3日目・??2 Side Carnation 想い
胎内を、熱い霧のような感覚が渦巻いていた。
叶にイク寸前まで高められ、しかし頂点に届き損なった俺の身体は、俺の意思など全く無視して、音のない悲鳴を上げ続けている。
ほんの一ミリだけ身をよじるだけで、全身の肌が服と擦れて激しく反応し、恥ずかしい声が漏れそうになる。
「はぁ……っ」
その時、どこかで吐息が聞こえた。
俺の身体を刺激しないように、ゆっくりと、声のする方に顔を向ける。
そこには、腰砕けになったマコトがいた。頭上のカーネーションが、今もなお青色に光っている。
同様に振り向いたマコトと、目が合った。
かけていたはずのサングラスは、どこかに消えていた。マコトは頬を赤らめ、口をだらしなく開いて、荒い息をついている。苦しさに似て,しかし明らかにそれとは違う衝動に襲われて、腰をもぞもぞと揺らしていた。
オンナの表情だった。服装は先ほどと何も変わっていないにもかかわらず、そこにいたマコトは、誰が見ても女だ。
いや、発情したメスという方が、正解に遥かに近い。
マコトははっとして足下を探り、転がっていたサングラスをかけ直した。
目元が隠れることで、だいぶ元の印象に近づいたが、俺の目に焼き付いた発情顔が、脳裏から消えることはなかった。
一瞬、視界が揺らぐ。
気がつくと、そこには建物へ入口があった。
少し遅れて、建物の中にあるのが、何かのショップであることに気づく。
その脈絡のなさに、ここが夢の中であることを思い出した。
そして、ほっとする。
そうか。だから、あの千晶は、千晶じゃない。俺の頭の中にある虚像だ。
考えるだけ馬鹿馬鹿しい。あのときの千晶が、マコトと何をしていたか、なんて。
考えるだけ馬鹿馬鹿しい。あのときの俺が、――千晶の横で、叶と何をしてしまったか、なんて。
「シュン」
右を向くと、マコトが座っていた。体温を感じそうなほど、近くに。顔はまだ赤かった。
「入ろう」
そう言って、マコトはゆっくりと立ち上がった。俺もそれに倣って立とうとする。
「う……」
が、立ち上がれない。下半身に力が入らず、身体を持ち上げることができない。発情は、全く治まっていなかった。
俺が立てないことに気づいたマコトは、左手を差し出した。マコトは大丈夫なのか……と思いながら、その手を取り、
「……!?」
異変に気づき手を離した。俺だけではなく、マコトの表情も変わっている。
マコトの手に触れた途端、マコトが発情しているのが「分かった」気がした。
マコトの身体の熱と、性の渇望に触れたような感覚だった。それは体温だけでなく、明確な情報に限りなく近い直感として、俺に伝わった。
マコトの表情も驚きのまま、俺の表情を捉えている。無意識だろう、マコトが自らの唇を舐めた。その表情で、マコトにも俺の発情度合が伝わったのだろう、と思った。
マコトは再びゆっくり、左手を差し出す。俺も慎重に、その手を取る。
気のせいではなかった。
今度は、はっきりと伝わってきた。
なぜ、なんてことは、どうでもいいことだ。
マコトも、俺と同じだった。発情している。それも、極限近くまで。
俺はマコトを見つめながら、立ち上がる。マコトは、俺から目を離さない。
艶やかなまつげが、目にとまった。綺麗だ、と思った。
ふと、強い思いに囚われる。
マコトを押し倒したい、という思い。
マコトに抱いて欲しい、という思い。
二つの似て非なる思いが溶け合わさって、一つになる。
男のような激しい衝動と。
女のような胸のときめき。
マコトと見つめ合いながら、どうにでもなりたい、と一瞬思った。
固く閉じられていたはずの、心の蓋が開く。
マコトがレズだと知らなかった、幼い頃。
俺はマコトと一緒に、将来を歩みたいと思っていた。
そして、今の俺は、女だ。少なくとも、身体は。
それなら、もしかしたら――。
「いらっしゃいませー」
その時。ショップの店員の声がして、俺に正気が戻ってきた。
俺とマコトは同時にはっとして、すべきことを思い出す。
俺とマコトは手を繋いだまま、ゆっくりショップに歩を進めた。
マコトと触れた手に、マコトの発情を感じたまま。
そして――何か大事なことを忘れているような違和感を、その場に残したまま。
目に入ったのが女物の下着だったので、ランジェリーショップ、というのが第一印象だった。
だが、もう少し観察して、少し違うことに気づく。ショップの奥の方には、パジャマと思われるものもあった。
「ナイトウェアショップって感じだね」
マコトの一言は、俺の最終的な感想とほぼ一致していた。ルームウェアというよりは、ナイトウェアという方が、確かに正しい。
ショップの中を進むと、そこにはカウンターがあった。そこには店員はおらず、貼り紙がしてある。
「お連れ様のナイトウェアを一着ずつお選びください。
お連れ様に選ばれたナイトウェアを拒否することはできません。」
と、書いてあった。
「お連れ様、か」
つまり、俺がマコトの、マコトが俺のナイトウェアを選べ、ということだ。
そして、カウンターそばの柱には時計がかかっており、カウントダウンをしていた。もうすぐ、五十分になるところだ。そういえば、俺達の腕からは腕時計が消えている。
「まだ時間もあるし、一緒に選ぼうか」
爽やかを装い、マコトは俺にそう提案した。
そう、爽やかを装っていた。
マコトがそれを口にした瞬間。握ったままの手から、一段と強い発情を感じた。
間違いない。俺にナイトウェアを着せる想像に、マコトは劣情を催している。
「おう」
俺も、爽やかを装おうとして、……装いきれない、少し引きつった笑顔で、マコトに応じる。
マコトが、意味深に笑った。
「一着か……」
マコトが考え込んでいる。右手を握り拳にして親指だけを立て、顎を削るようにひっかいている。顎に親指を当てるのは、マコトが真剣に考えるときのクセだった。
最初は店内をうろうろとして、概ねの目星をつけていた。手を繋いだままだったので、どういうものがマコトの本能の気に召したか、大体分かってしまった。
普通の下着は、マコトの本能は反応したものの、「ナイトウェアにしては、ちょっとしっかりしすぎてるかな」ということで断念した。マコトが言うには、女の下着は身体を締め付けるものが多く、そういうのはナイトウェアに向かないそうだ。
一方、露骨なエロランジェリーは、マコトの好みではないようだった。きっと興ざめなのだろう、と思いながら、少しほっとした。もしマコトがそれを選んだら、着るのは俺だ。
結果として、マコトが足を止めたのは、ベビードールの売り場だった。
俺の手を離したマコトは、ハンガーにぶら下がったベビードールをとっかえひっかえ、俺の前にかざしている。俺の身体と重ねて、どれが似合うかを吟味していた。今かざしたのは、小さいくクマのマークを数多くあしらった、シックなタイプだった。ただ、思った感じとは違ったのだろう、マコトはそれをハンガーかけに戻し、他を当たることを選択したようだ。
マコト、こんな表情をするのか……。
マコトの姿を見ながら、ぼんやりと思う。マコトの目は、サングラスを通してさえ、鋭くなっているのが明らかだった。
マコトとは何度も買い物に行ったが、どんなときも、少なくとも表向きは、飄々としていたイメージがある。こんな表情を見たのは、初めてじゃないだろうか。
その真剣な瞳は、俺のために――俺のナイトウェアを選ぶためのもの。
どきん、と胸が高鳴った。
身体の内側からは、未だに激しい欲情の炎が燃え上がっている。だけど、俺を今とらえている気持ちは、それとは次元が違う。
思わず、手を胸に当ててしまう。柔らかい感触の向こうに、心臓の強い鼓動を感じる。
そして、ふと疑問が浮かぶ。
マコトと一緒に買い物? 「二人で」か?
何かおかしい、と思う。俺達はそういう関係だったか?
「シュン、もう一度、ちゃんと立って」
マコトの声で、はっと気をつけをする。気づくと、今度は黒のベビードールだった。
「……うーん、迷うなあ」
数秒の観察の後、決めきれない様子で、目をハンガー掛けに戻した。
いかにも、女のショッピング、という感じだった。意外なところで、マコトの女らしさを見た気がする。
だが、それを見て、なぜか俺の胸にはもやもやが襲っていた。
なんで、マコトはこんなに真剣なんだろう。
俺のため?
でも、マコトが俺を特別に思っているとは、限らない。
マコトは、今の俺を、どう思っているんだろう。
今の俺は、身体は、女で。
マコトにとって、そんな俺は、今――恋愛対象に見えているんだろうか。
わからない。
恋愛対象に見えていないなら、もちろん悲しい。
でも、見えているのなら、女に見られているということで、やっぱりもやもやする。
深い霧のような感覚が、じめじめと、俺の身体にまとわりついていく。
割り切れない感情に、思考がついていかない。
考えても仕方のない疑問から、逃れることができない。
「シュン!」
またもやマコトの声で、俺は思考を中断する。言われるまでもなく、ポーズをとる。
かざした姿勢で、マコトは数秒、ひらひらと手持ちのものを揺らす。
途端に。
「!」
マコトが、一際強く発情した。
手を繋いでいないのに。
はっきりと、肌で、感じた。
そして、マコトは。
「これにする」
爽やかを装い、笑った。
「次はシュンの番だね」
そう言われて、俺も選ばなければいけないことを思い出す。ふと、カウンターに目を向けると、残り時間は二十五分を切っていた。
あまり時間はない。
「じゃあ……」
俺は、マコトの手を引く。
「こっちだ」
目星はついていた。
俺は売り場に立ち止まり、その区画を見上げる。
そこは、スリップの売り場だった。
壁に掛かる、スリップの数々。
それをマコトに着せることを想像するだけで、俺の下半身が熱くなる。
俺は一つを手に取った。ふと、慣れた感覚だな、と思う。今は女の身体になっていても、突き上げられる欲情に操られるような感じは、男の時に覚えがあるものだ。その一方で、さっきのもやもやはさっぱりと消え去っている。……何だったんだろう、あれは。
あまり時間もないので、並んでいるスリップを適当に手を取る。そして何着目かで、
(おぉっ)
自然に、マコトがそれを着る様子が思い浮かんだ。身体が疼いて、これだと思った。
「決めた」
そして、マコトを見る。
マコトは顔を赤くして、俺を見ていた。
選んだからにはここで着るんだろう、と、当然のように思っていた。俺達は、試着室に向かった。
試着室は、一つだけだった。
それでいて、少し広かった。
そして、残り時間は、十五分。
少し急げば、一人ずつ着替えても、間に合うだろう。
しかし、二人の空気は、もちろん、そうではなかった。
「一緒に入ろっか」
さらりと提案を口にしたのは、マコトの方だった。
「えぇ……」
分かっていたのに、うろたえてしまう。
「でも……」
「いいじゃん、時間ないしさ」
「うーん……」
「遅れたら大変だよ」
「……しょうがないか」
遅れたら何が大変なのか、わからない。
でも、それならしょうがないな、と、そう思うことにした。
うん、しょうがない。
しゃーっ、と音がして、カーテンが閉まる。
マコトは、自然な動きでサングラスを外し、躊躇なくパーカーを脱ぎだした。
「っ!」
とっさに身構える。一瞬、マコトの情が暴発したのかと思った。
狭い空間に二人で閉じこもったせいか、マコトの発情を全身の皮膚で感じとっていた。いつ行為に及んでもおかしくないくらい、マコトの精神は蕩けかかっている。
しかし、マコトの表情はまだ、平静を装っていた。そういえばこいつ、部屋では裸で過ごすんだっけ。俺の目の前で、マコトが平然と裸になったのを思い出した。だから多分、服を脱ぐこと自体は普通の行動なんだ。マコトにとっては。
俺の思考が納得する頃には、マコトは既にジーンズを脱ぎ、黒のシンプルなパンツを露わにしていた。流れで、インナーシャツに手をかけている。そのインナーシャツは、胸を押さえて膨らみを見せないようにするものだ。着脱に少し時間がかかるらしく、少し手間取っていたが、程なくマコトの胸が現れた。
途端に、「マコトの匂い」がした。マコトの乳首は当然、固く張り詰めている。
この匂い。頂の勃起。そして肌に感じる発情。とすれば当然、マコトの股間は……。
「シュン」
声をかけられ、俺は反射的にマコトのパンツから目を逸らした。だが、もう遅い。何を見て、何を考えていたか、絶対にバレている。
だが、マコトの反応は予想外だった。
「脱がしてくれないか」
「はっ!?」
予想外すぎて、裏声が出てしまった。
だが、はにかんだような様子で発された次の言葉は、さらに予想外だった。
「自分でやったら……そのまま一人遊びしちゃいそうで」
一瞬、頭が真っ白になった。
一人遊び。オナニー。
それほどまでに興奮していると、マコトは自白した。
「あっ……」
途端に、俺は腰が抜けるようにしゃがみ込んでしまった。
俺の身体も、とっくに限界を超えていたんだ、と思う。マコトの言葉からの連想で、つい自分の身体の状態を気にしてしまったのが、失敗だった。真正面から自覚してしまったのだ、俺自身の強烈な発情を。
下腹部が鈍く、しかし激しい熱を放つ。触るまでもなく、液体があふれているはずだった。
「頼む……」
そんな俺の反応にもかかわらず、マコトは困り顔で、重ねて俺を頼る。
俺も辛いが、マコトも辛い。
それがわかっているので、やむを得ず俺は、そっと膝をついて、それから、マコトのパンツに両手を伸ばした。
腰の部分に指をかけ、ゆっくりと引き下ろす。
ぬちゃり、と音を立てそうな様子で、パンツがマコトのマンコから離れる。
途端に、独特の匂いが俺の鼻をついた。
「……拭いてくれるか」
一瞬の間のあと、マコトの右手を見て、その意味を理解する。
そこには、スリップと同色のパンツが握られていた。俺は全く気づかなかったが、どうやらスリップとセットでついていたらしい。
それを穿くなら、濡れたままではいけない。
足下のかごに、小さなタオルが都合良く二つ入っていたので、俺はそのうち一つを取り出す。マコトに少し足を開いてもらい、中心部にタオルを押し当てようとして。
(……!)
マコトのマンコが、真正面から目に入った。
きっと普段は引き締まっているだろう入口は、今、完全に緩みきり、外部からの侵入物を今か今かと渇望していた。クリトリスも莢から顔を出し、どんなに小さな刺激でも逃さないとばかりに大きくなっている。
それでも、何とか。限りなく優しく、マコトを刺激しないように。
俺はタオルを宛がう。
「ふっ!」
マコトから密やかに漏れた声は、根性で無視した。
「ありがとう」
何度かの接触の後、俺がそこからタオルを離すと、マコトは膝をついたままの俺に礼を言った。そしてすぐに、新しいパンツを穿き、続いて、俺が選んだナイトウェアを手にし、身につける。俺はそれを、そのままの体勢で見つめていた。
それは、明るめのベージュのスリップだった。胸元に切れ込みは無く、マコトの全身のラインをバランス良く映し出している。マコトはスレンダーなので、身体の側面のラインを強調するスリップが一番いいと思ったのだ。
「おぉ……」
マコトを見上げながら、俺は感嘆の声を上げてしまった。
「どうかな」
「メチャクチャ似合ってるよ」
「本当?」
ありがと、と、少し恥ずかしそうに応えるマコトを見て、俺の胎内がさらに燃えさかった。
ああやばい。俺の方も、今にも暴発しそうだ。
マコトとしたい。抱き合って、重なり合って、擦り合って……。
「次はシュンだぞ」
しかし、思考の暴走は、マコトの声で止められる。
マコトは俺に手を伸ばした。俺はその手を取り、何とか立ち上がった。
ポロシャツを脱いで、インナーシャツに手をかける。
マコトが熱い瞳で、俺を見つめていた。肌にひしひしと、マコトの情熱を感じる。
とても恥ずかしかった。
濃紺のインナーシャツの下に、下着はない。シャツは胸の部分がきつくなっていて、勃起した女乳首の輪郭が浮かび上がっている。
それだけでも恥ずかしいのに、シャツを脱がないといけないのだ。マコトの目の前で。
マコトはマコトで、スリップの生地に隠れた乳首を大きくしている。胸の部分の生地が薄いらしく、そこに異変があればすぐ分かる。
「脱ぎづらいなら、僕が脱がせてあげる」
すると、焦れたのか、マコトが手を伸ばしてきた。
「やっ……」
マコトの「疾(やま)しい意図」がビンビンに肌に伝わり、一瞬抵抗しようと思ったけれど、このまま脱がないわけにもいかない。諦めて、マコトに任せることにした。
マコトがシャツをまくり上げる。
「あっ」
びくん!
マコトの手が胸を通過するとき、マコトの指が、女乳首に引っかかった。
しかも、両方。
腰が崩れそうになったけど、何とか堪えた。
「あ、ごめん」
白々しく謝るマコト。でも、その行為は意図的なものだというのは、指が触れた一瞬で完璧に「伝わってきた」。
マコトにチノパンをトランクスごと下ろされ、全裸にさせられた。言うまでもなくトランクスには染みができていたけれど、マコトはそのことには触れないでいてくれた。
そしてマコトは、足下にあったもう一つのタオルを取り出す。俺が使わなかった方だ。
「足開いて」
俺がマコトにしたように、マコトも俺にそう言った。「自分でやる」とは言えなかった。その理由も、マコトと同じ。
しかし、
「ぁっ!」
その視線は、痛烈だった。
そこを見られた途端、マコトの劣情が急激に膨らんだ。太ももに触れた手からそのことが伝わり、顔から火を噴きそうになって、頭の中が急にクラクラして――
「ぼうっとしすぎだ」
「……あぇ?」
マコトの声で気づいたときには、着替えが終わっていた。
「どうした? 大丈夫?」
「え? うん」
心配そうなマコトに、何とか応える。
「ねえほら、見てみて」
すると、マコトが目の前から退いて、自分の全身が、鏡に映った。
身にまとったのは、ピンクのベビードールだった。
それは生地がとても、とても薄い。肌の色が分かってしまうくらいに薄くて、まるで柔らかいヴェールのようだった。おかげでわたしのおっぱいも、もちろん乳首も、全然隠れていなかった。ベビードールは腰の部分が絞られてないけれど、そのせいで却って、おっぱいから腰へのくびれラインが際立っている。身長の割に狭い肩幅、大きい尻。綺麗なへそを中心として、わたしの柔らかい曲線はピンク色に彩られていた。
腰からお尻にかけて、小さめのパンツがあった。パンツはベビードールと同じ色で、さすがに少しだけ厚い布地みたいだけど、それでもマンコの繁みが透けて見えていた。
ベビードールはそのパンツをギリギリ隠すくらいの長さしかなくて、そこから先はわたしの脚が伸びていた。両脚は長くて、綺麗だなと思った。ちょっと太いけど。わたしの脚はつま先まで白くて、小さくて半透明の爪が両脚の指を彩っていた。
そういえば、わたしの全身を鏡で見たのは、初めてな気がする。何でだろう?
「どう?」
「……いいと、思う」
マコトの問いに、わたしは詰まりながら、感想を言った。
「でしょ」
マコトはわたしに身体を寄せて、そっと、――首元に唇を近づけた。
「あっ……」
ほんの少し、首元に感じた暖かい感触が、全身にむずがゆい刺激になって伝わる。全身の導火線に、火がつき始めた。鏡に映ったわたしの乳首がすぐに大きくなって、マンコが潤い始める。このままなら、すぐに、止まらなくなる。
もう、抵抗する気なんかなかった。
わたしはそのまま、マコトの行為に身を任せて、
「時間切れ」
カーテンの向こうから、女の声が響いた。はっとして、マコトが身体を離した。俺も、今の状況を急激に思い出す。
それはほんの一言だけだったが、強烈な印象を与える、冷徹な声だった。
そう言えば、この試着室に入ってから、そろそろ、十五分経つ頃だ。例のカウントダウンが、きっとゼロになったのだろうと理解する。
「マコト」
「ああ」
試着室の出口を見つめつつ、俺達は声を掛け合った。
その声は、試着室の向こうからだった。一瞬の声だったが、それは聞き覚えのあるような声だった。
嫌な予感がした。だが、逃げ場はない。
俺はおそるおそるカーテンに手をかけた。もう一度、マコトを見る。
マコトは黙ってうなずいた。
それに励まされ、俺は心を決める。
そして、一気にカーテンを開けた。
< つづく >