・6月2日(月)
「おーい。生きてるかー?」
モニターの前で、小さな手がちょうちょみたいにヒラヒラする。
「え、生きてるよ」
慌てて顔を上げると、経理の小田島愛が大きな目を丸くした。
「いや、そこを真顔で返されるとこっちがキツいっていうか……まさか、ホントに寝てたんですか?」
ずいっと、顔がくっつきそうなくらい近づいてきて、僕は驚いて引いてしまう。小田島の方はこの無遠慮な距離を気にする様子もなく、まだ高校生っぽく見える笑顔をニマニマと浮かべている。
彼女は僕と同期だけど2つ年下。コンタクトで大きくした瞳は、いつもキラキラとしていて無邪気な若さが有り余っていた。
さすがに職場に遠慮してか、ゴテゴテにメイクはしてないが、遊んでるっぽい雰囲気は十分にある。でもおじさん連中にも愛想ができる子で、職場内でも人気が高いようだ。先輩もこの子のこと可愛いって言っていた。
僕は彼女にそれほど魅力を感じないけれど。というか、ちょっと苦手かも。
「寝てないって。ちょっと考え事してただけ。さあ、仕事仕事」
「またまたぁ。休みの間に遊びすぎたんでしょ? ねえねえ、貴司さんって、いっつもどこで遊んでるんですかー? 愛にも教えて教えて」
僕の肩をペチンと叩いて、そのまま体をぶつけるように寄せてくる。肩に彼女の細い腰の感触が押し当てられる。
ふわっていい匂いがした。
この子はこんな調子で、よく喋るし、スキンシップも馴れ馴れしい。いつもこういうノリの子だった。
「失礼。今は仕事中ですので」
「寝てたくせにー。寝てたくせにー」
「うっさい、あっちいけ」
追い払うように手でシッシッとやると、小田島は「くぅーん」とわざとらしくうなだれながら帰って行く。
やれやれだ。僕は再びモニターに視線を戻した。そして、ため息をつく。
仕事をしていても、何も頭に入ってこない。
思い出すのは昨夜の佳織さんの姿。僕に全てを委ねる可憐な人妻。カオリちゃん人形。
あのあと、僕の精液で汚れた床を丁寧に磨き、匂いを消し、佳織さんを元に戻したときにはもう9時を回っていた。
さすがにやばいかと思ったけど、佳織さんは本当に僕のお人形になっている間の記憶を失くしているみたいで、マッサージの最中に寝てしまっただけだと思いこんで「ごめんね」と可愛く笑った。
当然のごとく襲いかかってくる罪悪感。
僕の隣の、長期出張中の先輩のデスクマットには、新婚旅行先のカナダで撮った2人の笑顔が並んでいる。
僕は尊敬する先輩の不在中に、間男のようなマネをしている。佳織さんの無防備な優しさと信頼につけ込んで、料理を作らせたり、体に触ったり、催眠術にかけたりしている。
昨夜はとうとう、唇まで奪ってしまった。
最低だ。
「明日もゴハンおいでね。待ってるから」
行為のあとの、佳織さんのいつもと変わらない優しさに、胸を潰されてしまいそうだった。
もう先輩の家には行くべきじゃない。理由なんてどうでもいい。行けなくなったとメールするべきだ。そして、もう二度と行くな。
なのに、僕は自分の部屋の1コ手前の先輩の部屋で足を止めてしまう。彼女を前にすれば、きっと自分は誘惑に負けてしまうと知っているのに、僕はチャイムを鳴らしてしまう。
「おかえりなさーい。ふふっ」
この笑顔から離れるなんて、僕にはできない。
「ん…ぁ、はぁぁ……」
恒例となった食後のマッサージをソファの上でする。
佳織さんの色っぽい声が、少しずつ僕の理性を壊していく。こんなケダモノの手に体を預けているとも知らず、佳織さんは無防備に白い喉もとを反らした。
「佳織さん、強いですか?」
「んんッ……大丈夫。気持ちいいよ」
「ちょっと揉みすぎたかもしれないから、少しさすりますね」
「あ、うん」
揉みすぎたってなんだよって内心でツッコミながら、僕は佳織さんの肩から背中にかけて撫でた。
僕のマッサージを信頼している佳織さんは、それがおかしなやり方だと疑う様子もなく体を委ねている。僕は思う存分、人妻の柔らかさを手の平で味わい尽くす。
「ん……ぁ……ふ、ぅ……ふぅ…ん…」
僕のいやらしい手は背中から脇腹へ。時折くすぐったそうにしながらも、佳織さんは吐息を漏らすだけで嫌がるそぶりもない。それどころか、体から力が抜けて、僕の手の中でクニャリと柔らかくなっていく。
佳織さんは、僕がどんな風に触れてもそれはマッサージだと思いこんでいる。気持ちいいのは僕が上手だからだと信頼している。
僕はそんな佳織さんを愛おしむように撫で回す。うなじに触れ、細い脇腹を撫で、背骨に沿って指を伝わせ、背中のブラの紐を服の上から執拗になぞる。そのたびに佳織さんは切ない声をあげた。僕の手はその色っぽさにのぼせて、どんどん大胆になっていく。
僕の催眠人形。
昨日、佳織さんの心の奥に埋めたキーワードを思い出す。たった一言、その言葉を出せば佳織さんは僕の人形になるはずだ。
今、それを言えば。
僕の催眠人形。
佳織さんは『僕の催眠人形』なんだ――。
「んっ…貴司くん……貴司くんってば」
佳織さんに呼ばれて、僕は我に返った。
気がつくと、僕はソファの背もたれ越しに佳織さんの腰に手を回し、後ろからのしかかるように佳織さんの肩に顔を寄せていた。
「顔、近いよー」
ツンと指で額をつつかれた。
すぐ間近で見た佳織さんの笑顔と、夢中になりすぎていた自分への恥ずかしさで、僕は真っ赤になる。
「す、すみません!」
「ふふっ、もういいよ。ありがと。気持ちよかったー」
佳織さんがグンと伸びをする。
怒ってはいないようだけど、佳織さんの方からマッサージを切り上げられて、僕はそれ以上、彼女に触れる口実を作れなくなった。
僕は朝から軽くパニってる。昨日のアレが尾を引きずってる。まるで前の自分に戻っちゃったみたいに、佳織さんの前で萎縮していた。
佳織さんは、そんな僕に気づくはずもなく、僕を見上げて指をニギニギさせる。
「それじゃ、また貴司くんもやってあげよっか?」
「い、いいえ、僕は……」
みっともないくらい、どもって、うろたえてしまう。
落ち着けと自分に言い聞かせて深呼吸する。
もうやめろ。これ以上はするな。
「遠慮しないでってば。ほら、大人しくこっちおいで。ガオー」
両手をニギニギと、赤ずきんに襲いかかるオオカミのようにして僕に迫ってくる佳織さん。
僕のしていることを何も知らずに、無邪気に信頼してくれる彼女を見ていると、自分の抑えが効かなくなってくる。
もっとひどいことを、したくなってくる。
「佳織さん」
「ん?」
「……僕、そろそろ帰ります。明日はちょっと早い現場なんで」
自分の部屋に戻って、布団をかぶって、枕に頭を打ち付けた。
これでいい。佳織さんを『僕の催眠人形』にしようだなんて、そんな考えは捨てろ。
彼女は人妻だ。先輩の奥さんだ。そんなことしちゃいけないんだ。
でも、したい。
佳織さんにエッチなことをしたい。
裸にして、全身を舐め回して、セックスしたい。
セックスがしたい。
佳織さんと。僕の催眠人形と。
死んでしまえ、僕。
・6月3日(火)
もう一度だけだ。
あと1回だけ佳織さんを僕のお人形さんにする。
そして彼女にキスをして、それを一生の思い出にして、これっきりにしよう。
先輩。佳織さん。ごめんなさい。
本当に、これで最後にします。
「おっかえりー」
「……いつもすみません」
「あはは、いいよ。買ってくれたの貴司くんだしー」
ぽってりした佳織さんの唇。
ドキドキする。今日の佳織さんもとてもキレイだ。
ルーズなジーンズと、ぴったりと体の線を見せるボーダーのカットソー。長い髪をポニーテイルにざっくりまとめている。
一昔前のファッションって感じが、部屋着の気安さで僕を迎えてくれる佳織さんのリラックスした気持ちを伝えてきて、ほんの数日で僕たちはずいぶん仲良くなったんだなって、感慨深い気持ちになった。
今日、僕は佳織さんと最後のキスをする。
僕にとって、きっと一生の特別な日になると思う。
佳織さんの後ろ姿を見ているだけで、嬉しいような、切ないような、万感の思いに包まれる。
そして佳織さんのあとにリビングに続いて入ったとき、突然、佳織が僕の方を振り返って、何かを発砲した。
「うわあ!?」
情けない声を出して驚く僕に、佳織さんは満面の笑みで言う。
「お誕生日おめでとー!」
あっけにとらえる僕の頭に、クラッカーの紙吹雪がひらひらと舞い落ちる。佳織さんが、固まってる僕の前で小首を傾げる。
「あれ? 今日だよね?」
6月3日。そうだ。すっかり忘れてた。
今日は僕の23回目の誕生日だ。
「よく……知ってましたね」
「えー、前に3人でテレビ見てたとき言ってたでしょ。忘れたの?」
確かに先輩もいたとき、占いか何かの番組を観ながらそんな話をしたかもしれない。
「すみません、忘れてました…ていうか自分の誕生日を忘れてました」
「うわ、リアルでそう言う人初めて見た。私は自分のだけは忘れたことないなぁ」
それは、僕が最近あなたのことしか考えられないせいですって、言ってやりたい。
機嫌良さそうに笑いながら、僕を出迎えるように佳織さんはテーブルの上のご馳走を見せる。僕の好きな佳織さんの手作りハンバーグ。ホワイトシチュー。鶏の唐揚げ。小さなケーキ。
「23才おめでとー。へへっ、ちょっと作りすぎちゃったから、頑張って食べてね」
そして、いつもの笑顔で僕を暖かくしてくれる。
佳織さん。
やっぱり、あなたのことが───。
「僕の催眠人形」
この部屋の時間が止まる。
どうして急にその言葉が口をついて出てしまった、自分でもわからない。
そしてあまりにもあっけなく催眠状態に落ちる佳織さんの反応の速さにも、驚く頭はなかった。
椅子に手をかけたまま、固まった佳織さんが虚ろな瞳をテーブルに向ける。
佳織さんが欲しい。そう思ったら僕は思わずキーワードを口にしていた。自分でも驚くほどすんなりと。
今の佳織さんは僕の催眠人形だ。何をしても無反応の人形だ。
髪をすくう。サラサラの髪。
僕はその匂いを嗅ぐ。シャンプーの匂い。でも、地肌に近いところでは、少し生々しい匂いがする。
ごめんなさい、佳織さん。まだお風呂に入ってませんよね。こんなに近くで、あなたの肌の匂いを嗅いでごめんなさい。でも素敵です。あなたは、汗の匂いだって素敵です。
耳の後ろの匂いを嗅ぐ。首筋の匂いを嗅ぐ。これが佳織さんなんだ。佳織さんの生の匂いなんだ。
その体を僕は抱きしめる。できるだけ優しく抱く。
柔らかい。胸が震える。彼女のぬくもりに僕は感動する。
「佳織さん。あなたは今、お人形ごっこの最中です。お人形さんは可愛がってもらって幸せです。僕に抱っこされて嬉しくなります」
髪を撫でて、耳元でささやく。通常の状態ならくすぐったい囁きなのに、佳織さんは微動だにもしない。虚ろな目に、感情すら灯らない。
でも、僕の言葉は佳織さんの心の奥に届いている。繋がってると確信している。
「佳織さんは『カオリちゃん人形』です。可愛い可愛いお人形。肌の感覚はなくなってます。目も見えない。だけどお人形さんだから、みんなにいっぱい愛されます。寂しくもないし、不安でもない。あなたは幸せなお人形です」
耳元に漂うシャンプーの香り。汗の匂い。料理したときの油の匂い。僕はそれを余すことなく吸い込む。
「カオリちゃん」
彼女は僕のお人形さん。彼女の目に僕は映っていない。無遠慮に体を這う僕の手に反応することもない。
僕しか知らない彼女の止まった時間。
心も体も僕の手で無防備にされた彼女を、僕は――。
「愛してるよ!」
唇を重ねた。吸って、舌をねじこんだ。
柔らかい体を抱きしめて、撫でた。
「愛してる…ッ! カオリちゃん、愛してる!」
首筋に舌を這わせる。かすかにしょっぱい肌が僕を夢中にさせる。人形になった彼女のその肌は、本物の人形とは全然違って生々しい味がする。でもそれがいいんだ。このまま食べてしまいたい。おいしい。カオリちゃん人形は、とってもおいしい。
「カオリちゃん!」
背中を撫でながら、唇を吸った。
もう片方の手で僕は作業服のチャックを下ろす。固くなった陰茎を取り出した。激しくしごく。佳織さんのふとももに擦りつけながら、僕は彼女のお人形さん顔に欲情をたぎらせる。
「好きだ! 好きだよ、カオリちゃん! あぁッ!」
戻れない。僕はもう善良なお隣さんには戻れない。
僕は変態になった。今日この誕生日に、僕は人妻を人形にして興奮する変態に生まれ変わった。
佳織さんの頬を舐める。匂いを吸い込む。柔らかい体を乱暴に抱く。揉む。擦りつける。
愛おしいんだ。この無防備な体。虚ろな瞳。無表情な顔。温かくて柔らかくて中に血の流れている、最高のお人形さん。
カオリちゃん。僕のカオリちゃん。好きだ。大好きだ。
出る! もう、出るッ!
すぐに僕の欲望は絶頂を迎える。僕はカウンターの上のキッチンペーパーを千切って、その中に精液を吐き出した。
心臓が破裂しそうだった。僕はその場にへたりこんでしまった。
ほんの1、2分のことだったと思う。なのに失神しそうになるくらい気持ちよかった。全身の力が抜けた。
でも、こうしている時間もない。僕は乱れた服装を直し、佳織さんの耳元でささやく。
「僕が3度肩を叩くと、お人形遊びは終わります。あなたはこの間のことは何も覚えていません。体におかしな感触が残っていても、部屋に精液の匂いがしても気にならない。それがお人形遊びのルールです。僕があなたの肩を3度叩くと、お人形遊びは終わりますが、キーワードとルールは有効です。『僕の催眠人形』がキーワード。その間のことは忘れること。体に残った感触と匂いは気にしないこと。このルールは僕とあなたの大事な約束です。あなたにとって一番大事な約束です。それでは、肩を叩きます。そしてあなたが言うセリフは『23才おめでとー。ちょっと作りすぎちゃったから、頑張って食べてね』です。叩きますよ」
僕は佳織さんの肩を3度叩いて、すぐに体を離した。
「23才おめでとー。ちょっと作りすぎちゃったから、頑張って食べてね」
「うわー、ありがとうございます!」
極力、佳織さんの方を見ないで、精一杯の演技で無邪気に喜ぶ自分を偽って、僕はテーブルの上の料理に感嘆の声を上げる。
「すっごい美味しそうです! ありがとうございます!」
「え、あ、うんっ。いっぱい食べてね。ふふっ」
一瞬、佳織さんは戸惑ってたように見えたが、すぐにいつもの笑顔を浮かべた。
お人形さんになってる間、佳織さんは僕の催眠で多幸感だけを味わっている。その余韻は、きっと少々の疑問など吹き飛ばしてくれる。
「あ、乾杯しないと。グラス出すね」
「ありがとうございます」
佳織さんは、「えい」と背伸びして、棚の上段から細身のグラスを取り出す。上機嫌だった。
それから僕たちは楽しい時間を過ごした。
昨日までの僕と違って、佳織さんを楽しませる会話ができていた。まるで憑き物が落ちたみたいに心が軽かった。
佳織さんは僕のジョークにお腹を抱えて笑う。どうでもいいような仕事の愚痴でも僕の味方をしてくれる。お互いの高校時代の学祭の思い出話で盛り上がったりする。
お人形さん遊びを終えた佳織さんは、すごく機嫌がよさそうだった。
「おっかしー」
口に手を当てて笑う佳織さん。ついさっき、僕が欲望を吐き出したときの彼女の甘い匂いと柔らかさを思い出す。
僕の欲望が、再び彼女を求めて蠢き出す。
「あー、涙でてきちゃった」
「……佳織さん」
「ん?」
「僕の催眠人形」
涙を拭う指もそのままに、佳織さんはカオリちゃんになる。
僕は佳織さんの後ろに回って、そのサラサラの髪の匂いをまず吸い込む。
「カオリちゃん……」
チャックを下ろして陰茎を取り出す。さっきあれだけ出したのに、もうはちきれそうなくらいにズキズキと脈打っていた。
「カオリちゃん!」
僕はその醜い欲望を髪の中に埋めた。想像していた以上の感触の良さにしびれる。髪の毛を絡めるようにして、僕は陰茎をしごいた。腰を振って、僕は佳織さんのテイルを犯した。
「あぁ! ごめんね、カオリちゃん! 好きだよ、愛してる!」
天国に昇るような気持ちよさ。
僕は今、佳織さんを汚している。僕の誕生日を覚えていてくれて、僕の話で笑ってくれて、僕のために料理を作ってくれた人妻の髪に、自分の陰茎を巻き付けてマスターベーションしている。
変態だ。最低のド変態だ。
でも僕は、そんな自分にすら酔いしれていた。
僕は大好きな佳織さんを汚している。
催眠術をかけて、人形にして犯している!
「ゴメンね! ゴメンね、カオリちゃん。最高だよ! 最高に気持ちいいよ!」
すぐにでも訪れるだろう限界のために、僕はキッチンペーパーをぐるぐる巻き取った。
ごめんなさい、佳織さん。
あなたをあきらめることなんて、僕にはできない。
そして先輩も、ごめんなさい。
“佳織さん”は、あなたの大事な奥さんです。
だから“カオリちゃん”だけ、僕にちょっと分けてください。
ちょっとだけ、僕にください。
・6月4日(水)
「僕の催眠人形」
佳織さんと食卓を囲んでいるだけで、どうしようもなく僕は興奮していく。
「カオリちゃん」
僕は佳織さんの後ろに回り、ポケットティッシュを数枚テーブルの上に出して、佳織さんの手を取った。
すべすべで温かい手。白くて柔らかくて小さなその手を、僕は自分の醜い陰茎に添える。
「あぁッ! 気持ちいい! 気持ちいいよ、カオリちゃん!」
佳織さんの手でマスターベーションしたら気持ちいいだろうなって、朝からずっと夢想してた。
やっぱり気持ちいい。柔らかくて、温かい。
彼女の手は本当に気持ちいい。美味しい料理もマスターベーションも出来るんだ。カオリちゃん人形は最高だ。
「すごい、すごいよ! 気持ちいいよ、カオリちゃん! カオリちゃぁん!」
目も眩む快感に、僕はすぐに果ててしまう。
「―――気持ちよかったぁ。へへっ、ありがとね」
「い、いえ、そんな」
マッサージを終えたあと、佳織さんに「気持ちいい」と言われて、僕はうろたえてしまった。
佳織さんの記憶には残ってないはずなのに、僕のいやらしい行為を揶揄されたみたいで、恥ずかしくなる。
「んー」
佳織さんはいつもようにグンと伸びをする。形の良い胸が浮き出る。
大きくて、柔らかそうなその胸。
さっき出したばかりだというのに、ムズムズと僕の陰茎は起き上がり、新たな欲望を主張する。
自分でもあきれてしまう。一度外れたタガはもう戻らない。
佳織さんの大きく柔らかい胸。僕はその中身をまだ知らない。そして知りたい。
それは反則だと、僕の頭の中でホイッスルが鳴る。
でも催眠人形のカオリちゃんに興奮しすぎて、僕は止まりそうもない。
ちょっとだけだ。ちょっとだけだから、いいじゃないか。
「僕の催眠人形」
手を挙げて、伸びをした姿勢のまま佳織さんは固まる。
今日も彼女は、僕のカオリちゃん人形だ。
7分丈のカットソーが胸にぴったり張り付いて、形をくっきりさせている。少し広めのネックの部分から、深い谷間がわずかに覗けている。
どうして、こんなに無防備なんだ。僕のカオリちゃん人形。可愛い可愛いお人形。
「さ、カオリちゃん…お着替えしようね」
本物の人形に話しかけるように、僕はカオリちゃんの耳元に囁きながら、カットソーの裾に手をかける。
指先が震えている。心臓が大きく跳ね続けている。
小さなおへそがちらりと覗く。それだけでもう僕の股間は射精しそう。
佳織さんのウエストは細い。無駄な肉がない。なのに、柔らかそう。僕はおへそにそっと触る。普通ならくすぐったいだろうけど、今の佳織さんにはその感覚がない。
徐々に、めくり上げる。カオリちゃんのお洋服を脱がせていく。僕の息がうるさいくらい荒い。カットソーを胸の上までたくし上げ、キャミソールをあらわにする。ブラが一体になったキャミだ。大きなカップが、呼吸と一緒に上下している。
濃紺のキャミソールカップと、白い胸肌の対比。美しすぎて、僕の呼吸が詰まる。心臓が苦しいくらい跳ねてる。
顔を近づけて、じっくりと観察する。
ゆっくりと上下している。カオリちゃんのおっぱいが。前から、横から、僕はじっくりと観察する。
口の中が唾液でいっぱいになっていた。飲み込んで、息を吸う。カオリちゃんのおっぱいの匂い。お人形さんなのに、いい匂いがする。でも脇の方に近づくと、少し汗の匂いがする。
お人形なのに。カオリちゃんはお人形さんなのに。
「ハァ…ハァ…」
僕の股間は激しくいきり立つ。
キャミソールをめくっていく。白いお腹がめくれていく。カオリちゃんの、胸の下の曲線が見える。僕の股間からはもう汁が滲み出ている。さらにめくる。大きくて丸い。お椀のように、ステキな形をしている。カオリちゃんのおっぱいをめくる。頂が見える。
「あぁ…ッ!」
桜色の丸い乳首が、2つ、僕の目の前で揺れた。
カオリちゃんの乳首。佳織さんの綺麗な乳首。
ぷっくりと柔らかそうに白いお餅の上に咲いている。
「乳首……佳織さんの乳首だ……」
催眠術で彼女の自由を奪い、そして僕は、とうとう肌まであらわにした。ひどいやつ。最低だ。
なのに、この興奮は生まれてから一度も味わったことがない。こんな恥ずかしい格好されて、虚ろな瞳のままぼんやりとしている佳織さん。背徳的で、生々しくて、ドキドキする。
股間が狂ったみたいに熱い。
「はぁッ、はぁッ……カオリちゃん…ッ、カオリちゃん、すごいよ…ッ!」
こんな興奮、耐えられるはずがない。僕はめくり上げたカップを佳織さんの胸に引っかける。股間はすでに爆発しそうだ。僕は自分自身のそこに手を伸ばす。ダメだ。間に合わない。
「あぁ…あぁっ!」
パンツの中で、僕の欲望が爆ぜた。
目の前の、佳織さんの胸に我慢できず、すぐにイってしまった。
びゅるる、びゅるると、下着の中で何回も跳ねて、大量の精液が溢れる。
みっともない射精なのに、涙が出るくらい気持ちいい。
佳織さんの胸。僕の前でおっぱいをあらわにして、手を上げたまま、彫像のように身動き一つしない。
「僕の…、僕のカオリちゃん! 僕の、お人形さん!」
ぐしょぐしょのパンツの上から陰茎を擦る。ビリビリと射精したばかりの亀頭に快感が走り、中で大きくなっていく。
「きれいだ! とってもきれいだよ、カオリちゃんのおっぱい! 最高だよ! 最高!」
丸く形の良い胸。大きくて、本当にきれいな胸。乳首の色だって、人妻のくせにどうしてこんなにきれいなんだ。
気持ちいい。僕のお人形さんになっておっぱい丸出しの佳織さんに見られながらするマスターベーションは最高だ。
綺麗だ。可愛い。美しい。佳織さんの胸の素晴らしさは一言で言い表しようがない。
姿だけで、この興奮を、僕にかつてない興奮とマスターベーションの快楽を与えてくれる魔法のおっぱい。匂いを嗅ぐ。間近で見る。僕の激しい息を吹きかける。匂いを吸う。胸一杯に、全身に行き渡るくらいに、吸う。あぁ、おっぱいの匂い。
これを、先輩は佳織さんに見せてもらったり、好きに揉んだり、吸ったりしているんだ。
嫉妬と、羨ましさと、今は僕がそのおっぱいを独占しているっていう優越感で、気が狂いそう。
触れたい。この手で、ぐにゃりと揉んでみたい。でもこれを鑑賞しながらするマスターベーションの快楽も手放したくない。
佳織さんのおっぱいは最高だ。正面から見ても、横から見ても、下から見ても最高にきれいで、色っぽい。
その丸いおっぱいにキスしたい。吸いたい。
僕は不遜にもその美しいおっぱいに唇を近づける。でも、その前に僕の陰茎は快感に耐えきれずに、悲鳴を上げる。
「あ、あぁぁ…っ!」
おっぱいの寸前で、僕は情けない声を出して達した。
どくどくと、股間が脈動して、欲望を吐き出す。
僕の床に腰をついて、じわりと気持ち悪く滲んでいくズボンの前を押さえた。
佳織さんの胸は、相変わらず白く輝いている。僕は自分の気持ち悪さに吐き気をおぼえる。
マスターベーションで欲望を処理すると、後に残るのはいつも後悔だ。
僕はどこまで、この人を汚してしまうんだろう。人妻の佳織さんを。あの優しくて可愛い佳織さんを。
今日は彼女の手を道具にして、マスターベーションをした。
先輩以外の他人には決して見せないだろう素肌を、僕の手で剥いてしまった。
そして、それをネタに目の前でマスターベーションをした。
許される行為じゃない。ひどすぎる。
なのに今も、両手を挙げたまま胸を晒す彼女を見ていると、また欲望がもたげてきそうになる。
佳織さんが魅力的だから。顔も、性格も、プロポーションも素敵すぎるから。
そうやって彼女のせいにして、また汚してしまいそうな自分を叱咤する。
僕って本当に最低だ。濡れた股間の不快感が、そのまま自分のキモさに感じる。
佳織さんの耳たぶに触れて、ささやく。
「そのまま、ゆっくり手を下ろして」
僕の言うとおりに腕を下ろす佳織さん。そして乱れた彼女の服を直して、もう一度耳たぶに触れてささやく。
「僕が玄関のドアを閉めたら、その音であなたは目覚めます。あなたはいつものように僕のマッサージを受けて、僕が帰るのを見送りました。それだけです。あとはいつもどおり過ごしてください。部屋におかしな匂いがしても気になりません。あなたは、いつもどおりに過ごしてください」
それだけ命令して、僕は自分の部屋に戻った。
洗濯物を放り込んで、シャワーを浴びて、缶ビールを煽って、そして佳織さんのことを考える。
彼女の笑顔と、優しさと、おっぱいについて考える。
割り切ったはずなのに、それでも後悔と欲望は僕を真っ二つに引き裂こうと両方からしつこく引っ張る。
脱がすべきじゃなかった。あの姿は一生僕の目に焼き付くだろう。
そして死ぬまで、僕を布団の中で苦しめるんだ。
佳織さんの顔。髪。手。胸。僕の女神。
どうしてもっと早くに彼女に出会えなかったんだろう。悔しくて仕方ない。いや、例え先輩よりも早く僕たちが出会えてたところで、彼女が僕なんかを好きになるはずがない。
でも、催眠術があれば。
もしも催眠術をもっと早くに覚えて、そして先輩よりも先に佳織さんに出会っていれば、彼女の心を僕のものにできたかもしれないんだ。
いや、今からだって遅くは───。
バカ、何考えてるんだ。そんなことできるはずない。
でも頭の中は佳織さんでいっぱいだ。
今頃、何をしてるんだろう。ベッドで眠っているんだろうか。それともシャワーでも浴びているのか。
佳織さんの姿をグルグル思い浮かべる。打ち消す。でも気がつくと彼女のことを考えてる。佳織さんの笑顔。カオリちゃんのおっぱい。
止めろ。止めろ。僕はもう止めるんだ。絶対に、佳織さんに変なことしない。
だけど、明日になればまた催眠人形しちゃうんだろうなって、頭の片隅で僕はもう諦めている。
そして、にやけていた。
<続く>
読ませていただきましたでよ~。
先日、フランス書院eブックスで人妻人形日記が配信されると聞いてびっくりしましたでよ。
これは絶対買わねば。半額セールの頃にw(おい)
あれ、でもこれ先行配信とか書いてあったような・・・? 紙で出るならそっちのほうがいいかも。どうなんでぅか?
まあ、冗談はともかくとして、書籍販売となると更に加筆が入るだろうから実際楽しみでぅ。
最後の方に加筆が入るというこっちも楽しみだし、また比較しながら読めばいいのかな?
さて、感想でぅが、へ、ヘンタイだー!
人形化自体は嫌いじゃないんでぅけど、人形遊びまではちょっと守備範囲外なのでなんとも言い難い所でぅw
とはいえ、貴司くんも自分がヘンタイだと自覚しながらも性癖に流されてしまって常識と先輩への恩義といろいろまじあって、自己嫌悪に陥ってるのでセーフ(セーフかな?)
自己嫌悪に陥りながらも流されていくのは背徳感がすごいでぅね。
小田島ちゃんも催眠していこうぜ!(お前、展開知ってんだろw)
>みゃふさん
ありがとうございますー
紙では出なくて、一部サイト(AmazonかFANZAあたり?)でその日に先に出るくらいの意味で。
催眠というワードがもう自主規制対象なので何かと厳しい時代ですよね、よく知らないんですが…
さらに加筆はしてますよ!おそらく全部で一冊分くらいは足すことになるかと!
半額待たずに買う価値あり!だといいな!