第十一話
サヴェリア王室での戦いから、人界の時間で丸一日ほど経っただろうか。我は、幾度もリーゼの精神とつながろうと試みた。しかし、リーゼは意識を失っているのか、その視覚は闇に閉ざされていた。ただ、その耳からは、かすかに耳障りな聖句が聞こえてくる。神官どもの手のうちで生かされているのは間違いない。それでもリーゼは、魔を孕み、魔性の瞳を宿している。聖都の神官どもでも、簡単には浄化できまい。あそこまで魔に堕ちた人間を無理に浄化しようとすれば、その存在自体も消滅してしまうからだ。
エレノアの存在は感じられる。大丈夫だ。エレノアは今、フィオと入れ替わって、女王クレメンティアとともにソル=シエルに戻っている。魔界にいるフィオも問題ない。我は、苛立ちを飲み込みながら、まぶたを開けた。玉座から立ち上がると、闇の満ちた回廊をくぐった。
我は、厨房と食堂の隣に位置する広間に向かった。扉を開けると、蒸気と薬草の香りが混じり合った独特の臭いが鼻を突く。広間からは、ざわめきとフィオの声が響いていた。
「そうよ。布を沸騰した湯に通してから、傷口をふくの……うん、そのあとは、乾いた布で傷口を覆うようにしばって? あぁ、様態の悪い仔には、軟膏と、熱さましを用意するから……」
広間には、サヴェリアの王宮で負傷したリーゼの娘たちが運び込まれていた。その中で、フィオは自分の娘たちに、傷口の処置の仕方を指導しながら、自分自身も忙しく動き回っていた。普段は全裸を好む彼女は、いまは灰色の飾り気のない作業着に身を包み、頭にも頭巾を巻いている。タコの足を持つフィオの仔らは、母親から教わった処置法を忠実に実行し、リーゼの仔らの治療に当たる。中には、すり鉢とすりこぎを使い、薬草と脂を混ぜ合わせて、軟膏を作っている娘もいる。さらには、蛇の下半身を持つエレノアの娘たちも、湯を沸かした鍋をかかえ、薬草や布を運んでいた。作業着の数が足りないようだが、それでもフィオは直接作業に当たる娘たちには、自分と同じ服を着用させている。
「フィオ……」
我は、フィオに声をかけた。額に浮かんだ汗をぬぐいながら、フィオの幼い顔が我を見上げる。幼い容姿に不釣り合いな、たわわな乳房が邪魔そうに弾んだ。
「魔王様。ごめんなさい、お見苦しいところをお見せします……」
フィオが苦笑いをする。その表情には、隠しきれない疲労の色が浮かぶ。我は、広間を見渡した。神官戦士団の攻撃を受け、重傷を負った仔ら。その中には急所を貫かれ、もはや命が危うい者もいた。それでありながら、いま目の前の娘たちは適切な処置を施され、程度の差こそあれ、皆、一命を取り留めていた。
「構わぬ……それよりも、これは、お前が一人で治療にあたったのか?」
我が問いかけると、フィオの表情が照れくさそうに緩む。
「えへへ。フィオだけじゃないです。私の仔共たちは、みんな物覚えが良くて、私の言った通りに動いてくれます。それにご覧の通り、エレノアの仔共たちも、一生懸命手伝ってくれますから」
我は、フィオに頷き返す。
「貴様が、このような知識を持ち合わせているとはな。嬉しい誤算だった」
伏兵の神官戦士団は、予想外だった。いずれ聖都には勘付かれると思っていたが、これほどの早さとは思わなかった。我はあの襲撃で、リーゼに産ませた娘たちを全て失う覚悟をしていたのだ。
「聖女ティアナ様が、教えてくれたんです。神官になる者は、聖術に頼らずとも、傷をいやせねばならないって……」
フィオが、どこか誇らしげに胸を張った。その時……
「あ、れ……?」
フィオの身体がふらりと揺らぐ。そのまま、我のほうに倒れ込んできた。我は、フィオの小さな体を支える格好になる。
「あ、申し訳ありません。魔王様……」
フィオは恥じるように頭を振るが、うまく立ち上がれない。無理のない話だ。フィオは一睡もせず、両手の指で数えきれないほどの娘たちの治療にあたっていたのだ。
「フィオ。居室に戻り、眠れ」
我は、フィオの肩を支えながら、立たせてやる。
「え、でも……」
フィオは戸惑いながら、目を見開いて我を見つめ返した。
「貴様には、もう一つやってもらう仕事がある。いまは、娘たちに任せて休息を取れ」
我は、フィオを見下ろしながら言った。
「分かりました……」
フィオは渋々うなずく。ふらふらと広間の扉をくぐると、頼りない足取りで自らの居室へと向かっていく。我は、その姿を広間から見送った。
フィオは、丸一日眠り続けた。目を覚ました後、我はフィオを引き連れて、回廊を歩いた。フィオは、いつも通り一糸まとわぬ姿でついてくる。
「魔王様。フィオは、これから何をすればいいのですか?」
フィオが、背中越しに尋ねる。
「リーゼが捕らえた姉姫リリアーネを、堕としてもらう」
我は、振り返らずに短く答える。そのまま、回廊の行きあたりの小さな扉に手をかけた。ギィ、と重々しい音を立てて扉を開く。部屋は、回廊よりもなお深い漆黒に満ちていた。ただ、その中から、むせかえるほど甘ったるい匂いがあふれてくる。三王女を堕とすために使った魔界の黒いイバラ。その樹液から作った香を、部屋に焚きこませていた。
我は、指先に魔法の灯りをともし、空中に浮かべた。
「……!?」
瞬間、フィオが息をのむ音が聞こえた。手狭なほどの部屋の壁一面には、内側に針が敷き詰められた棺桶や、無骨な鉄檻、野太い鞭、忌々しい形状をした焼印……虜囚に責め苦を与えるための道具が所狭しと並べてあった。床と天井には、飛び散った血が変色してできた黒い染みが付いている。魔族が、歪んだ悦びを得るために捕らえた人間をいたぶる、おぞましい拷問のための部屋だった。
部屋の中央に、鉄でできた寝台があり、その上に一人の女性……姉姫リリアーネが全裸のまま、大の字で張り付けにされていた。姉姫の四肢と、首、それに腰は、鎖によって縛り付けられ、その鎖は寝台の下側に造られた歯車仕掛けの機械につながっている。寝台の横には、回すことのできる鉄製の輪の取っ手がついている。
鉄の寝台の上で、姉姫は眠っていた。戒めから逃れようともがいて、疲れ果てたのだろう。玉座の上での冷徹な表情はなく、顔は怯えきり、血の気が引いて白くなっている。高山の花のように真白い肌は柔らかく、鎖が浅く食い込む。その透き通るような肌には、戒めから逃れようともがいたためか、赤いあざがついている。リーゼとおそろいの流れるような黒髪も、寝台の上に振り乱れていた。
「拷問器の使い方は分かるな?」
フィオは、震えを抑えるように息を飲みながら、うなずく。
「フィオ。リーゼの姿に化身し、姉姫からリーゼとの間にあった確執を聞き出せ。そして、心を責め、姉姫の精神を堕とすのだ」
フィオが、頷きながら目を閉じた。フィオの身体が、水あめのように歪むと、すらりとしたリーゼの身体へと姿を変える。妹姫リーゼへと化身したフィオは、拷問部屋の片隅に動いた。拷問器具が押し込まれたこの部屋では、隅にいるだけで影に隠れてしまう。それを確かめた我は、拷問台の上で眠る姉姫の傍らに歩み寄る。
「目を覚ませ。姉姫リリアーネ」
我は、数度、姉姫の頬をはたいた。姉姫は小さく身じろぎし、目を覚ます。その視線は、見下ろす我を捕らえる。
「魔王……ッ!!」
姉姫が、怒気のこもった声をこぼす。だが、小刻みに震える身体は、言葉よりも雄弁に姉姫が抱く絶望と畏れを物語る。それでも、姉姫は自らを奮い立たせるように、我をにらみつける。
「私を……サヴェリアの女王である私を辱める気か! 魔界の王ッ!!」
身体の震えを吹き飛ばすかのように、一括する槍の王国の姉姫。我は、鷹揚に首を振りながら、改めて姉姫の肢体を見下ろした。
「このような格好で、そこまで吼えられるとはな。さすがは武勲の誉れ高い王国の王族といったところか。大した胆力だ」
我は淡々とした口調でつぶやく。実際、姉姫の肌に血の気はなく、一人無駄な抵抗を繰り返したために体力を使いきったことは明白だった。
「まぁ、いい。これを見ても、同じことを言えるかな。姉姫」
我は、魔法の光の具合を調節する。それによって、今まで闇に隠れていたリーゼの姿に変じたフィオが光に照らされ、その姿をあらわにする。
「お姉様……リリアーネお姉様」
リーゼの声音で、フィオがささやく。姉姫は、頭をよじり、まばたきをする。目の前に妹姫の姿を確かめると、一転して姉姫の顔が恐怖に歪んだ。
「おはようございます。お姉様」
妹姫が、笑う。
「ひ……リーゼロッテ……助けてくれ。私が悪かった……助けてくれ」
姉姫はうわごとのように繰り返しながら、髪を振り乱すように頭を振る。
「もう、お姉様。何をそんなに怖がっているんですか? 説明していただかなくては、解りませんよ?」
そう言うと、妹姫の姿をしたフィオは、拷問台の横に据え付けられた鉄製の輪に手をかける。ゆっくりと、慎重に鉄の輪を回していく。
「か、はッ!?」
姉姫の表情が、苦悶に歪む。拷問台の鉄の輪は、歯車につながっていて、回すことによって台の上の鎖を巻きこむ仕掛けになっている。これによって、台に拘束された身体は、四方に鎖で引っ張られ、身を裂かれるような苦痛を味わうことになる。
「リーゼ……ロッテ、ゆる……して……」
姉姫の身体が、ギリギリと無慈悲に拷問台へと押し付けられる。
「だから、何の許しを乞うているのか、説明してください、って言っているでしょう?」
妹姫は、さらに鉄の輪を回した。姉姫の苦悶の声が、一層強くなる。
「分かった! 言う!! 言うから……」
姉姫が、泣きじゃくりながら、叫ぶ。妹姫は、鉄の輪を回す手の動きを目る。
「さ、どうぞ。お姉様……」
妹姫が、少しだけ鉄の輪を逆に回して鎖を緩め、笑顔で姉姫の顔を覗き込む。
「……リーゼロッテ、幼いお前を、市井に預けろと、お母様とお父様に進言したのは、私だ……」
言葉を途切れさせながら、姉姫が言葉をひねりだす。黙って聞いていた妹姫は、少しだけ鉄の輪を回す。
「ひ、ぎぃ……ッ!!」
姉姫は悲鳴をあげる。
「なんで、そんなことしたの?」
妹姫が、無慈悲な表情で尋問する。その顔を見た、姉姫は息をのみ……もはや、抵抗する意志も忘れたかのように、唇を動かす。
「それは……いずれ、リーゼロッテが成長すれば、サヴェリア女王の座は、私かお前のどちらかに……私が、女王になれないかもしれないから……リーゼロッテが、王宮に戻った後も……お前が、そのことを恨んでいると思って……」
妹姫が鉄の輪を握る手に、力を込める。
「そんな理由で、私のことを遠ざけたのね? 私は、こんなにもお姉様をお慕いしていたのに……」
妹姫の姿をしたフィオは、鉄の輪を強く押し込んだ。鉄と鉄がぶつかる音を響かせながら、鎖が歯車に巻き込まれる。姉姫の間接が無理やりに引っ張られ、嫌な音を立ててきしむ。
「あ、がぁ!! 許して、リーゼロッテ……許しておくれ……リーゼロッテ!!」
姉姫は、激痛と悔恨に顔をくしゃくしゃにしながら、泣き叫んだ。
(良いぞ、フィオ。そのまま、姉姫の心を堕とせ)
我は、フィオの心に直接ささやきかける。しかし、フィオの心の返事はない。ただ、凍りついた彫像のように、苦しみにのたうつ姉姫の姿を見つめている。
(どうした? フィオ)
我は、フィオの心を覗きこむ。すると、精神のつながりを通じて、フィオの怯えが流れ込んでくる。
(魔王様、フィオ、怖いよ……)
冷酷な拷問官の姿をしているフィオの心は、逆に自らが与える責め苦を恐れ、震えていた。
(フィオ、続けろ)
我は、強く命じる。フィオの心は、弱々しくうなずき、妹姫の身体の鉄の輪を握る手に力を込める。だが、妹姫の躊躇を感づいたのは、姉姫とて同じようだった。責め苦がわずかに緩んだすきに、姉姫の目に狡猾な知性の光がよみがえるを我は見てとった。
「リーゼロッテ……私の心ない言葉は、お前を傷つけてしまったことを私は理解した。そのために、お前は魔に堕ちてしまったのだろう? だが……私とお前は、この世界に残された唯一の家族なのだ。そうだろう……」
姉姫は努めて冷静な声音で、ゆっくりと目の前の妹姫に語りかける。妹姫の姿をしたフィオも、静かにうなずき返した。
「ええ、お姉様。お姉様が、私に対してした罪を、後悔してくださっていることはわかったわ……」
妹姫の穏やかな声が響く。
「そうか。分かってくれるか、リーゼロッテ。ならば、私を……」
姉姫のすがるような視線と言葉が、妹姫に向けられる。妹姫は、姉姫の言葉をさえぎるように、さらに話し始める。
「それで、その罪の償いとして、お姉様は何を差し出してくださるのかしら」
妹姫が鉄の輪を回す素振りを見せ、姉姫が「ひっ」と息をのむ。それでも、どうにか呼吸を整えると、どうにか口を開き、言葉を紡ぎだす。
「お前に見せたはずだよ、リーゼロッテ。あの財宝を……都市国家をひとつ買い取れるだけの金貨と銀貨……それに、国中の宝石商から選び出させた宝石の山……他にも、ある。これで分かってくれるだろう? 私の誠意を……」
姉姫の返答が終わるのを待って、妹姫は少しずつ鉄の輪を推し進めていく。
「お姉様。私は、そのようなもの、欲しくはないわ」
再び苦痛が強まり、姉姫が身もだえる。持ち直した心までもが、脆くもきしみをあげる。
「い、ぎぃ……では、何が欲しいと……あぁ、女王の座か。やはりそうなのか? でも……それでも、女王の座だけは、渡したくはない! それだけは……嫌!!」
先ほどまでの狡猾さが嘘のように、一転してわがままを通そうとする子供のごとく、わめきながら身をよじる姉姫。妹姫の姿をしたフィオは無表情でその様を見つめていたが、やがて静かに首を振る。
「そんなものも、いらない」
妹姫の手が、強く鉄の輪を押しこむ。姉姫の四肢を引っ張る鎖が張りつめ、姉姫の五体を分解する力が一気に増す。
「あぐぁ! あがあぁぁぁ!! 痛い! 苦しい!! では、何を……何を差し出せば……許してくれるというのだ!! リーゼロッテ!!?」
女王が狂ったように髪を振り乱しながら、泣き叫ぶ。妹姫は、勢いを緩めながらも、なおも少しずつ鉄の輪を回していく。
「私が、欲しいのは、お姉様の存在そのものよ」
なおも回される鉄の輪に応じて、歯車が鎖を巻きこんでいく。胴に巻きついた鎖は、身を引き裂かんばかりに食い込み、無理やりのばされた四肢の関節はあり得ない方向に曲がろうとしている。姉姫の悲鳴に混じり、口に泡が出る。
「かはっ、かはっ……私の、存在……?」
姉姫が、かろうじて聞こえる声でつぶやいた。
「ええ、そうよ。お姉様の存在。それを、私のご主人様……魔王様にお捧げしなさい。そうすることで、お姉様と私は、ようやく対等の存在になれるわ……」
妹姫は、鉄の輪を回す手を止めずに、語りかける。
その様子を見ていた我は、拷問台の前に歩み出る。そのまま、姉姫の恐怖に怯えきった顔を見下ろした。姉姫の視線が、すがるように我を見上げる。妹姫の姿をしたフィオが、ようやく鉄の輪を止めた。我は、指を伸ばし、姉姫の脚の付け根……女性器の秘裂をなぞった。
「ひゃあっ……」
姉姫の艶っぽい声が響いた。我が指を離すと、秘裂から銀色の粘り気のある糸が伸びる。視線をあげれば、つつましやかに膨らんだ乳房の先端でも、乳首が天井に向かってツンと立つ。恐怖と苦痛に震えながら、魔性のイバラから作られた媚薬の香りを吸い続けた結果、その身体は全く矛盾する反応を示していた。
「姉姫よ。貴様は、我に身体を開くか? その存在を、魔王である我に捧げると誓うか?」
我が、問いかける。姉姫は、返事に躊躇する。妹姫が、鉄の輪を握る手に力を込める素振りを見せる。いまの姉姫には、その素振りだけで十分だった。
「あぁ、誓う! 誓います!! 私、リリアーネは、身体を捧げます……私自身を捧げますッ!! だから……許して! 私のことを許して、リーゼロッテ!!!」
妹姫の姿をしたフィオが、鉄の輪を逆に回し、鎖を緩めた。姉姫の肺に、ようやく空気が入る。我は、拷問台の上に登り、姉姫にのしかかる。
「くぁ……」
姉姫リリアーネは、弱々しくうめくが、抵抗の素振りは見せない。我は、自らの硬くそそり立った男根を解き放つと、なだらかな丘陵のような姉姫の肩を両手でつかむ。そのまま、自らの肉棒を姉姫の秘所へと押し込んでいく。
「……んん」
姉姫のくぐもったうめき声が聞こえる。媚薬の香を一昼夜吸わせ続けられた肉体は、女性器に牝の反応を促し、濡れそぼったそこは、何の抵抗もなく我を受け入れる。それでいて、剛直を推し進めると、急に締め付けが強くなる。少しずつ侵入していくと、抵抗があった。我は、構うことなく突き入れる。
「あぁッ……」
姉姫リリアーネの甲高い声が響く。姉姫の太ももに、純潔を散らされた後の、赤い筋が流れているのが見えた。
「なんだ。リリアーネ、貴様は処女だったのか? 女王の座についていながら?」
姉姫が、小さく身をよじる。
「だって……男は、信用できないから……」
恥ずかしそうに顔を赤くしながら、リリアーネがつぶやく。
「でも、魔王様は別。そうでしょう?」
妹姫の顔が、姉姫リリアーネを覗きこんだ。妹姫の姿をしたフィオが問いかけると、リリアーネはうなずく。我は、腰を姉姫に打ちつけ、そそり立った男根で女の最奥をえぐる。
「ふあっ、んあぁっ……」
リリアーネの喘ぎに、蕩けた色が混じり込んでいく。ただ、乱暴に蹂躙する動きに対して、リリアーネは頬を紅潮させ、身体を弾ませる。秘裂からは、蜜があふれ出し、拷問台に滴り落ちる。
我は、リリアーネの顔に、自らの顔を重ね、唇を奪う。自然に、我とリリアーネの身体もまた重なり合う。リリアーネもまた、自分から身体を動かした。細くすらりと伸びた太ももや、小さく可愛らしいへそ、残雪のように白く透き通った全身の肌、そして、やや控えめな乳房の先で自己主張する乳首を我の胸板に一心不乱で擦りつける。
「魔王……様。私、もう少しで、何かが……来てしまいそう……」
リリアーネが上気した声で、そうつぶやく。
「いいだろう。我も精を注いでやる。思う存分、絶頂を味わうがいい」
我は、打ちつける腰の強さと速さを増していく。ただそれだけで、リリアーネの官能は高まっていく。我は、構うことなく、リリアーネの秘所に欲望を噴出する。
「ああぁぁぁ!!!」
リリアーネの絶叫が響き渡った。彼女の心臓が跳ね、全身を悦楽の大波にのけぞらせる。拷問による責め苦の反動か、姉姫の肉体はあまりにも深い官能の頂を味わい、しばらくビクビクと全身を震わせると、そのままぐったりと意識を失ってしまった。
「堕ちたか……」
我は、姉姫の様子を確かめると、結合を解き、拷問台の上から降りる。我は、妹姫の姿をしたフィオのほうを振り向いた。
「リリアーネ様……」
まだ、妹姫リーゼの姿をしたフィオは、姉姫のリリアーネを見つめていた。
「……リーゼの想いに、応えてあげてくださいね……」
フィオが、リリアーネにそうささやきかけると、ふらりとフィオの身体が揺らめく。そのまま、フィオの化身が解け、力なく黒い染みで汚れた床の上に倒れ込んだ。
我は、フィオの小さな体を抱き上げ、フィオが使っている居室まで運んだ。黒い敷布の寝台の上に、フィオの身体を仰向けに横たえてやる。幼く未熟な頭身に、媚びるように突き出た乳房と尻肉が揺れる。だが、フィオの歪なほどに妖艶な肉体は、いまの我の劣情をかきたてることはなかった。我は、寝台の間横に立ち、フィオを見下ろす。フィオは、恥じるように身をよじり、潤んだ瞳で我を見上げた。
「ごめんなさい、魔王様……」
フィオが、弱々しくつぶやく。
「構うことはない。貴様は、十二分に仕事をした」
我の言葉を聞いて、フィオは小さくうなずいた。そのあと沈黙が居室を包み、しばしの後、フィオが再び口を開く。
「昔、エレノアやリーゼと一緒に旅をしていた時……リーゼはよく、姉姫リリアーネ様の話をしてくれたんです。自分のお姉様は、とても立派で、国や私のことを良く考えてくださっているって。自分は未熟だから、お姉様は私のことを振り向いてくれないけど、いつか立派に成長して、お姉様に認めていただくんだって。とても嬉しそうな笑顔で、そう話してくれたんです」
フィオは、寝返りをうつと、うつ伏せになった。自分の頭の倍ほどもある枕に、顔をうずめる。
「魔王様……リーゼはあんなにお姉様のことを慕っていたのに……何でリリアーネ様はあんなに嫌がったんだろう……?」
フィオの顔と枕の隙間から、すすり泣く声が聞こえてくる。
「ねえ、魔王様。リーゼは、ちゃんと私たちのところに帰ってこられるかな……エレノアも、リーゼみたいに連れて行かれちゃったりしないよね……それに……」
フィオは、あふれ出る涙で枕をぬらす。
「聖女ティアナ様は……フィオが迎えに行ったら……笑顔で一緒に来てくれるかな……?」
フィオは、それっきり喋らなくなった。ただ、声を押し殺した、静かな泣き声だけが響き渡る。
「フィオ……」
我は、フィオの髪の上にそっと手を載せた。血が通わない、冷たく無骨な魔王の手。それでもフィオは、少し嬉しそうに喉を鳴らす。
「お前は、何も案ずる必要はない。すべて、我に任せればいい」
そう言ってやると、フィオは弱々しくうなずいた。我は、そのまま出来るだけ優しく、フィオの頭を撫で続ける。我を苦しめる吐き気が身の内より沸き起こり、内臓をよじるような不快感を与えてくる。我は吐き気を押さえつけ、フィオが静かな寝息を立てるまで、その髪をさすり続けた。
< 続く >