
「黒魔術・・・」
「三年前のその夜、司さんと私は大掛かりな黒魔術を行った。その後の事は、私もよく覚えていないの。私が意識を取り戻したには時には、もう司さんの姿はなかった。そして、司さんに心を縛られた結菜だけが残っていた」
虹華の話を全て信じたわけではない。しかし、その中に否定しがたいリアリティを感じていた事も事実だった。
「それ以来、司さんは姿を消したまま。私はね、結菜を助けたいの。今の結菜は見てられないわ。三日後にあの黒魔術を行った日がくる。その日にもう一度、あの黒魔術をやれば、結菜にかかった魔法は解ける。やり方はわかっている。でも、私一人で全ての用意を整えるのはとても無理。だから正樹、あなたの結菜への思いが本物なら、協力してほしいの」
俺は結菜の姿を思い浮かべた。俺が結菜に惹かれたのはあの儚い雰囲気があったからだ。そしてその理由は、いなくなった兄に心を縛られているからではないだろうか。
「言っておくけど、結菜を手に入れたいなら他に方法はないわよ。この魔法は正確には解けるのではなく、結菜の心を縛る相手を司さんから正樹に移し変えるの。結菜が正樹のものになるのもちょっと癪だけど、いなくなった兄を思い続ける今よりは、はるかにマシだわ。手伝ってくれるわね?」
俺は心を決めていた。黒魔術なんて胡散臭い話だが、やってやろうじゃないか。結菜にはそれだけの価値がある。
甘く危険な世界に、自ら足を踏み入れようとしている。その事に、俺はうすうす気づいていた。
頭が重い。二日酔いだ。
電車に揺られていると、自分の頭もぐるぐると回っているかのようだ。電車の中はかなりの混み具合だ。あまり押されると胃の中のものが出てきそうになる。今は通勤ラッシュの真っ只中だ。
昨日はいろんな事があった。疲れてもいた。できる事なら部屋でゆっくりしていたかったが、出歩かなければならない理由があった。
「正樹って童貞?」
俺が協力を約束すると、虹華が予想外の事を言い出した。
「い、いきなり何言い出すんだよ?」
「真面目な話よ。黒魔術はね、術者の精神が大事なの。特に性に関する精神がね。それがセックスも知らない人間だったら話にならないわ。でも、その言い方は女を知らないのね」
確かに俺は童貞だった。しかしそれを認めるのも嫌で黙ってしまった。
「それじゃ明日セックスしてきて」
とんでもない事を虹華が言う。
「無茶言うなよ。彼女いないのは、虹華も知っているだろ」
「ナンパでもなんでも、やればいいじゃないの」
自慢ではないが、俺はモテた事がない。ナンパなんてやった事もなかった。
「仕方ないわね。協力してあげるわ。手を出して」
虹華がそういうと俺の手を取った。
「少しチクっとするわよ」
そういうと、針を取り出して俺の薬指に刺した。鋭い痛みがして、血が出た。
虹華はその血に自分の指を付けると、俺の手のひらに不思議な模様を書き始めた。複雑な図形の組み合わせに、何か文字のような記号。そして同時に、一言も理解できない呪文のようなものを唱え始めた。これが虹華の言う、『黒魔術』に違いなかった。
「さあ、終わったわよ」
15分は続いただろうか、虹華の呪文は終わった。俺の手のひらには、一面不思議な模様が自らの血で書かれていた。
「もう手は洗ってもいいわよ。指にはバンソウコでも貼っておくのね」
虹華は自分の指をウェットティッシュで拭きながら言う。
「この魔法は、結菜にかかっているものより、はるかに効果は弱い。効果も明日一日だけ。それでも正樹にセックスを経験させるくらい、わけはない。明日はナンパでもするのよ。結菜を取り戻すのを手伝ってくれるんだから、これはそのお礼ってわけ」
そんな事を虹華は言っていた。
「とは言ってもなぁ」
俺はバンソウコの巻かれた指を見つめて呟いた。冷静になって考えてみると、とても信じられない話だ。ナンパしてみてうまくいくとも思えない。だいたいどうやるんだ?
ただ約束した手前、今日童貞を捨てるつもりにはなっていた。俺は貯金を下ろして、風俗にでも行くつもりだった。
「!」
自分の股間に、柔らかな感触があった。それは人の指の感触だった。偶然触れたのではない。意識的に触っている事はすぐにわかった。
触っていたのは、目の前の髪の長い女だった。俺より年齢は少し上だろうか。出勤途中のOLといった様子だった。美人だ。
真っ赤な顔をして、俯いている。ただし俺の股間を触る指は、貼りついたまま一時も離れようとはしなかった。
痴女という奴だろうか。生まれて初めて股間を女性に愛撫されて、俺の股間はすぐに硬くなった。それがわかったのだろう、女性の愛撫が熱を帯びる。
『あなたにセックスを経験させるくらい、わけはない』
昨日の虹華の言葉を思い出された。これが黒魔術の威力なのだろうか。
女性は顔を上げて俺を見据えた。やはり美人だ。その瞳は欲情に濡れていた。
「お願い・・・」
女は小声で呟いた。更に体全体を、俺に密着させてくる。女性物のコロンの匂いが漂ってきた。
女が何を望んでいるのか、俺は即座に理解した。ちょうどその時、電車は駅に到着して扉が開いた。
俺は無言で自分の股間を触る女の手首を取ると、手を引いて電車を降りた。
その女は美夜乃と名乗った。やはり会社のOLらしい。
いつもの通勤途中だったが、たまたま同じ車両に乗り合わせた俺に激しく欲情したらしく、我慢できずに股間を触ってきたのだ。
俺は美夜乃を駅前のホテルに連れ込んだ。
初対面の美人が、いきなり俺の股間を触ってきて、そして今ホテルにいる。この異常な状況は、虹華のやった黒魔術の効果としか考えられない。だとすれば驚くべき効果だ。
チェックインを済ませ、部屋の中に入ると美夜乃は俺に抱きついてきた。そして激しく唇を求めてくる。
「ン・・・」
美夜乃の舌が俺の口の中をいやらしく動き回る。唇、歯ぐき。歯の間を舌で突付く。口を開けるようノックしているのだ。俺が少し口を開けると、遠慮なく美夜乃の舌が割って入り込んできた。俺の舌に触れると激しく絡ませてくる。
「ン・・・いやらしい女だと思わないでね。こんな事した事ないんだから・・・。でも、今日はヘンな気分なの。ああ・・・堪らないわ」
美夜乃は俺の後頭部を掴んで離れる事を許さない。美夜乃の大人の匂いが鼻腔広がる。俺の脳髄はドロドロに溶けていった。
美夜乃の指が再び俺の股間を愛撫する。俺のモノはすでにジーパンの中で、痛いほど勃起していた。
「ねぇ、早く脱いで」
俺はもどかしげにジーパンを脱ぐ。すぐにトランクスへと美夜乃の手が伸びて脱がされる。美夜乃はしゃがみ込むと、俺の肉棒にむしゃぶりついた。
「ま、まだシャワーも浴びてないのに」
俺の腰が引き気味になる。
「どうして?洗ってしまうと正樹君の匂いがなくなってしまうじゃない。ああ・・・いい匂い、嗅いでいるだけで頭がクラクラする」
美夜乃は俺の肉棒に手を添えると、根元から雁首まで何度も舌を往復させた。そして押し込むように雁首の溝に舌を埋める。それが終わると肉棒の正面から、何度となくキスを繰り返す。俺の肉棒の全てを、自分の唾液で覆うつもりのようだった。
初めて経験するフェラチオに、俺の性感は一気に高まる。
美夜乃の唾液と我慢汁で、俺の肉棒はてらてらと光っている。もう臍に着きそうな程反り返っていた。
美夜乃は満足げに目を細めると、俺の肉棒を喉の奥まで咥えた。美夜乃の口の中は、熱く火傷しそうなほどだった。
美夜乃の頭は前後へ動き始めた。美夜乃の前髪が俺の下腹部を柔らかく刺激する。
「チュバ・・・ジュ・・・」
口に空気を含んでいるのだろう、頭が動く度に美夜乃の口からいやらしい音が溢れてくる。
「う・・・気持ちいい」
余りの快感に、俺は情け無い声を上げる。
美夜乃は俺の肉棒を深く咥えたまま、動きを止めた。
「?」
俺の肉棒に、美夜乃の舌が絡んでくる。同時に、口に肉棒を咥えたまま、美夜乃は着ている服を脱ぎだした。服を脱ぎだす間も、肉棒から離れるのが嫌なのだ。
美夜乃はスーツを脱ぐと、赤い上下の下着が露になった。レース生地の大人っぽい下着だった。
ムンとした大人の匂いが部屋に充満する。
ふと、美夜乃の両手が俺の肉棒から離れた。口に肉棒を咥えたまま、両手を背中に回し、ブラのホックを外した。プルンと、美夜乃の胸が露になる。Cカップくらいだろうか。
「チュ・・・ン・・・どう?私の胸は」
フェラチオを中断して、欲情に濡れた瞳で美夜乃が尋ねてくる。
「きれいだ・・・柔らかそう・・・」
「ありがとう・・・触ってみる?」
美夜乃はショーツを脱いで全裸になった。裸体を全て俺に晒すように立ち上がると、ベッドの上に自らの体を投げ出した。文字通り、誘っているのだ。
ごくっと、俺の喉が鳴った。
俺は急いで残った服を脱ぎ捨てると、美夜乃に覆いかぶさった。
「アン」
俺が胸を触ると、美夜乃の声が漏れた。
美夜乃はいい体をしていた。何かスポーツをしているのだろう、筋肉質のしまった体をしていた。体のどこを触っても、俺の手を柔らかく押し返してくる。それでいて、胸はどこまでも柔らかかった。
俺の手の中で、美夜乃の胸は自由自在に形を変える。それは、あまりに魅力的な、別の生き物のようだった。
俺は美夜乃の乳首を口に含みつつ、右手を美夜乃の下腹部の上に滑らせる。引き締まった腹部を抜けると縮れた毛が広がっていた。更にその奥に熱く、濡れた泉があった。
「アア・・・!!」
俺の指が性器に辿り着くと、美夜乃は喉を露にして呻く。
中指を曲げて、俺は美夜乃の奥を目指す。美夜乃の中は、抵抗なく俺の指を受け入れた。思っていたよりも、女性の性器は狭く、そして熱かった。
「お願い・・・指じゃ嫌なの・・・早く・・・!」
美夜乃は自らの足を大きく開いた。
俺は美夜乃の下へ体を移動させると、美夜乃の足首を掴む。
「これがオ○ンコか」
初めて見る女性の性器に俺の頭は沸騰寸前だった。美夜乃は俺の肉棒を待ち、ただじっとしていた。俺は肉棒を美夜乃の性器に近づけた。
「お願い、早く入れて」
ふと、結菜の姿が思い浮かぶ。儚く寂しげな後姿。一瞬、これは結菜への裏切りのような気がした。こうして行きずりの女とセックスする事も、三年前の黒魔術を再現しようとする事も。
何を迷う事がある。
俺は自分の考えを否定する。今の俺は結菜にフラれただけの男だ。それに司という兄に縛られている事自体、元々結菜の意志ではない。誰かに縛られている結菜を、ただ自分に縛りつけようとするだけではないか。そしてこれは、その為に避けては通れぬ事なのだ。
犯してしまえばもう後戻りはできない。そんな気がした。いや、もう俺自身、黒魔術の威力に魅せられているは否定できない。
行き着くところまで行ってやる。
俺は決意を振り絞るように、美夜乃の中に肉棒を激しく突き入れた。
< 続く >