第十一話
玲子の排卵日がくるまでの一週間ほどは、驚くほどに平穏だった。
母娘水入らずの穏やかな日々。田中さんがいないだけで、こんなにも日々は輝いて見えるのか。
こんな日がずっと続けばいいのにと思っていた、とある日の早朝。
「よお、準備できてるか?」
唯花が学校へ出かけるのと入れ替わるように、玄関先に田中が現れる。
苦々しげに頷く玲子は、もちろん準備も覚悟もできていた。
※※※
玲子は撮影の為に休みを取っているのだが、仕事に使う黒いスーツ姿だ。
台本に、この服装が指定してあったからである。
不幸中の幸いというべきか、おかげで娘の唯花には異変を気取られずに済んだ。
朝ごはんも一緒に食べたし、出かける際にはお弁当も持たせてある。
「田中さん。朝ごはん食べませんか」
少しでも時間を稼ぎたくて、そんなことを言う玲子。
「じゃあ、食べながら打ち合わせしよっか」
「はい、じゃあ準備しますね」
玲子の出した朝食を、田中はものすご勢いで食べ終わった。
これでは、時間が稼げない。
「今日は、いっぱい撮影しないといけないから忙しいよ。カメラが回ったら終わるまで台本通りに頼むね」
編集なしでやらないと中出しの迫力がでないし、そもそも編集がめんどくさいからだと言う。
ただの素人の動画撮影だと聞いたが、田中はテキパキと一人で寝室にカメラを三台も設置して、照明まで当てている。
「田中さんも仕事だときっちりするのね……」
そこにはちょっとだけ感心してしまう。
しかし、感心できないこともあった。
「玲子さんの画像集出したらバカ売れでさ」
田中さんが持ってきたパソコンの画面を確認したら、大変なことになっていた。
「なにこれ『ハメ撮り初撮り! ドスケベキャリアウーマン優月玲子、三十四歳危険日中出し妊娠遊戯』、タイトル酷……よりも、本名丸出しじゃないですか! 何で偽名を使ってくれないんですか」
「本名の方がリアル感が出ると思って」
カチャカチャと、サイトを見ていくと、さらにとんでもないものが目に入る。
「きゃあぁああ! 社員証まで、いつ撮ったんですか!」
画像をいくつか確認していたら、中出しされて呆けている玲子のお尻に会社の社員証が載せてある。
コメント欄は大荒れだ。
『おい、この会社ググると出てくるぞ。優月玲子、在籍してるの確認できる』
『マジか、実名で出してるってこと? 可愛いのに変態すぎね?』
『実名顔出しの勇気を評して買いです。続きの動画もあるそうで、楽しみにしてます』
この会員制サイトでも大型新人だと話題になっているらしく、サンプルの閲覧者は六万人を超えて、画像の購入者もすでに一万人を越えてる。
この中の誰かが会社に通報したら、玲子の人生は終わりだ。
「田中さん、これすぐに消してください」
「嫌なの?」
「これは嫌とか、これはそういう問題じゃないでしょ!」
「ふーん。嫌ならすぐ消すけど、本当にいいの?」
田中は、ニヤニヤと笑って確認してくる。
田中が言わんとすることは、言わなくてもわかる。
玲子が断れば、娘の唯花にやらせるというのだろう。
唯花が、玲子のように中出しされて学生証をアップされてしまう。ちょっと想像しただけで、そんなことは絶対に許せないと感じる。
犠牲になるのが娘でなく私ならと、玲子は下唇を噛み締めて耐える。
「嫌じゃないです、やっぱり消さないで……これは、私がやらなきゃいけないことでした」
「やらなきゃいけない。そんな態度なら止めておこうかな」
意地悪く田中が言う。
「やりたいです。どうかやらせてください」
玲子は、その場に膝をついて土下座して頼んだ。
それを見下ろすと、田中はふんと鼻を鳴らして満足そうに言う。
「玲子さん。最近のエロ動画は競争が激しいから、思いっきり強烈な映像が欲しいんだよ」
「がんばりますから、私にやらせてください……」
「ふーん。少しでも演技に気が入ってなかったら、止めるからね」
「はい」
それは、娘を代わりにするという脅しだった。
「じゃあ、この契約書にサインして」
こんなものまで用意しているなんて……。
契約書には、田中に一方的に都合のいい条件ばかり書いてある。
追い詰められた玲子は、自分を破滅させる悪魔の書類にサインしてしまうのだった。
※※※
カメラの前で、スーツ姿の玲子は笑顔で手を振る。
「皆さん、おはようございます。もしかしたら、こんにちは……かな、こんばんは……かな。皆さんはどうかわかりませんけど、撮影してる今の時間は午前中です」
ちゃんと撮れてるかカメラをチェックしている田中が言う。
「玲子さん。これサンプル動画になるから」
「そうみたいですね。今日は会社をサボって朝からオナニーしようと思ってます。じゃーん」
玲子は、愛用のヴァイブレータを取り出す。
「サンプル動画では、私がオナニーして潮を噴くまでを撮ろうと思います。でも、それだけじゃ面白くないですよね」
玲子は、もう一つ白いプラスチックのスティックを取り出す。
「排卵検査薬です。今日が排卵日かどうか、一緒にチェックしたいと思います。それじゃあ、始めますね。オシッコ撒き散らすことになるから、たらいを置いてっと」
玲子は、タイトなスカートをたくし上げて、ストッキングと紫色のパンティーを脱ぎとると、バイブのスイッチを入れて大股開きでクリトリスに吸引する。
「あっ、あっ!」
慣れたオナニーのやり方だ。
早くやればやるだけ早く終わる。
何も考えないようにして、バイブでクリトリスを吸引しまくればすぐに快楽で頭が真っ白になる。
「ああっ、いっちゃう!」
玲子はわざとらしく嬌声をあげて喘ぐと、プシューとオマンコより潮を噴く。
そして、そのままジョボジョボと排卵検査薬にオシッコを引っ掛ける玲子。
「ハァハァ……はい、ちゃんと今日が排卵日だってわかりましたね」
カメラをズームさせる田中。
玲子の手にある排卵検査薬には、判定ラインに青い線が浮き出ていた。
「それじゃ、これより『排卵日妊娠確定生中セックス』を行いたいと思います。本編動画もぜひ見てくださいね」
そう言うと、玲子は引きつった笑顔で手を振ってサンプル動画を終わらせた。
読みましたー!
をを、催眠シーンだ!
催眠術を使って抵抗する相手をじっくりと説得するの大好きです。
もともと押しに弱い性格の持ち主でも、流石に破滅ものの行為ですものね。
次回も楽しみにしています。
ティーカさん
ほんとは催眠シーンいれるつもりなかったんですが、皆様のご要望もあったのでこういう形で入れ込んでみました。
もともと押しに弱い性格とはいえ、催眠なしではおかしすぎるのでリアリティーも少しはでたんじゃないかなと。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです!
読ませていただきましたでよ~。
催眠で無理やり納得させるのもやっぱりいいでぅね。
解けかけたのを強引に引き戻し、更に強引に論理のすり替えを行っていく様、良かったのでぅ。
実名も社員証で証明もしてしまった玲子さんは一体どうなってしまうのか?
であ、次回も楽しみにしていますでよ~
みゃふさん
催眠シーン楽しんでいただけてなによりです。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです