人形の館

「じゃあ、今日の授業はここまで」
 退屈な授業の終わりを告げる鈴が鳴り、担任である初老の教師がそのままホームルームを続ける。
 それを適当に聞き流し、僕はぼんやりと斜め前の席の女子を眺めていた。
 二ノ宮 縁。それが彼女の名前だ。
 白を基調とした女子の制服にすこし長めの髪を初夏の緩やかな風になびかせて教師の話をまじめに聞いている。
 はあ、と溜息が出る。
 残念ながら恋人ではない。僕の初恋の人。僕と彼女の関係はただのクラスメイトだ。
 溜息をもう一つつくと、こつんと後ろから飛んできた紙飛行機が頭に当たった。
 後ろを見る。
 少し意地の悪そうな目をした悪友と目が合った。
 彼はよく授業中なんかにこうして紙飛行機をつくったり、メールを送ったりしているが不思議とばれたことはない。ある意味で天才なのだろう。
 紙飛行機を開く。
『本当に志木って二ノ宮の事好きだなぁ。まぁがんばれや』
 彼に僕の好きな人を教えたことがない。思わず振り返るとニヤニヤと笑みを貼り付けた悪友が目の前にいた。
「ホームルーム終わったぜ?」
 パクパクと口を開けた僕の肩を叩く。
「かっ、一哉……な、なんで……」
 なんで僕が二ノ宮さんを好きなことを知ってるの?
 思いっきり顔に出ていたのか一哉はにやりと笑った。
「だってさ、お前ずっと見てるじゃん。ばればれだぜ?」
「見られてたのか……」
「まぁ、安心しろ。きっと二ノ宮にとってお前は対象外だ」
 ニヤニヤと笑いながらひどいことを言ってくる。
 確かにそうかもしれない。
 僕は顔は悪いほうではない。
 頭も運動神経もそこそこであることが自慢ではある。
 性格もひねくれているわけではないのだが、ただ……背が小さい。
 中学生と間違われても仕方がないようなサイズ。それだけが悩みだ。
 恐らく、同年代の女の子にとって僕は対象外なのだろう。
「いいんだ。わかりきってるから……」
「んじゃ、志木君の失恋パーティーにゲーセン行こうか」
 涙を呑んで諦めた僕の肩をがしっと掴んで彼は明るく言い放った。
「ちょっと待って、まだ失恋じゃ……」
 ひきずられながら諦め悪く呟くが彼は聞いていない。
 今月のお小遣いピンチなのに。

「結局……こんな時間になっちゃった」
 結局、そのままゲーセンへ連行されて帰る頃にはすでに日が落ちていた。
 僕の家はゲーセンのある駅前から少し離れている。
「……お小遣い、結構つかっちゃったなぁ……」
 明滅する街灯の下をとぼとぼと歩きながら独り言をこぼしているとその声が僕の耳に響いた。
「ちょっと、そこのぼうや」 
 声のしたほうを見ると見るからに怪しげな黒いフードを被った老女がじっとこちらを見ていた。
「ぼく……ですか?」
 少し警戒して身構える。
「そうそう、ぼうやだよ」
 暗くてよくわからないけど老女は口を動かさずに喋っているように見えた。
「ぼうやにいいものをあげよう。こっちへおいで……」
 普段ならこんな怪しい老女に物をもらうことなんてしないのに僕はふらふらと足を動かして老女の元へと向かう。
 おかしい。
 あやしい。
 気味が悪い。
 頭の中でそんな感情が浮かぶ。
「ぼうやは片思いしてるんだねぇ」
 近づいて気づく、老女の口は糸で縫いとめられていることに。
 しわがれた声は動かないその口から出ているのだ。
 怖い。
 怖い。
 怖い。
 ただ頭の中にその感情だけが浮かんで足が震える。
「ぼうやにはこれをあげよう」
 鍵。
 鈍い銀色をした金属の鍵を老女が差し出した。
「これをぼうやの好きな使いなさい」
 手渡されたそれは僕の右の手のひらに乗るとゆっくりと形を変え、やがて沈むように僕の手のひらに消えていった。
 ――ドクン――
 そんな心臓が鳴るような音がした。
「あ・・・…ああぁっ!」
 じわじわと右手から燃えるような熱が体全体に行き渡っていく。
 熱い。
 怖い。
 痛い。
 僕の意識は真っ黒な闇の中に落ちていった。

「ここは……?」
 少なくともさっきまでいた場所ではない。
 まるでジャングルのように木々が生い茂り、耳を澄ますと水の流れる音とよくわからない獣の遠吠えが聞こえた。
 ぶるっと体が震える。
「どうなってるんだろう……夢?」
 あたりを見回すと鬱蒼とした茂みに隠れるように洋館が建っていた。
(ここがどこかわかるかもしれない)
 そう思って洋館へと茂みを掻き分けて歩き出す。
「誰かいませんか~?」
 返事はない。
 どうしたものかとしばらく迷っていたが、結局中に入ることにする。
「鍵……開いてるかな?」
 取っ手を握るとがちゃっと錠の回る音がした。
「あっ……す、すみませんっ!」
 誰かいたんだ。
 慌てて手を離すと再びがちゃっと錠が回る。
 落ち着くとそこに人の気配はなかった。
「どういうこと?」
 再び取っ手を握る。
 やはりがちゃっと錠が回り鍵が開く。
 理屈は良くわからないけど僕が触ると鍵が開くみたいだ。
 少し悩んで、結局そのまま扉を開くことにした。
 ギィィィィと無気味な音を立てて暗い洋館へと光が差し込む。
 それは異様な光景だった。
 黒く塗りつぶされた壁にいくつもの全裸の人影。
 それは無機質な瞳でこちらを見ていた。
「ひっ!」
 思わず悲鳴をあげる。
「これ……マネキンだ……」
 しばらくして落ち着きを取り戻すと、僕は気づいた。
 精巧な人型をした人形。
 よくショーウィンドウに飾ってあるものを見るがここまで精巧にできているものはそうないだろう。
 触ってみると少し温かく柔らかい気がする。
(これ……なんだろう? それに……見たことあるような……)
 よく見ると関節に継ぎ目があるのがわかる。
 ぺちぺちと叩いたりしてみる。
「ようこそいらっしゃいました、ご主人様。どうぞこちらへ」
「だ、だれ?」
 声がしたほうを見ると、フリルをふんだんにあしらった黒と白の衣装を身につけた女の人がいた。
(メイド……さん?)
 初めて見た本物のそれはゆったりとした品のある柔和な笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
「あの……すみません。勝手に入っちゃって……」
 謝るとメイドさんは少し意外そうな顔をして優しく笑う。
「説明はされなかったのですか?」
「説明……? されなかった……っていうか、よくわからないうちにここにきちゃって……」
「あのクソ婆め……説明が長くなるからって毎回毎回……いつかぶち殺す」
 思わず聞き返した僕のほうへゆっくりと近寄るとぼそっとその笑顔に似合わない怖い声が聞こえた気がする。
「あ、あの……説明って……」
「……ここは人形――ヒトガタ――の館と申します。ここに入れるお方が私の仕える主人なのです」
「ひ、ひとがた?」
「そう、そちらにあるそれが人形です」
 そう言って上品にマネキンを指さした。
「人形には少し特殊な力があります。その部屋にある人形はご主人様の知っている方に似ていませんか?」
「そういえば……」
「人形はご主人様が扉を開けたときに姿を変えます。それぞれその姿の持ち主の精神を写しているのです」
(あっ、あれ……二ノ宮さん?)
 メイドさんはゆっくりと説明を続けながら二ノ宮さんの姿をした人形を抱き上げた。
「たとえば、この人形……背中にチャックがあるでしょう?」
 そういって指を指す。
 その背中には確かにチャックが合った。
「開いて、中に手を入れてみてください」
 素直にその言葉に従い、手を入れると中からノートが出てきた。
「これ……なんです?」
「開いてみればわかるかと思います」
 開くとそこには二ノ宮さんの生年月日、身長、体重、血液型、スリーサイズ、他にもいろいろと書いてある。
「こちらのペンをどうぞ。彼女の好きな人など書き換えてみてはいかがでしょうか? もう三ページほど後ろに書いてあると思います」
 差し出された万年筆を受け取ってページをめくる。
 三ページ目には確かに『思い人』と書かれていた。
 その項目は空白となっている。
「あら……まだ好きな方はいらっしゃらないようですね。好都合ですし、ご主人様のお名前を入れてみてはいかがでしょう?」
 まるで悪魔のようなその囁きにしたがって、自分の名前を書き込む。
「志木……貴史様ですか……。これでこの娘は貴史様のものです。次は性癖を変えてみますか? 十六ページ後ろにあります」
 『性癖』には『アナルに興味がある』と書いてある。
 なるほど、少しずつわかってきた。
 このノートに書き込んだことはどうやら現実に起こることらしい。
 ここはどうみても現実ではないのだし、少し羽目を外そう。
 そう思い、『授業中にオナニーをしてしまう』と『僕にさわられると感じてしまう』もう一つ『精液が大好き』そう付け加える。
「貴史様。『僕』では誰のことかわかりませんわ。固有名詞でお願いします」
 忠告されて書き直す。
「さて、人形については大体わかってきたと思うので説明は終わらせていただきます。そのノートをこちらへどうぞ」
 二ノ宮さんの人形の中にノートを返す。
「さて、この館についてなのですが……。貴史様の世界からみると『異次元』と呼ばれるのでしょうか?」
「異次元……」
「そうです。ここに戻ってくるのは少しコツがいるのですが……貴史様はこちらにきたときのことを覚えてらっしゃいますか?」
「たしか……鍵を渡されて、それから……」
 それからどうしたんだろう。
 そこから先は頭に靄がかかったように思い出せない。
「やっぱり覚えてらっしゃいませんか……。では、目を閉じてゆっくりと落ち着いてください」
「ちょ、ちょっと……」
 軽く抱きつかれて心地よい甘い香りが鼻をくすぐった。
「あん……貴史様動かないでください」
 柔らかな胸の感触が顔にあたる。少し色っぽい声を上げて彼女は逃げようとした僕を優しく叱った。
(気持ち……いい……)
 ゆったりと安らいだ気持ちの中で何か光が見えた。
 その奥には見慣れた風景が映っている気がする。
「見えましたか?」
「うん……光が……」
 しばらくして離れたメイドさんに見えたものを話す。
「たぶんそれですね。ここに来るときはそれを超えることをイメージしてください。こちらからあちらへは時間がたてば勝手に戻れるのですが……」
 そう言って僕を指差した彼女は少し寂しげだった。
「透けてきてる……」
「そろそろ時間です。私はいつまでも貴史様のお帰りをお待ちし――――」
 だんだんと彼女の姿が輪郭を失っていく。
 その言葉は最後まで聞き取れなかった。

 ピピピピピ――ばしっ
 朝を告げる目覚ましを少し乱暴に止める。
 いつの間に帰ってたのか僕は自分のベッドで寝ていた。
「……夢……か」
 僕はぼんやりと夢の中の洋館とそこにいたメイドさんを思い出す。
(彼女の名前聞いてなかったな……)
 ふと、そんなことが頭によぎる。
「まぁ、そんな都合のいいことあるわけないし……学校いかないと……」
 時刻は七時半。
 朝食を食べて家を出ても充分始業には間に合うだろう。
 まだ少し眠い頭を振って学校へ行く準備を始めた。

「あの……少し、お話があるんです……。昼休みに……屋上にきてもらえませんか……?」
 少し内気なところのある、僕の思い人――二ノ宮さんは少し俯き気味にそう言った。
「へ?」
 我ながら間の抜けた返事を返す。
「あ、あの……?」
 思わず彼女の肩に手を伸ばす。 
「んっ……わ、私……待って、ふぁっ……ます、からっ……」
 弾けるように僕の手を払って走り去る。
(なんだろう……まさか……ね?)
 自分の手をにぎにぎと動かして今朝の夢を思い出した。
 『志木貴史に触られると感じてしまう』彼女のノートに確かにそう書いた。
(そんなことあるわけ……ないよね?)

 そろそろ定年間近な老教師が黒板をチョークでカツカツと叩く。
「えー……ここはテストに出すから覚えておくように」
 退屈な授業だ。
 あくびを噛み潰す。
 こつん。
 紙飛行機が飛んでくる。
(また一哉か……)
 熱心なことに丁寧に織り込まれた紙飛行機の皺を伸ばして内容を確かめる。
『二ノ宮の様子が変だ』
(二ノ宮さん?)
 斜め前を見る。
 彼女はまじめに勉強している。
 振り返って一哉を軽くにらむと彼は『下、下』と必死にジェスチャーしていた。
 もう一度二ノ宮さんを見る。
 その顔は黒板を向いていて見えない。
 両手はノートを取るために机の上だ。
 だが、その柔らかそうな太ももはもじもじと何かを我慢するように擦り合わされていた。
 ごくり。
 唾を飲み込む。
 昨日彼女の人形のノートに何を書き込んだ?
『授業中にオナニーしてしまう』
 確か……そんなことを書いた気がする。
 やがて、彼女は太ももを小さく開く。
 ゆっくりとシャーペンを置いてその手が彼女の秘所へと向かっていった。
「せっ、先生! 二ノ宮さんの様子がおかしいので……ほっ、保健室に連れて行きますっ!」
 思わず声を出してしまった。
 びくりと彼女は肩を振るわせた。
「ん……顔が赤いな。そうだな、熱があるかもしれん。連れてってやれ」
 授業に熱中していた教師は彼女の様子を見て頷いた。
「た、立てる?」
 彼女の肩を支える。
 息がさらに激しく熱くなってくる。
「やぁっ、ふぅ……んあぁっ……」
 どこか蕩けたような可愛い顔をふるふると左右に動かして僕にしなだれかかってきた。
 ふらふらとする僕よりも少し大きい彼女を俗に言う『お姫様抱っこ』で抱き上げると教室を出る。
 遠ざかる教室からは女子の嬌声と男子のブーイングが響いていた。

「大丈夫?」
 騒がしい教室を抜け出して、その声も聞こえなくなった頃腕の中にいた二ノ宮さんに尋ねる。
「んっ、っ……だいじょ……ぶ、ふぁ……んっ……」
 全然大丈夫そうじゃない声が返ってくる。
「保健室まで、もう少しだから。もうちょっとだけ我慢してね」
「だ、大丈夫……だから、おねがいっ……おくじょ、にっ……」
「屋上? うん、わかった」
 確かに二ノ宮さんの様子は体の不調というよりは、その……あれだ。
 屋上で風に当たったほうが休まるのかも知れない。
 見た目より軽いその体を抱いて屋上へと登る。
 その間も『志木貴史に触られると感じる』のか、はぁはぁとあつい吐息を洩らしていた。
 普段は見せないその色っぽいしぐさに僕のものはだんだんと固くなる。
 それはついにむくむくと立ち上がり彼女のお尻に触れてしまった。
「あっ……」
「ご、ごめん……その、つい」
 彼女の真っ赤な顔がさらに赤くなった。
「う、ううんっ……そ、その……あふぅっ、わ、わたしこそっ……んんっ、ご、ごめん……ね?」
「い、いや……」
 なんとなく二人ともばつが悪くなって会話が途切れる。
 どうしたものかと思いながら階段を昇っていると二ノ宮さんが再び開いた。
「んっ……あ、あの……ね? さっきのぉっ……は、はなし……なんだけど……んふっ……」
「うん……」
「わ、わたし……ぅあんっ、し、志木君のこ……と、好き……み、たい、んっ……な……の」
 彼女の潤んだ目は僕をじっと見つめていた。
 僕は初恋の人に告白された嬉しさと後ろめたさで目を逸らす。
 彼女をこんなふうにしたのは僕だ。
「こん……な、へんんっ……な女の子に……あっぁふっ……こ、こくは、く……されて、も……や、やっぱ……り、んんっ……め、迷惑っ、だよ……ね?」
 屋上の扉を開く。
「ごめん……」
 彼女はまるで叱られた子供のように目を見開いてぽろぽろと泣き出した。
「そうじゃないんだ……僕の所為なんだ……」
「ど、いう……んっ、こ……と?」
 ベンチに座らせて離れる。
「君が……僕を好きになったことも、今おかしいのも僕の所為なんだ……」
 ぽつぽつと昨日の洋館のことを喋りだす。
 彼女は俯いて聞いていた。
「ごめんね……今、元に戻すから」
 ゆっくりと集中する。
 だんだんと光が見え――――。
 じんじんと頬が痛んで光は消えていった。
「っ……」
「……ばか……」
 見ると二ノ宮さんは泣いていた。
 怒るのは彼女にしてみれば当然だろう。
「元に戻すって……なによ……。私の気持ち……また、弄るの?」
「えっ?」
 話がよく見えずに聞き返す。
「私は……志木君のことが好きなの。例え書き換えられた気持ちでも……それでも、やっぱり好きなの……。
 書き換えたっていうんなら……責任……くらい取ってよぉ……」
「だから元にもどすって……」
 ぱあーんと小気味のいい音を立てて今度は逆の頬が痛む。
「ばか……」
 ぷちっと小さな音をさせてスカートのホックを外す。
 彼女はそのまま手を離してぱさりと音がしてスカートは地面に広がった。
「な、なにを……」
 目を逸らそうとした僕の頬にまた彼女の黄金の右手が唸る。
「目……逸らさないで……。自分の……責任から逃げないで……」
 そこまで言われてようやく気が付いた。
 二ノ宮さんの気持ちを勝手に書き換えて、都合が悪くなったらまた書き換えるなんて『逃げる』ことにしかならない。
「……ごめん」
 素直に謝る。
 まっすぐに見つめた彼女の顔は嬉しそうに笑顔が浮かんだ。

「んっ……」
 ぎゅっと抱きしめたその柔らかい体は甘い香りがした。
 まるで禁断の果実のようなその香りに引き寄せられるように僕より少し背の高い彼女に口付ける。
「あっ……ん……」
 ゆっくりと舌でその滑らかな唇を味わいながら真っ白な制服越しに控えめな二ノ宮さんの乳房の感触を確かめる。
 柔らかく暖かいその感触を楽しみながらゆっくりと揉みしだくと可愛らしい乳首がつんっと自己主張を始めだした。
「乳首……立ってきてるよ?」
「んんっ……やぁっ……」
 意地悪く囁かれたその一言に反応してとろりと濃厚な蜜が彼女のすべすべとした太ももを零れ落ちていった。
 舌で唇を存分に味わうとそれを割って彼女の中に差し込む。
「ふぁっ……はぅ、んんっ、ん……」
 だらしなく開かれた形のいい唇からは普段の清楚な二ノ宮さんらしからぬ嬌声が熱い吐息とともに洩れた。
「全部飲むんだよ」
 彼女に唾液を注ぎ込みながら囁く。
 こくりこくりと可愛く喉を鳴らしてそれを飲みつづける彼女はひどく淫靡で魅力的だ。
 唇を離し、シルクのように滑らかな首筋を通って鎖骨へと執拗に僕のものだという印を刻み込む。
「服……脱いで?」
 疑問系で放ったお願いに彼女はゆっくりと快楽に酔った指先を震わせて従う。
 はらりと音がしてすでに彼女の太ももを伝って落ちた愛液で汚れたスカートの上に薄い夏服のブラウスが落ちていった。
「もしかして期待してた?」
 勝負下着というのだろうか彼女にしては少し派手に見える可愛らしいブラジャーをみて囁く。
「その……ずっと、志木君が見てたの知ってるから……」
 コクリと真っ赤な顔を縦に振った彼女をみて囁く。
「二ノ宮さんが可愛くて……好きだったから」
「ふふ……嬉しい。やっと好きって言ってくれたね?」
「そういえば……そうだね」
 そう言ってくすくすと二人で笑いあった。
 控えめで可愛くて正直でそれでいて優しいそんな彼女が愛しくて、ぎゅっと抱きしめる。
「あっ……」
 びくんと震える。
 僕のがちがちに固くなったそれが彼女のすべすべとした滑らかなお腹にズボン越しに当たったのだ。
「あ、あの……私だけ気持ちよくなってばっかりだから……今度は……その……私が……ね?」
 そんな小悪魔のような誘惑に耐え切れるわけもなく僕はお願いした。
 ほっそりと少し日に焼けた彼女の指がチャックを下ろし、ズボンからそれを取り出す。
「男の子のって……こんなの……なんだ……」
 呟いておずおずと掴む。
「い、痛くない……かな?」
「大丈夫。もう少し強く握っても平気だよ」
「う、うん……」
 おっかなびっくりといった感じで可愛らしく柔らかい手のひらで握る。
「前後に……擦ってみて?」
 彼女は可愛らしくコクリと頷いてやがて指示どおりに擦りだした。
 慣れていない動きだけど初恋の人が自分のものをしこしこと擦るそのシチュエーションだけでも充分の快感が得られる。
「んっ……いい……よ。そろそろっ……でるっ!」
「えっ……きゃっ!」
 ぶびゅるるるといった音がして勢い良く熱いマグマが飛び出して二ノ宮さんの体を汚す。
 彼女は手についたそれをしばらく物欲しそうに眺めてやがてぴちゃぴちゃと子猫がミルクを舐めるように舐め取っていった。
(そういえば……『精液が大好き』なんだった)
 やがて手についたそれを舐め終わると僕の少し萎えかかったものを舐めだす。
「おいしい? どんな味?」
 一心不乱に舐めつづける彼女に少し意地の悪い質問をする。
「んっ……ねばねばして……濃くって……良くわからないけど……おいしい……」
 ぴちゃぴちゃと音をたてて舐め取っているのを中断して答えた満足そうないやらしい声と顔、その刺激にまた僕のものはがちがちとその硬度をとりもどした。
「また……硬くなってきた…・・・」
 どことなく嬉しそうな声を上げて再び舐めだす。
 このままではまたイカされてしまう。
「ちょ、ちょっと待って……」
 少し不満そうな顔の彼女を無理やり引き剥がしてすでにグショグショのパンティーを脱がす。
 すでに充分濡れそぼった彼女の秘所は産毛のような恥毛がうっすらと生い茂り愛液を纏っててらてらといやらしく輝いていた。
「あ、あんまり……見ないで……」
 その神秘的な魅力にすっかりと見とれていた僕の耳に恥ずかしげに囁く彼女の声が聞こえた。
「どうして?」
「あぅ……」
 意地悪く囁き返すと何も言い返せずに二ノ宮さんは小さく呟いた。
 指を伸ばしておずおずと開きかけたその割れ目を優しくなぞる。
「ん……くっふぅ……」
 僕は反応良く喘いでこぽりと愛液を溢れさせる彼女をもっと苛めたくなってくる。
「いやらしくて可愛いよ……。もっと、可愛い顔……みせて?」
「やっ……志木君の……ヘンタイ……」
「二ノ宮さんが可愛いから……」
 舌を伸ばしてそのとろとろと溢れつづける蜜をゆっくりと舐め取っていく。
 まだ包皮に包まれた慎ましやかな突起を舌でつつく。
「ひっ……やっ……くっ、くるっ!」
 その小さな刺激で彼女は軽く達してしまったようでびくびくと体を震わせて少し高い甘い声を上げて脱力してしまった。
 とろりと溢れさせた蜜がココア色のすぼまりに達するとそこはまるで何か物欲しそうにヒクヒクと蠢いた。
「そういえば『アナルに興味がある』ってノートに書いてあったよ?」
「……っ!」
 はあはあと少し荒い息をして肩を上下させていた彼女がびくっと反応した。
「そ、それは……その……ひゃっ!」
 言い訳をしようとする彼女の窄まりに爪を軽く引っ掛けてはじく。
「や、やだ……とまって……とまってぇ……」
 ちょろちょろと音をさせて彼女の愛液を洗い流すように少し薄い黄色の液体が溢れ出してくる。
 しばらくして、その勢いは徐々に弱まっていった。
「感じて漏らしちゃうなんて、二ノ宮さんってえっちだ。
 でも……えっちな二ノ宮さんも好きだよ?」
「うぅ……志木君ってば意地悪……」
 あまりの恥ずかしさに涙を流した彼女が泣き止むまでやさしくキスしてあげる。
 結局泣き止んだ頃にはすっかり授業は終わっていた。

 目を閉じて、気持ちを落ち着ける。
 ゆっくりと集中して光を探す。
 光はゆらゆらと儚く浮かんで今にも消えそうだった。
 手を伸ばしてそれを捕まえ、その中へと入っていく。
 僕はあの洋館へ行かなければならない。
 いろいろな風景が僕の中に入り込んですり抜けていく。
 やがて、僕の周りに漂っていた光は離れ、あの洋館――人形の館の前に立っていた。
 ギィィィィ
 再びその扉を開けると黒く塗りつぶされた部屋に人形が無機質な瞳でこちらを見ていた。
「おかえりなさいませ。貴史様」
 メイドさんがゆるゆると礼をしてゆっくりと顔をあげた。
「ただいま……っていうのかな?
 ペンを貸してくれませんか?」
 メイドさんが差し出した万年筆を受け取って二ノ宮さんの人形を探す。
「どうかされましたか?」
 二ノ宮さんの人形からノートを取り出した僕にメイドさんが尋ねた。
 ページを開く。
 やっぱりだ。
「聞きたいことがあるんだけど……」
「はい」
「このノートって書き込んだことが現実の二ノ宮さんに反映されるんだよね?」
「はい」
 再び頷くメイドさん。
 僕は浮かんだ疑問を口に出すことにした。
「昨日僕が書き込んだ『志木貴史に触られると感じてしまう』って文章が消えてるんだけど……?
 それと……この好きな人のところに書かれてる『志木貴史』って字は僕の筆跡じゃない。二ノ宮さんのものだ」
 少し意外そうな顔をして考えるメイドさん。
 しばらくして手をぽんっと叩くと「多分ですけど」と前置きして話し出した。
「いいですか? 人の精神というのは意外と柔軟にできてるんです。
 矛盾があれば、どこかを書き換えて矛盾を解消するようにできてるんです」
 母親がするようにふんわりと抱きしめられる。
「例えばその『志木貴史に触られると感じてしまう』という文章が消えた理由ですけど……」
「うん」
「おそらく、貴史様に触れられなくなるのが嫌で彼女が反発したんでしょう。
 手をつなぐだけで感じて立てないようになればデートにもいけませんから」
 優しい笑顔を浮かべて彼女はそう言った。
「あと……貴史様の筆跡でなくなったのはきっかけはどうあれ、彼女があなたのことを好きになったんでしょう」
「そっか……」
「たしかに人形のノートを書き換えれば、そこまでのその精神は書き換えられますがそこから先はその人次第です。
 もっとも何度も反復して書き込めばその人の気持ちを書き換えることは可能ですけど……」
 そこまで聞いて二ノ宮さんの性癖から『授業中にオナニーをしてしまう』という項目を黒く塗りつぶす。
 あの目ざとい悪友なら彼女の様子がおかしいことに気づく可能性があるからだ。
 かわりに『志木貴史に愛撫されると立ってられないほど感じる』と書き込む。
 彼女には僕の前だけでもっと乱れて欲しい。
 二ノ宮さんもこれくらいなら反発しないだろう。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
 彼女の人形にノートを戻すとメイドさんに言う。
「そうですか……。もう会うこともないでしょう。どうかお気をつけて……」
 寂しそうに言う彼女がだんだんとぼやけていく。
「そうだ。名前……最後に教えてよ」
 メイドさんは少し驚いた顔をした。
 やがて嬉しそうな笑顔を浮かべて彼女は口を開いた。
「私の名前は――――」

 こつん
 紙飛行機が飛んできた。
 後ろを見るとニヤニヤと意地悪い顔の一哉が目に入る。
『脱童貞おめでとう。お兄さんは嬉しいよ』
 くしゃくしゃに丸めて投げ返す。
 斜め前の彼女はこちらを見ていたのかクスクスと可愛らしく笑っていた。
 しばらくして担任の話も終わり、ホームルームが終わる。
「志木君。いっしょに帰ってもいいかな?」
 今日できたばかりの僕の彼女は眩しく微笑んで僕の顔を覗き込んでいた。

「んあっ……ま、またイクっ! イっちゃうぅっ!」
 くちゅりと音を立ててとろとろと愛液を垂れ流すそこを弄ると彼女が何度目かの絶頂を告げる。
 脱力して仰向けに転がった彼女の胸は酸素を取り込もうと大きく上下していた。
「可愛かったよ」
 イクたびに囁いているので今日何度言ったかわからないその台詞をつつましい耳元にこぼす。
「うぅ……ずるい……。また書き換えたでしょ」
 可愛く拗ねる彼女に濃厚なキスをする。
「そろそろいいかな?」
 僕はそのあまりの可愛さに我慢できなくなってその時を尋ねる。
「う、うん……はじめて、だから……やさしく……ね?」
 少し息を整えて恥ずかしげに俯いた彼女を優しく抱きしめる。
 まるで犬のように後ろから彼女の腰を掴み、まだ開花間近の蕾のようなその秘所に僕のそれを押し当て、少しずつ力を入れていく。
「うっ……つうっ……いっ、いたっ……いっ……」
 亀頭が彼女の秘所にじわじわとその姿を消していく。
 めりめりと肉の軋む音がして彼女は苦悶の声を上げた。
「も、もうちょっと力……ぬいて……」
「そ、そんなこと……いた、くて……むっ、無理ぃ」
 こうしているだけでもそれなりの刺激は感じるけど、やっぱり彼女の中に埋もれたい。
 ふと、悪戯心が生まれて僕はそこに目をつけた。
 はぁはぁと彼女の荒い息とともにヒクヒクと蠢くそこに指を当てる。
「……ふぇっ!?」
 指がずぷずぷと飲み込まれるようにその穴に消えていくと彼女は間の抜けた声を上げた。
 本来なら排泄に使うその穴はうねうねと動かす僕の指に呼応するかのように蠢き、締め付ける。
「や、やだ……ぬいっ……うあぁっ!」
 生まれた違和感に慌てて力が抜けた彼女の腰を掴みなおすと僕は一気に腰を打ちつけた。
 ぷつり、とそんな音がしたような気がして彼女の秘所から愛液に混じって彼女の純潔をあらわす紅い筋が流れ落ちる。
 もう充分すぎるくらいに潤っているはずなのに彼女の中はぎゅうぎゅうときつく僕を締め付ける。
 ぬるぬると蠢く彼女の感触を楽しみながら彼女が破瓜の鈍い痛みに慣れるのを待つ。
「も、もう……だいじょ、んっ……ぶ、だから……ゆっ、ゆび、ぬいてぇ……」
 どことなく甘ったるい声で囁く。
 もともと『アナルに興味のある』二ノ宮さんはそこを『志木貴史に愛撫』されて立っていられないほどの快楽に溺れだしていた。
 僕はもっと彼女の乱れるところが見たくてそのままゆっくりと腰を動かした。
「んっ……はぁっ、や、やだっ……またっ……イっちゃう……やぁぁっ!」
 彼女がさらに何度目か絶頂を迎える。
 その甘い声に腰を振りつづける僕もそろそろ限界を覚えていた。
「くっ……そろそろ出るよ。な、なか……大丈夫っ?」
 耳元で囁く。
「だ……いじょぶぅ……な、なかに……おねがいぃっ……」
 その声とともにラストスパートをかける。
 ぐちゅぐちゅといやらしい水音が響いてやがてどくどくと僕の白濁液は彼女に注ぎ込まれた。

 隣ですうすうと寝息を立てはじめた二ノ宮さんを優しく撫でる。
 こうして穏やかな寝顔を見ているとさっきまでの乱れっぷりは嘘みたいだ。
 ぼくはただこの愛しい恋人の髪をいつまでも撫でていた。

< 終 >

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