第四話
さて、遊んでばかりもいられない。
この前、サボりすぎて危うくリストラ対象にされそうになったのでここら辺でひとつ、仕事を片付けて功績を挙げておかなければ。
トモノリが車を走らせた先は、ベンチャー企業が多く入った総合企業ビルの最上階。
下の方に入っている零細企業を見下ろして、最上階に陣取ったのは新進気鋭の美人女子大生社長が率いる「(株)美崎リライディングサービス」である。
上り調子の企業と、いい条件で契約が結べれば、今月の成績は安泰というものだろう。
書類を確認しながら、エレベーターで最上階に向かいながらトモノリはそんな目算を立てた。
エレベーターの扉が開き、小規模ながらも近代的なオフィス。
ほのかに花の香りが漂う室内は、オフィスというよりホテルのロビーのようだ。高級そうな背広を着た壮年の男が、トモノリを鷹揚な笑顔で迎える。
「おやっ、こんな時期に飛び込み営業とは珍しい……しかも、こんな大企業が相手とは光栄ですね」
トモノリを迎えた恰幅の良い男は、トモノリの名刺を見て嬉しそうな声をあげた。
「いえいえ、御社は業績も良く、上場も間近と伺っております。ぜひとも、わが社とも懇意にしていただければと……」
総務部長という肩書きを持つこの壮年男性は、若い女社長を補佐するための窓口といったところか。
社員の平均年齢が若いベンチャー企業は、大企業を相手にしても舐められないために、こういう壮年の社員にあえて重たい肩書きを持たせて、交渉の席に出すものだ。
(ほんとは、噂の女子大生社長を見たかったんだけどな)
もちろんトモノリだって仕事のつもりで来たのだが、できるなら仕事の相手は親父より女子大生のほうがいいに決まっている。
「商談の途中ですが、ぜひ社長がお会いしたいと申しておりますので」
「しめたっ!」
「はいっ?」
「いえ……お会いできるなら、こちらとしても願ったりかなったりでして」
トモノリは、奥の社長室に通される。ぱっと、視界に窓から差し込む光に照らされて、視界が青一色になった。
臨海地域に聳え立つ真新しいビルの最上階だ。部屋の一面が大きく切り取った窓になっていて、空と海の青さが一望できる。
豪華なホテルのスイートを思わせる、煌びやかな空間だった。
「斉藤トモノリさんですね……社長を勤めさせていただいております、美崎ミズカと申します」
「ああっ……はい、お会いできて光栄です」
トモノリの身体はぎこちなくこわばり、差し出された細い手を握るのにも緊張する。
切れ長の青みがかった瞳、グロスの塗られた艶かしい唇。手入れの行き届いた美しい髪は腰辺りまで伸びていて、スタイルのよさが伺える淡い紫のスーツの着こなし。
ほのかに漂う香水が甘い、健康的な肢体を見せつけながらも、どこか淫靡を感じさせる。女社長というよりはグラビアモデルといったほうがしっくりくる印象の女性だった。
「うふっ……それでは、商談の続きなのですが」
ミズカの立ち居振る舞いひとつひとつが、トモノリを誘惑する。伸ばした鼻の先に、ほのかに漂う甘い体臭がたまらない。
トモノリは呆けたようにミズカの言葉に頷くだけで、商談どころではなかった。
自分が若い男にどう見えているか理解しているミズカは、すっかりトモノリが魅惑された様子をみて内心ほくそえんでいる。
この高級ホテルを思わせる豪奢な社長室も、女子大生社長の磨きぬかれた肢体も、無駄に贅沢しているわけではなくて、ちゃんとした投資だった。
現役名門女子大生で社長というブランドにマスコミは飛びつき、無料どころか時には取材費を払ってまで会社を宣伝してくれる。社長室が豪華なのも、セレブの煌びやかな世界を演出するための舞台装置の一つだ。
社長の美崎ミズカこそが、この会社の主力商品なのである。
壮年の部長から、女社長自らに商談の相手を変えたのも、トモノリが若くて付け込みやすそうな若者だったから。威圧するより、魅了してやったほうが、条件のいい商談がまとめられるだろうという計算。
相手の男は、下心で鼻の下を伸ばしているうちに、下手をすれば赤字が出るほどの条件で契約を飲まされる。
女子大生社長という若さと華やかさで、付け込みやすいだろうと営業に来た他社の営業社員は、みんなこの手にやられているのだ。
あんまり強かにやりすぎたので、噂が広まって最近では営業に飛び込んでくれる会社が少なくなっているほどだ。
もうしばらくしたら、やり方を変えなければならない。ミズカがそんなことを考えているときに、飛び込んでくれた斉藤トモノリは、いい鴨だった。
「この条件では厳しいと……」
「そうですねえ、わが社はまだ小さい会社ですから……せめてこれぐらいの金額にしていただかないと」
そういって、弾き出されて来た額はとんでもない安価だった。
こんな金額で、契約してきたら確実に赤字になることはトモノリにだって分かる。
それにしても顔が近い……ふっと、甘い息を吐きかけられて、トモノリは思わずうなづいてしまいそうになる。
それにしても、まさかミズカのほうから『せめて』と交渉されるとは思っても見なかった。
内心でそう自嘲して、冷静さを保たなければ、こっちのほうが魅惑という催眠にかけられてしまいそうだ。
ミニスカートの隙間から、チラチラとインナー布地が見え隠れしている。
パンツの色は意外にも清楚な純白だった。
覗きこもうと、頭を下げれば……『うん』と頷いたということになるのだろう。
これは危ない、遊んでいる暇はない。
「なるほど、美崎社長のおっしゃることはもっともですね――」
「分かっていただけましたか……それでは」
ミズカが、落ちたと判断して艶美な笑みを浮かべて話を進めようとするところに、トモノリも笑顔で待ったをかける。
「――ですが、こっちも商売ですので『せめて』条件をつけさせていただいてよろしいですか」
「えっ……条件ですか。ああ、はい……。なんなりと」
ミズカは毒気を抜かれたように表情を消して、目から生気が失われる。狡猾な雌狐であっても、トモノリの『せめて』の前には、従順な犬と化す。
「まず、契約の値段を倍にしてください」
「はい」
値切りに値切られた今の金額の倍額、これぐらいが妥当なところだろう。
トモノリの催眠術式はあくまで個人にしか効かないため、多少高値ではあってもまともだと思える額を提示しておく。
周りに怪しまれるほどの金額ではないが、この条件での契約なら平社員であるトモノリの功績とするには十分だった。
「そして……そうだなあ、付帯条件として美崎ミズカさんには、俺の子供を妊娠してもらいます」
いきなりとんでもない条件を出されて、驚くよりミズカは困惑という表情。
「それは……えっと、ビジネスとしてセックスしろと……そういうことですか?」
ビジネスとして捉えるのが、ミズカには理解しやすいのだろう。トモノリは欲望を満足させられるなら何でもいいのだが。
「そういうことですね、条件は以上です」
「はい……。ふふっ、いい取引ができましたね。今後ともよろしくお願いします」
何事もなかったように、いつもの調子を取り戻すミズカ。
きっちりと契約書を結んだミズカにとっては、トモノリを鴨にして、またいい取引ができたという印象しか残らない。
満足の笑みを浮かべて、立ち上がろうとするミズカの手をトモノリはさっと掴んだ。
「ちょっと待って……もう一つの契約も、ここで済ましてしまいましょうよ」
「えっ……もう一つって。あっ! あの……後でホテルをご用意させてもらいますから」
「いや、定時までに帰社しないといけないし、俺も忙しいんで。さっさと服を脱いでください……ビジネスライクにいきましょうよ」
そういって、ミズカのスーツに手をかける。
「待って、そんな脱がせ方したら皺になっちゃうから……いえ、そうじゃなくて、ですねえ……」
「ここで、子作りしたら駄目なんですか」
「いえ……それは、かまいませんけど。こんな場所で。社員に聞こえちゃうかも……」
スーツが皺になるのがよっぽど嫌だったのだろう、トモノリの手を振り払って自分から上着を脱ぎ、ソファーにかけるミズカだが、口ではまだ迷いを見せる。
「さっき、ちょっと見ておきましたが、だいぶ壁が厚いじゃないですか。大丈夫ですよ、仮に聞こえたとしても仕事の会話でしょう、何の問題があるんです?」
「仕事の……たしかに仕事の一環ではありますね。……わかりました」
「わかったら、服を全部脱ぐんです。ミズカさんっ!」
「もうっ、わかったから、スカートをひっぱらないでっ!」
やはり皺になるのが嫌だったのか、するするとスカートをたくし下ろす。
ベージュのストッキングを丸めるように剥ぎ取り、紫の高級そうなレースのついたきわどい下着も上下、落とすように脱ぎ捨てると生まれたままの姿になる。
なるほどこれは、中身もグラビアアイドル並みじゃないか。
大振りだが巨乳と呼ぶよりは、美乳といいたい形のよいおっぱい。ほっそりとしたウエスト、艶かしい肌の艶めきをもった股のライン。
さわさわとした、綺麗に整えられた陰毛が、輝く肌に張り付くように生えている。
ごてごてと着飾っている女ほど、脱がしてみるとがっかりさせられるものだが。
(これは当たりだな……)
トモノリは、いやらしく笑った。
脱いでしまうと、自分の下着をソファーの上に整えてミズカはトモノリを振り返る。
「どうさせてもらえば、いいんでしょうか」
ミズカは何も知らない処女ではないのだ、脱いでしまったことで覚悟も決まったのだろう。
必要以上に恥ずかしがることもなく、女ざかりの身体を隠そうともしない。
「そうですね。とりあえず、机に座って大きく股を開いて、濡らしてもらいましょう」
「わかりましたけど……」
自分でするのかと、言外に非難の視線を送ってくるが、トモノリが動じないのを見て、しかたなく指示通りに股を開いてみせる。
トモノリに見せ付けてやるように、股を開いて刺激し始めたミズカだったのだが。
「いえそうじゃないですよ。外に向かって、股を開いてやってもらいましょうか」
「えっ……そんな……」
ミズカは、何を言っているのか一瞬わからなかったようだ。さすがに羞恥に顔を赤らめる。
ガラス張りになっている外に向かって、股を開いて見せろといっているのだ。路上から見上げても、ミズカの股を覗くことはできないけれど、外に向かって裸を晒すというのは、ミズカには抵抗のあるプレイだった。
「ほら、早くしてください……これもお仕事ですよ」
「こんな屈辱……こんなことしなきゃいけないなんて聞いてないですよ」
「俺は、こうじゃないと興奮しないんです。だからしないといけないんですよ」
ミズカは青い青い空を見上げる、空には雲が二つ浮かんでいた。
空にたとえば……たまたまヘリコプターか何かが通りかかったら、自分の裸が見えてしまうのではないか。
ミズカはそんな恐怖を感じる。
早くやってしまわなければと、ミズカは焦って手を早める。
「あっ……ああっ……」
必死に股をさするミズカ。無様でも、男を意識して、品をつくっている暇などない。
トモノリはこうなると胴が据わっているのか、そんなミズカの姿を横目で見ながら自分はゆっくりスーツを脱ぎ捨てて、真っ裸になると立派な一物を見ろとばかりに突き出した。
「早くセックスしたいんですねミズカさん、濡れるように手伝ってあげましょうか」
トモノリはミズカの形のよい乳房に手を伸ばして、乱暴に揉みしだく。
「もうっ……うっ……ん」
もう大丈夫、濡れましたと。
そう言いかけたミズカの唇を、またトモノリは自分の唇で塞いだ。
グロスの光沢を舐めとるようにしてから、ミズカの口の中にも、ゆっくりと舌を這わせていくトモノリ。
舌先にしびれるような口紅の味がして、二人の唾液がいやらしい音を立てて混ざり合う。行為に至れば、困惑していたミズカも素直に動いてくれるものだ。
「入れますよ」
そういうと、返答も待たずにミズカの中に挿入する。濡れがいまいちかと感じたが、柔らかいミズカの肉襞は、しっかりとくわえ込むようにトモノリの一物を受け入れてくれる。
「あああっ……あっあっ……」
トモノリが腰をたたきつけるようにピストンする。ミズカはトモノリの背中にギュッと手を回して、感じ入る。
ミズカが感じるたびに、ミズカの膣もギュッと絞まりよく締め付けてくる。根元を押さえつけられて、トモノリは濡れがよくなったマンコに沈めるように腰を押し付けた。
「ミズカさん、いいマンコですねっ」
「そんな言い方って酷い! ううっ……痛いっ。……ありがとうございます」
露骨な物言いに怒ったミズカだが、トモノリがぎゅっと胸を押しつぶすように握りしめたので、すぐに逆らえない自分の立場を理解してお礼を言った。
言い争いになって、玉のように磨き上げた自分の身体を傷つけられたくないと思ったのだろう。
賢い女ってのは、物分りが良いものだなとトモノリはあざ笑う。
セックスするだけなら、馬鹿な女のほうがいいというがそれは嘘だ。
賢い女だから、男が気持ちいいように身体を合わせることもできるし、ミズカの肉体が磨き上げられているのは、彼女自身がよく自分の価値を分かっているからなのだ。
その高級な女を、自分の自由にできるトモノリも優秀ということになるのだろうか。
そんなことを思いながら、息を荒げて腰を振るトモノリはとても気分がよかった。
「ううっ、そろそろだな。優秀な遺伝子をいま、中に出してあげてますからね」
「優秀って……トモノリさんはどこの大学なんですか」
行為の途中に妙なことを聞く女だ。何も知らない男の精を受けるというのは、嫌なものなのかもしれない。
だが、それで聞くのが大学の名前というのは奇妙なものだが。
深く考えず素直に、トモノリは答えてやる。
「阿須地産業大学ですよ」
「どこですか、それぇ! 私、六大学の男以外に抱かれたことないんですよ」
一流私大に在籍しているミズカが、トモノリが出た三流大学の名前を知るわけがない。
「じゃあ、初めての精を受けるといいですよ!」
「そんなっ……あっ」
ドクドクドクドクドクドピュ!
ミズカの奥で、射精が炸裂した。
確かに感じる、ドクドクッと脈打つ鼓動。
熱い飛まつが膣の中に吐き出されていく感触
ドピュ! ドピュ! ドクドクドクッ……
ミズカの膣でトモノリの一物をしっかり締め付け、生命のエキスを吸い上げているのだ。
ミズカが口でどう言おうが、それが事実だった。
「さて、次はそこの窓に手をついて四つんばいになってくれますかね」
「まだ……するんですか」
「当たり前でしょう、次はバックです。受精しやすい体位ですよ」
「でも、窓に手をつくなんてしたら……私の裸が、下からでも見えてしまいますよ」
「大丈夫ですよ、ほら外の人なんて豆粒ほどにしかみえない。向こうから俺たちが何をやっているかなんてわかりません」
ミズカがそう抗弁しても、そっちのほうがトモノリが興奮するからという理由で納得させられてしまうのだ。
ミズカは大人しく分厚くて冷たい窓ガラスに手を突いた。
ドロドロと中出し精液が垂れるマンコを、また後ろから突き上げられる。
「ひいっ……」
「ミズカさんも気持ちよくなってきたんじゃないですか」
「そんなっ、私は仕事だからって」
「気持ちよく仕事できるなら、そっちのほうがいいでしょうが!」
ガンガンと、バックで激しく突き上げる。
快楽に翻弄されて、さすがのミズカもがくがくと震えて気をやってしまう。
「ほら、外に人が歩いてますよ、俺たちのセックスを見せ付けてやりましょう」
「やっ、やめて……だめっ」
力が抜けたミズカを、後ろから突き上げてガラスにぴったりと押し付けてやる。
形のよいおっぱいがガラスに押し付けられて、イビツにゆがむ。
「ミズカさん露出の趣味があるんじゃないですか、気持ちいいんでしょう、マンコがきゅっと締まってきましたよ」
「うそっ、そんなの……いやっ!」
ミズカは、快楽の波に翻弄される身体をゆすって何とか窓から逃れようとするが、ガラスとトモノリの身体に押し付けられて逃げようがない。
そんなミズカの無様な姿が、トモノリを興奮させて二度目の絶頂へと導く。
「さあ、もう一発。奥に出してやりますよ!」
「あっ……ああっ……」
「おら、妊娠しろっ!」
ビュ! ……ドクドクッ ……ドピュドピュ!
激しい勢いで、ミズカの奥で爆発する精液。
さらに奥の置くまで突き上げられる一物。
ミズカの子宮口から、子宮の天井に向かって、射精された精液が吹き上がっていく。
お腹が熱い。ミズカはそう感じて、ずるずるとガラスで支えていた手を滑らせて床に倒れこんだ。
「ふうっ、気持ちよかったですよ。じゃあ契約のほうもよろしくお願いします、おつかれさまです」
セックスが終わったら、トモノリの帰り支度は早いものだった。
トモノリは、あっという間に背広を着なおして、荷物をまとめて退室していく。
あとには、窓ガラスに手をついたまま、床にしゃがみこんで股間から精液を垂れ流す女が一人取り残されているだけだ。
それでも、やがてミズカは立ち直って股間をティッシュで拭くと服をとりあげた。
「妊娠したら……ふふっ、マタニティーファッションでしょう……子供ができたらベビー用品……今の路線より、商売の幅が広がるよね……」
さすがに転んでもただでは起きない。美崎ミズカはやはり強かな女だった。
――――
壮年の部長に見送られて「(株)美崎リライディングサービス」を後にするトモノリ。
トモノリが久々にまとめてきた優良企業との優位な契約だ。上司の水谷マユミは、久々にいい仕事を片付けてきたのを喜んでくれるに違いない。
「もしかしたら、そのご褒美に今夜、姉さんともう一発ってことになるかもな」
今日一日、散々やりまくったというのにそんなことを呟いて、ワクワクしながら帰社するトモノリであった。
< おわり >