序章
「何のようだよ? じいちゃん」
学校に通ってから丁度五年になったその日、門倉我尽(かどくらがじん)は、祖父である門倉無限に呼び出されていた。
「うむ・・・重要な話があってな。お前の父親の話じゃ」
重々しく頷いて、祖父は言った。
我尽にとって父親とは、謎に満ちた存在だった。物心ついた頃にはすでに姿は無く、家には写真一枚ない。母である美世に訊いたら「素晴らしい人よ』と言っていたので、悪い人間ではないかもしれない。それぐらいの認識だった。
「お前の父親は実は・・・わしじゃ」
「・・・マジで?」
我尽の母美世は、十代で子供を生んだ若い母親で、母子二人で並んで歩けば、姉弟と今でも間違えられるほど若い。そんな母が、禿げてはいないものの頭が真っ白な祖父と・・・。
「なるほど。じいちゃんが父親だって事秘密にする訳だ。世間体って、大事だもんな」
と、思春期の癖に物分りのいい事を言う我尽に、実は父だった祖父は、笑って答えた。
「いやいや我尽よ、わしは世間体を考えていたわけではないぞ。その証拠を見せてやろう。・・・低下!」
その言葉を唱えた瞬間から、我尽の目の前の老人は、見る見る内に若返っていく。シワは伸び、髪は黒く、やせていた身体は、逞しい筋肉に覆われていく。
「じいちゃん!?」
「じいちゃん? わしはそんなに老け込んで見えるか、我尽よ」
我尽の前には、気の良い老人ではなく、口元に太い笑みを浮かべた、野性味の強い三十歳代の男が立っている。
「これが、我が門倉の一族の男子にのみに伝わる力を源にした技、掌握術の力の一端よ」
「掌握術・・・? じい・・・いや、父さん。今それを俺に見せたって事は、僕に何かさせたいんだろ」
普通だったら、パニックに陥ってもおかしくないこの状況で、我尽は冷静さを保っていた。・・・ませたお子様である
「ああ、お前にこの技とわしの若い時の夢をついで欲しくてな」
「夢って、もしかして世界征服とか言わないよな?」
「フッ、言い当てるとはさすが息子。血は争えんものよ」
「・・・冗談のつもりだったんだけど」
「あれはわしが若い頃だった」
無限は息子の言葉を聞かずに、モノローグに突入した。
「わしの一族は・・・門倉の一族はこの掌握術の力を、使うことなく秘めてきた。若かったわしは、それにどうしても納得が出来ず、家を飛び出した。
そしてこの世に男として生まれたからには、目指すは一国一城の主。わしは掌握術の力を使い、この日本を、そして最終的には世界を手中に収めんと動き出した」
「技を磨き、力を蓄えた。地下に秘密基地を作り上げたりもした。・・・まあ、その頃のわしは人付き合いの苦手な不器用な男じゃったから、全部一人でやったんじゃが」
そう語る父に、我尽はその老人口調は直さないのかと思いながら聞いていた。
「でも、途中で止めたんだろ」
「そうだ。わしはお前の母さん、美世に出会ってわしは・・・」
愛に目覚めたのかと、我尽は思った。
「・・・色事に目覚めた」
「子供の手前、もう少し発言を考慮しろよ」
「それからは、わしは世界征服そっちのけで女に溺れてな。秘密基地のトレーニングルームは女の調教部屋に、戦闘員達の宿泊施設は監禁部屋に、兵器開発プラントは大人のおもちゃ開発プラントに、科学開発室は媚薬開発室になってしまった」
「・・・堕落って言うのかな、これも」
「そうしている内に、一粒種のお前が大きくなった。そこでわしは世界征服から手を引き、お前に掌握術を仕込んで、後を譲ろうと思ったのじゃ」
「例えば・・・俺がまじめに世界征服に打ち込んだら、その時はどうするんだ?」
ためしに我尽が訊いてみると、無限は鷹揚に頷いた。
「うむ、野望達成の暁には、存分に親孝行するが良い」
「・・・そうなるのか」
その日から、我尽の修行の日々が始まった。そのせいで学校に行けなくなったが、我尽にとってそれは大きな問題ではなかった。学校での勉強よりも、父の教える掌握術の方が刺激に満ちてて、魅力的だったからだ。
しかし、無限は自分から『勉強なんぞ、掌握術の後でよい』と言っておきながら、家庭教師を我尽につけた。野々宮薫。今年大学に入学したばかりの女子大生で、週に二度家に来る。
そして、修行を始めてから三ヶ月がたった。
「掌握術の初歩とはいえ、もう『誤認』を使いこなすか」
『誤認』とは、文字の通り術者が対象に、誤った認識を植えつける技だ。初歩の技だが、掌握術はこの『誤認』
から始まると言える。
その初歩を三ヶ月と言う短期間で使いこなせるようになった息子に対して、無限は満足していた。
しかし、試験はこれからだ。
「我尽よ、これからお前は『解除』、そして中伝『強化』『低下』『逆転』、さらには奥伝『連動』と『転写』を身につけねばならん。そのために必要なのは・・・練習台に使う人間じゃ」
「たしかに、実際使ってみないと実につかないというのは解るけど、わざわざ言うほどのことかな? 人間なんてそこかしこにいるじゃないか」
さらりと外道な事を言う我尽。無限はそれに首を横に振った。
「たしかにそうじゃが、出来る限りこういう事は秘密にする・・・それが男の浪漫」
「・・・やっぱりそこに行き着くのか」
「が、わしの女を下げ渡したのでは、お前の男としてのプライドを傷つけることになる。なので・・・お前につけたあの家庭教師、美人じゃろ」
「ん? そりゃたしかに・・・って、もしかして薫さんを使えって!?」
にやりと、太い笑みを浮かべたのが何よりの返事だ。
「あの薫さんを・・・」
将来は英語の教師になりたいと言っていた薫さんを、あの優しい薫さんを、あの綺麗な薫さんを・・・。
「で、どうするんだ父さん? 薫さんは週に二日しか来ないぞ」
「だから毎日来る・・・いや、居るようにするのじゃ。薫をお前の奴隷にするがいい。お前無しでは生きていけないように。
そうすれば薫の親へのアフターサービスは、わしがやってやろう」
「わかった! 明日薫さんが来る日だから、手順を考えとく」
意気揚々と、我尽は自分の部屋に向かった。
その息子の姿を見送っていた無限の背に、声がかけられた。
「我尽は合格したみたいですね」
柔らかいこの声に、無限は振り向くことなく応えた。
「美世か。合格と言うことは・・・わしが何をしようとしたか、気づいておったか」
「はい。あなたの考えている事なら、大体解りますから。
薫さんに『誤認』を使って手に入れることを躊躇うようなら、我尽のここ三ヶ月の記憶を『滅消』で、消してしまうつもりだったんでしょう?」
「その通り。僅かな時を共に過ごしただけの相手に情を移し、己の手で汚すことを躊躇う。そのような軟弱者に掌握術を使う資格は無い。いっそ、何もかも忘れるほうがあいつのため」
「最も、我尽の奴は情が移ったからこそ、汚したくなるようじゃが。
これもお前の付けた名のおかげか」
「我がために尽くす・・・いい名前でしょう?
・・・それよりあなた」
ここで美世は、子供を一人生んでいるとは思えない、色っぽい艶のある微笑を浮かべた。
「応とも。今夜は前祝じゃ、存分に楽しもうぞ」
「まあ、明日起きられるかしら」
壁に隠してあるスイッチを無限がカチリと押すと、野望の都から色欲の園へと使用目的を変えた地下基地への入り口が開き、その中に二人の姿は消えた。
我尽にとって、運命の日がやってきた。
今日は薫が昼過ぎにやってくる日だ。我尽は張り切っている。『誤認』を他人に使う事が初めてと言うこともあるが、我尽もそろそろ異性に興味を持つ年頃だ。それが薫のような女性ともなれば、尚更だ。
そのため、昨夜は遠足の前の日のように、興奮で眠ることは出来なかった。・・・何故か両親も眠れなかったらしかったが。
朝食を取った後、延々と手順を繰り返し確認する。もし我尽が拘りを持たず、掌握術の中伝以上の技が使えるなら、そんな必要は無い。力技で押し切ることが、容易だからだ。まだ使いこなせると言っても、まだ力の弱い『誤認』だけでは、それも必要になる。
最も気をつけるのは、矛盾を修正せずに『誤認』を放置すること。それは『誤認』の崩壊につながる。掌握術と言えども万能では、まだないのだから。
ピンポーン!
いつもより耳に軽やか響くドアチャイム。
我尽は睡眠不足とは思えない軽い足取りで、玄関に向かった。
「こんにちは、我尽君」
明るい笑顔で挨拶をする薫。学校に行っていない我尽を、登校拒否をしていると無限から説明を受けているために、彼女は常に明るく我尽に接している。
「今日は国語のテストよ。復習していれば解ける問題ばかりだから、がんばりましょうね」
すかさず我尽は『誤認』を使った。
「違うよ薫さん。今日は野々宮薫のテストだよ」
「え・・・そう・・・だったわね。私ったら、うっかりしちゃって・・・どっちにしても復習していれば解ける問題ばかりだから、がんばりましょうね」
「うん。わかってるよ」
復習していなくても、百点を取って見せるけどねと、胸の内で我尽はつぶやいた。
部屋に上がると、薫は野々宮薫のテスト用紙を探し始めたが、もちろんそんな物があるはずがない。
「薫さん、テストは間違い探しの様式でするんでしょ。薫さんが自分の事を話して、その中の間違いを僕が指摘するんだよ」
「そうよね。今日はどうしちゃったのかしら」
『誤認』を繰り返し、誤った認識を正しい認識より強くする。そのための手順は、順調に進みつつある。
「問題は、大学に入る前の生活と、恋愛と性経験。そして将来の夢に関してだった」
「そうよね。じゃあ、これから私が問題文を口頭で言うから、間違いがあったらすぐに指摘してね。
私は大学に入る前はとても生真面目で、熱心に一日二時間は勉強を―――」
「そこは間違いだよ。とてもエッチで、熱心に一日二時間はオナニーしていたんでしょ」
そして、これが正解だと『誤認』させる。
「正解よ。父が厳しい人でね、将来のためにオナニーしなさいって、厳しく躾けられたの。
それで今まで男の人とは、二回付き合ったの。最初の人はクラスの同級生だったんだけど、私がいくら言ってもすぐエッチなことをしようとして、それが原因で別れたの」
「そこも違うよ。薫さんがいくら言っても、エッチなことを全然しようとしなかったから別れたって言ってたじゃないか」
「そう言えば・・・そうだったかしら?」
「そうだよっ!」
力を込めて言い切る。術者の迷いは、技に如実に現れる。
「そうそうっ そうだったわっ! あの人ったら、私がどんなに言ってもエッチなことしてくれなくて、それが原因だったのよ。パイズリとかもさせてくれなかったし。
それでも、大学に入ってから付き合った人とは、エッチなこともしたのよ。三回くらいね。でもあの人、三回目で急に変になって・・・鞭とか蝋燭とか縄とか、ブルマを持ち出してきたり、しかも私のお尻の穴に興味を持ったりして―――」
この時我尽は、軽く動揺した。鞭とか蝋燭とか縄とかブルマは、まだなんとなくわかる。しかし、お尻の穴ってなんだ? そんなところどうするんだと。我尽は、異性に対する興味はあっても、知識はそれほど深くない。アナルプレイやセックスを知らなくても無理は無い。
しかし、このまま動揺していれば良い事は無いということぐらいは察しが付いた。世の中にはそう言う事も在るのだと、棚上げすることにする。
「三回目のエッチの時にも、鞭とか蝋燭とか縄とかブルマを持ち出さなかった上に、薫さんのお尻の穴に興味を持たなかったって、言ってたよ」
「そう、あの人は三回目のエッチの時にも私を鞭で叩いたり、縄で縛ったり、蝋燭を垂らしたり、ブルマを着せようともしなかった上に、私のお尻の穴にまったく興味を持たなかったの。おちんちんどころか、バイブもビーズもローターも入れようともしなかったのよあの人はっ! まったく信じられないっ!
我尽君もそう思うでしょ?」
「えーと、うん、まあ・・・思う! 変だよね、その人っ!」
我尽が思ったのは、世の中の深さと薫の男運の無さに関してだった。
「頭にきたからその場でビンタして分かれてやったわ。その人とは。
それでね、私の将来の夢は―――」
「メス奴隷になることだよ」
「メス奴隷?」
「そう、メス奴隷。ご主人様の命令に服従して、性欲を処理する人のことだよ」
私は教師になりたかったはずだ。でも、小さいころから一日二時間オナニーをして、自分にエッチなことをしなかったから、お尻の穴に興味を持たなかったからと、そんな理由で二人の彼氏と別れた自分。
そんな自分は、メス奴隷と教師のどっちを目指していたのだろうか。
だが・・・。
「この家庭教師のバイトだって・・・将来の・・・」
「ご主人様を探すためだ。そしてバイトを三ヶ月も続けたのは、僕にご主人様になって欲しいからだ」
この時、我尽は全力を振り絞った。ここで失敗してしまえば、薫をただの淫乱の変態女にしただけだ。自分の物にしなければ、意味は無い。
「我尽君が・・・ご主人様?」
「そう。そして、薫は僕のメス奴隷になりたいんだ」
「私がメス奴隷・・・そうよ、何でこんな大事なこと忘れていたのかしら。私は我尽君の、メス奴隷になりたかったのよ」
「すごいわ、我尽君。私以上に私の事を知ってるなんて。だから私も我尽君のメス奴隷になりたかったのね」
『誤認』の成功を確信した我尽は、手順を進めることにした。
「じゃあ薫さん、今度は僕が薫さんをテストしてあげる。僕とちゃんとエッチ出来たら、薫さんを僕のメス奴隷にしてあげるよ。
それとも、やっぱり僕のメス奴隷になるのは嫌かな?」
「そんなことっ! お願い私のご主人様になって!」
そう叫ぶように言うと、薫は我尽に抱きついた。思っていた以上に豊かで、柔らかな双球が密着する。
それだけで何かが爆発しそうになったが、我尽はとっさにそれに耐えた。
「じゃあ、早速しようか。さ、服を脱いで」
「はい」
頬を桜色に染めて、薫が服を脱いでいく。
「ああもうっ、私ったら、何でこんな下着を・・・」
「いいじゃない。どうせ脱ぐんだから」
と、乙女心をないがしろにして、我尽は薫に早く脱ぐように促した。
そして我尽の望みの通り、薫の裸体が晒された。
「それで・・・どうするの?」
我ながら情けない事だと思っているが、ここから先の知識は、我尽の中に無かった。実際に異性の裸体を目にしたのも、実は初めてだ。そのために、薫をテストすると言う形を取ったのだ。
「あ、そうよね。私のテストなんだから、私が我尽君に教えなきゃだめよね」
薫は我尽のベッドに横になると、脚を開いて女性器を横に、くぱぁと広げた。中はすでに湿り気を帯びて、ぬらぬらと光を反射している。
「いい、穴が二つあるでしょう? その下の穴に我尽君のおちんちんを入れるの。私は・・・もう初めてじゃないから、もう入れても大丈夫よ」
「ええと、こうかな?」
「ちょっ! 我尽君、そこは違うわっ!」
「え?」
我尽は膣口と間違えて、その下の肛門に我知らずペニスを押し付けていたのだ。
「我尽君が私のお尻の穴に興味を持ってくれたことはうれしいけど・・・やっぱり初めては、こっちでね」
「う、うん」
今度ははずさないようにしっかり狙いをつけて、挿入する。にゅるりと、暖かく柔らかな肉穴にペニスが包まれた。
「あはぁぁぁぁあんっ!」
「うわぁ、すごい!」
我尽にとってそれは、衝撃的としか言いようの無い体験だった。まるでマグマのように熱い無数のヒダの一つ一つが、ペニスに絡みつきキュウッキュと締め上げてくる。頭に真っ白になりそうな快楽だった。
「我尽君動いてっ! 腰を引いた後、思いっきり突き出してっ!」
薫の教えた通りに、我尽は無心で動いた。そこにはテクニックも何も無い。ただ激しいだけのセックスだ。しかしそのセックスに、薫の女性器は止めどなく愛液を流し、瞳は快楽に酔っていた。
「すごいぃぃぃぃぃぃっ! 前の彼氏の時なんかよりぃ、気持ちいいぃぃぃぃぃぃっ! 気持ちいいよぉぉぉぉぉぉっ!」
その嬌声と同時に、薫の締め付けが、一層きつくなる。
「っ!?」
ビュクンビュルルと、そのまま我尽は薫の奥深くで、快楽のままに吐き出した。
薫も、ビクンビクンと身体を小さく上下すると、ハアハアと、荒い息をついた。
自分の上に倒れこんだ我尽に、薫がゆっくりと問いかけた。
「・・・我尽君・・・私、ちゃんとエッチ出来た?」
「もちろん・・・もう、サイッコ―」
「うれしぃ、ご主人様ぁ」
我尽を薫が抱きしめる。しかし、薫を掴みとったのは、我尽の方だったのは、言うまでもない。
ぴちゃり、じゅじゅる。音を立てて薫の唇が、我尽のペニスを吸う。
我尽が命令した訳ではなく、薫が自分から『きれいにします』とフェラを始めたのだ。
薫はすでに、根っからのメス奴隷に出来上がっていた。仮に『誤認』を解いたとしても、もう元の薫に戻ることは無いだろう。
その事実を悟り、後悔ではなく満足感に我尽が浸っていると、不意にリズミカルに手を叩く音が耳に届いた。
「よくやったな、我尽。まずは合格だ」
「・・・父さん、覗きはマナー違反だぞ」
息子にそう注意されても、無限は誤るどころか鼻を鳴らした。
「息子が漢になろうという瞬間を見ずに、何が親かっ! 今頃は美世も、モニタリングルームで録画しておるころだわいっ!」
「覗きどころか盗撮までっ!?」
我尽がぎょっとして振り返ると、満面の笑みを浮かべた父が立っている。
「・・・それはもう置いておくとして。それより父さん、薫に何か細工しただろ」
「ほほぅ、感づいたか」
これもあっさり自白する無限。
「感づきもするよ。『誤認』だけで、薫があんなになる訳無いだろ。しかも、『前の彼氏より』いいなんて言ってたしな」
「うむ。実はこの前薫が来た時に、性欲と感度を『強化』した。・・・まあ、これで実験台は手に入れたのじゃから、これからはより高度な修行に入る。心しておけ」
「解ってる・・・うっ!」
「んくぅ、おいひいれすぅ」
「はーっはっはっはっはっはっ! 今日は記念日だ、存分に楽しむがいいっ!」
無限は大笑いしながら、我尽の部屋を後にした。これから約束通りに、薫の両親にアフターサービスをしに行くためだ。
「まあ、嫁入りとメス奴隷入りを『誤認』させればいいじゃろう」
今夜のわかめ酒は格別だろうと、無限は思った。
そして、我尽が修行を始めてから、五年の月日がたった。その間我尽は修行を順調にこなし、ついに掌握術の免許皆伝を受けるに至った。
地下秘密基地の謁見の間とも言える部屋に、父と子の姿はあった。
「よくやった我尽よ。奥伝のみならず、禁術『滅消』すら五年で使えるようになるとは。やはりわしが見込んだ息子なだけはある」
「そう褒められると照れるな。だけど、まだまだ未熟だって言うんだろ?」
この五年で成長した我尽は、強い野性味と理知的な雰囲気を同居させた少年へと、成長していた。
「その通り。しかし、これからはわしに教わるのではなく、自分で己を磨くが良い。
・・・さて、今日と言う日を記念して、お前にプレゼントがある」
「プレゼント?」
「まずは・・・『解除』っ!」
「なっ!? 親父、俺に何をしていたんだ!?」
驚いて自分の身体を確認するが、特に変わったところは無いように見える。
「いや、お前の生殖能力をかなり弱くしていただけじゃ」
「・・・どうりでこの五年間、薫が孕まない訳だ」
これまで何回も、危険日なんて知らない、オギノ式ってなあにと言わんばかりに、我尽は薫の中に精を放ってきたが、一度も孕まなかったのは、無限のせいだった。
「修行の途中で孕まれては、お前も集中出来まい」
「・・・まあたしかに。当分アナルのみってのも、少しきついだろうし」
この五年で、アナルプレイにもすっかりなれた我尽であった。
「さて、二つ目はこの地下秘密基地じゃ」
「いいのか? ここ数年色々手直ししてたようだったけど」
一体誰を使ったのか知らないが、ただの色欲の園になっていたこの地下秘密基地も、ここ数年で本来の役割を果たせるように改修されている。
・・・本来以外の使い方も出来るのは、相変わらずだったが。
「で、取って置きの三つ目はこれじゃっ!」
ゴゴゴゴゴッ と音を立てて床から出てきたのは、蛇の石造。何故か目がチッカチッカ光っている。
「・・・なんだこれ?」
「フッ、首領像に決まっとるだろう」
「必要性あるのか、これ?」
チッカチッカ光る目。大きく裂けた口の中には、マイクが仕込んであるようだ。
「まあ、冗談は置いておいて・・・」
「本当だな? 本当に冗談だったんだな?」
「ええいっ! やかましいぞこのリアリストめがっ!」
ドサドサと、無限は怒鳴りながら我尽の前に書類を積み上げた。
「これはわしが創立したり創ったりした、いくつかの学園や大学、その他資産の権利書じゃ。有効に使うが良い。・・・・わしはそこでは女を狩っとらんから、その辺は安心するがいい」
「なんだか、すごいな。盆と正月が一緒に来たみたいだ」
「そうか、うれしいか我尽よ。わしもお前の喜ぶ顔が見られて満足じゃよ。・・・いく前にな」
「逝く前・・・? 親父、冗談はもういいって」
「いや、冗談ではない。・・・時が来たのだ?」
無限は、我尽がこれまで見たことの無い、静かな笑みを浮かべていた。
「だったら、掌握術で―――」
「これはどうにもならん。それに・・・わしの望みでもある」
「そんな・・・」
「ただ、心残りはお前が世界を手中に収め、子供に囲まれているお前の姿が見れんことか」
「見せてやる! 俺が世界を手中に収める様も、子供に囲まれている様も見せてやるから!」
「何っ! 本当か!?」
「本当だっ! 世界は時間がかかるだろうが、子供ならすぐにでも百人でも千人でも女に孕ませてやるっ!」
魂から、全身全霊の力をかけて、我尽は叫んだ。しかし、それでも無限の口元の静かな微笑みを消すことは出来なかった。
「しかし我尽よ、もう時間のようだ。ほれ、お迎えも来ておる」
「そん―――」
「あなたーっ! 時間よーっ!」
我尽の言葉を遮ったのは、美世の能天気な呼び声だった。
我尽が驚いて振り返ると、そこには・・・母を先頭にお水系にコギャル系、その他様々な女性その数三十人以上がいた。
「ほれ、言った通りお迎えが気とるじゃろ」
「いや、お迎えって・・・?」
「もうすぐ飛行機の時間じゃからな」
「飛行機って・・・まさか」
「うむ、わしはアメーリカに旅立つ」
どうやら、いく=逝くではなく、行くだったらしい。一文字違いで、大きな違いだ。
しかも我尽の魂の叫びは、女性達にも聞こえていたらしい。
「我尽がそんなにお父さん子だったなんて、お母さん知らなかったわ」
「我尽君かっわいーっ!」
「安心して我尽君。無限様は私達がお慰めするから」
そう口々に言われても、我尽は顔を赤くしてただ黙っているだけだ。恥ずかしさではなく、怒りで。
しかしそれも、父の言葉を聞くまでだった。
「では我尽よ、孫千人楽しみに待っておるぞ」
「なっ!? それは・・・」
「門倉の一族は、どう言う訳か女子ばかり生まれて、なかなか男子が生まれん。わしの場合はその上精子に障害があって、ラッキーショットが我尽だったが。
・・・千人も生まれれば、何とかなるじゃろう」
「親父、それは・・・」
本気じゃなくてと言ようとしても・・・。
「ちゃんと孕ませる女は選ぶんじゃぞ。あと、掌握術で妊娠率を上げるのは無しじゃ。漢たるもの、腰の一突きに全てを賭けよ。
なお、帰国は三年後の予定じゃから」
と、聞いてもらえそうに無い。
「ちょっと待てって!」
本日二度目の魂の叫びも、無限を止めることは出来なかった。
一時間後、我尽は将来に大きな不安を感じながら、まずは一人目と薫とセックスを楽しんでいた。
< つづく >