悪魔の流儀 倭文エンド side:綾

倭文エンド Side : 綾

 ※このお話には、『黄金の日々』のネタバレがかなり含まれますのでご注意ください。

 息をするのも忘れて、私は大門様の返答を待つ。

 そのまま、じっと大門様の顔を見つめていると、ゆっくりとその口が開いた。

「わかった」
「え? では!?」
「ああ、俺について来い」
「ありがとうございます、大門様!」

 その言葉は、決して嘘ではなかった。
 大門様が私を信じてくださったことが、心底嬉しかったのは事実なのだから。

 だけど同時に胸が痛む。
 私はこれから、その期待をある意味で裏切ることになるのだから。

「約束の時間は午前1時。場所はさっきの公園だ。それまで体を休めておけ」

 大門様が、約束の時間と場所を告げた。

 午前1時にあの公園で……。
 そこにあの男が……シトリーがいる!

 その時には、私の心は決まっていた。
 あの男を倒すのは、私の悲願。
 それに、あの男が狙っているのは大門様だ。
 これ以上、大門様の身を危険にさらすわけにはいかない。

「わかりました」

 大門様に向かって頭を下げるのと同時に、すっと一歩踏み出してその鳩尾に鋭く当て身を入れる。

「がはっ! な!? あ…や…?」

 驚いたように目を見開いた大門様が、呻きながら倒れ込んできた。
 その体を抱きとめて、謝罪の言葉を述べる。

「お赦しください、大門様」

 それも、心の底から出た言葉だった。
 ご主人様の言いつけを守れないなど、下僕の風上にも置けないのはわかっている。
 だけど、それも結果として大門様を守るためになるのだからと、自分に言い聞かせる。

 そのまま、大門様の体をベッドに寝かせてから部屋を出る。

「あら、武彦さんのところに行ったんじゃなかったの?」

 居間に戻ると、みんなまだ寝ずに待っていた。

「はい、そうなんですけど、大門様もかなりお疲れの様子で、もうお休みになられました」
「そう……そうよね、あんなことがあったばかりですものね」

 奥様の言葉に、薫さんも梨央ちゃんも黙って頷く。
 3人とも、顔から血の気が引いて、不安そうな顔をしている。

 でも、無理もないわよね。
 みんな、ごく普通の、ただの人間なんですもの。
 それが、突然あれだけの数の悪魔に襲われて、目の前で冴子さんがあんなことになってしまって。
 普通なら、もっと取り乱していても泣き叫んでいてもおかしくない。
 それでも、みんな気丈に耐えている。

「ごめんなさい……私の力が足りなかったばかりに。今度は……今度こそ私がみんなを守って見せますから」
「ありがとう、綾ちゃん。でも、あんまり無茶したら駄目よ。冴子さんにあんなことがあって、今度は綾ちゃんになにかあったら大変ですもの」
「奥様……」

 いつもと同じような、私のことを気遣ってくださる奥様の言葉が胸に沁みる。

「幸の言うとおりだわ。たしかに、あんな化け物がまた出てきたら私たちには何もできないかもしれないけど、だからって全部をひとりで背負い込もうとしないで。綾ちゃんには私たちがついてるんだから」
「はい……」

 そう言ってくれた薫さんの唇は、まだ微かに震えていた。
 本当は薫さんもすごく怖いのに違いない。
 それは、あまりにも当然のことすぎる。
 だけど、それでも勇気を振り絞って私を支えてくれようとする。
 薫さんは、そういう人だ。

「そうですよ。綾さんにもしものことがあったら、梨央も悲しいよ」
「うん……ありがとう、梨央ちゃん」

 梨央ちゃんは、今にも泣きそうな顔をしていた。
 私がここで働き始めてからできた、大切な友達。
 あの、忌まわしい事件の時には本当に酷いことをしたというのに、梨央ちゃんは笑って許してくれた。
 そんな、優しい子だ。

 みんなの顔を見て、私は決意を新たにする。

 大門様はもちろん、奥様も薫さんも、冴子さんも梨央ちゃんも、私にとってかけがえのない大切な人たちだ。
 だから、みんな私が守ってみせる。

 相手があの男なら、なおさらだ。

 あのときの私は何もできなくて、結果として大切な人たちを失うことになってしまった。
 もう、二度と同じ過ちは繰り返したくない。
 今度は、私の力で大切な人たちを守ってみせる……。

* * *

 ――AM0:27

 あの後少しして、お休みを言ってそれぞれの寝室に戻った。
 あんなことがあった後だし、みんな疲れて眠ってる頃だろう。

 それでも、物音を立てないようにそっとドアを開けて部屋を出る。

 大門様が言っていた、シトリーが指定した時間まであと30分と少し。
 あの公園までなら、十分すぎる時間だ。

 大門様の部屋の前を通るときに、胸が少し痛んだ。

 きっと、目を覚ましたら大門様はお怒りになるだろう。
 私のわがままでこんな事をするのを、絶対に許してはくださらない方なのはわかってる。
 屋敷を出る前に、もう一度お詫びをしておきたかった。

 だから、部屋のドアに向かってもう一度深々と頭を下げる。

 そして、みんなを起こさないよう、静かに玄関の戸を開けて外に出ると、夜の街を歩く。
 気持ちが張り詰めているのが、自分でもわかる。

 あの時の怒りを、私は忘れたことがない。
 忘れたくても忘れることなんかできなかった。
 部隊のみんなを、あの男に奪われた怒りを。
 隊長も、副隊長も、そして、サラ姉さまも……。
 だけど、やっとその仇が討てる。
 私が、必ずあの男を倒す。
 それは単なる復讐ではなく、大門様や奥様たちを守ることにもなるんだから。

 あまりにも気が張っていて、自分がメイド服のまま出てきたことにも気づいていなかった。
 そのことに気がついたのは、もう公園が見えるところまで来てからだった。

 だけど、今は服装なんて気にしていられない。

 公園に近づいただけで、そこに結界が張ってあるのを感じる。
 おそらく、さっきの結界と同種のもので、その中で何があっても外からはわからないようになっているのだろう。
 むしろそれは好都合だった。
 それなら、私も思う存分戦える。

 はやる気持ちを抑えるように一回深呼吸をすると、公園の中へと入っていく。

「……誰だ?」

 公園の奥へと進んでいくと、不意に誰何する声が聞こえた。

「……メイドだと? 大門はどうした?」

 この声……間違いない、シトリーだ。
 あの男の声をまともに聞いたのは、あの魔界との大戦の最後の時くらいだけど、その声だけは忘れようがなかった。

 その夜は月が雲に隠れていて公園の中はかなり暗かったから、シトリーはまだ私が何者か気づいていない様子だ。

 声の先にいる人影に向かって、私は静かに告げる。

「大門様は来ないわ」
「なんだと?」
「大門様はここには来ないって言ってるのよ、シトリー。なぜなら、貴様の相手をするのはこの私なんだから!」

 そう叫ぶと、短く呪文を唱える。

 私の体が輝きに包まれ、体が白い甲冑に包まれていく。
 そして、背中にはやはり純白の翼が現れ、手に愛用の剣を握る。

 体に纏わり付く光の粒子が飛び散ってもなお、淡い光が私の身を包みこんでいた。

「おまえ……サラの妹か……?」

 天使としての私の姿を認めたシトリーが、驚いたように呟く。
 しかし、すぐに可笑しそうに笑う声が聞こえてきた。

「クククククッ! なるほどな……璃々栖や、さっき大門たちを襲わせた悪魔から、妙なメイドがいるという報告は受けていたけど、まさかおまえだったとはな。ふっ、ふははははっ! これは傑作だよ」
「何が可笑しいのよっ!?」
「だって、考えてもみろよ。大門の秘密を知っているのなら、天界が放置しておくはずがないからな。だから、監視は付けているとこまでは予想していたけど、それがおまえのことだとは思ってもいなかったよ。それにしても、天界の方は僕の施した妨害工作の影響で身動きできないと思ってたんだけどな」
「残念だったわね。私はいつも大門様のすぐ近くにいたのよ。いつでも大門様をお守りできるように」
「おいおい、なんだよその口ぶりは? まさか、本当に大門の下僕になったとでもうのか?」
「そうね……私は大門様の下僕でいいと思ってるわ」
「ふむ、これはまた面白いことになってるな。それは、あの男の監視役がおまえだったのはまだいいとして、おまえが僕のことに気づいたら血相を変えてやってくるっていうのは理解できる。だけど、天使であるおまえが、監視対象であるはずのあの男にどうしてそこまで肩入れするんだ?」
「私は、あの方の魅力に惹かれたのよ。大門様は、私たちを幸せにしてくださる。それにあの方は、下僕を守るのは主人の務めだとおっしゃった。もし、私たちになにかあれば、大門様は命を賭けて守ってくれる。そんな大門様に私は惹かれたのよ。あの方はおまえと違って、下僕の命を盾にしたり使い捨てにしたりなんか絶対にしないもの」

 あの時、この男を庇って命を落としたサラ姉さまの姿は、私の脳裏から消えることはなかった。
 この男は、自分が手に入れた者たちの命を使い捨てにして生き延びた、そんな卑劣な奴だ。

 しかし、シトリーは私の言葉に腹を抱えて笑い始めた。

「くはははははっ! 下僕を守るのが主人の務めだって!? これはまた、なんて勘違いをしてるんだ、あの男は?」
「勘違いですって!? 聞き捨てならないわ!」
「そんなこと言っても、その通りだろ? それで主人が死んでしまったらどうするんだ? 使い捨てとか、そういう問題じゃないだろ? 主人を守るために下僕が自分の命を賭けるのは当然じゃないのか? 前々から思ってたけど、だからあの男は馬鹿なんだよ」
「貴様なんかの価値観で大門様を語らないで!」
「ふん、おまえは下僕のことをなにもわかっちゃいないんだな。主人を失って、それで下僕はどうする? おまえは、下僕の気持ちなんか全く理解していないんだよ。下僕は、主人のためなら喜んで捨て駒になるのさ」
「ふざけないで! その言葉、そっくりそのまま貴様に返すわ。貴様に下僕の気持ちのなにがわかるっていうの!?」
「だったら、おまえはなんで今ここにいるんだ?」
「えっ?」
「あの男は、下僕を守るのが主人の務めだと言ったんだろ? だったら、どうして今この場にあの男が来ないで、おまえがいるんだ? 結局、おまえだって僕が言ったとおりのことをしてるんじゃないか。主人を守るために、自分の命を賭してここに来たんだろ?」
「そっ、それはっ……!」
「主人と下僕の関係は、そういうものなんだよ。おまえも、大門を生かすために自分が捨て駒になるつもりなんだからな」
「違うわっ! 私は捨て駒になりに来たんじゃない! 私の手で貴様を倒すために来たのよ!」
「へえぇ、そうかい。まあ、それならそれでいいさ。あの時、次に会ったときにはサラに代わっておまえを下僕にしてやるって言ったしな。とりあえずは、どのくらい腕が上がってるか見てやるとするか」
「その答えならあの時言ったはずよ! 私はっ、貴様の下僕にはならないとっ!」
「ふん、思い出すな。同じセリフをサラも言ってたっけな」
「貴様っ!」
「まあ、そう焦るなよ」

 シトリーが、片手をかざす。
 それに合わせて、私の周囲を取り囲むように悪魔の群れが姿を現した。

 さっきよりも、もっと数が多い……40、いや、50体はいる。
 でも、このクラスの悪魔なら問題はないわ。
 天使の姿を完全に現した、今の私の敵ではない。

「はぁああああっ!」

 気合いもろとも剣を一閃すると、それだけで数体の悪魔が消え去る。
 そのまま、並み居る悪魔どもを片っ端からなぎ倒していく。

 その悪魔たちを全て消し去るのに、5分もかからなかった。

「ほう、やるじゃないか。おまえ、あの頃と比べたら見違えるほどに腕を上げたな」

 50体の悪魔を始末して、息も切らしていない私を見て、シトリーが大げさに驚いてみせる。

「当たり前よ。あれからずっと、自分を鍛えてきたのよ。おまえを倒すために。……隊長、副隊長、そしてサラ姉さまの仇をとるために」
「仇? なにを言ってるんだ? 忘れたわけじゃないだろ。あの時、サラを殺したのはおまえだったじゃないか」

 シトリーの言葉に、一瞬で全身の血が沸騰したみたいに熱くなるのを感じる。

 そのことが、ずっと私を苦しめてきた。
 あの時、たしかに私はこの手で姉さまの命を奪ったのだ。
 この男を庇おうとして、私との間に割って入ってきた姉さまに剣を突き立てて。

「きっ、貴様ぁああああああっ!」

 私の怒号が響くのと同時に、再び悪魔が群れをなして姿を現す。
 それも、さっきみたいな雑魚ではなくて、中級悪魔だ。
 しかし、怒りに燃える私は、躊躇うことなく悪魔の群れに斬りかかっていく。

* * *

 ……もう、何体の悪魔を斬っただろうか?
 150……いや、200近くは斬ったはずだ。

 さすがに、息が上がってくる。
 多少の傷は負わされたけど、どれもかすり傷程度だ。
 だから、まだやれる。

「いや、たいしたものだな。おまえ、あの頃のサラよりも強くなってるんじゃないか?」

 わざとらしいあの男の声が、耳に障る。

「何度も同じことを言わせないで。私は、貴様を倒すために鍛えてきたのだから……」
「うん、魔界の悪魔はすべて僕の言いなりだけど、おまえ相手に雑魚をいくら繰り出しても無駄なことはわかったよ。それに、おまえには下僕にする価値があるってこともね。だから、次は本気で行かせてもらうよ」

 シトリーの言葉に、呼吸を整えながら剣を構える。
 やはり、魔界がこの男のものになったという報告は本当だった。
 あれだけの数の悪魔を繰り出せることでもそれはわかるけど、本気でくるとなると……。

「また会ったわねー、お嬢ちゃん。この間は邪魔が入ったけど、今度はそうはいかないわよ」
「おまえはっ、リリス!」

 背後からかけられた声に振り向くと、そこにいたのはあの時の、金髪の女悪魔だった。

 そして、女の声がもうひとつ。

「倭文さまぁ……あの男を、大門をボコボコにできるって聞いてたのにこの女はいったいなんですか?」
「なっ! おまえは!?」

 姿を現したのは、栗色の長い髪に、宝石をいっぱいにちりばめた、王冠にも見えるティアラを着けた女悪魔。
 見た目には人間の女とさして変わらないように見えるが、身の毛がよだつほどの強い魔力が溢れ出ていることで、この悪魔がただ者ではないことがわかる。

「そう言うな、絢華。これはまあ、前菜みたいなもんだ。それよりも、僕のやることに文句でもあるのか?」
「ひぃいいいいっ! 申し訳ございません、倭文様!」

 女悪魔が、仰々しく平伏する。

 ……この女は、もしかしてゴモリー?
 たしか、今は後森絢華(ごもり あやか)と名乗っていたはずだ。
 天界の仲間が手に入れた、シトリーの配下のリストにその名が載っていた。
 実力も、魔界での本来の地位もかなり高い、かなりの難敵だ。

「で、おまえは見てるだけなのか、愛那?」
「まあ、私は情報収集の方が得意なんですけどぉ……。倭文様の邪魔をするお嬢ちゃんを痛めつけるのも嫌いじゃないですよ」

 そう言って、今度は赤っぽいショートボブの髪の女悪魔が木陰から姿を見せた。
 外見はどこにでもいる女の子に見えるけど、 その女も漂わせている魔力の強さは普通ではない。

 ……愛那?
 たしか、その名もシトリーの配下リストにあった。
 今の名前は、植春愛那(うえはる あいな)だけど、悪魔としての名前は、ウェパル。

 くっ……リリスにゴモリーだけじゃなくて、ウェパルまでっ?
 こいつらは、さっきまでの相手とはレベルが違う。

 さらに、続けて声が聞こえた。

「まあ、そういうわけで。今度は僕たちが相手だ」

 そう言いながら、シトリーが剣を手にする。
 その周囲を守るように、10体ほどの中級悪魔が囲んでいた。

「くっ……」

 こうして囲まれているだけで、それぞれの魔力の強さが肌に伝わってくる。
 剣を構えながら、このクラスの悪魔をどうやって相手にするか、必死で考えを巡らす。

 そして出した結論は、やはりシトリーへの一点突破。
 昔は苦杯を舐めさせられたが、その時の経験からあの男の剣技はわかっているつもりだった。
 それに、護衛をしている中級悪魔も、あの程度の数ならなんとかなる。
 たとえ刺し違えることになっても、あの男さえ倒せば全てが終わる。
 大門様も、みんなも守ることができる。

「せいぃいいいいいっ!」

 シトリーに向かってダッシュしながら剣を振るう。
 護衛の悪魔は、思っていたよりも強くなかった。
 これならいける! あの男に私の剣が届く!

「シトリーィイイイイッ!」
「ふんっ……なんだ? こんなものか?」
「なっ!? くぅううううっ!」

 全力で振り下ろしたはずの愛用の大剣は、片手用の長剣で簡単に受け止められてしまった。
 しかも、私の剣を撥ね上げて打ち下ろしてくる一撃が重い。
 昔は、こんな重い一撃を放つような力はなかったはずだ。
 たしかに、スピードと技術はあったものの、ここまでの使い手ではなかったというのに。

「どうした、そんなに驚くことか? なに、ちょっとした実験を兼ねて炎の魔王を取り込んでみたんだけどな。狙いはその魔力と能力だったんだけど、身体能力まで大幅に上がったのは予想外だったけどな」
「炎の魔王ですって!?」

 この男……なにを言ってるの!?
 魔王クラスの悪魔といえば、魔界でもトップクラスの実力者じゃないの!
 かつて、私が参加したあの戦いよりもはるかに昔の、天界と魔界の大戦の時には魔界の先頭に立って戦った猛者ばかりのはず。
 それを、自分の中に取り込んだですって!?

「そうだ。まあ、その力を扱えるようになるまでには多少苦労したがな。だけど、今はこんなこともできるぞ」
「きゃあああああっ!?」

 シトリーが、こちらに向かって片手を突き出す。
 その先から、熱風とともに炎が噴き出して私に襲いかかってきた。

「きゃああっ! ……これはっ!?」
「それは、炎の魔王の力だからな、このくらいは朝飯前さ。そら、まだいくぞ」
「くっ……はあっ!」

 放たれる炎を、左右にステップを踏んで避けながら、踏み込んで斬りかかる。

「ふん、悪くない動きだな。しかしっ」
「くううううっ!」

 シトリーの剣が、炎を纏って襲いかかってくる。

 受け止めるのが精一杯の、重みのある一撃。
 剣に纏わりつく炎の熱気が、刺さるように痛い。

「ほら、どうした? おまえの相手は僕だけじゃないんだぞ」
「なにっ!? ……はうっ! ぐぐぐぐぐぅっ!」

 後ろからなにかが首筋に巻き付いて、締め上げてくる。

「お嬢ちゃん、後ろががら空きよ。そんなに私に首を絞められるのが気に入ったのかしら?」
「がはっ、がぁああああっ!」

 背後から聞こえる、リリスの声。
 これは……あの時と同じ!
 でも、同じ手は通じないわ!

 首を絞めているのがリリスの髪の毛だとわかって、咄嗟に後ろを切り払う。

「……なっ!?」

 信じられないことに、鈍い手応えを残して私の一撃は受け止められてしまった。

「残念でした。この間はあなたが何者かわからなかったけど、天使だとわかれば抜かりはしないわよ。私の髪は、その気になれば鋼鉄よりも硬くなるのよ」
「あぐっ、ぐはあああああっ!」

 きつく首を締め上げられて、手にしていた剣を落としてしまう。
 それを狙っていたかのように、即座に両腕を締め上げられる。

「ほら、おとなしくするのよ」
「そうよ。あまり倭文様のお手を煩わせないの」

 私の腕を抱えているのは、ゴモリーとウェパルだった。

「ぐっ……はっ、放せっ!」
「ふっ、いい格好だな」

 拘束を解こうともがく私の前に、シトリーが立つ。

「サラの妹……たしか、アーヤとか言ったよな」
「がぁっ……シッ、シトリーッ!」

 首を絞められながらも、私は精一杯の怒りを込めてシトリーを睨みつける。
 だけど、シトリーは私の視線を真っ向から受け止めて笑みを浮かべている。

 そして、その手をゆっくりとこちらに差し出して、私の胸に触れた。

「……ひっ!?」

 何かが、入ってきたような気がした。

 体の中じゃない。
 頭の中をかき回されるような、そんな感じだけど何か違う。
 とにかく、何かが私の中に入り込んでいる。

 すると、シトリーが意外そうに首を傾げた。 

「おまえ、精神防御できないのか? サラの妹でも、どうやら能力は違うみたいだな」
「なにをっ……」
「まあ、あの能力を持っていたとしても破ることはできるけどな。サラの時にさんざん手こずらされたからな、あの手の精神防御に関してはかなり研究してきたしな」
「きっ、貴様っ……」

 シトリーの言葉に、血の気が引いていくのが自分でもわかる。

 そうよ……姉さまには心を護るあの力があったのに、この男によってあんな風にされてしまった……。
 このままでは、私も……。

「ぐっ……放せっ、はなせぇええっ!」

 なんとかして逃れようと、必死に暴れる。
 しかし、両腕を極められて首を絞められたこの体勢からは逃れられない。

 そんな私の姿を、拍子抜けした顔で眺めていたシトリーが、不意に笑みを浮かべた。

「うん、このまま堕とすのも面白みがないしな……そうだ、こいつを使ってあの男の封印を破らせるとするか」

 ニヤついているシトリーを見ていると、鳥肌が立ってくる。
 何をするつもりなのかわからないけど、嫌な予感しかしない。

「とりあえず、おまえたちでこいつを可愛がってやれ。うちで開発した、あの薬を使ってな。その後はそうだな……絢華、おまえの部下たちの相手でもさせるか」
「かしこまりました、倭文様。では、薬を用意しますので、氷毬さん、このお嬢さんを抑えててくださいね」
「ええ、いいわよ」

 両手両足に、何かが絡みついてくる。
 これは……リリスの髪!?

「くっ! 放せっ!」
「放すわけないでしょ。それに、私たちはこれからあなたを気持ちよくさせてあげるのよ」

 耳許で囁きながら、ゴモリーが私の甲冑を外していく。

「なにをするのっ!」
「だって、こうしないとお薬を打てないでしょ」

 そう言ったゴモリーは、赤い液体の入った注射器を取り出す。

「やっ、それはっ……!?」
「心配しなくても大丈夫よ。あなたをとっても気持ちよくしてくれるお薬なんだから」
「やめっ……やめろっ……!」

 ゴモリーが、手にした注射器を私の右の乳房に突き刺す。
 チクッとした痛みの後に、熱を帯びた痛みが広がっていく。

「じゃあ、次はこっちね」
「くぅううっ……やめろっ!」

 そして、今度は左の胸に。
 同じようにして、妖しげな薬を注射される。

「これはね、口やアソコからでも体内に吸収されるんだけど、こうやって注射すると即効性があるのよね。ほら、どう?」
「はぅううううううううんっ!?」

 乱暴に胸を掴まれたというのに、ジンジンする痺れが駆け抜けていった。
 頭をガツンと殴られたときに似た衝撃に、目の前で赤や白の光が弾ける。

「あら、そんなに効いたの? だったら、もっと感じさせてあげないとね」
「きゃあああああっ!」

 ゴモリーが腕を一閃させると、その爪が私の肌当てを切り裂いて胸が剥き出しになった。

「やだもう、こんなにビンビンに乳首おっ勃てちゃって……」
「つうぅっ! あぅうううううううっ!」

 丸見えになった乳首を、ゴモリーが手荒くつねる。
 こんなの、痛いだけなのに。
 それなのに、どうして?
 痛みと同時に感じる、頭の奥が痺れてくるような刺激……これは、快感?

「あんっ! んふぅうううううんっ!」
「あらあら、こんなに乱暴にされてるのに感じちゃってるの? とんだマゾ天使ちゃんね!」
「いやぁっ! あぁああああああんっ!」

 ゴモリーが握った手に力を入れて、私の乳房を粘土のように弄ぶ。
 胸がヒリヒリと熱くなって、チリチリと痛みを伴う快感に耐えかねて、自然と喘ぎ声が洩れてしまう。

「後森さん、こっちも裂いてくれませんか?」

 足許の方から、声が聞こえた。
 この声は、たしかウェパルの……。

「いいわよ」

 ゴモリーの声が聞こえたかと思うと、私の胸を掴んでいた手が離れる。
 次の瞬間、下半身の肌当てを切り裂かれて、冷たい風に晒されるのを感じた。

「うわぁ……あれだけでこんなになってるの? 天使ってエッチなんだね」

 再び、ウェパルの声が聞こえる。

「それじゃ、私はここに……」
「……えっ? やあっ! やめてぇええっ!」

 下を見ると、ウェパルがあの注射器をアソコの辺りに近づけようとしていた。

「つぅううううううっ!」

 針の刺さる鋭い痛みを感じたかと思うと、アソコの辺りがヒリヒリと熱くなっていく。

「これでよしっと。……じゃあ、こんなことしちゃおうかな?」
「あうっ! いぁああああああっ!」

 くちゅり……と、何かがアソコの中に入ってくる。
 あまりにも敏感になりすぎてて、それがウェパルの指だということも最初はわからなかった。

「はうんっ! ああっ、あうんっ、いやぁあああああんっ!」

 突き入れられた指が、クチュクチュとアソコの中をかき回し始める。
 とても、指だとは思えないくらいに熱く感じる。
 それがアソコの入り口近くを擦るたびにビリビリと電気が走る。

「あうんっ! はんっ、やあっ、んふぅうううっ!」
「すっごーい。本当にエッチだね。……うわぁ、クリちゃんが真っ赤に勃起して顔出してるよ。これ、触ったらどうなっちゃうんだろうねぇ?」
「いやっ、やめてっ、やめてぇえっ! んひぃいぁあああああああああっ!」

 痛みにも似た刺激が、クリトリスから全身を駆け上がってきて、頭の中が真っ白になる。
 リリスの髪に拘束された体がビクビク痙攣するのが、まるで他人の体のような、そんな気すらする。
 ただただ全身が痺れて、頭がぼんやりして、わけがわからない。

「あらら、イッちゃったの?」
「そうみたいね。じゃあ、体も温まったでしょうし、次はこいつらの相手をしてもらいましょうか?」
「こい……つら……?」

 感じたくないのに無理矢理感じさせられて絶頂した私の耳に、ウェパルとゴモリーの声が聞こえた。

 ふらつく頭をなんとか持ち上げて前を見ると、私の周囲を大量の悪魔が取り囲んでいた。
 それも、とりわけ下等な悪魔ばかり。
 その触手を使って、本能的に女を犯すことしか考えていないような連中ばかりだ。

「それじゃ、こいつらにたっぷり犯してもらいなさい」
「……いやっ、いやぁああああっ!」

 この体さえ自由なら、この程度の悪魔はいくら数が多くても問題はない。
 だけど、四肢を拘束されて、おかしな薬を打ち込まれた今の状態だと……。

「いやっ、来ないでっ! やめてぇええええええっ!」

 悪魔の触手が伸びきたかと思うと、無造作にアソコの中に潜り込んでくる。

「あぁんっ! はうぅうううううんっ!」

 こんなにおぞましいのに、体は全く違う反応を見せていた。

 ズブズブと、内側を擦りながら太いものが奥まで入ってくると、快感が脳天まで貫く。
 アソコの入り口が痙攣しながら勝手に触手を締めつけて、喉からは喘ぎ声が零れる。

 そして、触手が私の中でズリッと大きく擦れた瞬間。

「いぎぃいっ! ……そっ、そんなっ!? ふぁああっ、イグイグイグッ! イッちゃうぅうううっ!」

 頭の中で何かが弾けて、あっという間に絶頂させられていた。
 だけど、アソコにねじ込まれた触手は動きを止めない。

「そんなっ!? まだイッてるのに! いぁあああああっ! だめっ、またイクッ、イッちゃうううっ!」

 カメラのフラッシュのように、目の前で何度も何度も光が弾ける。
 さっきの注射のせいで、私のアソコは触手が少し動いただけで簡単に絶頂させられてしまうくらいに敏感になっていた。

「ふぁあああっ! だめっ、またイクッ! あぁああああんっ、そんなっ、またぁああああっ! いやぁっ、イキたくないのに、またイッちゃううううっ!」

 立て続けに絶頂させられて、神経がすり切れるくらいに頭の中が熱くなってくる。
 それなのに、イキ続けるのが止まらない。
 体は、快感を求めるように触手を締めつけて離さない。

 そして、突然アソコの中に熱いものを感じて、それまでで一番大きな絶頂に達する。

「ああっ、出てる! 熱いのが私の中にっ……ふぁああああっ、またっ、イックぅうううううううっ!」

 ビクビクと体が痙攣したかと思うと、全身から力が抜ける。
 あまりの連続絶頂のせいで、体に力が入らない。

「あら、お嬢ちゃんったらぐったりしちゃって、そんなに気持ちよかったの?」

 嘲笑うようなリリスの声が聞こえて、私の体の拘束が解ける。
 だけど、もう自分では立ち上がることすらできなかった。

 それなのに……。

「……やだっ!? どうして!?」

 アソコの奥がジンジンと疼いて、体が火照ったように熱くなってくる。
 ズリュッと湿った音を立てて触手が引き抜かれると、かえってアソコが寂しくなる。

「そんな……こんなことがあるはず……!?」
「ふふふ、こいつらの触手が出す精液にはね、さっき注射してあげたお薬と同じ成分が含まれてるの。よかったわね、これで何度でもイクことができるわよ」

 私を取り囲む悪魔の向こうから、ゴモリーがサディスティックな笑みを浮かべていた。

「そんなっ! ……やだ、来ないでっ!」

 取り囲む悪魔が触手を伸ばしてきて、動けない私の両腕を絡め取ると、木立の間へと体を吊り上げていく。
 別な触手が両足に纏わり付いて、大きく広げさせる。

「いやぁ……やめてっ……いやぁあああああっ!」

 磔にされて吊されたような格好になった私に、無数の触手が襲いかかってきた。

* * *

 あれから、どれだけの時間犯され続けたんだろうか?
 ものすごく長い時間なのか、短い時間なのかもわからない。
 とにかく、その間絶頂させられっぱなしだった。
 アソコも、お尻の穴も、口も触手に犯され、大量の精液を注ぎ込まれた。
 胸にも、ふとももにも触手が巻き付き、体も、翼もドロドロの精液まみれになっている。
 そのどれもが、快感しかもたらさなかった。

 こんなにおぞましいのに、こんなの、心の底から嫌なのに。
 悪魔の精液と一緒に注ぎ込まれるあの薬のせいで、快感を感じるのが止まらない。

 いや……もうこんなのいや……。
 いやなのに……どうして……?
 ああっ! またイッちゃうううううううううっ!

「やめてええっ! こんなっ、こんなのっ、いやあああああっ!」

 もう、何度絶頂したかもわからない。
 ずっとイキっ放しだったから、数える意味すらないのかもしれない。

 もう感じたくないのに、何度でも絶頂させられる。
 心底おぞましいのに、体は快感を受け止めてしまう。

 さっきから、頭の中がオーバーヒートしたみたいにはっきりしなくなっている。

「綾ーッ!」

 誰かが、私の名前を呼んだ。
 なんだか懐かしく感じる声。
 すごく聞き慣れている声のような……この声はっ!?

「え、ああ、あ、だい…もん、さま?」

 声のきこえた方向にぼんやりと顔を向けると、そこに大門様が立っていた。
 その姿を見た瞬間に、意識がはっきりと戻った。

「あああ! ごめんさい大門様! もっ、申しわけありませんっ! ひぎいいぃ!」

 咄嗟に出てきたのは、謝罪の言葉。
 涙が溢れてきて、その姿が霞む。

「綾っ、どうしてひとりで出ていったんだ!?」
「すっ、すみません!でもっ、わたしっ、どうしても大門様を私の手で守りたくてっ!んんっ、あくうううっ!」

 私を咎める言葉に、謝ることしかできない。
 自分で勝手なことをして、ひとりで飛び出した挙げ句に、捕らえられてこんな姿を晒している。
 私が己の力を過信して、ひとりで解決しようとしたからこんなことに……。

「このバカがっ!」

 大門様が叱る声が私の胸に突き刺さる。

 それなのに……。

「んくううううっ! かはあああっ! ……いやあああっ! こんなのっ、嫌なはずなのにっ! 体がっ、体が熱いいいっ!」

 その間も触手は私のアソコを、お尻を犯し続け、望まない絶頂に押し上げられる。
 そして、注ぎ込まれる媚薬混じりの精液が、私の体を燃え上がらせていく。

 気がつくと、いつの間にか私の真下にシトリーが姿を現して、大門様と対峙していた。

 シトリーの声は小さくて、なにを言っているのかはっきりとは聞き取れない。
 だけど、大門様が怒ったようにシトリーを睨みつける。
 そして、私の方を見上げた大門様と目が合うと、私の心は罪悪感でいっぱいになる。

「いやあっ! 見ないでっ、大門様っ! わたしのっ、こんな姿っ! 見ないでええええっ! うっ、ぐっ、げぼっ、ぐぷっ!」

 こんな無様な姿を、大門様に見られたくない。
 触手に凌辱され、精液を注ぎ込まれて何度も絶頂を繰り返している姿なんか見せたくない。
 見せたくないのに。

 口の中に入ってきた触手が、精液をまき散らす。

「んぐっ、げぼっ! はあっ、ああああっ、まっ、またっ! いやあああああああああっ!」

 それと同時に、アソコの中とお尻でも同時に熱いものを注がれて、またも絶頂してしまう。

「はあああぁっ! いやぁ、大門さまぁ……」

 大門様の見ている前で何度もこんな姿を晒してしまって、涙が溢れてきて止まらない。

 その時、大門様の体から、濃密な魔力が白いオーラになって溢れ出てきたのが見えた。

 あれは……!
 また、大門様の封印が解けようとしている。

 大門様に向かって、シトリーがなにか言っている。
 シトリーが口を開くたびに、大門様から溢れ出る魔力の量が増え、密度も濃くなっていく。

「んんんっ、くはああああっ! もうっ、もうやめてえええっ!」

 シトリーが私の方を指差してなにか言うと、触手が激しく動いてまた絶頂させられる。
 すると、大門様を包む魔力のオーラがさらに濃密になった。

 もう、大門様から放たれる魔力の量はこの前よりもはるかに多くなっていた。
 もしかして、封印が完全に解けようとしているの!?

 だめです、大門様!
 それは、その男の挑発です!
 大門様の封印を完全に解くための!
 それがその男の目的。
 大門様の封印を解いて、なにかしようと企んでいるんです!

 そう叫ぼうとした私の口に、再び触手がねじ込まれる。

「ぐむぅっ! んっ、んんんっ、んぐぐぐぐぅうううううっ!」

 薬の影響で、喉の奥を突かれることすら快感に感じてしまい、涙をボロボロこぼしながら絶頂させられてしまう。

「待ってくださいっ、奥様、薫さん! いったい、どこに行くんですかっ!?」

 ……えっ?
 今、梨央ちゃんの声が聞こえたような気がしたけど?

 ……あれはっ!
 奥様と薫さんまで!?

 この場にいるはずのない梨央ちゃんの声が聞こえたような気がして下を見ると、奥様と薫さんがふらふらと歩いてくるのが見えた。
 そして、その後を追いかけるように梨央ちゃんまで。

 どうしてみんながこんなところに?
 それに、奥様と薫さんの体と大門様の体を繋いでいるあれはなに?

 赤く光るロープのようなものが、大門様の体と奥様たちを結んでいた。
 そのロープを通って、大門様の魔力が流れていくのがわかる。
 さっきまであんなに濃密に立ちこめていた魔力のオーラが、急速に薄れていく。

 あれは……あのロープ伝いに魔力を散らせてるの?
 そんなっ! あんな量の魔力を普通の人間が浴びたら!

 大門様の魔力を流し込まれた奥様と薫さんが、苦しそうに表情を歪めている。

 やめてっ! それ以上そんなことをしたら奥様も薫さんも壊れてしまう!

 えっ!? 今度はなに!?

 さっきまで、白い魔力に覆われていた大門様の体が青い光に包まれる。
 同時に、大門様が苦しそうに膝をついた。

 ……あれは、封印術?

 大門様の魔力が、なにかに集まっていくのを感じる。
 それはおそらく、なんらかの封印術。

 そんな……このままでは大門様が封印されてしまう!
 ああっ! 梨央ちゃん!

 大門様に駆け寄ろうとした梨央ちゃんが、悪魔に吹き飛ばされてピクリとも動かなくなったのが見えた。
 こんな状況なのに、私は触手に弄ばれて助けにいくこともできない。

「いやああああっ! もうっ、これ以上はっ! はぐううううっ! ううっ!」

 こんな……どうして?
 みんなが危機に陥っているのに、なにもできないなんて。
 そんなのはいや……。

 自分の無力さを思い知らされて、涙が止まらない。

「え? や? な、今度はなに? これは、いったい?」

 不意に、私の体がゆっくりと降ろされていく。
 地面に降ろされて、両手両足を戒めていた触手が解けた。

 急いでみんなを助けようと思ったのに、できなかった。

 大門様の方に駆けつけようとした足は、私から数歩離れたところに立っていたシトリーに向かって踏み出していた。
 そして、また一歩と……。

「おや、僕の操作がこんなに簡単に通用するとは。大門さん、あなたはこのお嬢さんをちゃんと道具で堕としてないんですか? 本当に甘い男ですね、あなたは」

 大門様に向かって、勝ち誇った笑みを浮かべているシトリーに向かって、足が勝手に歩いていく。

「いやあっ! なんで、体が? こんな!?」

 体が、私の思うように動いてくれない。
 考えられることはただひとつ。

 あの男が……シトリーが私になにかしている。
 さっきの、頭の中をかき回されたように感じたあの時に、なにか私の中に仕込んだとしか思えない。

 全てシトリーのせいだとわかっていても、いや、わかっているからこそ、自分の体が自分の言うことを聞いてくれないことに空恐ろしい恐怖を感じる。

「おいっ、綾!?」

 大門様が私を呼ぶ声が聞こえる。
 だけど、私の顔はシトリーの方を見つめたまま。

 とうとう、その目の前まで来て、膝をつく。

「いやっ、どうしてっ? 体が勝手にっ!?」

 私の腕が、シトリーのベルトを外していく。
 自分の体かしていることを、止めることができない。
 ただこうやって勝手に動くのを、見ることしか……。

「ああっ、そんなっ! こんなこと、私やりたくないのに!」

 グロテスクにいきり立ったシトリーのそれを剥き出しにさせると、私の体が立ち上がり、それを手に握ってアソコの入り口へと導いていく。

「よせっ、綾ーッ!」

 大門様の叫ぶ声が聞こえる。

 申し訳ありません、大門様。
 ……でも、もうどうしようもないんです。
 私の体なのに、私にはもうどうにもできないの。

「んっ、くううっ! あああああーっ!」

 抱きかかえられながら、シトリーのものをアソコの中に受けいれた瞬間、目も眩むような快感が全身を包みこんだ。
 さっきの、触手で犯されていた時のような、おぞましさや不愉快さを感じない。
 ただ、純粋に気持ちいい。

 この男は、憎むべき相手なのに。
 かつて、私から全てを奪い去り、今また、私の大切な人を奪い去ろうとしているというのに……。

「いやああああっ! どうしてっ、どうしてこんなに気持ちいいの!?」

 本当に気持ちよかった。
 こんなに憎い相手に犯されているのに、腰を動かすのが止まらない。

 ……犯されている?
 いや、私、自分から腰を動かしてる……。

「くううううっ! ごっ、ごめんなさい大門様! わたしっ、こんなことしたくないのにっ、こんなこと嫌なのにっ、でも、すごく気持ちいいのっ!」
「くくく、それは当然ですよ。僕のモノを挿れられたら今まで経験したことがないくらいの快感を感じるようにしていますから。あれだけのクスリを注入されて、感度が高まっている今ならなおさらでしょうね」

 耳許で、シトリーが楽しそうに囁く。

 やっぱり、全てこいつのせい。
 だけど、自分ではもうなにがどうなってるのかわからなかった。
 もう、腰が勝手に動いてるのか、気持ちよすぎて自分から腰を動かしているのかもわからない。
 それほどに強烈な快感を感じていた。

 でも、気持ちよくなればなるほど罪悪感に苛まされる。
 大門様に申し訳なくて、涙が止まらない。

「あああっ、ごめんなさい大門様! 私が勝手なことをしたせいでっ! んっ! あああああっ! も、申しわけありませんっ!」

 涙を流しながら腰を振ると、膣の中がいっぱいに擦れる。
 それが気持ちよくて、もう止められない。

「倭文! てめえ!」

 大門様の、怒りに満ちた声が響く。
 いったん希薄になっていたその魔力が、瞬間的に膨れあがるのを肌で感じる。

「へえ、もうだいぶ封印が進んでいるはずなのに、まだそれだけの力が出せるとは、本当にあなたの力は素晴らしいですね」

 片手で私の乳房を弄びながら、シトリーが余裕たっぷりに応える。

「んくうううううっ! いやあっ、こ、こんな男のがどうしてっ、気持ちイイのっ! あああっ、大門さまっ、もっ、申しわけありませんんんっ! わたしっ、わたしいいいっ!」

 こんな男とセックスして、胸を揉まれて、私はこんなに感じている。
 大門様が見ている前で、こんな……。

「倭文っ、てめえだけは赦さねえっ!」

 また、大門様の魔力が大きく膨れあがった。
 こんなに濃密な魔力を、こんなに大量に。
 これが、大門様の本当の力……。

 こんな状態の私でも、強大な魔力をひしひしと感じる。

 そこに、シトリーが冷静に言い放った。

「いいんですか、そんなことをして? お嬢さんたちも無事ではすみませんよ」
「大丈夫だっ! 綾は傷つけずにおまえだけを消してやる!」
「ああ、僕が言っているのはこの天使のお嬢さんじゃありません」
「なんだと!?」
「そんなに魔力を放出したら、そちらのお嬢さん方が保たないと僕は言っているんです」

 そう言うと、シトリーは私の顎を掴んで横を向かせる。
 その先に、白目を剥いて苦しむ奥様と薫さんの姿があった。

 奥様! 薫さん!

「幸! 薫!」

 大門様が奥様と薫さんの名を叫ぶ。

 その瞬間にまた大門様の魔力が増大する。
 だけど、それは片っ端から奥様たちの方へと流れ込んでいく。

「「ぐあああああああっ!!」」

 苦しそうなふたりの呻き声が聞こえる。
 あんな無茶苦茶な量の魔力を流し込まれ続けたら、本当にふたりが壊れてしまう。

 すると、大門様の周りに漂っていた魔力の気配が、ふっと掻き消えた。

「ははははっ! 甘い、本当に甘いですね、大門さん。人間の女のひとりやふたり潰れたところで、自分が助かればいいじゃないですか。どのみち、あなたが封印されてしまえば彼女たちも無事ではすまないというのに」

 私を抱きながら、シトリーの耳障りな笑い声が響く。

「くそっ! くううぅ……」

 ……ああっ!
 今の、弱々しい呻き声は!?
 大門様の魔力だけじゃない、命の気配さえもが、急速に弱まっていくのを感じる。

「まあ、彼女たちを犠牲にすることは、あなたにはできないとは思っていましたがね」

 ……そう、そのとおりだ。
 大門様に、奥様や薫さんを犠牲にするなんてことができるはずがない。
 でも、このままだと……。

「いやあああっ! だっ、大門様がっ、消えてしまうっ! 大門様っ、気をっ、確かに持ってくださいっ! んはああっ! いやああああっ!」

 このままだと、大門様は封印されてしまう。
 だけど、私の必死の叫びも虚しく、どんどんその声が弱々しくなっていく。

「く、し……と……り」
「おや、そろそろおしまいですか? 残念ですね。それだけの力を持っていながら、力の振れ幅が感情に左右されすぎなんですよ、あなたは。その力、僕ならもっとうまく使いこなして見せますから、どうか安心して僕に取り込まれてください」
「う……」
「んはあああっ! そんなっ、大門様っ! いやあああっ! んくううっ」

 大門様の気配がどんどん消えていく。
 そんなの嫌なのにどうしてっ? どうして私はシトリーに抱きついて自分から腰を振っているの!?

「んんんっ! 気持ちイイッ! いやっ、そんなのいやぁっ!」

 ズンズンと、アソコの中をシトリーの大きいので擦る動きが激しさを増していく。
 これは、自分の意志でやっているの?
 それとも、そうさせられているの?

 こんな……大門様が消えてしまうというのに。
 私の一番大切な人が、大門様が……。
 ……え? 大門様?

 その時、私は恐ろしいことに気づいた。

 大門様の存在が、薄れていっている。
 それは、実際に大門様の気配が消えようとしていることではなくて、私の中での大門様の存在そのものが小さくなっているような気がすることを意味していた。
 大門様への想いが、どんどん薄まっていく。

 その代わりに、今、自分を抱いている男のことが膨れあがっていく。
 この男は、シトリーは私にとって仇のはずなのに、愛おしいとすら思えてくる。
 そんなことはあり得ないというのに。

「んああああっ! イイっ、イイのっ! シトリーのおちんちんがっ、ズンズン響いて気持ちイイのーッ!」

 シトリーのことを愛おしいと思った瞬間、快感が一気に跳ね上がる。

「んんっ、すごいっ、すごいのっ! ああああっ、もっと、もっと激しくしてええええっ!」

 もう、はっきりと自分から腰を動かしていた。
 自分からしがみついて、そのおちんちんを貪る。

「ああっ、イイわっ! シトリーのおちんちん、大門様のよりも、ずっと気持ちイイっ! ああっ、こんなに気持ちイイなんてっ! んくうっ、ねえっ、シトリーっ、もっと奥まで突いてえええぇっ!」

 本当に、シトリーのおちんちんは大門様のよりも気持ちいい。
 え? 大門様って?
 ……しっかりして! 大門様は私のご主人様でしょ!
 でも……私のご主人様は、今、私を抱いてくれているこの人のような気が……。
 そう、この人が、シトリーが私のご主人様。それでいいじゃない。
 大門様は、もう過去の人。
 そもそも、大門様ってどんな人だったかしら?

 もう、私の中からその人への想いは完全に消え去っていた。
 今あるのは、私を気持ちよくしてくれているこの人への想い。

「あぁんっ! シトリーのおちんちんでズボズボされてっ、すごく気持ちいいっ!」

 不意に、夢中になって振っていた私の腰にシトリーが手を当て、動かないように押さえ込んだ。
 驚いて顔を上げると、不機嫌そうにこちらを見つめていた。

「なんだ? 下僕の分際で、ご主人様にそんな口の利き方をしていいのか?」

 そうだわ!
 この方は、私のご主人様。
 私はこの方の下僕なのに、なんて失礼なことを言ってたのかしら!

「申し訳ございません、シトリー様! どうか、お許しくださいませぇええ!」
「ふん、いいだろう。ただし、今の僕はシトリーじゃなくて、倭文淳(しとり じゅん)と名乗ってるんだけどな」
「はいっ、はいっ、倭文様ぁああっ!」
「ところで、本当におまえは僕の下僕になったのか? さっきも、かつての天界と魔界の大戦の時も、あんなに僕の下僕になるのを拒んでいたじゃないか」
「もっ、申し訳ございません! 私が本当に愚かでした! ですから、どうかお許しください!」

 本当に私はなんて愚かだったんだろう?
 倭文様に抗い、拒むなんて。
 身の程を知らない愚か者の振る舞いを、どれだけ重ねてきたことか。
 自分のしてきたことを思い出すと、このまま捨てられてしまうのではないかと思って怖くなる。

 おそるおそる様子を窺っていると、倭文様が口を開いた。

「だったら、全てを僕に捧げて、心の底から僕の下僕になると誓うか?」
「はいっ、誓います! この体も心も、私の全てを倭文様に捧げます! 私は未来永劫、倭文様のものです! 倭文様の下僕です!」

 倭文様に捨てられたくない一心で、必死に誓いの言葉を述べる。

 そして、息を呑んで倭文様の答えを待つ。

「いいだろう。おまえを僕の下僕にしてやる」
「ありがとうございます! ……あっ、はぁああああんっ!」

 私の腰を押さえ込んでいた手を離すと、今度は倭文様の方から腰を動かして私の中を突いてくださった。
 私の中で倭文様のおちんちんがいっぱいに暴れ回って、たちまち快感がこみ上げてくる。
 倭文様のものになった喜びと、アソコの奥を突き上げられる快感で満たされて、私も倭文様に抱きついて腰をくねらせる。

「どうだ、僕の下僕になった気分は?」
「はいぃいいいいっ、さっ、最高です! ふぁあああっ! 倭文様のおちんちんが奥にゴツゴツって当たってっ、本当に気持ちいいですぅうううっ!」
「そうかっ! 実はおまえの腰の振り具合があんまり激しかったからな、僕ももうそろそろ出そうなんだけどな」
「どうぞっ、どうぞ出してください! んふぅううううううっ! 倭文様のものになった証を、綾の中にいっぱい注ぎ込んでくださいませぇえええっ」

 倭文様に精液を注いでもらえる期待に、アソコがきゅうって締まるのがわかる。
 それでも腰を揺すると、意識がプツプツと飛ぶような感じがする。
 私は、完全に下僕モードになって、自分のことを綾と呼びながら、夢中で腰を振っていた。

 ああっ、倭文様もそんなに腰を動かしたら、本当に飛んじゃう!

「行くぞ!」
「はいいぃっ、きてくださいっ! ……ああっ、きてるぅうううううううっ! 倭文様の熱いのがっ、綾の中にっ、でてますぅうううううううううっ!」

 ぎゅっと抱きしめられて、精液が迸るのを感じた。
 今日は何度イッたのかもうわからないけど、倭文様に射精していただいて、間違いなくその日で一番の絶頂に導かれる。

「ん……ああ、綾は……倭文様の下僕なって、本当に幸せですうぅ……」

 膣の中が温かい精液で満たされていくのを感じながら、自分が倭文様のものになった幸せを噛みしめていた。

* * *

「綾、そいつをこっちに持ってきてくれ」

 あれから、さらに2度も私の中に精液を注いでいただいてから、倭文様がそう命じられた。

「かしこまりました」

 私は、数歩先に転がっていた青い宝石を拾い上げる。

 それには、かつての私の主が封印されていた。
 だけど、なんの感慨も湧いてこない。
 たしかに、その宝石に封印されているものがかつて私の主人だった記憶はあるものの、実際にはもうその面影すら思い浮かべることができなかったし、そもそもかつての主のことなんかどうでもよかった。

 今の私には、なによりも大切なご主人様がいるのだから。

「どうぞ、倭文様」
「ああ」

 倭文様のところに戻ると、跪いて恭しくその石を捧げる。

 その石に封印されたものを取り込むと、倭文様は神にも勝る力を手に入れることになる。
 その瞬間を、私は感無量の思いで見守っていたのだった。

* * *

 そして、1年と数ヶ月が経って。
 魔界の全てと、神に勝る力を手にした倭文様が天界との戦端を開いてから、もう1年以上が過ぎた。

 その日も、天界との戦闘で女天使を4人捕らえた私は、ご褒美に倭文様に抱いてもらっていた。

「あん……倭文さまぁあああ……」

 ベッド際に腰掛けたシトリー様に抱きつくと、大きく足を広げる。
 倭文様に抱いていただけると思っただけで、私のアソコはもうぱっくりと開いて、トロトロと蜜が溢れてきているのが自分でもわかる。

 その、逞しいおちんちんに手を添えて割れ目に来るように場所を調節すると、そのまま一気に腰を沈める。

「んんっ…………んはぁあああああっ!」

 ああ……倭文様の大きなおちんちんをアソコいっぱいに飲み込む瞬間の、この感覚。
 いつものことだけど、それだけで軽くイッてしまう。

 だけど、もちろんそれだけで終わるつもりはない。

「あふぅううんっ! 倭文様の逞しいおちんちんが、奥まで届いてますううぅ……!」

 はしたないくらいに大きく足を広げると、倭文様のふとももと私のふとももがぴったり当たって、おちんちんが奥まで届く。
 自分がそんないやらしい格好をしていることに、ますます興奮してくる。

「ふん、僕のをすっぽりと飲み込みやがって。いやらしいまんこだな」
「はいいぃ……綾の体は……綾のおまんこは倭文様専用ですからぁ……どうぞ、このいやらしい体を存分にお使いくださいませぇええ……」

 倭文様に抱きついて、ゆっくりと腰をくねらせる。
 それだけの動きで、蕩けてしまいそうなくらいに気持ちよくなれる。
 本当に、私の体は倭文様専用だから、なにをしてもこんなに気持ちいいの。

「ふっ、殊勝なことを言うじゃないか。まあ、今日はおまえの戦果に対する褒美だからな、たっぷりと可愛がってやるぞ」
「ありがとうございます、倭文様。……ぁんっ! はうっ、あっ、あぁんっ! ふあっ、倭文様のおちんちんがズボズボいってますぅううっ!」

 下から突き上げられて、たちまち熱い快感のうねりに飲み込まれていく。

「ふあああっ! いいっ、すごく気持ちいいですっ! こうやって倭文様のおちんちんで突かれているときがっ、一番幸せですぅっ! 綾はっ、倭文様の下僕になってっ、本当によかったですっ! あぁああっ、倭文さまぁあああっ!」

 倭文様にしがみついて、その動きに合わせて腰を揺すると、私の漆黒の翼がバサバサと震える。

 強大な力を手に入れて溢れだした倭文様の闇の気をたっぷりと浴びて、私の翼はこんなにも真っ黒になってしまった。
 でも、今はそれが誇らしい。
 それは、私がそれだけ倭文様のものになったっていうことだから。

 ……やっぱり、サラ姉さまの言ったことは正しかった。
 倭文様の下僕になるのは、こんなに素晴らしくて、幸せなことなのに。
 それなのにあの時、私は倭文様の下僕になることを拒んだばかりか、この手で姉さままで殺めてしまった。

 それだけが今でも悔やまれる。
 もっと早く倭文様のものになっていれば、サラ姉さまと一緒にお仕えすることができたのに。

 ごめんなさい、姉さま。
 こんな愚かな妹で。

「どうした、綾? 動きが鈍くなってるぞ?」
「あっ、も、申し訳ございません! その、サラ姉さまのことを思い出していて……」
「サラのことを?」
「はい。あの時、姉さまに従ってもっと早く倭文様のものになっていたら、あんなことにはならなかったかもしれないと思って……」
「ふっ、それなら気にするな。あの時は、僕もまだまだ力が足りなかったしな。それに、そう思うのならサラの分まで僕に尽くせ。その力と、その体でな」
「はいっ、はいいいいっ! ……あぅんっ! ああっ、倭文様っ、そこがっ、すごくいいです!」

 ありがたい言葉と同時に、倭文様の動きがどんどん激しくなっていく。

 サラ姉さま……。
 倭文様は、本当にお優しい方です。
 ですから、私、これからも私の全てを捧げて倭文様にお仕えします。
 姉さまの分まで……。

「はんっ、ああっ! んっ……倭文様もっ、どうか綾のおまんこでもっともっと気持ちよくなってくださいませ! はぁんっ、ぁんっ!」

 心の中で姉さまに誓うと、私は倭文様にもっと気持ちよくなっていただこうと淫らに腰を振り続けた。

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