・6月9日(月)
「美味しいです。こういうの久しぶりです」
「ふふっ、そう? 喜んでくれてよかった」
肉じゃがに舌鼓を打つ僕の目の前で、佳織さんが笑っている。
ここ2週間ほどのことなのに、すっかり僕の日常の一部になった彼女の笑顔に安心する。
昨日、あれだけ醜い欲望をぶつけたというのに、佳織さんはきれいだった。
人妻とは思えないほどの幼い笑顔。そして、人妻なんだと意識させられるエプロンの下の豊満な体。
僕の理想をそのまま描いたような女性が目の前にいる。2日前に旦那さんとセックスをした彼女が、僕のために晩ご飯まで作って帰りを待ってくれていた。
全部僕が催眠術で作り上げた状況だ。先輩が出張中なのをいいことに、先輩の家に上がり込んで奥さんを独占している。
罪悪感は相変わらず残っているし、今だって心のどこかでチクチクしている。
それでも……彼女とのお人形遊びはやめられそうもないんだ。
「僕の催眠人形」
笑顔が虚ろな能面のように変化していく。
パントマイムの人がそうするみたいに、ぴたりと動きを止めた佳織さんが焦点の合わない瞳を僕に向ける。
長い睫毛。黒目がちな大きな瞳。肌も赤ちゃんみたいにきれいだ。そしてスッとした鼻筋。少しぽってりした唇。
こんな美人はなかなかいない。幼なじみだからってお嫁さんにして田舎から連れてしまった先輩は、きっと地元の男たちから相当恨まれたに違いない。
でも僕は、その先輩から殺されても当然のことしてるけど。
「カオリちゃん……」
今は僕だけのカオリちゃん人形。
テーブルの上に乗りだして、彼女の唇にキスをした。
「ん、カオリちゃん……好きだよ、ぴちゃっ、んっ、好きだ、ちゅっ」
柔らかい唇を吸って、舐めて、挟むようにして揉みほぐして舌で歯茎を舐める。
本当に大好きだ。こうしているだけで射精しそうだ。
しばらくお人形さんとのキスを堪能して、僕は唇を離す。
彼女の口元は僕の唾液で濡れていた。
「佳織さん……あなたの口の周りについているのは甘い生クリームです。お人形さんから目が覚めたらあなたは舌でそれを舐め取りましょう。そして次に、『貴司くんの唾、甘くて美味しい』って言ってください。大丈夫。あなたの舐めたのは生クリームです。これはただの冗談です。気にしないで言いましょう。僕が3つ数えたら人形ごっこから覚める。そして僕の言うとおりにするけど、僕に言われたことは忘れる。いいですね?」
僕は自分の席に戻って、佳織さんに聞こえるくらいの小さな声で3つ数える。
佳織さんの瞳に徐々に光が戻り、そして、僕の見ている前でぺろりと。
口元を濡らす僕の唾を舐めた。
ぺろり、ぺろりと。
僕に見せつけるようにエッチに舌を回して唇を舐めた。
そして僕の目を見て、にこりと微笑み。
指示したとおりの冗談を言った。
「貴司くんの唾、甘くて美味しい」
股間にビリビリと電流が走る。
この可愛らしい表情、そしてセリフ。
触れずに射精するかと思った。
ぞわぞわと尿道の裏をなぞるような快感がペニスから脊髄を甘く痺れさせ、顔があっという間に熱くなった。
「や、やだな。生クリームだから甘いんでしょ?」
「へへっ、貴司くんの唾、ぺろっ、美味しいよ」
「やめてくださいよ……ははっ」
ぺろぺろと動く舌と彼女の言葉に、僕の股間はズキズキと鳴っていた。
もう我慢できない。
「僕の催眠人形」
抱きしめてキスして射精する。
カオリちゃんとのお人形ごっこに僕はどこまでも溺れてしまう。
だけど。食後のマッサージで、僕はもっと衝撃的な光景を見ることになる。
「う、うん。マッサージだね……」
僕がマッサージしましょうかと言ったら、佳織さんは急に顔を赤くして、「ちょっと待って」と隣の部屋に行ってしまった。
「……待たせてごめん。なんだか今日は恥ずかしいかも」
そして、ピンクと黒のボーダー柄の上下揃えた下着を、バスタオルで隠しながら登場したのだ。
「あ、あんまり見ないでね。ごめんね。いつもしてもらってることなのに、どうしてなんだろ。ちょっと緊張してるかも」
僕の方こそ直視出来ないでいた。うっかり、とんでもない注文をしてしまった。
昨日は、すごくイライラして興奮もしていて、ついつい「マッサージはいつも下着だ」などと命令してしまったけど、これは本当に刺激が強すぎる。
僕は佳織さんを裸にしたこともある。一切の服を脱がせて、きれいなピンク色の乳首もうっすらと茂った股間も見たし、そこに何回も精液をかけてやったのも昨日の話だ。
なのに、生身の彼女が脱いだ姿はまた違った色気と可愛さと、美しさを感じさせる。
真っ赤になった顔。なんとか隠そうとしているタオル。それでも見えてしまう布地。
恥じらう佳織さんは最強に可愛かった。なのにボディは反則的に究極形だった。量販店で買ったらしき普通の下着が、人妻の日常感を感じさせて余計にそそる。
カオリちゃんと佳織さん。1人の女性が2つの魅力で僕を翻弄するんだ。
「僕の催眠人形」
佳織さんがカオリちゃん人形になったことを確認して、僕はその場で急いでマスターベーションを始める。
ぎこちない格好で固まった佳織さんの腰を、タオル越しに腕で潰している胸を、触る余裕もなく手を動かしてあっという間に射精する。
やばすぎる。今日のマッサージは危険だ。
でも、触りたい。恥じらう彼女の肌に直接触れて、気持ちよさそうな声を出させたい。
「僕が手を叩いたら解除。そして、マッサージの続行です」
「ん……」
手を叩くと再び佳織さんは動きだし、そしてなんとか肌の露出面積を減らそうとバスタオルをあちこち引っ張る。そのたびにチラチラする肌に僕の股間はまたイライラする。
「ソ、ソファに座ってください」
なんとか目を合わせないようにして指示すると、佳織さんは「はい……」としおらしい返事をして着席する。
「すぐに始めますから、じっとしててくださいね」
「う、うん」
恥ずかしがってなかなか動いてくれなかったけど、こちらから指示を出したら素直に従う。
いろいろと催眠術について勉強していくうちに多少は心理学も少しかじった僕は「おや」と思った。
これって、彼女の性格というよりも性癖に近い習性なのかも。
追い詰められるような状況では、誰かに指示を出してもらって従うことで安心するタイプ。他人に気遣いをする人だし、軽いMなのかも。いや、この習性を掘り起こせば完全に佳織さんはMになってしまうかも。
例えば、僕の指示には無条件で従っちゃうような癖をつけることも出来るかもしれない。
だけど今は、そこまで考えて指示する余裕が僕の方になかった。
バスタオルを体にかけているけど、後ろからはブラ紐もパンツも見えているんだ。
「よ、よろしくお願いします」
緊張のせいかカオリちゃん人形にみたいに固まっている彼女に、僕も緊張する。
あらためて、本当にスタイルがいい。いつも人形にしたカオリちゃんを見ているけど、本物の、人妻の佳織さんの下着姿ときたらまるでモデルみたいにきれいなんだ。
白い肌にシミ1つなくて目を奪われる。いつまでもその背中を眺めていたい。
でもここで時間をかけたら彼女を不安にさせるし、下心も見透かされる。
僕は努めて冷静を装って、いつもどおりに肩から触れた。
「ん」
ぴくんと佳織さんの肩が跳ねる。僕も驚いて指を離しそうになる。
温かくてすべすべした肌。生々しい反応。
人形になった彼女とは違った感触に僕も戸惑い、そして興奮した。
佳織さんに触れている。人妻の肌に。
いよいよ先輩に顔向け出来ないことをしていると思いつつ、僕は指に力を込める。
「あん……」
彼女の声も鼻にかかっていた。そして恥ずかしそうにタオルに顔を埋める。
「んっ、はっ……んんっ……はぁ……」
いつもと同じようにやっているつもりなのに、ついつい力が入ってしまう。
肌に触れているときよりも、下着に触れるときの方が緊張した。ブラジャーの薄い紐部分が指に引っ掛かるたび、僕の股間もぴくんと震えた。
まだ出したい。股間が熱を出してるみたいに熱い。
「んっ、あっ……はぁ……んんっ」
佳織さんは、まさに僕の精液を枯らすために生まれてきたような女性だ。
「僕の催眠人形」
またここで時間を止める。
さっき出したばかりだというのにもうカチカチになっている陰茎を取り出し、彼女の正面に回って擦る。
バスタオル一枚羽織った下着姿の佳織さん。どんなセクシーなグラビアよりも抜ける。
「カオリちゃん…ッ!」
すごい勢いで飛び出した僕の精液は、彼女の体をギリギリで隠しているバスタオルにポタポタ落ちた。
人妻を汚しているという背徳感と、佳織さんに精液でマーキングするという征服感。体がどうにかなったのかと思うくらいに欲情する。
「カオリちゃん…ッ、可愛いよ、僕のカオリちゃん……!」
先っぽがまだジンジンしている陰茎を擦って、もう一度かけた。
タオル地に染みを作って僕の精液が滲んでいく。
「佳織さん……この部屋に充満している精液の匂いを、あなたは気にならない。タオルにべっとりとついたこの精液も、あなたは気にしない。マッサージを続けます」
息を乱したまま、僕は彼女の催眠を解除する。
「んんっ、あぁ、くぅん……」
思わず指に力が入って、佳織さんが身もだえする。
「すみません、強かったですか?」
「ん、大丈夫っ。そのくらいでっ」
「痛かったら言ってくださいね」
「うん、というより……」
やっぱり今日はいつもより恥ずかしい気がする。
そう言って、佳織さんは僕の精液が染みついた精液の匂いのするバスタオルに顔を埋めて、恥ずかしそうに真っ赤になっている。
「……続けますね」
「くぅ~っ、んんっ、効く、あんっ」
ブラ紐の引っ掛かった鎖骨が窪みを作っている。肩胛骨の浮いた背中のラインは無駄な肉もなく、それでいて肉感的な腰と胸を支えるしっかりとした筋肉も身をよじるたびに感じさせる。
「背中の方も少しさすりますね」
「あんっ、んっ、んんっ、あんっ」
佳織さんはプロポーションがいいのはもちろん、肌が柔らかくて気持ちいい。
女神に触れている気分になる。精液を吸収するスポンジみたいな女神だ。
「んっ、あん……気持ちいい……」
そして、僕の精液のついたバスタオルを噛むようにして佳織さんは囁くんだ。
体を駆け上がる禁断の快楽に震え上がる。
背中を撫でているだけで、手のひらから伝わる温かさと柔らかさで勃起してしまう。彼女の裸に触れているっていうだけで、僕は気が狂いそうなくらい興奮してしまうんだ。
先輩の奥さんなのに、抱きたいって思ってしまう。
彼女と抱きしめ合えたらきっと天国に昇るくらい気持ちいいに違いない。
また股間の先が濡れていくのがわかる。
「僕の催眠人形…ッ!」
今日はいくらでも精液を出せると思った。
いや、佳織さんがいる限り僕の精液は底なしなんじゃないかと、お人形さんのバスタオルに大量の精液をかけながら思った。
・6月10日(火)
「僕の催眠人形」
バスタオルの佳織さんをカオリちゃん人形に変える。
ソファの上に膝を立てて、水色の下着しかまとっていない体を僕の視線から守ろうとしている彼女を、無抵抗にしてしまう。
「指の力を緩くして……大丈夫。お人形さんのあなたは完全な幸福に守られて幸せだ。こんなバスタオルは必要ない。何も怖くないし恥ずかしくない」
ゴクリと喉を鳴らす。
お人形のカオリちゃんの前で緊張しているのは僕の方だ。
今日もすごく恥ずかしそうに下着姿で僕のマッサージを受ける佳織さんに欲情して、我慢できなくなってしまう。
お人形さんにして裸にすることだって出来る僕なのに、生身の彼女が恥じらう姿は本当におかしくなりそうなくらい興奮した。
佳織さんとカオリちゃん。
僕は2人の彼女に翻弄されてしまっている。
「あぁ……」
虚ろな瞳。無抵抗の体。縮こまった手足の中に隠れる豊満な下着姿。
膝を上げている格好のせいで、股間のぷっくりとした膨らみに縦に食い込むシワまで見える。目の奥がチカチカするくらい刺激的な姿だ。
僕は急いで陰茎を出し、猛烈に擦る。変なうめき声まで出して、カオリちゃんの視線の前でカチカチになった陰茎を擦る。
すごい興奮だ。佳織さんの虚ろな瞳に僕のペニスが映っている。僕のマスターベーションを佳織さんが見ている。
お人形さんになって見てくれている。
「あぁぁ、だ、ダメだぁ!」
急いでバスタオルを取ってその中に射精した。
彼女の身を守るはずの薄っぺらい砦を排泄で汚して拭い、再び彼女に握らせる。
「佳織さん……この精液の匂いも感触も、あなたは気にならない。普通のバスタオルとしてか思えない」
そして僕は、何事もなかったような顔でマッサージを続ける。
「んっ、ふぅっ、ん……ごめんね、あんまり見ないでね?」
「大丈夫です。マッサージに集中してますから、気にしないでください」
「うん……ど、どうしてだろな。最近、マッサージが照れくさいんだよね。あはは……」
赤い顔をして、ブラの紐を直しながら佳織さんは呟く。
パンツは上からだと少しお尻の谷も見えてしまっていた。
「……背中、マッサージしますね」
「あ、ん、んんっ、はぁ……」
僕の鼻息も荒くなっていくのがわかる。どうしようもなく興奮が抑えきれない。
佳織さんの肌はきめ細かくて柔らかくて、いつまででも触れていたいんだ。
「僕の催眠人形」
カオリちゃん人形の肩にキスをする。その温かさと柔らかさにクラクラする。
「はぁ……カオリちゃん」
腕の隙間を縫ってブラに手を回す。
大きくて柔らかい胸がたぷたぷと手の中で弾む。カオリちゃんのおっぱい。カオリちゃんのふかふかおっぱいだ。
肩に唇を当てたまま胸を揉んでいると、彼女のおっぱいがブラの中で形を変えていくのがよく見える。温かい。柔らかい。最高に優しいおっぱい。
幸せだ。僕だけのお人形さんと2人きりの夜だ。
「カオリちゃん……可愛いよ、すごく可愛いっ。好きだよ、君は僕の宝物だっ」
彼女の肩越しにマスターベーションをする。頬を掠める陰茎の感触はさぞくすぐったそうだけど、今の彼女に触感はない。人形の幸福感に包まれて夢の世界を飛翔している。
だからこの体は今は僕だけのもの。彼女のものですらない。僕が愛するためにある。
「カオリちゃん…ッ!」
バスタオルに向かって射精する。何度も僕の精液をぶっかけられているタオルはもうべっちょりだ。
だけど、佳織さんはその嫌な匂いと感触しかないタオルを大事そうに抱えて身を守る。
「んんっ……そこ、気持ちいい……」
肩胛骨の間に指を押すと、佳織さんは背中を反らせて気持ちよさそうな吐息を漏らす。
ぺちゃっと彼女の胸でバスタオルが湿った音を立てても、肌にべとりと僕の精液が張りついても、彼女はまったく気にしないで下着姿をくねらせている。
「……僕の催眠人形」
僕だけのカオリちゃん人形。
僕だけの。
バスタオルにべったりとシミが広がり、彼女のブラまで精液でぐぢゅぐぢゅになっちゃうくらい、僕は佳織さんにぶっかけマッサージを続けた。
・6月11日(水)
「貴司さーん。飲み行きますよ♪」
昼休みが終わる直前、経理の小田島愛が僕の席に来て、腰を体当たりさせながら言う。
「え、今日?」
「そう、ツデーイ。北山が飲みたいって昼に騒いでてー、先輩たちも便乗しちゃってー。だから貴司さんも行こ?」
「でも、週の真ん中で飲むのはダルいな……」
というよりも、佳織さんの家に行く方が絶対に楽しい。
カオリちゃんのドールハウスに僕は行きたい。
「ダメっ。行くの! 前も誘ったのにさー、貴司さん冷たかったし。職場のコミュニケーションは大切にしろってこれ社長命令だからっ」
うちは理系の会社のくせに上が体育会系だからな。
でも、付き合いも大切だ。
確かに理屈としてはわかるんだけど、だがしかし。
僕には帰りを待ってくれている人妻が……。
「今日は絶対行きますよ! てか、行くぞ!」
結局、僕は小田島のしつこさに根負けしてしまった。
「えー? 私、彼氏とかいないです~。今は仕事で手いっぱいだし~」
「ウソだろ、小田島が彼氏いないわけないじゃん。本当はどうなんだよ~」
「本当ですよ~」
小田島の妙に高くなった声がよく響く。
職場近くの居酒屋で、僕は賑やかな話の輪から離れてケータイをいじっていた。
『今日は職場で飲むことになりました』
『そうなんだ。了解です』
すぐに返事をくれた佳織さんに申し訳ない気持ちになる。
そして、もっと話がしたくなる。そっけない返事しかくれない彼女に寂しくもなった。
『佳織さんのゴハンが食べたかったです』
『お店のほうが美味しいよ~。たくさん食べておいで笑』
少し大胆に、甘えるようなことをメールしてしまった。
だけど、佳織さんは軽くかわしてしまう。ますます寂しくなる。
「おい、貴司。おまえは?」
「え、はい?」
先輩に話しかけられていることに気づいてなくて、僕は間の抜けた返事をしてしまう。
さっきまで小田島と盛り上がっていた人だ。
「おまえ、彼女いないって前に言ってたろ。誰か出来たか?」
「あ、いえ。全然です」
恋人なんて作れるはずがなかった。
というよりも僕の恋人のことは誰にも言えない。
誰にも秘密だ。
「じゃあ小田島と貴司が付き合えばいいじゃーん」
「やだぁー。先輩、何言ってるんですか~」
ベチンと先輩の肩を叩いて、小田島がケラケラ笑う。
僕も、「からかわないでくださいよ」と追従的に笑う。
「俺が独身だったら、小田島を貰ってやってもよかったんだけどなー」
「あ~、奥さんに言いつけてやる~」
「小田島ぁ! 俺もフリーだぜ?」
「あ、そうですか北山さん」
こういうノリがあるから職場の飲み会は苦手だ。
佳織さんの顔が見たいと思った。
ふと、小田島の視線に気づく。僕と目が合ってニコリと微笑む。
「小田島、次どこ行きたい?」
「えー、じゃあカラオケとか?」
「いいねえ、行くぞ!」
二次会の途中で、僕は帰ることに決めた。
同期の北山に先に帰ると告げてお金を渡し、先輩に「具合悪いんで」と適当に言い訳、盛り上がるボックスをあとにする。
「あー、また逃げる〜」
だけどなぜか小田島が追いかけてくる。
ボックスの入り口で僕に腕を絡めてくる。
もうすでに顔が赤くて、声もでかくて、かなり酔っていた。
「風邪っぽいんだよね。早く帰って寝たいんだ」
「え~本当に~?」
僕の体を引き寄せて、おでこに手を当ててくる。小さい手だ。
「熱ないじゃん!」
「平熱が低いタイプだから」
「ダメっ、うそはいくないっ。愛と戻ろっ!」
「本当だってば」
そういえば小田島、僕の前では自分のこと名前で呼ぶ。
僕のことも下の名前で呼ぶ。そんなの先輩たちはともかく、会社の女性社員では小田島だけだ。
「それじゃあ、2人でどっか行きますか?」
「え?」
小田島はじっと僕の顔を見上げている。
みんなが可愛いというだけあって、真っ直ぐに見つめられると僕でもドキっとする。
佳織さんとはタイプが全然違うけど、やっぱり男の視線を惹きつける子だ。
「貴司さん、カノジョいないって言ってたじゃないですかぁ。このあと誰かと会う約束でもしてるんですか?」
僕の腕を掴んだまま小田島は言う。
そんな相手はいないよ。
と、僕は目を逸らし気味に答える。
「じゃ、どこ行く~?」
腕をブラブラさせて、子どもみたいに小田島は誘ってくる。
小田島と2人で?
僕は思わず喉を鳴らしてしまっていた。
「いや、今日は本当に調子が悪いんだけど……」
ジーッと見つめる(睨む?)彼女の視線に耐えきれなくなり、僕は思わず頷いてしまう。
「えっと、今日じゃなくて、違う日に」
「わかったっ。じゃあ約束」
ギュッと腕を握って、背伸びして顔を近づけてくる。
思わず硬直してしまう僕の唇に、キス寸前の距離まで近づいてくる。
「次は、2人っきり、でね?」
本当にキスするみたいに、息がかかるくらい唇を突き出して。
そして目を丸くして固まったままの僕から、スカートをひらりと舞わせて離れ、一度振り返って「忘れんなよ~!」と両手の人差し指をつんつんと突き出し、小田島は賑やかにボックスに戻っていく。
びっくりした。
酒に酔っているせいで変なテンションになってただけだと思う。だけど、妙にドキドキしてしまった。小田島なんかに。くそ。
……なんだか、佳織さんに悪いなって勝手に思ってしまう。
お隣の部屋の前で、僕はマゴマゴしていた。
あれから何故か遅くまで開いてる店でシュークリームを買ってしまった。
そして、ここに来てようやく酔いが覚めてきたのか自分の行動が普通じゃないことに気づく。
時間はもう10時を回っている。チャイムを鳴らしていいはずがない。それにどうしてお土産なんて買っているんだ。僕が外で飲むことで佳織さんに迷惑をかけているわけじゃないし、弁解じみた真似をする必要なんて何もない。
まだ小田島の匂いが鼻の奥に残っているような気がするのも、罪悪感を抱く理由にもならないというのに。
でも、晩ご飯の用意はさせてしまったかもしれないし。
ドアの前で僕は佳織さんにメールを打つ。
『まだ起きてますか?』
『起きてるけど。どうしたの?』
返事はすぐに返ってきて、ますます僕はどうしていいかわからなくなる。
『ドアの前にお土産を下げておきます。おやすみなさい』
しかしこんな時間にシュークリームって、ちょっとした嫌がらせかも。
何をしても泥沼な気分でドアノブにシュークリームの袋を下げる。するとすぐに玄関に近づく足音がして、ドアが開いた。
「あ、おかえりなさい」
パジャマ姿の佳織さんだ。
黄色のチェックの、こういっては何だけど可愛すぎるくらい可愛いパジャマで髪をまっすぐに下ろして。
お風呂から上がって間もないような格好だった。僕はあんぐりと口を開いて、そして顔が熱くなっていくのを感じた。
「どしたの、お土産なんて。ひょっとして酔ってる?」
差し出すようなポーズで固まっている僕からシュークリームを受け取り、「ありがと~」とニッコリと微笑んでくれた。
「もう遅いから明日食べるよ。飲み会は楽しかった?」
「あ、いえ、あ……すみません、晩ご飯……」
「ううん。まだ準備する前だったから。あ、それでお土産? 気を遣わなくていいんだよ、もったいないことしないで」
「いやっ、そのっ、気を遣ったわけじゃ、えっと……」
まともに佳織さんの顔が見られない。
下着姿や裸まで見ておきながら、僕は知らない佳織さんの姿を見るたびにドキドキして困惑してしまう。
というか無防備すぎでしょ。パジャマって。
しかも、その、胸のところの突っ張り具合は本当にどうなってるんだ。たわわすぎだ。
やっぱり佳織さんには負ける。
小田島に感じるドキドキとは違うんだ。
「でも、ありがたく食べちゃうけどねー」
にひっと佳織さんは笑う。
男の目を惹くつもりなんてないはずの素直な笑顔が、僕にはどうしても特別な魅力に映る。
「…………」
そして、次になんて繋げていいかわからなくなった。
佳織さんと少しでも一緒にいたい。だけど、パジャマ姿の彼女が僕に「上がっていけば?」なんて言ってくれるわけもなく。
彼女は人妻だ。そして僕たちはそんな関係じゃない。
「それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみなさい。ありがとー」
去り際に手を振ってくれた彼女に目を細めて、僕は強ばった笑顔を返す。
自室に戻って、服のままベッドに転がり、佳織さんのパジャマを思い出しながらパンツの中に手を入れる。
「佳織さん……」
今からでもチャイムを鳴らして出てきた彼女をお人形にしたい。
パジャマの中に乱暴に手を突っ込んでおっぱいを揉みたい。
髪の匂いをくんくん嗅ぎながら射精したいんだ。
「はあ……カオリちゃん…ッ!」
ティッシュの中に精液を放つ。
生々しい匂いのするそれを、彼女の下着を隠す頼りないバスタオルにたっぷり染みつかせて彼女に抱きしめてもらいたい。
PCの画面を開いて、彼女のフォルダを開く。僕の前で虚ろに無防備な体を晒すカオリちゃんでいっぱいだ。
「カオリちゃん…ッ、カオリちゃん、好きだよぉ!」
先輩が帰ってくるまであと1週間と少ししかない。
1日だってもったいない。やっぱり飲み会なんて断るべきだった。
明日は、真っ直ぐ隣の部屋に行こう。
・6月12日(木)
「んっ、ぴちゃっ、ちゅっ、はぁ、カオリちゃん、んんっ、ぷはっ」
催眠人形にしたカオリちゃんにキスをしている。
シュークリームを貪るみたいに。
佳織さんが目の前にいるだけで股間が熱くなる。
催眠術と佳織さんの魅力に取り付かれた僕は夢中になって吸うんだ。
「はぁっ……佳織さん、よく聞いてください」
彼女の虚ろな瞳に語りかける。
幸福な人形の世界に入っている彼女が感知できるのは僕の声だけ。僕の従順人形。
「舌を出して。ゆっくり」
うっすらと開いた唇から舌が伸びる。
とろりと柔らかそうなお肉に思わず喉が鳴る。
「そのままで。あなたの舌もお人形の舌だ。何をされても感じない。甘みしか感じない」
敏感なそこの感覚を眠らせ、僕はそっと自分の舌を近づける。
くっつけると、柔らかく濡れた感触が心地よく広がった。僕はその味を、ゆっくり舌を回して味わう。
佳織さんの舌だ。先輩とキスをするための舌を、僕はつまみぐいしている。
「はぁ…ッ、美味しいよ、カオリちゃんの舌…ッ!」
舌を回転させて余すことなく絡ませる。下から持ち上げるようにぷるぷる弾ませ、唾液を滲ませて吸う。
ぴちゃ、ぴちゃ。
シュークリームなんかよりもずっと美味しい。佳織さんの唇と舌をサンドイッチしてずっと吸っていたい。
「佳織さん、舌を伸ばしたまま回して。ゆっくりでいいです」
虚ろな瞳に何の感情も交えず、佳織さんは伸ばした舌を回転させる。
少し間抜けに、そしてエロチックに。
「……そのまま続けて。何かに触れてもその運動を続けて」
僕はそこに自分の舌を近づける。円の中心を目指して。
「はあぁぁ……あぁ、あぁ……」
重なりあった唇の中で、佳織さんの舌が僕の舌を弄ぶ。
ぞわぞわっとした快感が背筋を走って、股間の先が簡単に精液を漏らした。
なのに僕は口を離せない。だらしなくズボンを濡らしながら、佳織さんの少し乱暴なキスにうっとりと蕩ける。
「はぁ、あっ、あむっ、んっ、はぁ、はぁ、カオリひゃん、あー、あぁっ」
また射精した。どくんどくんと、本格的に発射してしまった。
なのに口の中をくすぐる佳織さんの舌は容赦なくて、ぺろぺろと唇を舐められてまた勃起してしまう。
でも、もう限界だろう。この動きは佳織さんの舌を相当疲労させる。
彼女の舌を止めて、荒げた呼吸を整えながら僕は佳織さんに囁く。
「アゴの疲れは、ごはんの食べ過ぎです。あとで僕がマッサージしてあげますから心配しないで。精液の匂いも、あなたは気にならない。僕のズボンの染みも」
催眠を解除すると、佳織さんは「んー」と頬をさする。
そして僕に照れくさそうに微笑む。
「ちょっと食べ過ぎちゃったみたい」
そんなものでアゴが疲れるはずはないんだけど、僕の後催眠に囚われている佳織さんは疑問にも感じないんだ。
「あとでマッサージしますよ」
「ありがと。へへっ」
僕の勃起は、なかなか収まらない。
これからもお楽しみの時間はまだまだ続くんだ。
「ん、はぁ、んん……」
下着姿の佳織さんにマッサージをする。
今日はピンク。毎日きちんと上下を揃えているのはさすがにマメな人だなって思う。うちの姉たちはわりと適当だったから。
それとも、僕の前で脱ぐことを意識してのことだったら嬉しい。佳織さんの下着は何だって僕は嬉しいけど。
「アゴのマッサージもしますね」
「え、う、うん」
顔を触られるのが恥ずかしいのか、佳織さんのほっぺが少し赤くなる。
僕も顔なんてマッサージしたことはないけど、リンパに沿って撫でるといいのはどこも変わらないだろう。
ゆっくりと手のひらで頬の下を押し上げる。佳織さんの顔が僕の目の前に。精液でズボンの前を濡らしている僕の前で、無防備に両手で顔を挟まれている。
そして目が合うと、ほんの少し目を弓形にして微笑んでくれるんだ。
僕は顔が熱くなっていく。
「なんだか、近くて恥ずかしいかも」
「え、ええ。大丈夫ですか?」
「ん、平気」
僕は全然平気じゃなかった。佳織さんのほっぺたの柔らかさ。指先に触れる耳。長い睫毛の間から僕を見上げる瞳。
「僕の催眠人形」
耐えられなくなってお人形にする。
そして、そのまま唇を奪う。
佳織さんの髪に指を絡ませて情熱的にキスをする。
「……舌を伸ばして、回してください」
下着姿の彼女から立ち上る匂い。はだけたバスタオルの中の肢体。
そして機械的に回される舌の愛撫は、いかにもお人形さんらしくて僕のこれまでのキス体験を凌駕する。
最高だ。カオリちゃんのキスは最高。
「はぁ、はぁ……キス人形」
舌を回し続ける佳織さんに僕は言う。
「『僕の催眠キス人形』そう言ったらあなたは、今みたいに舌を回してください。舌に触れるものは全て甘く感じる。幸福の味だ。無理せず自分のペースで、味わって舌を回してください。それがお人形さんの幸せだ」
そしてまた唇をかぶせる。
佳織さんの動かす舌の感触は真っ直ぐに僕の陰茎を直撃して、また射精してしまう。
それでもキスをする。
もっともっとキスをする。
・6月13日(金)
「ん、はぁ、あっ、そこいいかも、んん、あん……」
佳織さんの肩胛骨の上を押す。
今日はカップ付きのキャミソールでいつもほどの露出はない。
パンツはグリーンミント。前にも見たことのある下着だ。
そろそろ僕は佳織さんの下着を全種類見てるのかも。そんなことを考えると興奮した。
「あんっ、んっ」
ぐっと背中を反らせたときに盛り上がる胸。
バスタオルの隙間から覗く谷間の白さがまぶしい。
「んっ」
強い刺激で太ももを擦りあわせる。
むちっとして張りのある足は、先に行くにつれてキュッと引き締まり、指を重ねるようにして縮こまるつま先は見ているだけでよだれが出そう。
「はうっ、んっ、貴司くん、ちょっと強い……」
短い襟足からうなじが見える。体にかぶせたバスタオルにシワが寄り、ちょっとめくれた端からグリーンの下着が覗く。
興奮しすぎて鼻血が出そうだ。
「僕の催眠人形」
ぴたりと電池が切れたみたいに佳織さんはおとなしくなる。
彼女の体からバスタオルを奪う。まぶしい下着姿の佳織さんに、後ろから囁く。
「少し腰を浮かせましょう。僕が背中を支えますから、そっと……はい、いいですね」
ゆっくりと腰をソファから上げていく。お尻に食い込んだ下着のシワがくっきり見えてクラクラしそうになる。
その背後に回って、今度はそのまま腰を下ろすように彼女に指示をする。
僕の膝の上に佳織さんが座った。
お尻のふわっとした柔らかさ。密着する体重。下着と僕のジーンズ越しに伝わってくる体温。
「はぁ…ッ!」
カオリちゃんを抱っこしてる。
それだけで舞い上がって、股間が勃起していく。
腰を動かすと彼女のお尻と僕の陰茎が擦りっこするんだ。
「カオリちゃん…ッ!」
張りのあるお尻は僕の腰と密着してぐにぐにと陰茎を挟んでくれる。
太ももに手を触れた。お人形の彼女は反応しない。人妻が夫でもない男にすべすべの肌をまさぐられているというのに。
キャミソールからほんのわずかに覗くおへそにも触れる。すごく柔らかい。舌を突っ込んでやりたい。
そしてじわじわと手を這わせてお腹を登っていく。彼女のお尻の下で動かす陰茎はもう先っぽを濡らしている。
胸に触れて、カップの上から揉んだだけで僕は射精してしまった。
「あぁ…ッ、あぁッ」
だけど手は止まらない。佳織さんの髪に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。うなじや肩にキスをする。
佳織さんのおっぱいを揉んで揺らして、たぷたぷと弾ませた。
カップの中でも佳織さんのたっぷりした乳房は波打つ。僕の手がそれをしていると思ったら目がチカチカするほど興奮した。
「カオリちゃん……ッ、こっちを振り向いて」
お人形さんの虚ろな瞳が、ゆっくりとこちらを見る。
ガラス玉のように丸くてきれいな被催眠アイ。
「僕の催眠キス人形」
くるくると回り出す舌に僕のを絡める。
吸って舐めて柔らかさと温かい吐息を胸いっぱいに吸い込む。
「あぁ……カオリちゃん…ッ!」
お尻に陰茎を押しつけながらまた射精する。
彼女の息を吸い込んで、胸を両手で揉みながら出す。
最高だ。
カオリちゃんは最高のお人形さん。
「好きだ……大好きだよ、カオリちゃん」
くるくると舌を回し続ける佳織さんの頬に、僕は愛情を込めた口づけをする。
僕の恋人。僕のお人形さんだ。
もっと佳織さんといろんなことがしたい。
恋人みたいに、デートなんかもしたい。
そんな想像したら、またムクムクと勃起していく。
読ませていただきましたでよ~
ひたすらにお人形遊びをする貴司くん。
そして、なんかその貴司くんを気にしてる愛ちゃん。
彼女をは貴司くんを更正させることができるのか?(たのんでない)
そして気づいてしまった6/11が2日ある(水木)w
あれでぅか、同じ日を繰り返すというホラーとかそういう系の話でぅか?(違う)
違う行動をしないと日が進まないんでぅよね。
貴司くんには無限にカオリちゃん人形で遊べて天国になりそうでぅけどw
ちなみにノクターンも11日が2日ありました
であ。
>みゃふさん
なんなら一番まともな人間してますよね、愛とか北山とか。
11日が2回あるのはあれです。ループしてるんです(してるんかい)
ちゃんと違うことをしているからOKですね(OKかい)
そのうち直してもらいます…!(直さないんかい)
誤字発見ありがとうございます!