オイディプスの食卓 第9話

第9話 メイド人形の夜

 優惟姉さんと一緒にお風呂から上がって、そのまま姉さんと一緒に勉強し、夜も更けてきたところで花純さんの部屋をノックする。

「んー」

 気の抜けた声とゲーム音が返ってくるだけで、ドアが開く気配もない。
 おそるおそる開けてみると、花純さんはベッドの上に寝そべってゲームしているところだった。

「なんか用?」

 画面から目を離すことなく、つまり僕にパジャマのお尻を向けたまま花純さんは言う。

「あー、いや、日記」

 僕が緊張しながら用件を伝えると「まだ書いてない」とつまらない返事が返ってくる。
 じゃ……あとで、と僕は退室しようかと思うのだけど、初めて入る花純さんの部屋が珍しくてついつい見渡してしまう。
 シンプルな優惟姉さんの部屋とは対照的に、壁にはV系バンドのポスターや、友だちと撮ったらしいプリクラや写真がべたべたと飾られたボードが貼られ、やたらと情報量の多い壁になっている。
 床も結構散らかっていて、ファッション系の雑誌や小物、脱いだあとの服とかも放置されたままだった。
 だらしないな、と思う反面、女の子らしい色彩あふれたレイアウトと匂いに、なんだかドキドキする。
 それに、あまり感情を表面に出す人じゃないからわかりずらいけど、僕の精液プレゼントは着実に彼女との距離を縮めているらしく、僕を『部屋に上げてもいい』くらいに家族と認めてくれたようだ。
 ちょっとした感動だ。とうとう僕は未踏の地に足を踏み入れたぞ。花純さんにぐっと近づくことができた。
 それに、彼女がやっているゲーム。
 一昔前のゲーム機で、プルバック式のミニカーを題材にしたユルいゲーム。ちょっとRPGっぽい要素もあるやつ。友だちの家でよくやっていたから、すごく懐かしい気持ちになった。

「それ、知ってる。小学生のときにやったことあるよ」

 弾む会話を期待しながら花純さんに話しかける。正直、画面上の彼女の走りっぷりもあまり上手じゃない。だから僕でもアドバイスできると思ったんだ。
 彼女は、聞こえていないのか返事もしてくれなかった。

「レトロゲーとか好きなの? 僕も結構古いの知ってるよ。それ、確かウィング付けたらジャンプの飛距離が伸びるんだよね。で、そこの崖の上に飛んだら秘密のショップがあって――」
「うっさい。用がないなら出てけ」
「あ……」

 すげなく会話をぶつ切りにされる。
 距離の取り方がわかんない。ゲームを通じて共通の話題が生まれると思ったのに、花純さんは全然そんな気もないみたい。
 なんだか寂しいというか……腹立たしいような気持ちに勝手になってしまう。その子どもみたいに小さい小さいお尻を、ペチンと叩いてやりたい衝動に駆られた。
 もちろん、そんなことしないけど。
 むしろ、どうしても一緒にゲームで遊ばせてもらうけどね。

 ――キィン

 コントローラーを握ったまま花純さんは静止する。画面上の花純さんの自車、黄色いマーチも街中をぶらぶらしている状態で止まってる。
 さあ、これから楽しいゲームタイムの始まりだ。
 今夜は姉弟水入らずで遊ぼうよ。

「花純さん、僕は『コックピット型コントローラー』だ。そのゲーム機専用のコントローラー。コックピットにコントローラーを持たせて、花純さんはここに跨がり、腰の動きで操作する。そうするときっと今より上手に自分の車を走らせられるよ。いい? この部屋にいるのは花純さん一人で、僕はただのコントローラーだ。そして、コントローラーのアドバイスに従って操作してごらん。きっと上手くいく」

 じっと画面に光のない瞳を向ける花純さんに囁く。
 そして、催眠術を解除する。
 花純さんは、目をぱちくりさせて、ぼんやりと僕の方を向いた。

「……あ、コックピットじゃん。らっきー」

 おもむろに立ち上がって僕の腕を掴む。
 無防備に顔が接近してドキドキしたけど、今はメーカー純正の周辺機器にすぎない僕は無言で彼女に引っ張られ、そしてベッドの上に仰向けにされる。
 手にコントローラーを持たされると、花純さんは僕のお腹の上でガバっと足を広げ、そのままボスンとお尻を落としてきた。

「うっ!?」

 強烈なヒップアタックに息が詰まる。「あれ?」って感じで振り返る花純さんに、僕は「もっと前だよ」と声をかける。
 僕のアドバイスには従うこと、と彼女には暗示をかけているのでしゃべるコントローラーには疑問を持たず、お尻を前にずらして「このへん?」とまた振り返る。

「そう、そこ」

 僕のオチンチンの上に腰掛ける格好の花純さんだけど、当然、そのことを疑問に思う様子もない。
 彼女のパジャマ越しに下着の線が透けている。ていうかお尻、すごく小さい。僕より小さいかも。なのにしっかり丸い形が出来てる。そのお尻と、アソコが、ちょうど僕のオチンチンを挟んでいる。

「えーと……これでどうするの?」

 義弟のオチンチンに跨がって、太ももに手を添えて体を支え、コントローラーも握らずに画面を睨みながら、花純さんは首を傾げる。
 確かに「どうすんのこれ」状態だ。でも、彼女の横から画面は見えている。あとのことはこのコックピット型コントローラー略してコックローラーに任せて欲しい。

「腰を上下、あるいは前後に揺することで車は前進する」
「ん、こう?」

 クイ、クイ。
 ぎこちなく腰を動かす義姉の花純c13才。彼女の黄色いパジャマのお尻と、水色パジャマの僕のオチンチンがぐにぐにと接触する。

「はぁ……」

 むずむずする快感に酔いながら、ゆっくりと車を走らせる。

「お、動いた」

 ○ボタンを押して車をスタートさせる。自分の腰さばきで動いたと思ってる花純さんは、嬉しそうに腰をピョンピョンさせた。バネの効いてるベッドで良かった。刺激が強すぎて下手したら痛いくらいだけど、花純さんの体は小さく軽い。
 上下に前後に、何も知らない彼女は僕のオチンチンレバーをしごいてはしゃぐ。
 
「曲がるときは腰をその方向に回転させる」

 特に必要のない機械ボイスっぽい小芝居で、僕は花純さんにチュートリアルする。「こう?」と花純さんは不器用に腰を回転させる。方向キーを使ってカーブする僕。「あはっ」と上手くいったことに喜ぶ花純さん。

「よーし、そこのザコと勝負しろ」

 サーキット近くの車に話しかけ、レースを開始する。レベル的にはたいしたことのない相手だ。花純さんのマイカーのスペックはわからないけど、初期状態に近いとしてもたぶん勝てるだろう。
 花純さんもワクワクして身を乗り出す。僕の太ももに手をかけて、お尻がぷりっと突き出される。
 それだけでもとても可愛らしく扇情的な光景だけど、カウントが始まる前に、じつはこのコックローラーから大事なお知らせがあった。

「スタートカウント中に激しく腰を前後させると、ロケットスタートができます」
「なにぃ? それを早く言ってよ!」

 シュッシュッと、花純さんのお尻が忙しく往復する。
 両手でしっかりと僕の太ももを握り、お尻に力を込めて懸命に。

「えいっ、えいっ、んっ、んっ!」

 ギシ、ギシ、ギシ、ギシ、ベッドが軋む。
 強烈な刺激に僕は思わずお尻を締める。
 あぁ、すごい。
 引き締まった花純さんのお尻が高速ムーブして、僕のオチンチンがどんどん固くなっていく。

「ターボ充填されてきた! えい、えいっ、あんっ、んっ!」

 僕のオチンチンが固くなるのを何だかグッドニュースと勘違いした花純さんはますますスピードアップする。というより、じつはまだカウントは始まってもいないんだが。
 ○ボタン押してカウント開始。ますます花純さんがヒートアップする。お尻にパンツ食い込んでいくのがパジャマ越しでもはっきりわかんだよね。スタート前だというのにゴールしちゃいそうだよ。僕のオチンチンの上で、あの花純さんが息を乱して腰を振ってるなんて。

「いっけぇぇぇぇッ!」

 やばい、イクかと思った。
 元気いっぱいな花純さんの下で、危うくスタート前にシャンパンシャワーしちゃうとこだった僕も、なんとか無難なスタートを切る。

「おぉ、速ぇ」

 ちなみにこのゲーム、カウントGOの瞬間にタイミングよくアクセルを踏むと若干だけどダッシュが効く。
 カウント中にアクセル吹かしっぱなしの調子こいた素人では気づかない裏技だ。そして間違いなく花純さんも吹かしたい派だろう。気持ちはわかるが、ここで吼えるのは情弱だけだ。
 などと小さな優越感に浸っていたら、何の前触れもなく、花純さんがパジャマのお尻に手を突っ込んできた。
 そして、ぎょっとする僕の前で食い込んだパンツを直し始める。ちらっとパンツ本体が見えた。濃いオレンジ色の下着。その食い込みを直す爪先が僕の先端を擦っていく。もちろん、そんなことも気づかずに花純さんはモゾモゾとお尻を動かす。

「あ、カーブカーブ!」

 思いがけないボーナスに目を奪われていたら、いきなり花純さんはお尻を右方向に回転させてきた。
 僕もうっかり画面から目を離していたので、急いで方向キーを変えた。

「あ、あ、はみ出ちゃう。ダメ、ダメ」

 ぐりぐり。強く腰を回転されて思わず呻いてしまう。
 無情にもコースアウトする黄色いマーチ。その後ろ姿と見事にリンクする黄色いパジャマの丸いお尻を回転させて、「あぁ~ん」と残念な声を上げる花純さんに、卑猥な想像をしてしまう。

「早く、早く」

 ぴょんぴょんと僕のオチンチンの上を跳ねるお尻。
 無邪気なおねだりをするドライバーのために、僕は体勢を立て直して再びスタートを切る。

「いくぞー。んっ、んっ、んんっ」

 持ち前の負けん気は、逆境の時こそ本領を発揮する。
 前後に、上下に、左右回転と自身の体をレバースティックに変えて花純さんはゲームに熱中していく。

「んっ、んっ、はっ、はっ、んっ、いいっ、いいよぉっ、そのまま、抜け、抜いちゃえ…ッ!」

 じりじりと迫る先行車の影。「いい」とか「抜ける」とかの単語にエッチな想像を膨らませつつもコーナリングはタイトに決める。
 僕の操縦するマーチは、1周目を終える寸前でライバル車を抜いた。

「やったぁ! はぁ、はぁ、もう、すぐ食い込む……っしょ」

 そして、花純さんがお尻に手を突っ込むボーナスタイム。
 僕はさっきと同じ場所でスピンした。

「どうしてぇ!? もう、早く、早く!」

 本当に申し訳ない。また体勢を立て直してリスタートする。焦る花純さんの腰はますます早くなる。負けじと僕もテクニックを駆使して走る。

「はっ、はっ、んんっ、んっ、もう少し、もっと、もっとだ!」

 最終ラップでライバル車を追い抜く。「やったぁ!」と叫んだ花純さんの腰がぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「いけ、いけ、もっと、もっと、んっ、んっ、んっ、速く、んっ、もっとォ!」

 ぐいぐり、ぐるぐる。ぎこちなかった花純さんの腰さばきも急速に上手くなっていく。
 僕の腰を足で挟み、両手をついて体を支え、そして腰だけを器用に操り、上半身にブレがない。
 しなやかな体としっかりした体幹。やはり運動神経抜群か。波のように自在な腰使いだ。
 たぶん、花純さんはエッチも覚えたら上手いはず。というか、すごいエロい。子どもみたいに小っちゃなお尻がベリーダンスを踊ってる。花純さんの股間にぐにぐにとこね回され、僕のオチンチンはかんかんに熱くなっている。
 まさにコックローラー。僕じゃなくて、花純さんがコックローラーだったんだ。

「あんっ、んっ、もっと、もっと……はぁ、疲れる、これ……んっ、んっ、でも、負けない!」

 激しい動きにパジャマが下がっていく。パンツはほとんど見えちゃってて半ケツ状態。しかもそのパンツもお尻の割れ目に食い込んでる。
 もうやめて。そんな格好でお尻を振られたら、僕のV1気筒エンジンが保たないって。

「あぁん、もう、食い込む!」

 パンツとお尻の間に指を突っ込んで食い込みを直す花純さん。でもお尻は艶めかしくダイナミックに動くものだから、たちまち食い込んでまたツルリとした白いお肉を僕に見せてくれる。

「んんーっ、もう! んっ、んっ、いけ、いけ、早くいけ!」

 もうパンツ直すのはあきらめたらしい。お尻を出して花純ダッシュだ、花純さん。
 吹っ切れたヒップダンスはさらにいやらしく激しくて、完全に勃起した僕のオチンチンの上を大きく前後するものだから、僕のパジャマも下がっていく。
 オチンチン出ちゃう。花純のお尻の下で、僕のオチンチンがはみ出ちゃう。

「はぁ、はぁ、んっ、んっ、いけ、んんっ、もっと、あんっ、んっ、んっ、あん、やだ、もっと、早くぅ、んっ、んっ、んー!」

 コントローラーを握った両手の甲で、花純さんのお尻に触れる。僕もただの付属機器だ。花純さんは気にするでもなくお尻をひたすらに振り続ける。
 すべすべだ。ゴムで出来たボールみたい。この張りもすごいぞ。まさに未熟の桃。可能性の種子。
 かつて彼女のブルマになりたいと言ってた悪友の言葉を思い出す。
 バカなやつ。なるならコックローラーで決まりだろ。

「んーっ、んんっ、もう少しっ、あぁ、あぁんっ、いけ、いけ、いく、そのままっ、いっちゃえ、ん、いい、いく、いく……いっけぇぇぇぇぇぇ!」

 ゴール前のストレート。
 夢中になって腰を振る花純さんの下で、僕は震える指で、シュ、シュと、ティッシュを2枚抜き取った。

「いったぁぁぁぁッ!」

 圧倒的勝利でゴールラインと絶頂を迎える。
 ドク、ドクンとティッシュの中で僕のが暴れ、そのすぐ上では無邪気に喜ぶ花純さんのお尻がある。

「やった、やったっ」

 大嫌いな義弟が自分の下で射精とも知らず、はしゃいでダンスを踊り、お尻を左右に振っている。
 可愛いなぁ。思わずそんな感想を漏らしてしまう。普段はツンツンしてるくせに、こんなことで興奮して大喜びしちゃう子だったのか。
 いつか、一緒にゲーム出来たら楽しいんだろうな。
 そう思って眺めていたら、「ん?」と花純さんはダンスを止めて、鼻をスンスンと鳴らした。

「……精子?」

 そう言って、僕が手に隠しているティッシュに鼻を寄せてくる。僕が手を広げて見せると、ぱぁっと表情を輝かせた。

「やた、精子だ!」

 それを取り上げ、大事に両手で包む。
 小さな雛鳥を拾った子供みたいに。

「アイツ……いつのまに……」

 優しい微笑みだった。まるでラブレターでも読むように嬉しそうに精液ティッシュに目を細める。
 そっか。僕が見ている前では精液あげてもツンとしてるくせに、じつは見えないとこでこんなに喜んでくれてたのか。
 早く来ないかなぁ、花純さんのデレ期。
 
「しまっとこ」

 半ケツのまま、机の一番下の引き出しからプラスチックのビンを取り出す。駄菓子屋さんとかによくあったりする広口のビンだ。
 そこには丸まったティッシュが2、3個転がっている。僕の精液だ。

「へへっ」

 今ゲットしたばかりのティッシュをそこに入れ、混ぜるように揺らして匂いを嗅ぎ、花純さんは嬉しそうに微笑む。
 エサを隠す子リスみたいで可愛いけど、匂いを想像したら吐きそうになった。

+++ かすみのにっき +++

○月○日

 ぎりおとが部屋に来た
 日記がどうこうウザいこというのでソッコー追いだした
 そのあとゲームしてたらいつのまにかベッドにせーし置いてあった
 アイツもなかなかオシャレなことする

++++++++++++++++++

 さて、姉とゲームも楽しんだところで、そろそろ寝るとしようか。
 今日は綾子さんもいなくて寂しくなるかと思ったけど、催眠術遊びは充実していた。
 いやいやもちろん遊んでいるわけではなく、家族関係を考え直すための実験としてやっているわけだけども、まあ、正直言って欲望を満たしてるよね、催眠術によって。
 でも、別に姉さんたちを傷つけるようなことはしてないつもりだし。
 この調子でうまくいくよ。僕らは理想の家族になれる。その理想の姿っているのを、僕が催眠術で必ず見つけてみせ――

「……んんんっ……」

 キッチンでウーロン茶を飲んで2階へ上がろうとしたところで、両親の寝室からくぐもった声がした。
 綾子さんは不在のはず。ということは、これは不貞の音なんだ。
 耳を塞げ。足を忍ばせて2階へ行け。
 そう思いながらも僕の足は反対を向く。心臓がドンドン鳴って呼吸も乱れていた。あの夜、家族への希望を引きちぎった光景がそこにあるとわかっているのに、僕は身を沈めてそっと扉を開いていた。
 息を呑む。
 両親が愛し合うためのベッドの上にいたのは、獣のように汚らしく交わる男女だった。

「睦都美、鳴け。ここがいいんだろ? 鳴け」
「は、あぁぁぁッ、旦那様! そこです、睦都美は、そこが、あぁぁあぁぁッ! いいっ!」

 僕が命じてあつらえたヘッドドレスを髪と一緒にぐしゃぐしゃにされ、シーツに顔を埋めて睦都美さんが泣いている。
 乱れたメイド服。僕が着ろと命じたメイド服。それを父さんに肩から剥かれ、後ろから犯されていた。

「旦那様ぁ! あぁっ、ありがとうございます! 睦都美を、犯して、汚してくださって、ありがとうございます、ありがとうございますぅ!」

 彼女はいつもクールで表情も崩さず、うちの家庭に対して無関心な態度をとり続けている。そういう意味では父さんもまったく同じで、僕がこんなにも家族のことで悩んで行動しようとしているのにそのことに気づいている様子もなかった。
 なんだか、彼らはお互いのセックスにしか関心がないみたい。
 二度目に目撃した彼らの交わりは、最初に見たときほどの衝撃はなく、むしろ普段と違う彼らの表情と激しさが不思議で、僕は勃起しながらその様子をじっくりと観察した。
 これがセックス。
 ……セックスなのか。

『kirikiri舞』:おいおい親の寝室のぞくなよwwてか女中と不倫て殿様かよww
『kirikiri舞』:かなり複雑だね君んち。父親が家ん中で不倫してたらきついよね
『kirikiri舞』:せめてもの救いが息子の君がまともな人間だったことだよね
『kirikiri舞』:おこる気持ちもわかるけどさ。家族をだいなしにしてるの父だし
『kirikiri舞』:かと言って、父がいなけりゃ家庭も成り立たないからね。複雑だね
『kirikiri舞』:せっかくここまで上手くいってんだから焦ることないよ
『kirikiri舞』:お父さんは最後に考えよ。まず外堀から攻めよう。むつみさんとか
『kirikiri舞』:かんたんには上手くいかなくても、きっと良い方法あるから
『kirikiri舞』:セックスの問題って他人には割り込みにくいけど、家族なら大丈夫

 いつものプライベートチャットで、『kirikiri舞』はやけに熱く語っている。
 今さら父さんたちの不倫に傷ついたりはしていないんだけど、なんだか、彼女の書き込みだと、僕ってこんなに頑張ってると思われてるのかってそっちの方が驚いちゃう。
 というより、恥ずかしい。
 僕なんて、ただエッチなことして遊んでるだけなのに。
 なんだか腹立たしさすら感じる。上手くいかない自分に。
 そして少しだけ、凶暴な欲望が湧いてくる。
 僕の努力をあざ笑うようにセックスしている父さんと、睦都美さんに。

『kirikiri舞』:むずかしいと思うけどさ、子どもには。だって君は経験ないんでしょ?

 子ども。
 そう、やっぱり子どもなんだ僕は。まだ大人じゃなかったんだ。
 だって、セックスを知らないから
 催眠術を有効に使うといって、していることは――結局、家族にべたべた甘えているだけだもの。

『kirikiri舞』:つらいよね、まだ子どもなのにそんな大人の事情を抱えて

 子どもだから悪いんだ。
 甘えることしか知らないからダメなんだ。
 もっと違う……大人の愛し合い方もある。僕にだってできるはず。

『kirikiri舞』:みんなより、君の方がずっと大人だと私は思ってるけどね。じゃ、おやすみ

 体が燃えるように熱かった。
 ドクドクと濃い血液がポンプのように巡り、僕の神経を昂ぶらせていく感じだった。
 固くそそり立った股間が、さっき優惟姉さんや花純さんで放出したにも関わらず、鎖に噛む獣のようにパジャマの檻からの解放を要求していた。
 そして僕は……メイド人形になった睦都美さんのお尻を、思い出していた。

 深夜3時。家は静まりかえっているけど、どうしても眠れない僕はリビングをうろうろしている。
 全身に熱を感じる。病気とかそんなんじゃなく、エネルギーとして熱を。発散しなければ肉体が蒸発しちゃうんじゃないかってぐらいの。
 そして僕は、睦都美さんの部屋の前まで来ていた。
 さっきまで父さんに抱かれていたのは知っている。でも、あの寝室には父さんしかいないことも僕は覗いたから知っている。
 彼女は、自分にあてがわれたこの一番奥の部屋で寝ているんだ。抱かれたとしても夫婦ではないから。
 ドアノブを掴んで回す。ガチリとノックされていた。でも問題ない。僕はポケットからコインを取り出した。
 問題ない?
 僕は何をしようとしている?
 ふと疑問もよぎったけど、もうすでに指はコインを弾いていた。

 ――キィン!

 冷えた闇の中で澄んだ音が響く。なんとなくだけど、鳥の鳴き声に似ていると思った。
 そういや、幸せの青い鳥は家の中にいたんだっけ。でも、さすがにそれとこれとを結びつけるほど僕は厚かましくはない。

「睦都美さん、聞こえる? 聞こえたらここを開けて」

 しばし待つ。
 物音ひとつ聞こえない中で、唐突にドアノブが金属的な音を立て、そして、ゆっくりと開かれた。
 ぼんやりと唇を開きっぱなしにした睦都美さんが、闇に溶け込んだ瞳をこっちへ向けていた。

「こんばんは、睦都美さん。ちょっとおじゃましますね」

 深夜にずうずうしく女性の部屋を訪れた僕を、睦都美さんは半身をずらして受け入れてくれる。
 開けっ放しのドアを閉めるように彼女に言って、僕は部屋の電気を付ける。
 ぱちぱち、まぶしい光に睦都美さんのまぶたが動く。

 ――キィン!

「そのままで、睦都美さん。あなたは今、僕の命令しか聞こえないお人形さんなんです」

 再び睦都美さんの瞳が蕩けていく。
 僕より背の高い彼女の前につま先立ち、さらに命令を重ねていく。

「いいですね? あなたは今、お人形です。メイド人形です。おや、でも大変だ。パジャマなんか着ている。これじゃメイド人形らしくない。すぐに着替えましょう」

 睦都美さんはふらりと頭の方向を変えて、クローゼットへ向かっていく。
 そして、僕がいることにも構うことなく、パジャマのボタンを外していく。
 シルクのパジャマが床におちて、きれいな背中があらわになった。下も脱いで下着一枚の姿になり、クローゼットのメイド服を選んで身につけていく。

「こっちへ来て」

 やがてメイドさんにコスチュームチェンジした睦都美さんを僕は招き寄せる。
 マネキンみたいにきれいな顔。マネキンみたいに従順な肉体。そして、マネキンの心は何をしても傷つかない。

「スカートをたくし上げて。自分で」

 僕の指示に逆らうことなく、躊躇もせずにスカートの端を摘まんで持ち上げる。
 グレーのタイツに包まれた長い足。その上の小さなおへそ。
 真夜中に、雇い主の息子に命令されるがまま下着を晒して、睦都美さんは無表情に前方を見つめている。おかしな光景だなって思う気持ちと、だからこそ、この異常な夜に興奮を抑えきれない自分を感じる。

「そのまま動かないで」

 ストッキングみたいに繊細な生地じゃないタイツは、簡単に脱がせることができた。足首にそれを丸めたまま、僕は睦都美さんのパンツも脱がせた。釣鐘のような形をした陰毛があらわになった。
 優惟姉さんよりは濃いけど、綾子さんとはどっちかなってぐらい。ここって、人によって形もそれぞれなんだ。
 そんなことに感心しながら、片方の足を持ち上げるように命令する。着替えてもらったばかりのタイツと一緒に下着も抜き取ってしまった。
 すらっと長い足を開いて、スカートをたくし上げて空を見つめる睦都美さん。メイドさん人形ノーパンver.みたいな感じ。
 深夜3時の奇行だ。僕も何だかいつになく興奮している。

「ベッドの上に乗って。四つんばいになって」

 ギシ。彼女のシングルベッドが軋んだ音を立てる。1階の奥の部屋だから父さんに聞こえることはないだろうとは思うけど、それでも胸がドキドキした。
 つるんとしたお尻。生のお尻。これが睦都美さんのお尻か。すごくきれいだ。
 大きな牛乳プリンみたいに白くて柔らかそうで、くすんだ色をした穴がお肉を集めて絞ったみたいにシワを寄せている。
 綾子さん以外の人のアソコを見るのは初めてだけど、ここもくすんだ色をしていて、ひらひらした肉がヒダみたいに垂れている。
 さっきまでセックスしていたから、めくれちゃってるのかな? それとも女の人って最初からこういう形なんだろうか。
 綾子さんのもじっくりと観察させてもらったわけじゃないから詳しいわけじゃないけど。

「じっとしてて。あなたは人形だ。何も考えなくていい。それはとても楽な状態だ。僕の命令だけ聞いていればいい。それはリラックスして気持ちの良い状態だ。暖かい。柔らかい。涼しい。きっちりしている。あなたにとって過ごしやすい環境を思い浮かべてそこに体を沈めるといい。それが今の状態だ。それがメイド人形だ。気持ちいい。心地よい……今、僕の手があなたのお尻に触れる。ホラ、わかるでしょ」 

 なめらかなお尻に触れる。人形にはない体温。でもこの人は今、僕の人形なんだ。そのことをよく言い聞かせておかないと。

「その感覚はもう消える。あなたの皮膚は人形の殻になる。ヒトの手が触れてもわからない。人形は痛がらない。くすっぐたくない。ただの素材でしかない。あなたの皮膚は作り物だ。だから何も感じない。あなたの心は僕の手の中にある小さな幸せの箱の中。そう、心はそこに逃げ込んで、幸福な夢を見ていましょう。そして体は、僕に全部委ねてしまいましょう。体はもう別の物。人形。何も感じない。体は何も感じない。心は小さな箱の中。体とは別の場所で、幸せな夢を見ている」

 なでなでと優しくさすってから、いったん手を離し、いきなりつねってやる。
 睦都美さんは四つんばいのまま、微動だにもしなかった。もうこれで僕の人形。何をしても僕だけの秘密だ。
 でも念には念を込めて、保険もかけておこう。

「睦都美さん、キーワードを決めましょう。僕が『メイド人形が欲しい』と言ったら、いつでもあなたは人形になる。何も感じない、何も考えない、僕に従う人形だ。体は僕に預けて為すがまま。心は別の場所で幸せだから問題ない。あなたは人形で幸せだから、命令されればすぐに人形になってしまう。僕が『メイド人形欲しい』と言ったときだ。そして、『もうおしまい』と言ったら人間に戻る。いいね? 『メイド人形が欲しい』で人形になり、『もうおしまい』と言ったら人間に戻らないといけない。それが僕たちのルールだ。ちゃんと覚えたね?」

 あえて試しておく必要がある。睦都美さんに課したルールは特殊なものだ。
 例えばコインの間に合わない状況で誰かに見つかったり覚醒したりする危険もあるかもしれないし。

「『もうおしまい』」

 一応コインも用意しながら、睦都美さんに解除のキーワードを囁く。
 ぼんやりとした視線に徐々に意識が戻り――パッと目を見開いて、僕の方を見る。

「蓮さん? ……これ、え、何を、いったいこれは――」
「『メイド人形が欲しい』」
「あっ……」

 また瞳に光が失われていく。四つんばいの顔をこちらに向けたまま、驚きの表情もそのままに睦都美さんは止まる。

「『もうおしまい』」
「……は」
「『メイド人形が欲しい』」

 何度も人形と人間を繰り返した。
 睦都美さんは僕の言うとおりに自分自身を変化させる。人形の彼女。人間になって驚く顔。
 どちらの彼女もきれいだった。
 だから、僕は人形を解除した瞬間を狙って、彼女の唇を奪っていた。
 
「むぐっ!?」

 僕の口の中でくぐもった悲鳴を上げる。その中に舌を入れてぐるぐるといじる。
 
「んんっ!」

 睦都美さんは顔をよじって僕のキスから逃げる。
 でも、僕は彼女が逃げ出す寸前に、
 
 睦都美さんは僕の顔と自分の口の中に入ってるものを見て、また目を丸くした。

「むぐぅっ!?」
「『メイド人形が欲しい』」

 一言で、とろりと力を失うまぶた。
 柔らかい口内を指でほじる。人形の睦都美さんはピクリとも反応しない。
 僕のきれいなお人形さん。

「とっても可愛いですね、睦都美さん」

 指を引き抜くとよだれが糸を引いた。
 それをティッシュで拭い、口を閉じさせて前を向かせる。
 お馬さんスタイルの睦都美さん人形の後ろに回り、再び露わな女性器を見る。
 指をそえて、くぱっと開いた。ヒダのようなものの奥に、赤みがかった入り口が見える。
 さっきから、僕の股間は立ちっぱなしだ。真夜中の人形遊びはとても猥褻でいけないことをしている気分になる。
 はっきりと自覚していた。これは催眠術の悪用だ。
 家族のためでも保身のためでもな何でもなく、欲望のために睦都美さんを裸にしている。
 そして彼女の体を、僕のオチンチンのために使わせてもらうつもりだった。

「あなたはさっき、男の人とセックスしましたね? どんな感じでしたか? 気持ちよかったですか? あなたはそのとき、ここをいっぱい濡らしたんですよね。そのセックスの記憶を心の箱から取り出して、体に移してください。あなたの皮膚の下でその感覚が蘇ります。思い出して……どんなセックスをしたか思い出して……ここを濡らす」

 僕は女性の体のことをいまだによく知らない。どうすれば濡れるのか、セックスに必要なものは何なのか。それを僕に教えてくれるのはおそらく綾子さんなんだと思ってるけど。
 でも、男はいやらしいことを考えるだけで勃起できるし、女の人も濡らすことくらいできるだろう。
 指で開いた睦都美さんのアソコの中から、じわりと透明な汁が垂れてくる。成功だ。その汁を塗り広げるように僕はアソコをこねる。そのうちグチュグチュという音を立てるようになってきた。
 このくらいでいいんだろうか。
 固くなったオチンチンを出して睦都美さんのそこにあてがう。父さんもこんな格好だった。たぶん、これで入れることは出来るんだろう。
 入れることで僕の何かが変わるのかな。たとえば、それで大人になってしまうとか。
 
「ン……」

 ぬるぬるした中を僕のオチンチンが進んでいく。狭いと思うけどきつくもない。意識を持たない人形となっている睦都美さんも無反応だった。でも、僕のはもう根元まで埋まっていた。
 僕は女性の体に進入することが出来た。つまり僕の体も男性として機能することが証明されたわけだ。別に自信がなかったわけじゃないけれど、挿れたのなんて当然初めてだし。でも、僕にも出来た。
 次は「抜く」という作業をやってみる。腰を引くと睦都美さんの膣を引きずる感触がした。なかなか気持ちの良い刺激だ。ゆっくり、真っ直ぐ腰を引いて、そのまま彼女の中から完全に抜け出る。僕のは睦都美さんの出した液体で濡れていた。愛液とかいうやつだ。正式名称はバルトリン腺液。姉さんが言っていた。
 僕は睦都美さんの顔を覗き込む。相変わらずの無表情で、時々まばたきする以外は何に反応もない。
 今、愛人の息子に挿入されたと知ったらどんな反応をするだろう。さすがに怒るかな。それともいつものように無関心な顔をするのかな。
 いったんベッドを下りて、睦都美さんの部屋にある姿見を真ん中に持ってくる。彼女の後ろに膝立ちになる僕から、彼女の横顔が見えるように。
 僕は慎重になっている。それくらいのことをしているという自覚はあるから。
 もう一度、彼女の中に進入した。
 さっきも体験したけど、二度目の方がより刺激的に感じた。抜く。今度は先端を内部に残したまま。そして、また体ごと前に出して彼女の中へ埋める。抜く。入れる。引く。押す。
 自分のぎこちなさは自分でもわかった。父さんみたいに腰をリズミカルに動かすのってたぶん練習が必要だ。体育のダンスはもっと真剣にやるべきだな。授業も増やすように学校にメールしよう。
 ギシ、ギシ、ベッドが軋む。張りのあるお尻に手をかけ、体全体を使って不器用なキツツキになる。睦都美さんの膣は優しく僕の包んでくれて気持ち良い。でもあとで背中がつらくなりそう。
 ちょっと角度を変えてみる。前に体重をかけると少し腰が動かしやすくなった。押すよりも引く動きが楽なんだ。大きく引いて強く戻す。そう意識すると少しやりやすくなった。
 試行錯誤しながら睦都美さんの中を往復する。自分が腰を動かすだけじゃなく、睦都美さんのお尻も一緒に動かす感じにしてみる。僕のオチンチンをこする刺激が強くなり、だんだん調子よくなってきた気になる。
 これって、僕は今、セックスしているってことになるのかな?
 鏡に映る睦都美さんの横顔は、枕を見つめるだけのマネキン顔だった。僕の腰に合わせて鼻から息を漏らすだけで、僕とのセックスを感じていない体はまるでそれ用に作られた人形みたいだ。
 確か『ラブドール』とか『空気嫁』とかいうやつ。悪友がそんなことを言っていた。良い物は数十万円とかするらしい。睦都美さんのお月給がいくらか知らないけど、そのくらいの手当は父さんから貰っているといいな。
 これはきっとセックスとはいわない。『ラブドール』とか『オナホ』とかと同じだ。僕はまだ童貞でいい。本物のセックスは綾子さんが帰ってきたら教えてもらおう。
 そのときの練習だ。これは本物のセックスじゃないし、睦都美さんも本物の家族じゃない。だから、『オナホ』だ。睦都美さんは僕の――『メイドオナホ』だ。

「ンっ、ンっ……オナホだ。睦都美さんは、メイドオナホだよ、ンっ、ンっ、ンっ」

 僕に性のおもちゃ扱いされても、睦都美さんはうつろな瞳を浮かべ、お尻を捧げる姿勢で揺らされるだけ。
 おそらくマゾ気質を持っている彼女は、父さんに犯されたときもだらしない顔で喜んでいたけれど、むしろ今みたいにきれいな顔のままヤられている姿のほうがよっぽどいやらしいと思う。
 知らない間に僕にヤられていたっていうこと、ビデオに撮って見せてやったらどんな顔するだろうな。
 なんて、意地悪なこと想像したら余計に興奮してきた。

「はぁっ、はぁっ、僕の、メイドオナホ……っ」

 ベッドはきしみ、お尻はパンパンと肉同士がぶつかる音を立てる。世界一精巧な人形を犯し、僕はセックスなのかオナニーなのか判別しがたい倒錯した遊びに没頭する。
 邪魔なスカートを背中にまくり上げ、服の上からおっぱいを鷲づかみにする。僕の人形。セックス人形。メイドフィギュア。催眠ドール。
 睦都美さんの正しい使い方を、僕は理解した。

「うぁ…ッ、出る……ッ!」

 中に出すのはまずいと思った。なんとか睦都美さんから引き抜き、ベッドから下り、ぎりぎりティッシュの中に出すことが出来た。
 興奮が大きかった分、出てくる量も多かった。自分でしたり綾子さんとかにしてもらうときよりも、すごく疲れていた。もっと効率よく出来るようにならなきゃ。
 睦都美さんは、ベッドの上で四つんばい人形になっている。太ももが雫を垂らしていた。僕はそれもティッシュで拭い、さっきよりもめくれ上がった気がするアソコもついでに拭いてあげた。

「睦都美さん。起き上がってパジャマに着替えて。ついでに下着も替えましょう。着替えたらベッドに入って、仰向けになって」

 さっきと逆の手順でパジャマ姿に戻り、睦実さんはベッドに仰向けになる。僕はその体に布団をかけて、開いたままのまぶたの上に手をかざす。

「目を閉じて」

 睦都美さんの目が閉じる。
 あらためて見ても美人だ。僕はこの人を犯した。生でオチンチンを入れて、擦って、射精するまで続けた。
 不思議なことに、本当に自分でも意外だったんだけど、全然罪悪感が湧いてこない。父さんとの不倫について、それほど彼女を恨んでいるわけでもなかったのに。
 家族ではない女性だからかな。それとも……彼女をこのまま、人形にして僕の家族にしてしまおうと僕は思っているのかな。
 でも、あれこれと考えている時間はもうないみたいだった。

「睦都美さん。あなたは人形だ。人形は記憶を残さない。人形だった間のことは忘れる。体に何か感触が残っていたとしても、自分のとは違う匂いが残っていたとしても、あなたの記憶には何もないから気にもならない。あなたの中には何も残らない。あなたは完璧な人形だ。美しい人形だ。だから、人間に戻ったときのあなたは別人だ。人形の記憶は消える。思いだそうとしても記憶は逃げる。次に、あなたが人形になるときまで。いいですね?」

 朝、彼女に何も変わったところがなければ成功だ。睦都美さんは僕のお人形さんになったことになる。
 きれいな横顔を固定させている彼女の前髪を、僕は優しくかき上げる。

「メイドさんの衣装、少し増やしましょうか。もっと可愛いデザインのメイド服も似合うと思いますよ。それにストッキングやタイツはいりません。あれは邪魔なだけだ」

 僕のお人形だ。睦都美さんは僕のモノだ。
 オチンチンを入れたときから、きっとそう決まってたんだ。

「コンドームも買っておいてください。そして、僕の机の引き出しに入れておいてください」

 こういうのも必要だ。これからはしょっちゅう使うようになるだろう。
 射精するたびにハラハラしてられないものね。

「人形を解除したら、あなたはそのまま眠りにつく。目を閉じたまま深い眠りに落ちて目覚ましが鳴るまで寝ている。人形の記憶は消えても僕の命令はあなたを行動させる。あなたは自分から僕の命令どおりにメイド服を購入し、コンドームを僕の机の引き出しに入れる。あなたは自分の意思でそれをして理由は思い出せない。疑問にも思わない。いいですね? 人形を解除しますよ? そのまま眠って、明日、僕の命令を実行しましょう。それじゃ……『もうおしまい』」

 ピク、とかすかに睫毛が動いた。
 そして睦都美さんの表情が心なし和らいだような気がした。
 規則正しく深い呼吸。無事に睡眠に入ったことを確認して僕は部屋の電気を消す。
 そして、こっそり退出しようとしたところで大事なことを思い出し、引き返してコインを鳴らす。

「睦都美さん、コンドームのサイズってわかります? とりあえず、あなたの膣が覚えている大きさで。そこだけ記憶を蘇らせて買ってきてください。いいですね?」

 キッズとかジュニアサイズってあるのかな?
 中学生向けのがあればベストだ。ちゃれんじコンドーム1・2・3みたいな。

< 続く >

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