催眠術師 鋭次01 (1)(2)(3)

(1) 素敵な贈り物。 催眠術師 鋭次 誕生!!

 いつの頃からだろうか。鋭次がこの力を身につけたのは・・・
 催眠術・・・
 中学ぐらいまでは、まじめであった彼だが、たしか、高校に通う前の春休みだろうか?
 鋭次は、近くの公園のベンチに、1冊の本が置いてあるのを見つけた。
 まるで、鋭次に拾われるのを待っていたかの様に、置いてあった。
 少し古びた表紙のその本には、”催眠術師になる方法”と書いてあった。
 誰が執筆し、何のために、そこに置かれていたのかは分からないが、その本を手に取った時、そこから、彼の人生が変わったのだ。

 彼は、本を軽く読んでいた。決して、夢中になって、催眠術をマスターしようと思って、読んではいなかった。しかし、彼のある1つの行動によって、大きな変動が待っていたのだった。彼は、その本に興味はあったが、あまり信じてはいなかった。だいたい読んだが、春休みのせいか、連れもどこかに遊びに行っているらしくて、試す相手もいなかった。
(一度、試してみたいものだな)
 鋭次は、思った。しかし、つきあってくれる相手がいない。彼は一人で試すことにした。
 本を読んでいるうちに、その本の通りになっていく気がした。
 なぜか、本を読んでいるうちに、その事を実行しなくてはいけない気持ちになっていた。
 そして、彼は、本に書いてある、重大なことを実行してしまったのだ。
 彼は本に書いてある通りに、部屋にある全身の写る鏡に向かって、
「お前は、催眠術のプロになる。プロになる・・・」
 と、催眠術をかけたのだった!!
 その瞬間に、彼に絶対的な自信が芽生え、”催眠術師 鋭次”になったのである。

 最初の実験台は、母親であった。 母親が、買い物から帰ってきたところ、彼は、さっそく催眠術を試してみた。母親に向かい、軽い声で言ってみた。
「おこづかいを1万円渡したくなる」
 母の財布には、買い物から帰ったばかりなので、1万円は無かった。
 しかし、戸棚のへそくりから、なんと1万円をもってきて、鋭次に
「はい、お小遣い」
 と、言って手渡したのだった。それが始まりであった。

 それから、彼は高校に通うことになったが、思い通りの学園生活を送ったのだった。
 まず、彼は友人を何人か作った。頭のいい奴、面白い奴、けんかの強そうな奴・・・
 いろんなタイプの友人を適当に見繕って、うまく打ち解けた。学生での悩みと言えば、いじめである。
 近頃では、教室でうまくとけ込めないと、”仲間はずれ → いじめ” の方程式が成りたっている。
 もとより、頭の切れる鋭次は、そういった事を分かっていたので、まず、友人をたくさん作ったのだ。
 それにより、鋭次は学園生活を難なく送ったのだった。
 次に、成績だが、テストの直前になると、それぞれの先生に近づき、テストの回答を聞きだしていたのだ。彼には、そんな必要はなかったかもしれないが、とりあえず、優秀な成績で高校を卒業したのであった。

(2) 金の補充

 そんな彼も今年で、21才。某K大学の3年生である。大学には、単位を落とさない程度に適当に出ていたが、特にバイト等はしていなかった。大学に入り、彼は、マンションで1人暮らしをしていた。最初は、親の目もあり、1ルームのせまいマンションに住んでいたが、彼はすぐにもう1つ、最高級の一戸建て住宅も借りることにした。今では、ほとんど、そこで暮らしている。高校3年の時に車の免許を取っていたので、車も持っていた。
 かなり高級な車だ。その車は一戸建て住宅の駐車場にあった。
 彼は金を持っていた。しかし、金はいつまでも続かない。

(そろそろ、金を補充するか・・・)
 鋭次は思った。
「今回の銀行は・・・」
 彼は車を走らせた。30分ほど車を走らせ、市街地に入る。
(ここだな・・・)
 彼は車を止め、”すもも銀行”に入っていった。すもも銀行は、大手都市銀行の1つであり、健全な経営で知られている銀行である。
(おっ!! いるいる!!)
 彼は内心でほくそ笑んだ。とにかく、銀行という所は、美人が多い。
 彼は毎回、金の補充よりもそっちの方を楽しみにしていた。

(よし! あの女にするか・・・)
 鋭次は、狙いをつけた。”西川梨華”か・・・
 胸の名札に書かれている名前を見て、どんなふうに呼んでやろうかと、考えていたりした。
 梨華は23才。入社して2年目であるが、彼女の人気は高かった。昔でいう”看板娘”だろうか。アイドルを思わせるかのような可愛い笑顔で、どのお客様にも対応した。
 また、身体の方はというと、大学の頃、テニスをしていたので、健康的ですらりときれいな足で、髪は後ろで束ねられポニーテールのように揺れていた。また、胸元のブラウスのリボンの下には、成熟した肉まんを思わせるものが隠されているのであった。
 梨華は、鋭次に見つけられた事により、これからの運命が大きく変わってしまうことになるとは、思ってもいないであろう。

(3) 梨華への指令

 何分か待たされたが、彼の順番がきた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用でしょうか?」
 声も、はきはきしたきれいな声だ。
「あのぉ、お願いがあるんですが・・・」
 鋭次は、ひっそり言った。彼はいつもこの手で実行する。不審に思った彼女は、
「どのような事でしょうか?」
 と、少し顔を近づけて、お客様に問い直した。そこで、鋭次の目が妖しく光った。その瞬間に、彼女の目は、とろーんとなって、鋭次の催眠術にかかってしまったのである。
 たったこれだけの事で、鋭次は、彼女を催眠状態にする事が出来るのである。
「お前は、俺の言うことを聞くんだ」
「はい」
 鋭次が小声で言うと、梨華は、従順に返事をした。
「怪しまれないように、俺をトイレに連れて行くんだ」
「はい」
 梨華の目は、とろーんとなったままである。何故か、鋭次の目から逃れる事が出来ない。
 お昼前の忙しい時間帯である。周りから見れば、窓口で対応をしている、銀行員とお客様の様にしか、見えないであろう。 そして、梨華は、鋭次の指令を実行する。
「それでは、ご案内いたしますので・・・」
 梨華は、小さな声で、隣りの受付席の子に、
「お客様をトイレに連れて行ってきますので」
 と、声をかけて、鋭次を案内する様な感じで、2人で窓口の奥に消えていった。

 銀行には、トイレが、行内にある場合と、無い場合がある。セキュリティの問題もあり、そのようになっているのだろうか? 最近、建設された銀行の場合は、行内に誰でも入れるような所に、トイレを設置したりしているが、この、すもも銀行は、古くからある銀行であり、トイレは、事務室の横から、少し離れた所にあった。
 鋭次は、この事もチェック済みで、この銀行を選んだのである。

 鋭次は、行内から、少し離れた所にあるトイレに案内された。
「ここがトイレです」
 梨華は、とろーんとなった目のまま、鋭次に言った。
「よしよし、いい子だ」
 鋭次は梨華の額にキスをした。ピクッと、反応をしかけたが、そのままキスをされた。
 梨華は、何故か、鋭次の目から逃れる事が出来ない。とろーんとなった目のまま、鋭次の指令を待つ。
「俺の質問に答えるんだ」
「はい」
「お前の昼の休憩は、何時から何時だ?」
「はい。私は今日、お昼当番なので13時から14時です」
「そうか。今は・・・10時30分か。まぁいいだろう」
 この時間帯は、たくさんのお客様が来て、忙しい時間帯である。誰もトイレに来る気配はない。
「これから、お前に重要な事を言う。よく聞くんだ」
「はい」
「俺の目を見るんだ!」
「はい・・・」
 梨華は既に、鋭次の目を見つめたままの状態になっており、鋭次の指令を待つ状態に陥っていた。
「お前は、13時すぎになったら、向かいのシティホテルに来るんだ」
「はい」
「ホテルの19階、1919号室に来るんだ」
「はい」
「13時になる前に、俺に渡す為に1000万円を見つからないようにかばんに詰めて持ってくるんだ」
「はい」
「それから、ホテルに来る時は、必ず、この制服を身に着けて来るんだ!!
 上に薄いセーター等を羽織ってくればいいだろう? 分かったな?!」
 胸元のリボンを指で弾き、制服の上から柔らかい胸を指で撫で始めた。
「はい・・・あぁん・・・分かりました」
 梨華は抵抗する事なく、少し、もじもじしながら、鋭次の命令を記憶していった。
 鋭次は、ホテルに来る際の服装にまで、指定をしていた。
 これは、どういう事なのかは、後々に分かる事になる。
「よし! それでは、お前は俺にキスをされると、今、言った事を実行するようになる。分かったな!!」
「はい。んぐっ!!」
 梨華が返事をすると同時に、梨華は鋭次に唇を奪われた。梨華の目が、とろーんとなる。
 この時、梨華には、深ーい深ーい催眠術がかかったのである。
 鋭次に目を見つめられながらキスをされた女は、逃れる事の出来ない強い催眠術にかかってしまうのである。しかし、本人は、そんな状態になっている事を知らない。
 十秒くらいの間のキスであったが、幸いこの時間にトイレに来る者はいなかった。
 キスが終わると、梨華は鋭次の目を見つめたまま、次の指示を待っていた。
「俺が、指を鳴らすと、お前は、俺をトイレに案内し終わったと思うことになる」
「はい」
 鋭次が、指を鳴らすと、ぼぉーと立っていた梨華は、トイレから出てきた振りをする鋭次を見つけた。
「綺麗なトイレですね」
「そうですか? ありがとうございます」
 ありふれた会話を交わして、行内に二人は戻ってきた。
 鋭次は、すもも銀行より立ち去った。続いて、梨華も受付席に戻り、さっきまでと同じように、可愛い笑顔でお客様に対応した。午後1時になるまでは・・・

< つづく >

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