霧と太陽のジュネス 世界の章

“世界の章”

 保健室での微睡みは、いつも温かくて心地よかった。

「ゆっくり……そう、ゆっくり力を抜いて。目を閉じて。どんどん楽になっていくから。ワタシの声しか聞こえない。あなたとワタシの二人っきり。とても幸せよね?」
 僕は頷く。今日もカシイ先生と二人っきり。僕はとても幸せだ。
「注射するわね。いつものヤツよ。チクっとするだけだから、動かないで」
 動かない。僕はカシイ先生の言うとおりにする。僕は何でもカシイ先生の言うとおりにする。
「あなたはワタシはナイト。ワタシたちは恋人同士。とても強い絆で結ばれている。そうよね?」
 そのとーり。僕は自信を持って頷く。
「ワタシのセックスは気持ちいい? 最高?」
 もちろん最高。僕はボッキする。
「あらあら。しょうがない子ね。フェラしてあげる」
 じゅぶっと僕のペニスが温かいものに包まれた。僕は思わず仰け反ってしまう。
「気持ちいい? でも質問にはちゃんと答えてよ」
 僕はもちろんですと返事する。僕のを咥えるカシイ先生は、気持ちの良いフェラを続けてくれる。
「今日はどんなことして遊んだのかしら? 言ってごらん」
 2年生の調理実習があったから、キリヤが女体大盛りっていうのを作ってくれた。女子の体にクリームとかフルーツとか盛って、組体操みたいに彼女たちを組んでケーキみたいにして、僕らはそれを食べながら女の子を犯した。
 休み時間には女子を廊下に並べて、どっちがたくさん裸にできるか競争した。順番に脱がしていって、4人目で生理の子に当たっちゃって、僕は具合悪くなってリタイヤした。
 女子トイレで隣のクラスの子とセックスした。体育サボって用具室でマナとセックスした。教育実習生をキリヤと犯した。
 給食の時は女の子に口移しで牛乳を飲ませてもらった。「お返しに俺らのミルクを飲ませてやろうぜ」ってキリヤが言うから、一緒にフェラさせた。
 なかなか出なかったから、次の英語の時間までしつこくフェラさせた。
 放課後、キリヤは2年生の女子たちに呼ばれてたから、告白でもされて、そのまま乱交エッチでもしてるんだと思う。
「……ほんと、どうしようもないクズね、あんたたち」
 カシイ先生は舌を鳴らす。
 僕は顔が熱くなる。
 今日もカシイ先生に怒られちゃった。
「それだけ出しといてまだ勃つわけ? このエロガキ。恥ずかしくないの?」
 僕はちょっぴり恥ずかしくなる。でもそれすら嬉しく感じる。
 僕にお説教してくれる怖いカシイ先生。ぢゅぽぢゅぽと僕のペニスを咥えるやらしいカシイ先生。
 どっちも大好き。
「いい? ワタシたちのことはナツミくんには内緒よ。2人だけの秘密」
 僕は頷く。
「でもタイヨウくんはワタシに隠し事しちゃダメ。ワタシに聞かれたことは包み隠さず答えて。ワタシの言うことは何でもする。あなたの一番はワタシ。わかった?」
 僕は頷く。
「うん。約束よ」
 カシイ先生が頭をポンポンと叩いてくれる。嬉しい。
「もっともっと気持ちいいことしてあげる。ワタシはあなたの恋人だから」
 カシイ先生が唇にキスをしてくれた。別のカシイ先生は乳首にキスしてくれた。フェラはますます濃厚だし、足の裏を舐めてくれるカシイ先生もいた。
 たくさんのカシイ先生に愛してもらえて、僕は幸せだ。
「どんどん、どんどん、気持よくなっていく。あなたは何も考えなくていい。ワタシに任せて。お尻の穴だって舐めてあげる」
 カシイ先生はますます増えて、僕の全身をぺろぺろしてくれる。耳の中をくちゅくちゅしてくれた。お尻の穴まで舐めてくれた。あまりの気持ち良さに全身が溶けていく。呻き声を出してしまう。大好きなカシイ先生がいっぱいいて僕は嬉しい。
 窓が開く音がする。ライターに火が付く音がする。煙草の匂いが風にのってくる。
「あなたのためならワタシはこんなことまで出来るの。だからあなたも、ワタシを守るためなら何でもする。どんなことでもできる。そうよね?」
 僕は頷く。

「そうよ。あなたは世界(ワタシ)のナイト。世界(ワタシ)の大事なパートナー。それを絶対忘れないで」

 僕は大きな声で返事する。
 結構、とカシイ先生は笑う。
「愛してるわ、タイヨウ」
 その一言で僕は誇りと喜びに満たされる。胸がいっぱいになる。
「いつまでオナニーしてんのよ。いいかげん出しなさい」
 僕はカシイ先生の口の中で果てる。じゅるじゅると音がするほど強く吸われて、気を失いそうなほどの快感を僕は味わう。
「ワタシが出て行ってから、床を丁寧に掃除して帰って」
 灰皿に煙草を擦りつける音と、僕を跨いでいくハイヒールの音。
 僕は「ありがとうございました」と大きな声で言う。

 クリスマスのダブルデート計画は破綻した。ていうか、成立すらしなかった。結局僕は、僕の家でマナと2人でチキンとケーキを食べて過ごした。
 キリヤのことは誘わなかった。きっとキリヤはこないと思ったし、雨も夜更け過ぎには雪へと変わったし。
 ひどく落ち込んでたから、学校にも来ないかと心配したけど、キリヤは普通にいつものコンビニに来てたし、一緒にパシュームを聴きながら仲良く登校した。
 でもやっぱりダメージは大きいみたいだった。
「……タイヨウが女だったら良かったのにな」
 下駄箱の前でキリヤは呟いた。気持ち悪い想像はやめてほしい。
 キリヤはとにかく、落ち込んでいた。

 それから昼休みまで、キリヤの姿は見えない。さすがに心配になって、今も校内を探し回ってるところ。
 そして僕は『ホテル教頭』の前で、なにやら猥褻な声を聞く。
「あんっ、あっ、あん、いいっ、気持ち、いいっ、あっ、もっと、ナツミくん、もっとっ、あぁ、すごいっ、すごい! 好き! 大好きィ!」
 なんだよ、元気じゃないか。すこぶる調子よさそうじゃないか。
 邪魔しちゃ悪いし引き返そうと思ったけど、そういや、前にマナとここでエッチしようとしたとき、キリヤに邪魔されたことを思い出した。
 そのときの仕返しもかねて、様子見がてら、あえて乱入してバカ騒ぎしようかなって思いつく。最近そういうのしてなかったし、僕もなんだか、うさ晴らししたいし。
 わざと陽気な笑顔を作って、僕は扉を開けた。
「僕も混ぜてー!」
 キリヤは僕を見て、腰を動かしながら「よう」と笑顔を浮かべた。全然驚かないキリヤに拍子抜けして、そして、キリヤが組み敷いてる女の子を見て、僕は凍り付いた。
「やだっ? 誰!? 出てってよ!」
「気にすんな。続けるぞ」
「あん、はいっ。んんっ、いいよぉ、気持ちいいよォ!」
「いいぞ、タイヨウ。お前も来いよ」
 一瞬、何が起こってるかわからなかった。
 カワサキさんが、ベッドの上で淫らに嬌声を上げている。
 セックスに蕩けきった表情には、いつも遠くからキリヤと一緒に眺めてきた彼女の理知的な輝きはなく、ただただ、いやらしかった。
「……何やってんの?」
「あぁ、カワサキやってんだよ。最初っからこうすりゃ良かったな。やってみてわかったけど、やっぱり女は女だ。セックスの相手にしかなんねぇのな」
 シーツは性交の跡に乱れていた。わずかな出血の痕跡も黒く乾いていた。
 まさか、朝からずっとしていたんだろうか。
「それは…やめようよ。キリヤ、なんか違うよ」
「なんで?」
 ジュポンとカワサキの中からキリヤは引き抜く。
「あぁん!」と残念そうな声を出して、カワサキさんはぐったりと体をシーツに沈める。
「キリヤの好きだった子じゃん。そんな風にするのは、違うって」
 すごく嫌な気持ちだった。カワサキさんは、キリヤにとって特別の女の子と思ってた。
 だから、こういうことするのは、ちょっと違うと。上手く説明できないけど、ただ違うと、頭の中でぐるぐるしてた。
「違くないって。セックスしちゃえば同じだよ。女なんて」
 そういうキリヤの口調は、本当に何の感情もないように聞こえて、僕はなんだか怖くなる。
 キリヤはズボンのチャックを上げ、僕を見て笑った。
「いいから、タイヨウもやれって。俺、もうコイツあきたし」
 普通の中学生だったキリヤはもういない。そこにいるのは特別な力を持った子ども。何でも自分の言いなりになる世の中にあきてた昔のキリヤだ。懐かしくさえある。

 彼に不可能などなく、世の中の誰もが彼の意思に従う。
 神様の子供。あるいは悪魔の子。彼が何者かなんて誰にもわからない。
 ナツミキリヤは、そういう人だ。

 わかってる。彼はすごい力を持って生まれてきた。僕らとは何もかも違う。わかってる。
「……でも……」
 でも僕は、普通がわからなくて四苦八苦するキリヤに、普通を教えるのが楽しかった。
 将棋に苦戦して、頑張るキリヤが楽しかった。
 くだらないことに必死になったり、ときめいたり恥ずかしがったりしてる毎日が新鮮だった。ただのゴッコ遊びだったかも知れないけど、それでも僕は、すごいキリヤと遊ぶのと同じくらい、普通のキリヤと遊ぶのも楽しかったんだ。
「……できないよ」
「大丈夫だって。今日のことはカワサキも忘れるし、これ終わったらソガワ君に返してやるから。もう処女じゃねーけどな」
「できるわけ、ないだろ……」
「なんで?」
「ふざけんな!」
 久しぶりの僕の大声は、キリヤを驚かせた。何より僕を驚かせた。そして、後戻りできなくさせた。
「なんで、そんなこと言うんだよ! 好きなんだろ! だったら、そんな風に扱うなよ! 同じなんて、言うなよ!」
「……どうしたんだよ? つーか、なんでタイヨウが熱くなんだよ?」
「あんなに頑張ってただろ! だいなしにするようなことすんなよ! その子のことは、今も、大事にしなきゃダメだろ! キリヤの特別な女の子だっただろ!」
「知らねーよ。コイツもう関係ないじゃん。他のヤローの女になったんだから」
「それでも、大事にするもんなんだよ! 普通は、そうするんだよ!」
「普通ってなんだよ? そんなのどうでもいいんだよ。俺をお前らと一緒にすんな」
 冷たく突き放すような言い方。僕はますます熱くなる。
「じゃあ、僕も一緒かよ! 他のヤツと一緒かよ! 僕もどうでもいいのかよ!」
 キリヤは言葉を詰まらせて下を向く。僕もこの空気が怖くて顔を上げられない。膝が震える。
「お前だって……してるじゃねーかよ! ハラダともしてるし、ハラダの友だちとだってヤリまくってるだろ! それとどこが違うんだよ! 同じじゃねーか!」
 それを言われたら何も言い返せなくなる。僕の言ってることは矛盾している。
 でも、やっぱり、誰にとっても、どうしようもなく特別な人っていうのはいる。僕にとってキリヤがそうであるように。
 キリヤにもそれがあってもいい。あって欲しいと願ってる。
 僕はキリヤの特別でありたい。僕たちはお互い特別だから、いつも一緒なんだと思ってる。
 だから、自分だけが違うなんて言い方して欲しくなかった。
 腹が立つし、悲しいし、悔しい。
「……絶交だ」
 どうしてこんなバカなこと言ってるんだろうって片隅で思いながらも、ぐちゃぐちゃになって整理できない嫌な気持ちを、僕は丸ごとキリヤになすりつける。
「絶交だ! もうキリヤなんて知らないからな!」
 子どもなのは僕だ。キリヤに突き放されて寂しいだけだ。久しぶりに冷たいキリヤを見てビビってるだけだ。
 だからイライラする。興奮しすぎて、涙が出る。キリヤの顔が見れない。こんなのただの八つ当たり。バカバカしいのに、涙が出て止まらない。
「……そうかよ」
 キリヤの足音が近づいてくる。
「っ!?」
 いきなり、腹を蹴られた。僕はひっくり返って尻もちをつく。
「あぁ、そうかよ! こっちこそ、タイヨウなんてもう知らねーかんな! 絶交だバーカ!」
 僕の横で、ビシャンと扉が派手な音を立てた。
 キリヤは出て行った。カワサキさんは寝息を立ててる。
 途端に部屋が静かになって、そして、出て行く寸前のキリヤの顔を思い出して、青ざめた。
 僕は世界一の間抜けで、薄情者で、いい子ぶってる駄々っ子だ。

 キリヤの目は、泣き腫れてた。
 平気なわけないじゃないか。普通でいられるはずないじゃないか。
 一世一代の告白をあっさり受け入れ、あっさり自分のオンナになって、セックスに溺れるカワサキさんを抱きながら、ずっと泣いていたんだよ、キリヤは。
 だってあんなに、頑張ったのに。
 
 蹴られたお腹がズキズキ痛む。
 それよりずっと、胸が痛い。

 警備員のおじさんが見つけてくれるまで、僕は生徒会室で気を失っていたらしい。カホちゃんの姿はなくなっていた。
 めちゃくちゃになった生徒会室と失神してた僕。警察を呼ぼうとするおじさんを誤魔化すのに苦労した。ひどく疲れた。
 キリヤにも、電話できなかった。
 僕の約束。17才。カシイ先生の死。世界の敵。
 忘れてた記憶が引きずり出されて、怖かった。もっと怖いことが起こりそうな気がして、目をつぶって震えていた。朝まで僕は、布団の中で泣いていた。
 そして明け方、電話が鳴る。
 カホちゃんでもキリヤでもマナでもなく、生徒会顧問の先生からの凶報で、僕は布団をはね除ける。

 キノシタカホが、腕を切って自殺した。
 僕は学校へ走った。

 そして放課後、生徒会室には、僕と副会長のコジマくんだけだった。
 マナはショックを受けて早退した。他の1年生役員は、クラスメートと一緒にいるように言った。
「へー、マジで?」
 キリヤは淡々と驚きの声を出し、「なんか悩みでもあったのかね?」と他人事のように言った。
 僕は結局、キリヤには何も言えなかった。

「……驚いたよね」

 疲れた声を出すコジマくんに、僕は「うん」とだけ答える。
「彼女も噂よりはだいぶ落ち着いて見えたから、もう大丈夫なのかと思ってたけど」
「え?」
「いや、アレがさ」
 コジマくんの言う「アレ」ってのがわからない。コジマくんはそれだけで通じているつもりでいるみたいだったけど、僕が黙っていたら、驚いた顔をした。
「知らないで生徒会に誘ったの?」
「え、ごめん。どういうこと?」
「はー」とあきれたように嘆息して、コジマくんは「故人のことだし、あまり言うべきじゃないかもしれないけど」と前置きして、僕の知らないキノシタカホを教えてくれた。
 カホちゃんは精神的に不安定な子で、中学時代から有名だったらしい。授業中に騒ぎを起こすこともあったし、自傷事件も一度や二度ではなかったとか。
 後半はだいぶ落ち着いて、成績は良かったこともあり、無事に進学して、それからは特に大きな騒ぎを起こすことはなかった。
 それでも、中学時代の噂と評判はついて回り、彼女は今もクラスからは孤立してたし、僕が生徒会に誘ったのも、そんな彼女に対する新会長の気配りだと周りは思っていたらしい。
「……そう、だったんだ」
 全然知らなかった。キリヤだって当然知らなかっただろう。
 頭の中が混乱してくる。それじゃ、昨日の彼女は? あの不可思議な言動も病気のせいだったの?
「本当に知らなかったんだね」
「……うん」
 僕には何もわからない。知らないことだらけだ。
 彼女が死んだのは、僕たちのせいだと考えて間違いない。でも、本当にそれだけなんだろうか?
 狂気じみたカホちゃんを思い出すと背すじが震える。彼女の言ってたのは、僕とカシイ先生しか知らないはずのことだった。それなのに彼女は知っているように語っていた。
 カホちゃんって何者だったんだ? カシイ先生って、誰だったんだ?
 全然わからなくなってきた。
 でも、正直、彼女がいなくなったことに少し安心もしてたんだ。

「まあ、知らなかったのも無理ないよ。君はオレたちのことなんて関心ないもんね」

「……え?」
 顔を上げると、柔和なコジマくんの微笑みが、いつもどおりに僕を見つめていた。
「君とナツミは自分のことしか考えてないし、じっさい周りのことなんてどうでもいいんだろ。わかってるよ。オレたちって、ただの操り人形だもんな」
「あ、操り、とか、え…なんの…こと?」
 コジマくんはニコニコと僕を見つめている。僕はこの光景をどこかで見たことあるような気がした。

「だから、世界(オレ)のことだよ」

 絶望感が喉まで込み上げる。吐きそうになる。
「オレたちだって生きてるってこと、忘れてるでしょ? ふつーに生きてますよ? いろいろ背負ってますよ? 君たちから見れば滑稽かもしれないけど、小さいことコツコツ積んでるし、そのくせ全体のバランスとか気にしてるし。そうやってオレたちが頑張って世界やってるから、君たちだって好き放題やってられるわけ。わかる? イライラすんだよね。君たちみたいにルール無視して遊んでばっかりいるバカ」
「…ゴメン。僕、僕、何のことだか…」
「ムカつくって言ってんだよ。調子にのるなって言ってんだよ。なんかさ、最近のお前、ここの生徒会だって楽勝だぜー、なんて思ってるみたいだけど、それも全然違うし。動かしてるのオレだから。お前なんてただの役立たずだよ」
「違う…コジマくんじゃない。君は、コジマくんじゃないッ」
「あ? オレも一応、コジマだけど? お前の知ってるオレって何? てかお前がオレたちの何を知ってるの? キノシタのことも全然気づいてなかったし、そもそもお前は人間ってのがまるでわかってないし、だからつまんない小説しか書けないわけでしょ? なあ、セカイ系くん? ちなみに教えてあげるけど、去年までお前の愛人だったノリコって女も、お前と付き合ってる時から前カレのリョウって奴のサセ子だったし、そっちとは今も続いてるみたいですよ? 君、捨てられたんだねー。自分のことしか見えない、薄っぺらい男だからー」
「何言ってんだよ! 意味わかんないよ!」
「わかんないかなー。要するにさぁ、オレら君たちのこと嫌いなわけ。憎いわけ。ていうか、君が一番嫌い。約束したじゃん? さっさとやればいいじゃん? 君がそうやってとぼけてるから、キノシタだって死んじゃったし、オレだって死ぬんだよ?」
「何を…君は、一体、何を……」
「わかんないのね? わかんないわけね? 難しー。ほんと、バカに説明すんの大変。つまりさ、オレ世界なんだ。そんで、キノシタも世界で、カシイも世界で、みんな世界。つまり、ここにいるみんなみんなみんな世界なわけ。わかるでしょ? 自分がオレたちにどんなことしてるか、わかってるよね? だったらぁ、オレたちの言いたいこともぉ、わかるんじゃないのぉ?」
「やめてくれ……やめろ。僕はもうそんなの嫌なんだ! コジマくんのフリするのはやめろ!」
「ごめんねー。ほんと、逆ギレやめてくれる? いいから黙って、ちゃんと聞け? あのね、昨日のキノシタは何も説明しないで死んだよね? あいつバカだし、乱暴してごめんね? でも今日のオレは大丈夫。きちんと説明してあげる。バカなお前にわかるように、バシっと一言で決めてあげる」
 コジマくんは、そう言って沈黙を始めた。
 僕は顔を上げる。柔和な笑みがそこにある。しばらく僕たちは見つめ合う。

「ナツミキリヤを殺せ。それまでお前の周りにいる人間は次々に死んでいく」

 目の前の光景が滲んできた。いっぱいに滲んで、こぼれ落ちた。後から後から涙が出てきた。
「最後の1人になるまでそれは続く。約束は必ず実行しろ。ナツミキリヤを殺せるのは、お前しかいない」
「僕は…そんな約束してない……」
 知らない。約束なんて僕はしてない。
 なのに、僕の中から湧きだしてくるこの声は何だ? これは何だ?
「聞こえるだろ、オレたちの声が。約束のときが来たんだ」
 カシイ先生が僕の耳元で囁いている。それは甘く高圧的な愛の拘束。僕はそれを必死で振り払う。それでも茨のように僕に絡みついてくる。締め上げる。殺せ、殺せって繰り返す。
「うるさい! 黙ってくれ! 僕は無理だ! できっこない! キリヤは僕の親友なんだぞ!」
「次はハラダマナミの番かもな」
「やめろやめろ! 彼女は関係ない! 彼女も僕たちの被害者じゃないか!」
「そうだ。お前に1つだけ、いいことを教えてやろう」
 コジマくんの形をした誰かは、唇の端をだけを不気味に歪めて、勝ち誇ったように笑った。

「お前の両親は、まだ生きてるぞ」

 僕を絶望に叩き落とす準備を終えて、そのいやらしい表情は消えた。
「今さら誰が死のうが、お前の知ったことでもないかもしれないが」
 僕は絶望に落ちていく。どこまでも落ちていく。
「オレはオレにできる小さな仕事をするまでだ」
 どん底にまで落ちて、そこでクシャリと潰れる音がした。
「2週間だけ猶予をやる。思う存分、苦しんでくれ。言っておくが逃げても無駄だ。自殺も無駄だ。オレたちはいつでもお前の近くで見ているからな」
 僕は立ちつくし、涙を落とすだけのデクノボウだった。僕の心を無惨にへし折って、満足したようにコジマくんは微笑む。
 ビシ、と弾ける音がして、彼の額から真っ赤な血が噴き出た。
「さてと、この体もそろそろ限界のようだ。今日はこのへんでお別れだ」
 いつもの柔和な微笑みを浮かべ、コジマくんは立ち上る。
「あとは頼んだからね」
 そして親しげに僕の肩を叩き、生徒会室の窓を開けた。首が割れて血が飛んだ。ゴキリと背中が鳴って歪んだ。水を抜くような音を立てて彼は笑った。くるりと逆さになって窓から落ちた。
 下のコンクリートで、固い音がした。

 マナの家で受験勉強する。
 といってもキリヤ教の熱心な信者である僕は、第1志望の有名私立もすでにキリヤパワーで合格内定しているようなものであり、僕と同じ学校を受験する予定のマナだって(本人曰く「ダメもとでも、タイヨウと一緒がいいもん!」)じつは同じくキリヤパワーで天界へと連れて行くつもりでいるのだが、何も知らない彼女に付き合って僕は一緒にお勉強のフリをしていた。
 そしてフリだけでいいのに、気がつくと結構真面目に勉強してしまった。
 これなら第2志望(実力受験)の公立は1ランク上げてみようかな。などと調子に乗ったところで、グゥとお腹が鳴る。
「へへ、おなか空いた? 今日はお鍋だから、いっぱい食べていいからね」
「え、いや、いいよ。帰って食べるよ」
「なんでー? もうタイヨウも食べてくってみんなに言ってあるもん。お母さんだって張り切ってるんだよ?」
 毎度毎度、申し訳ないなーと思いつつ、ご相伴させていただくことになった。
 お父さんとお母さん、それにマナと妹のアユミちゃん。
 ハラダ家のみんなと一緒に、5人で1つの鍋をつつく。
「アユ、ほら野菜も食べなさい」
「えー? タイヨウくん、あげるから食べてー」
 アユミちゃんが、テーブル越しにポイポイとニンジン、白菜を僕の取り皿に乗せていく。
「アユ、何やってんのよー。タイヨウの前でみっともないことしないでよね!」
「ふーんだ。いいよね、タイヨウくん?」
 僕の隣のマナが妹を叱るが、アユミちゃんはべーと舌を出す。マナには姉の威厳がなかった。
「いいよ。僕、野菜好きだし」
「へっへー。ほら、タイヨウくんはアユの味方だもんねー」
 僕がアユミちゃんの野菜を食べてあげると、マナはぶーとほっぺたを膨らませる。
「タイヨウも、アユを甘やかさないのっ」
「ごめんごめん」
 どっちも子供のケンカをやってるようにしか見えないけど、それでもアユミちゃんだって、最近は少し大人っぽくなってきたような気がする。
 3つも下の彼女は、まだまだ胸だって膨らみかけで、女性的な色気という意味ではマナの足元にも及ばない。
 でも、数年まで「一緒にお風呂入ろう」とか「一緒に漫画読もう」と言って僕の膝の上に座っていたあの頃と比べると、仕草や表情にも少しずつ女っぽさが芽生え始め、なんだか初めて抱いた頃のマナを思い出して、ドキっとすることもたまにあるんだ。
「アユったら、ほんとガキなんだから」
「ガキじゃないもーん。アユ、もう大人だもーん」
「何言ってんのよ、バーカ」
 マナは生意気を言うアユミちゃんを軽く一蹴して、ご飯を口に運ぶ。アユミちゃんは思わせぶりに微笑んで、テーブルの下でこっそり僕に足を重ねてきた。僕は気づかないフリで白菜を摘む。
「たくさんおかわりしてね、タイヨウくん」
「あ、はい。ありがとうございます」
 お母さんが優しく僕の肩に手を乗せて、ごはんを前に置いてくれる。
 ふわりといい匂いがした。30は過ぎてるはずなのに、しかも2人も娘がいるっていうのに、とてもそうは見えない若くて色っぽいマナのお母さんは、いつも僕に優しくしてくれた。
「お風呂も沸いてるから、あとで入りなさい」
「え、いえ、そんなわけには」
「遠慮しないで、泊まっていけばいいじゃない? 1人のおうちは寂しいでしょ?」
「そうだよ、タイヨウ。泊まってきなよー」
「でも、泊まりの準備とかしてないし」
「大丈夫。ちゃんと用意しといたから」
 お母さんは別の部屋に行って、「じゃーん」とか言いながら手にパジャマを持って戻ってきた。青い飛行機の柄のパジャマだった。
「ほら、ぴったり」
 そう言って、後ろから抱くようにして僕の体にパジャマを合わせる。後頭部にふわりと柔らかい感触が重なる。
「……これ僕のですか?」
「ええ。なんだか最近、男の子用の服買うのが楽しくて。タイヨウ君の服探すの、趣味になっちゃったみたい。ふふっ、やっぱり男の子がいるっていいわね」
 そういうお母さんは、こないだも僕にトレーナーやセーターを買ってくれたばかりだった。しかも微妙に子供っぽいのばかりだった。
「あはは、似合うタイヨウ」
「ねえねえ、タイヨウくん。どうせだから、うちの子になっちゃいなよ。アユのお兄ちゃんだよ~!」
 照れくさくなってうつむく僕の頭を、「もう、可愛いわね」とお母さんが優しく撫でる。
 黙ってビールを飲んでいたお父さんが、グラスを置いてニヤリと笑う。
「そうだな。どうせマナを嫁に貰って、うちの家族になるんだ。今から一緒に暮らしたっていいよな」
「お、お父さん!? いきなり何言ってんのよ!」
 お父さんの冷やかしに、マナがボンと音がしそうな勢いで真っ赤になった。
 家族みんなが楽しそうに笑い出す。

 ほのぼのとしたハラダ家だが、最初からこうだったわけじゃない。
 初めてマナに連れてこられたとき、僕の家庭事情はすでに知っていたらしいハラダ家のご両親は、マナがべったりしている僕に決してイイ顔はしなかったし、アユミちゃんもそんな両親の空気を読んでたのか、警戒心バリバリだった。
 いたたまれなくなった僕は、すぐにその場でキリヤに電話する。キリヤは「しょうがねぇな」とぼやいて、みんなを電話口に出すように言った。僕は「叔父からです」と言って、マナの両親と、アユミちゃんにも電話に出てもらった。
「やっといたぞ。これでお前はハラダ家公認の愛され系ゆるかわキャラだ」
 親しみの笑顔を浮かべるみんなの豹変ぶりに、僕はキリヤに感謝して電話を切った。
 それ以来、僕はハラダ家全員の認めるマナの彼氏だし、それどころか彼女の部屋でお泊まりまでOKの寛大な歓迎ぶりを受けている。
 一緒の晩ごはんも、お父さんの冷やかしも、すっかり恒例のこととなってしまった。

「お姉ちゃん、顔真っ赤だよ~。やらしー、2人とも」
 アユミちゃんがマナを冷やかしながら、僕のスネをツツゥっとつま先でくすぐる。
 最近、こうやってマナに隠れて僕にスキンシップしてくるのが彼女のブームらしい。
 こないだだって、お風呂上がりのバスタオル一枚で、いきなり僕に抱きついて「ホカホカのうちに、どーぞ♪」なんて言って、マナがお風呂上がってくるまで、ふざけて僕に絡んでた。
「ふふ、お父さんの言うとおりよ、タイヨウ君。いつでも我が家にいらっしゃい。待ってるからね……」
 お母さんの温かい息が耳にかかって、ぽってりとした唇が僕の耳たぶを掠めていく。ゾクゾクとする色っぽい声には、親の愛情を超えた何かを感じる。
 ていうか、前に風邪ひいたマナのお見舞いに来たとき、「マナがお世話できなくて大変なんでしょう?」なんて言って、お母さんがあの唇で2発もヌイてくれたことは絶対秘密だ。
「よし、タイヨウ。今夜は俺と風呂に入るか。男同士、水入らずでいこうや」
 そしてお父さんは、そうやって一緒に風呂に入っては僕の体をジロジロ見るし、背中を洗ってやると言って前も洗おうとするんだ。

 一体キリヤは、彼らに何て言ったんだろう。
 僕はハラダ家のみんなに愛されてるというより、狙われている。

 夜、僕はご両親の許可付きでマナの部屋に泊まる。
「今日はタイヨウ、お客さんだから、マナがいっぱい愛してあげるね」
 可愛らしい宣言どおりに、マナはたっぷりとサービスしてくれた。長いディープキスしながら、子供を可愛がるように髪を撫でて、何度も「好き」と囁き、僕の顔中にキスして、胸元に降りていく。ちゅっちゅっと音を立てて胸にキスして、僕の乳首を舌と指で転がし、時々強く吸い込んで甘噛みする。僕が思わず声を出すと、嬉しそうに顔を上げて微笑む。
「お客様、気持ちいいですかぁ?」
「うん。すごくいいよ、マナ」
「へへへー」
 さらにマナは下に潜っていく。僕の陰茎にそっと手を添えて、裏スジをなぞるように何度も舌を這わせる。くすぐったい快感に腰が震える。全体にたっぷりと唾液をまぶしてから、マナはそれを自分の胸に挟んだ。左右の手でムニムニと両側からマッサージするように揉みしだき、体を揺すって温かいサービスをしてくれる。
「んっ、どう? マナのおっぱい、気持ちいい?」
 僕は彼女に頷く。
「うん。マナのおっぱいは最高だ」
「ふふっ」
 おっぱいを褒めてあげると、マナは本当に嬉しそうな顔をする。
 中学に上がってから成長著しいマナの胸は、とうとうこういうプレイも可能なまで育った。
 大きいだけじゃなく、張りもあって形のいい胸はマナの自慢で、エッチのときも誇らしげにアピールしてくるし、デートのときや学校でも、ことある事に僕に押しつけてきたりする。
 もちろん僕も彼氏として、恋人のおっぱいが見事に成長してくれたことを嬉しく思う。僕のを挟んで形を変えるマナの胸には、昨日僕がつけたキスマークがまだ残ってる。
「ン……タイヨウ、んっ、あとで、また、いっぱいキスマークつけてね? マナのおっぱいが、タイヨウのモノだってシルシ、いっぱいちょうだい?」
「いっぱいするよ。マナのおっぱいは、僕のモノだからね」
「うんっ。ありがと。へへっ、楽しみだな」
 嬉しそうに微笑んで、マナは体を揺するペースを上げる。
 時々舌を伸ばして唾液を垂らしながら、息を荒げて僕のを擦る。興奮が高まっていく。マナの声にも甘い色気が混じっていく。僕はマナの動きを制し、顔を持ち上げる。マナは僕の求めを察して、僕に体を擦りつけるようにして腰を上げる。
「はぁ……入れるね。入れてもいい、タイヨウ?」
「うん。しようよ、マナ」
「タイヨウは、動かなくていいからね。マナが最後までするからね」
「わかった」
 マナが仰向けになった僕のお腹を跨いで、大胆に足を開く。そして、ゆっくりと腰を落としていく。僕の先端が埋まったところで、マナが深い息を吐く。
「待って。そこで止まって、マナ。僕にもっとよく見せて」
「あ、やんっ、もうちょっとなのに……」
「マナのエッチなオマンコがヒクヒクするとこ、見たいから」
「あん、やだ、エッチなのは、タイヨウだよぉ」
 大きく開いた足。ぱっくりと開いたアソコが僕の先端を飲み込んで、物足りなそうに震えてる。マナは僕の言うとおりに、その体勢で僕にエッチな姿を見せてくれる。マナのアソコから、愛液が垂れて僕のに伝って落ちる。
「あっ、はぁっ……タイヨウ、見える? マナのオマンコ、見えてる?」
「うん。見えるよ。ヒクヒクしてるマナのオマンコから、エッチな汁が僕のに垂れてる」
「はぁっ、はぁっ、うん、そうなの。もう、我慢できなくてぐしょぐしょなのっ。マナのオマンコ、タイヨウのオチンチンが大好きだから、早く一緒になりたいって、すぐ泣いちゃうのっ」
「辛い、マナ?」
「辛いよ、寂しいよぉ……早くマナに、タイヨウのオチンチンください……」 
「わかった。ズボってしていいよ、マナ。僕のをマナのオマンコで食べちゃっていいよ」
「うんっ、ありがと! 入れちゃう! タイヨウのオチンチン、全部貰っちゃう! あぁっ!」
 マナの腰が一気に降りて僕のを飲み込んだ。ギュッと根元が締め付けられて、温かいヒダが絡まってくる。幸せを実感する一瞬。
「はぁっ…嬉しいッ……」
 マナも僕を同じ気持ちなのか、ピンと背中を反らせて、蕩けるような目に涙を浮かべる。僕はマナの腰を、マナは僕の胸に手を置き、お互いの絆を確かめるように見つめ合い、優しく撫で合う。
「タイヨウ、大好きぃ」
「僕もだよ」
「えへへ……マナ、動いていい?」
「うん」
 短い会話で想いを交し、後は性急なセックスで快感を交換し合う。マナは大きく股を開き、大胆な動きで腰を振る。僕はマナの自慢の胸に手を這わせ、彼女の体を下から支えながら、イジメるように揉みしだき、マナから切ない嬌声を引き出す。
「そんなにっ、声を、出したらっ、下の部屋まで、聞こえるよ!」
「いいの! 聞かれても、いいの! だって大好きなんだもん! あぁ! タイヨウ大好き! タイヨウとエッチするの、大好き! あぁっ、あぁん! 気持ちいいよ、タイヨウ!」
 うねうねとヒダが僕のに絡みついてくる。温かくて柔らかい。彼女は僕のを吸い込むように奥へ奥へと誘い、逃すまいと根元を締め付け、そして懸命な愛撫のように中が蠢き、僕に快楽の奉仕をする。
 この上ない快感と幸福。まるで彼女の愛情が、そのまま膣になったみたいだ。
「気持ちいいっ? ねえ、マナの、オマンコ、気持ちいいっ?」
「最高だよっ。きつくて、んっ、あったかくてっ、すごくエッチなマナのオマンコ、気持ちいいよっ」
「あぁぁ、嬉しいよぉっ! ね、ここも、タイヨウのものだよ! んっ、マナの、エッチなおっぱいも、エッチなオマンコも、タイヨウだけのものだからね! あんっ、だから、今日もいっぱい、タイヨウの精液くださいっ。マナのエロエロなオマンコに、精液たくさんください! あぁ! あぁん!」
 僕への愛情の従順をキリヤに仕込まれたマナと、ろくな知識もない僕がセックスを始めた頃は、拙い愛撫で、ぎこちなく目覚めたばかりの性欲をぶつけ合うだけの、乱暴なスキンシップだった。
 そのうち何人もの女性を抱いて先にエッチに慣れてきた僕は、やがて女性の体を悦ばせる方法を覚えて、マナも少しずつ僕の愛撫に馴染み、セックスを楽しむようになった。
 僕とマナは何度も抱き合い、新しい発見をしていく。
 見つけたことは教え合い、試して、確かめていく。今のマナは、あの頃の愛情と従順はそのままに、セックスを楽しみ、僕を感じさせることに喜びを感じ、お互いのツボを知り尽くした最高のパートナーだった。
 僕たちのセックスは、この年にして熟練している。同じように高まり、同じタイミングで頂点に達する。それはもう、呼吸でわかる。目でわかる。触れあっている場所でわかるんだ。
「マナ!」
「うん、来て! マナもイク! タイヨウの全部、マナの中に出して! 出してェ!」
 僕たちは同じ痙攣をする。繋がってる場所が熱く溶けて混じり合い、1つになったと実感する。きつく手を握り合う。愛してるって気持ちが伝わる。僕は可愛いマナの中に、僕の欲望の全てを預けて、吐き出す。愛しい快感に目が眩む。
「あぁ! あぁっ、ビュクビュクしてる! タイヨウのオチンチンが、オマンコの中で暴れてるよぉ! あぁ! あぁぁっ! イクっ! イッちゃうぅ!」
 マナは大きな声を上げ、腰を小刻みに擦りつける。僕から一滴残らず絞りだそうときつく締め上げ、体を何度も痙攣させて僕の上に崩れ落ちた。
「はぅぅ……タイヨウ…タイ、ヨぉ……」
 体をビクビクと震わせながら、ずっと僕の名前を呼ぶマナの髪を撫でていると、すごく満ち足りた気持ちになれるんだ。

「タイヨウのお掃除しよっと」
 しばらく息を整えたあと、マナは体を起こして、再び僕の股間に顔を沈めていった。精液と愛液で汚れた僕のを、イヤな顔ひとつせず咥えていく。
「じゅぶ、ちゅ、ちゅる、ちゅぽ……んっ、れろ、ん、ん、ちゅ、ちゅう」
 まだ射精後の敏感な先端が吸われ、舐められ、袋まで愛撫されて、またムクムクと僕のが立ち上がっていく。
「ね、マナ。裏スジのところ、もっと舐めて。下から上へなぞるみたいに」
「んー、レロ、レロォ……。ちゅ、レロ、レロ……」
「そのカリ首のところ、チロチロして。強めに」
「んっ、レロ、んっ、ん、ん、ん、ん……」
「尿道の口もだよ。舌を尖らせて、レロレロして」
「んっふふ~。お客さん、今日は注文多いですねー? いいよ……マナにして欲しいこと、何でも言って?」 
 マナが舌をレロレロと小刻みに動かす。
 僕はその髪を撫でながら、チラリとマナの足元の方を見る。

 じつは僕らがエッチを始めた頃から、ドアの向こうでアユミちゃんがこっそり覗いてる。
 わざと声に出してフェラを指示しながら、僕はアユミちゃんにマナのしている行為を説明していた。思春期にさしかかった彼女の後学のためになればという、兄心だった。
 でも、そろそろ寝ないと明日学校つらいでしょ。僕はドアの方を見てニコッと微笑んだ。ガタ、という音がしてアユミちゃんの影が消えた。
「ン……なんか、音した?」
「なにも? 続けて、マナ」
「うん、んんっ、ちゅぷ、んん、んっ、んー…タイヨウ、好き…んふっ、かぷっ、ちゅぷ、じゅぶ、んー……」

 次の朝、リビングに降りてきた僕に、アユミちゃんがコソコソと近づいてきて、「あとで読んで」と手紙をよこして逃げていった。
 トイレで手紙を広げてみると、そこには彼女が前から僕のことが好きだったということと、じつはかなり前から僕たちのエッチを覗いていたということ、そしてそのことのお詫びをしに、今日の放課後、1人で僕の家に来るということ(いつの間に家バレしたんだ?)が書いてあり、最後に「お姉ちゃんには絶対ないしょ!xxx」と太い字で結ばれていた。
 そして僕が食卓に戻ると、アユミちゃんの席はからっぽになっていた。
「あれ、アユミちゃんは?」
「なんかキノコダッシュで学校行ったよ」
「あの子ったら、ごはんも食べないで。何を慌ててるのかしら?」
「どうせ宿題でも忘れたんでしょー」
「ふぅん」
「ねえねえ、タイヨウ。今日も学校終わったら、勉強しにおいでよー」
「いや、今日は叔父さんとこ行かなきゃダメなんだ」
「えーマジー?」
 ウソだ。ごめん。
「む~。さみしーよー」
「ごめんね、マナ」
「もうマナったら、タイヨウ君を困らせないの」
「そうそう。お前らが結婚すればタイヨウだってうちで暮らせるんだから、文句言ってるヒマがあったら、さっさと嫁行く準備しろ」
「も、も~! お父さんったら、そればっかり! そ、そんな先のこと、私たちまだわかんないもん!」
「あら? いつもと言ってることが違うわねえ、マナ?」
「お母さんっ!」
「はいはい」
 顔を真っ赤にしたマナがムスっとスプーンを咥え、お父さんは笑いながら新聞を開き、お母さんは僕が食べ終える前にトースターに新しいパンを入れる。
 朝の匂いがする。僕の好きな匂いだ。

 一見すると普通の食卓。
 でも、この平和な光景の中にはたくさんの間違いが隠されている。 
 お父さんもお母さんもアユミちゃんも、それにマナだって、彼らが僕に向けてくれる愛情がキリヤに貰ったもので、本物じゃないことくらいわかってる。
 こんなのはただのママゴト。
 僕には本当の家族なんていない。
 家族で団らんなんてした覚えもないから、懐かしくもなければ寂しくもないし、今さら僕を捨てた親になんか会いたいとも思わない。

「タイヨウ君、パン焼けたわよ。食べるでしょ?」
「はい。いただきます」

 でも、ハラダ家で食べるごはんは、いつも温かくて美味しかったんだ。

「……へたくそ」

 足元のキリヤが呟いた。僕の手から銃が滑り落ちた。弾は全て床を撃ち抜いていた。
「キリヤ」
 頭が痛い。涙がこぼれる。
「ごめん、キリヤ。ごめん……」
 キリヤの額は割れて、中身が見えている。手も足も変な方向に曲がっている。
 生きているはずがない。僕が殺した。僕はキリヤを殺したんだ。
「泣くなよ。ガキじゃないんだから」
 だけどキリヤは笑った。いつもみたいに、陽気な憎まれ口で。
「お前が驚いてどーすんだよ?」
 手が震える。涙が止まらない。立っていられない。
 キリヤは体を起こした。腕が折れて、崩れる。慌てて僕は支える。
「いッてー。これ、マジで痛ぇー」
 ボロボロになった腕を揺らす。壊れた人形みたいで、見ている僕まで痛くなる。
「キリヤ、動かないで。今、救急車を呼ぶから」
「意味ねーよ。こんなになって生きてるはずないし」
 キリヤは自分の額を指さした。そこからは脳がこぼれ落ちていた。
「俺だから、まだ生きてるんだぜ。ま、もうすぐ死ぬけどな」
 そんな風に笑うな。いつものキリヤみたいで、胸が詰まる。
「……死なないで、キリヤ」
「自分で殺したクセにー」
「それでも……死なないでよ、キリヤ!」
「無理だね。俺は死ぬ」
 子供を諭すように、きっぱりと言われて、また涙があふれる。
「……ごめん、キリヤ」
「謝んなよ。別に怒ってないし」
 知ってたんだ。
 キリヤはこうなることを知っていた。知ってて、ここに来たんだ。
 自分の愚かさが胸に突き刺さる。
「楽になったか?」
 あの人の声はもう聞こえない。
 でも、僕はちっとも救われない。
 こんなことで、解決するはずがない。
 考えたらわかることなのに!
「キリヤ、僕を殺して」
 僕は銃を差し出した。
 キリヤと一緒に僕も死ぬ。僕にはもうそれしかできない。
 だけどキリヤは、笑って舌を出す。
「お断りだ、バーカ」
「キリヤが僕を殺せばいいんだ。そうしたら、もう君は誰にも殺されない。自由になれる!」
 最初から、そうするべきだったんだ。
 僕が何度自殺を試みても、全て失敗した。でもキリヤなら僕を殺せる。世界に勝てる。ナツミキリヤは最強なんだ!
「…お前は生きろよ、タイヨウ」
 キリヤは、いびつに曲がった足で立ち上がる。
「お前がいるから、許すんだ。お前がいるから、いいんだ。そうじゃなかったら、ガキん時にとっくにぶっ壊してたよ。こんな世界(とこ)」
 冗談めかして、ヒョコヒョコと僕の横を通り過ぎる。ガラスを踏む音と、血の跡が床に続いた。
「……どこ行くの?」
「あっち」
 キリヤは壊れた窓を指さした。ファミレスの外なのか、それとも、もっと遠くを意味するのか。
「お前は来んな。そこにいろ。俺がいなくなってから、銃をどっかに捨てて歩いて帰れ。ベンツも諦めるしかねーな」 
「キリヤ……行かないで」
「元気でな、タイヨウ」
「行かないでよ、キリヤ! 僕を1人にしないでよ!」
 身勝手なことばかり次々に口から出てくる。僕は本当にどうしようもない奴だ。でも怖い。キリヤがいないことに耐えられそうもない。
「……お前は死ぬなよ」
 立ち止まって、キリヤが振り返る。
「死ぬな、タイヨウ。約束しろ」
 キリヤのいない世界で、1人で生きる。
 キリヤを殺して、1人で生きる。
 それがどれだけ苦痛なのか、想像するだけで震える。でもキリヤは僕が頷くのを待ってる。血だらけの目で、僕を見ている。
「約束してくれ」
 キリヤは、約束を守る男だ。
 僕はその重みをゴクリと飲み込、頷く。キリヤも頷く。
「じゃあな」
 キリヤは僕に背中を向けた。
 足を引きずり、何度も転びながら、窓を乗り越え、道路にまで出た。いつもの自信たっぷりの背中は、弱々しく今にも折れそうだった。僕はその背をずっと見ていた。僕はずっとこの背中を見てきた。子どもの頃からずっと。

「タイヨウ」

 キリヤがそこで振り返る。僕に向かって真っ直ぐに立つ。
 その小さな声も僕にはハッキリと聞こえる。

「俺とタイヨウのコンビは?」
 
 喉が詰まる。膝が震える。泣くな僕。唾を飲み込み、乾いた唇を開く。
 僕とキリヤのコンビはいつだって。

「……最強、だ」

 キリヤは嬉しそうに笑った。
 その横顔がヘッドライトに照らされた。

 大型のタンクローリーが、キリヤの立っている場所に、速度を緩めることなく突っ込んでいった。

 雪道で、すべって転んだ。

 立ち上がる元気もないので、しばらくそのままでいる。
「大丈夫、きみ?」
「ええ。お構いなく」
 どっかのおばさんが優しく声をかけてくれたけど、適当にあしらったら、変なのを見るような目でどこかへ行ってくれた。
 疲れた。このまま雪に埋もれてしまいたい。
 キリヤはあれからどうしたんだろう。気にかかる。まだ怒ってるんだろうか。まだ怒ってるんだろうな。

 僕は親友に絶交を宣言してしまった。

 ケータイを取り出して、やっぱりメールできなくて、ポケットにしまう。
 どうしてあんなこと言っちゃったのかな。謝りたい。キリヤと仲直りしたい。
 なのに勇気が出せない。あんなにひどいケンカしたのは初めてで、今もドキドキしてる。
 親友なんて言ってたクセに、僕はキリヤの気持ちを全然わかってなかった。
 僕らが自分の無力に落ち込むのと同じように、キリヤだって自分の万能に傷つくこともある。
 彼の孤独を僕は子供の頃から知ってたはずなのに、いつのまにか忘れていた。
 僕は本当にバカだ。 
 キリヤは1人で大丈夫だろうか。無茶してないだろうか。
 じわっと涙が出てくる。メガネが曇る。喉が震える。
 僕たちはもう、終わりなのかな? もう一緒に遊べないのかな?
 この世の終わりみたいな絶望感。絶交って、すごく重い。知らなかった。
 あんなこと、言わなきゃ良かったって、もう何度も同じこと繰り返してる。
 僕のバカ。

 そのとき、ケータイがブルブル震えた。
 もしやと思って開いたメール着信画面には、やはり「ナツミキリヤ」の名前が流れていた。

 『お前にこれだけは言っておく』

 僕の指が震えた。
 最後通告みたいに重々しい件名に、喉を鳴らす。胃が痛くなる。
 僕は白い息を吐いて、ケータイを胸に置いた。指先は冷たくてひりひりしてた。
 そして、覚悟を決めて、メールを開いた。

 『今、俺んちにパシューム来てるけど、お前は呼んでやらね』

 バネのように、跳ね起きた。
 そして激しい怒りに突き動かされて、ダッシュした。
 キリヤはとんでもない勘違いをしている。僕に対して嫌がらせのつもりでやってるのかもしれないが、それは違う。パシュームはそうじゃない。
 僕は本当にそんなつもりで彼女たちのCDを聴いてたわけじゃない。彼女たちの音楽を愛しているだけだ。やましい気持ちなんてない。3人ともすごくいい子なんだ。努力家なんだ。だから純粋な気持ちで頑張って欲しいと思ってるだけなんだ。彼女たちの広島時代の苦労を知ってるなら、彼女たちにどうこうしようなんて考えられるはずがない。あんな健気な子たちは他にいないんだ。もう日本は彼女たちで最後なんだ。彼女たちに一体何をしようってんだ。ありえない。バカげてる。人でなし!
 何度も転んだ。でも僕は走った。キリヤの住む高級マンションに到着する。暗証番号もカードも持っている。怒りのあまり、エレベーターも使わず階段を走った。体中の血液が沸騰してる。僕は機関車だった。昇る。走る。ピンポン鳴らす。キリヤが顔を出す。
 腹の底から、僕は叫ぶ。

「ハァ、ハァ……よっちは、僕の嫁だぞッ!」

 キリヤはゲラゲラ笑って「まあ、あがれば?」と言ってドアを開けた。僕はリビングまで駆け込む。どうか無事でいてくれ。頼む!

 ―――そして、そこに3人の天使がいた。

 いや、私服で新曲のスタンバイしてるパシュームの3人がいたんだ。
 キリヤがCDをかける。イントロが流れる。例の新曲。あの最高の神曲。微動だにしなかった彼女たちの体が、リズムを刻み始める。
 そしてパシュームのライブが始まった!
 信じられない。僕は泣いた。大泣きした。キリヤが僕の肩を叩く。頷く。僕は泣く。大いに泣く。完璧だ。まさに彼女たちはパーフェクトなスター。なんて完璧なダンス。なんて完璧な口パク。
 僕たちは惜しみない声援を送った。黄色い歓声を上げた。とにかく踊った。彼女たちの振りを真似して踊った。サインを貰った。一緒に写真も撮ってもらった。そしてなんと、全員と握手まで!
 そして、次の仕事が入ってる彼女たちのためにタクシーを呼び、少し寂しい気持ちで見送った。
 僕とキリヤは2人で玄関に残される。

「……これからどうする?」
「まあ、海だろうね」

 タクシーで海まで行った。ものすごい寒かった。
「さっびー! 寒いよ、これ! 北極じゃん! なんで今ごろ海なんだよ!?」
「それじゃ、キリヤどうぞ」
「え、なに? なにが?」
「バカヤローとか叫ぶでしょ?」
 キリヤは顔を真っ赤にして、怒鳴った。
「やるわけねーだろ、そんな恥ずかしいこと!」
 寒風びゅうびゅう吹く海で、僕らはただ震えていた。こんな時化では、夕日だって溺れてしまうに違いない。
「こんなとこで何してんだよ、俺たち…」
「じゃあさ、飲みに行こう。たまにはパーッと飲んで騒がない?」
「えー、もうだりーよ。さみーよ。うち帰ろうぜ?」
「いーや、ダメだ。まだまだ僕は帰らないぞ!」
 僕のメガネが、鋭く光る。
「今日こそ六本木の女たちに、誰が最強なのか教えてやらないと」
 キリヤはポカンとした後、大笑いして「それもそうだな」と僕の肩を組んだ。

 僕らはタクシーで東京までやってきた。
 初めて踏みいるギロッポンは魔性の香りが漂っていて、特に僕なんて中学の制服のまま来ちゃってるわけだからかなり緊張したけど、それでもタクシーの運ちゃんに聞いた六本木でもナンバーワンと呼ばれる店に、僕らは突撃した。
「今から俺たちのやり放題ターイム! 他の客は出てけ出てけ!」
 キリヤの宣言により、他の客が続々と追い出されていく。VIPルームから芸能人がたくさん出てきてビックリした。ナンバーワンは伊達じゃないと思った。
「女の子たち~! エロ楽しんでこうぜ!」
 そしてホステスのお姉さんたち全部集めて、パーティーが始まる。
 エロ楽しんでこうぜ、とキリヤに言われてお姉さんたちも最初からハイテンションで、お酒も食べ物もジャンジャン注文し、熱烈なサービスに囲まれ、僕らのピッチも上がっていく。
「もっと高い酒持ってこいよ! ドンペリだっけ? 持ってこい!」
「かしこまりました」
 黒服さんが恭しくお辞儀する。お姉さんたちも大喜びだ。もちろんお金は払わないけどね。
 高そうなお酒がガンガンお酒が運ばれてくる。でも僕はもう何を飲んでるかもわからないし、床にはダバダバこぼしてるし、お姉さんたちの胸だって揉み放題だし、チューしまくりだし、あっというまに股間はキンキンだ。
「お姉さん、名前はー?」
「サヤカでーす」
「やらせてー」
「いいよー」
 僕はサヤカさんという名の、アホみたいに髪の毛盛ってるお姉さんをソファの上で犯した。他のお姉さんたちは変なかけ声で僕たちを応援してくれた。キリヤは数人に同時フェラさせていた。
 サヤカさんの中で射精したあと、おしぼり貰って息をつく。
「もうおつかれー?」
 別のお姉さんが顔を近づけてきたので、口移しでお酒を飲ませてもらう。どんどん女の子たちが集まってきて僕を取り囲む。
「暑いね、キリヤ」
「そうだな。よし、みんなで脱ごう!」
 僕もキリヤもお姉さんたちもみんな裸になった。黒服の人たちは勘弁してもらった。
 代わる代わる口移しでお酒を飲ませてもらい、空いた手でお姉さんたちを抱き寄せ、股間を咥えさせ、足の指をしゃぶらせ、やがて乱交になった。
 美人のお姉さんばかりだった。タイプの違う美形が揃っていて、スタイルだってバツグンだった。
 さすがは六本木だと、少年心に東京を焼き付ける。いずれは僕も都会で成り上がりたい。自分の店を持ちたい。僕は絶対、六本木の帝王になる!
 気がつくと、僕はかなり酔っぱらっていた。

「踊るぞ~!」

 キリヤの指示で、全裸レイブパーティーが始まる。女の子の数がどんどん増えていってるのは気のせいではなく、彼女たちのネットワークで他の店からも女の子たちが集まってきてるらしい。良いことだ。六本木中の女が集まればいい。
「女子は全員、裸になるのらー」
 DJブースで華麗にターンテーブルを回すキリヤの呂律は、全然回ってなかった。
 しかしフロアは見事に全裸。全裸。全裸。六本木のおっぱい、ここに集結す。
 抜群のスタイル。エロい腰つき。みんな惚れ惚れするような乳とお尻を惜しみなく揺らし、踊り回る。その間を縫って忙しくドリンクを運ぶ黒服たち。誰もがおおいに飲み、変なのを吸い込み、トランス系の音に身を任せる享楽の夜。
 だけど僕は、わさわさに揺れるおっぱいの海の中で1人、頭を抱えていた。
 違う。こんなんじゃない。僕が求めているのはこんなのと違う。
 僕はアンプに自分のMP3プレーヤーを繋いだ。
「パシュームの方が全然いいじゃん!」
 大好きな『ポリリリズム』を流す。
 僕とキリヤの振り付け指導の下、女の子全員でパシュームを踊る。揺れるおっぱい。弾む尻。超楽しい。パシューム最高!

「あはははっ!」
 僕の横で、キリヤが楽しそうに踊ってる。踊りながら、僕はキリヤに耳打ちする。
「キリヤ」
「ん?」
「……昼間は、ごめん」
 キリヤは首を傾げて、そして笑った。
「なんのことだよ、バーカ」

 僕らは笑い、踊り続ける。
 リズム。ダンス。繰り返す。僕らはそれを繰り返す。リズム。ループ。繰り返す。
 楽しく踊って、楽しく生きる。プラスチックみたいに甘い毎日に出口なんて必要?
 僕らは何も変わらない。変わらないのに変化する。僕らは何も終わらない。終わらないのにまた始まる。
 繰り返すリズム。このループ。このリズム。無限のリズムでループをループ。
 リズムと友情、日々とセックス。同じリズム。同じ毎日。
 セックス。ダンス。セックス。ダンス。ループ。ループ。ループ。ループ。ループ。ループ。

「踊れ、踊れ~ッ!」

 僕とキリヤでフロアに突撃。
 ギロッポンのおっぱいパワーに溢れる会場は、まさに熱狂の坩堝。
 僕らはその中をかき分けて、女の子たちにキスしていく。揉んでいく。抱いていく。
 キリヤは、外人さん2人を同時に床に転がしてた。
 僕は、ピコピコと光るウサギさんの耳を付けて踊ってる、元気な女の子に目を付けた。
「お姉さん、名前は?」
「アキナでーす!」
「やろっか?」
「オッケー!」
 僕は足を開いて立っている。アキナちゃんがお尻を突き出し、指でアソコを広げながら、ステップ踏んで近づいてくる。
 みんなが手拍子でアキナちゃんを応援する。彼女はお尻をフリフリして声援に応える。そして僕らのドッキング。
「あぁーん!」
 一斉に沸き上がる拍手と声援。
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ!」
 そして黒服さんたちの手拍子に合わせ、僕はアキナちゃんを犯す。盛り上がる会場。盛り上がる僕。
「あんっ、あぁっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ」
 ウサギさんの耳を付けたアキナちゃんが、気持ちよさそうに声を上げる。立ちバックで彼女は床に手を付けるようにしてるから、彼女のお尻の穴まで良く見える。
 僕の頭にピンと閃くものがある。
「黒服さん、ローション持ってきて!」
「かしこまりました」
 さすが六本木ナンバーワンの店。言えば何でも出てくる。
 僕はさっそくアキナちゃんのお尻と、彼女の中から引き抜いた僕のペニスにローションを垂らした。「?」と僕を見上げて首を傾げるアキナちゃんに、僕はニコヤカに宣言する。
「アナルに入れるよ」
「え~!?」
 驚くアキナちゃんに、ぐりゅっと僕は一気に挿入する。
「いっ!? ちょっとそんな、いきなりッ……あっ、やっ、なにこれ!? あっ、あっ、やだっ、やだ!」
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ!」
 僕は黒服さんたちの手拍子に合わせてアキナちゃんのアナルを犯す。
「あーっ、あーっ! やだやだ、やだぁ!」
 最高。久々のアナル最高。
「なんだそれ!? スゲーことやってんな!」
 キリヤがマジ驚きの声をだした。
 これ知らなかったのか、キリヤ。僕なんて2年も前からやってるのに、遅れてるぅ~。
「必殺、アナル・キャノン!」
「かっけー!」
「黒服さん、彼にも同じローションを。あと、これと同じウサ耳いっぱい持ってきて!」
「かしこまりました」
 さすが六本木ナンバーワンの店。言えば何でも出てくる。
 ウサギさんの耳が女の子たちに行き渡り、みんながそれを付けたところで、僕はキリヤに耳打ちし、マイクで宣言させる。

「俺らに捕まったら、アナルを犯されるぞ! ウサギ狩りだ~~~ッ!」

 女の子たちは悲鳴を上げて一斉に逃げ出した。
 でも、限られた店内で2匹の狼から逃げられるわけがない。
 僕は金髪のウサギさんを倒した。ハーフっぽい感じのきれいな子だった。イングリッシュアンゴラウサギに違いない。僕は彼女のアナルを犯した。
 次に少し垂れ目で色白のウサギさんをソファの上で捕まえた。ロップイヤーウサギだ。アナルを犯した。
 おとなしそうなウサギさん2匹を、キリヤと一緒にトイレまで追い詰めて、そこの床で同時にアナルを犯した。
 パンキッシュなウサギさんは捕まってからも激しく抵抗するから、黒服さんたちに手足を押さえといてもらって、アナルを犯した。
 小柄なウサギさんを押し倒して、まさかの正常位ノーマルセックスから、いきなり足を持ち上げてアナルを犯す。テーブルの下に頭を隠してお尻隠さずのウサギさんをバンバン犯す。
 ぽっちゃりした黒服のお兄さんが、ウサ耳を付けて期待する目で僕を見ている。
 僕は彼の横を素通りし、前髪パッツンな可愛いウサギさんを捕まえ、まんぐり返してアナルを犯す。
 ウサギ狩り、超楽しい。テンション上が~る!

「タイヨウくん、次こっち! こっち来て!」
 アキナちゃんが、両手でお尻の穴を広げて、僕を誘ってた。
「…どうしたの? して欲しいの?」
「うんっ、してしてっ。アナルして欲しいの。だってすっごい気持ち良かったもん!」
 お尻をふりふりしてねだるアキナちゃんのアナルに、僕は一気に挿入してやった。
「あぁん! やっぱいい! すごいよ、これ! 気持ちいい! 気持ちいいよォ!」
 僕のをきつく締め付けながら、アキナちゃんは大きな声を出す。彼女はこっちの適性あるみたいだ。自分から腰を揺らして、僕のを貪欲に求めてくる。
「ね、アキナ。それマジで言ってる?」
 彼女よりも年上っぽい、長い髪をしたクール系お姉さんが、よがるアキナちゃんに近づいてくる。
「うん! すごいの! これ、すごい! こんなに気持ちいいの初めて! やだもう、普通のエッチに戻れなくなるよォ!」
「うそ…そんなに?」
「あぁっ、あぁぁっ!? イクイクッ、もうイッちゃう! 信じらんない~ッ!」
 ビクンビクンと、入り口(出口だけど)をきつく締め上げ、アソコから大量の潮を吹いて、アキナちゃんは崩れ落ちた。その様子を見ていたお姉さんが、喉を鳴らす。
「……してみる?」
 コクリ、と頷くお姉さんに四つんばいになるように言う。
「いくよ」
 そして彼女のアナルにローションを塗りたくって、一気に挿入した。
「痛っ!?」
 きつい。
 ギチギチのそこは、僕のを本気で拒んでる。でも強引にねじるように奥へと押し込み、無理やりピストンを開始する。
「ちょ、痛っ、やっ、なにこれっ。痛いって! 切れる、やめてっ、痛いっ、痛い! なんか刺さってるって、これェ!」
 これはきつい。しかし気持ちいい。あぁ、初めてアナル体験したときのことを思い出す。
「痛いッ! 痛いってばぁッ!」
 僕は泣いて嫌がる彼女のお尻を犯した。彼女は本気で悲鳴を上げた。
「バカバカ! やめてぇ! ウソつきッ! ウソつきーッ! 痛い、痛い、痛いィ!」
 ぎゅうぎゅうと締め付けてくる。手強い感触に、僕も逆に燃えてくる。負けるものか。
 僕は黒服さんたちの手拍子に合わせて、お姉さんのアナルをゴンゴン犯す。犯しまくる。
「あーっ! あーっ! やっ、熱っ! やだ、精液出てる! やだ、やだぁーッ!」
 僕はお姉さんの腸内に、溜まりに溜った精液を全部注ぎ込んでやった。
 場内より大きな拍手が僕たちに送られた。

 ウサギ狩りも一段落して、ソファに腰掛け、近くにいた女の子にペニスをおしぼりで拭ってもらって、一息つく。
「おつかれさまでしたのチュッ!」
 近寄ってきたアキナちゃんにキスされた。そのまま彼女は僕の膝にまたがってくる。
「チュッ、ん、チュウ、チュ~」
 彼女にはすっかり気に入られちゃったみたいだ。他にもたくさんの女の子が僕の周りに集まってくる。キリヤも隣のソファで同じように女の子に囲まれていた。
 僕らはまだまだ全然イケる。
 キスされたり、抱きつかれたり、おっぱい揉んだりしながら、僕たちは盛り上がる。
 そして夜も深くなっていく。

「バッカヤロー!」

 キリヤが、いきなり立ち上がって叫んだ。
「……女なんて、女なんて……」
 泣いている。
 さめざめと涙を流している。
 キリヤを囲むたくさんのお姉さんたちも、突然のことにかける言葉もなく驚く中で、キリヤはまるで子供のように泣いていた。
 そして、ひとしきり泣いたあと、「それじゃ、AV女優ゲームのルールを説明しまーす」とカラリと宣言して、ゲラゲラ笑いながら「あおい」「そら」「壮絶アクメ」のバカセックスを始めた。
 そのころ僕は、サナちゃんっていう若いホステスさんに、水割りのグラスをかき混ぜてもらっているところだった。
 こうしてカラカラと音を立てて回るグラスを眺めていると、自分が魚になったような気分になる。不思議な感じだ。いつまでも見ていたい気がする。
「ね、ごめん…マジ、つらいんだけど…」
「ダメ。続けて。できるでしょ、もっと速く」
 あそこにマドラーを3本差し込んだサナちゃんが、テーブルの上でヒィと悲鳴を上げて腰の回転を速めた。乱暴に飛沫を立てるグラスの前で、僕はうっとりと頬杖をつき、ホゥとため息をついた。
 酔うとキリヤは泣き笑い上戸に、僕はドSになるのだ。
 
「タイヨウ、こっちー!」
 キリヤが女の子たちを集めて僕を呼んだ。黒服がカメラを構えて待っている。
 僕とキリヤが中央に並び、女の子たちが取り囲む。
 キリヤが中指立てて舌を出した。その横で、僕はアキナちゃんにネイルされた指で裏ピースしつつ舌を出した。
 女の子たちは、それぞれのポーズで笑顔を浮かべてる。後ろの壁には、白ペンキででっかく「失恋記念!」と書かれてる。
 みんな裸で、めちゃくちゃで、バカで、ハッピー。
 僕たちの青春は、だいたい毎日こんなもの。
 それはきっと、この先ずっと変わらない。

「撮りまーす」

 僕とキリヤのコンビは、最強だ。

 だから僕は、あの日々に溺れている。

「あぁッ、タイヨウ! もっとして! もっと突いてェ!」

 煙草の煙が目に入る。興奮が快感と混じってますます僕を溶かしていく。後悔と享楽がぐちゃぐちゃになっていく。僕を責めろ。苦しめろ。もっとオナニーさせてくれ。もっと僕の頭を狂わせてくれ。
 目の前の尻を乱暴に掴む。マナが嬉しそうに悲鳴を上げる。ぐちゅぐちゅと猥褻な音を立てる尻の中に突き入れ、腰を捻ってかき混ぜる。もっと啼け。悶えろ。何も考えたくない。突き入れる。突き入れる。
「タイヨォ! 気持ちいいよォ、タイヨウ!」
 部屋にこもって、食べて、寝て、セックスするだけの毎日。
 僕はただのろくでなしだった。
 罪悪感と後悔で日に日に僕は弱っていく。自分でもわかる。
 病気でも自殺でもなく、生きる力を衰弱させて僕は死んでいく。
 負け犬には相応しい末路。
 キリヤのいない人生なんて無価値。
 僕は世界に捨てられた男。親友を殺した愚か者。

「あぁッ、あぁッ! いい! 大好き、タイヨウ! 愛してるの!」
 頬がこけて、ボサボサの髪と無精ヒゲを生やした僕が窓に映っている。
 こんな男に犯され続けても、マナは相変わらず美しい。
 彼女は僕とキリヤの友情の証。彼女とのセックスだけが今の僕の世界。
 テレビではコメンテーターが政治家の悪口を言っている。
 僕はセックスの気持ち良さを確認する。
 外の世界のことは知らない。何も知らない。
 僕はここで終わる。
 死への渇望が性欲に昇華されていく。
 心臓が止まるまで、セックスして死ぬ。
 もうすぐだ。意識が散っていく。心臓のリズムが変わっていく。
 止まれ。止まれ。頼むからもう止まってくれ。
 僕はその瞬間をセックスで迎えたい。もうじき僕は終わるんだ。

「タイヨウ! タイヨウ、気持ちいいよォ!」

 気持ちいい。
 気持ちいい。
 何もかも。

 止まる。

「……気持ちいいか、タイヨウ?」
 マナが男の声を出した。
 僕が貫いてる尻の先、なだらかで色っぽいマナの背中の上で、キリヤの顔が振り向いていた。
「このオマンコは俺とお前の友情の証だ。最高だろ?」
 僕はピストンを続ける。続けながら、キリヤの顔に頷く。あぁ、もちろん最高だ。
「あいかわらずスケベだねー、タイヨウは」
 テレビから子供の声がする。
 キャスター席で、テーブルの上に足を組んだ子供のキリヤが、ニヤニヤしながらこっちを見てる。
「でもハラダも本当いい女になったよな。俺に感謝しろよ、タイヨウ」
 窓の向こうからも少年の声。そこに映ってたマナを犯す僕の顔が、中学生のキリヤになっていた。

 ……キリヤ。

 ガキっぽい、懐かしい笑顔。

「つーか、ずいぶん老けたな。タイヨウ」
「いくつだっけ?」
「22くらい?」
「おっさんみたいだぞ」

 3人のキリヤが交互に喋る。
 僕は涙をこぼす。

「……どした?」

 それを聞きたいのは僕だ。
 ようやく来てくれたんだね。
 僕も連れてってくれるんだよね。

「ん?」
「どこへ?」

 苦しいんだ。
 怖いんだ。
 僕1人じゃ生きていけない。キリヤがいないとダメなんだ。
 だから、僕もそっちへ行く。

「慌てんなよ」
「今日はお迎えにきたんじゃない」
「お前に話がある」
「大事なことだ」
「秘密だぞ」
「シーッ」
 
 話って、なに?
 君のこと怒ってる?
 だから僕を連れてってくれないの?

「心配すんな」
「いい知らせだぞ」
「一緒に戻ろう」
「俺たちの始まりへ」

 始まり?

「そう」
「俺たちはどこへも行かない」
「戻るんだ」
「思い出したんだよ」
「俺たちは、同じ時間を繰り返している」
「何十回も」
「てか何百回も」
「お前だって、たまに未来が見えるとか言ってたろ?」
「あの時は、とうとうお前もクレイジーの仲間入りかと思ってたけど」
「俺にもわかったよ」
「当たり前だ」
「だって俺たち、似たような未来を死ぬほど知ってるんだから」

 ……どういう意味?

「まんまだよ」
「俺たちは、出会って、遊んで、死んで、また出会う」
「それを繰り返している」
「ずっと、何度も」
「そのために俺が死ぬ必要があったんだ」

 違う。
 僕が殺した。
 僕がキリヤを殺したんだ。

「そう」
「俺は何度もお前に殺されている」
「俺を殺せるのは、タイヨウだけだから」
「ハワイで撃ち殺されたこともあった」
「ホテル教頭から突き落とされたこともあったっけ」
「でもそれでいい」
「何度でも殺してくれ」
「俺はそれで自由になれる」
「こうなった俺はマジで最強」
「俺と世界の長きに渡る戦いは、今回もまた俺の圧倒的勝利で終了した」
「だから、また遊ぼうぜ」
「新しい世界で」
「昔みたいに!」

 あふれ出る。

 笑うキリヤ。怒るキリヤ。泣くキリヤ。
 笑う僕。泣く僕。困る僕。
 初めて2人でハワイに行ったとき、僕たちは楽しく遊んで、最後にケンカして、2人で泣いた。
 お互い友だちなんていなかったから、距離の縮め方がわからなくて、初めはホントぎこちなかった。
 でもそれからも僕らは一緒に遊んで、一緒に女の子とエッチなことして、気がついたら一緒にいるのが当たり前になっていて。
 僕たちが2人いれば、学校も、街ん中も、外国だってめちゃくちゃに楽しいんだ。
 朝からエッチして、しょうもない遊びを思いついて、放課後も一緒に遊んで、家に帰ってからもまだ喋り足りなくて、今日やったバカについて何時間も電話で笑う。
 くだらない掛け合いと、くだらない冗談と、くだらない遊びが全てだった。
 だからこそ永遠に失いたくないと思える、幸せな日々。
 ずっと夢見てきた。
 あの日に帰ることを。

 でも……どうして?
 どうして僕たちは、それを繰り返してるの?

「理由とかないし」
「楽しいから」
「お前と一緒に、いろんな女とヤリまくりたいから」
「ようするに、またお前と遊びまくりたい」
「いくら考えても、やっぱりそれしか浮かばないんだよな」
「俺のやりたいことって、それしかないんだ」
「お前もそうだろ、タイヨウ?」
「だって俺たち、最高だったもんな!」

 そうだ。
 キリヤと一緒に遊んでた毎日は楽しかった。
 バカバカしくて、エロくて、くだらなくて面白くて。

 最高だった!

「だよな」
「絶対そうだよな」
「ウシシシッ」
「さて、そこで作戦だ」
「もうすぐハラダの両親が、お前を医者んとこ連れていくらしい」
「若くて美人の姉ちゃん先生な!」
「今回はそいつを使う」
「そいつがお前の中から、ガキの頃の俺たちを見つけだし」
「俺たちはガキに戻ったまま、例の場所にぶっ飛ぶってわけ」
「またあそこからスタートだ」
「楽しもうぜ」
「また2人で!」

 またキリヤに会える。
 キリヤと遊べる。
 それはとてつもなく魅力的な誘い文句だ。
 でも。

「あ?」

 僕らの子供時代は楽しかったけど、でも、楽しいだけじゃなかった。
 あの時の僕らにだって、いろんな痛みがあった。
 僕はキリヤを殺さなきゃならない。傷つけ合うときもある。
 もしかしたら僕らが大人になった未来には、もっと楽しい日々もあったのかもしれない。

「大人になったら、つまんねーだけだよ」
「タイヨウは、大人になってみて楽しかったか?」
「違ったろ?」
「一番楽しいのは、どんなに痛くても笑えた、あの時の俺らだよ」
「あの一瞬が全てなんだよ」
「後の人生なんて、ただの残りカスですよ」
「誰だって、こうする」
「俺みたいな力を持てば、誰だってそうする」
「お前だって、あの時そう思ったろ?」
「だからその問いの答えは」
「問いにしてお前に返す」
「例の場所で」
「お前に聞くよ」

 “もしも世界を好きなように操れるとしたら、お前ならどうする?”

「たとえ世界が俺たちの邪魔しても」
「俺たちはそれを、逆手にとってやるわけよ!」
「俺とタイヨウのコンビは最強だ」
「永遠だから」
「最強なんだ!」

 キリヤ。
 キリヤ。

 君はいつも僕を驚かせる。
 あきれるくらい、大げさでバカバカしいイタズラで。
 僕は君に振り回されてばかり。
 そしてそれを喜んじゃう、僕もきっと君と同じくらいのバカなんだ。

 でも。
 …1つだけ聞いていい?

「どーぞー」

 これは夢?

「あははっ」
「知らねーって」
「いいからセックスでもして待ってろよ」
「もうすぐ、その時がくる」
「それまでしばらく、さよーなら」

 キリヤ、待って。

「あの図書室でまた会おう」

 マナの顔が元に戻る。

「お前のビックリする顔が楽しみだ」

 窓のキリヤが元に戻る。

「それじゃまたな、タイヨウ!」

 テレビのキリヤが消えていく。
 僕の意識が晴れていく。
 キリヤの姿は、もうどこにもいなくなっていた。

「あぁん! タイヨウ! もっと突いてっ! イク、イク! マナ、イッちゃうよォ!」

 グダグダな僕と、エッチなハラダを置き去りにして。 

「早く来いよ、タイヨウ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ…ナツミくん…」

 裏山の階段は結構きつい。
 前に通っていた学校がすぐ近くだけど、登るのは本当に初めてなんだ。
 はるか頂上にそびえる鳥居はバビロンの庭園のよう。運動オンチの僕は、あっさりとナツミにおいて行かれる。
 どうして、こんなことになってんだろ?
 昨日は図書室でナツミに変な質問をされて、裸のハラダに迫られた。その次の日には、高校生からカツアゲして、神社の階段を全力で駆け上がってる。
 なんだかすごい学校に転校しちゃったぞ。
 ナツミキリヤってなんなんだ? 今度の学校、どうなってんの?
 お父さんとお母さんに捨てられたばかりだっていうのに、僕には悲しんでるヒマもない。
「早く早く! 遅いぞ、タイヨウ!」
 息が切れる。横っ腹が痛い。
 でも不思議なことに、なんだかそれも心地よく感じる。
 昨日までの僕と、違う世界に踏み込んでいくような高揚感。
 ざわざわと木が騒いでる。
 風も空も、洗いたてのようにピカピカしてる。
 昨日から驚きの連続で、僕もどうかしちゃったのかな。わくわくしてる。なんだかすごく期待してる。
 やっぱりナツミキリヤは、別の世界の人なのかもしれない。新しい世界から僕を迎えに来た人なのかもしれない。
 この一歩一歩が、旅なんだ。僕を導くナツミを追って、森のトンネルをくぐって、僕は新しい世界へ向かう。
 子供じみた空想を楽しみながら、僕は階段を昇る。
「てか、速い……」
「遅ーよ、タイヨウ!」
 ナツミは遙か先にいた。僕はへとへとになりながら、なんとか頂上に辿り着く。
 鳥居の下からは、街が全部見渡せた。
 広かった。

「へぇ……僕、初めてだよ。結構いい景色なんだね。登ってみて良かったかも」

 自分の住んでる街を初めて見た。
 この景色を、まるで全部自分のものにしたみたいで、気持ちいい。
 風も空も、一番気持ちの良い場所だ。

 ふと、ナツミが大人しいことに気づいた。
 振り返る。
 そして、唖然とする。

 ナツミは泣いていた。
 空を見て、泣いていたんだ。

「あの……ど、したの?」

 ゆっくりとナツミは僕を見て、そして「わかんね」と笑った。

「でも、なんか懐かしいんだ。俺、たぶん前にもこの光景を見たことある。きっと、お前と一緒に見たんだよ」

「えぇっ?」

 僕は知らない。ここに登ったのは初めてだ。ナツミと話したのだって昨日が初めてだ。
 ナツミはゴシゴシ目を擦る。でも、どんどん涙をこぼしてる。

「どっか痛いの? 大丈夫?」

 ナツミは首を振って笑う。

「違う。痛くない。きれいなもの見すぎた。きれいすぎる。すげぇな。最高だな」

「どうしたの?」

「嬉しいんだよ。嬉しくてたまらないんだ。タイヨウと一緒にここに来れて嬉しい。最高だ! 最高!」

 がばっとナツミに抱きしめられた。
 何が何だかわからない。顔が熱くなっていく。なんだこの人。僕ら何やってんの?

「えっ、や、ちょっと、ナツミくん? あの、困るんだけど?」

「俺、お前に会いたかった! ずっと会いたかったんだ! 嬉しい! すっげー嬉しいよ!」

 でっかい声で恥ずかしいこと叫ぶナツミ。僕は顔を真っ赤にしてあたりを見渡す。
 ナツミはおんおん泣きながら僕を抱きしめる。ぎゅうぎゅう締めつけられて逃げ出せない。事態はどんどん恥ずかしいことになっていく。
 僕はあきれて空を仰ぐ。
 どこまでも広い空。雲の間に輪を描く大きな鳥。
 確かにそれは美しい光景だけども。

「俺とタイヨウのコンビは、永遠だぁ!」

 ……おかしなヤツと、友だちになってしまった。

< 了 >

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