人妻人形日記 五週目⑤

 

・6月27日(金)

 

 

「ん……」

 

 胸の上に何か乗っている。

 それが、きゅっと柔らかいものを押しつけて僕の首に回る。

 目を開けると、佳織さんがしがみついていた。パジャマ越しの胸を挟むように。

 

「……すぅ……」

 

 子どもみたいな寝顔に見惚れた。

 あぁ、そういえばこの人の寝顔をゆっくり眺めたことってなかった気がする。いつもドキドキしたり興奮したり全然余裕なかったから。

 僕たちが最後に迎える金曜日の朝。

 明日の午前には、先輩が帰ってくるんだ。

 

「ふふっ」

 

 佳織さんは幸せな夢を見て笑っていた。そこに僕が登場しているのか聞いてみたい気分になるけど、まだ我慢だ。

 彼女は今は自由。催眠術の人形から解き放たれているわずかな時間を楽しんでいるところだ。

 起こさないように気をつけながら時計を見ると、まだ6時前。寝返りをうちたい体勢だけど、佳織さんがしっかりと掴まっていて無理だった。

 

「んっ」

 

 腕を抜こうとすると、ぎゅって力を入れてしがみついてくる。

 それこそ、子どもがぬいぐるみを抱きしめるみたいに。そして無邪気に笑うんだ。

 

「ふふっ」

 

 困ったな。でも、この顔を間近で見ていられるのも幸せだ。こうして眺めているだけで満たされた気持ちになる。

 だけど、そのうち僕の気配に気づいたのかゆっくりまぶたを開いて――すぐ近くにある僕の顔に驚いて、ベッドの中で後ずさる。

 

「あっ、あー、おはよ。びっくりしたぁ」

「お、おはようございます」

「あー、もう……おはよう」

 

 髪とパジャマを直しながら、佳織さんは赤い顔を隠すように下を向いている。

 驚いたのは僕の方だけど。そんなに恥ずかしそうにして、どんな夢を見ていたんだろう。

 でも、それを知るのはまだ早い。

 

「まだ6時前ですよ」

 

 僕が時間を教えると、佳織さんは「そうなんだ……」と呟き、居心地悪そうにパジャマのボタンをいじる。

 

「もう少し寝ててもいいんじゃないですか」

「う、うん」

 

 上半身を見せたままベッドに誘う僕。

 佳織さんは少し逡巡したあと、背を向けてそっと隣に体を沈めてきた。

 目が覚めた彼女は催眠術の支配下だ。再び僕の手の届く場所に戻ってきた人妻の香りに、僕の性欲はすぐに反応する。

 

「……佳織さん」

「あっ」

 

 抱きしめると小さな声で悲鳴を上げて、体を縮こまらせる。

 だけど、逃げたりはしなかった。僕の手が胸に触れていても。

 

「マッサージしていいですか?」

「あ、朝から? 夜でいいよ……」

「でもしたいんです。だめですか?」

「んっ……」

 

 佳織さんを見ていると抱きたくなる。それはどんな朝でも変わらない。

 特に、今日は彼女が可愛く見えるから。

 

「佳織さん」

 

 耳元にささやきかけると、佳織さんはビクっとなって体を硬くする。

 昨日までの大胆な彼女じゃない。だけど、僕を完全に拒絶しているわけじゃない。

 

「あっ!?」

 

 彼女の股の間に、トランクスから取り出した僕のペニスを挟んだ。

 いきなりの行為に彼女は驚いていたけど、やっぱり逃げたりはしなかった。

 そのまま僕は腰を揺すった。彼女の素敵なプロポーションを抱きしめて、堪能しながら腰を振った。

 

「んっ、んっ、んっ」

 

 真っ赤になった耳たぶ。僕の手を掴む細い指。

 柔らかい肌は徐々に熱を増していく。

 最高の体を僕は朝から抱いている。

 

「はぁ、はぁ、佳織さん…ッ!」

「…………」

 

 佳織さんはぎゅっと唇を結んで僕の行為に耐えていた。

 その表情がサディスティックな悦びを感じさせて、僕はますます調子に乗って腰を振る。

 

「すごい、最高……佳織さん、気持ちいいよ……」

 

 思わず漏れた感情に、彼女は余計に顔を赤くする。

 もう可愛くてたまらなくなって、抱きしめる手に力が入る。

 すると意外にも、彼女も抱きしめ返してきた。

 僕のペニスを。

 

「か、佳織さん…ッ!」

 

 股から突き出るペニスを、佳織さんは優しく握っている。

 僕の動きに合わせて、そっと擦ってくれていた。

 

「佳織さん!」

「んんっ!」

 

 彼女の割れ目に押しつけて擦り上げる。

 佳織さんも、僕の先端を弄りながら太ももを締め付ける。

 外ではもう目を覚ました鳥が忙しそうに鳴いていた。僕らはお互いを気持ちよくするためのマッサージを、朝の布団の中でもぞもぞと繰り広げている。

 熱気がこもって汗ばんでいく体を、寝ぼけた性欲に任せてぶつけあっている。

 

「佳織さん、もう出そう…ッ」

「は、はいっ」

 

 僕が抜いたティッシュを、佳織さんが受け取って先端に当てる。

 彼女の手の中で僕は射精した。柔らかい手のひらに向かって、ありったけの精液を乱暴に打ち出した。

 

「……ッ……ッ」

 

 僕の陰茎の脈動に合わせて、彼女のそこもキュンキュンって痙攣している。

 それでも、僕の精液をティッシュの中に受け止めて、最後まで面倒を見てくれた。

 

「あっ……んっ……」

 

 佳織さん自身も小さなエクスタシーはあったのか、色っぽく顔を上気させていた。

 そして、布団の中から僕の精液でべっとり湿ったティッシュを取り出すと、その匂いにまた「んっ」と眉根を寄せてぷるぷる震える。

 

「はぁ……」

 

 うっとりと開いた唇が吐息に濡れていた。

 精液の匂いでイッたんだろうか。

 そんな佳織さんを見ていると、またムクムクと性欲が湧いてくる。

 

「佳織さん」

「あっ」

 

 彼女をうつぶせにして、そのお尻の間に僕の陰茎を差し込む。

 精液に濡れたそれは、彼女のすべすべした肌をなめらかに滑った。

 

「だ、めぇ……」

 

 後ろから犯されるみたいな格好に、佳織さんはお尻の肉をビクビクっとさせて抵抗する。

 だけど、背中に手をついて上から擦りつける僕のペニスに、「はぁ」と色っぽいため息をつく。

 

「だめ……今、力入んないの、だめぇ……貴司く、んんっ」

 

 その背中を優しく、それこそマッサージするみたいに撫でながら僕は彼女の下着の中を犯し続ける。

 佳織さんは、僕の精液に濡れたティッシュを枕元で握ったまま、時折振り返って切なそうに眉を寄せた。

 それが僕に何かを求めているみたいに見えて、すごくドキドキして興奮する。このまま犯しても許してくれるんじゃないかって、倒錯したことを考えてしまうんだ。

 

「佳織……あぁ、佳織…ッ!」

「んっ、あっ、あんっ、あぁ、貴司くん……貴司くんっ」

 

 今日が僕らの最後の1日。

 その朝も、佳織さんの体を貪ることから始まる。

 

 二度寝してしまった僕が起きてくると、佳織さんはもうキッチンに立っていた。

 

「おはよ」

 

 さっきまでの乱れた姿がウソみたいに消えていて、いつもの彼女の柔らかい笑顔で振り向いてくれる。

 まだパジャマ姿のままだった。そして、下着は替えたみたいだけど下のパジャマは穿いてなかった。

 エプロンと下着とパジャマ。朝から出会うには強烈に可愛すぎる人妻のファッションに、僕は呆然としてしまう。

 そんな僕を、また振り返って佳織さんは笑う。

 

「何見てるの~?」

「え、あ、す、すみませんっ」

「お腹すいたでしょ。すぐ出来るから、貴司くんも準備してきなよ」

 

 着替えて戻ってくると、美味しそうな朝食は出来上がっていた。

 そして、佳織さんは昨日と同じく僕の隣で、甲斐甲斐しいお世話を楽しげにしてくれるんだ。

 

「バターでいいんだよね?」

「はい」

 

 すぐ近くにいる肌が触れあい、指が絡まっても彼女は当たり前のように微笑んでくれる。

 とても幸せな気持ちで朝食を終え、ごちそうさまのキスもした。

 玄関では、もっと情熱的なキスだってする。

 

「んっ、ちゅぷっ、んっ、ちゅっ、ちゅっ、あむっ、んっ、貴司くん、ちゅっ、ちゅぶっ、んん、ちゅぅ」

 

 腰やお尻を撫でるとくねくねと踊る。

 僕の足を挟むようにして、佳織さんはしがみついてくる。

 やがて唾液が糸を引く唇を離しても、佳織さんはボーッとした瞳をしていた。

 

「……早く帰ってきてね」

「はい」

 

 後ろ髪がむしられるような気持ちで、玄関を開ける。

 そして振り返ると、佳織さんはまだ上気した顔ではにかむように微笑み、手を振ってくれた。

 僕はその表情にたまらなくなって、彼女に命じる。

 

「僕の催眠人形」

 

 うつろな瞳。

 美しい僕の人形。

 僕はその髪をすくって「舌を出して」と囁きかける。

 そこに自分の舌を重ねて、ゆっくりと吸い取る。

  

 昼休みに一緒に食おうというので北山についていったら、うどん屋だった。

 コイツをうざいと言っていた小田島の気持ち、本当にわかる。

 今夜、佳織さんの出してくれる食事がもしも冷凍うどんだったら、僕は彼女の幸福の夢にはいっさい登場しない人物ということで、そのまま退場するつもりでいた。その運命のメニューをこんな奴に先に出されるとは、幸先がいいのか悪いのかわからない。

 佳織さんのことをすっかり忘れた北山は、どこかにいい女はいないかといつもの愚痴ばかり言っていた。

 催眠術で去勢って出来るのかなって少し興味が湧いたけど、その実験はまた今度ということで会社に戻る。

 

「お」

 

 社員用の出入り口で足をぶらぶらさせている小田島に気づいて、北山はニヤリと笑うと、僕の背中を叩いて先に入っていった。

 小田島は、「ねえ」とそっぽ向いたまま僕を呼ぶ。

 

「北山さんに言ったの、愛たちのこと」

「言ったけど。ダメだった?」

「ダメじゃないけど……」

 

 小田島は語尾を言い淀ませて、ちらりと顔色を窺う。

 そして僕が全然気にしていないのを確認して、「ちょっと恥ずかしいじゃん」とニカッと笑う。

 

「そのうちバレることでしょ」

「そぉだけど~」

 

 誰にだって知られれば気まずいことの1つや2つある。

 気まずいくらいじゃ済まされないことだってあったりもする。

 小田島は安心したのか僕に近づいてくると、「土日ヒマ?」と聞いてくる。

 

「……日曜日に連絡するよ」

 

 僕の濁した言い方に小田島は何か言いたそうにしたけど、引っ込めることにしたみたいで、「そう」と明るく言った。

 前から思ってたけど、この子は演技力高い。

 

「じゃあ、連絡してくれる?」

「うん」

 

 これから僕たちは付き合うことになる。

 その前にまず、お互いの近い過去については不問とすることで、内心の協定が結ばれた。

 結ばれたことに、お互いが安心した。

 

「愛たち、上手くいくといいね」

「うん」

「なんか大丈夫そうって予感はかなりあるけどー」

「僕も」

 

 たぶん大丈夫だと思う。

 普通の恋愛くらいは僕だって普通に出来るつもりだ。

 一生分の大恋愛を、今夜終わらせるんだから。

 

 僕を出迎えてくれた佳織さんがいつもの笑顔であることに安堵した。

 そして彼女がいつもの下着エプロンで、靴を脱ぐ僕を待っていてくれることも。

 抱きしめるにも少し緊張した。キスをするときも初めてのようにドキドキした。

 

「……どうしたの?」

 

 おとなしいキスしか出来ない僕を、誘うように佳織さんは微笑んでいる。

 彼女の可愛らしい顔を、きれいな髪を、そしてメリハリのある体をもう一度眺めて抱きしめる。

 

「ふ……」

 

 佳織さんは、心地よさそうに吐息を漏らして僕に体を預ける。すべすべの背中。柔らかくつぶれる胸。

 成熟した人妻の肌を抱きしめて、僕はその匂いを胸の奥まで吸い込んでもう一度キスをしようと顔を寄せる。

 佳織さんは僕の顔を見て微笑んだ。そして、思い出したように目をつむる。

 温かいキスから唇を離すのが怖い。

 もしも彼女が用意してくれたディナーが、冷凍庫の底に眠っていた冷凍うどんならこれが最後のキス。

 だけど、そうじゃなかったとしたら、僕は彼女にありったけの想いを――

 

「はい、どうぞ。リクエストどおりに焼いてみたよ。ジャンボ貴司くんハンバーグ~!」

 

 テーブルの上に乗っていたのは、信じられないサイズのハンバーグだった。

 しかも、小さいハンバーグやゆで卵やウインナーを駆使して、気持ちの悪い人の顔を作ったキャラハンバーグだった。

 

「へへっ、貴司くんのキス顔で~す」

 

 ちょっと気持ち悪い形をしたそれを、どんな顔して彼女は作ってくれたんだろう。僕は佳織さんと一緒に爆笑して、お腹を抱えて、そして気がついたら涙がぽろぽろ出ていた。

 佳織さんは、ドン引きしてた。

 

「ええ……そんなに似てなかった?」

 

 全然似てないけど、それが悲しくて泣いてるわけじゃないと釈明する。

 そして、「好きです」と告白した。

 吐き出すように言った。

 いつも僕の想像を裏切ってくれるあなたのことが大好きだって。

 

「大好きです……本当に、愛してます」

 

 佳織さんはしゃくり上げて泣く僕を、子どもみたいにあやして椅子に座らせる。

 そして、自分は正面に座って「いただきます」と手を合わせる。

 

「さ、貴司くんも冷める前に食べよ。話はそのあとで!」

 

 ナイフのフォークの触れる音を響かせて、自分だけ普通サイズのハンバーグを佳織さんは「美味しい!」とご機嫌で食べる。

 そして僕にも、「早く食べて」と急かす。

 ざくざくとナイフを入れて一口食べた。見た目はどうであれ、すごく美味しかった。僕の大好きな佳織さんのハンバーグだ。

 

「美味しいです」

「でしょ~。なんて、お世辞ならいいってば」

「お世辞じゃないです」

「ふふ、ありがと」

 

 それからは無言でジャンボハンバーグと格闘する。

 とんでもない大きさだけど、僕のリクエストに答えてくれた彼女の優しさと昨夜の夢に感謝しながら、鼻をすすって意地でも食べる。

 無理しなくてもいいと佳織さんはまた引いていたけど、余すようなことはしたくなかった。

 彼女の夢の内容は知らない。

 聞く必要もない。

 大きな僕のキス顔だというハンバーグを全部平らげる。

 彼女の夢を完食する。

 

「……前にちょっと、私は今まで恋ってしたことないかもって話をしたような気がするけど」

 

 食後に「少しだけ」とワインを出して、彼女は僕の前で照れくさそうに一口飲み、微笑んだ。

 

「したことなかったってわかった。私はきっと子どもが恋に憧れる気持ちを、そのまま結婚するまで恋だと思い込んでたんだろうなって。私たちって、なんていうかずっと兄妹みたいな感じで、それを今でも続けてるんだと思う」

 

 一緒にいるのが当たり前で、離れることなんて想像できなくて、そのままついて来てしまったと。

 子どもだったんだねって、それこそ幼い笑顔を見せてグラスを撫でる。

 

「……そんな風に真剣に好きだって言ってもらったことなかったし、ときめくこともなかったし。小さい頃から当たり前だった毎日を続けるために結婚したっていうか。それでも全然幸せなんだけど、なんていうか、大事なことが足りなかったなってわかった。私って、恋も知らないままここまで来ちゃったんだよ。バカだよね」

 

 そしてワインをくいっと全部飲み干すと、決心したように顔を上げた。

 

「貴司くんを見て、私もちゃんと恋しようって思った。今さらなんだけど、あの人を男の人だってきちんと意識して、好きなところをたくさん見つけて、言葉に出来るような恋にしたい。あの人にも、ちゃんと私を好きだって言ってもらいたい。そして2人の子どもを産んで、おじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒に暮らすの」

 

 だから。

 と、言葉を切って、佳織さんは僕を見つめる。

 いつもの彼女らしくいざぎよくフッてくれたことを、胸に刻みこまれる痛みとともに、僕は感謝して頷く。

 

「だから、私の初恋は今日で終わり」

 

 なのに佳織さんは、語尾を弱めてつぶやき、コクリと喉を鳴らす。

 空になったグラスを握りしめ、

 

「貴司くんが好きっていうこの気持ちは、今夜で忘れようと思います」

 

 見つめ合った視線が、赤くなった頬と一緒に俯いた。

 僕は彼女の言ったことを頭の中で反復し、そして理解の追いつかないまま「あぁ」と間抜けな相づちで返してしまった。

 続く言葉もないまま、僕も顔が熱くなって彼女から視線を逸らす。

 心臓の音しか聞こえない。じわりと手に汗をかく。

 どこまでが僕の催眠術で、どこからが彼女の意思なのか。

 大好きだと言って俯く佳織さんは、確かに恋する少女みたいだった。

 そして、大人の女性だった。

 

「先にシャワー使うね」

 

 グラスを置いて、彼女は席を立った。

 彼女が戻ってくるまで僕はそこを動けなかった。

 そして髪を濡らしたまま上がってきた彼女は、バスタオルを一枚まとっただけで僕に言う。

 

「……入ろ。背中、流すから」

 

 僕の背中を、人妻が洗い流してくれている。

 緊張して立つ僕の後ろで、佳織さんもぎこちない手つきで体に触れてくる。

 会話らしい会話もないまま、それでも丁寧に彼女は僕のお尻まで洗う。そそり立つ陰茎が震えると、そのたび驚いたように手を止める。

 

「はぁ……」

 

 吐息には緊張と興奮が感じられた。

 佳織さんは膝をついて、そのまま僕の太ももの裏まで洗ってくれる。そこまでしてくれることの意味を、これから僕たちの間で起こることを、期待して僕は息が詰まるほどの興奮を覚える。

 唾を飲み込んで、僕は思いきって振り返る。

 

「佳織さん」

「あ……」

 

 彼女の眼前にペニスをつきつけた。

 佳織さんは顔を赤くして目を伏せる。そして、おずおずと右手を伸ばして僕のに触れた。

 快感が、びりびりと電流みたいに流れて僕は思わず呻く。ひどく敏感になっていた。

 佳織さんは、ゆっくり柔らかく濡れた指でしごいてくれた。グロテスクな陰茎を、恥ずかしそうにチラチラと見ながら、すごく気を使って優しくしてくれている。

 彼女の目元が赤くなっていくのは、羞恥のせいなのか、それとも。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 いつしか僕のペニスをしっかりと見つめて、その反応に瞳を潤ませている。そして肌に張り付くバスタオルの下で、乳房も揺れている。

 口元が緩く広がるのは、そこに何か欲しがっているようにすら見えた。

 

「佳織さん、あの」

 

 僕は喉を鳴らして、彼女にお願いする。

 

「……それ、取ってくれませんか?」

 

 バスタオルを指して言う僕に、佳織さんは真っ赤になった。

 僕のをしごいてくれた手も止まり、気まずい雰囲気になってしまった。

 だけど、「やっぱり無理ですよね」と謝りかけた僕の前で、佳織さんは立ち上がった。

 そして胸の前で止めていたタオルに手をかけると、ゆっくり――開いてみせた。

 白い乳房が、弾むように揺れた。先端の薄い色をした乳首は、まっすぐに僕を見つめていた。

 しっかりしたくびれと、柔らかそうな肌。そして張りのある腰つきと張りの良さそうな太もも。ライターの炎のような形をした陰毛。

 人妻の佳織さんが、僕に全てを見せてくれた。

 催眠術なんか使っていない。だけど、僕らは確かに裸だった。初めて僕らは全裸で向かい合っていた。

 だけどそれは一瞬のことで、彼女はすぐにパッとタオルで隠すと、口ごもりながら「ごめん」と謝る。

 

「さ、先に出てるね。ゆっくり温まって」

 

 逃げるように出ていって、磨りガラスの向こうで着替える音がした。

 僕の先端は、いつの間にか糸を引いていた。

 

 足が地についてないような頼りない感覚だ。

 僕たちの間にある空気は親密かつ神聖で、夢見心地で暖かく、厳格な秘密によって張り詰めていた。

 佳織さんはパジャマの下を脱いで待っていてくれた。

 抱きしめると彼女はつま先立って僕に腕を回し、キスをしてくれた。

 浮ついてしまうそうなくらい甘いのに、罪悪感は背中に張り付きチクチクと責め立てる。

 だけど、それを振り払ってでも抱き合うと今夜の僕らは決めていた。

 寝室までどうやってたどり着いたのかわからない。僕はベッドに佳織さんを横たわらせて、覆い被さるように手をついている。

 初めて女の子を抱くみたいに緊張しているし、もう出ちゃいそうなくらい興奮している。

 そして佳織さんも僕と同じ気持ちなのか、ぎゅっと引き締めた唇が震えていた。

 

「……いいんですか?」

 

 我ながら情けなく思いつつも、今さらなことを尋ねてしまう。

 佳織さんも迷うように視線を泳がせる。僕らは行き先を見失った子どもみたいに、夜を彷徨っていた。

 

「今夜の私は、貴司くんの恋人だから」

 

 して欲しいことがあったら何でも言ってと、佳織さんは僕の手をとってそこに口づけした。

 彼女の瞳には覚悟と愛情が揺れて混ざり合っている。僕はその覚悟をすくい取るようにそっと口づけをして、力強く抱きしめる。

 

「佳織さん!」

 

 首筋から香り立つ人妻の匂いを吸い込み、夢中になって彼女の名を呼ぶ。

 

「佳織さんっ、佳織さん!」

 

 僕のものだ。

 佳織さんは今夜僕のもの。

 独占欲と甘えと性欲を丸出しにして彼女にしがみつく。佳織さんも、僕の背中に回した腕に力を込める。

 

「貴司くん…ッ!」

 

 互いを求め合いながら僕らは裸になる。恥ずかしそうに胸を隠す佳織さんを見下ろし、僕は反り返った陰茎を彼女に見せつける。

 

「きれいだよ……佳織さん」

 

 キスをして胸に触れる。指を沈めて柔らかく押し返してくる感触に、僕の陰茎は勢いよく跳ねる。

 しっかりと意識しておかないと、勝手に射精してしまいそうだ。それぐらい僕の興奮は全身を敏感にさせていた。

 なのに、温かい指が僕の陰茎に絡む。佳織さんはそっと僕のに手を添えて、優しくしごいてくれていた。

 

「佳織さん、それたまらないから、うぅっ」

 

 陰嚢にも触ってくるものだから、ぞわぞわと駆け上がってくる快感に呻いてしまう。佳織さんはそんな僕の胸にもチュとキスを鳴らす。ちゅ、ちゅと首すじにも口づけをして耳元に向かってささやく。

 

「好き……」

 

 いつか佳織さんの口から聞きたかった甘い言葉。

 想像以上にそれは僕を興奮させてくれる。

 僕も佳織さんのアソコに手を伸ばした。ぎゅっと彼女の太ももが閉じて警戒されるけど、指を潜り込ませて彼女の割れ目の中へと軽く指先を曲げる。

 薄い肉をめくると、そこはもう熱く濡れていた。

 

「やぁ……ッ!」

 

 佳織さんは恥ずかしそうに身をよじると、僕のを握る手に力を入れる。

 優しく撫でるように少しずつ中へ潜っていくと、さらに熱い肉が僕の指を挟んで抵抗するが、そこは彼女の意思に反して男の体を受け入れる準備は出来ていて、吸い込むように僕を熱いスープの中へ導いていく。

 

「あぁっ!」

 

 反り返った乳首を咥えて、彼女の胸に甘えながら下半身を責める。そして佳織さんも、僕のペニスをすがるように握りしめ、きゅ、きゅと快感を信号のように送ってくる。

 

「んっ、あっ、貴司くん、ん、くぅっ、んっ、あんっ」

 

 佳織さんの声を聞いているだけでクラクラする。彼女の優しい指が僕の固さを確かめるように蠢く。

 コンドームの袋を破って用意した。佳織さんは恥ずかしそうに目を閉じて待っている。

 準備の出来た僕のを進軍の槍のように天に向かって突き立てて、佳織さんの足を広げて近づけていく。

 本当にいいのかって思いは未だに頭の片隅で揺れているけど、濡れた匂いを立てて開かれた佳織さんの秘所を前に、最後の理性も蒸発する。

 ここに入れたい。今夜だけでも、彼女を僕の女のように――

 

「あっ、んんっ!」

 

 入り口を押し広げると、それだけで佳織さんは仰け反って声を上げた。ゆっくりと進入していくと、ぴくっぴくっと胸の先を痙攣させた。

 半分ほどが潜ったあたりで、佳織さんの膝を広げる僕の手を彼女が握りしめ、ぎゅっと爪を立てる。

 佳織さんの中へ入っていってる。このきつくて柔らかい締め付けは人形にはなかったもの。彼女の生の反応。夫以外の男を迎える人妻の抵抗。

 それを僕のペニスが破っていく。彼女のふたり目の男に僕がなる。

 まだ潜っていく。まるで処女みたいに佳織さんのそこが狭くなる。陸に上がった魚のように口をぱくぱくさせて、小さな声で何か囁いている。

 

「……おおき、い……」

 

 自尊心をくすぐる彼女の本音に、僕は酩酊したみたい顔が熱くなり浮かれる。

 ますます締め付けの強くなるそこに、僕はまだゆっくりと潜っていく。「うそ…!」と彼女は驚いたように呟き、白い喉を僕に見せる。

 

「あっ、あ……そんなに、奥まで、うそぉ……ッ!」

 

 佳織さんを貫く僕の陰茎は、彼女を驚愕に震わせながら、とうとう奥の壁にまで当たる。

 そのとき、佳織さんは大きく乳房を震わせると、ビクンと大きく痙攣した。

 

「やっ!? あっ、なに、今の、あっ、あっ、だめ、待って、怖い……ッ!」

 

 今まで味わったことのない感覚に襲われたのか佳織さんは怯えた声をあげる。僕はその表情を見下ろしながら、もっと深く、もっと強く、佳織さんの中に潜り込んでいく。

 

「ひっ、んっ、あっ、あっ! ああぁっ、あんっ、あんっ、だめぇ、ダメェ……ッ!!」

 

 僕のピストンに合わせるように、佳織さんは全身を仰け反らせていく。そのたびに乳房が揺れ、汗ばんだ肌が照明を受けて輝く。

 

「すごっ、これ、すごいぃ……ッ! なに、これ、こんな……ウソ……ッ」

 

 信じられないといった様子の彼女が、僕の肩に指を食い込ませる。腰を動かすたびに、ぞくりと身体を緊張させて。

 肉棒を引き抜く動きで、カリ首が膣壁を引っ掻いて背筋が震えるらしい。亀頭が抜けるギリギリまで引いて一気に突き入れると、それに合わせて彼女は大きな喘ぎ声を上げた。

 何度も何度も繰り返すうちに、佳織さんの瞳からは涙が流れ落ちていく。

 彼女の、夫以外の初めての相手になれたことに僕は優越感を覚える。夫ではきっと与えてくれなかった感覚を、僕のペニスが与えている。

 もっと気持ちよくしてあげたい。もっと感じてほしい。

 少しだけ動きを緩めると、佳織さんは息を大きく吐いて胸を上下させた。

 真っ赤になった目元と潤んだ瞳。一体感に痺れながら、僕らは見つめ合って愛を囁き合う。

 そして、またゆっくりと腰を沈めると佳織さんはビクンと震えた。

 

「やっ! あぁぁ……そこ、だめぇ……あの人も触れたことない場所なの……んんんっ、あっ、やぁ、痺れる……」

 

 奥に触れると小さなエクスタシーが生じるらしく、佳織さんは唇を噛んで僕の手を握りしめる。

 僕は息を吐くと、もう一度、今度は少し強めに、コツンとキスするように触れる。

 

「んんんっ!」

 

 また佳織さんは唇を噛み、そしてハァハァと呼吸を荒げた。

 だけど、瞳はますます潤んで僕を蕩けるように見上げている。

 自分の知らなかった快楽を教えてくれた男に、女は甘えて感謝する。蕩ける表情。火照った瞳は、少女みたいに僕にすがりきっていた。

 

「あぁっ!」

 

 奥を突くたびに佳織さんは声を出して反り返り、エクスタシーの波に溺れる。

 そして僕は思い出す。

 彼女のここには、催眠術で『幸福のスイッチ』を作ってあることに。

 素直な彼女は、先輩では届かない一番奥の快楽を僕のために開いてくれていた。

 

「佳織さんっ!」

「あっ、やぁ! 待って、ダメ、貴司くんっ。わ、私、あぁぁん! し、知らないのっ。そこ、あんっ、突かれたことないから、こんな、すごいの、あぁぁぁん! は、初めてなのぉっ。あ、あっ、お願い、そっと……そっとして、あぁっ! 刺激、すごすぎるからぁ!」

「佳織さん……佳織さん!」

 

 夢中になって腰を振りたいのを堪えて、浅く、優しく彼女を抱く。

 だけど、数回に一度奥を突くと、それだけで軽くイッてしまっている佳織さんは、真っ赤になった顔を涙で濡らして「許して」と懇願する。

 人妻が、夫にも見せたことない乱れ方で僕に抱かれている。

 清楚で貞操観念の強い佳織さんが、ベッドの上で僕にオンナの顔を見せている。

 浅く、浅く、深く。浅く、浅く、深く。

 何度もノックして彼女のエクスタシーを呼び出し、確認する。

 ここは僕たちだけの場所だ。

 僕らしか出会えないスケベで気持ちの良い場所だ。

 面白いくらいに予想どおりの反応と、聞いたことのない淫らな声を上げて、あの佳織さんが僕のセックスに溺れていく。

 僕も獣みたいな声を出していた。

 この柔らかい体を食べてしまいたい。牙を立ててむしゃぶりついて、僕のセックスが忘れられなくなるまで抱く。

 ふたりだけの世界が見えた。そこへ目がけてがむしゃらに腰を振った。

 こんな夜は二度とないことを知っていても、今、僕は幸せだった。

 

「あぁぁぁぁ! あぁっ、貴司くんっ、あっ……あぁぁぁん! だめ、だめ、あぁ、私、こんなの、あぁっ、初めてっ、これ、なんなのっ、あぁっ、信じられないくらい……あぁっ、気持ちいいのっ、体が、言うこと聞かないのっ」

「佳織さんっ! これが、本物の、セックスだ…ッ、僕も、初めてだっ。こんなの、信じられないっ、セックスで、こんなに幸せな気持ちになれるなんて…ッ!」

 

 アドレナリンがドパドパ溢れて脳みそを溶かしていく。

 催眠術に溺れてるのは僕だ。

 僕の作り出した最高の催眠人形が奏でる嬌声は、術者の僕まで引きずり込んだ。

 そして溺れて、ベッドに沈んで、溶けてなくなるまでセックスする。僕らが全てを出し尽くすまでこのセックスは終わらない。

 僕らはセックス人形だ。

 佳織さんのここは、僕の幸せスイッチでもあるんだ。

 

「あぁぁぁぁっ、貴司くんっ、私、死んじゃうっ、これ以上されたら、死んじゃうっ!」

 

 首をぶんぶん振って、舌を覗かせて佳織さんは仰け反る。

 乳房が汗の匂いをさせてバウンドして、乳首が暴れるように跳ねる。

 今、僕は最高の女性の最高の姿を目の当たりにしている。ますますペニスが充血して固くなっていく。

 強烈な締め付けと同時に、彼女の膣内が目覚めたみたいに蠢きだし、僕の陰茎に絡みついてきた。

 子宮の入り口へと誘う動き。僕を受精の相手に選んだと彼女の肉体が白状し始める。佳織さんはますます快楽に狂い、僕の腰に無意識に足を回して、ぐいぐいと引き寄せてくる。

 

「貴司くん、貴司くん!」

 

 じゅわ、と彼女の奥からまた大量の液体が染み出す。排卵でもしてるのかと思うくらい熱くなっていく。

 こんな薄いゴムなんて突き破ってやりたい。彼女の無意識が僕を呼んでいる。カオリちゃん人形が、子宮の奥で僕にぶっかけられるのを待っている。

 あのうつろな瞳と、乱れた彼女の表情が重なり、僕はその倒錯した幻視の中で精液を暴発させた。

 

「あぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 佳織さんの悲鳴が遠くに聞こえる。それから徐々にホワイトアウトしかけた意識が戻ってきて、リアルな彼女の肉の締め付けと、色っぽい表情と体が絶頂に乱れる姿が目に入り、また強烈な達成感と満足感で射精の快楽が増す。

 失神しそうな快感なんて初めてだ。なのに、僕のはまだ全然萎える気配すらなくて、彼女から引き抜いたあとも凶悪なくらい猛り狂っている。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 手足を投げ出して、佳織さんは大きく呼吸している。

 僕はその体をひっくり返す。むっちりしたお尻が、汗とオンナの匂いを発している。

 彼女はそれこそ人形のように為すがままだった。なのに、そこだけは生々しく女性だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 呼吸に合わせて浮き沈みする尻のその一点に、コンドームを再び装着したペニスを近づける。入り口を突き当て、柔肉を掴んで、ゆっくりと沈めて幸せの場所にキスをした。

 

「あ、あぁ……あぁぁぁぁ~ッ!」

 

 蛇腹楽器みたいに佳織さんはペニスの深度に合わせて声を出す。僕たちの場所で触れあったときには、目を覚ましたようにお尻を震わせて甲高い声で鳴いた。

 

「あぁっ、あっ、貴司くんっ!」

 

 この格好だとあらためて彼女のプロポーションのいやらしさがわかる。

 大きなお尻が、どれだけバックスタイルに似合うのかはっきりと自覚できる。

 浅く、浅く、浅く、深く。

 二度目のセックスでようやく落ち着いて彼女を堪能する余裕が生まれ、お尻と腰のぶつかり合う音色に顔を緩ませながら腰を振る。

 

「あぁぁ~ッ、そこ、そこ、一番奥が、ダメなのっ、気持ちいいのぉ! おかしくなるのぉ!」

 

 そして佳織さんはますます感度を上げて、背中まで真っ赤にしながらシーツを握りしめ、お尻を揺らして儚い抵抗を見せる。だけど、それすら僕には誘っているようにしか見えず、彼女のお尻を掴む手に力が入る。

 

「あぁっ、うっ、あぁっ、貴司くんっ、あぁっ、許して、んんっ、あぁっ、よすぎて、私、あっ、あっ、だめ、もう、体が、あなたのものになっちゃうっ、こんなの、こんなの、されたら、私、私、あぁぁぁぁ!」

 

 セックスに酔いしれ、僕の唾液が佳織さんの尻に落ちた。理性が溶けてなくなっていくのを感じる。この人妻を貪ることしか考えられない。

 だらしなく彼女の名を呼びながら腰を振る。ペニスとおまんこしか目に入らない。

 にゅるにゅると絡みつき、蠢き出す膣肉。

 許してと言いながら、下の口は主を招く仕草で僕を誘惑していた。

 この膣中で思いっきり射精してやりたい。子宮の奥まで僕の名を刻みたい。佳織さんの子どものパパになりたい。

 叶わぬ夢を見ながら、叶った夢の奥に僕はまた射精する。

 

「いやあぁぁぁぁぁっ!」

 

 ビクンビクンと佳織さんはお尻を痙攣させ、大量の液体をそこから噴き出した。

 なのに、引き抜いたペニスは全く萎えていない。コンドームの中を精液でパンパンしながら、まだそそり立っている。

 あぁ、あなたは何という女性だ。どこまで僕をセックスに溺れさせるつもりなんだ。

 ゴムを外してシーツの上に捨てると、僕は佳織さんの体を起こしてベッドの上に立ち上がる。

 彼女の眼前に、そそり立たせて見せつける。

 

「佳織さん、見てくださいこれ。全然萎えないんです。佳織さんが可愛すぎるから」

「あぁ……やだ、見せないで……」

「だって佳織さんのせいなんですよ。二回も出したのにこんなになってるなんて、僕は初めてです。あなたはいくら抱いても抱き足りない。佳織さんのせいで、僕のペニスは破裂しそうです」

「そんな……ごめんなさい、私、どうしたら……」

 

 茫洋とした顔で、それでも精液を垂らす亀頭を凝視して、佳織さんは重たそうに息を吐く。

 近づけて匂いを嗅がせて、そして口に入れろと命令する僕に、彼女は素直に目を閉じて口を開いた。

 

「んん……ちゅ、ちゅぷ、ちゅっ」

 

 強烈なオスの匂いも嫌な味もするはずなのに、佳織さんは僕に言われたとおりに舌を絡ませ、ちゅっと吸いながら顔を前後し始める。

 

「ちゅ、ん、ちゅぷっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ」

 

 夫にもしたことないフェラチオを、僕に見下ろされながらしてくれた。

 佳織さんは僕の恋人。今夜だけは独占していい。

 足元に傅いておっぱいを揺らしながら僕のをしゃぶる彼女を見ていると、また僕の下でめちゃくちゃに乱れる姿が見たくなる。

 

「佳織さんっ」

「あっ」

 

 押し倒されて、足を広げられても彼女はもう諦めたように体を投げ出すだけだ。

 初めてのセックスに慌てる中学生のように不器用にコンドームを千切る僕を、熱に浮かされた顔でじっと見守っている。

 そして挿入した途端に、僕にしがみついて大きな声でよがるんだ。

 

「あぁぁぁーッ! 貴司……貴司さん、貴司さん、もうどうにでもしてぇ!」

「佳織さん……佳織ぃ!」

 

 彼女の名前を叫びながら、思いっきり広げた両足の間に腰を打ち付ける。

 佳織さんの大きな胸が、僕の乱暴なピストンに合わせて揺れる。乳首がまるで催眠術のコインのように激しく上下する。

 僕は、もうとっくにあなたの催眠術にかかっているというのに。

 頭の中がおかしくなっているんだ。あなたの顔とおっぱいとお尻とアソコのことしか考えられない。

 僕は佳織さんとセックスをするために生まれてきた獣だ。

 

「あぁーっ、貴司さん、いいっ、気持ちいいの、あぁっ、頭、おかしくなりそうなのぉ!」

「僕もだよっ、佳織っ! 天国みたいに気持ちいいっ、君が好きだっ、大好きだ!」

「私も好き! 貴司さんが好き! あなたの、好きなように抱いてぇ!」

 

 佳織さんの足が僕の腰に巻きつく。

 求められているのがわかる。僕だけじゃなく、佳織さんも僕を求めてくれている。

 嬉しくて腰が止まらない。無我夢中で僕は彼女の体を貪る。髪を振り乱し、舌を伸ばして唾液を交換するキスをしながら、僕らは愛を叫ぶ。

 肉体は快楽のためだけに動き出し、言葉さえも意味のない喘ぎ声に変わり果てていた。

 そうして、理性も倫理もセックスに溶けていく。

 

「イクよっ、佳織! 一緒にイこう!」

「はい、貴司さんっ、イキます! 私、イク、イク、イクうぅぅぅ!」

 

 彼女の中でぶちまける。僕らは強く抱き合ってエクスタシーを共有する。

 なのに、それでも勃起は収まらない。

 絶頂の余韻で蕩けている佳織さんのぐんにゃりした体を、ひっくり返してお尻を上げる。

 勝手に挿入してやると、異物に気づいた佳織さんが甲高い悲鳴を上げた。

 

「いっ、あっ、貴司さんっ、あぁっ、私、壊れちゃうっ、こんなに抱かれたら、セックスでおかしくなっちゃうぅ!」

「無理だよ、佳織! 僕はもう止まらないっ。君のせいだっ。君が、僕に全てを許してしまうから……今夜は、僕らが壊れるまでヤる! 絶対にやめない!」

 

 後ろから何度も何度も突き上げる。佳織さんのお尻が波打つように動き、またどっぷりと蜜が溢れ出す。

 痙攣する彼女の腰を鷲掴みにして、さらに犯した。

 長い髪をシーツの上に散らして、枕に顔を埋めて鳴き続ける佳織さんを見て、ますます欲情してしまう。

 もう僕はこの人なしではいられない体にされてしまったんだ。彼女という媚薬で体が作り変えられていく。

 佳織さんが僕をこうさせたんだ。だから、あなたの身体に責任を取ってもらう。あなたは僕のものだ。僕だけのものだ。

 愛してる、佳織さん。

 興奮した僕はそのまま彼女をベッドに押し潰し、滾る激情を迸らせる。

 

「あぁーッ! あぁっ、貴司さんっ。貴司……さん……あぁ、あぁーッ!」

 

 枕の中でくぐもった悲鳴を上げる佳織さんの尻に、ペニスを杭にして上から打ちつける。

 どぴゅ、どぴゅっ、びゅるる。

 いきなり射精が始まって、痙攣する腰に自分でも驚く。どくどくと脈打つ肉杭が熱い液を吐き出し続けるにを感じながら、僕は唇を噛む。

 あぁ、そんな。もっと味わいたかったのに。

 僕はペニスを引き抜いて、コンドームを丸める。そしてそれを、お尻を上げたまま息を荒くしている佳織さんの背中に置く。

 まだまだ萎えない。僕の生命力は全てこの男根の中にある。

 これが人生最後の夜になってもいいと、本心から思うんだ。

 

「そのままお尻を上げていて。すぐに挿れてあげるから」

 

 おぼつかない手でコンドームを装着すると、まだ湯気を立てているおまんこに近づける。

 先端が触れると、敏感になっている佳織さんの体がビクリと反応した。

 

「動かないで、佳織。そのまま」

「あ……ま、待って貴司さん。私、もう本当に死んじゃう……」

「動くなって」

 

 逃げようとするお尻に、ついつい語気が強くなる。

 佳織さんは怯えたようにまたお尻を震わせると「……はい」と素直にお尻を向けてくれた。

 

「んんん……!」

 

 佳織さんのおまんこも、まだまだ力を失わずに僕を締めつけてくれている。

 何発でもヤる。

 死ぬまでヤる。

 だって、まだまだ佳織さんとはヤリ足りないから。

 

「あぁぁっ、あぁ、あぁーッ!」

 

 佳織さんの背中が反り返る。

 僕はその背中に覆い被さると、彼女の両腕を手綱のように掴んで、さらにピストンのスピードを上げる。

 パンッ、パンッ!

 肉同士がぶつかり合う音が部屋に響く。佳織さんのおっぱいが弾む。

 彼女の首は壊れかけの人形のようにガクガクと揺れていた。長く美しい髪が、シーツの上に波を広げた。

 僕のセックスで理性をなくすくらい乱れてくれる佳織さんが好きだ。

 このまま壊したいくらい愛している。

 そして、もう何度目かわからない絶頂を二人で迎える。

 

「あぁぁぁーッ!」

 

 僕たちの痙攣が同調して、エクスタシーと射精が混ざり合う。

 愛する人と共にイク喜びは何にも代え難い快楽だ。

 

「あぁ……」

 

 佳織さんはベッドの上に崩れ落ちる。

 たっぷりと精液の詰まったコンドームを、僕は縛って佳織さんの横に放り投げる。

 精液だらけのベッドで息も絶え絶えな彼女を見ているだけで、僕のペニスは限りなく力があふれた。

 でも、佳織さんのおまんこはもう真っ赤になってめくれている。

 痛々しくもあるソコは、もう限界のように見えた。

 

「佳織……」

「あ、な、なにを、貴司さん……」

 

 いたわってあげるだけだ。あなたのおまんこを。

 僕は、佳織さんの足を持ち上げて股間を開き、そこに顔を埋めていった。

 

「あ、だめ! そんなとこ、いけない……あぁん!」

 

 激しいセックスでで敏感になった佳織さんの体がまた跳ね、嬌声を上げる。

 僕は舌でたっぷり彼女を愛する。

 クリトリスも尿道口も膣の中も、全部全部舐め回す。

 

「あっ、あんっ、ダメ、だめぇ……!」

 

 愛液と汗が混ざったものを吸い取って、一滴残らず飲み干した。その匂いを嗅ぐだけで頭がクラクラしてくるほど興奮した。

 あぁ、佳織さん。あなたはどこまで素晴らしいんだ。

 僕の舌はあなたの全てを知り尽くしている。どこが感じるところなのか手に取るようにわかるんだ。

 それが嬉しい。本当に嬉しい。佳織さんを快楽で支配しているのは僕だ。僕は彼女を意のままに操れるんだ。

 そう思うと、ますます愛が深まっていくのを実感する。

 僕は彼女の足を持ち上げて、もっと高く、お尻が天井を向くまで持ち上げる。

 

「い、いやっ、この格好、嫌なのっ、恥ずかしいからやめて、貴司さん……あっ! だめ、そんなとこ、許してぇ!」

 

 まんぐり返したお尻に顔を埋めてアナルも舐めた。シワをなぞって広げるくらい舌先でほじくった。

 

「いやぁぁ!」」

 

 佳織さんはシーツにつま先を立てて何度も悲鳴をあげ、お尻をよじらせた。なのに、じゅわじゅわとおまんこからは涎を垂らす 

 その反応が可愛くて、僕はもっと彼女をいじめたくなってしまうんだ。

 彼女のアナルにも舌を挿し込んだ。そのままピストン運動をする。ディープなキスを繰り返す。

 じゅるっ、ちゅぱっ、くちゅっ。

 わざと音を立てて吸うと佳織さんが「いやぁ」と泣いて痙攣する。

 僕はさらに激しく舌を動かした。

 おまんこまで往復して何度も舐める。唇をつけて「ぶちゅう」と吸う。

 

「ダメ、ダメ……!」

 

 真っ赤な顔をして、佳織さんは小さなエクスタシーに仰け反る。

 僕は――彼女のアナルに指を突き立てた。

 

「あぁぁぁぁっ!」

 

 ひときわ大きな悲鳴を上げて佳織さんは激しく首を振る。

 ぱくぱくと口を動かすけど、抗議の言葉も出てこないみたいだ。

 

「可愛いよ、佳織。本当に可愛い……ちゅぶっ、ぢゅっ」

「いやぁ! 貴司さん……んんんん!」

 

 きつく締めつけるアナルを調教するように指を強引に往復させる。

 そうしながら、おまんこにも唇で刺激を与える。

 

「あぁぁぁっ、ダメ、くるっ、私、もうダメ、やめて……あぁぁ、もう、やめて、イクっ、イッちゃうのぉ!」

 

 ぷしゅっ、と鼻先で何かが撥ねた。

 それが佳織さんの潮吹きだとわかると、僕は夢中になってそれを啜った。

 

「あぁ……あぁぁん!」

 

 ピンと伸びたつま先でシーツを蹴りながら、苦しそうな体勢で佳織さんは絶頂する。

 ぎゅっとアナルに力がこもって指を締めつけ、お尻の肉をビクンビクンと波立たせて、佳織さんはまたイッた。

 手を離すと、どさりと彼女の足がベッドに落ちて、乱れた呼吸で大きな乳房が上下する。

 そうして、僕を恨みがましい目で睨む。

 

「もう……貴司さん、ひどい。やめてって言ったのに……あんなとこまで」

「だって佳織が可愛いから」

「ウソ。みっともない女って思ったくせに」

 

 枕を抱えて真っ赤になった顔を隠す。

 縮こまった足と隠しようのないムッチリしたお尻。

 こんな女性、最高に可愛いに決まっているのに。

 

「本当だよ。ほら」

 

 その証拠に、僕は今夜まだ一度も萎えていない。

 勃起したペニスを見せつけて証明すると、佳織さんはますます恥ずかしそうに無言になってしまった。

 

「……次は僕のを舐めてくれる?」

 

 佳織さんは、枕を抱いたままコクリと頷いてくれた。

 足を広げて仰向けになった僕の足の間に、体を丸めた佳織さんが収まる。

 彼女の目の前には、ガチガチに勃起した男根がある。

 それを佳織さんはそっと握ると、舌を出して舐め始めた。

 チロ……チロ……ちゅぱ……。

 初めの頃は辿々しかったフェラチオも、今では慣れたものだ。口の中で僕のモノを転がしながら、舌先で亀頭の割れ目を舐め回す。

 

「……ん」

 

 そして、ゆっくりと喉奥まで呑み込んでくれる。

 この感覚が好きだ。佳織さんに愛されていると実感できる。

 夫である先輩のペニスも舐めたことのない佳織さんの口内を、僕のが占拠している。

 じゅぽっ、ぐぷっ……ずちゅっ。

 そうして僕のモノをしゃぶる音で、ますます佳織さんが愛しくなるんだ。

 

「ん、ふ、んん……ん、ん、ん」

 

 髪を耳にかけて、顔の角度を工夫しながら出来るだけ奥まで飲み込もうとしてくれる。筒にした手を上下に動かして、ペニスの全てに刺激を与えてくれる。

 教えたわけでもないのに、佳織さんは僕が悦ぶ方法を自分で探して実践するんだ。

 男の理想の女性だ。

 美人で、優しくて、スケベな体をした生真面目な奉仕好きだなんて、こんな女性を妻にして一生を共に過ごせたら他に何もいらないだろう。

 

「気持ちいいよ……佳織、最高だよ……!」

 

 汗に濡れた彼女の髪を撫でる。頬をくすぐる。

 ペニスを咥えても佳織さんは美人だ。最高の女性にフェラチオをさせている。ずっとこの光景を見下ろしていたい。

 

「…………」

 

 佳織さんは、チラリと僕を見上げた。

 ちゅぽん。と口を離すと、ちろちろ舌を動かして裏筋を舐めて下っていく。

 そうして陰嚢にキスをした。皮を咥えて「ちゅぱ」と甘ったるい音を立てた。

 

「あぁ……それもいいよ、佳織……」

 

 夢見心地で応える僕の顔をじっと見ながら、佳織さんはいきなり僕の太ももを持ち上げる。

 そうして、剥き出しになった僕のアナルにまで接吻を始めた。

 ゾワッと強烈な刺激が腰を痺れさせ、思わず情けない悲鳴を上げる。

 

「うわあ、あっ……待って、佳織、そこは……!」

 

 佳織さんの瞳が、妖艶なカーブを描いて弓形に弛む。

 快楽に翻弄される僕を、オンナの貌で見つけて佳織さんは微笑んでいた。

 

「ちゅ、ちゅぶっ、ちゅうう……ちゅ、れろ、ちゅぷ、ちゅっ」

 

 舌と唇がアナルやその周囲を舐め回す。しかも、ペニスはしっかりと握られてシコシコと擦られる。

 

「佳織……!」

 

 さっきの意趣返しのつもりなのか、僕の制止を聞いてくれない。

 それどころか、僕の反応に気分が高まっているのか、興奮した表情でますます熱心にアナルをしゃぶってくる。

 ぬるりと、生温かいものが肛門に入ってきた。

 佳織さんの舌だとわかると、僕は脳天まで痺れ上がった。

 

「はっ、ちゅぶっ、ふっ、んんっ、はぁっ、ちゅっ、ちゅぶっ、はぁっ、はぁっ、ちゅぶっ、ちゅぅううう!」

「あぁ……佳織ぃ!」

 

 体の奥の一番汚いとこまで佳織さんは愛してくれる。全部受け入れてくれる。

 恥ずかしい格好をさせられながら、僕は幸福を感じていた。

 こんな夜は二度と来ない。

 何もかも曝け出して愛し合える女性は彼女しかいない。

 だらしなく涎を流して快楽に溺れる僕を、佳織さんは容赦なくしゃぶってくれた。僕はオムツを替えられる赤ちゃんみたいに、愛しいママに甘えて泣いた。

 

「気持ちいいっ、気持ちいいよぉ! こんなの僕、初めてだよ、佳織!」

「ちゅぶっ、ちゅっ、ふっ、ん、はぁ、んぶっ、ちゅぶっ、はぶ、ちゅっ」

「出したい! 君の口の中に出したい……僕の精液を飲んで、佳織!」

「ん……え?」

 

 佳織さんは、僕の必死の懇願に口を離して見上げる。

 濡れた唇を舐めて、不安げに。

 

「精液……飲んでほしいの?」

「う、うん。飲んでほしい」

「……私が精液を飲んだら、貴司さんは嬉しい?」

「最高に嬉しい……!」

 

 困ったように眉根を詰めてから、僕の顔を見上げて佳織さんは微笑む。

 

「わかった。そこまで言うなら飲んであげる」

 

 嬉しそうに口を大きく開けると、佳織さんは僕のペニスをぱくりと咥える。

 

「んっ、んっ、んっ、んっ!」

 

 ぢゅぼ、ぢゅぼ、ぢゅぼ、ぢゅぼ。

 頭を激しく上下させ、唾液の溜まった口内で僕のモノをしごく。

 もう何も考えられない。佳織さんの口に精液を出す事しか考えられない。

 僕は佳織さんの頭を押さえつけた。佳織さんもそのまま上下運動を続ける。

 柔らかい髪の感触と、美しい顔を道具のように使う奉仕。今夜の僕は本当に奇跡の中にいる。

 

「出るっ。出るよ、佳織っ。お願いだから、このままで!」

 

 腰を突き出して喉奥に押しつける。

 苦しそうに眉間にシワを寄せて、それでも佳織さんは僕を受け入れる。

 

「出る!」

 

 どぴゅっ、びゅるるっ、どぷっ、どくんっ。

 音が聞こえるくらい僕のペニスは乱暴な塊を吐き出した。

 

「んっ……!」

 

 だけど、佳織さんはそれすら受け止めてくれる。

 大量の精子を口の中に流し込まれても、苦しそうにしながら咥えていてくれた。

 

「ん、ふっ、ふう、ふ……」

 

 鼻から息を抜きながら、僕の射精が終わるまで待って、こぼさないように口元に手を添えてペニスを離す。

 唇の周りによだれと精液が混じっている。その光景に僕は言い知れない征服感に満たされる。

 

「口を開けて見せて」

 

 ねっとりとした糸を唇に垂らして佳織さんの口内が開かれる。

 白濁した精液が水たまりを作っていた。桃色の舌がその中で溺れていた。

 

「……飲んで。そのまま一気に」

 

 佳織さんは唇を閉じると、目をつぶって嚥下する。

 そのまま二度ほど喉を動かして、またゆっくりと口の中を開いて見せてくれた。

 精液は消えている。僕の精子を佳織さんが飲んでくれたんだ。彼女の喉を通って胃の中へと沈み、佳織さんの一部にしてくれたんだ。

 感動する僕の前で、佳織さんは舌を伸ばして見せてくれた。

 空っぽになった口内を、僕に確認させて瞳だけで彼女は微笑んでいた。

 

「佳織!」

 

 抱きしめてキスをする。

 僕の匂いを残した口の中を、舌でぐちょぐちょにかき混ぜて絡め合う。

 佳織さんもうっとりした顔で積極的に舌を使ってきた。

 そうして、またすぐ硬くなるペニスに慌ただしくコンドームをかぶせる僕を、優しい瞳で見つめて自ら太ももを持ち上げる。

 Mの形に開いた足が、くぱぁと濡れたヴァギナを僕に向けていた。

 

「……来て、貴司さん」

 

 僕は彼女に覆い被さるキスをしながら挿入して腰をパンパン打ちつける。

 ずっとヤリ続けた。

 カーテンの隙間から朝日が覗いた頃になっても、まだヤッていた。

 何度も何度も何度も体位を変えてフェラチオもクンニもシックスナインもして、めちゃくちゃにセックスだけをした。

 

「あぁっ、あぁっ、あぁーッ!」

 

 佳織さんの嬌声を一晩中聞き続ける。

 いつかこの時間が終わるなんて、忘れてしまいたかった。

 

 

・6月28日(土)

 

 

 チャイムの音が、重たい頭の中に響く。

 立ち上がろうとして、腰の方がずっと重たいことに気づいて思わず呻く。

 体を引きずるようにして玄関を開けると、そこには先輩が立っていた。

 ドキリとして、一気に目が覚めた。

 

「よぉ、まだ寝てたのか。もう昼だぞ」

 

 先輩のいつもの快活な笑顔に、僕は唇をひきつらせて応える。

 なんだその顔って、先輩はまた笑う。

 

「留守中、何度か佳織が世話になったんだってな。これ土産。つまみにでもしてくれ」

 

 どこかのパーキングエリアあたりで買ってきたらしい瓶詰めを僕は受け取る。

 久しぶりに見る先輩は日焼けしていて、少し痩せたように見えた。

 

「あとこれもな。今週中でいいってよ」

 

 ついでのように伝票の入ったファイルを押しつけ、精算よろしくとずるい顔で笑う。

 僕もようやく、「ひどいっすね」と笑えた。顔は上げられなかったけど。

 そんな僕に、先輩は急に真面目な口調になって言う。

 

「あとよ。佳織に何かなかったか?」

 

 冷凍の瓶詰めとファイルを抱えたまま、僕は一瞬固まったが、なんとか「え?」と、とぼけた顔を上げる。

 

「……いや、なんでもない。気にしないでくれ」

 

 先輩は頭を搔いて、「たぶん気のせいだな」と独り言のように言った。

 僕は口の中に溜まる唾を飲み込んで、「どうかしたんですか?」とドキドキしながら尋ねる。

 

「んー? なんかな。ちょっと空気違うなって思っただけだ。空気というか態度? いや雰囲気っつーか……そんなのおまえに聞いてもしょうがないよな」

 

 今朝、朝食を一緒にしながら何度も確認し合った。

 昨夜のことは忘れる。誰にも言わない。僕らの間でも口にしないし、親しい態度も見せない。

 終わりだからこそ僕らは結ばれたのだから、それは絶対に守らなきゃいけないことだ。

 そして彼女にかけてきたおかしな条件暗示も、僕はその場で解除した。奇妙に思われる行動は取らないはずだ。

 だけど先輩だって佳織さんの幼なじみで結婚相手。一生分を付き合ってきた相手だ。先輩にしか気づかない変化がどこかにあってもおかしくなかった。

 先輩がしゃべっている間に、僕は自分に暗示をかける。

 心を落ち着かせて、心拍数を意識しないようにして、罪悪感を深い海の底に沈めて、代わりにいつもの僕を表情に浮上させる。

 

「先輩だって全然違いますよ。どっかで遊んできたみたいな顔してるじゃないですか」

「やっぱり? 海しかねーから、あそこ。休憩時間にぼーっとしてたら真っ黒になっちまった」

「佳織さんだって照れてるだけでしょ。帰ってくるの本当に楽しみにしてましたよ」

「え、あぁ、そうか? ふーん」

「さっさと帰ってイチャイチャしてくればいいじゃないですか」

「うるせ。今さらそんなことするか、バカ」

 

 満更でもなさそうに先輩は笑い、もう一度「世話になったな」と僕に言う。

 

「僕は何もしてませんよ」

 

 そう言って僕も、お土産の袋を掲げて「すみません」と頭を下げる。

 

「おう。それじゃ月曜日にな」

 

 先輩が帰ったあとも、僕は顔を上げられなかった。

 

「……すみません……先輩」

 

 ぼろぼろ涙が溢れて止まらない。

 玄関に崩れ落ちて、吐きそうなくらい泣きながら、何度も謝った。

 

 

・6月29日(日)

 

 

『ねー、なにしてるの~?』

『PCのファイル整理』

『ま、まさかの……連絡待ちのカノジョ放置で、まさかの雑用……?』

『雑用じゃない。整理だ。愛のために全て捨ててる』

『え、やだ男らしいこの人。カッコイイ♥』

『週末どこ行きたい?』

『いろいろある!話し合おう』

『じゃあ明日どこかでゴハン食べようか』

『やったー!』

 

 小田島の相手を片手間で進めながら、僕は佳織さんとの思い出を消していく。

 PCの整理は朝から始めたはずだった。

 一枚一枚画像を開いては消し、最後の佳織さんの姿――ベッドの上で、一晩中僕にヤられて失神している彼女――でオナニーして消して、全部のゴミ箱を空にした頃には、いつの間にか夜になっていた。

 電源の落ちたモニターには、空虚な顔した僕が映っていた。

<続く>

2件のコメント

  1. 4と5が入れ替わっていると言うのでこっちから

    佳織ママぁ・・・
    今回はほぼ全編にわたって催眠術で暗示を操られていない。でも認識というかハードルが限りなく下がっててもはや恋人同士でないとやらないようなことも自分からやってくれてるというのがキモでぅね。
    フェラチオに至っては旦那にすらやってないというね。先輩、幼馴染の関係のまま大人になって佳織さんに性欲を感じないんじゃないだろうかw

    最後の暗示は貴司くんのけじめというやつでぅね。冷凍うどんならともかく、ハンバーグが出てきてしまったらどうするんだろう?(まあ、次回見ればわかるけど)

    一つ、気になったところがありまして
    >「……それとも、今日は休む?」
    > だけど僕が浮かれた顔になる寸前で「いや!」と彼女は否定して、「サボりはダメです」とたしなめる。
    >「美味しいごはん作って待ってるから。いってらっしゃい」
    の二行目なんでぅが。
    「いや!」と否定したのは彼女なのか、彼女を否定した貴司くんなのかがよくわからなかったのでぅ。
    流れ的に佳織さんなんだとは思うんでぅけれど、「いや!」という強い口調で否定してるので貴司くんが振り切るように否定したんじゃないかと感じたのでぅ。
    冗談めかして言ったのなら冗談めかして「なんてね」とかなら佳織さんだとすぐに分かったんでぅけどどうなんでしょう?

    1. >みゃふさん
      言われて見れば「いや!」のところは一瞬迷いますね。雑になってたな、そこ…。
      AIに「読者視点で読んで気になるところ指摘して」って言ったら添削してくれるのかな…「催眠術への誤解がひどい」とかガチの指摘されても嫌だけど…。

感想を書く

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。