第2話
「7時5分か…」
昨日はあれだけ遅く帰ったというのに、俺はいつもより1時間近くも早く出社していた。
実際あまり寝ていない。神経が昂って仕方ないのだ。
「おはようございます」
やや疲れ気味の声がオフィス内にこだまする。
さすがに今日は綾も居ないだろうと思いながら、俺はオフィス内を見回す。
居た…。
驚いたことに、すでに綾が一人仕事に励んでいた。
俺の声が聞こえたのだろう、綾がこちらに顔を向けた。
そして綾は俺の存在に気づくと、驚いた表情に変わる。
まさか俺がこんなに早く来るとは思っていなかったのだろう。
実際こんなに早く来たことはないので、無理もないのだろうが…。
しかし、次の瞬間綾の顔から怪訝な表情はなくなり、一目散に俺の元へ駆け寄ってきた。
「ご主人様…、おはようございます…」
そういうと綾は恭しく頭を下げた。
「こんなに早く…、どうされたんですか?」
「ん?いや、ちょっとな…。それよりお前こそこんなに早く…、よく来れたな…」
「はい…、何か…、居ても立ってもいられなくて…」
昨日のことを思い出しているのだろうか、そう言う綾の顔が赤くなってくる。
俺を見つめるその目が、トロンとしている。
そして俺が次に発する言葉を待っているような、そんな感じがする。
暫しの沈黙の後…、
「ついて来い…」
「はい…」
俺が静かにそう言うと、綾は静かに頷いた。
「んちゅ、ぷはぁ、れろぉ…」
誰も居ない男子トイレ内に、淫らな音が響き渡る。
「んんっ、はぁぁ、じゅぷっ」
もはや夢見心地といった表情で、綾は俺のモノにしゃぶりついてくる。
まだまだ上手いとは言えないが、それでも上達の速さには本当に舌を巻く。
綾の俺に喜んでほしいという想いがひしひしと伝わってくる。
俺の喜びは綾にとっての喜びでもあるのだ。
「どうした、やけに熱が入っているじゃないか」
「はいぃ…、昨日からご主人様のことが頭から離れなくて…」
そう言うや否や、綾は再び俺のモノを口に含むと、まるで俺の心まで絡めとろうとするかのように、丹念に、そして激しく奉仕してくる。
「しかし…、お前のこんな姿、社内の奴らが見たらビックリするだろうな…」
俺は苦笑した。誰が綾のこんな痴態を想像できるだろうか。
おそらくこの社内では、綾のこんな顔は俺しか見たことが無いだろう。
それにも増して、俺だけに見せる表情、という部分に俺は満足していた。
「…イヤです…」
消え去りそうな、そんな綾の声がする。
「ん?」
「私の心も身体も、ご主人様だけの物です。ご主人様以外の人にこんな姿を見せたくありませんっ!」
そう言う綾の勢いに思わず圧倒される。しかし、次の瞬間、俺は主人の顔で言う。
「安心しろ、お前はずっと俺だけの奴隷だ」
「はいっ…、ありがとうございますっ!」
そう言って俺を見つめるその瞳に、思わず俺の心が揺らいだ。
「いい表情だ…」
俺は内から襲い掛かる衝動を抑え切れず、綾を抱くことにした。
「綾、もういい、止めろ」
「えっ?何か…」
「いや…、挿れてやるから、服を脱げ」
「はい…、解りました…」
綾は顔を赤らめながら、言われた通り服を脱ぎ始めた。
いそいそと紺色のスーツの上着を脱ぎ落とすと、そのままシャツも脱ぎ捨てる。
シャツの下からは白いシルクのブラが姿を現し、その中心には否が応でも目を奪われる、立派な胸があった。
そういえば綾の裸は初めて見るな…
一見すると大きい胸にばかりに目が行きそうになるが、俺はその白くきめ細やかい肌にも驚いた。
「お前…、いつもそんな下着着けてるのか?」
「いえ…、昨日、私がご主人様の奴隷としていただいてからです。こうしてご主人様に少しでも愉しんでいただければと思い、着けています…。こういうのはお嫌いですか?」
「いや、別に嫌いではないが…」
その俺の言葉を聞くと安心したかのように、スカートとストッキングも脱いでいく。
そして綾は下着姿になると、俺の方を見た。
俺が顎で合図すると、綾はそのシルクのブラにも手を掛ける。
胸の前のホックを外すと、はちきれんばかりの胸が勢い良く外へ飛び出す。
ユサユサと揺れるその胸が、何ともイヤらしい。
俺の命令に絶対であるとはいえ、やはり男に裸を見せるのは恥ずかしいのだろう、綾の顔が真っ赤になっている。
「ほら、下も脱ぐんだ」
俺がそう促すと、綾はショーツにも手を掛け、下ろしていく。
秘部と下着の間に糸引く愛液が、とてもイヤらしく見えた。
「はあぁぁ~」
綾が思わず溜息を漏らす。
その溜息は恥ずかしさからなのか、これから起こることを期待してのことなのか。
「ごしゅじん…さま…、脱ぎました…」
綾は一糸纏わぬ姿を、俺に晒す。
高揚しているのか、呼吸が荒い。よく見れば秘部から太ももに、大量の愛液が垂れている。
「これなら濡らす必要も無いな…」
俺はそう呟くと、綾を傍に寄せる。
「どうして欲しい?」
俺は綾に尋ねる。
「はぁぁ~、ご主人さまぁ、ご主人様のモノを私に、私に下さいっ!」
「もっと具体的に言うんだ、どうして欲しいのかを」
「…ご主人様のモノで私を…、私を貫いて下さいぃぃ…」
綾はもう我慢できないという感じだが、そう簡単には与えない。
ニヤリと笑いながら俺は言う。
「解らないなぁ…、俺のモノってなんだ?」
「はぁあ、ご主人さまのイジワルっ…。ご主人さまの……、オチンチン…、オチンチンを私にください…」
「んっ?お前のどこにやるんだ?」
解りきった答えを綾に尋ねる。
もはや焦らされ続けた綾には恥ずかしさという理性よりも、与えられる快楽を早く手に入れたい、それだけしかなかった。
「私の…お…まんこ…、おまんこに…、ご主人さまのオチンチン…、を入れてくださいっ!
お願いしますっ!」
「ふん、そんなに言うのなら仕方が無い、挿れてやる。だがお前は俺の何だ?」
「私は…ご主人さまの奴隷です…。ご主人さまのために生きて、ご主人さまに喜んでもらえることが私の喜びですっ!!」
「そうだな…。いかなる時もそれを忘れるんじゃない」
俺はそういうと綾の秘部に俺のモノを突き入れ、いきなり激しいピストンを始める。
「ああぁっ!!!」
綾が声を荒げる。
「そんなに大きい声を出すんじゃない。誰かに聞こえたらどうするんだ」
「ああっ、だってぇ、ごしゅ…ごしゅじんさまの動きが、激しすぎるから…、あんっ」
そう言う綾だが、俺が綾を突く度に、綾は俺のモノを離すまいとするかのように、しっかりと俺のモノを締め付けてくる。
「なんてヤツだ」
俺はこみ上げてくる快感に堪えながら、そう苦笑する。
「あぁん、ごしゅじんさまぁ、気持ちイイ、気持ちイイですっ!!わたし…とても幸せですっ!!」
俺に突かれながら、綾が向けるその表情に思わずゾクリとする。
「もう限界だ…」
「ごしゅじんさまぁ、私でイってください!私の中に出してくださいっ!!」
綾が切羽詰った顔でそう訴えかける。
俺はその綾の言葉を最後まで聞くことなく、綾の中に放つ。
「イきますっ、私もイっちゃいます~!!あぁぁぁ~、ごしゅじんさまぁぁぁぁぁ~」
そうして綾も果てた。
俺はぐったりしている綾の中から、モノを抜き出す。
綾の呼吸がやや落ち着くと、綾の口に俺のモノを突き入れる。
「綺麗にしろ」
いきなり入ってきたモノに、綾は少し呻いたが、すぐに俺のモノを綺麗にしていく。
「もういい…」
俺がそう言うと綾は名残惜しそうに離す。
ふと腕時計に目をやると、それは8時10分を指していた。
始業までギリギリの時間だ。
あまり時間が無いな…
そう俺が思ったとき、何やら微かに走リ去る足音が聞こえたような気がした。
だが、次の瞬間には全く何も聞こえなくなった。
「気のせいか…?」
そう呟くと、まだ若干意識の虚ろな綾に早く支度するよう指図し、一人先にトイレを出た。
そして、今日も普段通りに会社が始まった。
ただ普段と違うもの…、それは綾の性格だ…。
昨日までとの雰囲気とは全く違う。
あのキツイ性格は無くなり、誰に対しても穏やかに接するようになった。
しかも元々几帳面で面倒見が良いので、皆からは更に信頼を得ている。
皆良い意味での驚きで一杯だった。
まさに理想の上司というのは、今の綾みたいな者を言うのだろう。
女子社員の中では、綾に好きな人ができたのではないかと、もっぱらの噂になっている。
一方の男子社員も、いきなり女らしくなった綾に対して、驚きもさながら、好意を抱くものも出始めている。
あのプロポーションで性格がよければ、当たり前のことだろう。
「ごしゅ…、いえ、東條君…、この間の書類はできてい…るかしら?」
そんな中、何やらぎこちなく綾が俺に話しかけてくる。
無理もない。本当は奴隷として俺に接したいのだ。
確かに俺に従順になったといっても、仕事に関しては、今まで通りバリバリこなすキャリアウーマン。
仕事で俺に接するときは、もちろん上司として接しなければならない。
綾はその葛藤に悩んでいるだろう。
いままで通りに接しろ…
俺が綾にそう言ったのは、あくまで命令であって、暗示ではない。
もちろん綾にとって俺の命令は絶対だが、それ以前に暗示は完全な物であり、綾にとっての常識だ。
綾にとってのその常識を押さえ込んでも、より軽い命令の方を優先させるのは、かなりの違和感があるに違いない。
ま、耐える姿を見ているというのも結構楽しい物だが…。
ん?
気のせいか、俺を見る目がやけに恨めしそうに見える…。
結局、それから綾は、事に付けては俺に話し掛けてきた。
何のために普段通りに接しさせているのやら…。
そう言って俺は苦笑するしかなかった。
「東條さん…、今晩空いてます?」
昼休み、廊下を歩いているとふと声を掛けられた。
振り向くとそこには、猪口 美雪(いのぐち みゆき)が居た。
小柄で背は、150cmぐらい。髪はやや薄茶のセミショート。
そんなに飛びぬけているところはないが、出ているところは出ている、均一の取れたプロポーション。
恐らくスレンダーという言葉が似合うだろう。
性格は明朗活発で、どこにでもいる、いわば今時のコだ。
今年入社した新入社員なのだが、短大卒なので歳で言えば俺の一つ上だ。
部署は同じなのだが、若干仕事の内容が違うために、俺と席は離れている。
同年代ということで、よく仕事の愚痴なども俺に言ってくるため、その度に真面目に聞いてやっている。
しかし…、やけに俺に馴れ馴れしい。俺の方が2年も早く入社しているというのに…。
「ん?どうした?とうとう俺とデートでもする気になったか?」
俺は冗談半分にそう言う。だが、美雪はそれに答えることなく、真顔で言う。
「朝のこと…。解りますよね?」
!!!
やはり…、聞かれていたのだ…。
だが、黙っていれば誰だか解らないのに、わざわざ自ら名乗ってくるとは馬鹿なヤツだ。
「解らない…、って言っても無駄だよな…。で、俺を脅してどうするつもりなんだ…?」
「別に…。どうこうするつもりはないですよ。少し私に付き合ってくれれば…」
そこまでだ…。
俺を脅そうなんて上等じゃないか…。今の俺に怖い物など無い…。
俺はふと感情を込めて、美雪の目を覗き込む。
「んっ…」
美雪の目から光が消えた。
「美雪…、俺の声が聞こえるか…?」
「はい…、聞こえます…」
綾のように、ただ単に堕とすのもつまらない。
それに俺を脅そうとした責任は取ってもらおう…。
「美雪、お前は今から俺が質問することに対して、どんな質問でも正直に答えるんだ…」
「はい、私はどんな質問でも正直に答えます…」
「今朝、お前はあの場所で何をしていたんだ?」
「私は…、今日の会議に使う書類を作るのに資料が必要なので、書庫にその資料を探しに行ってました。
そしてその戻る途中、男子トイレの前を通りかかった時に、男子トイレなのに女の人の声が聞こえて
くるから不審に思って近づいたんです。それで、よく耳を澄ましたら桃谷主任の声が聞こえてきて…。私…、びっくりしてしまったんです。まさかあの桃谷主任がって。
それから私は思わず聞き入ってしまって、その場を離れることができませんでした…」
「なるほど…。それで?」
「桃谷主任と、…セックス…、しているのは東條さんだとすぐに解りました。何か…、それがイヤだったんです…」
「ん?嫌だった?何が嫌だったんだ?」
「東條さんと桃谷主任がセックス…、しているっていうのが…、信じられませんでした…。
私…、私、たぶん…、東條さんが好きなんです…。私が仕事で困ったときに助けてくれたり、他愛も
ない話や愚痴を聞いてくれたり…。私が新入社員ということもあって親身に乗ってくれるのかも
しれないんですけど、相談できる人が全然回りに居なかった私には、それがとても嬉しかった…」
美雪の口から出た言葉に俺は驚く。
あの普段馴れ馴れしすぎるような態度は、俺に好意を抱いていた、ということだったのか…。
「しかし、俺みたいな男のどこがいいのかね…」
俺はそう呟くと、苦笑するしかない。
それならば…、望み通りにしてやるよ…。
「美雪、お前は俺、つまり東條雅史の姿を見るたびに、身体が疼いて堪らなくなる。
そしてその疼きを収める方法は、唯一つ、自席で自分を慰めるしかない。決して部署外では自分を満足に慰めることはできない。そして早退しようという気は全く起きない」
「はい、私は東條さんの姿を見るたびに身体が疼いてしかたありません。そしてその疼きを収める方法は自席でのオナニーだけです。そして早退する気には全くなりません」
しかし、繰り返すと何とも間抜けな感じだな…。
俺はその滑稽なやり取りに思わず苦笑する。
だが、俺の中に一つの疑問が浮かぶ。
精神操作はできるが、身体が疼く、といった肉体的な操作は果たしてできるのだろうか…。
それとも…、復唱したぐらいだからできるのだろうか…。
些かの疑問を含みながらも、それの実験も兼ねて俺は美雪を書き換えていく。
「そして、今朝見たことは一切他の人に話せない」
「はい、今朝見たことは誰にも話しません…」
「よし、では目を覚ます」
俺は手を叩くと、美雪の目に光が戻る。
「おーい、猪口、どうした?」
俺はわざとらしく声を上げると、ぐったりしている美雪の身体を揺すって起こす。
「ん…」
「いきなり倒れ込むなんてどうした…?具合でも悪いのか…」
ぼーっとした意識の中、目を開けた美雪は俺を見るなり、強く目を見開いた。
「んんっ!?」
美雪の頬が急に赤く染まる。
「なんでもないです…、失礼します!」
そう言うや否や、美雪は俺の元から駆け出していった。
「さて、どうしたものか…」
朝の綾との情事を、やはり見られていたのだ。
だが、逆に言えば、見られたのが美雪でよかったのかもしれない。
ちょうど次の奴隷が欲しかったところだ…。
「さて、昼からも楽しくなりそうだ…」
俺の中で、再び黒い感情が噴き出してくるのを、感じずにはいられなかった。
それからの美雪といえば、どうも落ち着きが無かった。
いつもは仕事中に美雪と話すことはあまりないのだが、今日は無理やり用事を作っては美雪に近づく。
美雪はその度に俺を見るから、たちまち美雪の顔は明らかに上気していった。
「猪口、熱でもあるのか?顔が赤いぞ?」
俺はわざとらしく言う。
「…いえ…、大丈夫です…。気にしないでください…」
「そうか…?そうは見えないんだが…。まあ、無理はするなよ」
そんな善人ぶりながら、俺は自席に戻る。
ふと見れば、美雪はこのオフィスから出て行こうとしていた。
トイレにでも行って慰めるつもりなのだろう。
俺は仕事をしつつ、美雪が部屋に帰ってくるのを待つことにした。
しかし、肉体干渉までできるなんてな…。
この能力の解明にまた一歩近づいたが、俺は正直この力の強力さに、恐怖を覚えたのも事実だった。
「猪口さん?ここなんだけど…」
いつの間にやら戻ってきていた美雪に、同僚が声を掛ける。
美雪の頬は今までに無いほど赤く、その瞳は潤み、いつものきりっとした顔立ちもなく、いかにも発情しているという感情を撒き散らしている。
ただ、当然ながらトイレでは達することができず、今、美雪はそのことに戸惑っているだろう。
「はひぃ!」
突拍子も無い美雪の声がオフィス内に響く。
美雪の元に寄ってきた同僚はもちろん、美雪の席の近くの者も何事かと、一斉に美雪に視線を向ける。
「す、すみません…。なんでもないんです…。え…と、で、なんでしょうか…」
「いや、この書類のこの部分なんだけどね…」
あれはまともに聞こえてないな…。
雪の姿を横目に、俺は自席で一人苦笑する。
しばらくして美雪の元から同僚が去ると、美雪はゴソゴソと何やら始めたように見える。
ぎこちない動きだ。
机の上には書類の山こそあり、一見は仕事をしているように見えるが、実際は襲い掛かる身体の疼きに抵抗しきれず、オフィス内というのもそっちのけで、一人慰めているのだろう。
本人は、周りの同僚には決してバレないように努めているつもりだろうが、周りの同僚が本当に気づいてないのかどうか疑わしい。
「!!!」
美雪の身体が仰け反ったように見える。
恐らく…、達したのだ。
美雪はふとすれば気を失いそうになる意識を必死に繋ぎ止め、落ち着こうと荒い呼吸を整えている。
「このぐらいで勘弁してやるか…」
このまま美雪が壊れてもまずいが、このままここで続けられるのもまずい…。続けていればいずれは皆にバレるだろう。
「猪口さん?」
俺はさっと美雪の元に近づいた。
「はぁいぃ…、な、なん…でしょうか…」
達したばかりでまともに喋れない美雪を尻目に、俺は続ける。
「16時からの会議なんだけど、会議室のセッティングを手伝ってくれないかな…?」
これは、もっともらしいが美雪を連れ出すための嘘だ。
会議室のセッティングはすでに後輩に頼んである。
美雪は俺の言葉を聞くと、ふら~とよろめきながら、立ち上がった。
「今日の会議は3階の会議室だから」
俺はそういうと、美雪を連れて部屋を後にした。
「どうだ、なかなかイけないってのは…」
途中、俺は不意にそう呟く。
その俺の言葉を聞いた美雪は、目を丸くして驚いた。
「なんで…」
何で解るのよ、とでも言いたかったのだろうか、美雪が怪訝な表情をする。
と言っても次の瞬間には、まただらしない顔に戻ったのだが。
俺は美雪のその問いには答えず、ただ歩くだけだった。
会議室へ行く途中には仮眠室がある。俺は当然会議室などに行く気はない。初めからここが目的だったのだ。
俺は仮眠室の前に来ると、足を止める。
少し遅れて、ようやく美雪が俺に追いついた。
「ここだ」
「えっ!?」
美雪は驚いていた。まあ、無理もない、会議室に行くと言って来たのが仮眠室だったのだから。
俺は美雪を見つめる。
美雪は俺の視線を感じ取ると、ふと思い出したかのように呼吸が荒くなる。
「そのまま我慢できるのか…」
俺は静かにそう言う。
美雪に選択肢はなかった。
俺が仮眠室に入ると、美雪は俺を追って部屋に入ってきた。
「身体が、カラダが疼いて仕方ないのぉ!東條さん…、私に何かしたのっ!?」
部屋に入るなり、美雪の声が響く。
「いや、そんなことできるわけないだろ?何か…、今日の猪口を見ているとそんな気がしただけだよ…。悪かったな、変なことを言って。じゃ、俺先に帰るわ」
俺はそう言うと、わざとらしく帰る仕草をし、美雪に背を向ける。
「待って!お願い…!私をこのままにしないでっ。本当におかしくなっちゃう…」
こうしている間も美雪の感情はますます昂まっていることだろう。
俺を見ると疼いて仕方ないという暗示は、まだ生きているのだから。
「人に物を頼むときは、それなりの言い方ってものがあるはずだよな…」
美雪に背を向けたまま俺がそう言うと、美雪は、絶望の中にわずかに降り注ぐ希望の光を見つけたかのように、額を床に付け、言う。
「お願い…します。私を抱いてください…。身体が熱くて熱くて、もうダメなんです…」
美雪は必死で声を絞り出す。
「そこまで言うんなら、解ったよ…、抱いてやる」
俺はさも仕方なさそうに、そしてぶっきらぼうに言い放つ。
「ありがとうございますっ」
「じゃ、お前服を脱げ、そのカッコのままじゃ、できないだろう?」
「はい…」
決して暗示として脱がしているのではない。
俺の命令でもなく、結局は美雪が自らの意思で服を脱いでいるのだ。
もちろん、美雪が切羽詰った状況だからこうして素直に脱いでいくのだろう。
普通の感情なら当たり前だが、こうして素直に服を脱ぐことなどあり得ない。
美雪はスーツの上下を素早く脱ぎ捨てると、ストッキングも脱ぐ。
そうすると決して興味をそそられるとはいえない、実用的な白いデザインの下着が目に入る。
美雪は少し躊躇ったが、それでも内から襲い掛かる強い衝動には勝てず、顔を真っ赤に染めながらも下着も脱ぎ捨てた。
そして恥ずかしさからか、胸と秘部を手で隠そうとしている。
「お前、いきなり俺の前でこんなことするなんて、恥ずかしくないのか…。しかもアソコは大洪水じゃないか…。まさか、お前がそんな淫乱だったなんて思わなかったよ…」
俺はわざとイヤらしく、そして失望したように、美雪に言ってやる。
「いやぁ!そんな言い方、しないでください…。いつもはこんなことないのにっ、今日だけ…何か、おかしいんです…。本当なんです!信じてぇ!私を嫌いにならないでっ!」
追い詰められた中で思わず出た、美雪の本心。
俺はニヤッと笑うと、
「ほら、挿れてやるから、尻をこっちに向けろ」
俺がそう言うと、美雪は相変わらず顔を朱に染めつつ、いそいそと尻をこっちに向けた。
俺は後ろからいきなり美雪の中に挿入する。
「んんっ!」
美雪がくぐもった声を上げる。
俺は自らの欲望に任せ、美雪を犯す。
犯しながら美雪を見ると、その目からは涙が流れている。
それが悲しさの涙なのか、嬉しさの涙なのかは解らない。
ようやく得ることができた快楽…。それ以外の複雑な感情…。
美雪の中で色々な感情が渦巻いているのだろうが、俺への想いが一層深まったのは間違いない。
「あんっ、気持ちいいっ、あぁん、イイですっ」
それから堰を切ったように、美雪の口から出る嬌声が止まらない。
「どうだ?そんなにイイか俺のモノは?」
「はいっ、気持ち…良すぎて、ああんっ、幸せですっ…」
俺を見る目は同僚の目から、完全に女のそれに変わっていた。
「猪口、いや美雪…、俺のことどう思う?」
俺はわざと名前で読んでやる。だが、それにも美雪は何もなかったかのように、
「好きです…、私、東條さんのことが、好きなんです…。だからこうして抱いてもらえるのが、とても嬉しい」
この一連の流れに酔ってこう言っているのか、それとも本心なのか、本当のところは美雪にしか解らない。
ただ、俺が思うに、ほぼ間違いなく後者だろう。
そして、俺の中にも若干の心の変化があったのは感じられた。綾に接するときとは違う、安らぎみたいな感情…。
だが、俺はその感情を打ち消すかのように、注挿する勢いを強める。
「あん、激しすぎるっ、でも…、いいのぉ、もっと、もっとぉ…激しく衝いてくださいぃ…」
俺は美雪が壊れるのではないかと思うほど、強く突いた。
「んっ!イっちゃう、私、もうダメぇ!」
そう言うと美雪は果てる。
だが、俺は俺の欲望の赴くままに、更に美雪を犯し続けた。
結局…、俺がイくまで、美雪は3回達した。
確かにあれだけ我慢させられていれば、無理もないのかもしれない。
それとも、それは精神的な部分にあるのだろうか…。
ぐったりとして倒れている美雪の秘部からは、俺が放った精液が垂れていた。
俺は美雪を揺すって起こす。
「おい、美雪、目を覚ませ…」
暫しの時間の後、美雪がゆっくりと目を覚ます。
「あっ…」
美雪は俺に気づくと、すぐに服を拾い、身体を隠す。
「何を今更…」
俺は苦笑した。
「あの…、すみませんでした…、色々と…。でも…、もし良かったら私と…」
俺は喋っている途中の美雪の口を手で塞ぐ。
「勘違いするなよ、俺はお前の彼氏じゃない…。それでも…、いいのか…」
それを聞くと美雪は、少し悲しげな顔を見せたかと思うと、一転して元気そうに言う。
「いいんです…、東條さんの心は桃谷主任に夢中なんだって…、私解ってます。でも…、いつか私に振り向かせて見せますから…。私にだってまだチャンスはありますよね…?」
そう言って微笑もうとする美雪だったが、その目にはうっすらと涙が滲んでいる。
全く…、嘘の下手なヤツだ。
「好きにしろ」
俺がそう言うと、美雪はいきなり俺に抱きついてくる。
「なん…」
「今、好きにしろって言いましたよね…。もうしばらく、こうさせてください…」
俺の胸の中で静かに泣く美雪に、俺は少なからずの罪悪感を感じずにはいられなかった…。
しばらくして美雪が落ち着くと、俺はふと時計に目をやる。
「17時15分か…」
終業時間の15分前だ。結局俺と美雪は約2時間弱、こうして行為に耽っていたことになる。
「さて、どういう言い訳をしたものか…」
俺の方は、主任の綾が俺の勤務管理者だからどうでもなる…。
美雪は…、会議室のセッティングの途中で調子が悪くなって倒れたので、医務室で休んでいたということにでもしておこう。
「美雪、お前は調子が悪くなって医務室で寝ていたということにする。いいな?」
「はい、解りました。ご迷惑を掛けて申し訳ありません」
やけに素直になったな…。
俺は美雪の変わり様に驚きつつも、何故か途中で解けてしまった感のある美雪への発情の暗示を一応解くと、オフィスに戻った。
美雪がオフィスに帰ると、医務室に行っていたということを疑う者は誰も居なかった。
しかし、体調不良とした手前、終業とともに帰宅せざるを得なく、チャイムが鳴るや否や、早々と帰っていった。
そして俺は狙い通り、主任としての綾には特に追求されることもなかった。
だが、綾のその目には少し複雑な想いが含まれているような気がした。
「さて、今日も残業か…」
美雪の調教に時間を要した俺は、当然ながら仕事ができるわけもなく、すべてを片付けるのに、また残業するハメになったのだった。
「東條君…」
同僚が皆帰ってしまった後、綾は静かに俺の元に近づいてきた。
かろうじて、主任としての顔つきを保っている。
綾は、いくら二人のときは主人と奴隷の関係だとしても、俺の許しがなければ、そう呼べないことを知っている。
「ん?主任、どうしたんですか?」
俺はわざとらしく答える。
「あの…」
綾はそれ以上何も言わないが、少し悲しげな顔で、俺の口から発せられる次の言葉を待っている。
これぐらいにしといてやるか…。
「よし、奴隷として行動しても構わないぞ…」
俺がそう言うと、綾はその場にへたり込んだ。
「綾、お前、もう仕事は終わったのか…」
「はい、終わりました…」
「そうか…、でも、俺はまだあと1時間は掛かる。それまで待っていられるか?」
「はい…」
1時間か、今日も終電間際だな…。ま、明日は休みだから、それが救いか…。
と、その瞬間俺はふと閃く。
「綾、どうせ居るのなら仕事を手伝え」
「はいっ」
そう言うと綾は何も戸惑うことなく、俺の机の上からいくらかの書類を取る。
元々の仕事の速さに加え、早く仕上げれば早く俺と帰れるというところからか、異様にペースが速い。
しかし、綾が俺に命令した仕事を、今度は俺の命令で、結局自分でしている姿は何とも滑稽だった。
そして…、1時間は掛かると思われた仕事は、わずか25分で仕上がったのだった…。
「ご主人様、私、お役に立てましたか…?」
俺の次の言葉を期待するかのように、媚びた顔で俺に尋ねてくる。
「ああ、上等だ。その褒美にこれから帰ってお前を可愛がってやる」
「はい、ありがとうございます…」
そうして俺は綾を俺の家に連れ込み、明け方近くまで綾の身体で愉しんだ。
綾が朝より貪欲に俺を求めていたように思えるのは、間違いではなかっただろう。
綾は多分、気付いているんだろうな…。
俺の傍らで幸せそうに寝る綾の横顔を見ながら、俺はふとそう思ったのだった。
< つづく >