第三話「給油と一緒に」
営業用の社用車に乗って、行きつけのガソリンスタンドへ。
まだガソリンメーターは結構残っているが、今日は忘れずに寄らなければならない。
「いらっしゃいませ、あっ……斉藤さん」
スタンドの店員の女の子の営業スマイルが、見る見る曇った。笑顔を維持しているのが奇跡なぐらいに引きつる。
小麦色の肌に、後ろにくくった長髪の健康的な女の子。女の子でも関係なく、ここのスタンドの制服である。グレイにアカのラインが入ったツナギを着ている。
ほとんど化粧もないのに、女性らしい健康美を見せているのは彼女が本当に美人だからである。
「いつもの満タンね……あと、例のサービス使わせてもらうから」
「あー、それなら従業員用の休憩室使ってください」
バイトの女の子ではなく、店長風の人の良さそうな青年が即座に答える。
「時間かかりそうだから、洗車もやっておいてよ。一番高い奴」
「ありがとうござますっ!」
店長が嬉しそうに答えた。どうせ領収書をもらえば、洗車しても会社の経費で落ちるのだ。構うことはない。
「それじゃあ……」
「斉藤さん……それじゃあ、こちらです」
完全に元気を失った様子で、それでも、ぐっと口をゆがませたようなスマイルを維持してバイトの女の子は奥の休憩室に案内する。
バイトの女の子。岩下ユリは、近所の大学に通う二回生、年齢は二十歳だ。
感心な勤労学生というほどでもないが、自分のお小遣いぐらいは稼ごうと思ってなんとなくスタンドでバイトを始めたのが、トモノリに目をつけられる不幸となった。
キャンペーン中のときに、洗車のサービスの代わりに『せめて』セックスサービスをさせられる破目になったのだ。
そこらへんは、いつものパターンなので詳しく説明しても仕方がない。
十枚ちぎりのセックスチケットで、今回が四回目。まだ六回も残っている。
「ほら、チケット」
「はい、ありがとうございます」
洗車の文字をマジックで消して、セックスに変えてある。実にチープなものだ。
こんなもので、ユリは好き勝手されるのである。
「ちゃんとベットが、綺麗にしてあるんだな」
ありあわせのもので作った簡易ベットだったが、洗濯したてのシーツが一枚引いてあるだけで違うものだ。
「どうせ、今日来る予感がしてましたから……なんで、わざわざ危ない日を狙い済ましたようにくるんですか」
ジャージの上から股間をまさぐるように触った。
「そりゃ、ユリちゃんみたいな、可愛い女の子を妊娠させたいってのは男の本能だからさ」
「私、可愛くなんかないですよぉ……。それに大学に彼氏もいるんです……いろいろと、困るんですよ」
ユリの言うことを聞いているのか、聞いていないのか。トモノリが、ユリのジャージの上から、股間を円を描くように撫で擦る手つきは止まらない。
「その大学の彼氏は、お小遣い稼ぎに俺に抱かれてるって知ってるの」
そんな嫌な質問をする。彼氏を意識させられると、また一層、ユリは暗くなる。
「ううっ……ガソリンスタンドでバイトしてるというのは、知ってます」
「そうなんだ、ここに来たりはしないのかな」
「彼氏は、車持ってないですから……来ないです」
「ふうん、彼女のバイト先に遊びに来たっておかしくないじゃない」
「……何がいいたいんですか」
訝しげに、ユリは聞き返す。
「今度、彼氏が居る前で抱いてあげようかって言ってるのさ」
「やっ……やだ。絶対駄目ですよ、ガソリンスタンドで働いてるって知ってても、こんなことされてるなんて、普通は思わないでしょ」
ふうんと鼻を鳴らして、トモノリは納得した。
催眠の条件を詳しく設定してやらなければ、『せめて』の催眠はかけられた相手が自分の都合に合わせて解釈する。
ユリは、この『セックスサービス』は、スタンドの仕事の一部として納得しても、彼氏に見せていいものだとは思っていないのだ。
彼氏以外の男に抱かれるという罪悪感が残っているからこそ、セックスサービスをたいしたことではないと認識しているのに、こんなに暗い顔をしているのだろう。
「ユリちゃん、何カップ」
股をまさぐるのに飽きたのか、ツナギの上からおっぱいを持ち上げてそんなことを聞くトモノリ。
「Cカップです……」
「うそ、もっと大きいでしょう。カップあってないんじゃない」
「そうかな……そういえば、少し窮屈かもしれないですけど」
言われて気がつくということもある。既製品を何の気なしに買っているユリは、下着にまでこだわって選んでないので、結構いい加減だ。
「それか、俺がよく揉んでるから大きくなったのかもなあ」
「それは、ちょっとあんまり考えたくないですね……」
ユリは彼氏と付き合って一年ちょいだから、もし揉まれて大きくなったというのなら彼氏の影響だと思いたい。
「さあ、窮屈なブラなんか外してしまおうね」
ツナギの上半身だけ脱がされて、ブラも外されてしまう。けっこう生地の厚い仕事着を、ベットの上でお客に脱がせ方をさせられるというのは、とても現実とは思えなくてユリは、いまだに慣れなかった。
これは恋人のまぐあいではなくて、バイトの一環なのだと。ユリはそう考えて、変な気分を気にしないことにした。
生の胸を、揉まれる。後ろから男の荒い鼻息を感じて、ユリは変な気分になりそうになる。
いや、変な気分になっていいし、ならなくてはならないんだ。
お客さんも仕事の途中に寄ったのだから、それほどセックスに時間をかけるわけにも行かない。愛撫してくれているのだから、抵抗してはいけない。
濡らさなくてはいけない、感じなくてはならないのだ。
「仕事だから、仕方なくですからね……」
彼氏に悪いと思うから、何度もそう確認する。
「もちろんそうだよ、俺とユリちゃんは客と店員ってだけでしょ。別に、ユリちゃん可愛いから付き合えるなら、付き合ってもいいけど」
そうにまにま笑いながら、トモノリは勃起した乳頭をキュッと吸う。
「お客さんは……その、あまり私のタイプではないんで。あっ、それに何度も、彼氏いるって言ってますよねっ!」
そういうと、さすがにユリは怒ったように眉を顰める。
そうこれは当たり前の対応だ。仕事中の雑談で、客から露骨に口説かれたのだから、怒るぐらいはしてもいいだろう。
それにユリが自分から言い出したこととはいえ、お客さんに身体を愛撫されているときに、彼氏を意識させるようなことを言うなんて酷いではないか。
「ほらほら、笑顔笑顔……これ、お仕事でしょ?」
そうトモノリが指摘すると、唇を悔しそうにわななかせてから、ユリはゆがめた顔を緩めて……無理に笑顔を作った。
「それにしても、大変なお仕事だよね。客に中出しされて子供を妊娠しないといけないなんてねっ」
きゅっと力をこめて乳を揉みしだく。
「ああっ……ちょっと、キツすぎますよ」
「ごめんごめん……」
そういわれると、トモノリは意外に素直に、愛撫の手を緩める。
「セックスサービスは分かりますけど、どうして中出しまで、されないといけないんです。せめて避妊してくれたら……」
逆らえないとわかっていても、ユリはそう抗弁してしまう。
「だから、セックスサービスは中出しに限るし、妊娠したらちゃんと産まなきゃいけないって教えたでしょ」
「それはそうですけど……」
いつも、この問答だ。恋人とのセックスは、まだユリが学生だからちゃんと注意して避妊している。それなのに、どうしてセックスサービスは危険日に中出しなのかと。
「ほらっ、また笑顔忘れてる!」
「ああっ、すいません」
慌てて、笑顔を作る。それは少し刺激を与えれば、すぐに崩れてしまうような弱弱しい営業スマイルだった。
「ペナルティーに、これを入れてやるから」
「あっ……ううっ」
肛門に小さいバイブを差し込む。トモノリは二回に一回はこれをやるので、もうこなれているのだろう。
案外すんなり飲み込んでしまう。
「もう、前のほうも濡れたなら……ほら、突っ込んでやるから」
「ああっ、また生で」
少し濡れが緩いが、今日はユリが反抗的だったので、力強くトモノリの男を突き立ててやる。
それなりに感じてはいたらしいユリの中は、ぐっしょりと濡れていたから挿入するのに抵抗はない。
ぐっと奥まで突き立てると、若々しい膣襞がギュッと締め付けてくる。
「まったく、良い締りだな。彼氏が羨ましくなる」
「だから、彼氏の話をしないでってっ……」
「うるさい! さっきから、笑顔を忘れるなっていってんだろ」
「うっ……すいません」
「いいか、なんで中出し、孕ませなのか教えてやるよ」
「はい、お願いします」
「責任を取らなくて良いからだ」
「えっ……」
予想外の答えに、ユリの顔がまた激しくゆがむ。
「お前の彼氏が、セックスのときに中出ししないのはなんでだと思う」
「私の……身体を……いっ……気遣って」
「違うっ! お互い学生の身分で、お前を孕ませたらやっかいなことになるからだよ」
「そんなっ、ちが……」
「違わない、男はみんな、良い女をみたら、襲って中出しして孕ませたいって思ってるんだよ」
「酷いですっ、あんまりです!」
「そうだよ、酷いんだよ。岩下ユリ、よく考えても見ろよ……こうやって行きずりの女を責任も取らずに自由に抱けるんだぞ」
男は、笑い声をあげてユリのオッパイを叩く。
「ひいっ……」
「誰が避妊するかよ……バカがっ。中出しキメてっ、孕ませるに決まってるんだろうがよ!」
「そんなのっ……じゃあ行きずりのお客さんの子供を妊娠したら、私はどうしたらいいんですか。」
「そんなん、お前の責任だからお前が考えることに決まってるだろう」
「いやぁ……そんなのむちゃくちゃすぎます」
「ほら、よく見てみろお前のマンコ。キュッキュと、締め付けて俺のチンチンから精子を絞りだそうとしてるだろ」
「ああっ、言わないで……言わないでください」
「排卵は、今日当たりか。お前の卵子は浮気性だから、彼氏の精子じゃなくても、ほいほい受精するんだろうな」
「ううっ……いやぁ!」
「ほら、子宮に全部出してやるから、孕め!」
「いきゃぁ!!」
ドピュ! ドピュ! ドピュ!
「ふうっ」
「みぎゃ……あああっ」
「まあ、あれだよユリちゃん。もし、妊娠したら彼氏の子供ってことにしちゃえばなんとかなるんじゃない」
すっきりしたのか、満面の笑みで腰をあげるトモノリ。
抜いたとたんに、ドロドロと精液が股間から零れ落ちる。
後の始末も、シーツが汚れたら、それを洗うのも全部ユリがしなければならない。
「そんなぁ……」
「誰の子かなんて彼氏にはわかんないよ。避妊に失敗したとでも言っとけば良いんじゃない。大丈夫、ばれないって、じゃあ、俺そろそろいくからね。お疲れ様……」
そう一方的に言うと、トモノリは服を着て出て行ってしまった。
よろよろと疲れた身体を起こして、股間を軽くふき取って下着と仕事着をつける。
ユリの膣内の奥のほう、特に子宮の中はそのままで、洗浄したい気持ちでいっぱいだが、それは許されてはいないのだ。
ふと床を見ると、セックスのときに外れたのだろう。お尻に刺していたバイブが落ちていた。
「お客さんが、忘れていったから……保管しておかないと」
ヌルリとした感触……自分の腸液に汚れたバイブを拾い上げて、ため息をつく。
ユリは、どうして自分はこんな酷いバイトを続けているのだろうと、当然の思考をする。そのたびに、自分の中で確認事項が浮かび上がる。
このバイトは、家と大学の中間地点にあって通いやすいし、仕事が楽な割りにお給料はいい。それに接客は、人付き合いの良いユリには苦にならない。
ユリの笑顔のおかげで、客が増えると褒めてくれる店長も気さくな良い人だ。
「ああっ……このお店を、辞める理由なんてない」
セックスサービスをたいしたことではないと無理に思考させられている頭で考えては、当然そういう結論に至る。
ユリは、このバイトを延々と続けて、やがてトモノリの子供を妊娠するほかはなかったのだった。
< 続く >