女王の庭 第4章

第4章 女王の庭 (Vol.2)

 晴菜はストリップ歌謡ショーの2曲目を歌う。
 テーブルの上で、細い腰を艶かしく揺らして踊る。
 汗が滴り、テーブルの上に飛び散る。

 倫子は上機嫌で晴菜に声援を送ってやる。
 今日の晴菜は鬼気迫る好演。つい先日までお嬢様くささが抜けなかったのに、エロパンツのおかげか、なんだか吹っ切れたようにイヤらしい。

 なにかご褒美をあげないとね。
 みんなもご褒美あげたいでしょう?

 倫子は、千円札をこより状に捻って、晴菜のショーツに差し込んでやった。

 はい、おひねり。
 万札じゃないけど、親友だということに免じてカンベンしてね。

 おひねりを渡すときに、倫子は、ショーツの中に指を差し入れて陰毛を引っ張ってやった。男たちに見えるように、ゆっくりと大きく指を動かして、毛が少しショーツからはみ出すようにしてやる。

 わっ、お毛々汗まみれ。きったない。
 倫子は指先をおしぼりで拭いた。

 晴菜は律儀に、感謝の意を込めて倫子に笑いかけてくる。
 こんなにヤラしいことやっているのに、笑顔は品を失わず、女の倫子でさえ引き込まれそうになる魅力があった。

 倫子は男たちのほうを見る。
 さあ男ども。お姉さんのやったとおりにやってごらん。

 だが、男たちは、おひねりをしつらえるそぶりも見せない。ここまで晴菜を貶めてやっているのに、いまさらどんな躊躇があると言うんだろう。

 倫子は崇行を目で促す。
 崇行は、はっと気づいたような顔をする。5千円札を取り出す。その中途半端な金額が、晴菜に対する好意と恨みを象徴してるね。

 崇行は、ブラのストラップとカップの境におひねりを差し込んだ。その際に、ブラジャーをぐいと下に引っ張った。
 ブラの左側のカップは、さきほど、梓にずらされたあと、きちん直していないままだ。崇行が引っ張ったおかげで、乳輪まで露になる。かろうじて乳首がひっかかって、完全な露出は免れている。

 他の男3人が身を乗り出して、晴菜のハミ乳首を見つめる。
 あともうちょっと!
 3人とも、慌てて財布を開いた。

 晴菜は、なんとか崇行に笑顔を向ける。おひねりへのお返しに、崇行の前でおずおずと胸をゆする。

 倫子は、よその客がドア越しにこの部屋を覗いて、呆然と口を開けているのに気づく。
 お客さ~ん。どう? うらやましいでしょう?
 この子、スタイル良いでしょ? 
 私たちの、オ・モ・チャ。
 ドアの外からでは顔は見えないでしょうけど、顔のほうも、ホント、すごい美人なんだから。

 角田が5千円と引き換えに、晴菜の左の乳首を露出させた。
 歓声が沸き起こる。
「隊長、お手柄です。ごらんください。隊長! 晴菜隊員の乳首は、なんとも上品で、むしゃぶりつきたいくらい」
「いやいや、私の手柄ではなく、晴菜隊員の手柄ではないのかな」
「いえいえ、まさしく隊長の手柄です。さすが角田隊長。おひねりを渡すと見せかけて、ブラをずらすあたりなど、この吉本、惚れ惚れしました」
 すこし、悪代官と悪徳商人のコントに近いような……。

 晴菜は、座を白けさせるわけに行かないので、胸を隠したいのを何とか抑えて歌い続ける。吉本と角田のこのからかいは聞こえていないだろう。残念なことだ。

 北村が晴菜のTバックの縦紐に千円札を差し込んでいる間に、吉本が角田に言った。
「ときに隊長。その、すこしお金をお貸しいただけないでしょうか?」
「え? なに? どういうことかね、吉本隊員?」
「その、お札がなくて……」
 角田が苦笑いする。しょーがねーな、とつぶやきながら財布を開く。

 梓が割って入った。
「そんなのいいわよ、わざざわお札用意しなくても。硬貨で十分。お札なんてもったいない」
「えっ?」

「そもそも晴菜はシロウトなんだから、お札でなくてもいいの。百円玉とかで十分よ」
 まるで、晴菜の価値はその程度だとでも言うような口ぶりだ。
「晴菜も控えめな子だから、文句なんて言わないって。そこのパンツ、小銭入れみたいで硬貨入れるのにちょうどいいんじゃない?」
 梓はそう言って、晴菜の股間の小さな布地を指差す。

「そ、そう? いいの?」
 吉本が、不安げに周りの顔をうかがうので、倫子が梓に同意してうなずいてやる。
 吉本は、気を使っているつもりなのか、虎の子の五百円玉を取り出した。大事そうに、晴菜の股間に滑り込ませる。
 おずおずと晴菜の顔をうかがう。

 晴菜は、吉本の不安を拭い去るように笑顔を浮かべて、吉本のあごの下に手を伸ばして、かるく撫でてやるような仕草をしてやった。

 晴菜の股間で五百円玉が、紐パンの小さな布地をもっこりと盛り上げている。このマヌケな光景は……
「なんか、チンコみたい」
 吉本が角田の耳元でそっと言う。角田がグフッと笑う。

 倫子が会話に割り込んだ。
「そんなふうに見えるってことは、あんたの、こんなに小さいの?」
 男同士の下ネタに急に割り込まれて、吉本がびっくりする。
「そんなことないよ、もっと大きいって」

「ふーん、どのくらい?」
 今度は梓。

 真面目なはずの梓にまでそんなことを言われて、もともと気の小さい吉本はそわそわとする。
 梓は、財布を取り出して小銭をジャラジャラ言わせている。ニタニタ笑っている。

 うわ、出た。アズサっちの悪魔の微笑。

 梓は無造作に右手で小銭を何枚か掴んで、晴菜の股間に手を伸ばす。
 一瞬、晴菜は身を引こうとして、思いとどまる。

 ダンス中だもんね、晴菜。お客様に失礼があってはだめよ。

 梓は左手でショーツの小さな布地を引っ張って開け、そこにじゃらじゃらと小銭を入れた。先に差し込んであったおひねりを巻き込んで、ショーツの中に小銭が貯まる。
 晴菜が思わず、歌を止める。「ウッ」という声がマイクに入る。
 倫子が晴菜を睨むと、晴菜は慌てて、歌を続ける。切ないバラードを、弱々しく歌い上げる。

 小銭を貯め込んで紐パンの股間がいっそう膨らむ。
 おお。本当にチンコあるみたいだ。

 梓がすまし顔で聞く。
「吉本くん、大きさこのくらい?」

「えっ? ええっ?」
 吉本も角田も、梓の悪ノリに幾分引き気味だ。

「まだ足りないの?」
 梓はためらいを見せずに晴菜の股間に小銭を注ぎ足す。

 晴菜の目が泳ぐ。身体の動きが小さくなり、こわごわと後ずさりする。歌声もますます平板になった。
 ほらほら晴菜。根性足りないわよ。

 股間にいっぱいお金を貯め込んで、晴菜は重そうに腰を動かす。ショーツがずり落ちそうになって、たまらなくなった晴菜が、左手で股間を押さえる。
 プロのダンサーにあるまじき動作!

「ハルハル~、ちゃんと踊れぇ! ストリッパーだろうぉ!」
 倫子が足を踏み鳴らしてブーイングすると、梓も同調する。北村も追随する。
 他の男3人は、さすがにそれはヒドすぎると思ったようで、唖然として見守るだけだ。

 晴菜は、いったん歌をとぎらせ、悔しそうな表情を見せる。小さな唇を噛みしめ、歯を食いしばる。

 まずい、やりすぎたかな?

 だが、晴菜は辛うじて笑顔を浮かべると、歌を再開した。左手を紐パンから離して、やけくそのように大きく腰を振った。
 ショーツから小銭がこぼれてジャラジャラと飛び散る。

 激しく動き回っていたのと、汗のせいで、紐パンの結び目は緩んでいたのだろう。小銭の重しに耐え切れなくなって、紐パンの片紐がほどけ、だらりとずり落ちる。
 ショーツの中に残っていた小銭とお札がテーブルと床に飛び散る。
 その下から、晴菜の全てが露出する。

 テーブル上で、男たちの目の前に、至近距離に、憧れの美女の秘密の花がある。
 目を血走らせて見入る。
 こじんまりとした繁みと、入り口を囲む大陰唇。ビラビラは見えないところが、お上品な晴菜らしくていい。
 言葉もなく、まじまじと見つめる。

 そんな目に遭って、晴菜は、涙目になり、声を震わせながらも、なんとか歌い続ける。
 顔を凍りつかせ、機械的に腰を振る。
 男たちがそれにあわせて首を振る。
 梓は大笑いだ。

 あーあ。モロ出しは避けるようにしてたのに。お店と問題起こっても知らないよ。
 前もって晴菜に対しても、お店に迷惑かかるからモロ出し禁止、と仕込んである。そのせいもあってだろう、晴菜は軽いストレス下にあるらしく、不安そうだ。

 倫子は、カラオケルームのドアの方を見た。さきほどまでドアのガラスに貼りついていた客はいなくなっている。部屋の天井を見た。クスリや未成年淫行防止用に監視カメラ(のダミー)を置いている店もあるらしいが、そういうものはなさそうだ。

 ま、いっか。
 どうせここまでやっちゃったんだし。

 倫子は、晴菜に近づく。肩に手を置いて、耳元に口を寄せる。
 崇行がリモコンを取って曲を終わらせてくれるが、倫子は崇行に、すぐに次の曲を鳴らすように合図を送る。

 大丈夫。すぐ終わるから。
 晴菜のスイッチ入れるだけだから。

「晴菜さん。さあ、いよいよですよ。ホンモノのストリップをしましょう」
 晴菜の肩をポンポンと叩く。

 ご紹介します。
 新しい踊り子さんです。
 どうぞ!

 晴菜が瞬きする。曲が止んでいるので、素面だ。傷ついた表情を浮かべ、身体を隠そうとする。涙目で、倫子にすがりつこうとする。

 次の曲が始まった。

 晴菜は「あれ?」という顔をする。曲に耳を済ませる。浜崎あゆみのヒットソングの前奏。目を下ろして、自分が身につけているものを確かめる。
 晴菜はマイクを置く。もう歌う必要はない。「ホンモノのストリップ」だから。ストリップだけをする。下着までというリミッターはない。
 これまでの経験と、晴菜の成長ぶりを、思う存分に見せる場だ。

 晴菜は立ち上がって、客たちの顔を流し目で見る。けだるい表情を装う。
 足を開く。柔らかな動きで腰を突き出す。自分の陰部を見せつける。
 もう、恥らう様子もない。不安そうな様子もない。

 しばらく静かになっていた客席が盛り上がる。
「おー、晴菜ちゃんサイコー!」
「綺麗なオマンコー!」
 晴菜はうっとりとした表情で、声援にこたえて頷く。

 晴菜は、両手を背中に回してブラのホックを外した。ストラップに親指を引っ掛けるようにして、気取った仕草で水色のブラを外す。

「ヒューヒュー!」
 声援が上がる。

 両手をオッパイの下に添える。右手の指にブラを引っかけたままだ。両乳房を持ち上げ気味に、誇るように胸を見せつける。

 晴菜の表情が、さきほどまでと違う。
 さっきは、少しからからかうように男を誘っていたが、今はアンニュイな雰囲気を漂わせ、酔ったような表情をしている。濡れたような色艶と身体の魅力で男をがんじがらめにして、自分に引きずり込もうとしている。

 新たに露になった乳房に、ほとんどの男たちの目が奪われる。
 ただ1人北村が、晴菜の陰毛の本数を数えようとでもするように、身を乗り出して下半身に見入っていた。
 その北村の顔に、晴菜は、外したばかりのブラをぶつける。

 北村がムッとして顔を上げると、晴菜はその顔に自分の胸を押し付けて圧迫する。
 文句を言おうと口を開きかけていた北村は、苦情を言うかわりに「ぐふふふ」と嬉しそうな声を上げる。

 うわっ。晴菜。そこまでやる?
 ほんと、吹っ切れちゃってる。
 ついこの前は、下着の色答えるだけでも顔を真っ赤にしてたのにね。

「晴菜ちゃ~ん、こっちも~」
「オレのほうが先~!」
 北村をうらやましがって、角田吉本が催促する。

 晴菜が、とても嬉しそうな顔をする。罠にかかった獲物を見るような目で角田吉本を見る。

 見ていて倫子はゾクリとする。
 なんだか、この晴菜、凄みがある。
 これまで見たことのないような、動物じみた、雌の匂いがする。
 その一方で、清楚なお嬢様らしさも残っている。2種類の香気の配合が、強烈で鮮やかだ。

 梓の方を見る。
 さっきまで晴菜をさんざん笑っていた梓は、頬に嘲笑を漂わせながらも、うっとりした目で晴菜に見入っている。

 晴菜の色気に、同性でさえ魅入られてしまいそうになる。

 晴菜は吉本の前に移動する。首を傾けて、尋ねるように細い指で自分の身体の2箇所を指し示す。
 オッパイ? オマンコ? どっち?
 音楽が鳴っているので、声は出さない。

 吉本は、顔をほころばせて、ニタ~っとする。
 角田が文句を言う。
「うわ、吉本! 先に、ずるいぞ!」

 角田は、吉本の前に身を乗り出して、晴菜の股間を指さす。
 角田の下から、吉本は胸を指さす。

 晴菜は、艶かしく笑う。角田が差した人差し指をなだめるように2回ポンポンと叩く。それから、その人差し指を掴んで、ゴメンねと言うように指先を口の中で咥えて、チュ~ッと吸いあげる。
 晴菜が、唾液にぬめった角田の指を吐き出す。角田は、その自分の指先を、呆然と見詰める。

 もう、役者が全然違う。
 晴菜の色香に、すっかり弄ばれている。

 晴菜は、前かがみになって吉本にのしかかる。両乳房でかわるがわる、吉本の両頬をはたく。
「うわーサイコーっす。隊長! 晴菜隊員の胸は、サイコーっす。なんか、乳首が当たるのがわかります~」
「吉本隊員! 隊長を差しおいて! けしからん!」
「隊長、ですが、これはどうしようも……」
 吉本が口を開いてしゃべっているのを見て、晴菜がいたずらっぽく笑う。右手を右乳房に添えて、その先の乳首を、開いている吉本の口に突っ込んだ。
「うわっ、ウグッ!」
 吉本は歓声をくぐもらせる。

 晴菜ちゃんのオッパイを吸える!

 吉本が晴菜の乳首を咥えようと、口を閉じる前に、晴菜は胸を引いてしまう。吉本が名残惜しそうに手を伸ばすと、吉本をいなすようにその手を払いのける。妖艶な笑顔で吉本を慰める。

 もう、なんでもありね。
 晴菜のハダカを見れただけでフラフラになっている男たちに、晴菜は次々に致命傷を与える。

 次は角田だ。角田の顔の前に、股間の陰りを見せつける。
 汗の匂いと、それ以外の心地よい香りが角田の鼻を刺激する。
「吉本隊員。隊長の勇姿を見たまえ!」

 角田が顔を突き出す。晴菜が細い指で角田の顔を愛撫してから、角田の顔を両手で挟み込む。そして、自分の股間を角田の顔に押し付けて、グリグリと腰を回す。かすかに湿った陰毛が、パサパサと角田の顔を刺激してこそばゆい。

 角田は、ハアハアと息をつく。顔を横に向けて何とか言葉を発する。
「よ、吉本隊員! 見ておるかね!」
「隊長! すばらしいであります! 晴菜隊員のアソコが、隊長の顔を食べております」

 晴菜は、最後に残った崇行の顔を見る。親密な微笑を投げかける。

 崇行はうっとりと晴菜の顔に見つめる。
 晴菜の端正な顔だちから、にじみ出るような艶に、魅入られる。

 晴菜が首をかしげて、寂しそうな、でもどこか甘ったるい顔をする。

 ああ、そんな切ない顔をしないでくれ!

 崇行が追い詰められたように首を横に振る。

 崇行が晴菜のサービスを拒絶していると思い込んで、北村が割り込む。
「山越が遠慮するんだったらおれ! おれも晴菜ちゃんのオマンコ舐めたい!」
 角田が口を挟む。
「なんだそれは? いや、おれも舐めてないぞ!」
「お前が舐めないのは勝手だけど、おれは絶対に舐めるからな!」
「ズルイぞ。だったらおれも、もう1回!」
 北村と角田が醜い言い争いを始める。

 晴菜は、それを気にも留めない。悩ましげな表情をしたまま、四つん這いになって崇行に近づく。
 派手に身体をくねらせることはない。余計な動作がなくても自分の身体だけで、男を魅了できることを知っているかのようだ。
 下向きになった乳房の高さを確かめようと、吉本が横に回りこむ。美しいのは胸の形だけではない。背中から腰へ下った曲線が、ヒップに向けてクイッと上り坂になっている。信じられないくらい腰が細い。

 テーブルの上で、晴菜の細い身体が、崇行ににじり寄る。
 晴菜が、崇行の前でもう一度首を傾ける。
 声は出さない。
 だが、単に誘っている以上の切ない表情。「来て」と聞こえてきそうなくらいだ。

「晴菜ちゃん……」

 晴菜が、愛しげに崇行を見つめる。
 崇行のすぐ目の前に顔を近づけて、晴菜が目を閉じる。
 晴菜が唇を差し出して、それに崇行が口づけをした。

 短いキス。

 それだけで、崇行には十分だった。
 晴菜との夜を思い起こさせる甘い舌の味。
 崇行の憧れの女神。
 魔法のようなキス1つで、崇行の記憶と欲望を揺り起こす。

「わっ、ずるいぞ! 山越。おれもキスしたい!」
 何でも欲しがる北村が声を上げる。

 晴菜は、キスの後もしばらく崇行の顔を見つめる。
 そっとため息をついてから目をそらす。
 キスをねだる北村に「ごめんね」と言うような表情で、首を横に振った。

 浜崎あゆみのカラオケ伴奏が流れ続けている。ヴォーカルがないと間抜けに聞こえる。はっきりと何かが欠けている音楽。
 だが、欠けたものを補うだけの、存在感のある濃密な空気が流れている。

 男たちは、晴菜の妖艶な世界に引きずり込まれ、時間を忘れている。
 晴菜は、女性客のことはまったく眼中にないように振舞う。男の視線だけが、晴菜の快感だ。

 倫子はフフンと笑う。
 ホントにこれが晴菜? あの男知らずだった晴菜?
 いや、この子は、今でもまだ、男の心も男の身体も、ろくに知らない。
 でも、こんなに男を喜ばせることを知っている。自分は、男を喜ばせるための存在だとわかっている。

 晴菜が美人なのはなんのため? 晴菜がスタイルがいいのは何のため? 晴菜が聡明なのは何のため?
 それはぜんぶ、男を喜ばすため。

 晴菜はテーブルの中央に這って戻って、腰を下ろす。男たちの方を見てM字開脚になる。
 男たちは、晴菜のM字開脚なら、たしかに前にも見たことがある。
 だがもちろん今回はスペシャルだ。

 あの邪魔な布がない。

 毛が見える。割れ目が見える。割れ目を囲む丘が見える。蕾が見える。
 花びらは……?

 晴菜がウフンと笑って、顔の前に右手の人差し指をピンと立ててみせる。その細い指を、自分の割れ目に向ける。
 ここに注目して。
 あなたたちを、この、甘い秘密に引きずり込んであげる。

 中指と人差し指を立てて、割れ目の中に入れる。そして、左右に開き始める。

 うわー晴菜ちゃんが、自分で性器の中身を……!

 もはや囃し声をたてる者もいない。黙って、見入っている。晴菜が大切な宝物を、仲間たちに見せてくれる。

 倫子は喜びを噛みしめる。
 うふふ。晴菜、とうとうこんなことする女に成り果てちゃった。
 親友として、とってもうれしいわ。
 着実に、男のオモチャへの道を歩んでるよ。

 少し痛みがあるのか、晴菜がかすかに顔をしかめる。晴菜は左手を添えて、見え始めた花びらを整えるように広げる。内側の桜色を見せる。目に痛いほどの綺麗な桜色。

 うわー晴菜ちゃん! あの晴菜ちゃんのアソコ!
 全部さらけ出して!
 ヤラシイ!
 でも、キレイ。
 いやらしくて清純な、まさに晴菜ちゃんそのもの……

 熱を放つような男たちの視線を感じて、晴菜は顔をほころばせる。あられもなく自分の中身を見せながら、端正な顔を桃色に染めてアヤしく笑う。

 男たちが顔を近づける。肩を押し合って、争う。蜜に誘われ、群がり寄るミツバチのように……。

 突然、ドンと音を立てて、カラオケルームのドアが開いた。照明が明るくなった。曲が止まる。
 ドア口にカラオケ店の男性店員が立っていた。
「お客さん!」
 カラオケルームの中の様相をみて絶句する。額に青筋をたてて怒鳴る。
「……なんだ!なんだこれは? お前ら、何やってるんだ!」

 倫子が小さく舌打ちする。
 うわ、まずい。やっぱり、やりすぎだったか。
 全員が身をすくませる。

 曲が止まったので、晴菜は後催眠から脱する。
 慌ててテーブルから飛び降りる。脱いだ服をかき集めて、部屋の隅に背中向きになってしゃがみこむ。
 しくしくと泣き始める。

 店員は血走った目で全員を睨みつける。
「お前ら、なに考えてるんだ? ここを何だと思ってるんだ? いい加減にしろ。ここはホテルじゃないんだぞ!」

 店員は、けっこう年上。バイトではなく正社員。おそらく、責任者。店長さん?

 倫子は、殊勝そうな表情を装う。
 友人たちは、顔をうつむかせて、すくんだように動けない。器の小さい北村、角田、吉本は、威圧されてまったく使い物にならない。梓も、最近でこそ悪魔の本性を現しているものの、これまで真面目一筋の人生だったから、修羅場では役に立たない。
 まあまあ使えるのは崇行くらいか。
 ここは倫子がなんとかしないとけない。

 倫子は、店長(たぶん)の気が休まるまで、しばらく好きなように怒鳴らせておいた。どうやら、風俗店と間違われると、警察に取り締まられるということらしい。
 長くなり過ぎない適当な時間を待ってから、倫子は、はっきりとした声で謝った。声と態度に誠意がこもるように注意する。
「すいません。私たちが調子に乗りすぎました。すぐに帰ります。散らかしたのは掃除します」

 崇行も一緒になって謝る。そして、床の上に散らかったグラスや皿をてきぱきとテーブルの上に並べる。他の男子学生もゆっくりとした動作で崇行を真似る。梓は、顔面蒼白になって壁を見つめたまま、動けない。

「お前ら、学生だろ? どこの大学だ? お前らの大学、出入り禁止だ!」

「すいません、帝都大学です」
 即答する。間を置いたらウソだとばれるから。
「でも悪いのは私たちだけですから、他のみんなに迷惑かけたくありません。私たちは二度と来ませんから、他のみんなの出入り禁止は勘弁してください」

「学生証見せてみろ」
 他の学生に迷惑かけたくないと誠実ぶったので、本当の帝都大学生っぽく聞こえたはずなのだが……。

 まあいい。
「持ってません」
「誰も持ってないのか?」
 店長が全員の顔を見回す。みんな目をそらす。
「はい。いま夏休み中ですから」

「お前らみたいなのが、本当に帝都大学生なのか?」
「はい。でも、あのコだけは、風流女子短大です」
 そう言って倫子は晴菜を冷たく指差す。

 風流女子短大は、啓知大学のそばの、低脳大学。啓知大学の男子学生がときどき合コンしたり、インカレサークルを作ったりしている。倫子たち一部の女子が「フーゾク女子短」といって馬鹿にしている大学だ。
 さすがにモロ出し女だけは、帝都大学にいるわけないもんね。
 あ、しまった、短大だったら未成年? うーん、モロ出しするくらいだからきっと留年してるってことで。

 倫子に普段バカにされている風流女子短大の学生だと言われて、晴菜は涙ぐんだ顔を上げて振り向く。泣き腫らした目でつらそうに倫子を見つめる。だが、店長の軽蔑しきった視線と目が合って、慌てて目を伏せる。

 店長は、ヌード女の顔を始めて正面から見て、その美貌に驚く。こんな、女優みたいな顔した美人が……。
 晴菜の瞳は涙に潤み、いつにもまして男心をくすぐっている。
 店長の視線が、美女の裸身へと下りる。華奢な肩、輝くような白い素肌の背中、引き締まった腰、形のいいお尻に見惚れる。正面が見えないのが残念だ。思わず唾を飲み込む。

 店長の視線の動きと表情の変化を見て取って、崇行が口を挟む。
「いい女でしょう?」

 場をわきまえない下品な言い草に、晴菜が泣き顔を上げて崇行を睨む。
 店長が何か言う前に、倫子が崇行をたしなめて見せてやる。
「こらタカユキ! あんた、ゼンゼン懲りてないの? これ以上お店に迷惑かける気?」

 お店に迷惑をかけるかどうかはともかく、崇行は素直に店長に謝る。
「すいませんでした」
 黙々と部屋の掃除を続ける。

 打ち合わせもしてないのに、崇行と倫子のナイスなコンビネーションだ。

 店長は、自分がじろじろと晴菜のヌードを眺めていたことを曝されて、気まずくなる。さっきまでの気勢が削がれる。咳払いしてから、低い声でしかめつらしく言う。
「わかったな。お前ら、支払いはいいから、さっさと帰ってくれ」
「いえ、ご迷惑をかけたから、料金は払います」

 店長は精一杯威厳を保った表情で黙り込む。
 倫子は心の中で舌を出す。晴菜のヌードを涎たらしながら見ていたくせに、偉そうな顔するなよ。

「わかった、料金を払って、さっさと帰れ」

 床に落ちていた晴菜のおひねりをかき集めて、支払いを済ませ、逃げるように店を後にした。

 帰り道、男たちはすっかりしょげ込んでいる。

 倫子は男たちのふがいなさに呆れる。
 たかがこの程度のことで……。まったく頼りない。
 あーあ、こういう修羅場で使える男って、結局は今井弘充だけだったりするのよね~。

 梓のほうは、立ち直ったのかどうかはともかく、晴菜イジメを思いついて、夢中になっている。全部晴菜のせいにして、ネチネチとイヤミを言っている。どんなチャンスでも晴菜イジメに生かすのが、桐野梓の新しい生き方だ。

「晴菜が勝手に服脱ぎ始めたせいであんなことになったのよ」
「みんな内心呆れてたけど、晴菜のために盛り上げてあげてたのに。恩をあだで返されたような気分」
「張本人のクセに、自分はお嬢様ぶって泣いてただけで、なんにもしなかったね。役立たず! あんたがハダカで土下座すればよかったのよ」
「あんた、啓知大学生だってバラそうとしてたでしょ? まだ私たちに迷惑かける気だったの?」
 うわ、次から次へと。なんてひどい言いがかり……。
 アズサっちステキ。

 晴菜は、恥態をさらしたショックの上に、理不尽な非難まで浴びて、いつまでも泣きやまない。
 梓の隣を避けて、倫子に身をすり寄せてくる。

 倫子はしばし考える。
 えーと、私の役割は? 晴菜の敵? 晴菜の味方?
 その両方ですね。ふふふ。

 倫子は晴菜の細い背中に手を回してやる。
「ハルハル。気にすることないよ。私、ハルハルのストリップ大好きだから。そういう恥ずかしいところを平気でできるところって、ハルハルの新しい魅力よね」

 傷口をえぐる言葉に、晴菜はぐすぐすと涙を零す。できることなら倫子に反駁したいところだろうが、唯一の味方を敵に回すようで、ためらっているのだろう。
「ねえ、ハルハル。次は、邪魔が入らないように、うちでストリップショーやろう。名誉挽回よ。あれ、汚名挽回? どっちだっけ?」
 晴菜は涙顔を引きつらせる。
「ねえ、みんなぁ! 今度うちでハルハルのストリップをオールナイトでやるから、来てね」

 テンションが下がりきっている男たちは誰も返事もしない。
 まあ、それはどうでもいい。晴菜にさえ毒が伝われば。
 晴菜は、いっそう泣きじゃくる。

「あれ、どうしたのハルハル? ほら、泣かなくていいのに。ねえ、もっとたくさん人を呼んで、ぱーっと盛大にやろっか?」
 倫子はそう言ってイジメ続けた。

 地下鉄の駅で、切符を買おうとしたときに、なくなっていた晴菜のショーツが見つかった。晴菜自身のハンドバッグに入っていた。

 晴菜のハンドバッグをずっと預かっていたのは、梓だ。
 倫子以外は、犯人が誰かなんてことに、関心もないようだ。

 梓は何食わぬ顔だ。
「なんだぁ、結局、晴菜、自分が持ってたんじゃないの! さんざんみんなに探させて、ミッちゃんから替えのショーツ取り上げといて、これはないでしょう? まったく、お嬢様はこれだから困るわ」

 アズサっち。あんたホントひどいよ……。
 倫子はため息をついた。

 だいたい、カラオケ店で店長に怒られるようなモロ出しに展開しちゃったのも、もともとは、アズサっちが暴走して下着にお賽銭を入れ始めたりしたからなんだし。
 店に怒られたりしないように、モロ出しは禁止してたのに。その配慮を全部無駄にしてしまって……
 ほんとにもう……

 アズサっち。あんたはサイコーよ。

 倫子が一連のこの計画を始める、最後の引き金になったのは、晴菜と弘充がつき合い始めたことかもしれない。晴菜がいつまでもカレシなしの寂しい女のままでいてくれたら、結局倫子は何もしなかったかもしれない。
 それなのに、よりによって最高の男とくっついて、吐き気が出るくらいの幸福を手に入れた。

 突き落としてやらないと気が済まない。サイテーの女になってもらおう。

 催眠術をこんなことに使えるかどうか自信はなかった。
 少しずつ時間をかけて晴菜に催眠術をかけていった。

 前に言われたことがある。倫子は、人の心理を読んでそれに合わせて働きかけるのが上手いらしい。ふーん、って感じだったけど、晴菜を相手に試していると、なんとなく自分でもわかった。

 ただ、なんせ経験が足りない。
 自分の施術がどこまで浸透しているのか読み誤まって、何度か失敗した。

 だが、晴菜と今井弘充を一時的なけんか別れに追い込んだ時には、コツを掴んでいたような気がする。
 晴菜と弘充が本当にそこで別れてしまっては、後の楽しみがなくなる。倫子は、2週間おいてから仲直りさせてやった。

 二人をけんかさせている間に、弘充にも催眠術をかけてみた。晴菜との仲をとりなすふりをすると、自然に弘充に近づくことができた。ついでに催眠術にかかった弘充とえっちを試してみた。

 なかなか良かった。
 いいオトコとするのは、やっぱりキモチいい。

 どうしてこう、晴菜のところには最高のものが集まるのだろう?

 晴菜と弘充がヨリを戻すまでの間、毎日のように弘充と寝た。

 弘充を晴菜に返すとき、二人におまじないをかけた。

 晴菜のやつ、フェラチオをやったことがないと言う。
 何様のつもりなんだろう? お姫様ぶりやがって。
 私が男を喜ばせるためにどれだけ苦労していると思うの?
 また晴菜だけは特別扱い? お姫様なら、なにもしなくても男は満足?
 そんなの許せない。晴菜にも、ちゃんとお勉強してもらおう。最低限、お口だけでも男を喜ばせる女になってもらわないと。

 そこで、晴菜には弘充相手におしゃぶりの特訓をしてもらうことにした。お口で射精させない限りセックス禁止。
 練習熱心な晴菜は、上達が早かったらしい。
 人並みにこなせるようになったらしいので、最近、弘充と晴菜は完全にセックス禁止にした。今は、恋人との夜は、すべてお口で済ませている。下の口で咥える暇があったら、上の口を鍛えろっての。

 でも、本人たちは、ぜんぜん知らないんだけどね。
 二人とも、定期的に二人で素敵な夜を過ごしているつもりでいる。晴菜は、いまだにフェラチオバージンのつもりでいる。でも、ホントは……。うふふ。下のお口より使い込んでるんじゃないかな?

 そういうわけで、ここ最近、晴菜は、今井弘充とはすっかりご無沙汰だ。

 晴菜は、あんなにすまし顔してるけど、本当は、男日照りで身体が疼いてるんじゃないかな?

 ねえ晴菜、ほかにも、男をあてがってやろうか?
 タカユキじゃあ、イイ男過ぎて、晴菜にはもったいなすぎるもんね。
 それとも、もうちょっとガマンしてみる?

 うふふ。
 どうしよっかな~

 8月の上旬、倫子は実家に帰省した。
 東京に戻って来ると、あの連中から、遊ぼう遊ぼうのメールが殺到した。

 疲れてるのに、もう。

 倫子は、晴菜と梓を自宅に呼ぶことにした。弘充がついて来そうになったので、「今夜は女同士でDVD鑑賞会だから、男子は禁止」といって断った。

 その日、倫子は、晴菜に会ってまず、その服装を確認した。
 ジーンズ地のミニスカートに、ファスナーで前を閉じるタイプのノースリーブの白のトップス。だいたいOKだ。倫子の指示どおりだ。晴菜は覚えていないだろうけど。

 女3人でレストランで食事していると、「偶然」崇行たちが同じ店に現れた。北村、角田、吉本とお揃いで。
 男たちは、ひさしぶりに晴菜に会えて、えらく嬉しそうだ。もの欲しそうに倫子の顔を見る。
 倫子は疲れているので、いちいちつきあってやらなかった。レストランの中でお遊びはなし。

 倫子も梓も何も言わないので、かわりに晴菜が言った。「今夜は女同士でDVD鑑賞会だから、男子は禁止」
 倫子と梓は「そうよそうよ」と気のない調子で同意した。
 男たちは、かまわずに倫子たちについてきた。
 いかにもしようがないといった風を装って、倫子は男たちを部屋に入れた。晴菜は不満そうだった。

 晴菜には、ちゃんとソファに座ってもらった。
「私だけソファなんて悪いよ。みんな床の上に座っているのに」
「いいからいいから、気にしないで。今夜はハルハルが主賓なんだから」

 今夜だけではなく、最近では毎夜、晴菜が主賓だ。

「主賓?」
「そ、ぜひハルハルに見て欲しいDVDなんだ」
「えーと、どんなDVD? 映画?」
「それは見てのお楽しみ」
 倫子はそれ以上語らない。

 DVDのオープニング画面を見て晴菜は眉をひそめた。
 これ、アダルトビデオ? 
 晴菜は、おずおずと倫子の顔をうかがう。
 倫子は何食わぬ顔で、オープニング画面をスキップ、チャプターセレクトしてお目当てらしいシーンを呼び出す。
 晴菜はもう一度画面を確認する。やっぱりアダルトビデオだ。

「ミッちゃん!」
「ん? なに? ほらハルハル、始まるよ」
「これ、えっちなビデオでしょう? 私に見せたいとか言って……」
「え? ん? なになに?」

 倫子がすっとぼけるているのを見て、晴菜は思う。
 またミッちゃんのイタズラだ(確かにその推察は正しい)。えっちなビデオを見せて、私をからかうつもりに違いない。
「またもうっ」

 晴菜は倫子の手のリモコンに手を伸ばす。
 しばらく倫子とじゃれあって、リモコンの奪い合いをする。
 倫子が言う。
「もう、ハルハル。わがまま言わないの。もうDVD始まってるから、画面見てごらんよ」
 晴菜はリモコンを掴んだまま、ちらりと画面を見る。その隙にリモコンは取り返されてしまう。

 倫子が立ち上がって、晴菜の後ろに回りこむ。よく通る声で、晴菜の後ろから話しかけてくる。晴菜は、まるで頭の中から話しかけられているような気持ちになる。
「ほら、画面に映っている女のコ。晴菜さんそっくりよ」
「え? そうかな?」

 画面の中では、若い女の子が、カメラに向かってソファに腰掛けて座っている。カメラのこちら側にいるらしい男と会話を交わしている。
 女の子はたぶんAV女優。でも、晴菜が想像していたAV女優とはイメージが全然違う。綺麗でおとなしそうな女の子で、こんな綺麗な子がAVに出るなんて信じられない。
 でも、そんな綺麗な子であっても、AVに出てる女の子と似ていると言われて、素直には喜べない。
「えーっ、似てないよ」

「そんなことないよ、晴菜さん。よく見て」
 晴菜は画面の中を見つめる。

 倫子が言う。
「ほら、晴菜さんも美人、あのコも美人。髪型も同じ。服も同じ。そっくり」

 画面の中の女の子も、ジーンズ地のミニスカートを穿いて、白のノースリーブのトップスはファスナーで前を開くタイプだ。
 細かい違いはある。画面の女の子のスカートのほうが、色落ちが強いし、丈も短い。スカートの裾は、わざとほつれさせているデザインなので、晴菜よりカジュアルに見える。トップスは、晴菜の服は、しっかりしたコットンの生地で、ゆったりとしたシルエット、飾りポケットがすこしサファリ風で、襟の折り返しや裾の縁取りの縫い目が繊細で女らしい。一方、画面の中の女の子のトップスは、同じようにファスナーで前を開くタイプでも、身体の線がはっきり出るタイトなデザインのカットソーで、丈が短く、ウエストの肌が少し見える。

 だが、トップスとボトムスの色の組み合わせが同じなので、色合いから受ける印象は共通だ。
 カメラが引いて女の子の顔立ちや表情がわかりにくくなると、晴菜と似ているという印象がさらに強くなる。ソファに座っている姿勢も同じなので、鏡を見ているような錯覚すら感じる。

「名前までそっくりよ」
 晴菜は耳を澄ます。ビデオの中の女の子は、カメラのこちら側にいるらしい男性から「ハルカちゃん」と呼びかけられている。

 女の子は、画面に向かって自己紹介をしている。
《ハルカです。20歳です》
 倫子が囁く。「年齢も同じ」
《大学3年生です。大学名は、ナイショです》

《何の勉強してるの?》
《経済学部》

《へぇぇ、難しいことやってるんだね?》
《そんなことないですよ》
……

 晴菜の表情が消える。うつろな目で画面に見入り、スピーカーから流れてくる言葉に耳を済ませる。晴菜との共通点が出るたびに、倫子が諭すように囁く。

「晴菜さんと同じで音楽をやっていたんだって」
 楽器が違うということには触れない

「晴菜さんと同じで、アイスクリームが好きなんだって」
 ほとんどの女の子はアイスクリームが好きだ。

「カレシからキスされるのが大好きだって」
 女なら誰だってそうだ。
……

「全部同じね。まるでコピーみたいにそっくりね。
 そう。まさにコピー。
 晴菜さんは、あのコを写したコピーなの。晴菜さんは、あのコの影みたいなもの。晴菜さんは、あのコのマネをしているだけなんだもの」

「ほら、あのコが髪の毛をいじってるよ。そしたら、コピーの晴菜さんも髪の毛を触るのよ。
 そう。それでいいのよ。だって、晴菜さんはあのコの影なんだから」

「晴菜さん、余計なことは考えないで。晴菜さんはあのコのコピー。考えるのはあのコの仕事。晴菜さんの意識は、全部あのコに吸い取られちゃったの。ここにいる晴菜さんは抜け殻。ここにいる晴菜さんは自分では何も考えられない」

「晴菜さんの心は、全部あのコのもの。晴菜さんの身体は、全部あのコもの。あのコが感じたとおりに、晴菜さんは感じる。あのコが考えたとおりに、晴菜さんは考える。あのコが動いたとおりに、晴菜さんも動く。あのコがしゃべったとおりに、晴菜さんはしゃべる」

「何も考えなくていいのよ。晴菜さんは、あのコのことをまねてさえいればいいの。だって、あのコが晴菜さん自身なんだもん」

「ほら、あのコがしゃべってるわ。あれは晴菜さんの言葉よ。ほら、晴菜さんもしゃべってごらん……」

 しばらく倫子に諭されているうちに、晴菜の瞳に光がよみがえってくる。顔に表情が戻る。だが、普段の晴菜より緩んだ表情だ。
 上目遣いで、晴菜の正面に座っている崇行の顔を見る。画面の中のAV女優と同じ、媚びたような表情で。

 いつもながらの倫子の手際に、男たちは感心する。晴菜がAV女優に自分をなぞらえていくのを目にして、これからの晴菜の変貌を期待する。

 晴菜は口の中で小さくなにかをしゃべる。その声はだんだんと明瞭になる。普段のしゃべり方と違って、甘えるように語尾を上げる。

 ビデオの中で、男の声が聞く。
《今日はカレシはどうしてるの?》
 ビデオの中のAV女優が何か答える。ワンテンポ遅れて、晴菜が答える。
「仕事してます」
 少しイタズラっぽい笑顔。

《カレシはAVに出ること知ってるのかな》
「しーっ。ナイショです」
《バレたらどうするの?》
「シラばっくれます。ふふふ」
 晴菜がクスクスと笑う。ビデオの中の男も笑い声をたてる。

《えっちはどれくらいやってるの?》
「週末は必ず。それ以外にもときどき」
 いかにもAVっぽいやりとり。

《あれ、さっきカレシとのデートは週末だけって言ってたね? 週末以外のえっちって誰と?》
「しーっ、ナイショです」
 また男性の笑い声。
《えっちは好き?》
「うん。晴菜、えっち大好き」

 晴菜がカワイイ声でそんなことを口にするので、男どもが落ち着きなく身体を動かす。「晴菜ちゃんえっち好きなんだ~」と吉本がおうむがえしに言う。

《それじゃあ、カメラの前でこれからオナニーをやってもらいます。準備は大丈夫?》
《おっけーです》
《オナニーはどのくらいやるの?》
「えーと、最近はあんまりしない。カレシがいなかったときは、毎日してたこともありました。あ、でも、この前カレシの前でオナニーやったら、スッゴク喜んでくれた」

 そんな女いないってば! 
 でも、晴菜の澄んだ声でそんなこと言われると、想像するなぁ。晴菜が今井弘充の前でオナニーしてるとこ。

 男たちは、でれーっとした顔で聞いている。

《じゃあ、カメラの前でやるのも、カレシの前でやるのと同じだね》
「うーん、そうですかぁ? ちょっと違うよぉ」
 晴菜がクスクスと笑う。画面の中のAV女優と同じように。

 ビデオの中の男は話しかけるのを止めて、カメラを引く。

 晴菜は、少し落ち着かなさげに体を動かす。カメラがあるはずの正面に目をやる。崇行と目が合う。

 男たちが期待に胸を膨らませながら晴菜を見守る。
 これから、小野寺晴菜のオナニーが見れるのだ。
 お盆休みの間、エロ晴菜ショーは休演していたので、復帰公演としては最高の出し物だ。久しぶりに見る舞台上の晴菜は、指でアソコを広げて見せびらかしていたのがウソのように、元通りの清楚さを保ったままだ。

 晴菜はソファに座ったまま、少し足を開く。顔をうつむかせて服の上から右手で自分の胸に触る。細い指でそっと揉む。

《いつも、どういうことを想像しながらオナニーするのかな?》
「えーと、いろいろ。普通じゃないこと想像すること多いかも。たくさんの男の人に、えっちなことされているところとか」
《そっかぁ。じゃあ今、カメラの向こうで、日本中の男の子がハルカちゃんのことを見てるんだよ》
「うふふ。ちょっと、緊張しちゃうな」

 倫子は、バカっぽいAVのやり取りを聞いて、口を手で押さえて笑う。
 これからオナニーっていう女の子にそんなに話しかけたら、気が散るっての。

 晴菜は少しの間だけ、目を閉じて服の上からオッパイを揉む。細目を開けて画面を確認する。
 すぐに、いかにもたまらなくなったかのようなAVっぽい演技で、もどかしげにトップスのファスナーを下ろす。

 心の中で倫子は、AVの演出にツッコむ。
 オナニー始める前に普通は脱いでるってば。

 男どもは、「いよいよだ」という表情で見守る。

 晴菜が上着をはだける。前もって倫子が指定したとおり、晴菜は白のハーフカップのブラ。

 男たちは、久しぶりに観た晴菜のブラ姿に興奮して、そわそわとする。
 晴菜がチラリと目を上げる。目が合ったと思ったのか、吉本がびくりとする。

 さっさとブラをはずせばいいのに、その前にいったん、律儀にブラの上からオッパイを揉む。きれいに爪を手入れした指が、カップの上からめり込む。
 「ハァーッ」とため息。

 太ももをそっと広げる。自分の手でスカートをめくる。男たちに(カメラに)ショーツが見えるようにする。
 ブラとおそろいの、清潔そうな白のショーツ。
 右手の中指で、ショーツの上から、割れ目があるはずの箇所をなぞる。細い指がショーツの上を擦る。

 吉本がヒヒヒと笑いながら言う。
「晴菜ちゃん、えっちぃ」

 それに答えるかのように、晴菜が小さく笑う。
「ンフフ」
 たまたまそのタイミングでAV女優が小さく笑っただけなのだが、まるで吉本に答えたかのようだ。男たちが、びっくりして顔を見合わせる。

 晴菜は、自分の股間には数回触っただけで、いったん手を戻す。
 せかせかとブラのホックを外し、上着と一緒に脱いでしまう。晴菜の両乳房があらわになる。

 お久しぶり。かわいい乳首ちゃん。
 男たちは、いとおしむような目で見つめる。

 形よく膨らんだ白い乳房に、上品そうな可愛いらしい乳首。何度見ても見飽きない。
 このオッパイの持ち主が晴菜だと思うとなおさらだ。
 晴菜の端正な顔立ちと、恥ずかしそうにちぢこまっている乳首とを、何度も比べ見る。

 晴菜は、右手の人差し指と中指で自分の左の乳首を挟んで、揺さぶるように軽く擦る。次に左手で、右の乳房。
 ためらう様子はない。素面の晴菜なら、恥ずかしくてできるわけがないのに。こんな男たちが目をギラギラさせている前でなんて。

 晴菜は小さくため息をついて、下半身の方に移る。
 左手を添えてショーツを押さえるようにしながら、右手の指でショーツの中央部を縦になぞる。上下に数回さすってから、細い中指で強めに押しこんで、上下左右に揺らすようにこする。
 細い声で、「ンンッ」と小さく喜ぶ。

 吉本が身を乗り出す。他の男の視界をさえぎったので、崇行から後頭部をはたかれる。
 吉本は、首をすくめた後、立ち上がる。他の男の視線を邪魔しないよう注意しながら、中腰になって晴菜の周りをぐるぐると回って見る。
「そんなとこにいたら、晴菜が画面見えないでしょ!」
 今度は梓から注意されて、おとなしく床に座る。

 晴菜は、細い身体をソファに沈めて、足を恥ずかしげもなく大きく広げている。
 上半身はハダカで、スカートとショーツだけという姿だ。清楚な美しさと色気が同居する優艶な姿。
 顔を俯かせて一心に行為に励んでいる。懸命そうな表情が可愛らしい。
 ときおり目を上げて画面に映る「自分」を確認しているのだが、男たちにの目には、上目遣いで自分たちの反応を窺っているように見える。

 晴菜の指の動きは、次第に追い詰められたように、せわしくなっていく。表情も、没頭しているように見える。
 中指の先がしきりと同じ箇所ばかりを攻めている。

 きっとあの下には、クリちゃんがあるんだ……

「アンン。ンフン」
 切なく声を上げる。これまで聞いたことがない(崇行だけは別)、晴菜の艶っぽい声。
 男たちだけでなく、倫子や梓まで、晴菜の艶かしさに引き込まれそうになる。

「ンンッ」
 晴菜は声を上げながら激しくショーツの上から擦り上げる。男たちに(カメラに)指の動きが見えるようにしながら、どんどん自分を高めていく。
 やがてたまらなくなったのか、ショーツの裾から指を入れる。ショーツがめくれて、毛がはみ出す。
 肝心なところは、ショーツの生地の下にとどまっていて見えないが、指が核心に迫って自らを攻め立てているに違いない。
 ときおり指を顔の前に持ってきて、湿り気を確かめるようにする。

 すっかり晴菜に引き込まれていた倫子が、ふと我にかえって画面を確認する。
 毛が見えるところはボカシが入っていて、画面ではよく見えない。つまり晴菜にも、AV女優が指をどう動かしているかは、見えないはず。
 それなのに晴菜は、ためらうことなく、指先で自分を追い求めている。

 晴菜の声がだんだん切羽詰って来る。
 それは演技なのかホンキなのか。

 催眠術をかけたときの晴菜のなりきりぶりはいつもすばらしい。
 今日のオナニーショーでも同じようだ。
 カメラが女優の表情を撮っていないときも、晴菜は気持ちよさそうな顔をしていた。局部が映っていないときでも、指の動きに変化をつけていた。
 肝心なシーンにボカシが入っていても、晴菜の想像力が補って、晴菜の「演技」にはまったく支障がない。

 本来のお嬢様晴菜なら、ボカシを補う想像のための知識もなかったはずなのに。
 この想像力と適応性は、素質と言ってもいいかも。

「アンッ、アアッ、いいッ」
 広げた両足を、小さく開いたり閉じたりして、感覚を噛み締める。いったん自分を抑えるように、女性器への愛撫を止めて、乳首を可愛がる。
 すぐに我慢できなくなって、指がショーツの下に戻ってくる。

「アン、アン、ダメ、いい、イク」
 すでにたどり着きつつあるらしい。晴菜が切迫した声を上げる。
 男たちがその声に引きずり込まれるように、前かがみになって身を乗り出す。
 指の動きが激しくなる。首を左右に振る。綺麗にセットされた髪が乱れて、顔の半分を隠す。顔にかかる髪の毛を左手で払う(カメラに顔が良く映るように)。

 だんだん声を高めて、最後に、ひときわ高い声を上げる。
「アアーン」
 身体を突っ張らせて、とがった顎をのけぞらせ、ぐったりとなる。
 しばらく惰性のように指を動かしたあと、女性器への愛撫を終える。両手をだらりと太ももの上に垂らす。

 AVらしい、いかにも「イキました」とわからせるための演技。

 晴菜の男友達ご一同は、満足とともに息を吐く。
 晴菜のイキ姿に、きっと、パンツの中で射精したヤツもいるに違いない。頼むから私の部屋を汚すなよ。

 半目で画面のほうを窺っていた晴菜が、けだるそうに顔を上げる。自分の指についた液を確かめるように顔の前に上げて、嬉しそうに笑う。

 しかし……晴菜の指は、全然濡れていない!
 倫子は目を丸くする。
 これ全部演技だったんだ? あんなに気持ちよさそうにイッてたのに!

 すごい。
 すごいけど……。
 まだそんな清純ぶってるの?
 こんなにAV女優になりきってるのに、身体は染まってないの?

 だめよそんなんじゃ。
 晴菜の身体はなんのため? 男のため。
 もっと感じる身体に開発してもらわないと、使えないじゃないの。
 それとも、オナニーだけじゃもの足りない?

 男たちは、演技かどうかなんて気にせずに、晴菜のショーの余韻に浸っている。
 晴菜は身を乗り出して、男たちのほうを(カメラ目線で)見つめる。そして、清楚な天使は、艶かしく笑いながらこう締めくくった。

「晴菜、イッちゃいました。うふふ」

 夏休みのゼミレポートを教授に見てもらった帰り、晴菜と倫子は、大学の前の喫茶店「レ・セリシエ」に行った。ここのケーキは、啓知大学の女子学生に人気がある。その控えめな甘さを久々に味わいながら、二人でおしゃべりをする。

 倫子が、バイトに遅刻しそうになる夢を何度も見るという話をした。どうせまた夢だろうと思って目覚ましを切ってしまったら、それは現実の出来事で、1時間遅刻してバイト先に怒られた。
 夢だったら夢だとわかるように、視界の下の端にちゃんと「これは夢です」というテロップが出るようにならないものか?
 日本の科学技術もまだまだだ。

 晴菜がころころと笑う。

 男たちの前でさんざん恥ずかしい姿を晒しているのに、明るい喫茶店の中で無邪気に笑う晴菜は、相変わらず優雅で、光り輝くような品がある。
 それはもちろん、倫子が、嫌なことを忘れるようにさせているからだ。少なくとも晴菜の意識の上では。
 だが……。

「ハルハルは、最近どんな夢見るの? 今井クンとの結婚の夢とか?」
 倫子が笑いながら晴菜に聞く。

「え~ッ。もうっ、またミッちゃん……」
 今井弘充とのことをからかわれて晴菜が笑う。
 気のおけない友人との軽口の交換を楽しむ。
「ミッちゃんこそ、ステキな男に囲まれている夢見てるんじゃないの?」

「あっ、いいなぁそれ。そんな夢見れたらいいのに。なんで遅刻の夢なんだろう? ハルハルは遅刻の夢とか見ない……よね。しっかりしてるもんね。なんか失敗した夢見ないの?」
 倫子が水を向けると、晴菜は目をそらして赤くなる。倫子は嬉しそうに促す。
「あっ、なんか夢見たんでしょう? 私も話したんだから、ハルハルの夢も話してよ」

 晴菜がぼやく。
「ミッちゃん、私の顔見ただけでなんでもわかるね、ほんと」

「ふふふ、私、ハルハルのことなら何でも知ってるからね」
 晴菜自身が知らないことだって、倫子は知っている。

 晴菜は、恥ずかしそうに話す。
「最近、恥ずかしい夢をたまに見るの。……ねえミッちゃん、私の話聞いても、絶対にからかったりバカにしたりしないでね」

 晴菜が話す夢の内容は、概ね倫子が知っている話ばかりだった。というより、倫子のほうがよく知っている話だった。

 ゼミの友人たちの前で、ストリップをしてしまったという夢。

 街を歩いていると、突然、ノーパンだったことに気づいて、慌てて倫子からショーツを借りたという夢。倫子から借りたショーツは、見たこともないような恥ずかしいデザインだった。

 プールの中で、水着の布地のつなぎ目が千切れてしまったという夢。
 一緒だったはずの友人たちはどこかへ消えてしまっていない。心細い。
 胸元と股間を押さえたまま、ステップを登ってプールサイドに上がる。身体を隠そうにも、置いていたはずのバスタオルがない。
 友人を探して、恥ずかしい格好のままプールサイドを歩き回る。ほかの客の好奇の視線が集まる。
 しばらくたってから、やっと見かねた監視員の男がバスタオルを貸してくれる。監視員の男が、それまでの間たっぷりと晴菜の姿を楽しんでいたことには気づかない。
 バスタオルで身体をくるんで人心地ついたところで、やっと倫子たちが晴菜を見つけてくれる……。

 別の夢では、倫子に無理やり連れて行かれて、生まれて初めて合コンに参加した。なぜか晴菜だけセーラー服を着ていた。この日も(この日「も」?)風流女子短大の学生だと名乗った。セーラー服では恥ずかしいと思ったので、途中で脱いだ。下着姿のまま、ツイスターゲームをやった……

 倫子は、笑い出さないように表情を押し殺して晴菜の話を聞いた。いつも倫子はその場に居合わせていたので、直接見聞きした話ばかりだ。だが、晴菜の口から語られるのを聞くのは、新鮮な喜びがある。

 でも、これだけじゃないよね?
 もっと過激な夢も見てるでしょう? もっと違う夢も見てるでしょう?
 まあ、話せないならいいけどね。

 晴菜は恥ずかしそうに顔を赤らめて話す。だが、夢の中のことだと思い込んでいるので、深刻さはない。

 知らぬが仏よね。
 でも、そろそろ、晴菜も本当の自分に向き合ってもいいのかもね。
 「本当の私デビュー」ってね。

 倫子が、内心が顔に出ないよう黙り込んでいると、晴菜がいぶかしむ。
「どうしたのミッちゃん? 何も言わないけど……?」
「だってハルハルがからかうなって言うから」
「もうっ、そんなふうに無表情に黙り込まれると、かえって恥ずかしいじゃない……」
「あは、そう? じゃあ心おきなく……」

 晴菜が慌ててさえぎる。
「うわ、だめ、ミッちゃん、『心おきなく』じゃなくていいってば!」

 じゃあ、私のケータイに入っている証拠写真を見せてやるというのもだめ?……

 倫子は心の中で毒を吐きながら、表面上は友人らしくふざける。
「ハルハル、こんな夢、毎晩見てるんだぁ? 恥ずかしい夢のオンパレードだねぇ」

「毎晩じゃないってば」
 晴菜は顔を赤らめながら否定する。

 嘘おっしゃい。
 倫子のほうがよく知っている。毎日毎日恥ずかしい経験を晴菜に思い出させているのは倫子だ。

 晴菜には、自分の心と身体に起きた恥ずかしい体験を、何度も反芻してもらわなければならない。
 何が夢で何が現実かわからなくなるまで。
 何が本当の自分で、何がニセモノかわからなくなるまで。
 やがてそれらの体験は、晴菜の中で消化されて、晴菜の血肉に変わる。心身に毒が滲み渡る……

「やっぱ、ハルハルって、人一倍恥ずかしがりやだから、そういうのが怖くて、夢にまで見るのかな? それとも、ホントは、恥ずかしいことしたいっていう願望あるのかな?」

「ち、ちがうよ! ウソ。絶対に違う。そんなわけないよ。ミッちゃんやめてよ」
 晴菜は、不自然に狼狽して、真っ赤になりながら必死に否定する。
 ストリップの夢の最中に感じた「自分を見せたい」という気持ち、「男たちをモノにしたい」とう欲望の生々しさを思い出して、怖くなる。自分のアソコに突き刺さる男たちの視線に酔っていたことを思い出して、怯える。それから、あの夢……

「ミッちゃん、私の話聞いてもからかわないって約束したしょう? この話題はやめ」

 倫子は笑顔の下に悪意を隠す。
 晴菜のオーバーすぎる狼狽を見てほくそえむ。
 そろそろ毒が回り始めているのかも……。

 真っ赤になって恥ずかしがる晴菜の表情は、以前と変わらず可愛らしい。
 あーあ、こんな可愛い顔してるのになぁ。かわいそうにねぇ……。

 犯されちゃうなんて。

< つづく >

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